●かんべえの不規則発言



2009年12月






<12月2日>(水)

○昨日は講演で富山へ。って、今年はもう5回目ではないか。呼んでくださる主催者の皆様に感謝であります。

○ひとつ驚いたのは、全日空の時刻表が変わってしまったので、午前10時台に羽田を立って昼頃に富山市内に着く便がなくなってしまったこと。しょうがないから、午後2時からの講演に間に合わせるために、小松空港行きの便を使うことに。乗換えがきわどいので、ちょっと焦りましたな。お陰で、1日の間に「富士山と白山と立山」を見ることができたのは、ちょっと得した気分でしたが。

○さて、最近の富山市内では、既存の市電をライトレールに変更する工事が行なわれている。そのために、滅多に起きない渋滞が市内で起きている。だからといって、市役所には苦情の電話は全然かかってこないというのが、いかにも富山らしい話である。開業は12月23日であるとのこと。

○このライトレールは、富山駅北口から岩瀬浜という海岸を結ぶ「ポートラム」が2006年に開通して、好評を博している(前原大臣も見に来たらしい)。ただし、富山の市街地は駅の逆側なので、いよいよそっち側でも導入されることになった。かつて縮小されて消えた環状線も復活し、新たに「セントラム」の名でお目見えする。

○高齢化時代に加えて環境重視ということで、「コンパクトシティ」を目指す地方都市が増えている。そうなると交通インフラが非常に重要になるわけで、セントラムが成功するかどうかは非常に重要な分かれ道といえる。ちなみにポートラムとセントラムは、2014年に北陸新幹線が開通したら結合することになる予定です。

○その一方で、北陸新幹線が開通した瞬間に、今度は飛行機と高速道路をあわせた競争が始まるわけで、人の移動がそれだけ増えればいいのだけれど、パイの食い合いで縮小均衡になる怖れもある。結局、交通インフラを考えるときは、全体の構想を描くのが大事なのだけど、国土交通省の行政は「航空局と鉄道局と道路局」が別々に考えているようなところがある。

○こういう縦割り行政に横串を刺すことも、今後の重要課題ではないかと思います。でないと、小松空港を経由するような非効率になってしまいます。というか、全日空は午前10時台の富山行きを復活してくれ〜。


<12月3日>(木)

○ちょっと遅れましたが、新語・流行語大賞が出ましたね。主に取り上げられるのは「政権交代」や「事業仕分け」などの政治ネタで、あまり触れる人がいないんですが、今年はとても久々に「CM発の流行語」が出たことが画期的だったと思います。そう、「こども店長」(加藤清史郎くん)ね。

○実はCM発の流行語は、たしか2001年の「明日があるさ」まで遡らないと見当たらないはず。この間、CMの力が失われてしまったのか、むしろ流行語を生み出すのはお笑い芸人だったのです。逆に今年はそのお笑い芸人が見当たらない。しばらく続いた「CM<お笑い芸人」の図式に変化が生じて、またちょっと時代が変わってくるのかもしれません。


<12月4日>(金)

○ジョン・ルース大使の講演会を聞きに行きました。歴代の駐日大使のような「大物」ではありませんが、いかにも誠実そうな人柄でしたね。話の内容は多方面にわたる立派なものでした。ただし言ってみれば、"No news, no drama."で、新聞の見出しになるようなものではありませんでした。

○講演後に質問に立ったのが、久保先生(東大)、阿川先生(慶応大)、道傳さん(NHK)、槇原相談役(三菱商事)でした。いちばん過激な質問をしたのが道傳さんで、普天間問題で踏み込んだ発言を引き出そうとしてましたが、ルース大使は「その手には乗りませんよ」とばかりに無難な答えに終始しました。

○ひとつ心に残ったのは、ルース大使が「着任から2〜3ヶ月はListeningとLearningに専念するつもり」と言っていたことです。まるで、「大役を引き受けましたので、しばらくは勉強させていただきます」式の日本風な挨拶で、普通のアメリカ人はこんなこと言いませんわなあ。どうもオバマ大統領が気に入るのは、ガイトナー財務長官といい、ルース大使といい、異文化に寛容で、謙虚なタイプのようです。

○ただ今、渡辺将人著『評伝バラク・オバマ〜越境する大統領』(集英社)を読んでおります。インドネシア、ハワイなど、オバマの足跡をたどり、昔のオバマを知る人たちの証言を集めつつ、彼の人生行路を描いている本でして、以前から渡辺さんに注目している者としては、「やったねえ」とうれしくなるような作品です。

○オバマはジャカルタで暮らしたことでは「帰国子女」であったし、ハワイに居たときには「マルチエスニックのアジア人」であったし、コロンビア大学では「詩人」であったりと、若いうちからいろんな経験を積んできた複雑なキャラクターです。特に高校時代の恩師であるクスノキ氏との触れあいの部分は心に残ります。

○こういう人生行路をたどった大統領だけに、ときどき「アメリカ人らしくない」行動パターンを発揮する。おそらくルース大使も、「類は友を呼ぶ」タイプなんじゃないかと思います。もっとも「2〜3ヶ月勉強した上で」、やっぱり日本は同盟国に値せず、と結論されてしまうかもしれず、それはそれで困るんですけどねえ。

○それはさておいて、今日の主催の日本国際問題研究所、先日の「事業仕分け」で補助金をばっさり削られて、果たして大丈夫なのか。「外交フォーラム」と「ジャパンエコー」の政府買い上げも切られて、北岡先生が緊急アピールしておられましたが、日本外交にとっては受難の日々が続きます。


<12月6日>(日)

日本貿易会貿易動向見通しが出ましたので、例年通りご紹介をば。

○2009年度の通関ベース見通しは、輸出が57.0兆円で輸入が52.6兆円。かなりショッキングな落ち込み方です。輸出は07年度が85.1兆円でしたから、わずか2年で28兆円の減。これだけ減ったら供給過剰になるのは当たり前。巷間「デフレギャップが35兆円」などといわれますが、その大部分は外需の減少で説明できてしまうのだ。

○振り返ってみると、2003年の輸出が56.1兆円だったので、そこから4年かけて30兆円増やし、2年で元に戻ったことになる。小泉政権時代の「いざなぎ超え景気」とは、機械機器を中心とする輸出主導型であり、それが2%程度の息の長い成長をもたらしたわけだが、リーマンショック後はそれがほぼ吹き飛んだ計算になる。

日本の輸出の三本柱は「輸送用機器、電気機器、一般機械」であります。今まではこの3つがコンスタントに15〜20兆円ずつを稼ぐという、まことにいいポートフォリオであったのですが、09年度は「13兆円、11.6兆円、9.7兆円」になってしまう。ほとんど落涙モノです。

  2005年度 06年 07年 08年 09年度 10年度
総額 68.3兆円 77.5 85.1 71.1 57.0(▲19.9%) 61.5(+7.8%)
輸送用機器 16.0兆円 18.9 21.4 16.9 13.0(▲22.8%) 14.2(+8.9%)
電気機器 15.0兆円 16.4 16.7 13.6 11.6(▲14.8%) 12.1(+4.6%)
一般機械 13.7兆円 15.3 16.8 13.6 9.7(▲30.9%) 10.2(+4.7%)


○2008年度の前半までは、世の中全体はイケイケムードだったわけで、その後のリーマンショック、トヨタショックから強烈な落ち込みが来た。生産の調整は簡単にできるけど(というか、売れないものは在庫になるしかないので)、その次に来るのは人件費の調整である。これが1年遅れて到来し、足元の個人消費を直撃しているわけだ。こりゃ大変である。

○輸入を見ても、驚くべき現象がある。食料品の輸入は例年、ほとんど変化がない。過去4年間の推移は5.7兆円、5.8兆円、6.0兆円、6.0兆円である。それが2009年度の予測は4兆9820億円。あっと驚く5兆円割れだ。人間が食べる量がそんなに急に減るわけがなく、消費者の低価格志向によって魚介類ではマグロやエビが値崩れし、肉では牛から豚や鳥へのシフトが起きているらしい。

○やはり日本は貿易立国。モノの流れを見れば一目瞭然。さて、問題はこれから先のことだが、ここまで落ちてしまえば後は戻るしかなく、2010年度はそこそこ反動増が期待できそう。世間では二次補正が問題になっていますが、これを見る限りやはりある程度の規模はあった方が良いように思われます。


<12月8日>(火)

○貿易動向の続きをもう少し。

○食料品の年間輸入量が5〜6兆円というのは、普通の人が聞くと「少な過ぎるのではないか」と思われる額のようですね。でも、全体の1割程度なんです。しかも輸入の通関統計はCIF価格ですから、この金額には運賃や保険料も上乗せされています。さらに言えば、この中には「牛や豚が食べる飼料用のとうもろこし」や「切花、植木」なんぞも含まれています。つまり、全部が全部、人間様の口に入るわけではなくて、「真水」はもっと小さな額となります。

○ひとつには「自給率が4割を切って云々」という政府やJAによる保護主義キャンペーンが行なわれているために、「われわれは海外からすごく高価な食料品を買い過ぎていて、そのために国内の農家が困っているのではないか」という、一種のGuilty Trapをかけられているせいではないかと思います。日本は確かに海外から、高級ワインやらナチュラルチーズなど贅沢な食材も買っているわけですが、そんなに突拍子もない額ではないのであります。

○ちなみに国内の農業生産高は、たしか10兆円を少し切る程度だったはず。(そこには3兆円程度の補助金がつぎ込まれている!) ですからカロリーベースの自給率とは別に、価格ベースの自給率というのを計算してみるのも一興かと思います。この場合、国内流通のコストがありますので、計算はかなりめんどくさそうですな。自分でやる気にはなりませんので、念のため。

○もうひとつ、「日本はいずれ落ちぶれて、海外から食糧を買う外貨もなくなるんじゃないか」的な恐怖をお感じの方もときどき見かけます。これもいささか非現実的な想定でありまして、なにしろ食料品はせいぜい5〜6兆円ですけれども、今やピーク時の半分になってしまった自動車輸出でさえ7兆円以上あります。この国は、やせても枯れても産業大国でありますから、外貨がなくて食うに困る、てな恐怖は無用のことかと存じます。

(その代わり、アメリカがシーレーンを守ってくれなくなって、船の渡航に支障をきたすようになり、島国全体が干上がってしまうというリスクはリアルにありますぞ。誰か、鳩山さんにこのことを教育してやってくれえ!)

○その食料輸入が2009年度は4兆9820億円(予測値)と聞くと、この1年で食料品価格が激しく下落しており、消費者が低価格志向になっていることが見て取れます。魚介類は前年比▲11.3%の1.2兆円、肉類は▲20.1%の8550億円。マグロやエビを遠慮して、肉は牛より豚や鳥、という性向になっているようです。食べる量自体は、そんなに急に減るはずがないと思うんですよね。

○およそこの国は有史以前から、「衣食住」では「食べること」にもっとも力を入れてきた歴史があると思います。今の日本の食い物文化の豊穣さを考えると、先人たちの執念たるや凄まじいものがある。それが今現在は、とっても「らしくない」ことが行なわれているようです。


<12月9日>(水)

○用事があって参議院議員会館に行ってたら、女性の声に呼び止められました。誰かと思って振り向いたら、「れんほーさん」ではありませんか。

「最近、すごく露出が多いじゃない。なんだか知ってる人じゃないみたいだよ」

とイヤミを言ってみたら、

「そーなのよ。わたしも自分じゃないみたい。あれってきっと、わたしのアバターよ」

と、言ってました。れんほーさん、事業仕分けからこの方、ちょっとした「ときの人」状態で、アバターが非常に多く出没しているようであります。

○隣に居たご主人のムラタさんとちょこっと立ち話。「とうとう発表になっちゃったよねー」。


●テレ朝来春大改編!

 テレビ朝日が、来年4月の改編期に大なたを振るう。小宮悦子キャスター(51)が、司会を務めてきた報道番組「スーパーJチャンネル」(月〜金曜後4・53)から降板。ジャーナリストの田原総一朗氏(75)も「サンデープロジェクト」(日曜前10・00)を降りる。いずれもリニューアルに伴う“人事”で、後任は今後発表される。

(中略)

 一方、田原氏は89年4月の番組スタート時から、政治家の討論コーナーのホスト役を20年にわたって担当。各党幹部から引き出した発言が新聞などで報道され、政局に影響を与える「サンプロ現象」を呼び起こすなど、こちらも番組の顔として大きな注目を集めてきた。後任は人選中。もうひとつのレギュラー番組「朝まで生テレビ!」(金曜深夜1・25)には引き続き出演する。

http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2009/12/09/01.html 


○その昔、海江田万里事務所の第一秘書だったカクタニコーイチ氏のところに遊びに行ったら、そこにムラタ氏が取材に来ていて、「山一證券と合コンしましょう」などと言っていたのは、あれは細川政権の頃であったか。

○それから万物は流転し、角ちゃんは政治ジャーナリストになり、ムラタ氏は田原総一朗スタッフになり、れんほーさんは参議院議員になったわけだが、まさかワシがサンプロのコメンテーターになるとは思わんかった。不思議なもんです。

○流転はこれからも、さらに続くのであろう。


<12月10日>(木)

○年の瀬らしく慌しい一日。なんだかいろんなことを脈絡なくやっている感じ。

○まず、ミレニアム・プロミス・ジャパンの理事会へ。威張れるほどの活動をしているわけではないのだけれど、発足から2年目に入り、知名度も向上してきた模様。鈴木理事長によれば、「個人の寄付も少しずつ増えてきた」模様。景気の先行きを考えると、企業からの寄付が潤沢に集まるとは考えにくいので、堅実な見通しの下での運営が当面の課題かな。

○それから某世銀関係者とランチ。新丸ビルの随園別館に入るも、かつての新宿3丁目店とはまったく別物となっているのがチト残念である。「IDAのことを、第2世銀と呼ぶのは誤解を招きます」とのこと。だって中学生の頃に、そう習ったんだもの。その頃は財政投融資のことを「第2の予算」とも呼んでいたんですが。

○夜は虎ノ門で忘年会。

○途中で抜け出して「SPA!」の座談会。お相手はこの人この人である。というと、いかにも「カリスマブロガーが語る世界経済の行方」とか、「2010年、金融危機後の賢い投資術」などを語ったと思われるだろうが、そこは曲者の「SPA!」編集部、そんな見えみえオープンリーチではないのである。果たして今宵のムチャクチャな議論を、どうやって原稿にまとめるのか。掲載は12月22日発売号の予定。

○終わってからTBSへ。「バトルトークラジオ、アクセス」に出演。この番組、その日のニュースランキング(カウントダウン・トゥデイ)を決めてから、当日のゲストを決めると見えて、いつも電話がかかってくるのは当日の夕方になってからである。スタジオに入ると、リスナーからの声のメモが多過ぎて、足の踏み場もない状態。

○今宵のテーマは「今の日米関係は危機的な常態か?」。スタッフによれば、「今日はリスナーがとても“温まった”状態です」とのこと。まあ、確かに「危機」というと大袈裟に聞こえるが、今の官邸の迷走振りを考えれば、日本国は十分に危ない橋を渡っているわけでして。

○今月の中央公論で、脱力さんがとうとう正面切って鳩山首相批判を展開している。内情を聞けば聞くほど、統治能力が低くて情けない。またしても短命な内閣ということになるのだろうか。


<12月11日>(金)

○「そろそろtwitterをやりませんか」などと言う人あり。冗談じゃないです。Facebookだけでも厄介なのに。ということで、今日はちょっと短文でぼやいてみる。

○今年の漢字は「新」ですか。新政権に新型インフルエンザ。うーん、それだけ? だったらむしろ「薬」が良かったんじゃないかと。ワクチン騒動にのりピーなど。もちろん、「くすり」ではなくて「ヤク」と読みましょう。

○普通のゴルファーであれば、まったく問題はなさそうな不倫騒動。タイガー・ウッズが何だか気の毒。なまじ沈着冷静と思われていたのが仇になった感あり。将棋界における「中原突撃事件」をふと思い出す。

○中国でニンニクが暴騰しているとのこと。ホットマネーが変なところで暴れている模様。それにしても、オランダだとチューリップになるものが、中国だとニンニクやトウガラシになってしまう。お里が知れるというか。

○赤星や ああ赤星や 赤星や。背番号53は、当初は「ゴミ」とか「誤算」と言われたそうだが、阪神にはめずらしいタイプのいい選手であった。治療に専念して身体を治してくれ。ありがとう。ありがとう。

○はたと気がつく。短文の方が書くのが難しいではないか。Twitterを俳句の感覚で考えてはいけません。


<12月13日>(日)

○図に乗って、今日もつぶやいてみる。

○12月にケンタッキーに並ぶことなかれ。クリスマスの予約客が行列を作っている。24日前後は、1時間刻みで「プレミアムチキンセット」を配給することになるらしい。ワシはチキンカツサンドが食べたかっただけなのに。

○そろそろ年賀状のご準備を、という季節。2006年から枚数が激減している由で、どうやら個人情報保護法で名簿が手に入らなくなったかららしい。もともと止めたいと思っていたところに、絶好の言い訳が手に入ったというか。

○さる人いわく。「鳩山さんにとってのお金って、普通の人の水道みたいなものなんでしょうね。蛇口をひねれば出るし、締めれば止まる。どれだけ出たかなんていちいち気にしない」。・・・・9億円も漏れてたら、水道でも大事件だと思いますよ。

○2010年予測はいろいろありますが、「シュワちゃんがカリフォルニア州知事を任期満了」というニュースがあるんですね。公職引退後は何をするんでしょう。とりあえずはスタローンの映画に出るそうですが。

○ところで、このサイトは勉強になりますね。今後、ちょくちょく覗かせてもらおうかと思います。

●Lighthouse 特集記事を読む http://www.us-lighthouse.com/specialla/


<12月14日>(月)

○講演会で名古屋へ。今年は3月と5月にも名古屋に行っているけれども、さすがにその当時に比べると、ちょっとは景気がマシになっている感がある。ただし、「もっとも多く雇用調整助成金を使っているのは愛知県」という話もあるのだそうで、やっぱり自動車産業の存在が大きい。「来年のトヨタ」の姿が見えてこないことには、景気の行方もよく分からないというのが、正直なところではないかと思う。

○今日発表の日銀短観も、確かに良くなってはいるのだけれど、勢いはちょっと弱い。「生産の調整は半年で出来るけど、人件費の調整は1年以上かかる」というタイムラグが起きているからだろう。その間はジョブレス・リカバリーになるので、どうしても回復は緩やかになる。下手をすれば「足踏み期間」か「二番底」になる。来年の景気を予測する際には、こういう慎重な見方が本線となるだろう。

○今から考えると、IT化が進んだり、株主重視経営が普遍的になったために、全世界的に経営判断がスピーディーになっている。だからリーマンショック後は、世界中の企業がやり過ぎるくらいのリストラをやってしまった。そのために景気の落ち込みが激しくなってしまったとしたら、これは典型的な「合成の誤謬」である。まあ、その分、アメリカ経済では、「雇用の回復は意外と早いかもしれない」てな読みも出てきているようですが。

○この話、今年3月5日に名古屋で講演した際に、ちゃんと不規則発言で書いていたのに、すっかり忘れておったわい。「名古屋の立ち直りは早いか手間取るか。今後はちょくちょく『名古屋ウォッチング』をした方が良い」などと書いているではないか。いかんですねえ。


<12月15日>(火)

○この英語表現にふーん、と感心しました。"Xi-Emperor meeting OK breaks protocol"。(習近平・天皇会見の了承はプロトコールに違反)。プロトコールと言えば軽いようだけど、皇室がらみと思えばやや重くもある。例えば「大きな国も小さな国も分け隔てなく」という原則は、わが国皇室のあり方にとってきわめて重要であり、揺るがせにできないルールといえましょう。

○天皇陛下と外国の賓客が会見する際の「1ヶ月ルール」を、たかが「外交儀礼」と考えれば、「役人が決めたルールになぜ政治家が従うのか」という小沢流原理主義になります。でも、おそらく庶民感情的には、「天皇陛下をお守りするという聖なる仕事をしている宮内庁長官に、汚ない政治家風情が何を抜かすか」ということになるのだろうと思います。そもそも天皇陛下が外国の賓客と会うことは、国事行為とはならないんだって。憲法、よく読もうね、幹事長殿。

○それにしても踏んだり蹴ったりなのは習近平さんの方でしょう。これでは日中友好どころか、完全な嫌われ者になってしまいました。おそらくご本人は会見などどうでもよくって、周囲のゴマすり連中が「胡錦濤も副首相時代に会っているのだから、習近平が会えなかったら一大事」とばかりにゴリ押ししたんでしょう。でも、世の中に「1ヶ月ルールを知らない外交官は居ない」んだそうで、どういう経緯でこのチョンボが発生したのかは謎ですね。

○もし、これが中南海の新たな政争のネタになったりすると、またまた楽しくなってしまいますな。さるチャイナウォッチャーによれば、「日中の双方において、日中関係はほとんど内政問題」なんだそうです。言われてみれば日本側でも、幹事長殿のキレまくり記者会見が馬鹿受けしちゃったりしております。でも、予算の年内編成がありますので、くれぐれもふて腐れて雲隠れなどなさいませぬように。

○他方、普天間問題もいよいよ先送り決定。この件について、「日本もたまにはアメリカに逆らってみていいじゃないか」という受け止め方をしている人は、少なくないと思います。でも、「日本が日米合意を破った」という形になったことは、重く受け止めるべきではないかと思います。「日本は政権交代したときに二国間の合意を破った」という前例ができたからには、他国が日本に対して同じことをしてきたときに責められなくなるのです。

○さらに言えば、多くのアメリカ人は普天間のことなど知りません。でも単純な人たちだけに、「日本が合意を破った」ということは大いに失望を招くはずです。ブッシュからオバマになったときに、アメリカは合意を見直すなどとは言いません。その点、鳩山内閣の場合、「約束を破る」という外交上のリスクを冒す見返りが、「三頭の連立を守るため」というのはあまりに情けない。

○思うに鳩山さんが守ろうとしているのは、国益でも沖縄の民意でもなく、野党のときに自分たちが言っていたこととの整合性に過ぎない。民主党関係者にとっては大事なことかもしれないが、日本国民全体から見れば些事というもの。与党になったら、支持者だけじゃなくて日本全体を守らねばならない。そのために過去の言説を曲げるのであれば、それをとやかく言うほうがおかしいと思います。

○もうひとつ。辺野古に代わる移転先をこれから探すというのであれば、10年以上前に言っていた「メガフロート」案はどうなのかと言いたい。カネはかかるけど、騒音もなければ環境問題にも優しく、不要になったら他へ持っていける。そのアイデアがなぜつぶれたのか。「それじゃ沖縄にカネが落ちないから」が理由でありました。この問題はキレイごとばかりじゃないんです。


<12月16日>(水)

小幡績さんの対談本(with島田裕巳!)が出ています。『下り坂社会を生きる』(宝島社新書)という。あんまり面白いのでいっぱい線を引きながら読んでしまったが、キモの部分を言うと、「これからの日本は、箱根駅伝でいえば復路の6区のように”すべて下り坂”なんじゃないか」ということだ。さあ、どうする、ニッポン。

○実は下り坂の戦略というものは、今まであまり考えられてこなかった。上り坂や平地であれば、その通りにできるかどうかはさておいて、戦い方はある程度分かっている。下り坂には「下りのスペシャリスト」が必要だろうが、そんなコースを走り抜いた国はまだない。日本は課題先進国なので、先頭切ってこのコースに突入してしまった。下り坂で勝負するコツとは何なのか。まことに興味深いテーマではありませんか。

○たまたま今日参加した朝食会の席上で、小幡さんがスピーカーの一人だったので、「下り坂ではリスクを取りにくくなる。そのことがいちばんの問題点なのではないですか」と質問させてもらった。彼の答えは「人生はギャンブルです。下り坂でもリスクは取らなきゃいけません」というものでした。さすがは千葉のケインズ。

(ちなみに小幡氏はヒソヒソ声で、「最近の上海馬券王先生は絶好調ですね。来週はどうでしょう?」と言っていた。こちらからは、「おそらく朝日FS杯はバッチリ当てて、有馬記念でずっこけるでしょう。彼の予想に乗るなら今週です」と申し上げておきました。以上、業務連絡でした)。

○たまたまワシの隣に座っていたのが、「がんの練習帳」などで啓発活動を行なっている東大の中川恵一教授で、「おっしゃる通り。人生の下り坂は大切です。銀行預金を積み上げているばかりではいけません」としきりに頷いておられました。本日、頂戴した「がん」に関するメモ帳は大変、優れものであったことを付け加えておきます。

(追記:せっかくですからこの小冊子をご紹介しておきましょう)

○さて、それは大いに結構な話なんですが、「お前たちには成長戦略がない」と言われ続けてきた民主党は、これから真面目に成長戦略を作るみたいです。きっと「ああしろ、こうしろ」「数値目標はこれこれだ」などという、きわめて介入主義的なプランを作ってくれるのでしょう。政務官が大勢、徹夜したりするんでしょうな。お疲れ様です。

○成長戦略というのは、政府が民間に対して口を出すことではありません。通産省の歴史を見れば一目瞭然。政府の介入なんて滅多にうまく行くもんじゃありません。民間の活力を引き出すためには、政府が目をつぶることの方が有益だったりします。でも彼らはActivist Government志向のようですから、規制緩和はお嫌いでしょう。だったらいっそのこと、「下り坂戦略」を考えてみるのはいかがなものでしょう。

○ついでにもう一言。政治家が民間企業に対して、「温暖化対策はビジネスチャンスなんです」などと恩着せがましく言うのは大概にしていただきたい。こっちは生活が懸かっているんですから。「あなた方には言われたくない」と思います。


<12月17日>(木)

○新潮社の『フォーサイト』が来年3月で休刊だそうです。国際情報誌としてかなり頑張っていたので、まことに残念であります。長らく購読していたのもさることながら、2002年にこの雑誌に初めて書かせてもらったときは、一気に仲間内の評判が上がったように感じたものです(気のせいだったかもしれないけど)。

○研究者が国際情勢に関して何か書く場合、いちばん簡単に載せてくれたのが『世界週報』(時事通信社)でした。ただし登竜門的な存在だったので、いくら載ってもありがたみが薄い。これが『諸君!』(文芸春秋)や『論座』(朝日新聞社)であると、いかにも論客っぽくて羽振りはいいけれども、思想的な「色」がついてしまう。その点、『フォーサイト』は党派色が薄い上に、硬派な雑誌として定評があるという、研究者にはまことにありがたい雑誌だったのだ。

○ところが今や、上記の4誌はすべて休刊となってしまった。まことに憂うべき状況ではないか。これだけ雑誌がつぶれると、それだけ言論空間が失われることになってしまうし、そもそも新人の書き手が育たなくなる恐れがある。思えば不肖かんべえは、上記全部の雑誌にお世話になった。今となっては、編集部の各位に深く感謝するほかはない。

○夜になって「サンデープロジェクト」の忘年会。ここも来年3月一杯で番組終了ということなので、例年に比べると人の集まりが悪い。テレビの仕事というのは、毎回、ものすごい数の人たちが参画しているのだけれど、「4月からどうしよう」がまず先に立つ。その点、自分はほとんど実害のない立場なので、正直申し訳ないような気がする。

○それでも挨拶に立った田原さんは意気軒昂でした。「3月一杯まで、全力投球でいい番組を作ります。そして3月の最終回は、局が吹っ飛ぶようなスゴイ番組にします。これからもよろしく」。――さすがであります。カッコいい姿を見させてもらいました。願わくば仕事が終わるときは、こんな風でありたいものです。


<12月19日>(土)

この記事が面白いよ、とこの人が教えてくれました。題して「オバマはいつブラフするのか?」。オバマさんはポーカーが得意なんだそうです。おそらくはシカゴ時代に鍛えられたんでしょうね。たまたま昨日、お会いした冷泉彰彦さんに教わったのですが、最近のアメリカでは若い人を中心にポーカーが流行っているのだそうです。ポーカー・プレイヤーとしてのオバマ、というのは新しい視点だと思います。

○ポーカーというゲームは、「情報がすべてオープンにならない」ところが、いかにも政治の世界に似ている。「技術のゲームであって、単なるめくり勝負ではない。だが時間には限りがあるので、運はいつも重要である。午後9時に起きたことが、午前1時にも影響するので、歴史がモノをいう」ともいう。

○だから「ポーカーは野球に似ている」とこのコラムは指摘するのであるが、もっと似ているのは麻雀ですな。不肖かんべえも、若い頃にはあのゲームに膨大な時間を費やしたものですが、「午後9時に起きたことが、午前1時にも影響する」なんて局面を何度経験したことか。ポーカーの手札と麻雀の配牌は運次第。でも、プレイヤー同士の腹の探りあいは腕次第。だから大逆転があり得る、というのがあのゲームの面白いところだと思います。

○ポーカーというゲームにはアメリカの2つの文化がしみこんでいるのだそうだ。ひとつは我慢が報われるという「ピューリタン」的な面であり、もうひとつは果敢に攻めなきゃいけないときがあるという「カウボーイ」的な面である。この辺も麻雀にそっくりでありまして、強い人はツカないときにはいくらでも我慢が効くし、ツイてるときには無茶をやってくるものです。こういう「出る引く」が大切なのは、勝負事全般に通じることですが。

○で、ポーカー・プレイヤーとしてのオバマさんは、これまでのところもっぱらガマンばかりが目立つ。しかしこれまでの彼の人生を振り返ってみると、ときには大博打を打っている。特に民主党予備選挙でヒラリーに逆らったことは、見事なブラフ、もしくはハッタリであった。その辺が「政治家・オバマ」の真骨頂なので、この先どこかで反撃に出るだろう、という論旨であります。

○目下のオバマさんはガマンの日々が続きます。COP15はいよいよ大詰めだが、おおよそ予想通りの展開。医療保険改革も、上院で最終投票に向けて動き出している。さて、来年は「カウボーイ」オバマが出現するでしょうか?


<12月21日>(月)

○方々の雑誌で2010年予測の記事が増えておりますね。本日発売の「東洋経済」では、不肖かんべえが「米中間選挙の勝敗の行方は」という記事を寄稿しております。それから「週刊ダイヤモンド誌」では、かの松木安太郎氏がFIFAワールドカップの予想を書いていて「ベストフォーを目指す岡田監督には悪いが、さすがの私も・・・・」と言葉を濁していたのが印象に残りました。

○他方、海外の雑誌を見ると、「2010年代の始まり」に着目したものが少なくありません。言われてみれば現在は、2000年から始まった10年がちょうど終わる時期ですから、いわば「00年代」(ゼロゼロ年代)の末期に当たるわけ。「Y2K」騒ぎで始まった10年が、ようやく幕を閉じようとしていると見ることもできます。

○ただし物事をrigidに考える場合、21世紀の始まりが2000年ではなく2001年であるように、2010年代の始まりは本当は2011年でなければならない。日本人は律儀ですから、来年が「2010年代の始まり」とは言おうとしないのです。でも、「1970年代」は大阪万博で始まったし、1960年生まれのかんべえは自らが「1950年代生まれ」とは思ってないわけで、その辺は実は融通無碍(テキトー)であったりする。

○ということで、今は「00年代」が終わり、新しい「10年代」が始まるときだと考えると、ちょっと気分が変わるような気がします。思えば「00年代」は碌なことがありませんでしたからなあ。もっとも10年前に2000年を迎える前夜は、ミレニアムブームで世界中がわいていて、おまけにハイテクバブルでNASDAQが5000ポイントをつけようとしていた。つまりユーフォリアで始まって、終わってみればあまりいいことがなかったという「竜頭蛇尾」でした。

○その点、これから始まる「10年代」は、かなりの悲観ムードで始まりそうだという点が悪くないと思います。この先の10年は、「思ったよりも良かった」となればいいと思います。なんにせよ、事前の期待値が低いということは、先の楽しみがあるということですから。

○そうそう、2010年のカレンダーを見ていてひとつ気がついたことがある。来年は「2010年10月10日」や、「平成22年2月22日」といった語呂合わせの日があるのですね。ということで鬼が笑っているかもしれませんが、来年のことをあれこれ考えております。


<12月23日>(水)

○先日乗ったタクシーの運転手さん曰く。こんなに祭日が多いんじゃ、商売になりません。1箇所に固まっている春はともかく、秋はバラバラなので非常に面倒。連休になったりすると、ホントに人が出歩かなくなりますし。――うーん、そうでしょうなあ。せめて明日のクリスマスイブくらいは、大いにタクシーを使ってくれる人が増えますように。

○せめてこの祭日が12月23日でなくて25日であれば、もちょっと使い勝手が良くなるのですが。例えば学校現場は、以前は12月24 or 25日を終業式にしていたけれども、今では22日で終わるところがもっぱらです。クリスマスイブの前日がお休み、というのはいろんな意味で不便ではないかと思います。

○さて、明日はクリスマスイブであるとともに、鳩山政権発足後100日目なのだそうです。つまりハネムーン期間はおしまいということで。そこで座興でこんな資料を作ってみました。データのソースは『新報道2001』「今週の調査結果」です。

○これを見ると、安倍政権(2006〜)、福田政権(2007〜)、麻生政権(2008〜)、鳩山政権(2009〜)は、それぞれ出だしの支持率の高さが違うだけで、就任後は時間とともに下落していくカーブが、ほとんど同じ形をしている。鳩山政権は幸いなことに、70%前後という高い発射台からスタートしましたが、現時点では既に5割台。来週には5割を割り込む怖れもあるという状況です。これは1年もつかどうか、という感じでありますね。

○先週の時点では、民主党支持率も5月10日以来初めて2割台に落ちました。政権交代の鮮度はあっという間に落ちてきた感あり。これで年を越えたら、どんな変化が生じることでしょう。そうでなくても政党助成金の問題がありますので、年内は政界のバタバタが続きそうですし。

○ちなみに「寅年は田中派にとって厄年」というジンクスがあるのですね。1974年は田中内閣が退陣、1986年は創政会立ち上げ(’85)から経世会結成(’87)で田中派分裂、1998年には橋本龍太郎内閣が退陣。というと、2010年に不運に見舞われるのは、小沢幹事長なんてことになるのかも。はてさて。


<12月24日>(木)

○一昨日、22日に12月の月例経済報告が出ました。基調判断は4ヶ月連続で据え置きとなり、新政権が誕生してからずっと同じです。各論部分では設備投資が下方修正、住宅建設は上方修正となりました。で、ここが問題なのですが、設備投資は11月に上方修正したばかりなのです。1ヶ月で元に戻したということは、内閣府に読み違えがあったということになる。こんな失敗は今世紀では初めてのことです。

●設備投資

11月:下げ止まりつつある。(↑)
12月:下げ止まりつつあるものの、このところ弱い動きもみられる。(↓)

●住宅建設

11月:緩やかに減少している。
12月:おおむね横ばいとなっている。(↑)

添付資料の「設備投資の動向」(P16〜17)を見ると、機械受注も建築工事費予定額も底入れした感じである。こういうときは、半年後には設備投資が上向くというのがこれまでの経験則だった。ところがその後、日銀短観や法人企業統計を見てみたら、企業がとっても慎重になっている(設備過剰感が強い)ことに気づいたので、「あー、こりゃいかん」と修正することになった。つくづく今回の局面は、過去の法則が当てにならないのです。

○簡単に言ってしまうと、企業マインドがむちゃくちゃ悪くなっていて、「たとえ輸出が改善するのであっても、もう国内に工場を作るべきではないかもしれない」というムードになっている。国内市場には夢がない。むしろ、「地産地消」で中国に出て行ったほうがよいのではないか。製造業がこんな調子では、他の産業も推して知るべしということになる。

○ところが政府は、「製造業への派遣労働の原則禁止」にむけて動いている。ますます製造業の国内への投資意欲は削がれる理屈である。設備投資が増えない国で、雇用が増えるはずがない。この簡単な理屈が、今の政府は理解できていない。成長戦略がどうのこうのという以前の問題である。

○ちなみに「製造業の雇用が減っても、農業や介護で増やすからいい」というのは、とっても筋の悪いアイデアである。農業や介護ビジネスを振興するには、補助金なり社会保障費を増やさなければならない。しかもこれらは、他への波及効果が少ない産業である。あまりお得な作戦ではない。

○極論すれば、月例報告が設備投資の状況を読み違えた理由は、政府自身が「自分たちがいかに産業界に信用されていないか」に気づいていないからであろう。景気を二番底に誘導しているのはいったい誰なのか。せっかく輸出や住宅建設が上向いているのに、実に悩ましい状況であります。


<12月25日>(金)

○その昔、「日本記念日協会」という活動をやっている人から聞いた話ですが、「海外の記念日で日本で流行るものは、月の前半にあるものばかり」とのこと。ホントかどうか、「母の日」でも「バレンタインデー」でも、日本で定着した記念日は、月の前半にあることが多いようです。逆に「感謝祭」や「ハロウィン」は月末なので、今ひとつ浸透しておりません。確かに不肖かんべえの経験から言っても、月例の勉強会を開催する場合、月末よりは月初の方が人の集まりは良いような気がします。

○ところが「クリスマス」だけは、12月25日という下旬なのに見事に日本文化の中に定着しました。なぜ例外が成立したかというと、「年末だから」ではないかと思います。年の暮れに家族や恋人同士が、互いにプレゼントを贈る、一緒にケーキを食べるという習慣が、1年のサイクルの終わりにピッタリあっていたのではないか。

○思えば年末の日本人は大忙しです。挨拶周りをする。お歳暮を贈る。カレンダーを手配する。手帳を買う。飲み屋のツケを払う。借金を返す。大掃除をする。年賀状を書く。紅白を見る。そんな中に、クリスマスという日程が加わった。キリスト教という本来の特性は薄めた上で、「今年もいろいろあったよね」と言い合う機会を作ってしまったわけです。面白いですね。

○年の終わりの「有馬記念」が、JRAの数あるG1レースの中でも唯一、「国民行事」の性質を帯びているのも、これが「1年の終わり」であるからでしょう。格からいえばダービーであろうし、賞金金額ではジャパンカップが最高額である。でも、新聞の社会欄が大きく取り上げてくれるレースは有馬記念だけ。1年の終わりが近づくと、誰もが皆、特別な思いを抱くという典型ではないかと思います。

○今日はお昼にトンカツを食べながら、スポーツ新聞を熱心に検討してしまいました。やはりHドリームジャーニーから攻めるしかありませんな。結論として、「SPA!」の予測に変更はありません。小幡さんは、新しい予想を掲載されていますね。さて、明後日の馬券はどこで買うことにしようかな。

◎ Hドリームジャーニー
○ Jイコピコ
▲ Iスリーロールス
× Mセイウンワンダー


<12月27日>(日)

○渋谷WINSでドリームジャーニーの勝利にむせび泣いた不肖かんべえ、余韻に浸る暇もなくタクシーを拾って神宮前のBS朝日へ。午後4時から、こういう番組の収録があったもので。


●宮崎哲弥大論争5時間スペシャル

12/30(水)夜7:00〜、
12/31(木)夜11:55〜、
1/2(土)午後1:00〜 ほか

「ニュースの深層」でおなじみの評論家宮崎哲弥がお送りする年末恒例5時間SP。
政権交代後の日本経済はどうなるのか?2010年の展望を含め各界の論客が激論!

出演者

金子 洋一(民主党参議院議員)
山本 幸三(自民党衆議院議員)


飯田 泰之(駒澤大学准教授)
勝間 和代(経済評論家)
小林慶一郎(経済産業研究所上席研究員)
小谷野 敦(比較文学者・作家)
紺谷 典子(経済評論家)
竹森 俊平(慶応大学教授)
藤原 帰一(東京大学大学院教授)
山崎 元 (経済評論家)
吉崎 達彦(双日総合研究所副所長)  ほか


○いやー、しかし5時間は長かった。いくら「11人いる!」とはいえ、消耗いたしましたぞ。まあ、有馬を取った今日のかんべえにとっては、ほんの「夢の旅路」ではありましたが。と言いつつ、「有馬記念のひそひそ話」をできる相手が、今日のメンバー中では山崎元さんだけであった、というのはちょっと寂しかったな。

○今日の議論では、デフレが大きなテーマになりました。デフレは確かに大問題なんですが、ギャンブルも大事であります。勝負する意欲をなくしたら、人間も経済もお終いです。

○ところでワシは明日朝は「モーサテ」なんです。朝5時にはスタジオ入りです。何とかならんのか、これは。


<12月28日>(月)

○一夜明けて少し冷静になってみると、ドリームジャーニーが勝ったからといって、単に二番人気の馬が来ただけのことである。ワシが取ったからといって、別に自慢になるような話ではない。所詮は単複なので配当もそんなに高くはない。とはいえ、タクシーの運転手さんに言われた話では、「自分が選んだ馬が来たんだから、結構なことじゃありませんか」。そうなのだ。有馬良ければすべてよし。2009年はいい年であった。と言いつつ、Second Thoughtは重要なのである。

○昨日は「日本経済の処方箋」をテーマに議論したのですが、今みたいに日本経済がドツボに陥ってしまうと、くだらないアイデアが変に妙案のように思えてしまったりするから要注意である。例えば以下のような案が人口に膾炙するというのは、大変に危なっかしい状態ではないだろうか。

●農業と介護で雇用を吸収しよう。

●1000万人の移民を受け入れよう。

●政府紙幣で景気回復。

●無利子国債で財政再建。

○要するに「貧すりゃ鈍す」という言葉通り、「タダで旨い話」があるんじゃないかという悪魔の誘惑に駆られてしまうのである。普通の心理状態であれば、「そんな虫のいい話があるわけない」と笑い飛ばせるのに、溺れるものは藁をも掴んでしまう。後から、「なんであんな馬鹿なことをしたんだろう」と悔やむのは、得てして苦境にあるときである。

○たとえば最近は、「観光で地域の街興し」という話をよく聞く。それは大いに結構なことで、お金を持った外国人が大勢やって来て地元にお金を落としてくれるのなら、こんなにオイシイ話はない。でもその前に、あんたら最近、旅行ってしたことあるのか。日本人が行かない観光地を、どうやって良さを外国人に分かってもらうのか。

○まず自分が他所に行ってお金を落とすべきではないか。他所のよさが分かって初めて、地元のよさが分かるというもの。そうやって日本全体の観光が増えてこそ、経済の活性化が図れるはずである。それをいきなり、天からお金が降ってくるような虫のいい話を考えた時点で、この話はおかしいと感じなければならない。

○かつて太平洋戦争の直前に海軍大将だった米内光政は、御前会議で「死中に活を求める」と主張した東條首相に対し、「ジリ貧を怖れて、ドカ貧になるなかれ」という言葉を残したそうだ。今のようなときこそ、肝に銘ずるべきであろう。


<12月29日>(火)

○今朝の日経新聞の社説で、12月24日の当欄で書いた「設備投資の読み違え」の話が取り上げられています。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20091228AS1K2800628122009.html 

(前略)

 政権は景気や税収の動向といったマクロ経済運営の視点を欠いている。設備投資判断はその典型だ。政府は12月の月例経済報告で企業の設備投資判断を下方修正した。

 だが、その前の11月には、生産の増加などを理由に判断を上方修正していた。たった1カ月で設備投資に関する判断を上げ下げするなどというのは、異例であり失態だ。

 普通なら生産は設備投資に結びつくのだが、経営者が先行きに対する自信を持てないからだ。「設備の稼働率が依然低いなか、マクロ政策が読めないことが不安心理を招いている。政府はこの空気を読めないでいる」と双日総合研究所の吉崎達彦副所長はいう。

 日本の名目GDPはリーマン・ショックの前の水準を50兆円も下回ったまま。供給に対する大幅な需要不足は、継続的な物価下落と雇用の悪化を招いている。このぬかるみから脱却するためには、何よりも政府が企業の役割を軽視していないとのメッセージを打ち出す必要がある

(後略)

○あらためて月例報告の「設備投資」のトラックレコードを下記に示しておきましょう。この判断ミスは、ちょっと痛いです。

 8月:大幅に減少している。
 9月:減少している。(↑)
10月:減少している。(→)
11月:下げ止まりつつある。(↑)
12月:下げ止まりつつあるものの、このところ弱い動きもみられる。(↓)

○自戒を込めて申し上げますと、エコノミストはついつい「変化率」に目を奪われがちだけれども、経営者はむしろ「水準」を重視して投資を判断する。この点のズレに気をつけないと、判断を間違えてしまう。もちろん消費者も「水準」重視なので、「エコノミストは普通の人の気持ちが分からない」と言われることが多い。気をつけなければなりません。

○エコノミストの悪口は別に構わないのですが、その判断に基づいて政治家が政策を決定するとなると、これはいけません。心いたしましょう。――今日の日経社説の題名は「失われた20年に終止符を打てるか」。そして今日は、日経平均が3万9000円台の史上最高値をつけた日からちょうど20年になります。


<12月30日>(水)

○久しぶりに映画でも見ようかと思い立ち、近所のシネコンをいろいろ探したものの、子供向けやら、よく知らんのばかり。やっと選んだのが"This is it."って、ワシらしくないですか?

○マイケル・ジャクソンのロンドンコンサートのために、大勢のダンサーが面接に押し寄せてくるところから映画は始まる。この辺ですでに、『オールザットジャズ』とか『フェーム』なんて往時の映画を思い出してワクワクしてしまう。

○「あのマイケルと同じ舞台に立てる」というだけで大感激!という人たちが世界中から集まってくる。もちろん、ちゃんと振るい落とされてしまう。最後に"Dancer"として名前が出てくるのは11人だけなので、おそろしく狭き門である。でも、彼らは間違いなく世界の頂点級の舞台に立っている。おまけに、3D版の「スリラー」を演じられたりもするのである。

○映画はリハーサル風景を通して、「ああ、彼が生きていれば、こんなコンサートが演じられたかもしれないのね」という姿を描いていく。マイケルは存外エキセントリックではなく、真面目に指示を出しながら舞台を作っていく。妥協をしない。いつもちゃんと客の視点を意識している。いいね。

○あたしゃモノを作る人たちが好きだ。才能のある人が好きだ。そういう人たちが、いいモノを作ろうとして、妥協せずにドロドロになっている姿は特に好きだ。たとえそれがどんなジャンルであるにせよ、この世で一番素晴らしいのは人を感動させる仕事だと思う。

○マイケル・ジャクソンがそんなに好きだったわけではないのですが、お陰でちょっとだけ若かった頃の気分に浸れました。


<12月31日>(木)

○ということで、2009年もあと半日で終わり。めずらしいことに、年賀状は26日に出せてしまったし、少々余裕のある年の瀬です。せめてこの後は、なるべくパソコンに触れないようにして新年を迎えたいと思います。

○普段から片寄った世界で生きているために、年末に家でテレビを見ていると、世の中の知らないことをたくさん教わります。どうでもいいことだけど、EXILEって踊りがなければフツーに演歌ですよね。いえ、別にとやかく言うつもりはないのですが。

○さて、今年もいろいろありました。皆様もどうぞ良いお年をお迎えください。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki