<4月1日>(水)
〇早起きして全日空で福岡空港へ。地下鉄2駅で博多駅。ここからJRで移動するのだが、まだ午前10時台である。毎度感動的な便利さである。
〇まずは鳥栖市へ。福岡県のどてっぱらに佐賀県の東端が食い込んでいて、ここが九州における南北と東西の交通路の結節点となっている。江戸時代の当地は、対馬府中藩の飛び地であったというから、まことに不思議な歴史である。鳥栖駅のすぐ隣には、サガン鳥栖のホームスタジアムがある。名前が「駅前不動産スタジアム」という。便利なことこの上ないが、やや脱力系のネーミングである。
〇鳥栖は売薬さんの街でもあった。売薬はわが富山県の専売特許というわけではなくて、大和、近江、田代(≒鳥栖)を併せて「四大売薬」と呼ぶのだそうだ。その田代売薬の伝統を受け継ぐのが、「サロンパス」で有名な久光製薬である。ここに「中富記念くすり博物館」という面白い施設があります。
〇鳥栖駅のホームにある立ち食い店で「かしわうどん」(これが評判)でお昼。そこから久留米市へ。どの方角を見ても「ブリヂストン」の社名が目に入る。文化センターに大学に美術館に公共施設と、石橋正二郎氏がいろんなものを残していて、その気前の良さに圧倒される。が、久留米はもともとは有馬藩である。そして有馬家第14代が、競馬ファンならだれでも知っている有馬頼寧である。
〇久留米城跡地には「有馬記念館」がある。「有馬記念の館」ではない。「有馬家の記念館」である。代々、細長い殿様顔の一族で、源流は秀吉の家臣であったが、関が原の頃には家康のお気に入りになっていて、九州に20万石を得た。そしてまた、この記念館も石橋正二郎の寄付により建てられたものである。
〇そこから西九州新幹線で長崎へ。新鳥栖駅から武雄温泉駅までは未完成であって、「リレーかもめ号」に乗ることになる。そこで乗り換えた先の長崎駅まではほんの30分である。長崎市は、3年前の春にも来たけれども、金沢駅もそうだけど、つくづく観光都市に新幹線が通ると、不思議なくらいにカッコいい駅ができるものである。
〇長崎駅の近辺を歩いてみた。少し離れたところに、「いい店オーラ」を放っている一帯がある。特に台湾居酒屋『老李』と、お隣の『キッチン政』の2軒がすばらしい。少しビンボくさい店の構えなるも、「ウチはとっても旨いぞ〜」と語り掛けている。
〇『老李』を選んだところ、大当たりでありました。ここの水餃子はすばらしい。台湾居酒屋とは言いつつ、なぜか四川風のメニューもあり、締めは「ちゃんぽん」である。そうなのだ。料理に国籍を問うなかれ。東シナ海の流儀はクロスオーバーなのだ。
〇後で調べて、老李グループ・ジャパンは巨大なチェーンであることを発見する。日本橋にも店があるんですと。畏れ入りました。
<4月2日>(木)
〇森進一の『港町ブルース』という歌がある。全国の港町が北から順に登場し、以下のような地名が登場する。
函館、 宮古・釜石・気仙沼、 三崎・焼津・御前崎、 高知・高松・八幡浜、 別府・長崎・枕崎、 鹿児島
〇横浜と神戸、というわが国における港町の「ツートップ」が入っていない。1969年に作られた歌なので、沖縄が返還される前であるから、那覇も入っていない。また、日本海側の地名がないのも残念なところで、個人的には酒田、新潟、舞鶴、境港なんかも入れてあげたい気がする。また、これは完全に余計な話だが、金額的に言えば今日のわが国第一位の港は名古屋港である。
〇そうではなくて、漁港など小さめの「港町」にいる女の視点による演歌である。全国の地名を読み上げていって、「ご当地ソング」としてヒットしたわけである。当時のワシは「地理」が大好きな小学生であったが、「みやこ・かまいし・けせんぬま」というフレーズに感動した覚えがある。そうか、「みやこ」は「都」ではなくて、「宮古」という地名なのかと。ああ、気仙沼だけまだ行ったことがない。
〇この歌に描かれたような「港町」は、この歌が作られた頃のような高度成長期はさておき、今ではどこも人口減少問題を抱えている。それというのも、天然の良港があるところは、だいたいが坂の多い街となる。「横須賀の空き家問題が深刻だ」なんて話を聞くけれども、老人に坂の多い街はツラいのである。
〇長崎もまた坂の街である。観光客が多くて、市電に乗っても本当に外国人が多い。いわば「関係人口」には恵まれているけれども、人口減少は全国でもかなりの規模なんだそうだ。3年前に経済同友会の全国セミナーで来たときは、「だから長崎スタジアムシティを作るのだ」というお話を伺ったものである。
〇しかしここへきて「ホルムズ海峡封鎖」という問題が発生して、「日本はやっぱり海の国」であることを痛感させられる事態となっている。貿易の再評価、そして港町の復権を目指さなければならないのではないか。それにしても今日のトランプ演説はいただけなかった。あれでは何も言わない方がマシであった。それではワシの持ち株も下がってしまうではないか。
〇などと国際情勢やマーケット動向は気になるのであるが、本日は長崎市内の観光に励むのであった。
<4月3日>(金)
〇本日は島原半島に移動して、世界遺産を探訪する。天候に恵まれて、至るところ桜が満開であります。
●原城址:島原・天草一揆の舞台となったところ。明日は「原城一揆まつり」が予定されていたが、雨予報につき順延になるとのこと。
●有馬キリシタン遺産記念館:キリスト教弾圧とその後の潜伏、復活に至る道筋を分かりやすく展示しています。
●西望公園(記念館):長崎の平和祈念像の作者として知られる彫塑家、北村西望の生家にある芸術公園。とても親切に説明してもらいました。
●原城聖マリア観音:原城の犠牲者を追悼するために、40年かけて作られた高さ10メートルのマリア像。九州産の楠で作られています。
〇あいかわらず仕事も気になるのではあるが、九州を観光しております。至るところで、フレンドリーに声をかけていただいております。ありがたいですねえ。
<4月4日>(土)
〇今回の旅行では雲仙観光ホテルに宿泊しました。クラシックホテルというのはいいものでありまして、ウチの夫婦は一昨年は奈良ホテル、去年は箱根富士屋ホテルに泊ったのですが、今年は雲仙に来たわけであります。
〇なにしろ昭和10年(1935年)に、当時の鉄道省が「外貨獲得のため」に作った外国人向けのホテルなんです。軍の徴用施設になったり、進駐軍に接収されたりという歴史もあるわけですが、昭和天皇をお迎えしたこともある由緒あるホテルです。
〇しかしまあ、昨日は晴れで花見日和のぽかぽか天気。夜半から雨となり、風も強かったと見えて、今朝になったらかなりの部分が散ってしまっていたようです。山の天気は変わりやすいのであります。
〇本日はチェックアウトして、佐賀市内をうろうろして、福岡市まで来て泊っております。明日の大阪杯がどうなるか、ちょっと気になります。
<4月5日>(日)
〇今日は好天。大濠公園まで行ってみたら、ちょうどさくら祭りの最終日であった。福岡城の桜はまさに今日が満開。そして原城址もそうでしたが、古い石垣に桜はとても似合うのです。
〇さくら祭りには地元の善男善女が集まってきている。近県のいろんなナンバープレートのクルマが行列を作っているし、クルーズ船で来たと思しき外国人観光客も大勢いる。どうみても、「お前ら昨晩から徹夜だろ?」と言いたくなるような若者たちもたむろしている。とにかく賑やかな博多の日曜日であります。
〇目指すは鴻臚館展示館。平安時代に、唐や新羅からの使節を招いていた迎賓館の跡地である。どこにあるのか分かっていなかったのだが、なんと平和台球場の地下から発掘された。つまり福岡城の中にあったわけである。
〇そんな大事なものの上に城を作るなんて、黒田官兵衛・長政親子はなっとらん、やっぱり九州のことがよくわかっていなかったのではないか、とワシ的には考えていたのであるが、今日の展示館を見てよくわかった。こんな地下深くに隠れていたのでは、そりゃあ分からなかったのも無理はない。
〇展示を見て感心したことがある。戦前の九州帝国大学医学部に中山平次郎という教授が居て、この人が歴史マニアであったらしい。万葉集などの記述から考えて、「鴻臚館は福岡城内にあったはず」との仮説を提示した。そうは言っても、当時の福岡城は帝国陸軍の駐屯地であるから、なかなか研究は進まなかったのである。
〇戦後になり、国体が開かれ、平和台野球場が作られた。「あそこが怪しい」とは分かっていたものの、なかなか発掘調査は行われなかった。その後、平和台をホームとしていたクラウンライターライオンズは西武に買われて所沢に行き、少し後にダイエーホークスがやってきた。そのホークスは1993年に福岡ドーム(現・ペイペイドーム)に移転したことで、ようやく発掘のチャンスが回ってきた。1999年のことである。
〇古くから福岡は日本の玄関口であった。今だって空路で行けば、東京よりも、ソウルや上海の方が近いのだ。お客様を歓迎するフレンドリーなDNAが流れていて、新しいものが大好きな一方で、古いものをあんまり大事にしないところがあるらしい。まあ、ご当地出身のタモリさんを見てると、なんとなく分かるよね。
〇ところで、「福岡城に天守閣がなぜなかったのか?」という件。黒田親子が加藤清正の熊本城と張り合わなかったとは考えにくいのだが、関ヶ原の戦いの最中に九州一円を斬りとっていた官兵衛さんの行いは、確実に徳川幕府の疑念を呼んでいたはずなので、やっぱり「敢えて作らなかった」と考える方が自然なのかもしれない。
〇その後の島原の乱においては、二代藩主の黒田忠之が1万8000の兵を率いて参戦し、武功を挙げている。「お爺ちゃんはキリシタン大名だった」ことを本人がどう思っていたのか、ちょっと興味深くはある。
<4月6日>(月)
〇ということで、昨日で家に帰り着いたのだけれども、長崎、佐賀、福岡と3県を回って、いちばん印象に残っているのは島原半島である。「雲仙観光ホテル」に泊ったはいいけれども、せっかくだからということで、キリシタン遺産関連を見に行った。予備知識はあんまりナシでした。
〇島原・天草一揆では、今も残る原城に3万7000人もの信者が立てこもった。当時のことゆえ、たぶんこの地域の「ほとんど全員」だったのではないかと思う。必然的に戦いの後の当地は人口が希少となり、幕府は各藩に対して農民の移住を命じた。だから今日、島原・天草地区の住人は「他所から来た人たちの子孫」が多いのだという。
〇例えば「島原そうめん」という地元名物がある。これは島原の乱後に、小豆島から当地に移り住んだ人たちが作ったらしい。それではあまりにも悲惨な歴史になってしまうので、「中国福建省から伝来した」という説もあることになっている。しみじみ日本史の中でも、最大級の悲劇ではないかと思う。
〇鎮圧した幕府側も驚いたようである。禁教令は、この島原の乱を経て一気に厳しくなった。それまでは「キリシタンって、ちょっとコワいかも〜」くらいだったのが、宗教戦争の怖さを知っていよいよ弾圧に力が入った。徳川家は三河時代以来、一向一揆との戦いはよくご存じのはずなのだが、少々勝手が違ったのかもしれない。
〇それと一緒にしてはいかんのだが、信仰心や宗教戦争のコワさを理解していなかったと思われるのがトランプ大統領である。「人は利益動機のみにて生きるものである」というのが、この人の昔からの認識である。イランは脅せば引くと思った。しかるに彼らにとって、これは「聖戦」である。その結果、ご本人がブチ切れしながら、「最後通牒」を何度も延期する羽目に陥っている。
〇あるいはアメリカが手を引くぞと脅せば、ウクライナはロシアに対する和平を呑むだろうと考えた。だが、弱い者にも「意地」がある。むしろ「意地」を売り物にしているゼレンスキーのような人もいて、そういう人物には世間の支持が集まる。普通のひとなら誰でもわかることだけれども、なぜか米大統領にはわからないらしい。
〇そういえばトランプさんは、「ハノイ・ヒルトン」で5年間頑張り通したジョン・マッケインの「軍人の意地」も理解できなかった。だったら黙っていればいいものを、わざわざ悪口を言って顰蹙を買う。ここまでくると、勘違いも愛すべきものかもしれない。
〇とはいえ、「よくわかっていない人」が現場を無視して独断専行するときに、得てして大きな悲劇を招く。日本時間の明日午前2時に記者会見するらしいですが、いったい何を言い出すのやら。
<4月7日>(火)
〇悔しい。わざわざ午前2時に起き出して、トランプ大統領の記者会見を視聴したのであるが、まったくの茶番劇であった。損した。
〇そもそもアメリカ時間の4月6日はイースターマンデー、復活祭の翌日でお休みである。午前中にはホワイトハウスで、定番の「イースター・エッグ・ロール」(卵転がし競争)が行われている。大統領夫妻の招きで子どもたちが大勢参加する、というアレだ。その日の午後1時からの会見なのだから、賢者はそこで察するべきである。要するにイエス・キリストの復活に重ね合わせて、「無事に敵地から帰還できたアメリカ兵に幸いあれ!」というイベントなのであった。神は偉大なり。
〇しかもトランプさんが長々と米兵士の救出劇を自画自賛した後は、CIA長官、国防長官、統合参謀本部議長が記者団を前に次々とひとことずつ述べる。なんという見苦しい「我褒め」の図であろうか。秘密作戦だったのに、よくまあ手の内を明かすわなあ、と呆れるけれども、所詮はMAGA派対策なのだと思えば、あんまり腹を立てるのも考えものであろう。
〇特にケイン統幕議長は、心中穏やかならざるものがあったと思料いたします。いつなんどき辞表を叩きつけても不思議はないのだが、自分が辞めたらいよいよ米軍は次がない。なにしろケイン氏、第1期政権でトランプさんの覚えがめでたかったとはいえ、3つ星の空軍中将で退役済みの人間が、いきなり「制服組のトップ」に着くなんて、本来はあり得ないことだったのだから。ここで自分が投げ出したら、米軍にもう「二の矢」はない。そういう風に覚悟しているのかもしれません。
〇でもって、明日の日本時間午前9時(東海岸時間午後8時)には地上戦開始か、それとも交渉入りかが問われるところである。
〇以下は、今からほんの1時間くらい前にAxiosが報じた内容である。翻訳はDeep
Lを使いました。
●Trump's
tipping point: Destroy Iran's infrastructure or give talks a
chance
(トランプ氏の分水嶺:イランのインフラを破壊するか、交渉にチャンスを与えるか)
トランプ大統領は、厳しいタイムリミットの中で重大な決断を迫られている。東部時間午後8時からイランのインフラを壊滅させるという脅しを実行するか、それとも交渉にチャンスを与えるために自らの期限を再び先送りするかだ。
なぜ重要なのか:
トランプ氏は、イランのすべての橋や発電所を深夜までに破壊すると脅しているほか、一般のイラン国民に壊滅的な影響を与え、地域全体で危険な報復を引き起こす可能性のある選択肢を提示している。
*パキスタン、エジプト、トルコの仲介役たちは、合意を成立させるか、少なくとも期限を延長することで、そのような事態を回避しようと動いている。
*「大統領が合意がまとまりつつあると判断すれば、おそらく実行は見送るだろう。しかし、その決定を下せるのは大統領ただ一人だ」と、政府高官はAxiosに語った。国防当局者は、今回期限が延長されることについては「懐疑的」だと述べた。
*本記事は、現在進行中の外交交渉やトランプ氏の考えについて直接的な知識を持つ6人の当局者および情報筋へのインタビューに基づいている。
舞台裏:
ここ数日間に数回トランプ氏と会談した米情報筋によると、イラン問題に関して、トランプ氏は政権上層部の中で最も強硬な人物かもしれない。
*「大統領は狂犬のように最も血に飢えている」と別の米当局者は述べ、ピート・ヘグセス国防長官やマルコ・ルビオ国務長官が彼を煽っているという報道を否定した。「大統領に比べれば、あの連中はハト派のように聞こえる」
*トランプ氏は、発電所や橋梁を攻撃する計画について、側近や顧問たちに「『インフラ・デー』についてどう思うか」と尋ね、彼らの反応を探り始めている。
詳細解説:トランプ氏の交渉チーム――J.D.ヴァンス副大統領、スティーブ・ウィトコフ氏、ジャレッド・クシュナー氏――は、可能であれば今すぐ合意を目指すべきだと考えている。
*一方、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、サウジアラビアとUAEの指導者たち、そしてリンジー・グラハム上院議員(共和党・サウスカロライナ州)のような政治的同盟者たちは、イランがホルムズ海峡の再開や高濃縮ウランの全放棄といった、現時点では実現の可能性が低いと思われる譲歩をしない限り、トランプ氏に停戦に合意しないよう強く求めている。
(以下略)
〇願わくばヴァンス副大統領の説得が功を奏して、トランプさんがTACOってくれればいいのだが。イラン側の平和提案10項目の中には、核開発に関する項目が入っていない。この辺が鍵になりますでしょうかねえ。
<4月8日>(水)
○今朝はテレビ東京へ。WBSでアメリカのイラン攻撃に関するコメントを収録したいから、午前9時に来てくれ、というから焦りましたがな。いや、ホント、午前9時にはどうなっているんだろう。地上戦突入か。それが核攻撃だったらどうしよう?
〇トランプ氏の「今夜、ひとつの文明が終わる」などという文言は、どう考えても「核兵器を使ってやるぞ、ザマーミロ」と言っているように思える。先週、長崎市を訪れた者としては、「すわ、人類3つめの核の悲劇が今日にも?」という思いも駆け巡るところである。そういえば先週、4月2日にランディ・ジョージ陸軍参謀総長が更迭されたのは、核の使用に反対したからだったのかも・・・・?。
○と、ビクビクしながら向かったところ、都内に向かう電車の中で「2週間の停戦へ」の報が飛び込んできた。ああ、世界は救われた。トランプ氏はまたもTACOってくれて、石油価格は下落し、株価は上昇し、金利は低下し、ドルは売られた。慶賀に絶えず。
○今回の場合、パキスタンのシャリフ首相が「時の氏神」になってくれた。考えてみれば、今のトランプさんにとって、「お前がそれほどまでにいうなら、考え直してやろう」と言える相手は極度に少ないのである。
○この点で、ヴァンス副大統領では役不足なのである。ヴァンスがトランプを止めてくれたら、それは大いに結構なことだが、その場合、トランプ氏は速やかにレイムダック化し、残りの任期はホワイトハウス内が皆、ヴァンスの方を向いて仕事するようになる。だからやっぱり、外国首脳でないと困るのである。
○ところがほとんどの外国首脳は失格である。欧州諸国は揃って大嫌いだし、カナダやメキシコは論外。日本と韓国と豪州も、「ホルムズで助けてくれない」役立たずどもである。ロシアと中国は別の意味でダメだろう。となると、自発的にイランとの仲介役をやってくれているパキスタン、エジプト、トルコくらいしか残らない。
○なかでもパキスタンのシャリフ首相は、トランプさんの覚えがめでたい。というのは、昨年4月に印パ間でカシミール紛争が勃発した際に、アメリカが調停したことになっている。インドはそのことを認めず、「カシミールは二国間問題である」という立場である。その点、パキスタンは「トランプさんのお蔭だ。ノーベル平和賞に推薦したい」と可愛らしいところを見せた。
○その結果、米印関係は悪化して、昨年はインドが議長国だったクワッドの会議も行われたなかった。ヘタすればこのまま建ち消えになりそうだ。逆にパキスタンは「愛いやつ」となった。わかりやすいですねえ。パキスタンがどうやってイランを説得したのか、実は中国に泣きついて動かしてもらったのかもしれないけど、とにかくグッジョブでした。
○問題は2週間後ですなあ。イランが出した10項目提案は、到底、アメリカが飲めるようなものではない。そして国家の命運を賭けた交渉となると、イランの粘り腰はとてつもないものがある。それはP5+ドイツを相手に回したJCPOAの協議で折り紙つき。とにかく煮ても焼いても食えない人たちなのだ。2週間後にまたまた交渉が決裂したときは、今度は誰が助けてくれるのだろう?そして、そのときのマーケットの反応は?
○いやもう、ハラハラさせられます。ジェットコースターのような日々ですが、これだけボラが高いと投資家はホントに大変です。
○ところで今日、椿山荘で行われている名人戦第1局の初日、先手の挑戦者・糸谷哲郎八段が初手「1六歩」と端歩を突きました。阪田三吉みたいですねえ。藤井聡太名人が普通に「8四歩」と応じると、3手目は「1五歩」。38手目で封じ手となりましたが、本日は将棋でもすごいものを見させてもらっております。
<4月9日>(木)
〇先週発表の日銀短観3月調査は、日経新聞の見出しが「大企業製造業の景況感、4四半期連続で改善」というくらいでしたから、総じて底堅い印象でありました。中東情勢によるエネルギー価格の高騰を受けて、先行き3か月の判断は製造業、非製造業ともに悪化だったのですが、「AI需要はまだまだ強いんだな」などと感じたものです。
〇ところが昨日公表された「3月景気ウォッチャー調査」は、もうほんとメタメタな内容なんですよね。現状判断DIは前月比▲6.7pの42.2に悪化、先行き判断に至っては、▲11.3pの38.7まで低下しました。これはもうコロナ感染や「3・11」並みの落ち込みです。
〇いずれも調査期間は3月下旬となりますが、企業の景況感と「街角景気」の受け止め方はかくも違うのか、と感心してしまいました。考えてみれば、企業の設備投資判断などはそうそう変化するものではない。逆に消費者は、ほんのちょっとした変化で消費行動が変わってくる。「景気」を考えるときは、後者を重視すべきでありましょう。
〇コメント欄を読んでいて、面白いことに気が付きました。この調査は「全国の景気に敏感な職種の方々」に対するアンケートなんですが、「タクシー運転手」が5件、「コンビニ」が10件ある。この中で数件が同じことを言っていて、それは「この季節になると、暖かくなって人が動き出すはずなのに、売り上げが伸びてこない」ということなんです。
〇そういえば、そうなんですな。桜の季節になると、一気に表を歩く人が増える。当然、タクシーやコンビニの利用は増えるはず。ところが売上が伸びてこない。消費マインドが冷え込んでいるらしい。おいおい今年はヤバいぞ、という判断になっているのです。そのほか、以下のような指摘がありました。
*今年は雪解けが早かったから、タクシー需要が低下している(北海道、タクシー)
*単価上昇による売り上げ増加の効果が薄れている(東北、コンビニ)
*おにぎり等、単価が上昇している商材に全く手が伸びない(南関東、コンビニ)
*例年のように来客数は増えてきたが、売り上げの伸びは小さい(東海、コンビニ)
*最近は客の動きが低迷しているように見える(東海、タクシー)
*たばこまでが値上がりとなり、客の節約意識が高まった(近畿、コンビニ)
*特に朝の通勤前の時間帯での来店が低調である(中国、コンビニ)
*各家庭で複数台のクルマを所有しているところが多く、「ガソリン代で小遣いがなくなった」という声も聞かれた(四国、タクシー)
〇こうしてみると、景気は既に曲がり角を迎えているような感じですね。景気ウォッチャー調査は、何と言っても速報性がお値打ちなのであります。
<4月10日>(金)
〇本日はラジオNIKKEIへ。出演は「マーケット・プレス」ではなくて、「交流戦!競馬・桜花賞」の方である。
〇JRAは既に先々週からG1シリーズに突入しておりますが、この週末はいよいよクラシックレース第一弾、桜花賞が行われる。本日のお相手は大関隼アナウンサー。当方が何を言っても、打てば響くように関連の馬名が飛び出します。ちなみに今週末は大関アナの実況中継はないようですが、次週4月19日には中山競馬場の後半、つまり皐月賞のご担当ということになります。
〇で、番組終了後に雑談していたら、そこへ中野雷太さんがご登場。競馬ファンなら誰でも知っている正確無比の実況アナウンサーだが、現在は日経ラジオ社の取締役(経理担当)でもある。たまたま先日、経理に関するお問い合わせメールを頂戴したので、こちらとしては震え上がった次第。「おお、雷太さんからメールをもらったぞ!」(自慢できるぞ〜!)
〇そもそも日経ラジオ社(旧・日本短波放送)は、日本経済新聞社の数ある子会社のひとつである。同社のミッションその1は、当然のことながらマーケット情報を流し続けることにある。ところが2番目の使命は、「競馬の実況放送ができるアナウンサーを育成すること」なのである。これだけはAIでも代替できない。そこで最近はちゃんと女性アナも育てているし、とっても偉いのである。
〇でまあ、同社では「競馬に造詣が深い著名なマーケット関係者」ということで、ときどき不肖かんべえにご指名が来る。ありがたいことである。ちなみに当方の桜花賞予想は、明日公開予定の東洋経済オンラインをご参照ください。
●またまたトランプ大統領の「TACOマジック」が炸裂する? 荒れるマーケットで個人投資家はどう生き残ればいいのか。
<4月11日>(土)
〇今日は日台関係研究会へ。今月の講師が河崎眞澄さんだというから、久しぶりに話を聞きたくなったので。河崎さんは元産経新聞記者で『李登輝秘録』の著者。現在は東京国際大学の教授を務めている。
〇今年は台湾が総統選挙を民主化してから30年目に当たる。蒋経国総統の急死に伴い、憲法上の規定によって李登輝さんが副総統から昇格したのが1988年のこと。だましだまし政権を運営しつつ、小刻みに憲法を改正して総統直接選挙を導入した。そして1996年3月23日に行われた総統選で581万票(54%)を獲得し、選挙による初代総統に就任した。
〇民主主義に対する疑念が強まっている昨今においては、この偉業の値打ちは理解しにくいかもしれない。しかし国際社会の中で孤立していた当時の台湾にとって、「民主主義」こそがソフトパワーであり、生存戦略そのものでもあった。李登輝さんは「ミスター・デモクラシー」として認識され、天安門事件後の「共産・中国」との対比を浮き彫りにした。
〇1990年代の世界はまだまだ冷戦時代を引きずっていた。途上国はまだそれほど豊かではなく、酷い独裁国家が少なくなかった。「アジアの虎」と呼ばれた韓国、台湾、香港、シンガポールは次々と経済をテイクオフさせたが、「民主化」には時間がかかった。韓国は軍部独裁の時代が長く、香港はまだ英国植民地であり、シンガポールは今でも「明るい北朝鮮」である。まあ、日本の民主主義もあんまり威張れた話ではないけどね。
〇そんな中で、「自分が持つ独裁権力を放棄することで、国の民主化を促進した」という稀有な例が1990年代の台湾である。こんな例は、世界中を探してもそうそうあるものではない。なぜそんなことができたかといえば、河崎さんは大きな理由として李登輝さんの「日本人的な精神性」を挙げている。
〇ちなみに、2000年の総統選挙で自分の後継者たる国民党の連戦候補が負けたことは、李登輝さんにとっても心外だったそうで、「自分は騙されていた」と悔しがっていたという。もっとも李登輝さんの真骨頂は、陳水扁の民進党政権が誕生した後で、それを間接的に支援する側に回って、台湾が「政権交代可能な民主主義」であるように演出したことではないかと、ワシ的には考えるところである。
〇とにかく現実主義者で漸進主義者で、皆が気づかない間に「静かな革命」を成し遂げてしまった偉人ということになる。ワシも何回か話を聞く機会があったし、確か2度ほど握手をしてもらったこともある。2020年7月30日に97歳で逝去されたが、こういう人がかつてアジアに居た、ということを思い出すだけで、ちょっとだけ幸せな気分になれるというものである。
<4月12日>(日)
〇いよいよ明日からは大阪経済大学での客員教授として、授業の第1回目が始まるのである。これから7月末まで、月曜日3限の授業「特殊講義 貿易と日本経済」を受け持つことになる。
〇この間、ほとんど毎週月曜日には大阪まで通勤することになる。しかもですな、受講者数を見たら「294人」と書いてある。明日の第1回講義はあくまでもガイダンス編であって、その後は多少は減るかもしれないのだが、それにしたって大変な学生数である。全員に試験を受けてもらって、全部読んで評価を下す作業なんて、こりゃあ大変そうである。
〇以前に同大学の客員教授を務めた際(2017年〜2020年)は、きわめて少人数であったし、外部聴講生も居たので気楽なところがあった。今回は経済学部の1〜4年生を対象に、ちゃんと単位も出さねばならない。結構なプレッシャーではあるのだが、まあ、この年になって「初めての仕事」でドキドキすることができるなんて、それ自体がありがたいことと受け止めるべきであろう。
〇「貿易と日本経済」というテーマから行くと、この週末にイスラマバードにおけるアメリカとイランの交渉が決裂したというのも大きなニュースである。もっともそれが大いなるサプライズかと言えば、「まあ、そうなるわなあ、普通」というのが率直な印象である。それよりも、1979年のテヘランの米大使館人質事件以降、両国がこれだけサシで長時間にわたって協議を続けたということが、それ自体が一種の奇跡なんじゃないだろうか。
〇従って明日の市場がどう反応するかと言えば、けっして「売り一色」ということにはならないと思う。一応、両国の代表が深夜から未明にかけて議論を尽くしたということ自体が、これまでの経緯を考えれば一種の「奇観」と言っても良いのではないか。
〇特にヴァンス副大統領にとっては、これは国際舞台における一種の「初陣」である。そこでいきなり成功しちゃあ、いかんでしょ。同席していたクシュナーとウィトコフの2人は、「この協議は失敗するといいんだけどなあ・・・」と思っていたはずである。そしてまた、ヴァンスが功績を上げることは、トランプさんが望んでいることでもないだろう。
〇ということで、来週も引き続きいろんなことが起きると思いますぞ。アメリカとイラン、いずれも厄介な人たちなのですから。
<4月13日>(月)
〇いくら新学期が始まったばかりだからとはいえ、まさかホントに290人は来ないだろう、とタカをくくっておったのだが、本日は「最大で330人入る」という大教室がほぼほぼ満杯になっていた。1年生から4年生まで、若い連中の前で講義をする。大丈夫か、ワシ。
〇迂闊に「レポートを書きなさい」と言ったら、ホントに300通近く届いてしまいそうである。さて、どうしたものか。とはいえ、大教室を見渡すと、眠そうに聞いている人もいれば、明らかに面白がってくれている人もいる。さて、何が刺さって、何が空回りしているのか。全然わからないけれども、続けていればきっと見えてくることがあるはず。
〇しかしまあ、朝に新幹線で新大阪駅に行って、午後イチの授業を済ませて、夕方には家に帰ってくるという「通勤」ができてしまうのはスゴイことである。これというのも、大経大が新幹線に近いからできることである。とはいえ、こんなペースがデフォルトになってしまうとせからしいので、来週は一泊することにして、少しは大学内部を探検しようと考えるのであった。
〇ところで昨日、ハンガリーで行われた議会総選挙において、16年ぶりの政権交代があった。オルバン首相は退陣し、新興野党の「ティサ」を率いるマジャル党首が新首相に就く。オルバン氏があっけなく退陣表明してくれたので、「あいつ、意外とまともじゃん!」という印象になるから不思議である。
〇トランプさんの普段の言動に慣れてしまっているせいか、「もっと往生際の悪いところを見せないと、右派の指導者らしくないぞ!」と思えるから不思議である。もっともトランプ政権、特にヴァンス副大統領としては、わざわざ現地に赴いて肩入れした選挙結果がこうだったのだから、ダメージにはなっているのであろう。
〇負けを認めるのが大嫌いなトランプさんのことゆえ、今は誰かが耳元で「オルバン」と囁くだけで機嫌が悪くなるはずである。今回のハンガリーの総選挙結果もまた、長く続いたトランプ現象に転機が訪れていることを示しているのかもしれない。
〇もっとも、これまでに「トランプ人気は峠を越した」と叫んだ人は、ほとんどが「ぬか喜び」に終わっている。そして窮地(文字通りの銃弾も含む)に陥るたびに、しぶとく復活を遂げてきたのがトランプさんである。彼の周囲の人たち(ヴァンスやルビオ)は、それを見てきたから裏切れない(トランプに賭けるしかない)という状況にあるわけである。
〇さて、われわれはどこまで彼に賭けるべきなのか。投資家目線で言えば、「どっちに転んでもいいように」構えるのが妥当なところでありましょう。
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編集者敬白
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by Kanbei (Tatsuhiko
Yoshizaki)