●かんべえの不規則発言



2021年12月 






<12月1日>(水)

○本日は敬宮愛子(としのみや・あいこ)さまの二十歳のお誕生日。そして今月の23日は上皇陛下の88歳のお誕生日。今上陛下からみれば、オヤジは米寿で娘は成人。ついでに言えば弟の一家がいろいろ面倒なことになっていて、さぞや心労の絶えないことと拝察申し上げる。急に同世代人であることが感じられるような気が。

○20年前の記憶が突然よみがえる。あの年の有馬記念は「敬宮愛子内親王殿下ご誕生慶祝」という冠がついていた。当時はまだ3連単がなかった時代だが、「1着マンハッタンカフェ、2着アメリカンボス」で馬連48,650円という大穴となった。競馬ファンの間では、「同時多発テロ馬券」と呼ばれたものである。あれからもう20年である。

○そして本日は「2021 ユーキャン新語・流行語大賞」が発表される日。年間大賞は「リアル二刀流/ショータイム」。やっぱり大谷翔平選手ですなあ。夢を感じさせてくれたのは。コロナ関係の「自宅療養」「人流」「副反応」「変異株」「黙食」「路上飲み」などは身につまされるばかりだし、東京五輪関連の言葉も今一つ素直に楽しめなかったり。まあ、しょうがないですわな。

○そんなこんなで今年も残るところあと1か月。オミクロン株が迫ってきているようで、心安らかには過ごせない年の瀬ですが、せめて忘年会くらいはやらせてくれ、新年会だなんて贅沢は言わないから、という気分であります。


<12月2日>(木)

○本日は午前中に産経新聞の紙面検証委員会へ。今年で4回目だろうか。ワクチン報道、東京五輪報道、総選挙報道などについて討議。3つともマスメディアの立ち位置が問われる難しいテーマではないかと思う。これからの時代に新聞はどうあるべきなのか。なかなかに悩ましい世界である。

○午後は民間外交推進協会(FEC)の米国研究会へ。バイデン政権と今後の日本経済への影響について、ハイブリット方式でお話しする機会をいただく。例の「ウォークネス」(意識高い系)の話はやっぱり反響が大きい。それからこれは最近、中山俊宏先生のお勧めで読んだジョージ・パッカーの論文「4つのアメリカ論」(The Atlantic)に学ぶところが大である。

○アメリカは民主党と共和党という2つに分断されているだけではない。共和党は「フリー・アメリカ」(レーガンに代表される自由主義のアメリカ)と「リアル・アメリカ」(トランプが掘り起こしたありのままのアメリカ)に分裂していて、これを再統合することが難しい。他方、民主党は「スマート・アメリカ」(オバマやクリントン夫妻に代表される高学歴のアメリカ)と、「ジャスト・アメリカ」(バーニー・サンダースに代表されるように、アメリカの不正義、不公正に怒りをたぎらせているアメリカ)に割れていて、これまたどうにも動きが取れない。

○悩ましいのは、これまでアメリカを導いてきた「自由貿易、規制緩和、グローバル化」といった大方針は、「フリー・アメリカ」と「スマート・アメリカ」という2つのエリート層によって行われてきた。それが今では、右の「リアル・アメリカ」と左の「ジャスト・アメリカ」という2つの勢力の挟み撃ちにあい、たとえば「TPPへの復帰」などは夢のまた夢という状況になってしまった。同盟国がこれだけ割れてしまっていたら、日本はいったいどうすればいいのだろう。

○夜は2晩連続で飲み会。金融政策や政治情勢などをサカナに、ピアノの生演奏を聴きながらの至福のひととき。たとえマスクをしながらであっても、たとえ来月には再び不可能になりそうでも、こんな日常が戻ってきたことを心から喜んでいるものであります。


<12月3日>(金)

○商社研究会で加藤茂さんがスピーカーと聞いて喜んで参加する。業界紙「商社レポート」の創業者兼主筆で、ずっと商社を取材してきたこの業界の語り部である。以下はその加藤さんの語録と不肖かんべえの反応。


●商社経営の要諦は、「脇は甘く、懐は深く」。事業投資というものは、優良案件など滅多にあるものではない。だいたいが問題を抱えている。それを引き受けてあれこれ苦労しているうちに、少しずつ優良案件になっていく。成功した投資は、だいたいがそういうパターンだった。

――最近の照ノ富士がまさにそんな感じですね。投資も相撲と同じで、組んでまわしを取られてからが勝負です。


●バブル崩壊後の商社は「長い夜」の時代を迎えた。当時の社長は、各社とも高度成長期を駆け抜けた逸材が多かったが、いずれも在任中に「夜明け」を見ることができなかった。

――あの時代は社員も大変でございました。もっとも「商社マンは潰しがきく」「早期退職後も悲惨な話を耳にすることが少ない」というのも、同意するところであります。


●商社は日本経済の主役ではない。どの業界でも脇役である。いつも苛められているから、謙虚にならざるを得ない。

――ウォーレン・バフェットが商社株を買ったら、「ボケた」と言われてましたからねえ。まあ、「ハーバード・ビジネス・レビュー」が商社業界を取り上げるようになったら注意することにしましょう。


●商社の資源開発は失敗の歴史である。儲かるようになったのは21世紀になって、中国などBRICSが発展してから。20世紀の商社マンにその発想はなかった。日本は資源のない国なのだから、「儲からなくてもいい、お国のためにやる」などと言っていた。

――某社が「ROE6%」という目標を掲げたとき、他社から「商社がそんなに儲けるべきではない」という批判があったそうです。さて、これは「古い資本主義」なのか、それとも「新しい資本主義」なのか。


●コロナ禍で商社業界も大変なことになるのかと思ったら、今期の中間決算はどこも史上最高益。コングロマリットでやっていることのメリットが出た。あいかわらず評判は悪いけれども、これでやっていくしかないのだろう。

――まあ、証券界の評価は気にしないでおきましょう。いつも思うのですが、経営者とアナリストの関係は作家と評論家みたいなもの。「だったらお前が書いてみろ」と言えばそれで終わりです。


○歴代の商社経営者に対する寸評なども、非常に面白かったのですがここでは自粛。コロナで貿易会の新年賀詞交歓会や双日の記者懇談会もなくなって久しいので、なかなかリアルでは会えませんが、いずれ一献傾けながら昔話をしたいものです。


<12月4日>(土)

○今週の週刊東洋経済に面白い記事が出ている。「リクルートの特異な好決算 利益3倍の裏に2つの難題」だ。

○今期の中間決算で、同社の営業利益が前年同期比で約3倍の2229億円となったのだそうです。上半期としては上場来最高だとのこと。とはいえ、同社はこれが実力とは思っていないそうで、「欧米の人材市場は今、きわめて特殊な環境にある」。リクルートが2012年に買収したアメリカの求人情報検索サイト、Indeed(インディード)が無茶苦茶儲かっているのだという。世界60カ国でサービスを展開し、月間2.5億人が利用しているというから驚きだ。

○今のアメリカ経済は過熱気味。インフレが始まっているから、個人消費がますます駆け込み気味になっている。10-12月期の実質GDPは2桁近く行くんじゃないか、などと言われている。当然、人手は足りないのだが、求職者数は伸びていない。金曜日夜に公表された11月の雇用統計を見ても、NFPは21万人増と予想を下回ったのに、失業率は0.4p改善の4.2%である。いかに求職者が減っているか、ということである。

○まあ、実際、これだけ景気が過熱してくると、アメリカの雇用は完全に売り手市場となっている。賃金はもちろん上昇しているけれども、働き手はもっといい条件が出るまで、仕事に就くのを急がなくなっている。加えてオミクロン株もありますからな。この不均衡がインディードの利益を押し上げて、リクルートHDの好決算につながっているわけだ。

○リクルート社としては、「じゃらん」(ツーリズム)や「ホットペッパーグルメ」(外食)はコロナ下で大変なことになっているわけで、とんでもない追い風がきているわけだ。同社としては、「過去に例を見ない需給の乖離であり、このような事業環境は一時的なもの」だとしている。

○しみじみ思うのですが、世界経済が「脱コロナ」の段階に入ったら、どうやらインフレになるらしい。それは理屈としてはわかりますよね。日本にインフレが来るのは最後のタイミングになるだろうが、そのときに「物価と賃金が同時に上がるようなモメンタム」を醸成することが肝要であろう。これこそがデフレ脱却のラストチャンスなのかもしれませぬ。


<12月5日>(日)

〇やや旧聞に属するところですが、先月のCOP26、11月14日に閉会した時のボリス・ジョンソン首相の記者会見冒頭発言が、ちょっといい感じなのである。以下は英国政府のサイトから。

https://www.gov.uk/government/speeches/pm-opening-statememt-at-cop26-press-conference-14-november-2021 

〇グラスゴー首脳会談は、十分な成果を挙げられなかったということを認めたうえで、こんな風に言っている。

「哀しいかな外交とはそういうものだ。いろんな形で働きかけることはできるが、主権国家に対して、彼らがやりたくないと思っていることを強いることはできない」。


Sadly that’s the nature of diplomacy.

We can lobby, we can cajole, we can encourage but we cannot force sovereign nations to do what they do not wish to do.


〇それでもわれわれは、安易にシニカルになるべきではない。シャルマ議長と彼のチームが達成したことを誇ることができる。パリ協定以前の世界は、温暖化に向かってまっしぐらだった。それがパリ以降は3度上昇になった。グラスゴーでは目盛りを2度に下げることができた。それでもまだ高すぎるが、正しい方向には向かっている。そしてどんなに悲観的な評論家でも、1.5度目標がまだ生きていることは認めるだろう。それを実現するための作業は続く・・・・。

〇外交とは何か、ということを知りぬいたうえでの発言だと思います。ボリス・ジョンソンは変な政治家で、コロナ対策などでは明らかに間違った判断を下すことがあっても、なんとなく「許されキャラ」で政権を維持している。これは今みたいな時期には重要な資質であって、岸田さんもそういうところがあるような気がする。

〇何が言いたいかというと、「北京五輪をボイコットせよ!」みたいな声が上がりやすい時期である。それはいいのだけれども、アメリカのバイデン政権は「やるぞやるぞ」という構えを見せながら、開会式の直前まで引っ張るはずである。そうやって中国の行動に是正を求めるのが、こういうときの常套手段である。日本が先にカードを切ったりすると、梃子がなくなってしまうからいかんのです。

〇保守派や人権派の方々からは、「それでは中国の蛮行を止められないではないか」との声があがるかもしれない。そうなんです。哀しいかな外交とはそういうものです。相手は主権国家なのだから。武力に訴える気がないならば、息の長いゲームを仕掛けていくしかない。単純に自分の怒りをぶつけるようなことをしてはいかんのです。

〇しょっちゅう怒っているようにみえるボリス君が、意外と冷静なことを言っているので、上、ご紹介する次第であります。拳拳服膺したいものであります。


<12月6日>(月)

〇この季節の定番、日本貿易会の2022年度版貿易動向調査が12月2日に公表されております。私もこの調査の実務を離れて久しいのですが(座長を務めたのは2005年と2012年)、こんなに景気のいい予想を見るのは久しぶりです。

〇まあ、それも当たり前の話であって、2020年度の輸出入はコロナの影響で大きく下振れして、それが21年度はワクチン普及などによって急回復し、コロナ前の2019年度水準を上回る見込み。今年度は輸出入ともに前年比2割以上の伸びとなる。こんなすごい伸び、見たことナッシング。まさに地獄から天国である。2022年度の輸出入は、いずれも過去最高となる見込みである。

  2020年度 2021年度(e) 2022年度(e)
輸出 69.5兆円

▲8.4%

83.9兆円

+20.7%

86.0兆円

+2.5%

輸入 68.4兆円

▲11.4%

87,1兆円

+27.4%

87.9兆円

+0.9%


〇もちろん上記はあくまでも予測であって、いくつかの前提条件に基づいている。@世界経済はウィズコロナで正常化する、A国内でも正常化に向かう、B半導体などの供給不足は2022年度後半には解消される、などである。

〇これにともなって経常収支は21年度16.3兆円、22年度19.4兆円と黒字基調が続く。日本は高齢化の進展に伴って、2020年代になれば経常赤字国に転落する、なんてことを言っていた人がいたけれども、そんなの全然兆しも見えません。第1次所得収支が20兆円台の黒字が続くので、ちょっとくらい貿易サービス収支が赤字になっても関係ないのである。

〇このほか各論部分で行くと、「食料品輸出がいよいよ1兆円近くなる」とか、「新型コロナワクチンの輸入額は年間で1兆円程度となる見通し」などといったコメントも記されている。これだけの規模のワクチン輸入が笑って余裕でできるくらい、わが日本経済は巨大なわけであります。なにしろ自動車輸出だけで13.7兆円(21年度予測)という世界でありますから。

〇いつも言っていることですが、日本は貿易立国です。エネルギーでも食糧でも、輸入が止まったらこの国は死んでしまいます。そして輸出は、この国の経済にとって死活的に重要です。見かけ上の貿易依存度は低いのですが、日本経済を支えているのは輸出産業なんですから。

〇足元の輸出入は、米中デカップリングだとか経済安全保障だとかの議論をよそに活況を呈しています。これはこの国にとって良いことであります。自由貿易こそがこの国の生命線なのであります。


<12月7日>(火)

〇貿易動向調査のことを考えているうちに、10年くらい前に「日本の経常黒字はなくなるかどうか」という議論を日経紙上でやったことを思い出した。で、調べてみたらちゃんと記事が残っていた。えらいぞ、日経電子版。(登録している人は、ちゃんと以下のリンクから全文読めると思います)


●経常収支、JPモルガン菅野氏と双日総研・吉崎氏に聞く

日本は昨年、31年ぶりの貿易赤字に陥った。海外投資からの収入を加味した経常収支も、このまま赤字になるのか。近く赤字になるとみるJPモルガン証券チーフエコノミストの菅野雅明氏と、黒字は維持できるとみる日本貿易会の吉崎達彦氏(双日総合研究所副所長)に語合ってもらった。(文中敬称略)


〇何しろ2012年2月5日の記事である。当時は震災の1年後で、原発は全部止まっているし、超円高は止まらないし、政治は民主党政権だし、これはもう経常黒字は数年で消えてなくなるわなあ、というのが大勢であったのではないかと思う。この年、ワシは貿易動向調査界の座長をやっていた手前もあって、「いえいえ、日本経済の黒字は意外としぶといですぞ」と言って反論したのでありますが、今読み返してみると議論の中身では押されている。

〇ただし言っていることは当方が正しかった。なんと日本の経常黒字は10年後の今も健在で、GDP比3〜4%の黒字をキープしている。旺盛な第1次所得収支のおかげで、これを見る限り日本は投資立国になっていることが窺える。とりあえず「悪い円安」になる懸念は少ないのではないでしょうか。

〇最後に、この対談を仕掛けた滝田洋一さんのまとめが往時をほうふつとさせる。10年前はこんな感じで、まさに「悪夢の民主党時代」でありました。


●企業の危機感 政府は応えよ

 シャープが液晶パネルの堺工場を5割減産へ。TDKが国内3工場を閉鎖――。電機各社は減益や赤字が相次いでいる。元々高い法人税に加えて円高や電力制約がのしかかり、生産立地として日本は果たしてやっていけるのか。経常収支が赤字に陥らないかという問いかけには、そんな危機感が込められている。

 韓国などとの競争が激化するなか、国際競争力を高める戦略が問われる。政府が手をこまぬくなら、企業は海外展開を急ぐ。それは動かぬ政治に対する不信任投票である。

(編集委員 滝田洋一)








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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)