●かんべえの不規則発言



2018年7月 






<7月12日>(木)

○卒爾ながらご同輩、ワシントンDCに日本大使館があることはどなたもご存知であろう。それではアメリカ国内に、日本の領事館はいくつあるかご存知か。ちょっと驚きましたな、これは。


●総領事館・・・・アトランタ、サンフランシスコ、シアトル、シカゴ、デンバー、ナッシュビル、ニューヨーク、ヒューストン、ボストン、ホノルル、マイアミ、ロサンゼルス

●領事事務所・・・・アンカレジ、ポートランド


○なんと全米にはワシントン以下15か所も日本政府の拠点があるのです。実はこれ、「グラスルーツからの日米関係強化に関する政府タスクフォース」の実施報告書(2017年度)を読んでいて学習したことであります。

○この報告書には2017年度に行われた221件、のべ77万5300人が参加した日米草の根交流が紹介されている。大小とりまとめて、1年間にずいぶんさまざまなイベントが行われているものだと感心する。その中でも、いちばんぶっ飛んでいるのがこれである。


●リチャード・ジョン・ベイヤー氏に対する叙勲伝達式


○ここにリチャード・ジョン・ベイヤー氏なるアメリカ市民が居て、日米関係に対して多大な功績を残している。そのことに対し、日本政府は平成29年に旭日双光章を贈ったのであるが、あいにくベイヤー氏が現在、在住しているニューヨーク州バッファロー市近郊においては、この名誉を周囲が知らなかった。かくてはならじ、ということでニューヨーク総領事館は、2018年2月3日にベイヤー氏の友人たち85人を招いて叙勲伝達式とレセプションを行ったのである。

○当日はバッファロー市長やニューヨーク州議会議員なども臨席した。ところが皆さん、ベイヤー氏の日本での活躍及び対日功績をご存知ない。1930年生まれのベイヤー氏は、日本流に言えばもう米寿である。いつお迎えが来ても不思議はない。いやはや、こういう会をやっておいてよかった、ということにあいなった。

○それくらいベイヤー氏は、ある世代以上の日本人であれば誰でも知っている超・有名人である。ところがアメリカでは、そのことがまったく知られていなかった。果てさて、このギャップはどこから生じたのであろうか。

○種明かしをしよう。実はリチャード・ジョン・ベイヤー氏の日本における正体は、かつての覆面レスラー「ザ・デストロイヤー」であった。日本人は素顔のベイヤー氏を見たことがなく、アメリカ人は覆面をかぶっているベイヤー氏を知らなかった。いやはや、これではすれ違うのも無理はない。

○ワシだって覚えてますがな、小学生の頃には、ザ・デストロイヤーの「四の字固め」が流行ったものです。その頃はジャイアント馬場との戦いでしたが、1963年に力道山と闘った際には、平均視聴率64%(歴代4位)を記録したそうである。後年にはバラエティー番組にもいっぱい出ていたしね。日本がまだ敗戦の記憶を引きずっていた当時、彼のお蔭でどれだけ「アメリカ」が身近なものになったかわからない。

○こういう話を聞くと、勲章もそう悪いものではありませんな。日本外交はこんなこともやっている、というお話でした。


<7月13日>(金)

○サラリーマン川柳にこんな作品があるんだそうです。


定年後 犬も嫌がる 五度目の散歩


○感心しますねえ。わずかな文字数で、思わず情景が浮かんでしまいます。もうほとんど『終わった人』の世界でありますな。

○犬の生態に詳しい人に伺ったところでは、犬というのはそんなに水分を取らないものなのだそうです。だから1日家に居るような日は、ほとんどトイレの必要がない。ところが散歩に出かけると、「マーキング」のために電柱ごとにお印をつけることになる。そこで1日に5度も散歩に出られると、犬としては出るものが出なくなる。本当に迷惑きわまりないのだそうです。

○それにしても定年後の男性というものは、奥さんに相手にされないばかりか、犬にまで疎まれてしまう、というのはまことに酷な話であります。しかも人生百年時代ということになると、20年修行して40年働いて、そのあと40年も「終わった人」を続けることになりかねない。それくらい多くの人が「会社」に依存する人生を送っている。サラリーマンが55歳で定年になって、60代でお迎えが来ていた頃の方がいっそ良かったかもしれません。

○最近、経済講演会などのネタとして、例の磯野波平さんの話などをご紹介しながら、「人生百年時代」を取り上げるととても関心が高いのです。おお、受けておるなあ、と感じる一方で、「これではまた消費性向が下がってしまうかも・・・」と心配になったりする。最近は「人生百年時代という言葉が消費者心理を暗くしている」、というのもあながち否定できない事実ではないのかと。

○そもそも「定年後」を考えるときに、最初におカネの問題から入るという点に問題があるのだと思います。それよりももっと大事なことがあるはず。まず自分は何がしたいのか。おカネなどというものは、本来は手段に過ぎないはずなのです。

○もっとも昨今の諸情勢を考えると、おカネのことが気になりだした瞬間に思考が堂々巡りを始めてしまう、というのも否定できない現実であるわけでして。とりあえず、自分は動物を飼わないぞ、と誓ってみるところである。そういえば、明日からは町内会の夏祭りなのであった。


<7月15日>(日)

○土日共に大いに暑く、こんな日に町内会の夏祭りのために、終日、外で交通整理をしているのは我ながら奇特としか言いようがない。汗をかいた分だけビールを飲んでしまう日々。で、ここではそれと関係のない話のご紹介。

○以前に「新聞歌壇」を英語でどう紹介したらいいのか、というお話を紹介しました(2016年11月29日)。いろいろありまして、とうとうDiscuss Japanで本稿が英訳されて登場いたしました。もともとは『新潮45』に出ていた「嗚呼、新聞歌壇の人生」(浅羽通明)という文章であります。こんな感じで翻訳されました。


The World of the Japanese Newspaper Poetry Column


○ここに富山県の松田梨子さん、松田わこさんという天才姉妹が登場する。その語感たるや、筆者のように感性が鈍ったオヤジ世代をもキュンキュンさせてしまうものなのであるが、それをどうやったら英語で伝えることができるのだろうか。以下にその努力の跡を窺い知っていただければと存じます。


トンネルが多い列車と聞いたから夏目漱石誘って行った 松田梨子 (2010年12月6日、朝日新聞)

The train goes through lots of tunnels, I heard. So, I invited Natsume Soseki too.


きっさ店ママのコーヒー飲んでみた苦くて口がガ行になった 松田わこ (2011年1月10日、朝日新聞)

I tried my Mum’s coffee in the coffee-shop. Bitt.. bitt.. bitter.


今すぐにおとなになりたい妹とさなぎのままでいたい私と 松田梨子 (2011年9月26日、朝日新聞)

My sister wants to be an adult now. I’ll stay in my chrysalis.


男子たち「そっくりな人見た」と言う ねえちゃんだろうな100パーセント 松田わこ(2014年7月21日、朝日新聞)

“She looked just like you,” said the boys. Chances it was my sister: 100 out of 100.”


友チョコをパクパク食べるねえちゃんは質問禁止のオーラを放つ 松田わこ (2015年3月16日、朝日新聞)

My sister eating chocolates (not from him) on Valentine’s Day. No questions allowed.


ママとパパ私でガヤガヤねえちゃんの不器用すぎる恋を見守る 松田わこ (2015年6月14日)

Mum, Dad and I, gently watch my noisy sister’s clumsy attempts at love.


高いシのフラットがうまく歌えたら伝えようって決めてる気持ち 松田梨子 (2015年6月22日)

Once I can properly hit that high b-flat… then I’ll tell him.


ねえちゃんの大事な人が家に来るそうじ買い物緊張笑顔 松田わこ (2015年10月26日)

Sister’s special friend coming to our house. Cleaning, shopping, nerves, and smiles.


夕焼けを二人で全部分け合ったテストが近い日の帰り道 松田梨子 (2015年11月2日)

Tests are coming. But we got to share a whole sunset walking home.


恋人になるといろいろあるんだねホットアップルパイ食べて聞いてる 松田わこ (2016年1月18日)

“Boyfriends are all sorts of trouble.” Listening, and eating hot apple pie. 


靴ずれの春の記憶がよみがえる恋に恋していたんだ私 松田梨子(2016年5月16日)

Scuff-marks on my shoes. Memories of spring and love.


○こうしてみると、技巧派の梨子さんよりも、素直な感情を吐露するわこさんの方が、翻訳がキレイに決まっているように感じられる。が、お二人にとっては、たぶん2015年にあった「ねえちゃんの彼氏」のエピソードはすでに歴史であって、「そういえば、そんなこともあったねえ」になっているものと拝察する。10代の頃は3年前は遠い過去だからねえ。

○「ねえちゃん」という語感をどうやったら英語で伝えられるか。そんなこと、最初から不可能に決まっているのです。それでも何か伝えたいことがあって歌は生まれるし、読み手にはその何割かが伝わってしまうから感動が生じる。英訳することは、それをさらに希釈する作業かもしれませんが、それでもビビビビビッと伝わってしまう読み手が居るかもしれない。

○さらに言えば、一銭にもならない「新聞歌壇」というスペースに、日々の創作活動を送り続ける大勢の読者が居て、それを楽しみにしている読者も居る。この国では、アマチュアの文芸レベルが無茶苦茶に高いのだ。世界中探したって、こんな文化は存在しないだろう。その辺のことを紹介したくて英訳してもらったわけでありますが、果たしてうまく伝わりますかどうか?














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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)