●かんべえの不規則発言



2010年3月 






<3月1日>(月)

○もう3月でありますな。周囲ではこんな会話が飛び交っております。

「4月からXXに赴任することになりました」

「4月でタイトルがXXに変わりまして、お陰で仕事が少し楽になります」

「4月から違う職場に移動します。次回は後任の者が参りますのでどうぞよろしく」

○そうなのだ。皆さんのサラリーマンすごろくは、ちゃんと動いておるのだ。たまたま自分が同じところをグルグル回っているだけの人なので、ついつい忘れてしまうのだが、4月は人事の季節なのだ。スイスイとすごろくを上がっていく人の挨拶を聞いたりすると、ちょっとだけまぶしく感じたりする。

○まあ、ワシは「好き」を「仕事」にしてしまった果報者なので、同じ職場にズルズルといるのも、自分の都合でそうしているだけである。ということで、今週、来週なんぞは半端でなく忙しかったりする。我ながら、変なことを一杯やっている。どう考えても、普通のサラリーマンの暮しではない。まあ、ちょっとこんなもんでも見てやっておくんなさいまし。

●外為コレクション:http://www.gaitame.com/gaitame/index.html?app 

○それから明日のNHK「クローズアップ現代」を見ると、いいことがあるらしいぞ。午後7時半です。


<3月2日>(火)

○午後5時半、NHKのスタジオに入って、今日の「クロ現」のVTRを見せてもらって、ちょっとのけぞりましたな。すごい。面白い。でも、ワシントン取材を中心に作ってあるから、トヨタに対して非常に辛口である。というか、こんなの民放では絶対に作れませんぞ。

○さて、番組としてこの素材をどんな風に料理するか。いつもながら、VTRは直前まで何度も作り直しをしているので、出来上がりは事前の予想と違ってくる。だから、予習をしてもあまり意味がない。VTRを見てから、本番までの時間が勝負です。伝えるべきポイントは何か、どういう議論にするか、順序はどうするか、てなことを1時間少々かけて協議する。

○論点を絞って、4分11秒と4分25秒の枠に落としこむ。イナバウアーは捨てましょう、トリプルアクセルは2回やりましょう、みたいな作業である。で、本番。時間ピッタリで予定した論点を全部話し終えたのでホッとするのだが、家で見ていた配偶者に聞いたらこんな評価であった。「顔色悪いし、声は低いし、今日はどうしたの?」 

○あらら、緊張してたのかな。まあ、テレビの仕事ってそういうもんです。笑われるかもしれませんが、こういう作業って、ワシは好きです。緊張感がクセになるんですな。

○終わってから関係者一同で記念撮影。「NHKって、放送界のトヨタですよね。”よくまあ、ここまでやるわ”といつも感心してます」と言ったら、国谷キャスターが「それって褒め言葉ですね」。もちろんですとも。自分はいい加減な人間ですが、他人の職人気質は無条件に尊敬します。

     ◇     ◇     ◇

○さて、明日は上院でのトヨタ公聴会が予定されている。不肖かんべえの読み筋としては、この問題はワシントンの政治ショーとしてはほぼ終息しつつある。その根拠は、3月1日付のネルソンレポートがA4で11ページもの量なんだけれども、トヨタのトの字も出ていないから。すでにワシントン雀たちのレーダースコープからは、本件は抜け落ちているらしい。(ちなみに、国谷キャスターもネルソンレポートの愛読者であることが判明しました)

○もう一点。日本版WSJをチェックしてたら、こんな記事が出ていた。

●トヨタ、品質委員会に元米運輸長官を招く

【デトロイト】トヨタ自動車は、クリントン政権で運輸長官を務めたロドニー・スレーター氏を外部有識者からなる新設の品質委員会に招く。2日の上院公聴会での証言向けに用意された原稿で分かった。

 北米トヨタの稲葉良睨(よしみ)社長は原稿の中で、この委員会を率いるスレーター氏が、同社の新たな品質管理を「業界最高の水準に一致させる」としている。

 また、内山田竹志副社長(技術担当)は、公聴会のために準備された原稿の中で、電子スロットル制御システムの信頼性を強調し、電磁気の干渉にまでいたる広範な調査を行ったことを明らかにしている。同副社長はハイブリッド車「プリウス」初代モデルのチーフ・エンジニアを務めた。

○ワシが推薦したノーマン・ミネタさんではなく、その直前の運輸長官が指名されるみたいです。スレーター氏の方が若いし、馬力もありそうですね。良い判断だと思います。


<3月3日>(水)

○群馬県前橋市で講演しました。こういう団体の会合でした。前回は、2007年秋にも呼んでもらいました。どんな商売でも同じことですが、リピートオーダーをいただけることが繁栄への道であります。

○群馬県も製造業が多いところだけに、少しずつ外需の伸びが浸透してきているように感じました。と、同時に与党に対する風当たりが強いですね。やはり企業経営者は、今の政権に対して批判的です。今回の「休日を全国で分けてとる政策」が典型的ですが、産業界のことを考えてないのが丸分かりでありますから。

○今月はこの後も、大分、徳島、大阪、沖縄に行く予定があります。うーむ、なんでこんなにたくさんあるんだろう。まあ、なるべくいろんな場所を見て来たいと思います。


<3月4日>(木)

○久しぶりに脱力さんに会ったら、ツィッターに凝るわ、検察批判はするわ、立花隆に喧嘩を売るわ、ますますお盛んなようであります。元気と情報を少しだけ、分けてもらいました。

○BSジャパン「マーケット・ウィナーズ」のスタッフが来社。今月末で番組が終わるのだそうで、「最後の出演」の打ち合わせ。「サンプロ」もそうだが、この3月末でいくつ番組が終わるんだろう。日本テレビの「リアルタイム」やTBSラジオの「アクセス」まで、ワシが出たことのある番組だけでも4つもあるではないか。

○電波業界というのは、今回が初めての不況なんじゃないでしょうか。「冬の時代」と言われて久しいわが商社業界から見れば、まだまだ試していない企業努力がたくさんありそうで、こういうときこそチャンスなんじゃないかと思います。まずは「前向きの失敗」が必要なところですね。


<3月5日>(金)

○今宵は某所で経済政策を論じておりましたが、時節柄、話題が集中したのは「なぜ韓国企業は元気で、日本企業はサッパリなのか」でした。いろんな仮説がありますね。

●韓国企業は、基礎研究にカネをかけていないから利益率が高い。その点、日本企業は無駄な投資が多い。

(思えば昔の日本企業も、応用研究だけで楽して儲けていると批難されたものであった)。

●韓国企業は、新興国市場でやりたい放題をやっている。その点、日本企業はコンプライアンス過多になっている。

(お行儀が良くなり過ぎてしまったのでしょうか。商社業界も「不毛地帯」の頃とは様変わりしておりまして・・・)

●韓国企業は、実効税率が1割程度である。だから内部留保が多く、投資額も増やせる。その点、日本の法人税は高過ぎる。

(でも、それなら日本企業もシンガポールあたりに本社を移せば良いのである。それができないドメスチック体質が哀しい。もっとも某有名企業は、海外移転のシミュレーションをやったそうですが)

●韓国企業は、寡占体質への絞込みが出来ている。その点、日本企業は国内の競合相手が多過ぎる。

(アジア通貨危機の際に、韓国は「ビッグディール」で企業を絞り込んだ。だからサムソンとLGが世界ブランドになった。日本は総合電機が今も9社もある。これでは海外に出たときに勝負にならない)

●韓国企業は、大胆に若手社員を海外に出している。その点、最近の日本では商社や外務省でも若手が海外に行きたがらない。

(日本は国内の居心地が良すぎるのかもしれません。こればっかりは手の打ちようがないですな)

●韓国企業は、国内市場が狭いために危機感が強い。その点、日本は中途半端に国内市場があるので本気になれない。

(その国内市場も、少子高齢化で先細っているわけです。その点、韓国には北朝鮮というワイルドカードがありますからなあ・・・・)

○ということで経済界でも、キムヨナ一人に真央、美姫、明子が挑んで返り討ちに遭っているという図式です。やっぱりパシュートで勝負するしかないのでしょうかねえ。


<3月7日>(日)

○ウオッカが引退ですか。ドバイでGIIのレースに出走して鼻出血を発症。もう6歳馬なので、今後のことも考えて、オーナーが引退を決断。懸案のドバイワールドカップには出場せず、とのこと。うーん、惜しいですなあ。

○とにかく彼女は強かった。なにせGTレース通算7勝(史上最多タイ)、獲得賞金13億円(歴代3位)、2年連続年度代表馬ですから。特に東京府中では無敵の強さでした。個人的には、いつもウオッカに逆らって買って、取られておりましたな。「まさか牝馬が・・・」と、つい思ってしまうのです。最後のジャパンカップで初めて学習しました。コイツはホントに強いのだと。

○引退後のウオッカはアイルランドに渡り、昨年の凱旋門賞を制したシーザスターズとの種付けが予定されているとのこと。いつの日か、その仔の活躍を見てみたいものです。競馬とは、つまるところ親子の物語と見つけたり。そのときはきっと、ウオッカで乾杯、でありますな。

○その一方、同じレースで見事に勝利したレッドディザイアが、ドバイWCに参戦するとのこと。これまた楽しみな話で、個人的にはブエナビスタよりも彼女の方が好きですね。マンハッタンカフェの子だし。ウオッカのように大きな期待を背負っていないことも好材料。

○ドバイWCは、一等賞金が600万ドルという世界最高峰。でも、ドバイのお金もいつまであることやら分かりませんぞ。ギリシャショックが飛び火する前に、しっかり稼いできてもらいたいところです。バンクーバーは終わっても、日本勢の世界への挑戦は続きます。


<3月8日>(月)

○米国債の話になると、急に冷静さを失う人って多いですよね。「日本は早く米国債を売れ」「中国はしたたかにやっている。それに比べて日本は何だ」「もっと戦略的に考えろ」。・・・・まあまあ、そこは落ち着いて、まずは元データに当たってみましょう。

http://www.ustreas.gov/tic/ 

○さて、上のデータを元に、こんなグラフを作ってみました。ちょっと見てくださいまし。

○米国債の各国の保有高を棒グラフ(上)にしてみると、なるほど中国は多い(2009年末8,948億ドル)。でも、全体の量も増えているので、シェア的にはそれほどではありません。日本も7657億ドルと多いですが、ここ5年ほどはそれほど増減はありません。とにかく日中が突出していることが分かります。

○そこでシェアのみのグラフ(下)を作ってみると、中国は4分の1、日本が5分の1となります。このくらいなら、持ち過ぎて怖いというほどではないでしょう。ただし中国はこれ以上増えると、もう売れなくなりますね。逆に日本は、あと一息で全体の1割台に落とせます。

○しかし数年前を振り返ってみると、実は日本は海外保有分の米国債の3分の1以上を保有していたんですね。2003〜04年の円安介入の効果です。これはもう、売りたくても売れない。冷や汗ものですね。でも、当時はこの円安介入でデフレを脱出した。そして当時はテッパンの日米関係があったから、これが許された。

○ところがその後は、日本は着実に米国債のシェアを減らしているのです。実は日本は、上手にリスクを回避しているのではないでしょうか。なおかつ、「あいつは逃げた、けしからん」「不気味だ、怖い」的な非難も浴びてない。逆に中国ばかりが目立っている。

○さて、米国債を戦略的に扱っているのは、中国と日本の一体どちらでしょう。


<3月9日>(火)

○大分市工業会の通常総会で、講演会の講師に呼んでいただきました。ということで、大分まで日帰り出張。で、いろいろ面白かったのですが、本日最大の感動はこれでありました。

鮨 海甲

○大分空港の中の3階にある小さな鮨屋です。かねて商船三井さんから評判を聞きつけておりましたので、飛行機待ちの時間にえいやっと飛び込んで試したのですが、これが感動もの。

関アジ!

関サバ!

ひらめ!

ホンマグロ!

あなご!

(最後になぜか)平貝!

締めは卵!

○お陰さまで、短時間で豊後水道の海の幸を堪能いたしました。けっして便利な場所にあるとは言い難い大分空港ですが、鮨屋は絶品であります。

○ただし、お値段も「大人の料金」でありました。ご注意ください。とにかく単なる「空港内の鮨屋」と思ってはいけません。感動あるのみです。


<3月11日>(木)

○やっと天気が良くなったけど、今日はくしゃみもでるし、目も痛い。ご同様の方は少なくないようですが、まったく何とかならんものでしょうか。この花粉というやつは。

○さて、例の「日米密約」について少々物申したく。

○先進民主主義国では、なぜ外交文書の公開を行なうのか。それは正しい歴史を後世に伝えるとともに、国民に対して、「わが国外交は変なことはやっておりませぬ」ということを見せるためである。国民の信頼が強まれば、外交はやりやすくなる。相手国からの信頼も高まる。情報公開は外交に力を与えるのである。

○もっとも、そのためには民度も高くないといけない。情報公開とは、基本的に時効になった話を扱うものだ。「あのときのアレは嘘でした」みたいな話が出てきたときに、「ほら見たことか」などと鬼の首を取ったようになってもらっても困るのである。でないと、ますます真実が聞きだせなくなってしまう。「30年たったら情報公開」という原則は、「30年たったら歴史」(ゆえに個人の責任は問わず)と解釈すべきであろう。

○今回の密約も、「ウチの亭主は30年前に浮気してました」みたいな話であって、今や老夫婦になってしまった日米にとって、それほどクリティカルな事実とは思えない。もちろん多くの国民は「浮気」を感づいていたし、その手の証言も少なくなかった。それでも政治家や外交官が「浮気はありません」と言い続けてきたのは、もちろん保身もあるけど、その方が国益だし、傷つく人が少なくてすむと思ったからであろう。

○今となっては「30年前の浮気」は、淡々と認めればいい話であって、詫びろとか許せんとかいう話ではないだろう。なにしろ冷戦時代のことである。ぶっちゃけ亭主としては、「あのときは皆がそうだったんだから」と言うほかはない。問題は白状するタイミングがなかったことである。政権交代はいい機会なので、この機に正直な歴史を残すべきだろう。

○ただし過去を暴くことによって、今の問題に影響が出てはいけない。どの艦船が核を積んでいるかどうか、なんてことは米軍にとって機密の最たるものだし、それを敢えてぼかすことによって核抑止力を高めるという「戦略的曖昧性」の原則がある。そして日本はみずからの安全保障を、アメリカの核に依存しているわけであるから、このことは「非核三原則」を守る以上に重要なことだと思う。

○ということで、核持ち込みの密約が明らかになったことが、現政権の得点になると言いたげな岡田外相や、「だから外務省は信用できない」と言いたげな河野太郎氏は、あんまり外交には向いておられないんじゃないかと推察する。これぞジョージ・ケナンが忌み嫌った「法律家的=道徳家的アプローチ」であって、清濁併せ呑む外交の世界はそればっかりでは務まらない。まあ、お二人とも野党の党首であればいいけど、外相や首相には向いておられないのではないか。

○逆説的に聞こえるかもしれないが、「法律家=道徳家」が多い世界では正直者が現れにくくなる。そして情報化社会というものは、ついつい「法律家=道徳家」を増やしてしまうものなのだ。ご用心。
















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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)