●かんべえの不規則発言



2019年2月 





<2月1日>(金)

○祝、日欧EPA発効。現時点における世界最大の自由貿易協定でありますよ。お蔭で去年から欧州産のワイン在庫が値下げになっておりまして、不肖かんべえも今宵は滅多に買わないボルドー(まあ、2000円くらいのものだけど)を開けて祝しておる。

○日欧EPAが発効すると、ワインやチーズが安くなるだけではなくて、欧州向け10%の自動車関税も8年後にはなくなって、韓国車との輸出競争が有利になる。サービス貿易、投資、電子商取引、国有企業・補助金、知財などでも先進的なルールを定めている。そういう個別の話もさることながら、このところ停滞気味であった自由貿易にとっては久々のアチーブメントである。今週のThe Economist誌が「スローバリゼーション」というカバーストーリーを掲げていたが、たとえカタツムリのような歩みでも前進することに意味があるといえましょう。

○世界における大きなFTAと言えば、ほかにはNAFTA、いや、昨年、再交渉の結果新しくなったUSMCAがある。しかるにこれはまだ米国議会で批准されていない。その作業はたぶん今年3月くらいから始まるのであるが、議会民主党は今から手ぐすねを引いており、簡単には済まないだろう。ゆえにライトハイザー代表は、3月までは米中通商協議に忙殺され、その後はUSMCAにかかりきりになり、そうこうするうちに3月29日にはBrexitもさく裂し、めでたいことに日米TAGを推進するどころの騒ぎではない。とりあえず日本は、大阪G20くらいまでは対米交渉を無傷で迎えられるのではないか。その分、2020年になって、日本叩きが大統領選挙のネタにされてしまうのかもしれませんが。

○これも変な話なのであるが、トランプさんがTPPから離脱しなかったら、日EU交渉はこんなに早く進まなかっただろう。欧州はアメリカに対する「当てつけ」もあって、日本との合意を急いでくれた。ついでに言うと、「自由貿易原則で日本や中国と連携してアメリカを孤立させてやる」みたいな思いもあって、あんまりそれをストレートにやられるとアメリカが拗ねてしまうので、それは日本としては歓迎するところではない。

○ひとつだけ残念なことは、間もなく英国がEUを離脱するので、日欧EPAからも抜けてしまうことになる。もっともその後は、英国はTPP加盟を目指すはずである。もっとも、そこまで上手くいくかどうかはわからなくて、5月の欧州議会選挙の後になってもEUに居残っているのかもしれないけどね。でも、欧州議会における英国の議席は、既に他の国に割り振られた後なんだそうですけど。

○そのTPP11は昨年末にめでたく発効した。これもアメリカが抜けた時点で「もう駄目か」とあきらめかけたものだが、意外と日本が旗を振ったらほかの国がついてきてくれた。ベトナムなんて、対米輸出拡大のためにTPPに入ったようなものである。そのためには、いちおう共産主義国なのに、国有企業改革などという苦い薬まで飲んでくれた。アメリカ抜けたら「や〜めた」となるのが普通のところ、なぜか残ってくれた。ひょっとすると「いずれ日本がアメリカを連れ戻してくれるだろう」と勘違いしたのかもしれない。まあ、トランプ政権後にはそういう機会があるかもしれないけど。

○もうひとつ、これが出来れば世界最大となるのがRCEPである。これも「今年こそ」の妥結を目指すことになるのであろう。問題はインドであって、4〜5月に行われる総選挙を無事にクリアできるのか、という点が気にかかる。ともあれ、日欧EPA、TPP11、RCEPという世界3大FTAの結節点に日本が居る、というのはすごいことだと思う。逆説的に言えば、これもトランプさんのお蔭ということになのかな? 


<2月2日>(土)

○ニール・ファーガソンという歴史家が、「もはやデモクラシー(民主政治)の時代ではない。われわれはエモクラシー(感情政治)の時代を生きている」という意味のことを書いていた。もともとはThe Timesに寄稿された内容だが、こちらで全文を読むことができる。Emocracyというのは言い得て妙だなあ、と感心する。まあ、世界中が韓国政治みたいになってしまう、ということであろうか。

○先週のThe Economist誌のカバーストーリーは、「スローバリゼーション」であった。これもお見事な形容で、「グローバリゼーションの黄金時代は1990年から2010年であった」と過去形で言われてしまうと、うーん、なるほどそうであったか、と深く唸らざるを得ない。これまた見事な造語ですよね。

○「デモクラシーからエモクラシーへ」「グローバリゼーションからスローバリゼーションへ」。どうせだからもう1つ何か付け加えられないか、と考えていて、こんなのを思いつきました「テクノロジーからノスタルジーへ」。技術が世の中を変えるなんてもうたくさん。古き良き昔へ還りたい、という思いが、英国をEU離脱へ、アメリカをトランプ流孤立主義へと追い立てている。

○さて、この三題噺、どうやってまとめたらいいんでしょう。とりあえずここにアイデアだけ書いておきます。


<2月4日>(月)

○本日は大手町の某大企業にて講師を務める。この季節、新春経済講演会が多いのだが、本日のクライアントのご要望は「トランプ政権の話だけで1時間半」とのことである。大丈夫かな〜とちょっと心配であったが、割りと関心は高いようで、まだまだ「トランプ漫談」には需要があるようであった。供給源(サプライヤー)としては、ありがたい話である。何しろ明日は一般教書演説だし、米中通商戦争や米朝首脳会談もあって、それこそネタは盛りだくさんですし。

○明日の一般教書演説は、このところナンシー・ペロシ下院議長にやられっぱなしであったトランプ大統領が、久々に繰り出す反撃ののろしである。この反撃が失敗すると、2月15日には再び政府閉鎖、てなことにもなりかねない。たぶん米朝首脳会談も米中通商協議もベネズエラの政変も、何でも材料に使ってくることでしょう。ホントは外交をその手の内政に使うのは禁じ手なんですが、そこはトランプさんですから。

○トランプさんはつくづく融通無碍な人でありまして、それは彼が不動産業ならぬテレビ業界育ちだということと関係が深いのだと思います。テレビの世界で生き抜くためには、とにかく節操がないことが必須条件である。だって見ている人たちは、どうせすぐに忘れてしまうんだし。あんまり比較にはなりませんが、不肖かんべえが「モーサテ」で過ごした過去10年には、番組自体も出演者も時間帯も、さらには番組の性質まで含めたあらゆることが変わっているんですもの。

○トランプさんはその辺の理屈がよくわかっている。新しいネタを出せば、古いネタは忘れられる。さて、今年の一般教書演説ではどんなパンチが何が飛び出すのか。日本時間では2月6日水曜日の午前中になると思います。


<2月5日>(火)

○今宵は年に1度、正論大賞の授賞式へ。今年は西修駒沢大学名誉教授が受賞ということで、何が何でも馳せ参じなければならない。何しろ富山中部高校の先輩ですから。

○開会前に会場に到着し、控室に潜り込んで直接、「おめでとうございます」とお祝い申し上げる。ああ、よかった。開演になってしまうと後は会場はカオスになってしまうので、ちゃんとご挨拶できなくなるかもしれないのである。

○しかも本日はその後が控えている。途中で会場を抜け出してNHK放送局へ。今宵は7時半から「Nらじ」というラジオ番組があって、お題は統計不正問題なのである。

○ここで意外な事実判明。この番組の黒崎瞳アナが富山中部高校の後輩であるとのこと。そこで思わずこういう会話になる。

「何団だったの?」「朱雀団です!」「僕は青龍団でした」「青龍といえば、陸上ボートですね!」

○しょうもない話ですいません。これって同窓生の間では受ける話なんです。ちなみにわが同級生、上海馬券王先生は白虎団でした。

○さて、西先生は何団だったのか。この次にお会いした時に聴いてみることにしよう。


<2月6日>(水)

○本日は予定より1週間遅れの一般教書演説。昔は社内で衛星放送が入るテレビを探したものですが、今はデスクのPCでちゃんと見ることができる。なおかつ、今日のトランプ演説は予想外に長かったので、途中から外出して中野駅に向かったのだが、この間も電車の中でiPadにイヤホーンをつけて聞き続けることができた。いやはや、便利な世の中になったものです。

○ということで、本日の感想ですが、トランプさん、千両役者ぶりを発揮したと思います。今年になってからの政局はペローシ下院議長にやられっぱなしでしたが、ここでやっと反撃に出たという感じです。前回の溜池通信で、「トランプ氏はけっして頑迷固陋なだけの人物ではない。・・・くれぐれもチキンレースで、意地を張って自滅するようなタイプではないのである」と書いたけれども、やっぱりね、という気がしている。まあ、自滅してほしいと思っている人がそういう予測を書くのであるが、テレビマンとして10年ヒットを続けた人物を過小評価してはいかんのです。

○特に白いスーツに身を固めた数十人の民主党女性議員たち(「蓮舫ガールズ」とでも呼んであげたい)を相手に、「女性の働き手の数は史上最高になった」と言って喜ばせ(ペローシ議長が促してスタンディングオベーションさせた)、「待て待て、座るのは早いぞ」とアドリブで合いの手を入れ、「婦人参政権が導入されて100年、女性議員の数も史上最高になった」と言って持ち上げたところなど、いやもうなんてお上手なんでしょう。

○ただ、何というか不思議なSOTU(States of the union)でしたな。日本の首相の施政方針演説は、「短冊方式」で作られると聞きます。つまり、各省庁が「総理、これを言ってください」という内容をつないで、一本の演説にするのだそうです。この場合、官僚の作文はどこの省庁でも似たようなものですから、内容的には寄せ集めになるけれども、全体のトーンは統一が取れている。そこで冒頭と最後くらいは何かカラーを出して、新聞の見出しになるようなセリフを入れたい・・・・というのが日本の首相の国会演説となります。

○ところが今回のトランプ演説は、本当に短冊方式で作られたんじゃないか、と思わせるものがありました。それもSOTUにふさわしい明るくポジティブな短冊と、いかにもトランプ風の暗くてネガティブな短冊が代わる代わる出てくるのです。最初に超党派の合意を求め、おおっ、ちゃんと大統領らしいことを言ってるじゃないか、と思わせるのですが、「メキシコ国境」の話になると、あいかわらず不法移民による残虐な犯罪などのくらーい話が出てくる(それも事実の誇張があって褒められたものではない)。

○アメリカ経済は絶好調だ、と持ち上げつつ、このすばらしい状況を止めかねないのは戦争と、政治と、"ridiculous partisan investigations"(馬鹿げた党派的捜査)だ、などとおっしゃる。ムラー検察官のことを言っているのでしょうが、後ろでペローシさんがびっくりしているように見えましたな。大統領が言うべきセリフではありません。

○こんな風に、昔ながらの攻撃的なトランプ演説と、ときどき大統領らしいまっとうなSOTUが交錯する。なぜ2通りの短冊ができてくるのかといえば、もともとトランプさんはアウトサイダーで、既成の秩序に対する挑戦者であった。だからどうしても否定的な発言が多くなるのだが、そのトランプさんも現職大統領を2年もやると、少しは大統領らしく振舞うことを学習するようになる。しかも2年後には再選に挑まなければならない。そのためには実績をアピールせねばならないし、少しは無党派層にもアピールしなければならない。

○進化したことと言えば、外交に関する部分もちゃんと揃っていた。中国に関する部分ではきつい言葉はほどほどにして、現在進行形の交渉に影響しないようにした。例えばファーウェイのことも出てこない。あんまりキツイことを言い過ぎて、なおかつ議員さんたちが超党派で拍手したりすると、中国側が過剰反応してしまう恐れがあったので、こういう点は見ていて安心でした。

○北朝鮮問題では、ベトナムで金正恩と2月27-28日に会う、と宣言しました。アメリカ側としては特に会談を急ぐ理由はないのでありますが、世間の目が政府閉鎖とかムラー検察官に注がれがちな中で、トランプさんとしてはここで目を引く外交イベントを作りたかったのでしょう。日本としては、そういうことで下手な譲歩をしてほしくはないのでありますが・・・・。

○通商問題では、NAFTAに軽く触れた程度で、自動車関税(もうじき商務省の報告書が出る)について何も触れないなど、投資家にとっては安心できる内容だったと思います。全体に「ビジネス界に優しい」演説でありました。きっと株価を下げないようにと気遣ってくれているのだと思います。

○なんだかんだでトランプ大統領は変化を続けている。そういうことを感じさせる2年目のSOTUでした。いや、しかし今月はまだまだ波乱がありそうですぞ。とりあえず米中と米朝には油断がなりませぬ。


<2月7日>(木)

○SOTUに対する評価が飛び交っています。メディアや評論家などはとかく斜に構えて、「所詮は・・・・に過ぎない」などと評するわけですが、一般の人たちの印象は率直でありまして、ポジティブなものが多いようです(CNNの調査では76%が好意的)

○そりゃあ、やっぱりああいうライブなイベントをやると、舞台慣れしていてアドリブの効くトランプさんは輝いて見えるわけですよ。言ってる中身も、そんなに変だったわけじゃないし。実行が伴うかどうかというのは、もちろんあるわけですが。ともあれ、世論調査的にはプラスに働くでしょう。もっともこの効果がいつまで続くかというとそこは怪しい。今月中にも米中(通商協議)あり、米朝(首脳会談)あり、そしてモラー(特別検察官の報告書)あり、ですからね。

○今回、トランプさんが仕掛けた罠のひとつが、「アメリカは社会主義にはならない」でありました。世間的に関心の高いベネズエラ情勢を取り上げて、マドゥロ大統領を非難するという部分は民主党支持者も喜ぶところだったでしょう。でも、そこから一歩踏み込んで、「やっぱり社会主義は良くない」「アメリカは自由と独立の国であるから、社会主義は受け入れられない」と言った。言わいでものことを、なぜ言ったのか。

○2016年大統領選挙でバーニー・サンダースが旋風を巻き起こしたあたりから、アメリカでは"Democratic Socialist"なんて言葉がまかり通るようになってきた。かつてのアメリカであれば信じられないことです。どうやら冷戦時代を知らない若い世代には、"Socialist"であることに対するタブー感がない。そりゃま、「収容所群島」も「ポルポト政権」も知らんからなあ。でもって、SNSなどを通して「ソーシャル」という言葉が良い意味になってきた。

○今では、若い世代の民主党左派は、「国民皆保険制」や「大学教育の無償化」を堂々と要求するようになってきた。トランプさんのようなベビーブーマー世代から見たら「とんでもない!」であろう。Socialという言葉に対する印象は、世代間でまったく違っているらしい。

○ということで、Socialismに対する評価を問われると、民主党は中道派と左派の関係が微妙になってしまう。左派の勢いは必要だけど、それに乗ってしまうと無党派層が逃げるから、共和党に勝てなくなってしまう。トランプさんの発言は「未必の故意」みたいなところがあって、わざわざ「社会主義は悪である」と強調することで、左派陣営に世代間闘争を起こさせる狙いがあるのでしょう。

○ところでSocialismという言葉が復権するのは、Capitalismという言葉の印象が悪化しているという時代背景も手伝っているのだろう。あたしゃ古い世代の人間なんで、Socialismは悪であって決して成功することはないし、自分はCapitalistとして生きるのが当たり前だと思っております。少なくともこの点においては、完全にトランプさんの側に立つことになります。


<2月9日>(土)

○久々に雪であります。寒いです。府中競馬場もお休みのようです。今宵は防犯活動もお休みにして、家に閉じこもって穴熊モードです。

○と言っても、この3連休はあまり宿題がない。まことにありがたいことである。暇になったらやろうと思っていたことはたくさんあるのだが、暇になったらする気がしない。こんなときに積読本に手を出す気にもならぬ。

○せめて税金の計算をしようと思って、せっせと朝から支払調書をエクセルシートに打ち込む。あー、済んだすんだと思っていたら、夕方になってまた新しいのが3通届いている。がっくし。

○明日がお天気であったら出かけることにしよう。どれ、今宵は遠慮なく飲むぞ。


<2月10日>(日)

○たまには日曜日に競馬ではなく映画でも・・・ということで「ファーストマン」へ。まあ、「フロントランナー」でもよかったんだが、それだと仕事になっちゃうような気がして。でも、人類初の月面着陸から今年で50年。先週の一般教書演説にはバズ・オルドリンも元気に出ていたことだし、これも見ておくべきではないかと。

○なぜこの題名でTheがつかないんだろうね、アルファベット順に並べられた時に、Theがつくと目立たないからじゃない?などと配偶者と話ながらシネコンに行ってみると、スゴイ行列ができている。おおっ、と思ったら、これは別の映画の行列であって、「ファーストマン」が始まる時刻にはガラガラになってしまった。うむ、これは人気がないのであろう。打ち切られる前に見ておくのは正解というものである。

○1969年にはワシは小学校3年生であった。天文学が大好きな少年であったから、人類初の月面着陸は感動であった。いや、「人類、何やってんだ、やっと月かよ」というくらいに感じていた。それで月面着陸の絵をクレヨンで描いて、親がしかるべき場所に送ったら、月着陸の絵葉書をいっぱいもらった。たぶんアメリカ大使館が、日本中にばらまいたものだったんだろう。ところが昔集めていた切手と同じく、手元には一枚も残っていない。まあ、モノに執着しない性格なんで、そういうことは気にならんのですが。

○で、映画は失敗作でした。いったい何が描きたかったんだろう。ニール・アームストロング船長は相当に変わった人だったようなので、面白い人間ドラマになったはずなのだが。主人公と家族との心の葛藤を見せたかったのか、50周年ということでドキュメンタリーを見せたかったのか、それとも月面到着という至難のプロジェクトを描きたかったのか。いずれにせよ中途半端であった。

○いや、これはついつい古い映画の「ライトスタッフ」と比較してしまうせいかもしれない。あの映画は名作である。男たちのドラマがあった。飛行士と家族との交流もこまやかに描かれていた。何より主人公のイェーガーが本物の「漢」であった。それと比べると「ファーストマン」は見劣りがする。まあ、50年前の偉業を再認識するという意義はあったのかもしれないが。

○ニール・アームストロング船長は2012年に物故している。映画に出てくる息子さんたちは、ワシの同世代人であったようだ。自分のオヤジさんが英雄である、というのは辛い人生であっただろうな。まして偉業を達成してしまった本人は、その後の人生はいかばかりであったか。そういうものすべてに耐えることができる、偉い人だったのだろう。

○ともあれ、日曜日の午後に面白くない映画を見るのは、そう悪いものではない。暇があるお蔭である。そして帰宅後、京都記念と共同通信杯の結果を確認し、映画を選んだことの正しさを確認したのであった。


<2月12日>(火)

○「マネジメントの要諦は真摯さ(integrity)にあり」と喝破したのはピーター・ドラッカーであった。なんで今日になってそんな言葉を思い出したかというと、そんな理由はこっぱずかしいからここでは書かないのだが、噛みしめてあまりある箴言というべきではないだろうか。

○昨今、その評価が地に墜ちた感のあるカルロス・ゴーン氏も、日産自動車のCEOとして真摯な経営を行っていたことに疑いはないだろう。かつては内紛だらけの会社であったあの日産が、近年は10年以上も内紛と無縁でいられたのだから、それだけでもたいしたものである。今ではすっかり昔の日産に戻ったような気がするけどね。

○この言葉の「マネジメント」の部分には、「教育」とか「行政」とか「芸術」とか、ほかの言葉を当てはめてもだいたい成立する。いや、実を言うとそんな真面目な言葉に限らず、「道楽」とか「恋愛」とか「勝負事」でも同様なのであるが、あいにくそういう境地に達することができる人は、そんなに大勢いるわけではない。だからこそ、本物の経営者や教育者や芸術家やギャンブラーには値打ちがある。

○逆に、「真摯さ」が忘れられる理由は山ほど存在する。東京経済株式会社という面白い会社があって、ここが毎年発表する「危ない300社リスト」を見ると、会社が危なくなる理由はわずか10種類しかない。内紛とか資金ショートとかコンプラ違反とか連鎖倒産とか債権を取りはぐれるとか業界全体が落ち目であるとか、まあ、言われてみればだいたいが想像の範囲内である。意外な理由など、ない。

「会社は毎日つぶれている」とは、つくづくよく言ったものだと思う。会社がつぶれる理由をひとつに絞るなら、それは「真面目でなくなるから」。その誘惑はあまりにも多い。人や組織が、長期間にわたって真摯で居続けられるとしたら、それは非凡なことと言っていいだろう。

○いや、別に誰かを批判したいわけではなくて、上はあくまでも自戒を込めての小文であります。でも、きっと後で思うんだよな。あれれ、俺なんでこんなこと書いたんだろう?などと。


<2月13日>(水)

○そろそろくしゃみが出始めた。花粉症の季節到来なのであろう。甘んじて受けとめるほかはない。その一方で、ワシはまったくインフルエンザに罹ったことがない。とりあえず過去10年間は1度もない。ウチの子が小さい頃は、それこそ年に1回以上の比率で罹っていたんだけれど。ワシはよっぽど丈夫なのか、それともアホなのか。いえ、どっちでもいいんですけど。

○ということはさておいて、2日連続で当欄には似つかわしくない話を少しだけ。

○人生で最も難しいのは「捨てる」判断であろう。こんまりさんを引き合いに出すまでもなく、「ときめかなく」なったものは捨てるにしくはないのである。ところが人間心理は微妙なもので、「これ以上、ここに居てもいいことは何もない」ということがわかっていても、「もうちょっとだけ」とか、「みんな反対しないし」とか、「だって俺、忙しいし」とか、無数の言い訳にかき消されてしまうことが少なくない。

○そういうときに、たまたま「お前はこんなところに居ちゃいかんだろ!」と言って背中を押してくれる人がいる。そういう人に出会えるということはものすごい幸運であって、ワシの場合は何度かそういうラッキーなめぐりあわせがあった。そして「捨てる」ということは、2度目3度目になると意外と簡単になる。「あのとき捨てておいて良かった!」という成功体験が残ると、次にエイヤッと捨てる勇気が湧いてくるからだ。

○てなことを想った夜であった。自分で決めなくていい、という状況に追い込まれるのはそんなに悪いことではない。余計なことを考えなくて済むんだし。うむ、これも時間が過ぎると、自分でも訳が分からなくなる妄言のひとつだな。


<2月14日>(木)

○諸般の事情で2日連続して思わせぶりなことを書いたら、「何かあったんですか」とのお電話をいただいてしまいました。すいません、他意は何もないんです〜。でも、Yさん、久しぶりにお会いできてうれしかったです。ちゃんと読んでくれている人がいる、というのは嬉しいことです。

○ということで、今日はごく他愛のないことを。これ、ご覧になった方は少なくないでしょう。


●みずほ銀行 予告映像


○古くは「みずほ銀行券」とか、「三行合体ロボ」とか、ついついネット界のいたずら心を刺激する会社なんですよね。でも、これからキャッシュレスに向かおうという時代にあって、ATMが使えないと世界が終わるみたいな世界観は、ちょっといかがなものざんしょ。まあ、そういうところも含めて、メガバンクは体質が古い、と言われるとその通りなんですが。


<2月15日>(金)

○「これを読んでないと話が通じない」という仲間内の同調圧力に負けて、先日『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ/河出書房新社)上下巻を買ってきた。冒頭から軽妙洒脱にして、談論風発の書である。人類はとっても進歩したから、後はもう神様になるしかない、という中身であるらしい。

○これってワシが以前書いた、「人はもういろんな仕事を作ってしまったから、これからは遊びが経済活動の中心になる」という仮説と似ているような気がする。というのは、われながらちょっと傲慢ですな。

○今日になってまた突然気が変わって、『高坂正尭――戦後日本と現実主義』(服部龍二/中公新書)を買ってきた。たぶんこっちの方が早く読み終わりそうだ。おそらくはキッシンジャーなどとは違い、高坂の現実主義には反対者へのレスペクトがあった、という結論になるのではないかと想像している。

○いかんですねえ、こんな風に冒頭だけ読んで、その気になってしまっては。せめてちゃんと読み終えてから、きっちり中身を論ずるべきでありましょう。本日のところはフライングということでお許しを。


<2月16日>(土)

○昨日書いた拙稿のご紹介。


●トランプ大統領が2月大逆襲に打って出るワケ


○非常事態宣言に皆がびっくりしている感じなんですが、あれって「壁」建設に足りない数十億ドルの費用をどうするかの話でありまして、本来、大騒ぎするような話ではありません。その程度の金額で、天下のアメリカ様が揺らぐわけはありませぬ。

○トランプさんとしては、唯々諾々と議会が出してきた新しい歳出法案にサインするのが嫌だったので、こっちで騒ぎを起こしてバランスを取っているつもりなのでしょう。もちろん褒められた話じゃないし、「壁を作って安全になるわけではない」というのは正論です。そういえばベト・オルーク氏が、「移民の方が米国民よりも犯罪率は低い」と言っておりましたな。

○ただしトランプ流に言えば、国境の向こうから麻薬や犯罪組織など恐ろしいものが流れ込んできているのであって、そういうことはゲートで守られた家に住んでいるお高い人たちにはわからんのだ、だから安全のために壁の建設が必要なのだ、ということになる。支持者には通りのよいロジックだと思います。

○この後、民主党が大統領の権限乱用を司法に訴え出て、最高裁の判断を仰ぐこととなり・・・といった展開が予想されます。これはまた例によって「プロレスにマジレス」というパターンで、どんどん騒ぎが拡大してトランプさんの術中にはまっていくのではないのかと。

○じゃあなんでこの時期にトランプさんがいろいろ騒ぎを起こすのか、というと理由はたぶん今月中にアレが来るからでありまして・・・。てな話をご紹介しております。よろしゅうに。












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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)