●かんべえの不規則発言



2002年1月


<1月1日>(火)

かんべえ 新年おめでとうございます。2002年の年明けに何をやろうかは、実はまったく考えてなかったんですけど、やっぱりこれが新年の定番かな、と思って久しぶりに来てもらいました。官兵衛さん、今年もよろしくお願いします。

官兵衛 新年おめでとう。ここに登場するのは1年ぶりだね。
かんべえ その間にずいぶん読者が増えまして。官兵衛さんのことを知らない読者も多いかもしれません。戦国武将である黒田官兵衛についてはここを読んでください。言っときますが、記憶だけを頼りに書いておりますので、そのまんま信じちゃダメですよ。鎌倉在住の某読者は、このページを丸々ドラッグして、子供の夏休みの宿題にして提出したそうですが、どうなっても責任取りませんからね。
官兵衛 ご利用はown riskで、と言ってるんだからいいようなもんじゃないか。
かんべえ 官兵衛さんとかんべえが、過去にどんな会話をしてきたかはここをご参照ください。とくに「参謀論編」なんかは好評でした。官兵衛さん、今年もまたよろしくお願いします。

官兵衛 前置きはそれくらいにして、今回のお題を頂戴しようか。
かんべえ 実はあんまり考えてないんですよ。そこで変化を求めようと思って、実はもう一人、ゲストを呼んでいるんです。3人の鼎談にしようと思って。ところが・・・・・
官兵衛 このお客人はよくお休みのようですな。
かんべえ そうなんですよ。もうずっと高イビキで寝正月。しょうがないからこのお客さんはしばらく放っておいて、まず官兵衛さんに2002年の世界の情勢について伺っておきたいと思います。
 2001年は例の「ナイン・イレブン」の事件によって歴史に残る年となってしまいました。ブッシュ政権はアフガン戦線に戦力を投入し、ほぼ思い通りの戦果を得たものの、オサマ・ビンラディンの生死は不明です。テロネットワークが相手という「非対称型」の戦いというのは、官兵衛さんの時代にもなかったと思いますが、まずその点の評価から。

官兵衛
 ワシは西洋の歴史はよく知らんから、イスラム教とかパレスチナ問題と言われてもなあ。
かんべえ 判断できないと。
官兵衛 とはいうもののだ。日本と中国の歴史だけを見て判断するならば、古来、宗教政権が天下を取ったことはない。
かんべえ 原理主義おそるに足らずと。でも官兵衛さんの時代にも、石山本願寺とか一向一揆とかがあったわけじゃありませんか。
官兵衛 君の先祖も北陸の浄土真宗のお坊さんだそうじゃないか。
かんべえ そうなんです。たぶん信長に立てついたんじゃないかと。

官兵衛 織田軍は宗教勢力に非常に手を焼いた。比叡山焼き討ち、長島一向一揆、石山本願寺攻め、越前一向一揆などだ。かなり残虐なことをやっているのに、不思議なことに後世の評判は悪くない。歴史家も宗教家のことはともかく、宗教勢力のことをよくは書かない。これは中国の史家も同様。黄巾族や太平天国のことをよく言う人はあんまりおらんだろう。
かんべえ 言われてみればそうですな。
官兵衛 宗教勢力相手の戦いはしんどい。これはもう間違いない。敵は「聖戦」という意識でいるから、死を覚悟してしまっている。死ねば極楽往生、と思い込んでいる。
かんべえ イスラムのテロリストも同じ精神構造のようです。『イスラム過激原理主義』(藤原和彦/中公新書)によれば、自爆テロをやるようなムスリムは、「ジハードで殉教すると、死後は72人の処女と結婚できる」と信じているんだそうです。
官兵衛 72人!それじゃ天国なのか地獄なのか分からんじゃないか。
かんべえ 天国に行くのが目的でテロリストになる若者が多いんだそうです。
官兵衛 笑えん話だな。それは。

かんべえ そういう敵を相手にするときはどういうもんですか。
官兵衛 言いにくいことだが、実は戦いやすいという面もある。
かんべえ それはまたなぜ?
官兵衛 まず戦闘に関しては、こちらはプロで向こうはアマチュアだ。戦闘のための装備や練度はこちらの方が高い。だからやりようによっては楽な戦いになる。長島一向一揆を相手にしたときは、無防備な敵方を鉄砲隊で遠くから狙い撃ちにした。兵士にも良心の呵責はあるが、それさえ押さえ込めば楽な戦いではある。
かんべえ うーん、それはまさにアフガンに対する空爆と同じ構造。
官兵衛 彼らを相手に白兵戦をやっちゃ駄目なんだ。それこそ人海戦術に圧倒される。
かんべえ アフガンでは米英軍は背後に回り、タリバンと直接戦うのは北部同盟軍に任せました。それは正しいやり方だったわけですね。

官兵衛 もうひとつ、宗教勢力には構造的な弱点がある。彼らの軍隊には「歴戦の勇者」というのが出来にくいんだ。前にも言ったと思うけど、強い軍隊には勝利経験をたくさん積んだ兵士がいる。つまり「どうやったら勝てるか」を知っている人間が、大将から末端まで随所にいるような組織は強い。
かんべえ それはナレッジ・マネジメントの発想ですね。
官兵衛 全部の兵士が「今度の戦いで死んでもいい」と思っちゃうと、戦うことのノウハウが組織に蓄積されない。だから一向一揆側は戦いの経験が活かされないんだな。こちらは普通の軍隊だから、少なくとも自分だけは生きて帰ろうと思って戦う。負けたら次は何とかしようと思う。だから宗教勢力はかならずしも怖くはない、というのが僕らの結論。

かんべえ
 なるほど。今度の同時多発テロ事件においては、ハンブルグにいたアタ容疑者が果たした役割が圧倒的に大きかったようです。アタが計画して、時分で仲間を集めてきたプロジェクトに、ビンラディンが金を出したというのが本当のところらしい。ところがアタはワールドトレードセンターに突っ込んでしまってもういない。アルカイダにとっては惜しい人材だったはずですが、自爆テロという作戦はそういうところに根本的な問題がある。
官兵衛 極論すれば、特攻とか自爆テロといった手口は、軍事作戦としてそれ自体が矛盾をはらんでいる。
かんべえ 共食いが狂牛病をもたらすように、それは禁じ手であると。まぁ実際、宗教が信仰を利用として戦争に勝とうというのは、とんでもない話だと思いますが。
官兵衛 だいたい宗教が領地を持ったり城を作ったりしたら、その時点でもう碌なことはないよ。
かんべえ 官兵衛さんは若い時分はキリシタン、隠居してからは入道。宗教に対する意識は平均的な日本人に近く、筋金入りのプラグマチストという感じがします。信仰で凝り固まった兵士は思ったほど強くない、という結論にはちょっと安心しますね。

○というわけで、今年も年頭に始まった官兵衛さんとの対話。注目の第3の人物は結局、新年初日は寝たままだった。正体は明日、明かされる。しばし待て。


<1月2日>(水)

かんべえ ようやくもう一人のゲストが目を覚ましてくれました。ご紹介します。昭和の偉大な勝負師で、すぐれた作家でもある「坊や哲」こと阿佐田哲也さんです。
坊や哲 阿佐田です。どうも。昨日はすいませんでした。
かんべえ 阿佐田さんはナルコレプシーという持病があって、日常生活の途中で突然寝込んでしまうんですよね。
坊や哲 ええ、ただ完全に意識が無いわけじゃないんです。昨日の話もところどころは聞こえている。でも意識は夢とうつつの間を行ったり来たりしているから、言葉は出て来ない。
官兵衛 ふむ、今回のテーマがやっと見えてきたな。かんべえ君の関心はさしずめ「勝負の本質と不確実性」ってなところかな。
かんべえ まあ、その辺は成り行き任せということに。

坊や哲 その前に昨日の話へのコメントをひとつ。狂信者は怖くない、という官兵衛さんのご意見にはまったく同感なんですが、他方、高校野球などを見ていると宗教系の学校の強さというのもありますな。スポーツの世界では、信仰が個々人の力を引き出すことがある。そういう自己暗示の力というものは馬鹿にできない。
官兵衛 それはそう。強い将軍というのは、「この戦いはかならず勝つ」と兵士に思わせるテクニックを持っているものです。そういう意味では、戦争と神がかりは切っても切り離せないものかもしれんな。
かんべえ いわゆるカリスマが入った状態というやつですな。
坊や哲 ただし本人が本気で信じてしまうと困るんで、将軍たるものはやはり醒めた部分というのは必要でしょう。長年の持論ですが、思い込みの強いタイプは勝負には弱い。
官兵衛 織田信長の生涯最高のプレイ、というのを挙げるとしたら、金ヶ崎城からの撤退ではないかと思うね。朝倉攻めの最中に浅井長政が寝返った。普通だったらパニックになるところを、単騎で戦場を離脱してしまう。究極の危機管理ですよ。あれだけ見事な撤退というのは、戦史にも数少ないんじゃないか。
坊や哲 「見切り千両」というのは勝負師の理想ですね。

かんべえ 私の知り合いに気功をやる人がいるんですが、スプーンを曲げたり、名刺で割り箸を折っちゃうんです。もちろんトリックはなしですよ。実際の戦争や勝負ごとで、そういう超自然的な力を使う人というのはいないもんですか。
坊や哲 超自然的な力が存在すること自体は否定できないと思うよ。だけど、そういう人が結果を出すかというと、それが少ないんだな。
かんべえ どういうことでしょう。
坊や哲 だってそういう人がいたら、少なくともギャンブルの世界では常勝将軍だ。カードや麻雀牌の裏側を見通せたり、目の前の人が何を考えているか読める人がいたら、勝負に負けるはずがないよね。でもそういう人は現実にはいないんだ。ありがたいことにね。
かんべえ 阿佐田哲也さんの『麻雀放浪記』、私は何十回も読んでますけど、第1巻に「ガン牌の清水」ってチョイ役が出てきますよね。下段の麻雀牌を卓の向こう側から見て当てちゃうという人物。まるで透視能力があるとしか思えない人物なんですが、すごいリアリティ。本当は実在の人物だったんじゃないですか?
坊や哲 よく覚えてるな。おっしゃる通り、清水のモデルはいたよ。戦後の混乱期というのは、化け物のような能力の持ち主がゴロゴロしていたね。スプーンを曲げるくらいで驚いちゃ駄目で、思い通りの賽の目を出すくらいはワシでもできた。ところが清水のような勝負師は、不思議と栄えないんだな、これが。理由はよく分からない。
かんべえ ふうむ。
官兵衛 たしかに戦争のときには、人間は不思議な能力を発揮するものだな。たとえば今日の戦場の天気がどうなるか、どこに敵の伏兵が隠れているか、完璧に当てる兵士なんてものがいるんだよ。ではそういう人が名将と呼ばれるようになるかというと、そういうことはない。便利なヤツということで使われて、それで終わってしまう。歴史には残らない。
坊や哲 こう言うとガッカリするかもしれないけど、楽して勝負に勝つ人はいないんだな。超自然的な力なんて、持つのはかえって不幸だと考えた方がいい。

かんべえ では伺いましょう。阿佐田さんは戦後の混乱期をギャンブラーとして過ごされて、ほとんど負けのない時期があったと書いておられますよね。それこそ毎日のように麻雀して、負けるのが半年に半荘2〜3回とか。そういう強さというのは、やっぱり何か裏付けがあったんじゃないでしょうか。
坊や哲 うーん、でも決定的な強さの裏付けがあるわけではないんだな。勝負ごとだからいつ負けても不思議はない。
かんべえ でも、そういう絶好調な時期には、相手が3人揃った時点で、負けるとはもう全然思わないでしょう。
坊や哲 その通り。勝って当然、と思う。だから自信がある。昨日、官兵衛さんが言ったように、体全体が勝ち方を覚えている感じだな。
官兵衛 勝ちまくっているときというのは、戦う前に数時間後に自分が勝っているイメージが見えるときがあるな。
坊や哲 そうですね。そして実際にイメージ通りに物事が運ぶ。怖いくらいに。
かんべえ それは超自然的な力とは違う?
坊や哲 違うね。だってそういう勝ち運はいつなくなるか分からないんだから。だから終わってみれば、勝ったのは実力じゃなくて運だという気がする。

○第3の男の正体が分かった。戦国武将と昭和のギャンブラーは、明日も勝負の哲学を語って止まない予定。


<1月3日>(木)

かんべえ 「勝負はときの運」とはよく言われることですが、第3者の目から見ると、勝敗は最初から運命的に決まっていた、と思えることも少なくありません。勝負を体験していてそういうことってないですか。
官兵衛 そりゃ、戦争の最中は当事者は必死だよ。どんなに有利な態勢だって、100%勝てるなんてはずがない。とんでもない不利な条件から逆転して勝ったことのある人は、むしろその後は慎重になるものだ。なにしろ自分の優勢を信じられなくなるのだから。
坊や哲 終わってから、「ああ今日は勝つべくして勝った」「負けるべくして負けた」という印象を持つことはあるだろうけどね。ただし戦う前から勝敗が決まっている、ってことはないと思うよ。やっぱり下駄を履くまでは分からない。
かんべえ よく言う「勝てば運、負ければ実力」という世界でしょうか。
官兵衛 運を意識しない勝負師はいない。その辺については古来、誰でも似たようなことを言っていると思うよ。カエサルと曹操と織田信長の勝負に対する方法論がそんなに違うとは思えない。

かんべえ ちょっと大袈裟に言わせてもらいますと、物事が決まるのは運命なのか確率なのか、というのは自分の生涯のテーマだと思っています。私自身は勝負ごとに特段強いわけじゃないし、将棋や麻雀や競馬は好きだけど趣味のレベルです。だけど他人の真剣勝負の展開を見るのは本当に面白いと思う。それこそ元日にやっていた『筋肉番付』で、余裕かましている室伏をケイン・コスギが本気で追いかけて、最後は得意のショットガンタッチでボタンを押し忘れて自滅しちゃうのを見ても、思わずジ〜ンとしてしまう。ああ、これって勝負らしい瞬間だな、と。
坊や哲 あるある。まさかと思うようなミスを出して負けちゃうんだな。
官兵衛 でもそれは演出もあるよね。
かんべえ そりゃそうですね。たしかに演出はある。テレビ局は見せ場を作りたいし、歴史家は劇的に書こうとする。
坊や哲 それでも「筋書きのないドラマ」ってあるね。不思議なことに双方が力を出し切った真剣勝負のときに限って、いい場面が残るんだな。凡戦じゃ駄目なんだ。

官兵衛 確率か運命か、という問題はそう簡単に結論は出ないだろう。
かんべえ 20世紀に量子力学が誕生した時点で、一応は決着したことになっています。物質を形成する要素である電子は、その位置と速度の両方を同時に測定することができない。つまり確率としてしか存在を認識することができない。このことが分かった時点で、あらゆることが神の予定通りに進行する、という命題は物理学的に成立しないことが分かってしまいました。
「シュレーディンガーの猫」という思考実験があるんです。箱の中に猫と青酸カリの入ったビンを入れておく。確率50%で電子が飛び出すと、ビンが割れて猫は死んでしまうように仕掛けておく。さて、一定時間後の猫は生きているか死んでいるか。答えは、猫は50%生きている、ということになる。猫の生死は神様も予想できないんです。
官兵衛 なるほど、これでは運命論の出番はない。
かんべえ そうすると神ならぬ人間は、ますます未来を予知することはできない、ということになってしまいます。
官兵衛 だからといって、「成否の確率は五分五分」と思ったら戦争なんてできないわな。
坊や哲 ギャンブルもできないし、小説も書けないな。何より生きてても面白くないんじゃないか。

かんべえ 私は一応、企業エコノミストということになっていて、ああだこうだ理屈こねるのが仕事なんですけど、とにかく予想を当てて「どうだ」と胸を張りたい。そういう不純な気持ちがいつも心の中にある。別にそれで自分が儲からなくてもいいから、世の中の趨勢を見抜いてやりたいと思ってるんです。そうなるとこの勝負の流れというのが気になってしょうがない。
坊や哲 それって普通のギャンブラーの心理とあまり変わらないな。
かんべえ そうなんです。それどころか、同じようなことをしている人があまりにも多いんですよ。株式市場なんて美人投票というか、要は企業の勝ち組と負け組を当てっこするゲームですからね。トレーダーと博打打ち、ストラテジストと予想屋さんはどこが違うのか。本質はそんなに変わらないような気がする。
坊や哲 競輪やバカラなんていうギャンブルは、文字通り展開を予想するゲームだからな。あのテクニックは投機に応用できるかもしれない。

かんべえ 私も海外に行くとよくカジノに行くんです。お台場にカジノができたら、それこそ身の破滅かもしれないんですが、いちばん好きなのがバカラ。そこでいつも阿佐田さんの本に書いてあったことを実践しているんです。
坊や哲 バカラは、同じテーブルでいちばん熱くなっている人の逆を張れ。
かんべえ それです。でもソウルのウォーカーヒルで午前2時くらいにふっと嫌な気がしてチップを引き上げたら、隣のヤツもすっとチップを引いた。気がついたら自分が熱くなって、マイナスの指標にされていたんです。難しいんです。勝負は。
坊や哲 ギャンブルで平均点50点は至難の技だが、平均点が0点なんてやつはいくらでもいるからな。
官兵衛 黒田家には後藤又兵衛という豪傑がいた。わしが手塩にかけて育てたことになっているが、本当のところはちょっと違う。あれは剛直でいい男なんだが、何というか愛すべき勘の悪さがあるんだ。本人もそれを心得ているから、軍議の席などではいつも黙っている。わしは迷いがあるときは、そっと別室に又兵衛を呼んで、「お前の意見は?」と聞いてみる。するとわしが気づかないような、とんでもない意見が返って来るんだな。もちろんアイデアは即不採用だよ。でも非常に参考になる。わしにとっては素晴らしい参謀だった。
かんべえ 最近の小泉首相と加藤紘一の関係がそんな感じのような気がしますね。
坊や哲 先が予測できないという条件は同じでも、長い時間やれば勝負には勝ち組と負け組ができるものだ。それは人間の知恵の問題だね。けっして「ときの運」などではない。

○勝負の不思議はいくら語っても尽きることなはい。明日はどんなことになるのやら。そうそう、2002年大予測の回答もお待ちしております。


<1月4日>(金)

かんべえ 話は再び「9・11」に戻ってしまうんですが、あれは予測不可能な事件の典型だと思います。普通、大事件が起きると、かならず後から「俺は昔から予言していた」というヤカラが出てくるんですが、さすがに今回はそういう声が聞こえてこない。予想で生計を立てている全世界何万という人たちが、誰も見通していなかった。情勢判断がまったく通じない事件をどう考えればいいのか。
坊や哲 あまり難しく考える必要はないと思うよ。予測というものは常に相対的なんだから。他人よりちょっと先が見えていればいいんだ。
かんべえ いや、それどころか大間違いを平気で語って、全然知らん顔をしているのが多いんですよ。腹が立つくらい。
官兵衛 あはは。
かんべえ 中東専門家とか軍事評論家と言われる人たちの多くは、湾岸戦争の時もそうだったように、今度もはずしまくりました。米軍はムジャヒディン戦士に勝てないとか、アフガンはベトナム化するとか。
官兵衛 専門家は自分の専門範囲しか知らないからね。あんまり責めちゃ気の毒だよ。

坊や哲 ちょっと官兵衛さんにアフガニスタン戦線について聞いてみたいな。10月7日に空爆が始まって、1ヶ月は戦線が膠着。11月初旬にマザリシャリフが落ちたら、あとは一瀉千里でしたな。あっけないくらい簡単でした。
かんべえ 私が聞いた元ペンタゴン高官は、「この戦いは数年かかる」と言っていましたが。
官兵衛 いやいや、それは近代戦の発想に毒された見方だよ。昔の戦争を知るものにとっては、実に自然な流れだったと思うね。
坊や哲 アフガニスタンは戦国時代ですか。
官兵衛 アフガニスタンの北部同盟勢力は戦国大名のようなものだ。100%、自分の利害で動くし、損なことはしない。そこへいくとタリバンは一向一揆みたいなもんだから、徹底的に戦うし、軍の規律も保たれている。加えて資金や武器をくれる勢力もあった。タリバンが全土の9割を支配したのも無理はない。
 ところがこういう状況になって、周辺国は全部北部同盟の支援に回り、米軍が空爆までしてくれる。この戦い、勝つことが自明になった。そうなると北部同盟を構成する3つの勢力は、急いで戦いたくない。下手に戦って兵力を損傷させると、勝った後の発言力が低下するからね。だから1ヶ月は膠着状態が続いた。

かんべえ そういえばその当時から、現地通貨は対ドルで上昇してました。あれは近い将来に戦闘が終わることを皆が確信してたんですね。
坊や哲 なるほどアフガニスタン国民としては、他国の介入が始まったことで、初めて戦闘状態が収束する可能性がでてきたわけだ。そこで自国通貨を買う理由ができる。
官兵衛 マザリシャリフが最初に陥落したのは、戦略上の要衝だということもあるが、あそこがウズベク人勢力の牙城だったからだろう。つまりドスタム将軍は犠牲を払ってでも、マザリシャリフを自分のものにしたかった。だからそこだけは本気で戦争する。他方、タリバン側も狂信者はごく一握りで、ほとんどは後から参加した連中だから、負ける戦いはしたくない。兵士としては、こっそり田舎にでも帰った方が身のためだ。孫子の兵法にいう「散地」というやつだな。ゆえにタリバンの兵力はどんどん減っていく。
坊や哲 本気で戦うのは本物の狂信者と外国人兵士だけ、というわけですな。
官兵衛 なんの、昔の戦争はそういうものだったんだよ。非戦闘員の上に爆弾を降らせるとか、玉砕攻撃をするなんて野蛮な話はたかだかここ200年くらいのことなんだから。

かんべえ 官兵衛さんの情勢判断をもう少し聞きたいですね。とくに今後のアフガニスタンについて。
官兵衛 群雄割拠の状態に戻るのが自然じゃないかな。
かんべえ それだとマズイ、という話になるでしょうね。
官兵衛 どこが悪いの? 平和を保つためには2つしか方法はないんだよ。アフガンで圧倒的に強力な勢力を作ることはできないんだから、あとは勢力均衡を図るしかないだろう。
かんべえ その通りだと思いますけど、国際社会としては一種の罪悪感もあるので、一応の政府機構を復元して、国民の生活水準を向上させて、てな話になると思います。アフガニスタン復興会議なんてものもやるそうですから。
坊や哲 結局、アフガニスタンの各勢力は仲良くしている振りをして、国際社会は援助をしている振りをするんだろうな。
官兵衛 小競り合いをやりながら、全体としては勢力を均衡させるというのは悪い作戦じゃないさ。今となっては、冷戦時代は良かったと思っている人は少なくないんじゃないか?

○おやおや、またまた話がアフガニスタンに戻ったぞ。「勝負の不思議と不確実性」をめぐる話は、あっちへ飛びこっちへ飛ぶ。ひょっとして明日は中山金杯かな?


<1月5日>(土)

かんべえ 元日から「勝負と不確実性」の話をしてきて、ふと思い出したことがあります。最近はすっかり聞かなくなったんですが、かつて応用カタストロフィー理論というのがあったんです。これは位相幾何学を応用して、自然界や社会の「予期せぬ出来事」を予想できるというアイデアなんです。私はとにかく小さい頃から、未来を予測するという話が大好きでしたから、こりゃ面白い、ひとつ大学生になったらそういう学問をしよう、と志したんです。
官兵衛 本人も忘れているような気恥ずかしい過去の告白だな。
かんべえ あはは。それが理由で社会学部卒になったんですが、当然のように大学に入ったらそんなことはどうでもよくなって、遊び呆けて4年間を過ごしてしまいました。その間に独学で研究したのが占い全般なんです。占星術、手相、生命判断、だいたい一通りの理屈は覚えました。
坊や哲 あなたはそういうものを信じない人に見えるけど。
かんべえ ハイ、信じません。それこそ、占い師が天下を取った例は古来ありませんから。
官兵衛 君の見るところ、占いの本質とは何だね。
かんべえ 実はそれを卒業論文にしちゃったんですが、今から考えればよくまああんなことが許されたなと。一応は国立大学なんですが。私の結論は、オカルティズムというのは敗者復活戦のようなものなんじゃないかと。つまり、われわれは死力を尽くして未来を予想するけれども、結局は理想とするほどの成績は挙げられない。

坊や哲 知ってるぞ。君が今日の中山金杯はずしたのを。
かんべえ そうなんです、1年の計は金杯にあり。家を出る前はビッグゴールドから行こうと決めてたのに、パドックの映像を見てイーグルカフェに変えちゃったんです。
坊や哲 去年の終わりはカフェだったから、今年もカフェで始まると思ったか。金杯はゴールドに決まってるじゃないか。深く考えすぎたね。
かんべえ そういうのは昨日のうちに言ってくださいよ……とにかく、未来を当てようという地道な努力は、最後には裏切られることが多い。そりゃあ自分が悪いんだけど、人間は弱いから、何か楽な手段に頼りたくなる。そう思ったところに、占いという便利なものがある。
官兵衛 なるほど、出世の近道だと思えてしまうわけだな。
かんべえ 占いは宗教と同じで、弱者の味方なんだと思います。本当に強い人なら、そもそも敗者復活戦の必要なんてありませんから。
坊や哲 そうだろうな。勝負師はゲンを担ぐことはあっても、占いは信じない。
かんべえ でも占いは不要だと言えるような強い人は滅多にいないでしょう。それを考えたら、宗教もオカルトも永遠に不滅なんだと思います。

官兵衛 占いはともかく、行き詰まったときに楽な方法に頼りたくなるという心理はよく分かるよね。
坊や哲 勝負師が負けが混むと、得てしてそういう煮詰まった状態になりますね。私はよく「ギャンブルはフォームで打て」てなことを言ってたんだけど、自分のフォームに自信が持てなくなったときのギャンブラーはつらい。
官兵衛 だからといって、違う方法に飛びつくと碌なことはない。
かんべえ よくいますよね、株で損すると全部ユダヤの陰謀とか、ヘッジファンドのせいにしちゃう投資家が。でもそんな風に考えること自体、「負け組」の扉を叩いているようなものなんだけど。世の中のすべての人は間違っていて、自分たちだけが正しいなんてことがあり得るはずがない。
坊や哲 そういやあ、高本式なんて競馬理論もあったなあ。人間は苦し紛れになると、とんでもない理論を発明しちゃうから。
官兵衛 さっきの応用カタストロフィー理論というのも、その手の一種かもしれないね。
かんべえ 最新のオプション理論、なんてのも同工異曲だと思います。

官兵衛 それでも知力を尽くして、読めないはずの明日を読もうとするところがいかにも人間だ。
かんべえ 私は陰謀論というのを受け付けない体質なんですが、先日、とある尊敬するジャーナリストがこんなことを言ってました。「ポートフォリオにはトリプルAばかりじゃなくて、ジャンクボンドも入れなきゃいけない。だから私は陰謀論の人ともお付き合いする」って。
官兵衛 いいことを言うね。
坊や哲 悪書を読まないと、良書の値打ちも分からない。筋のいい話ばかりを聞いてたら危ないね。とにかくいちばんの大敵は思い込みなんだ。

官兵衛 それから読める読めない、というだけじゃなくて、読まない、という境地もあるんだよ。
坊や哲 同感。麻雀牌の裏側が透けて見える、なんてのは理想のように見えて理想ではない。相手の手牌が見えないから麻雀なんだ。だから何でも予想しようと考えるのは間違い。
官兵衛 読まない方がいいことはいくらでもある。君は自分がいつ死ぬか知りたいか?
かんべえ 官兵衛さんは病床にあって、自分の死期を予言したそうですが。
官兵衛 そりゃあ欲がなくなればね。でも生きている限り欲はある。欲がある限り、冷静な予想なんてできるわけがない。

かんべえ ごもっとも。ひとつの会社の株価をある人は高いと思い、ある人は安いと思う。だから売買が成立して価格がつく。みんなが正解を持ってないから、マーケットというものが成り立つんでしょうね。そしてマーケットは神のような叡智を持っている。
坊や哲 それはマーケットに参加している個々人に欲があるからだよ。
官兵衛 デカルトだったかな。「われわれはもう船出をしてしまっている」という言い方をしている。自分が安全地帯にいて、客観的に世界の動きを予測する、みたいなことはわれわれはできないんだ。たとえ世捨て人であっても、自分の名前が後世に残ればいい、みたいな助平根性は持っている。人間は常に何がしかの利害をもって世界に接していかざるを得ない。さらにいえば、自分が「こうしたい」という欲がなかったら、そもそも予想すること自体に意味がなくなってしまう。

かんべえ 「健全な欲望に、健全な予測が宿る」をこの議論の結論にしましょうか。新春から私が大好きな人二人と話してきましたが、いろいろ思い出すことが多くて楽しめました。なんだかちょっと元気づけられたような気もします。官兵衛さんと坊や哲さんに拍手をお願いします。それでは明日からは平常モードです。


<1月6日>(日)

○ということで、締め切りを明日に控えた「2002年大予想」であります。皆さんの参加をお待ちしております。手元に集まっている若干の回答を並べています。

○こういう問題を作るときは、答えがどっちかに偏らないようにするのがコツで、なるべく参加者には悩んでもらいたい。ほとんどの問題はうまく答えが分散しているのですが、第3問フランス大統領選挙は、「シラク以外」という回答者が一人しかいない。ちょっと失敗だったかな。たしかにジョスパン大統領は想像しにくいし、第3の候補者が彗星のように現れるとも思えない。ま、かんべえ自身は欧州の政治情勢には明るくないので何とも言えません。

○前年度チャンピオンの杉岡さん(ベルリン在住)からは、「第11問モーニング娘。のメンバーの数、という質問の意味が分からない」とのコメントあり。そうでしょうねえ。他方、今回初参加のIさんからはこんなコメント付き。

「メインシナリオ=飯田・保田が高齢のため脱退し、2人追加で13人キープ。サブシナリオ=加護・辻が学業回帰の為に脱退し、2人追加で13人キープ。なお、松浦亜弥がレコード大賞受賞」。

うーむ、かんべえ自身はまったくコメントできません。

○それにしても第10問、星野タイガースの成績を問う問題で、「今年も最下位」というリアリストが1人しかおらず、「なんと首位」という大ばか者が2人もいるというのはいかがなものか。「じゃあ、お前はどうなんだ?」と聞かれると困るのですが。


<1月7日>(月)

「2002年大予想」に多数のご応募をいただきありがとうございました。あらためて考えてみると、賞品も何も用意してないのに、よくまあ付き合ってくれる人がいるなあ、という気もします。皆さんの職業としては、金融関係が多いのはいつものことですが、学生さんや学校の先生、という方もいらっしゃいますね。胴元としては、労せずしていろんな回答に接することができて面白い。以下、簡単に現状をご披露しておきます。

第1問、ウサマ・ビンラディンの行方ですが、圧倒的多数が「不明」を選択。私は「死亡を確認」だと思うんですけどね。だって1年もあるんですよ。甘いかなあ。いちばん面白いのは「捕獲または裁判中」ですが。

第2問、アメリカ中間選挙は共和党と民主党、ほぼイーブンの分かれ。実際にきわどい線だと思います。とはいえ今年の場合は、高齢の共和党上院議員で引退確実な人が多く、民主党は改選議員が少ないので、私自身は民主党乗りです。

第3問、フランス大統領選挙は圧倒的に「シラク再選」。数少ない「それ以外」論者からは、「世界中のリーダーが変わっている中で、フランスだけが昔の名前が幅を利かせている」とのご指摘あり。なるほど。

第4問、日本の外務大臣は「真紀子続投」と「それ以外」がほぼ1対2の構図。「それ以外」論者の中には、「願望を込めて」という人が少なくない。気持ちは分かる。通常国会終了後に内閣改造がありそうなんですが、それでも真紀子は切れないとの説もある。

第5問、円ドルレートは「円安」論者が優勢です。昨今の情勢を見れば、無理のない話と言えましょう。その一方、年央に150円近くまで行く瞬間があったとして、年末に「戻り円高」の可能性もないではない。

第6問、日経平均が9000円割れするかどうかはほぼ半々。金融関係にお勤めの方に悲観論が多いのはどういうことでしょう。「銀行セクターの整理は進捗し、ハイテク株もムード好転か」(和製ヘッジファンドさん)という見方がある一方、「皆が年末高を云う以上、高値は春先〜6月に14000円その後6000円まで下落」というダイナミックな意見もある(ベルデさん)。

第7問、吉野家の牛丼並盛の値段は「280円変わらず」が本線で、若干が「値上げ」を予想。「値下げ」は一人だけでした。この問題はデフレと狂牛病と為替レートという3つの要素が複雑にからむ。内心では、もっとも気に入っている問題です。

第8問、ソルトレークシティ冬季五輪と、第9問、ワールドカップでの日本勢の活躍は、序盤に来たメールは楽観論が多かったのに、後からだんだん悲観的になってきました。最近では金メダル5個なんて到底無理、という感じになっているようです。第10問、星野タイガースについても、昨日あのように書いたら、急にリアリストが増えましたな。

第11問、最難問といわれる「モー娘」の人数ですが、「解散しているだろう」という方が2人登場しました。

第12問、「りんかい線、天王州―大崎間」は、年内開通の予定が間に合うか遅れるかは見事に半々。こういうのは、海底トンネルの工事が難しいんですよね。本当は2000年末くらいにできているはずだったのですが・・・・・。

○てなことで、1年後の結果を楽しみにしたいと思います。ご協力に深謝。


<1月8日>(火)

○今朝の日経新聞によると、ブロードバンド加入人口が今年中に900万世帯になるという。その主力となりそうなのがADSL。忘れもしない、溜池通信の2000年9月8日号でIT政策を取り上げたとき、「日本のADSL加入者は7月末で1500世帯」だった。いくらなんでも少なすぎるので、いろんなデータを確かめたが、最後までこれ以上の数字にはならなかった。現在は推定280万世帯。当時を思えば隔世の感があります。

○たまたま、本日はブロードバンドの本命、FTTH(光ファイバー)の普及を目指している有線ブロードネットワークスへ行って来ました。ADSLはいいとこ8メガですが、こっちは100メガ。太い回線を使うと、たとえば「http://www.kickosama.com/」のページを開いても動画が各段に見やすい。値段はADSLとそんなに変わらない。ここを見ると、月額4900円の定額制である。問題は電柱を使って配線するために、工事がスイスイとは進まないこと。その一方、新規の集合住宅を建設するちきは、ドーンと光ファイバーを入れようというところがあるらしい。なにしろADSLは過渡期の技術といわれるくらいですからね。

○しかるに、単に回線の太さを競うだけでは、競争にはなりにくいと思う。普通のネットユーザーにとっては、8メガもあれば十分だからだ。例の“AbundanceとScarcityの理論”(本誌2001年11月30日号を参照)で行けば、いくら潤沢なものを積み上げても効果は限定的である。FTTHを普及させる場合にも、やはり勝負どころはコンテンツということになるだろう。100メガの回線であれば、パソコン画面はテレビとさほど変わらないレベルになる。つまりオンデマンドで、番組や映画などをパソコン画面で見られるようになる。ブロードバンドの世界では、通信と放送が融合するのである。

○それでも思うのは、「ユーザーが本当に見たいというものを見つけられかどうか」ということです。たとえば筆者は、羽生善治が竜王位を獲った七番勝負の棋譜を、谷川、島クラスの棋士が解説している番組があったら是非見たい。1月20日に引退するステイゴールドのレースすべてを編集した映像があれば、お金を払っても見てみたい。ところが、そういう番組がネット上やパーフェクTVにあるかといえば、よく分からないし、探し出すのはすごく面倒だ。「こんなにたくさんのコンテンツを用意しています」(abundance)と言われても、ユーザーが「本当に見たいもの」(scarcity)があるかどうかは分からないのである。

○コンテンツを売ってビジネスにすることはすごく難しい。インターネットでやろうと考えたらなおのこと。とくにユーザーの希望とコンテンツをいかに結びつけるか、というところが課題だと思う。ITビジネスについていろいろ考えた夜でした。


<1月9日>(水)

○塩野七生『ローマ人の物語] すべての道はローマに通ず』を読み始めました。このシリーズは全15巻の予定で毎年1冊ずつ発売されている。かんべえは毎年買っている。先の第9巻『賢帝の世紀』でアントニウス・ピウスまで終わったので、今度は五賢帝最後のマルクス・アウレリウスの番だろうと思ってました。ところが意表を突いて、今回は「ローマ人が作った社会資本」がテーマ。道路、橋、水道といったハードから、医療、教育といったソフトまで、ローマ人が作ったインフラを取り上げ、時代を縦に飛び交っている。

○ローマ人の道路整備は紀元前三世紀頃から始まった。同じ頃、古代中国では万里の長城を作っていた。外敵に備えるために、ローマは国内の交通の便をよくし、中国は壁を築いたのである。洋の東西、この発想の違いは面白い。『史記』の中で司馬遷は、万里の長城を築いた将軍を厳しく断罪している。中国全土を旅した司馬遷は、自分自身の目で長城を見て、「あれだけのものを作るために、どれだけ多くの人民が酷使されたか」と思いを馳せたのだ。

○ローマ人はインフラストラクチャーのことを、「モーレス・ネチェサーリエ(必要な大事業)」と呼んでいたのだそうだ。つまり人間が人間らしい生活を送るために必要なもの。道路にせよ水道にせよ、ときの指導者が公費をかけて作り、使用料は無料とされた。土建屋さんのために道路を作るとか、高い高速料金を取って採算を取ろうとか、最近の公共投資のあり方を考えると、いかにも示唆に富む面が大きい。

○インフラを語るだけあって、写真や図表が多い。それらを見ているうちに気がついた。岡本呻也め、これを読んでイタリアに行っちゃったんだな。悔しいな、ワシもイタリアに行きたいぞ。伊藤洋一さんも、わざわざユーロを見るためにドイツに行ってるし、なんだかワシだけ出不精でゴロゴロしているような気がしてきたな。


<1月10日>(木)

○マクドナルドや吉野家の陰で目立たないんですが、柏駅西口のミスタードーナツでは、「お勧めドーナツ3種類が65円」というセールをやっている。これは安いと思う。こんなドーナツ3個分が、すぐ近くにある柏高島屋のフォーションで売っているクロワッサン1個分の値段。これを外貨に換算しても、2個で1ドルならやっぱり安いではないか。考えてみれば、マックの何もついてないハンバーガーはアメリカでは69セントだから、1ドル130円だとすでに平日半額の日本の方が安いのである。

○ワシントン在住のKさんが、年末年始に帰国して「日本の物価が下がった!」と感動してHPに書いている。原文はここの1月5日分を参照。日本の100円ショップは、アメリカのダラーショップと違ってきちんとしている。品質やサービスを維持したままで価格が下がるというのは、日本型のデフレではないかと。たしかに「価格と品質とサービス。そのうち2種類だけ選んでよ」というのがアメリカのやり方だ。だから、うっかり安いものは買えないぞ、という緊張感がある。日本の安売りはその点良心的だと思う。

○こうしてみると、内外価格差はかなり縮まっている。日本の物価が諸外国に比べて高いといわれるのは、主に地価と人件費と流通コストが高いからであろう。地価はたしかに下がっているし、今後の少子高齢化を考えると簡単に反転するような気配はない。人件費と流通コストについては、過去10年間に合理化が行われてきた。とくにミスドーのようなチェーン店は、その手の工夫や努力を積み重ねている。もしも一部で言われているように、1ドル=200円みたいな円安が実現するとしたら、「日本の物価は安すぎる!」ということになってしまうかもしれない。1個65円のドーナツというのは、やっぱりすごいことだと思うのである。

○ちなみに、かんべえのお気に入りのドーナツはココナツチョコレート。前の晩に買っておいて、翌朝、自分でいれたコーヒーと一緒に食べる。表向きは、子供が喜ぶからという理由で買っているのだが、なんのことはない自分も好きなのである。ところでアメリカだとドーナツは朝食べるもの、という印象があるのだけれど、日本のミスタードーナツは朝よりも深夜営業で勝負しているようだ。なんでそうなるのかな?


<1月11日>(金)

○今日は夕方から日本貿易会の新年会へ。ホテルニューオータニ鳳凰の間で千客万来。逆風といわれる総合商社業界なるも、パーティーは盛会。この機会に同業他社の皆さんにまとめて新年のご挨拶。とりあえず今年もよろしく、ということで。

○その後、溜池山王の馴染みの飲み屋で「かんべえの弟子」を自称する先崎、山根、原田の3氏と新年会。出し物は「鴨鍋」でこれは好評。気がついたら11時。久しぶりによく飲んだなあ。溜池に戻ってくると妙に落ち着く、というのは長年の習性なんですな、きっと。たぶん今年もこの店にはお世話になるんでしょう。おやじさん、よろしくね。


<1月12日>(土)

○先崎君が言うには、テレビ局は不況にもかかわらず増収増益で、その原動力になっているのがサラ金のCMの放映時間帯を規制緩和したことによるんだそうだ。なるほど、昔は深夜の時間帯だけだったが、最近では昼間から武富士やアイフルやプロミスのCMを見かける。レイクのCMがちょっと笑えるよね。いよいよお金を借りよう、というところでヘソクリが出て来たり、念願の賞品が福引で当たったりする。これではレイクの出番はない。こういうのを良心的というのかどうか。

○土曜3時のテレビ東京、「ウィニング競馬」もスポンサーは武富士である。消費者金融と競馬、というのは相性が良さそうだけど、借りたお金でギャンブルするのはいかんですよね。今年の年賀状で、昔一緒に仕事をしたSさんから、「娘はダンスに熱中し、通学の傍ら武富士のCMのバックでテレビ出演・・・」という記述があってぶっ飛んでしまった。Sさん、武富士ダンサーズのパパになっちゃったのね。

○そういえば最近は、駅前でポケットティッシュを配っているのはもっぱらサラ金である。銀行のポケットティッシュをながらく見ていないような気がする。今さら預金を集めても仕方がない、ということなんだろう。金融とは、お金の余剰を足りない部分に回す仕事だが、元気な部分とそうでない部分でずいぶん差があるようですね。


<1月13日>(日)

○天気がいいもんで、今週も行ってしまった、中山競馬場。よく考えもせずに買った東京と京都の第10レース、複勝と馬連が両方とも来てしまった。これは先週と同じパターン。2レース当てて調子に乗ったところで、中山金杯と京都金杯を落としたのである。果たして今日も同じであった。3歳馬の登竜門、京成杯(GV)はサスガから買ってみたものの、ヤマニンセラフィム、ローマンエンパイアの1番2番人気が同着首位。日経新春杯(GU)はトウカイオーザから買ったら、無警戒のトップコマンダーなんぞが来てしまった。資金の出入りはイーブンでも、こういう負け方は後を引くなあ。

○どうも年末年始と遊びすぎて、不勉強極まりない。そこで、たまには"The Economist"などを覗いてみる。"Bush and Enron's collapse"という記事が面白い。これを見ると、今年の米国政治は相当な波乱含みという感じですね。ということで、抄訳を作ってみました。ちょっと慣らし運転という感じです。


「ブッシュ大統領とエンロン破綻」

 大企業が倒産すれば余波は大きい。とくに世界最大のエネルギー商社、エンロンの破綻は並外れて破壊的だ。経営陣が破綻前に持ち株を売り抜けた行為に、投資家と従業員はすでに怒り心頭。それ以上に経営陣とブッシュ政権の関係が問題である。1月10日に司法省が検察捜査を開始するや否や、事態は風雲急を告げている。湧き上がる疑問にすばやく応えなければ、スキャンダルはブッシュ政権の残りの任期にも影響しかねない

 元オイルマンのブッシュは、かつて選挙戦をエンロンに支援されていた。SECの調査と同時に司法省による検察捜査も始まった。議会では5つの委員会が調査に乗り出した。ここ数日に判明しただけでも、ケネス・レイ会長は会社の問題が生じている最中にオニール長官を含む2閣僚と連絡を取っていた。倒産に至る過程でもホワイトハウスやチェイニー副大統領と連絡を取っている。同社監査法人のアーサーアンダーセンは、多くの関連資料を破棄したことを認めている。

 エンロンは米国の電力事業の規制緩和に乗って拡大し、世界最大のエネルギー企業となった。彼らの成功は行政や規制の変更によって可能となった。エンロンは常に政治に長けた企業として、二大政党(とはいえ、ほとんどが共和党と見られている)や個々の候補者に献金を行っていた。

 ブッシュにとっては、政権とエンロンの関係があまりに複雑で緊密だったことが悩みの種だ。レイは1978年にブッシュが下院議員に挑戦して落選したとき以来の後援者であり、家族ぐるみの親交で知られている。ブッシュ政権下のエネルギー長官に擬せられたこともある。ブッシュにとってエンロンは最大のスポンサー企業であり、93年から2001年の間に累計62万3000ドルの献金を受けている。レイなどの経営陣は、政権の面々と知り合っていたし、アシュクロフト司法長官自身が、2000年に上院選挙で落選したときにエンロンの企業献金を受けている。チェイニー副大統領は、エネルギータスクフォースを主宰した際に、エンロンと親密な関係にあったことへの情報開示を繰り返し拒否している。同タスクフォースで作られたエネルギー法案は、現在議会で審議中である。

 エンロンは昨年秋に経営難が公表される前に、レイがオニール財務長官とエヴァンズ商務長官に連絡したことを認めている。ただし政府の救済を求めたわけではなく、金融界への影響が生じかねないと警告しただけであり、グリーンスパン連銀議長にも電話をしたという。オニール、エヴァンズ両長官はすぐに何もしないことを決め、1月9日にレイが救済を求めたときも「あり得ない」とはねのけた。さる筋によれば、レイはLTCMの件を挙げて粘った。ブッシュはこうした報告を今週になって受けたという。レポーターに応えていわく、「レイとは会社の問題について議論したことはない」し、最後に会ったのは2001年春の資金集めパーティーだった。

 レイが支援を求めて何度も電話したにしても、得るものはなかったようだ。レイはウォール街と政府に対し、同じ説明をしなかったらしい。財務省によれば、レイはオニール長官に10月28日と11月8日に電話をしている。これはレイが投資家に強気の見通しを伝えた後であり、エンロンの資金状態が崩れ始めた後である。

 フレイシャー報道官は「経済に倒産はつきものだ。財界や労働界の人間が閣僚に会社の財政状態について相談することは特別なことではない」と語っている。

 ブッシュ政権がこの疑惑を乗り越えられるかどうかは、違法行為がなかったかどうかに懸かっている。だが仮になかったとしても、影響は長引くかもしれない。これは古典的な政治スキャンダルの要素を秘めている。ブッシュの地元テキサスにあり、選挙資金のスポンサーだった巨大企業が、米国史上最大の倒産となったのである。経営陣の一部は破綻前に株を売っていた。何千という社員は売ることを許されず、雇用のみならず老後の蓄えや年金も失った。会社と政府要人の間には頻繁な連絡があったことが明らかになっている。

 これらの関係が正当なものであったとしても、エンロン事件によって大多数の国民が持つ疑念が裏付けられてしまうことは否めない。つまり、ブッシュは大企業(それもエネルギー産業)に近すぎて、普通の国民の意識とかけ離れているのではないかと。そして昨年夏には、民主党はこう言ってブッシュを非難していた。「ブッシュは『ヒューストンの友人のために』アラスカの油田を開放し、産業界が水道水に砒素を入れるのを認めていた」と。

 エンロン破綻によって生じる明らかな問題は、選挙資金規制と会計監査法人への規制だろう。ブッシュは全力でこれらの問題に当たるかもしれないが、議会民主党はこんな改革でお茶を濁すつもりはない。エンロンに比べれば可愛らしい土地取引を発端に、共和党がクリントンを弾劾寸前まで追い込んだことを思えば、民主党がブッシュに温情をかけることは期待薄である

 フレイシャー報道官は議会に対し、「国民は党派的な取り調べにうんざりしており、魔女狩りは謹むべき」と警告を発する。皮肉なことに、議会民主党の一部はすでにエンロンと政府の関係を調査する特別検察官を任命することを検討している。

 とはいえ、民主党はフレイシャーの言葉をかみしめる必要があるだろう。テロとの戦争を遂行中で史上最高の支持率を有する大統領に対し、クリントンのときのような長い捜査をもう一度やることを国民は許すだろうか。

 エンロンに関する数々の議会公聴会は、1月24日の上院政府関連委員会が皮切りとなる。委員長は2000年の副大統領候補で、2004年には大統領選に挑もうというリーバーマン上院議員。民主党がどんな道を選ぶかが、その公聴会で示されよう。


<1月14日>(月)

○というわけで、比較的真面目な3連休を過ごしました。今週は忙しそうなんですよ。明日15日の朝は午前8時半くらいにFM横浜で電話取材がある予定。それから18日金曜日は、またまたBSジャパンの『ルック@マーケット』に出演することに。これでは嫌でも勉強しておかなきゃいかんじゃないですか。あ、よかったら番組チェックしてくださいねー。

○加藤紘一氏の秘書が脱税疑惑で問題になっています。この方、奇妙なことに肩書きが「事務所代表」。普通、政治家の事務所の代表は、政治家本人がやるもんじゃないんでしょうか。「加藤紘一事務所の代表をやっている佐藤三郎氏」って、よっぽどの大物秘書さんなんですね。センチュリーに乗っているとかいう噂を聞きましたから、政治家秘書としてはかなり型破りな方なんでしょう。でも、やってたことは公共工事の仲介という古式ゆかしいビジネスだったようです。

○ひさしぶりに、加藤紘一オフィシャルHPを覗いてみました。おお、懐かしい。お詫びメッセージが書いてある。「この調査は加藤事務所には無関係であると聴いていますが、事務所に所属するものがこのような調査を受けた事について責任を感じ、国民の皆様に深くお詫び申し上げます」なんて他人事のような書き方をしてあります。でも調査を受けているのは、「事務所に所属するもの」じゃなくて、「事務所代表」なんですから、無関係ということはないでしょう。ちょっと苦しいね、加藤さん。


<1月15日>(火)

○朝、FM横浜の電話取材。テーマは「シンガポールとの自由貿易協定」。待ち構えていたところ、DJ栗原氏から最初に飛んできた質問は、「これでシンハービールは安くなるんでしょうか?」。あのね、関税は酒税に比べると比較にならないほど小さいんで、ほとんど変化はないと思いますよ・・・・てなお話に。かねてからの持論ですが、自由貿易協定は経済的な意味はそれほど大きくはないと思います。むしろ政治的、象徴的な意味が大きい。日本がシンガポールとのFTAに踏み切ったということは、まことに小さな一歩ですが、ゼロと1とは大変な違いですから、これはこれで意義深いことなんだと思います。

○昼、会社で中東情勢についてディスカッション。「今、中東いちばんの注目点は、パレスチナじゃなくてサウジアラビアですよ」。ほほう、やっぱりそうですか。確かにオスロ合意が壊れたなんて話は、所詮は1993年以前の状態に後戻りしたというだけで、あの地域の紛争の歴史を思えばそんなに大騒ぎするほどのことはない。だが、サウド王家がもたなくなるとかいう話になったらこれは一大事である。

○これまでのサウジは、国内の過激分子を体よく外へ出すように努めてきた。どうかすると、お金までつけて厄介払いをしてきた。ウサマ・ビンラディンもその一人。そうやって自分の国は無難に治めてきたわけだが、結果としてせっせと原理主義を輸出することになってしまった。結果として、チェチェン、バルカン半島、ソマリア、そしてアフガニスタンと、冷戦終了後の紛争はほとんどがアラブ世界の周辺部で発生している。挙句の果てに今回のテロ事件。9・11の主犯は大半がサウジとエジプトの若者たちで、これでアメリカを怒らせてしまった。国内は財政難や若年層の失業など、問題山積。そしてファハド国王はほとんど死に体で、アブドゥラ皇太子も70代。どうするんでしょうか。

○夜、「中国経済・産業に関する研究会」へ。中国通の方々が集まっている会合で、なんとメインランド・チャイナには一度も行ったことがないという、この私めがスピーカーを務める。われながら神をも恐れぬ所業である。いつも溜池通信で書いているような話をひとくさり。「中国脅威論は誤りだ」てなことを申し上げたら、ほとんどの方から「同感です」とのコメント。ちょっと拍子抜けしました。

○もうひとりの講師から、中国の自動車産業について拝聴する。これが面白い。中国では二輪車は成功して、四輪車はうまくいってない。なぜか。四輪車は計画経済にこだわって参入規制を行ったが、二輪車はそれがなしくずしになった。だから二輪車は過当競争になり、結果としてちゃんとした製品が作れるようになった。四輪車はがんじがらめにやったので、なかなか計画を達成できないでいる。日本の産業政策とまったく同じですね。日本の自動車産業が世界に冠たるものになったのは、業界が通産省の言うことを聞かなかったから。やっぱり計画経済じゃ駄目なんです。

○研究会の終了後、なんと2次会、3次会まで行ってしまった。ああ、今日は勉強したなあ。


<1月16日>(水)

○今日も慌しい一日。小泉首相の東南アジア歴訪と、鉄鋼業界の現況について調べる。われながら本当に雑食性で、毎日のように違うことをやっている。仕事だから当然なんですが。とはいえ、時間をかけてひとつのテーマに取り組むよりは、いろんな分野を同時に追いかけているほうが自分の性格には合っているような気がする。浮気性なのだ。

○夜は恒例の勉強会PAC、今年初の会合。テーマは税金。話せばきりのない問題だが、とにかく税収不足というのが現下の最大の問題であろう。「歳入が50兆円で歳出が80兆円」という財政構造は、いつまでも続けられないことは自明である。なんでこうなったかというと、99年の小渕内閣による「恒久的減税」が効いている。所得税が下がったので、最近はメジャーリーグに行っている野球選手も、日本で納税するケースが増えているのだとか。長期不況の原因として1997年の橋本内閣の増税を批判する人は多いが、そういう論者は、99年の減税が効果をあげなかったことについては触れようとしない。99年の小渕減税について、もっと焦点を当てる必要があるんじゃないだろうか。

○よく、「サラリーマンの年末調整を止めて、自分で申告させた方がいい」という議論がある。その方が納税意識を高めることができるという理屈だ。私は反対である。自己申告は住宅ローンを申請した年にやったが、あんな面倒なことは願い下げである。だからフォスタープランの寄付の免税措置も受けたことがない。数千円を取り戻すためにしては、あまりにも苦労が多すぎるんだもの。私は基本的にモノグサなのである。

○その代わり、自分の手帳に過去10年分の、グロスの年収と、所得税、住民税、社会保険費と、ネットの年収を記録している。これで見ると、昨年から社会保険費が所得税を上回った、とか、住民税は過去3年連続して下がっている、てなことが分かる。別にどうということはないんだけども、自分の納税意識を保つためのささやかな努力のつもりである。

○今年は年初から税調が開かれる。これはこれで画期的なこと。税制の議論がしばらくは増えそうです。


<1月17日>(木)

○今朝見たらアクセス数が20万件の大台に。うーむ、すごい。ほんの少し前までは、他人のHPを見ていてカウンターの数字が6桁もあったりすると感心していたのに。

○昨日も書きましたが、私はモノグサな人間です。夜の歯磨きも腹筋運動も続けられません。自己申告なんて面倒なことをするくらいなら、税金で損してもいいやと思ってます。あれをしよう、これをしようと決意しながら、1年以上ほったらかしのことが山ほどあります。でも、なぜかHPの更新は毎日できるんです。溜池通信の本誌も毎週書いてるし。

○このHPのコンテンツは、現時点で7.76メガくらいです。地味な作りだから、中味はほとんどが文章です。これ全部、自分ひとりで書いているんだからちょっと呆れます。ちなみにニフティのメンバーズホームページですから、容量は10メガが限界です。これを拡張するためにはアットニフティに移行するか、あるいはプロバイダーを変える必要があります。でも面倒だから、何とかしなきゃと思いつつ、問題先送りで今日に至っています。そういう努力は苦手なんだよな。

○どうも自分のペースでできることなら、いくらでも平気で続けられるらしい。他人に合わせなきゃいけないとなると続かない。きっとワガママな人間なんですね。


<1月18日>(金)

○またまた出演しました、BSジャパンの『ルック@マーケット』。当初の予定では、新通貨ユーロがどうのこうのという話で、そのために紙幣の現物を用意してもらったりしていたんですが、番組開始直前になってキャスターの内山さんから、「ブッシュ政権とエンロン、旬の話だからこっちで行きましょう」ということに。ほいほいと予定を変更。てなわけで、今週号の溜池通信と同じ話をしてまいりました。

○この番組に出るのも3回目なので、ちょっと宣伝をしておきます。『ルック@マーケット』は、マーケットが開いている月〜金の午後4時〜5時にやっています。出演者はこんな感じ。テレビの仕事の仕方というのは実にフレクシブルで面白い。加えてマーケットという生き物が相手なので、番組放送直前にどんどん予定が変更されていく。小気味いいほどの出たとこ勝負。ちなみにサブキャスターの矢玉みゆ紀さんには、応援ページがあります。熱心なファンがいるんですね。

○さて、この番組で不肖かんべえが紹介した政治マンガには元ネタがあります。このページです。ちょっとすごいでしょ。最近いちばん流行のネタは「エンロンとプレッツェル」。下手な新聞を読むより、よっぽど勉強になること請け合いです。


<1月19日>(土)

○かんべえは町内会の防犯委員なので、12月から2月の土曜日夜は見回りをやります。「火の用心〜」というやつ。拍子木も、ちゃんといい音が出るのを揃えています。こういう活動をやっていること自体、最近ではめずらしい地域かもしれません。うちの町内は150軒ぐらいの住宅地で、ゆっくり歩いても20分もあれば終わってしまいます。人口はやや高齢化が進んでいて、ほとんどの人が顔見知り。犯罪や火災とはあまり縁のなさそうな町内会です。

○「火の用心」は、昔はもっと長い期間、それも週に2回くらいやっていた。最近は防犯委員もよる年波には勝てず(かんべえ41歳は圧倒的な若手)、どんどん手抜きをする傾向にある。防犯委員には、なぜか警察署から夜食用のカップ麺が支給される。変なことに予算がついているものだ。それから最終日には、委員が近所の寿司屋で打ち上げをするのだが、このお金も町内会から出る。一応の役得はついているのである。もっとも、だからといって火の用心をやりたがる人がいるわけではない。

○以前、マンション住まいの時代に理事会の役員をやったこともあるのだが、町内会とは全然違うと思う。マンションの理事会は1年限りの義務を果たすという感じで、皆さんよそよそしいし、物事を決めるときも変に民主的手続きを重視する。町内会はもっと不合理で面白い。しがらみもあればいざこざもある。やっぱり歴史の重みみたいなものが積み重なっている。町内会は日本の縮図だと思う。明日も昼から町内会の新年会に行ってきます。


<1月20日>(日)

○町内会の新年会は正午から、柏市駅前の「日本海」で。いつもながら、時間には全員揃ってしまうところがスゴイ。さすがにこんな時間から飲もうという客はないので、店は貸しきり状態。昼間から大宴会で、2時ごろにはカラオケも始まる。お年の方が多いので、流れる曲は「星野哲郎作詞」の演歌ばかり。3時近くになって約半数が散会。私もそこで失礼したけど、町会長をはじめ残った皆さんは果たして何時までやってたのか。やっぱりB29を見た世代は強い。

○柏市は40年くらい前に駅前で大火があったのだそうだ。そのお陰で再開発が進み、東口に商店街ができたという。最近は西口の高島屋を中心とする集積ができて、駅の東西はいい勝負になりつつある。わが町内はといえば、昔は水はけが悪くて、ちょっと雨が降るとすぐに池ができるような状態だったらしい。当初はほとんど家もなかったが、全国のいろんな地域から人が集まってきて今の町内ができた。私なんぞはバブル崩壊後に越してきた口なので、町の歴史を聞くと面白い。

○近所で飲むと、すぐに家に帰れるのがありがたい。とはいえ、帰るとそのまま熟睡してしまい、ステイゴールドの引退式を見逃してしまう。やっぱり昼間から飲むと、一日使いものになりませんな。


<1月21日>(月)

○今宵は有事法制について勉強。タカ派の知り合いが多い当方としてはめずらしく、「怖いですよ、コワイですよ、本当にいいんですか?」というリベラル派の方から話を伺ったのが、かえって有益でした。

○たとえば長年の疑問だったのが、1963年の三矢研究について。自衛隊の制服組が非常事態措置諸法令の研究をしていたというのが、なぜ当時はそんな大問題になったのか。総理大臣が「彼らはそれが仕事ですから」とひとこと言えば、それで済んだ話なんじゃないかと思ってました。ところが実際に三矢研究の検討項目を見ると、当時の自衛隊制服組の主力が旧軍関係者で占められていたこともあって、ほとんど戦前に回帰するような過激な内容なんですね。佐藤首相がそれを見て、「こりゃいかん」という話になったんだとのこと。

○こういう不幸な入り口をもった議論だけに、防衛庁側は極度にガードが固くなり、マスコミは勢い疑い深くなり、政治家もおっかなびっくり避けるようになった。かくして有事法制論議は一種のタブーになった。そもそも法律というものは、権力者から国民を守るために作るものであるはずだが、有事法制に関しては「法律を作ると国民の権利が制限される」というねじれた議論になってしまった。「傘の用意をすると雨が降るからいけない」という、おなじみの議論である。

○有事法制の研究は福田内閣の1977年から正式に始まります。それが25年後の今日になってやっと現実味をおびてきたというのも、考えてみればスゴイ話です。この間、防衛庁からのイレギュラーな情報漏洩がほとんどなかった、というのは左派陣営から見ると不気味なことらしいですが、かんべえとしては日本の組織としては稀有な、彼らの口の固さを称えたいような気がします。

○有事法制論議には面白い用語があります。たとえばROEといえば経済では株価収益率(Return on Equity)ですが、ここではRules of Engagementといって交戦規定になります。早い話が戦争に撒き込まれたときに、こういうときは撃っていい、悪いといったことをまとめたマニュアルを指します。PKOのときに問題になったことは有名ですが、なんと国土防衛戦争の場合も作ってなかったというから、個人的にはビックリしましたね。公式には陸海空の各自衛隊にROE策定が指示されたのは2000年12月とのこと。

○次に第一分類、第二分類というと不良債権問題みたいですが、ここでは以下のように定義されます。有事の際に、どんな法律が必要になるかを3種類に分類したもの。

第一分類=防衛庁所管法令。たとえば自衛隊法は、有事の際の物資の収用や土地の使用について規定しているが、知事に要請する手続きの政令が制定されていない。また、防衛庁職員給与法では出動手当ての支給や災害保障などの特別の措置を別に法律で定めるとしているが、まだ制定されていない。これらの法整備が必要。1981年4月に論点の整理が終了。

第二分類=他省庁が所管する法令。有名な「戦車は赤信号で止まるかどうか」の議論がこれ。有事の際に抵触する法令には、「道路交通法」「道路法」「港則法」「海上交通安全法」「海上衝突予防法」「航空法」「海岸法」「河川法」「森林法」「自然公園法」「建築基準法」「有線電機通信法」「公衆電機通信法」「電波法」「火薬類取締法」「医療法」「墓地、埋葬等に関する法律」(!)などがある。1984年10月に論点の整理が終了。(面白いので、暇な人は防衛白書をご参照あれ)。

第三分類=所管省庁が明確でない事項に関する法令。未整備。

○さて、小泉さんは有事法制に前向きです。1月18日の日本記者クラブでの質疑の中では以下のように発言している。

有事法制については、今国会で何が可能か、その準備を本格的に進めないと。有事の考え方、各政党で違うと思うが、軍事侵略、テロに対する危機対応、不審船に対する対応、それぞれ国民の安全に対するやはり備えあれば憂いなしというのが要諦、だんだん認識が深まってきた。備えがあれば憂いがある、という政党もあるので、当たり前の感覚を国会の場でも議論していく。そうしていく内に、緊急事態に対する備えがわかってくる。そういう中で法整備したい。第一分類とか専門的議論あるが、まず幅ひろい議論をするのが大事なので、逃げないで、備えあればという法整備を進めることを、考えていきたい。

○要するに幅広い議論をやりましょう、と言っている。これに対し、現場の山崎幹事長や中谷防衛庁長官は、「まず第一分類、第二分類から」という考え方。なにしろ先人の蓄積があるから、個別法を作って対応すればいい、という現実論だ。これと対極にあるのが、中曽根基首相のように安全保障基本法の先行を、という正面突破論。ところがそこまで踏み込むとすれば、戒厳令や集団的自衛権の問題が避けて通れなくなる。だったら憲法を論議しましょうよ、ということになる。そうなると今国会で、という話ではなくなる。

○基本法から行くか、個別法で済ませるか、その辺の戦略はほとんど見えていない。日本有事に限定するか、周辺有事にも広げるか、などの問題もある。誰が推進役なのか、もよく分からない。なんとも不透明なのである。加えて、有事法制の議論をやるときは、「全部はオープンにできない」という限界がある。たとえばROEなんてものは、軍事機密の最たるものだから、表沙汰にして議論するわけにはいかない。また「有事」を正確に定義することも非常に難しい。極端な話、「東京湾にゴジラが現れた」という場合でも対応できるように法案を書け、といわれてもできるはずがない。

○つまるところ有事法制の議論は、「あなたは誰を信用するのか」みたいなところに落着するような気がする。これはかなりの難問だと思う。仮に「自衛隊の制服組と朝日新聞の社説、どっちを信用しますか?」と聞かれたら、個人的にはかんべえは前者である。が、そんな人間が多数派を形成するとは思えない。しかるに後者が圧倒的な支持を得るような地合いだとも思われない。

○もうひとつ気がついたのは、「金融の世界の有事法制はどうなっているのか?」ということ。悲観的に準備して楽観的に行動するのが危機管理の要諦だとしたら、そのまったく逆をやっているのが現在の状況。これはこれで悩ましい。


<1月22日>(火)

○昨日、長編大作を書いたら今日はなんだかメールが多い。初めての方、懐かしい方に限り、この場でまとめレス。榊原さん、こちらこそよろしくお願いします。山本さん、そんな古い話は勘弁してくださいよ。それから山口さん、とても懐かしいです。感動してます。

○さて、昨日の有事法制論議に追加。詳しく調べたい方に、安全保障のデータベースとして日々充実の度合いを深めている宝珠山さんのHPをお勧めします。とくに以下の3本は勉強になりました。

●「広義の有事法制の概念図」

http://www.rosenet.ne.jp/~nbrhoshu/KougiyujihoGainenzu.html

●「新世界秩序の形成に貢献できる体制へ(020121案)」

http://www.rosenet.ne.jp/~nb2hoshu/Sekaititujyokeisei02121.html

●「2000年中期防等への期待」の後半部分。(最大の課題―ソフトウェアの整備)

http://www.rosenet.ne.jp/~nbrhoshu/goyu2000tyukinado.html


○と、ここで話題を変えます。気になっているのが、急に決まったブッシュ大統領の訪日であります。ホワイトハウスが1月11日に発表していたんですね。

http://www.whitehouse.gov/news/releases/2002/01/20020111-18.html


Statement by the Press Secretary

The President will visit Japan, the Republic of Korea, and China during the month of February. The President will depart Washington on February 16, arrive Japan on February 17, and then spend February 18-19 in Tokyo, February 19-20 in Seoul, and February 21-22 in Beijing.

During his visit to these three countries, the President will discuss our common struggle against terrorism, economic recovery, the strengthening of our alliances in the region, and other areas of mutual interest.

○日、韓、中の順番で3カ国を訪問し、それぞれ2泊、1泊、1泊というフォーメーション。ここでも「日本重視」の公約をしっかり果たそうとしています。ただしブッシュさん、何をしに来るんでしょう。テロや経済回復について新しい話なんて、思いつきませんよ。強いていえば日本の不良債権処理にプレッシャーをかけるくらいでしょうけど、2泊3日も日本で何をするんでしょう。しかも1ヶ月後だから準備期間は短い。小泉さんはキャンプデービッド山荘に招いてもらったんだから、こちらも気張ってご接待しなければ。

○そこで不肖かんべえが、ブッシュさんをもてなす方法を考えてみました。

@東京ドームで野球観戦。この日のために、イチロー、野茂、新庄なども含めたドリームチームを編成。

A小泉さんの地元、横須賀と鎌倉を見物。円覚寺舎利殿前で記者団を集めてキャッチボール。

B宮中晩餐会。宮沢さんをホストにして、10年前にお父さんがぶっ倒れた状況を再現。

C青森県むつ小河原開発地域で、エンロンの発電所計画跡地へご案内。

D日本製ポテトチップをお供に、小泉首相と一緒にソルトレーク冬季五輪をテレビ観戦。

○冗談のつもりで書き始めたが、A―Dは意外とありそうな気がするぞ。


<1月23日>(水)

長島昭久さん主催のセミナーへ。講師は毎日新聞の岸井成格さん。テーマは「2002年、政界再編はあるか」。面白い話がたくさんあった。

○その1。「いよいよテレポリティクスの時代に突入した」という指摘。昨年秋の政局で、抵抗勢力が急に腰砕けになった瞬間があった。それは松岡利勝氏が「危機突破・未来創造議連」を組織して、橋本派と江亀派の若手議員55人を糾合したとき。第1回会合を開いたら、テレビに映った顔が悪相揃いで、どうみても古い体質の自民党そのものに見えてしまった。名前だけ貸した某議員などは、支持者から「なんであんな会合に参加するのか」と抗議の電話が殺到して、あわてて脱会したという。これでは青木、野中両氏も動きようがない。鈴木宗男さんなどは、「なんでいつも俺が悪者になるんだ」と怒っているが、「そりゃアンタは顔が悪いから」とは言えないし、新聞にも書けない。

○その2。小泉政権を左右するのは「人気」と「景気」だが、実は「景気」が「人気」に影響しない。小泉支持者というのは、自民党支持者よりも無党派層に多い。なんとあの共産党支持者でさえ、4割が小泉政権支持なのだという。昨年の参院選、この4割は棄権に回ったらしい。共産党支持者が悩むくらい、有権者はこれまでの政治に絶望し、小泉首相に「せつない期待」を寄せている。だから景気が悪化したところで、人気は落ちない。

○その3。加藤紘一氏の秘書に関する疑惑は以前からあった。2年前の「加藤の乱」が最後に尻すぼみになったのは、当時の野中幹事長が「佐藤三郎疑惑」をカードとして使ったから。ただし表沙汰にはせず、加藤氏を「抵抗勢力の切り札」として温存してきた。ところが芸能プロダクションの脱税疑惑の捜査がとうとう加藤事務所に及んでしまった。政界に手を入れるときは、捜査陣は政治的につぶされる恐れがないかを慎重に見極めるもの。今動くからには、「今なら何をやっても大丈夫」という確証を得ているのだろう。同時に、民主党の鹿野道彦議員の元秘書の疑惑も暴いてバランスをとっている。

○通常国会が始まって、久しぶりに政治が面白いなと感じています。とくに政治家秘書による「口利きビジネス」のスキャンダルが暴かれていることは、従来型の公共事業が先細りしていく中で必然的に生じている「談合システムの自壊作用」ではないかと思います。構造改革というからには、こういう闇の部分にもメスを入れなければならない。某消息筋の話では、捜査陣が加藤事務所をやりますよと仁義を切りにいったところ、小泉首相は「俺がいないときにやってくれ」と答えたよし。それで東南アジア歴訪中にスキャンダルがはじけたんだそうですが、この話が本当だとしたら、この辺のドライさはたいしたものだと言わざるを得ません。


<1月24日>(木)

○今年初めて岡崎研究所に行って来ました。昨年11月に逝去された小川彰事務局長の追悼会の計画などにつき、若干の打ちあわせ。小川さんという人は「誉め上手」で、この溜池通信もさりげなく読んでいて、「いいこと書いてるね」みたいなことを絶妙のタイミングで言ってくれたものです。だもんで、何かのはずみに、「あ、もう小川さんは読んでないんだなあ」と思ったりする。やっぱり寂しいな。

○ちょうど国際大学の信田さんが台湾から帰ってきたところで話を聞く。台湾では、かんべえの友人の「らくちん」さんと会ったので、その様子がHPに書かれている。らくちんさん、その節はどうも。

○台湾の話を聞いていると、つくづく李登輝さんは偉い人だと感じます。ひょっとすると、ものすごい長期シナリオを描いていたんじゃないか、などと思ったりする。つまりこんな感じ。

1996年 初の総統選挙を実施して再選される。(台湾は民主主義国に)
2000年 憲法に従って2期で総統を引退。
     総統選挙では国民党の連戦を支持するが、野党の陳水扁が当選。(民主的な政権交代を実現)
2001年 新党を作って政界に復帰。

○この先の李登輝さんは、民進党と連立を組み、国民党の勢力を分断して多数派を形成するのではないか。そうなれば、かつては国家そのものだった国民党も、「普通の政党」にならざるを得ない。かくして2004年の総統選挙では、民進党の陳水扁対国民党の宋楚瑜、みたいな一大決戦になるんじゃないか。そうすれば米国型の二大政党制に近い体制ができあがる。実はこれが李登輝さんの長期計画だったのかも・・・・

○独裁政権を引き継いで、安定した民主政治に移行させる。しかも途中で混乱を作らない。こんな難しいことを、台湾はほんの数年で実現してしまった。韓国はもっと早くから大統領選挙を実施しているが、いまだに選挙の年になると見通しのつかない混乱に陥る。李登輝さんのようなビッグマンが出ないからじゃないだろうか。


<1月25日>(金)

○延々と続いていた歯医者通いがやっと終わりました。最終日の今日は歯垢を取ってもらいました。おかげで歯はきれいになりましたが、なんだかスースーしているみたいで落ち着かない。こまめに手入れしろと厳しく注意されましたが、果たしてちゃんと守れるかどうか。とにかく終わって良かった。

○世界経済研究協会の会合へ。早目に着いたおかげで、小島清先生と雑談する機会があった。なにせ私が在学中に授業を取った先生なので、かなりのお年である。お元気そうでなにより。終戦直後のドル円レートがいくらであるべきか、僕は360円を主張したんだが、篠原三代平君は280円と言ったんだよ、彼の方が先を見ていたんだな、などという豪快なお話。年内に1ドル200円という声もありますが、と水を向けたら、そういうのはケシカラン、今なら120円くらいが妥当な線じゃないか、とのこと。まったく同感。

○ホワイトハウスのアジア上級部長、トーケル・パターソン氏が辞任へ、という未確認情報が飛んでいる。ブッシュ政権内の親日派の代表選手で、アーミテージ人脈の若頭的な存在。もちろんアーミテージ・レポート執筆人の一人である。47歳と若く、政権入りする前はベンチャー企業にいたし、家族思いで知られる人なので、転身に他意はないのだと思う。だが、ブッシュ訪日を控えたタイミングでの決断は、いろんな推測を生むだろう。彼のファンは多いから、しばらくは波紋が広がりそう。


<1月26日>(土)

○雨が降っているので「火の用心」もお休み。ということで、最近の読書から。

○『貧困の克服』(アマルティア・セン/集英社新書)。アジア初のノーベル経済学賞受賞者の講演をまとめたもの。セン氏の書いたものを読むのはほとんどこれが初めて。東アジア経済の成功は、@基礎教育を重視したことと、A人々の基本的なエンタイトルメントを広範に普及させたこと、B国家機能と市場経済の効用を巧みに組み合わせたこと、だそうだ。この成功パターンを生み出したのは日本。たとえば1906〜11年の日本では、市町村予算の43%が教育費に当てられたという。「人間的発展は経済的成功に先行する」というのが、彼の基本的な認識のようだ。市場原理重視の「ワシントン・コンセンサス」的な開発経済論とは大変な違いである。

○セン氏はインドのベンガル州に生まれ、9歳のときに200万人が死んだという大飢饉を目撃する。これが経済学者になったきっかけだそうだ。「民主主義の政府や報道の自由のある国で、大飢饉と呼べる事態など一度も起こったことがない」「飢饉は、それを防止しようという真剣な努力がありさえすれば、簡単に阻止できる」などの指摘は、セン氏ならではの視点といえる。

○などと面白いとは感じたのですが、この先、他の著作を読み進めたいというほどではない。セン氏の功績は、経済学と哲学を結びつけたことだという。てなことを聞くと、哲学アレルギー(経済学だって、そんなに得意なわけじゃないが)のかんべえとしては、急に近寄り難くなってしまうのである。というか、この人の「人間の安全保障」という概念も、ちょっと理想主義的過ぎるように感じてしまうのだ。正直なところ、「貧困」「環境」「ジェンダー」などのイシューには、あんまり近寄りたいとは思わない。

○『キャピタル・フライト 円が日本を見棄てる』(木村剛/実業之日本社)。いつもの木村節満載。題名から考えて、日本経済のハードランディングについて詳しく書いてくれたのかと思ったら、そういうわけでもない。「金融庁のやり方じゃ駄目だ」「大手30社に対する引き当てを積み増しせよ」「マクロバランスは破綻する」「量的緩和は効果がない」などなど、要するにいつもの話。

○敵味方をハッキリさせた、小気味のいい語り口がこの人の持ち味だ。それだけにデマゴーグっぽくなるところもある。たとえば、彼が「ここは冷静に考えてみよう」などと言うと、「そういうアンタがまず冷静になったら?」とツッコミを入れたくなる。いえ、ほとんど異論はないんですけどね。


<1月27日>(日)

○今日の東京新聞杯(GV)、年明けの中山、京都の両金杯の勝ち組、負け組が集まって、どれが勝っても不思議のないレース。ビッグゴールド、イーグルカフェ、スティンガー、ゴッドオブチャンス、それにダービーレグノ。なんちゅう難しいレースじゃい。迷った末に自宅でテレビ観戦したら、それが正解でした。アドマイヤコジーンにディヴァインライトという、10番人気と8番人気のワンツーフィニッシュ。こんなの絶対に取れません。今日は悪天候のせいもあって、朝から2レースに1レースは万馬券という大荒れの東京競馬場。こういう日もあるもんですね。

○米国ではエンロン疑惑がさらに燃え広がっています。GAOがチェイニー副大統領に対し、国家エネルギー政策の決定過程を明らかにするように求めている。不規則発言の昨年5月22日分でも触れたんですが、あれは見た瞬間に不自然だと分かるようなシロモノです。おそらく資料が公開されれば、エンロンのようなエネルギー関連企業の強い影響下で作成されたことがハッキリするんでしょう。国家エネルギー政策は、現在法案化の審議中。

○ブッシュ政権は史上最高額の選挙資金を使っているだけに、エネルギー関連企業からの献金は膨大なものでした。だからといって、政権発足後わずか3ヶ月で新エネルギー政策を打ち出したのは、いくらなんでも性急過ぎたと思うんですが、こういうストレートさがブッシュ政権のひとつの特徴です。たぶん、カール・ローブ上級顧問が描いている政局シナリオがそうなっているんでしょう。ホワイトハウスにおけるローブの役割についてはここをご参照。

○ブッシュ政権のこういう危なっかしいやり方は、ジェフォーズ上院議員の共和党離脱という結果を招きます。(当不規則発言の昨年5月30日、31日分を参照) その後、「9・11」がすべての対立を押し流していたように見えましたが、アフガン戦線が一服した今、党派的対立が再燃するのもやむなしという状況かもしれません。民主党としては、これだけの材料を与えられて政権攻撃をしない手はありませんからね。

○それにしてもエンロン・スキャンダルの広がりはスゴイ。破綻規模は史上最大、政界との癒着あり、インサイダー取引あり、クレジット・デリバティブズなどという新しいリスクはあるし、社債デフォルトが海外へ波及して日本ではMMFが元本割れ。そして関係者が自殺。これで女性がらみの事件があれば画竜点睛ですね。

○どうでもいいことですが、またしても『料理バンザイ』のCMから雪印が消えました。私はAC(公共広告機構)のCMが嫌いなんで、非常に気になります。


<1月28日>(月)

○日本国際問題研究所の『米国新政権の経済金融政策とアジア』研究会(主査:中北徹・東洋大学教授)へ。今宵のテーマは最近の日米経済関係。為替レート、不良債権問題、デフレ対策、対中関係、それにエンロンなどが議論の対象となる。この会合、昨年秋から始まってもう5〜6回目になる。そろそろ報告書を書かなければならない。さてどうしたものか。

@案「ブッシュ新政権の経済政策と共和党の力学」:8年ぶりにホワイトハウスを奪還した共和党の内部事情と、2000年選挙の経緯から説き起こして、そこからブッシュ政権が「大減税」などの保守的な政策に至った経緯を論じる。

寸評:溜池通信が得意な分野。あんまりエコノミストらしくないのと、材料不足が心配。

A案「アーミテージレポートと新時代の日米関係」:アーミテージ・レポートが提案する対日政策と対アジア観を分析し、そこからブッシュ政権の対日経済政策を論じる。

寸評:すでにあちこちに書いたものがあるので、まとるのは楽。ただし、「9・11」以後の評価をどう入れるかが問題。

B案「9・11と変容するブッシュ政権の経済政策」:テロ事件の勃発と、その後の米国経済とブッシュ政権の政策を探る。

寸評:読者の興味は引きそうだが、あまりはっきりしたことは書けそうにない。

○上記3つのうち2つくらいを掛け合わせて書くことになると思う。もうちょっと悩んでから決めましょう。

○ところで、当HPの愛読者で「ノルウェーの賢人」ことAさんが、インターネット上にご自分のコラムを作られましたのでご紹介しておきます。Aさんは岡崎研究所のなんでも日記にも投稿されていますが、「北欧から見ると、国際情勢はこんな風に見えるのか」と発見することがしばしばです。

「我がニッポン日本・高見の見物」 http://homepage2.nifty.com/lite/no_nippon.html


<1月29日>(火)

○午前中、経団連に寄ってから出社すると、ウイルスが蔓延したらしくオフィスはちょっとした騒ぎになっていた。私のPCには4通くらい来ていたな。最近、怪しいな、と感じたときは、アウトルック・エクスプレスの「表示」から「レイアウト」を選び、「プレビューウィンドウの使用」をオフにします。それで怪しいメールは開かずに消去して、最後に「削除済みアイテムを消去」を選択すれば一件落着。

○念のため、今日受け取ったウイルスについて、トレンドマイクロ社のお知らせを紹介しておきます。お大事に。

●ウイルス名: WORM_MYPARTY.A
●危険度:中
●対応パターンファイル:210 以降    ※1
●ウイルス活動:
次のようなメールが送られきます。

   件名:new photos from my party!
   本文:
          Hello!
          My party... It was absolutely amazing!
          I have attached my web page with new photos!
          If you can please make color prints of my photos. Thanks!

   添付:
www.myparty.yahoo.com  (ファイル名)


添付ファイルを実行すると、自身のコピーファイルを C:\Recycled フォルダに"REGCTRL.EXE"という名称で作成します。

そして、マシンのレジストリより標準で使用されている SMTP サーバの情報、また「Windowsアドレス帳」ファイルよりメールアドレスの情報を取得し、SMTPサーバを使用して、上記のメールを送信します。

●予防対策:
トレンドマイクロ製品では、本ウイルスに対しすでにパターンファイル210以降で対応します。今後新たな亜種の発生も考えられるため、お使いの製品のパターンファイルを最新のものに更新してください。

●「WORM_MYPARTY.A」を検出した場合:
このウイルスはシステム改変などは行いません。検出したファイルを削除してください。1個のプログラムのため「ウイルス駆除」の処理は行えません。検出のファイルを「削除」していただければ、問題ありません


○さて、夜、自宅にいたところへめずらしく携帯電話が鳴った。かんべえの携帯の番号は、家族以外ではたぶん10人以下の人しか知らないので、「これはめずらしい」と思って出たら、なんと大谷信盛衆議院議員(民主党・大阪9区)。当欄でもたびたび登場しているが、ワシントン時代以来のポン友である。用件は、

「僕、明日からニューヨークのダボス会議に行くんです」

○スゴイではないか。ニューヨークのダボス会議とは妙だが、今年のWorld Economic Forumはニューヨークで行われるんだから仕方がない。昨日来の国会空転で、あれよあれよという間に「外遊、行ってヨシ」になったのだという。それは大いに結構。真紀子VS鈴木宗男の対決なんて、深入りしたところでもなんにもいいことナシ。心有る国会議員たるもの、世界のVIPの中に混じって大いに勉強してくるのが国益というものだ。本来ならば、成田空港に出向いて万歳三唱したいほどだが、とりあえずあとの土産話を楽しみにしておこう。


<1月30日>(水)

○小泉首相が田中真紀子外相を更迭。慶賀に堪えず。これで日本外交は正常化への第一歩を踏み出す。ついでに日本外交を邪魔する鈴木宗男氏にも鉄槌が下った。めでたし。野上事務次官は惜しい逸材なるも、もともとなりたくてなった次官でもなく、大臣と刺し違えなら本望であろう。今後外務省の事務方は、暗黒時代が去ったことに湧きかえっているだろう。こうしている間にも、ブッシュ大統領は恒例の年頭教書を発表し、今週末にはダボス会議が控えている。外交に空白は許されない。励めよ、外交官諸君。ジャンジャン!

○と言って済ませられれば、まことに結構なことなのですが。本日、BSジャパンの『ルック@マーケット』に出演しましたので、「真紀子さん解任、吉崎さんはどう思われますか?」と聞かれて、こんな風に答えました。

「小泉さんと田中真紀子さんはペアで政権を作った。二人は義経と弁慶のような関係です。弁慶が全身に矢を受けて立っているから、義経は今まで安泰だった。ところが今度の事件は、国民の側からは、まるで義経が弁慶を後ろから斬ったように見えてしまったのではないか」。

○そうだとすると、これはヒジョーにまずいことです。先週号の溜池通信で、「平成になってからの日本政治は、せっかく選挙で国民の負託を得た政権ができても、1年近く経つと予想外の事件に直面して求心力を失ってしまう、という繰り返しが続いている。今年の小泉政権もそういう危険水域に近づきそうだ。そうなると平成5度目の挫折となってしまう」てな話を書きました。そのまんまの危険が目の前に起きています。今日の株安は、前日の米国株の下げを受けたことと、東京海上と朝日生命の生保統合の白紙撤回が原因ということになっているけれど、小泉政権の迷走が始まるかもしれない、というリスクも折り込み始めたような気がする。そうはならないことを祈るばかりです。

○さて、今日の『ルック@マーケット』は、『1ドル200円で日本経済の夜は明ける』を書いた藤巻健史氏と、『キャピタル・フライト 円が日本を見棄てる』の木村剛氏がゲスト。どちらも強烈な円安を予想しているが、前者は楽観、後者は悲観と意見が分かれている。こりゃ面白いわ、ということで対決させようというのが番組の思惑。当方から見ると、藤巻さんは大学の先輩、木村さんは高校の後輩だったりする。というわけで、不肖この私めが審判役をば演じたわけです。

○結論はといえば、時間が足りなくて消化不良になったのですが、こちらの読み方とは正反対に、お二人の見方は大きくは違わないんですね。そして藤巻さんは、「今となっては有効な政策は円安誘導で資産インフレを起こすしかないでしょう。それができなければ、日本経済は破滅があるのみです」という意味では悲観的だし、木村さんは「円安がコントロールできるとは思えないけども、結果的にハードランディングになるのなら、それはそれで新しい展開も期待できる」という考えなので、楽観的ともいえる。いや、勉強になりました。

○今日は大きなニュースが飛びかったので、このニュースが注目されていない恐れがある。それはブッシュ大統領の"States of Union"の内容。以下の部分は驚愕すべき要素を含んでいると思う。

Our second goal is to prevent regimes that sponsor terror from threatening America or our friends and allies with weapons of mass destruction. Some of these regimes have been pretty quiet since September 11th. But we know their true nature. North Korea is a regime arming with missiles and weapons of mass destruction, while starving its citizens.

Iran aggressively pursues these weapons and exports terror, while an unelected few repress the Iranian people's hope for freedom.

Iraq continues to flaunt its hostility toward America and to support terror. The Iraqi regime has plotted to develop anthrax, and nerve gas, and nuclear weapons for over a decade. This is a regime that has already used poison gas to murder thousands of its own citizens, leaving the bodies of mothers huddled over their dead children; this is a regime that agreed to international inspections then kicked out the inspectors; this is a regime that has something to hide from the civilized world.

States like these, and their terrorist allies, constitute an axis of evil, arming to threaten the peace of the world. By seeking weapons of mass destruction, these regimes pose a grave and growing danger. They could provide these arms to terrorists, giving them the means to match their hatred. They could attack our allies or attempt to blackmail the United States. In any of these cases, the price of indifference would be catastrophic.

○大統領が年に1度、議会で演説する記念すべき瞬間に、名指しで非難しているのが「北朝鮮、イラン、イラク」の3カ国なのである。この順番にどんな意味が隠されているのか。しかもこの3カ国を、"Axis of evil"と称している。これではまるで日独伊枢軸同盟である。ここまでハッキリ言われたら、ちょっとビビルのが普通ですぞ。金正日さんの今宵の心境やいかに。やっぱり日本外交が空白を作ってちゃいけないんですよ。NGOの出席がどうのこうの言っている場合じゃないと思うんですが。


<1月31日>(木)

○昨日の続き。小泉内閣の支持率低下は避けられないところでしょうが、もしも「緒方貞子外相」がすんなり決まるようなら、被害は最小限度に留まるでしょう。なにしろ昨日の午前の時点で、ワシントンからは「緒方待望論」が聞こえてきた。ある著名なジャパノロジストなどは、「緒方外相が決まるようなら、過去6ヶ月間に日本から届いた中で最良のニュースになる」とまで言っていた。逆に緒方氏が固辞して人選が難航するようだと、この内閣の行方も不透明となる。

○今夜になるのか明日になるのか、とにかくある時点で「外相人事」に関するニュースが流れるでしょう。それは今後の政局を占う上で、非常に重要なシグナルといえる。こういうとき、記者たちはいかに「人事情報」を抜こうかと必死になる。夜回りや朝駆けは当然。なかにはきわどい手を使う人もいるらしい。以下はかんべえの友人、I氏から聞いた「人事情報を抜く裏技」である。

用意するもの、名刺。
たとえば「日本銀行総裁、藤巻健史」と刷った名刺を2箱ほど持って、相手の家に夜回りにいく。

記者「こんばんは、藤巻さん、今夜はもうお祝いですか?」
藤巻「なんだね君、そんな話はないよ。帰った帰った」
記者「もう決まりだとみんな言ってますから、お祝いの品を持ってきました。どうぞ」(と、名刺を渡す)。
藤巻「何だよ、これ。困るよ、こんなことされちゃ」
記者「これがホントの新聞辞令ってやつですか」(と、ふざけながら、相手の目を覗き込む)。
藤巻「こんなもの、受け取れないよ。持って帰りなさい」
記者「いいじゃないですか、高いもんじゃなし。それに決まればすぐに千枚やそこら使うんでしょうから。とりあえず持っておいて、ムダにはなりませんよ」
藤巻「しかし、君もとんでもないことするなあ・・・・・」

○これで相手が受け取ったら最後、翌朝の一面には「日銀総裁に藤巻氏」と出てしまうという理屈である。怖いね。(念のために書いておきますが、速水現総裁の任期は2003年3月末までですからね)。







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by Tatsuhiko Yoshizaki