<3月1日>(日)
〇イラン攻撃、始まってしまいました。いや〜、ワシ的にはトランプさん、きっとTACOってくれると思ってたんですが、完全に外しちゃいました。というか、イスラエル軍はかなり前から準備をしていたようだし、核開発をめぐるジュネーブでの交渉は、単に米空母部隊が現地に到着するまでの「時間稼ぎ」であったのかもしれません。
〇問題はこの混乱がどれだけ続くのか。ハメネイ師は殺害されたようだが、あの国の体制は結構しっかりしているので、あっけなく次の最高指導者を選び出して、「レジームチェンジ」には至らないような気がする。イラン国民が民主的な政体を樹立する、という確率はとっても低いだろうし、トランプさんもそこまで望んではいないだろう。
〇イスラエルから見れば、現体制が維持されるにしても、「脆弱なイラン」ができれば御の字であって、そうなれば核開発どころではなくなる。ついでに言えば、ネタニヤフもこのまま居座ることができる、などと邪悪なことを考えていそうである。
〇むしろイランによる報復攻撃によって、湾岸産油国の体制が動揺する方がコワいことになるのではないかなあ。彼らはどちらの味方をすればいいのか。
〇昨年6月のイラン攻撃は「12日間戦争」と呼ばれることになった。今回はどうか。アメリカやイスラエルが陸上部隊を投入するとは思えず、やはり幕引きは早いだろう。1月3日のベネズエラ攻撃と同様に、サッと出てサッと引き上げることを狙っているはず。それでも泥沼化の懸念は残る。米兵に一人でも犠牲が出た瞬間に、そのリスクは増大する。
〇また、「ドンロー主義」の原則から行くと、中東での軍事行動は本来望ましいことではない。「MAGA派」も歓迎ではないだろうし、かつて口を極めて罵っていた「ネオコン」とやってることは同じじゃないか、という批判は今後かならずついて回ることになる。
〇「トランプ劇場」はますます健在で、今回のイラン攻撃によって、関税をめぐる最高裁の違憲判決やエプスタイン問題に対する関心をしばし外へずらすことになる。ただし過去の経験から考えると、その効果はさほど長くは続かないだろう。さて。
<3月2日>(月)
〇本日は産経新聞「正論大賞贈呈式」へ。今年の大賞受賞者は兼原信克さん。これはお祝いにはせ参じなければなりませぬ。
〇ただしちょうど一昨日、米軍によるイラン攻撃が始まったばかり。こういうときに壇上に立った人はどういう挨拶をするべきか、皆さん、そこは悩まれたのではないかと思います。難しいよねえ。
〇てっきり今宵は高市首相がお見えになるかと思ったら、お祝いメッセージの代読でありました。まあ、イラン情勢もあることですので、くれぐれもご無理をなさいませぬように。ちなみに片山さつき財務相はお見えでありました。
〇一方で訳が分からないのは、本日の株式市場では海運株が総上げ状態である。商船三井が+4.33%、日本郵船が+4.28%、川崎汽船が+5.85%。地政学リスクは「買い」ということなんでしょうか?わっかりませ〜ん。
〇逆に商社株は高水準でまちまちの状態であった模様。今の株価はやっぱりちょっと無理があるように思われてなりませぬ。
<3月3日>(火)
〇徒然なるままに、チャッピー君を相手に無駄話をする。
今回のイラン攻撃は、宣戦布告も議会承認もない奇襲攻撃でした。つまりアメリカが「真珠湾」をやったことになりますが、この点について非難する声はあまり聞こえてきません。私は別にそのことを咎めたいわけではないのですが、なんとも不思議な気がしております。何が原因なのでしょうか。
〇チャッピー君はあいかわらず礼儀正しい。「とても重要な視点だと思います。違和感を覚えるのは自然です」と返してくる。その上で、以下のポイントを指摘してくれる。
@形式上の「宣戦布告」は現代ではほぼ存在しない。イラク戦争も、ロシアのウクライナ侵攻も、イスラエルのガザ攻撃も宣戦布告なしに行われている。
A「奇襲」と認識されていない可能性。既に長期の武力対立が続いていたし、代理戦争状態にあった。相手側も武装行動を継続していた。「突然の裏切り」という物語になりにくい。
Bメディア環境の変化。真珠湾には強い象徴性があった。現代では中東は常に緊張状態であり、空爆は珍しくなく、情報が分断されている。結果として「歴史的転換点」にならない。
C国内政治の構造。米国内では大統領の軍事行動権限が広く解釈されている。議会は事後承認することが多い。「憲法違反」という政治闘争にはなりにくい。
D道徳的二重基準。強国の行動は安全保障で、弱国の行動は侵略。「真珠湾」は米国にとって被害者の神話なので、それを逆に適用する物語は広がりにくい。
E非難はあるけれども可視化されていない。リベラルメディアからは批判はあるものの、大規模な国民的怒りには発展していない。
〇ワシ的な疑問は、1962年のキューバ危機の際は、JFK政権はソ連のミサイル基地に対して軍部は奇襲空爆攻撃を進言した。その際、司法長官だったロバート・ケネディは、「兄さん、アメリカはパールハーバーをやっちゃいけない」と言い、それで海上封鎖を選択することになる。この時期の米国は、道義性を重んじていた。自由社会の守護神だったからだ。
〇どこで歴史の断絶があったかと言うと、やはり2001年9月11日の同時多発テロ事件であろう。あのとき、ワシは「ああっ、これは真珠湾になる。かならずアメリカはやり過ぎるぐらいに反撃するだろう」と直感した。それが元で『アメリカの論理』という本を書いたくらいなので。チャッピー君はさらにこんなことを教えてくれる。
@真珠湾の位置づけの変化〜1941年時点では「卑劣な奇襲」→「道義的正義」→「全面戦争の正当化」だった。それが2001年以降は「奇襲に叩き返す歴史」に再編集された。
A9/11が決定的だった理由〜本土攻撃という心理的衝撃+敵が国家ではないという曖昧さ。日本はまだしも「敵」として明確だったが、アルカイダは不気味だった。
B実際に起きたこと〜アフガニスタン侵攻、イラク戦争、愛国者法、ドローン戦争の拡大。「道義的優位」という制御装置が大きく緩んだ。
C歴史としての真珠湾の記憶は薄れる〜記憶の再編が倫理の基準を変えた。
〇かつてのアメリカは”Democracy fights in anger."(民主主義国は怒って戦争をする)という言葉通りであった。真珠湾後の対日参戦や、9/11後のアフガニスタン侵攻は、いずれも国民的な支持があった。それがトランプさんの思惑だけで簡単に戦線を開けるようになった。それはなぜか。技術の進歩が働いていることは疑いないだろう。チャッピー君いわく。
@怒りの民主主義から「低強度・常態化戦争へ」〜現代戦は空爆・ドローン・特殊部隊作戦などが中心で、「徴兵なし」「動員なし」「日常への影響もほぼなし」である。つまり「怒り」は不要なのである。
Aトランプ現象の特殊性〜トランプ大統領は一見「非介入主義」的だったが、実際にはシリア空爆(2017)、ソレイマニ司令官殺害(2020)、マドゥロ司令官拉致(2026)など自由闊達に軍事行動を行っている。イデオロギーは無縁で、即興的な決断にみえる。
B「プロフェッショナル軍隊化」+「党派分極化」+「行政権の拡張」で国民の支持は不要になったように見える。
Cただしトランプやバイデンは、「大規模地上軍投入」や「米兵の大量犠牲」や「長期占領」に対しては慎重である。怒りのない戦争は、民主的に止めにくい。
〇ここで筆者は、「ドローンやAIによって戦争は痛みを感じにくいものになっている。これではますます戦争を止められないのではないか」と追い打ちをかける。「戦争におけるAI利用匂いて、アメリカが他国に抜きんでてしまったことも原因では?」と。
〇するとチャッピー君は、AIを弁護する立場に回る。そりゃそうだ。だって自分のことなんだもんね。「AIの優位性は『魔法』ではない」し、アメリカはなんだかんだ言って「ブラックボックス国家」にはなりにくい。本当の危険は「優位性」になるのではなく、AIが戦争の意思決定を「加速」すること。かつての原爆やステルス技術、精密誘導兵器などと同様に、いずれ追いつかれてしまうのではないか。
〇戦争と民主主義はどこに行くのか。そしてトランプ政権の行方は。あれこれと考えることは尽きませぬ。
<3月4日>(水)
〇唐突にネットフリックスに加入した。そのまま『ザ・ロイヤルファミリー』を続けて4話まで視聴してしまった。おかしい。俺は時間がないはずではなかったのか。
〇いや、やっぱり面白いのですよ。特に日高の光景が素晴らしい。そして佐藤浩市はまるで三国連太郎にそっくりで、馬と同じで血は争えないことが判明する。
〇まあ、なんだ。イラン情勢を追いかけたところで、そんなものはすぐに変わるかもしれない。そんなことよりも、面白いドラマを見ている方がいいじゃないか。
〇いつものことながら、どんなに大事なことでも、嫌々やっていることは後に残らない。逆にどんなにくだらないことでも、熱中している時間は無駄ではない。その証拠に、あっという間に時間が過ぎていく。
<3月5日>(木)
〇本日は千葉銀行さんの講演会で幕張へ。
〇新松戸から武蔵野線を乗り継ぐのがちょっと面倒くさい。しかもこの時期は、よく強風で電車が止まるのである。それでも行くたびに、新しいビルが建っている。幕張メッセもかなり古くなったはずではあるが、海は見えるし、公園もある。そして未来都市のような世界が広がっている。
〇今後は、ZOZOマリンスタジアムが近隣に移転して、2034年に開業する予定であるとのこと。あの球場はとにかく海に近くて風が強く、野球にはいかにも不向きな場所であった。なにしろ野球場と言えば、エスコンフィールドという夢のボールパークが誕生してしまったので、これから作る際には気張ってもらわないといけませぬ。
〇そうでなくても千葉県は、県としての一体感がない(特にわが柏市民など常磐線沿線は、千葉県民という自覚が乏しい)。だったらスポーツは重要なわけでありまして、野球もバスケットもこれから力を入れなければなりませぬ。
〇そうそう、サッカーは今年からジェフユナイテッド千葉がJ1に戻って、今週末には柏レイソルと一戦を交えることになっている。「ちばぎんカップ」も今年、17年ぶりにJ1同士で復活したのであるが、当然のことながら勝ったのはわがレイソルであった。
〇なぜか千葉市で講演会があるときは、いつも幕張の「ホテル・ザ・マンハッタン」が定番である。90年代バブルの頃の余韻がある風情が好ましい。来月もここにまた来る予定なのである。
<3月6日>(金)
〇溜池通信を書き終えた日に飲むビールは旨い。今宵はさらに、このたび導入したネットフリックスでWBCが見られるので、これまたビールが旨いのである。
〇ネットフリックスを導入したのは、もちろん「ザ・ロイヤルファミリー」を見るためでもあるのだが、やっぱりこれがなかったら加入はしないのである。それでも地上波の中継とは画面の感じがちょっとだけ違いますな。
〇当家では奮発して、CMがないバージョンを契約したのであるが、野球中継はやっぱりCMが入るのでありますな。まあ、それは許そう。チャイニーズ台北との緒戦、2回表に大谷がいきなり満塁ホームランである。パチパチパチ。
〇さて、今宵はウイスキーも開けちゃおう。遠慮なく参ります。
<3月7日>(土)
〇ということで、昨夜はネトフリにて台湾戦の一方的なコールドゲームを楽しんだのである。そして今宵は、町内会の防犯部が柏市西口商店街において、iPadで韓国戦の野球中継を見ながら「打ち上げ」をするのである。
〇今宵はシーソーゲームで、8対6で侍ジャパンの勝利。一同で観戦しながらだと、ついついお酒が進んでしまいます。いやもう、結構なことでございます。昨夜の大谷翔平に続き、今宵は鈴木誠也が大当たり。これはもう、一次リーグは全勝しかないっ!
〇とまあ、こんな風に野球を見ながら大勢で一杯やるのは最高なのであります。そしてまた町内会としては、次なるイベントを仕掛けなければなりませぬ。若い子育て世代を町内会活動に巻き込むためには、こういう共通体験がモノを言うはずであります。
〇ところで本日生じた疑問。WBCではベネズエラがPool D(マイアミプール)で参加していて、ひょっとして勝ち抜いたらアメリカと対戦するかもしれない。それは面白そうなんだけど、ワールドカップでイランチームはアメリカに行くんだろうか? それはそれで見てみたい気もするんだけど。
<3月8日>(日)
〇ということで、ネフリ三昧の週末であるかのように見えるかもしれないが、いちおうイラン情勢も気になっているのである。
〇この感じで行くと、3月19日の日米首脳会談までに一件落着!という感じではなさそうである。となると、トランプさんは高市首相にこんなことを言い出すのではないか。
「ペルシャ湾に自衛隊を出してくれ。最低限、自国のタンカーは自国で守ってくれ。面倒みきれん」
〇あのトランプさんが言うことではあるが、これはかなりもっともな要望ということになるだろう。昨今の日本の世論の流れから行くと、「自国のタンカーを守るのは、個別的自衛権の範囲内だろう。大いにやるべし!」ということになりそうだ。
〇とはいうものの、日本政府はかなり困るはずである。話が面倒になるので、ここでは「多国籍軍への参加」とか「米軍の支援」というややこしい話はさておくことにします。ハードルがかなり高いんで。たぶん2019年の安倍内閣もそうでしたが、船を出すにしても「日本関連船舶への警戒監視」という当たりでお茶を濁そうとするはずです。
〇それというのも、自衛隊が自国のタンカーを守るためのハードルはかなり高いのです。
(1)憲法問題:個別的自衛権が成立するのは日本がじかに攻撃を受けたときだけ。民間船の場合は日本への武力攻撃ではない、というのが従来の政府解釈です。
(2)船の中身:日本郵船や商船三井の船舶の多くはリベリアやパナマ籍ですし、外国人船員が多いです。「ホントに日本のタンカーか?」というツッコミは覚悟せねばなりません。
(3)武器使用の問題:海上自衛隊が出動した場合は「海上警備行動」、つまり治安維持が目的となります。こちらから先に武器を使うわけにはいかず、「撃たれてから撃ち返す」ことになりますが、ミサイルやドローンが飛び交う今のペルシャ湾でそれでいいのか。タンカーを守れるのか。いや、それ以前に自分を守れるのか。
(4)外交上の問題:ペルシャ湾岸の国は、イランも含めて日本の友好国ということになっている。いくらアメリカの同盟国とはいえ、「敵」認定されたくはない。外務省は苦悩するでしょう。
〇上記のような話を聞いて、「そんなバカな!」と思われる方が多数派ではないかと思います。シーレーンを守るのは日本の個別的自衛権であるべきだ。それに反対するような連中は、先月の総選挙でボロボロになったのではなかったか。いや、ワシ的にはそっちの方に同意します。
〇とはいうものの、日本政府はかなり困るはずである。忘れている人が多いかもしれませんが、2000年頃までの日本は、「自衛隊員が海外で殺されるのはまだいいが、誰かを殺したりしようものなら、平和国家としてお天道様に顔向けができない」という議論が強かったのです。陸自のイラク派遣なんかも、ずいぶん反対されたものでした。
〇「防衛装備品の輸出はいいが、殺傷兵器はダメである」という議論も同工異曲でありまして、2026年はこの辺のゲームチェンジが必要になるのではないかと思います。高市さんなら、一気にやっちゃうかもしれませんが。まあ、それはそれでちょっとだけコワい気もする。
<3月9日>(月)
〇今週号のThe Economist誌のカバーストーリーは、"A
war without a strategy"(戦略なき戦争)である。何を言いたいかは自明ですよね。
〇確かにトランプさんに戦略はない。戦争目的は最初は「レジームチェンジ」と言っていたが、「誰でもいい」みたいなことも言っている。ハメネイの次男は「受け入れがたい」と言ってしまったけれども、そんなこと言われたらイランの暫定評議会としては、その次男モジタバ・ハメネイ師を最高指導者に選びたくなりますよね。ホントにそうなっちゃった。馬鹿ですねえ。
〇「国民的な支持」も乏しい。この記事によれば、イラン攻撃に賛成しているのは38%なんだそうで、トランプ政権支持率とほぼ同じであるらしい。面白いことに、「自称MAGA派」の人たちは85%がイラン攻撃支持なのだそうだ。
〇そして「出口戦略」がはっきりしない。いや、これはホントにやばいっす。しかも中東の米軍基地では、イランが飛ばしてくる1機数万円のドローン攻撃を、1発数億円の精密誘導弾で撃ち落としている。いやもう、何をやっているのかサッパリ分かりません。
〇今日なんてNY原油価格急伸を受けて、株価が駄々下がりになりました。とはいえ、トランプさんには「奥の手」があるんですよねえ。それは「TACOる」こと。あの人の危機回避能力を軽く見てはいかんです。それというのも、戦略がないからこそ、手のひら返しが可能なわけでして。明日になったら、状況は一変しているかもしれませぬぞ。
〇トランプ政権もこれで通算で6年目である。あの流儀に慣れてくると、「戦争の戦略?そんなもん、ない方がスッキリしていいだろ」という気になってくる。これはこれで、困ったものである。
<3月10日>(火)
〇開戦時の心得として、有名なものに「パウエル・ドクトリン」があります。元陸軍大将にして、ブッシュJr.政権で国務長官を務めたコリン・パウエルが提唱した軍事ドクトリンである。定義はいろいろあるのだが、当溜池通信式にまとめたのが以下の4か条である。
@Clear Objectives(明確な目的)
ANational Consensus(国民的同意)
BMassive Forces(圧倒的な兵力)
CExit Policy(出口戦略)
〇要するに戦いをおっぱじめるときは、@「何のためか」を事前に明らかにしておき、A国内の同意を得て後ろから弓矢が飛んでこないようにし、B兵力や武器は大差で敵を圧倒し、なおかつC兵を引くタイミングをあらかじめ決めておく。この4か条を満たしておけば、後顧の憂いなく戦えるというものです。
〇「パウエル・ドクトリン」は、泥沼化したベトナム戦争の教訓から生まれた。1991年の湾岸戦争は、このドクトリンがきれいに決まった。当時のブッシュ・シニア.政権は国連決議を取りつけ、多国籍軍を編成し、国際世論を背中にしてイラクに攻め込み、サダム・フセインを倒す直前で兵を引いた。結果として短期間に終わり、兵力の犠牲も少なかった。「圧倒的な力を使うときはごくごく控えめに」という知恵が光る戦いでありました。
〇しかるに、こういう知恵はすぐに風化してしまうものです。そうでなくても、勝利の後には慢心が来る。ひと世代(30年)もすると、パウエル・ドクトリンは省みられなくなる。2003年のイラク戦争の際には、ブッシュ・ジュニア政権は「戦争に勝って統治に失敗する」ことになって痛い目を見る。難しいものなのです。
〇今回のトランプ大統領によるイラン攻撃もまた、このパウエル・ドクトリンを完全に裏切っている。開戦目標は曖昧、国民の支持は乏しく、出口戦略も見えないままだ。しかるにトランプさん自身が、こんな風に考えているんじゃないかと拝察します。
「それでいいんだよ。戦争目的を最初に宣言してしまったら、俺は途中でTACOれなくなってしまうじゃないか。交渉で勝つためには、こちらの手の内を見せちゃいけない。『アイツは何を考えているのかわからない!』と思わせることで、こっちが有利になるのだから。戦争という手段も、所詮は外交や関税や経済制裁と同じ、ディールの道具のひとつというわけさ」
「今回だって、俺が途中で『充分な成果があった!』と言えば、ちゃんと兵を引くことができる。戦争目的を最初に明示してしまうと、それができなくなるじゃないか。それにしても原油価格がこんなに上がってしまうとは不覚だった。これは早期に手仕舞いするにしくはなし。景気や株価に影響が出るんじゃ、中間選挙に負けちゃうものな〜」
〇トランプ流の戦争術、とはまさに上記のような感じでありましょう。まあね、合計5年あまりもトランプ政権と付き合うと、そういう考え方もあるんだな〜ということくらいは想像がつくようになるのであります。
〇一方で、戦場で戦う兵士たちの身になってみれば、自分たちのボスがこんなことを考えているのは、とっても心外なことであるはず。実はパウエル・ドクトリンは、「兵士の身になって考えられたもの」なんだと思うのです。
〇上記の4条件が満たされているならば、戦場で多少の不利があっても兵士たちは元気が出ますよね。今回のイラン攻撃でちょっと心配なのは、米兵たちの間から、「俺たちは何のために危うい橋を渡らされているのか!」という声があがりかねないこと。「パウエル・ドクトリンなんてもう古い」という考えが今のトランプ政権内部にあるとしたら、それはとっても危ういことだと考えるものであります。
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編集者敬白
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by Kanbei (Tatsuhiko
Yoshizaki)