●かんべえの不規則発言



2018年5月 






<5月17日>(木)

○わが国を代表する製鉄会社、新日鉄住金さんが来年4月から社名を変更して「日本製鉄」になるとのこと。戦前の翼賛体制を思い起こさせる名称ということで、戦後はずっと避けてきた名前が復活することになるのでありましょう。例えば、戦前の電力会社は「日本発送電」と言いました。もっともこの会社、典型的な「親方日の丸」体質で、戦時中にはしょっちゅう停電が起きていた。国策企業は碌なもんじゃない、という典型であったようであります。

○ところで今回の日本製鉄は、「ニホンかニッポンか」という古いテーマを呼び起こした感があります。実は企業名としては、「日本銀行」(お札には"Nippon Ginko"と書いてあるし、電話をかけるとちゃんと「ニッポン銀行です」と返事をする)、「日本郵船」(これもニッポンユーセンが正しい)など、ニッポンが優勢です。ところが全般で言うと、ニホンが圧倒的に多数なんだそうで、それも時代が下るとともにニホン>ニッポンになっているというから驚きです。

○少し前に出た記事ですが、これは「ニホン経済新聞」の記事から。

*話し言葉では98%が「ニホン」

*1963年調査では「ニホン45.5%」「ニッポン41.8%」と差がなかったが、1993年調査では「ニホン58%」「ニッポン39%」となり、2003年調査では「ニホン61%」「ニッポン37%」と差が開きつつあり。

*日銀が「ニッポンギンコー」になった理由は、創生期の通貨当局には「ニホン」よりも「ニッポン」を愛する薩摩人が多かったから。

*政府見解としては、2009年の麻生内閣が「どっちでもいい」と決めた。ただしどちらかといえば、自民党は力強い「ニッポン」を愛好し、民主党系は柔らかい「ニホン」を好むようである。

*スポーツの世界では、「ニッポン」が優勢で、そりゃあそうですわな。「ガンバレ・ニホン」じゃ力が入りませんもの。ここはやっぱり「ニッポン・チャチャチャ」でなきゃいけません。

○言われてみれば、「日本共産党」「日本社会党」など、左派系、リベラル系は「ニホン」を使いますね。逆に右派系、保守系は「ニッポン」。そのように考えれば、「鉄は国家なり」の日本製鉄は、ぜひとも「ニッポン」でなければなりません。よかったね、ニッポンセイテツ。

○ちなみに政府が判断を逃げてしまったために、「ニホンかニッポンか」の判定を押し付けられているのがNHKであります。そのNHKの判定はこちらをご参照。そのNHKの正式名称は、柔らかくニホン放送協会、ですよね。こういうのも日本の知恵というものでしょうか。


<5月18〜19日>(金〜土)

○金曜日はきらやか銀行さんの講演会講師で山形市へ。山形には2010年、2014年にも来ているので、不思議と4年おきにお呼びがかかるようである。いつも日帰りなので、今回は宿泊させてもらうことに。山形駅西口のワシントンホテルに泊まると、これがとっても高層であって眺めがよろしい。山形盆地が一望に見渡せる。ちょっと福島市に似た感じかな。

○一夜明けて土曜日は、山形新幹線で新庄まで行って、そこから酒田市に出るつもりであった。そして庄内空港から羽田経由で帰るという予定だったのだが、なんと昨日の雨で陸羽西線が不通だという。山形駅で、昼には復旧するかもしれないと言われたけれども、これでは本日中に庄内空港にたどり着けないかもしれない。即座にANAに電話して航空便をキャンセルしました。

○ホントはですねえ、酒田市で本間宗久の跡をたどるつもりだったんです。「本間さまには及びもせぬが、せめてなりたや殿さまに」の本間家である。そのために「本間宗久相場三昧伝―相場道の極意」なんて本も買ってあったんですよ。電車の中で読もうと思って。まあ、天候には勝てません。ここは「見切り千両」ということで酒田市を断念。

○しょうがないので、山形駅から手近の観光へ。まずは霞城公園(かじょうこうえん)へ向かう。山形城の跡地って、とっても大きかったのですね。全然知りませんでした。平城で天守閣もなかったけれども、堀は3層になっていてとてつもない広さだったようである。現在発掘作業中とのこと。敷地内には、山形県立博物館、山形市郷土館、県体育館などが並んでいる。

○出羽山形藩は、最盛期の最上義光(もがみ・よしあき)の頃には57万石だったそうである。それって伊達藩とほとんど変わらない規模じゃないですか。しかるに最上藩は、お家騒動でお取り潰しになってしまう。義光が11代だったので、最上家は13代で終焉する。山形の名酒「十四代」という名前は、きっとこのことに関係しているのでありましょう。山形藩は江戸末期には5万石まで減らされたそうなので、その悔しさが残っているんじゃないかなあ。

○それから上山市(かみのやまし)へ移動して、斎藤茂吉記念館へ。リニューアル直後とのことで、なるほど立派であった。茂吉は歌もさることながら、絵心のある人だったというのには驚きました。そのうえ医者なんですから、とてつもない才能ですな。敷地内には強羅にあった斎藤家の「勉強部屋」が移設してあって、なるほど晩年の茂吉と次男宗吉(北杜夫)が夏を過ごしたのはこんな家だったのか、と勝手に納得しました。

○ついでに天童にも足を延ばす。これはまあ、将棋ファンとして一度は行っておかなきゃいかんだろ、ということで。昨日は藤井七段が誕生し、本日は名人戦の第4局が行われている。ということで、将棋資料館へ。そのお隣には「天童将棋交流室」がある。要は将棋道場なのだが、ここには「将棋のまち天童からプロ棋士を」という標語があった。『3月のライオン』を読んでいる人なら、ここは笑うところですよ。

○ということで、締め切りをいっぱい抱えている身であるものの、山形で遊んでしまった一日であった。この後ろめたさによって、この後は仕事にエンジンがかかる、はずである。きっとだよ。


<5月20日>(日)

○以下は「本間宗久相場三昧伝―相場道の極意」からの抜き書き。


●米商いは踏み出し大切なり。踏み出し悪しき時は決して手違いになるなり。又商い進み急ぐべからず。急ぐ時は踏み出し悪しきと同じ。

――何事もスタート時点が大事です。

●米の高下は天声自然の理にて高下するものなれば、極めて上がる下がると定め難きものなり。この道不案内の人は迂闊にこの商いすべからず。

――株でも競馬でもまったく同じですなあ。

●米買うべしと見込み候時、二俵方も引きあがる時は、買いおくれじと心得、かえって売り方になることあり。はなはだ誤りなり。買いおくるる時は唯買い場を待つべし。

――ちょこまか動いちゃいけません。初志貫徹でなきゃいけません。

●商い利運仕当たる時、先ず大概に致し、取り留むるものなり。その節一両日休むべし。この休むことを忘るる時は、何程利運に向きても、商い仕舞の節は決して損出すべし。

――儲かった時は、感謝していったんブレイクを入れること。

●底狙い、天井狙い、売買すること。専ら心掛くべし。

――中途半端なことは考えちゃいけません。

●十人が十人片寄る時は決してその裏来るものなり。

――「ある、ある!」

●思い入れ違いは早仕舞い、行き付きを見るべし。

――ナンピン買い(売り)は悪手、相場に逆らっちゃいけません。

●天井を買わず、底を売らず。但し、第一の心得なり。

――「天井売らず、底買わず」という格言もあります。

●足らぬものは余る、余るものは足らぬと申すことあり。

――豊作の年は贅沢に使うので米が足りなくなり、不作の年は大切に使うので余るんだそうです。

●腹立ち売り、腹立ち買い、決してすべからず、大いに慎むべし

――競馬場でこれをやったら確実に負けます。

●米商いは軍術と同じ。

――軍事でも投資でも、戦略を自在に使いこなす人は実はとっても少ないのです。

●もうはまだなり。まだはもうなり、ということあり。

――基本です。

●すべて、相場高下の論致すまじきなり。この道を心得る人は、わが了見を立てず、人の了見にて商いする人はなきはずなり。

――プロは寡黙であるべし。

●新米出始め候ては、前年の心さっぱりと離れ、その年の作の様子、物の多少、人気の次第を考うること第一なり。

――去年のことはリセットしましょう。

●一年中、商い手の内にある時は利運遠し。折々仕舞い候て、休み見合わせ申すべきこと第一なり。

――休むも相場。


○以上、すべて自分用のメモでありますから、「あれはいったい何のことだ?」などと聞かれても困ります。なにしろ最終章では、本間宗久は「この書、懇意の間柄にても、必ず必ず、見せ申すまじきなり。大切に心得、秘蔵すべし、慎むべし。秘すべし」と言っているくらいなんですから。


<5月21日>(月)

○最近の仕事のご紹介。

●ウェッジ 「地政学リスクと日本のエネルギー」

――先日、訪れた磯子の石炭火力発電所の報告編です。クリーンコール発電に関するJ-Powerさんの記事広告から。エネルギーの世界は昔から地政学なんです。

●東洋経済オンライン 「アルゼンチン通貨急落は『何かの前兆』なのか」

――アルゼンチンタンゴの次はトルコ行進曲が聞こえてくる、てな話を書こうかと思いましたが、不謹慎かな〜と思いとどまりました。いやもちろん、イタリアン・ワルツとかメキシカン・テキーラ音頭でもなんでもいいんですけれども。

○本日、韓国の外交官とお話しする機会があって、かの国はとっても今、歴史的高揚感があるのだということに気がつきました。そりゃあ、そうだよね。あの北朝鮮が変わるかもしれないのだから。去年までは確率ゼロだったものが、今年はゼロではなくなっているのだから。日本国内の期待値の低さは、ちょっと異様なくらいかもしれません。


<5月22日>(火)

○今月は16日に発表された1-3月期GDP速報値が思ったよりも悪かった。足元の景気は良いとばかり思っていたのに、これは大丈夫かな、と思ったところ、昨日出た貿易統計では、4月の輸出は前年同期比+7.8%と意外とよかった。これくらいであれば、来週31日に発表される4月の鉱工業生産も悪くはないだろう。

○なぜなら日本のモノづくりは輸出次第。貿易依存度は低いのに、昔からずっとそうなの。鉱工業生産は、輸出の実額とそっくりなグラフを描く。輸出と鉱工業生産が4月以降にちゃんと伸びるなら、1-3月期のマイナス成長は天候などの特殊要因、と位置付けることができる。

○こんな風にして、景気への認識はちょっとずつ変わっていくわけだが、しみじみ「日本経済は受け身だな」と感じる。内需主導で伸びる、ということはほとんど考えにくい。つまりは外需次第。海外の景気が良ければ、輸出主導型で景気が良くなる。しかし輸出の上位10品目は、2005年当時と2017年を比較するとほとんど変わっていない。わずかに「半導体等製造装置」が新たに加わっただけである。

○どうも日本発の画期的な新製品、新技術が出てきて、一気に新しい需要を開拓するという感じではない。ただし一定のクオリティの製品をきっちり作る能力はあるし、適度な改良もあるから一気にずり落ちるという感じではない。日本の輸出の6割は機械機器で、そこは何とか踏みとどまっている。

○なかでも自動車の占める比率は高い。自動車と自動車部品を足すとそれだけで輸出全体の2割になる。しかも巨大な裾野産業を抱えている。この自動車がダメになったらどうするのか。そして自動車をめぐる環境は、自動運転やらEVやら急速に転換しつつある。そして日本の輸出品目第1位は、1980年頃からずっと自動車が第1位。かれこれもう40年になる。それでも「ポスト自動車」はなかなか見えてこない。

○もうひとつのリスクはアメリカ主導の貿易戦争。中国製のハイテク製品には、大量の日本製部品が使われているので、中国製品への制裁措置は日本を直撃することになるだろう。それに比べると、鉄鋼アルミへの制裁関税などちっともこわくない。だって4月の対米鉄鋼輸出は増えているんですぜ。25%も関税かけられているのに!

○などと、貿易をめぐる話は尽きない。今どき貿易赤字を敵視するトランプ大統領の時代においては、こちらも少し古い発想をした方がいいのかもしれない。通関統計を見ながら、地道にモノの動きをチェックする、という作業は退屈しないものがある。


<5月23日>(水)

岡崎研究所の理事会へ。考えてみたら、岡崎久彦氏が亡くなられてもう3年半になる。幸いなことに、研究所の方は茂田宏所長・理事長の下でつつがなく続いております。

○今回の特記事項はこういう本が刊行されたこと。『陸奥宗光とその時代』の英訳であります。


Mutsu Munemitsu and His Time

Okazaki Hisahiko
Translated by Noda Makito

Published by JPIC | Hardcover | ISBN 978-4-86658-025-8 | 352 pages | 220mm (h) x 148mm (w) | March 2018


○日本外交史シリーズは、これから順々に英訳されていく予定です。

『陸奥宗光とその時代』(PHP研究所 1999年)「外交官とその時代」シリーズ第1巻

『小村寿太郎とその時代』(PHP研究所 1998年)「外交官とその時代」シリーズ第2巻

『幣原喜重郎とその時代』(PHP研究所 2000年)「外交官とその時代」シリーズ第3巻

『重光・東郷とその時代』(PHP研究所 2001年)「外交官とその時代」シリーズ第4巻

『吉田茂とその時代』(PHP研究所 2002年)「外交官とその時代」シリーズ最終巻


○ちょっとだけ悩ましい点がある。岡崎作品は塩野七生作品などと一緒で、フットノートがついていない。アカデミズムは別にして、日本におけるノンフィクション作品はもともとそういうものだったのです。ところが「歴史もの」として英訳されると、海外の読者にはその点に違和感があるかもしれない。

○昔はねえ、そんなこと誰も気にしなかったんだよねえ。てなことが気になるということは、ワシも古い人間になりつつある、ということですな。まあ、お蔭で岡崎大使に出会えて、いろいろ教わることができたわけなのでありますが。


<5月24日>(木)

○ある私大関係者の述懐。

「日大はねえ、あそこは日本最大の学生数だけれども、大半は下から上がってくる(日大×高など)子供たちだからねえ。学校のイメージが悪化すると、受験者数が減ってたちどころに収益を直撃する、という恐怖感がないんだろうなあ」

○なるほど、納得であります。緊張感のない組織は、ときどきこういうことが起きてしまいます。

○会社生活における20代のほとんどを「広報室」で過ごしたワシとしては、「広報の最大の敵は愛社精神である」と思っている。会社がぶっ叩かれたりすると、「うちは間違っちゃいない。悪いのはメディアだ」みたいなことを言い出す変に愛社精神の強い人が出てくるんですよねえ。それで簡単に終わる話がかえって長引いてしまう、みたいなことがよくあるわけでして。

○これ、同じことが愛国心にも言えます。是枝監督のパルムドール作品、『万引き家族』という映画、たぶん私は見ないと思いますが、「なんでそんなに日本の評判が落ちるような映画を撮るんだ!」と言って怒るような人って、いますよね。でも、この手のエンタメの世界では、自国の悪いことをとことん抉り出せる国の方が尊敬されるものです。ハリウッドも最近は地に墜ちた、と言われつつ、ときどき『デトロイト』みたいな映画を作りますからねえ。

○大事なことは自分が所属する組織を客観化できるかどうかでありまして、今の日大さんは「変な愛校心」が邪魔をしているように思います。


<5月25日>(金)

○今日はテレビ東京「ゆうがたサテライト」へ出陣。こういう日に限って、「米朝首脳会談中止」「日大の学長が記者会見」「籠池被告が保釈」など、耳目を集めるようなネタが満載である。池谷キャスターからは、「あいかわらず、もってますねえ」と、褒めるような、半分あきれたような声が。

○北朝鮮ウォッチャーを急きょ呼びます、というから、誰だろうと思っていたら伊豆見元先生でありました。「米朝首脳会談の復活、ありますか?」と聞かれて、私は「中国による仲介?」(があれば、何とか実現できるかもしれない)と書いたのですが、伊豆見先生は「今夜にでも再開可能」というお答えでした。そりゃそうだ、何しろトランプさんと金正恩さんなんだもの。

○思えば伊豆見先生と始めで出会ったのは26年前のボストンでありました。近年では毎年、日韓対話でご一緒する機会があります。不思議なご縁でありますが、会うたびにいつも刺激を受けております。













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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)