●かんべえの不規則発言



2023年12月 






<12月1日>(金)

〇本日は2023年の新語・流行語大賞が発表されました。大賞は予想通り「アレ」でありました。そらそうよ。「アレのアレ」まで達成して日本一ですからね。阪神タイガースは。

〇この大賞、いつも野球が上に来るんですよねえ。去年が「村神様」、一昨年が「リアル二刀流/ショータイム」ですから。それにしても岡田監督、すっかり「今年の人」ですね。あーん。変に若ぶったりしないで、「昭和のまんま」で振舞っている様子がワシ的には好感度大です。そらもうアレよ。

〇こうなると今度は、12月12日発表の「今年の漢字」が気になるところです。やっぱり物価高に関連して、「騰」とか「耐」とかでしょうか。

〇この辺の話が出るようになると、いよいよ師走で今年も残り少ないですよね。2023年は残り1か月。「いい年だった」と言えるようにしたいものです。


<12月2日>(土)

〇上海馬券王先生お勧めの北野武作品 『首 Kubi』を見てまいりました。いやー、なかなかに痛烈な映画でありましたな。

〇NHK大河ドラマが、ホームドラマみたいに大甘になっている昨今においては、こんな風にあられもないドラマは、いっそすがすがしいものを感じます。どう考えても、こっちの方が史実には近そうですものね。人の命の値段がとっても安かった戦国時代、簡単に生首が飛んでしまう。いやもう飛びます、飛びます。

〇たぶん誰もが同じ感想でしょうけれども、とにかく加瀬亮が演じる信長が凄過ぎ。「第六天魔王」の名に恥じません。あたしゃ北野作品をほとんど見てなくて、「アウトレイジ」も知らないんですけれども、とにかく途方もない役者さんですね。お父さんの豊さんのことは、昔からよく存じているのですが。

〇お話しは「本能寺の変」の謎解きという趣向です。この問題について、不肖かんべえは一通りの知識はありますが、「なるほど、この手があったか!」と感心いたしました。カギを握るのは荒木村重でありまして、確かに彼は落城後も生き延びている。その後は毛利家に匿われ、後に堺で茶人となっている。そして本能寺の変の4年後に死亡。

〇これは以前からの持論ですが、光秀の裏切りを秀吉と官兵衛の二人はある程度は予想していたのではないかと思います。でないとその後の「中国大返し」が、あまりにもファインプレーに過ぎるから。この映画の中では、羽柴秀長を加えた3人がそういう陰謀を楽しんでおられます。

〇ビートたけし演じる秀吉が、「無能な人」という設定になっているので仕方ないのですが、高松城水攻めが官兵衛の献策であるというのはちょっと無理があると思います。あれは土木工事の天才、秀吉が自分で考案したことでしょう。官兵衛さんも築城は得意としてましたが。そもそもあんなにカネのかかる軍事作戦は、トップでなければ決断できませんので。

〇ともあれ、あの時代のことを描いたドラマとなれば、見過ごすことはできません。うーん、それにしてもワシは北野作品をほとんど見ておらんのだなあ。


<12月3日>(日)

〇本日はとっても久しぶりに国立市へ。一橋大学の感謝の集いというのがありまして。この季節の国立市は紅葉がとてもきれいです。この景色は40年前と変わっていないはずなのだが、さて、あのときもこんな風だったのだろうか。

〇ワシは一応「基金功労者」ということになっていて、呼ばれていくと「ご褒美」がついている。それは自分が書いた卒業論文と再会できる、というもので、これは上手い企画だよね。恥ずかしいに決まっているのだけれども、何しろ卒業からは40年もたっている。死ぬ前に一度見ておきたい。いっときの恥の感情などは、押し殺すべきである。

〇ということで、再会を果たしてきたのであります。いやー、予想通り酷いものでありました。いちおう今ではワシは売文業者の端くれなのだが、大学時代にこんなことを書いていたとは。テーマは面白いけれども、リサーチは全然甘いし、そもそもまるで論文になっていない。

〇ただし原稿用紙に肉筆で書かれた文字は、確かに自分が書いた字なのであるが、今では信じられないくらいにきれいで読みやすい。これ、確か万年筆で清書したんだよなあ。今じゃ字は汚くなってしまって、とてもこんな風には書けません。

〇40年前はそんな感じでした。ワープロなんてなかったし、コピーを取るときは青焼きでした。1984年に会社に入ったら、勝手にコピー機を使えることに感動したくらいです。社内文書も手書きが多かったから、字がきれいであることは財産だったんですよね。今ではすっかり忘れられている文化でありますが。

〇さて、明日は早起きしてモーサテに登場します。


<12月4日>(月)

〇今朝はモーサテへ。「悲惨指数」のネタをご紹介。アメリカの歴代大統領の表もさることながら、日本のそれも結構衝撃的なグラフになりますね。

〇本日、ご一緒したゲストはバークレイズ証券の門田さん。アメリカの利上げは、過去には「ゆっくり上げて、慌てて下げる」パターンだったけれども、それは景気重視だったから。今はインフレ重視になっているので、「慌てて上げて、ゆっくり下げる」パターンになるだろう、とのこと。なるほど。

〇来年のアメリカで、市場がトータル「1%分」の利下げ(0.25%×4回)を見込んでいるのは、ちょっと欲張り過ぎでありましょう。最初が6月か7月、その上で秋にもう1回。トータル2回。その辺が妥当な読みじゃないでしょうか。

〇その上で、日本は4月にマイナス金利を解除するだろう。あとは様子見の1年。ゼロ金利解除はもうちょっと先になる。となれば、日米金利差はすこーしだけ接近するので、少しだけ円高に修正というのが、来年のメインの読み筋になるわけです。とはいえ、そういうのって当たらないのだよなあ。

〇たまたま今宵はエコノミスト同士の会合で、「1年前に予想した為替」の答え合わせをしたところ、現状の150円前後の円安を予想していた人はほとんどいなかった。まあ、そんなもんですわなあ。皆さん「こんな円安では海外に行けない!」と大不平大会でありましたから。

〇他方、インバウンドの消費が今の日本経済を支えているのも事実なので、円安さまさまという面もある。なんとも悩ましい年の瀬の日本経済。それでもこんな風に、気の合う仲間が気軽に集まれるようになったのは、まことにありがたきことかな。


<12月5日>(火)

〇本日は常陽銀行さんの講演会でつくば市へ。

〇会場はつくば国際会議場である。年季の入った建物ではあるけれども、講師控室の隣では英語のセミナーが行われていたりするのが、「さすがはつくば市」である。県内では"Mito"よりも"Ibaraki"よりも、"Tsukuba"の方が国際的な知名度は高いと言われている。まあ、そうでしょうな。

〇それは元をたどれば、1985年の「つくば科学万博」のお陰だというから、ますますビックリである。それって阪神タイガースが前回優勝した時のことだから、もう38年の前のことじゃありませんか。とはいうものの、一度行った場所のことは人は忘れないものである。ましてそこでビックリ体験をしたときには。

〇はてさて、2025年に行われる大阪・関西万博は、後世にどんなものを残せるだろうか。ワシ的には大阪・関西はけっして捨てたものではないと思う。ただし最近は自信喪失気味であることで、それはちょっとよろしからぬかなあ、と感じることがときどきあります。


<12月6日>(水)

〇11月末から年末にかけて、来年の予測を作るのはほとんどルーティーンのような世界である。データを集め、各方面と意見交換をし、「今年のヒット商品」や「新語・流行語大賞」や「今年の漢字」をチェックする。これが楽しい作業なのでありますよ。

〇当「溜池通信」においては、経済はもとより国際情勢に加え、永田町政治の滑った転んだみたいなことまで全部フォローしようとするので、これがまた楽しいのである。本日もまた、一杯ネタを仕込んでしまったのである。まあ、おいおい小出しにしてまいりますが。

〇こんな例年の作業を、面白がってくれる読者もそこそこいらっしゃるようなので、明日以降も情報収集、ネタ拾いに精が出るのであります。あ、そうそう、明日はラジオ日経の「ザ・マネー」に出没いたします。午後2時半から4時まででござりまする。


<12月7日>(木)

〇この季節恒例、日本貿易会の貿易動向見通しが本日発表されました。貿易会のホームページには明日には掲載されると思います。



1.商品別貿易の見通し(通関ベース)

● 2023年度 〜 輸出は過去最高を更新、輸入は資源価格の低下により大幅に縮小、貿易赤字は継続

輸出総額は 2022 年度比 1.9%増の 101 兆 1,490 億円となり、初めて 100 兆円を超え、過去最高額となる。内
訳は、輸出数量が同0.6%減少、輸出価格が同2.5%上昇。世界経済の減速により数量は減少するものの、物価
高や円安の効果などにより、幅広い品目で輸出価格が上昇する。
輸入総額は 2022 年度比 11.6%減の 107 兆 1,920 億円。内訳は、輸入数量が同 1.8%減少、輸入価格が同
10.0%低下。鉱物性燃料の数量減や価格下落により大きく減少するものの、2 年連続で 100 兆円超となる。
この結果、通関貿易収支は 6 兆440 億円と 3 年連続の赤字となるものの、赤字幅は大幅に縮小する。

●2024年度 〜 輸出拡大・輸入減少が継続し、資源輸入の減少などにより貿易赤字が一段と縮小

輸出総額は2023年度比2.1%増の103兆3,020億円。内訳は、輸出数量が同1.6%増加、輸出価格が同0.6%
上昇。世界経済が減速する中でも世界貿易は復調する一方、円高により価格の上昇は限定的。
輸入総額は2023年度比1.7%減の105兆3,890億円。内訳は、輸入数量が同1.3%増加、輸入価格が同3.0%
低下。国内景気は減速するものの内需の緩やかな回復が継続することから数量は小幅増。資源価格は小幅に
上昇するものの円高の影響もあり、価格は低下する。
通関貿易収支は 2 兆860 億円の赤字と 4 年連続で赤字が継続するものの、赤字幅は一段と縮小する。

2.経常収支の見通し

●2023年度 〜 貿易赤字が大幅に縮小、第一次所得収支の黒字拡大により、経常収支黒字は大幅増

経常収支黒字は 25 兆 5,530 億円となり、2022 年度の 7 兆 9,950 億円から大幅に拡大する。輸出が増加する
一方で輸入が大きく減少するため、貿易収支の赤字は 2 兆6,820 億円となり、赤字幅が縮小することが主因。外
国人観光客の回復によりインバウンド需要が持ち直していることもあり、サービス収支の赤字が 4 兆 280 億円
と、2022 年度の 5 兆3,620 億円に比べて約1.3 兆円の縮小となる。第一次所得収支は、投資収益の改善や円安
の影響を受けて過去最高の 36 兆1,030 億円となり、2022 年度に比べて約1.4 兆円の上積みとなる。

●2024年度 〜 貿易収支赤字の縮小が継続、経常収支黒字は 2 年連続で過去最高を更新

経常収支は、26 兆9,520 億円の黒字となり、2023 年度に続き、2 年連続で過去最高を更新する見通し。貿易収
支は、1,440 億円の赤字となり、赤字額が一段と縮小することが主因。サービス収支は、インバウンド需要の回
復が一巡することもあり、赤字が 3 兆 9,100 億円と 2023 年度とほぼ同水準となる。第一次所得収支は、世界経
済の減速や円高へのシフトの影響により、34 兆 7,840 億円と前年から約 1.3 兆円の減少となるが、高水準を維
持する。


〇なにしろヘッドラインが「輸出拡大・輸入減少、貿易収支は改善、経常収支黒字は過去最高へ」なんで、景気がよろしいのである。まあ、何しろ輸出と輸入が、23年度も24年度もいずれも100兆円越えですから。

〇かかる名目ベースの伸びは、着実に日本企業を潤すはずである。とはいえ、実質ベースで見るとかならずしも日本経済を潤すとは限らない、というツッコミもあり得るところなので、そこをどう判断するかが難しい。ともあれ、商社の業界団体である日本貿易会としては、「まことに結構な見通しで・・・」ということになる。


<12月8日>(金)

〇パーティー券問題で安倍派が大ピンチとなっている。中でも切羽詰まっているのが松野官房長官で、安倍派5人衆の中でもっとも安全な人だと見られていただけに、事の展開はまことに意外なものであります。

〇仮に官房長官を替えるとなると、これはなかなかに難問です。今の日本政府は首相がCEOだとすれば、官房長官はCOOでありますから。官邸経験がまったくない人や、現閣僚との接点がまったくない誰かを外から連れてきて、それでピタリと当てはまる、ということはなかなか考えにくい。さて、誰だったらいいのだろう。


*加藤勝信氏・・・官房副長官経験者で閣僚経験も豊富だが、茂木幹事長と一緒の派閥でいいのかどうか。

*中谷 元氏・・・元首相補佐官で岸田首相との関係も良いけれども、やや器用さには欠けるか。

*後藤茂之氏・・・前経済再生担当大臣で現閣僚はよく知っているが、日に2回の記者会見でしくじってしまうかも。

*林 芳正氏・・・前外相であり、官房長官としての仕事ぶりを見てみたい気はするが、その場合の宏池会会長ポストはどうなるんだろう。

*齋藤 健氏・・・前法務相であり、リリーフ役としての仕事には定評あり。無派閥というのも「買い」か。


〇安倍派内の混乱は、岸田首相にとってプラスなのかマイナスなのか。年末に向けて、落ち着かない政局が続きそうです。


<12月9日>(土)

〇年の瀬、慌ただしく富山市を訪れて、浮世の義理をいくつか果たす。今日の富山市は、この季節としては信じられないくらい暖かくて、立山連峰がくっきり見える。明日はおそらく天気が崩れて、寒々しい一日になるのではないかと拝察す。この時期の北陸はそういう天候が普通です。

〇なぜかと言うと、「富山に行ってぶりしゃぶを食いたい」という友人が4人ほどいて、「それでしたらご準備いたしましょう」と言ってしまったのである。そうは言っても、お気に召さなかったらどうしよう、とか、ホントにみんな来てくれるのだろうか、いや、それ以前にブリが不漁だったらどうしよう、などと幹事としては考え出すときりがない。ちなみにお呼びしたのは、企業経営者と霞が関幹部とシンクタンク研究員と某ジャーナリストという組み合わせである。

〇それでもこちらの店にご案内したところ、皆さまちゃんとご満足いただけたのでありました。ああ、良かった、ホッとした。ちゃんとよその方をお連れしても、恥ずかしくない街になっているのであります。最近のわが故郷は。それにしても今宵の富山駅界隈は、若い人たちが大勢繰り出していて、ずいぶんと賑わっておりましたなあ。

〇寒ブリは今月と来月が旬であります。なんでも今週は、富山湾にブリが1600本も上がったそうでして、途方もない豊漁です。これはおいしくいただくのが人の道であり、SDGsというものであります。皆さま、北陸新幹線でブリを食べに行くなら今のうちであります。


<12月10日>(日)

〇富山に行っている間も、ちょこまかといろんな原稿を書いていたのですが、先週末に某所に入稿した国内政治がらみの原稿は全面書き直しですわな。まあ、政局入りしているのだから仕方ありません。官房長官の更迭くらいでは済まなくて、内閣改造になるのか、それとも総辞職まで行ってしまうのか。はたまた年明け冒頭解散か。

〇しかも月曜日は新聞休刊日と来ている。メディア関係者の恨み節が聞こえてきそうだが、ここまで来ると何でもありそうです。安倍派5人衆全員に罰点がついてしまうかもしれないし、他の派閥にも飛び火するやもしれず。元はといえば、しんぶん赤旗のスクープ記事であって、朝日新聞も嬉々として「安倍派」を叩いている。

〇安倍派の影響力が弱まるということは、日銀が出口政策に向かいやすくなることを意味するでしょう。さっそく「裏に財務省が居るに違いない」みたいな陰謀論も飛び交ってますけど、財務省がこんなおいしいネタを持っていたとしたら、彼らは安倍政権時代に使ったことでしょう。むしろ旧・統一教会の復讐劇という方が、ありそうな気がするけどなあ。

〇ということで、永田町は寸前暗黒です。ただし岸田さん自身はお元気みたいですね。さすがの鈍感力と言えましょう。ホンネが外に出にくいことが、あの人の最大の強みでありますね。












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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)