●かんべえの不規則発言



2018年1月






<1月1日>(月)

○今年の富山は雨の正月である。雪になるかと思ったが、そこは若干、手加減していただいたようである。まあ、昨年は年越しの「朝生」に出ていたくらいなので、それに比べればのどかな正月でまことにありがたい。

○年越しでいくつか驚いたのは、「これってすごいぞ」と言われていた大阪府立登美丘高校ダンス部の「バブリーダンス」である。ユーチューブ恐るべし。とうとう「レコ大」には出るわ「紅白」にも出るわで、年末年始の話題をさらってしまった。後世畏るべし。これはもう、フォーチュンクッキー以来のブームですな。そのうち「モーサテ・ファミリーで練習しましょう」などと言われてしまうかもしれない。といっても、あの身体のキレはさすがに無理だと思うが。

○エコノミスト業界的には、これでずいぶん百花繚乱となりそうだ。「とうとうバブルが戻ってきたのではないか」(滝田洋一氏)。「日経平均は3万円くらいまでいくのではないか」(武者陵司氏)。「いや、これはスーパーゴルディロックスで、株高と金利安が続いて最後にはえらいことになるのだ。早く手を打たねば」(菅野雅明氏)。「何を言うか、こんな結構な話はないではないか」(高橋洋一氏)。「いえいえ、罰当たりな日本経済は地獄に落ちるのです」(浜矩子氏)など、いくらでも続けられる。ワシ的には、こういう議論ができること自体、2018年は結構な年ではないかと思う。

○戌年ですので「犬は笑う」。変な理屈をこねていると、笑えるときに笑い損ねるかもしれません。だから踊れるときには踊っておきましょう。てなことで、ゆるーく新年の始まりであります。


<1月2日>(火)

○おっと、もう出ていたぞ。ユーラシアグループ「今年のトップテンリスク」。後で読むとして、とりあえずランキングだけをメモしておこう。

(1)China loves a vacuum (空白を愛する中国)

(2)Accidents (偶然による事故)

(3)Global tech cold war (ハイテク冷戦)

(4)Mexico (メキシコ)

(5)US-Iran relations (米イラン関係)

(6)The erosion of institutions (空洞化する組織)

(7)Protectionism 2.0 (進化する保守主義)

(8)United Kingdom (英国)

(9)Identity politics in southern Asia (南アジアのアイデンティティ・ポリティクス)

(10)Africa’s security (アフリカの安全)


Red Herrings;Trump White House, Eurozone, Venezuela リスクもどき:トランプ政権、ユーロ圏、ベネズエラ


○以上、取り急ぎ。


<1月3日>(水)

○今年のTop Risksは全体にトーンが暗い。出だしからして、こんな感じである。


LET'S BE HONEST: 2018 doesn't feel good.

Yes, markets are soaring and the economy isn't bad, but citizens are divided. Governments aren't doing much governing. And the global order is unraveling.


○景気は良くて株価が上がっても、市民は二分され、政府は統治できないでいる。という嘆きが嫌でも目に入る。が、そんなに2018年は暗いんだろうか。ちょっと違和感がある。

○6番目のThe erosion of institutionsまで読み進めたところで、「おや?」と思った。こんなことが書いてある。


Across the developed world (with the notable exception of Japan), popular trust in technocratic/bureaucratic institutions has declined steeply, in some instances as a result of direct political interference in their work.


○今や日本を除く先進国においては、あらゆる機関が政治化してしまい、信頼を失っている。それを言ったら、日本も大手の新聞が甚だしく信用を落としているのだけれども、他国に比べればまだまだマシな方なのだろう。SNS時代においては、皆が「自分が信じたいことを信じる」ようになるので、何が真実なのかがわからなくなってしまう。そういう無力感が今の欧米社会に影を投げかけている。

○幸いなことに日本社会はちょっと鈍くて、そこまで暗くならないで済んでいる。選挙をやればちゃんと与党が勝つ。「アベ政治を許さない」と言って怒っている人たちだって、今の野党に政権担当能力があるとは考えてはいないだろう(たぶん)。少なくとも、そこまで追い込まれてはいないと思う。

○この年末年始に読んだ『破綻するアメリカ』(会田弘継/岩波現代全書)には、どうにもこうにも行き詰った今のアメリカの政治状況が遺憾なく描かれている。トランプ氏当選の陰には、「フライト93」という仮説があった。2001年9月11日の同時多発テロ事件において、ハイジャックされた4機目のユナイテッド航空93便は、乗客がテロリストたちと闘った結果、墜落して乗員全員が死亡した。しかしそのお蔭で、あの日の4つ目のテロは未然に防がれた。

○今や我々は「フライト93」の乗客同然だ。アメリカという国は既に操縦席をエリートたちに占領されている。このまま放っておけば、「確実な死」が待っている。だったら2016年大統領選挙でトランプに賭けるべきではないか、というのである。この絶望感の深さは、ちょっと共感しにくい。なにしろ日本は呑気な国なので。年の瀬に大相撲の問題がトップニュースになったりするくらいですから。

○同書から伝わってくる「今のアメリカ」の難しさとは、「理念の国」ならではの悩ましさである。ワシ的には『ヒルビリー・エレジー』的なトランプ支持者は別に怖いとは思わないけれども、アイデンティティ・ポリティクスに熱中して大学教授を糾弾する学生たちの姿はマジ怖いと思う。こんな風になっちゃったら、他者とまともに対話することは難しいだろう。

○その点、日本人は現実的で即物的で没理念的である。幸いなるかな。なぜ世界はこれだけ危険に満ちているのか、というよりも、なぜ日本がかくも呑気でいられるのか。後者の方が面白いテーマであるかもしれません。


<1月4日>(木)

○トランプ大統領が元側近のスティーブ・バノン氏を非難。ご両人はとうとう袂を分かったようであります。


●トランプ、元側近バノンを「正気失った」と非難 長男巡るコメントで

2018年1月4日(木)14時10分

トランプ米大統領は3日、ホワイトハウスの首席戦略官を務めていたスティーブ・バノン氏が近く出版される書籍で大統領の長男であるドナルド・トランプ・ジュニア氏に不利なコメントをしていることが明らかになったことを受け、バノン氏について「正気を失った」と非難した。

トランプ大統領は昨年8月に側近だったバノン氏を解任。その後も個人的に連絡を取っていた。

大統領は声明で「スティーブ・バノンは私や私の職務とは何の関係もない。彼は解任された際、職だけでなく正気も失った」とした。

9日に発売されるマイケル・ウォルフ氏執筆の暴露本「Fire and Fury: Inside the Trump White House」の抜粋によると、バノン氏はジュニア氏がお膳立てし、大統領選中の2016年6月にトランプ氏陣営幹部らが出席したロシア人グループとの会合について、「反逆的」、「非愛国的」だと指摘した。

ジュニア氏もツイッターでバノン氏を非難。「スティーブはホワイトハウスで働き、この国に奉仕するという栄誉を得た。残念なことに彼はその栄誉を無駄にしたほか、そのチャンスを裏切り、嫌がらせ、情報漏えい、偽り、大統領への卑劣な攻撃という悪夢に変えてしまった。スティーブは戦略官ではなく、日和見主義者だ」とした。

[ワシントン 3日 ロイター]


○バノン氏もこれはさすがに確信犯でしょう。家族愛の強いトランプさんを相手に、ご長男をDisるというのはあり得ない選択。ただし「止むにやまれぬアメリカファースト」といった風情も顔を覗かせる。本日のブライトバードニュースにこんな記事がある。


●Report: Bannon-Breitbart ‘America First’ Agenda Battles ‘Economy First’ Globalists in Trump 2020 Strategy on Trade, the Wall


○いわく、「金持ちグローバリスト連中に取り囲まれたトランプ大統領は、肝心の『アメリカ・ファースト』原則を捨てて『エコノミー・ファースト』を選んじまったぜ!」ということらしい。でもねえ、トランプさんとしては、今の株高がサイコーの自己存在証明なんだから、ゲイリー・コーンを始めとする経済スタッフ、あるいは穏健派の声をむげにはできないわけでありまして。

○元ネタとなったAxiosの記事はこちらをご参照。こんなことを言ってます。


What to watch: The Bannon-Breitbart-Stephen Miller wing believes Trump has to deliver on building a wall, curtailing immigration and cracking down on China. Moderating forces like Gary Cohn, Steven Mnuchin, James Mattis and Rex Tillerson are counseling against moves that could alienate allies and roil global markets. Watch for a hot war this next month in conservative media on this front.


○「バノン=ブライトバート=スティーブン・ミラー連合」としてはピンチであります。とりあえず株価にとってはその方がよろしいようでありますが。


<1月5日>(金)

○間もなく"Fire and Fury"という題名のトランプ暴露本が出版されて、その中にはスティーブ・バノンによる、「ドナルド・ジュニアはトランプタワー内で、ロシアのスパイと会って情報もらっていたぜ。俺はなんてえ売国奴かと思ったよ」という証言が載っているとのこと。

○しかし、どうやらこの本にはもっと面白いネタが仰山詰まっているらしい。この記事によれば、下記のようなことも書いてあるのだとか。


(1)Everyone on Team Trump, including Donald Trump himself, was sure he would lose the election

――トランプ陣営ではドナルド氏ご本尊も含めて、誰もが選挙戦では敗北を確信していた。

(2)Trump was ok with that, because his primary goal was to be "the most famous man in the world."

――トランプ氏はそれでもオッケーで、だって彼の目標は「世界でもっとも有名な男」になることだったから。

(3)Michael Flynn did not worry about his unethical behavior, because it would only be a problem if Trump won...

――マイケル・フリンがロシアとの不法行為を怖れなかった理由は、だってどうせ負けると思っていたから。

(4)When the returns came in, Trump looked like a ghost, while Melania was in tears--and not the good kind

――選挙結果が判明したとき、トランプはまるで幽霊のように見えたし、メラニアは泣き出した。――それは嬉し泣きではなかった。

(5)Roger Ailes suggested John Boehner as chief of staff; Trump had no idea who he was talking about

――「首席補佐官には、ジョン・ベイナー(元下院議長)はどうだろう」との助言を受けたとき、トランプはそれが誰だか分からなかった。

(6)Rupert Murdoch gave up on advising Trump, calling him a "fu**ing idiot"

――ルパート・マードック(アメリカ版のナベツネさん)はトランプに助言しようと試みたが、「このクソ馬鹿たれが!」と叫んで諦めた。

(7)Trump hated his inauguration and spent the day arguing with Melania

――トランプは大統領就任演説が気に入らず、その日は一日中メラニアと夫婦喧嘩していた。

(8)Trump is paranoid about being poisoned

――トランプは病的な潔癖症である(これは有名な話)。

(9)The main White House leaker may have been Trump himself, since he vents to everyone, not just friends

――ホワイトハウス内の情報を漏らしていたのは、どうやらトランプ自身らしい。あの人は友達に限らず誰にでも吹いちゃうから。

(10)Jared Kushner and Ivanka Trump made a pact that, if the opportunity presented itself, she would be the member of the duo to run for president, making her the first woman chief executive

――ジャレッド・クシュナーとイヴァンカは協定を結んだ。もしもチャンスがあれば、彼女は大統領選に出馬する。そして初の女性大統領を目指す(お前ら大概にしろよなあ!)。


○もっとも現地からは、「この本は、日本で言えば日刊ゲンダイのレベル」との声も聴く。まあ、それにしたって上記のような面白さだったら、あたしゃ買いますよ。どっちにしろ、ホワイトハウス内では「フェイクニュースだああああ」という大統領の怒号が飛ぶことは必定でありましょう。


<1月6日>(土)

○金曜日に日本貿易会の新春懇親会があったのですが、商社業界はわりと明るいようです。来賓の経済産業大臣やジェトロの理事長さんなどが、「昨年はTPP11と日欧EPAが、わが国主導で合意に至りまして・・・」と誇らしげに語っておられたのが印象的でした。

○ただし何年も続けてこの新年会に出ている者としては、若干の嫌な予感も覚えるわけであります。「何年か前にも、こんな雰囲気の年があったなあ・・・」。ふとした弾みに思い出しましたですよ。「そうだ!2008年だ!」

○ちょうど10年前の新年には、既にサブプライム問題で欧米の経済には不穏なムードが漂っていたのでありますが、とりあえず貿易面ではカンカンの強気であり、「先進国経済は怪しいけれども、新興国経済は好調が続く」という「デカップリング論」が語られておりました。

○そして2018年は「政治は非常に危なっかしいんだけれども、経済は好調が続く」という別の意味でのデカップリングが語られている。本当にそうであってほしいものなんですが、ちょっと胡散くさい気もする。今年のユーラシアグループでも、イアン・ブレマーは「なんで株価はこんなに高いんでしょうね。理解不能」と言っているように聞こえてしまいます。だいたい「デカップリング」という議論が出るときは、虫のよい『いいところ取り』を正当化するためであることが多いようです。

○言うまでもなく、2008年とはリーマンショックの年でありまして、先進国経済が崩れたら世界経済は総崩れになりました。政治が病んでいるのに経済だけは好調というのは、やっぱり虫がいいのではないでしょうか。今年も年後半は気を付けた方が良いかもしれませんぞ。


<1月7日>(日)

○いろんな場所で犬に出会った日でありました。戌年と言えば、この映像はよく出来ております。「犬は笑う」ではなくて、「犬は出会い」ね。ちょっと感心しました。


<1月8日>(月)

○いつもは賑やかな回転寿司チェーンが、タッチパネル式の注文スタイルを導入した。注文は便利になったのだが、店員が一気に減ってしまい、威勢のいい掛け声もなくなって、とても静かな店になってしまった。客足も目に見えて減っている。どうやら「働き方改革」を実施すると同時に、店のいちばんの強みを捨ててしまったらしい。惜しいのう。店のことを好きでもないコンサルの助言を聞いてしまったのだろうか。

○闘将、星野仙一が逝く。享年70歳は今どき若い。夕方のニュースがそればっかりになっている。みんな星野が見たいんだろうなあ。怒ってる顔や笑っている顔を、ワシだってもっと見たいもの。平成の終わりが近づくにつれて、平成を代表する顔が去っていく。いい人ほど早く行く、というのは団塊世代も同じかな。

○成人の日の当日に、振袖レンタル店が倒産だとか。これはもう旅行代理店が年末や年度末に倒産するのと同じですな。しかるにこんなことをするようでは、みんな振袖を着なくなりますぞ。これからも子どもの数はどんどん減っていくんだから。イメージというものは、こんなところから壊れて行く。

○高校サッカーの決勝戦。流通経済大柏はよく防いだけれども、アディショナルタイムに力尽く。1−0で優勝は前橋育英に。しかし今の高校生はレベルが高いなあ。惜しかったけれども、あの守備力はすごかった。しびれましたぞ。


<1月9日>(火)

○今朝は早起きして、今年初めての「モーニングサテライト」へ。

○本日の特集テーマは「今年の10大リスク、世界経済への影響は?」でした。ご存知、ユーラシアグループの”Top 10 Risks"のご紹介なんですが、ちゃんとイアン・ブレマー氏へのインタビューもついているので、お得なまとめになっていると思います。

今日のオマケでは「冷凍食品」の話題が出ました。モーサテが終わった時間は、まだお店も空いているところが少ないものだから、出演者一同は社内コンビニ(Seven Eleven)の冷凍食品を食べたりするんだそうです。ということで、本日は同じくゲストの深谷さんと一緒に、テレビ東京の社員食堂にて「冷凍食品パーティー」に及んだのであります。

○これが驚きでした。今どきの冷凍食品というと、カルビ焼肉まであるのですな。しかもこれがキッチリ香ばしい匂いがして、ホントに焼きたてのような味わいなのである。パスタ類もよくできていて、これではぺヤングなどを買うのがあほらしくなってくる。電子レンジは偉大なるかな。ついでに焼き鳥、たこ焼き、餃子、シュウマイ、などなど。朝から何と豪勢な。ついついビールが欲しくなるような宴会でありました。

○それが終わってから、今度はこれまた今年初めての文化放送へ。どうでもいいことですが、先日、TBSラジオの方々とお話しした時に、「くにまるさんとのやり取りには、台本一切なしのぶっつけ本番」と言ったら驚かれました。ネタもなるべく、当日の朝になってから決めることにしている。毎週、鮮度にこだわってお届けしております。

○てなことで、今年もこの2つの番組とはお付き合いが続きそうです。どうぞよろしく。


<1月10日>(水)

○現在発売中の文芸春秋2月号、「特別対談 進次郎は総理になれるか」という記事がとっても面白い。『ギリシャ人の物語V新しき力』を書き終えたばかりの塩野七生氏が、小泉進次郎自民党筆頭副幹事長と語り合うという企画なので、これが面白くないはずがない。進次郎氏は塩野さんの最新作を読了したばかりで、そこに描かれているアレクサンドロス大王に酔いしれた直後である、という事実が錦上花を添えている。

○いろんな読み方ができる対談ではあるのだけれども、「見どころのある若者に対して、ベテランはどんな言葉を贈ることができるか」という事例の傑作ではないかと思う。つまり塩野氏が、進次郎氏に対する見事な指南役になっているのである。歴史や政治や文学について縦横無尽に語り、傍で聞いていて唸ってしまうような絶妙な助言を与え、最後にこんなことを言う。

「やってごらんあそばせ」

○これはさすがに嘘くさいと思う。幸いなことに、ワシは塩野さんには幾度かお目にかかったことがあって、それは今は故き岡本さんのお蔭なのだが、こんな言葉遣いをする人ではない。ところがこの一言が、対話の締めとしてまことに優れていて、思わず痺れてしまうのである。

○これは文芸春秋社秘伝の編集ノウハウではないかと思う。あの会社は当人が言ってないことまで勝手に書き加えて、それで対談を盛り上げてしまうという秘儀を有している。ワシは昔、何度か『諸君!』(すでに廃刊)という雑誌の座談会に出たことがあるので、その手口には何度も驚き、呆れ、舌を巻いたものである。余談ながら塩野シリーズを出版している新潮社は、これと対照的に実直を絵に描いたような会社なので、そういうことはまずやらない。

○そして塩野さんの投げかけに対し、進次郎氏はこう返している。

「はい。今日は、他の人には絶対に言っていただけない言葉、心に響く言葉をいっぱいいただきました」

○この言葉もたぶんに編集部が「盛って」いるのかもしれない。でも、いいじゃないですか。今どき羨ましくなるような師匠と弟子の関係が、ここに存分に描かれているのだから。

○『ギリシャ人の物語V』は、塩野さんにとっての最後の歴史長編になるのだそうだ。『ローマ人の物語』全15巻を付き合った者としては、現在、舐めるように本書を読み進めているところである。つまるところ、塩野さんはカエサルを書きたくて「ローマ人」全15巻を書き、アレクサンドロスを書きたくて「ギリシャ人」全3巻を書いたのであろう。

○前者は1992年に始まり、後者は2017年に終わった。すなわち平成の30年間とは、この2つのシリーズが書き継がれた時代でもあったということになる。同時代に読むことができた者は幸運なり。


<1月12日>(金)

○昨日は、大和総研のプレミアムセミナーにて谷口智彦さんと一緒にパネルディスカッション。本日は、BS朝日「激論!クロスファイア」の収録で、冨山和彦さんと一緒になった。どちらも尊敬する同世代人なので、一緒に話しているだけでも楽しいし、勉強になるのでなんだか「得した感」がある。

○年の初めに「この人の意見を聞きたい!」ということで考えると、それ以外にすぐに思いつくのは宮家邦彦さんと田中明彦先生ですね。見事なくらい、全員の名前に「彦」がついている。ええ、もちろん私自身も達彦なのですが。ついでに言えば、今は亡き師匠に岡崎久彦大使もいらっしゃいます。哀しいかな、もう話を聞くことはできません。

○そういえば、お近くにお住いの川村純彦提督はお元気だろうかとか、先日、同友会の岡野貞彦常務理事と新年会ですれ違ったけどキチンと話さなかったなとか、そういえば同友会には伊藤清彦前常務理事もいたなとか、最近お目にかかっていないけれども、福井俊彦元日銀総裁はどうしていらっしゃるのだろうかとか、いくらでも続けられてしまう。これだけ大勢「×彦」さんがいて、文字が全く重ならないというのも奇跡的な気がする。

○いや、別に「彦」並べを楽しんでいるわけではありません。こんな風に「会いたい人」が大勢いるということ自体がありがたいことなのです。と、ここまで書いたところで、誰か忘れているような気がして困っている。「勝彦」さんか「克彦」さん当たりで、「俺を忘れるな!」と言って怒っている人がいたりして・・・。

後記→黒田東彦さんとは特に懇意なわけではありませんので、念のため)


<1月14日>(日)

○昨日の『Biz Street』では、出口治明さんをゲストに迎えて、「歴史うんちく」を拝聴しました。テレビをご覧になった方には申し訳ないのですがが、出口さんのお話しというのは、「打ち合わせとリハーサルと本番」で全部違っているのです。播摩キャスターが同じ質問を振っても、全部違う歴史上の事例が飛び出して、その上で同じ結論が導き出される。お蔭で当方は3回分、いろんな話を楽しむことができました。

○普通、学者に同じ質問をすれば、だいたい同じ答えが返ってくる。ところが出口さんは「専門家ではない」ことが強みになっている。「歴史好き」だけども、「この時代のこの分野が専門」ということがない。だから古代、中世、近代と分け隔てがないし、西洋史も東洋史も、それこそイスラム史やアフリカ史までお得意と来ている。引き出しが一杯あるので、同じコースに投げても、打球はいろんな方向に飛ぶのである。

○以下は個人的に一番印象に残ったけれども、放送されなかった話のご紹介。「少子化というのは、Nation Statesが誕生して初めて起きたこと」

○言われてみれば当たり前の話でありまして、国境管理をやっていなかった時代においては、何かの理由で人口の空白ができると、すぐに他所から人がやってきて埋めてしまう。日本列島だって、国境管理をやっているから「少子化」するわけでありまして、そうでなければ今頃、「こんな結構な土地はない」と他所から大勢人がやってきたことでありましょう。

(昨年のインバウンドは概算で2869万人だったとか。日本に住んでいる外国人の数も、今は194万人に増えているとのこと。北海道あたりは、既に土地を買われているという話もあったりして)

○ヨーロッパなんぞは昔から、「××民族の大移動」がしょっちゅうあったわけで、貧しい地域から豊かな地域に人が流れてくるのは自然な勢いなわけです。今日のシリア難民問題も、数千年前から繰り返されてきた事象のひとつにすぎないのでありましょう。とはいえ、国境線があって人の移動を管理する時代となると、これが大問題になって、排斥運動が起きたり英、国がEU離脱を宣言したりしてしまう。

○あるいは中国大陸なんかぞもずっとそうだったわけで、皇帝がいらっしゃるところが中央であって、その威が及ぶところまでが国家であり、国境線は茫漠としている。今でも中国の空港では、イミグレで「中国辺境」というスタンプを押してくれますけど、きっと昔の感覚が残っているのでありましょう。

(その中国は、今になってようやく「国民国家」としての自覚ができてきて、「尖閣諸島は中国固有の領土」とか言うわけであります。先に国民国家としての体裁を整えていた日本としては、「あの〜こっちの方が先なんですけど・・・」と言いたいわけですが、明治維新以前の南西諸島はもちろん「海の民」の活動範囲であって、彼らに国境線なんて概念はなかったわけであります)

○ということで、国民国家を前提に考えると、少子化問題はちゃんと自分たちで解決するしかない。ちゃんと子どもの数を増やすか、あるいは外国人を同化できるか、という問題になる。前者は団塊ジュニア世代が40代になっているので、今から出生率を上げてもちょっと手遅れの感がある。後者は昨今の大相撲の問題を見ていると、いかにも簡単じゃなさそうですなあ。

○もっとも出口さんに教わった話では、平城京の時代には外国人比率がものすごく高かったとか、奈良の大仏さんの開眼式のMCは実はインド人の坊さんだったとか、昔の日本はかなりグローバル社会だったようですね。まあ、それも国民国家の概念ができるはるか以前のことだったのですが・・・。


<1月15日>(月)

○本日、Axiosで流れていたちょっといい話。

Trump softens on NAFTA

○今だ流動的ではあるのだけれども、トランプ大統領がNAFTAに対して融和姿勢に転じているのだと。その理由が素晴らしい。


*Withdrawing from NAFTA might interrupt the stock market's record-breaking run under his presidency. When it comes to bragging rights, Trump views the Dow Jones Industrial average as a useful substitute for his poll numbers. Though he told the WSJ that he thought U.S. markets would go up if he terminated NAFTA, sources who've spoken with the president say that privately he’s less certain of that ―― and is loathe to jeopardize the stock market’s record-breaking streak.

*Withdrawing from NAFTA would harm farmers and agricultural communities ―― whom Trump considers "my people."


○株高を守らなければならない、という理由で、トランプ政権がNAFTA反対をひっこめ、まともな経済政策に転じてくれるのならまことにありがたい(スティーブ・バノンは怒り狂うだろうが)。

○今週末はトランプ政権の1周年。来週末はダボス会議に出席。そして1月30日は一般教書演説。できればこのまま「株価重視政策」で行ってもらいたいものです。


<1月16日>(火)

○ワシントンから一時帰国中のY氏から伺った話。「『ヒルビリー・エレジー』はインパクト大だったけれども、『グラス・キャストル』ってのがこれに輪をかけて面白いんだぞ」。

○えー、そんなの全然知りませんがなっ! ココを見ると、この小説は実話に基づいた2005年のベストセラーであるとのこと。変な両親に育てられた子どもがいる。父親はアル中で、母親は自称アーチストである。まことにもってdysfunctionalな親であって、当然ながら一家は貧しくてフツーじゃない。ほとんどネグレクト、もしくは児童虐待に近い。ところがその子供は、後に人生で成功を収めてその親を懐かしむ。そういう意味では、確かに『ヒルビリー・エレジー』のようではある。

○それどころかなんと、この小説は昨年、映画化されているらしい。おっ、見たい、見てみたいぞ。日本でも公開の予定はあるのだろうか?

○ここで突然思い出すのが、去年、日本で刊行された『行こう、どこにもなかった方法で』という経営者の自伝である。週刊ダイヤモンドでこんな書評を書いたのだが、われながら上手くない。感動し過ぎて、うまく書けなかったという悔いが残っている。書評を書くという仕事には、ときどきそんなリスクがある。

○この本もまた、Dysunctionalな親との幸福感に満ちた幼年期の描写がすばらしい。よくできた青春小説のようである。誰か、これも映画化してくれないかなあ。ちなみに著者はバルミューダという新興家電メーカーの創業者で、近所の家電量販店に行くと、お洒落な商品を置いていたりする。ただそっちの方面については、ワシ的にはまったく関心はないのである。


<1月17日>(水)

○中国銀行&岡山経済研究所の新春講演会で岡山県へ。これで4年連続である。ほとんど定点観測のようなもの。去年まで倉敷〜笠岡〜岡山と回って来て、今日は津山市である。ところがこの津山市が遠いのだ。県北の旧・美作に位置するので、岡山駅から70分。とはいえ、県内第3位の都市というからには参らねばなりますまい。

○ただし長い距離を移動する間に、『ギリシャ人の物語V新しき力』を読了できたのは収穫でありました。いまどき新幹線車内の3時間は貴重です。塩野七生ワールドに浸っておりました。塩野作品は歴史書ではないから、フットノートなどといった無粋なものはありません。いわば塩野さんが惚れた、歴史上の人物に対する「のろけ話」を聞いているようなもの。今回のそれはアレクサンドロス大王という超一級の英雄でありますから、語り口も入神の域となるわけであります。

○司馬遼太郎が、戦国時代や幕末を身近なものにしてくれたのと同様に、塩野さんは地中海世界の特別に魅力的な男たちを次々に紹介してくれました。お蔭でカエサルやアウグストゥスを堪能することができました。そこには作家の独断や偏見があるかもしれないし、英雄史観であるかもしれない。「大衆」が描かれていないかもしれない。しかし、そんなのは、塩野作品の読者にとってはどうだっていいことでして、あたしゃ「塩野節」に浸れればそれでいいのである。

○などと1月はいろんな場所に行き、「2018年の日本経済展望」について語りつつ、いろいろ見聞を広げ、なおかつ微調整を続けることが習わしとなっております。明日は高岡法人会に参上いたします。


<1月18日>(木)

○開通以来、しょっちゅう乗っている感のある北陸新幹線でありますが、新高岡駅で降りるのは今日が初めてである。「かがやき」で富山駅まで行って、「つるぎ」で乗り換えるとわずか8分で到着してしまう。新高岡駅で降りて改札をくぐろうとしたところ、向こうから乗り込んできたのが高橋正樹高岡市長でありました。思わぬところで新年のご挨拶をさせていただく。これから東京出張であるとのこと。お疲れ様であります。

○先週までの高岡市はすごい雪で、ほとんど家からクルマが出せないくらいであったとのこと。そんな中でも、新幹線だけはちゃんと時刻通りに走っている。つくづくすごい技術なのであります。今週は雨も降って雪が溶けだして、少しほっとしたという状況のようでした。

○今回初めて知ったのですが、高岡城の設計をしたのは高山右近なのだそうですね。彼はキリシタン大名であったために、秀吉の禁教令とともにその地位を失うわけですが、当時の前田利家がかばってくれたのだそうです。前田家で客将扱いとされて、その間に新しい城の縄張りを担当したのだとか。「高岡城はウコンの力」って、知りませんでしたがな。

○徳川時代になると、右近はいよいよ国外追放になってしまい、マニラで客死してしまう。ところが今も残る古城公園には高山右近像が残っているのだそうです。うーん、そうだっけ。まったく気が付かんかったなあ。

○当時の羽柴秀吉軍団というのは、城づくりや土木、ロジスティクスの超高度技能集団でありましたから、いろんなノウハウを持った才能が集結していたのでありましょう。熊本城は加藤清正、福岡城は黒田官兵衛、長政親子、松江城は堀尾吉晴など、今も残っている名城は秀吉軍団によるものが多いです。

○そういうお互いに認め合った者同士が、「これも時勢ですなあ」などと言いながら、互いにかばい合っていたのかもしれません。キリシタン信仰をめぐる葛藤は、もちろん秀吉と黒田官兵衛の間にもあったことでしょう。そういう心理の襞は、なかなか歴史には残らない。今となっては、ただ想像することができるのみです。

○今日の新幹線の車中では、『ポストグローバル時代の地政学』(杉田弘毅・新潮選書)を携帯する。大変刺激的な本で、「よくこんなことまで掘り下げたなあ」とか、「ここはちょっと違うんじゃないのか」などと一人で突っ込みながら読み進めている。つくづく共同通信の歴代ワシントン支局長は畏れ多い系譜である。松尾文夫、春名幹男、会田弘継、そして杉田先輩である。

○これで明日は大阪経済大学の公開講座に参ります。夜が遅くなるので宿を探したら、あっけなく見つかってしまう。エクスペディアで予約したら、リーガロイヤルホテルが9000円台というのはちょっと驚きです。いや、若干のポイントが残っていたせいもあるのですが。「551」の豚まんじゃないですが、もうちょっと高くしても罰は当たらないと思いますぞ。


<1月20日>(土)

○昨日の月例経済報告で、7か月ぶりに基調判断が上方修正された。「景気は、緩やかな回復基調が続いている」から、「景気は、緩やかに回復している」になった。これだけ聞いても、何の事だかわかりませんよね。

○それではこういう風に言えばどうでしょう。「2014年4月以来、実に44カ月ぶりで『緩やかな回復基調』という文言が消えた」。2018年1月の基調判断は、消費税の駆け込み需要があった2014年1〜2月の時と同じものである。


2014年

1月 景気は、緩やかに回復している。 ↑
2月 景気は、緩やかに回復している。 →
3月 景気は、緩やかに回復している。また消費税率引き上げに伴う駆け込み需要が強まっている。 →
4月 景気は、緩やかな回復基調が続いているが、消費税率引き上げに伴うかけ込み需要の反動により、このところ弱い動きもみられる。 ↓
5月 景気は、緩やかな回復基調が続いているが、消費税率引き上げに伴うかけ込み需要の反動により、このところ弱い動きもみられる。 →
6月 景気は、緩やかな回復基調が続いているが、消費税率引き上げに伴うかけ込み需要の反動により、このところ弱い動きもみられる。 →
7月 景気は、緩やかな回復基調が続いており、消費税率引き上げに伴うかけ込み需要の反動も和らぎつつある。 ↑
8月 景気は、緩やかな回復基調が続いており、消費税率引き上げに伴うかけ込み需要の反動も和らぎつつある。 →
9月 景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 ↓
10月 景気は、このところ弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 ↓
11月 景気は、個人消費などに弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
12月 景気は、個人消費などに弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →

2015年

1月 景気は、個人消費などに弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
2月 景気は、個人消費などに弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
3月 景気は、企業部門に改善がみられるなど、緩やかな回復基調が続いている。 ↑
4月 景気は、企業部門に改善がみられるなど、緩やかな回復基調が続いている。 →
5月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →
6月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →
7月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →
8月 景気は、このところ改善テンポにばらつきもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
9月 景気は、このところ一部に鈍い動きもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 ?
10月 景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 ↓
11月 景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
12月 景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →

2016年

1月 景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
2月 景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
3月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 ↓
4月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
5月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
6月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
7月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
8月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
9月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
10月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
11月 景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
12月 景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 ↑

2017年

1月 景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
2月 景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
3月 景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
4月 景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
5月 景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。 →
6月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 ↑
7月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →
8月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →
9月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →
10月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →
11月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →
12月 景気は、緩やかな回復基調が続いている。 →

2018年

1月 景気は、緩やかに回復している。 ↑


○丸4年かけて、やっと2014年初頭の水準に戻った。やれやれ、お疲れ様でした。このことをどう解釈するか。興味深いテーマだと思います。


<1月21日>(日)

○トランプ政権の1周年、という日はGovernment Shutdown(連邦政府閉鎖)とあいなりました。与野党の対立はそれだけ深刻だし、トランプさんは「壁の建設予算」にこだわっているし、DACAの問題は根深いし。やっぱりねえ、あいもかわらずですなあ。

○周囲の冷めた反応も怖いくらいですね。市場の材料にさえなっていません。むしろ週明けのNY市場は大幅高になったりして。そういえばアマゾンに発注した"Fire and Fury"は「入荷が遅れているため、やむを得ずお届け予定日を変更させていただきました」とのメールが来てました。

○そういえばトランプ大統領、今週後半はダボス会議に行くはずです。まあ、さすがに政府閉鎖が続いていたら不可能でしょうけれども。アメリカ大統領の出席はクリントンの2000年以来になりますし、そもそも「グローバリズムと資本主義と新技術礼讃」のような場所へ出かけて行って、いったい何を言うつもりなんだろう、という興味もあります。

○来週30日には、一般教書演説も予定されています。去年の議会合同演説では、「やればできるじゃん!」というところを見せましたが、今回はどうなんでしょう。いずれにせよ、1年目を過ぎて2年目に突入したトランプ大統領。見ているわれわれの側には「昨年」という経験値がありますから、何があっても去年ほどには驚くことはない。幸いなことに、経験は増えることはあっても減ることはないのであります。

○もっともトランプさんの本質は「驚異の視聴率男」。番組が2年目になれば、当然、飽きられてくることは知っている。そこをどう迎え撃つのか。うむ、ワシの受け止め方もだんだん醒めたものになってきたような気がするぞ。


<1月22日>(月)

○雪で東京が麻痺しつつあります。もともと雪には脆弱な都市であります。これで明日には、普通のタイヤで都心に出かけて立ち往生するクルマがいっぱい出ることでしょう。まあ、いっそ清々しい感じもする。

○昔の東京はもっと雪が降っていたはず。少なくとも赤穂浪士の討ち入りと桜田門外の変と226事件の日には雪が降っていた。降雪時の東京におけるジンクスから行くと、明日はテロへの備えもどうかお忘れなく。

○そんなこと言って、明日のワシはちゃんと「くにまるジャパン極」に出られるのであろうか。どうか午前9時までに浜松町の文化放送にたどり着けますように。


<1月23日>(火)

○今年で何と10回目であった。双日林産事業部と双日建材共催の新春懇親会における講演会講師である。年に1度のこととはいえ、われながらよく続いているものよのう。考えてみれば、合板・建材・住宅材の世界を年に1回ずつ垣間見ていることになる。この間、業界には結構な浮沈があった。パーティーも派手になったり質素になったりで、そういうところも含めて参加していると面白い。

○ここ数年は景気が良いようで、お客さんも多く、明るい新年会が続いている。昨年の住宅着工件数は96万戸でまあまあの水準。今年もそれくらいは行けるのではないかとの声あり。業界的には来年秋に予定されている消費増税が気になるところで、前回の2014年には大き過ぎる駆け込み需要と反動減が生じてしまった。

○それから大変な地殻変動が起きている。国産材と輸入材の比率が逆転した。今では国産材の方がよく使われている。政府主導で国産材消費拡大の旗を振った効果もあるが、近年の円安傾向や、アメリカ、中国、東南アジアなどで住宅需要が堅調で、建材や合板が高値になっているという事情もある。最近は、国産材の原木輸出が行われていると聞くから驚く。何と勿体ない。

○昨日行われた安倍首相の施政演説でも、「農林水産新時代」のパートで冒頭に来たのが林業であった。「戦後以来の林業改革に挑戦します」などと言っている。察するところ、斎藤健大臣、小泉進次郎農林部会長らの農政改革にめどがついて、林業と水産業に優先順位が移って来たのではないか。

○日本は資源が乏しい国とはいえ、森林だけは豊富にある。しかも年々増えている。ところが伐採コストが高いとか、林業の担い手が居ないとか、いろんな問題がある。一方で、国際的には、温暖化ガスの削減や脱炭素といった課題もある。さて、来年はどんなことになっているだろう。「木」という生き物相手の仕事をしている人たちに、来年もお会いできれば幸いであります。


<1月24日>(水)

○とっても久しぶりに召集令状をいただきました。今週末はもうひと働き。


2018年1月26日(金) 深夜1:25〜4:25

激論!日本経済は成長するか?!

第196回 通常国会開会!
“働き方改革”って何だ?!
絶好調?!アベノミクスのゆくえ
ド?なる?!世界経済・日本経済
日本経済の起爆剤は…?!

そして、私たちの仕事・給料、暮らしは
今後ド?なっていくのか?!

…等々について徹底討論!


○世間はプレミアムフライデーでも、当方は深夜残業であります。といって、わざわざご覧いただくほどのものではございません。とりあえずのご報告まで。


<1月25日>(木)

○今宵は「佐藤康光九段、森内俊之九段の紫綬褒章受章記念祝賀会」へ。ともに佐藤九段のファンである神谷万丈防衛大教授とご一緒に、椿山荘に駆けつけました。

○そういえば今朝の産経新聞には、神谷先生の「正論」欄へのデビュー稿が掲載されておりました。お父様の神谷不二教授のことから書き起こしておられて、その部分を読んだだけで居住まいを正したくなります。ワシのように軽い書き手にはとても真似できません。ちなみに神谷さんと不肖かんべえは、産経新聞のパーティーで佐藤九段と知り合ったわけでありまして――佐藤九段は産経新聞主催の棋聖戦で6連覇していて、永世棋聖の資格保持者である――これも何かの因縁でありましょうか。

○佐藤九段と森内九段というと、やはり羽生竜王・棋聖、いや永世七冠王(+国民栄誉賞)を欠かすわけにはいきません。ということで、今宵は羽生さんも登場。この3人は「島研」のメンバーで、十代のころから互いに切磋琢磨して強くなった。お三方が談笑する姿を見ているだけでも、将棋ファンとしては心温まるものがあります。いや、「対局中にどんなものを食べてるか」といった、ホントにたわいもない話題なのですが。

○ちなみに佐藤康光九段が最近、よく注文するのが「ふじもとのチキンカツ」。先日、羽生さんを破った順位戦の対局でも食べていましたね。てっきり縁起を担いでいるのかと思ったら、そうではなくて、「対局相手が食べているのを見て、旨そうだったから」なのだそうです。このチキンカツ、一度食べに行かなくては、と思っているのですが、神谷先生は「ひふみんが注文するうな重の方がいい」と言っています。そう言われると、ワシも迷ってしまうではないか。

○祝賀会はとっても盛況で、700人も来ていたとのこと。あいにく顔見知りは少なかったです。でも、「この人はいるだろう」と睨んでいた山崎元さんはちゃんといらしてました。さすが東大将棋部。ワシらは別に、競馬ばかりしているわけではないのでござりまするぞよ。

○挨拶やら謡曲やら乾杯やら座談会やら、いろんな企画があって、最後は抽選会。佐藤、森内、羽生の3人が揮毫した色紙30枚を当てましょうという趣向である。ちなみに佐藤九段は「研鑽」、羽生竜王は「玲瓏」、森内九段は「無辺」。そしたら佐藤九段が最初に引いた番号が、なんとワシが持っていた「46番」であった。うむ、ツイておるのう。というか、変なところで運を使ってしまった。今週末の競馬はお休みした方がよさそうだねえ。


<1月26日>(金)

○本日は溜池通信の締切日。当日の朝にできているのは3p分くらい。ということで、日中はせっせと作業。当初は全体8pの予定が9pに伸びる。

○夕方、Discuss Japanの編集会議へ。今月分の記事が電光石火で決まる。当方の推薦分は1勝1敗なり。

○そこから六本木へ移動して、中華料理とともに外交談義。時節柄、朝鮮半島問題に議論が集中。いわく。「朝鮮半島はストーカーなんです。韓国は日本に、北朝鮮はアメリカにストーカー行為をする」「だったらそんなものは無視すればいい」「駄目です。ストーカーは無視されると切れます」「だったら相手しなきゃいかんのか」「相手をしてやると付け上がります」「・・・・・」

○ビールと紹興酒で出来上がり、午後10時頃になってオフィスに戻ってソファーでしばらく横になる。午前0時過ぎにテレビ朝日に出勤。『朝まで生テレビ』の始まりはじまり〜。

○番組は午前1時30分から4時30分まで。これでは文字通り「24時間闘えますか」である。こんな状態で「働き方改革」を論じるというのもギャグのような構図だが、あたしゃ個人事業主みたいなものだから、文句は言えませんわなあ。

○今宵はデービッド・アトキンソンさんの議論が面白かった。打ち上げの時にこんなことを言っていた。「この国にはインフレもない、金利もない。社員は優秀で、最低賃金も異常に安い。これで儲からないとか、賃上げができないと言っている経営者は無能だね」。御意。

○ということで、家に戻ってきて一風呂浴びる。さあ、これで不思議なことに寝られない。ま、いいんだけどね。


<1月28日>(日)

「やっぱ知らないんだ!」

「兄さんが知らないはずないだろう!」

「じゃ教えてよ。コインチェックのビットコイン取引はどこへ行ったんだよ?」

「・・・・」

「やっぱ知らないんだ!兄さん、知らないんだよ!」

「兄さんが知らないはずないだろ!」

「じゃあ教えてよ。630億円!ホェア〜?」



○って、誰でも考えるよね、これ。個人的には兄さんに同情します。

○ビットコイン取引というものは、「国家権力のくびきを離れて、個人が国際送金の自由を得る」という点に夢があるのだと思います。そしてブロックチェーンという技術は画期的なものでありまして、それを可能にするかもしれない。現在は過渡期であって、試行錯誤中ということになるのでしょう。

○ただし「権力なきところ、通貨は一変の紙切れに過ぎない」というのが為替取引の鉄則です。政治・安全保障と経済・金融が複雑に絡み合うから為替は奥が深い。というか「先が読めない」。そこが面白いし、商売のネタになるわけでもありまして。

○今回も、損をした人たちはコインチェック社を責めたてることでしょう。すると金融庁が出て行かざるを得ない。結果的に、ビットコイン取引は国家の監督下に入ることになる。たぶん世界中で同じことが起きるんじゃないでしょうか。そのことは、コインチェックが持つ本来の理想を否定することになる。

○つまるところ、自由な通貨という夢ではなくて、「スマホでできる一攫千金」という夢を追う参加者が多くなってしまったために、この企ては失敗することになる。というか、価格変動があまりにも高いようでは、価値交換手段としての通貨の役割が否定されてしまう。そこに本来的な矛盾がある。

○ビットコインが新たな可能性を切り開くには、欲望をかきたてて新たな参加者を集めるとともに、その欲望を適度にコントロールする必要がある。そんなことがホントに可能なのか・・・・分かりませんよねえ。不肖かんべえとしては、「やっぱ知らないんだ!」と言われるのが正しいような気がします。


<1月30日>(火)

○今宵は外務省のレセプションに出かけました。河野太郎大臣の挨拶は、まことに立派なものでした。「中国の王毅外相は、日本語が堪能なのに中国語で話されます。そしてときどき日本語通訳の間違いを直すんです。カッコいいですね。私も一度でいいからやってみたい」などといって笑いを取ってました。

○それよりも驚いたのは、「SDGs推進大使」のピコ太郎氏が来ていたことでしたな。あの長身と衣装は、大盛況の会場でもさすがに目立ちます。さすがに「一緒に写真撮って!」とは言い出しかねましたが。

○旧知のニュージーランドの外交官と密談。TPP11ができて良かったよねえ。ところでトランプさんは何を考えているんでしょう。さしずめアイオワ州の農業団体あたりに文句を言われて、路線を変えたんでしょうね。まあ、3月8日にチリで署名式を終えて、それから考えればいいんじゃないでしょうか、などと。

○そういえば今宵はトランプ大統領初の一般教書演説。日本時間では、明日の午前11時からの予定です。さて、どうやって見ようかしらん。


<1月31日>(水)


○本日の一般教書演説(States of the Union=SOTU)は面白かったですね。先日のダボス会議演説はゲーリー・コーンの手によるもの、今期のSOTUは「もう一人のスティーブ」ことスティーブン・ミラー補佐官の作品であるらしい。前者は全世界のグローバリスト向けに、「とっても物わかりのいい元ビジネスマン」のトランプ大統領を演じていた。後者はアメリカ国内のトランプ支持者向けに、「一見、国民に団結を呼び掛けているようで、実は分裂をけしかけるメッセージ」を送っていた。芸が細かいのである。

○本日の拍手は、もっぱら共和党側から聞こえていました。民主党側としては拍手しづらい。移民政策で合意を求める呼びかけの前に、わざわざ「MS−13」という中南米系不法移民のギャングの話を持ち出し、彼らに娘を殺された両親を連れてきて見る者の涙を誘う。そして「アメリカ人もまた、ドリーマーなのだから」(Because Americans are dreamers too.)と訴える。ドリーマーとは、移民の両親に連れられてアメリカにやってきた子どもたちを指すのだが、ここではトランプの言う「忘れられた人々」だって「夢見る人たち」なのだからと言う。トランプ支持者は拍手喝采を送るだろうが、これでは「移民はアメリカ人ではない」と言っているようにも聞こえる。

○あるいは1.5兆ドルのインフラ投資を呼びかける部分では、その前に減税の効果を宣伝し、ついでに「年収5万ドル以下の人たちは、オバマケアの保険加入義務がなくなって良かったね!」と民主党側が怒り狂うようなことを言っている。この部分は確かにオバマケアの不評な点だったのだけれども、おそらくオバマケアを切り崩すアリの一穴になっていくのではないか。いちいち傷口に塩を塗りこんでいるのである。

○しかし議会で何かを決めて行くためには、本来は民主党に協力を求める方が良いはず。なぜ、こんな風に喧嘩を売るのか。たぶんトランプは確信犯なのでしょう。トランプ批判の声が高まれば、トランプ支持者たちが黙ってはいない。かならず「俺たちのトランプを守れ!」となる。悪名は無名に勝るとはまさにそういうことで、嫌われる方が無関心よりも都合がいいのです。トランプ支持者の間には、そろそろ「飽き」もあるかもしれないけれども、大嫌いな民主党やリベラルメディアがトランプ批判をするのなら、彼らとしては黙っちゃいられなくなるのです。

○それからSOTUには多くのゲストが招かれました。何しろトランプさんは『アプレンティス』という番組のホストをやっていたくらいなので、「次は○○の××さんをご紹介〜」みたいなのが様になる。たっぷり時間を取って、それぞれに延々と拍手させるものだから、全体の時間は80分と歴代でもかなり長いものになりました。それも有名人ではなく、無名の人たちを多く呼んでいる点がポイントでありましょう。「驚異の視聴率男」の面目躍如です。

○最後の方では北朝鮮問題を長々と取り上げ、「北朝鮮で17か月間も抑留されて死んだ学生の両親」と、「脱北の際に片足を失ったが、今は韓国で学生をやっている若者」を紹介したのには驚きました。「北朝鮮はこんなに悪い国」というアピールですね。3か月後の軍事オプションの布石なのかもしれませんぞ。2002年にブッシュ大統領が「悪の枢軸」発言をしたときだって、単に国名を挙げただけでありまして、微に入り細にわたって悪行を述べ立てるようなことはしていません。異例の言及です。

○全体として言えば、歴代大統領のようなお作法に則ったまっとうなSOTUであったと思います。たぶん世論の反響は悪くないでしょう。株式市場の反応も良いでしょうね。昨年2月に「議会合同演説」を行ったとき、ダウ平均はまだ2万1000ドルに過ぎなかった。それが今では5000ドルも上げた。トランプさんとしては、「俺のお蔭だぜ」と強調したいところ。その結果、行動がまともになるのなら結構なことですが、今回の演説には毒もたっぷり盛ってある。「経済ナショナリスト的」な部分は、トランプ政権の中にまだしっかり残っていると考えた方がいいでしょう。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki