●かんべえの不規則発言



2025年9月 






<9月1日>(月)

〇今日は防災の日。よりによってこんな日に、突如として総理大臣が辞意表明したことがありましたよね。2008年9月1日の福田康夫首相の事例です。

〇福田さんとしては、「自分には『選挙の顔』なんて務まらないから、麻生さんアンタに任せるよ。いつものように明るく振舞って、早いとこ解散して総選挙をやってくれ。今ならまだ民主党には負けないだろうから」という思いだったのですよね。ところがそのちょうど2週間後にリーマンショックが起きてしまい、麻生政権はダッチロールを始めてしまう。その1年後には自民党は下野することになったのでありました。

〇4年前の2021年には、9月3日に菅義偉首相が、「来る自民党総裁選には出馬しない」ことを宣言しました。文字通り矢尽き刀折れるの感がありましたね。昨年の岸田さんは、少し早くて8月14日でした。政治日程からいって、この時期はそういうことが起きやすいタイミングです。いずれも身を引く理由は、「野党に政権を渡すわけにはいかないから」でした。福田さんも菅さんも岸田さんも、組織の長としてやっぱり「自民党LOVE」だったんです。

〇それでは明日の自民党両院議員総会を前に、石破さんはどうするのか。ひょっとしたら今日で辞意表明かなあ〜と思っていたのですが、どうやらそんな雰囲気ではない。明日も続投表明ということになるらしい。やっぱり他の人に比べると、「自民党LOVE」の度合いが低いんですよね。その辺が歴代の総裁とはちょっと違うところです。

〇ただし森山幹事長は、そうではないでしょう。7月20日の参院選の総括を、9月2日まで引っ張るというのもどうかと思いますが、それを発表する時点でみずからの責任問題を逃げることはないでしょう。なにしろもう80歳だし、おカネに不安もないのだし、ご自身が正しいと思うことをできる立場です。たぶん身を引かれるのではないでしょうか。

〇ところが今日になって飛び交う噂は、石破さんが進次郎を次の幹事長に指名して、森山さんを幹事長代行に降格させるという話です。そういう手練手管をやっている場合でしょうかねえ。そんなことで自民党が生まれ変われるとは思えないし、臨時国会を開いた次の瞬間に野党が提出した不信任案が通るかもしれない、という現実は変えられません。まさか本気で2027年10月の総裁任期いっぱいまで政権を続けられると思ってはいないでしょうね。

〇最近の世論調査の支持率が上がっている、ということを根拠に、石破さんが粘ろうとしたところで、来週9月8日には臨時総裁選実施の可否が決まる。逢沢一郎総裁選管理委員長のお気持ちはと言えば、「自民党始まって以来のリコール総裁選なんて、われわれはやりたくないんだ。石破さん、頼むから今週中にご自分から辞めてくれ〜」でありましょう。その気持ち、果たしてどこまで通じていることか。

〇私は自民党員でもなんでもないですけど、「自民党LOVEでない総裁」を自民党が担ぎ続けることに対しては違和感があります。石破さん、ここは身を引くべきじゃないですかね。でないと自民党は生まれ変われないですよ。ご本人が自分から辞めようとしないなら、やっぱり党内の過半数が臨時の総裁選を支持することになると思います。世間の空気なんて、ほんの一瞬で変わってしまいますからねえ。


<9月2日>(火)

〇サントリーというのは、それはもう楽しい会社でございました。最近のことはよく知りませんが、その昔、1980年代の頃には日商岩井の社内で「サントリービールの夕べ」というものがありましてな。入社したばかりのワシには、本当に楽しい思い出でありました。当時は社内報の担当者でしたから、写真も撮ったし記事も書いたものです。

〇当時はまだ系列制度が厳としていた時代です。同じ商社でも、三菱商事はキリンビール、三井物産はサッポロビール、住友商事はアサヒビールと決まっておりました。伊藤忠商事と日商岩井はサントリーだったんですよね。確かビールの原料と機械を、それぞれが納入していたご縁でありました。まだモルツビールが誕生する以前です。まだそんなに人気がなかった頃のサントリービールが、わざわざ会社にプロモーションに来てくれるのです。

〇その日になると社内でチケットを売り出してですな、夕方から食堂フロアに皆が勢揃いしてビールを飲むのです。そこへ佐治敬三社長以下のサントリー経営陣が、ぞろぞろと壇上に上がるわけです。これがまあ、ホントに「温泉旅行に来た中小企業のオヤジさんたち」みたいな風情で、佐治さんが「こらっ!」と叱ると、役員が「へへっ!」となる。見るからに吉本興業のノリなんです。

〇そして佐治敬三社長が、壇上で『ローハイド』を唄うのです。いい声でしたねえ。ほれ、♪ローレン、ローレン、ローレン♪というアレですよ。あの歌、バックでムチの音が入りますよね。佐治さんはスリッパを持ってきていて、それを両手で叩いてムチのような音を出すんです。もう会場は大喝采になります。

〇そして壇上の役員の皆さんは、それぞれに自分の本部の商品をサービスしちゃうのです。そこはサントリーさんですから、ウイスキーもあれば、ソフトドリンクの詰め合わせもある。どっかのコンサートのチケットもあったりする。それらを大盤振る舞いするから、ますます会場は盛り上がっちゃうわけです。

〇壇上に一人だけ若い人がいて、それが周囲から「ジュニア」と呼ばれ、番頭さんたちにいじられている佐治信忠さんでした。あれが帝王学だったんでしょうなあ。後に信忠さんは社長になり、アメリカのジム・ビーム社を買収し、その経営を新浪さんに託し、サントリーの売り上げと利益を思い切り拡大しました。その新浪さんに事件が発生した今回、今度は鳥居信宏社長に記者会見の試練を与えたようです。

〇つくづくファミリー企業というのはたいしたものですな。危機管理に関しては、上場企業よりも優れているんじゃないだろうか。サントリーさんは、やっぱりたいしたものだ。・・・とワシが思うのは、今宵もプレミアム・モルツを飲んでいるからかもしれない。









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編集者敬白




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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)