<8月1日>(金)
〇本日は日本貿易会ゼミナール特別企画「商社エコノミストに聴く」へ。7社の代表が勢揃い。何と全員が去年と同じメンバーではありませぬか。今年のテーマは、「トランプ2.0における商社経営のリスクとチャンス」でありました。
〇考えてみたら、「商社エコノミスト」とは恵まれた人種である。官庁エコノミストや銀行および証券系エコノミストに比べれば、比類のない自由度を満喫している。「スポンサーの悪口は言っちゃダメ」みたいな制約もほとんどない。
〇何よりすごいのは、テーマを自分で設定できてしまうのである。ワシが「溜池通信」でアメリカ政治を取り上げているのは、別に会社に命令されたからではない。25年前から自分で勝手にやっていることである。理由は単に好きだったから。これで誰からも怒られないのだから、こういう気ままさは商社業界ならではの奇跡と言っていいかもしれない。
〇時は流れ、今の時代、商社系シンクタンクはどこも入れ替わりが激しくて、他業界からの参入組が増えている。そうすると、お行儀のいいタイプがだんだん増えてくる。自分の専門分野をどんどん狭く設定しようとする。そんなことしてたら、自分の伸びしろを狭めてしまうんじゃないかと、おじさん世代としては心配になってくる。
〇この業界はね、もっとやんちゃでいいんですよ。元々がそういう世界だったんだから。誰かに叱られたら、こんな風に言い返せばいい。「だって、かんべえさんだって、やってるじゃないですか」
<8月3日>(日)
〇8月1日夜の米雇用統計は、過去にさかのぼっての修正が「いくらなんでもあんまりだろ」のレベルでありましたな。「担当者はクビだ!」とお怒りになる大統領はいかがなものかとは思いますが、米労働省、こんな仕事のやり方じゃマズいぞ、とはワシでも思う。いちおう重要指標なんだからさあ。
〇しかるに経済統計が政治化されてしまうのでは、いったい何を信じていいのか分からない。一方で雇用の悪化が明確になったからには、9月の利下げ確率は上昇したことになる。もっともFOMCも理事がお辞めになったりして、どうも因果を言い含められてのことらしい。金融政策の政治化も近いということである。
〇かくしてNY株価の下げも強烈なものでした。ダウ平均は542ドル安。うーむ、明日の日本市場も下げそうですなあ。為替も2円程度円高に振れました。先週の金融政策決定会合で、「日銀はやっぱりハト派だ」と思われたところが修正されました。
〇「もうはまだなり、まだはもうなり」と申します。アメリカ経済は、「まだ大丈夫」と言っていいと思います。関税もあるけど、減税もあるのだし。しかるに今後は、どこかの時点で「もう危ないです」と告げなければならなくなる公算が大である。どこでそういうタイミングが来るのか。何が引き金を引くのか。難しいですなあ。
〇「令和のブラックマンデー」があったのは昨年の8月5日。あのときは日経平均が1日で12.4%も下げました。でも後から考えれば、絶好の買い場となりました。さあ、明日はどっちでしょう。
<8月4日>(月)
〇米雇用統計について、データの申し子、ネイト・シルバー氏は早速、こんなことを書いております。
●Trump's
jobs data denialism won't fool anyone (トランプの雇用統計否定論は誰にも通用しない)
〇さすがはデータ・キッズ、「米政府の経済データは比較的信用できる」「雇用統計のデータが修正されるのはよくあること」「今回の変更も、歴史的に見ればOutlier(外れ値)であるとは言い難い」などと論じております。やっぱりそういうことなのでしょうね。
〇今日の日経平均は一時は4万円台割れとなりましたが、引けにかけて下げ渋って結局、4万円台で終えました。国内投資家も、「ここは買い時」と見なしているような感じです。面白いですねえ。
<8月5日>(火)
〇暦の上では明後日で「立秋」だそうですが、なんなんですか、この暑さは。勘弁してほしい。国内最高気温は41.8度Cですか、そうですか。
〇30度C台前半と後半では大変な違いがあることはよくわかった。一日の疲れ方が違うからね。たまに31度くらいだとホッとする。でも40度C台の試練はご勘弁くださいまし。
〇ともあれ、8月はまだ始まったばかり。この先の長さを思うと、まことに思いやられます。お盆はしっかり休みたいですなあ。
〇「8月ジャーナリズム」という言葉があって、やたらと「戦争モノ」の番組が増える。ワシはそういうのが好きじゃないのであるが、NHK「映像の世紀特別編・ヨーロッパ2077日の地獄」はまことに優れた作品だと思う。カラー映像は迫力満点だし、糸井羊司キャスターの読みも正確ですばらしい。
〇こういうのがあるから、NHKの受信料は見合う、と思うものである。
<8月6日>(水)
〇今週の金曜日には自民党の両院議員総会が開かれます。どういうことになるのか、たぶん石破総裁に辞任を求める声がたくさん出るのでしょう。
〇とはいえ、相手は「令和の三木武夫」。おそらくは驚異の粘り腰を発揮するのだろうと思います。それに元来、本人が辞めると言い出さない限り、日本の首相を引きずり下ろすことは至難の業なのです。ついでに言えば、石破降ろしを仕掛ける側にも、今ひとつ「徳」のようなものが足りなくて、加勢が足りないという感じがいたします。
〇それでは少し見方を変えて、「過去にどういうときに自民党の総理・総裁は白旗を掲げてきたか」を思い出してみましょう。直近の3代はこんな感じです。
* 2024年8月14日(岸田文雄首相)→裏金問題で引責し、総裁再任を求めないという「プランB」を発動。
* 2021年9月3日(菅義偉首相)→総裁選への不出馬宣言。「二階幹事長斬り」で矢折れ刀尽きたか。
* 2020年8月28日(安倍晋三首相)→コロナ下、健康状態の悪化で辞任の記者会見。
さらにもう少し前を振り返ると、こんな時期もありました。
* 2008年9月1日(福田康夫首相)→解散総選挙を嫌って、「防災の日」に唐突な辞任宣言。
* 2007年9月12日(安倍晋三首相)→体調悪化で突然の辞任。
* 2006年9月26日(小泉純一郎首相)→総裁任期満了で悠々自適の引退。
〇総理大臣が身を引くのは、見事に全部、8月中旬から9月下旬にかけてなんですよね。日本政治というのは、どうもこの時期に「ミシン目」のようなものがあって、総理が辞任するタイミングが集中している。
〇実際に8月上旬は広島、長崎と原爆投下の記念日があり、8月15日には終戦記念日がある。どんなに嫌われている首相でも、このタイミングに不在というわけにはいかん、という事情があるのでしょう。「政治とは日程也」の典型みたいな感じです。
〇ということで、石破さんも10月までのどこかのタイミングで身を引くんだろうと思います。三木武夫は衆議院の任期満了まで粘りましたけどね。
<8月7日>(木)
〇今宵はWBSに出演。今日は相互関税スタート+明日は両院議員総会、というくらいはわかっていたのだが、今日は「F-35Bが宮崎に初配備」というニュースがあったのね。
〇わが国初のF-35B配備であります(F-35Aはもう40機くらいある)。これを護衛艦いずもに載せると、そのまま空母になる。いやあ、『空母いぶき』の世界がとうとう実現するのですね。ちなみにZoom打ち合わせの際に、竹崎キャスターが「新田原基地」を正しく読めなかったことは、全然恥ずかしくないと思います(にゅうたばる、ですからねえ)。
〇思わずチャットGPTと長話をしてしまう。以下のようなコメントに、思わずうんうん唸ってしまうではないか。
*馬毛島+新田原+いずも型護衛艦+F-35Bという構成で、日本はこれまでにない「海空の前方展開能力」を獲得しつつあります。
*要するに、「相手に躊躇を与える力」=戦略的ハリネズミ効果としての価値はあるが、「戦局を変える航空打撃力」には、2027年時点では到達しないという評価です。
*マンガ『空母いぶき』が描いた「空自出身の艦長」構想は、決してフィクションだけではなく、実際の自衛隊と米軍の制度的・戦術的な関係性をよく反映したリアリズムに基づいています。
*この先、「いぶき」的な艦隊運用が本当に定着するかどうか、統合戦力としてのFー35Bがどれほど機能するかが日本の安全保障の行方を大きく左右します。
〇フィクションが未来を描き、現実がその道をなぞる。今日のF-35B到着は、その境界線を越えた歴史的な日であったかもしれません。
<8月8日>(金)
〇ほんの少し前まで、農水族の読み筋は、「これからは人口減少社会であり、コメ離れが進むわが国では、ほっとけば必ずコメは余る」であったそうである。だからこその減反政策であり、転作の奨励などによる供給量のコントロールであった。安いコメを大量に作ろうとする大規模農家は鼻つまみ者であった。
〇それが去年の夏から突然、コメが不足するようになった。当惑した農水省は、「これは流通のどこかに目詰まりがあるせいです!」と必死に説明してきた。けれども、1年もたつと真相がわかってくる。やっぱり問題は供給量が足りてないことであった。今日になってようやく認めたようであります。
●農水省「コメ足りている」を謝罪 自民部会で誤り認める
〇かくしてこれから、わが国農政のコペルニクス的転換が始まるのであろう。そうでないとマズいですよね。以前から言っていることですが、まず農林水産省という名前がよろしくない。いかにも農家の子弟たちが集まって、「農家が農業をする権利を守るぞ!」という役所みたいじゃないですか。名前を食糧省にすれば、少しは消費者の方を向いてくれるんじゃないだろうか。
〇ここから先はワシの勝手な妄想だが、悪いのはこの国に根深く沁み込んでいる「平等主義」だと思う。仮に農水省が、「コメ作りはこれから北海道と東北、北陸地方の農家さんにやってもらうことにします。その上で規模を拡大します。西日本の農家の皆さんは、コメ作りをあきらめてください」という方針を打ち出せていたら、ずいぶんと話は違っていただろうと思う。
〇ところが平等意識が根強いこの国では、こういう理屈が通じない。東日本でも西日本でも、大規模農業会社でも小規模農家でも、皆が等しくコメ作りができなければいけない。消費者の側も心得ていて、なるべくコメは近県で作られたものを買うようにしている。比較優位の発想など存在しない。そもそも最初から市場メカニズムなど働くはずがない土壌なのです。
〇この平等意識が続く限り、合理的な農政はできないでしょうな。まあ、農業政策というものは、どこの国でも不合理なものであるらしいですが。
<8月10日>(日)
〇このところ、日曜日ごとに中山競馬場のパークウインズに通って夏競馬を楽しんでいる。さすがにこの時期、指定席を買う暇人はよほどの好き者ばかりとみえて、簡単に予約は取れるし、帰りの電車も混まないのが好ましい。ところで、今日のお隣さん、先週も同じ場所に居たような気がする。しかるにお互いにちょっと気まずい感じもある。
〇こんな風に、勝負に没頭するときは危険なのである。案の定、ハコテンになるまで負け続けてしまう。この夏、北九州記念と関谷記念とアイビスSDを取っているので、内心期するところはあったのだが、CBC賞もレパードステークスもかすりもしない。ちなみにオバゼキ先生の予想は当たっているではないか。悪いのはきっと雨のせいだ。そういうことにしておこう。
〇まあ、こんな風に熱くなれるというのが、博打の楽しみというものでありまして、負けて悔しくなくなったら人生終わりです。来週の札幌記念はきっと勝つぞ。その前に、東洋経済オンラインの予想も当てなきゃ、と心に期するのであった。
〇この週末にグラスワンダーが逝く。この人の追悼文が素晴らしい。グラスワンダーが有馬記念を連破した頃、ワシはまだ「有馬の時だけ馬券を買う」ファンであったのでした。それがいつしかズブズブになりまして。お陰でいっぱいの思い出を抱えて今も生きております。
●グラスワンダーの思い出。
<8月11日>(月)
〇今日は雨。九州方面はエライことになっている模様。関東地方は少し凌ぎやすくなったのはありがたいが、お出かけ日和ではない。まあ、この雨が全国の稲作に貢献してくれれば良しとすべきか。
〇ということで、締め切りはまだ先なのだが、地元・北日本新聞さんの原稿をせっせと書いていたら、その間に未来富山高校の甲子園が終わってしまった。不覚であった。しかしまあ、通信学校で生徒数25人、うち23人が野球部員、富山県内出身者は1人だけって、根本的に無理のあるフォーマットだったのではないだろうか。
〇夏の甲子園は、だんだん見ているのがツラい祭典になりつつある。もともとが不条理な世界であった上に、SNS世論とやらが事態を拡大してしまう。水に落ちた犬を叩きたい人たちは、世の中には少なくないようなので。
〇高校生って、「さわやか」でもなければ、「散って悔いなし」でもない。ましてアスリートなんだから、そりゃあドロドロした世界があるのは当たり前でしょ。加えて高野連とか朝日新聞社とかがキレイな組織であるわけもなく。お前ら、今までだってそれを百も承知で甲子園を見てきたんじゃなかったのかと。
〇こんな風に「砂社会」化していくわが国風土が忌まわしく感じられる。せめて雨水を吸わせて、もう少し湿り気を持ってもらえればと思う次第。
<8月12日>(火)
〇今朝はお盆だからと午前7時くらいに起き出してきたのだが、あ、そうか、今日は「モーサテ」をやっている日であった。池谷亨さん、大槻那奈さん、今朝はゴメンナサイ。
〇そうしたら今日は株価が上がるあがる。日経平均は史上最高値を更新しました。TOPIXも最高値です。いやあ、すごいなあ。個人投資家たるかんべえ、本日は少しだけ株を売りました。いや、別にこの人の意見に従ったわけじゃないんですけどね。高値を売って安値を買うのが、投資のセオリーだと思いますので。
〇なんで株が買われているかと言うと、要はTACOトレード、「トランプ関税、やっぱり怖いことないじゃん!」ということだと思います。赤沢さんがラトちゃん、ベッちゃんとネゴしてくれたお陰で、相互関税は後からちゃんと訂正してもらえるみたいだし。
〇それから分野別関税でいちばん大事な自動車関税は、EUや韓国と同じ条件だし。ライバル企業と同じ条件であれば、別に関税引き下げを急いでもらう必要はないのです。今日はトヨタ自動車の株価が3%も上げました。あの会社、トランプ関税を機に、「世界第一位の座」を足固めしちゃうんじゃないでしょうか。
〇もうひとつ、考えられるのは自民党総裁選の前倒しが避けられない様子なので、市場の反応として「変化は買い」になっている可能性がある。昨日朝の「飯田浩司OK!Cozy Up!」に平井文夫さんが出ていて、いろいろ聞き捨てならないことを言っているんですよね。
〇いわく、「石破さんは臨時の総裁選になった時に、20人の推薦人を集められないのではないか」。慌てて調べてみましたが、昨年の自民党総裁選で石破さんを推薦した20人の国会議員のうち、実に5人が落選して1人が引退しているのです。この分の穴埋めって、できるのだろうか?とりあえずムネオさんは推薦人になってくれそうだけど・・・。
〇もっともそれを言い出すと、高市早苗さんもダメージは大きいのでありますが。お盆の季節、静かな政局が広がっているようです。
<8月13日>(水)
〇本日は富山にてササっと墓参りなどを済ませる。
〇霊園に行く途中の両脇に広がる水田は、見事な実りを見せている。この分であれば、どうやら今年の稲作は悪くないらしい。いや、あくまでも富山市内だけの話でありますが。
〇この辺りは川の水量が豊富なので、雨が少なくても大丈夫なんだそうです。雪解け水が豊富なものですから。だから全国的な稲作がどうかはわからない。今年の夏はとにかく、暑過ぎますからねえ。
〇まだまだ気の抜けない夏真っ盛り。この先も台風やら線状降水帯やらいろいろありそうです。実りの秋を迎えられますように。
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編集者敬白
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by Kanbei (Tatsuhiko
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