●かんべえの不規則発言



2023年6月 






<6月1日>(木)

ラジオ日経「ザ・マネー」(午後2時半から4時まで)に出演のため、午後2時に少し遅れて虎ノ門の琴平ビルに駆け込んでみたところ、めでたくも米下院では「財政責任法案」が通過した後でありました。パチパチパチ。「下院規則委員会」という日本の国会でいう議運(議院運営委員会)みたいな会では、本会議で議決することが昨日7対6と一票差で決まったというから、ちょっとハラハラしておりました。

〇こういうのはちゃんとメモして置きましょう。

  共和党 民主党 合計
議席数 220議席 213議席 433議席(欠員2)
賛成 149票 165票 314票
反対 71票 48票 119票


〇両党ともそれぞれ120票くらいは賛成してくれるだろうから、さすがに過半数の218票は越えるよね、というのが事前の読みでしたが、それよりはずっと余裕の可決でした。民主党の方が賛成が多かった、というのがビミョーなところで、それでもマッカーシー議長は面目を施せて何よりでした。

〇つくづくこの問題は「バイデン大統領対マッカーシー下院議長」ではないのです。バイデンを脅かす進歩派(左派)が居て、彼らは「弱者を苛める歳出削減は許さーん」と息まいていて、他方、マッカーシーは保守派(右派)から、「デフォルト上等!」と居直る人たちから脅迫を受けている。とりあえずお二人とも、今宵はホッとされているでしょう。

〇もっともこの後で、金曜日に上院での審議が始まると、ここにはまたいっぱい目立ちたがりの議員さんたちがいるから、「この法案のここが許せないっ!(キリッ!)」みたいな指摘をするかもしれません。その場合、法案が修正されて再び下院に差し戻しとなる、という展開も十分にあり得るので、「Xデイ」たる6月5日まではもう一回くらい「冷やッ」とさせられる瞬間があるかもしれません。

〇それでもこれで、この問題が2025年1月(つまり次の大統領選挙の後)まで先送りできるのなら、これで当分は大丈夫、とタカをくくることができる。まあね、「歳出を削減するぞ!」と掛け声がいくら強くても、同様な事態が起きた12年前も、議員さんたちは予算審議になると、自分の選挙区への利益誘導をまったく諦めていませんでしたから。

〇げに恐ろしきは議員さんたちの業というもの。現在のバイデン大統領は、ちゃんと12年前のことを経験している(副大統領だった)し、そもそも議員経験の長い「国対族」の政治家である。その辺の事情はいちばんよく分かっておられるはずである(ボケてなければ、だが)。


<6月2日>(金)

〇何かと話題の「チャットGPT」のGPTって、何の略かというと、"Generative Pre-trained Transformer"の略なんですって。「事前学習をするジェネレイティブなトランスフォーマー」ということになって、この"Generative"という単語が、日本語に翻訳されるときは「生成」が定訳になっている。だから「生成AI」になるんですって。うーん、異和感がありまするぅ。

〇"Generate"という動詞は、「生み出す」とか「発生させる」といった意味である。だから転じてGenerator(発電機)になったり、Generation(世代)になったりする。つまり何かを回転させることによって、新しいものが生み出されてくるイメージである。水車が回って電気が起こされるとか、めぐるめぐるよ時代は巡る、とか。ぐるぐる回っているところから、何か新しいものが生まれてくる。強いて言えば、「巻き起こす」という訳がいちばんしっくりくると思う。

〇そこで「チャットGPT」の機能は何かというと、人間とAIが会話をキャッチボールすることによって、知恵をGenerateすることになる。だったら「対話型AI」と呼ぶ方が、実態に近いのではないかなあ。定訳となっている「生成AI」という言葉を使ってしまうと、このキャッチボール感覚、ぐるぐる回る感じが伝わってこない。

〇あなたの周りにも、かならずこんな人が居るはずだ。「話題のチャットGPT、使ってみたけど平気で嘘をつく。全然ダメだ、使えない!」――そうじゃないんですよ。AIとキャッチボールを楽しみながら、いい知恵を引っ張り出す作業が大事なのである。ゆえに真の知恵者は、AIをおだてたり、持ち上げたりしながら、いい回答をジェネレートする。肝心なのは使い方である。

〇まあ、機械じゃなくて人間が相手でも、敬意が足りない人はいい答えを得ることはできませんよねえ。相手の答えから何かを学び、さらに深い質問を加える。そうすることによって、AIもどんどん本気になるというものです。謙虚じゃない知恵者なんて、あたしゃ今まで会ったことがありませぬ。

〇ところで質問をして、答えを得る。その答えに飽き足らず、さらに問いを重ねる。これはギリシャ時代以来の哲学の営みそのものではありませぬか。だったらいっそのこと、「ソクラテス型AI」なんていう呼び方もアリかもしれませぬ。AIと対話を続けているうちに、「なーんだ、お前も実はよくわかってないんじゃないか」という「無知の知」を発見する。いかにもありがちなことではあるのですが。


<6月4日>(日)

〇5月8日からこれで4週間。お陰さまで、この間にマスクをしたのは、高齢者施設を訪れたときの1回のみである。そのときはさすがに、公序良俗に従ったのであった。ああ、マスクなしの生活が心地よい。

〇と思ったら、先週、仙台を訪れたところ、圧倒的多数の方々がマスク付であったので、ああ、やっぱり東京の方がちょっと異例なのかと心得たのであった。まあ、それでもこういうのは不可逆的な変化であろうから、ワシ的にはもちろん気にするつもりはないのである。

〇ということで、毎週のようにどこかに出張しているし(次週は新潟と富山、その次の週は二戸)、会食も普通にしているのであるが、土日はわりとおとなしいのである。競馬場なんてもう全然行ってませんし。というのも、JRAの指定席ネット予約が面倒であるし、おうちで競馬が当たり前になってしまったので。

〇今週末なんて、家に閉じこもってせっせと来週の資料作りでありますよ。とっても地味なのであります。まあ、安田記念もとれたし、阪神タイガースは佐々木朗希に打ち勝っちゃうし、文句を言ったら罰が当たります。












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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)