●かんべえの不規則発言



2020年8月 





<8月1日>(土)

〇このところ重要な経済指標が相次いでいたので、ここでまとめておきましょう。


●アメリカの4-6月期GDP速報値が前期比▲32.9%(年率換算)に。

――グラフを描いてみると、見事にそこだけ目立ちます。10年前のリーマンショックの後がかわいらしく見えます。

――寄与度で見ると、約33%の減少のうち25%分は個人消費の落ち込みである。さすがはアメリカ経済、消費が凍り付くとここまで悪化してしまうのである。

――残りの8%分は、設備投資が▲3.6%、住宅投資が▲1.8%、在庫投資が▲4.0%といった数字が並ぶ。純輸出が+0.7%になっているのは、輸出以上に輸入が減ったからでありましょう。

――政府支出は+1.2%と頑張っているが、今世紀に入ってからこれを上回ったのは「9/11テロ事件」直後とイラク戦争勃発時の2回だけですな。


●日本の6月鉱工業生産指数は前月比2.6%増の80.8だった。

――とりあえず前月の5月がボトムとなり、7月、8月は増加が見込まれている。

――過去の水準と比べてみると、ちょうどリーマンショック後の2009年1月〜4月頃とほぼ等しい。稼働率や在庫率を見てもほぼ同じ。つまり製造業は「リーマン並み」ということになる。

――日本のGDPは2009年1−3月期に▲19.1%(年率)を経験しているが、今年の4−6月期もそれと同じくらいか。内閣府が速報値を発表するのは8月17日である。


●日本の6月失業率は前月比0.1P改善の2.8%、有効求人倍率は1.11倍(前月は1.20倍)だった。

――「まだ2%台」などといって喜んではいけません。雇用のデータは実数で見た方がいい。6月の雇用者数は5909万人で、前年同月比96万人の減少でありました。

――さらに内閣府によれば「約500万人の休業者」がいるとのことですから、これが解雇されると「失業率2桁」でも不思議はありませんん。


〇今年の4−6月期の経済指標はまことに悪かった。問題はこれから先です。まあ、コロナ次第になってしまうのでしょうが。


<8月2日>(日)

〇7月30日に李登輝さんがお亡くなりになった。国葬の様子が放送されていたが、蔡英文さんの後に、馬英九さんも献花していた。この二人は、いずれも李登輝さんに見いだされて政界入りした。そして二大政党の総統になった。李登輝さんこそが、台湾における「ザ・ファウンディング・ファーザー」である。

〇ふと気づいたら、国葬で流れていた曲が『千の風になって』であった。「私のお墓の前で泣かないでください〜」というアレだ。あの歌が、こんなに似合う人はいないだろう。確か産経新聞に連載されていた『李登輝秘録』に、李登輝さんがあの歌に救われた、という話が出ていたと思う。そういえば、ちょうど単行本が出たらしい。こう言っては何だが、ぎりぎり間に合ったことになる。河崎真澄記者、お疲れさまでした。

〇立派な仕事を残した偉大な人が、晩節を汚さず、最後まで周囲に惜しまれつつ天寿を全うする、ということはめずらしいものだ。習近平やプーチンは、さぞかしうらやましく感じることだろう。当人たちはそれがわかっているからこそ、見苦しくジタバタするわけであるが。

〇李登輝さんには、何度かお目にかかったことがある。といっても、こちらはワン・オブ・ゼムであったから、「会った」などというのはおこがましい。それでも「自分が握手したことがある人の中で一番偉い人」と勝手に認定させてもらっている。幸いなことである。

〇2002年と2004年に日米台三極対話で台湾に行った。そのときに李登輝さんの講演を聴く機会もあったし、事務所を訪問することもできた。3か国の出席者がいるので、会話はいつも英語であった。

〇あるとき、李登輝さんが英語で思い出話をしている最中に、突然、怒り出した。そして、「あの人たちはケシカランですよ!」となぜかそこだけ日本語になった。ああ、この人の母国語は日本語なんだ、と思い知らされた瞬間であった。ちなみに李登輝さんの「思い出し怒り」は、自分が総統だった時代に国防部のサボタージュに手を焼いたことであった。そこは昔の国民党で、「心は大陸にあり」という部下が多かったのであろう。

〇いろんなことを聴いたけれども、いちばん「らしいなあ」と感じたのは李登輝さんのこのセリフである。


「大きな目標があるときに、私はまっすぐそこへ向かって進むことはない。かならず遠回りをする」


〇こういう大人の知恵は、21世紀には流行らないのかもしれない。まあ、政治の世界から大人が少なくなっているので、仕方がないことなのだろう。「その他大勢」の一人であったが、偉大な人の謦咳に接することができたことは、われながらまことにラッキーなことであった。合掌。


<8月3日>(月)

〇米大統領選挙の老舗ウォッチャーの一人として、これはやっぱり気になります。なにしろ一度決めたら変えられませんからね。そしてまた、「チケット」(正副大統領コンビ)が決まった瞬間に、大統領選挙は本格化する。そして投票日は3カ月後、民主党大会は2週間後に迫っている。

〇あらためて、副大統領候補選定の鉄則を確認しておきましょう。@「副大統領選びは重要ではない。その証拠に、副大統領候補のお陰で勝った大統領はいない」(例:チェイニーやバイデン)、A「それでも副大統領選びは重要である。その証拠に、副大統領選びを間違えるとそれだけで負けてしまう」(例:2008年のジョン・マッケインが選んだサラ・ペイリン)

〇例えば2016年のヒラリー・クリントン候補が、副大統領候補にだれを選んだか、ほとんどの人は覚えていないでしょう(答えはティム・ケイン上院議員)。それくらい、どうでもいいこともある。しかし、今回の場合は極めて重要です。バイデンさんは何しろ77歳。普通に考えたら2期目はないだろう。つまり彼の政権は、発足した瞬間から「次は誰だ?」ということを皆が意識することになる。

〇そしてバイデン氏は、けっして個人的な人気が高いわけではない。彼が選ばれたのは、「トランプを倒すのには絶好の候補者」だったからだ。つまり選挙に勝った瞬間、多くの民主党支持者にとって彼は「用済み」になってしまう。それこそ新型コロナに感染してくれても大いに結構、ということになりかねない。

〇さらにバイデン氏は、副大統領には女性を選ぶと言っている。それも昨今の情勢からいって、有色人種の女性ではないかと言われている。そして彼には「女難の相」がある。セクハラ訴訟も起こされているし、今どき危うい発言も少なくない。いやあ、大丈夫ですかねえ。


バイデン氏の「女性副大統領」候補選び大詰め 〜8月10日の週に発表か〜 (ウォールストリートジャーナル日本版)


〇この記事の中にも大勢の候補者の名前が出てくる。不肖かんべえの癖としては、ついつい本命だの対抗だのと印を打ちたくなるところなのだが、正直言って、全然当たるような気がしない。いや、ホント、最近は新潟でも札幌でも全然当たらないのですっ(違う〜!)


*カーマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州選出)

*カレン・バス下院議員(カリフォルニア州選出)

*エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)

*スーザン・ライス元大統領補佐官

*タミー・ダックワース上院議員(イリノイ州選出)

*バル・デミングス下院議員(フロリダ州選出)

*グレッチェン・ホイットマー州知事(ミシガン州)

*ミシェル・ルハン・グリシャム州知事(ニューメキシコ州)

*ステイシー・エイブラムス元州会議員(ジョージア州選出)

*ケイシャ・ランス・ボトムズ市長(ジョージア州アトランタ市)


〇普通に考えたら、バイデンは有利な状況にあるのだから、小細工は不要なはずである。大本命のカーマラ・ハリスでいいのではないか。即戦力だし、ディベートは強いし、ファンドレイジングでも当てになるし。年齢も55歳だからちょうど頃あいだ。

〇いやいや、実はそこが問題なのであって、あまりに有力な副大統領を指名してしまうと、政権発足の初日から皆がそっちを見て仕事をするようになってしまう。そしてまた口うるさい民主党内では、「彼女の過去の言動の中でも、これだけは許せない!」みたいなことを言う人が後を絶たない。この手のSNS世論は、人事の際にはまことに厄介なものであります。

〇ということで、静かに結果を待ちたいのでありますが、これがなかなかに時間がかかるのです。本当は発表は7月中と言われていたのだが、バイデン氏が8月1日ごろと言い出して、それが8月第1週になり、観測筋は第2週になるんじゃないかと言い出している。これって変じゃなりませんか。

〇副大統領候補を決めるのは、大統領候補の仕事である。誰がどんな異論を挟んだところで、「俺が決めたんだ」といえば済む話である。現大統領のトランプさんなどは一事が万事、その調子であって、決定事項をどんどんツィートする。ところがこの辺が「スリーピー・ジョー」らしいところであって、彼は他人の意見を聴くのである。

〇それどころか、彼はまだ決めかねているらしい。うーむ、現職大統領とは180度違って、思い切り「熟慮断行」の人なのかもしれない。周囲の意見を聴いてくれる、というのがアドバイザーたちにとってはまことにありがたい。しかるにトランプ政治に慣れてしまった身には、なんともまだるこしく感じられて仕方がありませぬ。


<8月4日>(火)

〇つい先ほどまでZoomにて、「ニュース・オプエド」のライブ放映をやっておりました。いつものナベさんこと渡部恒雄さん、お久しぶりのベテランジャーナリスト蟹瀬誠一さんとご一緒に、アメリカ大統領選挙や景気の行方、Tiktokの事業買収など、いろんなことを語っておりました。あっという間の1時間でした。

〇これがユーチューブに残っておりまして、なかなかに楽しめるんじゃないかと思います。トランプ対バイデンの趨勢やいかに。皆さま、お楽しみいただければ幸いです。

〇ん?ところで今日は上杉隆社主はどうしていたんだろう? てっきり、どこかで割り込んでくるかと思ったが。今日のところはこのくらいにしておこう。














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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)