<10月1日>(月)
○沖縄県知事選挙はデニー玉城氏が大差で勝利しました。とりあえず今日のところは万歳!万歳!!でいいんだけれども、これから先の4年間をどうするつもりなんだろう。辺野古のヘリポート建設には反対し続けるんだろうが、普天間の基地はその間は動かないことになる。これは沖縄にとって損なディールだと思うのだが、それもまあ沖縄の民意が示すところだということになる。門外漢がとやかく言うべきことではありません。
○その一方で、沖縄政治はどんどんアイデンティティ・ポリティクスになっていくのかなあ、という点に若干の不安を感じるものである。沖縄の民意をそっち側に追いやったのは、「どうせ沖縄は親中・反日なのさ」式のネトウヨの心無い言説だったりするのであろう。とはいえ、沖縄に生まれていない者としては、「沖縄人の心は本土の人にはわからない」と言われたら、それはそうですよね、すいません、分かったような振りをするのは辞めます、としか言いようがない。
○およそアイデンティティ・ポリティクスの不毛さはこの点にある。ジェンダーでも人種でもLGBTでも障がい者でもなんでもいいんです。あなたは××じゃないでしょ、と言われた瞬間に心は通じ合わなくなる。結果として運動の味方が広がらなくなる。逆に、あなたは○○でしょ、なぜわれわれの味方をしないのよ、と言われてしまうと逆らいにくい。でも、嫌なものは嫌ですよね。結果としてアイデンティティ・ポリティクスは社会を引き裂いてしまうのです。
○その先端を行くのがアメリカ政治でありまして、あっちは「反ポリティカル・コレクトネス」という政治勢力を生み出してしまった。だからトランプさんがのさばっているわけであります。お前たち、アイデンティティ・ポリティクスには辟易してるだろ〜。俺はそんなもの全然気にしないぜ。イェイ!弱者どものことなんて俺たちは知らないぜ!という言辞に魅力を感じる人が、それだけ増えてしまったということです。
○ちなみに先日聞いた話ですが、全米各地で繰り広げられている「トランプラリー」というのは、始まるまでとっても長い時間待たされるんだそうです。その間、トランプ支持者たちは2時間でも3時間でも立ったままでじっと待っている。その熱気、日本政治にはまったく想像もつかないレベルのものであるらしい。まあ、アメリカ人というのは、今日のパンよりも己の主義主張に生きる人たちが常に一定数いる社会なのでありますけどね。
○その点、日本社会というのは、古来、政治は計算高い人たちのモノであったのです。イデオロギーなんぞで飯は食えない。明日の百両よりも今日の百文、現世ご利益を求めずしてどうする、いう人たちがこの国の政治文化を築いてきた。利権だとか、しがらみだとか、利益誘導だとか、そんなのは所詮は恵まれた人たちの言い草だろう・・・・というのは、それはそれで健全な発想だと思うのです。
○察するに今の沖縄は景気が良い。だから政治には余裕がある。選択の余地がある。だからアイデンティティ・ポリティクスに走ってもいい。なにしろ観光客数がハワイを超えてしまったのである。観光だけで食えるんだったら、米軍基地なんて要りませんわなあ。もっとも軍用地主さんたちは、この状態を秘かに憂えていると思うのですけど。
○沖縄とまったく同じ現象が起きているのが大阪である。大阪も2008年から2012年くらいの間は、とにかく「このままじゃ大阪は地盤沈下する!」という危機意識が旺盛であった。大阪の財界人に会えば、たちまち「大阪嘆き節、東京恨み節」が始まったものである。だからこそ、当時は「大阪維新の会」の勢力が伸びたのであろう。「このままじゃアカン!はしもっちゃん、改革をやってくれ!」という民意がふつふつと沸いていた。
○それが景色が変わったのは2014年くらいである。たぶんUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に、ハリーポッターのアトラクションができた頃が境目である。今の大阪はハッキリ言って景気がいい。それもインバウンドのお蔭である。賭けてもいいが、維新の会はこれから没落するだろう。だって「身を切る改革」なんて必要なくなったんだもの。
○沖縄も大阪も、基本よそ者に対して優しい土地である。これはわが国の風土としては稀有なことである。だからこそ、外国人に愛されるのでありましょう。沖縄も大阪も、そのことによる利益を享受しつつある。それは結構なことでありまして、他の土地の人にとやかく言われるべき問題ではありません。
○ともあれ、日本政治とはこれまでは無縁だと思われていた「アイデンティティ・ポリティクス」。ちょっとずつ浸透しつつあるのかもしれません。今月23日は「明治維新150周年」ですけれども、これを東北では「戊辰の駅150周年」と呼び、北海道では「北海道命名150周年」と呼ぶ。そういうことで対立軸を作ることって、あんまり意味ないと思うんですけどねえ。まあ、それも民意とあれば仕方ありません。
<10月2日>(火)
○新装なったモーサテに出演。昨日はパックンが出ていて、明日は長友佑都がヨガを演じるという。うーむ。いろいろと攻めてますねえ。
○不肖かんべえが務めた本日の「プロの眼」は「日米首脳会談の裏側を読む」でした。「日米貿易摩擦は、少なくとも年内は心配ご無用」という内容で、特に自動車関係がお咎めなしになったというのは、それなりに大きなニュースではないかと思います。これまで、自動車株はずいぶん売られていましたしね。
○新しく始まった「モーサテQ」(クイズ)はなかなかに難しい。昨日はいきなり始まったので、自分が参加するどころではありませんでした。今日はスタジオで2問とも受け止めて、いちおう当たりでした。番組への参加者は、昨日に比べるとかなり増えたのだそうです。しかしなかなかの難問でしたなあ。どうやら日経の記者が腕によりをかけて問題を作っているらしい。明日には100ポイントゲットの人が誕生すると思いますが、どうぞ頑張ってください。
○「今日の経済視点」は「内閣改造」としました。麻生・菅・河野・世耕・茂木など、主要閣僚が軒並み留任なので、ちょっとはサプライズ人事を入れないと、とっても低い支持率の内閣ができますよ〜と申し上げたのですが、残念ながら工夫の跡があまり見られませんでした。安倍さんとしても、今回の内閣には深い愛情がないのかもしれません。まあ、柴山さんをちゃんと使ったというくらいでしょうか。
○なにしろ第4次安倍改造内閣は、予想された通りの在庫一掃型で初入閣が12人もいる。これから先の楽しみは、新任閣僚の「勘違い」や「舞い上がり」発言でしょうねえ。メディア側からは、いろいろ攻め方があって面白そうです。やっぱり狙い目は唯一の女性閣僚でしょうか。
<10月3日>(水)
○韓国大使館のレセプションへ。さすがは日韓関係、すごい人でした。しかもいろんな分野の人が来ている。まあ、そうか、ワシが呼ばれるくらいだし。
○韓国の駐日大使が挨拶で、今年に入ってからの南北関係の進展ぶりを熱っぽく語っていたのは当然として、「1日も早い日朝会談の実現を」と言ったのには少し驚きましたな。ただし、その場にかけつけた河野太郎外相が語ったのは、あくまでも「日韓関係の改善」と「朝鮮半島の非核化」でした。そりゃそうですよね。
○北朝鮮との間では、過去に何度も武力衝突まであったわけですから、韓国が前のめりになるのは当然でしょう。とはいうものの、日本から見ているとまことに危なっかしい、願わくば、フライングで金正恩にノーベル平和賞を与えたりしないでいただきたいものです。あと1年くらい様子を見てからでも、全然遅くはないのですから。ましてドナルド・トランプ氏の場合は・・・。
○ところで今年のノーベル平和賞の候補に、「#MeToo」運動が挙げられているらしいですね。そういえば去年は「ICAN」(核兵器廃絶国際キャンペーン)でしたから、アイキャン、ミーツ―、というとゴロが善かったりして。でも、近年のノーベル平和賞って、ホントに疑問を感じるものばっかりですなあ。
○アメリカ最高裁でカバノー判事の承認が揉めているさなかにこんなのが来ると、ますます火に油を注ぐ一手となりそうです。今週のThe
Economist誌が、カバーストーリーでこの問題を取り上げているのですが、非常に真摯な内容なので、本日、抄訳を作っていてどっと疲れました。こういう問題、ワシ的にはあまり深入りしたくないものです。
<10月5日>(金)
○ハッと気がついたら、明日は大阪経済大学での講義の日。いちおうの準備は済んでおりますが、明日は日帰りで大阪へ行かねばなりませぬ。そこへ西日本では、台風25号が来ているではありませぬか。
○どうやらこのページによると、気象警報(特別警報もしくは暴風警報)のときは、休講にしなければならないそうです。なんと、今の大学はそんなことまで事前に決まっているのか。これでは明日、ワシが大阪まで行って休講になった場合は、新幹線料金は払ってもらえるのだろうか。
○とまあ、そんなケチなことは考えるべきではあるまい。台風の中でも来てくれる学生が1人でも居れば、ちゃんと授業を務める所存でありますぞ。と言っても、大学の定めによれば「授業・試験の途中で発令された場合は、その時点で授業・試験を打ち切り」なんだそうです。詰まらぬ世の中よのう。
○ちなみに講義名は「現代日本経済特論」、明日のテーマは「世界貿易の構造変化と日本経済の課題を考える」であります。
<10月6日>(土)
○本日は大阪日帰り。数えてみたら、今年は大阪出張4回目である。それ以外にも名古屋が2往復で、神戸が1往復。なおかつ、今月はあと2回大阪に来る予定である。ほとんどもう東海道新幹線の達人ですな。
○今朝の新幹線はほとんど満席。三連休、お出かけの人が多いようで、家族連れも多い。台風が来ているというのに、朝の東京駅はすごい混雑でした。本日はグランスタで、めずらしくサラダっぽい弁当をセレクト。
○帰りは新幹線の時間まで、新大阪駅の「ぼてじゅう」で「究極の豚玉」。広島風もヘルシーでいい感じですが、関西風のこってりしたお好み焼きはビールによく合います。
○で、少しいい機嫌になったところで改札をくぐってホームに入ったら、あれれれ、ワシの電車が来ないではないか。鉄壁のはずの新幹線の時刻表に何かが起きている。そういえば周囲も何か不穏なムードである。
○がーん、西日本が台風上陸で、山陽新幹線が遅れているのです。ワシの電車は広島発なので、75分の遅れなのだとか。そうかっ!新大阪駅始発の電車を買っておけば、こんな目に遭わなくてすんだのかっ!と気づいてももう遅い。いったんホームを出て切符を替えてもらおうとするも、みどりの窓口は既に長蛇の列である。改札をくぐる前に気がつけば、機械で切符の交換ができたのに・・・・。
○ということで、帰りも満席の新幹線。自由席はもちろん、デッキにも人が溢れている。新幹線の達人への道は遠いのでありました。
<10月7日>(日)
○カバノー判事が上院で50対48で承認されました。いやー、やっちゃいましたね。トランプ大統領がいつもチェックしている「ラスムッセン」では、10月5日時点のTotal
Approveが51%に達しています。Strongly Approveも38%と久々見たことがない水準に達しています。本件で火がついたのはむしろ共和党支持者の方であったようです。
○50対48という票差にはいろんなドラマがありました。
●今期で引退する共和党議員、ジェフ・フレーク(アリゾナ州選出)は迷った挙句、賛成へ。カバノー判事への疑念は尽きず、「FBIの調査を」と言い出した本人でしたが、調査結果に満足したとのこと。
●共和党穏健派のスーザン・コリンズ(メイン州選出)は、長い演説をした末に賛成へ。ただし2020年の改選期には苦労するでしょう。「誰でもいいからメイン州の民主党候補」のための献金が既に始まっているそうです。
●共和党穏健派のリサ・マコウスキー(アラスカ州選出)は、当初は反対と言っていたのですが、最終的には棄権。彼女は2022年が再選なので、その時までには共和党支持者は忘れてくれていることでしょう。
●民主党の上院議員、ジョー・マンチン(ウェスト・バージニア州選出)は賛成。日本式に言えば「造反」となりますが、来月の厳しい中間選挙を乗り切るためにはやむなしでしょう。なにしろトランプ人気が高い州なので。
●共和党の上院議員、スティーブ・デインズ(モンタナ州選出)は、カバノー支持でしたが欠席。理由は「娘さんの結婚式のため」。まあ、あんたが居なくても結果に変わりはないからね、ということで。
○偉いなあ、と思うのは、こういうときに日本風の「同調圧力」がないこと。いや、もちろん本当はあるはずなのだけれども、表向きは皆さんが「ない」振りをしている。上院議員って、そういう存在なんですよね。アメリカには日本のような党議拘束がない、というのは一見、気楽なように見えて、むしろよっぽどキツイことなんじゃないかと思います。
<10月8日>(月)
○お誕生日に買ったもの。新しいビジネスシューズ、鞄、ジーンズ。またひとつ年を取りました。たくさんのお祝いメッセージに御礼申し上げます。
<10月9日>(火)
○わが阪神タイガースはとうとう最下位である。実に17年ぶりのことである。しかも今宵は、CS進出の懸った巨人を相手に甲子園球場で9対4である。これで暴動も起きないし、チームで内紛も起きないし、金本監督は続投だと今朝のデイリースポーツが書いていた。そんなことでいいのだろうか。タイガースファンというものは、もっと熱いものだったんと違うんか。
○最近の大阪はちょっとぬるいような気がする。いくらインバウンドで景気がいいからと言って、道頓堀が外国人で埋まっているからと言って、おカネを一杯落としていってくれるからと言って、「地盤沈下」も「一極集中」も「身を切る改革」も「大阪維新」もどこかへ行ってしまった。いや、別にはしもっちゃんがどうなってもワシャ知らんが、今じゃタイガースファンは関東の方が熱いんじゃないだろうか。
○いや、別にワシも阪神の内紛を期待してるわけではない。なんかこう、普通の球団になったんじゃないか、いやもっと言うと「巨人みたいなチームになったよなあ」と思うのが辛いのである。え?二軍は優勝ですって? だったらその若手をちゃんと使わんかい! いつまでも福留と糸井に頼れるわけじゃないんだから。鳥谷は衰えが目立つし、藤浪はおかしくなっちゃうし。なんかこう来季への希望が見えてこないじゃないですか。
○タイガースの選手が不甲斐ないのは慣れているけれども、ファンが燃えていないというのは慣れない事態である。いや、きっと阪神のことだから、きっとこれからストーブリーグを温めてくれるものと信じたい。
<10月10日>(水)
○成人病検診へ。去年より体重が2キロ減って、お腹周りも2センチ縮まって、体脂肪率も2%減っているのがうれしい。やはり地道な努力は裏切らないのだ。ところがお医者さんからは、血圧とコレステロール値を責められてしまうのであった。どちらも自覚症状がないですからねえ。
○それにしても人間ドックというやつ、病院側はワシが3年前にピロリ菌治療を受けたとか、心臓の再検査を受けて無罪放免になったこととか、血管年齢検査を過去に何度か受けたことなど、紙でしか記録が残っていないのにはちょっと驚いた。今どきそれはないだろう。というか、そういう情報は自分でキチンと管理しなければいけないわけで、それこそ自己責任の世界というものである。
○当たり前の話であるが、今の身体に代わりはないので、なるべく感謝して大事に使っていくしかない。できれば薬など使わずに、数値を良くしていきたいものである。
○検診の最中に、たまたま待合室に置いてあった『神の滴』(→訂正!これは『神の雫』の誤りです。失礼いたしました)の1巻を読み出したらこれがとても面白い。古いマンガなのだけれども、これは嵌りますな。さて、続きをどうやって読んだものか。しばし検討中。
<10月11日>(木)
○本日は東京税関の「税関大学」にて講師を務める。テーマは「米国の対外政策と日米関係」。まあ、いつもと似たようなトランプ話をしているのであるが、相手は貿易の最前線に居るプロフェッショナルの職員の皆さまである。果たしてご満足いただけたましたかどうか。
○以下はいかにも「モーサテクイズ」で使えそうな歯ごたえのあるネタばかりである。
●東京税関の所在地は江東区青梅2-7-11にある東京港湾合同庁舎である。ゆりかもめの最寄駅は「テレコムセンター」である。
――ゆりかもめは豊洲市場がオープンしてから、人の流れがすっかり変わったそうです。一度、行ってみなければなりませんな。
●東京税関が管轄するのは、東京都・埼玉県・山梨県・群馬県・新潟県・山形県である。羽田空港や成田空港、新潟港や酒田港に支所が置かれている。
――えっ、それだったら千葉県はどこに所属するの?というと、これは横浜税関の管内なのである。こちらには神奈川県・千葉県・栃木県・茨城県・福島県・宮城県が所属している。それより北の道県は函館税関の所管となる。
――ちなみにそれ以外は、名古屋税関、大阪税関、神戸税関、門司税関、長崎税関、沖縄地区税関となる。いやー、日本で初めて開港したのは、函館(箱館)と神奈川(横浜)と長崎ですからねえ。つくづく税関は歴史が古いのだ。
●全国の輸出入取扱い量は、もちろん東京税関がナンバーワンなのであるが、輸出額の第1位は名古屋港である(11.7兆円、15.0%=2017年実績)。いやあ、やっぱりこの国はトヨタさまさまなのであります。
――以下、輸出の2位は成田空港の11兆1679億円、14.3%)。3位横浜港(7.2兆円、9.2%)、4位東京港(5.9兆円、7.5%)、5位関西空港(5.6兆円、7.2%)と続きます。
――さらに輸入は第1位が成田空港(12.2兆円、16.2%)、第2位東京港(11.7兆円、15.5%)、第3位名古屋港(4.9兆円、6.5%)、第4位大阪港(4.8兆円、6.3%)、第5位横浜港(4.1兆円、5.5%)と続きます。
――1995年に震災があったからとはいえ、神戸港はすっかり地盤沈下したんですねえ。
――成田空港や関西空港が頑張っている割には、羽田空港はたいしたことないっす。輸出が4588億円(29位、0.6%)、輸入が8531億円(20位、1.1%)。いやあ、生データって面白いですなあ。
●税関で徴収される税金の総額は約8兆円。わが国の国税収入の1割を超えます。
――えっ?わが国の関税歳入は1兆円程度じゃなかったの?と思ったら、そうだった、消費税があるんですよねえ。わが国の輸入総額に8%を掛けると、だいたいそれくらいの額になりますね。
――ちなみに輸出は消費税は非課税であります。基本です。
○元ネタをご覧になりたい方はこちらをどうぞ。一般向けに、税関の活動を紹介している「情報ひろば」もあります。面白そうだと思った方はぜひこちらまで。
<10月12日>(金)
○本日は新潮社主催の小林秀雄賞、新潮ドキュメント賞の贈呈式及び祝賀パーティー。古川勝久さんの「北朝鮮 核の資金源」が受賞されたので、まずはめでたい。時節柄、「新潮45」の休刊問題があるので、いろいろ微妙な時期かなあとは思ったのですが、そんなには荒れませんでしたな。何よりであります。
○以下は会場でいろいろ飛び交った会話から。
○アメリカの某有名学者の本が翻訳されて、新潮社から出版された。そしたら校閲で誤りが一杯発見された。そうはいっても、原作はアメリカで多くの同僚の学者たちからピア・レビューを受けた作品である。そこで見過ごされていた誤りが、日本の編集者の手にかかると見つかってしまう。さもありなん、であります。
○校閲というのは、とっても地味な仕事であります。なおかつ常に匿名なので、自分がやったという証拠が残らない。それでも日本には職人肌の編集者集団が居て、ときにはアカデミズムを超えるような仕事をしてくれる。こういうところが日本社会の良さでありますな。この国の競争力は、匿名で働く人々の中にある。
○だから物書きになりたい人たちに申し上げたい。本を出すなら新潮社。鍛えられ方が他所とは違います。実を言うと、「講談社もいいよ」とおっしゃる方もいるのでありますが、あたしゃ音羽グループはあんまりお付き合いがないので、そっちはよく分からんのですけどね。
○もうひとつ。雑誌の編集について。どこまでが洒落で済んで、どこから先は洒落にならなくなるかの境目は微妙なものがある。そこをギリギリのところで遊んでみせるのが良い編集者だし、そういう雑誌は面白くなる。この辺は門外不出のレシピみたいな世界なのだが、その技を伝承することは容易なことではない。ときには今回の「新潮45」みたいなことが起きる。
○しかも世の中、読者の中には主義主張で凝り固まった人が多くなっている。いわゆるネトウヨとかパヨクと呼ばれる手合いである。彼らは自分の頭でモノを考えるのではなく、他人の尻馬に乗って騒ぐことで、自分が何か善いことををしているような気になりたいと思っている。つまりは、洒落のわからない野暮なお客が多くなったということである。
○そういう時代に、老舗の名店を続けていくことは難しい。と言っても、それがなくなっちゃうと料理人が育たない。野暮なお客を上手に避けながら、何とかいいお客を集めていくしかないのでありましょう。
<10月13日>(土)
○今週も大阪経済大学の講義で大阪へ。今週は変化を求めて、羽田空港から伊丹空港へ飛行機を使ってみました。金額的にはほとんど同じです。今日はANAを使いましたが、往復で2万9080円(特割料金)でした。ちなみに新幹線のぞみの指定席料金は、2万8900円です。
○問題は東京駅から羽田空港までの移動と、伊丹空港から新大阪駅までの移動をどう考えるかですね。この間の電車賃が高いのと、乗り換えがあったりするので、時間的にも金銭的にも少し新幹線に分があるかな、という感じです。しかし伊丹空港は定時運行に定評のあるところですし、モノレールができたことで市内へのアクセスも良くなったので、特にご自宅が空港に近い人には非常に便利でしょう。
○1980年代にはまだ新幹線「のぞみ」がなくて、東京ー新大阪間は3時間10分でした。だから飛行機と新幹線はいい勝負でしたね。大阪出張のときはどちらを使うか、真面目に考えたものです。そもそもJRは1987年までは悪名高き「国鉄」でありましたし。それじゃあ1985年の日航機墜落事件の影響はなかったのかというと、これがどうにもキレイさっぱり記憶にない。たぶん全然気にしなかったんじゃないかと思います。
○伊丹空港といえば、以前は廃止するかどうかが問題になっていました。確かに関西に関空と神戸と伊丹と空港が3つあるのは、多過ぎるように見える。でも世界的に人が大勢移動する時代が到来しているのですから、空港はたくさんある方が便利でいいでしょう。幸いなことに、昔に比べると今の飛行機は騒音が少ないし。伊丹も滑走路が長いんですから、もっと国際便を飛ばせばいいのにね。
○それにしても、新幹線を飛行機に換えてみただけで、ずいぶん雰囲気が違うものです。そりゃあやっぱり普通は新幹線ですけど、たまにはいいかな、という感じです。
<10月15日>(月)
○来年10月から消費税を10%に増税することを、わざわざ今日、臨時閣議を開いて決定する理由って、いったい何なんでしょうねえ。ちゃんと法律に書いてあるのだから、黙っていても不都合はなかったと思うのですが。
○ひとつ考えられるのは、1年後には軽減税率を導入しなければならないのに、民間で「どうせまた延期になるだろうから、ほっとけばいいや」と準備が全然進んでいないので、「そろそろ本気なところを見せてやるか」という理由。
○ふたつ目にありそうなのは、もっと嫌な話があって、そっちは後から出したいという事情がある場合。今のうちなら株価が下げても理由がわからないし、「今のうち」という理由。
○3つ目に考えられるのは、なるべく早く言明しておく方が、先になれば皆が忘れてくれるので、来年の統一地方選と参院選を考えるとその方が得策だという判断。
○4つ目に考えられるのは、こうやって「上げますよ」と言っておいてから、1年後に「やっぱり止めます」と言う方が有難味があるんじゃないかという思惑で、これはさすがに考え過ぎだろう。
○5つ目にこれかなと思うのは、災害対策などの補正予算を組む過程では、どうしても来年の消費増税に言及せざるを得ないので、だったらここでハッキリさせておこう、という考えから。
○とまあ、こんな話になってしまうのも、過去に2回も延期したからでありまして、「2度あることは3度ある」と誰もが思う。今日の株式市場の反応を見ても、「安倍さんは本当は消費税を上げたくないはずだ!」という思い込みが強かった反動が出ている感じですね。
○結論として、「ここまで言い切ったからには必ず上げる」けど、「それでも土壇場で延期する可能性はある」。だったら昨日までと特に変わりはない。まあ、それでも軽減税率の準備はちゃんと始めた方がよさそうです。
<10月16日>(火)
○『チャイナ・エコノミー』の著者、アーサー・クローバー氏が訪日中である。でもって、邦訳を出した白桃書房さんが面談をセットしてくれたので、お話を聞いてきた。
○何しろ北京在住20年以上というアメリカ人チャイナウォッチャーなので、現在の緊張をはらんだ米朝関係を語るとむちゃくちゃ分析が面白い。「中国の内情も分かりにくいのだが、さらに難しいのがワシントンの内情」なのだそうだ。なるほど、そうかもしれませんねえ。
○10月4日のペンス副大統領の演説は、これまでの「米朝貿易戦争」を、「米中新冷戦」に格上げしてしまった感がある。これはトランプという「経済ナショナリスト」に、マティス国防長官などの「防衛タカ派(Defense
Hawk)」、さらにライトハイザー代表などの「通商戦士(Trade
Warrior)」が加わった連合軍なので、なかなかに強固だというのが見立てであった。
○この3つの勢力に、ペンス副大統領のような「宗教的右派(Religious
Right)」を加えてもいいのではないかと思う。つまり中国叩きについては、皆の意見が見事に一致してしまうのである。つまり今の状況は、トランプさんだけのせいにしてはいけない。ビジネス界も沈黙しちゃっているしねえ。
○今宵は1人では少々心細かったので、中国経済の専門家である津上俊哉さんに助っ人をお願いしました。最後は白桃書房のTさんと四人で、お酒も入って盛り上がったのでありますが、困ったことに家に帰りついたら何がどう面白かったのか、あんまり再現できなくて困っている。最近はホントこういうことが増えました。とほほ。
<10月17日>(水)
○10月4日にペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説の全文を改めて読んでみると、全編これ中国叩きの内容である。普通、政策として発表するからには、「だからこうやって懲らしめてやる」「こんな風にしたら許してやる」といった解決策が書かれているものだが、そういう建設的なトーンではない。
○逆に中国の罪状としては、まことにいろんなものが取り上げられている。以下の部分などはちょっと面白い。今のホワイトハウスはこういうことも問題にする、というのも面白いが、普通の人が聞けば「中国ってこんなことまでやってたのか」と呆れるだろう。
And Beijing routinely demands that
Hollywood portray China in a strictly positive light. It punishes
studios and producers that don’t. Beijing’s censors are quick
to edit or outlaw movies that criticize China, even in minor
ways. For the movie, “World War Z,” they had to cut the
script’s mention of a virus because it originated in China. The
movie, “Red Dawn” was digitally edited to make the villains
North Korean, not Chinese.
○つまり彼らは、ハリウッドのスタジオやプロデューサーに圧力をかけて、「中国を善く描くよう」に要求している。「世界戦争Z」という映画では、中国が原産のウイルス、という設定を変えさせられたし、「レッドドーン」という映画ではデジタル処理を施して、犯人役を中国人から北朝鮮人に変えさせられた、というのである。
○そんなことを言い出したら、ドイツなんて可哀そうですよ。ハリウッド映画ではいつも悪者にされてますからね。戦争映画だけじゃないですよ。『ダイハード』シリーズなんか、意味もなく犯人がいつもドイツ系で、「ハンス」なんて名前になってますから。ドイツ国内で上映した時には、吹き替えで名前を変えたという話を聞いたことがあります。
○それにしても映画の筋書きに文句を言う、なんてのはモンスター・クレイマーもいいところ。こういう「シャープパワー」は、ばれた時がとってもみっともないのであります。中国共産党という組織はつくづく「忖度」が好きなんでしょうね。
○ちなみに、民間企業のホームページに「台湾」という記載があるのは怪しからん、というイチャモンは、日本企業が受けることにはとっくに慣れっこになっているのですが、デルタ航空に対してそれをやったのは拙かったみたいですね。ペンス演説は、この手の「中国あるある」エピソードの宝庫となっています。
<10月19日>(金)
○サウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の失踪事件が大問題になっている。サウジは来週、「砂漠のダボス会議」を自国で開く予定であったが、世界各国のVIPから「ドタキャン」が相次いでいる。この調子で行くと、有名人でサウジを訪れるのはソフトバンクの孫正義氏くらいかもしれない。まあ、ビジョン・ファンドがあるから、孫さんとしてもさすがに欠席はできませんわなあ。
○カショギ氏はトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館に入ったところで行方不明となった。どうやら殺害されたのではないかと言われている。指図したのは、カショギ氏と対立していたMBSことモハメド・ビン・サルマン皇太子ではないかというのがもっぱらの噂である。
○このMBS皇太子、以前から若い頃の小沢一郎氏とイメージが重なって仕方がない。その心は、@若き改革派で、A庇護者の信頼をいいことに辣腕をふるい、B外国人の受けも良いのだが、C実は古い体質の政治家で、D保険が懸っていないギャンブルをやらかすという悪い癖がある。イエメンに軍事介入するとか、イランやカタールと国交断交するとか、いやもう危なっかしくて見ていられない。
○案の定、国内改革は女性の運転免許を認めたことくらいで、アラムコの株式上場はできないようだし、国内の政敵をバンバン逮捕するなどとってもきな臭い。しかるにサルマン国王はとっくの昔に認知症になっているとのことで、もはやMBSを止められるものは存在しない。このまま行くと、サウジ王家自体が危ういのかもしれない。
○その昔、サウジアラビア大使を務めた岡崎久彦氏が、@自民党の一党支配と、Aソ連共産党体制と、Bサウジ王家の中でどれが一番長く続くかといえば、当然サウジだと言っていた。それは1980年代後半の話だったので、さすがに21世紀ともなるとそれが危うくなってくる。
○他方、トランプ大統領としては、イスラエルとサウジを味方につけて、イランをとことんいじめ倒すという中東政策が危うくなってくる。本件に関しては、あのトランプさんが「カショギ氏は死亡した可能性が高い」とか、「その結果は重大なものになる」とか、「ただし我々は状況を見守る」などと生ぬるいことを言っている。らしくないよねえ。
○この先がどうなるのか、中東に不案内な不肖かんべえの見通せる世界では到底ございませぬが、小沢一郎氏がやることは多くの人の期待を集めるけれども、最後はすべて裏切ってしまうと考えておくと間違いないような気がしておりまする。いや、ただの印象論なのですが。
<10月20日>(土)
○アメリカの選挙が近づくと、毎朝このページをチェックするのが習慣となりますが、ここ2週間の流れははっきり「上院は共和党優勢」ですね。Toss
Upと見られている州をチェックしてみましょう。
●民主党はND(ノースダコタ)の現有議席を落としそうである。クックポリティカルレポートでは、この州を"Lean
Republican"に変更しました。
●民主党現職がいるMO(ミズーリ)とFL(フロリダ)も横一線。流れから言うと、共和党に勢いが出てきている感じです。
●空白区では、AZ(アリゾナ)とTN(テネシー)が共和党に傾いてきました。とくにテネシーは「テイラー・スウィフト効果」がどう出るかが注目です。
●共和党現職がいるNV(ネバダ)は逃げ切りか。TX(テキサス)のテッド・クルーズはさすがに盛り返してきました。
●民主党はIN(インディアナ)とMT(モンタナ)の議席は何とか守りそう。五大湖沿岸州もほぼブルーで固めています。
○こうしてみると、上記9つの激戦区のうち、下手をすると共和党が7つ勝っちゃうかもしれません。これは予想外の展開です。
○理由は簡単で、ブレット・カバノー判事の承認問題があったので、「とにかく上院の優位を守らなければならない」と共和党支持者が目覚めちゃったってことですね。つまり次に最高裁判事の交代があったときに、いくらトランプ大統領が保守派の候補者を指名しても、民主党優位の上院が承認してくれなかったら意味ないのです。だったら下院はともかく、上院は絶対に譲れない、という結論になる。
○カバノー判事の問題は民主党支持者の怒りに火を点けましたが、こちらはもともと中間選挙に熱意があった。共和党支持者はあんまりその気じゃなかったのだけれども、ここへきて急に真剣味を増してきた。この場合、後者の方に勢いが出てくる。選挙って面白いねえ。
<10月21日>(日)
○ついでに下院の状況も見ておきましょう。これもクックポリティカルレポートの10月17日公表分から。
●Solid D 182
●Solid R 145
●Likely/Lean D 10
●Likely/Lean R 49
●Toss Up Or Worse D-3
●Toss Up Or Worse R-46
○つまり435議席のうち、民主党が182+10=192議席を固め、過半数の218まであと26議席ということになる。ところがよくよく情勢を見ると、共和党の4議席がLikely
Democratic、12議席がLean Democraticになっているではありませんか。つまり民主党は、既に208議席にリーチをかけていることになる。あと10議席で逆転です。
○ということは、Toss Upの31議席(うち民主党現職は1つだけで、残りは全部共和党!)のうち、半分を取れば楽々過半数クリアとなります。でも、そんなに大差にはならない感じですね。
○もうひとつ、RCPのデータも見ておきましょう。
●Democrats 205
●Toss Ups 32
●Republicans 198
○全体にそんなに違いはありませんな。ちなみにToss
Upsの32議席はほとんどが共和党。内訳は以下の通りです。
CA10 CA25 CA39 CA45 CA48 FL15 FL26 FL27 IA3 IL6 IL12 IL14 KS2 KY6
ME2 MI8 MI11 NC9 NC13 NJ3 NJ7 NM2 NV3 NY19 NY22 PA1 TX7 TX32 UT4
VA5 VA7 WA8
○カリフォルニアで5つ、フロリダで3つ、イリノイで3つなどが目立ちます。どうも今回の中間選挙では、「ブルーステーツでしぶとく生き残ってきた共和党議席」が根こそぎ民主党に取られることになるのかもしれません。上院では逆に、「レッドステーツの民主党議席」が危うくなっているわけで、アメリカはどんどん「レッドとブルー」に分かれつつあるあるように思われます。
<10月22日>(月)
○本日はさいとう健前農水大臣の朝食会へ。
○さいとう氏、自民党農林部会長を2年、農水副大臣を2年、そして農水大臣1年2か月と、農水族としての5年あまりの月日を切々と語る。それにしても、新宿区生まれで通産省出身、選挙区は千葉県流山市という議員を、当選3回でいきなり農水大臣に就けるという人事は、自民党らしくないというか、それとも自民党ならではというべきなのか。こういうダイナミズム、最近の日本社会では希れであります。
○5年前に決めたコメの生産調整廃止は、今年からようやく始まった。以前はコメの生産量は毎年、農水省が決めて、それを各都道府県に割り当てて、それを市町村レベルに降ろしていくという制度でやっていた。しかし人口減少社会の日本では、コメの需要も将来的には減ることが分かっている。だったら、いつまでもこの制度を続けられないことは自明である。だから早めに辞めておこう、というのは、これまた自民党らしくない、いやこの国ではめずらしいおとなの決断ではないだろうか。
○さいとう氏、やり残したことは水産改革だという。日本の漁業を資源管理型に変えることが課題である。世界の漁業は、漁船ごとに漁獲量のクォータを作ることが潮流となっている。日本は養殖の技術ではもはやノルウェーに学ぶところなし。でも、普通の漁船を比べると大差なのだとか。漁師さんが一度も魚に触れることなく、セリを船上で行う、という景色はちょっと思い浮かびません。
○自民党の派閥機能は低下していて、あと10年で完全に崩れるだろう、とも言っていた。なぜなら今の派閥の領袖は、個人的な技量で組織を維持しているから。その人たちが引退したら、当然、維持できなくなるだろう、という。ゆえにこれから自民党は、新しいガバナンスのシステムを作らねばならない。それまでに残された時間は5年から10年程度。さて、いったいどうなるのか。
○あらためて自民党の派閥についてチェックしてみました。
●細田派(95人)は、細田さん(74歳)は雇われマダムで、本当の姿は安倍派であることは誰でも知っている。でも、安倍さんが総理引退後に派閥の領袖になって、「闇将軍」になれるのか。それはちょっと不安。
●志公会(60人)は、麻生さん(78歳)はさすがに次の衆院選挙は出ないだろう。ポスト麻生は誰なんでしょう。次は河野太郎が引き継ぐ、という説もあるけれども、それはちょっと考えにくい。
●竹下派(54人)は、竹下亘氏(71歳)はまだまだやるだろうけれども、この派閥の陰の支配者は青木幹雄84歳だという説もある。それを茂木さん(63歳)が簒奪したりすると、歴史は繰り返すで面白いけど。
●宏池会(48人)は岸田さんが61歳だが、ここも真の支配者は古賀誠(78歳)だという説もある。これまた10年後にはどうなっているのやら見当もつかない。宏池会待望論もあるけどねえ。
●志帥会(43人)は二階さん(79歳)の後を継げる人が居るとは考えにくい。野心家タイプをいっぱい集めておいて、後はいったいどうするつもりなのよ。わが亡き後に洪水来たれ。
●水月会=石破派(20人)と近未来研=石原派(12人)は存在しないものと考えましょう。
○なるほど、10年後には派閥の存在しない自民党が誕生していそうです。それでも人間組織なのだから、緩いグループ分けはできることだろう。政策研究会としての派閥は、十分に意味があると考えるものである。
<10月23日>(火)
○たまたま知人の政治家数人と同席する機会があった。政治家同士、というのはまことに人間関係が細やかにできている。だからさりげない一言一句に重みがあったり、洞察があったり、気遣いがあったりする。ワシは基本的に鈍感で無神経な人間だが、ときにはそういう機微が感じられることがある。あれはいいものですな。
○いやもう当方ときたら、困っている人に気がつかないくらいは序の口で、人の言葉の上っ面だけを真に受けてしまい、後から「馬鹿だなあ、あれは本当はこういうことが言いたかったんだよ」と説明を聞いて、「なるほど!」と心底感心する、なんてことがめずらしくない。
○さらには、自分が嫌味を言われていることに気付いていない、なんてことさえある。ちなみに、お世辞にはちゃんと反応していることが多いので、鈍感なのではなくて単に身勝手なだけなのかもしれない。まあ、いいのだ。恥ずかしいことは全部、きれいさっぱり忘れてしまうという特技があるので。
○などということはさておいて、一太さんは昔から変わらずいい人だなあ、と感じた夜であった。なかなかできることではありませんよ。え?まあ、詳細はオフレコでございますよ。当たり前じゃないですか。
<10月24日>(水)
○アメリカ中間選挙の結果が出るまで、あと2週間となった。
○現時点で予想をするならば、上院は共和党が1議席くらい増やして、下院は民主党が30議席くらい増やす。下院は民主党の25議席増で与野党が逆転するので、来年のアメリカ議会はめでたく「ねじれ」ることになる。これで来年は政府閉鎖とか債務上限問題のリスクが戻ってくることになる。とまあ、その辺は想定の範囲内。
○でも、この結果は民主党にとっては不満が残る結果でしょう。ブルーウェイブは来てくれたけど、無駄な形で来てくれたんじゃないか。つまりブルーステーツで票は伸びたけど、全体の議席はあんまり増えなかった。逆にトランプ大統領にとっては、「この程度なら、全然オッケーじゃん!」ということになる。その後で行われる下院議長選挙は荒れるでしょう。つまり順当にナンシー・ペローシ議長の復活、ということにはならないのではないか。2020年大統領選に誰が出るのか、という点でも勢いを欠くこと甚だしい。
○つくづく10月は共和党の反抗の月でありました。もちろん、このあとの2週間で民主党の最後の猛攻が入るのかもしれません。以下のような楽しみがあるからだ。
@今年の中間選挙は、めずらしいことに民主党の方が共和党より多くの選挙資金を集めている(民25億ドルvs.共21億ドル)
A共和党の10月攻勢もさすがに勢いが途切れてきた感がある。
Bテイラー・スウィフト効果などにより、ミレニアル世代が大いに投票してくれるかもしれない。
○中間選挙はいよいよ「最後のお願い」の季節到来だが、例年に比べて期日前投票が増えている点が未知数であったりする。さて、最後のひと伸びがあるのはどちらの側なのか。
<10月26日>(金)
○本日は日本船主協会さんで講師を務める。不肖かんべえ、海運とか造船とか船主さんとかいうと、無条件で近しい感じがする。いずれも商社業界から見れば、ご親戚のようなものですから。そういえば現在の弊社は、飯野ビルの中に東京本社が入っている。もちろん最上階には飯野海運が入っていて、同じビルの中には川崎汽船も入っていたりする。かならずしも「大船に乗った」つもりはないのでありますが。
○船の関係の会社は、不思議と虎ノ門の周辺に多く集まっている。商船三井さんもそうだし、昔の日本船舶振興協会も現在の笹川財団も。これはきっと、東京における金毘羅神社が虎ノ門にあるからではないかと思う。なにしろ船乗りというのは、迷信深い人たちでありますから。だから船の守り神の近くに集まってくる。例外は、丸の内の日本郵船さんくらいでしょうか。これは岩崎弥太郎の遺訓によりものだったりして。
○ついつい余計なことを考えるのであるが、個人の「一口船主」というのを是非、日本でもやってもらいたい(欧州ではごく普通に存在するらしい)。この低金利時代、船という「動産」を保有することでリターンを得たいという個人投資家は、けっして少なくはないと思う。もちろん船価は相場商品なので、為替や石油価格や世界景気とともに激しく上下する。おそらく「個人の一口船主」という事業は、航空機リースに比べればはるかにリスクが高いだろう。
○それでも、人口減少が続くこの国で、今からアパマン経営に乗り出すよりはマシなのではないか。いや、もちろんトランプさんが仕掛ける貿易戦争というリスクもある。もっともその場合、世界経済全体が下降してしまうので、どこにおカネを張っても同じ、ということになってしまいかねないのですが。
○敢えて言えば、一口船主のリスクなんて、一口馬主に比べれば可愛いものである。馬なんてあなた、怪我をしたらそれで一巻の終わりですから。ワシも最近、一口馬主を始めてしまったのでその辺の事情はよくわかる。趣味の世界だからオルフェーヴル産駒に投資するわけですが、所詮、馬の血統なんて当てにはなりません。その点、「この船は三菱重工が作りました」と言われれば、そうそう滅多なことはないはずである。おそらくはね。
○そうそう、今週収録したマネースクエアさんのプレミアム・トークをご紹介しておきましょう。中間選挙についての特設サイトもついでにご案内。西田明弘さんを相手に、アメリカ中間選挙情勢を存分に語っておりまする。
○いやあ、西田さん、お互いにこんな時代が来るとは思ってもみませんでしたよねえ。これから先、5G時代になったら、情報発信も映像が主流になっちゃいますよね。レポートをPDFファイルにしてばらまけばいい、なんて時代は急速に終焉が近づいているのかもしれません。くわばらくわばら。
<10月27日>(土)
○これは来年の政治外交日程を考える時に非常に重要な情報ですな。メモしておきましょう。
<政府準備委員会が決定した一連の行事>
●退位の礼 4月30日〜退位礼正殿の儀
●即位の礼 5月〜10月
*剣璽等承継の儀→三種の神器、御璽と国璽を新天皇に引き継ぎ(5月1日)
*即位後朝見の儀→新天皇が三権の長らと会見し即位を宣言(5月1日)
*即位礼正殿の儀→新天皇が「高御座」に立ち、即位を宣言(10月22日)
*祝賀御列の儀→パレードで国民の祝福を受ける(10月22日)
*饗宴の儀→国内外の賓客を招いて即位を披露(10月22日〜)
*首相夫妻主催晩さん会→来日した賓客に謝意を示す(10月23日)
●大嘗祭 11月14〜15日
○来年は統一地方選(4月)に参院選(7月)、ラグビーW杯(秋)など、イベントが交錯する年となりますが、それにこの改元関連の日程が入って来るわけです。なにしろ上記は、一切間違いがあってはいけないわけでして、滞りなく行うだけで政府としてはヘトヘトになりそうですな。もっともその次の年には東京五輪があるわけで、「疲れた」などとは言っておられないのですが。
○5月1日が即位の日で祭日になり、4月27日(土)から5月6日(月)まで超大型連休ができる、という話は既に知られているかと思いますが、10月22日(火)の即位礼正殿の儀もお休みになりそうですな。その頃は消費増税の直後となりますが、景気の方がどうなっているでしょうか。
○それから海外の首脳から見ると、6月28-29日の大阪G20サミットと10月の即位の礼と2回、訪日の機会があることになる。ちなみにアフリカの首脳はTICADZ(横浜、8/28-30)もあります。「どこか1か所にまとめてくれ」と言われるかもしれませんな。来年秋はAPECや東アジアサミットの日程がどうなるのかも気になります。
○とりあえずカレンダーと手帳は買ったけど、来年はどんな年になるんでしょうなあ。「平成」の次がなにかも気になるところです。
<10月29日>(月)
○つくづくいろんなことが起きる昨今であります。中米からメキシコを北上する不法移民の「キャラバン」が出現すると思えば、パイプ爆弾を元大統領などのVIPに送る不心得者が出て、今度はとうとうピッツバーグのシナゴーグで銃を乱射する不法者が現れました。なんでこういう人たちを、アメリカでは「テロリスト」と呼ばずに「ヘイトクライム」と呼ぶのでしょうか。
○トランプ大統領によれば、こういう事件が起きるのは今のアメリカに銃規制が足りていないからではなく、教会が銃で武装していないからなのだそうです。その理屈はちょっと無理があるだろうなあ。まあ、これも確信犯、トランプさんにとってはいつものことでありますけど。
○こんな風にいろんな事件が交錯するのは、文字通り2年前の大統領選挙票日の直前以来ではないかと思います。あのときも、いろんなことが矢継ぎ早に起きて往生したものなあ。今回はそれ以来2年ぶりの事態。共和党が上下両院で多数を維持するシナリオは一応あるけれども、普通だったら「ねじれ議会」に備えるべきところでありましょう。
○下院が民主党多数になると、いろんな悪戯をすることができるようになります。新たに下院歳入委員会の新委員長となった民主党議員が、トランプ大統領に税申告書(Tax
Return)の提出を命じる、なんてのは序の口で、ロシアゲートの捜査に協力するためにドナルド・トランプ・ジュニアを召喚する、なんて手も含めて縦横無尽。こうなると1週間後の中間選挙は、つくづく悩ましいですねえ。トランプさん、大丈夫かしらん?
<10月30日>(火)
○今回の臨時国会では、出入国管理法案の改正が最大の焦点となっている。不思議なもので、移民問題は長らく議論すること自体がタブーであった。ところがいつの間にか、「もう、止むを得ませんな」というコンセンサスができていたらしい。今年6月の骨太方針では、「農業、建設、宿泊、介護、造船」の5分野を対象に、最長5年の新たな在留資格を取得できることが明記された。これをもって、単純労働に門戸が開かれることになる。
○「日本という国は、変化がないように見えて、変わるときには一瞬で変わる」と言われるが、今回もそのパターンではないかと思う。これはもういいとか悪いの問題ではなくて、メダカの群れが突如として反転するように、以心伝心で集団的な意思決定がされるんじゃないかと思う。だから意思決定のプロセスは見えにくいし、責任の所在も曖昧になる。
○「もっと議論を尽くせ」という声はかならず出る。でも、あまり顧みられない。どこかでもうターニングポイントは越えてしまっているから。それがいつだったのか、はよくわからない。でも、そのことは反対者たちも薄々感じているので、だんだん議論はアリバイ作りのような形になっていく。
○野党は「移民制度に反対」という。与党内にも反対の声がある。臨時国会の会期は延長されるだろうし、最後は徹夜になったりするのだろう。それでもきっと年内には決まる。これだけ大きな決定が、かくも小さな政治的コストでなされてしまうというのは、この国ならではの不思議な光景と言っていいのではないだろうか。
<10月31日>(水)
○今宵はハロウィン本番。しかるに全国的に肌寒く、コスプレをして外を歩く人も、それを見物に出かける人も、ちょっと寒かったんじゃないでしょうか。あたしゃどっちも近づく予定はないので、家で暖かくしていようと思います。ぬくぬく。
○気がつけば今年も残り2か月。早いですなあ。とりあえずワシ的には、史上空前の「中間選挙特需」を乗り切らねばなりませぬ。風邪などひいている余裕はないのです。
○外為どっとコムに中間選挙に関するインタビューが載りました。ご案内です。
https://www.gaitame.com/ume_2018/
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki