●かんべえの不規則発言



2005年6月




<6月1日>(水)

○ニュージーランドのクラーク首相が来日中である。6月3日が愛・地球博のニュージーランド・ナショナルデーなので、それに合わせて2度目の公式訪問。(ご本人としては、高校生のときの人的交流以来5度目)。女性の政治家が「鉄の女」と呼ばれるのは世界的な「お約束」になっているようだが、このヘレン・クラークさんは筋金入りの鉄の女である。1999年の総選挙で勝って首相就任。当初こそ「お手並み拝見」といった感じだったが、間もなく政界も財界も彼女に心服してしまった。2002年に再選。この秋は2度目の総選挙が待っている。

○本日は歓迎昼食会に代理出席したら、元駐日大使であったマーチン・ウィーバース大使と同じテーブルであった。現在は官房長官のようなポストで、首相に同行しての訪日であるらしい。90年代には「いちばん日本語の上手い大使」「いちばん講演の多い大使」として有名だった。当方の顔を覚えていてくれたのはちょっと感激したが、いきなり「日本経済は大丈夫ですか?」と聞かれたのには面食らった。

○「バッチリですよ」と答えてから、ははんと理由がわかった。そうなのだ、かんべえは「日本ニュージーランド経済人会議」に1996年から連続で出席しているのだが、ウィーバース大使が参加していたのは98年とか99年とか、とにかく「日本経済は大丈夫か」と心配され続けた頃なのである。ニュージーランドの人たちは、輸出市場としての日本を非常に気にしている。不良債権とか、少子高齢化とか、財政赤字とか、ちゃーんと知っている。日本語が得意な人も多い。下手なごまかしは通用しないのだ。

○おそらく98年のことだったと思う。どういうはずみでそうなったのかは忘れたが、会議の最中に突然指名され、皆様の前で小渕政権の景気対策について説明させられたことがあった。よどみなく答えたと思うのだが、客観的に見て、あれで「日本経済は大丈夫だ」といっても説得力はゼロであったろう。「今は大丈夫です」と言ってみたものの、果たしてどの程度信じてもらえたものか。

○「今は中国とFTA交渉してます」といわれて、またまたドキリ。もう日本は当てにしてません、なんて言わないでね。皆さん、親日国家、ニュージーランドを大事にいたしましょう。


<6月2日>(木)

○そうそう、忘れてた。昨日の歓迎昼食会で会ったニュージーランド人が、こんな商売をやっています。なんだか面白そう。試してみたい方はどうぞ。

●Photowonder http://www.photowonder.co.jp 

○全然、関係ない話なんですが、ギャラップの調査で「へえ〜」と驚いたもの。「スターウォーズのキャラで誰がいちばん好きか?」

Favorite "Star Wars" Character?

The final chapter in the "Star Wars" saga hit the big screens on May 19, and a recent CNN/USA Today/Gallup poll asked Americans to name their favorite character from the series. Han Solo topped the list, mentioned by 10% of Americans, followed by Chewbacca (9%), Yoda (7%), Darth Vader (7%), and Luke Skywalker (6%). Other characters mentioned include R2-D2, Obi-Wan Kenobi, Princess Leia, and Anakin Skywalker. [May 20-22, 2005]

○1位のハン・ソロはいいんですけど、2位のチューバッカってどういうことよ。それから名前の出ないC-3POは、やっぱりアメリカじゃ受けないわけ? 個人的にはイウォークに1票を投じたいんですけど。

○その一方で、ヨーダ仙人とダースベイダーが好位置につけているのは納得ですね。それから第2シリーズで初登場したキャラでは、アナキンだけになっているのもさもありなん。やっぱりスターウォーズは「懐かしい」感覚で売っているのではないのかと。


<6月3日>(金)

○よりによって怪我をしたのが小野とはねえ。これが中田か中村のどちらかであれば、変に悩まなくて済んだのに。まあ、なんちゅうかジーコ・ジャパン、最近はちょっと運気が落ちているような気がします。ドイツへの道は、そんなに平坦ではないと思いますよ。もちろん、バーレーンに勝ってくれるに越したことはないですけど。

○だからね、今夜は早く寝ちゃうことにしましょう。明日の朝はちょっと早いしね。では皆さま、おやすみなさい。


<6月4日>(土)

○今朝起きてみたら、ちゃんと日本は勝っていた。小笠原殊勲、中田大活躍、ジーコ・ラッキーという感じでしょうか。よしよし、昨日の発言は「おまじない」ということで。

○早起きして電車に乗り、次女Tと一緒に茅ヶ崎海岸へ。ここで地引網を体験する。外銀にお勤めのYさんという人の呼びかけで、なんと80人くらいが集まってまことに盛大である。

○地引網といっても観光用だから、肉体労働というわけではない。網を引くのは基本的にモーターであり、子供たちが手を添える程度で網は引き上げられる。茅ヶ崎の海には無数のサーファーたちが波に挑戦しており、あやうく網にかかりそうなサーファーもいるが、それも毎度の光景であるらしい。まあ、それでも目の前で上がる地引網は一見の価値ありと申せましょう。

○赤坂「和喜」の親父によれば、「この時期に上がるのはアジだけ」とのことだったが、引き上げてみると子供のサメが3匹もかかっていた。見事なサバもいたし、小さなフグまでかかっている。後は無数のカタクチイワシ。これは天ぷらにして食べるとうまい。お世話をしてくれている人が、「今日はイカがいねえなあ」と言う。なるほど、そういうものですか。

○ビールを3本飲んでビーチで昼寝。天気がもってくれたのは助かったけど、ちょっくら日焼けしてしまったような。久しぶりに宿題のない週末を満喫しております。


<6月5日>(日)

○最近は滅多に見たことがないフジテレビ「報道2001」だが、このページだけは毎週チェックする。本日発表分のデータによれば、民主党の支持率が14.6%に落ちている。かんべえの手元のエクセルシートを見る限り、これは2003年秋以降では最低の数字。東京都議会選挙を前に、これはちと拙いだろう。でも、岡田民主党の最近の迷走ぶりを見る限り、まあそんなもんだろうな、と思う。

○というか、自民党としては解散・総選挙のチャンスなんじゃなかろうか。郵政民営化をめぐる対立は、そのいい口実になる。法案採決の際に、自民党から造反議員が出て、いったんは否決する。小泉首相が「国民の信を問う」と言って解散。すると綿貫・亀井氏などの造反組が新党を立ち上げる。来たる総選挙は、本家自民党対分家自民党の戦いとなって、どこにいるのよ民主党、という感じになるだろう。だって自民党の「民営化反対」勢力は結構、マジに見えるもの。民主党の「なんちゃって反対」は、居てもいなくても関係ない。

○やっぱり補欠選挙2敗の時点で、岡田代表のクビを取っておいた方が良かったような気がする。中国の片棒担ぐ民主党とか、郵政民営化に反対する民主党というのは、そんなの見たくはなかったなあ。民主党はいったい、政権を取って何がしたいんだろう。

○小泉首相の支持率53.0%は今年2番目の高さで、不支持率38.2%は今年いちばんの低さ。「クール・ビズ」のせいで、「なんか国会って結構、涼しげじゃん」という映像が流れたことも影響しているような気がする。民主党はせめてファッションでも頑張らないと、目立たないままで沈んでいきますぞ。


<6月6日>(月)

○町村信孝外務大臣の講演会を聞きに行く。会場のホテルニューオータニには、おそらく500人以上の観客が入っていたと思う。余計な話だが、あれだけの人数に対し、フランス料理のコースをちゃんとデザートまでつけて、ほとんど30分くらいでサーブしてしまうのは、わが国のホテル業界が持つおそるべき能力であろう。厨房も合わせて何人働いているのか知らないが、せいぜい50人くらいだと思う。あれは神業だよね。よその国のホテルでは、けっして見かけない光景だと思う。まあ、2時間の制限時間内に1時間半の講演をさせちゃうという国も、ほかにないだろうけど。

○町村大臣はノーネクタイ、もとい「クールビズ」で登場。クラーク首相とユドヨノ大統領と会ったとき以外は、全部これで通しているとのこと。そんな風に言われると、この夏のファッションは相当にカジュアル化が進むんじゃなかろうか。そのうち、ネクタイしていることが恥ずかしくなるぞ。

○安保理改革については、あまり楽観していないようだ。現常任理事国としては、新しい常任理事国が増えて、自分たちの特権が薄まることを喜ぶはずがない。ではなぜ英仏が賛成しているかというと、一説によれば、「そのうち、『英仏を外してEUを入れろ』という声が出るかもしれないので、今のうちにメンバーを拡大しておけば、将来その芽を積んでおくことができるから」であるという。本気で考えているとしたら、なかなかに凄みのある話ではある。

○米国は「日本だけならいい」と言ってくれている。ありがたい反面、痛し痒しである。常任理事国入りの運動は、G4(日独伯印)でやっているからここまで来たのであって、日本単独で目指していたらどうだったか分からない。「日本だけなら賛成するのに」という声はよく聞くが、それは日本の人気を示すだけではなく、実はG4を分断する作戦であるのかもしれない。

○他方、大多数の発展途上国にとっては、どこが常任理事国になるかなどは、正直どうでもいい話である。彼らにとっては「拒否権」など、まことに不愉快な存在だ。そこで「コーヒークラブ」と呼ばれる韓国、イタリア、アルゼンチンなどが、「むしろ非常任理事国の枠を増やしたらどうか」と言っているのは、かなり魅力的な提案となる。その方が自分たちにも出番が回ってくるかもしれないからだ。こうして考えると、常任理事国入りはけっして容易なことではなさそうだ。

○全体に町村大臣、日中関係や日韓関係にお疲れのようであったが、「お互いに言いたいことを言う」「たとえ言い合いになっても、首脳会談を続ける」と言っていた。小泉首相と胡錦濤国家主席の会談などは、相当に激しいやり取りがあるのだそうだ。逆に、「まあまあ」と言いつつ足を引っ張りに来る伝統的な日中友好派の議員にご不満の様子。とくに、某議員の「呉儀副首相のドタキャンは両国間で決まっていた」発言には、強い調子で怒っていましたな。ホントにあれは何だったんでしょう?


<6月7日>(火)

○添谷芳秀「日本の『ミドルパワー』外交」。今頃になって読んでいるので、Kenboy3さんや雪斎どのに遅れることはなはだし。が、んー、何と言っていいんでしょうねえ。私にはよく分からない本でした。いや、勉強になったことはたくさんあるんです。「基盤的防衛力」という概念がどうやってできたとか、知らないことがたくさん書いてありました。丁寧な仕事をしてあるとも思います。が、残念ながら心に響く本ではなかったです。

○とにかく「ミドルパワー論」に対して、どういったらいいのか良く分からない。戦後の日本外交は、「大国」を志向する戦前の方向性と、憲法9条に代表される平和的価値観という2つのアイデンティティに引き裂かれてきた。その結果としての吉田ドクトリンであり、その後の日本外交があると。つまり日本外交は一貫してミドルパワーであるというわけで、ここまでは何の異存もございません。

○「だからこれからもミドルパワーで行きましょう」という点で、読者の意見は割れるのでしょう。私は日本の国力というものは、1ドル250円で量っていた1985年までと、それが1ドル120円になった1988年以降ではまるで違っている(少なくとも、外からはそう見られるようになった)と思います。それ以前の日本は、「町人国家論」で良かった。しかるに世界のGDPの15%程度を占めるようになって、そのまんまでは済まされなくなる。他国がとうてい持ち得ないようなリソースを持った国が、「私はミドルパワーでございます」といって、そんなワガママが通用するのかと。

○「町人国家論」を言っていた天谷直弘は、1988年頃に「ノブレス・オブリージ」ということを言い出します。覚えている人は少ないかもしれませんが、円高の進行を見て、「こりゃいかん」と思ったのでしょう。でも、町人がいきなり貴族にはなれないのです。日本人は円のパワーを知って海外旅行に行ったり、ブランド物を買うようになりますが、それでいきなり大国の真似はできません。心はまだ町人のままですもの。

○1991年に湾岸戦争が起きたとき、日本はカネだけ出して馬鹿にされました。なぜか。130億ドルも払ったのに尊敬されない、といって怒っていた人が当時いましたが、そうじゃないのです。地球上に、よその国の戦争に130億ドルも払えてしまう国があって、そいつらが自分たちだけは安全地帯にいようとしている。そりゃあほかの国は頭にきますよ。お礼だって言いたくないですよ。空気読めよ、というのがあのときの教訓であったと思います。

○その後の例でいえば、1997年のアジア通貨危機の際は、日本経済自身が危機的な状況でありましたが、東南アジア諸国に対して「大国」であるところを見せました。新宮沢構想の円借款は、文字通り干天の慈雨でした。チェンマイ・イニシアティブのお陰で、世界の投機筋がアセアンの通貨を狙い撃ちするときは、背後に日本の外貨準備がつくかもしれないことになりました。もう、今ではかなり忘れられていますが、当時、アセアンでの経営者会議などがあると、「アジアのビッグブラザー」日本はたいへん頼りがいがあったのです。

○この本への私の不満は、この手の経済の視点があまりにも抜け落ちているんじゃないかということです。たとえば90年代の小渕外交について、著者は「人間の安全保障」に関する部分を高く評価していますけど、もっとほかに誉めることがあるでしょう、と思うのです。まあ、あんまり専門家に逆らっちゃいかんとは思うのですが。

○さて、町人国家日本は、大国ぶりっ子ができるようになるでしょうか。ここでふと、話は脱線する。

○商社マンがよく体験する話ですが、海外の取引先が自宅に招いてくれることがあります。そうすると、大概は広い立派な家に案内されるわけです。そこで急に、「こいつが日本に来たとき、恥ずかしくて自分の家には呼べないなあ」と不安に駆られます。つまり、商社マンが世界で相手にするのは、権限もあれば、財産もある、その国の上流階級の人たちであることが多い。それに比べると、こちらは権限もなければ、狭いマンションには住宅ローンもあったりする。ところが、バックにしている企業や市場の力によって、なぜかこちらが優位に立っていることがある。自己評価は低いけど、先方から見たらスーパーパワーである、てなことがよくあるのです。

○漫画チックに言えば、日本の経済力というのもたぶんに「ミドルパワー」論の縮図なのです。そもそもこんな風に、小物の人間ばかりが育つ社会なんですから、大国の指導者など望むべくもない。日本の政治家なんて、中国に行ったらみんな位負けしてるでしょ? らくちんさんが、「日本代表クラスで、世界で通用する選手を見るとボランチばかり」と言ってましたけど、無理もないと思うがなあ。


<6月8日>(水)

○お昼も夜も商社業界の会合であった。なんだか今週はこんな用事が多い。

○お昼に「アフリカ支援はいかにあるべきか」という話で盛り上がった。60年代までは、一人当たりGDPではアフリカの方がアジアよりも高かった。また、その後のODAの投入量もアフリカの方が多かった。ところが現在、アジアは無事にテイクオフしつつあるけれども、アフリカは貧しいままである。なぜか。いろんな説があるらしい。

(1)戦後の緑の革命はアジアでは成功したが、土壌が悪いアフリカでは成功しなかった。アジアはまず「飢え」から脱出し、それから経済成長が軌道に乗った。

(2)アジアでは輸出品を、アメリカや日本がどんどん買ってくれた。その点、欧州は内向きに市場を開放するばかりで、アフリカの製品を買ってくれなかった。要するに貿易自由化の差が大きかった。

(3)アジアの開発独裁は、何だかんだいって、まともな指導者がいた。たとえばマルコスは落第かもしれないが、朴正煕やリー・クアンユーは明らかに成功した。その点、アフリカの独裁者はひどいのが多かった。

(4)教育水準に違いがありすぎる。

○まあ、アフリカのことはよく知らないので、上記のような分析もどの程度信じていいのか分かりませんが、やっぱり欧州のやり方が悪かったんじゃないかという気がする。欧州はG8サミットがあるたびに、アフリカ支援だ債務の切り捨てだと主張するけれども、実効があがっているとはとても思えない。

○こんな話を聞いた。「モザンビークとアンゴラはどこが違ったか」。南アフリカの東海岸と西海岸にある国ですが、どちらも内戦を体験した。モザンビークはもともとが貧しい国だったので、冷戦が終わると同時に外からの支援が途絶え、敵対していた同士が「こりゃいかん」と気づいて和解した。そこから国づくりが始まった。ところがアンゴラは、石油にダイヤモンドなど地下資源に恵まれている。すると資源に目をつけた各国がちょっかいを出し、敵対している両方の勢力に資金やら武器やらを渡してしまう。すると内戦はいつまでたっても終わらず、しまいには国中が地雷だらけになってしまった。

○もしアンゴラに資源がなく、他国の支援がなかったならば、多くの命が落とされずに済んだはずである。国づくりももっと早く始まっていただろう。こうなると、何が幸いするか分からない。というか、先進国が途上国を援助するという作業は、下手な同情心や自己満足でやってはいけないということであろう。

○もっともアフリカには、国中を飢えさせておきながら、核兵器を作ってアメリカに対抗しようなどという酔狂な国はいない。アジアはアジアで問題が多いのだ。それはそうと、ジーコ・ジャパン、今日は見事に予選突破を決めてくれました。やったね。


<6月9日>(木)

○佐藤優『国家の罠』を読んでいます。まだ途中ですが、この本の面白さは板倉雄一郎の『社長失格』以来だな、と気がつきました。

○この2つのノンフィクションの魅力は、ともに強烈な個性を持つ筆者が、みずからの成功と転落の日々を包み隠さず描いているという点にあります。また、ITベンチャーと外交の情報畑という、ともによく知られてない世界を紹介していることにも成功しています。他人に対する描写や評価に深みがあること、ディテールがしっかり描けていること、その割りに全体としてのまとまりは欠けていること、なども奇妙に似ています。

○ときおり読者は、2人の著者が有する特異なキャラクターに対して、「おいおい、そりゃマズイよ」と呆れるところもあるでしょう。その辺の無自覚ぶりが、かえって書かれている内容に対する信頼度を高めているかもしれません。強いて言えば、板倉氏が陽性で無頓着なところがあるのに対し、佐藤氏は「人見知りが強い」ことを自覚し、「情報の世界に長期従事すると、独特の性格のゆがみが出てくる」などと客観視しているところが違いといえるでしょうか。

○思えば95年から98年頃にかけて、かんべえは佐藤氏に何度か会っています。本書の中で、「商社のロシアビジネスには三井物産型と日商岩井型がある」という記述に出くわして、「ああ、そういえばそんなこと言ってたなあ」と懐かしくなりました。最初に彼と会ったのは、岡崎研究所主催の研究会でした。その場には、当時は『フォーサイト』編集長だった伊藤幸人氏もときどき来ていて、本書はその伊藤氏の編集によるものだとか。どうもあれがご縁だったようです。

○同じ1960年生まれの佐藤氏は、ほかの人がマラソンのように走っている距離を、まるで100メートル走のように駆けていったのだなあ、と感じながら、この本を読んでいます。


<6月10日>(金)

○日本貿易会「貿易動向改訂見通し」の記者発表。下記のHPに掲示されている内容を貿易記者クラブでご説明しました。

http://www.jftc.or.jp/research/statistics/statistics.htm 

○貿易記者クラブはジェトロの中に入っている。つい最近、ジェトロはアメリカ大使館前の共同通信ビルから、アーク森ビルに引っ越した。ゴールドマンサックスなどがごそっと六本木ヒルズに引っ越したので、空いた場所におそらくは格安の条件で移転したのであろう。建物がきれいなので、記者クラブにしては変にしゃれていて妙な感じである。記者は若い人が多い。質疑応答も含めて約30分で終了。明日の新聞でどの程度取り上げられるでしょうか。

○かんべえは80年代後半は広報室員であったので、古い時代の貿易記者クラブを覚えている。当時はベテラン記者が多かった。70年代の商社は買占めやら航空機商戦やらで新聞沙汰が多かった。80年代はまだその余韻が残っていて、商社取材には猛者タイプの記者をあてる新聞社が多かったのかもしれない。なぜか日商岩井の広報室は記者の評判が良くて、「ここに来るとつい長居をしてしまう」などと言われたものである。

○ふと、古いことを思い出した。ある日、広報室長に急用が発生し、夜に予定されていた記者との麻雀に出られなくなった。そこで本来は報道担当ではない私に、代役が回ってきた。もう一人の課長さんと一緒に麻雀荘に到着すると、なぜか朝毎読と3大紙のベテラン記者が揃っていた。予定より1人増えちゃったのである。まあ、その辺はよくある話なので、「2抜け」でゲームは始まった。

○この夜は、課長さんが滅多にないバカヅキ状態であった。いっちゃ悪いけど、普段からあんまり麻雀が強くない人なので、見ていて不安になるくらいの上機嫌。逆に毎日新聞さんが絶不調で、何をやっても駄目という状態だった。で、その毎日新聞さんが親のときに、私の手がノミ手で聴牌した。ドラもないし待ちもよくない。こんなのリーチしてもつまらんなあ、と思って聴牌取らずに牌を抜き打ったところ、後ろから「えっ」という声がした。

○こちらも「あっ」と言いそうになってしまった。後ろで抜け番の朝日新聞さんが見ていたのに気がつかなかったのだ。あーらら、これって接待麻雀の現行犯じゃない。まずいところ見られちゃったなあ、と思ったけれども仕方がない。そうこうするうちに、その回も課長さんが高い手をあがってしまい、デリカシーのない笑い声を上げた。これなら私のノミ手の方がましであったが、まぁ、いかにも麻雀らしい展開ではある。

〇その夜の勝負が終わってから、朝日新聞さんが「よろしくね」と言って名刺をくれた。広報室長から預かってきたタクシーチケットを差し出すと、「いいよ、記者クラブに戻るから」と言って帰っていった。てなわけで、朝日新聞さんとはその後、長いお付き合いになったのだけど、80年代はそんな感じでした。今はどうなんでしょうねえ。ふと20代の頃のひとコマを思い出してしまいました。


<6月11日>(土)

〇米韓首脳会談で、韓国ではこんな言葉が流行っているらしい。"No ranch for Roh in talks with Bush"

●中央日報 http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=64426&servcode=500&sectcode=500

英紙フィナンシャルタイムズ(FT)は10日、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領とブッシュ米大統領が、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議を成功させるためには、隔たりから離れて、連係すべきだと指摘した。

  同紙は「ブッシュとの会談で盧大統領に牧場はない(No ranch for Roh in talks with Bush)」という見出しの社説で、6カ国協議の障害物は、妥協を拒み、参加国間の分裂を助長している北朝鮮だとし、こうした見方を示した。社説は、かなり以前から米役人らは、北核問題の危険性を認識してきたと指摘し、(しかし)それらは、盧大統領とブッシュ大統領のもとで韓米関係が急速に悪化したとの事実に気付いていなかった可能性が大きい、とした。


〇ここでいう牧場(Ranch)とは、いうまでもなくテキサス州クロフォードにあるブッシュの別荘です。小泉さんもブレアも泊まったことがある。米韓首脳会談をぜひそこでやらせてほしい、と韓国側がお願いしたけど駄目だった。代わりに得たのは、ブッシュさんとの昼食(Lunch)であった、というのは出来過ぎた話である。

〇いちおう元ネタであるところのFTを当たってみると、そういう題名のエディトリアルではないのだが、こういうページがあった。

●FT http://news.ft.com/cms/s/60693b18-d94c-11d9-8403-00000e2511c8.html 

In talks with Bush

Today, the alliance is in a sorry state, in spite of US gratitude for the 3,600 South Korean troops sent to bolster the US war effort in Iraq. When Mr Roh meets Mr Bush today, he will be making a visit to Washington rather than to the president's ranch in Texas, a personal favour bestowed on friends such as Tony Blair of the UK and Junichiro Koizumi of Japan.

〇盧武鉉大統領「どうですか。米韓同盟はうまくいっているでしょうか」。ブッシュ大統領「大統領閣下、同盟はたいへん強力だと思います」――このやり取り、テレビでも報道されましたけど、ブッシュさんたら「あーあ、北朝鮮問題さえなければ、こんな不愉快なやつに会わなくても済んだのに」とでも言いたそうであった。韓国はイラクに3600人も送り込んでいるのに、まるで感謝されてない。お気の毒。

〇ブッシュに嫌われるのはいい。が、ブッシュは日本の小泉が大好き、という点が、韓国民としては許せないらしい。この点については、The Economist誌の記事が秀逸。

●The Economist http://www.economist.com/world/asia/displayStory.cfm?story_id=4065632

America loves one of them more

JUNICHIRO KOIZUMI gets to throw a baseball around and take chummy photos at George Bush's ranch in Crawford, Texas. Roh Moo-hyun makes short trips to Washington for awkward meetings at the White House, such as the one that he was due to have with Mr Bush this week. Japan and South Korea are both close allies of the United States, but only the America-Japan alliance is running smoothly these days. Mr Bush and his pal Junichiro share a common view of North Korea. Mr Roh, by contrast, has upset both countries by consistently excusing the North's behaviour. The quarrel has exacerbated tensions between Japan and South Korea, which are also feuding―again―over history.

〇日米が接近すればするほど、韓国はそこから離れていってしまう。まあ、何でも日本と張り合おうとする点が、あの国の不幸の始まりだと思うのですが、これでは日米韓の結束は難しい。日米に近寄れないから、北朝鮮や中国の方がよく見えてしまう。その辺のトラウマを理解することが、韓国との付き合いを上手にする方法なんじゃないでしょうか。

〇ある意味、中国などはもっと強烈なトラウマを持ってしまっている。だから付き合うのが難しいんでしょうね。困ったもんです。


<6月12日>(日)

〇このニュースはちょっとした反響がありそうです。

●昨秋の日中首脳会談、参拝継続を事前伝達−首相秘書官が講演

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050611-00000205-jij-pol 

 飯島氏は「チリで胡主席と会う前に(中国に対し)初めて強烈なカードを切った。『小泉首相は時期は別として来年も靖国神社を参拝する。それでも不都合がなければ会談を受ける』と伝えた上で会った」と指摘。中国側も小泉首相の意向を承知して会談開催を受け入れたとの認識を示した。

 飯島氏はまた、この首脳会談に続く昨年11月のラオスでの小泉首相と温家宝首相の会談でも同様に、小泉首相の靖国参拝継続の意向をあらかじめ中国側に伝達していた、と語った。その上で「国の指導者たる小泉(首相)が不戦の誓いで靖国神社に行くのは何らおかしくない。多分必ず参拝すると思う」と述べた。


〇小泉首相は昨年11月、「オレは靖国神社に行くが、それでもいいのか?」と確認した上で、胡錦濤、恩家宝に会っていたのですね。この飯島氏の発言が正しいとすれば、中国側は「とても会えるような状況ではないけれども、耐えがたきを耐えて小泉首相に会った」ということになる。なぜ、日本に歩み寄らなければならなかったか。ひとつには11月2日にブッシュ大統領が再選されたことで、その盟友たる小泉さんに敬意を表する必要があったのでしょう。

〇6月6日の町村外相の講演会では、こんなことを言っていた。「日中首脳会談の議事録を読むと、ここまで言うのか、と驚くほど激しいやり取りがある。そういう中で、小泉首相は『なぜ自分は靖国神社に参拝するのか』をきちんと説明している。同意は得られないまでも、ちゃんと説明はしているのだ」 ――サンチアゴの首脳会談では、やはり相当に激しい応酬があったのでしょう。このときの会談は70分間に及んだが、この間、胡錦濤はまったく笑わず、最後に北朝鮮問題に話が及んだ際にやっと笑顔が浮かんだという。

〇この問題について、小泉首相は余裕綽々に見える。おそらく小泉さんとしては、「オレは最初から参拝するつもりだし、向こうだってそれを認めてたじゃないか」という気持ちがあるのでしょう。「行く、行かないは黙っていてやる。それが最大限の譲歩である」と。だとすれば、今年になってからの中国側の攻勢は、無理を承知の挙ということになる。親中派の政治家やらマスコミやらを総動員しているが、小泉さんという特異なキャラを考えれば、やればやるほど逆効果であろう。河野洋平議長などは、本当に日中関係のことをお考えであれば、隠忍自重されるのがいちばん良かったんじゃないでしょうか。

〇まあ、それでも動かなきゃいけないのが中国側の辛いところでしょう。昨年11月時点と現在では、靖国参拝問題の値段が格段に釣りあがっている。今年は「抗日戦勝利60周年」であり、中国側としては日本に妥協することは難しくなっている。しかもその後の半年の間に、「日本の常任理事国入りが現実味を増す」「日米2+2協議で中台海峡問題が取り上げられる」など、中国共産党としてどうしても許せない事態が加わってしまった。

〇もうひとつ考えられるのは、胡錦濤の掌握力がそれほど強くないという場合である。この辺の事情は、先週号でも書いたけれども、江沢民の後をついで軍事委員会主席の座を得るために、多くの妥協を余儀なくされている可能性がある。ということで、反国家分裂法で台湾への強硬姿勢を示したり、反日デモを組成して日本への圧力を強めたりしていると考えると、最近の「らしくない」行動に説明がつく。

〇そんな風に揺らいでいる胡錦濤体制にとって、飯島発言は困った内幕暴露ということになるだろう。G8財務相会議の結果を受けて人民元の改革に乗り出すとか、北朝鮮の核開発阻止に向けて指導力を発揮するといったことは、あんまり期待してはいけないでしょうね。とりあえず「グッド・ラック」とでも言っておきましょうか。


<6月13日>(月)

〇ちょっと柄にもない話題ですが、少年による凶悪犯罪について。三浦展さんの著書『ファスト風土化する日本』(洋泉社)によれば、凶悪犯罪といえば、昔は大都市と相場が決まっていたけれども、最近は地方都市が多い。それはなぜか、ということで、三浦さんは弘前市から佐賀市まで、全国の凶悪犯罪発生都市を訪ねて回った。そこでこんな法則を発見した。

〇ひとつは1992年版の警察白書ですでに指摘されていたことであったが、「県庁所在地から遠隔地にあり、県境の入り組んだ都道府県境付近の地域で犯罪が多く発生する」ことである。ここで想定されているのは栃木県足利市であるけれども、ちょっと考えただけで「ああ、あの事件も」という例が思い当たる。つい最近の高校での爆発物事件が起きた山口県光市も、この条件がピッタリ当てはまる。察するに「県庁所在地から遠い=県警本部からも遠い」「都道府県境付近=交通が便利で、犯人が遠くから移動して来る」といった事情があるのだろう。

〇もうひとつは、かなり有名になってはいるものの、「犯罪発生地の近くにはジャスコがある」だ。そもそも東京ではジャスコなんて見かけない。それもそのはず、都内では6店しかないのだそうだ。ジャスコが多く出店しているのは地方都市。それも幹線道路が最近通って、急に開けたところによくできる。とくに東北地方は多いのだそうだが、ジャスコが来ると「(それまではテレビでしか知らなかった)マクドナルドやスタバも連れてきてくれる」と好評なのだそうだ。でもって、もちろん山口県光市にもジャスコがあるらしい。

〇全国どこでも、幹線道路沿いにショッピングモール、コンビニ、ファミレス、パチンコ屋が建ち並ぶ。全国均質のものが揃うけど、土地固有の歴史や景観は失われる。なんのことはない、それは列島改造計画以来、日本の政治が目指してきたことにほかならない。地方は遅れているからといって、高速道路を作って公共事業を落としているうちに、地方都市は衰退して、コミュニケーション力のない若者が増える。なかなか悲劇的な状況です。

〇そういえば来週は、内外情勢調査会の仕事で山口市に行く予定。これで現地の時事通信の人に聞くと、光市の事件について、いろんな話があるのだろうなあ。

〇ところで、これは私的なメモとして。「パスポートを持っている日本人は全体の何%程度か?」――現在有効な日本のパスポートは3400万冊で、「4人に1人」程度。ソースはここをご参照。思ったよりも少ないなあ。これじゃアメリカ人を笑えないじゃないですか。それにしても、4人に3人はハワイもグァムも体験していないというのは、何とももったいないというか・・・・


<6月14日>(火)

〇最近聞いた中で面白かった話。

〇オランダ在住が長かった菅原出さん:「オランダ人は、ハイネケンのように高いビールは飲みませんよ。あれは輸出して外貨を稼ぐためのビールです」

――やっぱり彼らはケチだったのだ。

〇中央省庁の某官僚:「国会ではクールビズで決めているセンセイ方も、夜のパーティーになるとネクタイをしてくるんです。だって国会にいるのは、同僚かわれわれのような使用人だけでしょ。夜のパーティーにはお客様である支持者が来ますから」

――そういうご本人もクールビズでした。カッコよかったですよ。

〇経済協力の関係者:「G8サミットが近いので、『アジアの次はアフリカだ』なんてことを言う人が増えているけど、これが秋になったら東アジアサミットが近づくので、『やっぱりアジアに回帰しよう』という話になるんじゃないか」

――やっぱりアフリカは西欧諸国の守備範囲ということで、日本はアジアに専念すべきですよね。ところで、秋には郵政民営化が決着しているはずなので、政策金融機関にはリストラの嵐が吹き荒れていたりして。

〇個人投資家協会の「株式講座」における長谷川慶太郎校長の時局分析:「敢えて過去形で申し上げます。中国のバブルは崩壊しました」

――恐怖の予言を拝聴いたしました。この次に壇上に上ったのは、不肖かんべえでありました。あー疲れた。


<6月15日>(水)

〇これはもう梅雨ですねえ。かんべえは傘をよくなくします。とくに立派なやつ、高いやつは駄目ですね。いつの間にか消えてしまいます。最近はあきらめの心境で、「まあ、駅で300円くらいのビニール傘を買えばいいや」てな心境になりがちです。ところが不思議なことに、折りたたみ傘だけはなくさない。かれこれ5年くらい使っています。

〇あれは会社がお台場に行く前だったので、おそらく2000年秋頃のことだったと思います。仕事で帝人さんに伺った際に、お土産にノベルティの傘をもらいました。当時はまだめずらしかった3段折りたたみで、どういう素材なのか乾きが早い。濡れてもしばらく放っておけば、また巻いてカバンに入れることができる。これがありがたい。

〇さすがに5年も使っているとボロくなってくるのですが、修理しながら使いつづけています。先日がちょっと危なかった。タクシーで出かけた際に、降りるときに傘を置き忘れてしまった。幸いすぐに思い出して、領収書の電話番号にかけてみたら、タクシーがわざわざ届けに来てくれた。恐縮しながら受け取ると、「こちらこそ、気がつきませんで」と運転手さんに謝られてしまった。最近は評判が悪いことの多いタクシーですが、立派なものだと思いました。

〇ということで、明日もこの小さな傘のご厄介になりそうです。もともと物欲の薄い人間ではありますが、この傘をなくしたらショック大きいだろうなあ。


<6月16日>(木)

〇羽田空港で、日航機の前輪タイヤ2個が着陸時に脱落した問題で、日航は15日夜から、全222機のタイヤ、ホイールの緊急点検を始めたとのことです。ひとつ間違えば大惨事でした。いい機会ですので、このサイトをご紹介しておきましょう。

●20年前のこと

〇全部見終わるまでは結構時間がかかります。深夜に上のサイトを初めて見たときは、そのまま固まってしまい、最後には涙が出ました。思い出したくないような過去は、忘れてしまうと本当に繰り返してしまうもの。日本航空さん、しっかりしてくださいよ。


<6月17日>(金)

〇誰が考えたか知りませんが、クールビズ、というネーミングはなかなかいい線行っていると思います。これに比べると、以前失敗に終わった「省エネルック」はいかにもまずかった。まるでサファリルックだ、というカッコ悪さはひとまず脇に置くとして、ファッションを強制的にひとつの型に押し込もうというのは、いかにも抑圧的でした。クールビズの場合は、どんなカッコでも本人の自由、という点がよろしい。

〇クールビズの経済効果、てなことが語られています。なにしろ「消費者の財布の紐を緩めるために、もっとも効果的なのは恥の感情である」というのは洋の東西を問わない鉄則です。最初はネクタイを取るだけであっても、ワイシャツはもうちょっとお洒落にしようか、ついでにジャケットも買っておこうか、そうなると1着じゃ足りないなあ、などとニーズは拡大するものです。

〇ところがアパレル業界としては、「今頃言われてもなあ」という感じであるらしい。そりゃ当たり前で、夏物の企画は春先には終わってしまっている。6月といえば、そろそろ夏物のセールが始まる時期である。クールビズで景気の拡大も、ということを本気で考えるのならば、年初から大騒ぎしなければ間に合わない。クールビズを仕掛けた人たちは、その辺のことはまるで考えていなかったようだ。

〇もうひとつ、ネクタイ業界がクールビズに反発しているには、こんな事情がある。ネクタイ業界にとっては、6月第3週日曜日(今年は19日)の父の日は、チョコレート業界におけるバレンタインデーのようなものだ。この日に売れなかったら、商売は上がったりである。ところが6月1日になって、「9月までネクタイは外しましょう」と出し抜けに言われたわけである。業界が「営業妨害だ」と怒り心頭になるのも無理はない。

〇しかも、かんべえは見てないんだけれど、「男性がネクタイを外せば、女性のひざ掛けが不要になります」という広告があったらしい。これではまるで、「ネクタイ=悪者」である。ちょっと配慮がなさ過ぎますよねえ。ネクタイ業界を所管する中川経済産業大臣は、「困るよなあ」と言いつつ、閣僚の一員としてネクタイを外しているとのこと。

〇要するに、「環境省って、気が利かなえ役所だなあ」という話であります。本当に、環境のことしか考えていないのかもしれませんね。それだとせっかくのクールビズも、「省エネルック」と同じ結果になると思いますよ。


<6月18〜19日>(土〜日)

〇上海馬券王先生から、めずらしくも将棋をネタにこんなメールが。ネタはあの瀬川問題。といっても、知らない人は知らないでしょうから、以下、先生のメールを延々と引用します。


うしゃしゃしゃ。

日本将棋連盟から下記のナイスなコメントが。

http://www.shogi.or.jp/ 

お、面白すぎる!あまりに面白すぎるので、ひとくさり述べてしまいたくなるではないか!

☆「瀬川問題」の経緯 (かんべえさんはよく知ってるだろうけど一応復習ね)

@将棋の世界で「プロ」認定を受けるためには26歳までに4段に昇段しなければならないが、昇段者は1年4名に限定されているため極めて狭い門となっており志半ばで将棋界を去る人が後を絶たない。

A当該問題の中心人物である瀬川晶司氏も上記規定により泣く泣くプロ棋士への道を断念したのであるが、その後アマの肩書きで各棋戦を総なめし、返す刀でプロ棋戦に乱入、あろうことかトップクラスと目される棋士を含めプロ相手に16勝6敗というすさまじい戦果をあげてしまった。

Bこの瀬川氏が将棋連盟にプロ認定の嘆願書を提出したことから、世論は沸騰。当の将棋界のみならず新聞の社会面までがこの当否に関し喧々諤々の大論争を繰り広げた結果、彼に編入試験を課しこれに合格したら「フリー棋士」と言う限定資格だけどプロ認定しちゃおうと言う結論をプロ棋士会が出すに至った。

で、発表された「編入試験」の概要が上記のコメントになるわけであるが。。。。

ああ、面白い。なんて面白いんだ。

まず「6番勝負」に選ばれた対戦相手が異常にキャラが立ってて面白い。主人公に次々に襲い掛かる一癖もふた癖もある敵方キャラ。これ殆ど少年マンガのノリである。

◎1番 佐藤天彦 
主人公と同じプロ昇段規定の壁に神経をすり減らす日々を送る3段代表。脱落した後にプロ認定を嘆願した瀬川氏に敵意を募らせており、火花散るガチンコ勝負必至。

◎2番 神吉宏充
将棋界のお笑い芸人。素人向け将棋解説での軽妙なトークに人気あり。でも将棋が強いという評判は聞かないし単なるやられ役か?

◎3番 久保利明 
A級棋士にして6番勝負中最強のトッププロ。但し「瀬川氏に敗れたトッププロ」が彼であり、勝負は予断を許さない。さすがにアマに負けた汚名をそそぐべくここは全力投球必至で見ごたえ満点。

◎4番 中井広恵
男子プロに勝ったことが何度もある女子の第一人者。少年マンガでもかならず敵方キャラには女性が一人は含まれますがまさにこのパターン。強いことには異議はありませんが、小生意気な千葉涼子に女流王将位を奪われたばかりでありここは色物認定が相当か?

◎5番 中原誠 

◎6番 米長邦雄
将棋界の重鎮にして将棋連盟の正副会長。当然将棋界の最高峰名人位経験者でもあり、まさかこんな大物が最後に相手をするとは。ますます少年ジャンプの世界じゃないですか。(但し直接御大が指すのではなく、その弟子が代打ちするとの噂も。ええい卑怯な!でもそのせこさがこれまたいい)

うーん、素晴らしい人選の妙だ。なまじ羽生とか佐藤とか最高峰出すのも素人いじめみたいでなんだし、渡辺とか山崎とか若手ホープを出して下手して負けたらプロの面目地に落ちるし。これはほんとにバランスが取れてて素晴らしい。(個人的には「将棋界のはぐれメタル」行方尚史君も加えて欲しかったけど、彼を入れると平気で遅刻してプロの沽券を台無しにしかねないから無理か)

でもこれだけ対戦者のあくが強いと、編入試験というよりは一般社会に対するプロモーションと言うかバラエティ番組認定が相当である。神吉とか普通選ばないよね。一体どちらが挑戦者なんだ。

そもそも、この問題は、「プロ将棋のレベルを保障するはずのプロ昇段規定が、実際は既存プロの生活保障としてしか機能しておらんではないか」という、現状のプロ機構への批判を多分に含んでおったわけですが、これを逆手にとってジリ貧の将棋人気を活性化させるためのバラエティ番組に編成してしまった将棋連盟のしたたかさには本当に胸打たれる思いである。さすがに東大よりはるかに難しいと言われるプロの登竜門をくぐり抜けてきた人々だ。転んでもただではおきないというわけですか。

でもねぇ、これって諸刃の剣だよね。こんなキャラが立った組み合わせだと盛り上がるのは必至だけど、これじゃ本当のタイトル戦がかすんでしまうよね。だって、最近のプロ将棋は高度すぎて全然わからないもん。実際の棋譜じゃなくて棋士のキャラクターで将棋を鑑賞している人は俺以外にも多いと思うよ。そんな一般人からすれば、羽生対森内の名人戦よりこちらのほうがはるかに面白いのでは。まぁ、将棋人気の復活にはキャラクタービジネスも必要なんだけど、下手すりゃプロレスみたいになっちゃいますな。


上海馬券王


〇この6番勝負、実によくできております。詳しい要項はこちらをご参照。

http://www.shogi.or.jp/osirase/segawa/youkou.html 

第1局:まず、佐藤三段ですが、瀬川氏はこれを倒さないことには、奨励会全体を敵に回してしまいます。佐藤氏は死に物狂いで倒しに来るでしょう。こんな面白い対局を公開にして、お金まで取るというのですから、将棋連盟も商売上手です。さすが、米さんが理事長になっただけのことはある。

第2局:関西将棋会館で、立会人が内藤さん。これも盛り上がること間違いなし。神吉六段は弱いと思われていますが、「自分は弱いから、下手の気持ちがよく分かる」人なので、下手いじめは得意と聞きます。

第3局:久保八段は、公式戦で瀬川氏に負けている。A級の意地をかけて勝ちに来るでしょう。立会人が羽生四冠というのも、全然シャレになりません。そういえば羽生四冠、名人戦は3−3に持ち込んでしまいましたな。

第4局:中江女流六段はボーナスポイントでしょう。瀬川氏がここまでに佐藤、神吉に勝っていれば、ここで勝つと3勝が確定し、合格となります。「ここで決めろ」という米さんの親心を感じさせます。

第5局:中原永世十段は、門下生の熊坂学四段を代打ちにする予定。

第6局:米長御大が門下生の長岡裕也四段を代打ちにするとのこと。願わくば、ここは先崎八段と中川八段の二枚看板を左右に並べてほしいところである。

〇なるほど、これはダンジョンのようである。テレビゲームのダンジョンの原型は、ひょっとするとブルース・リーの『死亡遊戯』あたりかもしれない。階を上るごとに新たな敵キャラがいて、それを倒すと上の階に進むことができる。主人公はここで、四天王なり七本槍なりを各個撃破しなければならない。

〇ところが瀬川氏を待ち受ける6人の棋士は、最高で6勝ゼロ敗であったとしても、将棋連盟には大きな傷がつかないようにできている。なおかつ、要所要所でニュースができるようになっていて、結論が出るのは今年の暮れぐらいになる。マンガか映画にできるストーリーですぞ。見事なパブリシティといわざるを得ません。


<6月20日>(月)

〇佐藤優『国家の罠』は教わるところが多い本ですが、「鈴木宗男氏は他人を嫉妬する気持ちが薄いから、自分に向けられる嫉妬に気づかない」と指摘しているところを興味深く感じました。ムネオ氏に対するこの評価が正しいかどうかは分かりませんが、こういうことは人間社会にはよくあるものです。そしてこのことは、国際情勢に対する日本人全般にもいえることではないかと思います。

〇日本人は、おそらく他国を嫉妬する機会が非常に少ない国民でありましょう。せいぜい、アメリカの単独行動主義に対して義憤を感じる程度で、「あんな風になりたいけど、なれない自分たちが不甲斐ない」みたいな忸怩たる気持ちを持つことは、そう多くないと思います。ところが世界に200くらいの国がある中で、他国をうらやむ必要がないという国はそんなにあるはずがない。これって、実はとても幸福なことであるわけです。その反面、自分たちがいかに他国からうらやまれているかを感じていないきらいがある。

〇韓国の立場になってみると、日本がどんな風に見えるでしょうか。自分たちは1991年になってやっと国連に加盟し、1996年に「東洋で2番目」にOECDに入れてもらったけど、その翌年には通貨危機に遭う。それに引き換え、日本はずっと前から先進国であり、1975年以後は先進国首脳会議のメンバーでもある。ひょっとすると安保理の常任理事国になってしまうかもしれない。日本経済は「空白の10年」といわれる低成長期を経験しても、国民の生活水準は高いし、あんまり困っているようには見えない。少なくとも、韓国のIMF改革に比べれば百倍はマシな状態である。

〇日本人は韓国をライバルだと思っていない。半導体や造船の業界はさておいて、まあ追いつかれることはないだろうとタカをくくっている。GDPで7倍の差があるのだから、この認識は大筋として正しいだろう。特許件数でもノーベル賞受賞者の数でも、まずはセーフティリードといっていいだろう。ところが先方は、「日本に追いつけ追い越せ」と思っている。そのうち、「なーんだ、全然、追いつけないじゃないか」と気がついて、気分が真っ暗になってしまう。

〇難癖をつけようと思うと、ちゃんとおあつらえむきのネタがある。そこで韓国側は、歴史問題や竹島の帰属をめぐって怒りを示す。ところが、日本側は、「また始まった。ほっとけほっとけ」と取り合わない。ヨンさまブーム以降は、なまじ韓国に理解があったりするので、日本人の対韓感情はよく、韓国人の対日感情が悪い、という非対称形の構造ができる。おそらく、この構造がますます先方の怒りに火を注ぐのだろう。

〇こういう二国間関係の強い側は、弱い側に対してどういう態度に出るべきか。もちろん、相手に付き合って怒ってみせる必要はありませんが、相手の「痛さ」に気づいておくことは重要だと思います。しかるべき場所では相手に花を持たせて、「実るほど頭をたれる稲穂かな」でいくべきだと思うのですが、今日の日韓首脳会談はどんな話になったのでしょうか。


<6月21日>(火)

〇恒例の東京財団の研究会。中国人ゲストを囲んで英語のディスカッション。いや、面白かったです。とはいっても、あんまり書くわけにもいかず、腹ふくるる思いなれど、とりあえずやじゅんさん、お久しぶりでしたとだけ言っておこう。

〇日韓首脳会談についての続きを少々。日韓がおかれた状況を考えると、双方ともに何か成果を得ることは難しいので、とりあえず首脳会談の継続が決まったことで満足すべきなのでしょう。盧武鉉政権のイタイところは、竹島問題を議題にできなかった点。「一緒に国際司法裁判所に行きましょう」といわれた場合、彼らが困るのだ。そうなったら不利だし、日本が負けた場合に日本側は引き下がることができるけど、韓国が負けた場合は国内大荒れになってしまう恐れがある。

〇靖国問題もしかり。小泉首相が「靖国行きませんカード」を切る可能性は、いちおうゼロではないだろうが、切るときは中国相手に切るはずであって、韓国相手にそんな出血サービスをするはずがない。事前に両国の事務方が折衝した時点で、「得点」を挙げられないことは自明であったはずである。だから記者会見を避けるなど、痛々しい努力をしたのであろう。

〇ところで盧武鉉政権は、そろそろ任期の折り返し地点に来ており、これから先に待っているのは韓国政治恒例の「レイムダック・タイム」である。大統領の再選を認めていないから、5年の任期の後半はかならず政界大荒れとなる。盧武鉉さんの場合、今までもレイムダックのようなものだったけれど、とにかくこれから先が今までより良くなることだけは考えにくい。ということは、挙国一致で日本に抗議する、てなことも難しくなるので、日韓関係だけを考えた場合、そんなに悪い話ではないだろう。日本側としては、なるべく民間の交流機会を増やして、国民感情の問題に対しては、これまで通り「ビナイン・ネグレクト」を続けていけばいい。

〇問題は対北朝鮮政策を考えた場合である。政権の求心力が低下して、ますます「北の言いなり政権」になっちゃうと、とても困るではないか。このままだと、「北も北だが、南も南だ」という評価が国際的に定着するぞ。といっても、どうにもならんわな。

〇最後に蛇足ながら、本日発売の「SAPIO」で57ページにある業田義家のマンガはすごいですぞ。「恐怖のゾンビ法案」・・・・・これは怖い。こ、怖すぎる・・・・

〇明日は内外情勢調査会の仕事で山口県(宇部市&山口市)に行ってきまーす。


<6月22日>(水)

〇内外情勢調査会の講師の仕事は、2003年2月に初めてのチャンスをいただいた。そして3月17〜18日に行ったのが、山口県の岩国市と徳山市(現周南市)であった。今日は同じ仕事、講演テーマも当時と同じ「当面の国際情勢と日米関係」で山口宇部空港に着いた。やけに当時のことを思い出してしまった。

〇2003年3月といえば、ちょうどイラク戦争がまさに始まろうとしている頃で、世の中全体が固唾を呑んで見守っている感じであった。思えばその前日の3月16日は、拙著『アメリカの論理』の最終校正の日であり、それから先は泣いても笑っても書き直しは利かず、4月10日には新潮新書の初の10冊として書店に並ぶという状況下であった。ちなみにお暇な方は、拙著をもう一度手にとってみてください。仮に戦争がなかったとしても、あれはあれで話は通じるように書いてあります。

〇実際に戦争が始まったのは3月20日でした。ところがブッシュがフセインに対する最後通告を行なった3月18日を境に、世界の株価は一斉に下離れした。今から思えば、アメリカと中国をツインエンジンとする世界経済の高度成長が始まったのは、あそこからであった。日本の場合は、SARSの問題があったために、株価が上昇するタイミングが3カ月程度後ろにずれた。ともあれ、大きな国際情勢の転換を目の当たりにした瞬間でありました。

〇昨今の関心事は「中国はどこへ行くのか」「日中関係は大丈夫か」などが中心だ。あとひとつ、個人的には「アメリカの対外政策は大きく動いているのではないか」と感じている。つまり、「9・11以前の対中強硬姿勢への転換」が進んでいるのではないか。6月4日のIISS国際会議におけるラムズフェルド国防長官の対中強硬発言は、あれが単なる個人的見解ということではないと思うのだ。

〇状況証拠的には、まだそれは早過ぎる。イラク情勢は安定には程遠いし、中国を敵に回せば北朝鮮の核開発問題が宙に浮く。アメリカにとって、まだまだ中国との協力は必要であるはずなのだが、大きな政策変更が行なわれている気配を感じる。本日報道されたブッシュ大統領のベトナム訪問などもその一例。穿った見方をすれば、昨今の人民元切り上げ要求も「中国版マネー敗戦」を仕掛けているのだと考えると、いかにもそんな風な結果になりそうに思える。

〇てなことで、宇部市の講演を終えて、山口市に移動しました。ウィキペディアの説明によれば、下記の通りであるが、ちょっと「へえ〜」である。

人口は約14万人。県内では下関市(約30万人)、宇部市(約17万人)、周南市(約15万人)に次いで4番目の規模である。全国の県庁所在地でもっとも人口が少ないことで知られる。

〇湯田温泉の西村屋というところに泊まっています。ここは中原中也の生地であって、この宿は中也が結婚式を挙げたところだとか。金子みすずといい、山口県には詩人が多いのですね。まあ、その辺の話は明日にでも調べましょう。


<6月23日>(木)

〇好天である。東京は雨らしいが、こちらの人の朝の挨拶は「雨が降りませんねえ」。空梅雨が続いているのである。宇部興産、東ソー、徳山曹達などの当地化学産業にとっては不安材料。が、山口市は工場が少ないので、その辺は心配がない。

〇それにしても、県庁所在地の中にある温泉街というのはほかでは聞いたことがない。街じゅうのいたるところに足湯があったりする。これほど便利のいい温泉街はまたとないだろう。他方では露天風呂から電信柱が見えたり、すぐ外をトラックが走っていくという風情のなさが、今ひとつ人気が盛り上がらない理由になっているという。

〇それでも湯田温泉には、桂小五郎や村田蔵六も来ていたらしい。すぐ近くには井上聞多の屋敷跡があって、そこには京から落ちてきた七卿が住んでいたという。井上家は立派な家だった、ということに軽い感動を覚える。農民の子であった伊藤博文と息が合ったのは、当時としてはめずらしいタイプの友情といえるだろう。屋敷跡は井上公園と呼ばれていたが、その後は持ち主が変わって今では高田公園という名になっている。「元に戻して欲しい」と当地のタクシー運転手さんが言っていたが、かんべえも同意であるぞ。

〇そういえば、一度は萩に行こうと思いつつ、今だに行ったことがない。景色や温泉はどうでもいいが、歴史上の人物のいた跡を訪れるのは興味が尽きないものだ。そういう点で、山口県は観光資源の宝庫といえよう。

〇さて、ご当地出身の中原中也である。このカッコいい名前は本名なのである。中原家は毛利家の家臣であり、実家は医院であったというから、いいとこのボンボンである。成績優秀であったが、小学校時代から地元紙に短歌を投稿したりしているうちに文学の世界に陥ちる。マスクは甘いし、早死にだし、もう詩人として成功するあらゆる条件を備えている。そうそう、ランボーの詩を訳したのが中也である。

〇中原中也の詩はあんまりよく知らない。「ゆあーん、ゆよーん」というやつ(サーカス)がかすかに記憶にある程度だ。全体に甘口の日本酒のようなところがあって、そんなにいいとは思ったことがない。たしか高校時代であったか、試験問題か何かで出てきた中也の詩で、「うしなひし さまざまのゆめ」というフレーズが印象に残り、「でも、これって要するに、朝、目が醒めたら機嫌が悪かったというだけじゃん」と思い、つまらんやつ、と決め付けてしまった。まあ、昔からそんなに詩想の豊かな人間ではないのである。

〇今日、中原中也記念館に寄ってみたら、この詩は「朝の歌」という題名であり、同棲していた彼女を小林秀雄に取られた直後に作った詩であることが判明する。ああ、そうであったか、お前もつらいのう、と急に同情心が沸く。人間年を取ると、少しはそういう心情が分かるようになるものである。たしか北杜夫がこんなことを書いていた。恋をしたまえ。失恋すれば詩がかける。もし失恋しなかったら、それはモウケモノというものだ・・・・。

〇ということで、本日の仕事を終えて山口宇部空港で飛行機の時間待ち。最後に運転手さんから聞いた珍説をご紹介しておく。いわく、映画監督の山田洋次は山口県出身である。あの「フーテンの寅さん」は、県民こぞって尊敬する吉田松陰先生がモデルではないか、というのである。

(1)本名が「寅次郎」である
(2)放浪癖がある
(3)かわいい妹がいる(久坂玄随の妻となった)
(4)生涯独身
(5)周囲に人が集まる

〇「山田洋次さんに会ったら聞いてみたい」と言ってました。山田洋次さんに親しい方がいらっしゃいましたら、聞いてみてください。


<6月24日>(金)

〇昨日、中原中也記念館に立ち寄ったのは正味20分くらいの出来事であったのだけど、なんだか今日になっても全身が文学モードになっているようである。ひとつには昨日の記述に対し、小林秀雄ファンである谷口智彦さんから「スイートスポット」などと誉められたせいもある。今夜も日中関係に関する研究会に出ていたので、その手のネタがないわけではないのだけれど、今更という気がするのでパスするとしよう。先日から気になっていたのだけれど、今月10日に亡くなられた倉橋由美子氏について書いてみたい。

〇倉橋由美子は、自分が大学生だった頃にいちばん好きだった作家でした。かんべえは彼女の処女作である『パルタイ』が書かれた年に生まれたくらいなので、世代的にはちょっと遠い。『パルタイ』は学生運動華やかなりし時代に、共産党を冷笑するような小説を、若い女性がよくぞ書いたものだ、という点が衝撃的であったそうだ。かんべえが手にとった80年代には、もはや左翼は嘲笑すべき存在となっており、そういう意味での新しさはなかった。カミュ、カフカ、サリンジャーと続けて読んだ後に、たまたま覗いた倉橋ワールドがコツンとツボに当たってしまったのである。

〇ちなみに、『パルタイ』は1960年の芥川賞候補となるが、このときは北杜夫の『夜と霧の隅で』が受賞する。今から考えるとこれはヒドイ選考結果というべきで、『夜と霧・・・』はそんなに優れた作品とは思えない。北杜夫自身も、どっかの対談で「あれはパルタイの方が上の小説」と言っていた。両方のファンであるかんべえが言うのであるから間違いありません。

〇今ではほとんどが絶版になっているという、新潮文庫で緑の背表紙の彼女の本は全部を揃えました。いちばん嵌ったのは『暗い旅』でした。『幼女のように』『聖少女』『ヴァージニア』などなど、一冊ずつ買うのが楽しくてしょうがなかった。当時の財力では、千円以上の本を買うときはちょっと深呼吸をしてから財布を開かねばならず、『城の中の城』はなんとか買ったけれども、『スミヤキストQの冒険』は図書館で借りた。あれだけ抽象的な話を書いて、どうしてこんなにリアリティを持たせられるのか。などと書いているうちに、古い文庫本を読み返したくなってしまうのだが、そんなことをしたら朝になってしまうだろうゆえ、ここは我慢する。

〇ずいぶん後になって、書店で『倉橋由美子の怪奇掌編』を発見したときは、久々の作品に会えたことがうれしくはあったけれども、ちょっと残念ではあった。あの手の発想ならばワシも好きだし、似たようなものが書けるかもしれない。が、初期作品における彼女の言葉の凝縮力は、どう逆立ちしても真似できるようなものではなかった。おそらく彼女の亜流を目指した人は大勢いただろう。それでも成功例は皆無だった。強いて言えば、今日の女性マンガの中に、ときおり倉橋ワールドの影響があるような気がするが。

〇その一方で、エッセイなどで顔をのぞかせる、彼女の文章の底意地の悪さは抗し難いほどに魅力的なのであった。額に汗したり、口角泡を飛ばしている真面目な人たちを、気兼ねなくバッサリやってしまう。読んだ瞬間に、その文章によって傷ついている人のうめき声が聞こえてしまうような残酷さなのだ。(今になって突然気がついたけれども、同じような偽悪趣味を売り物にしている書き手に、倉橋由美子と同郷、かつ高校の後輩である漫画家の西原理恵子がいる)。

〇かんべえの不規則発言においても、ときおり残虐趣味が顔を覗かせることがある。きっとその昔、倉橋由美子作品に淫した残滓が体内にあるからだろう。自己を語るときは、北杜夫のような含羞を忘れずに。他人を語るときは、司馬遼太郎のような簡潔さと温かみを。でも、悪口は楽しいから止められない。つくづく、悪い作家に惚れたものだと思うが、これは責任の転嫁であろうか。


<6月25日>(土)

〇うわあ、びっくりしたなあ、と思ったのはイランの大統領選挙の決選投票。ラフサンジャニが負けますか。そうですか。負けるような戦いはしない人だと思ってましたので、そっちの方がビックリですね。でも、こういう番狂わせが起きるということ自体、いかにも選挙だなという気がします。決選投票になってしまったときから、もう未体験ゾーンに突入していたのでしょう。投票率があまり高くなかったところを見ると、イランの改革派は投票をあきらめちゃったような感じですね。

〇イランにおける大統領は微妙な立場です。イランにおいては、イスラム聖職者が選ぶ「最高指導者」が行政・立法・司法・軍の上に立ち、国政全体ににらみを効かせます。つまり誰が大統領になっても、ハメネイさんの方が偉いんです。ハタミ大統領が誕生したときに、「これでイランは改革が進む」と喜んだ向きがありましたが、8年たってあんまり変わりませんでした。そういう意味では、保守強硬派が大統領になっても、そんなに変化はないと見ることもできるでしょう。

〇アメリカの立場が悩ましいところです。公式な態度としては「あんなイカサマ選挙をやっている国のことだ。誰が勝っても同じだ」的なラインになると思います。その一方で、「かつて知ったる悪」のラフサンジャニが登場してくれれば、相手をするのがとっても楽になったはずなので、痛いといえば痛い。少なくとも核開発問題については、北東アジアと西南アジアの両にらみを余儀なくされるわけで、外交におけるリソースを分散させなければならない。金正日にとっては慶賀すべき結果と言えましょう。

雪斎どのここで書いておられるように、アメリカの対北朝鮮政策が動き出したという印象があります。それはおそらく、ラフサンジャニ大統領の当選を前提にしていると思われるので、微調整が必要になってくるかもしれません。

〇ところで最近発見したことで、とっても驚いたことをご紹介。(1)「日本郵船」の社名は「ニッポンユウセン」が正しい。ニホン、ではありません。(2)欧州のLuxembourgの日本名は「ルクセンブルク」である。「グ」にしてはいけません。はー、知らんかった。


<6月26日>(日)

〇らしくない話題でありますが、「若貴兄弟の喧嘩」についてちょっとだけ。かんべえはもともと興味が薄い上に、男の兄弟がいないのであんまりよく分からんのですが、「あんなに仲の良かった兄弟が・・・」などという世間の声に対して違和感があります。兄弟って、喧嘩するのが普通なんじゃないでしょうか。

〇兄弟は他人の始まり。夫婦は嫌になったら別れられるが、兄弟はそうはいかない。「あいつが憎い」となってしまうと、なかなかに収拾はできません。歴史を紐解けば、「天智天皇&天武天皇」(究極のドロドロ)、「源頼朝&義経」(悲劇の兄弟)、「島津斉彬&久光」(食うか食われるか)など、強烈な例が山ほどあります。最近は表面的には落ち着いているようですが、「堤清二&堤義明」とか「鳩山由紀夫&邦夫」なんぞも、余人には窺い知ることのできない葛藤があるはずです。

〇いや、もちろん仲のいい兄弟も大勢いるのですよ。「吉川元春&小早川隆景」とか「秋山好古&真之」とか、最近の例でいうなら「石原慎太郎&裕次郎」とか、いくらでも探せばいるに決まっている。その一方で、一般的に仲がいいとされている「橋本龍太郎&大二郎」とか、「ジョン・F・ケネディ&ロバート」の間柄は、本当に風通しのいいものかと考えてみると、いやー裏側は結構、ドロドロしてたんじゃないかという気もする。だから、現在は仲がいいとされている兄弟が、ある日突然大喧嘩を始めるとしても、そんなこと全然異とするには当たらない。若貴兄弟が喧嘩を始めたからといって、皆さん何を驚いているのだろう。

〇ひとつ理由として考えられるのは、「芸能界には仲のいい兄弟が多い」ことです。北野大&北野たけし、叶姉妹、狩人、おすぎとピーコなど、皆さん、お互いを上手に利用しあって生きておられる。おそらく、そんな中では若貴兄弟はかなり目立つのかもしれません。たしかに、弟が兄を呼ぶのに「花田勝氏」っていうのは、なかなかに香ばしい情景というか、芸能メディア的にはおいしい状況といえましょう。

〇一般論になりますが、周囲が間を取り持ったお陰で、兄弟喧嘩が解決したという例は聞いたことがありません。だから若貴もこのままエスカレートしていくのでしょう。喧嘩の中身はまことにくだらないものですが、それは世間一般の兄弟喧嘩の大半のケースと同様であり、まったく普通の現象だと思います。だったら、周囲は何を騒いでいるんでしょうね。ほっとけ、ほっとけ、ということです。

〇そういえば貴乃花は、ロイヤルウェディングがあった1993年に宮沢りえと破局して話題を呼びました。今度はロイヤルファミリーの兄弟で意見が合わないとかいってる年に、兄に向かって大喧嘩を売っている。つくづく妙なところでシンクロしちゃう人ですね。


<6月27日>(月)

〇お昼に帝国ホテルで、台北駐日経済文化代表許世楷先生を囲む会があった。これまでにも岡崎研究所や金美齢さん宅のパーティーで見かけたことはあったけれども、直に話したことはなかったので、会費を払って参加しました。話の内容は台湾をめぐる昨今の情勢についてであって、特に耳新しい話があったわけではない。まあ、それは良い。

〇集まった顔ぶれがどうにもまちまちで、そもそもなんでワシに声がかかったかもよく分からない。後で聞いたら、実はこの昼食会、もともとN新聞が企画をして、許世楷先生をご招待したところ、会社が土壇場で臆病風に吹かれ、急きょ欠席することになったのだと。それであわてて各方面から出席者を集めたらしい。いやしくも台湾の特命全権大使に当たる方に対して、何たる失礼千番であろうか。こら、N新聞。いい加減にせんか。文化面でエッチな小説を載せるだけが能ではないぞ。

〇とまあ、腹は立つのであるが、真に悪いのは北京である。実際に許文龍さんの事件のようなことがあるから、後でどんな嫌がらせをされるか分かったものではない。かつてのソ連でさえ、政経分離の原則を貫いたものであるが、中国政府は民主化はさておいて、まずはきちんと資本主義を身につけることから始めていただきたいものだ。

〇ところで、関志雄さんの『中国経済革命最終章』を読み始めたところだが、非常に面白い。「資本主義への試練」という副題がついている。中国は社会主義経済から資本主義経済へと進化しつつあるが、その前にいくつもの矛盾点がある。この改革を進めていくと、最後はやっぱり政治改革に行き当たることになる。それが駄目だったら、やっぱり中国経済は失速、ということになるだろう。

〇この本はお勧めですよ。残念ながら、出版元はN新聞社であります。


<6月28日>(火)

〇先日、「アメリカの国際的な評判はとっても落ちた」というニュースが流れていた。よくよく見れば、なつかしやPew Research社の調査ではないか。ということで、ちょっと下記のサイトを覗いてみたのである。

http://pewglobal.org/reports/display.php?ReportID=247 

〇ビックリ仰天であります。題して"Favorability Ratings"(好感度調査)。以下の16カ国に対して、主要5カ国のことをどう思うかを尋ねた結果が下記の表です。この調査は「アメリカの評判が悪くなっている」ことを主眼にしていますが、その副産物として、日本に対する好感度が意外なほどに高いことが分かります。

  アメリカ ドイツ フランス 日本 中国
アメリカ 83 60 46 63 43
カナダ 59 77 78 75 58
イギリス 55 75 71 69 65
フランス 43 89 74 76 58
ドイツ 41 64 78 64 46
スペイン 41 77 74 66 57
オランダ 45 88 69 68 56
ロシア 52 79 83 75 60
ポーランド 62 64 66 60 36
トルコ 23 48 30 55 40
パキスタン 23 36 32 49 79
レバノン 42 85 84 72 66
ヨルダン 21 36 50 46 43
インドネシア 38 71 68 85 73
インド 71 56 55 66 56
中国 42 58 65 17 88


〇5カ国の単純平均を取ると、アメリカ46.3%、フランス66.4%、ドイツ63.9%、日本62.9%、中国57.8%となります。厳密を期すために、これらのうち自国が自国のことを評している分を取り去る(日本は調査対象になっていないので、この点は関係ありません)と、 アメリカ43.9%、ドイツ66.6%、フランス63.3%、日本62.9%、中国55.7%となります。

〇ここから日本に対する好感度について、下記のような結論が導き出せると思います。

(1)世界でただひとつ、中国を除けば、日本のイメージはかなり高いといっていい。

(2)欧米各国では、日本は概して中国よりも好感度が高い。

(3)イスラム圏においても、日本の評判はそんなに悪くない。インドネシアの85%はすごい数字である。

(4)日本から見て、あんまり好感度が高くなさそうなロシアで75%、インドで66%という結果は大事にする価値がありそう。

〇さて、この中で燦然と光り輝くのは、中国の日本に対する好感度17%です。ほとんど病的な数字といってもいいでしょう。今年の5月21〜31日に行われたという時期的な問題はあるのでしょうが、この内訳を見るとほとんど唖然とするしかありません。

very favorable 3%
somewhat favorable 14%
somewhat unfavorable 33%
very unfavorable 43%

〇ここまで来ると、ほとんど失礼なくらいですな。だって中国の日本嫌いは、ヨルダンのアメリカ嫌いよりもひどいんですよ。ほかの国で嫌われていない日本が、中国でだけ嫌われる。ということは、やはり問題は日本側ではなく、中国側にあるのでしょう。反日教育とか、靖国問題を超えた、何らかの病理がかの国にあるのではないでしょうか。


<6月29日>(水)

〇ブッシュ大統領の演説が大きな扱いになるのは久しぶりです。そういえばイラクの権限委譲からちょうど1周年。演説はノースカロライナ州のフォートブラッグ陸軍基地から全米向けに行なわれました。全文のURLは下記の通り。

http://www.whitehouse.gov/news/releases/2005/06/20050628-7.html 

〇長らくブッシュ演説を読んでいる者から見ても、今回のはいくつか型破りな点があります。まず、ジョークを一切抜きにして、冒頭から"My greatest responsibility as President is to protect the American people. "と大上段に振りかぶっていること。殺し文句である"September the 11th"を5回も使っていること。そして全体を通じて、"Applause"が2回しか起きていないことです。うち1回は最後の"May God bless you all."ですから、自然発生的な拍手が起きたのは1回だけだった。まあ、深刻な内容であるだけに、何度も拍手するような性質の演説でなかったことは間違いありません。

〇今回の演説は、「われわれは間違っていない」というメッセージを伝えるものです。ブッシュ政権の戦略とは、すなわち"There is only one course of action against them: to defeat them abroad before they attack us at home. "――「イラクで戦っているから、アメリカ本土でテロに遭わなくて済む」というロジックであり、これで昨年9月の共和党大会を乗り切ったことは、当時の溜池通信でも取り上げました。ただし、このロジックの効き目もどんどん薄れつつあって、「そんなことより、イラクで1700人も死んでるぞ」という反発が増えているのはご承知の通りです。

〇妙に印象に残ったのが以下のくだり。

We see the nature of the enemy in terrorists who exploded car bombs along a busy shopping street in Baghdad, including one outside a mosque. We see the nature of the enemy in terrorists who sent a suicide bomber to a teaching hospital in Mosul. We see the nature of the enemy in terrorists who behead civilian hostages and broadcast their atrocities for the world to see.

〇イラクの武装勢力を敵視しているわけだが、ちょっと後味の悪い物言いである。敵味方をハッキリ分けるのはブッシュらしいとはいえ、こんな嫌味な言い方をする人だったかな、という気がする。

〇もうひとつ、らしくないと感じたのは、「イラクからの撤退時期を定めると、テロリストたちに間違ったメッセージを送る」と延べた後で、「では増派するか」と自問した後で、こんな風に答えているところ。

Some Americans ask me, if completing the mission is so important, why don't you send more troops? If our commanders on the ground say we need more troops, I will send them. But our commanders tell me they have the number of troops they need to do their job. Sending more Americans would undermine our strategy of encouraging Iraqis to take the lead in this fight. And sending more Americans would suggest that we intend to stay forever, when we are, in fact, working for the day when Iraq can defend itself and we can leave. As we determine the right force level, our troops can know that I will continue to be guided by the advice that matters: the sober judgment of our military leaders.

〇「現地からの要請があれば送ってもいい」と言っているわけですが、これじゃあ現地の将軍たちも「増派してくれ」とは言いにくいでしょう。ブッシュがめずらしく責任を転嫁しているように聞こえる。ブッシュはほぼ毎週、現地司令官とのテレビ会議を開いているそうですが、「恐れながら申し上げます」という感じにはならないのではないだろうか。

〇とまあ、「ちょっとヤバくなってきたかな」と感じさせるブッシュ演説でした。これについては、ギャラップが早速、演説を聞いた人たちの反響をまとめている。これを読む限りでは、そこそこの成果を得たようではある。

●Flash Poll: Instant Reaction to Bush's Iraq Speech http://www.gallup.com/poll/content/?ci=17131 

〇イラク情勢は、8月15日の期限までに憲法草案が完成するかどうかがひとつの鍵になります。その頃になると、またひと波乱あるのかもしれませんね。


<6月30日>(木)

〇自分の知り合いが有名になることはうれしいものです。テレビや新聞で見かけた瞬間に、「あ、見てみて」と騒ぎたくなります。でも、これはなあ・・・・以下は昨日のワシントンポストの記事。

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/06/28/AR2005062801586.html 

●Special Report Goes on the Offensive

The U.S.-Asia foreign policy establishment here is positively gaga over a teensy transmission error last week by consultant Chris Nelson , author of the highly authoritative Nelson Report, a must-read for those involved in foreign affairs, especially on Asia.

Nelson, who works for Samuels International, prepared an exceptionally frank "special report for the embassy of the Republic of South Korea" titled "Players on Korea Policy in Washington, D.C."

Acknowledging his brutal assessments -- his survey left few untrashed -- he warned the embassy that "if ANY of this Report is seen by ANY one outside of the embassy, its humble author is going to have to receive political asylum."

Alas. Nelson, instead of sending the 22-page analysis to the Korean Embassy, hit his list for Nelson Report subscribers, administration officials, Hill folks, think tankers, media types and others -- more than 800 people, including many of whom he had skewered or identified as people who talk to him. So it's most unclear who would offer asylum.

〇クリス・ネルソンは日米関係オタクの中では、知らない人はモグリといわれる人物です。その彼が、韓国大使館向けに特別レポートを書いた。あまりに立ち入った内容で、ヤバイ表現やここだけの話が満載であるだけに、「誰にも見せちゃ駄目よ」の但し書きをつけた。ところが・・・・彼はよりによってそのレポートを、いつも日報を送っている800人の顧客に向けて一斉同報してしまったのである。この特別レポートがすごい勢いでワシントンの関係者に回覧されて、ついには新聞沙汰にまでなってしまったというわけ。

〇本誌愛読者はご記憶かと思いますが、昨年12月8日にかんべえがベテラン政治アナリストを靖国神社にご案内しました。それがこのクリス・ネルソン氏なのです。あああ、こんなことで有名になっちゃうなんて。しかも同レポートには、ネタ元が頭を抱えてしまうような悪口やリークが満載。少なくともマイケル・グリーンのところは当分「お出入り禁止」でしょう。とまあ、「情報のプロ」としてはありうべからざる失態なのであります。

〇かんべえのアドレスにも、この特別レポートが来た。もう面白すぎ。考えようによっては、彼の最高傑作かもしれない。でも、「あいつはもう終わりだ」と言って怒っている人もいるらしい。それでもこれは単純ミスであって、本人の悪意は明らかにゼロである。仕事を離れた人間関係までは壊れないと思う。というか、そう信じたい。

〇考えてみたら、これは他人事ではない。ワシだって似たような失敗をいつやらかすか分かったもんじゃない。ネット時代においては、「筆禍事件」は壮大な規模になってしまう危険性がある。情報を扱っておられる皆様、ブロガーの皆様、くれぐれも気をつけましょう。人はだいたいにおいて、自分が得意だと思っていることでつまづくものであります。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki