<12月1日>(日)
〇沖縄で、もうひとつだけこだわりのある食べ物が「紅いもアイス」なのである。首都圏ではあまり売っているところを見かけない。
〇その昔、なぜか中山競馬場の中で、船橋法典駅からスタンドに向かう途中に、「紅いもソフトクリーム」を売る店があった。紫色のソフトクリームの看板を置いていたから、かなり本気モードなのであった。で、いつ頃からかこの店に立ち寄るのがルーティーンとなったのである。
〇とにかく競馬場に着いたら、すぐに紅いもソフトを買っていた。当時はよく娘を連れて行って、馬場内公園で遊ばせながら勝負していたので、親子でよく一緒にアイスを食べたものである。冬でもお構いなしであった。いったい何個食べたか、トータルするとかなりの数になったのではないかなあ。
〇ところが哀しいことに、あるときこの店は紅いもアイスの販売を中止してしまい、ごく普通にバニラとストロベリーのアイスを売る店になってしまった。紫色の看板はそのままであったが、そうなると腹立たしくて、嫌でもストロベリーアイスなどは注文したくない。そこで場所を移動して、「耕一路」のモカソフトに宗旨替えしたのであった。
〇ギャンブルをやらない人は馬鹿らしく思われるだろうが、勝負事はゲンを担ぐものなので、「いつものアレがない」となったら、それだけでイヤ〜な気分になってしまうのである。てなわけで、ワシの中で「紅いもソフト」は2000年代の中山競馬場の記憶と結びついている。ディープインパクトやシンボリクリスエスが目の前を走っていた頃である。おお、なんと懐かしい。
〇てなわけで、昨日、那覇空港を発つ最後の瞬間に、ワシがご当地の「紅いもソフト」を購入したことは言うまでもないのである。
<12月2日>(月)
〇溜池通信の11月1日号でご紹介したが、Five
Thirty Eightのネイト・シルバー氏がNYT紙の10月23日号のオピニオン欄でこんなことを書いていた。
世論調査の平均値が非常に接近しているために、小さな系統的エラーが大差をもたら
す可能性もある。私のモデルでは 7つの激戦州のうち、どちらかが
6つ以上を制する
確率が 6割もある。調査会社はSNS上の批判を恐れて、異常値をもみ消してコンセン
サスに靡くからだ。どちらかが決定的な勝利を収めたとしても驚くべきではない。
〇そしてこの予言通り、トランプ氏が7つの激戦州すべてを制して勝利を収めた。勝敗の確率は、まったくの50対50だったのだが。「どちらかが決定的な勝利を収めたとしても驚くべきではない」とは、まったくの卓見であった。
〇なぜそんなことになるかというと、世論調査会社が「外れ値(アウトライアー)をもみ消してコンセンサスに靡くから」であった。だいたい「7つの激戦州は全部1%内外の差です!」などということが生じるのは、それこそ天文学的に小さな確率であるはずだ。われわれがいかに偏った統計を見ていたか、ということである。
〇しかるに世論調査に誤差があるのは当たり前であるし、統計は外れ値も含めてデータなのである。恣意的にアウトライアーを外していたら、統計は確実に歪んでしまう。まして世論調査の平均値を出してくれるリアル・クリア・ポリティクスなんかも、非常に危うい存在であったことになる。
〇問題なのは、昨今は「アウトライアーを弾く」ことのコストが異常に低下していることだ。コンセンサスから外れた意見はすぐに見つかってしまう。あるいは「あなた、午前8時前にパソコンつけてたでしょ?」で犯罪者扱いされてしまうとか。「不適切にもほどがある」(ふてほど)行為はもちろんのこと。SNSであれば容赦なく炎上してしまう。かくしてリスク回避のために、人はどんどんコンセンサスに身を寄せるようになっていく。
〇そんなことをしていたら、組織も確実に劣化するだろう。組織には多様な意見が必要だ。少数意見を大切に、という原則は多数派を守るために存在するのではない。「多数派の誤り」を避けるために必要なのである。なにしろ多数派が誤った場合、組織は立ち直れないくらいの打撃を受けてしまうから。
〇統計がアウトライアーを大事にしなければいけないように、日本という国は沖縄を大事にしなきゃいかんのではないか。沖縄を粗末にするときは、それこそ多数派が誤りを犯すときとなりかねない。二泊三日を過ごしただけですが、ふとそんなことを考えた次第。
<12月3日>(火)
〇「トランプは一体何をしでかすのか?」という議論が引きも切らない昨今でありますが、困ったときは基本に帰れ。たぶん、これ(アジェンダ47)がいちばんいい指標になると思います。
〇何しろ「全部大文字で書かれている」という点が、いかにもトランプさんらしいじゃないですか。賭けてもいいですが、トランプさんはヘリテージ財団の"Project
2025"なんて読んでませんからね(長過ぎる上に理屈っぽい)。でも下記の20か条は、全部ご自身の手でチェックしたはずです。
President Trump's
20 CORE PROMISES
TO MAKE AMERICA GREAT AGAIN!
(1) SEAL THE BORDER AND STOP THE MIGRANT INVASION
(2) CARRY OUT THE LARGEST DEPORTATION OPERATION IN AMERICAN
HISTORY
(3) END INFLATION, AND MAKE AMERICA AFFORDABLE AGAIN
(4) MAKE AMERICA THE DOMINANT ENERGY PRODUCER IN THE WORLD, BY
FAR!
(5) STOP OUTSOURCING, AND TURN THE UNITED STATES INTO A
MANUFACTURING SUPERPOWER
(6) LARGE TAX CUTS FOR WORKERS, AND NO TAX ON TIPS!
(7) DEFEND OUR CONSTITUTION, OUR BILL OF RIGHTS, AND OUR
FUNDAMENTAL FREEDOMS, INCLUDING FREEDOM OF SPEECH, FREEDOM OF
RELIGION, AND THE RIGHT TO KEEP AND BEAR ARMS
(8) PREVENT WORLD WAR THREE, RESTORE PEACE IN EUROPE AND IN THE
MIDDLE EAST, AND BUILD A GREAT IRON DOME MISSILE DEFENSE SHIELD
OVER OUR ENTIRE COUNTRY -- ALL MADE IN AMERICA
(9) END THE WEAPONIZATION OF GOVERNMENT AGAINST THE AMERICAN
PEOPLE
(10) STOP THE MIGRANT CRIME EPIDEMIC, DEMOLISH THE FOREIGN DRUG
CARTELS, CRUSH GANG VIOLENCE, AND LOCK UP VIOLENT OFFENDERS
(11) REBUILD OUR CITIES, INCLUDING WASHINGTON DC, MAKING THEM
SAFE, CLEAN, AND BEAUTIFUL AGAIN.
(12) STRENGTHEN AND MODERNIZE OUR MILITARY, MAKING IT, WITHOUT
QUESTION, THE STRONGEST AND MOST POWERFUL IN THE WORLD
(13) KEEP THE U.S. DOLLAR AS THE WORLD'S RESERVE CURRENCY
(14) FIGHT FOR AND PROTECT SOCIAL SECURITY AND MEDICARE WITH NO
CUTS, INCLUDING NO CHANGES TO THE RETIREMENT AGE
(15) CANCEL THE ELECTRIC VEHICLE MANDATE AND CUT COSTLY AND
BURDENSOME REGULATIONS
(16) CUT FEDERAL FUNDING FOR ANY SCHOOL PUSHING CRITICAL RACE
THEORY, RADICAL GENDER IDEOLOGY, AND OTHER INAPPROPRIATE RACIAL,
SEXUAL, OR POLITICAL CONTENT ON OUR CHILDREN
(17) KEEP MEN OUT OF WOMEN'S SPORTS
(18) DEPORT PRO-HAMAS RADICALS AND MAKE OUR COLLEGE CAMPUSES SAFE
AND PATRIOTIC AGAIN
(19) SECURE OUR ELECTIONS, INCLUDING SAME DAY VOTING, VOTER
IDENTIFICATION, PAPER BALLOTS, AND PROOF OF CITIZENSHIP
(20) UNITE OUR COUNTRY BY BRINGING IT TO NEW AND RECORD LEVELS OF
SUCCESS
(1) 国境を封鎖し、移民の侵入を阻止する
(2) アメリカ史上最大の強制送還作戦を実行する
(3)
インフレを終わらせ、アメリカを再び手ごろな価格にする
(4)
アメリカを、圧倒的に世界有数のエネルギー生産国にする!
(5)
アウトソーシングを止め、米国を製造業大国にする
(6)
労働者に大幅な減税を行い、チップには課税しない!
(7)
憲法、権利章典、そして言論の自由、信教の自由、武器を保持し持つ権利を含む基本的自由を守る
(8)
第三次世界大戦を防ぎ、ヨーロッパと中東の平和を回復する、
(9)
アメリカ国民に対する政府の兵器化に終止符を打つ
(10)
移民犯罪の蔓延を阻止し、外国の麻薬カルテルを解体し、ギャングの暴力を鎮圧し、凶悪犯罪者を監禁する
(11) ワシントンDCを含む我々の都市を再建し、安全で清潔で美しい都市を取り戻す。
(12)
我が国の軍隊を強化・近代化し、間違いなく世界最強・最強の軍隊にする
(13)
米ドルを世界の基軸通貨として維持する。ドルを世界の基軸通貨として維持する
(14)
定年年齢の変更を含め、社会保障と医療を削減することなく守り抜く
(15)
電気自動車の義務化を中止し、費用のかかる負担の大きい規制を削減する
(16)
批判的人種論、急進的ジェンダー・イデオロギー、その他不適切な人種的、性的、政治的内容を子どもたちに押し付ける学校への連邦政府資金を削減する
(17) 女性スポーツから男性を締め出す
(18)
ハマス過激派を国外追放し、大学キャンパスを再び安全で愛国的なものにする
(19) 選挙を安全にする、
同日投票、有権者の身分証明、紙投票、市民権の証明を含む
(20)
新記録レベルの成功に導くことで、国をひとつにする
〇まずしょっぱなに来ているのが「不法移民問題」です(@A)。この問題こそが、次期政権にとっての一丁目一番地。そしてDeportation(国外強制送還)は本気と考えるべきでしょう。メキシコ大統領は大丈夫かあ?
〇意外なことに、Tariff(関税)という言葉は1回も使われておりません。そりゃそうですよね。こういうところで「関税上げるぞ!」と言明してしまうと、誰も通商交渉に応じてくれなくなりますからね。以前から繰り返し言われてきたことですが、トランプさんのことは真剣に受け止めなければいけませんが、言葉尻に捉われてしまうのは愚の骨頂です。
〇「エネルギー生産国になる」(C)、「チップ非課税税制」(E)も本気だと考える方がいいでしょう。どちらも比較的ハードルは低いはずです。「製造業大国にする」(D)のはちょっと難しそうですが。この点は「日本製鉄のUSスチール買収を次期政権が認めるかどうか」が判断材料になると思います。
〇気になるのは「平和を回復する」(G)という目標の実効性です。とはいえ、これはアメリカの仲介調停ではなく、当事者の意思が問題でありますから、ロシアやイスラエルがその気になれば、できないことはありますまい。逆に言えば、当事者が停戦は嫌だというものは止められません。アメリカにとって重要なのは、「他人のふんどしで相撲を取る」ことであります。
〇経済界にとって重要なのはLでありまして、「強いドルは国益」(ルービン財務長官)といっております。次期財務長官人事も併せて考えると、「トランプはドル安志向だ」というのはちょっと違うかもしれません。彼はウォール街の利益は守る人です。たぶんご自身もいっぱい株を持っているでしょうし。
〇EVにカネを注ぎこまない、というNは放っておいてもそうなるでしょう。だって、バイデン政権があれだけ補助金を注ぎこんでも高過ぎるんですから。消費者が「嫌です」と言っているんだから、これはもう仕方がない。でなきゃ日産自動車の経営もこんなには傾かないはずです。
〇トランスジェンダーの問題は意外と根深いようでして、Pはそのことを言ってます。従ってLGBTやDEIやその他の”Woke”なことは向こう4年間は影をひそめるでしょう。「トランプが勝ってくれてよかった!」と思っている人は、とりあえず経済界には少なくないようで、そのことは株価を見ていれば一目瞭然ですね。
〇先日の「トランプ四季報」に加えて、上記をマスターすればますます恐怖感は薄れるものと存じます。まあね、向こう4年間続きますから、今さら嫌だと言ってもしょうがないんですよ。蒸気を前提にしたうえで、投資戦略なんぞを考えなければなりませぬ。
<12月5日>(木)
〇今宵は今年一発目の忘年会。政治オタクの皆さまが集まって、「選挙の年」だった2024年を振り返る。
〇「来年は本当にどうなってしまうのか」の声あり。いやもう、ホントに訳が分かりませんな。韓国は大統領弾劾になりそうだし、フランスは内閣不信任案可決だし。キャンプデービッドの日米韓首脳会談の体制は、1年半も持たずに崩壊することになる。岸田さんが去り、バイデンさんも去り、そしてユン大統領も居なくなりそうで。
〇韓国で後に来るのは、親北・反日・反米の進歩派政権になるんじゃないか。ホントに心配ですねえ。
〇一方で北朝鮮は、トランプ大統領の復帰を歓迎していない様子。そりゃそうだろう。金正恩氏は完全にネタにされたから。それにしてもトランプさんは、金正恩と会ってどうするつもりだったのか。「出たとこ勝負」を楽しんでいたとしか思われない。普通の政治家ではあり得ない発想ですよね。
〇2025年はその手の離れ業が乱発されそうである。まあ、腹を据えてかかるしかありませんな。
<12月6日>(金)
〇この時期恒例、日本貿易会の貿易動向見通しが本日発表されました。お役立ていただければ幸いであります。
〇この作業をするときに、いつも揉めるのは為替レートの設定である。149円/ドル(2024年度)、140円/ドル(2025年度)だそうである(パワポ部分の「参考資料」P2に小さな文字で書いてある)。来年はFedの利下げと日銀の利上げが数回あるはずなので、これは妥当な水準ではないかと思う。
〇原油入着価格は24年度84ドル/バレル、25年度83ドル/バレルとなっていて、こちらはもう少し下がるかもしれない。これはトランプ政権発足が分かる前に前提条件を決めて、作業を始めているからである。この辺は毎回ビミョーです。
〇原発再稼働が進んでいることもあって、2025年度の鉱物性燃料の輸入は減少する。となると、25年度の貿易収支(IMFベース)は黒字に転換するとのこと。わずか1.9兆円とは言え、5年ぶりの黒字転換となる。
〇他方ではサービス収支の赤字拡大は止まらない。「インバウンド黒字<デジタル赤字」でありますからね。インバウンドの稼ぎは肉体労働、デジタル赤字の支払いは頭脳労働で不労所得。そんな風に考えると、日本経済はちょっと寂しい。
〇経常収支の黒字は29.96兆円と史上最高を更新するのであるが、これはあんまり喜んでいられない。第1次所得収支の黒字は、ほとんどが海外に「置きっぱなし」で円転されることはありませんからね。
〇それから第2次所得収支の赤字が4兆円になっている、というのは、昔この作業をやっていたものにとっては驚きです。第2次所得収支は「タダであげちゃうおカネ」を意味しますので、昔はODAくらいしかなかったのです。それが今では日本に住む外国人が多くなり、海外送金がかなりの金額になっているのでしょう。
〇こうして考えてみると、なかなか円安是正は簡単じゃありません。国際収支はこの10年ほどで本当にドラスチックな変化が起きたのだなあ、と実感いたします。
<12月8日>(日)
〇最近聞いたお話の中から印象に残ったもの。
「最近、銀座にラーメン屋が増えた。インバウンドが増えたからじゃないかなあ」(バブル世代女史)
――銀座は鮨、とんかつは上野、てんぷらは浅草、ラーメンは新橋、といった秩序が破壊されそう。そのうちラーメンに「銀座価格」ができるかもしれない。
「息子が言うんです。『僕らの世代の苦しさは石丸さんしか理解してくれない』って。・・・・そんなに苦労をさせたつもりないんだけど」(悩める母親)
――親世代はテレビと新聞、子供世代はSNSと動画サイトですから、こういうギャップはますます深刻ですな。
「近年に発生した大地震25件のうち、夜間が16件あります。被害の実態がわからないので、じりじりと朝を待つのがツラいです」(防災関係者)
――神戸大震災は早朝、東日本大震災は昼下がり、能登地震は夕刻。あれはラッキーだったのかもしれません。
「ちょっと前まで官民挙げて『デフレ脱却』、と言っていたのが、最近は『実質賃金を上げよう』に変わりましたね」(エコノミスト)
――実質賃金を上げるためには交易条件を改善する必要があって、そのためには円安は困りものです。そのことが理解され始めたのは朗報でありましょう。
「来年の資産運用は、アメリカだけ見ていればいいんじゃないでしょうか」(金融関係者)
――なるほど株もヨシ、債券もヨシ、ドルも弱くならないし。おかしいなあ、そんなはずないんだけどなあ。
〇香港カップは@ロマンチックウォリアー、Aリバティアイランド、Bタスティエーラでありました。うーん、勝てませんなあ。というより、ここは3連覇してしまう「浪漫勇士」の強さを称えるべきなのでしょうな。でも「自由島」は惜しかった!
<12月9日>(月)
〇電車の中で「中づり広告」を見かけなくなって久しい。週刊誌だけでなく、いつの間にか女性誌の広告もなくなりましたなあ。こんな風になると、「情報源」として広告を見る習慣がなくなってしまうので、車内広告の出稿料金は下がっているんじゃないかと思う。
〇電車内の情報源ということになると、夕刊紙もなくなりつつある。夕刊フジは来年1月31日で休刊になってしまう。かな〜り昔のことになるが、ワシが書評の連載を書いていたこともある。産経新聞の記者は、夕刊フジに出向した際に、「少ない材料で面白い記事を書く」訓練をさせられる、と言われたものなのだが。
〇夕刊紙の相方である日刊ゲンダイさんは、今日も元気に各方面にかみついておられる。しかるに夕刊フジというライバル紙を失うことは、おそらくは経営的にもマイナスに働くだろう。そもそも今は駅のホームから売店が消えつつありますもんねえ。昔は夕刊紙の見出しで、「おっ、今日のイチローはどうだったんだ」を確認したものである。今なら大谷翔平選手の活躍はWindows画面が勝手に教えてくれますからなあ。
〇夕刊紙で今も元気なのは東スポさんですねえ。この辺の生き残り策は、つまるところは週末の競馬欄がモノを言うわけでありまして、カネ払いのいい馬券師さんたちに負うところが大きい。ワシも今みたいなG1シーズンは、「アンカツ先生」のひとことを読むためだけに毎週木曜日に東スポ買いますもん。最近はあんまり当たってませんけど。
〇ということで、その昔は電車の中に、「今週は何が話題になっているか」という一種の情報共有の場があった。昨今はそういうものがなくなって、電車内では皆が個別にケータイの画面を覗き込むようになった。情報環境の変化は、こんな形でも起きている。世代間で「共有できる話題」が少なくなるというのは、こういう理由もあるのでしょうなあ。
<12月10日>(火)
〇今宵は富山県人の集まり。場所は赤坂の「かさね」というお店で、ここはおかみさんが富山県出身である。個人的には、お店が一ツ木通りにあった頃からのお付き合いである。
〇ということで今宵は富山ネタ。以前から一度やってみたいと思っているのが、「富山弁漫才」である。恐縮ながら、お相手は日本銀行の氷見野良三副総裁である(同じネズミ年うまれ)。
「ひみのさん、あんた、どっだけ金利上げるつもりながけ。わし、こわ〜なってくるわ」
「よっさきさん、あんた知っとられよう。今の日本で1%くらいの金利は当たり前やないがけ」
〇かなりホンネで切り込んだ話ができるのではないかと思うのだが、惜しむらくは理解できる人がきわめて限られることになりそうだ。いや、富山県関係者には確実に喜ばれると思うのですけどねえ。
<12月11日>(水)
〇「モーサテ」に出た日は、その後の一日が長いが、「WBS」に出なきゃいけない日も、それまでの一日が長い。今日なんて講演会でつくば市に行っているから、まことに一日が長いのである。
〇つくば市に向かう途中のTX(つくばエクスプレス)の中で知ったのだが、悠仁(ひさひと)親王が筑波大学の推薦入試に合格されたとのことである。未来の陛下が来年4月からつくば市に通うのか、それとも住まわれるのかはわかりませんが、これは地元的には朗報でありましょう。
〇そんな日に偶然、つくば市に居たというのも不思議なことであります。講演会後にリモートでテレ東と打ち合わせをして、そこから都内に戻ってWBSに出演する。本日のコメントは「USスチール買収」「米11月CPI」「日米韓協力」の3点でありました。
<12月12日>(木)
〇毎年恒例、クラブ関西さんの午餐会講師として大阪へ。
〇たまには気分転換ということで、新幹線ではなくANA便を使ってみる。朝9時の羽田発に間に合わせるのは楽ではないのだが、乗っているのが1時間ちょいで済むのはありがたい。また、東京−伊丹便は乗客が多いこともあって、62番とか59番ゲートとかいい場所に着くので、あまり歩かなくて済むという利点もある。
〇そして伊丹空港にしばらくぶりに来てみると、手ごろで使い勝手のいい空港なのである。小ぶりであるし、天井も低いけれども、どこに何があるかがすぐわかるし、トイレも近いのがありがたい。改装前の福岡空港がちょうどこんな感じだった。そして「551」の豚まんを買い求める行列も、新大阪駅に比べると格段に短いのである。
〇昨今の羽田空港は建物は立派なのだけれども、あまりにも便数が増え過ぎて、やけに歩かされるので客にとっては優しくない。お店の類も増え過ぎて、どこに何があるのか、何がお得なのかがわからない。空港は、あんまり大きくならない方がいいのではないかなあ。
〇クラブ関西さんにおいては、不肖かんべえは古参の講師である。いちばん古かった五百旗頭先生が今年亡くなられたので、あなたが一番になりましたと言われて少々焦る。ワシはそんなに偉くない。経済漫談師みたいなものでありまして、昨今はトランプ漫談で好評をいただいておりますが。
〇このクラブの常連に、池田泉州銀行の清滝一也さんという方がおられた。毎年、年の瀬には来年の干支を読み解くカードを作っていて、これがたいへんなスグレモノだったので、いつも頂戴するのを楽しみにしていた。その清滝さんは今年5月に亡くなられた(プリンストン大学の清滝教授はそのご子息である)。
〇清滝さんなら、来年の干支「乙巳(きのと・み)」をどう読み解いたのだろう。あんまり自信はないのですけれども、自分流の解釈を考えてみたので、それは明日の溜池通信本誌にてご紹介いたします。
<12月13日>(金)
〇干支の話を書くために、前回の「乙巳」である1965年のことを少しだけ調べました。この年は、経済と外交に関する興味深い事件が1つずつあります。どちらも主人公は田中角栄氏でありました。
〇まずは経済事件から。この年の前半、「オリンピック不況」でサンウェーブや山陽特殊製鋼が倒産。世の中が騒然とする中で問題化したのが、山一証券の経営不振でした。このままでは信用不安が広がりかねない。金融界が動揺した時に、ときの田中角栄大蔵大臣は「日銀特融」を発動します。
〇「キミはそれでも銀行の頭取か!」――日銀氷川寮に集まったエリートたちに対して、田中蔵相のカミナリが落ちた。「山一特融は無担保、無期限、無制限!」――この決断で山一証券は倒産を免れ、金融危機は一気に収束した。それどころか日本経済は、この年の後半から「いざなぎ景気」になだれ込む。当時は高度成長期の真っただ中ですが、そんな危うい瞬間もあったのです。
〇もうひとつは日韓基本条約。日本の植民地支配を終わらせるという難しい条約であったが、国会での批准がさらに容易ではなかった。最大野党たる日本社会党が北朝鮮側についていたからである。社会党は不信任案を連発し、牛歩戦術まで繰り出した。この困難な国会運営に取り組んだのが、臨時国会直前に蔵相から自民党幹事長に転じた田中角栄であった。
〇田中幹事長は民社党を抱き込み、強行採決の連続で条約の承認を取り付ける。そして一件落着してから、今度は採決混乱の責任を取るということで、衆院の正副議長(船田中、田中伊三次)を辞任させてしまった。強硬策から一転して、今度は野党に対する懐柔策に出た。見事な緩急としか言いようがない。このときの角栄氏はまだ47歳である。
〇この時の総理大臣は佐藤栄作。田中を思う存分にこき使って、自分がリスクを負うことなく経済と外交の難題を解決している。昭和のオヤジたちは、なかなかに大したものではないですか。今の政治家にはこんな真似はできないでしょうなあ。ちょっとだけ60年前の時代のエートスが羨ましくなります。
<12月15日>(日)
〇先週、「WBS」に出演した際にも解説したのだが、日本製鉄のUSスチール買収計画へのCFIUS(米外国投資委員会)による審査期限は12月23日、つまり1週間後である。この締め切りはクリスマスイブの前日であって、要はもうアメリカ連邦政府も「御用納め」モードになっているということだ。
〇CFIUSは、昔は「吠えない番犬」的な組織であった。それが第1次トランプ政権下でテコ入れされ、外国からの投資に対して果敢に「ノー」を突き付けるようになった。とはいえ、それは経済安全保障上の理由に限られる。単なる保護主義のために他国企業による買収を拒否する、それも日本のような同盟国に対して発動するのはケシカラン、という声は米国内でも少なくない。以下はWSJの昨日の社説から。
●Trump
Courts Xi Jinping, Slaps Japan (トランプ氏は習近平をもてなし、日本をぶん殴るのか)
〇たぶん多くの人が誤解していると思うのは、「国家安全保障上の理由」というロジックである。アメリカが国産の鉄鋼だけで戦車や軍艦が作れなくなるとマズいから、ということであれば、確かに仕方がないかなという気がする。ただし、米国内の鉄鋼需要は5割が建設用で2割が自動車用である。防衛産業向けに使われるのはせいぜい3%くらいである。
〇なぜこんな話になったかというと、2018年3月、トランプ政権は鉄鋼・アルミに対して通商拡大法232条を発動するために、「操業率80%以上は鉄鋼業界が長期に存続するための最低限」というロジックを持ち出した。だから輸入鉄鋼は「国家安全保障上の脅威」ということになったのである。
〇ところがアメリカが鉄鋼関税を引き上げたために、その後の世界の鉄鋼貿易量は減少傾向となる。確かに鉄のように重い製品は、なるべくなら「地産地消」した方がいい。表面処理鋼板とか電磁鋼板とか、高機能で量が少ないものだけ輸入すればいい。それらの分は、関税がかかっても仕方がないと考えるのである。
〇ところがこの間にもアメリカの鉄鋼業界はますます衰退し、2022年以降はずっと操業率が80%を割り込んだ状態なのである。つまり現状では、「国家安全保障上の問題」が既に発生していることになる。
〇これで日本製鉄の買収を拒否すると、USスチールは高炉を閉鎖する、と言っている。その場合はアメリカの鉄鋼生産基盤が減るので、見かけ上の稼働率は上昇して80%を超えるかもしれないが、誰もハッピーにならないことは言うまでもない。
〇もうちょっと深い事情を言うと、USスチールの高炉はあんまり競争力がなくて、既に8基中、イリノイ州の2基は休止中である。よくテレビに出てくるペンシルベニア州の2基は、年間生産量はたった290万dである。インディアナ州の4基750万dがかろうじて気を吐いている。
〇実はUSスチール社は、高炉よりも電炉の方が競争力があり、期待が持てる。2基で330万dあり、さらに2基(300万d)を建設中である。ただし電炉は在アーカンソー州なので、たぶん労働者はUSWに加盟していない。組合が「買収反対!」を声高に叫ぶのは、たぶんこの辺に理由があるのではないか。
〇CFIUSという組織は、各省庁による合議制である。全会一致であればそれで問題なく決まる。ただし一部でも反対があれば、最後は大統領の判定に従うことになる。財務省や国務省、国防総省は賛成するでしょうけれども、たぶん商務省やUSTRは反対に回るでしょう。あと1週間でバイデン大統領がどういう判定を下すのか。期待はしにくいですが・・・。
<12月16日>(月)
〇昨日の続き。
〇本日は造船業界の会合に呼ばれてお話しをしてきたんですが、そこでいろいろ伺うと、案の定、今のアメリカ経済は「空母や原潜は作れるが、普通の造船は高コストでまるで競争力がない」世界なんだそうです。おそらく防衛産業用の受注は青天井で、「かかったコストは全部払ってあげるから」という総括原価方式みたいなことになっている。そんなのに慣れちゃったら、商業用の造船はあほらしくてやってられませんわな。
〇となると、アメリカがサプライチェーンとして頼れる造船業界は、「日本か韓国」(さすがに中国はダメ)ということになる。トランプ大統領とユン大統領の最初の電話会談で、「韓国の造船業に協力を求めたい」なんて話が出てきたと伝えられるのは、おそらくは「大統領!これを言っといてくださいね!」という国防総省の事務方からのインプットがあったからでしょう。ということは、トランプ政権は一応機能していることになる。
〇ところが韓国政局はご案内のようなことになっていて、この後は非常に高い確率で政治的な混乱が続き、最終的には(トランプさんが大嫌いな)進歩派政権の誕生ということになるでしょう。こうなると、造船協力というネタは日本に回ってくるかもしれない。来年には発足するトランプ政権に対して、日本側としては一枚でもカードが欲しいところ。このチャンスは逃してはなるまいぞ、なるまいぞ。
〇「この業界はやはり円安の方がいいんでしょうか?」と聞いてみたら、「外国人労働力のことなどを考えると、今以上の円安は困ります」とのこと。海外の部品の値段が上がるのも考えものです。考えてみたらこの業界、リーマンショック後に1ドルが100円割っていた頃もちゃんと存続していた。やっぱり円安がいいことなんだ、という闇雲な議論は通用しませんな。いつの時代も製造業こそはリアリズムの権化なのです。
<12月17日>(火)
〇今宵はエコノミスト仲間の忘年会。ところが今週は「中央銀行ウィーク」でもある。明後日12月19日未明にFOMCの結果が判明し、その日のお昼過ぎに日銀の結果が判明し、午後3時半からは植田総裁の記者会見が行われる。さて、どういうことになるのだろうか。
〇「アメリカは0.25%利下げ、日銀は動かず」というのがコンセンサスである。となったら円安ですよね。既に17日夜現在、153円台後半になってます。そりゃあ、そうなるよね、という感じです。
〇どうせだったら日銀は利上げすればいいのに、と個人的には思います。ただしここで上げたらサプライズになるし、そうなったら「日銀は市場とのコミュニケーションに失敗した」という判断を下されてしまいます。それはちょっと困る。
〇日銀は一体何に怯えているのか。不肖かんべえの鈍い頭ではサッパリわかりません。ちなみに木曜日朝のテレビ東京「モーサテ」は、鈴木敏之さん&尾河真樹さんのゴールデンコンビが登場します。不肖かんべえはニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozy
up!」に出没いたします。
〇そういえば今週末は有馬記念である。飯田さんから絶対に聞かれるはずだから、明日中には予想を完成させなければならぬ。枠順が決まらないうちに、というのは辛いんですけどね。そこはまあ、仕方がない。さて、どうしたものか。
<12月19日>(木)
〇今朝はニッポン放送へ。「年収103万円の壁」やら、今朝のFOMCの結果やら、ホンダ日産の経営統合など、世の中で話題になっていることをあれこれ語る。ところが一番リスナーに印象に残ったのは、「今週末の有馬記念」であったようで、そりゃそうだわな。熱意が違うもん。
〇なおも終日、さまざまな情報収集と推理を重ねた結果、結論は今週土曜日に公表予定の東洋経済オンラインの「新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」に掲載予定です。「意外な本命馬」というほどのことはないですが、まあ、お楽しみに。
〇ところで、いろんな人からご心配をいただいている柏市の夫婦殺人&放火事件でありますが、事件現場の高柳という場所は拙宅から非常に遠い場所でありまして、あんまり切迫感はございません。東武野田線で行きますと、柏〜新柏〜増尾〜逆井〜高柳という4つ目の駅となります。余計なことですが、その次の六実は、小泉悠さんのご実家があるところです。
〇と思ったら、早くも容疑者が逮捕されているようであります。テレビに映っている柏警察署は、拙宅から割と近いです。まことに物騒な世の中ではありますが、これもご時勢というものでありましょう。是非に及ばず。
<12月20日>(金)
〇いろんな場所で「トランプ第2期政権と2025年の内外情勢」みたいなお題で呼ばれるのであるが、先日、某証券系の会合に呼ばれた際の会話から。
「ところで皆さん、最近、日本の経済指標ってご覧になってます?私、全然見なくなって久しいんですけど」
「そういえば、鉱工業生産なんて、確かに見てない・・・」
「物価くらいは一応見てますが・・・」
「確かに株価に関係ないですからなあ。最近の日本の指標は」
「日本の株価って、ほとんどアメリカで決まりますからねえ」
「あ、そういえばインバウンドは見てます。あれは景気に直結するから」
〇考えてみれば、ホントにそうなんだ。日本経済がどんな状況であろうと、日本の株価にはほとんど影響しない。所詮は全世界シェア4%に過ぎない経済なのだから。世界を動かすのは26%シェアのアメリカ経済であり、アメリカの投資家である。だからアメリカだけ見ていればいい。特にトランプさんみたいな人が大統領になるから、ボラティリティ高いし。
〇最近の「モーサテ」で語られる内容も、ほとんどが日本経済ではなくてアメリカ経済である。マーケットは究極のリアリズムの世界なんで、これは仕方がない。とはいえ、「日本を見ていても仕方がないよねえ」と言わなきゃいけないこの国の株式市場は、いささかうすら寒いものがある。
〇政治の方も寒いよね。「103万円の壁」が大テーマになるなんて、どこかおかしいと思いませんか。財務省が悪玉で国民民主党が善玉だなんて、そんなことあるわけないでしょうが。日本経済を伸ばさなきゃいけないのに、今あるパイの分どり合戦になっている。貧すれば鈍する、というのはまさにこのことではないかと存じます。
<12月22日>(日)
〇そんなわけで、年の瀬の大一番、有馬記念も外してしまい、たそがれているところである。
〇何より先週、年内に2回くらいあった仕事の山場を越えたので、「ああ、これでやっと楽ができる」と思ったらそれは勘違いもいいところで、まだまだ年内に片付けなければならない仕事が山ほどあるではないか。ああ、腰が痛い。心が寒い。
〇それでも今宵は、ささやかながらクリスマスを祝うのである。仕事のことは明日また考えよう。たぶん今度こそ2024年最後の山場なので。
<12月23日>(月)
〇今宵の忘年会で旧知の人たちと語らっているうちに、少し前から「この話を誰かにしたくて仕方がない・・・」と思っていたことを急に思い出した。
〇それは先月、逝去された阿川尚之さんのジョークである。阿川さんは洒脱な方で、座談の名手であり、宴会の際の周囲はいつも抱腹絶倒であった。阿川ジョークはたくさん伺ったはずなのだが、あいにく思い出せるものは2つしかない。それを以下、ご紹介する。
●冷蔵庫編
阿川「吉崎さん、ゾウを冷蔵庫に入れる方法、知ってる?」
かんべえ「???????」
阿川「あのね、@冷蔵庫を開けて、Aゾウを入れて、Bドアを閉めるの」
かんべえ「・・・・・・」(脱力はなはだし)
阿川「じゃあね、今度はキリンを冷蔵庫に入れる方法、わかる?」
かんべえ「簡単じゃないですか。@冷蔵庫を開けて、Aキリンを入れて、Bドアを閉めればいいんでしょ?」
阿川「ブッブー。その前にゾウを取り出さなきゃいけません」
――これ、きっと英語版が先にあったんじゃないかと思う。不肖かんべえは、あいにく日本語版でしか聞いたことがありません。
●ヤカン編
――アメリカンロースクールではどのような教育を行っているか。ケーススタディとして、ここにヤカンがあって、そのヤカンに傷があったとする。ロイヤーたるもの、そこで最初に言うべきことは、
「これはヤカンではないっ!」
である。
もちろん周囲は唖然として、いや、これはどう見てもヤカンでしょ。形もそうだし、機能もそうだし、かくかくしかじか・・・と説得を続ける。
ヤカン問答がしばし続いた後に、ロイヤーは今度は次のように言う。
「このヤカンには傷がないっ!」
再び周囲は唖然として、いや、これはどう見ても傷ですよ。だってかくかくしかじか・・・と言い聞かせようとする。
その問答もしばし続く。ややあって、ロイヤーは今度はこのように宣言する。
「このヤカンの傷は私のせいではないっ!」
周囲がその議論に同意するであろうことは言うまでもないのであった。
〇後者のネタはその場で聞いていた岡崎久彦氏がいたく感心して、「正論」の中で紹介したことがあったと思う。1990年代の日米通商摩擦が華やかなりし頃のお話しでありました。
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編集者敬白
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by Kanbei (Tatsuhiko
Yoshizaki)