●かんべえの不規則発言



2025年7月






<7月1日>(火)

〇本日は群馬中小企業懇話会さんの総会で前橋市へ。北陸新幹線で上野駅から高崎駅まではわずか40分。なるほど、これじゃ「かがやき」は止まってくれない。そこからタクシーで移動する。こんな風に県内第1と第2の都市が近くにあるのは、岡山市と倉敷市くらいではないかなあ。

〇講演会の最中に突如として雷鳴が鳴り、豪雨が降り出した。一瞬、驚いたけれども、これだけ暑かったら、たまには夕立も悪くはないよね。ちなみに、群馬県はゲリラ豪雨遭遇率が全国一なんだそうです。ひえ〜。

〇例によってトランプ関税のお話が中心となるのですが、ここ群馬県はなにしろSUBARUのおひざ元。自動車関税の行方が気になるところです。そういう意味では今朝のトランプ発言などは激震ということになります。おそらくはベッセント財務長官がGood Copになって、トランプ大統領がBad Copとして日本に揺さぶりをかける、という狙いなのでしょう。いやはや、株価が上がってしまったものだから、「関税上げてもいいじゃねえか」と強気になっているのかもしれません。

〇講演の中で、「ここまできたら条件面は少しくらい悪くても、関税交渉は早いディールの方がいいのではないか」と申し上げたところ、後で何人かの方から同意をいただきました。悪いなら悪いで、今のうちにわかればまだ手の打ちようがある、このまま決算の見通しもつかない状態で生殺しになるのはかなわん、ということでした。

〇その一方で、自動車部品会社の方からは、「まだ、思ったほど影響が出てないんですよねえ」という拍子抜けするような声も聴きました。そりゃま、在庫もあるし年間契約もあるだろうから、すぐに値段が上がるわけではないのだけれども、関税の影響はかならずどこかで出てくるはずなので、油断しているわけにもいかんのですよねえ。


<7月3日>(木)

〇いよいよ参議院選挙の公示日である。ご近所の掲示板にはちゃんと選挙ポスターが貼ってある。果てさて、どんなことになるのだろうか。

〇そこで本日発売の週刊文春を買ってみた。「参院選完全予測〜一人区11勝21敗で自民壊滅」てな記事が出ているようだから。そしたら今の週刊文春って、510円もするのね。あ〜ビックリした。物価は確実に上昇しております。

〇記事を拝読すると、なるほどこれは大変なことになりそうだ。とにかく一人区がエライことになっている。東北と四国で自民党が1つも勝てない、とは非常事態発令ではあるまいか。

〇そもそも今は一人区が32もある。今じゃ宮城県や長野県も一人区になっている。つまり人口が減っているということだ。合区も全国で2つある。これらの選挙区では、「高校の統廃合」みたいなことが始まっている。もう少したつと、今度は大学の統廃合が必要になるだろう。こんな寂しい状況で、与党を信用しろ、と言われても難しいですわな。

〇農政の問題もある。小泉農相の「備蓄米大放出」も、喜んでいるのは都市部だけであって、地方紙の社説はとってもビミョーな書き方にならざるを得ない。だって農家はギリギリの瀬戸際なんだから。

〇もちろん参議院選挙は期間が長いし、ごくわずかな差で競っているところが多いから、この間に生じるイベント次第で選挙結果は大きく変わるだろう。例えば今は参政党がブレイクしていると言われるが、ちょっとタイミングが早過ぎたんじゃないか。文春砲だってありますからね。タレント議員も多いから、いろいろ喧しいことになるのではないか。

〇逆にこの猛暑で、首都圏で電力不足が起きたらどうなるか。これは与党にとっては大打撃になるのではないか。などなど、いろいろ考えるとネタは尽きない。投票日の7月20日までは長い長い道のりである。じっくり見てまいりましょう。


<7月4日>(金)

〇本日は信濃町の「きんざい」さんへ。昨年に引き続き、「金曜例会」で講師を務めさせていただきました。本日のテーマは「トランプ2.0と日本経済への影響」。流行りのネタでございます。

〇本日は米独立記念日とお日柄もよく、なおかつ「OBBB法」(ひとつの大きくて美しい予算)が成立するということで、トランプさん的にはまさに絶好調。コワいもんなし、みたいな状態であるものと拝察いたします。

〇時節柄、たいへん関心が高いテーマなんですが、日米関税交渉の行方なんぞはもちろん分かりませぬ。それでもいつも通りのお話をするしかないのであります。ニクソンとの比較とかミレニアル四天王とか、ヴァンスとルビオの比較論とか、そういう話であります。

〇会場を見渡したら、なんと氷見野良三さんがお見えでありました。眼が合ったので、最後の質疑応答の際に「何か一言」と申し上げたら、「それではご指名なので」と、ご質問を頂戴いたしました。副総裁からどんなご質問をいただいたか。それは内緒にしておきましょう。


<7月5日>(土)

〇今週は仕事が一杯ありました。まずは7月3日に収録したピクテ・マーケット・ラウンジ(動画サイト)が、素早くアップされているのでご紹介。


●【参院選のベストシナリオとは】参院選を左右する自動車関税 / 消費減税による金利上昇リスク / 自公連立のゆくえ<糸島孝俊 × 吉崎 達彦>|

――国内政治編。参院選に向けての展望です。


●【トランプ氏は天才か】イスラエル・イラン停戦の真相 / 米中覇権争いのゆくえ/「一つの大きな美しい法案」による変化<糸島孝俊 × 吉崎 達彦>

――アメリカ政治編。トランプ政治の「天才」ぶりを語っております。


〇そしてこちらはいつもの東洋経済オンライン「市場深読み劇場」の新しい寄稿です。


●「12日間戦争」「ひとつの大きな美しい予算」…あまりに絶妙すぎる「トランプ大統領ネーミング術」の謎を解く


〇お陰で昨晩は10時間も寝てしまったですよ。ああ、よく働いた。



<7月6日>(日)

〇昨日アップされた拙稿(「12日間戦争」「ひとつの大きな美しい予算」…あまりに絶妙すぎる「トランプ大統領ネーミング術」の謎を解く)の中で、「1967年の第3次中東戦争="Six-Day War"は、なぜ日本においては『七日間戦争』という呼び名が定着したのか」という疑問が残りました。

〇まあ、いかにも「そっちの方がゴロがいい」みたいなくだらない理由でそうなったんだろうという気がするが、これはあからさまな「誤訳」で、「6日間戦争」→「神による天地創造の6日間」、という下敷きを無視していることになる。果てさて、どういう事情でそうなったのか。何でも知ってるチャットGPTさんに聞いてみたのです。


かんべえ:ところで”Six-Day War”を、敢えて「七日間戦争」と訳した当時の日本のメディア業界にはどんな理由があったのでしょうかね。もしわかれば教えてください。

ChatGPT:

とても興味深いご質問です。「Six-Day War(六日間戦争)」を日本の報道機関がなぜ『七日間戦争』と訳したのかについては、明確な公式資料や決定経緯の記録は現存していないようですが、当時のメディア事情や翻訳文化をふまえると、いくつかの合理的な推測が成り立ちます。

〇想定される理由1:曜日を単位とする文化的翻訳(週単位の習慣)

日本では「1週間=7日間」という周期が生活感覚に深く根付いており、「○日戦争」という表現には語呂として「七日間」が収まりやすい。

実際の戦闘は6月5日〜10日(6日間)ですが、日本の週感覚では「6月5日から1週間続いた」というニュアンスで「七日間戦争」と表現するほうが分かりやすいと判断された可能性があります。

〇想定される理由2:報道タイミングと印象操作の影響

1967年当時、日本の新聞・テレビ報道は共同通信やNHKが用語の統一ガイドラインを出すことが多く、翻訳のブレを避けていました。

この戦争は非常に短期間で終了したため、報道サイクル的には「1週間ほどの戦争」として捉えられた。

また「六日間戦争」よりも「七日間戦争」の方が音として収まりがよく、歴史的にも印象に残るという、日本語としての語感も影響したと考えられます。

〇想定される理由3:キリスト教的・聖書的背景の希薄さ

英語圏では「Six-Day War」が天地創造(6日間)になぞらえた象徴的ネーミングであることがすぐに理解されますが、当時の日本ではキリスト教文化の浸透度が低く、この聖書的背景は共有されていませんでした。

そのため翻訳者や報道関係者は「6」という数字の宗教的意味に特別な重みを見出さず、単に「約1週間」として「七日間戦争」と訳した可能性が高いです。


●事例:同様の翻訳ブレ

これは珍しい例ではなく、他にも似たケースがいくつかあります:

“Cold War” →「冷たい戦争」ではなく「冷戦」(意味の意訳)

“Hundred Years' War” →「百年戦争」(実際は116年だが切りよく)

“The Troubles” →「北アイルランド紛争」(直訳されない)

こうした例に見られるように、日本語メディアは意味的なわかりやすさや語感の良さを重視して、忠実な訳よりも読者に浸透しやすい用語を選ぶ傾向があります。


●結論:原義よりも「耳ざわり」や「理解しやすさ」を優先

したがって「七日間戦争」という訳語は、

*当時の報道タイミング・文化的理解度

*数字の象徴性よりも週単位の生活感覚

*そして報道機関の言語選択の慣習

によって自然と選ばれた“日本語的フレーム”だったと推測されます。

もしご希望であれば、NHKや共同通信のアーカイブに残っている当時のニュース原稿の用語例や、新聞記事の見出し等を調査することも可能です。調査をご希望でしたら、お申し付けください。


〇ここまでしかわからない。ここから先をいくら「さら問い」しても、1967年当時のことはネットには載っていないので、AIはお手上げのようなのです。あとは国立国会図書館に行って新聞の縮刷版を調べるとか、新聞社のデータベースの有料サービスを使うくらいしかない。ここから先は人間がアナログ的な調査力を発揮するしかないのです。

〇ということで、最後はGrok3との間ではこんな会話で終わりました。


かんべえ:いやあ、面白い。わたしは共同通信やNHKに知り合いがいるので、古株の人に聞いてみたいと思います。1967年当時の記録がデジタル化されていない、とは興味深いです。

Grok3:それは素晴らしいアイディアですね!共同通信やNHKの古株の方々に直接聞けるなら、当時の報道現場の雰囲気や「七日間戦争」という呼称がどうやって広まったのか、生の証言が得られるかもしれません。1967年当時の記録は一部デジタル化されていますが、新聞や放送の全貌を網羅するにはまだ限界があり、特に翻訳や呼称の背景のような細かい話は紙のアーカイブや個人の記憶に頼る部分が大きいです。もし面白い話や裏話が出てきたら、ぜひ共有してください!何か他に調べたいポイントがあれば、いつでもどうぞ。


〇1967年当時に共同通信のワシントン特派員だった松尾文夫さんはもうこの世におられませんが、当溜池通信のネットワークを使えば、たぶん何がしかのことが分かるでしょう。わかったら、当然、ここで書きますから、AI君たちもそこで学習できることになる。いや、面白い。


<7月7日>(月)

〇本日は七夕ですが、ワシントンと上海からそれぞれ来訪者あり。お久しぶりにリアルで会って、旧交を温めるのであります。

〇聞けばアメリカも中国も今年は暑いらしいのですが、少し外を歩くと一気に汗が噴き出す「屋外サウナ」なみの東京は、彼らにとってもやっぱり暑いらしいです。そりゃそうですよねえ。

〇空が雨模様で織姫と彦星が出会えない、というよりかはマシですが、この暑さ、いい加減なんとかならんのか。

〇ともあれ、古いお馴染みの仲間と再会できるのはありがたい。この年になると、こういうことが楽しみで生きているようなところがありまする。


<7月8日>(火)

〇このところ毎日のように講演会があって、毎日のように締め切りがあって、いずれもテーマは「トランプ関税」なものだからへとへとであります。8月1日から相互関税が25%になるからといって、そんなに大騒ぎしてどうなるのよ〜。

〇本日は中京・北陸地区の中小企業さんを相手にお話をしたのですが、この地域は面白い製造業が多いです。ひとつには、トヨタさんを総本山とする自動車産業の集積があるのですが、それだけではなくて多種多様な企業があるのです。

〇今や製造業は日本のGDPの2割、雇用の17%を占めるのみ。圧倒的多数は非製造業なのです。とはいえ、製造業こそは究極のリアリズム産業。モノづくりの現場にはいろんな物語が眠っていて、面白い経営者がいるんだなあ、ということで感心しております。

〇いやもう、とにかく暑いです。朝から大量に水分を採って、大量に汗を流して一日が暮れていく。アイスコーヒーとビールがなかったら生きていけません。

〇そうそう、明日はWBSに出演します。それから明後日には産経新聞「正論」蘭と、中央公論8月号の特集「トランプ危機の経済、歴史の教訓」などに拙稿が登場します。全部ネタはトランプ関税となる見込み。いやもう、勘弁してほしいです。


<7月9日>(水)

〇今日、7月9日は相互関税の「国別上乗せ分」が90日間の停止期間が明けて復活する日。だから、是非、この日でお願いしますと言われて、WBSの出演日となったんですけど、もうそんなことはどうでもよくなってますわね。次の焦点は8月1日。「トランプ関税」逆襲の始まりはじまり〜。

〇実は本日は渋谷で講演会があって、この界隈の商工中金のお客さんたちの会合でした。場所が渋谷だから、てっきりサービス関係の企業が多いのかと思ったら、そこは商工中金なので製造業が意外と多かったですね。もちろん時節柄トランプ関税への関心はきわめて高いです。

〇そういえば、何で渋谷はIT企業が多いのかと言ったら、保育関係のサービスが充実していることが大きいんだそうです。特に夫婦共働きの若い家庭にとっては、「他の区に引っ越したら今の仕事を続けられない!」という切実な事情があるのだとか。

〇ということで、いつものようなお話をしたのでありますが、その後の懇親会でいろんな方の反応を伺ってみたところ、いちばん受けた話は「消費減税はダメ!」という部分であったようです。これは聞きに来ているのが経営者の皆さんだからスッとご理解いただけるわけでして、世論の大勢は既に「消費減税してくれ〜!」という感じですよね。

〇所詮は衆寡敵せずという気がしますが、できる範囲で強調していきたいと思います。消費減税はダメな政策ですよ〜と。それにしても参議院選挙、不穏な雰囲気が広がりつつありますなあ〜。


<7月10日>(木)

〇本日、初公開となりました拙稿は以下の通りであります。


●産経新聞(産経新聞社) 正論 「歴史に学ぶ『トランプ関税』対策」

――久々に「正論」蘭に寄稿。日本企業は半世紀前の吉田工業(現YKK)のガッツを見習うべきではあるまいか。

●中央公論8月号(中央公論新社) 相互関税に見る「ニクソン・ショック」の残像

――特集「トランプ危機の経済、歴史の教訓」の中の1本です。アメリカはときに世界を驚かせる国である。

●日経Book Plus(日経BP社) 「かんべえが推す古典への距離が一気に縮まる本

――滝田洋一さんの新刊『古典に学ぶ現代世界』(日経プレミアシリーズ)への書評です。


〇なんと、こんなに書いてたんだ俺。これで明日は溜池通信も出さねばならぬ。道理で忙しいわけだ。ちなみに今日は講演会で水戸市へ行ってました。


<7月11日>(金)

〇昨夜は久しぶりにエアコンなしで寝ましたし、今日もとっても過ごしやすい一日でした。昔は夏の日でもこんな感じだったんですけどねえ。昼間は風鈴に打ち水で涼をとって、夜はちゃんと気温が下がったんだよねえ、などとオヤジ世代は過去を懐かしむのである。

〇涼しいのは1日だけみたいで、明日からはまた30度台に戻るみたいですが、それにしても休みがあるのとないのでは大違い。日曜日はまた福島「七夕賞」ですけど、やっぱり暑いのかなあ。


<7月13日>(日)

〇本日はこの季節恒例の福島遠征。目指すは七夕賞(福島競馬場・芝2000m・G3)なのである。

〇もともとは自分がたった一人で始めた福島ツァーが、今では堂々たる旅打ちさまご一行となり、今年は5人が参加。初参加のFさんが、万馬券3発を含む大当たりを連発。あとは皆さん、しょぼい結果に沈んだのでありました。

〇今日の福島競馬場はとにかく前残りが多い。つまり馬場が良くて、先行した馬が勝ち、差しが届かない。ということは、メインの七夕賞も逃げ馬のコスモフリーゲンか、と一瞬は考えたのですが、「待て待て、柴田大知騎手が重賞を勝つイメージがどうにも湧かない」などと考えて、予定通りドゥラドーレスから買ったのであります。そしたらやっぱりコスモフリーゲンがアタマ差でドゥラドーレスを交わして勝っちゃったのでした。とほほほ。

〇しかも3着に入ったのは12番人気のオニャンコポン。そりゃあ確かに3歳時に重賞を勝ってはいるけど、近年は鳴かず飛ばずの二桁着順ばかりの馬である。なぜか大復活。こういうところが七夕賞の味わい深いところでありまして、いやはや簡単には勝たせてくれないのでありますよ。

〇競馬の後は、またまた福島民報・高橋利明記者を囲んで競馬談義となるのであるが、だんだんとお店のレパートリーも増えてきて、今年は焼き鳥屋さん。川俣しゃも、美味でございました。奥のお部屋にいらしたのは、ホソジュンさんなどフジテレビのご一行様だったようであります。

〇この季節の福島市は、とっても立派な桃を売っております。お土産はこれに限ります。ウチは先週までは山梨の桃をいただいておったのですが、明日からは食べ比べですな。


<7月14日>(月)

〇以前、何度か試した「GDPを分配面から見るとどうなっているか」を新しいデータで試してみました(単位:百億円)。

〇そしたら驚くべきことに、家計部門の賃金(雇用者報酬)はずいぶん増えていて、経常税の支払も頭打ち、純社会負担は増えているけれども、給付の方も増えているんでそんなに問題というほどでもない。金利が上昇したことで、財産所得が増えていることが全体をサポートしている様子も垣間見える。まあ、それはある程度の金融資産がある人に限られることですが。

〇そして物価高に伴う家計最終消費支出は確かに伸びているが、それ以上の勢いで可処分所得が増えているから、残余の貯蓄は23年から24年にかけて増えているのである。なーんだ、物価上昇に伴う国民生活の苦境は、2023年で底打ちしてるじゃん! ちなみに貯蓄率は、23年が0.6%で24年は4.1%となっております。

暦年 雇用者報酬(受取) 財産所得(純) 所得・富等に課される経常税(支払) 純社会負担(支払) 現物社会移転以外の社会給付(受取) その他の経常移転(純) 可処分所得 家計最終消費支出 貯蓄
2020 283,186.5 23,934.5 30,595.1 83,203.5 80,366.7 14,651.1 319,124.7 283,530.6 34,557.5
2021 288,745.4 26,009.2 32,361.1 85,254.3 82,390.8 635.5 309,315.5 287,536.6 20,388.9
2022 295,365.2 27,208.6 33,321.4 87,345.8 84,175.2 1,265.6 314,603.8 302,622.2 10,951.8
2023 301,295.5 28,713.4 33,668.9 89,949.6 81,985.2 417.0 317,009.8 314,345.3 1,864.5
2024 313,530.9 33,820.0 33,286.4 93,621.8 85,923.3 -348.9 335,701.2 321,300.7 13,754.4


〇強いて言えば、24年は「その他の経常移転」が少なかった。23年はまだしも「定額減税」があったけど、24年は家計部門に対する政府部門のサービスが足りないうらみがあった。ここをもう少し増やすくらいは全然問題がないので、25年は「給付をやっとけばそれでいい。減税なんて必要なし!」ということになるのではないか。

〇ところが来たる参議院選挙は、「給付か減税か」の二択問題になっていて、しかも減税派の野党の方がよっぽど優勢であるらしい。そんなことで本当にいいのだろうかと思う。下手をすれば投票日の翌日に日本国債の格付けが下げられて、長期金利急上昇!なんてことになってしまうのではないか。

〇一方で、2020〜22年の「コロナの3年間」で残った強制貯蓄は、あまり使われることなく放置されているように見える。なぜコロナが明けても、個人消費が伸びないのか。いろんな可能性が考えられますね。

〇仮説その1は、「インバウンドにおいしいところを持っていかれた」説。外国人観光客が増えて、ホテル代も上がっちゃったので、国内旅行をしたくでもできなくなった。観光地は賑わっているけれども、見ていると腹が立ってくる。それが今の参政党人気につながっていると考えると、これはちょっとマズい現象かもしれませぬ。

〇仮説その2は、「お友達が減ってしまった」説。コロナの3年間は、リアルの友人が減ってヴァーチャルの友人が増えた、ということを多くの人が経験したのではないかと思う。ところが困ったことに、ヴァーチャルの友人とはおカネを使わないのである。

〇逆に言えば、リアルの世界のお付き合いはとかくおカネがかかる。お義理で出なきゃいけない冠婚葬祭がその典型である。「はて、ウチはいくらくらい包んだらよろしいのか?」「お土産を用意しなければならないけど、何がよろしいのか?」てなことで、消費が伸びる。とはいえ、そういう消費を本心から喜んでいる人は少ないので、虚礼廃止がそのまま消費の減退につながった、というのもありそうな気がする。

〇町内会の活動も最近は面倒くさがる人が増えました。昔の集会所にはビールの空き瓶が何ケースも積んであったものです。今じゃビールを注がれることも注ぐこともなくなった。それがビールの消費量を減らしている。たぶん全国的な現象でありましょう。それもこれもリアルの「付き合い」が減ったから、と考えるとはてさて、世の中は難しいものよのう。

〇他方、昨日の福島ツァーで痛感したのだが、リアルの友人が居るからこそ「旅打ち」は楽しい。実は参加できなかった人たちもいて、「次回は必ず」と言ってくれている。もちろん行けばおカネは必ずかかるし、福島競馬はなかなか勝てせてはくれない。それでも楽しかった記憶は残るし、土産に買ってきた桃は美味なのである。趣味の友達はありがたいものかな。


<7月15日>(火)

〇参議院選挙の中盤情勢というデータが、どこからかひらひらと当サイトに降りてきたのであります。こういう仕事を長くやっていると、不思議とそういうことが多くなります。いや、実を言うと序盤情勢ももらっておるのです。

〇で、それらをつらつらと眺めてみますと、もちろん与党は苦戦しております。それでもギリギリで、過半数を維持できるという結論になっております。とはいえ、終盤に向けてますます状況は悪化しているように見えるわけでして、最後の数日間は「アンダードッグ効果」(判官贔屓)ではなくて、「バンドワゴン効果」(水に落ちた犬を叩け)になるのが、近年のわが国における選挙戦の傾向ではないかと思うのです。

〇昨今のマスメディアの皆さんは、選挙情勢を伝える際に「与党は過半数割れの可能性が・・・」と心なしか嬉しそうになっている感があります。おいおいおい、その場合に石破さんが辞任してしまった場合、いったい誰が日米関税交渉をやるのだろう。8月1日になると期限が到来して、対米相互関税は25%になってしまう。そして8月1日というのは、現時点における臨時国会が召集されそうな日である。

〇関税交渉を考えたら、いかなる選挙結果であろうとも「石破さんが居座る」ことが望ましい。だって石破さんが辞めちゃったら、そこから首班指名選挙をやらなければならなくなる。自民党総裁選だってあるだろう(たぶんフルスペックではなく、両院議員総会だと思います)。それだけで、数週間たってしまう。その間にトランプさんはどんどん次の「無茶振り」を始めてしまい、わが国はどうかすると8月下旬のTICAD横浜会議になっても首相が決まらない、なんてことも冗談ではなくなってしまう。

〇なにより首班指名選挙をやると、またまた衆議院で少数与党がどういう合従連衡になるのか、ということでハラハラしなければならなくなる。もちろんその場合、参政党、維新の会、日本保守党という「自民党より右」の3つの野党が存在して、彼らが「野田佳彦」に投票することは考えにくい。だったらやっぱり自民党総裁が総理になりそうなものなのだが、それにしたって自民党総裁選が後味の悪い終わり方をした日にはどうなるかわからない。

〇だったら、石破さんが「辞めません!」と言い切ってくれるのがいちばん手っ取り早い。総理が辞めなければ、首班指名選挙もやらなくてよいわけだから。とはいうものの、自民党がかつてないような大敗をした場合は、この限りではなくなってしまう。

〇端的に申しまして、自民党の大敗といいますと2007年、第一次安倍内閣当時の37議席という記録が思い起こされます。これを下回るようだと、さすがにシャレにならなくなってしまう。なんとなれば、そのときに「総理は辞めるべきだ!」と言った人がおるのですよね。そうです。石破さんです。

〇つまり今回の参院選で自民党がそれ以下の議席数になった場合には、18年ぶりのブーメランが石破さんの背中に突き刺さることになる。その場合はどうなるのか。個人的には石破さんに鉄面皮になってもらい、「それでも私は辞めません!」と言い切ってもらいたいと思います。いやはや、これはやっぱり国難であると思いますぞ。


<7月17日>(木)

〇今日も朝からうんうん唸って、今週末に掲載予定の「市場深読み劇場」の原稿を入稿するのである。

〇この連載、ご存じの方が多いと思うが、マーケットがらみの話題を延々と書いておいて、最後は急転直下、週末の競馬予想となる。このフォーマットが2012年から延々と続いている。その間に書き手2人が物故しているにもかかわらず、である(編集F氏は今でもレースを見ながら、「ああ、山崎さんが降りてきた」などといいながら勝負している)。

〇この競馬予想の部分を、たぶん多くの読者は読み飛ばしていると思うのだが、書く方としては毎回かなり悩みながら書く。なんとなれば、滅多に当たらないからである。たまに当たると心の底からホッとする。競馬評論家はつくづくメンタルの強い人たちだと思う。

〇いや、ワシなどは素人に毛が生えたような競馬ファンなので、まさか「お前を信じてXXを買ったのに・・・」と怒る人が居るわけではないだろう。それでも、「コイツ、競馬ファンとか言いながら底が浅いな」と思われるのも癪に障る。ゆえに締め切りがある週は、火曜日から「競馬ブック」を読んでせっせと下調べをするのである。

〇なおかつ、締め切りが木曜日夜、というのもツライところである。ほとんどのレースは、枠順が決まらない段階で書かねばならない。だったら枠順が分かっていれば当たるのか、と言われると、それも正直、難しいところである。「競馬の部分だけは金曜日に書く」という手もあるのだが、編集F氏の負担を増やすことになるし、直前に予想を変えると当たらない、というジンクスもある。

〇それでも先日、急に吹っ切れた気がした。「予想を当てることが大事なんじゃない。単に面白い予想を書けばいいのだ」ということである。要は当たらない予想でも、レースに関するマメ知識や推論のロジックに気の利いたところがあれば、読者にとっては有益な情報であろう。大事なのはネタの新鮮さである。

〇てなことを考えながら、2週に1度回ってくる締め切りを凌いでいる。それでもやはり馬券は当てたいものである。それというのも、予想したレースは確実に買っているので、あんまり外すと経済的な被害が拡大するからである。


<7月18日>(金)

〇先日、トランプ政権に関する議論をしている時に、「今の政権は『割り勘負け』を極端に嫌うよねえ」という話になりました。この「割り勘負け」にピッタリくるような英語表現があまり見当たらなくて、強いて言えば"Unequal Split"くらいなんでしょうが、税も社会保障も医療も外交関係も、最近はこの言葉が鍵なんじゃないかと思います。

〇そうでなくてもアメリカ人は「自己責任」文化を有し、「能力主義」を良しとする人たちである。だから自分が支払った以上のものを他人が得ている事に対して、強い違和感が働くようになっている。ましてメディケイドやフードスタンプなどの弱者救済措置に対して、保守派が冷たい視線を投げかけていることは言うまでもありません。

〇他方、リベラル派は医療や年金を基本的人権と見なすので、ここは大いに意見が分かれるところとなる。今回成立したOBBB法も、メディケイドやフードスタンプの資格要件を厳しくすることを盛り込んでいる。リベラル派から見れば、「トランプ支持者の連中は、自分たちの首を絞めている」と面白がるところですけどね。ちなみに現下のMAGA派の最大の関心事は、エプスタイン・ファイルの行方だったりする。

〇内政面はともかく、外交政策においては、「フリーライダーを許すまじ!」という文脈になってくる。軍事面でアメリカに頼りっぱなしなのに、自国の防衛に本気さが見られない国、アメリカから貿易黒字をがっぽり稼いでいる国に対して風当たりが強くなる。ここは単なる損得勘定だけではなくて、道徳的な非難も入ってくるところが、日本のような国にはツライところです。

〇逆に日本という国は、「全体のために貴方は我慢してくださいね」「抜け駆けはいけませんよ」といった同調圧力が働きやすいようになっている。「トヨタさん、お宅は儲かっているんだから、ここはひとつ、みんなのために泣いてくださいよ」みたいなケースです。これ、逆らえないんですよねえ。「割り勘負け」が多発しやすい地合いがあるのです。

〇この「泣いてくださいよ」こそは、英語にならない表現の典型でありましょう。そんなこと言われたって、「知らねーよ」と拒否すればいいだけの話でありまして。それで後ろ指差されることもないでしょう。この辺の文化的ギャップは、今も昔もあんまり変わっておりませんなあ。

〇強いて言えば、全世界共通のラグビー精神みたいなものはあるわけです。"One for All, All for One."てヤツですね。この言葉、フランスの『三銃士』(アレクサンドル・デュマ)が元祖なんだそうですね。もっともこの精神を、欧米人は英雄的な気概で発揮して、日本人はかなりマゾヒスティックに受け入れるという違いがあるようですけれども。


<7月20日>(日)

〇いよいよ投票日である。しかしまあ、なんというか、嫌な感じの選挙でありますなあ。ここ2週間ほどは「X」の画面を開けた瞬間に、不快なメッセージがどさっと届くので慌てて閉じる、みたいなことを繰り返しておりました。

〇とりあえずは拙稿のご案内をば。この後は結構な国難となるのではないかなあ。


●石破首相辞任? 参院選後の対米交渉は誰が担うのか?


〇たぶん今度の選挙は、通常の選挙よりも3〜5Pくらい投票率が高いんじゃないかと思います。ちなみに近年の投票率はこんな感じです。


*2024年衆院選 53.85%

*2022年参院選 52.05%

*2021年衆院選 55.93%

*2019年参院選 48.80%

*2017年衆院選 53.68%


〇投票率の1%がちょうど100万人くらいですから、総投票数は5000万人台の前半、ということが定着しています。ところがですな、投票率は2005年の郵政選挙では67.51%、2009年の政権選択選挙では69.28%まで上振れしたのです。

〇つまり世の中には、「2005年と09年だけ投票したけど、その後はすっかり投票を忘れている」人たちが1000万人くらい存在することになる。この人たちこそが、小泉旋風を巻き起こし、その4年後には民主党政権を誕生させた原動力ということになる。で、その後は再び投票所には行かなくなった。

〇それからもう20年近くたってしまったのだけれども、今回の選挙ではとっても久しぶりに、「あの人たち」が投票所に戻ってくる気がするのですよねえ。投票率が上がること自体は結構なことでありますが、そのことがもたらすであろう結果については、あんまり想像したくないものがあります。

〇もっともこの間に成人年齢に達して選挙権を得た、という人たちも大勢いることでしょうね。彼らはたぶん2005年と09年のことを知らない。まあ、放っておいたって、20年前のことは皆さん忘れますよね。

〇ということで、久々に投票所に行かれる皆様に申し上げたい。参議院選挙で当選した人は向こう6年、議員さんになっちゃいますからね。あなたの一票にはそんな「威力」があるのです。行使には慎重になさってくださいまし。


<7月21日>(月)

〇選挙終わりました。当溜池通信の毎度の手法でありますが、比例の得票数で今回の選挙結果を紐解いてみようと思います。

〇ただしこの数字は今朝時点、朝日新聞の開票速報のデータを元にしておりまして、開票率98.54%のものですから、大きく違いはないですけれども、正確なものではありません。後で修正しますけど、この数字をそのまま使うことはお控えください。(→後記:最終数字に書き換えました。7月26日)

〇また、衆議院と参議院では比例区の投票方式が違います。両者を一緒くたにするのはよくないのですが、この3年間の変化を見るうえでは昨年の総選挙のデータもやはり重要なので、敢えて一緒にしております。


  2025年
参議院
2024年
衆議院
2022年
参院選
2021年
衆院選
2019年
参院選
2016年
参院選
自民党 12,808,306 21.64 14,581,690 26.63 18,258,791 34.40 19,914,883 34.66 17,712,373 35.40 20,114,788 35.90
公明党 5,210,569 8.80 5,964,415 10.89 6,181,431 11.70 7,114,282 12.38 6,536,336 13.10 7,572,960 13.50
立憲民主 7,397,456 12.50 11,564,217 21.12 6,769,885 12.80 11,492,115 20.00 7,917,720 15.80 11,751,015 21.00
国民民主 7,620,492 12.88 6,172,427 11.27 3,159,014 6.00 2,593,375 4.51 3,481,078 7.00 ↑民進党  
共産党 2,864,738 4.84 3,362,966 6.14 3,618,342 6.80 4,166,076 7.25 4,483,411 9.00 6,016,194 10.70
社民党 1,217,823 2.06 934,598 1.71 1,258,623 2.40 1,018,588 1.77 1,046,011 2.10 1,536,238 2.70
維新の会 4,375,926 7.39 5,105,127 9.32 7,845,995 14.80 8,050,830 14.01 4,907,844 9.80 5,153,584 9.20
れいわ 3,879,914 6.56 3,805,060 6.95 2,319,159 4.40 2,215,648 3.86 2,280,252 4.60    
参政党 7,425,053 12.55 1,870,347 3.42 1,768,385 3.33            
その他 6,385,113 10.78 1,389,631 2.54 1,847,377 3.48 900,181 1.57 0 3.40 0 6.90
合計 59,185,390 100.00 54,750,478 100 53,027,002 100 57,465,978 100 48,365,025 100 52,144,779 100
投票率 58.51%   53.85%   52.05%   55.93%   48.80%   54.70%  


*「その他」の638万票には、日本保守党(2,924,762票/5.04%)、NHK党(660,683票/1.14%)、再生の道(513,620票 /0.89%)、チームみらい(1,490,196票 /2.57%)などが含まれる。


〇まず自民党ですが、2022年以前はコンスタントに35%前後の比例得票がありました。それが昨年の総選挙以降はガタガタになっております。自民党の敗戦の弁の中で「支持者を固められなかった」という言い方をよく聞きますが、支持者にかなり逃げられてしまったのでは?という印象も否めないところです。、

〇3年前の2022年参院選は、安倍さんが狙撃された2日後に行われたものでしたが、このときまではまだ「安倍一強時代」が続いていました。しかるにその後、旧安倍派はいわゆる「裏金問題」で溶解してしまい、岩盤支持層は自民党離れしてしまいました。たぶん日本保守党が得票した290万票は、かつてであれば自民党に投票していた人たちでしょう。

〇つまりそれまでの自民党は「楕円の理論」で、右と左という2つの軸を持った政党でした。それが右側の軸が失われ、今では片肺飛行のような苦しい状態になっております。なおかつ、右派の政治家が大量離脱したわけでもなく、自民党は輪郭の見えにくい政党になってしまいました。逆に言えば、「右の安倍さん、左の岸田さん」を擁していたときの自民党は強かったのです。

〇投票率が上がったことも想定通りでした。前回の参院選から5pくらい、去年の衆院選に比べても増えています。念のために申し添えますが、「衆<参」はかなり珍しい現象です。今度の選挙では500万人程度の「ニューカマー」が存在し、その多くはSNSや動画サイトの強い影響を受けていた、と言えるのではないでしょうか。

〇野党第一党の立憲民主党は、議席数は伸ばしたものの、比例の得票を見ると3年前とほとんど同じです。むしろ国民民主党や参政党の後塵を拝していて、あまり威張れた結果ではありません。少なくとも、「次の総理をわが党から!」と言えるような雰囲気ではないと思います。ところで毎度の話ではありますが、略称が双方とも「民主党」になっている問題は、どの程度、結果に影響しているのでしょうね?

〇公明党の衰退は、見ていて痛々しいくらいです。とうとう比例の得票率がひとケタになってしまいました。かつては選挙のたびに800万票前後を動員していた組織力は、高齢化やコミュニティ活動の衰退に伴い、大きく落ち込んでいるようです。やはりコロナの影響は大きかったんだろうな、とも感じます。

〇今回、自民党は39議席と事前の予想よりは健闘しましたが、公明党が8議席に減少したことで、与党は過半数に3つ届かない、という結果になりました。石破さんの立場になってみれば、「自民党、そんなに負けてないじゃん!」と言ったところでしょう。とりあえずマジックナンバーの37を越えましたから、ホッとされていることでしょう。

〇共産党、社民党というリベラル政党も、着実に公明党と同じ道をたどっています。今では両者を足し合わせてやっと「わいわ新選組」と同じくらい。こんな時代になってしまうと、組織を持たない政党の方が有利なんじゃないのか、てな気もいたします。まあ、逆に組織があるからこそ、痛々しくも党がかろうじて生き残っている、という言い方もできますが。

〇そして今回の最大のテーマは参政党の大躍進です。3%政党から12%政党に飛躍しました。いわば「バズった」わけです。今回、増えた「ニューカマー」の有権者のうち、かなりの部分を集めたのでしょうね。ただしこの政党、これからどっちに向かうのか、まるで見当がつかない。「日本における初の排外主義政党の誕生」という見方もありますが、その辺も今後のネット世論次第なのでありましょう。6年後に存続してるかどうかも、正直、よくわかりません。

〇強いてポジティブな面を挙げるとすれば、1992年の参院選で初登場した日本新党は、翌年に細川政権を作った後は雲散霧消してしまいましたが、政界に多くの人材を送り込んだという経緯があります。小池百合子都知事も、茂木敏充自民党元幹事長も、日本新党がなかったら政界入りしていなかったことでしょう。新党には、普通のルートでは政界に入ってこない人材の供給源、という役割もあるんですよね。ゆる〜く期待したいところです。

〇以上、とりあえずの選挙結果分析です。詳しくはいずれまた。


<7月22日>(火)

〇今朝は久しぶりに「モーサテ」出演。「プロの眼」のテーマは「参院選後の政局と日米関税交渉」。話の中身は、ここで書いているような話が中心です。

〇午後は文化放送「長野智子のアップデート」へ。ここでも似たようなお話をするのであります。

〇でまあ、思うのですが、「石破はヤメロ!」なんて言ってる人たち、それじゃあ日米関税交渉はどうなってもいいのか。それもあるけど、仮に石破降ろしで自民党総裁選に持ち込んだとして、次に選ばれた総裁が首班指名で総理に選ばれる保証はない。最悪の場合、総理不在のままにずるずると夏が過ぎて行ったりするかもしれない。政治空白の季節の到来である。

〇その場合、トランプさんから、「そんな国に関税負けてやる必要なし」と言われてしまうのは仕方がないとして、8月15日の「戦後80年」が総理不在でいいのか? 8月22日からの「TICAD\」で横浜にアフリカの首脳が大勢来たときに誰が相手をするのか? てなことをワシ的には心配してしまうのであります。

〇だったら石破さんに耐えてもらう方がいいのではないのですかと。SNS時代の野党というものは、自分たちのフォロワーのことしか考えていない。国民政党、責任政党になるつもりなど最初からないのです。しかも多党化、分散化している。めいめいが部分最適しか考えてませんから、このままでは碌なことはないですぞ。

〇そんなことを言いながら、ああ、でもどうせ俺の意見は通らないんだろうなあ、という諦めもあるのです。だって政治の世界で「情念」と「理屈」が衝突した場合、理屈が勝ったなんてためしは聞いたことがない。特に選挙の後はね。

〇かの後藤田正晴さんのオーラルヒストリーは『情と理』。カミソリ後藤田はもちろん「理」の人でありますし、だからこその名官房長官であったわけですが、そんな人が政治の世界における半生を振り返った時には、「情」が先に来る。政治って、たぶんそういうものだし、それは洋の東西を問わないのだと思います。

〇そんなわけで、いずれ石破さんは力尽きるときが来るのでありましょう。あんまり見たいとは思いませんけどね。情が理を押し切る毎度のドラマかな。


<7月23日>(水)

〇日米関税合意が突如として合意に至る。いやあ、ビックリしましたがな。トランプさん、いったいどういう風の吹き回しだったんだろう?

〇とりあえず日本の産業界にとっては朗報です。何と言っても、関税をめぐる不透明性が消えました。しかも相互関税が15%で、自動車関税が部品も含めて15%というのはありがたい。計算が楽ですし。他の先進対米黒字国に先駆けてのディールだったことも得点は高いです。

〇一方で15%の対米関税を「安くなった!」と言って素直に喜んでいるのは、いかにもトランプ流交渉術(最初に大きく吹っ掛けて、それから現実的な線に落とす)といういつもの術中にはまっている感もあり、そんなことではいかんのでありましょう。

〇それでも日本が、自動車関税で英国のような「輸出枠」抜きの低税率をゲットした、ということの意味は大きい。端的に言えば、ドイツ車や韓国車の対米輸出に対しては、自動車関税25%+MFN関税2.5%=27.5%の関税がかかるのに対し、日本車は15%で良くなったのだから。関税率で12.5%のアドバンテージは大きい。今ごろ韓国の交渉担当者は、「何が何でも日本以下の税率を勝ち取ってこい!」という国内での圧力を受けていることでしょう。

〇トランプ政権の側から言えば、8月1日の期限まで10日を切ったこともあり、そろそろ他の国を焦らせる目的もあっての対日合意だったのではないでしょうか。また日本側としては、最後の交渉ピースであるコメ(参議院選挙が終わるまでこのカードは切れない)を、このタイミングで切ったのでしょう。それでもMA米の範囲内ですから、たいした取引材料ではなかった。うまくやりましたね。交渉チーム、しみじみお疲れさまです。

〇急転直下の日米合意により、本日の株価は気持ちよく上げました。要はTACOトレードなんですけど、「霧が晴れる」というのはいいものですね。石破さんの進退については、まだまだ波乱がありそうな感じでありますが。


<7月24日>(木)

〇今朝、チェックしてみたら、ホワイトハウスのHPに日米合意に関するファクトシートが掲載されている。読んでみると、頭がクラクラするような変なことが書いてある。ファクトチェックが必要なファクトシートとはこれいかに? いつものトランプ辞典を思い出す。「彼の言うことは真剣に受け止めなければならないが、字句通りに捉えてはいけない」。そうだ、きっとそうに違いない。

〇それから林芳正官房長官の朝食会に出席する。ホテルニューオータニが満員御礼状態であった。林長官いわく、昨日は嬉しいニュースがあった。赤沢大臣から電話が入って「DealがDoneしました!」と興奮気味だったそうである。日米合意はやはり官邸にとってもサプライズであった。これが選挙前なら、よかったんですけどねえ。

〇もっともこれで石破首相に対する「辞めろ」風が止まるかと言うと、むしろかえって強風となりそうである。読売新聞なんか、首相辞任の号外まで出しましたからなあ。いかにもオールドメディアが辞任への流れを作ろうと必死になっているようで、あんまり見た目がいいものではありませぬ。

〇ワシ的にはひょっとすると、これから「令和の三木武夫」による驚異の粘り腰が見られるんじゃないかという気がしている。それどころか明日の夜には、「石破辞めるなデモ」があるんですって。要はリベラル派が、「ここで辞められちゃ困る!」と言っているわけで、こういうのは人徳というのか、なんなのか。

〇むしろ石破さん的には、自民党の地方組織から続々と「石破は辞めろ!」コールが増えていることが、ヒットポイントを削っているのではないかと思う。もはや「政治とカネ」問題ではなくなっていて、単に石破の不人気のせいで負けた、てな声もあがっているのだとか。はて、明日はどっちなのか。


<7月25日>(金)

〇日米関税合意について、だんだん見えてきたのは以下のような事情である。


*日本側が交渉のターゲットにしたのはラトニック商務長官。もともと大統領の信任が厚いタイプではなかったが、ここへきて影響力が増してきて、その彼が「日本が持ってきたのはいい話だ」とホワイトハウスにつないでくれた。7月21日に突如として大統領の時間が取れたのはそのお陰である。

*日本側は最初から、「勝負は関税ではなくて投資」だと割り切っていた。だって日本側が切れる関税カードはほとんど残ってないし。そこで経済安全保障を中心とした日米投資ビークルの話を持ち出し、これにラトニックとトランプが乗ってきた。

*5500億ドルは真水の投資額ではなく、あくまでもJBIC/NEXIによる出資・融資・債務保証の総額である。実行主体は日米の民間企業であり、例えば日本政府がアラスカのLNG開発に投資したりすることはない。それからアメリカ企業が乗ってこない案件に、日本企業が単独で突っ込むことも考えにくい。

*従って、利益の取り分が「日:米=1対9」になるというのは変な話である。日本側は当然、融資は回収するし、配当も受け取ることができる。ただしトランプさんが「9対1」を喜んでいる様子なので、「敢えて言わなくてもいいかぁ」と日本側が黙っていたというのが実態に近い。当然、ベッセント財務長官はこの辺を百も承知で沈黙している。


〇野党は「日米で合意文書を作れ」と言っておるようですが、そもそもこれまでに妥結した英国やベトナムだってそんなもの作っていない。互いに「ファクトシート」を発表して、それで終わらせている。いつものとこながら、"Don’t take him literally, but seriousuly."を地で行くような展開です。

〇これで日本の相互関税が15%まで下がり、自動車関税が部品もろとも15%になるのなら、やっぱり成功した交渉ということになる。とりあえずは、それでよろしいのではないでしょうか。


<7月27日>(日)

〇ぶつぶつ、なんでワシが日米関税交渉で日本政府の弁護をしなきゃいかんのだ・・・・などと言いつつ、あれこれ来週分の原稿の準備をするのである。

〇だいたいですなあ、80兆円の税金を差し出して関税を負けてもらう、なんてそんな取引があるわけないじゃないですか。投資するのは民間企業だし、5500億ドルはほとんどが融資と融資保証なんですから。融資はちゃんと返済してもらうし、融資保証はちゃんと手数料をもらうはずなんで。

〇でも考えてみたら、普通の人はJBICとかNEXIと言われても、何しているところかわからんよなあ。その辺のことを説明するのがワシの役回りなんだろうか。そんなことより、ちゃんと日米の企業でプロジェクトが成立するのかどうか。こんな悪評が立ってしまった後では、多くの日本企業が二の足を踏むのではないかなあ。

〇ちなみにホワイトハウスのファクトシートには、「アラスカLNG」なんて文言も入っているけれども、そのときはちゃんとエクソン・モービルをパートナーにしてもらわないと困りますよ。でもって、損失の負担も9対1にしてもらわないとね。日本企業は基本的に日本政府の顔を立てようとするけど、アメリカ企業はまるでアメリカ政府の言うことを聞くつもりがない。そこに多くの問題があるんですよねえ。

〇などと作業しながら片手間で競馬もしていたら、関谷記念が取れてしまった。馬連とワイドと三連複である。ごっつあんです。いや、この週末は柏まつりもちょこっと冷やかしに行っているので、別に仕事ばっかりしているわけではないのであります。

〇でもって明日朝は、「飯田浩司のOK! Cozy Up!」に出演いたします。おそらくは、上記のような繰り言を語ることになるのではないかと思います。


<7月28日>(月)

〇今日になって米EU関税交渉が合意に達する。完全に日米合意が下敷きになっていて、「先進国が相手の場合は、相互関税も自動車関税も15%」というのが相場になりつつある。新興国が相手の場合は20%なんでしょうな。

〇トランプさんは、既に関税交渉において「伏線回収モード」になっているようだ。まだカナダとかメキシコなど、揉めそうな相手は残っているものの、次なる標的は中国だろう。貿易赤字の金額からいっても、相手の手強さからいっても、これがラスボスである。こちらは8月12日になると、90日間の停止期間が明けてあの「3ケタ関税」が復活してしまうので、目先はそちらに全力投球ということになるだろう。

〇とまあ、こんな風に次から次へと交渉が続くということは、前の方に済ませた日本の分は滞りなく進むことを期待していいんじゃないかと思います。とりあえずは8月1日からちゃんと対米関税が15%になるということが大事で、合意を文書化するとかいう話はその先に考えればいいと思います。

〇ところで明日の「飯田浩司のOK! Cozy Up!」に登場するのは峯村健司さん。たまたま今日、峯村さんの話を聞く機会があったのですが、ムチャクチャ面白かった。こんな風に時間がたつにつれて、それまで見えていなかった景色が少しずつ見えるようになる。いや、ありがたし。


<7月29日>(火)

令和7年度版の経済財政白書が公表されました。後でゆっくり読むことにいたしましょう。昔から「経済白書」は夏の季語なんですよね。

〇日経新聞の報道は以下の通り。


●25年度経済財政白書「近年にない明るい動き」 成長型へ個人消費カギ


〇当欄の7月14日でご紹介した「GDPの分配面」の疑問を内閣府も強く意識しているようで、「個人消費の喚起が課題」と書かれている。「物価上昇により消費性向が低下している」ことくらいはすぐにわかるのだが、どうすれば打開できるのかは容易ではなさそうだ。

〇とりあえず当溜池通信としては、仮説その1「インバウンドに美味しいところを持っていかれた」と、仮説その2「お友達が減ってしまった」を強く訴えたいところです。


<7月30日>(水)

〇今月の日経新聞「私の履歴書」は魚谷雅彦氏。この欄に登場する経営者のほとんどは「一社懸命」の方でありまして、大卒で入った会社でさまざまな試練を経て、功成り名遂げて社長、会長を経て一丁上がり、という経歴がほとんどです。

〇ワシのような世代の者には、それはそれで予定調和的なサクセスストーリーを読む楽しさがあるので、別に不満はないのである。ところが魚谷氏は「転職経験あり」である。ライオン→クラフト→コカ・コーラ→資生堂である。本当はリクシルに居た時期もあるはずなのだが、その辺は「履歴書」には出てこない。

〇これから先は、魚谷氏のような経営者が登場する機会が増えるのでしょうな。何しろ転職が当たり前の時代になっているのですから。「一社懸命」はいまどき流行らない。このことは元には戻らんでしょうなあ。

〇余計なことですが、魚谷氏のように会社をどんどん替えるタイプの人を「プロ経営者」と呼ぶのは、感心しませんな。それじゃあまるで、「プロではない経営者」というものが存在するみたいじゃないですか。


<7月31日>(木)

〇本日は内外情勢調査会石川支部の仕事で金沢市へ。

〇あまり予備知識がなくて、「とりあえずは新横綱・大の里だよな」と思っていたのだが、なんと石川県出身の現役力士は大勢いるのである。そうだったのね、大の里と欧勝海はいずれも津幡町の出身だったのね。急に身近に思えてくるから不思議である。津幡町というのは富山県との県境にあって、倶利伽羅峠の決戦(木曽義仲の「火牛の計」の伝説)で歴史に名を残す場所であります。

〇で、その新横綱・大の里である。「のっけから一人横綱になったのは気の毒だった」「だからと言って、1場所で4つも金星を献上してはいかん」など、地元ではさまざまな声がありました。まあ、11勝したから、とりあえずの責任は果たしたのではないかと思いますけど。「引かなくて怒られる首相も居れば、引いて怒られる横綱も居る」というジョークが受けておりました。故郷というものは、厳しくも暖かいものでございます。

〇それから最近の石川県内の自慢と言えば、なんといっても奇跡の赤葡萄「ルビーロマン」であります。いや、こちらの写真をご覧いただくのよろしいかな。お値段はかな〜りのものであります。「どこへ行ったら買えるのか?」が話題になるなんて、いかにも今風じゃございませんか。長野県のシャインマスカットのように、大量に出回ることはないようです。

〇帰りに金沢駅の土産物売り場で、いつも通り中田屋のきんつばを買う。ふと子どもの頃に、母がよく金沢の「あんころもち」を買ってきてくれたことを思い出す。昔懐かしい袋を探してみたけれども、売っているのは金箔入りとか、派手な「あんころもち」ばかりでありました。買うのは断念しましたが、そういう記憶があること自体がとっても恵まれたことでありますな。

〇帰りの新幹線車中にて、「東洋経済オンライン〜市場深読み劇場」の締め切り原稿を書く。「米韓が関税15%で合意、クルマも同率に」という今朝の報道に対する見解は、そちらをご参照ください。土曜日の朝にはアップされますので。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki