●かんべえの不規則発言



2000年1月編





<1月1日>(土)

○年の瀬に飛び込んできた大ニュースはエリツィン大統領の辞任。最後まで意表を突く人ですね。これでロシアは、3月末に大統領選挙が行われることになります。エリツィンの真意は、確実に自分の言うことを聞いてくれそうな後継者(プチン首相)を作って、みずからの身柄と家族と財産を守ろうということでしょう。エリツィン政権は、汚職とマネーロンダリングにどっぷり漬かってきたので、身ぎれいな大統領が誕生したりすると困るんです。そういう意味では合理的な決断であり、こんな捨て身の技ができるとはさすがエリツィン、という気がしないでもない。

○1993年のエリツィン訪日のとき、実物を見る機会がありました。経済団体主催歓迎午餐会の席上、エリツィンはべろべろに酔っていましたが、東京會舘の会場の外まで鳴り響く大声で、並み居る経済界首脳を前に堂々の演説をぶってくれました。短いジョークで会場を湧かせた後、彼は「第2次大戦中、ソ連軍の手によって日本人捕虜に対する不当な扱いがあった」と告げ、おもむろに首を垂れてみせたのです。「おっ、これは謝罪しているのか!」と、気づいた聴衆の間から、初めはパラパラと、次第に会場全体を包み込む割れんばかりの拍手が広がっていきました。――「役者やのう」と思いましたね。本物の大衆政治家というのは、こういうものかと感心しました。

○さて、日本政府としては「困ったなー」という感じ。エリツィン=橋本間で信頼関係を作り、2000年内の平和条約締結(クラスノヤルスク合意)を目指してきたわけですから。ひとつだけいいニュースは、7月の沖縄サミットに新大統領が来てくれそうなこと。選挙が前倒しになった御利益です。たまたま今日、外務省のロシア通、Sさんからもらった年賀状には、「ロシアとの勝負は最後の一瞬で決まります」という意味深なひとことがありました。

○それにしても今年の3月は、米国のスーパーチューズデー(3/7and3/14)、台湾総統選挙(3/18)、ロシア大統領選挙(?)が重なって盛りだくさんになりますね。「米中露三角関係の3月危機」てなコラムが書けそうです。書いてみようかしら。

○どーでもいい話なんですが、最近は英語がまざった歌詞が多いけれど、間違った用法がやたらと多い。小室哲哉あたりは相当にひどい。宇多田ひかるでさえ、"Automatic"の中で"Sun will shine"(ここはThe Sunであるべき)とやっている。ところが昨晩、紅白を見ていたら、英語入り歌詞の草分けであるゴダイゴは、さすがにちゃんとしていることに気づきました。"Every child has a beautiful name"なんて、ちゃんと韻を踏んでいる。思わずゴダイゴの曲を聞き直してみたくなりましたが、あいにく昔買ったのはすべてLPでした。



<1月2日>(日)

○昨日の話の続き。紅白を見てしみじみ感じましたが、演歌歌手って大勢いるもんですね。ところが昨年、いちばん売れた演歌は17万枚だったとか。芸能の1ジャンルとしては衰退が著しい。ところが、いつまでたっても昔の人が「顔」で出てくる。ほとんどNHKによる失業対策事業ですな。

○てなことを言うと、「演歌のファンは多いんだ」という声が聞こえてきそう。でも、年にCDを1枚も買わないでおいて、紅白のときくらいは演歌を聞きたい、なんてのはファンのようであってファンではない。投票に行かない有権者と同じです。これでは支持政党が堕落しても文句は言えない。

○ひとつのジャンルが衰退するときは、作り手がファンの側を向いてないときと、客が作り手を甘やかしてしまう場合がある。前者はたとえば日本映画。まともに観客を動員しようとしているとは思えない。むしろ、どこかの映画祭のグランプリを取ることに意義があると勘違いしている。だから作りたい人はいるけど、見たい人がいない。後者はたとえば劇団四季。何をやっても満席になってしまうから、作り手が甘えてしまって力量が低下する。どちらにせよ、作り手と客の間に緊張関係がなくなれば、作品は駄目になります。演歌はその両方じゃないでしょうか。

○作り手と受け手の間にかならず緊張関係がある、というジャンルもあります。たとえばCM。評判が悪ければ、すぐに打ち切りですから。今年の新年は、松坂大輔が出てくる全日空のがいいですね。
スッチー「お客様の中で、150キロ以上の速球を投げられる方はいらっしゃいますか?」
松坂「はい、調子が良ければ」
調子が良ければ、ってのがいいよね。

○今年からもう見られないCMに、キムタクがやっていたJRAのシリーズがある。毎回、歌あり踊りあり仕掛けありの贅沢なCMで、去年の暮れに、「契約切れたから」(キムタク)といって引退する作品が出た。全作品をまとめて見てみたいよう。



<1月3日>(月)

○今年頂戴した年賀状の中から、傑作コメントを選んでみました。

「あーすっきりした」 (昨年末で会社を辞めちゃったT先輩)

「ノック、日栄、ホームレスというのが大阪の3大テーマです。さむいね」 (去年から大阪に赴任したI記者)

「双子が産まれました」 (中学以来の友人S。これで3人の男の子の父だ)

「新しい家族と人生やり直しです」 (去年再婚し、子供もできたHくん)

「というわけだ」 (溜池通信の永田町関連ネタ元のK氏。年明け早々に結婚の予定)

「統合の嵐に立ち向かいます」 (某損保勤務のO氏)

「経験を糧に今年は心機一転と考えております」 (CSFPのデリバティブズ・ディーラーY氏)

「二藤を追って二藤を得た某球団だけは容赦しない」 (熱烈な阪神ファンである筆者の父)



○最後に、毎年、干支を折り込んだ小話を書いてくれる2FDさんの作品。今年は龍のモノローグです。

雨の日にも外に出よう。じっとしていると
おしりも気もおもくなって、
足もツノもずんずん短くなって、
そしたら急いでダイエットしてももうダメなんだって
(ヘビが言ってた)
雨もカミナリも気にしない。ちょっとくらいのカゼなんて平気。
雨があがればおひさまがでる。
光がさせば珠がプリズムになるだろう。
だから珠だけは、にごらないように 歪まないように
いつもふところに たいせつにいれておくんだ。


○以上、すべてご本人の許可を得ずに転載しました。
最後にこれは筆者があちこちに書いたコメント
「とうとう2000年代、いよいよ40代」(かんべえ)
30代は残り10ヶ月。



<1月4日>(火)

○以前から何度かこのページで紹介したO氏が、明日からホームページを立ち上げます。その名も 日本のカイシャ、いかがなものかといいます。会社人間向けの本や雑誌を出しているプレジデント社で、編集者としての腕を磨いてきたO氏が、フリーになって始める新機軸。当人の言によれば、日本の組織を良くするための建設的議論の場を提供したい、これを商売にする気はさらさらなく、あくまで余技としての情報発信である、とのこと。ゆたかなネットワークを駆使して、幅広い企業人の声を集めるつもりのようです。その心意気や良し、という感じですが、さて出来上がりはいかがなものでしょうか。

○実はO氏から、「ひとつご寄稿を賜りたく」などと下手に出られたので、当方もつい調子に乗って、「こんな企画じゃ駄目、あんた、何考えてんの」みたいな駄文を弄してみたら、たちどころに「これ面白い、採用!」という返事が返ってきた。さすがに書き手を乗せるのがうまい。というわけで、拙稿が掲載されているはずですので、ご用とお急ぎでない方は、ご覧いただければ幸甚です。特に日本のカイシャにモノ申したい方は、積極的なご参加をお願いします。――などと宣伝してしまっているところを見ると、やっぱり向こうの方が一枚上手だったか!



<1月5日>(水)

○このHPは職場で見ている方が多いらしく、昨日から急激にカウンターの数字が伸び始めました。どうやらアクセス数5000の達成は時間の問題のようです。半年も経たないうちにここまで来るとはわれながら上出来です。とくに固定客がついていることがうれしいですね。繰り返しますが、5000をヒットされた方はお知らせください。万が一、自分自身でヒットしてしまった場合は正直に申告しますから、そのときは5001番目の人にチャンスを差し上げたいと思います。

○メルマガに登録したり、BBSをつけたり、あっちこっちで宣伝したり、雑誌で取り上げられたり・・・・てなことをしないで、ここまで来たというのがささやかな満足です。アクセス数むりょ数十万、てなサイトはいまどきめずらしくもありませんが、『溜池通信』は教育テレビか文化放送のようなジャンルなのですから、このペースで十分です。

○はじめて試作品を作ったのは去年の2月でした。それから社内でばらまいて感想を聞き、次第に軌道に乗ってイントラネットに載せ、自分のHPで一般公開、と少しずつ読者の対象を広げてきました。相手が増えれば増えるほど緊張しますし、やりがいもあります。暖かいメールを頂戴する読者も、少しずつ増えてきました。先日は1月1日の「不規則発言」をご覧になった方から、「ゴダイゴのテープ、送りましょうか?」というお申し出までいただきました。皆さんのご関心にあらためて深謝。



<1月6日>(木)

○めでたくアクセス数が5000に達しました。ちょうど1月5日深夜と1月6日午前9時半の間のどこかで、達成されたようです。これもまあ、一種の「ミレニアム」。皆様のご愛顧にあらためて御礼申し上げます。ただし今のところ、「私が5000をゲットしました!」というお知らせは届いておりません。記念品の図書券5000円分はもう用意しておりますので、ご連絡をお待ちしております。

○一昨日ご紹介した 日本のカイシャ、いかがなものかのHPは、2日目にしてすでに400件のアクセスがあったようです。ここを経由して、当溜池通信HPに到達された方もいらっしゃるようで、まさに共存共栄という感じ。本日、管理人のOさんから電話があり、「HPの管理って、たいへん過ぎますよ」と泣きが入ってました。HP作りを外注したところ、高度なテクを駆使した画面となり、メンテに苦労が絶えないとか。当方はシンプルな作りなので、メモ帳に適当にタグを入れつつ書いているだけで、その辺の苦労とは無縁です。あー良かった。

○ここで思い切りくだらない話を一題。赤坂にはとある飲み屋がありまして、ここは個室中心で、カラオケがついて、料理がたくさんでて、しかも格安。新年会などにはもってこいのお店です。しかし難点がひとつだけあって、時間制限がある。2時間たつと追い出されてしまう。そこをどうするか、ということで当社社員がこんな裏技を発明しました。

○まずはK氏の発明。店には「午後7時から9時までね」と連絡しておいて、実際には6時半くらいに店に集まってしまう。すると当然、個室はスタンバイができている。そこで、「ごめんね、思ったより早く集まっちゃったから、もう始めて」と言う。これで30分の延長が可能になる。

○次にO嬢の発明。宴たけなわとなって、8時45分くらいに店の人が片づけにやってきたところで、誰かが「ねぇねぇ、お蕎麦かなんか食べたくなぁい?」と切り出す。すると私は焼きおにぎり、いや稲庭うどん、などと面倒なことになり、9時ごろに追加オーダーが入る。料理が届くまでさらに時間がかかるので、これでもう30分の延長が確定する。

○上記2つの裏技を併用すると、なんと実質3時間のパーティーが可能になる。これを「KO定跡」と呼ぶ、というのは今作った嘘ですが、恥ずかしながらセコイことを考えているものでございます。まぁ、迎え撃つ店の側も、対策を考えていることでしょうから、どっちもどっちざんすね。皆様のご近所に似たような条件の店がありましたら、ぜひお試しください。



<1月7日>(金)

○今のところ、「私が4999件目のアクセスをしました」という申告はいただきましたが、はえあるA5Kをゲットした主からは連絡がございません。週明けまで待って連絡がないようなら、用意した記念品は4999件目の方に進呈しようと思います。おーい、今ならまだ間に合いますよー。

○などと言っている間にも、アクセス件数は少しずつ増えております。新年の年賀状でURLを紹介し、「こんなのやってます」と伝えた相手からも、ぼちぼと「見たよ」のメールを頂戴したり。ひとに「見ろ」と言っておいて、いざ見られると照れるというのも勝手な話ですが、正直な実感です。

○明日の午後、経団連会館で 全日本株式投資選手権の伊藤道臣さんが株式投資のセミナーを開催します。詳しくはHPをご参照ください。去年の暮れ、野村アセットマネジメントを辞め、「不惑」にして独立した伊藤さんが踏む初舞台です。料金が1万円と高めですが、これから初めて真面目に株式投資をしてみようという方には良い機会かと思います。

○実はその伊藤さんと、もうひとりの師匠・伊藤洋一さんと、例の「日本のカイシャ、いかがなものか」の 岡本さんの4人で昨年末にランチを一緒にしました。これがとても面白かった。4人のHPを読み比べていただければ分かると思いますが、自分のHPを持つ、ということにはいろんな意味があるものなのですね。

○ランチの場所は、赤坂の日枝神社近くのフレンチでした。最近、鉄人通りがさびれてきた間隙を縫って、人気上昇中。昼のコースは2000円からで、前菜とメインにコーヒーがつき、デザートは何種類でも盛ってくれる。お勧めは鴨肉。こういう店の名前や電話番号をここに記すほど、わたしは寛大な人間ではございません。ちなみに昨日紹介した飲み屋とは、赤坂見附近くの「三間堂」でした。



<1月8日>(土)

○これはe-mailでもらった「アメリカ版こんなの知ってる?」集。思わず「へぇー」って話がいっぱいあります。

@Coca-Cola was originally green.
AEvery day more money is printed for Monopoly than the US Treasury.
BHawaiian alphabet has 12 letters.
CMen can read smaller print than women; women can hear better.
DThe city with the most Rolls Royce's per capita: Hong Kong
EThe state with the highest percentage of people who walk to work:Alaska
FThe average number of people airborne over the U.S. any given hour: 61,000.
GFirst novel ever written on a typewriter: Tom Sawyer.
H111,111,111 x 111,111,111 = 12,345,678,987,654,321


○ちなみにAのMonopolyっていうのは、モノポリーゲームのこと。ひとりが1500ドルずつ持って、ニューヨーク通りや鉄道会社を買う、とっても面白いゲームです。Eのairborneとは「空輸する」という意味。空の上にはいつも6万人、って考えるとすごいね。

○まだまだ続きがありまして、「アメリカ人の半分は、生まれた場所から50マイル(約80キロ)以内に住んでいる」っていうのがある。実はかの国は、全体の6割が人口5万人以下の町に住んでいる国で、田舎者がとっても多い国なんですね。日本の方がよっぽど人口移動は激しいような気がする。

○では、これぞ究極のクイズ。「数字をアルファベットで順に書いていった場合、最初に"a"が出てくる数字はいくつか」。ええっとone, two three....意外と出てきませんね。four, five, six, seven, eight, nine, ten...だんだん不安になってくる。eleven, twelve, thirteen, fourteen....まだまだ"a"は出てこない。驚くべし、aはなんと「千」(thousand)にならないと出てこないんです。こりゃあ驚いた。



<1月10日>(月)

○全国的に成人の日だそうで。テレビを見てたら、なるほど誰でも考える企画は「ガングロ娘の成人式」というネタですな。「いまどきの若い人たち」を見ていると、20代前半のどこかにある種の断層があるような気がします。1970〜73年頃に第2次ベビーブーマー世代がいて、そのちょっと後くらい。(おー、2000年ってことは、第2次ベビーブーマー世代はそろそろ30代に入るのですね!)それより上は、筆者にもまだ理解できるような気がする。

○などと思っていたら、かねてから愛読している、日記猿人の人気サイトちゃろん日記が、1月7日分でするどい指摘をしていた。ななゑさんによると、「1975年生まれ以前はルーズソックスを履いていない」んだそうだ。つまり25歳以上はルーズソックスに間に合わなかった。このへんに断層があるのではないかと。

○ところで「厚底靴」の人気もしぶといですな。あれを履いて、幼児を腕に抱いて階段を上っている人などを見るとハラハラしますが、靴メーカーにとっては朗報でしょう。過去にまったく例のない新製品がバンバン売れているのだから。おまけに靴底は少しずつ高くなっている。中途半端な高さの靴は、靴箱の中に死蔵されちゃうでしょう。モノを売る側から見れば、こんなにありがたい話はない。

○未開人の国へ来た2人のセールスマンがいた。ひとりは「この国ではだれも靴を履いていない。市場価値なし」と報告し、もうひとりは「この国ではだれも靴を履いていない。至急全ての在庫を送れ」と報告した、というのは、よく使われる話です。世間のひんしゅくを買いやすい厚底靴ですが、これを流行らせてビジネスチャンスを作った人は、いまごろニコニコしていることでしょう。



<1月11日>(火)

○恋をしました。楽しい恋ではなく、つらい恋でした。・・・・でも心配しないでください。夢の中の話でしたから。

○さすがに夢だけあって、覚めた瞬間に全部忘れてしまうんだけど、なぜか最後のナレーションだけを覚えている。これがすごい。「男と女の間には深い河がある。それを飛び越えるのは、男の側でなければならない」。なんだよ、これ。誰がこんなセリフ考えたわけ? ――責任者出てこい、って俺か。

○大学時代に、芝居の台本を山ほど書いていた時期があり、そのせいか「台本と舞台が同時に進行する夢」を見ることがあるんです。演じている自分は台本の存在を知っていて、「ふんふん、そういう展開になるわけね」などと思いながら、話は進行していく。台本を書いているのは自分自身のはずなんだろうけど、上記のような不規則発言が飛び出したりするので訳が分からない。これが本当に自分の創作かと思ったら、もう、つらくて恥かしくて、うなされてしまいそう。

○フィクションの世界で傑作を残す、なんて気持ちはとうに捨てているんだけど、何かのおりにまだ残滓があることに気づくんですな。たしかに「モノを書いて誰かに評価されたい」という気持ちだけは残っていて、要は目立ちたがりなだけなんですが、こんなHPを作っているのもそれが理由なのでしょう。

○今日、大学の同級生のN氏からメールで、「しじゅうからの会をやりましょう」とのお誘い。そっかー、俺もシジュウだもんなー。「男と女の・・・」じゃないよね、不惑だよねー。なによりこんな馬鹿な話を書いてしまって、あとで配偶者が読んだら笑うだろうなー。

○気を取り直して、A5Kの賞品は、4999番をヒットされたHさんが近似値ということで進呈したいと思います。明日、発送するつもりです。よろしく。



<1月12日>(水)

○先週からアクセス数が1日50件くらいのペースで増えています。ちょっと加速しましたね。先週の今ごろA5Kを達成したのに、もう5300を超えたようで。それだけ新しいお客さんが見えているのでしょう。はじめて見えられた皆様、ようこそ、溜池通信サイトへ。

○A5Kの賞品ですが、用意したのは「図書券5000円」のところ、ピタリ賞ではないということで「4500円」にして、Hさんのご自宅に本日発送しました。われながらつまんないことにこだわってますけど、ご笑納ください。「1万件のときはどうするんですか」と聞いてきた方がいましたけど、もうちょっと近づいてから考えます。だってこれ、どんどん賞品がインフレしちゃうんだもの。

○本日は寒いです。風邪ひきそうです。でも頑張って今週号を書いております。「マネー」を扱うときは資料が多くなるので面倒なんですよね。図表も増えるし。政治ネタは楽でいいよね。(←かなり本音に近い)



<1月13日>(木)

○またしてもくだらないことを考え始めました。2001年1月20日正午をもってクリントン大統領は退任します。彼は辞めてから何をするべきか。大統領には終身年金がつきますが、まだ54歳と若いですから時間を持て余します。長すぎる余生をなんとしますか。

○アーカンソーに帰って下院議員になる、という説があります。なんでも第6代ジョン・クインシー・アダムズの前例があるそうで、そうすれば「生涯を公職にささげる」という美談ができます。クリントンはなにせ史上最年少で知事になり、それ以前は大学教授と州の検事総長をやっていますが、民間で働いた経験はゼロ。ちなみにヒラリーが上院議員(NY州)に当選すると、世にもめずらしい夫婦議員が誕生します。日本では失楽園の「船田=畑」夫妻などの前例があるけどね。

○公職にこだわるなら、どこかの国の大使はどうか。日本なんていいですよ。人気者になれることうけあいです。そもそも日本大使は歴代大物ぞろい。これまでに元副大統領(モンデール)と下院議長(フォーリー)経験者が就任しています。次はいよいよ元大統領の出番かも。

○筆者のお勧めは、最高裁判事に任命してもらうこと。これを実現するためには、ゴアに当選してもらわなければなりませんが、これはいいですよ。身分は終身だし、ステータスも高い。過去にタフト大統領の前例があるけど、彼は死ぬときに「自分が大統領だったなんて忘れてしまった」と言ったほど。なによりの利点は、クリントンは退任後にいろんな裁判の訴訟を受けそうだが、まさか最高裁判事を訴えようなんて物好きは出てこないだろう・・・・・

○ところで上の論考を書いている最中に、こんな漢字転換ミスが発生。「生涯を好色にささげる」――おお、これぞクリントンの生きる道!!(←でき過ぎている)



<1月14日>(金)

○小渕首相が東南アジアを歴訪中。特にカンボジアでは大歓迎を受けたようで、ご本人もたいへん御満悦だったそうです。このとき、いかにも小渕さんらしいエピソードを聞きました。

○プノンペンでは、現地在住の邦人民間人や、日本から来ているボランティアのNGOなどを集めた懇親会が行われたのだそうです。この場で出席者全員(40名ほどもいたそうですが)に、小渕さんの地元群馬県産のうどんがお土産として配られたとか。日本食があまり手に入らない場所ですから、これは皆喜びます。

○さらに記念撮影となると、普通は全員で一緒に固まってハイチーズとなるものですが、小渕さんは日本人会、商工会、NGOなどと、それぞれの小人数ごとに分かれて写真を撮ったのだそうです。これはきめこまかな気配りというもので、写真に写った人にとっては、あとで誰かに見せるときには、知らない人が一緒に写っているのではあんまり面白くない。とくにボランティアで行っている人にとっては、「総理がここまで親しくしてくれた」ことは、一生の記念になるかもしれません。

○うどんを持参するにせよ、写真をこまめに撮るにせよ、さほどコストのかかる作業ではありません。しかしその効果は絶大なものがある。では他の人が真似するかといえば、面倒さが先に立って普通はそこまではしないでしょう。さすがは気配り宰相で、ちょっと心憎い配慮をしています。この手のエピソードは田中角栄や竹下登にはゴロゴロしてますが、小渕さんはその直系の後継者なんだなあ、と思った次第。



<1月15日>(土)

○今週もエライ疲れましたが、なんかのはずみにもう一枚の元気が残っていることに気づく、てこともよくある話で、今週末も来週月曜の講演の準備と、『財界』の書評を書かなきゃいかんので、とにかく頑張ってます。

○今週、昔一緒に仕事をしていたNさんと5年ぶりくらいにお会いしました。お互い駆け出し時代に、クライアントと代理店という関係で、会社の入社案内を作るという仕事をしていました。上司にまったく相談しないで仕事をする、という私のスタイルは、その頃に出来たのかもしれません。で、それからもう15年くらいたっている。会っていきなり「変わりませんねー」「そちらこそ」。双方外見はそれほどではありませんが、結構中身は変わってたり、疲れてたりしてるはずです。いろいろあったもんね。

○とにかく昔はNさんと一緒に雑談していると、次から次へとアイデアが湧いてくるような感じでした。今週、久しぶりに会って話していたら、恐いものなしだった当時のことを思い出し、ちょっと元気が出ました。向こうもそうだったらいいな、と思いました。



<1月16日>(日)

○阪神大震災から明日でちょうど5年。いろんな取り上げ方がされております。ところで1月17日というと、湾岸戦争が勃発した日でもあります。今年は湾岸戦争勃発9周年です。イラクの若者たちはこの日に何を思っていることでしょうか。

○1月17日は大事件の日。実は1月にはもうひとつの「特異日」があるんです。これ、あんまり気づいている人が少ない。それは「1月の第1金曜日の夜、もしくは第2土曜日」なんです。政治的な重大発表をやるときは、この日に限るんです。たとえば、1996年に村山総理が辞意表明したのがこの日です。なぜならこの日は、次のような条件を満たしている。

@株式市場が開いていない(開いていると、株価に影響してしまう)

A国会が開いておらず、他に重要な日程もないから、マスコミも含めてみんな比較的暇である。

B正月ぼけが残っていて、世の中がまだ本格的に稼動していない。

こんな便利な日は、1年を通じてあまりありません。たとえば、1月の第2週の週末を選んでしまうと、大学入試センター試験と重なってしまう。混乱が生じて、学生たちの恨みを買ってはいかんわけです。

○この日がいかんなく効果を発揮した日のことは忘れられません。それは1989年1月7日、昭和最後の日。ときの官房長官は、今では総理大臣になっております。



<1月17日>(月)

○今日は中国人のお客さん20数人を相手に、「商社と流通」について講演しました。どのへんに関心があるか分からないので、(1)経済の一般情勢、(2)日本の流通の問題点、(3)電子商取引の3点に分けてお話ししました。案の定、(1)はまるで関心がない。いちばん熱心に聞かれたのは(3)。「ニフティ」とか「アマゾン・ドット・コム」というと目が光る感じ。でも「インターネット・プロバイダー」がなんのことか、ちゃんと理解して聞いている客は少ないと見たぞ。

○通訳を介して話すのは難しい。下手をすると、完全に話に関心をもたない聞き手ができてしまう。こういうときは、序盤で「皆さんの中でXXな方はいらっしゃいますか?」と聞いてみることにしています。その瞬間だけは、確実に全員の注目を集めることができますからね。

○今回は「ところで皆さん、『タイタニック』はご覧になりましたか?」と、「『ポケットモンスター』はご存知ですか?」を聞いてみた。前者はほとんどの人が見ている。後者は知っている人は少数派だった。で、家から持ってきたポケット・ピカチュウを取り出し、「ほら、中国製ですよ」といって見せてみた。――日本人と中国人がハリウッド映画の話で盛り上がる、とか、中国製のポケモングッズがアメリカで大ヒットする、というのは、グローバル化を説明するときにいい例になります。

○ところで、私めの英語の論文が載った本が出ました。 "U.S.-Korea-Japan Relations"といいまして、Building toward a "Virtual Alliance"(ヴァーチャル同盟の構築)という今風の副題がついています。日米韓の研究者が参加しており、主に安全保障の観点から、日米韓3国の関係をどうやって緊密化するかという論考集です。

○ここで集められた論文は、去年の春頃に書かれたものが多い。その後の日米韓の関係強化は驚くほどで、日韓の海上共同訓練が可能になったり、APECで日米韓首脳会談が実現したりしました。拙稿である"Reconstructing Economic Ties between Japan and South Korea"(Tatsuhiko Yoshizaki)は、日韓共同市場をやりましょう、と書いてあるのですが、それさえ思ったよりずっと前進しました。というわけで、先見の明のある本なのですが、いささか現実に追い越され気味です。

○ここで「本書をぜひ読んでください」と書くのは簡単だが、それもちょっと心苦しい。何を隠そう、私も他の人の書いた部分はまだほとんど読んでないもので。せめて岡崎久彦大使が書かれた分くらいは読まなきゃ、と思っているのですが。ご関心のある向きは、CSISのHPを覗いてみてください。メールオーダーすれば、一応現物も入手できるはずですけど。



<1月18日>(火)

○名前をつけるって難しいですよね。今ちょっと組織のネーミングを考えているもので。オリジナリティがあって、覚えやすくて、飽きが来なくて、親しみやすい名前。できれば何をする組織か、名前を聞いただけで一発で分かるようなやつ。これは難しい。

○最近はいいネーミングに出会うことが少ない。とくに金融関係は「みずほ銀行」など脱力系が多い。あさひ、あおば、さくら、みどり、みなと、・・・ハイ、これらのうち、もうつぶれてしまった銀行はどれでしょう? ほーらわかんないでしょ。(旧兵庫銀行を引き継いだみどり銀行が、もう一遍つぶれて今ではみなと銀行になっているはずなんだが、実はあんまり自信がない)

○八幡と富士が合併して新日鉄なんてのはいい名前でしたね。オリエント・リースがオリックス、も今では普通の感覚だけど、当時としては新しかった。最近感心したのはNTTドコモ。どこでも電話できるからドコモ。いい発想だと思います。オリジナルで、覚えやすくて、親しみやすいものね。

○今からきっとひどい名前をつけるんじゃないかと、他人事ながら心配してしまうのは、浦和、大宮、与野の3市が合同した後の名前。きっと「埼玉市」とか「大浦野市」とか、極度に脱力系の名前になっちゃうんじゃないでしょうか。苦労するだろうなあ、いっそ「大処分市」というのはどうでしょう?

○都営12号線も、そのままにしておけばいいものを、「大江戸線」になっちゃうそうで。思わず「大江戸捜査網」、――死して屍拾うものなし、ってフレーズが蘇ってきてしまうじゃありませんか。国電をE電にして定着しなかった前例もあることなので、無理しない方がいいと思うな。

○「溜池通信」というネーミングは、自分ではひそかに気に入っているのですが、あまり誉められたことがない。「ため息通信」だの「駄目池」だのと呼ばれたりする。ほっといてんかー。



<1月19日>(水)

○政府・自民党が「2001年度からの連結納税制度導入」を公約していたのに、先送りされてしまいました。経団連も相当に反発しているようですが、聞けばどうやらよんどころなき事情があったらしい。去年、例のみずほ銀行(IBJ+FB+DKB)が発足することになったために、企業分割税制を優先しなければならなくなった。ところがこれをやると、ムリョ70数本の法律を書き換えなければならない。たいへんな手間である。

○税制は精緻な法律の集大成である。過去の経緯の積み重ねの上に、複雑なルールが構築されており、それも専門ごとに細分化されていて、全体を把握している人は皆無だという。大蔵省主税局や国税庁の「税制オタク」たちだけが、全容を理解している。政治家やキャリア官僚が、頭ごなしに「ああしろ、こうしろ」と言ったところで、「税制は会議室で決まるんじゃない、現場で決まるんだ!」なーんてタンカを切られるのが落ちだ。「この上、連結納税なんてとても1年じゃできません」と現場が開き直り、それで1年の先送りが決まったのだと。

○逆にいえば、2002年度にはかならず導入することが既定路線になった。これならみずほ銀行にも間に合う。連結納税制度を待っている企業は多いから、かえって良かったかもしれない。うーん、それにしても三行統合はおそるべし。国のルール全体を曲げてしまうのだから。もしもこれが失敗するようなら、日本経済には明日がないってことですね。



<1月20日>(木)

○さる日のおじさんたちの会話から。

「近頃はテレックスを使わなくなりましたね」
「うちはもう廃止です」
「それで、テレックス用語が最近は通じない。こないだNTD TKS(Noted Thanks.)と書いて送ったら、若い子から、それ何ですか、と聞かれてしまった」
「みんな電子メールでやりとりしてるでしょ。会社がずいぶん静かになりましたよね」
「僕と同姓同名の若い社員がいるらしくて、よく間違いメールが来る。すると、とんでもない文章が来るんですよね」
「でも、彼女たちが書いている文章力って実際すごいですよ。本当の意味で口語体なんです。いろんなマークを使ったりして」
「その代わり字のきれいな子がいなくなりましたね」


○日本中のいろんなところで、こんな現象が起きている。若い女性の筆力が上がっているというのは同感です。メールやHPやフォーラムで、すごい才能や表現力に接することはめずらしくありません。しかしNTD TKSが通じなくなったら、これが(ホントに)X2、商社の世界なのだろうかと、と思ってしまう私は立派なオジサンの仲間入り。



<1月21日>(金)

○最近、JR東日本の新幹線のCMがすごい。スキーに行った若者2人が、帰りの高速で渋滞に巻き込まれて、「やっぱ新幹線じゃないっすかぁ?」とぼやくやつ。最近、これだけ率直なネガティブ・キャンペーンはめずらしい。JH(日本道路公団)は怒らないんだろうか。怒れないよね。だってあまりにもありそうな情景なんだもん。

○こないだ乗ったタクシーの運ちゃんが、面白いこと言ってました。「こないだ乗せた客が、箱崎のあたりで言うんですよ。こんなにクルマが増えるなんて思っていなかったんだよねーチて。で、降りるときにもらったチケットが、首都高速道路公団」。

○東名高速を作るとき、日本は世界銀行からお金を借りた。「3車線にしたら?」といわれたけど、それじゃ返せなくなる恐れがあるから、2車線にしたんだそうだ。一説によれば、それを決めた当時の大蔵官僚は、今の大蔵大臣であるとか。おかげで借金はちゃんと返せたけどね。



<1月22〜23日>(土〜日)

○いつの間にか、ヤフーインフォシーク、それからグーでも、「溜池通信」といれると、ちゃんとこのページにたどり着くようになりました。ほかの検索エンジンはまだ試していませんが、おかげで便利になりました。今後は当ページのURLが分からなくなった場合も、これらの検索エンジン経由、簡単に探し当てることが出来ます。

○筆者は上記3種以外はあんまり使ったことがありません。理由は別になし。どれがいいのか、正直なところ分かりません。強いていえば、マーケット情報はやっぱりヤフー・ファイナンスかな、とは思いますけど。

○筆者の場合、こういう選択は単なる惰性で決めていることが多い。性格が保守的でものぐさなんでしょうね。新しいものを何でも試してみる、ということはあんまりなくて、他人がいい、と言っているのを聞いて、初めて試してみようとすることが多い。だからデジカメもi-modeも持っていない。使っているPCはパナソニック"Let's Note"のAL-N1というオールドタイプで、OSはWin 95。おかげであんまりお金がかからない。

○回りを見渡すと、ホームページを作ろう、なんて人は新しいもの好きな人が圧倒的に多い。筆者のような人間がHP作りを始めたということは、それだけこの世界のすそ野が広がってきたということなんでしょう。反対に、流行に疎い人が参入してくると、そのファッションは峠を越したという見方もできる。さて、どっちでしょう。



<1月24日>(月)

願い事がかなわなかったり、願い事がかないすぎたり。
誰も悪くはないのに、悲しいことはいつもある。

作詞:中島みゆき、曲の名前:忘れた、音楽著作権協会黙認。

○と、いうことで、とある私的な事情でかなり落ち込んだ気分でございますが、気を取り直して今夜もおたくな議論を展開する「不規則発言」です。昨日分を書いた後に気になったので、他の検索エンジンも試してみましたところ、ライコスでも「溜池通信」は出ました。エキサイトとフレッシュ・アイでは駄目です。どういう基準で選んでいるんでしょうね。今のところ4勝2敗。

○アイオワ州党員集会が始まっています。どんな結果が出ているのか、まだ夕刊も読んでないので分かりませんが、次のニューハンプシャー予備選(2月1日)の結果と組み合わせて、セットで考えた方が良いようです。追う立ち場のブラッドレー、マケインはともに、「アイオワで負けてニューハンプシャーで取り返す」作戦を描いているようです。だってニューハンプシャーの方が狭くて、選挙戦が楽だから。8年前のクリントンは、州民全員と握手する覚悟のドブ板選をやったことは有名です。

○アイオワ州といえば、「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台。プレーリーと呼ばれる平原に、トウモロコシ畑が広がっている。そうそう、「マジソン郡の橋」もアイオワでした。どちらの映画でも、要は「ど田舎」のイメージ。政治的には、白人人口が多く、農家が多くて、労働組合が強い州。アメリカで最初の党員集会が行われるために、4年に1度脚光を浴びることになります。逆にいえば、ふだんはほとんど目立たない州。アイダホと間違えるアメリカ人は結構多いらしく、「そりゃジャガイモですって、ウチはトウモロコシ」というジョークもあるらしい。

○「今年の大統領選挙は、ブッシュが簡単に勝ちそうで面白くない」みたいなことを、結構名の知れた人が言っているのを聞いて唖然とすることがあります。本誌愛読者の皆様にはご理解いただけると思うのですが、米国政治も日本と負けず劣らず「一寸先は闇」だし、ブッシュがたとえ勝つにせよ、どういう勝ち方をするかでその後の政治手法は全然違ってくる。そのプロセスを読むのがいちばん興味深い。

○溜池通信の今年最初の号では、「外交問題が選挙戦のテーマとして浮上する」可能性について書きましたが、今のところ全然その気配がありません。アメリカ国民はかなり内向きになっているようです。2000年というメモリアルな瞬間を体験したことで、各候補が宗教色を強めている様子も窺えます。ただし選挙戦の争点が何になるのかは、まだまだ見当がつきません。



<1月25日>(火)

○アイオワ州は順当な結果になったようです。ところで今週の"The Economist"が、予備選挙について面白いことを書いています。選挙はアイオワとニューハンプシャーだけで盛り上がっていて、それ以外の地域は完全にしらけているとか。2州の選挙戦は完全過熱しており、ニューハンプシャーでは街中にいると、文字どおり候補者が入れ替わり立ち代わり現れるそうだ。さらにアイオワでは、こんなジョークが交わされているという。「君はアル・ゴアをどう思うかね」「分からんね。僕はまだ3回しか会っていないから」

○ところがアメリカ全体では、選挙への関心が極めて低い。投票率は5割を切りそうだ、という。ところでアメリカは住民票がない国なので(そんなもん、ある国の方が圧倒的に少数なのだが)、黙っていても投票用紙が家に届くということがない。選挙の前になると、有権者は登録をしなければならない。「投票率が5割」というとき、分母になるのは全米の有権者数の人口ではなく、この選挙人登録者数である。もちろん全ての人が登録はしないので、大甘に見積もって、仮に8割の有権者が登録するとしよう。80%X50%=40%で、アメリカの投票率50%とは、日本でいえば投票率40%に相当するのである。

○日本では無党派層の自宅にも、勝手に投票用紙が送られてくる。だが、アメリカ式だと、そもそも政治に関心のない人は登録をしてくれない。これではどうやって選挙を盛り上げたらいいのか。何しろ低インフレ、失業率4%、株価1万1000ドルのこの国は、いわば「鼓腹撃壌」の状態。「帝力なんぞわれにあらんや」(お上がどうだってわしらには関係ない)の世界である。

○政治家はそうもいっていられない。そこでせっせと選挙運動をやり、テレビCMを流す。だから選挙には金がかかる。ブッシュ候補は80億円もの選挙資金をかき集めたが、かなり使ってしまって残金はそれほどないという。こんな馬鹿なことをやっていていいのか。かくして政治不信がますます深まっていく。クリントンの不倫や、議会の党利党略だけではない。民主主義の原点ともいうべきアメリカ大統領選挙は、困った問題もいっぱい抱えている。



<1月26日>(水)

○今日の午後、ふと会社でこのHPを開けてみたところ、カウンターは「5999」。おー、今この瞬間に誰かがA6Kをゲットしているのでは? と思ったら、程なくして常連のS氏(モスクワ在住)から「私が6000番をゲットしました」とのメールが到着。感動の一瞬でありました。1月6日にA5Kが達成されましたので、その後20日間で1000件、ちょうど1日50件ペースで推移した計算になります。皆様のご愛顧に深謝。

○さて、S氏によれば、モスクワは連日零下15度以下の寒さとか。また、ロシアのアネクドートは、ネット上でたくましく繁栄しているそうです。しかも、インターネット・プロバイダーは当局の手によって監視されており、アネクドートが育つには格好の環境を提供しているとのこと。そこでこんなアネクドートはいかがでしょう。(長文注意)

○さるところに、非常に優秀な選挙コンサルタントがおりました。世界各国の政治家たちが、次々に教えを乞いに訪ねてきます。
まず、李登輝が訪ねてきて言いました。
「私の後継者の連戦は、頼りなくて来年の選挙で負けそうです。どうしたらいいでしょうか」
するとコンサルタントは、「ああ、それは中国に喧嘩を売ればいいんです。とりあえず『中国と台湾は国と国との関係だ』とでも言ってみたらどうですか」
これはいいことを聞いたと、李登輝はさっそく試してみた。予想通り連戦の支持率が上がった。

次にアメリカのゴア副大統領が訪ねてきた。
「私は党の大統領候補にさえなれないかもしれません。どうしたらいいでしょう」
「それなら、今度あなたの国で行われるWTOの会議をメチャクチャにしてみたらいいでしょう。労働組合と環境団体が味方になってくれますよ」
これもその通りになった。

それからロシアのプチン首相がやってきた。
「私は来年、大統領になりたいんですけど、どうやったら人気を上げることができるでしょう」
「やさしいことですよ。まずチェチェンを武力で攻撃しなさい。西側が文句を言ったら、内政干渉だとはねつけてやりなさい」
コンサルタントの御利益たるやおそるべし。これもその通りに展開した。

こうした評判を聞きつけたのが日本の小渕首相。
「先生、ひとつ私にも再選のためのアドバイスなんぞをいただけますでしょうか」
コンサルタントはにっこり笑ってこういった。
「心配御無用。皆さんが私の言うことを素直に聞いてくれるから、世界はご覧の通り大混乱。あとはあなたが、沖縄サミットですべてを一気に解決してあげればいいんです」

○さて、日本の解散・総選挙の時期について、「サミットの最中に」という新説が登場しました。サミットの直前に解散して、7月30日(日)に選挙。やはり任期満了選挙では、首相の指導力が問われて勝負にならないという読みなのでしょう。サミット直前の解散は、イギリスのサッチャー首相の前例があり、これは大勝利に終わったとか。1993年の東京サミット前の解散は、宮澤内閣不信任が原因ですからこれは例外です。

○なーんて言ってますけど、目の前の議員定数削減の問題さえどうなるか分からないのでは、手前の方でハプニング解散になっちゃう可能性だって無視できません。本当のところ、どうするんでしょうか。ねえ小渕サン。



<1月27日>(木)

○選挙話がつきない最近の「不規則発言」です。2月6日の大阪府知事、京都市長選挙も気になりますね。共産党がどこまで票を伸ばすか。本誌愛読者で大阪在住のTさんの解説によれば、「中馬さんが出てれば分からなかったが、保守分裂で鯵坂さんにも可能性がでてきた」ということです。太田さんの評判はいまひとつのようですし、論談同友会のなかでも怪情報が飛び交っています。大阪府庁に赤旗がひるがえるようだと、こりゃあ一大事という感じですね。

○だいたい、東京都知事選では自公との相乗りを拒否した民主党が、大阪府知事選では一緒にやりましょうというのがおかしい。大阪はやっぱり公明党と共産党、それにタレン党の天下だから(?)、初めから腰が引けちゃっているのかもしれません。自民と一緒で負けるのならいいや、ということでしょうか。

○考えようによっては、大阪府知事ってあんまりたいした仕事はないんですよね。なにせ大阪市は政令指定都市。神奈川県知事よりも横浜市長の方が良さそうに見えるのと同じです。オリンピックだって、立候補しているのは市の方ですからね。「大阪では府議会議員より市議会議員の方が使える」という話は、『ナニワ金融道』でも出てくるほどです。やっぱりノックさんにやっててもらった方が良かったかも。



<1月28日>(金)

○比例区定数の20議席削減で、与党は強行採決。野党は反発して施政方針演説をボイコット。どちらも無茶をやりますなぁ。

○あんまりこの話が出てこないのですが、そもそも今の衆院選挙制度は、93年から94年にかけてたいへんな苦労を経て成立したものです。93年11月の衆院通過、94年1月の参院否決、そして土壇場の細川=河野会談、など、さまざまなドラマが演じられました。この間、衆院の小選挙区と比例区の議員定数は、「300対200」「250対250」「300対171」など、膨大な組み合わせの提案があり、紆余曲折の末に今の数字に落ち着いたものです。

○微妙なバランスの上に成立した比率を、突然「比例区だけ20減らす」というのは簡単に済む話ではない。当時の連立与党代表者会議を実質的に動かしていた、小沢一郎新生党代表幹事(当時、わー懐かしい)は、このことをよーくご存知のはず。にもかかわらず、自由党が定数削減にこだわったのは、「国会もリストラを」というきれいごとではなく、「公明が嫌がる提案をして、自自公連立の中で主導権を取りたい」という党利党略にほかなりません。だって、国会のリストラをしたいのなら、定数ではなくて歳費を一律20%くらい削ればいい話ですからね。

○てなことで、明日をもしれない通常国会ですが、小渕首相の施政方針演説は、これが最後になるのではありますまいか。こんな成り行き任せの政局運営をしているのでは、先が思いやられます。・・・・なーんて今週の「不規則発言」は、ほとんど政治評論週間と化しておりますな。(←『にわか政治評論家、かんべえ氏大いに語る』、でした)



<1月29日>(土)

○ふと思いたって、1月28日に行われたクリントンの"State of the Union"の全文を読んでみた。試してみたい方はここをクリック。全部で9200語くらい。途中で128回拍手で中断され、全体では89分かかったよし。これはクリントンの過去8回のうちで最長。

○"State of the Union"は、直訳すれば「わが国の現状」なのだが、なぜか日本では「一般教書」が定訳になっている。昨年のクリントンは、"The state of the Union is strong."(わが国の現状は堅固であります)と好調な経済を誇示して喝采を浴び、自分が弾劾審議中のところをうまく逃れた。で、今年はなんと言ったかといえば、
"My fellow Americans, the state of our union is the strongest it has ever been."(Applause.)
ハイハイ、恐れ入りました、って感じ。

○それから、"In 1992, we just had a road map; today, we have results."(1992年には、われわれにあったのは地図だけだった。今日、われわれは成果を得ている)とか、"We have crossed the bridge we built to the 21st century."(われわれはいま、21世紀への架け橋を渡り終えた)など、内心の高揚を抑え切れないような言葉が続く。ちなみに後者は、96年の大統領候補受諾演説で、クリントンが「21世紀への架け橋を作る」ことをキャッチフレーズにしたことに対応している。

○クリントンは会場にゲストを呼んでおいて、演説の途中で紹介し、効果的に使っている。銃の乱射事件で子供を失った父親を紹介し、周囲の同情を呼びかけた上で、銃規制問題を訴える、など。びっくりしたのは、財政が黒字になった功労者として、初代財務長官のベンツェンを紹介したこと。財務長官といえばルービンのイメージが強いけど、彼が就任は1995年から。ベンツェンががんの治療のために退任して、ルービンはチャンスを得たんです。それからはベンツェンさんの噂を聞かなかったけど、実は元気だったのね。

○最後の方では、クリントンは人種和解問題について触れ、ここでは「僕の個人的なヒーロー」といってハンク・アーロンを紹介する。昔、王選手と一緒にCMに出ていたホームラン王だ。それからあとの部分がちょっといい。(訳責:筆者)

○「あとひとつ付け加えたい。皆さんのひとりひとりが、この次に通路の向こう側の野郎に頭に来たとき、ぜひこれを思い出して欲しいんだ。この秋、ヒラリーがホワイトハウスでミレニアムディナーを催したとき、ヒトゲノム研究の専門家である、高名な科学者をお招きする機会があった。彼によると、われわれはみな人種に関係なく、遺伝子学的には99.9%が同じなんだそうだ」

○「ほら、回りを見渡して、急に不機嫌になる人がいるかもしれないけど(笑い)。でもこれは覚えておいて損はない。笑うかもしれないけど、こう考えよう。現代科学が確認したことは、古くからの信仰がいつも教えてきたことに過ぎない。生命でもっとも重要な事実は、われわれはみな同じ人間だってこと。だから、われわれは単に、多様性を許容するだけじゃ駄目なんで、多様性を誇り、称えようじゃありませんか」(拍手)

○こういう部分は日本の新聞には出ない。それにしても"State of the Union"は読んでいて面白い。日本の施政方針演説はこうはいかない。



<1月30日>(日)

○スイスのダボスでは、ワールド・エコノミック・フォーラムの年次総会が行われています。昔は知る人ぞ知る、といった感じでしたが、実はその年のテーマを占う重要イベントだという認識が広がってきた。ダボスに集まるのは政治家だけではない。企業人、学者、ジャーナリストなど、世界のトップの人々が集まる。ある意味ではサミット以上に重要な舞台です。

○クリントンが昨日、半日だけダボスに来て講演をしました。例によってホワイトハウスのHPで、全文を読むことができます。クリントンがWEFに出るのは初めてだったのですね。前ぶりのつかみの部分で、「国務長官、財務長官、商務長官、エネルギー長官、USTRがついてきたので、いまワシントンはお留守です」とやって受けを拾っている。クリントンの狙いは、WTO新ラウンドへの地ならし。講演では、貿易自由化に対する途上国の理解を求めています。

○会場ではクリントンへの質問が3つ出た。「中国のWTO加盟に支援を得られるか」「最貧国債務免除は可能か」「財界人たちに何を求めるか」――最後のひとつは「仕込み」の質問かもね。で、前の2つについては常識的な返事をしている。長々としゃべっているけど、要は「頑張るけど、簡単じゃない」ということ。いつものことだけど、やっかいなのは米国議会だ。それともうひとつ。

○ヤフーでは、この会議に関する報道特集が組まれている。昨年のWTOシアトル会議と同様に、反対派による派手な抗議行動があったようです。最近のNGOはどこへでもやって来る。一時期日本でも流行した「ミニ政党」と同じで、極端な主張を持った扱いにくい人たちが多い。彼らは沖縄にもやってくるでしょうね。来たら大騒ぎは間違いないので、サミットが東京でなくて良かったと思います。



<1月31日>(月)

○今ごろ気づくとはうかつな話ですが、このHPをいちばんしょっちゅう開くのは筆者であり、いちばん便利だと感じているのも、たぶん筆者自身なんですね。ダボスや一般教書のアドレスを日記上に残しておくことで、自分がどこにいてもこれらのサイトにすぐアクセスできる。それから、過去に書いたものを読むと、自分の思考をたどることができる。(ひとつ間違えば恥をさらすわけですが)。「最近、どんなものを書きましたか?」と聞かれて、すぐに答えることもできる。

○さらに、ここに書いたことでリアクションをもらえることがある。これがありがたい。とくに間違いの指摘は歓迎。実は今日、最新号について、富士ゼロックスの大崎さんから、「ゼロックスの会長はアレイリーではなく、アレア、と呼んでます」とのご指摘あり。まことに恐縮。

○はたまた国際大学の信田助教授からは、「ソンガスはガンで死にました」とのメールがきました。「今頃どこで何しているのか」なんて書いたもんだから、米国政治研究のプロからご指摘を頂戴してしまいました。そういうわけで、最新号は間違いや勘違いもあるけども、多くの人からメールをもらいましたので、たぶん好評だったのでしょう。

○「溜池通信」HPを作ってから、やっと半年といったところですが、だんだん威力を発揮してきた感があります。インターネットの効果は、いきなりではなく、少しずつ分かってくるように思います。



編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki