<12月1日>(金)
○師走である。いよいよ今年も残り1か月。いろんなことがあった平成丁酉も、間もなくフィナーレの時期を迎えることになる。
○日経新聞、今月の「私の履歴書」は江夏豊の登場である。驚きましたねえ。最初の1日だけで、「ええっ!?」と驚くネタが圧縮されたように詰まっています。初日だけで1ヶ月分くらい堪能した感があります。これも今月の楽しみといえましょう。
○エコノミスト稼業にとっては、12月は書き入れ時となります。本日、発表された法人統計季報を反映し、GDP改定値が公表されるのが来週8日。そしたらヨーイドンで2018年度日本経済の見通しを作らねばなりませぬ。日本貿易会の貿易動向見通しも、間もなく公表になるはず。
○今宵はとある集まりが築地に集まってあんこう鍋で深酒。本来であればとっくの昔に取り壊されていたはずの建物が、小池都知事の優柔不断のお蔭でまだ残っている。あと1回くらいは楽しめるかも。これもまた、季節の楽しみのひとつであります。そういえばフグがまだですなあ。
○季節感を重んじるわが国においては、時間は円を描いて未来永劫に続くことになっている。この世の終わりや最後の審判は存在せず、1年が過ぎればまた新たな1年が始まる。めぐるめぐるよ時代は変わる。そしておそらくは年号も。君が代は千代に八千代にさざれ石の巌になりてこけのむすまで。
<12月2日>(土)
○東洋経済オンラインに寄稿。
●2018年の日本経済と戌年相場を考えてみよう
○「なんで競馬の話が出てくるんだ?」とよく言われるのですが、そういうページであるからこそ、書きにくいことでも書けちゃう部分があるわけでございます。
○この連載、3週間に1回まわってくるので、あっという間です。今年は15本目です。年内にあと1回ありますかね。次回はちょうど有馬記念になる予定です。
<12月3日>(日)
○あちこちで言っている話ですが、「2018年はたいした予定がなくて、2019年が大忙しの年になる」。あらためて考えてみると、こんな感じになりますな。
●2019年の予定
1月7日 天皇陛下在位30周年
4月 統一地方選挙
4月30日 天皇陛下退位
5月1日 新天皇即位
6月 憲法改正の発議
7月 参議院選挙、憲法改正の国民投票
9月 ラグビー・ワールドカップ(9/20-11/2)
10月1日 消費税が8%から10%に。軽減税率の適用始まる。
秋 即位の礼 G20首脳会議、 TICADZ
○つまりですな、2019年は千客万来の年になる。@新天皇の即位を祝う海外からの来賓、AG20の首脳、BTICADに招待されるアフリカの首脳、CラグビーW杯の観客。
○これらの予定は、たぶん全部、秋に集中する。G20はAPECと東アジアサミットにくっつけて10月か11月に予定して、開催地は東京で決まりでしょう。
○こうなるとテロ対策が大変です。特定秘密保護法とか共謀罪とか、いろいろ言われたけど、早めにやっといてよかったねえ、という気がします。まあ、その前に来年はオリンピックやサッカーW杯もあるんですけれども。
<12月4日>(月)
○月曜日には、いつも週刊東洋経済と週刊ダイヤモンド誌が発売になる。そこで両方を読み比べることになる。ちなみに日経ビジネスと週刊エコノミスト誌は読んでない(すいません)。なぜそういうことになるかというと、ワシは東洋経済オンラインで連載を持ち、週刊ダイヤモンド誌では書評を書いているので、両方に対して利益関係者だからである。
○東洋経済とダイヤモンドは、週刊文春と週刊新潮、もしくは週刊ポストと週刊現代みたいなもので、いわば競合関係である。個性も違う。東洋経済は真面目で、なにしろ会社四季報を作っている会社なので、記者の調査力には定評がある。ところが誌面づくりはダイヤモンドの方が上手いのである。テーマの選び方、図表や漫画の使い方まで実に心憎いものがある。
○今週も典型的にそういう流れであった。今週の東洋経済の特集は「駅・路線格差」。「浮かぶ駅、沈む駅」だなんて、いかにも読者の食いつきが良さそうなテーマじゃありませんか。例えば「駅の乗降人員の増減率ランキング」というデータが載っている。思わず「ふむふむ柏市は5年前に比べて4.7%増なのか」などと確認してしまいましたがな。さらには「人身事故、不審者が多い危ない駅ランキング」などというデータまである。これはもう、話題沸騰間違いなしではないのか。
○ところが今週のダイヤモンドは、さらにその上を行っている。今週のテーマは「読んだら入りたくなる 温泉ほっこり経済圏の秘密」。見た瞬間、「ズルいよ、これ!」と唸ってしまいましたな。古来、「温泉と鉄道」は雑誌が売れない時の必殺2大テーマと言われているのだが、それを経済誌ならではの視点で切り込んでいる。
○「関東温泉地&鉄道対決」とか、「熱海はなぜ大復活したか」とか、「温泉再生事業の先駆者オリックス」とか、「小田急の箱根、東武の日光を目指す!秩父の躍進を狙う西武鉄道」とか、うーん、これは気づかなかった、いや、それは俺に語らせてほしい、などと言いたくなるような記事が満載である。考えてみれば、これぞ「遊民経済学」。こういう特集が誕生すること自体に拍手を送らねばなりませぬ。
○贔屓するわけじゃないんだが、どうにも真面目な東洋経済が、いつも要領のいい週刊ダイヤモンドに出し抜かれているように見えて、「お前ら、もうちょっと上手くやれよ〜」と言いたくなるところがある。経済誌というのは部数も少ないので、読者層も限られているとは思うのですが、工夫次第で非常に面白い記事を作ることができる。今週も読みごたえ十分と申し上げたい。
<12月5日>(火)
○午後4時過ぎ、外出から帰って地下の喫茶店でコーヒーを買い、オフィスに戻ろうとする最中にiPadでAbemaTVを見たら、ちょうど渡辺竜王が投了するところであった。予想通り、早い時間の終局でした。第30期竜王戦第5局、挑戦者、羽生棋聖が3勝1敗で迎えていたので、朝からずっと気になっていたのです。場所は鹿児島県指宿市の薩摩白水館。日本将棋連盟のニュースはこちらをご参照。
○というか、昨日の封じ手の時点で既に先手、羽生棋聖がリードしているように見えました。渡辺竜王は馬を作っているのですが、いかにも「作らされた」感がありました。昨日は▲4五銀!というぶっつけに驚きましたし、今日は▲8四香、という決め手も美しかった。角換わり腰掛銀のこの戦型、今日は羽生さんにとって会心の棋譜でしょう。
○15歳でプロ棋士になって、25歳で七冠王になって、47歳で永世七冠王になる。この間、ずっと第一人者であり続ける。気が遠くなるような道のりであります。タイトル数はこれで竜王7期、名人9期、王位18期、王座24期、棋王13期、王将12期、棋聖16期。おっと、これらを全部足すと合計99期。もう1回タイトルを取ると、通算100期というこれまたすごい勲章ができあがります。
○ちなみにタイトル戦に登場した回数は133回とのことなので、99/133=74.4%の勝率となります。4回出たら3回勝っている。などなど、感心するポイントは無数にあるのですが、将棋に対する情熱や好奇心を維持し続けていることに頭が下がります。特に最近は、「プロ棋士よりも強いAI」という厄介な問題も生じて、日に日に新たになる将棋界であります。
○羽生さんは私よりもちょうど10歳若い天秤座。すごいなあ。枯れてもいないし、飽きてもいない。終盤の読みは昔ほどじゃないみたいだけど、それでも勝つ。百分の一でもいいから見習いたいです。
<12月6日>(水)
○たまたま2回続けて新人のタクシー運転手に当たった。男性と女性のドライバーであったが、面白いくらいに運転が似ていて、要するにカーナビしか見ていない。新人と分かった時点でこちらも腰を据えて、なるべく丁寧に道を説明しようとしたのだが、あんまり客との会話に応じる余裕がないみたいであった。
○・・・てな話を、その後に乗ったベテランの運転手さんにしたら、即座にひとこと。
「カーナビを使うと、道を覚えないからねえ」
○言われてみれば、ワシも同様である。カーナビを頼りにしていると、道を覚えようという努力をしなくなる。一度行った場所でも、なあに後でまたナビの記録を再生すればいいじゃん、などと思うから。ナビがなかった時代には、手元の地図と見比べながら、一生懸命ハンドルを握ったものであったが。
○もっとも10年後くらいになると、自動運転が成立するようになっていて、そもそも道を覚える必要がなくなっているかもしれない。いや、その前に運転手が不要になってしまったりして。そうだとすると、膨大な数の雇用が失われることになるのだが、果たしてそれでいいのか。
○ベテランの運転手氏、いろんなことを嘆いていた。昔はねえ、午後10時くらいから仕事を始めて朝までやったものだけれども、今はみんな終電で帰ってしまうからねえ。しょうがないから早い時間からやっているけど、それも9時間運転したら止めなきゃいけないんだよ。管理が厳しくなってねえ、などと。
○とまあ、その辺は想定の範囲内だったのだが、ちょっと驚いたのは、最近は大卒で新卒の運転手が増えているとのこと。この仕事はねえ、組織が性に合わない人が他を飛び出してやってくるところで、最初から来るもんじゃあないよと。ひょっとするとワシが乗った新人運転手たちは、みずからをコミュ障と任じている人たちだったのだろうか。
○世の中はどんどん変わっていて、タクシーの世界ももちろんそうなんです、というお話しでした。
<12月8日>(金)
○われながら怒涛の1週間である。まあ、毎年年末はそういうことになるのだけど。本日は名古屋商科大学の公開講座を務める。
○名古屋はやっぱり元気がよろしい。ボーナスシーズンの金曜夜ということもあり、駅前のタクシーの回転の良さに舌を巻く。以下はまたしてもタクシーの運転手さんとの会話から。
●名古屋は皆さん仕事に来るところなんで、「どこか観光するところない?」と聞かれると困るんですよねえ。駅の近くですと、名古屋城と徳川美術館くらいですか。個人的には犬山城をお勧めしたいんですが、あそこはタクシーだと高くつきますからねえ。「どうぞ名鉄で行ってください」と言ってます。
●駅の近くで全部用が済むので、出張の方は皆さん日帰りになります。いけねえ、今夜は泊るか、ということになるとホテルがみつからない。金曜の夜なんてアウトですよ。まして来週は大変です。ナゴヤドームで嵐のコンサートがありますから。ホテルはどこもいっぱいですよ。
●同業者が言ってましたけど、嵐のコンサートの帰りに親子連れを乗せたんだそうです。そしたら車内で「お母さま、このまま余韻に浸って帰るのはどうかしら」「あら、いいわねえ、運転手さん、このまま京都まで行っていただける?」てな会話があって、そのまま京都まで行ったそうです。売り上げは4万円だったとか。すごい世界があるんですよねえ。
○まあね、驚きませんよ。「嵐の五大ドームコンサート」は似たような話をいっぱい聞きますからねえ。てなことで、帰りは1人で新幹線の中で酒盛り。明日は「Biz
Street」に登場します。
<12月10日>(日)
○12月12日のアラバマ上院補欠選挙は、トランプ政権にとって文字通りの「負けられない戦い」になっているようだ。トランプ大統領がジェフ・セッションズ上院議員を司法長官に指名したので、その後釜を決めなければならないわけだが、その空席を占めるのは当然、共和党議員であるべきであった。アラバマ州と言えば究極のレッドステーツで文字通りのまっかっか。ここで民主党が勝つことは、野党が山口県で勝つよりも難しい、はずであった。
○ところがですな、詳しい事情はこの記事をご参照あれ。ともあれ明後日になると、こういう決戦が行われる。今のところロイ・ムーア氏が一歩リードと言われているのだが、セクハラ疑惑がガチと言われているので、その辺はまったく保証の限りではない。
●ロイ・ムーア氏(70)
共和党候補者。元州最高裁判事。11月9日、地方検事補時代に10代少女に性的関係を迫った疑惑が浮上、その後も告発が相次いだ。
●ダグ・ジョーンズ氏(63)
民主党候補者。1980年、同州で連邦検事補。その後、連邦検事や弁護士などを務める。
○今から思えば先週の「エルサレム・ショック」も、アラバマ州に多い宗教的保守派を取り込むための手段だったのではないかと思えてくる。それで中東がどうなろうが、あるいは国際社会でアメリカが非難されようが、その辺のことはお構いなし、というのがトランプ政権らしいところである。
○もっともそんなことをしていると、アメリカ外交への信認はどんどん低下してしまう。極端な話、トランプさんが去った後でも、「アメリカって信用できないよね」という評価が残るかもしれない。それはそれで困ることなのだが、今はどうにも止まらない。とりあえず、アラバマ州が天下分け目になっている、ということは日本のマスコミはあんまりつたえないので、その辺は注意した方がよろしいかと存じます。
<12月11日>(月)
○今朝はモーサテに出演。「2018年は大丈夫ですけど、2019年が問題なんですぅ〜」てなことを申し上げる。なにしろ、「改元・改憲・消費税」と「おもてなしの秋」でありますから。「今日のオマケ」も楽しい会話になっております。
○オンエアしてない状態で話が出たのは、「来年はいよいよリーマンショック10周年ですよねえ」「うわあ、懐かしい。倒産した夜に、社員が私物を取りに戻っていたんですよねえ」てなことで盛り上がっていました。「10周年で特番をやりましょう」「佐々木さんは10年前に現場から中継してましたからね」などと。まことに月日が流れるのは早いです。
○午後はみずほ総研のコンファレンスへ。東短リサーチの加藤出さん、日経の滝田洋一さんとともに、「二年目のトランプ政権と米国経済」というテーマで。あっというまの2時間でした。
○滝田さんから面白い言葉を教わりました。「中欧班列」といって、中国と欧州間の貿易が前年比ですごく伸びているんだそうです。つまりトランプさんが「アメリカファースト」をやっている間に、ユーラシア大陸を結ぶ鉄道でどんどん東西の荷動きが広がっている。これに対して、日米豪印が「インド太平洋戦略」で対抗するとなると、ものの見事に「ランドパワー対シーパワー」という地政学的な対立の構図が出来上がります。
○もっともその通りになっちゃうと、それこそ「ゼロサムゲーム」の経済ナショナリズム史観になっちゃうので、ここは強く「貿易というものはWin-Winなんでっ!」と主張しなければならない。今週後半は上海に行って「一帯一路」に関するお話をする予定なんで、これはいいことを教わった、と思った次第です。
<12月12日>(火)
○今年の漢字は「北」だったそうです。うーん、釈然としないなあ。
○ちなみに当方がここで予測した候補は以下の通り。いちおう「北」も入っているけど、やるなら去年だったなあ。
不
不透明、不確実性、不倫…ありがちだけど、ピンとこないねえ。
北
北朝鮮、北方領土、キタサンブラック…去年がチャンスでした(北海道新幹線)
希
希望の党、稀勢の里…いずれも期待を大きく裏切りましたなあ。
雨
全国各地で記録的な?…もっとも夏場だけだったという説も。
線
「一線を越えていない」、38度線など…ややマニアックか。
核
核実験、核保有…くれぐれも「言うだけ」であってほしいものです。
倫
不倫…今年はその手の話が多かったですねえ。
連 藤井四段29連勝、巨人13連敗…みんなもう忘れてる?
解
衆院解散、民進党解党、SMAP解散…これはありそう。
獣
獣医学部、けものフレンズ、パンダ誕生…これもありそう。
○もっとも我ながら「解」や「獣」は考え過ぎだったと思う。もっとフツーの予想しないと当たらないからね。ちなみに投票数は、1位の「北」以降は2位「政」、3位「不」、4位「核」、5位「新」、6位「選」、7位「乱」、8位「変」、9位「倫」、10位「暴」となったそうです。
<12月13日>(水)
○天下分け目の戦い、アラバマ州上院補欠選挙の結果が出ました。答えは「ノー・ムーア」(No Moore)。民主党のダグ・ジョーンズが勝ちました。これはもう、群馬県か山口県で反自民候補が勝つような快挙です。これで上院の議席数は「共和党51対民主党49」となることになりました。と言っても、あと2議席増やすのは大変なんですけどね。
○とりあえず以下はQuickデリバティブズコメントから。
<TECH>★アラバマ補選、敗退でもトランプ政権・共和党にはポジティブ─吉崎氏:双日総研
14:14 17/12/13 LAI3823
双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎 達彦
氏
12日に投開票が行われた米アラバマ州の上院補欠選挙で、民主党のダグ・ジョーンズ候補が勝利したと各メディアが伝えた。セクハラ被害報道が出ていた共和党のロイ・ムーア候補は破れ、これで米議会上院の議席数は共和党が51、民主党が49となって僅差となった。
ムーア氏が勝利すれば52対48で2人が造反しても大丈夫な状況だったが、総合的に考えればムーア氏が敗退したとはいえ、議会共和党としてはポジティブな影響が大きいと思う。共和党のエスタブリッシュメント議員からすれば、ムーア氏はかなり特異な人物のため、「来ても困る」という事になっていただろう。内心、ホッとしているのではないか? 今後は議会で民主党と協議していけば良いし、予算案・減税案も年内可決に向けて今回の補選を踏まえて動いていたとみられる。
最も重要だったのは、経済界や政界など各方面に広がっているセクハラ被害の問題を止めることだ。アラバマの選挙民がその判断を下したことは、トランプ大統領としても素直に負けを認めた方が得策だろう。今回の補選を経て「浄化された」という事になるのではないか?
選挙結果を受けて、スティーブン・バノン元首席戦略官・上級顧問が率いるブライトバート・ニュースは「ユニパーティ・ビクトリー」と報じていた。ムーア氏を推していた保守強硬派のバノン氏としては怒り心頭とみられ、さらに規制を強めなければと主張してくるかも知れない。トランプ氏としてはどっちの候補が勝っても困る事態だったとみられるが、強硬派の影響力が弱まれば、トータルでみても良かったねと言うことになるだろう。(取材時間:13時55分)
<12月14日>(木)
○大阪に来ている。大阪で宿泊するのはとっても久しぶり。と言っても、ホテルで年末向けの原稿を書いていたりするので、あんまり見聞を広げることはできないのだが。以下は若干の噂話など。
○この季節、御堂筋はイルミネーションに包まれる。他の都市でもやっていることとはいえ、「おっ、綺麗じゃないの」と感心する。するとタクシーの運転さん手曰く。「4〜5年前に始まった時は大変でしたわ。遠くから見に来る人がいるもんだから、梅田から御堂筋まで千円もかかってしまって、お客さんに怒られましてなあ。えらい迷惑な話ですわ」。いかにも大阪らしいボヤキである。夜11時には消してしまうそうだが、ちょっと惜しい気がする。
○大阪の景気は少し持ち直していて、それはパナソニックのお蔭だという声がある。考えてみればサンヨーといいシャープといい、電機産業には受難の季節が続きましたからなあ。最近になって「ソニーとパナソニックだけは良い」と言われるようになってきた。その理由はどこにあったかというと、「この2社は電力会社とNTTの恩恵に与かってこなかったから」。パナさんは来年3月に100周年だそうです。頑張ってくださいまし。
○以前からよく来た全日空ホテルに泊まる。クラウンプラザに買収されて、かなり勝手が変わっている。高層階にクラブフロアができて、そこに泊まると最上階のラウンジが使える。(と言うと、いかにも一泊5万円くらいしそうだが、なんのことはない1万9000円であった)。そこでラウンジに来て見ると、外の景色はとってもゴージャスでプレミアムでワンダホーである。と言っても、そこから見える高層ビルは朝日新聞や関西電力だったりするのだが。
○ついつい気分が大きくなって、「白ワイン頂戴」などと注文したところ、「700円のと1600円のがあります」と言われ、ここが大阪であることを痛感させられる。おそらくはお客様がとってもPrice
Consciousなのであろう。「ソーヴィニオンヴランとシャルドネのどちらになさいますか?」と聞かれれば、間違えて高い方を注文したかもしれないのに・・・。これではサービス業の生産性は上がらない。いいですか、生産性を上げる近道は、「手抜き」か「ぼったくり」ですよ。
○大阪はいま勝負を懸けている。来年11月のBIE総会において、2025年の万国博開催地が決まる。ゆえに今大阪市内では、いたるところで「Osaka-Kansai
EXPO2025」のロゴを見かける。対抗馬としては、フランスのパリ、ロシアのエカテリンブルク、アゼルバイジャンのバクーなどがあるらしい。「パリ対大阪や。つまりエッフェル塔対通天閣ちゅうことや。だったら、負けるはずあらへん」との声あり。
○まあ、パリは2024年の五輪も確定したことだし、ロシアは再選後のプーチンさんの任期が24年までだし、バクーは石油価格次第なんで、ここはやっぱり大阪でいいんじゃないでしょうか。そろそろ日本には「東京2020」の次の目標が必要です。勝ちたいですねえ。勝つと負けるでは大違いですので。
○仕事を終えてから関空に移動。ここから今年2回目の上海に向かいます。日中関係改善の兆しありとのことですが、果たしてどんな感じでしょうか。それでは行ってまいります。
<12月15日>(金)
○上海に来て見れば、いつもの通りである。人が多いこととか、交通渋滞とか、ワシが来るといつも天気が悪くなることなどである。冬の季節ではあるけれども、PM2.5は昔ほどひどくはないようだ。それから5月に来たときには4色くらいあったレンタルサイクルは、競争が厳しくなったせいか2色くらいに減っていた。こんな風に、しばらく見ぬ間にどんどん変化していくのが上海の流儀である。
○今回、日本から来ているのは岡崎研究所の一行である。岡崎久彦氏が亡くなられて既に3年、「それじゃあ諸葛孔明が死んだ後の三国志みたいなものじゃないか」と言われてしまうと実も蓋もないのだが、それはそれ、昔の体験を共有する残党は生き残っているので、今回は金田秀昭海将を親分にして5人で訪中している。
○中国側のカウンターパートは上海外国語大学と、上海研究所である。根回しをしてくれたのは、かつて中国における岡崎研究所の案内役を買ってくれた李春光さん。というと、2012年のスパイ事件容疑を思い出す人がいるだろうけれども、さすがに今では誤解も解けて、元気に日中関係のために働いている。あれはいったい何だったんでしょうな。
○先々月の「十九大」こと第19回共産党大会が終わってから急に、中国側の対日姿勢が軟化している。この件については、12月13日付の日本経済新聞、秋田浩之記者による「習氏豹変に透けるリスク」という記事が簡にして要を得ている。金田提督が携わってきた10年来の懸案、「日中間の紛争を防ぐためのホットライン設置」がいきなり決着することになった。
○何があったかは分かりにくいけれども、今まで何度も体験した日中対話においては、非常に珍しい「上向き機運」の会合となった。そうでなくても今年は「日中国交回復45周年」で、来年は「日中友好平和条約締結40周年」という両国関係の節目に当たる。ちなみに前者は田中派で、後者は福田派の仕事である。
○あるいは一昨日の「南京事件80周年」においては、昨日付の産経新聞でご当地の河崎真澄支局長による渾身の現地報道が掲載されている。「こんなところで中韓連携ってどうよ」という気はするが、世間一般的な評価としては「習近平氏自身が演説することは避け、温情を示した」ということになっている。
○でまあ、「一帯一路」や「歴史認識」、「海洋権益」などをテーマに、日中間でいろんな議論を展開するわけである。「北朝鮮問題」はあまり出なかった。というか、この件については日中共に熱が冷めている感あり。モンジェイン大統領が来ているとのことですが、そっちの話題もほとんどスルーされていました。
○丸一日議論をして、夜は宴会。最近の中国は宴会をあまりしなくなったのだが、今宵は古いおじさん世代が多かったせいか、近来稀に見る盛り上がりを見せる。やっぱり国際会議の最後はノミニュケーションがなくちゃあね、ということを実感する。上海蟹もちゃんと食べたし、いやもう、太ったでござりまする。まあ、いつものことなんですけどね。
<12月16日>(土)
○今回の会議に関する若干の印象を下記。
●今年の秋は韓国(9月、東京)、ロシア(10月、モスクワ)、中国(12月、上海)と3つの国際会議に出た。あまり一般化することはできないのだが、どこの国でも会議の時間は短縮傾向にあるようだ。それもそのはず、今やほぼ全員の卓上にはスマホが置いてある。会議中についつい鳴らす奴もいれば、メールチェックを始める奴もいる。電話する奴も。これじゃ集中できませんわなあ。
●もっともこれがあるからこそ、「今日の晩餐会、C先生来るの?」 「来ます、きます」 「ついでにKさんも呼んでいい?」 「ああ、いいですね。メールしてみます」 (ごそごそごそごそ) 『お誘いありがとうございます。少し遅れますが参加します、K』(と、メール到来)などという離れ業ができる。ありがたいのである。
●スマホが普及した結果、全員が一斉に写真を撮リ始める、という現象も起きている。と言っても、中国ではフェイスブックは使えないんだけどね。全員写真を撮るときはスマホがいっぱい集まってしまい、最後に「おーい、これ誰の?」てなことが起きてしまう。
●中国での会議といえばお茶がつきもの。ときどき湯飲みの蓋を開けて、お湯を注いでくれる。ところが今回の会議では、リプトン紅茶のティーパックであった。おお、これは中国社会におけるイノベーションではないか。コーヒーを出してくれたところもあったが、こちらも美味でありました。
●夜の宴会で散々、飲み食いしてホテルに帰還。すると今度はホテルのカフェで二次会をやるのであるが、ここではプーアール茶を注文してみた。小さな茶碗で、ちびちびと飲む。これまた急須にお湯を注いでくれる。飲んだ後には、これがまことに良いのである。もっともおかげで深夜にトイレに起きたりすることになるのだが。
●日中の会議にはとかく不毛な対立がある。ああまたか、と言った質問が中国側から出たとき、日本側の某参加者曰く、「お互いに国益が違い、戦略が違うのだからのだからそれは当然でしょう。お互いに違うことを前提にして、協力の可能性を探るのが『戦略的互恵関係』というものじゃあないんですか?」と。
●呆気にとられるような正論であった。もっともこの発言に対し、かみつく人が出てこなかった辺りが昨今の日中関係の気分を表しているような気もする。考えてみれば、国家間の「戦略的互恵関係」とは冷たい言葉である。他方、こうやって何度も日中対話を繰り返した結果、中国側に友人が何人もできていることを考えれば、個人レベルでは「日中友好」をやっているともいえる。これはこれで価値があると思う。
○朝9時半にホテルを出て、渋滞の道路を浦東空港に抜け、混雑の中を不当な扱いを受け、満席の中国東方航空で羽田に降り立つと、京浜東北線が事故で満員電車である。ほとんど1日がかりで自宅にたどり着くも、2時間後には町内会の「火の用心」が始まる。長い1日なのである。
<12月17日>(日)
○見てきましたですよ、『スターウォーズ[ 最後のジェダイ』を。まあ、封切りしたばかりなので、なるべくネタバレしないように以下は抽象的な感想だけを。
○スターウォーズって、初期3部作が作られた1970〜80年代の明るい時代が物語の基調を作っているんですね。エピソードW「新たな希望」を見たとき、ワシは高校生だったけれども、ルークがレイア姫を抱っこしてジャンプするシーンで憤然としたものである。「なんだよ、これは?!」と。
○当時のワシは理屈っぽくて(今も基本的にそうだが)、たとえ時代劇で「出会え出会え」と言われて出てきて、あっけなく桃太郎侍に斬り殺されるサムライその1であっても、ちゃんとした世界観を作っておくべきだ、と考えるタイプであった。悪漢は簡単に死ぬけれども、正義の味方はどれだけ撃たれても死なない。確率1万分の1みたいな偶然が何回も繰り返されて、最後はめでたしめでたしになる、というご都合主義が許せないタイプだったのである。
○ちなみにエピソードWでは、ルークを導いたオビワン・ケノービが死ぬのであるが、ジョージ・ルーカスの最初の構想ではオビワンもちゃんと生き残る予定であった。でも、それじゃあバランスが悪過ぎるでしょう。もっと殺しましょうよ。勧善懲悪もいいけれども、リアリティを維持するためには少しは味方も殺さなきゃ、とこういう思考法は今もあんまり変わってはいない。
○ところが窮地の主人公は万馬券連発で生き残り、あれよあれよという間に大逆転となり、最後はめでたしめでたしになる、というストーリーテリングは、その後はスピルバーグの『インディアナ・ジョーンズ』シリーズなどにも受け継がれ、ハリウッド映画の黄金パターンとして定着していく。今ではどれだけ無茶な設定であっても許されるようになってしまった。これはある種の堕落ともいえるが、それが時代意識というものであったのではなかったか。
○当時のアメリカはレーガン時代。ベビーブーマー世代がどっと労働市場に出てきて、なおかつ女性の社会進出も進んで、それだけの労働力供給をしっかり吸収できるくらいの経済成長があった。しかもレーガンが「悪の帝国」と呼んだソ連も崩壊しちゃうんだから、それで良かったのである。皆で明るい物語を共有することができたのだ。
○その後、ずいぶん経ってからT〜Vの3部作が作られるわけだが、あいにく21世紀のアメリカは往時ほど明るい時代ではなくなっていた。なにしろ旧ソ連じゃなくて、中国共産党やイスラム原理主義を相手にしなきゃいけない。国内的にも、無邪気にAmerican
Valueを信じることが難しい時代になった。見る人によっては、レイアがヒラリー・クリントンに見えてしまうだろう(まあ、そういう論評は誰かが書くだろうね、近いうちに)。
○おそらく従来のスターウォーズ式世界観は、今の時代には馴染まないものになりつつある。その点、スピンオフ作品として昨年に登場した『ローグ・ワン』は、オリジナルなスターウォーズファンには到底受け入れられないほど暗いトーンであった。なにしろこのワシが呆れるくらい、味方を殺してしまうのである。ところが『ローグ・ワン』は意外なくらいに好評だった。たぶん今の時代には、そっちの方が自然なのであろう。無理もないよね。
○暗い時代に、どうやって明るい物語を続けることができるのか。2017年の『最後のジェダイ』は、そういう課題に取り組んでいるように見える。主人公たちは、エピソードX『帝国の逆襲』と同じように劣勢にある。受難に次ぐ受難、犠牲に次ぐ犠牲。それでも「確率1万分の1以下の偶然」はレンチャンでやってくる。いつものスターウォーズ流なのである。
○そんな中で、昔からのファンを喜ばせるような仕掛けはあるし、昔からのファンを驚かせるような展開もある。あっと驚く映像もいっぱい用意してある。ときどき「こりゃないだろ」というシーンもあって、「これじゃ『宇宙戦艦ヤマト』みたいだな」てなところもあった。それでもこの映画は、『ブレードランナー2049』よりも挑戦している。前作までに敬意を払いつつ、観客に「どうだ、ついて来れるか?」と言っている。とりあえず「もう1回見てもいいかな」と思う。
○もっとぶっちゃけで言ってしまうと、映画館の暗闇の中であのテーマ曲が流れてくるだけで、ファンとしては幸せな気持ちになれるのである。この30年間に、何度聞いたかわからないあのテーマを。これこそがシリーズ最大の魅力の源泉なんじゃないか。シリーズもとうとうあと1作を残すのみ。2年後の年末も、きっと見てしまうだろうなあ。
<12月18日>(月)
○この数字をメモしておきましょう。
●年代別の金融資産残高を見ると、この25年間で60歳以上の保有割合が倍増し、約6割を占めている(60歳代が34.1%、70歳以上が25.4%)。
――1989年の時点では、それぞれ22.9%と9.0%(足して3割)に過ぎませんでした。まあ、当時(平成元年)はまだ平均寿命もそれほど長くはなかったのでしょう。
●わが国の個人金融資産約1700兆円のうち、60歳代以上が約6割(約1000兆円)の資産を保有している。
――恐るべき金額です。ちなみに65歳以上の人口は3460万人。仮に60歳以上人口が4000万人だとすると、単純平均で一人当たり2500万円(!)となります。
○日本の個人消費を拡大するには、この1000兆円を使ってもらうことが何よりの近道です。賃上げ3%よりもよっぽどそっちの方が効くはずです。そもそも政府の口車に乗せられて、1回こっきりの法人減税を当てにして、今後ずうーっと影響が残る賃上げを決断してしまう経営者って、アホだと思いませんか?
○それではなぜ高齢者の資金は使われないのか。その答えはここにあります。
●年金支給開始時に、最低限準備しておくべき金融資産残高(アンケート)は約2100万円。
――ときどき「老後資金は1億円は必要だ」とか言って脅かす人が居ますけど、このくらいでいいらしいです。
●60歳代の世代(二人以上の世帯、2016年)が有する平均の金融資産残高は、平均では1600万円だが、メディアン(中央値=100人中50番目の数値)では600万円に過ぎない。
――典型的な平均マジックですね。金融資産はごく一部の人がいっぱい持ってますから、こういう差が生じるわけです。
○高齢世代が持つアセットの格差はそれほど大きいということになります。まさしくトマ・ピケティの世界ですね。もっとも日本という国は、欧米や中国などとは違って「象の鼻」みたいな議論は起きていません。格差という面では、おどろくほど均質的な国であって、なおかつ相続税が高い。アメリカは今度の税制改正で、いよいよ遺産税がなくなるみたいですけど、いいんでしょうかねえ。
<12月19日>(火)
○トランプ政権のNational
Security Strategy(国家安全保障戦略)が公表されました。今日も新幹線の中でせっせと読んでましたが、こういうものって普通はExecutive
Summaryがついているものではないのか。まことに不便なり。
○とはいうものの、これは「ジャクソニアン」たるトランプ政権にふさわしい内容と見た。表題を見ているだけでもその雰囲気は出てますな。
(1)Protect the American People, the Homeland, and the American
Way of Life
(2)Promote American Prosperity
(3)Preserve Peace through Strength
(4)Advance American Influence
The Strategy in a Reginonal Context
Conclusion
○前のオバマ政権の時は、「地球温暖化が脅威」などと寝ぼけたことを言っていたわけなんで、この方がずっとNSSらしいですわな。とくに3番目に「力による平和」という項目は、いかにも共和党政権らしい。他方、4番目の「アメリカの影響力を世界に広げる」というのは悪い冗談としか思えない。トランプ政権下、アメリカのソフトパワーはどんどん失われておりますがな。
○それから最後の地域戦略では、「インド太平洋」が真っ先に来ている点が注目されますね。どうもこのNSSとは別に、外部不公開の「インド太平洋戦略」が別途作られているらしい。おそらく中国に正面から喧嘩を売るような内容になっているんでしょうな。そもそもこの手のアメリカ政府による外部公開資料を、一番熱心に読んでいるのは人民解放軍だという噂もあるわけでして。
○それにしても"Indo Pacific"という言葉は、いよいよアメリカの軍事戦略の中枢に位置するようになりました。オリジナルは安倍政権なんですけどね。日米関係史における重要な岐路といえましょう。
<12月21日>(木)
○ううむ、今年も残り少なくなってきた。さすがに仕事は峠を越したような気がしてきた。昨日まではそれさえも覚束なかったのだが。まだ締切もいくつかあるし、準備しなきゃいけないこともある。とはいえ、浮世の義理もあるし、まあ、いつもの年の瀬の光景でありますな。
○今日は世界経済評論の復刊2周年記念パーティー。今どきお堅い経済論文誌を、ネットじゃなく印刷媒体で維持しよう、というのだから、土台無茶な試みではある。それでも旧世界経済研究協会(不肖かんべえも理事を務めていた)が解散した後、ITI(国際貿易投資研究所)が引き継いでくれたわけで、本当にありがたいことである。
○今宵は文字通りの千客万来であった。雑誌を作っていくという行為は、本当に人の縁を広げることだと思う。今はあんまりお役に立てていないのだが、せめてネットで宣伝してみる次第である。
○というのは、世界経済評論にはIMPACTというネット版があって、ここには結構、面白い記事が載っているのである。例えば「相撲とモンゴル」に関するこのコラム。ははあ、例の暴力事件は、やっぱり異文化間コミュニケーションの問題なんだなあ、と痛感いたしまする。
○それにしても、相撲界の問題は関心が高いんだなあ。当家ではテレビで相撲問題が出ると、すぐにチャンネルを変えてしまうので、よく知らんのですよ。
<12月22日>(金)
○今週はいろんな人に会うたびに「来年の景気は?」と聞かれるよりも、「今週末の有馬は?」と聞かれてしまう。さすが、よく人を見ているというものだ。
○つくづく今年の有馬は難しくて面白い。本日は東洋経済オンラインの「競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」の締切日なので、何を狙うか決めなければならない。当初は今年唯一のステイゴールド産駒、レインボーラインで行こうと思っていたのだが、昨晩の時点で急きょ予定を変更。何に変えたかは、明日朝更新の拙稿をご参照ください。山崎元さん、ぐっちーさんの予想も入っています。
○財務省の予算説明会を途中で抜け出して、テレビ東京「ゆうがたサテライト」に出演。池谷キャスターにそそのかされて、ここでも有馬記念を切り口にして、「遊民経済」を語る。池谷さんは昔から有給休暇はしっかり取るし、今度の休みに何をするかにはまったく迷いがない、という日本人には珍しいタイプである。パチンコや年末ジャンボも大好き。「モーサテ」は12月28日まで仕事があったけど、「ゆうサテ」は年末年始がしっかり休める、というのが嬉しいとのこと。
○世の中にはギャンブルはまったくやらないが、年末ジャンボと有馬記念だけは買う、という人が結構いる。有馬記念は売上高で行くと世界最大のレースだが、そんなことよりも競馬が「第九」や「紅白」などと同じように、この国の年末には欠かせない行事として定着しているという点がすばらしいと思う。
○「世相馬券」などという言葉もしっかり知れ渡っていて、「今年の漢字が『北』だったから、今年はキタサンブラックなんでしょ?」なんてことを皆さんがおっしゃる。それじゃあちょっと、捻りがなさ過ぎる。さて、明後日はどうなるのか。
<12月23日>(土)
○ふと思い出すのだが、クリスマスをネタにした予言を2つしていて、どちらも外れたようだ。もっともいずれも「杞憂」に終わるという性質で、めでたいことでもある。
○ひとつはNEOについて(当欄の11月29日付ご参照)。米軍の非戦闘員退去作戦のことで、クリスマス休暇を名目にして、在韓米軍の家族や軍属が続々と韓国を離れるんじゃないかという想定である。福岡空港あたりに、続々と兵士の家族が降り立つようになったりすると、すわ北朝鮮攻撃が始まるんじゃないか、てな予測が働いて、一触即発というムードになるのではないか。もっともホントにこれをやってしまうと、いよいよ軍事オプション発動だということになり、韓国内の交通混乱などが生じるかもしれない。
○その場合、次に生じるのは「3/11東日本大震災」の後に起きたのと同じサプライチェーン問題かもしれない。何しろ韓国内は電子電機産業が多いので、部品の供給が途絶えたらややこしいことになるだろう。ひいては全世界に波及するやもしれぬ。それはさすがに躊躇した、というのが本当のところかもしれない。
○もうひとつはトランプさんの言動について。Politically
Correctness叩きの一環として、「Happy HilidaysとかSeason's
Greetingsなどと言ってごまかさないで、堂々とMerry
Christmasと言おうじゃないか」てなことを言い出すのではないかという予測である。クリスマスを祝うのは、他の信仰者に対して失礼だという配慮である。でも、イスラム教徒などの他の宗派に、そこまで忖度する必要はないだろう。NFLの国旗掲揚問題に噛みついたのと同じで、トランプ支持者の白人低所得層の共感を得るには、これはなかなかいい手じゃないかと思ったのである。
(後記→その後、12月25日になって「Merry Christmas」のツィートをガンガン流しています。やっぱりねえ)
○もっとも、「エルサレムショック」を発動した時点で、充分にその効果は発揮されてしまったようだ。トランプさんという人は、不動産王でもなければ政治家でもない。その本質は「視聴率男」である。何しろリアリティ・テレビの番組のホスト兼プロデューサーを務めて、超人気番組を10年も続けた実績がある。視聴率を稼ぐためには、番組が愛される必要はない。嫌われてもいいから、とにかく目立つことが重要である。世間の人たちは、悪口を言いながら番組を見てくれるではないか。「張本さんはあいかわらず時代遅れのことを言ってるねえ」などと。
○かくしてわれわれはこの1年間、「トランプ劇場」に魅入ってしまったのである。来年はどうなることだろう。この問題にとことん付き合ったワシとしては、そろそろ「トランプ占い」には飽きてきたというのが実感である。
<12月24日>(日)
○ということで、今年は有馬記念に敗退した不肖かんべえである。まあ、コントラリアンであるからには仕方がない。世間全体がキタサンブラックの勝利を望んでいるときに、敢えて逆らうわけであるから。強気に考えれば、来年からはキタサンブラックが居ないから、これに立ち向かって負けることがなくなる理屈である。うむ、めでたい。
○しかるに中山競馬場の正門前にある巨大なクリスマスツリーを見た時に、「今ここに居る幸せ」みたいなものを感じましたな。勝っても負けても、こうやって喜怒哀楽を感じている自分が居る。それが何よりのことでありまして、考えてみれば2010年以来、毎年欠かさず現地・中山競馬場で有馬記念に参戦している。11年と13年と16年は勝った。それ以外の年は負けている。まるで年輪のようなものである。
○ところが問題は、今年はホープフルステークスという新たなG1レースができたことで、これが12月28日に予定されている。「今年最後の有馬記念」ではなくなってしまうのだ。これはJRAとしては悪手だと思う。諸般の事情で修正は難しいのかもしれないが、2歳馬の2000mレースのG1を新たに作るのなら、せめて年明けにやってくれ。でないと落ち着かないじゃないか。
○明日は今年最後の溜池通信を発行します。年内、まだもうちょっと気が抜けません。皆さまはどうか良いクリスマスイヴをお迎えください。
<12月26日>(火)
○今月の日経新聞「私の履歴書」は江夏豊である。今日でとうとう「江夏の21球」のくだりに差し掛かった。山際淳司氏が同名のノンフィクション小説にして、人口に膾炙したプロ野球史上屈指の名シーンである。スクイズを命じられた打者・石渡に対する投球は、明日の分で掲載されるのであろう。「わざと外した」と江夏は言う。「すっぽ抜けだったのではないか」と石渡は言う。本当のところはわからない。歴史に残る、とはそういうものだ。
○これは1979年の日本シリーズにおける出来事である。この年、ワシは浪人生で、駿台予備校に通っていた。日本シリーズ最終戦は、確か大事な模試と重なっていた。これが終わったら、次は共通一次試験だよ、というタイミング。ところが広島県出身者が何人か、「今日は模試にはいかずに日本シリーズを見る」と宣言した。阿呆な奴らよのう、と思った。模試から帰って、「今日はどっちが勝ったの?」と尋ねたことを覚えている。
○1979年の夏は、甲子園では「和歌山・簑島対石川・星陵」の死闘の18回が行われている。おそらく野球というスポーツが、これほどまでに愛された頂点の年だったのではないかと思う。これらの記憶に比べれば、今やっている野球などは児戯に等しい、と言ったら失礼であろうか。
○江夏の「私の履歴書」は、年内残り5日間を残すのみ。明日掲載分は、対近鉄戦勝利を描いて終わるだろう。すなわち、あと4日分で1979年以降の残りの人生40年弱を描くことになる。人生のクライマックスから後がとっても長い。スポーツ選手という稼業の過酷さの一端が思い知らされる。
○年内は残り5日。ワシ的には今日までとっても頑張ったので、後はもう頭脳労働がない、という事実にホッとしております。あっちこっちで挨拶して、忘年会に出て、適当に流していれば終わります。それから年賀状の宛名書きも忘れちゃいけない。ホッとしたついでに「今ここに居られる幸せ」みたいなものを感じているところであります。
<12月28日>(木)
○年賀状書きが終わったので、これで年内の義理が一段落する。ああ、良かった、ホッとした。今年はACCEAという会社を使いましたが、なるほどこりゃ楽だ。WORDで作ったものをそのまま印刷してくれるんだもの。これを家で印刷すると、ものすごく面倒です。もっと昔のことを言うと、「ぷりんとごっこ」を使って印刷していた時代を考えると、まさしく隔世の感があります。
○これで宛先も印刷してしまえば楽なんだろうが、せめて宛名くらいは自分で書かなきゃという妙なこだわりがあるので、せっせと宛名書きをする。昔はワシももうちょっときれいな字を書いていたのだが、最近はてんでダメで、どんどん字が乱れて行く。まあ、ほんの150枚の苦労なんですが
○最近は年賀状業界から、どんどん撤退する人が増えている。ネットの時代に、なんという無駄なことをしておるのかと。そんな中にあって、われながら変な痩せ我慢をしておるなあ、という気もする。こういうとき、いつも諦めの悪い側に立つ性分であるらしい。止めどきを失ってズルズルと続ける、というのが得意技で、それが証拠にこの「不規則発言」もとっても長く続いている。
○明日は恒例の富山行き。北陸が大雪になるという観測もあったりして、それはちょっと困るのである。ああ、今年も残り少なくなりました。
<12月30日>(土)
○「ぶりじゃぶ」という料理、どうも邪道なんじゃないか、という気がしてならなかった。ぶりなんて、新鮮なのを生でいただければ、それに越したことはない。後は煮て良し、焼いて良し、お汁にして良しなんだけど、お湯にくぐらせて食う必要はないのではないかと。と思っていたら、ぶりしゃぶの元祖という店に連れていってもらいまして、ここで試してみるとい「なるほどね」でありました。
○もともとは京都のお客さんで、毎年ぶりを1本お買い上げになる人が居た。この人が、食べ終わった後に「頭を捨てるのがもったいない」と考えて、残り物の日本酒を鍋で煮たてて、そこに頭をぶち込んでゆでるという手法を開発したのですな。なるほど、鍋で煮たぶりの頭を箸でつつくというのは旨そうな気がする。
○ぶりを卸している富山の関係者がそれを見て、「これは試してみなければ」ということで持ち帰った。それで県内の関係者の間で、「ぶりの頭ナベ」が秘かな流行をするようになる。あるとき、そこに呼ばれた中に「魚が苦手」というお客さんが居て、「頭はちょっと…」と言って刺身のぶりを鍋にくぐらせ始めた。そこで「なんだ、これもいけるじゃない」という話になって、「ぶりしゃぶ」という料理が始まったとのこと。
○ということで、ここの店では真鍮製の鍋に日本酒一升をぶちこんで、煮立ててから火をつけてアルコールを飛ばします。まるでフグのひれ酒みたいであります。このお酒は、おちょこですくって飲ませてくれます。ちなみに出汁として、小さなこぶが入っています。この辺はいかにも富山式ですな。
○このお出汁をくぐらせたぶりの身を、ぽん酢でいただくわけでありますが、たっぷりめの大根おろしと併せるのがよろしいようです。これならいくらでも食べられます。さらにお酒も進みます。調子に乗って飲み過ぎ、食べ過ぎ、酔っぱらいました。帰ってそのまま爆睡して今朝に至ります。まことに罰当たりな夜でございました。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki