●かんべえの不規則発言



2010年4月






<4月1日>(木)

○今日から新年度です。桜も咲いてます。さあ、がんばりましょう。というところで、当サイトからのお知らせです。こんな本が出版されます。

●溜池通信 いかにもこれが経済

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4532354145 


*単行本(ソフトカバー): 256ページ
*出版社: 日本経済新聞出版社 (2010/4/16)
*ISBN-10: 4532354145
*ISBN-13: 978-4532354145
*発売日: 2010/4/16

○まだ2週間先ですが、よろしければ今からご予約なぞいかがでしょうか。いちおうエイプリル・フールではありません。


<4月3日>(土)

○与謝野さんの新党が動き出しているようですね。平沼さんや鳩山邦夫さんも合流の見通しで、10人規模になるのではないかとか。うーん、ワシは与謝野さんを評価することでは人後に落ちないつもりですけれども、やめといた方がいいと思うけどなあ。

○安倍元首相を中心にタカ派政党立ち上げとか、中川秀直さんを中心に上げ潮派政党立ち上げというのであれば分かるんですけどね。そもそも与謝野さんと谷垣さんって、政策的にもそんなに差はないし、何のための新党なのかがちょっと分かりにくい。「与党から割れた新党は残るが、野党から割れた新党は消えてなくなる」の法則からいっても、あまり有利な条件ではないと思うのですね。

○与謝野さんの「このままでは日本が危ない」という気持ちはピュアなものだろうし、「今の自民党ではダメだ」というのも正しい認識だと思います。でも、有権者は昨年8月にあれだけ明確な形で自民党にダメ出しをしたのだから、そりゃ半年やそこらで支持が戻ってくるはずがないわけで、そこは焦ってはならない。むしろ「参院選では、与党に対するお灸を据えましょう」という消極的な攻め方でよいのだと思います。

○もしこれが国際情勢に何の不安もなく、景気がどんどん良くなるという状況であればともかく、現状はそうではないわけですから、時間は野党の味方です。鳩山政権はほとんど学習効果がみられず、これは日本国民にとっては哀しいことですが、野党にとっては悪い話ではない。政治とカネに普天間に郵政と、攻める材料は増える一方です。

○みんなの党に対する支持率上昇、というのもひとつの理由なのでしょう。早く第三極を用意して、民意に応えるとともに政界再編の準備をしなければ、という焦りがあるのかもしれません。

○でも、みんなの党には「未知なる魅力」があって、与謝野新党にはそれは期待しにくい。今の有権者の気分としては、昨年の総選挙で「知ってる馬鹿野郎よりも知らない馬鹿野郎」を選んでみたものの、これが「とんでもない大馬鹿野郎」であることが判明して唖然としている。そうなると、「次なる知らない馬鹿野郎」を物色したくなる。与謝野新党は「知ってる小馬鹿野郎」であるから、そんなに人気は出ないと思うんですよね。

○さらにまた、与謝野新党の政策は売り込み方が難しい。みんなの党は、今や希少価値となってしまった「小さな政府」という主張がある。でも、与謝野新党の政策は、どうやって鳩山民主党や谷垣自民党と差別化が出来るのか。まあ、「他の人はアマチュアだけど、ウチはプロです」というのもアリだと思いますけど・・・・。

○強いて言えば、与謝野新党には寝業師、園田博之がいる。この人にはちょっと期待してみたい。自民党は、ホントだったらこの人をもっと使えばよかったのね。

○最後に話は変わるけど、沖縄県の興南高校、センバツ優勝おめでとう。先月末に那覇に伺った際に、地元の元甲子園球児が「島袋は、沖縄が生んだ史上最高の投手かもしれない」と言っていたのはホンモノでした。あの時点ではまだ1回戦を勝ったばかりでしたが、とうとう全国の頂点に達しました。おめでとう、おめでとう。


<4月4日>(日)

○気がつくと、そろそろ学校では新学期の季節ですね。久々に登校する子どもの中には、こんな不心得者もいたりして。


先生「宿題は出来たかな?」

生徒「5月一杯を目処としながら、宿題をまとめる努力をいましているところで」

先生「なんだ、まだできていないのか」

生徒「新学期までじゃなきゃならないということは、別に法的に決まっているわけではない」

先生「それでは約束を破るんだね?」

生徒「1日、2日、数日ずれることが大きな話ではない」

先生「嘘つきは先生は嫌いだな」

生徒「実は、春休みの宿題となる“福笑い”を持ち合わせている。その認識のもとで行動してもらっている」

先生「それはどういうものなのかな?」

生徒「お答えできない。”福笑い”をおおっぴらにすることは出来ない」

先生「それでは宿題を忘れたのと同じじゃないか」

生徒「宿題と少なくとも同等か、あるいはそれ以上に効果があり、学校にもPTAにも認められるような“福笑い”だと自信を持っている」

先生「だったら早く見せなさい」

生徒「PTAの了解なくして案を進めることはない」

先生「PTAの了解を得るためにも、早く“福笑い”を見せた方がいいんじゃないか」

生徒「かならずしもそういう意味で言ったのではない」

先生「だから締め切り直前になって“福笑い”を見せられても、PTAはかえって困るだろうが」

生徒「そもそも前の学年の生徒が悪い。13年かけて杭一本打てなかった」

先生「何を言ってるのか意味不明」

生徒「批判の声は、よし、よくやった、という激励の声と受け止めている」

先生「よく分かった。君はもう学校に来なくていい」

生徒「トラスト・ミー!」


○ちょっと今まで先生が甘過ぎたんじゃないかと思います。今日発表の新報道2001のデータによれば、とうとう不支持率が61.4%と支持率31.4%の倍になってしまったじゃありませんか。しかも政党支持率も、民主党と自民党が18.6%でピッタリ並んでいます。そして「まだ決めていない」は49%の高水準になっている。

○ついでに当方の資料も更新しておきました。ここまで来ると、しみじみ前の3つの政権とほとんど同じですねえ。


<4月5日>(月)

○与謝野=平沼新党が8日にも旗揚げだそうです。問題は名称でして、ひらがなで決めるという話が伝わっておりますが、なかなかピッタリ来るものが思いつかないのですよ。いやー、難しい。1ダースほど考えてみました。

●ぼくらの党:「みんなの党」の二番煎じ。でも、ホントに区別がつかなくなるかも。

●新党よみうり:バックについているのは大勲位とナベツネさんだから。って、バレるとマズイじゃないか。

●新党あんしん:「安心社会実現会議」が行動の原点だから。でも、保険会社の名前みたいかな?

●ほのおの党:次の衆院選にはもう出られない、と思いつめた人たちが、最後のご奉公ということで馳せ参じるから。

●新党やまと:この時代錯誤的な感覚がちょっと新しいかも。「久しぶりだね、ヤマトの諸君」(デスラー総統)。

●新党りょうま:福山龍馬の人気にあやかりたい。でも、龍馬さんは実は高額の「子ども手当て」を持っていたりして。

●新党TAX:どうせやりたいのは増税でしょ、というのを分かりやすく表現してみました。

●新党みだれがみ:与謝野家のDNAにあやかってみました。君死にたもうことなかれ。

●新党しらかば:純文学的な感じを出してみました。でも逆さまから呼ばないで。

●せんたくの党:日本を今一度せんたく致したく候。・・・そういえば「せんたく議連」ってのはどこへ行ったんでしょう?

●新党わけあり:集まってくる皆さんがそれぞれにご事情がおありのようで・・・・って、洒落になってない。

●新党ぬけがけ:自民党には未来がないということで・・・・って、洒落になってない。

○そもそも過去に使われた政党の名前はとんでもない数になるのです。戦後に議席を有したことのある政党だけでも、こんなにいっぱいあるのですよ。これだけ粗製乱造されてきたのが、わが国の政党史であるわけでして、これに新たな1ページを加えることはなかなかに難しい。

立憲養正會、第二院クラブ、自由連合、新社会党、政党そうぞう、緑風会、日本人民党、新自由党、全国農政連盟、サラリーマン新党、福祉党、進歩党、スポーツ平和党、新進党、無所属の会、日本自由党、民主自由党、自由党、日本進歩党、民主党、国民民主党、改進党、日本民主党、日本協同党、協同民主党、国民協同党、日本農民党、新政クラブ、日本再建連盟、新自由クラブ、進歩党、税金党、新党さきがけ、さきがけ、みどりの会議、新生党、自由党、新党みらい、保守党、保守新党、社会革新党、社会民主党、協同党、労働者農民党、民主社会党、民社党、社会市民連合、社会民主連合、社会クラブ、新党護憲リベラル、平和:市民、憲法みどり農の連帯、沖縄人民党、日本新党、公明新党、太陽党、フロム・ファイブ、国民の声、新党友愛、改革クラブ、新党平和、黎明クラブ、連合の会、民主改革連合、民政党

○その昔、「新党さきがけ」が誕生したときは、秘密裏にロゴまで作っていたことに感心した覚えがあります。それから「新党みらい」という党が発足したときは、書道の大家を招いておいて、名前が決まった瞬間にその場で一筆書いてもらったという故事があります。

○要するに、新党を立ち上げますと宣言した後で、周囲から「それであんたたち、名前はどうするの?」などと聞かれること自体が反則なんじゃないかと。くれぐれも上記のような名前が使われないことを祈ってやみません。


<4月6日>(火)

○今日も文化放送へ。毎週火曜日の朝に、野村邦丸さんとの掛け合いを始めてこれでちょうど1年。最初は「とりあえず3ヶ月くらい」と言われて安請け合いしたのですが、意外と長くなるのかもしれません。とりあえず、寝坊して焦ったのが1回ありましたが、何とかご迷惑をかけずにここまで来ました。

○かんべえの出番は、午前8時半から9時20分くらいまで。「おくさまニュース」とか、今日のお題についての掛け合いとか、いろいろあるのですが、いちばん頭を使うのが「今日のごぜんさま」。約15分間、自分の好きな話題を話してよし、という気楽なコーナーなんですが、何を話すべきかでいつも迷います。あらためて1年たってみると、ずいぶんいろんなことを語ってきたものです。


4月 7日(火) 景気対策のあり方
4月14日(火) 景気の行方
4月21日(火) 核廃絶論と核武装論
4月28日(火) ビッグスリーの行方
         
5月12日(火) ロシアとの付き合い方
5月19日(火) ニュージーランドの二大政党制
5月26日(火) 月例経済報告
         
6月 2日(火) GM経営破綻
6月 9日(火) カイロ演説
6月16日(火) 安心社会実現会議
6月23日(火) 1993年との類似
6月30日(火) 秋葉原
         
7月 7日(火) サミット今昔物語
7月14日(火) サントリー経営統合
7月21日(火) オバマ政権発足後半年
7月28日(火) 米中戦略経済対話
         
8月 4日(火) マニフェストに異議あり
8月25日(火) 経済政策論争
         
9月 1日(火) エコノミスト式選挙結果分析
9月 8日(火) 温暖化ガス削減目標
9月15日(火) リーマンショック1周年
9月22日(火) 鳩山政権の主戦場
9月29日(火) 亀井ショック
         
10月 6日(火) IOC総会大反省会
10月13日(火) オバマ大統領にノーベル平和賞
10月20日(火) ハブシステムとは何か
         
11月 3日(火) 浜祭り・公開生放送
11月10日(火) オバマ大統領訪日
11月17日(火) オバマ演説を読み解く
11月24日(火) デフレと日本経済
         
12月 1日(火) ドバイショック
12月 8日(火) 貿易動向
12月15日(火) 2010年の予定
12月22日(火) 干支で読む2010年
12月29日(火) 米国医療保険改革

1月 5日(火) 紅白よもやま話
1月12日(火) 消防出初式
1月19日(火) 女性の労働力
1月26日(火) グーグルと中国市場
         
2月 2日(火) 国会論戦と経済政策
2月 9日(火) アスリート世代論
2月16日(火) ギリシャ問題の展望
2月23日(火) QDR2010
         
3月 2日(火) トヨタ公聴会と日米関係
3月 9日(火) 韓国企業に学ぶ
3月16日(火) 月例経済報告を読む
3月23日(火) 調査捕鯨とは何か
3月30日(火) 観光立国

4月 6日(火) 米中関係


○某日、「受験者数で明治大学が早稲田大学を超えた」というニュースを扱っている最中に、くにまるさんがボソッと、「そういえばレモンちゃんも明治大学なんだよね」。それを聞いてあたしゃ仰け反りましたな。そうか、落合恵子って文化放送の社員だったんだ。くにまるさんの先輩なんだ。って、当たり前ですが。昔聞いた『セイヤング』って、この会社が流していたんだなあ、と思った瞬間でした。


<4月7日>(水)

○医療保険改革が成立してから、オバマの外交攻勢が続いています。まずはイスラエル、そしてNPRの発表にロシアとの核軍縮。来週はワシントンで核安全保障サミットを開催します。ここに胡錦濤を呼び込むために、4月15日に予定されていた米財務省の為替報告書の発表は先送りする。核と為替のディールなんてあり得ねえ、でも本命は対イラン制裁であったりする。

○この辺の機微は、この文章を読むとよく分かりますよ。それにしても、わがネタ元たるクリス・ネルソンの分析が日本語で読めるとは、ウェッジさんも粋なことをされますねえ。

○要するに、内政で成果を挙げたからこそ、外政でも強気で出られる。「外政は内政なり」で、国内で甘く見られているような指導者に、ちゃんとした外交ができるはずがありません。どっかの雑誌に「ほんにお前は屁のような」なんてことを内閣総理大臣が書かれるようではいけません。核安保サミットには行けるけど、日米首脳会談は開かれないでしょう。

○で、問題はオバマです。彼の立場になってみると、今はものすごい状態です。大統領になった瞬間に歴史に名を残したし、ノーベル平和賞も受賞してしまったし、過去1世紀にわたる医療保険改革という懸案も果たしてしまった。支持率は上がらないけど、もう怖いものはない。イスラエルでも核兵器でも持って来い。そんな心境になっても不思議はありません。

○たまたま読み終えた『スギハラ・ダラー』の最終章では、オバマが暗殺されることを仄めかされている。さすがはインテリジェンス・マスター、割のいい賭けをなさいますな。ワシでさえ、「ヤバくなったな」と感じますもん。大統領閣下、くれぐれもご自愛めされたし。


<4月9日>(金)

○社内の穀物担当者に聞いた話。ロシアの穀倉地帯を見てきたが、ソ連時代の防風林がしっかり残っていて、驚くほど肥沃な土地が広がっている。北米や南米の農地よりもすばらしい。これでサイロや交通網などのインフラが整えば、将来の世界食糧危機など吹っ飛ぶんじゃないか。何より、冬場に雪が積もる点がよろしい。厳しい自然状況を有する土地の方が、いい作物が実るものだから。

○ふーん、それって、新潟県の南魚沼でいいコメがとれるというのと似たような話かも。ちなみに南魚沼はこの季節でも雪が残っていて、桜が咲くのは5月に入ってからなのだそうだ。

○お昼に東洋経済新報社の経済倶楽部に出かけ、歳川隆雄さんの話を聞く。テーマは「鳩山政権の行く末と5月政局」。時宜を得たテーマにつき、会場は満杯。ということで、歳川さん大サービス。とても書けないような話が一杯でありました。ということは、今後の政局は大荒れということであります。

○政治も外交もこれから見せ場。逆に経済の話は盛り上がらない。景気がいいともいえないし、悪いともいえない。そんな中で、拙著の見本刷りが出来上がってきました。帯に「知らない人はモグリです」などと恐ろしいことが書いてある。ぎくっ。来週の後半から書店に並び始めるそうです。よろしければご予約をお願いいたしまする。


●溜池通信 いかにもこれが経済(日本経済新聞出版社)

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4532354145 


<4月10日>(土)

○ただ今、都内某所で合宿中です。そこへオーガスタでマスターズを取材してきた脱力さんが、時差ぼけを抱えたままで夕方から合流。まことにお疲れ様です。

脱力さんによれば、マスターズにおけるタイガー・ウッズはまことに絶好調。ここ数ヶ月のくびきを逃れ、大好きなゴルフに専念できるという夢のような状態。その昔、羽生6冠王の挑戦を受けた谷川王将が、阪神大震災の直後で「将棋が指せて幸せです」と言ったような心持ちと解釈しました。

○オーガスタは記者も招待制であったり、パトロンに厳しい規制があったりして、ウッズにとってはゴルフに専念できる理想的な状況である。おそらく「オーガスタのコースについて、俺より詳しいヤツはいないはず」くらいに思っているでしょうね。今後、王者の貫禄をどんな風に示すことができるのか。気になりますねえ。


<4月11日>(日)

○二日間の合宿を終えて、やや放心状態。オタクの世界にずぶずぶに埋もれておりました。疲れたし、寝てないし、明日が締め切りの仕事も残っているんだけど、それはまあ仕方がない。どんなくだらないことであっても、熱中している時間は無駄ではない。どんなに立派なことであっても、嫌々やっていることは後に残らない。こんな風に、何かに淫して生きていられるということは、とても幸せなことであるように思えます。

○「依存症」なんて言葉も、最近ではもっぱら悪い意味で使われておりますが、依存できるほど好きなものがない人生、というのも存外に寂しいことではないでしょうか。酒でも煙草でも競馬でも、依存するほど好きなものがあるということは、ちゃんとストレスを発散する術を知っているということですから。とりあえずのめり込む対象が、合法的なものであれば良いわけでありまして。

○こんな風に、毎日のようにネット上で何事かを書き続ける、というのも立派な依存症であるのかもしれませんな。(そういえばご同類としては、こんな人も来ていました)。今日もお読みいただいて、まことにありがとうございます。読まれてこその溜池通信、読者あっての不肖かんべえであります。


<4月12日>(月)

○核セキュリティーサミットに胡錦濤が来ることになったら、米財務省が為替報告書の発表を延期した。核と為替のディールなんて、普通はあり得ねえ。でも、中国が相手だと、そういうこともあったりするのよね。中国経済のプレゼンスが大きくなると、こんな風に皆が「中国の論理」に振り回されるのだ。

○日本の総理がワシントンに行って、アメリカ大統領には正式に会ってもらえない。でもオバマは、カザフスタンのナザルバエフ大統領や、ナイジェリアのジョナサン大統領代行とは会談する。そこで鳩山さんは、夕食会で非公式な接触を目指すんだそうだ。ちょっと哀れ。でも、日中首脳会談は出来るらしい。変なの。

○核サミットが何を目指すのか。大体の方向性は先日のNPRに出ている。今日のもっとも深刻な脅威は核テロであり、次に核拡散である。だから核保有国は核を削減し、持たない国には持たせない。と言いつつ、どこかの国が本気になって核を持とうとしたら、なかなか他国が止められるものではない。だって北朝鮮でさえできたんだもの。

○などと言ってたら、ポーランド大統領を乗せた飛行機が落ちた。

「カチンときたのかな」

「おそロシア」。

(これって顰蹙かなあ)


<4月13日>(火)

○なぜか朝からいろんな人に声をかけられる。あまり話したことのない人までがエレベーターの中などで、

「鳩山さんは、いつまでもつんですかねえ」

・・・・などと話しかけてくる。知らんがな、そんなこと。ワシに聞くな〜。

○どうもこの週末くらいに空気が変わってしまって、皆が変に心配し始めたようだ。「鳩山さんって、焦りがなさすぎる。やっぱりお金に困ったことがない人は、困ったものよねえ」みたいなことを、誰もが口にする。支持率3割台と2割台というのは、やはりそれくらい違う。

○考えてみれば、この国の住民は今までもいろんな心配をしてきたが、「財政」と「日米関係」を心配したことはあまりなかった。その2つが今は心もとない。

○「財政と日米」に比べれば、「医療と年金」の心配なんて可愛いものである。財政がおかしくなれば、医療と年金も確実に壊れる。そんなときにわが国財政の責任者は、「デフレが心配だから増税しよう」などと面妖なことを言っている。誰がそんな馬鹿なこと教えたんだ。その前にまず、子ども手当てを止めろ。ウチにはもう柏市役所から申請手続きが届いているけど、今ならまだ間に合うぞ。

○日米関係の心配も勘弁してほしい。この国の安全保障が懸かっているんだから。そりゃま1995年の日米自動車協議のときも心配はしたけれども、あれは「おいおい通産省、そこまでやって大丈夫か」という前向きな心配であった。今は、「おいおい鳩山よ、お前、自分が言ってることが分かっているのか」と頭を抱えている。まことに情けない。

○これで鳩山さんがワシントンから帰国するとメディアが待ち構えていて、「参院選の勝敗ラインは?」という定番の質問をするでしょう。そこで何と答えたらいいのか。「民主党で単独過半数」というのは、さすがにもうムリでしょう。「連立与党で過半数」が関の山でしょうが、それだって結構苦しい。ということは参院選後には、「政治責任は?」と問われることになる。もちろん、その前に辞めるという手はありますが。

○安倍、福田、麻生と、3代続けて任期1年の短期政権が続いてますけれども、今となってはその1年の何と長いことか・・・。


<4月14日>(水)

林芳正さんのパーティーへ行ったら、飯田先生がパネリストで、いろいろ面白い話があったので、以下ちょっとだけメモ。


●リーマンショックの直後に、「これで資本主義は終わったか?」というアンケートに対し、「そう思う」という答えはアメリカでは1割以下だった。日本だとこれがすごい比率になる。信念がないから、意見がぶれやすい。

●「母を訪ねて三千里」は、イタリアに住む少年がアルゼンチンに出稼ぎに行った母を追い求める物語だった。つまり戦前は、アルゼンチンの方がイタリアよりも豊かな国だった。でもアルゼンチンが経済政策を間違い続けたために、立場は逆転した。

●「小泉・竹中が悪い」という声をよく聞くが、2001年から07年にかけての日本は、格差も広がっていないし、ニートやフリーターも減っている。格差が拡大し、ニートやフリーターが増えたのは不況だった1996年から2000年にかけて。不況は全員の暮らしを1%ずつ下げるのではなく、1%の人の暮らしから100を奪う。

●デフレ時代になると、スター経営者がワタミとユニクロとマクドナルドになる。が、それでいいのだろうか。


○野党になった自民党の政治パーティーとしてはまことに盛況でありましたな。その後の立食パーティーでも、選挙が近いだけにいろんな情報が飛び交っておりました。またワシの知り合いが一人、選挙に出るらしい。そういえばあと3ヶ月しかないのですな。

○「宿題の言い訳をする生徒の話」というメールが飛び交っているぞ、と斎藤健さんが教えてくれた。当欄の4月4日分のネタであります。毎度のことながら、選挙が近づくと溜池通信の注目度が上がるような。


<4月16日>(金)

○今朝、地下鉄千代田線のダイヤの乱れにより、めずらしく満員電車でギュウギュウ詰めになって揺られていたら、どうした弾みか昔の話を思い出した。以下は当社の元役員で、とっても豊かな趣味をお持ちだった某氏から聞いたエピソードです。

○麻雀が大好きな某役員氏は、ある日、自宅用の麻雀卓を買おうと思い立った。そして、その道のプロがいるという噂を聞きつけた。下町にある麻雀卓作りのプロを訪ねていくと、これが絵に描いたような職人肌の偏屈オヤジであった。オヤジがあまりに傲慢な態度を示すものだから、役員氏は半分呆れながら、柄にもなく低姿勢になってしまった。

「麻雀卓を作っていただきたいのですが、今からお願いするといつ頃できますでしょうか」

「ふん、気が向いたら、作ってやるわさ」

○しばらくたってから、「おい、出来たぞ」という電話があった。早速、職人の仕事場に参上すると、限りなく芸術作品に近い木製工芸品が出来上がっていた。単に麻雀をするだけの道具とはとても思えない。点棒箱を開けるとカチンという綺麗な音がする。あまりの出来栄えに惚れぼれとして、役員氏はまたまた低姿勢になってしまった。

「あの、いかほどお支払いすればよろしいでしょうか」

「ふん、値段は適当に決めればいいわさ」

○役員氏は、百万円を置いて立ち去ったそうである。この金額が妥当なものであったかどうかは不明である。しかし、おそらくこの偏屈オヤジは、それにはさほど関心がなかったのではないかと思う。俗世のことにはもとより興味はない。この役員氏のような酔狂人が、評判を聞きつけて次々やってくるから食うには困らない。気が向いたら仕事をする。自分が満足できる作品が出来れば、それが最高の報酬である。

○この偏屈オヤジは、ある意味で最高の生き方をしている。自分は価値のある人間であることを知っていて、自分が最高だと思うものを作っていればいい。自分の仕事のクオリティを、いちいち他人が支払うカネの多寡で図る必要はない。真の芸術家というものは、そういうものであろう。

○その一方で、職人はいくつものリスクを抱えている。例えば全自動卓が流行して、木製の麻雀卓など誰も見向きもしなくなるかもしれない。ある日突然に怪我をするなどして、自分が満足できる作品が作れなくなるかもしれない。もっともそういうことを気にするようでは、とてもじゃないが芸術家とはいえない。芸術家たるもの、末路哀れは覚悟の上でなければならない。

○もしも日本という国全体が、この偏屈オヤジのような生き方ができればまことに結構な話である。定評のある日本のモノづくりの前に、世界の国々が門前市をなす。「ふん、気が向いたら、作ってやるわさ」「ふん、値段は適当に決めればいいわさ」で生きていく。品質力が絶対であれば、それも可能かもしれない。まあ、ちょっとムリでしょうけれどもね。

○たまたま来週、こういう場所でパネリストを務めます。果てさて、どんな話をしたものか。今週末にあらためて考えましょう。

[緊急シンポジウム]

グローバル競争下の日本の品質力を問う

【パネリスト】
  橘川武郎氏(一橋大学大学院商学研究科教授)
  吉崎達彦氏(双日総合研究所チーフエコノミスト)
  新 将命氏(国際ビジネスブレイン代表取締役)

【日時】 2010年4月21日(水) 午後2時から4時半

【会場】 商工会館6階(霞ヶ関ビル対面)

【参加費用】 1000円(会員、定期購読者は無料)

○ちなみにこの役員氏、80代になった今もお元気で、ときどき会社にお電話を頂戴する。そして、趣味のバイオリンでCDを作ったとか、想像を絶するような世界を拝聴する。自分がその年代に達したときに、かくも豊かな老後が送れるだろうか。それを考えると、まことに内心忸怩たるものがございます。


<4月18日>(日)

切込隊長から催促されたようなので、世論調査のデータを書き換えておきましょう。

(旧) http://tameike.net/pdfs8/poll%204administration.pdf
 ↓

(新) http://tameike.net/pdfs8/poll100418.pdf


○それにしても、途中で全然歯止めがかからずに一直線に落ちている、というのがすごい。鳩山さんの発言も、日に日に「痛い」感じになっている。とくに「日米首脳雑談」はカッコ悪かった。この後はいよいよ「普天間の締め切り」が待っている。それにしても、なぜ「5月までに決める」なんて言ったんでしょうね。

○自民党時代に何度も繰り返されたことですが、いよいよ政権が持たなくなるときというのは、「政権支持率が政党支持率を下回ったとき」であります。つまり、無党派層のほぼすべてが政権を見放し、民主党支持者の一部にも「こりゃもうアカン」という機運が生じるとき。現時点で10%くらいの差ですから、あと1ヶ月もつかどうか・・・・。


<4月19日>(月)

○昨日は年に1度の町内会の総会で、このところ毎年のように荒れるんですが、今年も2時間10分のロングラン総会でありました。その後に4時間もの懇親会があって、なおかつ二次会にカラオケ行こう、なんて人たちがいる。あたしゃ、もうついていけませ〜ん。

○総会ではいろんなことが決まったのですが、個人的に驚いたのは「集会所の電話を取り外しましょう」ということで、通信費ゼロの予算案が通過してしまったこと。このところ電話の使用がとっても少なくて、「今月は基本料+50円」なんてこともあるらしい。だったら基本料がもったいないから、今後は皆さん、それぞれにご自分の携帯電話を使ってくださいね、ということになったのです。

○最近は、新たな固定電話の加入が極端に細っているらしいのですが、こんな風に取り外すところも出てきているわけですから、いよいよ世の中は固定電話から携帯電話へと移っていきます。町内会も一種の法人だから、固定電話の回線を確保しておいた方がいいんじゃないかと思ったんですけどね。まあ、今の世の中はすっかり「仕分け」モードですから、冗費の削減には手抜きがありません。

○それではこういう時代、電話で実施している世論調査ってちゃんと機能するのかしら。いわゆるRDD方式(Randam Digit Dialing)というやつ、あと何年使えるんだろう。固定電話に出るのは年寄りばっかりで、若者は携帯電話しか使わない。ところが携帯電話に対しては、無作為な電話なんてかけられない。それで自動車事故が起きたらどうするんだ、ってなことになりますからね。

○まあ、それでもトレンドだけは分かるから、しつこく統計を取り続ける値打ちはあるんだと思います。今日の朝日新聞の世論調査では、鳩山内閣の支持率が25%で、民主党の支持率が23%。ということは、民主党支持者以外はほとんどが鳩山さんを見放してしまっている。昨年夏の総選挙における民主党勝利の原動力であった無党派層は、すっかり逃げてしまった。まさに「やせ細った民主支持層にしか支持されない内閣」であります。

○これが自民党なら、とっくの昔に「鳩山降ろし」でしょうけれども、そこはサラリーマン気質の民主党。愚痴はいうけど、クーデターを起こそうなんて人は見当たらない。早いところ、動いた方がいいと思うけどね。


<4月20日>(火)

○先週の文化放送「くにまるワイド」で、新著『溜池通信 いかにもこれが経済』を10人の方に視聴者プレゼント、と宣言してちょうど1週間。到着したハガキが10枚以下だったら寂しいな、と思っていたら、さすがに200通くらいは頂戴しておりまして、まことに恐縮であります。ちゃんと10冊全部にサインしましたので、順次発送される予定です。ご応募いただいた皆様に深謝申し上げます。

○本の宣伝、ということでは、今朝の朝日新聞の草刈民代さんヌードはぶっ飛びましたな。写真集「BALLERINE(バレリーヌ)」の全面広告ですが、さすがは幻冬舎、思い切ったことをしたものです。新聞広告というと、近頃は不景気な話ばかりですが、これはちょっとしたお値打ちでしょうね。広告とは、人を驚かしてナンボの世界。この仕事の原点を思い起こさせるような傑作でありました。

○4月14日にちょこっと書いた「選挙に出るワシの知り合い」が、今日正式発表になりました。GE日本の東海由紀子さんが、今度の参院選の東京選挙区から出馬します。ワシントンでは「ビビアン」という通称で有名なんですが、出張の際にはよくお世話になりました。そういえば、やじゅんさんを紹介してくれたのも彼女でしたな。

○あの蓮舫さんと対決しちゃうわけだから、この対決、すごいよね。両方知っているワシとしては、どっちの肩を持てばいいんだろう。まあ5人区なんだから、両方通ってくれ!ということで。


<4月21日>(水)

○こないだ社内で話をしていたら、営業の部長さんが、「『昨日も阪神勝ちましたねえ〜』てなこと言ってりゃ取れた商売って、最近はなくなりましたね」てなことを言ってました。・・・・まあ、確かにそれはその通りでしょう。それにそんな仕事は、あったとしても早晩なくなるのが関の山でしょうし。

○最近のメーカーさんは合理的ですから、商社に対しては「どんなことでもいい、提案があればお聞きします」なんてことを言うんだそうです。逆に言えば、具体的な提案がないのなら来なくていいよ、ということでしょう。用もないのに足しげく通って、「御社は熱心ですねえ。オーダー出しましょうか」てな営業が出来た時代は、過去のことになりつつある。

○で、こういう変化が生じている間に、商社の仕事自体が変わってしまった。ワシが入社した1980年代には、商社というのは貿易をする会社だった。誰かと誰かをつなぐ仕事が中心だった。でも、そういう仕事はいずれなくなるだろうから、「商社不要論」とか「冬の時代論」とか「中抜き論」ということが言われていた。それから幾星霜。

○意外なことに、21世紀になっても商社は生き残っている。その間に貿易の仕事が減って、投資の仕事が増えた。鉱山だとか会社だとか農地だとかを買って、それでモノを売るという業務形態になりつつある。最近の証券市場では、「資源高だと商社が潤う」みたいな認識になっているけれども、これはごく最近の現象である。

○「貿易会社から投資会社への変身」というプロセスは、今も現在進行中なのでこの先どうなるかは分からないし、中にいる者としては、本当に成功しているかどうかもあまり自信はない。ただし、この変化はいかにも日本企業ならではだったなあ、と思うのである。

(1)これが欧米企業であれば、古い企業をつぶした上で、新しい企業を作るだろう。その方が手っ取り早いから。ところが日本の商社では、昔貿易業務をやっていた人たちが、今は投資業務をやっている。もちろん、外から人材を入れたりはしているのだけれども、基本的には以前と同じ人たちが、勉強しながら新しい仕事をやっている。

(2)「貿易から投資へ」という変化が、トップの決断や明確な戦略に沿ってではなく、現場の試行錯誤の結果として実現している。これがまた不思議なことに、すべての会社で似たようなことが起きている。正確に言えば、大手の方が中堅よりも戦略的にやっていると思うけれども、「貿易中心から投資中心へ」という業務の変容は普遍的に見られる現象である。

(3)さらに不思議なのは、こういう変化を担っている当人たちが、自分たちのやっていることに対してまったく無自覚であること。単に、毎期の決算を乗り越えることばかり考えていて、「会社の未来」なんて高尚なことは念頭にない。環境変化に適応しているといえば聞こえはいいが、見方を変えれば経営不在、戦略不在である。

○こんな次第で、経営を取り巻く環境は激変しても、企業の中の人間関係は驚くほど変わらないままで、商社は余命をつないできた。要は組織を変えずに、仕事を変えてきた。それはこの20数年間で、われわれが無意識のうちに選択してきたことである。こうやって生き残っているところを見れば、そんなに間違った選択ではなかったのだろう。

○その昔、商社の未来についてはいろんな議論があった。「社内公用語を英語にする」「外国人を大胆に登用する」「本社を海外に移転する」など、いかにも、といった構想はたくさんあったのだけど、その手の改革はほとんど進まなかった。今でも商社はグローバル企業ではなく、典型的な日本企業である。おそらくこの辺は、今後もあまり変わらないんじゃないかと思う。

○以上、あまり威張れることではないし、この先も保証はないけれども、とりあえずわれわれは「商社冬の時代論」を乗り越えることができた。もちろん中に居た者としては、とってもスリリングな20数年間でしたよ。でも、「人こそ財産」という基本だけは変わっていない。このことは、少しだけ自慢してもいいのではないかという気がします。

○以上、世界経済研究協会の「グローバル競争下の日本の品質力を問う」というシンポジウムをやっていて考えたことです。老婆心ながら、商社志望の学生の皆さん、上の話はかなりの極論なので、面接で受け売りしてもあまり有効ではないと思いますよ。


<4月22日>(木)

○「グローバル競争下の日本の品質力を問う」という話の続きです。

○今日はちょっとした架空インタビューを行なってみました。各分野の3人のプロの方にご登場いただきます。


●トヨタのディーラーはかく語りき

ときどき、「クルマはトヨタに決めてます」というお客様がいらっしゃいます。まことにありがたいことです。当社のこともよくご存知ですし、商品についても非常にお詳しい。当然、おろそかにはできないお客様です。でもこういう人たちは、他社に浮気はしないでしょうから、そんな商談をいくつ決めてもトヨタ車のシェアは変わらないわけです。

私たちが本気で落とさなければならないのは、「トヨタかホンダか迷っている」とか、「いつもは日産だけど、ちょっと飽きが来た」というお客様です。こういう商談を取ることで、初めて商売のベースを広げることができる。もちろん、簡単には落ちてくれません。でも、この仕事の面白さは、そういうところにこそあるのだと思います。

特に大事なのは、ワガママを言うお客様ですね。どこまでサービスが出来るかは、難しい問題でもあるわけですが、ワガママを言ってくれるお客様というのは、私たちが普段気づいていないことを教えてくれる人でもあるわけです。そういうお客様がいなければ、セールスの現場は鍛えられません。

いろいろ努力した結果、それまで散々ワガママを言っていたお客様が、「よし、買おう」と言ってくれた瞬間に、私たちにとって最高のお客様に変わります。それはうれしいものですよ。苦労が報われる瞬間ですから。商品力だけでモノが売れるのなら、私たちは存在しなくても同じこと。でも、実際はそうではないのです。

真面目な話、クルマを買われるときは、なるべくワガママを言われた方がいいですよ。あっさり買ってくださったお客様のことは、私たちもすぐ忘れてしまいますからね(笑い)。


●選挙コンサルタントはかく語りき

自民党で多選されている先生方というのは、やっぱり問題があることが多いですね。何より後援会組織がキッチリできあがっていて、義理のある団体を回っているだけで時間がなくなってしまう。でも、そういう人たちはコアな支持者ですから、ホントはそんなに手厚く対応する必要はないんです。間違っても民主党や共産党には投票しない人たちなんですから。

例えば、ウチの先生が野球関係の団体が顔なじみだとします。そこを敢えてサッカーの団体に顔を出してもらう。そうしたら喜ばれますよ。「××先生は野球だけかと思ってました」ということになりますから。もちろん先生だって、知ってる人を相手にする方が楽に決まってます。知らない人のところへ行くのは、気が進まないと思いますよ。でも、そうやって支持者を広げていかないと、いつの日か選挙で泣きを見ることになりかねません。

いつも同じ人たちを相手にしていると、必要な情報も入らなくなってしまうんです。後援会の幹部なんかは、「先生、今度のポスターはいいですね」などと、耳に優しいことばかり言う。でも、それはコアな支持者の声であって、無党派層は全然違う印象を持っているかもしれない。はっきりいって、今は有権者の5割以上が無党派層ですから。小選挙区時代の今は、彼らの考えを汲み取らなきゃ当選は覚束ないんです。

何しろわれわれが売ろうとしているのは、政治家という変な商品です。大臣は3つやりました、地元のために何十年も尽くしてきました、あの橋もこの道路も私が作りました、といった業績が、ある日突然、ネガティブになってしまうことがある。ウチの先生だって、わけの分からない女性候補にいつ負けちゃうかしれない。

この仕事、実績で売るより、期待で売る方がはるかに効率がいいんです。変な世界ですよね。つまり商品力というものを、信用できない世界なんです。


●キャバクラ嬢はかく語りき

あたしたちがこの世界に入った頃に、先輩のお姉さんたちに言われたのは、「クセのある客を大事にしろ」ってことでしたね。そりゃあ、イケメンで、カネ払いがよくて、話も上手で、しつこくアフターに誘わないお客さんが居たら、誰だって大事にしますよ。でも、そういう客はどこへ行ったってモテるから、他所へも行っちゃうんですよね。てゆーか、そんな客、そもそもキャバクラには来ないし。

クセのある客、ってのは、性格が悪くてすぐに切れちゃうとか、話が下手で黙り込んじゃうとか、すぐに酔っ払ってしまうとか、普通だったらモテないタイプってことね。キャバクラ以外で女の子と話したことがないとか。そういう客は、どこの店でも大事にされないから、女の子に優しくされたこと自体が少ないわけ。そういう客を大事にしてあげると、次からかならず指名してくれたりするんです。

そりゃクセのある客の相手は面倒ですよ。でも、そうやって作ったテッパン客は、他所へは行かずに長い間通ってくれるし、他の子にとられる心配もないしね。ベテランで指名をいっぱい取ってる子って、そういうのを上手にやってるのよね。最近の若い子は、そういうのが分からないみたいだけど。

今呼ばれたあの子、見た? あの子がウチの店のナンバーワンなの。驚いたでしょ? 全然美人じゃないでしょ? 化粧も上手じゃないし、年だって29歳ってことになってるけど、ホントは・・・・・・(聞き取れず)。 とっても偉い人で、週に1回は来て、思い切り使ってくれる太客がいるんだけど、彼女以外の誰とも口をきかないの。前に居た店から、ずっと続いているらしいんだけど。

結局、この仕事はなんでもアリってことね。あたしも今の店が5軒目だけど、店一番の美人がナンバーワンだった店はいっこもなかったもん。



○「品質力」というと、われわれはついつい商品のクオリティを考えてしまいます。でも、モノより大事な「経営の品質力」というものがあるはず。ここがしっかりしてないと、「商品力では勝ってたんですが、商談には負けました」ということになる。最近の日本企業では、そういう例が増えているのではないでしょうか。



<4月23日>(金)

○本日は、全国ステンレスコイルセンター工業会の定時総会で講師を務めました。

○ステンレスというと、てっきり流し台のような家庭用の需要が多いのかと思っていたら、最近のマンション建設などでは台所は人工大理石の素材が多いんだそうだ。やはり自動車向けや設備投資向けが需要の中心らしい。リーマンショックからこの方、2年間赤字が続いてきて、やっと市況が回復してきたかと思ったら、今度はニッケルなどの原料高に見舞われている。メーカーさんは値上げの構えだし、ユーザーさんは値上げなど冗談じゃないと言う。なかなか大変です。

○昨日、IMFのWorld Economic Outlookの改訂版が出たのだけれど、これを見ると全世界の経済成長率が2010年は4.2%、2011年は4.3%となっている。2年連続の4%台はかなり強い。しかも先進国は今ひとつで、新興国の需要で浮揚しているという2004〜05年頃のパターンと似ている。ということは、またまた資源高が来るのだろう。2008年前半に比べれば、円高が進んでいる分がラクとはいえ、日本経済にとってはキツイ。

○もうひとつ、昨日は貿易統計の3月分が発表された。これが悪い数字ではないものの、やはり増勢は鈍化している。特に中国向けが思ったほど伸びていない。人民元高期待の買い控えが起きているのかもしれないが、アジア向け外需はイケイケゴーゴーというほどではありません。少し先行きを慎重に見た方が良さそうです。

○リーマンショック以降の生産調整は、わが国製造業にとっては塗炭の苦しみというものでしたが、それが今では在庫がほとんど片付いてしまっているわけですから、この柔軟性はたいしたものだったと思います。「よくやった!」と言っていいとおもうのですが、生産の現場はちょっとした放心状態というか、ついつい「疲労感、疲弊感、閉塞感」という3Hが先にたつようです。

○日本経済にとっては、当面この3H追放が急務だと思うのですが、果たしてどうやったらいいものか。悩ましいところがあります。


<4月25日>(日)

○以下の数字はなるべく正確を期したつもりですが、若干の間違いがあるかもしれません。なにせ、あまりにも変化が急なものですから。青字が今月、新たに誕生した新党です。


●与党(衆317・参127)

民主党(衆307・参116)
社民党(衆7・参5)
国民新党(衆3・参6)

●野党(衆163・参115)

自民党(衆116・参75)
公明党(衆21・参21)
共産党(衆9・参7)
みんなの党(衆5・参1)    *渡辺よしみ氏
たちあがれ日本(衆3・参2) *平沼・与謝野新党
改革新党(衆1・参5)     *ますぞえ新党
日本創新党(衆0・参0)   *首長(山田&中田)新党
大阪維新の会(衆0・参0)  *橋下知事新党

新党日本(衆1・参0)
無所属(衆7・参4)


○あらためてよくよく見ると、新党が擁する議員の数はとっても少ないのです。来たる参院選において、若干は議席を上積みするにせよ、たいした数にはならないでしょう。しかも、こんな風にバタバタと4つも立ち上がったために、だんだん名前と顔が一致しなくなってきた。しばらくはメディアも追いかけるでしょうが、来月からはどうやって耳目を集めるのでしょう。

○翻ってみると、民主党の衆院300議席というのは今や宝の持ち腐れもいいところでありますな。「民意は我にあり」と言うことが許される唯一の政党なのに、普天間問題では社民党に、郵政問題では国民新党にやられっぱなし。そしてマニフェストで掲げた政策は、次々と破綻している。ここの調査では、とうとう政党支持率で自民党に逆転されてしまった。さらに言えば、社民党と国民新党の支持率がともにゼロになっている。

○ということで、やっぱり5月政局ですかねえ。まあ、好きにやっててくれればいいですが、政府・与党におかれましては、6月中に決めなければならない「中期財政フレーム」と「経済成長戦略の具体策」と「JALの経営再建計画」だけはキチンと作ってくださいまし。でないと日本経済がどうなっても知らないよ。

○と、これを書いている最中に、いつもの新聞店のおばちゃんが、日本経済新聞の集金にやってきた。いつも通りに朝夕刊セット料金4383円也を支払って、「これって電子版を取るとどうなるの?」ときいたところ、「え?電子版?」とおばちゃん、固まってしまいました。いやあ、いちおう登録はしてあるんですけれども、有料になる来月からはどうやって料金を払うのかなあ・・・・。


<4月27日>(火)

○昨日は、日本経済新聞・経済広報センター・ブルッキングス研究所による共催シンポジウム「オバマ政権の外交政策と日米関係」が開かれたので行ってきました。なぜか関係者席で、2列目で聞いちゃいました。今朝の日経丁寧なまとめが出ていましたな。

○個人的に一番興味深く感じたのは、久保文明・東大教授が「鳩山政権は日米関係をどう考えているか」という説明を諄々としている間に、ブルッキングス研究所からの3人のゲストの表情がどんどん暗くなっていったところでしたね。その次に発言を振られたタルボット所長は、「Baseless Security Treatyだって?」と唖然としてました。そりゃ驚きますよ。「駐留なき安保」なんて聞いたらね。日経のまとめでは以下の部分です。


久保文明・東大教授 鳩山由紀夫政権の安保政策で特に違和感を感じるのは対米政策だ。「緊密で対等な日米関係」を1つのスローガンにしているが、「対等」の定義が難しい。米国にとっては、日本が防衛費を増やして安全保障に貢献することを意味するだろうが、鳩山首相は全く違ったことを意味しているはずだ。

 鳩山首相はかつて「駐留なき安全保障」を持論に掲げていた。首相としては封印しているようだが、間違いとは思っておらず、ただ一時的にフタを閉めている印象だ。

タルボット氏 基地のない安全保障や軍事同盟は可能なのか。長期の同盟関係は米国が不測の事態に対応できるか否かによる部分が大きい。だからこそ、海軍、空軍、地上軍など様々な資産を持つ必要がある。沖縄の海兵隊はこの地域で(実質的に)唯一の地上軍である。


○ストローブ・タルボット所長はもともとはタイム誌のジャーナリストで、クリントン政権下では国務副長官を長く務めました。アメリカのリベラル系外交族のもっとも良質な部分を代表するインテリです。この日は午前中に官邸を表敬訪問していたそうですが、まさか今日会ったあの人がそこまで"Loopy"だとは思わなかったのでしょう。

(ちなみに"Loopy"という言葉の日本語訳は、「愚か」とか「愚直」なんて美しい語感ではなく、「くるくるパー」みたいなもんでありますぞ。念のため)。

○ということで、アメリカ側の落胆はまことに大きい(あるいは学習効果が大きかった)と思うのですが、お馴染みクリス・ネルソン氏も、新しいコラムで遠慮のないことをいっぱい書いている。もったいないくらいにネタ満載。例えば、以下は元国務省の知日派筋からのコメントだが、これって誰だろう?


「本当のところ鳩山氏が何を言いたかったかは、日本の評論家やブロガーたちがこれからもああだこうだといろいろやるでしょう。でもあまり意味はない。あと何カ月かで、鳩山さんは過去の人でしょ」。

 「そうしたら、やたらとトゲトゲした菅直人氏とか、堅物なうえにも堅物な岡田さん、腐敗と暗黒の旧弊タイプ小沢氏とか〔very prickly Naoto Kan, the very stiff and stubborn Okada and/or the rather corrupt and thuggish old-style politico Ozawa〕、そういう人を相手にしないといけなくなる。その時になったら、loopyな総理大臣の時代を懐かしむんじゃないかな。鳩山さんはよく考えを練らないうちに同盟関係を変えたいと夢見はしたけど、少なくとも同盟に反対ではなかったわけだから」。



○つまり、間もなくわれわれは、「まだしもLoopy ハトヤマの方がよかった」と嘆くであろうとのこと。言われてみれば、「漢字が読めなくても、前の人の方がよかった」という気もしてきた。これではまるで、「お前らの監督は吉田と村山しかおらんのや!」と言ってた時期の阪神タイガースのようではないか。

○そしてネルソン氏の結論は下記の如し。


 そろそろ今月の記事もまとめに入りたい。米国は米国で、この政権高官やその他の専門家が気づいたとおり、日本で進む政治の変革をつかまえるのに手間がかかったのである。毎週毎週「危機」を報じる日本の報道に、少しとらわれすぎたのだとも言える。

 気づいてどんな結果になったかというと、民主党の統治能力に対し、米側の信頼は概して失われてしまったというのがひとつ。この点は、日本の世論調査が正しいなら、日本の選挙民と見解を共にするところだ。


○哀しいくらいに、このコラムはよく書けている。訳も上手い。ご一読をお勧めします。


<4月28日>(水)

○ギリシャ国債が投機的水準に格下げされたので、世界的に金融市場は大荒れということに。世の中には難しい問題がいろいろありますが、このギリシャの財政問題は「落としどころが見えない」という点で、まことにめずらしいケースではないかと思います。

○つまり中東和平であれば、イスラエルとパレスチナが双方の言い分をなるべく認める、ということが解決策となります。でも、そんなことは現実問題としては、できないわけでありまして。あるいはわが国の年金問題であれば、これはもう給付水準を切り下げるしかないでしょう。でも、そんなことを言い出す政治家はいませんわなあ。

○とまあ、難問と言われるものの大多数は、答えは大体わかっているのだけれども、それが論外なほどに困難であったり、実行する勇気が誰にもなかったりするのですよね。その点、このギリシャの財政問題というのは、単純に助けるわけにも行かないし、見捨てるわけにも行かない。なおかつ当のギリシャには、自力で解決する意欲が薄い。まことに扱いに困るわけであります。

○もちろん、できもしない解決策は、いくらあっても意味がない、という例も昨今では事欠きません。例えば、首相が沖縄に行って土下座して、やっぱり普天間の移設先は辺野古にさせてください、と頼むとか、この際、幹事長の首を取って新体制で参院選に臨むとか・・・。

○あらゆる難問に共通しているのは、「そんな状態にしてしまったことが、そもそもの大失敗」ということであります。難問は、小さなうちに芽を摘んでおくこと。難問が難問になってしまったら、もう遅い。そのときは問題を解決するよりも、ダメージコントロールを優先すること。とにかく下手な欲を捨ててしまうことが肝要であります。間違っても「ウルトラC」などを目指してはなりませぬ。


<4月29日>(木)

○本屋さんを覗くたびに、拙著『溜池通信 いかにもこれが経済』の置き場所が気になる今日この頃であります。さすがに小さな書店では置いていませんが、大きな書店ではちゃんと経済書のコーナーで平積みにしてもらっているようです。でもなあ、これって経済書かなあ。でも、エッセイ集として売るほどワシは有名人じゃないし。どういうジャンルの本なんだろう。

○本書は、この「不規則発言」過去11年分のよりぬきバージョンです。伊藤さんkanbeiが書き綴った不規則発言の中から、編集者が苦労してまとめたものを本にしている」と書いてくれましたが、いちおうネタは自分で選びましたので念のため。それから、切込隊長が書いてくれたエントリーは、ツィッターなどであっという間に広がったようです。さすがですなあ。らくちんさんも取り上げてくれました。皆様、多謝あるのみです。

○ネット上で書いたものを活字にする、というのは、著者としては「含み資産の益出し」みたいなもので、これが売れたらまことにモウケモノである。その一方で、これからは電子書籍だという世の中に、なんでわざわざネットのものを紙にするのだろうか。他方、上海馬券王先生のように「紙はいいのう。PCのディスプレーで読むより遙かに読みやすい」と言う方もいらっしゃるので、縦書きの活字にすることで届く範囲が広がるのかもしれません。

○昨今、話題になっているたぬきちの「リストラなう」日記では、老舗の出版社におけるリストラの現状が日々、語られています。出版社の高コスト体質、電子媒体の参入、時代遅れの流通システム、その結果として始まった早期退職勧奨と、それに手を上げた中年男性の揺れる心情。たぬきちさんがLow-Keyでdecentな語り手なので、ついつい引き込まれてしまいます。

○毎回、読むたびに「紙媒体と活字文化はどこへ行くのか」と考えさせられます。ネットと活字、両方の世界のステークホルダーとしては、何とも気になるところです。


<4月30日>(金)

この記事はちょっとビックリしたな。Facebookでオバマ大統領の死を望むグループが100万人を突破したんですと。

"DEAR LORD, THIS YEAR YOU TOOK MY FAVORITE ACTOR, PATRICK SWAYZIE. YOU TOOK MY FAVORITE ACTRESS, FARAH FAWCETT. YOU TOOK MY FAVORITE SINGER, MICHAEL JACKSON. I JUST WANTED TO LET YOU KNOW, MY FAVORITE PRESIDENT IS BARACK OBAMA. AMEN."

(神様、今年あなたは私のお気に入りの俳優パトリック・スウェイジ、歌手のマイケル・ジャクソン・・・etcなどを召されましたね・・・そういえば、私のお気に入りの大統領はバラク・オバマです)


○このジョークもすごい。

「What do President Kennedy and Obama have in common?」

→オバマとケネディの共通点はなーんだ?

「Not yet」

→まだでしょ。

○やっぱりな、とも思うけれども、素直に怖い。My Big Appleさん、どうもありがと。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki