●かんべえの不規則発言



2016年5月 






<5月19日>(木)

○今朝は自由民主党の日本経済再生本部のヒアリングに呼ばれました。自民党本部の7階は今日は活況で、考えてみたら「一億総活躍プラン」と「骨太方針」と「新成長戦略」の発表時期が重なっていて、いずれも最終段階にあるのですな。でもって、小生めに与えられたテーマは「国際的な政策協調について」でありまして、これは要するに来週のG7サミット用の会合なわけです。もっとも1週間前に何か提言をしたところで、それが間に合うはずもないのでありますが。

○G7伊勢志摩サミットもいよいよ1週間後に迫りました。安倍首相が目指していた「国際協調による財政出動」は、さすがにちょっと苦しい感じですが、そうはいっても各国のシェルパたちは議長国のメンツを守ってくれるでしょうし、なにしろ今回はサミット終了後に「オバマ大統領の広島訪問」という大イベントが控えている。サミットは毎年ありますけど、こちらは歴史年表に載るような大事件です。おそらく週末のテレビ各局は、伊勢志摩よりも広島の方を取り上げるのではないでしょうか。

○もっとも、「合衆国大統領の広島訪問」は日本経済には無関係なわけでして、むしろ株価や為替が反応するのはG7の方であります。そういう意味では、来週の伊勢志摩サミットでどんな議論が交わされるかは、注目でありましょう。そしてまた、これに合わせて発表される一連の経済対策の動向も目が離せません。

○今朝の日本経済再生本部では、稲田朋美政調会長が冒頭挨拶をされまして、「昨日の党首討論では民進党の岡田代表が、@消費税増税は延期せよ、A赤字国債を発行せよ、B社会保障はちゃんとやれ、などと言っていたけど、まことに無責任!」とお怒りモードでありました。そこでふと気がつきましたけど、昨日発表されたQEと党首討論によって、あっという間に与野党が攻守を入れ替えたかもしれませんね。つまり与党は「予定通り増税」を訴えて、野党が「増税延期」を訴える。7月はそういう選挙戦になるかもしれません。さすがは永田町、一寸先は闇でございます。

○安倍首相としては、来年の増税の可否をぼかしつつ、とうとうここまで引っ張ってきたわけですが、「責任政党として、来年の消費税増税はちゃんとやる」というのかもしれません。まあ、その分、秋の補正を大規模にするという手もありますからね。これから6月1日の会期末に向けて、果たしてどんなことになるのでしょうか。

○もっとも昨日訪れた某情報システム会社さんで聞いた話では、「軽減税率を含んだパッケージソフトの販売を行っていますけど、顧客の間では『どうせ延期になるだろう』と思われているのかどうか、導入が予定よりも遅れている」という話を聞きました。油断大敵であります。


<5月20日>(金)

○将棋ファンの間の秘かな楽しみ。今月の日経新聞「私の履歴書」は中原誠名誉王座(16世名人)である。将棋史に残る妙手「5七銀」など、よく知られている話を毎朝楽しんで読んでいる。気がつけば、今日で5月も20日目となった。残りはあと11回分だが、果たして「あのこと」についてどう書くのだろうか。

○日経新聞としては、「読者が気にしているんだから、ちゃんと触れてくれないと困ります!」だろうけど、「自然流」の鈍感力を発揮して、サラッと流してしまうような気もする。日経としては王座戦でお世話になっていることもあって、あんまり傷つけちゃいけない相手だし。とはいうものの、連載を決める時点でその辺はちゃんと打合せするだろうし、やっぱり書くよねえ。いや、ホントにどうするんでしょう。

○我ながら下世話な関心事であるが、日経新聞の文化欄を愛する者として、そして若い頃に広報室で仕事をしたために、企業不祥事が起きるたびに当該企業に同情してしまう人間としては、ちょっとハラハラしているのである。


<5月22日>(日)

○G7財務相会合が仙台で行われ、「財政出動、各国が判断」ということになったようです。官邸で「国際金融経済分析会合」なんていう勉強会を開いて、「国際協調の財政出動」を目指していた安倍首相としては、ここは一歩後退となりますな。

○ただし3〜4月頃とはいくつか事情が変わってきた。まず世界経済の雰囲気がそこまで悪くない感じである。石油価格は50ドル近くまで上がってきた。ことによるとアメリカは、6月には利上げしちゃうかもしれない。EUもなんだかんだ言って、1−3月期は年率2.2%成長でした。日本でさえ、1.7%成長でしたから。

○そもそもドイツは、自分のところが景気がいいから財政出動は必要ない。イギリスはパナマ文書問題で動きが取れない。他のEU各国としても、ギリシャに対して説教している手前もあって、おいそれとは財政を使えない立場である。5月の連休中に欧州各国を回っていた安倍首相は、「こりゃーちょっと脈がないな」と感じていたことでしょう。

○ところが良くしたもので、帰国後の5月10日にアメリカが「オバマ大統領の広島訪問」を発表した。そうなると話はまったく別問題で、5月26‐27日の伊勢志摩サミットよりも、27日の広島訪問の方が歴史的な出来事ということになる。これだけで支持率アップが期待できるしね。

○しかしそういうことになると、5月いっぱいはいろいろ忙しかったけど、6月になると急に暇になる。これで解散も増税延期もなかったら、いったいどういうことになるんでしょう。まだまだ波乱があるような気がします。


<5月23日>(月)

○今日聞いて面白かったのが、「第4次産業革命」に関する経済産業省さんのご説明。実を言うと不肖かんべえ、普段からIoTとかビッグデータとかAIとかロボットといった話は、話半分に聴くことにしている。第1次産業革命は蒸気機関、第2次は電力とモーター、第3次はコンピュータ、そして第4次は人工知能、なーんて、話がうま過ぎるじゃないですか。

○ただし、「第4次産業革命の第1幕(ネット上のデータ競争)では、わが国産業(例えばゲーム産業)が敗北して小作人化した」などと聞くと、えらく説得力があるじゃないですか。ゲーム産業と言えば、昔は日本企業の独壇場でした。任天堂のファミコン、SONYのプレステ、後はどうでもいいマイクロソフト社のXBOXが限られたプラットフォームであって、コンテンツ供給者であるゲームのクリエイターたちは基本的に売り手市場であった。だからコンテンツ供給者が収益を確保でき、「面白いソフト」が量産されたのであった。エニックスとかスクウェアとか、今では懐かしいよね。

○それが今では、ゲームはスマホかタブレット上で行うものとなってしまい、プラットフォームはアップル社のApp Storeかグーグル社のGoogle Playのどちらかになってしまった。そうなるとゲームのクリエイターたちは、消費者へのルートを独占する米アップルorグーグル社の「小作人」になってしまうのだ。なにしろ顧客情報が2社に握られていて、契約条件もしょっちゅう見直されてしまうのだそうだ。これではいいソフトを作ったところで、自分たちではうまい汁は吸えないことになる。優れた才能も、コンテンツ供給企業には入ってこないということになってしまう。

○問題は、第4次産業革命の第2幕がどうなるかである。例えば自動走行。グーグルがこの分野に参入してくるのは、別段、自動車産業に興味があってのことではない。むしろ自動走行に関するデータを握ることにより、この分野のプラットフォームを独占してしまえるかもしれないと考えているからだ。その場合、トヨタ自動車など日本の冠たる製造業が、ここでも「小作人化」してしまうかもしれない。この事態をどうやって避けるかが、21世紀のわが国産業政策における根幹をなすことになる・・・・。

○今月発表される新成長戦略は、「官民戦略プロジェクト10」なるものを掲げている。が、その中でもいちばん重きをなすのが、この「第4次産業革命」。とりあえずは絵に描いた餅ではあるが、なかなかに旨そうに見える餅ではある。


<5月24日>(火)

○26日がG7サミット、27日がオバマ広島訪問、そして6月1日には通常国会が閉幕。あと1週間で大きな決断が下されることになるでしょう。

○久々に政治オタクの血が騒ぐような局面です。@消費増税は延期されるか否か、A衆議院の解散総選挙はあるかないか。都合4通りの決断があるわけです。こんな感じですかね。

@増税は予定通り。衆院を解散(衆参ダブル&増税シナリオ)

        ○増税延期を求める野党に対し、「強靭な国家をつくる」自民党+「軽減税率はわが党の功績」の公明党が立ち向かう。
       
○消費税10%は計算がしやすくなるので、増税延期論は不要。選挙が終わったら安倍さんはゴルフ三昧に。
        ×自民党の若手議員にとっては苦しい戦いになるかもしれない。

A増税は予定通り。解散はナシ(参院シングル&増税シナリオ)

       
○世界経済は好転。参院選は自民党単独過半数が可能。せっかくの衆院2/3議席をリスクにさらす必要なし。
       
○平成のダブル選挙は投票箱の数、開票作業などで困難きわまりない。大義名分なしには実施すべきでない。
       
×安倍首相としては、次に解散を打つタイミングが難しくなる。

B増税は延期。衆院は解散(衆参ダブル&増税延期シナリオ)

       
○増税延期+景気対策などあらゆるタマをぶち込み、当初からの予定通り増税延期+解散を決断。
       
○安倍首相はサミット+オバマ広島訪問後の高揚感の中で、かねてからの念願を果たす。
       
×選挙期間中に野党は、「アベノミクスは失敗した」と非難するだろう。

C増税は延期。解散はナシ(参院シングル&増税延期シナリオ)

       
○景気は微妙なので増税延期が妥当。この点で与野党は一致できる。国民も既に延期を織り込み済み。
       
○熊本地震後の解散・総選挙は不謹慎。増税延期の是非は参院選で問えばいい。
       
×JGBの信認に問題が生じるかも。


○本日、某所で政治オタクが寄ってたかって上記シナリオを検討しましたが、AとBが多かったですね。お互いに両極端のシナリオなんですが、Aであればリアリスト安倍、Bであればロマンチスト安倍。たぶん安倍さんはまだ決めていない。この週末が勝負でしょうね。不肖かんべえは以前はB説でしたが、先週の自民党部会に出席してからA説に替えました。

○今後は、「ポスト舛添・都知事選予測」という楽しみも控えている。いやあ、盛り上がりますなあ。ちなみに舛添都知事には、「リオ五輪の閉会式(8/21)に出席して、五輪の旗をリオ市長から受け取ってくる」という大事な仕事があります。その前に首をすげ替えるのは東京都としては少々きついので、たぶん舛添降ろしは秋以降になるんじゃないでしょうか。ま、その前に検察が動いたりしたら一大事ですけど・・・・。


<5月25日>(水)

○昨日、あんなことを書いたら、早速今朝の読売新聞が一面で、「同日選見送りの公算」「首相、消費増税延期へ」とぶち抜きました。その後の続報はこちらをご参照(同日選見送りへ…参院選集中、谷垣氏に首相指示 読売新聞 5月25日(水)15時23分配信 )。

○4つのシナリオの中では、C参院シングル&増税延期シナリオ、ということになります。この場合、債券市場の反応としては「安倍内閣が続く間は、もう消費税の増税はできないよね(2回も延期したんだもの)」となりますので、財政の持続性については疑義を持たれることになるでしょう。いくらマイナス金利とは言っても、こればっかりはね。

○その場合、むしろB衆参ダブル&増税延期シナリオの方が、「伊勢志摩&広島効果があるから、安倍政権は大勝するだろう」→「その場合、向こう3年間は選挙がないから、与党はやりたい放題だ!」ということになって、おそらく株価は爆上げとなったのではないでしょうか。

○ただし実際問題として、衆参同日選挙を実施する大義名分としては増税延期は少々弱くなっているし、熊本地震の影響もある。30年ぶりのダブル選挙がいかに大変なことであるかは、以前にも書きましたけど、@投票箱が5個!Aポスターの掲示版も足りない!B開票作業も大変!Cマスコミの作業も大変!などの問題がつきまとう(「30年ぶりの難事業?」)。

○ちまたにはこんな会話もあるんだそうです。有権者「5枚も投票用紙を渡されて、どういう風に書けばいいんですか?」→候補者「この際だから、全部、私の名前だけ書いてください!」(ほかの4枚はこの際、犠牲になってもいい)。シルバー民主主義の時代に、5つの投票箱(衆院小選挙区、衆院比例区、参院選挙区、参院比例区非拘束名簿方式、最高裁判事国民審査)は無理でしょう。年内解散の可能性は消えてないと思いますけど、とりあえずダブル選挙はないのではありますまいか。

○それでは増税延期の方はどの程度信用できるのか。読売新聞は、「軽減税率」の導入に血道をあげてきた新聞です。軽減税率は、増税がないと実現しません。ということは増税延期の報道は、あの新聞にとって重いものがあったことと想像いたします。

○うーん、やっぱりシナリオCなのかなあ・・・。ほかの@〜Bの方が、波乱万丈感が強くて野次馬的には面白いんですけどねえ。


<5月27日>(金)

○えー、どうやらこの2日間にわたる、G7サミットとオバマ大統領広島訪問の特別警備態勢が終わるみたいです。とりあえず、テロ事件とか不測の事態とかソフトターゲットとか、大きな問題がなくてよかったね、ということになります。

○わが国のことでありますから、たぶん来週になりますと、すっかり元に戻ってゴミ箱もロッカーもご自由にどうぞ、てなことになるのだと思います。日曜日にダービーが行われる府中競馬場も、たぶん10万人を超える人出になりますな。なにしろ近年稀れに見る好勝負となりますので。山崎元さんはサトノダイヤモンドだそうです。あたしゃやっぱりマカヒキだな。まあ、上海馬券王先生のご意見をお待ちしましょう。

○しみじみお気楽な国なのであります。今年はそれでよかったわけですが、4年後に訪れる東京五輪の時は、こりゃあ大変なことになりますぞ。おそらく今回のような事態が1か月以上も続くわけです。特に首都圏は。全国の県警から動員が行われるという事態が、長期化することになりますでしょう。しみじみお疲れ様です。

○ところで本日、大韓航空機ボーイング777機が羽田で出火するという騒動があったそうです。これで歴史的瞬間に立ち会おうとしていた議員さんたちの一部に、「広島に間に合わない!」という不幸が生じたようです。わざとではないんでしょうが、こういうのを「未必の故意」というのかもしれませんな。

○とりあえずこの程度で済んでよかったです。でも、まだすべてが終わったわけではありません。おうちに帰ってくるまでが遠足です。


<5月29日>(日)

○人事というのは難しいもので、特に長期政権の後をどうするかは難しいものです。激震が走ったセブンアンドアイはまだまだ揉めそうですし、燃費不正をカミングアウトした鈴木自動車の今後も気になるところです。いや、日本政府なんぞ、小泉政権の後は滅茶苦茶になりましたからな。今の安倍内閣も長期政権ですが、これも終わったときには苦労しそうだなあ・・・。

○ところがここに、すばらしい名人事があった。高齢になった長期政権のトップが勇退し、意表を突く若手を後継者に指名し、なおかつ派閥バランスも均衡させて、誰もが納得の新人の補充を行っている。これなら老舗も安泰というもので、いや、さすがですな、「笑点」さんは。

○桂歌丸さんが番組50周年を機に引退され、後継者が春風亭昇太さん、というのはちょっと意外感がありました。でも、「内部昇格」の場合、他の誰でもうまくいかないんですな。6代目の三遊亭円楽師匠が大本命でしたが、彼が抜けちゃうと、大喜利で「最初に手を挙げる」人が居なくなっちゃうんですね。その点、昇太さんは司会者として嫌味がないし、わりに安心して見ていられる。

○なおかつ、笑点メンバーの中には落語界の3つのグループが入り混じっていて、このバランスもよく考えられている(ような気がする)。

一般社団法人 落語協会:林家木久扇、林家たい平、林家三平(←新加入)

公益社団法人 落語芸術協会桂歌丸(←勇退)、三遊亭小遊三、春風亭昇太(←新司会者)

●円楽一門会:三遊亭好楽、三遊亭円楽

○司会者を同じ芸協から登用したことで、落語協会を優遇する必要があった。そこで新加入は林家三平(正蔵ではない)として、さらに林家たい平を24時間テレビのマラソンランナーとして処遇する。いや、よく考えられていると思います。派閥均衡人事って、意外と大事なことなんですよ。きっと。何事も長く続けるためにはね。

○制作者の日本テレビとしては、日曜夜の視聴率獲得のためには、お化け長寿番組である『笑点』の人気維持が欠かせない。なにしろこの後、『バンキシャ』→『ザ!鉄腕!DASH!』→『世界の果てまでイッテQ!』→『行列の出来る法律相談所』と人気番組が続くわけですから。関係者はきっと真剣に考えたことでしょう。

○こういう上手な人事を、一般企業も学習すべきだと思いますぞ。要するに私利私欲を考えないで、全体最適を考える、ということであります。













***月初に戻る









編集者敬白





●不規則発言のバックナンバー

2016 2015 14 13 12 11 10 09 08 07 06 05 04 03 02 01 00 99
  15年12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月 12月
  15年11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月 11月
ベトナム
  15年10月 10月 10月 10月 10月 10月 10月 10月 10月 10月 10月 10月 10月 10月下
NZ
10月上
10月 10月下
NZ
10月上
10月
  15年9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月 9月  
  15年8月 8月 8月 8月 8月 8月 8月 8月 8月 8月 8月 8月 8月 8月下
台湾
8月上
8月 8月  
  15年7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月 7月  
  15年6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月 6月  
16年5月 15年5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月 5月  
16年4月 15年4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月 4月  
16年3月 15年3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月 3月  
16年2月 15年2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 2月 ASEAN
2月
 
16年1月 15年1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月 1月  

溜池通信トップページへ

by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)