<8月1日>(月)
〇今後の主要政治外交日程を書いてみる。
8月 1日 岸田首相がNPT再検討会議に出席(ニューヨーク)
8月 3日 臨時国会召集(〜5日まで5)→参院議長/副議長人事+安倍元首相追悼演説
8月 4日 ペローシ米下院議長が台湾訪問?→その後に訪日して細田衆院議長と会談?
8月 6日 広島原爆忌
8月 9日 長崎原爆忌
8月上旬 北戴河会議
8月15日 全国戦没者追悼式
8月下旬 ジャクソンホール会合
8月25日 安倍晋三元総理の四十九日
8月下旬 岸田首相が中東歴訪
8月27日 TICAD [(チュニジア〜28日)
8月末 各省概算要求締め切り
9月 5日
英保守党大会→ポスト・ジョンソン首相を選出
9月上旬 内閣改造+自民党役員人事→第2次岸田改造内閣が発足
9月11日 沖縄県知事+22市町村選挙(9/11)
9月21日 国連一般討論始まる
9月25日 イタリア総選挙
9月27日 安倍元首相の国葬
9月29日 日中国交正常化50周年(日台断交50周年でもある)
10月4日 岸田内閣の発足から1周年
〇こうして書いてみると、ものの見事に主役は全部岸田さんである。内閣改造と党役員人事は、とっくの昔に細部まで決まっているはずなのだが、それらが判明するまでにあと1か月以上待たされる。果たして菅さんは副総理で入閣するのか、茂木幹事長は財務相に横滑りなのか、高市政調会長の処遇はどうするのか、新しい閣僚となるのは誰と誰なのか。待たされるほど、人事の値打ちは上がる。とはいえ、やっぱり安倍さんの四十九日まではまたなきゃいかんでしょう。
〇外交の主役も岸田さんである。今日はNPT再検討会議でNYへ飛んで、たぶん来月もまた国連総会でNYへ飛ぶ。8月末にはアフリカと中東も歴訪する。そして安倍国葬に伴う弔問外交がある。トランプさんも来そうだし、中国からも誰かしら来るはずである。これは日中国交正常化50周年とリンケージされそうだ。これでは何より、ご本人が自信をつけちゃうのではないだろうか。
〇次なるハードルは、9月11日の沖縄県知事選挙だろう。これで勝ってしまったら、岸田さんにチャレンジする人は少なくとも党内からは出にくくなるだろう。なにしろこの1年以内に、自民党総裁選と衆議院選挙と参議院選挙を3つまとめて勝っちゃったのだから。そして国政選挙6連勝の安倍さんはもうこの世にはいない。ほかには頼れる人はいない理屈である。
〇問題は「楕円のもう一つの焦点」がどうなるかだ。こればかりは清和会に聞いてみるしかない。強いて言えば萩生田さんだと思うが、彼も総理大臣というよりは幹事長タイプ。『シンゴジラ』に出てきた泉修一に似ていると思うだよね。「出世は男子の本懐だ」とか、「おう、幹事長ならまかしとけ」とか、「矢口、まずは君が落ち着け」とか、彼が言ったらいかにも似合いそうじゃないですか。
〇あの映画が撮影された時期の官房副長官であったし、選挙区が映画では立川市(萩生田氏は八王子)とか、偶然とは思えない一致がたくさんあるんですよねえ。岸田さんとしては、彼を上手に使っていくことを考えるべきでしょう。
<8月2日>(火)
〇「アメリカの二階さん」ことナンシー・ペローシ下院議長が今宵にも台湾に向かわんとしているとのこと。いやあ、中国側にどんな対抗手段があるかは存じませぬが、今さら止められませぬぞ。
〇米下院議長の訪台は前例のないことではありませぬ。1997年にニュート・ギングリッチが3時間だけ台湾に滞在し、李登輝総統に会ったことがある。もっともこのときは中国側もそれほど強硬姿勢ではなかった。何しろギングリッチは江沢民に会って、ちゃんと仁義を切った後の出来事であった。また、ときのクリントン政権としては、「アレは野党がやっていることですから・・・」と口を拭うこともできた。
〇ペローシさんの場合は確信犯である。本当であれば、今年4月に訪台するはずであったところ、コロナ感染で訪台が延期になった。でも、本人は諦めているわけではなく、しかも現在はほぼラストチャンスである。なんとなれば、秋にはアメリカ議会は中間選挙モードに入るし、下院選挙では民主党は大敗するはずである。つまりペローシさんが下院議長でいられるのはあとわずかということになる。
〇82歳というお年を考えれば、もう来年以降は活躍の舞台も限られるだろう。となれば、ここで元祖人権派、反中派としての矜持を見せないことには引っ込みがつかない。ここで中国の恫喝に屈したとあれば、それこそ支持者の失望を買って中間選挙に影響しかねない。バイデン大統領としても、内心では「勘弁してくれよ〜」と思いつつも、自分より年上の姉御を止められなかったことは想像に難くない。
〇ということで、明日には蔡英文総統との面談が実現するのかもしれない。で、その後にペローシさんが飛ぶ先は高い確率で横田基地であり、細田衆議院議長との会談があるのではないかと推察する。中国の怒りは日本にも向けられることになりそうだが、岸田内閣、その辺の危機管理はできているのでしょうか。
〇もうひとつ気になるのは、安倍さんの葬儀には頼清徳副総統が訪日している。9月27日の国葬には誰が来るのだろう。安倍晋三という最強の親台派政治家を失った後であるから、思い切ったカードを切ってくる可能性がある。
〇しみじみ思うのですが、アメリカの政界は高齢化が進み過ぎている。何しろ民主党のワンツースリーが、@バイデン大統領(79歳)、Aチャック・シューマー上院院内総務(71歳)、Bナンシー・ペローシ下院議長(82歳)である。まあ、それでも「最後のご奉公」かもしれませぬ。それにしても中国側にはどんな対抗策があるのだろう。ワシにはわからぬ。
<8月3日>(水)
〇ペローシさんが向かった先は韓国でしたか。蔡英文総統と会って、TSMC会長とも会って、人権博物館にも立ち寄って、満額回答でありましたな。
〇彼女の訪台が成功した陰で、値打ちが落ちたのはバイデン大統領でしょう。なにしろリークして訪台を止めようとしたり、「米軍が反対している」と人のせいにしようとしてましたから。なにより大統領が「台湾を防衛する」と3回言い間違えるよりも、ペローシが1回訪ねる方がずっとアメリカの台湾への関与を雄弁に物語っていた。
〇とはいえ、危険極まりないギャンブルでした。ペローシさんの政治ギャンブルとしてはいいのですが、米中関係の外交ギャンブルとしてはかな〜り危うかった。この後、台湾近海はかなり物騒なことが続きそうだし、その後の中国内政の暴走もありうべし。
〇つまるところ、アメリカが中間選挙、中国が党大会というお互いに秋の大イベントを控えていることが、こういうガチンコ勝負を避けられなくしている。似たようなことはまだまだ続くかも。ウクライナの戦争も、まだ終わっちゃいないんですけどねえ。
<8月4日>(木)
〇猛暑お見舞い申し上げます、という日々が続いていたら、今日になったら突然の大雨。ところによっては命に関わるような豪雨だとか。
〇蓋を開けてみたらびっくりなんですが、今宵、都内で予定されていた富山市主催のふるさと交流会も中止になってしまいました。この天候では市長が出てこられない、というのはまことにごもっとも。正しい判断だと思います。
〇こんな風に大荒れの天気の最中に、馬鹿正直に予定通りにこだわる必要はないんです。ASEAN外相会合の拡大会議が行われているプノンペンでは、日韓外相会談は実施され、日中外相会談は延期になったそうです。そういうことでいいんじゃないでしょうか。
〇明日にはペローシさんが訪日することもあるんで、そこはお互いさまと言った感じでしょうかね。何にしろ、無茶はいかんです。
<8月5日>(金)
〇ペローシさんの訪台については、いろんな意見が飛び交うところですが、プロ筋の間では否定的な声が少なくありません。これは昨日のワシントンポスト紙から。
●The
U.S.-China crisis over Taiwan was wholly predictable (台湾をめぐる米中関係危機は双方に責任がある/ファリード・ザカリア)
〇これで米中間のコミュニケーション・チャネルが壊れてしまった、といった指摘を聞くと、頭を抱え込みたくなるところである。とはいえ、まあ、この程度で済んでよかった、ともいえる。ちなみに先週時点でワシントンポスト紙の社説はこんなことを書いていた。
●Pelosi
should go to Taiwan ― when the time is right (ペローシは台湾に行くべきだが、時を選ぶべきだ)
〇返す返すもバイデン大統領が、「ペローシ訪台を米軍はいいことだと思っていない」と言っちゃったことが問題であった。これではシビリアンコントロールに外れているし、それで中国が黙っていられなくなった。お互いに掛け金を吊り上げることとなり、なおかつペローシも降りられなくなってしまった。
〇その一方で、ペローシさんはこんなことも言っている。これは中国にとって、かなりキツーイ一撃ではないかと思う。
●Pelosi
Hints Gender Is Real Reason China Is Mad at Taiwan Trip (台湾に男が行ったときには問題になっていない)
〇中国が激怒したのは、蔡英文総統とペローシ米下院議長が両方女性だったからではないかと。わははははは。中国も腹は立つでしょうが、こういう喧嘩は買っちゃいけません。だって絶対に勝てないから。ちょっと「いい気味」ではある。
<8月6〜7日>(土〜日)
〇広島原爆忌、用意された原稿を読み飛ばしてしまう首相もいたけれども、さすがに広島市出身の首相は、自分の言葉で語っていたようです。たぶんご自身で原稿に手を入れられたのでしょう。
〇今は確かに5年に1度のNPT再検討会議も行われている。将来的には「核なき世界」を目指しつつ、なおかつ目の前の核の脅威も防がなきゃいけない、という今日的な課題を考えるには、こういう機会は大事にしなければいけません。あまりにも問題が大き過ぎるので、ついつい「今年も〇月×日がやってきました」(その日が終わったらすぐに忘れる)というルーティーンで済ませてしまうのが楽に思えるのですが。
〇NPTというのは、そもそもが不平等条約です。5か国のみが核兵器を持っていい、という時点で普通、ほかの国は怒ります。当然、核を保有しない国は核保有国に対して、核軍縮を求めるわけですけれども、それは「恐怖の均衡」の前で道義を説くことになってしまいます。とはいえ、そこで諦めてしまっては物事は変えられない。
〇岸田首相の立ち位置は結構微妙で、日本国首相として国家の防衛に責任を持つ立場から行くと、「核の傘」を否定するわけにはいかない。日米同盟も守らねばならない。だから核兵器禁止条約にも一概には賛成できない。それは被爆者や反核団体から見れば、きっと不満足なことでしょう。
〇ロシアや中国や北朝鮮が実際に持っている核の脅威に対して、ちゃんと抑止力を確保しながら、「核なき世界」という理想を唱えなければならない。どこまでできて、どこから先はできないのか。理想主義を目指す人は現実的でなければならないし、現実主義者を自認する人は理想が持つパワーに対して謙虚でなければならない。核の話はしみじみ難しい。
〇てなことを考えさせられた週末でありました。
〇それとはまったく関係がないのですが、今日はめずらしいことにエルムステークス(札幌、G3)とレパードステークス(新潟、G3)を両方を取れたので、ちょっといい気分になっているのである。これがねえ、毎年まことに癖のあるレースなのですよ。
<8月8日>(月)
〇中国の「キレ芸」というのはつくづく始末が悪い。彼らは本気で怒ってみせるし、確かに本気で怒っているようなのだが、自らの「怒りパワー」を冷静に測っているようなところがある。「俺は今、これだけ腹を立てているのだから、ここまではやっても文句は言われないだろう」などと妙に計算高いのである。本来であれば8月7日で終わるはずの台湾近海での軍事演習を、今日になっても続けているのはその典型だ。
〇その反面、彼らは駐米大使をまだ召喚していない。アメリカを相手に本気で喧嘩を売る気がないからであろう。本気で怒っていたら当然そうなるはず。できないのは、現在進行中の北戴河会議や秋の党大会において、「われらが党書記は対米関係も上手くやっている」と言いたいがためであろう。その分、日本にはイチャモンをつける。日本のEEZにもミサイルを落とす。この調子では、9月27日の日中国交正常化50周年も無為に過ぎちゃうけど、いいのかなあ。
〇中国はアメリカの三権分立を理解できていない、だからバイデン大統領がペローシ下院議長の訪台を止められないことに怒っている、という解説も大いに疑わしい。本当に分かっていないとしたら、それは中国のアメリカ研究のレベルが低すぎるだろう。彼らはペローシ訪台をアメリカ外交における一種のエラーだと判断し、この機会に「取れるものを取ろう」と計算しているのだろう。「怒っている中国」には注意が必要だ。怒っている人に対して、つい下手に出てしまうのは日本人の常ですが、くれぐれも注意が必要です。
〇ロシアが本気でNATOの東方拡大に対して怒っている(脅威に感じている)というのも、よくできたフィクションだと考えるべきでしょう。本気で言っているとしたら、ロシア人に向かってこう言ってあげるべきでしょう。「いやあ、あなた方がそんなにナイーヴだとは思っていなかった」「だって逆の立場であれば、あなたたちは当然、逆のことをするでしょ?」。
〇今回のペローシ訪台によって、中国の人民解放軍は「(有事の際には)ここまでやるつもり」という想定内の軍事行動を表沙汰にすることになった。それが良かったのか、悪かったのか。まあ、じっくりと観察するよりほかにない。
〇逆に台湾の側はどうだったのか。「ペローシ議長の訪問に、台湾人はなぜ熱狂したのか」という報告が面白い。わざわざ台湾まで飛ぶとは、野嶋さんもまことにお疲れ様です。こういうのを読むと、ペローシさんの訪台が「いかにもアメリカらしいソフトパワー」に思われてきます。
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編集者敬白
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