●かんべえの不規則発言



2019年1月 





<1月1日>(火)

○気がついたらもう2019年が始まっていた。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

○新年早々の政府発表によれば、新元号の公表は4月1日にするとのことです。その上で5月1日午前0時から適用される。いろいろ議論はあったようですが、施行の1か月前の公表となりました。

○「元号は新天皇が決めるもの」という原則論はわかりますけれども、伝統重視派の人たちが言うように「5月1日の新天皇即位の後に新元号を公布する」というのは、ハッキリ言って無茶でしょう。SEの人たちに聴くと、生年月日の「M・T・S・N」の4つの区切りに、5つ目を追加するのは技術的に困難なのだそうです。加えて明治生まれの人たちは、まだ数十万人がご存命であるらしい。だから新元号は、システムの改編に苦労することが最初から見えている。「とにかく早いとこ決めてくれ〜」という事情があるだそうです。

○こういう声を無視していると、「こんなことなら、コンピュータのシステムにはなるべく元号を使わない方がいい」ということになって、結果的に元号を国民生活から遠ざけることになってしまいます。この年末年始は「平成最後の・・・」が大流行で、まだまだ日本人は元号が好きなんだなあ、と感じることが多かった。利便性から言ったら、世の中はどんどん西暦中心になっていくはずなので、この手の不条理はなるべく減らすに限ります。

○さて、新元号は何になるのか。既にいろんな予想が飛び交っているようです。ツイッター上では「#いちばんかっこいい新元号を考えたやつが優勝」なんてハッシュタグが誕生しているのですね。真面目な話、日本政府は現時点で何通りかの案を用意しているはずですが、これが漏れた日には目も当てられない。SNS全盛時代はそういうリスクもあります。どうか4月1日までにそういうトラブルがありませんように。


<1月2日>(水)

○お正月はついついテレビを見てしまいます。今日はもちろん箱根駅伝。往路優勝は東洋大。2位東海大、3位国学院。4連覇の青山学院大学が意外な失速で6位。明日の復路はどうなるのか。まあ、4連覇自体が途方もない偉業なので、今年はいろいろ変化が出る年なんじゃないかという気がします。

○駅伝は「何が起こるかわからない」ので、ついつい見てしまうのですが、この番組は毎年、CMも作りこんであるので、楽しみなのであります。期待した通りでしたな、ダイワハウスのCMは。「役所広司さんが電話をしている相手の声は誰だ!」キャンペーンがついています。○竹×のぶさんじゃないかなあ・・・・。

○それから全国大学ラグビーもド迫力でした。早明戦は明治がわずかな差で勝ち。でもその後の天理対帝京では天理が強過ぎ。帝京大は10連覇ならず。いやもう凄いバトルで、ニュージーランドとオーストラリアの対決のようでありました。日本のラグビーも進化してますな。

○年末の紅白歌合戦も、近年では白眉の出来栄えだったと思います。特に最後、サザンが北島サブちゃんとユーミンと共演したシーンは、「これぞ平成最後」でありましたな。視聴率も良かったようです。ちなみに関東41.5%(前年比+2.1%)で関西40.5%(前年比+0.9%)ですから、ほんの微増ですけれども。

○いや、年末年始くらいはこうやってテレビを見ないと、世の中からどんどん遅れてしまうのです。あたしゃ米津玄帥だって知らなかったんですから。「よねづ・けんし」と呼ぶのが正しいのですな。ああ、ワシはモノを知らない。


<1月3日>(木)

○新年早々、マーケットが荒れてます。アップルが2日、2018年年10-12月期業績の下方修正を発表。890〜930億ドルと見込んでいた売り上げが、840億ドルになりそうだとのこと。

○ティム・クックCEOの投資家向け書簡はこちら("Letter from Tim Cook to Apple investors" )をご参照。ドル高もあるけれども、やはり中華圏での景気減速が影響していて、これに米中通商摩擦の影響も加わる見込み。中華圏ではスマホ市場も縮小している。でも、アップルの経営はしっかりしているのでご安心を、といったことが書いてある。

○いろんな意味で「やっぱりね」である。中国経済の減速にせよ、米中通商戦争にせよ、真っ先に影響が出るのは世界最大の企業であるアップルでありましょう。これが株式市場を揺さぶり、アップル株は7%下落、他のハイテク株の連れ安となった。さらには薄商いの為替市場をも動揺させ、一時は1ドル104円台まで円高が進んだ。いかに投資家心理が脆弱かということだろう。

○アップルの時価総額は、一時は1兆ドルを超えていた。「GAFAはすごい」とは皆さんおっしゃるが、あの株価の何割かはさすがにバブルだろう。バブルを抜きにしたとしても、「アメリカの技術と中国の製造現場、アジアの部品」を統合してできるのがiPhoneなどのアップル製品なのだから、今年は注目される機会が多いのじゃないだろうか。

○いや、アップルの経営が悪化する前に、アップルに部品を提供している日本や韓国、台湾のハイテク企業がおかしくなってしまうかもしれない。明日の株式市場で、どういう株が売られるのかも要注意ですね。

○今年はやっぱり不透明性の年。なにしろアメリカは今も政府閉鎖が続いていて、どうやったら予算を通せるのかめどがつかない。今日から新しい議会が始まるけれども、米民主党は案の定、内紛モードである。2020年大統領選挙の候補者はぼつぼつ名乗りを上げているようですが。


<1月5日>(土)

○一年の計は金杯にあり。ということで、今年の運試しに中山競馬場へ。と言っても、有馬記念(12/23)とホープフルステークス(12/28)からあまりにも日が近いので、全然、年が改まったという感じがしません。それでも今年の金杯はちょうど土曜日で、天気も良くて暖かかったので、中山競馬場はG1レース並みの人出でありました。

○中山金杯というレースは、本来はG1馬が出るようなグレードの高いレースじゃないんです。ということで、本日は昨年のホープフルステークスの覇者、タイムフライヤーから。そこからご贔屓のステゴ産駒3頭へ流す。でも、一番人気のマウントゴールドは外すのである。ワシはステゴ産駒にはチョイとうるさいのだ。

○蓋を開けてみたら、@ウインブライト―Aステイフーリッシュというステゴ産駒のワンツーフィニッシュであった。ご丁寧なことに、もう1頭のステゴ産駒であるアドマイヤリードは4着で、ステイフライヤーは5着であった。典型的な「縦目」である。この馬連はとってあげたかった。ああ、いっそのことステゴ産駒のボックス買いをしておけば・・・。

○京都金杯も惜しいところで外してしまったが、終わってみれば今日は生まれて初めてWIN5が取れました。金額は2万1040円也なので、あんまり自慢にはなりませんけどね。なにしろ5レース中、4レースが一番人気で、的中が2万2677票もあった。不思議なことに、5レース中3レースがK番でした。

○年明けの株式市場を見るにつけ、2019年はつくづく油断のならない年だと思います。個人的にも気を抜かずに行きたいものであります。とりあえず今宵は防犯活動(火の用心)だな。


<1月6日>(日)

○年末年始に宿題3件なら楽勝だな、と考えていたのだが、全然片付いていない。それにつけても、アップルショックは余計であった。

○とりあえず今年の書初めのご紹介。

「第2のハイテクバブル崩壊」が近づいている?(東洋経済オンライン)

○あとで「恥の書初め」になるかもしれませぬ。でも、競馬の予想は当たったので、個人的には満足である。

○さて、後はどうしよう。つくづく2019年の経済予測は難しい。もう少し悩まねばならない。


<1月7日>(月)

○この季節恒例の新年会ラリーの始まりはじまり。本日は「連合新年交歓会」経由「時事新年互礼会」行き。

○連合の新年会会場は、なぜか日暮里駅前にあるホテルラングウッドである。正面玄関の向かい側は、パチンコの景品交換所であったりする。どうでもいいことだが、ここの駅前の「馬賊」という店の担担麺とギョーザは旨い。挨拶に立った連合の神津会長によれば、今年は節目の年であって、連合の誕生から30周年であり、ILOの誕生100周年なのだそうだ。G20が日本が議長国なので、労働サミットも日本で行われる。

○連合は今年のテーマとして「三六協定」を取り上げる。この協定、残業時間を規制するものであるが、世間一般的にはあまり知られていない。そのために会場には「36」という数字を仕込んだキャンデーを配り、「3月6日はサブロクの日」と登録して、長時間労働の時勢に取り組んでいくんだそうだ。ふむ、なるほど。

○そこから京浜東北線に飛び乗って有楽町駅で降りて帝国ホテルへ。こちらは時事新年互礼会。到着したら、既に安倍首相が挨拶をしている。なんだかもう余裕綽々という感じである。

「今年はイノシシ年であります。12年前のイノシシ年は私の最初の政権の年でしたが、そのときの私は、『美しい日本に向かってまっしぐら』などという挨拶をしております。まだ若かったですね。調べてみましたところ、イノシシというのは時速50キロで走りますけれども、意外と柔軟でちゃんと身をかわすのです。今年の私は寛容の心を持ちながら、政権運営に当たって行きたいと思います」

「ダブル選挙のことはまったく考えておりません。そういうと、『お前は2回も総選挙をやったじゃないか』と言われてしまうのですが・・・」

○マスコミが盛んに「亥年選挙」のことを書くので、巧みに煙に巻いている様子である。まあ、政治部記者たちとしては、それくらいしか楽しみがない、というのが正直なところであろう。野党も元気がないから、ほとんど「見てるだけ」である。もっとも2019年は何があっても不思議はないような気もするのだが。

○帝国ホテルでは、少し前の時間帯に「経済3団体主催新年会」をやっていて、本日はそちらと掛け持ちという人が多かったようである。ワシのように連合と掛け持ちという人も他にも何人かいて、A副総裁やF参議院議員がそうであったような。今週はこんな風に新年会のハシゴをしながら、2019年の空気を感じ取って行きたいと思うところであります。


<1月8日>(火)

○この季節恒例の「アレ」がやっと出ました。ユーラシアグループ"Top Risks 2019"レポート

○中身はあとでゆっくり読むことにして、とりあえず項目だけ抜き出しておきましょう。


1. BAD SEEDS

The geopolitical dangers taking shape around the world will bear fruit in years to come.


2. US-CHINA

Something fundamental has broken in the relationship between Washington and Beijing that can't be put back together, regardless of what happens to their economic ties.


3. CYBER GLOVES OFF

Hackers have grown more sophisticated, societies have become heavily dependent on digital services, and efforts to agree on basic rules of the road for cyber conflict have gone nowhere.


4. EUROPEAN POPULISM

2019 will show that populists and protest movements are stronger than ever.


5. THE US AT HOME

While the odds of Trump being impeached and removed from office remain extremely low, political volatility will be exceptionally high.


6. INNOVATION WINTER

We're heading for a global innovation winter?a politically driven reduction in the financial and human capital available to drive the next generation of emerging technologies.


7. COALITION OF THE UNWILLING

The US-led global order has been eroding for a couple of decades now, but we are now seeing the growing ranks of a coalition of world leaders unwilling to uphold the global liberal order, with some even bent on bringing it down.


8. MEXICO

The country's new president, Andres Manuel Lopez Obrador, begins his term with a degree of power and control over the political system not seen in Mexico since the early 1990s, and domestic risk factors loom large.


9. UKRAINE

November's clash in the Kerch Strait was a taste of coming tensions. Putin continues to see Ukraine as vital to Russia's sphere of influence.


10. NIGERIA

Nigeria faces its most fiercely contested election since the transition to democracy in 1999.


*BREXIT

Why the asterisk? Because three years after the vote, almost any Brexit outcome remains possible.


RED HERRINGS

Brazil's new president Jair Bolsonaro might be a nationalist, but the country's institutions won't allow for any dangerous centralization of power. Saudi Crown Prince Mohammed bin Salman has made many enemies, but neither he nor the kingdom face serious risks in 2019. Iran's need to endure US sanctions by protecting relations with Europe will limit its aggressiveness. Suspicion and competition will restrain Russia and China's cooperation.


conclusion

It's been 21 years since we started Eurasia Group and we've been through our share of global changes together. Taking a moment to look back, we remind ourselves of our modest beginnings, personally and as an organization, and of how much of a privilege it is to have your support.

Thank you for being a part of our community. We appreciate it and wish you only the best for 2019.


<1月9日>(水)

○ひろぎん経済研究所さんの新春経済講演会で福山市へ。2010年に行って以来である。

○福山駅に着いたら、「鞆の浦が日本遺産になった」と宣伝してあった。ああ、そうなのか、それは良かった。でも世界遺産でもちっともおかしくないんだけれど。前回、2010年に鞆の浦を訪れた時には、「架橋問題」で街が真っ二つに割れている、と言われたものです。結局、橋は架けられず、代わりに外国人観光客が来るようになったとのこと。あの当時はまだ「インバウンド」なんて言わなかったものなあ。また、鞆の浦を有名にしてくれた存在として、2008年の宮崎アニメ『崖の上のポニョ』を忘れることはできない。

○でまあ、講演会の方はつつがなく終了。1月から2月にかけては、こういう機会がたくさんあります。今日はその緒戦。昨年に比べるとトランプ大統領への関心はやや低下して、消費税や改元といった国内問題に関心が高いという印象あり。確かに、海外のリスクは「考えても仕方がない」域に達しつつあるからなあ。

○終わってからクルマで広島空港へ。ここは広島市から1時間以上かかるということで評判が悪いのだが、福山市から乗ってみると1時間弱なのであった。なるほど、そういうことであったのか。フライトまであまり時間はなかったのだけれども、ここは意地で空港内の「かなわ」に立ち寄り、生ガキを2個頂戴する。いいじゃないですか、それくらい。

○広島県のカキ養殖は、外国人労働者の受け入れ拡大問題の典型例となっている。とにかく、外国人抜きでは産業として成立しなくなっているのだそうだ。いろいろ問題はあるようだが、とりあえず今のところはカキが食べられて幸いである。他に鰻はどうなるのか、クジラはどう考えるべきなのか。

○羽田空港に着いてから、さる会合の新年会に遅参する。今宵のWBSに出るTさんがいらしたが、すれ違いに終わる。当方は明日は今年最初のモーサテである。ああ、そろそろ寝なきゃ。


<1月11日>(金)

○先日乗ったタクシーで、運転手さんとお話しをしていたら、「お客さんの声、聴き覚えがありますね」と言われてギョッとした。ややあって、「ああ、わかったモーサテに出ている人ですしょう」と。おっと!正解でございます。

○なんと運転手さん、株をやっているとのことで、「モーサテは毎朝毎日、5時45分から7時5分までキッチリ見ている」のだそうです。それはすごい。同業の出演者の中でも、そこまで丁寧に見ている人は少ないと思います。どういう感想をお持ちなのか、ついついお尋ねしてしまいましたですよ。

○最近のモーサテは、いろんなコーナーができて面白い。高そうな店を紹介する「モーサテstyle」は、所詮は別世界だと思うけれども、社長秘書さんが選ぶ「勝負みやげ」という企画はつい見てしまう、などと。佐々木あっこさんにこの話をすると、「勝負みやげ」は個人的に買っているけれども、「とにかく外れがない」とのことでした。

○この番組、昔はとってもシンプルな構成だったんです。それが進化を続けて、今のようになりました。いろんなことがあったものです。なにしろワシも、2009年4月からレギュラー出演を始めてから、もうじき10年目になりますので。


<1月12日>(土)

日台関係研究会の会合で渋谷へ。行く途中、常磐線の中で爆睡してしまう。いかんのう、こんなことでは。上野駅についてもまだ半分以上ある。おお、なんと渋谷は遠いぜよ。

○ということで、とってもアウェイ感がある渋谷なのだが、ハチ公前のスクランブル交差点は、なるほど不思議な景色である。信号が変わると、一斉に人が動き出す。人の流れが途絶えると、クルマが遠慮がちに動き出す。そして駅前では、変な札を持った外国人が居たりして、わけのわかんないイベントをやっていたりする。

○道玄坂を登り始めるが、この辺の景色もとっても久しぶりである。初めて気がついたけど、マークシティってとっても変な形をしているんですな。渋谷は天然のラビリンスなり。この不思議な景色、誰が計画したわけでもなく、いつのまにかそうなってしまった、というところが渋谷ならではである。

○本日の会場はフォーラムエイトという貸会議室である。なんと便利なものができていることか。昔は勉強会の会場を探すのに、苦労したものである。機材の手配はもちろんのこと、ケータリングやルームサービスもあるらしい。ということで、台湾関連の勉強会である。

○考えてみれば、次の総統選はほぼ1年後ではないか。これから先、台湾では相当激しい選挙戦が行われるだろう。しかも時節柄、サイバー戦やら心理戦やら、何でもありの戦いとなりそうである。どんな選挙になるのか、今年はちゃんと予習をしなければいけないなと感じる。


<1月15日>(火)

○英国議会がEU離脱法案を本日、採決する。日本時間だと明日の未明になるそうだが、これはまあ通らないでしょうな。保守党内に100人くらいの造反票が居るとのこと。それはもう、稀勢の里がこの後、千秋楽まで全部勝って、優勝争いに絡む確率よりも低そうだ。

○こんな風に状況が悪化してしまうと、普通であれば働くような知恵が働かなくなってしまう。次善の策を唱える人よりも、「出来もしないこと」を堂々と主張する人の方が偉そうに見えるし、得てして議論しても勝ってしまうのだ。その結果がどうなるかというと、もちろん地獄へまっさかさまとなってしまうのだが、こういう例は良くありますよね。太平洋戦争に突入した大日本帝国も、おそらくは似たような状況だったのでありましょう。

○英国としては、ここで国民投票をやり直すしかないと思うのですが、それがなかなかにできない。なぜなら「民意の否定」になってしまうから。でも、2016年6月23日に決まったBrexitって、フェイクニュースやポピュリズムに扇動された「民意」だったかもしれないので、もう1回やって答えを聞いてみたらいいのに、と思います。その方がEU側も納得がいくと思うんですよね。

○離脱派は、「再投票は国民の分裂を招く」と言って反対するのだそうです。それはそうかもしれません。ここでEU離脱をあきらめるような結果になると、「今までの3年間は何だったんだ!」ということになるでしょうし。でも、このままNo Deal Brexitに突入してしまうと、その後は非常に高い確率で親EUのスコットランドで独立運動が再燃し、北アイルランドとの関係も微妙になってしまうだろう。つまりは「国家の分裂を招く」公算が大である。

○どっちが得か、と考えるのは「勘定の人」であって、普通の状況であればそっちに流れるのだが、今みたいな状況だと得てして「感情の人」が勝ってしまう。特に今みたいにSNSで国論が動くような時代になると、「勘定」とSNSは相性が悪いから。気の利いた「ナラティブ」を作って、「感情」を煽る方がよっぽど政治的には楽なのです。「出来て当たり前のこと」を言うよりも、「出来るはずがないこと」を語る方がカッコ良く見えますからね。

○ということで、われわれもあんまり稀勢の里の応援をしちゃいかんと思うのです。え、そっちかよ!ですって? ワシ的にはとにかく、「出来るはずがないことを、あたかも出来るかのような振りをすることの罪深さ」ということを強調したかっただけであります。


<1月16日>(水)

○本日は某政治家さんの昼食勉強会の講師を務める。いつも「今年の日本経済」をテーマにお話しするのだが、最初にお引き受けしたのが2012年であったから、今年で何と8回目である。年年歳歳、参加者が増えてきて、会場の憲政記念会館の会議室も今年は手狭なくらいになっていた。まずはご同慶のいったりきたりである。

○そこでお話ししていて感じたのだが、こういうところへ身銭を切って来ている人は、たぶんフェイクニュースに騙されることもないのであろうな、と。つまりは究極の情報手段はアナログであって、ネットでは伝えられない「ここだけのお話」というものがある。でも、SNSの情報を鵜呑みにしちゃう人もいるので、それがBrexitのような悲劇を生むのでありましょう。デジタル情報を見て「けしからーん!」と怒り出す人たちが、得てして世の中を変な方向に導いてしまうのだ。

○本日はこんなお話をした。最近、厚生労働省の毎月勤労統計調査が問題になっている。2004年から調査が簡略化されていて、その結果として賃金の額が実際よりも低く集計され、失業保険などの支給額が安くなっていた。今になってそれが明らかになったので、過去に遡って追加給付が必要になっている。お蔭で政府の予算案も、見直しが必要になるのだとか。これはもう霞ヶ関の行政機構への信認を失墜させる大事件である。

○とはいえ、統計を使う立場の側から申し上げるならば、これだけ統計にかかわる人員と予算が削られていたならば、そういうことだって起きるだろうなあ、と思うのである。なにしろ2006年から16年の間に、国の統計職員は6割も減少している。それが行政改革の成果とされ、美談となっていた。でも、それで仕事が減るわけではない。厚労省が、東京都内の事業所1400件に対する調査を勝手に3分の1に減らしていたというのも、一概に責められないなあ、と思うのだ。

○「悉皆調査」(しっかいちょうさ)という言葉がある。こんな言葉、知ってる人はかな〜り統計に詳しい人だけだろう。つまりは全数調査のことであって、対象の全数を漏れなく、重複なく調査する作業であり、普通に行われるサンプル調査よりも信頼度は高いとされている。それでは「悉皆調査」であれば完璧かと言えば、もちろんそんなことはないのである。

○だれでも知っている悉皆調査に「国勢調査」がある。あれは全国民が調査に応じるというタテマエになっているが、もちろんそんなことはない。協力してくれない人はいくらでもいる。この国に住む200〜300万人の外国人も、たぶんまともに答えてはいないだろう。だってボランティアだし、アンケート用紙は日本語でしか書かれていないんだもの。もっといえば、「全国統一テスト」みたいな悉皆調査のときには、得てして現場の判断で「成績の悪そうな生徒は休ませる」といったことが起きてしまう。バイアスが生じる理由はいくらでも考えられるのだ。

○実はサンプル調査の方がそういう「歪み」が生じにくいので、よっぽどマシだ、ってことがある。だったら厚労省は堂々と毎月勤労統計調査を「この地域は爾後、サンプル調査に変えさせてもらいます」と言えばよかった。そこを黙って変えて、なおかつ初歩的な誤りをして、それを10数年間続けてきて、昨年になってこっそり軌道修正をしようとした。それは褒められた話ではない。

○だからと言って、「本来の悉皆調査に戻ってしっかりやれ!」という話になると、ますます現場に不条理を押し付けることになる。皆が不幸せになって、なおかつ統計の信頼度が上がるわけでもない。こういう話って、最近はとっても多いでしょ。だから「けしからーん!」と言って怒っている人が居たら、まずは疑ってかかりましょう。それってたぶん半可通の人たちですから。


<1月17日>(木)

○うーん、案の定、「厚生労働省はきちんと全数調査をやれ!」という結論になりつつあるようです。なにしろ、一度閣議決定した予算を組み替えるなんて話は聞いたことがありませんから、今回の事態は霞ヶ関的には「罪万死に値す」、ということでしょうね。こうなるともう役所としては逆らえませんが、昨日書いた通り、ちゃんと是正を行っていれば結果はそんなに外れるものではない。ワシはサンプル調査で充分だと思うんですけどね。

○今日になって気づいたのですが、毎月勤労統計というデータは、内閣府が作っている「総雇用者所得」にも使われている。1人当たり賃金に、雇用者数の伸びをかけて計算します。安倍内閣では、デフレ脱却の度合いを図る重要な指標として重視していたはずなのですが、これも過去にさかのぼって修正することになるのでしょう。

○ただし昨年、「現金給与が前年比で伸びている」という結果が出た時に、内閣府が月例経済報告などであまり騒がなかったところを見ると、秘かに「あれはちょっと怪しい」と思っていたのかもしれません。その辺、餅は餅屋ですから。といっても、これは買い被りかもしれませんが。

○以前、与党のプロジェクトチームで経済統計について調べていた時に、関係者から「いやもう、統計関連の人員と予算減らしはひどいものです。未来のStatisticianを育てようなんて感じじゃないんです」という話を聞いた。たぶん内閣府や総務省はまだマシな方なんだろうな、と思った覚えがある。今回、図らずもそれが裏付けられたことになる。

○たぶん政府内には「統計なんて端パイの仕事」的な感覚がまだ残っているのでしょう。でも、統計がしっかりしていないことには、エビデンスベースドもビッグデータも意味を成しません。統計は国のインフラです。これからの時代は特に重要になると思いますよ。








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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)