●かんべえの不規則発言



2021年9月 






<9月15日>(水)

○自民党総裁選挙の告示まであと2日。いろんな疑問が浮かんでくるところです。


*昨晩、「出馬を固めた」と報道された野田聖子さんだが、今日の昼以降は情報が少なくなった。推薦人は20人集まったのか、それとも切り崩されているのか。ご本人は明後日の朝まで、気が抜けない時間が続きそう。

――選択的夫婦別姓の是非をめぐり、高市早苗さんとは20年戦争を継続中とか。ここは意地でも出たいところでしょう。

*麻生太郎さんは、岸田陣営の出陣式に顔を出すのか?出さないのか? それ次第で、周囲の反応は変わってきそう。

――名前が同じ太郎で、お爺ちゃんは自民党の有名政治家。そしてご自分は元河野洋平グループ。「志公会はいずれ太郎に返す」つもりなんだけど、それを拒絶してしまいそうなところが太郎の太郎たるところですわな。

*二階俊博さんはいったいだれに投票するのだろう。岸田は許せん、高市は考え方が違い過ぎる、河野は、あの小童めが。ううむ、まったく想像がつきません。

――だったら野田さんを応援してあげりゃいいのに。まあ、寝業師ですから、何か仕掛けてくれることでしょう。

*河野vs.岸田の決選投票になったとき、高市さんはどんなふうに行動するのがいちばん賢いか。

――ワイルドカードという立場は、変に欲がなければ楽しいポジションと言えましょう。

*石破派の議員たちは、今度こそ「冷や飯」組から卒業できるのか。何しろこれまで派閥に反対してきた人が派閥の領袖なので、変なボスについていくのはつくづくたいへんだ。

――斎藤健さんがこんなことを言っている。「石破氏自身が判断するしかない」。これを読むと、石破派の苦しい事情がしみじみ伝わってきます。

*当選1回〜3回生で創る「党風一新の会」メンバーは、投票日の演説や当日のツィートに流されて投票を決めるんじゃないだろうか。

――「2A+2Fの長老政治に叛旗」だなんて、誰が上手いことを言えと。でも比例代表の議員さんたちにとっては、これは確かに死活問題だ。


○ちなみに衆議院選挙の時だけは「公示」。そうでないときは「告示」。間違えちゃいけませんぞ。


<9月16日>(木)

○野田聖子さんが出馬とのこと。前日まで正式な発表を引き延ばしたのは、実は「死んだふり作戦」だったのかも。20人の推薦人がどういう仲間なのか、ちょっと気になります。

○野田氏は旧高村派。自民党の派閥の中では最も左に当たります。仮に今の4候補者で「選択的夫婦別姓」を議論するとなると、賛成3に反対1となる。自民党も様変わりですな。今回の総裁選挙では、社会政策が意外と注目を集めるかもしれません。

○候補者の数が4人になったことで、河野陣営の「1回目で勝つ」作戦は急に難しくなってきました。3人と4人では、党員票の割れ方が変わってきますからね。河野、石破、進次郎と人気者を集めてぶっちぎる作戦だったようですが、「4番バッターを3人も4人もそろえて野球に勝てるか」との指摘が重くのしかかります。

○ともあれ、「聖子ショック」はいろんなところに波及しそうです。明日の朝は、日経モーニングプラスFTに出演予定なのですが、資料は全部3人分で準備しているはず。どうするんだ〜、今から間に合うかな〜? まあ、ワシ自身はいつも通りの出たとこ勝負ですけれども。


<9月17日>(金)

○本日、自民党総裁選に立候補した4候補の推薦人をメモしておきましょう


●【河野太郎】

 〔衆院〕穴見陽一(3)、義家弘介(3)(以上、細田派)、 阿部俊子(5)、高橋比奈子(3)(以上、麻生派) 野中厚(3)、宮崎政久(3)(以上竹下派)、 伊藤忠彦(4)、岡下昌平(2)(以上二階派)、 平将明(5)、古川禎久(6)(以上石破派)、 坂本哲志(6)、石原宏高(4)、上野賢一郎(4)(以上石原派)、 伊藤達也(8)(推薦人代表)、田中良生(4)、武村展英(3)(以上無派閥)

 〔参院〕中西健治(2)(麻生派)、 山下雄平(2)(竹下派)、 園田修光(1)、島村大(2)(以上無派閥)

●【岸田文雄】

 〔衆院〕高木毅(7)、吉野正芳(7)(以上細田派)、 鈴木俊一(9)(推薦人代表)、山際大志郎(5)(以上麻生派)、 渡辺博道(7)、西銘恒三郎(5)、鈴木隼人(2)(以上竹下派)、 根本匠(8)、堀内詔子(3)(以上岸田派)、  土屋品子(7)、石田真敏(7)、梶山弘志(7)、大野敬太郎(3)、加藤鮎子(2)、本田太郎(1)(以上無派閥)

 〔参院〕森雅子(3)、宮本周司(2)(以上細田派)、 今井絵理子(1)、猪口邦子(2)(以上麻生派)、 二之湯智(3)(竹下派)

●【高市早苗】

 〔衆院〕馳浩(7)、西村康稔(6)(推薦人代表)、高鳥修一(4)、佐々木紀(3)(以上細田派)、 木原稔(4)(竹下派)、 山口壮(6)、小林鷹之(3)、小林茂樹(2)(二階派)、 古屋圭司(10)、江藤拓(6)、城内実(5)、石川昭政(3)、黄川田仁志(3)(以上無派閥)

 〔参院〕山谷えり子(3)、佐藤啓(1)、山田宏(1)(以上細田派)、 小野田紀美(1)(竹下派)、 衛藤晟一(3)、片山さつき(2)(以上二階派)、 青山繁晴(1)(無派閥)

●【野田聖子】

 〔衆院〕百武公親(1)(竹下派)、 福井照(7)、大岡敏孝(3)、神谷昇(2)、出畑実(1)(以上二階派)、 宮路拓馬(2)(石原派)、 川崎二郎(12)、渡海紀三朗(9)、浜田靖一(9)、木村弥生(2)(以上無派閥)

 〔参院〕渡辺猛之(2)、元栄太一郎(1)(以上竹下派)、 鶴保庸介(4)、三木亨(2)、岩本剛人(1)、清水真人(1)(以上二階派)、 三原じゅん子(2)(推薦人代表)、柘植芳文(2)、徳茂雅之(1)、山田俊男(3)(以上無派閥)。


○ウィキの自民党総裁選の項目を読んでいて、そのときどきの20人の推薦人を見ていて、政治家同士の人間関係の深さに感じ入ります。「あっ、この人はこのときは××さんを推薦していたのか!」「それが次の機会にはそうなっていない・・・」(そうか、閣僚になっていたものな)などと、さまざまな個人的事情が重なり合うのでありますよ。人間関係の織り成す綾は、たぶん当人たちでなければ分からないものがあるのだと思います。

○で、2021年総裁選における推薦人リストを見ていると、真っ先に頭を抱えてしまうのは、「二階派はいったい何を考えているのだ?!」であります。

○岸田派以外の3つの派閥にまんべんなく推薦人を送り込んでいるのですから、「岸田だけは許さああああん!」(何が党役員の任期制限だ!)という幹事長のお気持ちはよ〜くわかります。その一方で、野田聖子候補に8人もの推薦人を送り込み(うちお1人は別れた元配偶者様ですが)、二階派の支援なくしては彼女の立候補は不可能だったはず。

○ところが彼女が「第4の候補者」になったために、河野太郎候補が「1回目の投票で過半数を確保して勝つ」という戦略が一辺に危ういものとなりました。そりゃそうでしょう。3人の争いならともかく、4人の争いで5割を取るのは至難の業ですからね。そして決選投票になれば、岸田文雄候補が有利になるのは火を見るよりも明らか。たぶん「2A」がそっちを応援しますからね。

○それでは、なぜ「2F」さまはそんなことをお許しになったのでしょう。次の中から正しいものを選べ(5点)。


@野田幹事長代行は、幹事長に真面目に尽くしてくれた良い部下であったから。

A菅が「頼むから野田を出させないでくれ。そうすりゃ河野が1回目で勝てるから」とねじ込んできたのにムカついたから。

B小池百合子都知事が「女性が少ない」と言っていたのに納得して。

Cもうボケていて、どうでもよくなっているから。


○これはもう「シュレーディンガーの猫」並の難問と言えましょう。初心者のワシなどには、とても及ばない深い境地でありんす。


<9月19日>(日)

○東洋経済オンラインの記事が1日遅れでアップされました。競馬の予想は明日、月曜開催の「朝日杯セントライト記念」を取り上げていますので、ごゆっくりご検討いただければと存じます。


●去る菅首相がやった仕事「勝手ランキング10選」


○菅さんが首相になってから、まだ1年と3日しかたっていません(2020年9月16日に政権発足)。それでこれだけの仕事を残しているのだから、これはもう感心するしかありません。国民の側からすれば、「菅内閣を使い倒した」という感じじゃないかと思います。

○ただし、ここで挙げた仕事のトップ10を見ても、見事に「方向性」というものは見えないところがいかにも菅さん流です。デジタル庁創設と、携帯料金値下げと、最低賃金上げと、福島のトリチウム水処理決定を、なぜ同じ人がやったのか。あらためて考えてみると不思議なのです。

○たとえば菅さんは、本当に東京五輪をやりたかったのでしょうか。「東洋の魔女」のことはちょっとだけ言ってましたけど、ホンネは「やらないわけにはいかないんだろ、だったら四の五の言わずにやるぞ!」ということだったんじゃないかと思います。そして見事なくらいブレませんでした。まあ、もうちょっと上手に説明してよ、とは思いますけれども。

○長期政権となった小泉さんや安倍さんの場合、ご本人が何をしたいかが割と明確でした。例えば、郵政民営化が本当に必要なことかどうかはよくわかっていなかったんだけど、国民はそれに向けて邁進する小泉さんを信頼して、高い支持率を与えていたのだと思います。やっぱりトップに立つ人というのは、何か明確なミッションを持っていた方がよいのでしょう。たとえ、それがピント外れなものだったにしても。そのことは、現在進行中の自民党総裁選挙を見ていくうえでも、重要なポイントではないかと思います。

○菅さんの場合、そのミッションが不明確でした。強いて言えば、「とにかく仕事がしたい人」というワーカホリック首相だったので、たくさん仕事をした割には評価してもらえない。それでも当・溜池通信的には、「やっぱりこれはすごいよ」と言ってあげたいと思うのです。とりあえず、ワクチン接種体制を残してくれたことには感謝あるのみです。敢えて言おう、「ありがとう、菅さん!」と。


<9月21日>(火)

○今日乗ったタクシーの運転手さんに、「内幸町の飯野ビルまで」と言ったら、かなりご高齢の方で、「内幸町と言えば、昔はNHKがありましたなあ〜」てなことを言うのである。いや、それは知識としては知っているけれども、ワシが小学生の頃に、NHK「将棋の時間」で詰将棋の答えをハガキで送っていたときには、もう今の『渋谷区神南2−2−1』でしたよ、などと応じると、意外なことを言うのである。

「お客さん、将棋ファンですか。あたしゃ、こないだ例の『三冠王』になった少年を乗せましたよ。市ヶ谷の将棋会館まで」

○いやいや、それは藤井聡太三冠(棋聖・王位・叡王)のことで、将棋会館があるのは本当は千駄ヶ谷なんだが、まあ、その辺のことは大目に見よう。でも、それって、「有名人を乗せた」自慢としては、かなり高位のものではないだろうか。藤井三冠が都内でタクシーに乗る機会って、そんなに多くはないと思うぞ。

○その藤井三冠だが、強過ぎるのである。昨日の順位戦B級1組の対木村一基九段戦は、最後まで王様と金将と桂馬と香車を動かさないままで勝つ、という不思議な対局であった。これじゃ木村九段は、しばらく尾を引くかもしれんなあ。王座戦に響かないといいけど。

(→後記:読者からご指摘アリ。6九金はちゃんと動いて、後から守りで打ったものですね。失礼しました。投了図では動いていないように見える、というのが正解。とはいえ、それでも十分にめずらしい)

○「千駄ヶ谷の受け師」が△3六歩、▲同香、△2五銀と打って金香両取りに出たところが対局のハイライトであった。藤井三冠、▲2四金、と空き王手に出たのがまるでサーカスのような一手。いやー、夢に出るよ、これは。これで1三の角がただで取られちゃう。その後も木村九段は「鬼我慢」を続けるのであるが、ややあって投了。やむなしか。

○8月12日以降で、対局が実に10局。うち4局がタイトル戦で、うち2回は二日制の王位戦。都合8勝2敗。移動日も併せると、ほとんど将棋漬けの過密日程だが、おそらく当人は楽しくてたまらない日々なんだろう。ちなみに10局のうち4局が対豊島竜王戦で、これで再来週には竜王戦の七番勝負が始まってしまう。こんなに強いのとしょっちゅう当たるのだから、なんだか豊島竜王に同情してしまう。

○それにしても、こんな名勝負がリアルタイムで見られるのは、将棋ファンとしてはしみじみありがたいと思うものであります。


<9月22日>(水)

○フジテレビの平井文夫さんがこんなことを書いている


●まだ誰が勝つかわからない

1週間後には日本の新しい首相が実質決まるのに、恥ずかしながら僕にはそれが誰なのかわからない。こういうのは実に気持ち悪い。4人の候補が連日テレビ局をハシゴし「総裁選まつりだ」とはしゃぐ人もいるが、首相の交代というのはもっと「切羽詰まった」ことではないのか。

自民党総裁選は、調査を見る限り河野太郎氏が党員票でリードしているが、各派の動きを見ると議員票を合わせた1回目の投票で過半数を取るのは結構大変なようだ。岸田文雄氏、高市早苗氏が2位3位連合を組めば、2回目の投票の行方はどうなるかわからない、というのが大方の見立てである。野田聖子氏は立候補が告示ギリギリだったので勝負はこれからだ。



○いやあ、ホント分からない。せめて政治日程くらいは分かる範囲で書いておこう。


9月24日(金) NYで日米首脳会談+クワッド日米豪印首脳会談(菅首相は9/23-26まで訪米)

9月28日(火) 緊急事態宣言を解除

9月29日(水) 自民党総裁選挙投開票。新総裁を選出→新しい党三役を選出

10月4日(月) 臨時国会召集→首班指名→新総理を選出→組閣

10月8日(金)頃 新首相が所信表明演説→各党代表質問へ

10月14日(木)頃 衆議院を解散

10月21日(木) 衆議院議員の任期

10月24日(日) 参院補欠選挙(静岡・山口)

10月26日(火) 衆議院選公示

10月30-31日 ローマG20首脳会議

11月7日(日) 衆議院選挙


前号の溜池通信では、野党の要請通り臨時国会で予算委員会も開き、「10月20日解散→11月9日公示→11月21日総選挙」という日程を示したのですが、永田町ディープスロートさんはメルマガでこんな風に言っている。


やはり、善は急げです。新総理は、就任に伴う様々な日程をこなしたところで、予算委員会などは行わず、間髪入れずに解散すると思います。


○ということで、11月7日か14日に総選挙、というシナリオを描いている。まあ、そっちの方がよろしいかな。なにしろ総選挙の後は、特別国会を開かなければならない。その後の補正予算編成などの日程を考えると、なるべく早めに選挙を終わらせておく方がいい。それ以上に、新総理誕生による「ご祝儀相場」のチャンスを逃してはもったいない。それに年末が近づくと、第6波の怖れもありますからな。


<9月23日>(木)

○中国に次いで台湾もTPPへの加盟を申請。中国は大真面目で入りたいというよりは、アフガン撤退でアメリカの信認が低下している間に一発かましてやれ、てな感じでしたが、台湾は大真面目でありましょう。

○こうなっている元々の原因は、TPPの追加参加条件(Accession)が非常に緩いもの――「既に参加している国の賛成があれば、APECのメンバーとその他の国々は協定に加わることができる」――であること。この部分の原文は下記の通り。


Trans Pacific Strategic Economic Partnership Agreement(2005)

Article 20.6: Accession

1. This Agreement is open to accession on terms to be agreed among the Parties, by any APEC Economy or other State.


○「その他の国々は」協定に加わることができるのであれば、ここでわざわざ「APECのメンバーと」なんて言葉を入れる必要はない。単に"by any other State."でいいはず。ところが、それだと台湾と香港が除外されてしまうのだ。台湾と香港はAPECのメンバーではあるけれども、「国」ではないということになっている。つまり"by any APEC Economy"という言葉は、台湾と香港に対してTPP参加の可能性を認めているわけだ。

○これはWTOへの加盟も同じことで、台湾は2002年にWTOに加盟したが、その正式名称は"Separate Customs Territory of Taiwan, Penghu, Kinmen and Matsu (Chinese Taipei) ”となっている。台湾・澎湖・金門・馬祖という島が、中国とは別建ての関税区域になっていますよ、という建付けである。だから、中国と台湾が同時にTPPに加盟してもおかしくはない。中国が台湾の申請に「ケシカラン!」というのは、理屈をわきまえていない。

○しかし実際問題としては、「既に参加している国の賛成があれば・・・」という条項があるのだから、先に入った国は気に入らない相手を拒絶することができる。中国が先に入ったら、台湾は当然は入れなくなるだろう。逆に台湾が先に入ってしまえば、中国に対してノーをいうことができる。いや、その前にきっと豪州さんあたりが「中国はダメ!」と言うかもしれませんが。

○一方で、TPPというのは既にルールができている。既に加盟を申請中の英国などは、それをどこまで呑めるか、受け入れられない場合はちゃんと個別にメンバー国と交渉してくださいね、ということになる。中国の場合は、国有企業への特別扱いから「データの自由な移動」まで、門前払いとなるべき条件がいっぱいある。そこで中国としては、「お前たち、中国に輸出したくはないのかああああっ!」と俺様ルールを押し付けようとするだろう。

○他方、台湾は思いつめたような状態である。本日付の蔡英文総統のツィートは重い。


石の上にも五年!
台湾は昨日正式にCPTPP加盟を申請しました。総統になってからこの水準の高い貿易協定の参加を準備してきました。我々は全てのルールを受け入れる用意があり、TPPに加盟したいと思っています。日本の友人たちには我々のこの努力をぜひ支持して欲しいです!

午後2:12 ・ 2021年9月23日・Twitter for iPhone


○台湾政治は、けっして自由貿易に対して前向きではない。特に民進党支持者はそうだ。しかしTPPに加盟するとなると、越えるべきハードルは低くない。だからこそ「我々は全てのルールを受け入れる用意がある」という総統の言葉は重い。とりあえず福島産食品の輸入制限は、規制緩和しなければならないだろう。そのことは当然、政治的コストを伴うことになる。

○ちなみに日経の秋田さんが、「TPP、米国の復帰こそ先決」と書いている。お気持ちは100%共有するけれども、今の米国議会でTPAが通過する可能性は限りなくゼロに近い。バイデン政権にそんな余力はないと思います。まあ、今週末の日米首脳会談のテーマにするのは悪くないと思いますが。

○そんなことより、台湾という弱者の動きを中国が読めていなかった、という点が面白い。こういう点に、中国外交の劣化を感じます。オオカミの振りなんてしているから、阿呆になるのですな。


<9月24日>(金)

○間もなく緊急事態宣言が解除されるぞよ、ということで、このところ10月以降の「スケジュール打診」が急に増えている。そりゃあそうだろう。これまでずっと国民全体が、常ならぬ毎日を続けてきたのだから。とりあえず「第6波」が来るまでは、なるべく普通の生活をして憂さを晴らしたいものである。

○その一方で、「ああ、これはもう二度とできないかもしれないなあ」と感じる風習もある。たぶん「忘年会」や「新年会」はかろうじて生き残るだろうけれども、企業における「歓送迎会」はなくなるんじゃないだろうか。あるいは欠席自由となるとか、歓送される当人が望まない場合は行われないとか。今まで嫌々付き合ってきた人たちが多かったからなあ。

○それはそれで結構なことなので、いずれ失われるはずの習慣がコロナ禍で加速されただけ、ということになる。その一方で、「孤独のグルメ」を楽しみたい人は確実に増えているはず。現状ではそういう人たちまで一律に「アルコール類の提供は自粛しております」などと言っておる。とはいえ、1人でしみじみ盃を傾けたい人に対してまで、アルコールを禁止する意味ってあるのだろうか。どう考えても、感染リスクは低いはずなのに。

○とりあえず来月は、函館と高松と青森に行くことが決定している。いやあ、なんとも久しぶりである。平常への回帰が進むことを期待するものであります。


<9月25日>(土)

○本日は『「太平洋の巨鷲」山本五十六』(角川新書)を読む。いや、このテーマにそんなに興味があったわけではないのだが、著者が『独ソ戦』の大木毅氏というから、これは読まねばならぬかと思って。

○恥ずかしながら、山本五十六のことをそんなに深くは知りませんでした。若い頃に日露戦争で負傷して、左手の指が2本なかった、というのも初めて知りました。しかしこの本の帯にある「名将か、凡将か?」という惹句はないだろう。あの真珠湾攻撃を立案した司令官が凡将ということはあり得ないし、それがもたらした結果を考えれば名将ということもあり得ない。喩えていうならば、ハンニバルやロンメル将軍を語るようなものであって、名将でも凡将でもないことは、最初から自明なことであるはず。

○山本五十六については、先行研究があまりにもたくさんあるので、本書は「戦略・作戦・戦術の三次元で、純粋に軍人としての能力を問う」と狙いを絞り込んでいる。とはいえ、「真珠湾攻撃は戦略的な成功か、失敗か」と言った時点で、それだけで本が一冊書けるようなテーマとなってしまう。なき岡崎久彦氏が、「戦前日本の失敗は2つだけ。日英同盟の破棄と真珠湾攻撃だ」と言っていたことを懐かしく思い出します。本書の作戦は、かならずしもうまくいっていないような気がします。

○とはいえ、あの『独ソ戦』の著者だけに、徹底したリサーチと抑制のきいた描写はさすがである。それこそホイホイとご飯が進むように読み進んでしまう。ただしあまりにストイックに魅力的な対象を書いてしまったために、著者は「あとがき」の中で、「将来、もし機会が与えられるのであれば、今度は、全人格的な山本論を試みたい」と吐露している。そりゃあ、そうなりますわ。本書の設定は、人間的魅力について全く触れない田中角栄論と同じくらい無茶な試みなのである。

○面白いと感じたのは2つの矛盾である。航空戦力の時代の到来を察知した山本が、戦艦中心の海軍観を捨てられなかったこと。そりゃあ、若い時分に日本海大海戦を体験したんだから、無理もないわなあ。新しい時代を察知した天才は、意外と古い時代のパラダイムに縛られていた。とはいえ、山本が単なる早見えの天才であったなら、海軍次官にまで出世することはなかっただろう。陸軍における石原莞爾がそうであったように、どこかで頭打ちになっていただろう。大組織の中でちゃんと生き残れる常識人でもあった、という点が面白い。

○もう一つの矛盾は、作戦を立てるのは本来、海軍軍令部の仕事であるのに、途中からは連合艦隊司令官の暴走を止められなくなってしまったこと。そりゃあ当たり前のことで、真珠湾攻撃のような戦史に残る成功を収めてしまったら、周囲が止められなくなってしまう。本人もまた、名将になってしまった自分を抑えられなくなったのではないでしょうか。その後、ミッドウェーやガダルカナル、「い号作戦」などでの海軍の失敗は、いわば必然だったようにもみえる。やればやるほど、「対米戦争は勝てない」という山本の大局観を立証してしまったことは、いかにもな展開だったといえましょうか。

○以前、江田島の旧海軍兵学校に行ったときに、山本五十六の書を見たことがあります。まるで女性が書いたようにたおやかな筆跡でありました。東郷平八郎の墨痕淋漓とした「皇国興廃在此一戦」という筆致とは対照的でした。「この人は意外と細やかな人だったんだろうなあ」と感じたものです。そのことをしみじみと思い出しました。


<9月26日>(日)

○これというほどの残暑もないままに秋到来ですな。過ごしやすいのはいいですが、台風の到来がちょっときになるところであります。

○9月24日がぐっちーさんの命日だ、と言うことに気づいて、2年前の今の時期に何をしていたか、自分のスケジュールをチェックしてみた。すると驚くべきことに、令和元年9月のワシは、週に5日も出社して(当たり前だが)、ものすごい数の会合に出席して人に会い(リモートで会うという選択肢はなかった)、いろんな仕事をしている上に、遊んでまでいたのである。うーん、コロナ前の日常は、ハードだったのですな。

○間もなく緊急事態宣言解除となりそうですが、そうかといっていきなり週5日出勤に戻したら、たぶんパンクしてしまうだろう。この間に年もとってるしねえ。とりあえず溜池通信の締め切り日には出勤しない(通勤時間がもったいないから)という習慣は維持したいと思います。

○出勤が減った分だけ、あちこちに寄稿する機会は増えました。きんざいの連載「コロナ下のリーダーたち」は第5回まで来ました。あと2回分も入稿済みなので、この週末はわりとのんびりできました。さて、今週は自民党総裁選がいよいよ投開票。どんな結果になるか、やっと見当がついてきた感じですね。じっくりと見届けたいと思います。


<9月27日>(月)

○自民党総裁選挙の投開票日が明後日に迫りました。今後、どういうところに注目すべきか、以下、思考実験をしておきましょう。

○明日28日が党員投票の締め切り日で、総裁選は29日(水)午後1時から始まります。投票前に各候補者が演説を行うはずなので、そこで誰が何を言うか、というのが最初の注目点。かつての民主党政権では、代表選挙の際には直前の演説の出来不出来で票が動きました。派閥単位の争いである自民党総裁選は、過去にはそういうこととは無縁だったはずなのですが、あいにく今回は派閥の締め付けが効かない選挙です。若手議員はそれで投票行動を決めるかもしれません。ともあれ、党員・党友票も含めた1回目の結果は午後2時20分ごろに公表されます。

○その時点の注目点は、@党員票で河野氏が50%を超えるか(超えた場合は、その結果を覆すことが躊躇われるようになる)、A議員票は岸田氏が優勢として、2位、3位との差がどれくらいか、B決選投票に残る2人は誰と誰か、Cその後に派閥単位でどんな投票行動が行われるか、ということになります。細田派はまとまれるのか、麻生派はどうするのか、何より二階派四十七士の動きが見ものです。何か面白いことをするんじゃないかなあ。

○決選投票が終わると、午後3時40分ごろに新総裁が選出されます。そこは自民党なので、「総選挙に向けて挙党体制を!」ということになって、負けた方が次期幹事長、みたいな流れになると思います。2012年に安倍さんが石破さんを幹事長にしたようなケースですね。新しい党三役の選出は、なるべくなら早い方がいいでしょう。週末には、「〇〇新首相への期待度」が世論調査で示されるでしょうが、これは「ご祝儀相場」になると思います。

○週明け10月4日には臨時国会が召集されて、直ちに首班指名選挙、第100代内閣総理大臣の決定です。ただし組閣は急ぐ必要がなくて、次期首相はなるべくなら「居抜き」で菅内閣を継承する方がいいと思います。何しろすぐに総選挙を迎えるわけで、それが終わればすぐに第2次××内閣が始まることになる。だったら、総裁選の論功行賞人事を急ぐ必要はありません。本格的な組閣は選挙後まで取っておく方がベターでしょう。

○世間的には、「総裁選後に誰が干されるのか」「河野が勝てば3Aが、岸田が勝てば2F+Sが力を失う」みたいなことが気になるわけですが、そういうことは総選挙の後まで先送りする方が賢いと思います。何しろ敵は党内ではなくて野党なわけですから。この辺が「自民党の知恵」というものでありまして、それがまだ残っているかどうかは定かではないのですが。

○てなことで、楽しみは尽きません。














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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)