●かんべえの不規則発言



2018年4月






<4月1日>(日)

○ところがそれからが大変だったのです。一行は会場からドバイ国際空港に直行する。それで午前2時40分発のエミレーツに乗って、日本に到着するのが4月1日日曜日の午後5時台。そのまま月曜日には出社しなければ、という人たちが大勢いるのです。

○ワールドカップで興奮した後の脱力感いっぱいのところ、日付が変わった頃に空港でチェックインしようとしたのですが、なんとそこで言われてしまったのです。「この便はオーバーブッキングになりました」と。しかも中東ではありがちなことに、「申し訳ないけれども・・・」とか、「まことに遺憾ながら・・・」という雰囲気が皆無なのである。おいおいおい。

○まあねえ、そういうお客がいっぱいいることはわかるし、今は花見客までいるからねえ・・・・。とはいうものの、ほかの「ごめんなさい、英語わかんなーい」という客はそのまま通しておいて、なんでワシの時だけ"We will explain."とか言うんだよ。まったくビジネスライクに、「明日の便に乗ってはもらえないだろうか」とか、「バンコク経由の便という選択肢もある」などと妙に冷静に話しかけてくる。

○ちなみにバンコク行きは明日の午前9時発で、それでいくと月曜日の午前6時に成田に着くという。それって20時間もかかるじゃないか! それまではホテルを確保するし、向こう1年間有効の往復チケットを進呈するとかいう。そういう押し問答をしているのが午前1時台なので、いい加減、こちらも疲れている。こんな航空会社、もう二度と使わんぞ!というモードになっている。

○結局、飛行機の出発1時間前まで待って、何とか座席が用意できましたと知らされる。この座席、最後列の3列中央の座席であったから、掛け値なしに最後の1席だったのだろう。もちろん機内は満席。ということで、とにかく帰ってくることができました。ああ疲れた。それでもこれが人生初中東でありました。「今日のところはこの程度にしておいてやるわ!」という声が聞こえたような気がしたが・・・・。


<4月2日>(月)

○最近見た映画について。

○その1。ドバイに向かうエミレーツの中で。『アナと雪の女王』。

○今頃になって見ましたが、あの当時、うちの家族が憤慨していた理由がよくわかりました。まあ、今のディズニー映画はあんなものでしょう。それに"Let it go."はいい曲じゃないですか。個人的にはてっきりエルザが主人公なのだと思っておりましたが、これはアナが中心の映画なのですね。私はエルザの孤独に感情移入するタイプであります。

○その2。ドバイから帰りのエミレーツの中で。『デトロイト』。

○見始めてすぐに後悔してしまった。いや、これは名作なんです。値打ちがある映画なんです。でも機内で時間をつぶすにしては、あまりにも怖い、暗い、重い、そして長い。1967年のデトロイト市で起きた暴動にまつわる事件を題材にしている。ああ、半世紀前のアメリカでこんなことがあったのですね。映画に出てくるミシガン州知事は、ミット・ロムニーのお父さんじゃないですか。トランプ政権の今を思えば、ドーッと疲れが出る映画であります。

○昨日、けなしたエミレーツ航空ですが、ICEという機内システムは優秀であります。映画は数百本あって、ハリウッド新作はもとより、ボリウッド作品からイスラム圏番組まで網羅している。日本語版の吹き替えはないけれども、英語の字幕が使えるのでこれなら苦労はありません。

○その3。今日、ご近所で見に行った『ウィンストン・チャーチル』。

○これは"Darkest Hour"という原題がとにかくカッコいい。今の若い人はチャーチルなんて知らないから、「ヒトラーから世界を救った男」などという恥ずかしい副題をつけなければならない。それどころか、ゲイリー・オールドマンの演技を見て、「どうしてアメリカ映画にひふみんが出ているの?」などと言うかもしれない。しかるに先日、見た『ダンケルク』と併せると、感動はひとしおである。

○絶望的な状況において、どうやったら人は意地を張り通すことができるのか。あの場に居たら、ネビル・チェンバレンやハリファックス卿の方が賢く見えたかもしれない。しかし英国政治は変り者貴族のチャーチルを首相に担ぎ出した。英国民も彼を支持した。そして国王も。

○政治とは言葉なり、ということを教えてくれる映画である。戦闘シーンなどなくても、映画はここまで戦争を描くことができる。チャーチルは言葉の力で権力を握り、指揮を執り、戦いに勝った。彼が言葉をつむぎ出すシーンには、タイピストの女性秘書が不可欠であった、という点が面白いと思ったな。

○3年前にロンドンに行った際に、「地下のウォーキャビネット」を見に行きました。てっきりドイツ軍の空襲が始まってから作られたものだと思っていたが、実はベルギー陥落の頃からそうであったことをこの映画で学習しました。確かに、空襲が始まってから地下壕を掘るのは、いかにもわが国のやり方でありますな。同じ島国でも、先方の方がちょっとだけ上手です。

○ということで、本日は休養に充てまして、明日から出社であります。


<4月3日>(火)

●カジノ入場料6000円、IR法案で与党合意

日経電子版 2018/4/3 18:20

 自民、公明両党は3日、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案の内容で合意した。最後まで調整が続いていた日本人のカジノ入場料は1回6000円とする。政府・与党は今国会の重要法案と位置づけており、内容を巡る調整は決着した。月内にも同法案を国会に提出し、成立をめざす。

 日本人や日本に住む外国人が払う入場料を巡っては、カジノ設置を観光振興につなげたい自民党が5000円とする案を示した。一方でギャンブルへの慎重論が強い公明党は8000円を主張。双方が歩み寄って6000円となった。訪日外国人は無料とする。

 両党の間ではこのほか(1)IR施設はまず3カ所を上限に整備(2)カジノの面積はIR施設の延べ床面積の3%まで(3)事業者はカジノ収益の30%を納付金として納める(4)日本人の入場回数はマイナンバーカードによる管理で週3回、月10回までに制限――とすることも決めており、同法案に盛り込む。

 IR施設の設置数は最初の区域認定から7年後に見直せるようにする。すでに複数の地方自治体が誘致を表明しており、将来は施設数を拡大する方向だ。カジノを設置するには立地する市町村の同意を得ることも条件にする。地元の理解を得ながら整備を進める。

 自民党の岸田文雄政調会長は同日の与党協議後の記者会見で「観光立国をめざす我が国にとって大きな起爆剤になる」と同法案の意義を強調。今国会での成立を目指す方針を示した。

 カジノを解禁することは16年に自民党などが主導して成立したIR整備推進法で決まった。今回まとめる実施法案はIR施設を運営するための具体的な規制を定める。



○IR法案は今週が山場のようです。まあ、ドバイの観光戦略の徹底ぶりを見てきた後のワシ的には、「何という後ろ向きな議論をしておるんだろう」と呆れてしまいますな。複合型リゾートをつくって何を目指すつもりなのか、そこをまったくスルーして「依存症対策」を語っているのだから、本質をわきまえていないこと甚だしい。

○旅をする人は驚きを求めている。特に富裕層はそうだ。日本で複合型リゾートをつくるのなら、シンガポールやマカオが「参った!」というようなものを作らねばならない。2番手や3番手を作っても意味がないのである。ところが政治家は「庶民感情」なるものに気兼ねをし、官僚は「新しい財源」くらいにしか考えていない。なんたる不毛の議論か。

○とりあえず、カジノの面積から「1万5000m2」という縛りが消えたのは結構なことである。中途半端な規模のモノを作っても意味がない。ただし納付金の30%は取り過ぎだ。JRAだって2割なのに。だってこれ、カジノの営業総利益から3割召し上げた後に、さらに法人税と地方税を取るという建付けなんですぜ。カジノ業者はたとえ赤字でも、この3割は払わねばならない。こんなことで海外のカジノ業者は、日本で冒険してくれますかねえ・・・・。


<4月4日>(水)

○本日は電力中央研究所と協力会社の勉強会講師を務める。

○電中研というのは、あの松永安左エ門が作った組織です。全国いろんな場所にあるらしいけれども、ウチから見れば我孫子の研究所が身近な存在である。この季節は、国道6号線沿いに見える電中研の桜がとってもきれいです。柏市の桜はさすがに見ごろは過ぎてしまっていて、我孫子はどうかと尋ねてみたところ、こちらもピークは過ぎてしまったとのこと。うーむ、今年はドバイに行っている間に、桜の季節を見逃してしまったかもしれぬ。

○とはいえ、利根川を越えて茨城県まで行けば、少しは残っているはずである。どれ、週末には敗者復活戦として、取手から守谷の方までドライブしてみることにしよう。あそこも桜並木がきれいなのである。まあ、この週末には桜花賞もあるのだけれども。


<4月6日>(金)

○昨日は「モーサテ」に出演。ネタは「ドバイに学ぶ観光戦略」。その後に収録した「今日のオマケ」では、競馬のことも含めて自由奔放に語っております。

○本日は「ゆうがたサテライト」に出演。こちらでは米中貿易戦争や、働き方改革法案についてコメントしました。

○昨日は佐々木あっこさん、今日は池谷亨さんと掛け合いをやったのですが、お二人とも「ドバイに行ったことない!ドバイ行きたい!」と言っておられました。

○さあ、どっちが早いか。先着した当方としては、温かく見守りたいものだと思います。


<4月8日>(日)

○東洋経済オンラインの記事が1日遅れて本日朝に更新。「300万人のドバイが観光収入3兆円を稼ぐワケ」。編集のF氏(今月から部長にご昇進。おめでとうございます)が、あいかわらず上手なタイトルをつけてくれてます。

○おやおや、ヤフーニュースがこの記事を拾ってくれたようです。こうなると、一気に読者が広がるんですよね。ただし残念ながら桜花賞の予想は外れました。この点は馬券王先生もご一緒です。

○先週分の溜池通信で書いた内容も、Brogosが拾ってくれました。こっちの記事もわりと注目されているようであります。最近はこんな風に、間接的な読者が多くなる傾向にあります。

○ところでこの2つの記事、自分で撮った写真をたくさん使っております。いつも持ち歩いているiPadで撮っているので、ピントなんかは甘いと自分でも思います。旅先でこんな風に写真を撮りたがるのは、まことに今どきの観光客ですね。

○先日、袁静さんの『日本人は知らない中国セレブ消費』(日経プレミアシリーズ)を読んで知ったのだが、中国人観光客が旅先で気にするのは「顔値」(イェンジー)なのだそうだ。この言葉、日本で言う「インスタ映え」と全く同じ。写真をネットに載せたときに、皆に受けるかどうかが観光の判断基準になるのだそうだ。

○気づいたら、自分もドバイで似たようなことをやっている。というか、ドバイの方で「顔値」の高い景色をたくさん作って待ち受けているのかもしれません。

○ドバイは遊びで行ったはずなんですが、思った以上にネタが豊富だったんで、ずいぶんあちこちで書いたり語ったりしています。「遊民経済学」の発展形なので、良かったかなと思っております。

○この間に、旬ネタである「貿易戦争」や「北朝鮮」へのフォローが少々手薄になっております。少しずつ取り戻さねばなりません。と言いつつ、明日は原産年次大会に出かけます。

(追記→もうひとつリンクを貼っておきます。収録が3月だったので、内容は少し古くなっておりますが、不肖かんべえが内外情勢について語っております)

尾河眞樹の「プロを訪ねて三千里」第18回


<4月9日>(月)

○本日、天才を見てしまった。本物の天才である。ワシが今まで知っている天才の中では、初めて見る将棋指し以外の天才である。天才は若くて美しい。その名をテイラー・ウィルソン(Taylor Wilson)君という。適当にググって見ていただきたい。とんでもない才能である。

○今日と明日、2日間、都内で第51回JAIF年次総会というものが開かれていて、要は日本原子力産業協会の総会である。本日、ワシはその第1セッション第1部の司会を担当したのだが、そんなことはどうでもよろしい。来年になったら、おそらく誰も覚えてはいない話である。この会議にゲストとして呼ばれ、基調講演を行ったのがアメリカ人の若き物理学者、ウィルソン君なのである。彼の演題は「核融合で遊んだ少年」であった。

○ウィルソン君は1994年生まれ。あの羽生結弦君と同じ年である。体型もフィギュアの金メダリストにそっくりで、壇上に上がるととにかく細い。最初見た時に、てっきり女性かと思ったくらいだ(テイラーという名前は、男女ともにある)。そのほっそりとした23歳の若者が、ピンマイクだけをつけて壇上に上がると、すごい勢いで語り始める。まるで若き日のスティーブ・ジョブズ氏のように。

○ウィルソン君は幼いころから科学少年だった。宇宙に、物理学に興味を持ち、核融合炉を作りたいと念願した。12歳の時に、ロス・アラモスで師匠と呼べる人に出会い、14歳の時に自宅のガレージで本当に核融合の装置を作ってしまった。17歳の時に、そのことについて語った映像がこちら。オバマ大統領に対して、最新技術をブリーフィングしたんだそうです。

○ちなみに5年前、ウィルソン君が高校卒業の頃に語った映像も紹介しておきましょう。小型核分裂炉で世界を変えると宣言している。ハッタリではありませんよ。彼には既に投資家がついておりまして、今では立派な起業家です。もしもワシがベンチャーキャピタルを経営していたら、即座に彼に白紙小切手を渡してしまうであろう。

○で、本日昼、会議関係者が別室で昼飯を食べる段になったら、ウィルソン君がワシの前に座ったのである。日本は初めて?と聞いたら、うん、そうだよ、と答える。日本で投資家探しをするの?と聞いたら、そんなことしないけど、1週間ほど滞在するし、これから福島に連れて行ってもらえるんだよ、と言うのである。もちろんただの福島県のことではない。廃炉作業中の福島第一原子力発電所のことである。

○あそこはね、僕も3年前に行ったけど、防護服を着るととっても重いんだよ、てなことを言うと、キラキラした目で、うん、でもとっても楽しみ、というのである。たぶん天才の眼には、われわれとはまったく違う景色が見えているのだと思う。天才は概ね楽天主義者である。そして楽天主義者は、得てして悲観主義者が思っても見なかったような業績を上げてしまうものである。

○で、ここからはクローズドの世界。会議でプレゼンを担当した一同には、お昼にかなり立派な箱弁当が配布されていた。ところがウィルソン君は、ベジタリアン用の特製箱弁当を開けて、「これ、どうやって食べたらいいんだろう?」と真面目に悩んでいたようであった。会場の担当者が、ナイフとフォークを持ってきてくれた。オヤジ世代としては、「キミさあ、若いんだからもっと肉食えよ」みたいなことを言いたくなるのであるが、新世代の若者はコーヒー、紅茶さえ飲まないのであった。ううむ。

○それにしても、こういう若者に徹底的にチャンスを与えて、とことん大成功させてしまおう、というアメリカ社会の奥深さには敬服するほかはない。たぶん足を引っ張ろうとする人はいないんでしょうね。大谷翔平や藤井六段に嫉妬するなんてことは、みっともないことこの上ありません。たぶんこれからウィルソン君はすごいことになりまっせ。ノーベル賞くらいでは済まないと思います。彼はたぶん、本気で世界を変えようと思っています。

○ということで、今日はいいものを視させてもらいました。テイラー・ウィルソンという名前、覚えておいて損はないですぞ。


<4月10日>(火)

○本日も原産協会年次総会にて、原子力業界のお話しをいろいろ拝聴する。

○福島の現状についての説明の中で、ハッとしたひとこと。「こちらの言い分をいくら語っても、伝えることはできない。それでも何かの拍子に、伝わることがある」。

○たまたま夜、某政治家を囲む会に出ていたら、その手の話がいっぱい出てきた。

「選挙は必ず独学になる」

「尊敬されても票にはならない。票になるのは同情だけだ」

「有権者は見てないようで、実は見ている」

「選挙活動でやることはみな同じ。どれだけ徹底できるかが勝敗を分ける」

「呼ばれた会合に出るのはいいが、最後まで残っているのがいいとは限らない」

「ポスターを作るときは、他人の意見を聞いてもいいが、最後は必ず自分で決めろ」

「・・・結論として、選挙に出ることはお勧めしない」

○ありがたいことに、当溜池通信には「どうしても伝えなければならない」ことは何もない。勝手に読み取っていただければそれで結構。最初から「伝わる」ことだけ考えておりまする。よかった、よかった。


<4月12日>(木)

○2日間でいきなり15000字くらいの文章を書いている。うーん、疲れた。って、まだ終わってないけど。何より自分が書いているものが、うまくまとまっているのか、大外れなのか、現時点で見当がつかないので困る。

○文章を書くというのは、つくづく孤独な作業である。どうやらワシの場合、そういうのが苦にならないようにできている。だから何とか続いているのであろう。この2日間、世の中は何が起きているのだっけ?

○本件が明日、どうにかめどがつきますように。


<4月13日>(金)

○午前は日経調の地政学リスク研究会の最終会合。2年かけての研究がいよいよまとめ段階へ。いろいろあった2年間であった。まだ報告書の仕上げがあるのだけれども、とりあえず今日はホッとしたところかな。

○シンクタンクは成果物を出さなきゃいけないのだけれども、最大の財産は一緒に長い時間を過ごした仲間のネットワークであって、そういう意味ではこの2年間はドリームチームでしたな。

○今宵はパソナ総合研究所の設立記念式典&第1回PIフォーラムへ。これからシンクタンクを新しく作りますというのも偉いが、「これはみずから行動するDo Tankです」というから、南部代表はとっても意気盛んである。

○パネリストは塩崎前厚労相とジェラルド・カーチス教授、司会は竹中平蔵先生。働き方改革をめぐっていろんな意見が出る。とかく本音と建前が食い違う世界であるが、5年前には口に出せなかったような議論が飛び交う。

○技能実習制度を何とかしなきゃ、という意見が出て、おお、世の中はもうそこまで来ているか、と感心する。「そろそろちゃんとした形で移民法を作らないと、規制もできないよ」との声もあった。ホントに変化は早い。それはたぶん悪いことではないのでありましょう。この国、いざとなったら変化は早いはずです。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki