●かんべえの不規則発言



2017年4月 






<4月21日>(金)

○ちょっと仕事が増え過ぎたので、今日はお休み。一日ゴロゴロ。

○これがとっても面白かった。


●藤井聡太四段 炎の七番勝負 対永世棋聖 佐藤康光九段


○14歳の中学生プロ棋士がとにかく強い。あの佐藤九段が作戦負けでした。このところ絶好調だったんですけどねえ。こりゃあ、リアル版「三月のライオン」ですな。

○AIの進歩に戦々恐々の将棋界ですが、新しい才能も誕生している。面白いですなあ。


<4月22日>(土)

○昨年からとっても評判になっている『この世界の片隅に』、映画を見ようと思っていたのだが、なかなか時間が合わずに果たせず、ふと思いついて漫画の原作(上・中・下)を買ってきた。休日の読書には好適でした。

○ご案内の通り、太平洋戦争中の呉市と広島市を舞台としている。とってもフツーな日常が描かれていて、たぶんこの通りだったんだろうな、と感じさせるものがある。これに比べれば、NHKの朝ドラなどで描かれている「あの戦争」の描写が、とっても嘘くさく思えてしまう。良貨の前には、悪貨は輝きを失うものである。

○われわれの日常には、皆が「そういうものだ」と感じている決まりごとがたくさん存在する。そういうことは、いちいち書きとめられることがないので資料として残らない。それとは別に、美化やデフォルメが加わった「次世代に語り伝えたい歴史」が幅を利かせる。日本を肯定したり、批判したりするために、過去を捻じ曲げる手合いも居る。まあ、そういうものは得てして嘘くさく聞こえるし、時間がたつとボロが出てくることが多いよね。敢えて誰が、とは言いませんが。

○この漫画が描かれた時代の「そういうものだ」は、今ではかなり分かりにくくなっているものが含まれている。家族の在り方、結婚の在り方などは、これが同じ国かと思えるほど変わっている。失われて久しい習慣もある。だから、「子どもでも、売られてもそれなりに生きとる」というセリフにドキッととしたりする。そしてその後に続く、「誰でも何かがたらんくらいで、この世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ」というメッセージが重く心に響く。

○かくして時代の変化とともに、「そういうものだ」はどんどん変わってしまうのだが、ここに描かれているのは間違いなく日本の社会である。いいところも、嫌なところも、実はそんなに変わってはいない。だから今読んでも非常によく理解できる。自分の父母など、上の世代から聞かされてきた数々の「戦争の頃の話」が、あらためて違った形で思い起こされる。

○実はつい先日、慶応大学の3〜4年生を相手に1コマだけ講義する機会があった。「こいつらは90年代後半の生まれか」と思うと、つい変なところに力が入り、「1980年代の商社マンは、平均寿命が短かったものだ」みたいな余計な昔話に力が入ってしまった。自分なりにあの時代の「そういうものだ」を伝えたいと思うのだが、これはなかなかに難しい気がしている。昭和は遠くなりにけり。なにせ来年には天皇陛下が退位して、翌年からは新年号だからなあ。

○それにしても、2006年から2009年にかけて「漫画アクション」に連載されたこの漫画が、とうとう映画化されて社会現象にまでなったのは、一種の快挙ではないかと思う。この国の漫画・アニメカルチャーを支えているのは、確かな眼を持つ膨大な数のファンたちでありましょう。だからこそ、描き手も育つわけでして。毎年生み出される膨大な出版物の中から、かかる良貨を見出してくれた先達の方々に感謝申し上げたい。


<4月23日>(日)

○このところ金曜、土曜、日曜と3日も遊びほうけておる。これがいちばん腰痛にはよろしい。針治療なんてアナタ、痛いだけですがな。

○本日は久々に中山競馬場に出動。フローラステークスは大荒れでかすりもしなかったが、マイラーズカップではめでたくイスラボニータの単勝をゲット。そのまま12Rは福島で単勝、京都で3連単、東京で3連複と3連勝で締める。ああ、気分がよろしい。競馬でちゃんと浮いて帰るのは、今年初めてではないだろうか。

○阪神タイガースも巨人相手にちゃんと勝ち越し、ますます上機嫌なのであったが、問題はアベマTVで放送していた藤井聡太四段の炎の七番勝負最終戦、羽生善治三冠戦である。7時の開局から見始めて、とうとう11時の投了局面まで見てしまったが、羽生さん、最後になってようやく見せ場はつくったものの、まことに不本意な一戦と言うべき。あれでは9五桂が泣いている。中学生の藤井四段、強いことはよくわかったが、これで七番勝負を6勝1敗とは勝ち過ぎではあるまいか。「3月のライオン」、いや、「4月のタイガー」と呼んであげよう。

○かつて羽生さんも中学生プロ棋士であった。それが当時の大山康晴15世名人(将棋連盟会長)と闘ったときは、お得意の番外戦術をかけられて苦しんだと聞く。ところが羽生少年は重圧をはねのけて、「6六銀」という妙手を放ち、そのときさすがの大山十五世も首筋が赤くなった、と当時の観戦記は伝えていた。さらにその銀が「7五銀」と進んだところで、大山の肩がガックリ落ちたとも(そんなことを書くのは、きっと河口俊彦八段であったに違いない)

○世代交代というものは、そんな風に力づくで行われるのが正しい姿であろう。ところが今回の七番勝負は、上位陣がまことにあっけなく斬られ役を演じているように見える。最近の大人は妙に物わかりが良いものだから、ついついそんなことになってしまう。でも、新しい世代が駆け上がってくるときに、ベテラン勢がそんなことでいいものだろうか。いくらAIの進化に揺れる将棋界とはいえ、若い者に対してはもっと辛酸をなめさせないと。

○とまあ、こんな風に感じるのも、ワシが年を取ったということかもしれんのだが。お蔭さまで腰痛は少しマシになりました。よっこらしょ。


<4月24日>(月)

○以下は若干のお知らせであります。よろしくね。

●明日は超・生産性会議なるイベントに登場します。実はぐっちーさんの代打ちなんですが、ぐっちーさんが今、アメリカで何をしているのかはよく知りません。実は危険なテロリストと認定されて、国土安全保障省から呼び出しをくらった、というのはここでワシが作った風説ですから、信じちゃダメですよ。「日本の成長にはいま、何が必要ですか?」てなお話をする予定です。

●週末土曜日には、NHKラジオ第一で「池上彰2017年世界を読む」なる番組に登場します。出番は4月29日(土)、17:05PM−18:55PMとなります。この日は「トランプ政権100日」ということになりますので、おそらく世界中で似たような企画をやっていることでしょう。


<4月25日>(火)

○何だか日本中が北朝鮮の動向で大騒ぎしているようですが、当方はずーっと「そんなことないっしょ」モードであります。ジャンケン後出しでない証拠に、先週受けた外為どっとコムの取材にリンクを貼っておきましょう(4月17日)。

○金正恩さんの立場になって考えれば、ごく簡単なことです。皆が注目しているときに、核実験や弾道ミサイルを試して、失敗したら目も当てられない。しかも祖父の誕生日である4月15日にも失敗している。今日のところは黙っているのが吉です。通常兵器の訓練をしたという話もありますが、それならばあり得る。彼らは「ソウルを火の海にする」ことだけは確実にできる。だからこそ、アメリカも手出しができないわけでありまして。

○金一家にとって、いちばん大事なことはみずからの体制の安定です。そのためには、常に国内を緊張状態に置かなければならない。「天下のアメリカさまと対等に戦っている」というポーズが必要なので、コストを度外視してせっせと核兵器や弾道ミサイルを開発している。そのことによって、守りたいのは自分たちの政権の正統性なんです。

○それで経済制裁を受けて、国民が飢えても全然オッケー。だって自分たちの豪勢な暮らしがなくなるわけじゃなし。「核開発を止めれば許してやる」みたいな取引を持ちかけても、彼らはたぶんリビアのカダフィがどんなことになったかをよく覚えている。だから虎の子の兵器は渡さない。

○その核兵器や弾道ミサイルが、だんだん本物っぽくなってきたからややこしい。この点、かの国は端倪すべからざるものがある。あれだけ少ない予算でやっているわけですからね。だからと言って、虎の子の武器を本当に使ってしまったら拙いわけです。仮にもアラスカやハワイに落ちようものなら、確実にボコボコにされてしまうでしょう。ここにパラドックスがある。

○サスペンス映画で音楽が派手に盛り上がっているときは、決定的なことは起きません。むしろ観客が油断しているときに、出し抜けに何かを見せて驚かす。スピルバーグ監督が得意とする手法ですよねえ。


<4月26日>(水)

○そういえば3日前に三遊亭圓歌師匠が亡くなった。まあ、お年ではあったから仕方がないのだけれども、もう二度とライブで聞けないのはしみじみ寂しいことである。ワシはときどき、ぶらりと浅草演芸ホールに入ることがあるので、圓歌師匠の「中沢家の人々」を何度か聞いた。確か昨年の今頃も聞いた。調べてみたら、ちゃんとこの不規則発言にも書いてあった(5月1日分)

○あらためて、ユーチューブで「中沢家」を聞いてみる。この圓歌師匠は、たぶん10年くらい前のものであろう。ネタは全部知っているのに、涙が出るほど笑えてしまう。それくらいすごい芸である。

○高齢化社会を語るときに、この噺はまことに豊富な材料を提供してくれる。「年寄りが佃煮にするほどいる」とか、「遠くから見るとまるで恐山だよ」というフレーズ、怖いけど一度、どこかで使ってみたい。実は拙著『気づいたら・・・』の中でも、「中沢家」を紹介していたのであった(第6章)。こんなことを書いている。


 今の寄席は、お客の大多数が高齢者である。圓歌師匠が年寄りイジメのようなネタを振ると、客席の高齢者が大笑いする。これが何ともいい味を出している。ドナルド・トランプ氏ならばともかく、普通の人なら公共の電波では怖くてとても言えないような言辞が飛び交っている。ありがたいことに寄席は閉ざされた空間であって、ここには本物の言論の自由が存在している。


○最近になって、ジェロントロジーという言葉があることを教わった。要は「老年学」ということで、長寿化、高齢化が進むと社会経済にはどんなことが必要になるかを研究するものだとか。何と慶応大学には、「フィナンシャル・ジェロントロジー研究センター」なるものもできている。つまりその金融版というわけ。今後、非常に重要性を増す研究分野だと思う。

○例えば今は「高齢者の金融資産」というと、オレオレ詐欺からどうやって守るか、遺産相続で揉めないためにどうするか、といった後ろ向きの話が多くなる。が、1700兆円もの金融資産のうち、3分の2は高齢者が保有しているといわれる。そのほとんどが銀行預金になっていることは想像に難くない。これをどうやって日本経済を成長させる投資分野に振り向けるか、といえばたちまち一大テーマができあがる。

○先日、同センター長の駒村康平教授から聞いたところでは、日本人の平均寿命は今後さらに伸びるらしい。それこそ日本中が、「中沢家の人々」になってしまうかもしれない。経済はもちろん、医療福祉介護から年金制度まで、今からやらなきゃいけないことがいっぱいありますぞ。

○とまあ、それはさておいて、「中沢家の人々」はこんな狂歌が下げになっている。


年老いて 万事枯れゆく 昨日きょう むさくるしさに なるまいぞゆめ


○昭和4年生まれの圓歌師匠は、むさくるしいどころかたくさんの思い出を残して惜しまれつつこの世を去った。あいにく歌奴時代の「山のアナアナ〜」には世代的に間に合わなかったけれども、晩年の「中沢家」を何度もリアルで聞けたワシは幸運であった。合掌。


<4月28日>(金)

○毎年、この季節にやって来るはずの自動車保険の証書が届かない。はて、どうしたのだろう。数日待った挙句、意を決して代理店に電話してみる。

「すいません、保険の証書が届かないんですが」

「はい、今年から電子版になりました」

「は?」

「説明のお手紙はご覧になっていませんでしょうか?」

○そんなもん、保険会社から来る手紙なんて、読むわけないでしょうが・・・・と絶句していたら、相手方曰く。

「それではあらためて紙の証書をお送りいたします」

○うんうん、最初からそうしてくれよ。電子版の保険証書なんて気持ち悪いじゃないですか。いや、その方が会社としてはコストは下がるんでしょうけれども。

○続きまして別の話題。いつも使っているiPadが突然、スイッチが入らなくなった。どうにもこうにも動かない。丸3年使っているから、そういうこともあるかなとは思う。しょうがないから、時間を見つけて銀座のアップルショップを訪ねてみた。

「すいません、電源が入らなくなったのですが」

「ご予約はおありでしょうか」

「は?」

「ご予約の方のみ対応しております」

○なんと予約を入れてから出直して来いという。しかもゴールデンウィークは混んでいるなどとぬかしやがる。温厚なかんべえさんもいささかムッとする。目の前には大勢社員が居るというのに、皆知らんぷりをしている。

○ということで、着々と世の中から遅れつつある。こんな風にして、日本経済の生産性は向上しているのであろうか。嫌な渡世だなあ。












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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)