<12月1日>(木)
〇今日はモーサテへ。本日のマーケット最大の関心事は、パウエル講演ということになる。ということで、午前3時30分からのブルッキングス研究所で行われたセミナーをストリーミングで視聴する。午前4時にはお迎えのクルマが来たので、後は車中にてiPadで視聴する。
〇なんというか懐かしい感じがするのである。ワシがブルッキングス研究所に居たのは30年も昔のことで、今は建物は新しくなっているし、人もほぼ入れ替わっている。つまりは完全な別物となっている。にもかかわらず、セミナーのお作法(短い時間のプレゼン、司会の仕方、質疑応答のプロセスなど)がほとんど変わっていないのである。
〇市場関係者としては、パウエル議長が「今月のFOMCでは利上げは0.5%にとどめます」という言質を聞きたくて、それが主目的である。ところがシンクタンクとしては、ごくごく真面目に雇用情勢と金融政策の関係を論じたいと考えている。マーケットの思惑などは「不浄なこと」なのである。
〇そういえばあそこはそういう雰囲気の場所であった。30年前にはインターネットはなく、あるいはパワーポイントなどもなく、もちろんその場に居る人しかセミナーには参加できなかった。それが今では日本から同時に見聞きすることができる。便利な世の中になったものである。
〇ところがセミナー開催時のお作法とか雰囲気と言ったものは、ほとんど変わっていない。組織の記憶とはつくづく不思議なものですな。まあ、それがシンクタンクの根幹をなしているのかもしれませぬが。
<12月2日>(金)
〇昨晩は帰りが遅かったので、今朝は早起きができるかどうか不安だったのだが、目覚ましをかけずに寝てしまったのである。それでもモーサテに出た翌日だけあって、ちゃんと今朝も早い時間に目が覚めたのであった。
〇そこでテレビをつけると、既にスペインが1−0でリードしているではないか。まあ、しょうがない。そういうものだろう。これで勝てるほど世の中は甘くない。それでもドイツ戦とコスタリカ戦をちゃんと見た者の一人として、ここはサムライ・ブルーの健闘を最後まで見届けるべきであろう。ああ、モーサテの出番が今日じゃなくてよかった。
〇ところが、である。後半戦の冒頭、堂安と三苫が投入されたら、いきなりリズムが変わったではないか。堂安のシュートで同点。そして三苫の蹴り返しを田中が押し込む疑惑(?)のゴールで逆転である。VARでも判定は覆らず。いやはや、信じられないことが起きている。日本がスペインを破るだなんて。
〇かつての日本チームは、やたらとボールを後ろに回してキープしようとする消極性が目立ったものだ。しかるにこのスペイン戦、ほとんどボールを相手側に持たれつつも、決定的なチャンスは与えない。ゴール前の守備は固いし、ときどき鋭いカウンター攻撃を入れる。いつの間にかサッカーの流儀が変わっているようだ。「サムライ・ブルー」を名乗るのであれば、こちらの方がずっと「らしい」のではないかと思う。
〇それにしても「地獄のE組」。まさか日本が首位で通過すると思った人がどれだけ居たことか。ましてや「日本はドイツとスペインを破るが、コスタリカには破れる」という組み合わせは、途方もない万馬券のオッズであったに違いない。それでもこの2022年大会により、「日本はW杯でドイツとスペインに勝ったことがある国」となった。勝負事は、相手に警戒される方がそうでない場合よりもずっとやりやすいものだから、これは今後に向けての大いなるアセットになるだろう。
〇ここから先は単なる妄想である。決勝トーナメント初戦でクロアチアを破った日本は、準々決勝でブラジルと当たるのだが、いきなりゴールを決められて前半戦を1−0で折り返す。そこで後半、日本側は選手交代のカードを繰り出すのであるが、これは恐怖感を与えるだろう。「ドイツ、スペインの次はお前の番かもしれないぞ!」と。まあ、ブラジルはそういうこと気にしなさそうだけど、周りはきっと気にしてくれるよね。
〇不肖かんべえは今週は怒涛の1週間で、「これだけたくさん仕事を抱えていたら、どれかひとつくらい準備不足で見苦しいところを見せるかもしれないな」と覚悟していたのだが、とりあえず全部を無事に終えることができてホッとしている。そしてこの1週間は、日曜日のコスタリカ戦敗北で始まって、金曜日のスペイン戦勝利で幕を閉じた。日本サッカー界にとっても良い1週間であった。
<12月3日>(土)
〇年初の頃に、盛んに言われていた議論に「民主主義よりも専制主義体制の方が優れているのではないか」というものがあった。パンデミック対策が典型的だけれども、為政者が世論に気兼ねせずに問答無用で政策を実現できるのなら、こんなに結構なことはない。民主主義国は何をやるにしても説明責任があり、しかも結果責任も負わなければならない。つまり失敗したら首になってしまう。
〇それだけではない。社会の分断が広がるにつれて、2大政党の政策が極端なほど違ってしまい、政権交代のたびに前政権を全否定する、ということが繰り返されるようになった。増税と減税が代わる代わる行われるくらいはまだいいのだが、「Anything
But XXX」を外交でやらかすと、相手の国が困ってしまう。JCPOA(イラン核合意)などはその典型で、トランプさんのちゃぶ台返しの後では何を言ってもイランに信用してもらえない。
〇しかも民主主義はこれだけ手続きにコストをかけているのに、国民の満足度も高いわけではないのである。むしろ着実に経済成長を実現してきた中国や、自分たちが西側と伍している存在であるということが重きを増すロシアの方が、よっぽど満足度が高かったりする。逆にアメリカは「内戦」などという言葉が使われるほどであった。その上、民主主義の基本的手段であるところの選挙に対する疑義も絶えない。まったく困ったことであった。
〇ところが師走を迎えてみたら、景色が変わっているように見える。まず、ロシアは戦争を始めてしまった。確実に短期で勝てる「良い戦争」にするつもりであったが、これがどえらい失敗となりつつある。いつの時代も同じことだが、戦争を始めることは簡単でも、終わらせることは難しい。始めてしまったプーチン氏としては、「や〜めた!」と言いたいところだが、それを言った瞬間にご自分の地位が危うくなる。
〇中国も困っている。「ゼロ・コロナ政策」は2021年中は上手くいっていたのだが、今年になったら重荷になり始めた。そろそろ引っ込めたいのだが、それを言い出すと習近平氏のメンツに傷がつく。そして全国各地で反対デモが始まった。そしたらそろりと政策変更が始まったようなのだが、こういうのを見るとあのデモも実は「やらせ」でなのではないかという気がしてくる。いやもう、あの国のことですから、何があっても不思議はないです。
〇こうなるとロシアも中国もどうするつもりなのか。プーチンは辞めるに辞められず、習近平は次の指導者の決め方がわからなくなってしまった。それに比べれば、民主主義国はなんと有利なことか。駄目ならクビになる。自分で辞めてもいい。だからと言って、投獄されたりはしないのである。
〇そしてアメリカでは、例の「復元力」が機能し始めた。中間選挙後の様子を見ると、トランプさんが「オワコン」になりつつあるらしい。まずはメガ・ドナーが出資を取りやめ、マードック氏などの保守系メディアが応援を止めつつある。「2024年米大統領選はデサンティス氏かもしれない」ということになっている。
〇今日でワールドカップの16強が出そろったが、ものの見事に民主主義国ばかりである。(どうでもいいことだが、ワールドカップの情報はFIFAのサイトが見にくいので、ワシはもっぱらNHKのサイトでチェックしているぞ)。
〇専制主義国家は、五輪のメダル争いには強いけれども、ワールドカップで勝つことは不得手であるようだ。まあ、五輪は不人気な種目にカネをかけるなどしてメダルを稼ぐことができるけど、サッカーはもともとが人気種目で、しかも最高峰選手は皆が欧州リーグに所属していて、4年に1度だけ国家を背負ってプレーするのだから。
〇てなことで、民主主義の良さを痛感する年の瀬なのであった。
<12月4日>(日)
〇米下院の議席数がやっと確定した。共和党が222議席、民主党が213議席で9議席差だそうである。ただしこれはCNNの集計で、AP通信ではまだ1議席が未定だとしている。ともあれ、11月8日の投票日から1か月近くが過ぎて、ようやく結果が確定しつつある。
〇さらに今週火曜日には、米ジョージア州の決選投票が行われる。民主党の現職ラファエル・ワーノック議員に対し、共和党のハーシェル・ウォーカーが挑戦している。が、これはどう考えてもワーノックの勝ちだろう。ワシントンポスト紙では、共和党に不安アリ、てな報道がされている。
〇そりゃあそうだろう。素人目にも以下のような点はわかる。
(1)民主党は50議席を51議席に増やせれば大勝利だが、共和党は49議席を50議席にしても過半数には届かず、あんまり嬉しくない。
(2)ゆえに民主党の方が選挙資金は潤沢である。
(3)挑戦者ウォーカー候補は5日間の感謝祭休暇を取ったが、現職のワーノック候補は1日12時間の選挙運動を毎日行っている。
(4)共和党のジョージア州副知事が期日前投票に赴き、「自分はどちらにも入れなかった」(白票を投じた)と表明。おいおいおい。
(5)民主党側はバラク・オバマ氏を現地に投入したが、ドナルド・トランプ氏が現地入りする予定はなし。そりゃそうだわ。格好のねらい目になってしまう。
(6)新たに5人の元恋人がウォーカーに対して証言(ご本人にとって良からぬもの)をなしている。
(7)今回の中間選挙における共和党の不振は、「候補者のタマが悪過ぎた」という一点に尽きるが、その中でも屈指の候補者がウォーカーに他ならない。
〇これで結果が大差になると、トランプ氏に対する新たな匕首の刃となるのではないか。とまあ、それは気の早い話であって、水曜日の午後くらいにならないと判明しないことである。ともあれ、それでやっとこの中間選挙における勝敗が確定することになる。長いのう。全くこの星の住人と来たら・・・・。
<12月5日>(月)
〇本日から、ロシア産原油に「1バレル=60ドル」という上限を定める「オイル・キャップ制」が始まる。ロシアに対する追加制裁策ということである。
〇参加するのはG7とEU、豪州だから、いわゆる「西側諸国」となる。それ以外の国に対しては、ロシア産原油の海上輸送にかかる保険や融資を使わせない。保険会社は9割以上がG7なので、これは効くかもしれないという期待がある。またスエズ運河やボスポラス海峡が、保険のかかっていない船の通行を止めてくれる、という期待もあるらしい。
〇逆に言うと、パイプラインで運ばれる原油はおとがめなしということになる。日本がサハリンから輸入している分も含まれないらしい。ちょっとホッとする。まあ、あんまりマジにロシア産原油を止めてしまうと、それで国際価格が上がってしまう恐れもあって、どの辺で手を打つかは難しい。ゼレンスキー大統領は、「60ドルではロシアに年間で1000億ドルも入ってしまう!」とご機嫌斜めらしい。お気持ちはわかるが、これはさじ加減の問題なので「1バレル30ドルにしろ!」といってそうなるものではない。
〇さっそく良からぬ連中が良からぬことを考えている。ウォールストリートジャーナルがこんな記事を書いている。
●Russia
Will Rely on ‘Shadow’ Tanker Fleet to Keep Oil Flowing (ロシア、原油輸出で頼る「影の船団」タンカー群)
〇いやもう、蛇の道は蛇である。イランやベネズエラの石油を取引する船会社があって、そういうところがせっせとタンカーを買い漁っているとのこと。つまり新たな種類の海運市場が誕生しつつある。そういう「陰の船団」が暗躍する時代が来るのではないかと。そこで当然のことながら、普通ならスクラップになるべき旧式タンカーの値段が高騰している。なにしろイラン産原油とは違って、ロシア産原油の取引は合法なのである。以前は欧州が買っていた分を、今は中国やインド、トルコが買っている。
〇いやー、そういう世界なんですよ。石油の取引というのは、買う側も売る側も恐ろしいくらいに貪欲なんです。だからあれだけ値段が乱高下する。それを皆の叡智で一定の範囲内にとどめようなんていうのは、うまくいかないと思いますよ。なにしろこのオイル・キャップ、言い出しっぺが、ジャネット・イエレン財務長官だった、という点にワシ的には不安を覚える。いい人が考えた策で、悪い人を制御できたなんて話は聞いたことがない。
〇英エコノミスト誌はもっと辛らつだ。こんなことを書いてます。
●The
West’s proposed price cap on Russian oil is no magic weapon (西側のプライスキャップ制は魔法の武器にあらず)
〇ロシア産原油を締め出して、ロシアを困らせたいのはやまやまなれど、それでは石油価格が上がって世界中の消費者が困ってしまう。そこで「安い価格なら買ってもヨシ!」という状態を作る。なかなかに抜け目のない作戦である。中国やインドも、「それはいい話だ。だったらワシらも60ドル以上では買わない」と言い出すだろう。
〇しかしこの週末時点で石油価格は1バレル60ドル。つまりウラル産原油の指標価格とほぼ同じである。だったらほとんど変化がないことになる。グローバルな石油市場は適応力が高いので、中国やインドなどは西側の保険システムを使わないようになるのではないか。ちょうど対ロシア金融制裁が、西側の金融システム(SWIFTなど)からの回避を強めたように。
〇これはねえ、ホントにそうだと思うんですよ。杉田弘毅さんの『アメリカの制裁外交』(岩波新書)という本があって、なんでこれを今まで見落としていたかと反省しているのであるが、本書は「9/11」以降に急拡大したアメリカの金融制裁の手口を事細かに書いている。どの制裁手段も、最初に打ち出されたときには皆が仰天するのであるが、かならず相手側は慣れてしまって効果が減衰する。その繰り返しなんです。
〇軍事力を行使せずに、経済的な手段だけで相手を困らせ、なおかつ自分は痛みを感じない、なんていうのは、やっぱり虫のいい考えなんでしょう。頭のいい人たちが考えることなんて、だいたいがもっとズルい人たちが出てきて裏をかかれるのが関の山。紳士はヤクザには勝てないものなんですよ。ということで、明日以降の石油価格には要注意です。
<12月6日>(火)
〇前夜はごくわずかに仮眠を取って、12時には布団から這い出してテレビのスイッチを入れる。対クロアチア戦を見なければならないではないですか。
〇前半戦、前田大然のシュートで先制。ああ、先取点ってなんて気持ちがいいんだろう。今大会は相手チームに先行されるのがデフォルトになっているので、なんだかとても太っ腹な気分になってしまう。が、そんなに世の中甘くはない。後半になったらしっかりゴールを決められて同点。1−1のままで後半戦も終了。
〇90分では決着せず、ゲームは延長戦へ。しかるに全然点が入るような気がしない。時間は午前2時を過ぎており、もう我慢の限界で酒を飲み始める。ああ、明日はもうまともな時間には起きられないこと確定であるが、まあ、許してもらおう。モーサテは誰が当番なのだろう?
〇そして運命のPK戦へ。PKにはいい記憶がない、とオシム監督が言っていた。そりゃそうだ、あんなもの運だ。そしてなんだか今日は運があるような気がしない。案の定、南野が外す。背番号10がこれでは是非に及ばず。さらに三笘も連続して外す。今大会、いちばん乗ってる男がそれでは仕方がないではないか。そしてキャプテン吉田も外す・・・・・。
〇朝から大いなる喪失感を抱いて一日が過ぎていく。こういうことは過去に何度も経験したのである。4年に1度、W杯の挑戦が終わるときはいつも寂しいのである。1位か3位になるチームは、最後を勝って終われるけれども、ほとんどのチームは負けてピッチを去らなければならない。
〇今年もベストエイト入りはできなかったけれども、サムライジャパンはドイツとスペインに勝つという歴史を作った。そして浅野の美し過ぎるシュートや、VARが認めてくれた「疑惑のゴール」の映像は、たぶん10年後になっても懐かしく思い出すだろう。昔の日本チームは勝つのがやっとで、美しいゴールなんてなかったものねえ。強いて言えば、2010年南アフリカ大会の対デンマーク戦、本田のフリーキックくらいかなあ。
〇なんだか呆然と過ぎた一日だったけれども、ぽっかりと空いた心で前嶋和弘教授の『キャンセルカルチャー〜アメリカ、貶めあう社会』(小学館)を読了。前嶋さんのパーソナルヒストリーが込められていたり、「選産複合体」(選挙が産業になっている社会)というアイデアが面白かったり、とにかく楽しく読ませてもらいました。そういえば最近、お会いしてないなあ。
<12月7日>(水)
〇クロアチア戦敗北で衝撃を受けた後、昨晩は9時間以上寝て、いささかのヒットポイントを回復。でもって気を取り直して、本日は水戸市へ。
〇コロナのために一昨年と昨年は中止になっていた常陽銀行さんの講演会である。こんな風に今年は「3年ぶりのイベント」が相次いだ。来年になれば、ほぼ2019年並みに戻るはずである。となれば、それだけで景気は良くなる理屈で、日本経済はとりあえず来年はさほど心配は要らない(「小吉のおみくじ」論)。問題は伸び代がなくなる2024年になってからではないのか。
〇とまあ、そんな風に思うのだが、補正予算29兆円って何のために用意したのかね。どうせまた使い切れずに残ってしまうのが関の山ではありますまいか。昨今の経済対策は、公共工事の積み増しとかではなく、「リスキリング」みたいに高度な話が多くなるので、そもそもそんなにカネは要らんのです。「萩生田政調会長の一声で4兆円追加!」なんてのは、まさに政治家の自己満足の世界ではないのでしょうか。
〇そんなわけで、あっちこっちで「2023年の日本経済」の予測を語りつつ、イメージを固めていく時期に差し掛かっております。明日は大阪に参ります。
<12月8日>(木)
〇12月の第2木曜日は、クラブ関西の定例午餐会、最終日。今年も呼ばれて行ってまいりました。ここのランチは、料理もワインもいいものを出すのですよ。仕事前にはまことに要注意であります。
〇いつも通り、「来年の日本経済は小吉のおみくじ」という話をする。まあ、そこはいいのだけれども、そもそも来年の国際情勢はどうなるのか。ウクライナ戦争はいつ終わるのか。アメリカの中間選挙の結果はどうだったのか。日本の政局も実はよくわからなかったりもする。
〇来年4月の統一地方選挙では、大阪は府知事と府議会と市長と市議会と、4つの選挙が全部いっぺんに重なる。しかも松井市長は引退で、吉村知事はどうするのかよくわからず、維新内部ではいろいろありそうだ。これで解散・総選挙が重なってダブルになったりした日には、小選挙区と比例代表と最高裁判事の審判が重なるから、全部で7枚の投票用紙が配られることになる。これ、さすがに限界でしょうなあ。、
〇講師の仕事を終えてから、昔懐かしい朝日放送さんを訪ねて行ったのですが、すると会社のすぐ近くを流れる堂島川には、こんなものが浮かんでおったのです。ときどき大阪に現れるという巨大アヒル「ラバー・ダック」であります。異様な迫力でありました。どうでもいいけど、このアヒルちゃん、なんで東京湾には来てくれないんでしょう?
〇朝日放送にて、昔お世話になったTさんとYさんとしばし情報交換。考えてみれば、『ムーブ!』という番組をやっていたのはずいぶん昔のことである。まあ、そんなところにぶらぶらと訪ねて行って、雑談しながらお茶できる、という昭和のようなほのぼのさ加減がなんともありがたい。何だか元気をいただきました。
〇新大阪駅に着いたら、今日はちゃんと「551」の豚まんが買えました。最近、なんでこんなに混んでいるかというと、大阪市が「大阪いらっしゃいキャンペーン」をやっていて、そのクーポン券を使って買いに来る客が多いらしい。あんなに安くてうまいものに公的資金を投入するなんて、どこか間違っているような気がするぞ。ともあれ、大阪は御堂筋のイチョウも奇麗に色づいていて、遊びに行くにはちょうどいいですぞ。
<12月9日>(金)
〇溜池通信の最新号を書き終えたら、どっと疲れが出た。今宵はブラジル対クロアチア戦のようだが、おそらくは起きていられないだろう。早起きすれば、オランダ対アルゼンチン戦が見られるらしい。うーむ、そこまでするか。
〇というか、日本対クロアチア戦が行われたのは火曜日のことである。あの人たちは、中3日でよくサッカーがやれるわなあ。森保ジャパンはもう帰ってきて、今頃は骨休めをしているはずである。サポーターの皆さんもご苦労様である。
〇さて、ワシは自分らしい骨休めをするしかない。なんで買ったのか忘れてしまったが、とりあえず手元にあるイタリアワインを開けることにする。明日は明日の風が吹くのである。
<12月11日>(日)
〇土曜日は早く寝たのでブラジル対クロアチア戦は見られず。まさかブラジルがPK戦で負けるとは驚きである。クロアチアのキーパー、リバコビッチを乗せてしまったのは日本じゃないかという気もするが、やはりモドリッチのようなベテランがいるチームは強い。
〇早く目が覚めたので、ベッドの中でiPadでオランダ対アルゼンチン戦を見る。死闘の結果、最後はPK戦。いやはや、なんという試合であろうか。お陰でメッシの戦いはまだ続くことになる。それらが見られるのは幸いなり。
〇しかるに夜は今季初の「火の用心」をやった後、打ち上げで飲んだのが意外に深酒で、ポルトガル対モロッコ戦の前にあえなく沈没。なんとポルトガルが負けちゃったのですか。モロッコはアフリカ勢としては初のベストフォーであります。
〇それでも朝はちゃんと目が覚めるので、イングランド対フランス戦をしっかり見る。ベストエイトの戦いはかくあるべし、というような好勝負。イングランド推しで見ていたが、フランスが一枚上手であったか。今大会のハリー・ケインの戦いはここで終わった。
〇こうしてみると、われらがサムライブルーはベストエイトの戦いにふさわしい存在だっただろうか。ちょっと位負けしている気がする。まだまだベスト16がお似合いなのかもしれない。この上を目指すとなると、相当に心身を鍛えないとこのクラスには届かないのではないか。おそらく見ている側も含めてね。
<12月12日>(月)
〇経済倶楽部(@東洋経済新報社)の講演会で、田中秀征氏が面白いことを言っていた。自民党の議員には選挙区ごとに7つの支援団体があるのだそうだ。
@ 農水族〜農協、全農など
A 商工族〜商工会議所ネットワーク
B 建設族〜予算獲得に賭ける人々
C 郵政族〜全国特定郵便局ネットワーク
D 遺族会〜実はビックリするほど多い
E 三師会〜医師会+歯科医師会+薬剤師会
F 文教族〜上の6団体ほどではないがオマケとして
〇その昔、中選挙区制の古きよき時代には、これらの団体は別個の自民党議員を支援することができた。例えばTPPに対しては、@農水族は反対、A商工族は賛成、といったことが可能であった。この状態においては、政治家の側も「一国一城の主」足り得たし、政策的におのれのテーマを深く掘り下げることができた。だから昔の「族議員」は深かった。
〇ところが小選挙区制になったら、全部の団体が同じ人を応援しなければならなくなった。自民党の政治家にとっては勿怪の幸いというもので、これだけの支持があれば選挙には強くなる。だって野党の側で支持してくれるのは、連合くらいしかないんだもん。まして「各選挙区に3万人」という創価学会票もついてくる。こりゃあ楽ですわな。
〇その反面、自民党の政治家は全部の支援団体に対応しなければならなくなる。その結果、政策的な自由度は低下することになった。だって全部の団体に対して、「いい顔」をしなければならないから。これでは専門性は深まりませんわな。結果として、政治家の「売り」としての強みがなくなって没個性化してしまうことになる。
〇ところがよくしたもので、例外があるのです。上記の7団体に加えて、もうひとつ大きな支援団体がある。それが「二世、三世」ということなのである。政治家の家に生まれてしまうと、それがあまりにも大きいので、いろいろある支援団体を取捨選択するという贅沢が許されるようになる。つまり政策的な自由度が生じる。その結果として、「政策に強い」と言われる政治家の多くが二世三世になってしまうのだ。
〇ああ、そうか。小泉純一郎が「郵政民営化」を唱えた、というのはいまから思えばそういう理屈であったのか。最近の事例でいえば、河野太郎氏が政策的に「やんちゃ」ができるのも、そういう背景があるのかなあ、などと思われてくる。
〇以上、「なーるほど」と思わせてくれる議論であった。しかるにこの体制、いかにも昭和チックで、サステナブルではないような気もするなあ。いかにも煮詰まった末期的症状、という感じがするではありませぬか。
<12月13日>(火)
〇安全保障懇話会、という団体から講演依頼を受けて、よく調べもせずに安請け合いをしてしまったのである。そこで本日はグランドヒル市ヶ谷へ。ご存じ、市ヶ谷駅前にある防衛省御用達のホテルである。コーヒーショップに入ると、最近テレビに出ずっぱりの防研、高橋杉雄氏が外国人と打ち合わせをしていたりする。そんなことは全く驚くには値しない。
〇が、あらためて講演会場に立って周囲を見渡すと、まったく洒落にならない方々がおられるではないですか。まず当会の会長は西原正先生である。ああっ、ご無沙汰いたしております。そして会場は見渡す限りの空将、海将、陸将たちである。あっ、あそこに居るのは永岩空将、最近は映画翻訳の監修(『Top
Gun マーヴェリック』)で大当たりだそうではありませぬか。お、渡部陸将、以前、ご一緒に上海にまいりましたようねえ、などと。
〇それより何より衝撃的なのは、最前列に座っておられる「前会長」の山崎拓先生である。そもそも当会を創設されたのがヤマタク先生だったそうで、こんな方々を前にワシはいったい1時間半も何を語ればいいのであろうか。軽くパニック状態である。
〇が、そんなことも言ってられないので、「中間選挙後のバイデン政権」と「最近の経済安全保障問題」について粛々とお話し申し上げる。まるで肝試し大会である。経験的に言って、自衛官OBの方々はたいへん優しい方が多いので、まあ、なんとかなってしまうのである。
〇当懇話会の忘年会も久しぶりであるようで、その後も大変な盛り上がりであった。なにしろ防衛3文書が間もなく完成しようとしていて、防衛予算の倍増計画も進行中である。時節柄、滅多に聞けないような話をいろいろ拝聴する。
〇それが終わってから、北日本新聞社主催の富山県関係者の会合へ。場所は日本橋のはま作さんで、さすがに季節のズワイガニは美味でありました。こちらでは映画界や美術界、JRの世界などについて拝聴。つくづく富山県は深いです。
<12月14日>(水)
〇今宵の忘年会は西新橋のウクライナ料理店、スマチノーゴにて。言葉の意味は、ウクライナ語で「ボナ・ぺティ」だそうです。
〇オデッサのクリスマスコースをお願いしたのですが、特筆すべきはワインの豊富さでありました。赤ワインばかり3本投入。
@先発はウクライナワイン サペラヴィ「エース」
A中継ぎはモルドバワイン ロス デ カザヤック
Bリリーフはジョージアワイン サペラヴィ
クヴヴェリ
〇古くからブドウ作りが行われていた地域だけに、非常にレベルが高い。ジョージアワインなど、瓶が無茶苦茶古風で立派なんですよ。ただし、味は先発のウクライナワインが一番良かったのではないか、というのが本日の一同の結論でありました。
〇この店、本当にウクライナからの避難民の方々が経営されていて、ちょっと洒落にならないようなエピソードも多く、皆様のご愛顧とご支援を切にお願い申し上げる次第であります。
<12月15日>(木)
〇明日には防衛3文書が閣議決定される予定。そして防衛増税についても、バタバタと物事が決まりつつある様子。一昨日の晩、安全保障懇話会の皆様方から伺ったご意見を思い出すところである。
*防衛は重要だ、と言い続けながら受け入れてもらえなかった時期が長かったので、昨今の流れは感慨深い。
*防衛3文書、と一括りにされるのはおかしい。@国家安全保障戦略→A防衛大綱→B中期防衛計画の順であるべきだ。
*防衛にコミットするからには財源はちゃんと確保してほしい。当面は国債で、と言われると「真面目にやっているのか」と思われかねない。
*だからといって、復興財源からねん出する、というのも東北の被災地の方々に大変失礼なことである。
〇皆さん、防衛のプロたちだけあって、「保守主義とはこういうもの」という考え方を示されていた。あらためて思ったのだが、「防衛費は倍増させたいが、増税は御免こうむりたい」というのは、真の意味での保守主義ではないのではないか。
〇経済界の一員といたしましても、「台湾有事のリスクは個々の企業ではとても負えないのだから、それを政府が担保してくれるのであれば法人増税もやむなしだろう」と考えるものである。とりあえず年間1兆円なら全然オッケーだと思うのだが。
〇政治家の皆さんとしては、「来年春の統一地方選挙の前に、増税を言い出すなんて勘弁してくれええええ」という思いがあるのだろう。それはわかるけれども、あんたたち、防衛のプロたちの前でも同じことが言えるのか、と軽く突っ込んでみたくなるところである。
<12月16日>(金)
〇昔のファイルの整理を始めたところ、書類の束に圧倒されてしまった。そうだったのか、2010年代までは仕事のたびにワシらはこんなに紙の束を残しておったのか。2020年代になってからずいぶん変わったのう、ということに気がつく。デジタル化=紙を残さないことが善となって久しく、昔の仕事の流儀を思い起こしてしばし呆然とする。
〇紙の束を見ていると、面白いくらいに昔の仕事のことを思い出せてしまう。そういえばこんなことをやっておったか、などと。これを他人が見るとどういうことになるのか。キチンと仕事の後を残しておいてくれてありがたいと思ってもらえるのか、それとも誰も読まないのか。後者の方が確率は高そうである。
〇わざわざ紙にしなくても、データで残せばそれでいいのでは、という気もする。他方、紙を失った文明はどういうことになっていくのだろうか。ちゃんと後世に引き継いでいくことができるのだろうか。
〇などと考えていたら、こんなサイトを教えていただいた。ううむ、いったいどれだけのボリュームの文書にアクセスできてしまうのだろう。
●国立国会図書館デジタルコレクション
〇おそろしいことに、自分の名前や「溜池通信」を検索してみると、かなりの数がヒットしてしまうではないか。いかん、こんなことでエゴサーチしていては。そのうちよっぽど暇になったら考えるとして、こんなことに手を出してはいかん、いかんぞよ。
<12月18日>(日)
〇先週金曜日に閣議決定された防衛3文書を覗いてみました。@国家安全保障戦略、A国家防衛戦略(旧防衛大綱)、B防衛力整備計画(旧中期防衛力整備計画)の3点が、内閣官房のHPに掲載されております(こうやってリンクを貼っておくと、後で便利なんですよね)
〇個人的にハッとしたのは、国家安保戦略の序文がこうなっていること。
T 策定の趣旨
国際社会は時代を画する変化に直面している。グローバリゼーションと相互依存のみによって国際社会の平和と発展は保証されないことが、改めて明らかになった。自由で開かれた安定的な国際秩序は、冷戦終焉以降に世界で拡大したが、パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化に伴い、今、重大な挑戦に晒されている。その中で、気候変動問題や感染症危機を始め、国境を越えて各国が協力して対応すべき諸課題も同時に生起しており、国際関係において対立と協力の様相が複雑に絡み合う時代になっている。
〇経済の相互依存関係をいかに深めても、世界の平和は担保されないことが分かった、と言いきっています。しょうがないですわな。その通りなんですもの。ノーマン・エンジェルの理想が第一次世界大戦で打ち砕かれたように、冷戦終了後に栄えた「ボーダーレス・エコノミー」という夢は、2022年のウクライナ戦争で完全に息の根を止められた。国際貿易に携わる住人の一員としては、まことに残念な展開であります。
〇かくしてわれわれの目の前に広がるのは、ボーダレスならぬ「ボーダフル・エコノミー」ということになる。民間企業も、ちゃんと「経済安全保障」を考えて行動せよということになりますが、それではかなり面倒なことになりますし、ますます日本企業の「ゼロリスク症候群」が深まってしまいそうです。
〇なぜこんなことになったのかといえば、先進国の経済脳がロシアの安保脳を理解できていなかったから。もしくは、コロナ下でプーチンさんの判断力が狂ったからかもしれません。そうだとしたら、習近平さんも途方もない決断を下しかねず、準備をしておけといわれたらそうせざるを得ない。
〇こうなると、日本国憲法の前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という理念も、『北斗の拳』じゃないけれども、「お前はもう既に死んでいる」ということになりますな。いや、あれはただの祝詞みたいなもので、もともと本気にしてたわけじゃないですし、そもそも金正恩には通じない発想であります。現に今日もミサイル飛んでいるわけだし。
〇そんな世の中でも、ワシらとしては絶望しないで生きていかねばなりませぬ。とりあえずもちょっと防衛3文書を読んでおきましょう。
<12月19日>(月)
〇昨日は町内会の防犯活動の年内最終日。打ち上げで軽く飲んでしまった後、何とか起きていようと頑張ったのだが、W杯決勝戦が始まるとともに力尽きる。まあ、土曜日の三位決定戦、クロアチア対モロッコ戦も見てしまいましたからねえ。
〇ところが不思議なことに、午前2時になって急に目が覚める。アベマTVをつけると、アルゼンチン対フランスが2対2となっているではないか。ついついそのまま見始める。試合は延長戦に入り、両軍が1点ずつ追加し、ついにはPK戦へ。そして感動の表彰式へ。
〇しみじみ思う。エムバペよ、若いって素晴らしい。W杯の決勝戦でハットトリックを決められるなんて。ところが最優秀選手には手が届かない。それでも、いいじゃないか。4年後も8年後も12年後も、きっとW杯は君を必要としているぞ。
〇メッシよ、年を取るってことはもっと素晴らしい。たった一度の勝利で、これまでの長い苦労がすべて消え去って、歓びに変わってしまう。あなたが嬉しそうにしていることを、見ていてとっても嬉しいぞ。もうマラドーナは歴史だ。あなたが神だ。
〇ついでにもうひとつ。本田圭佑さん、楽しい解説をどうもありがとう。私もアルゼンチンを応援してたから。でも、「アルゼンチン、ナイスファール」はないよなあ。フランス人だって見ているんだからさあ。ちょっと監督は無理かもしれないね。
〇ということで、今日からはW杯のない日々が始まることになる。まあね、来年3月にはWBCがあるし、9月にはラグビーW杯もあるのだ。それに今週末は有馬記念だし。
<12月20日>(火)
〇今日は日銀が動いた。いやー、焦りましたですよ。全然ケアしてませんでしたから。今日は午後3時から、来年の内外情勢をテーマに野村證券さんのリモート講演会講師を務めたんですが、何しろ3時半からは黒田総裁会見ですからね。急きょ予定を変更された人がいらっしゃったかもしれません。
〇あらためて考えてみれば、外国人機関投資家がクリスマス休暇に入っている今は、日銀が動きやすい状況であった。また、来年になってアメリカが利下げを始めたりすると、それこそ政策の自由度が低下する恐れがあった。そして何よりサプライズこそ黒田総裁の真骨頂。追い込まれてから動くことを良しとしない方なんですよね。
〇普通に考えれば、来年、総裁が変わってから着手すればいいじゃん、という話になるけれども、黒田総裁としては「次の人が動きやすいように」という美学もあったかもしれない。バーナンキやイエレン議長も、引き際には一仕事を残してますからね。
〇とはいえ、今回よくわかったのは、YCCを変えるときはサプライズでなければならないということ。短期金利は「市場との対話」ができるけど、長期金利は市場と対話した瞬間にレートが動いてしまうから。だったら変動幅を変えるのも、今回のように「だまし討ち」にするしかない。
〇ということは、この次にYCCを変更するときは変動幅を変えるのではなくて、いっそ「YCC止めます」であるべきだろう。来年中にそういうタイミングがあるかどうかはわからんけど、出口に向かうときはそうするよりほかにない。
〇しかし今日は株価も為替も大きく動きましたな。日経平均は669円安で2万6568円。為替は1ドル132円40銭。株式市場では銀行株が買われました。そりゃそうですわな。市場の受け止め方は、やっぱり「事実上の利上げ」ということになるのではないでしょうか。
〇本日の決定は政策委員会では9−0の満票でした。あくまでも金融緩和の延長という理屈付けなんでしょうけれども、リフレ派の方々はそれでいいんですかね。知らんけど。
<12月21日>(水)
〇そういえば大阪経済大学の福本智之教授との対談が出来上がっていたのをご紹介するのを忘れておりました。
●対談:米中の政治経済情勢と両国関係 (PDFファイルです)
――ボーダフルエコノミー下のグローバルビジネスのあり方
〇中国共産党大会と米中間選挙、この秋の2つのイベントを読み解きつつ、これから先の米中関係はどうなるか、そして日本企業はいかにあるべきか、てなことを語っております。お役に立てば幸いであります。
<12月22日>(木)
〇本日公表された11月の訪日外国人客数が驚きの結果でありました。なんと単月で94万3500人。前月49万8600人から倍近い伸びなのですが、そもそも1月から10月までの累計が152.7万人だったのである。それがいきなり、1‐11月累計では246.2万人に増えてしまった。何なんだこれは。
〇ちなみに昨年の通年インバウンド実績が24万5862人である。去年はいったい何をやってたんだ?と問えば、そうそう水際規制を行っていたのでありました。去る者は日々に疎しと申しますけれども、時間がたてばどんどん状況は変わるのであります。
〇ということで、来年のインバウンドの伸び代は相当にあることは疑いのないところであります。ちなみに94.4万人増のうち、3分の1に当たる31.5万人が韓国からである。いやー、そんなに来ていらっしゃいますか。先月訪れた京都では、確かに韓国語を聞いた記憶がありまするが。
〇逆に心配なのが中国の様相です。上海発の情報によれば、結構、洒落にならない状況になっている様子である。特に最後の部分はちょっと気になります。
<追記3>12月19日現在
先週から感染爆発と言っていいくらいに感染が拡大しており、上海日本商工クラブの事務局スタッフでは、本日現在で8人中4人が陽性、2人は家族が陽性となって在宅勤務中になった。商工クラブのある上海国際貿易中心ビルでは、各社の出勤率は10%くらいではないかと思えるほど、人が少なくなっている。感染の大きな要因として、中小レストランでは、感染に気付かない、あるいは、症状があってもPCR陰性となっているスタッフが出勤し、調理や食器を取り扱うことが怪しそうに思える。
日系企業の知り合いもレストランで食事して、翌々日から喉が痛くなり、さらに発熱という方が数名いた。喉が痛いときにはまだPCR検査や抗原検査で陰性だったとのことだか、発熱の翌日には陽性になり、感染が判明するというケースが多いようである。筆者自身は先週までの2週間は、会合等により市内ホテルでの夕食が多く、通常のレストランに行く機会がなかった。もし、それにより感染から逃れているとすれば、ホテルなどのように大型食洗器で食器を洗う、また、従業員の健康管理を真面目に行っているレストランを選ばないと、外食は感染の危険が大きいということになりそうである。
北京は感染のピークは過ぎたとも言われ始めている。上海の感染のピークは今週と来週あたりかもしれない。あるいは、さらに感染が拡大することもありそうだ。
<12月23日>(金)
〇今日は溜池通信を書いたのですが、ほかにもこんなものも書いております。
●新潮社フォーサイト: バイデン政権の経済政策「中間決算」:40年ぶりのインフレまでの「実験」と「後悔」
――会員制サイトです。アメリカ経済に関するまとめです。
●産経新聞「正論」: 「平常への回帰」が支える景気
――来年の日本経済は「小吉のおみくじ」といういつものお話しです。
●東洋経済オンライン「市場深読み劇場」: 「岸田首相はすでに腹をくくった」と言える理由
――すいません、明日になったらリンクを貼りますので。→貼りました。
〇年明けの電気新聞の原稿(アメリカ政治もの)も入稿してしまったぞ。道理で忙しかったわけだ。今週末はメリークリスマス、そしてハッピーな有馬記念を。
<12月25日>(日)
〇今月は一杯仕事をしたのだが、同時にいろんな忘年会に出ていて、面白い発言もいっぱい聞いている。ここらで少しメモしておきましょう。
●某チャイナウォッチャーから
「中国共産党にとって、ゼロ・コロナ政策は単純に政治のツールでした。党大会が過ぎてもう役目は終わったので、これから感染が広がっても元に戻すことはないでしょう。それで何万人か死ぬかもしれませんが、それはあの国にとって大きな問題ではない。むしろ今後は経済活動の再開をドライビングフォースにするから、今年は5%以上の成長になるんじゃないでしょうか」
――あな恐ろし。こんな調子だから、中国への悲観論はいつも外れるんだよな。
●某外交官OBから
「そうですなあ、どこでも好きな国の大使をやらせてもらえるのなら、G7で、英語で用が済んで、メシがうまくて、面倒な問題がないところがいいですな。イタリア大使なんか最高ですなあ」
――なるほど、プロはそういう風に考えるわけですか。とりあえず韓国とロシアと中国は御免ですわなあ。
●某映画監督から
「われわれの世界も今はセクハラ、パワハラの告発が増えて大変です。でも映画撮影の現場なんて、あんまり礼儀正しくもやってられないんですけどねえ」
――深作欣二監督が、当時の女優さんたちに手を出していなかったとは到底思えませんが、つくづく時代は変わったのですねえ。
●某エネルギー関係者から
「ノルドストリーム1と2の爆破事件ですけど、ロシアがやったと皆が思っている。でも、ロシアがやるのなら、もっと東のバルト海の水深が浅い部分でやりますよ。後ですぐに直せるようにね。それをデンマーク沖なんて難しい場所で、いったい誰がやったんでしょうねえ。お陰であのパイプラインは、今では完全に『座礁資産』ですよ」
――エネルギーの世界はあまりにも闇が深い。その辺のところ、ドイツはどう考えているのでしょうか。
●某政界関係者から
「ポスト岸田の一番手は菅さんですよ」
――うーん、あの悪相が今は恋しい。いや、どうでしょう。なんだかんだで続くんじゃないでしょうか。「鈍感力」もあるみたいだし。
<12月26日>(月)
〇昨日は有馬記念のために、ほぼ3年ぶりに中山競馬場を訪れたのですが、ちょっと驚いたことがあったのでご報告まで。
〇朝の時間帯に競馬場に出かけると、「レーシングプログラム」なるパンフレットが入口に大量に積んであるのです。それも有馬記念のような大レースになると、凝りに凝ったものが作ってあるから、「秒殺」でなくなってしまうのが普通です。昨日だってJRAは入場制限をしていて、ネットで販売している入場券はかなりの狭き門だったのですが、それでも4万人弱の来場があったとのこと。ところがですな、夕方になって混雑している船橋法典駅への地下馬道を帰る途中に目撃したところ、このプログラムがまだ残っていたではありませぬか。
〇そうなのだ。コロナ下でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだこともあって、最近のお客さんは「紙の媒体を持ち帰らない」のだ。ワシなどは古い世代なので、条件反射的にプログラムを手に取って鞄にしまい込み、もちろんそのまま開けることなく持ち帰るのである。しかし考えてみたら、こんなにばかばかしいことはない。どうせ最後は資源ゴミになっちゃうのだし。
〇そういえば久々に訪れた中山競馬場は、「はずれ馬券」があまり落ちていなかった。そりゃそうだろう。ワシも午前中からのレースは全部、ネットで購入している。コロナ下の3年間で身に着いた習性だ。ちゃんと馬券を買ったのは、本番の有馬記念くらいである。そして当たり馬券はちゃんと換金するから、はずれ馬券の数自体が少ないのである。こんな風に、DXはどんどん進んでいるのですな。結果として紙の消費量が減る。まことに結構なことであります。
〇それから久しぶりに訪れた競馬場では、当たり前の話ながら映像で見ているのと違って360度の景色が見えるのである。たとえば有馬記念のファンファーレは、昨日は航空自衛隊航空中央音楽隊が演奏した。それがどんな情景であるかは、みなさん知ってますよね。
〇これをTVで見ていると、演奏の瞬間のみが目に焼き付くことになる。しかるに中央音楽隊は、演奏のかなり前からウィナーズサークルに立ち、皆さん直立不動で演奏の瞬間を待っているのです。それもけっして軽くはない楽器を持ってのことですよ。これはもう、常人とは鍛え方が違うとしか言いようがない。さすが、アッパレ自衛隊。
〇コロナ下の3年間というもの、グリーンチャンネルWebの映像でばかり競馬を見ていた自分は、何か大事なものを失っていたのではないかと感じた次第であります。いやもう、そんな大騒ぎするようなことではないのかもしれませぬが、とにかく久々の競馬場は意外なことが多くて、とにかく楽しかったのです。
<12月27日>(火)
〇以下はふとした思い付きである。
〇昭和の二世代同居家族のドラマを描いたのが『サザエさん』だったとしたら、昭和の核家族を描いたのが『ちびまる子ちゃん』でありました。後者の放映は平成になってからであったが、最初に見たときは「そうそう、俺の知ってる昭和って本当はこうだった!」と感動したものでありました。真面目な話、サザエさんはいいところ1960年代まで、70年代以降はちびまる子ちゃんの方が適切かなと思います。
〇とはいうものの、令和の今となったら、両者ともにリアリティは乏しいわけであります。なにしろ劇中にケータイもクルマも出てこないんですからね。フジテレビさんとしても頭が痛いところじゃないでしょうか。さて、新たな今風の家族を描くアニメができるとしたら、それはどんな形を取るのでしょうか。
〇まずは家族から専業主婦が居なくなっている。今は夫婦共働きでないとリアリティがないですよね。仮に専業主婦がいるにしても、磯野舟さんやまるちゃんのお母さんのように、化粧っ気がまるでないことは考えにくい。若々しいお母さんだし、ヨガやジムに通っていたりするし、どうかすると「推し」がいて、日本中を追いかけまわしていたりするかもしれない。
〇次に母子が仲良し。サザエさんの波平さんみたいなカミナリ親父はもう居ません。子どもも基本的に手のかからない「いい子」です。深刻な家庭内の問題は存在しない。でも「実はさずかり婚でした」という設定はアリかもしれない。
〇小学校における腕白坊主やいじめっ子は、本当は居るにしても「コンプラ上」番組には登場しないことになるでしょう。そもそも今は、ジャイアンとスネ夫が同じ小学校に通うような時代ではありませんし。花輪君と山沢君もそうだよね。『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』のようにホワイトカラーの一家を描くとしたら、そこそこグレードの高い小学校になる公算が高いです。
〇それから小学校のお友達には、離婚家庭や国際結婚家庭の子供が登場する。これ、主要登場人物にしないといけませんね。それくらい今の日本は離婚や国際結婚が増えています。八村塁君なんかをモデルにすると良いかもしれません。
〇もうひとつ、主要人物は「首都圏生まれ、首都圏育ち」になっていることでしょう。『サザエさん』一家は九州出身で山の手に住んでいて、『ちびまる子ちゃん』一家は静岡市(旧清水市)在住です。これも令和になったら、主人公は「ふるさとのない子ども」になって、ローカル色が薄くなるんじゃないかと思います。
〇さて、こんなドラマを作ったら面白いか、というと全然そんな気がしないですなあ。たぶんそのうち1990年代生まれくらいの天才が登場して、自分の体験をマンガにして、それが「今風の家族だ!」ということになってベストセラーになるのでしょう。やっぱり演繹法じゃダメで帰納法でいかないと。
〇どうでしょうか、令和の「フツーの家族」ってどんな形なのか。誰かチャレンジしてみませんかね。面白いと思いますが。
<12月28日>(水)
〇年内最終日の今日は休業にして、ホープフルステークスに集中しようかと思っていたのだが、まだ年賀状のあて名書きが残っていた。午前中かけて仕上げて、郵便局に持っていく。ああ、なんてすがすがしい。
〇こんな風に、年内3日も残して浮世の義理が片付くとはめずらしいことである。さっき会社のメールをチラ見したら、世間はちゃんとまだ動いていて、ややこしい話がいくつか来ているような気もしたのだが・・・・。とりあえず今日は見ないのである。
〇積読の本や見るべき映画が確かいっぱいあったはず。まずは「流山がすごい」(大西康之・新潮新書)当たりから始めましょう。(後記:この本、後で書評を書くことになったので、ここでは割愛)
<12月29日>(木)
〇ということで、今年の春に見逃していた『ODD TAXI イン・ザ・ウッズ』をアマプラで観る。
〇もともとはアニメ番組だったものを映画化した作品。去年の夏に嵌っていたことは、溜池通信21年8月20日号で紹介している。こんなこと書いてたんだねえ、ワシは。
この物語には、売れない漫才コンビ、売れかけのアイドルとその熱狂的ファン、バズり
たがっている学生、ゲームで心が壊れたサラリーマンなど、きわめて今風なキャラクター
が多数登場します。そして小道具として、SNS
やらドラレコやらマッチングアプリやら動
物集めのスマホゲームなどが登場する。いやー、知らんかった、今の世の中ってこういう
ことになっていたのね、などと学習するところまことに大でありました。
〇あの複雑な全13話の物語をどうやって2時間にまとめるのかと思ったら、登場人物の証言を次々にまとめて、現代風の「藪の中」にする、という手法であった。アニメを見た人には分かるし、「ああ、あのときコイツはこんなこと考えていたのか」などと発見があって面白いのだが、初めて見る人にはどこまで理解が及ぶのかは不明。いろいろ物議を醸したラストは、ややマイルドに改訂されている。
〇やっぱりよくできている。特に最後の銀行強盗から謎解きの部分にかけての畳みかける感じは秀逸。個々のキャラクターの魅力も引き出せていると思う。しかし観終わってつくづく感じるのは、あのドラマの良さは「部分」にあったのだなあ、ということ。例えば以下のような「名言」はカットされている。
「『we are the world』のブルース・スプリングスティーンより唐突だな」
〇本筋に関係ないから省略されても仕方ないのだが、タクシー運転手の小戸川と医者の剛力がなぜ「友達」足り得るかという事情が、この一言で完璧に説明されてしまう。そういうとこ、上手いんだよなあ。このドラマ。
〇こういうカッコいいセリフを、カッコいい音楽とともに楽しむドラマなのだが、もっと言えば「世界観」が魅力的なんだよな。われわれがよく知っている「夜のTOKYO」を舞台に、今風の男女がさまざまにもがいている姿を、ちょっぴりダークに描いている。ちなみにこれ、マンガ版もあるんですよ。
<12月30日>(金)
〇今年1年、当溜池通信にどれだけの方が訪れてくれたのかを調べてみました。アクセスログはこんな感じであります。
月 | 一意な訪問者数 | 訪問数 | ページ | ヒット | バイト |
1月 2022 | 38711 | 181916 | 494550 | 550235 | 14.56 GB |
2月 2022 | 38972 | 178875 | 481195 | 533312 | 16.60 GB |
3月 2022 | 47081 | 219688 | 561239 | 623140 | 21.15 GB |
4月 2022 | 43446 | 194152 | 505832 | 560399 | 15.73 GB |
5月 2022 | 44128 | 195976 | 535107 | 589956 | 17.41 GB |
6月 2022 | 41935 | 184137 | 506463 | 556292 | 15.34 GB |
7月 2022 | 44373 | 197068 | 510656 | 562546 | 13.87 GB |
8月 2022 | 42734 | 188066 | 484268 | 534542 | 16.20 GB |
9月 2022 | 39855 | 174905 | 464740 | 512334 | 12.10 GB |
10月 2022 | 40737 | 174428 | 420026 | 468976 | 16.31 GB |
11月 2022 | 43663 | 180838 | 495526 | 544385 | 15.33 GB |
12月 2022 | 40172 | 168487 | 343879 | 390267 | 13.75 GB |
合計 | 505807 | 2238536 | 5803481 | 6426384 | 188.35 GB |
〇これがどれくらいの水準なのか、誇っていい数字なのか、それとも大したことがない数字なのか、ワシには正直判断がつかない。SNS全盛時代にこんな古風なサイト(ブログでさえない)を続けているわりには、ずいぶんと読まれておるなあ、とは感じているけれども。
〇ちなみにこのデータ、去年や一昨年と比べてそれほど大きな変化があるわけではありませぬ。3月に増えているのは、たぶんウクライナ戦争勃発による現象だろう。昔から騒動が起きると読者が増えるのが当サイトの習わしであります。
〇ということで、今年1年もご愛読いただきましたことに感謝申し上げます。来年も多分このまま、ずるずると続いていく予定であります。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki