●かんべえの不規則発言



2019年8月 






<8月2日>(金)

○いやはや、お暑うございます。まったくどうなっているのでしょう、この暑さは。今週が始まった時点では、まだ梅雨が終わっていなかったはずなのですが。

○今週はいろんなテーマが重なった1週間でした。中央銀行ウィークで、日銀は何もせず(「躊躇なく」とは言った)、米連銀は0.25%の利下げ。その結果がどうだったかというと、金曜日になってトランプさんが「対中残り3000億ドルも関税10%じゃああああ」と言い出したので、市場が混乱して何が何だかわからなくなった。今宵は間もなく雇用統計も発表されるので、いよいよ混迷の度を深めそうだ。

○今週はディープインパクトが死去、というニュースもあった。17歳というのは、馬としてもけっして高齢ではない。しかしあらためてディープ産駒を思い起こしてみると、ジェンティルドンナとマカヒキとサトノダイヤモンドとワグネリアンと、それ以外はあんまり思い浮かばない。ううむ、

○そして本日は韓国のホワイト国除外を閣議決定。これで韓国側は、しばらくは対抗策として何でもありになってしまいそうである。ここまでの反響があるのなら、安倍首相はG20の際にちゃんと日韓首脳会談をやって、言いたいことは全部ぶつける方が良かったのではないのか。「これはあくまでも輸出管理です」というのは、いささか偽善的に過ぎるのではあるまいか。

○セブン&アイの失態にも、いろいろ関心が高まっているようです。よくも悪くも鈴木敏文会長がいた間は、こういうことはない会社だったんですけどねえ。ワシ的には、毎週火曜日に文化放送に出演する直前に、浜松町のデニーズでその日のネタを考えながら時間調整するのですが、ここで支払いの時にSUICAやPASMOを出そうとすると、「ナナコ以外は使えません」と言われる。そんな馬鹿な話があろうか。「加盟店は活かさぬように、殺さぬように」とマジで考えていそうなところが怖い。

○などなど、いろんな事件があいついだ1週間でしたが、そろそろ夏休みモードに逃げ込みたい時期であります。ああ、それにしても暑い。


<8月3日>(土)

○めずらしいことに、今朝の朝日新聞にコメントが取り上げられました。いちおう写真つきです。


●韓国除外、身構える日本企業 「状況を注視」「対策考える」 輸出規制


○それからこちらは東洋経済オンラインの今日の分。


●米利下げ後の世界はどうなってしまうのか? 世界全体が「日本化」してしまった


○われながら、いろんなことに口を出しておりますな。今日はちょっくら富山へ行ってまいります。ああ、暑そうだ。


<8月4日>(日)

○土曜日に母校の神通会総会に出席する。今回の富山行きは、東京神通会の末席副会長としての公務なのである。

○全くの偶然なのだが、8月2日金曜日、富山中部高校の2年生20人が、引率の先生2人とともに当社双日に企業訪問に来てくれた。今の学生って、大学訪問はともかく、企業まで訪問するのでありますな。商社に関心があります、と言っていた学生もいましたな。

○夏休み中の1泊2日で、都内の大学2校と企業1社を回るようなのだが、今は北陸新幹線があるので、交通の便はかなりよろしい。もっともこの後輩たちは、21世紀生まれの世代なので、昭和の頃に卒業したOBとしては、何を話したら彼らに通じるのか、少々距離感がつかめなくて苦労しましたな。

○さて、神通会である。この総会・懇親会は毎年、8月第1週の土曜日に行われるのだが、この日は必ず富山まつり(よさこいとやま)と重なる。で、市役所前の通りを埋め尽くす若者たちの踊りに見とれていたら、誰かがこっちを見て笑いかけている。さて、誰だろう。どっかで見たことある人なんだけど。と思ったら化学部のS先輩であった。ははあ、お久しぶりです。

○化学部後輩のM君にも遭ったのであるが、けしからんことにワシの同級生は誰も来ていないのである。東京神通会には、ちゃんと7人くらい来てくれて、2次会まで行ったというのに。そういえば、いつもこういう席を欠かさない山田君は、今年からカターレ富山の社長になっていて、そのカターレはこの日、J3の試合があったのだ。しかも相手は首位の藤枝である。結果は・・・負けてやんの! ダメじゃん。現在10位。ちゃんと勝たーれ。

○神通会は今年で99回目なので、来年は100周年となる。そうはいっても、8月第1週は東京五輪と重なるのだが、ちゃんと人は集まってくれるのだろうか。募金の集まりも悪いとか言っていたが。まあ、来年のことは、来年になってから考えるとしよう。

○柏市に戻ってきて、柏市議会選挙で投票する。これが全く不毛な選挙だと思うのだが、市民としての義理を行使する。投票所には町内のIさんが立会人を務めていた。暑い中をお疲れ様です。


<8月5日>(月)

前号の溜池通信で「1979年の記憶」という話を書いたら、何人かの方から反響をいただいております。40年前のことではありますが、いろんなことがあった年です。以下はいくつか落穂ひろいのようなことを挙げておきます。


●1979年には「元号法」が成立した。それまで慣習的に使われていた「昭和××年」が、ちゃんと法律上の根拠を持つようになった。これは昭和天皇がお年を召されて、「陛下が今お亡くなりになると、次の元号が決まらないかもしれない」という恐れから誕生したらしい。事実、昭和天皇はその10年後に逝去され、「平成」が始まっている。それからさらに30年を経た今、「令和」はとっても評判が良くて、元号は国民に定着したものとなったようである。

●1979年6月には「東京サミット」が行われている。日本で初めて行われたG7である。今年は日本で初めて大阪G20サミットが行われた。こんなところでも、不思議と2019年と1979年は対応している。時の総理大臣は大平正芳であった。ちなみにアメリカ大統領はジミー・カーターで、日米の首脳は不思議と馬が合った。今の安倍=トランプとはかなり違う感じですが。

●その大平正芳首相は、財政再建に執念を燃やし、大型間接税として「一般消費税」の導入を閣議決定した。しかるに世間の反発は激しく、自民党内部からも反対が相次いだために、秋の総選挙の直前に断念に追い込まれた。その後、この構想は中曽根政権の「売上税」で再度失敗し、竹下政権下でようやく3%で発足し、橋本政権で5%となり、いずれの内閣もそれで崩壊した。しかるに安倍内閣はそれを8%とし、今年の10月には10%に上げようとしている。

●大学入試の「共通一次試験」が初めて行われた年でもある。ワシも受けました。あいにく1度で済まずに、2度受けることとなりましたが。今でいう「大学入試センター試験」ですな。これがまたまた入試改革ということになって、2021年からは「大学入学共通テスト」になるんだそうです。まあ、所詮は他人事ですが、改革すればするほど悪くなっていくんじゃないですかねえ。

●この年の国会を騒がせたのは、輸入航空機商戦にまつわるダグラス・グラマン事件であった。証人喚問で手が震えた海部八郎・日商岩井副社長のテレビ映像は、多くの人の記憶に残っているだろう。とはいえ、当時高校生であったワシが、まさか5年後にその会社に入るとは思ってもみなかった。いやもう、ホントに「疑惑の総合商社」でしたな。


○以上、40年もたつとことごとく皆が忘れていることばかりでありました。


<8月6〜7日>(火〜水)

○「大崎上島」というところへ行っておりました。「おおさきかみじま」と読みます。すぐ隣には「大崎下島(おおさきしもじま)」もあります。広島県にある無数の島のひとつですが、しまなみ海道からは外れていて、島には橋がありません。竹原市から船が出ています。ちなみに「市内から遠い」と悪評高い広島空港は、竹原市からだとクルマで30分で着きます。広島県は広いので、広島市のことだけ考えて空港を作ったわけではないのですありますな。

○この島にあるのが「大崎クールジェン」です。電源開発と中国電力による合弁企業で、NEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)の支援を得て、クリーンコールテクノロジーの開発実験を行っている。この春からは、いよいよ第3段階に当たるIGFCの実証実験に着手している。

○昨年3月5日に磯子の石炭火力を視察させてもらった。ここは横浜市内にあるだけあって、脱硫、脱硝技術は高度でSOxやNOxはほとんどガス発電並みの優等生なのだが、さすがにCO2は出る。だから燃焼効率を上げてCO2を減らす、というのが現在の石炭火力の課題となっている。大崎クールジェンでは、空気をわざわざ窒素と酸素に分けて(液化した時の温度差を使う)、粉末状になった石炭に酸素をじかに吹き付けて燃やす、という手法を使っている。もう、その時点で尋常ではない。

○欧州を中心に澎湃として起こっている「石炭は悪者」という世論は、おそらく旧式の石炭火力発電所をイメージしているのであろう。彼らの脳裏には、にっくきトランプ大統領とその支持者たちと、炭塵にまみれた世界も浮かんでいるのではないか。しかるに大崎上島はなにしろ瀬戸内海に浮かぶ島なので、環境規制はとりわけ厳しい。島に住む住民たちの眼もある。安かろう、悪かろう、汚かろう、の火力発電はここでは不可能である。

○と、ここまではIGCCと呼ばれる既に達成されたプロセスである。これから始まるIGFCとは、「CO2を取り出してカーボンリサイクルを実用化する一方、水素を取り出して燃料電池の原料とする」プロジェクトである。ここまで実現すると、さすがに石炭火力のイメージは変わるのではないか。「二酸化炭素を地中に埋める」というCCS技術ではないんです。発生するCO2は9割を取り出す。農業などに使うもよし、液化して蓄えるもよし。加えて水素エネルギーも取り出せる。これはゲームチェンジャーになるかもしれない。

○ワシはかねがねESG投資なるものに胡散くさいものを感じている。石炭は汚いから使うべからず、などとおっしゃるが、地球上にたくさんあるものを使わない手はないだろう。そして石炭はあるけれども電気がない国に対して、石炭を使うなとは言えないだろう(EUはポーランドに対してそう言っているらしいが)。本当により良い未来を望むのであれば、CO2を出さない石炭火力という技術に投資すべきではないのか。

○ここから先はだんだん私的感情が混ざってくるのだが、ワシはとにかく、「自分は良いことをしたいと思っている頭のいい人たち」を信用したくない。世の中に不幸をもたらすのは、得てしてそういう人たちである(なおかつ、彼らは反省しない)。もっというと、SDGバッジも嫌いである。「誰かが決めてくれたことを、後生大事に守っている日本人」みたいな気がして仕方がない。

○さて、石炭は幸いなことに値段は安く、どこででも採れるからホルムズ海峡のような地政学に振り回されることも少ない。とにかくエネルギー問題の要点は「選択肢を多く持つ」ことである。気候変動問題だけを重視して、再生可能エネルギーで全ては解決する、などと決めつけるべきではありません。

○とはいうものの、技術的な説明を聞いていると、「これってハイブリットエンジンと同じ、ガラパゴス技術になっちゃうのかなあ〜」という気もしてくる。エンジンブレーキを利かせた時に生じる電気を蓄えて使う、なんて発想、日本企業以外ではなかなか出てきませんよね。ここでやっている話も、コペルニクス的転換による破壊的イノベーションではなくて、地道な作業の積み重ねなのである。

○翌日は竹原火力発電所へ。こちらは現役の石炭火力である3号機を動かしながら、古い1号機のリプレースメントを行っている。すぐ近くに民家があるような場所で、気を使いながら発電と工事を同時に行っている。暑い中を作業着を着て現場を歩いていると、汗もかくけれども、説明を聞いただけの勘違いがいくつも是正される。そうなのだ、現物を見ることが大事なのだ。理屈だけ聞いて、分かったような気になってちゃいけません。


(後記:石炭と日本のエネルギー政策については、下記の論考が役に立ちます。ご参考まで)

●日本の石炭戦略 https://www.canon-igs.org/column/energy/20190704_5877.html 


<8月8日>(木)

○世間の関心事となっている例の件について少しだけ触れておこう。さっそくながら、練達の政治ジャーナリストである泉宏さんがこんな記事を書いている。

●進次郎と滝クリ「令和婚」に込められた深謀〜目立つ進次郎流「メディア戦略」のしたたかさ

○ふふっ、意外と甘いな。ワシならば、もうちょっと意地の悪いことを考える。


○ポイントその1。8月第1週の重大発表というのは、「週刊文春」「週刊新潮」が夏休みに入るのを見越して、というタイミングである。週刊誌にアラを探られたくない人は、この時期に発表するといい。みんな忘れていると思うけど、今から5年前の8月5日(火)に、朝日新聞は「従軍慰安婦に関する過去の取材は間違っておりました〜」と一面でぶち抜いている。あのときも広島(8/6)、長崎(8/9)をかわしていて、針の穴を通すようなコントロールでした。

――まあ、ここまでバレなかっただけでも、お見事な危機管理です。さすがは小泉家。でも最近の文春砲は、ネットもありますからご用心を。


○ポイントその2。永田町の論理から言えば、現在は自民党厚生労働部会長を務めている小泉進次郎氏が、結婚の挨拶に訪れるべき相手は官房長官ではなく、自民党幹事長であろう。農林水産副大臣であった時代なら、菅官房長官で正解ですけどね。同じ神奈川県選出議員で、しきりに「太郎と進次郎」を推奨してくれている菅さんを優先したのは、人情やら打算やら保険やらがあったことでしょう。

――官邸に報告したことのもうひとつのメリットは、政治部の記者だけを相手にできるということでした。それでも今朝のスポーツ紙は軒並み1面トップでしたけどね。


○ポイントその3。菅さんのところへ挨拶に行ったら、「総理のところへも」と促されたことになっているが、そりゃあ安倍さんは時間を空けて待っていたことでしょう。9月の内閣改造では、進次郎氏に入閣してもらいたいんじゃないでしょうか。それだけで内閣支持率が5%は変わってきますからね。

――今朝の「総理の一日」を見ると、進次郎&滝クリが出た後に総理執務室に入ったのは、「谷内国家安全保障局長+秋葉外務次官+高橋防衛次官」の3人。この日の朝にはエスパー国防長官が表敬訪問してますので、「ホルムズ海峡の有志連合、どうしましょう?」みたいな感じで入ったのでしょうが、「ついさっきまで、あの二人がここに来てたんだよ」みたいな話になったであろうことは疑いのないところです。


○とりあえず「令和婚」と「スマイル・シンデレラ」というおめでたニュースが2件飛び込んだことで、日韓関係や吉本ネタはしばらく下火になってくれることでしょう。結構なことであります。


<8月9日>(金)

○本日はJIIAのセミナーに出席したので、以下はその簡単なメモ。テーマは「ホルムズ海峡と有志連合」。


●ホルムズ海峡を通る日本船籍(船主協会の会員会社だけ)は、2018年にはのべ1700隻、うち500隻がタンカーだった。ほぼ1日に4〜5隻が通っている計算になる。保険料はただいま高騰中。

●5〜6月には、オマーン湾近辺でいろんな国の船が正体不明の敵に襲われていた。7月以降はホルムズ海峡において、英国対イランの対立が深まっている。特に日本の船が危うくなった状況とは考えていない。

●英国はイラン船をジブラルタルで拿捕し、仕返しに自国の船をイランに拿捕された。何をやっているのか分からない。イラン核合意(JCPOA)を守りたいのか、壊したいのか。こんなにひどい英国外交は初めて見る。

●トランプ政権にとって、オバマ外交のほぼ唯一の成果であるJCPOAをぶっ壊すことは選挙戦の公約であった。今の対イラン政策も国内のエヴァンゲリカル票が狙いであって、外交戦略に基づくものではない。

●「ホルムズ海峡の有志連合」を作るとして、そこでアメリカが何をしたいのか。これまで説明会が3回行われたが、結局は政権内の意思統一がされていない。慌てて参加を決める必要はない。

●今回求められているのは、「日本は日本の船だけを守れ」という初級の仕事。国際護衛艦隊を作るから参加せよ、という上級の仕事ではない。これを他国にお願いする、あるいはおカネだけ払うという選択肢はあり得ない。

●それでは有志連合に参加すべきか。自衛隊の立場になってみると、「連合」に入っている方が情報共有があるから安心である。ただし、実際には自国の船を守るためだけに、「海上警備行動」で出るのが自然な選択。

●他方、イランは「ペルシャ湾には入って来るな」と言っているので、自衛隊が行って歓迎されることはない。艦船を派遣することは、日イラン関係にとっては悪材料となるだろう。

●海上自衛隊がジブチで海賊退治に活動している船を、警戒監視に回すことが最も現実的。P3Cを派遣する手もあるが、実際にタンカーが襲われたときのことを考えると艦船を出さねばならない。

●日本の船がホルムズ海峡を通過するときにエスコートするのがいいか、それとも各国の船でゾーンディフェンスする方が合理的か。集団的自衛権の問題を考えると後者は無理。他国の船が攻撃されても反撃できないから。

●アメリカが有志連合を呼びかけたことにより、中国がペルシャ湾に大艦隊を送る可能性が出てきた。実現した場合は目も当てられない。トランプさんには、しみじみ自らの不明を恥じてもらいたい。


○てなことで、「今すぐ出すの出さないの」という話ではないが、かなりややこしい問題である。安倍内閣にとっては悩ましい夏休みの宿題である。


<8月11日>(日)

○最近、聞いた話から。

○亡き・鳩山邦夫代議士は、趣味人で資産家で気前が良くて、他人にモノをあげるのが大好きであった。ところが政界にはただ一人、ありとあらゆるご進物を送り返してしまう(しかも着払いで!)極めつけの変人が居た。ところがその変人は、こともあろうに総理大臣になってしまったのである(誰のことだか、すぐわかるよね)。

○どうしても総理大臣に、「これはいいものをもらった。有り難う!」と言わせてみたい。そこで一計を案じた鳩山邦夫氏(くれぐれも由紀夫氏ではありませぬぞ、念のため)は、広いご自宅の庭で丹精を込めて野菜を育て、それを小泉家に持ち込んだのである。

○小泉事務所を差配しているのは、純一郎氏の姉の信子秘書であった。その信子さんはダンボール箱いっぱいの野菜に驚き、「さすがにこれは送り返せない」と言って受け取ってくれた。

○数日後、鳩山邦夫氏はワクワクしながら小泉首相に話しかけた。「総理、うちの野菜の味はいかがでしたか?」。すると小泉首相が答えて曰く。「え?野菜?俺、野菜は食わないんだよ。嫌いだから」――さすがは変人首相、防御は鉄壁だったのである。

○普通はここで話は終わりになるところである。そこは鳩山邦夫氏(繰り返すが由紀夫氏ではない)なので、わざわざ信子さんのところへ確認に寄った。「うちの野菜はその後、どうなったんでしょうか?」

○すると答えは、「はい、お蔭さまで息子たちが喜んで食べております」であった。贈り物の野菜は、育ちざかりの孝太郎君や進次郎君の血となり肉となったようである。

○以上、平成の永田町絵巻を彩るちょっとしたエピソードでした。「この話のソースはどこだ?」などと無粋なことを言っちゃいけません。溜池通信に書いてあった、という程度の信憑性でよろしいかと存じます。だってあなたも嫌いじゃないでしょ?こういうネタ。


<8月12日>(月)

○トランプ大統領のツィート、今やフォロワー数は6296万人にも達して、「毎朝、これをチェックしないことには仕事が始まらない」という人は世界中で少なくないと思う。ワシは1500万人くらいの頃(2016年11月下旬)からお付き合いしているが、さすがに少しパターンが分かってきたような気がするので、ここで少しまとめておこう。

○トランプさん、国内的に難題(テキサスとオハイオの銃乱射事件)を抱えると、そこから目をそらすために変なツィートが増えるので、お蔭で慌てる人が増えてしまう。8月8日に突然、FRB非難を始めて「ドル安を望む!」などと言い出したのも、たぶんにそのパターンじゃないかと思う。直前に訪れたエルパソとデイトンでは、とっても評判が悪かったので(例:「プロンプターのトランプが、ツィッタ―のトランプを否定している」@ワシントンポスト)。


As your President, one would think that I would be thrilled with our very strong dollar. I am not! The Fed’s high interest rate level, in comparison to other countries, is keeping the dollar high, making it more difficult for our great manufacturers like Caterpillar, Boeing,......


○ドル高がいいのか、ドル安がいいのかは、もちろん一概に言えることではない。それに「大統領、金融政策について発言はしないでください!」みたいなことは、周囲から百回以上言われているはずなので、トランプさんの上記のような発言はたぶん「確信犯」でやっている。

○で、8月10日に飛び出したのがこのツィートである。


In a letter to me sent by Kim Jong Un, he stated, very nicely, that he would like to meet and start negotiations as soon as the joint U.S./South Korea joint exercise are over. It was a long letter, much of it complaining about the ridiculous and expensive exercises. It was.....

....also a small apology for testing the short range missiles, and that this testing would stop when the exercises end. I look forward to seeing Kim Jong Un in the not too distant future! A nuclear free North Korea will lead to one of the most successful countries in the world!



○金正恩が送って来た手紙の中身をバラしてしまっている。米韓合同演習が終わったら会ってほしい、短距離ミサイルを撃ってゴメンね、合同演習が終わったら止めるから、と言っていた、などと。かなりカッコ悪い話なのだが、そこは北朝鮮である。すぐに逆手にとって、こんなことを言い出した。出典は8月11日の日経新聞


北朝鮮の朝鮮中央通信は11日、トランプ米大統領が短距離ミサイルの発射を容認したと指摘する外務省米国担当局長の談話を伝えた。「米国大統領は我々の通常兵器の開発実験を『どの国でも行う小さなミサイル実験』とし、主権国家としての我々の自衛権を認めている」と主張した。7月25日以降、5度にわたるミサイル発射などの挑発行為を正当化する狙いだ。


○トランプさんのツィートというのは、本人が打っているのかと思ったら、口述して部下に打たせているらしい。それにしてはミススペルが多いんだが、かなり意図的な使い方をしている。少なくとも以前に比べると、事実上の「政府広報」になってしまっている。だからあんまり天然に反応しちゃいけないんじゃないか。いやもう、これは困ったことなのですが。


<8月13日>(火)

○今朝の文化放送「くにまるジャパン極」でお話しした「富山の薬売り」について、ここで少々補足しておきます。

○富山の配置薬業、もしくば売薬さんの歴史は古く江戸時代初期に始まる。それでは昔から富山は薬が名産品だったかというと、おそらくはそうではない。名高い「反魂丹」にしても、実は和泉国で作られていたという。実際は加賀百万石の支藩であった富山藩十万石(旧富山市と旧婦負郡の一部)が、とにかく財政状況を何とかしたくて、編み出した苦し紛れの商法だったのではないか。薬を作るようになったのは、たぶん後からであろう。

○富山藩2代藩主の前田正甫(まさとし)が、殖産興業の一策として売薬を奨励したのが発端という。とは言っても、当時の日本は藩ごとに違う通貨が流通している「ボーダフル」なエコノミーである。他所の藩に行って商売させてくれ、と言ったら普通は断られる。その分、正貨が流出してしまうからね。ところが薬の行商であれば、医者も大勢は居なかった当時、さすがに命にかかわることゆえ許してもらえた。それで富山藩はちょっとずつ他藩にお願いし、営業範囲を広げて行った。

○配置薬業こと富山の薬売りは、画期的なマーケティング手法を少なくとも3つ、開発している。いずれも現代に通じるノウハウといえよう。

(1)先用後利の原則。まず、薬箱を各家庭においてもらい、後から訪ねて行って、使われた薬の分だけの料金を徴収する。これを長く続けていくと、売薬さんは各家庭から絶大な信用を得ることになる。逆に言うと、家がなくなってしまう、払ってくれない、などのリスクを負っているビジネスモデルである。

――「薬九層倍」と言われる通り、薬品は付加価値の高い商品である。おそらくは、その辺の歩留まりは最初から見込んでいたのであろう。また、そもそも病いというものは、「信用3割、発見3割、残りが薬の効き目」というくらいであって、信用の出来ない相手からもらった薬は、たぶん飲んでも効果は高くない。長期的な関係を築くことによって、薬の効果も上がるというWin-Winビジネスなのであった。

(2)データベース。売薬さんが営業する範囲を「懸場」(かけば)といい、そこでの顧客台帳のことを「懸場帳」(かけばちょう)と言った。ここには売り先の名前、住所、訪問日、売れた薬の種類と量、繰越金などのデータが長年にわたって記されている。考えようによっては究極の個人情報であって、下手をすれば「この家の人は代々血圧が高い」みたいなことまでわかってしまう。売薬さんは自分の懸場を持ち、自分が懸場帳を持つことが独立の証であった。

――この懸場帳は一種の知的財産権であり、売薬さんの間で取引されたそうである。AI時代の今日であれば、また別の使い道が生じたかもしれない。もっとも「各家庭の健康状態」という究極の情報を知り得るからには、売薬さんは口が堅くないと務まらない商売であった。

(3)オマケ商法。売薬さんが持ち歩いたのは、子供向けには紙風船であり、大人向けには評判の歌舞伎役者などを描いた錦絵であった。この錦絵を生産するために、富山県内では和紙や絵師や印刷業といったサポーティングインダストリーが発達した。昨今、鮨屋の湯飲みなどに書かれている庶民哲学(高いつもりで低いのが教養、低いつもりで高いのが気位、など)の集大成も、流行のコンテンツのひとつであった。

――さしずめ今だったら「高速道路で暴走するのが19歳、逆走するのが91歳」みたいなネタが使われたことでしょう。売薬さんたちの間では、「売り上げの5%くらいはオマケに使って良し」というノウハウがあったとのこと。それにしても紙風船とはよく考えたもので、あれはすぐにペシャンコになってしまう。すると子どもたちは、「薬売りのおじさん、次に来るのはいつかな〜」と思ってくれる。よくできた仕掛けなのである。

○こうしてさまざまな商法を解説していくと、「長く続くビジネスは必ず合理的である」という法則の代表例のように思えてくる。明治時代になると、政府は西洋の薬を普及させようとして、印紙税をかけたりして、富山の置き薬が大打撃を受けたりもするのであるが、いろんな苦難を乗り越えて配置薬業は今日に至っている。

○とはいうものの、これはけっして楽な商売ではなかったようです。父の本棚の中にあった『富山の薬売り』(遠藤和子/サイマル出版会)というノンフィクションを読んでみると、とにかく過酷な商売なのである。例えば以下のような仕事、今なら誰が引き受けることでしょうか。


●1年のうちに自宅に居るのは2月と8月の2か月だけ。あとはずっと旅先で過ごす。

●下手をすれば、旅先で死ぬ仕事である。そうすると、薬のお客さんが墓を守ってくれたりもした。

●新しい懸場を得ようとすると、どんどん過酷な場所になっていく。明治以降の売薬さんは、北海道へ、樺太へ、種子島へ、台湾へ、上海へと雄飛している。

●「越中の売薬さん」は日本中で知られるようになったが、逆に言えば「カネを持ってるはずだ」と盗賊に狙われるリスクもあった。


○こうして考えてみると、かつての富山がそれだけ貧しかったからこそ、売薬業に力を入れたのではないかと思えてくる。その一方で、富山藩は他国での商売によって得た正貨を蓄積していた。いわば経常黒字を積み上げたような状態であった。だからこそ、のちに県内でいろんな産業が花開くことになる。

○ただし子どもの頃の記憶をたどってみると、富山市内にあるわが実家に「置き薬」は存在しなかった。こういうのを「灯台下暗し」というのであろうか。いや、もちろん薬箱はあって、その中には赤チンやら熊参丸(ゆうじんがん)というお腹の薬や、龍角散などが入っていたと思う。ちなみに「赤チン」を日本で最後まで作っていた富山化学は、実家から至近距離にある。薬が身近な存在である、というのは富山県内共通の現象だと思う。

○大人になって、千葉県柏市に住むようになってから、初めて「とやまの置き薬」を使うようになった。薬箱の中にいろいろ入っている中でも、特に葛根湯はありがたい存在である。風邪の引きがけに、「これを飲めばかならず効く」と信じているからである。薬というものは、やはり信用3割なのである。


<8月15日>(木)

○今日は終戦記念日、ということに昼ごろまで気がつかなかった。今年は8月6日も8月9日も、なんとなく過ぎて行って、いわゆる「8月ジャーナリズム」も例年ほどうるさくないような気がする。まあ、ワシが単にテレビを見ていないだけからかもしれんが。

○これも「令和」になって、それだけ「昭和」が遠ざかったお蔭であろうか。それとも単純に台風10号の余波であろうか。高校野球もお休みになってしまったので、なんだか気が抜けたような8月15日であった。まあ、それはそれで結構なことではないかと思う。

○「戦争の記憶を風化させてはいけない」というのは、反対しにくい正論である。しかしそれってやっぱり無理があるのだ。時間がたてば、人は必ず忘れる。実体験した人もどんどん減っていく。できもしないことを、できる振りをするというのは精神衛生上、よろしくない。特に子供たちに向かって、そういうことを強いてはいけない。

○長い間、この国においては、「あの戦争」(The War)を語ることこそが「戦争を語ること」であって、一般論としての「戦争」(Wars)を語ると軍国主義者扱いされる、という変な風潮があった。だから戦争や安全保障や地政学に関する議論は、専門家がこそこそとやっていた。しかもその大半は戦略ではなくて法律論であった。変な話である。

○時代は変わり、戦争は今ではサイバー空間や宇宙で行われたりする。あるいは「経済戦争」の形をとることもある。いい加減、B29を見たという話で、戦争を語ったことにするのは無理があるだろう。そろそろThe War(あの戦争)と`Wars(戦争全般)を切り離すべきではないのか。

○すいませんね、ワシはいつもこの時期になると、この手の悪態をつきたくなるのである。


<8月16日>(金)

○お盆の間に読んだ『内閣調査室秘録』(志垣民郎&岸俊光/文春新書)についてちょこっとだけ。

○「戦後思想を動かした男」という副題がついていて、帯には「内調は本当に謀略機関だったのか!?」との惹句がついている。とは言っても、そんなに驚くような話は書かれていない。「戦後知識人」が跋扈する時代に、内調がいかに現実派の学者たちを支援していたか、というファクトを内調創設メンバーが書き残したものである。50年代から70年代にかけての学者さんたちが大勢登場し、当時の息吹のようなものが感じられる。

○日本の国は、かつては「政官業鉄のトライアングル」と呼ばれ、「政界は財界に頭が上がらず、財界は官界に牛耳られ、官界は政界に叱りつけられる」という不思議なジャンケンポン体制があった。そんな中で、意外と重要な役割を果たしてきたのが学界でありまして、「この国は意外と学者先生たちが動かしている」てな見方もできたのであります。問題はこの先生方がとても偏っていて、使える人がとても少数であることでありまして。

○内調という組織、ワシも少しだけ知っているけれども、彼らが目をつける「若い学者」は確実に伸びる。どうやってそういう「目利き」になるのかは不案内なるも、そういう例はいっぱい見てきました。謀略をやってたかどうかは知りませんが、「内調って、結構いい仕事してきたじゃん」とあらためて感じましたな。


<8月17日>(土)

うそとほんと


うそはほんとによく似てる
ほんとはうそによく似てる
うそとほんとは
双生児

うそはほんととよくまざる
ほんととうそはよくまざる
うそとほんとは
化合物

うそのなかにうそを探すな
ほんとのなかにうそを探せ
ほんとの中にほんとを探すな
うその中にほんとを探せ


○谷川俊太郎ってすごいですね。だって(↑)これ、1964年の作品ですぜ。フェイクニュースがどうこうという話が、急に古臭いものに思えてきました。




















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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)