●かんべえの不規則発言



2017年11月







<11月2日>(木)

○今日の夕方の首都高は思い切り混んでいたとのこと。「トランプならまだだと思っていたのに、イヴァンカが来ちゃってるんだってねえ」との声あり。国際女性会議ことWAW!は今日が2日目。明日の基調演説が、イヴァンカ・トランプ大統領補佐官なんですなあ。

○それでもって、トランプ大統領は11月5日に到着。日本におけるメインイベントは、おそらく霞ヶ関カンツリー倶楽部でのゴルフ。今日の「天声人語」がいちゃもんをつけてましたが、6日になったらテレビがその話題一色になっていることは請け合いでしょう。

○日米首脳会談において、「自由で開かれたインド太平洋」という理念で一致するかもしれない、というニュースには驚きました。これが実現すると、日本が提示した価値外交に、アメリカが乗っかるという形ができる。もっと言えば、安倍さんがトランプさんを教育したということになる。これを画期的と言わずして何と言いましょうや。

○他方、トランプさんは出発間際にFedの議長を指名したり、税制改正のとりまとめを命じたり、あいかわらず忙しく、お騒がせである。それにしても、出発間際に起訴されたマナフォート元選対本部長の件は厳しいですな。ムラー特別検察官の狙いは、思い切りマナフォートの旧悪を暴いておいて、「ロシアゲートで協力してくれれば罪を軽くしてあげるよ」という取引であろう。

○そしてここで登場したのがジョージ・パパドポウロスという聞き慣れない名前。トランプ選対とロシアをつないでいたと言われる人物である。ここから一気に本丸に迫れるか、などなど、今週末はトランプウィークですな。


<11月4日>(土)

○「ブレードランナー2049」を見てきた。見終わった瞬間、映画館で隣の席の配偶者に向かって、思わず「ひとつで十分ですよ!」(なんで続編なんか作ったんだよお〜)と言ってしまった。この映画、哀しいけどヒットしないだろうなあ。

○それでも、この映画をけなす人が身近に居たら、ワシはきっと全身全霊を傾けて罵倒するであろう。「お前ごときに何が分かるのだあああ」と。頼むから明日以降のワシに議論を吹きかけないでくださいまし。「デッカードはやっぱりレプリカントなんですよね?」などと。

○初めて「ブレードランナー」を見たのがどういう状況であったか、実はよく覚えていない。大学生時代にビデオで見たのだと思う。自分が見る以前に、上海馬券王先生から熱っぽく、いかに傑作であるのかを聞かされた記憶の方はちゃんとある。それでも1980年代に、ほぼ同時進行であの映画を見られたのは幸福なことであった。あの作品を機に、SF映画は「ブレードランナー前」と「ブレードランナー後」にくっきりと二分されることになったのだから。

○今回の「BR2049」は、そこまで画期的な作品ではない。だが昔の映画を愛した者としては、見ないわけにはいかない。見たらきっと見ると後悔する。でも、見ないでいるのも落ち着かない。とりあえずハリソン・フォードが元気なうちにこの映画ができたことを喜ぶべきだろうか。部分的に面白いところはあるんです。日本のアニオタが泣いて喜ぶような美少女ジョイとか。でも、畢竟技巧の範囲内である。

○間もなく「スターウォーズ」のエピソード8(最後のジェダイ)も封切りになる。今のハリウッドは、新しいアイデアが枯渇しているのではないか。とりあえず過去の作品の続編やリメイクが安全策になってしまっている。しかしそれは時代全体がそうなっているのかもしれない。1980年代にあの酸性雨に濡れるロサンゼルスを描くことができたというのに、今日の才能たちはその延長線上の未来しか描けていない。

○もっともっと見る者を驚かせてくれないと、「ブレードランナー」の名が泣くと思うのである。


<11月6日>(月)

○今朝はモーサテに出演。

○トランプ訪日に合わせてのことだけど、同時進行で物事が進むので、論評することはもちろん難しい。それでも「プロの眼マンデー」で語る。うむ、我ながらずいぶん踏み込んだ発言をしておる(ゴメンね、有料サイトになっちゃって)。

○本日は出演者大勢で、「今日のオマケ」も盛り上がりました。後半になってくると、TARPの否決(2008年)やらパリバショック(2007年)やら、懐かしい話が飛び出しています。そういえば本日共演した木野内さんが、「これから減税になるかもしれないから、株は売りにくくなっている」「カーター政権でもレーガン政権でも、減税の後は株が売られました」と言っていたのは面白かった。やはりちょっとバブルっぽくなっているのではないでしょうか。

○会社に出て、産経「正論」の原稿を入稿。それから共同通信の電話取材があるので、午後2時半からの日米首脳会談の共同記者会見を見なければと思ったら、会社の中にはNHKを見られるテレビがほとんどないことが判明。仕方がないから、ケータイのワンセグで視聴する。よかった、ワシのはスマホじゃなくてガラケーで。

○思うことはいろいろありますが、今日のところは「安倍さんの『逆張り』投資が成功」ですね。他国の首脳が二の足を踏む中で、思い切りトランプさんの胸元に飛び込んだ。なにしろこの1年間で首脳会談が6回目(非公式含む)、電話会談は公表ベースだけで16回、ゴルフは2回、メシは何度一緒にしたかわからないくらい。しかもイヴァンカさんも厚遇した。先週末はあれで日本国内の雰囲気が変わりましたからね。

○先行投資の成果を刈り取ったのが今日というわけ。対北朝鮮で強硬姿勢を確認し、日米摩擦はあるものの「日米FTA」という言葉は出ずじまいで、「自由で開かれたインド太平洋」という言葉を日米共同で売り込む形が決まったのですから。これまでの日米関係で、日本がアイデアを出してアメリカがそれに乗った、なんてことがあったでしょうか。

○もっとも問題はこれからです。APEC首脳会議と東アジアサミットでどんな風にふるまうか。そして米中首脳会談ではどんな協議がなされるのか。今週はホントに東アジア外交ウィークですね。


<11月7日>(火)

○今日の午前10時頃にトランプ大統領は横田基地を旅たち、次の訪問先である韓国に向かいました。やれやれホッとした。これで首都圏の渋滞も解消するし、「トランプさんが何を言い出すか」「ツィートするか」とハラハラすることもなくなった。しかも「日米FTA」に対する言及もなかったし、訪日中の北朝鮮の妙な動きもなかった。もちろん国内のテロ事件もなかった。後は当面、うちが知ったこっちゃない。

○ということで、本日の株価は盛大に上げました。とりあえず日米通商摩擦の再燃もないのだから、円高懸念は不要だったということになる。「有事の円買い」も起きなかった。結果として円ドルレートの110円台後半と、日経平均の2万3000円台は近いんじゃないかという気がします。

○本日は「こまち」に乗って秋田市へ。東北経済連合会さんのフォーラム講師を務めました。本日のお題は「トランプ政権の行方と今後の日本経済」。まことに時宜を得たテーマであります、って演題を決めた時点では、この日にトランプ大統領が日本に居るとは思っていませんでしたけど。

○それにしても秋田は日本酒の種類が多いですなあ。ちょっと覚えきれません。もちろん文句を言ってるわけではありません。今宵は7種類くらい、嗜みましたかね。今宵の秋田は暖かくて、コートは全然不要であります。それから「きりたんぽ鍋」もおいしかったです。


<11月8日>(水)

○たまたま秋田に行っていたことで、河北新報と秋田さきがけ両紙に、共同通信社から受けたインタビュー記事が掲載されているのを見ることができました。こういうのって、実はなかなかモノホンが手に入らないのです。ということで、以下はそのままご紹介。


●首相の「逆張り」奏功

双日総研チーフエコノミスト 吉崎達彦

 安倍晋三首相とトランプ米大統領の首脳会談は、日本の思惑通りの展開になった。対北朝鮮での圧力路線を確認すると同時に、トランプ氏が求める日米の自由貿易協定(FTA)への言及が避けられ、中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向けた協力の強化でも一致したからだ

 この構想は元々、首相の考え方であり、米国第一主義を掲げるトランプ氏が賛同したことは米国の関与で中国をけん制したい首相にとって大きな成果だったと思う。

 またトランプ氏は北朝鮮による拉致被害者家族と面会し、拉致問題での取り組みも表明した。今回の首脳会談は、トランプ氏に「逆張り」してきた首相の外交が奏功したと言えるだろう。

 逆張りは、大勢に逆らって株を売買することであり、首相はトランプ氏が大統領に就任すると、その言動に警戒感を抱く他国の首脳にさきがけて訪米し、日米関係の重要性で一致した。

 トランプ氏の就任後、日米首脳会談は非公式を含めて6回目で、電話会談は少なくとも16回。そこで培った個人的な信頼関係が日米間の強固な連携の源になっている。

 日本でもトランプ氏との距離を置くよう主張する意見もあったが、悠長なことは言っていられない。核・ミサイル開発を進める北朝鮮と海洋進出を図る中国への対応で日米の緊密な連携は欠かせない。さらに、米国で対日貿易赤字を政治問題化させないためにも、トランプ政権との信頼関係は必要だ。

 その意味で、トランプ氏に加え、先だって来日した長女のイヴァンカ大統領補佐官を厚遇したことも妙手だった。

 ただ、今回の首脳会談で日米FTAが取り上げられなかったとは言え、トランプ氏は日米経済人との会合で「対日貿易は厚生ではなく、開かれてもいない」と不満を明確に表明したように、予断を許さない。

 2016年度の日本の対米輸出額は14兆円に上る一方、米国の対日輸出は7.5兆円にとどまる。この貿易不均衡を解決する方策は見当たらず、トランプ氏が「互恵的ではない」と注文を付けてくる可能性がある。

 トランプ氏は記者会見で、米国の防衛装備品を大量に購入するよう求めたが、これは長期にわたる支払いであり、即効的ではない。貿易不均衡を是正できなければ、トランプ氏は自衛隊の役割強化など日本に別の形でさまざまな圧力を掛けてくる展開もあり得るだけに、日本としては先を見通した戦略を描かなければならないだろう。
   ×   ×   
(聞き手は共同通信・久江雅彦)


<11月9日>(木)

○この季節につきものの「新語・流行語大賞」。本日、2017年のノミネート語が発表されました。「忖度」とか「ちーがーうーだーろー!」など、いかにもな候補が並んでおります。

○以下は当溜池通信における2017年の新語・流行語大賞を挙げておきましょう。今年、当欄や溜池通信本誌で良く取り上げた話題です。


●地政学リスク

●トランプ占い

●ジェロントロジー

●平成30年史

●経済ナショナリズム

●インバウンド

●別子銅山&石見銀山

●合衆国憲法修正25条

●新海ワールド

●バンコク馬券王先生


○そういえば今年の前半は腰痛に苦しんでいたのであった。うむ、1年はあっという間じゃ。


<11月10日>(金)

○TPP11が昨日、閣僚会議で大筋合意に至ったようです。やれ、めでたや。ということで、勝手に家で一人で祝杯を挙げております。

○酔っぱらってくるにつれて、だんだん腹が立ってきた。自称「TPPの伝道師」を何年もやってきて、これまでに受けたTPP反対派による仕打ちを思い出すからである。何だったんだろうね、あの人たちは。

○「日本がTPPに参加すると、国民皆保険制が崩壊する」と言って、会社に苦情の電話をかけてきた人が居た。「TPPはアメリカの陰謀だ。なぜ、それがわからないのか」と大真面目に語っていた学者が居た。「日本の農業を壊滅させる」と言って嘆いていたJAの人が居た。そうそう、月刊「文芸春秋」という雑誌は、今までにどれだけTPP懐疑論を広めてきたことか。今ではたぶん知らんぷりするのだろうけれどもね。

○突然、思い出すのは某所で行われたTPPシンポジウムのことである。Sという前民主党議員がTPP反対論をぶっていて、「なぜなら私はTPP秘密文書を見たんだ!」と言い出した。同じパネリストを務めていたワシは、最後におそるおそる「S先生、その秘密文書はどうやって入手されたんでしょうか?」とお尋ねしてみた。そしたら、「ネットで見た!」と言っておられた。思わず会場から失笑が漏れたものである。あの人、まだ息しているんだろうか。

○それから昨年のちょうど今頃、トランプさんの当選が決まった後に、経済産業省の前でTPP反対派が鳴りモノ入りでパフォーマンスを演じていた。踊りながら、こんなことを言っていた。

「TPP、ゼッタイ反対! トランプは、当てにはならない!」

○まさか本当に、トランプ大統領がTPP離脱を宣言するとは、彼らも考えなかったのであろう。でも、お蔭でアメリカ陰謀説は粉々になった。TPP11は、もともとの条件からはやや後退したけれども、「アジア太平洋地域における新しいルール作り」という目的を考えると、その方が良かったかもしれない。これから先を考えると、たぶんタイやインドネシアや台湾が入りやすくなるだろう。

○今週は秋田県に行っていたけれども、今はどこの地方に行っても、「地方活性化のカギは観光と農業です」というのがコンセンサスである。観光とはすなわちインバウンド、農業とはすなわち農産物輸出。人口減少社会の日本は、グローバリズム抜きには物事が進まない。ここ数年で、わが国の雰囲気はずいぶん変わったんじゃないだろうか。

○とまあ、そんな風に考えないと、せっかく開けた高めのワインがおいしくなくなっちゃうのでね。ちなみにいつものニュージーランド産ではなく、フランス産のブルゴーニュでありました。


<11月11日>(土)

○TPP11は変なことになっているようで、カナダが難色を示したので首脳会談は開かれず、でも閣僚レベルでは大筋合意に至っているらしい。するとどうなるのか。このまま自然体で放っておくと、批准した国が6カ国を超えた時点で自然に発効する、てなことになるのかもしれない。日本はいつ、審議するのか。今月の臨時国会でやるのですかね?

○なにしろ話が現在進行形なものだから難しい。ベトナムのダナンではAPEC首脳会議に加えて、いろんな二国間会談が開かれている。このページを見ると、昨日だけで安倍首相は「ロシア、カナダ、メキシコ、ニュージーランド、ベトナム、ペルー」という6カ国と会談している。

○つくづく「外国人と話すのは苦手だ」とか、「飛行機の中ではよく眠れない」という人には、首相が務まらないような時代になってしまいましたな。などと言いつつ、昨日のワインの残りを飲んでいる私。

○そういえば明日はこんなものに出演します。この問題も過去完了形のように見えて、現在進行形なんだよなあ。まあ、明日の朝、あらためて考えることにしましょうか。


●NHK総合/ラジオ第一 午前9時00分〜 午前10時00分

日曜討論「北朝鮮・経済… 米中首脳会談を読む」


世界が注目した米中首脳会談。北朝鮮問題や貿易問題などを巡りどのような議論が交わされたのか?超大国である両国の関係は世界に何をもたらすのか?専門家が読み解きます。

藤崎一郎,宮本雄二,柯隆,高原明生,森聡,吉崎達彦,【司会】島田敏男,牛田茉友


<11月12日>(日)

○今回のアジア歴訪では、トランプさんの演説が改善されているような気がするんですよねえ。いや、もちろん中身はあいかわらずで、APEC首脳会議での演説も「経済ナショナリズム」路線だったんですが、「小技」みたいなところがちゃんとしてきている。

○たとえば中国に関するところでは、「独立戦争直後のアメリカから、最初の船が中国に渡った」という故事を披露している。これって松尾文夫さんの『アメリカと中国』に出てくる話です。ペリーの黒船が日本にやって来るより、ずっと前の話なんですよね。


In 1784, the first American ship sailed to China from the newly independent United States. It went loaded with goods to sell in Asia, and it came back full of porcelain and tea. Our first president, George Washington himself, owned a set of tableware from that ship.


○それどころか、アメリカはタイにも行っていたんですね。


In 1818, we began our relationship with the Kingdom of Thailand, and 15 years later our two countries signed a treaty of friendship and commerce -- our first with an Asian nation.


○ちゃんと歴史を説き起こす、というのは大切なことです。トランプさんは韓国の国会でも演説をしていますが、これもなかなか読ませます。スピーチライター陣がしっかりしてきたのでしょね。

○もちろんこうした演説が、「トランプ政権のアジア戦略」を語っているわけではない。それはもう、オバマ大統領の「リバランス政策」に比べるとレベルは低いのです。とはいうものの、単なる「アメリカ・ファースト」ではなくなってきている。対北朝鮮問題にもコミットしているので、ある日突然に二国間でディールをして、「後は知らんよ」とは言わないのではないか。。

○なにしろわれわれは今年1月、トランプ政権の立ち上げ時期には、「尖閣諸島を守ってほしかったらカネ払え」と言われるんじゃないかと恐れていたのですから。それを思えば長足の進歩と言ってもいいんじゃないでしょうか。悪い話ではないと思います。


<11月13日>(月)

○というわけで、とうとうアメリカの対アジア政策の代名詞となった「インド太平洋」という言葉の根源はどこにあったのか。実は10年前の安倍さんの演説にあったのであります。


「二つの海の交わり」 Confluence of the two sea 2007年8月22日


さて、本日私は、世界最大の民主主義国において、国権の最高機関で演説する栄誉に浴しました。これから私は、アジアを代表するもう一つの民主主義国の国民を代表し、日本とインドの未来について思うところを述べたいと思っています。

 The different streams, having their sources in different places, all mingle their water in the sea.

 インドが生んだ偉大な宗教指導者、スワーミー・ヴィヴェーカーナンダ(Swami Vivekananda)の言葉をもって、本日のスピーチを始めることができますのは、私にとってこのうえない喜びであります。

 皆様、私たちは今、歴史的、地理的に、どんな場所に立っているでしょうか。この問いに答えを与えるため、私は1655年、ムガルの王子ダーラー・シコー(Dara Shikoh)が著した書物の題名を借りてみたいと思います。

 すなわちそれは、「二つの海の交わり」(Confluence of the Two Seas)が生まれつつある時と、ところにほかなりません。

 太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁栄の海として、一つのダイナミックな結合をもたらしています。従来の地理的境界を突き破る「拡大アジア」が、明瞭な形を現しつつあります。これを広々と開き、どこまでも透明な海として豊かに育てていく力と、そして責任が、私たち両国にはあるのです。

 私は、このことをインド10億の人々に直接伝えようとしてまいりました。だからこそ私はいま、ここ「セントラル・ホール」に立っています。インド国民が選んだ代議員の皆様に、お話ししようとしているのです。


○日本外交がこんな風に「言葉の力」を持ち始めたのは、実に今から10年前のことだったのであります。ちゃんと外務省ホームページに全文が載っていますので、是非読んでみてください。インドのことを詳しく調べ上げて、岡倉天心、パール判事、マハトマ・ガンディーなどに触れ、さらに対印ODAや地球環境問題を取り上げる。そして日印EPAの締結を促す。こんな用意周到な演説がインドで受けないはずがないわけであります。

○演説の最後は、以下のように個人的な述懐で締めくくる。


 私の祖父・岸信介は、いまからちょうど50年前、日本の総理大臣として初めて貴国を訪問しました。時のネルー首相は数万の民衆を集めた野外集会に岸を連れ出し、「この人が自分の尊敬する国日本から来た首相である」と力強い紹介をしたのだと、私は祖父の膝下(しっか)、聞かされました。敗戦国の指導者として、よほど嬉しかったに違いありません。

 また岸は、日本政府として戦後最初のODAを実施した首相です。まだ貧しかった日本は、名誉にかけてもODAを出したいと考えました。この時それを受けてくれた国が、貴国、インドでありました。このことも、祖父は忘れておりませんでした。

 私は皆様が、日本に原爆が落とされた日、必ず決まって祈りを捧げてくれていることを知っています。それから皆様は、代を継いで、今まで四頭の象を日本の子供たちにお贈りくださっています。

 ネルー首相がくださったのは、お嬢さんの名前をつけた「インディラ」という名前の象でした。その後合計三頭の象を、インド政府は日本の動物園に寄付してくださるのですが、それぞれの名前はどれも忘れがたいものです。

 「アーシャ(希望)」、「ダヤー(慈愛)」、そして「スーリヤ(太陽)」というのです。最後のスーリヤがやって来たのは、2001年の5月でした。日本が不況から脱しようともがき、苦しんでいるその最中、日本の「陽はまた上る」と言ってくれたのです。

 これらすべてに対し、私は日本国民になり代わり、お礼を申し上げます。


○まことに残念なことながら、安倍晋三氏はこのときの外遊でお腹を壊して、その翌月に突然の辞任に至るわけであります。それでも"Ideas have consequences."(理念には力がある)と申します。10年たったら、この言葉はアメリカの対アジア政策になったのです。え?トランプが言ってるんじゃ、中身がないんじゃないかって? そんなことを言うもんじゃないですよ。これから作ればいいんですから。レーガン大統領はこんな風に言っております。


"Ideas do have consequences, rhetoric is policy, words are action."

(理念はまさに結果を生む。レトリックは政策である。言葉は行動である)


<11月14日>(火)

○お昼は長島昭久さんのパーティーへ。

○長島さんは希望の党の候補者としては、東京都選挙区で唯一、小選挙区で当選していている。いちおうはめでたいのであるが、党の雰囲気は明るくない。ただし長島さん自身は、いつも通り明るい。ご本人の弁によると、希望の党は発足した直後にジェットコースターのような落下状態になり、これは尋常なことでは勝ち目はないと覚悟を決めたのだそうだ。

○そこで宣伝カーを一切使わずに、なりふり構わず人の居る所へ出かけて行って、握手戦術に徹したのだそうだ。1万人を目指していたが、あっという間に達成してしまい、最終的には2万1430人と握手できた。しかるにその5倍くらい、たぶん10万人くらいに握手を拒否されたのだとか。

「裏切り者!」(←民進党の支持者)

「お前の離党宣言を見て感動した。でも、なぜ希望の党なんだ?」

○などなど、いろんな声を浴びせられたが、最終的に9万2365票を得て、当選することができた。いや、よかった。おめでとうございます。

○パーティーには前原さん、細野さん、玉木さん、古川さん、岸本さんなど、希望の党の有力どころがズラリ。で、今日の午後に両院議員総会、そして5時から役員人事の発表というタイミングだというから驚いた。先ほどになって蓋を開けてみたら、長島さんは政調会長であった。

○ところがこの日のトップニュースは小池さんが代表を辞任するとのこと。まあ、希望の党にとっても東京都にとっても、その方がいいよね。ワシ的には小池さんが居ないのなら、遠慮なく希望の党を応援できる。顔ぶれ的には、どう考えても立憲民主党よりもいいと思うもの。なんだか2003年に小沢・自由党と合流する以前の民主党の雰囲気がある。

○いいじゃないか、支持率が3%だって。今なら無理して政権交代を目指さなくていい。長島さんが言うとおり、二大政党の鉄則は「政争は水際まで」。外交・安保政策では無理して与党に異議を唱えず、日本の構造問題にしっかり取り組む野党をつくればよい。とにかく韓国みたいなやり方は最悪ですからなあ。


<11月17日>(金)

○今宵は飲み会の開始時刻の10分前に到着したら、あらあら幹事も含めて誰も来ていない。ややあって、「突発事項で」「道路が混んで」などといろんな事情で遅れて、三々五々と集まってくる。そもそも今どき都内では、金曜夜に個室を予約すること自体が奇跡的な難事業なのだとか。皆さん「実感を伴わない」とおっしゃいますけれども、やっぱり景気は良くなっているのではないのでしょうか。

○11月15日発表の7−9月期GDP速報値では、「個人消費はマイナスで、外需主体の成長」ということになっておりました。でも、GDPは前期比ですから、4‐6月期が出来過ぎだった後は、かならず割戻しが来るのです。しかも長雨で、消費の足を引っ張ったことは自明なのですから。むしろ外需の健闘ぶりを称えるべきではないかと存じます。

○7-9月期GDPでは、デフレーターがしっかりプラスに転じていたことも好材料。名目GDPが実質GDPを下回るという「名実逆転」現象も、解消されてからもう3年以上たっておるのです。物価上昇2%はもちろん未達なれど、デフレは脱却したと言ってもそんなに罰は当たらないのではないでしょうか。

○もっとも安倍政権としては、「引き続きデフレ脱却を目指していく」と言い続けている方が気楽な立場である。脱却してしまったら最後、次の課題に取り組まなければならなくなってしまうから。それは社会保障改革とか財政再建とか、とにかく不人気な政策となることは間違いない。そんなこと、国民も本気では望んでいないはず。ここがとっても微妙なところでありますな。

○日経新聞が朝刊で「愉楽にて」という連載小説を掲載し、エッチな場面が出てくるという展開で、「これはもう渡辺淳一の世界再び。ジンクスから言って株価は上がるぞ!」とマーケットの一部関係者がはしゃいでいる。外国人投資家は、今まで軽視していた日本株が上がるので、「持たざるリスク」を感じて慌てて買っている。他方、国内の個人投資家は売り一色。日経平均2万3000円なんて怖くて買えない。結論として国内にはキャッシュが余っている。

○なーんだ、そういうことで景気が良くなっているのか。やっぱり今年の忘年会シーズンは、ちょっとした過熱モードになるんじゃないでしょうか。


<11月18日>(土)

○今宵はBS-TBS『週刊報道Biz Street』へ。今日は「みずほFG構造改革、1.9万人削減」、「トランプ氏、アジア歴訪自画自賛」、「企業収益絶好調と賃上げという課題」などのテーマがあったのだが、めちゃめちゃ面白かったのが「中古売買が熱い!リユース市場急成長の現場」という話題でした。

○いやまあ、メルカリがやってることなど可愛いもんです。リアル店舗の買い取りで急成長するSOUこと「なんぼや」さん。やってることは、ITを使った大掛かりな質屋さんみたいなものですな。ブランド品や貴金属、高級時計などを全国から買い集めて、それを会員制オークションで売りさばく。なんと4日間で1.5万点、12〜13億円を売却する。落札率は98%。番組をご覧になった方は、何百万円もの時計がオークションであっという間に取引される様子に圧倒されたんじゃないかと思う。ほんの数秒で値段が決まる。あの場で飛び交っていたのは、最近はちょっと聞いたことがないような真剣そのものの声でした。

○考えてみれば、日本には死蔵されている高級品がいっぱいある。それらをキャッシュに換えるのは、まったく合理的な行為なのだが、いかんせん心理的な壁というものがある。親の遺品だって、なかなか処分できませんわなあ。ところが世の中は所有価値から使用価値へ。使わないものは要らないし、古いものを売って新しいものに買い替えるのも当たり前、という風に意識が変わってきた。リユース市場の発展は、まことにもっともなことなのです。

○ところがこの商売、考えてみればリスクは大きい。フェイクを掴まされるかもしれないし、盗品の怖れだってある。売れない在庫を抱えてしまい、その中古品の市場が値崩れした日には目も当てられない。ところが日本には既に充分なボリュームを持つ中古品市場が出来上がっており、値付けのプロがいて、売りさばくネットワークもある。あの商品群、きっとアジア各地に売りさばかれていくんだろうなあ。課題先進国である日本経済には、こんな形の「使い道」もあるんですな。

○てなことで、この番組は勉強になります。不肖かんべえは次は12月9日(土)放送分に登場いたします。


<11月19日>(日)

○今月は「山一・北拓ショック」から20周年。ということで、あちこちで取り上げる記事が出ていますね。

○北海道拓殖銀行の経営破綻は11月17日、月曜日であった。その前日は世に言う「ジョホールバルの歓喜」である。FIFAワールドカップ・アジア最終予選、イランとの決戦が2−2で延長戦に突入し、日曜夜であったがワシも深夜まで粘って見ておった。中田英寿のアシストを野人・岡野が蹴りこみ、決勝Vゴールで日本の1998年パリW杯への参加が決まった。その夜は感動に浸っていたのだが、翌日、出社したところ日本経済は大混乱であった。

○当時、大蔵省は「大手21行は1行たりともつぶさない」という護送船団方式をとっていた。今となっては、「当時の21行を名前を全部言えるか?」というのは同世代人の間でもかな〜り難しいクイズとして成立する。大和銀行とか埼玉銀行が意外と出てこない。信託銀行が7つもあるのが鍵です。

○山一証券の自主廃業は11月24日、月曜日、ただし振り替え休日で3連休の最終日であった。金融機関の経営危機は、いつも週末にやって来る。早朝の臨時取締役会で自主廃業が決まった。押し寄せた取材陣に対し、野澤社長が「社員は悪くありませんから!」と号泣した映像は語り草となった。

○四大証券の名前はさすがに簡単だ。当時は「大きな山に日がのぼる」(大和、山一、日興、野村)と覚えたものである。とはいえ、証券界も今では様変わりである。店舗の雰囲気からして、えらい変わりようですなあ。

○こんな事件が相次いだために、1997年の年の瀬は大騒ぎであった。当時のワシはいろんなところからキャッシュを集めて、住宅ローンの前倒し返済に踏み切った。これは絶好の判断というべきで、翌年には日商岩井が不良債権問題で経営危機に陥って、他人事ではなくなった。あれからもう20年になる。

○「1の位が7の年は金融危機がつきもの」という話は、過去に何度も書いてきた。ブラックマンデー(87年)、山一北拓(97年)、サブプライム(07年)と来ているのだが、2017年はここまでは不思議と無事に来ている。とはいえ、残り6週間、まだまだ何が起こるかわかりませぬぞ。


<11月20日>(月)

○先日、某外資系企業の人事制度について拝聴する機会があった。内容を聞いて、文字通りぶっ飛んでしまうほど驚いてしまった。採用→研修→評価→報酬→昇進あるいは外部転身に至るまで、まことにきめ細かなシステムが出来上がっていて、なおかつそれが頻繁に変わっているのである。「よくまあ、ここまでやりますね」と聞いたら、「だってわが社は人材こそが命ですから」とお返事されて、とっても恥ずかしく感じてしまった。

○グローバル企業というものは、当然のことながら全世界統一の人事制度がある。とはいえ、世界各国にはそれぞれお国柄というものがあるし、法制度もそれぞれに違うから、ローカルルールも取り入れなければならない。そこでグローバルルールとローカルルールのせめぎ合いのようなものが生じて、それは文字通り朝令暮改でなければならない。日本国内の有名外資系企業の間では、そういう情報交換も密にされているとのこと。

○その点で純正・日本企業はどうだったかというと、この20年くらいホワイトカラーの人事制度は基本的に変わっていない。いや、もちろんセクハラだのパワハラだのといったルールは新しく加わった。ブラック企業と呼ばれないように、残業を青天井にしちゃいけない、などの禁忌もできた。総合職に占める女子の比率も上がっている。が、新卒一括採用から定年に至る人事制度の根幹は、昭和の頃と同じである。

○最近になって言われ始めたのは、「定年制を止めるべきではないか」である。あんなものは取り払ってしまった方が、人生100年時代には適しているのではないかと。それに日本政府のホンネとしては、企業定年から年金支給開始年齢までのギャップがあるものだから、なるべく長く働いてもらう方がありがたいという都合もある。まして今の日本は人手不足なのだし。

○しかるにそれをやるのだったら、同時に会社都合で社員を解雇できるような制度を導入すべきだろう。なんとなれば定年制が真に意味するものは、「会社にとってどんなに困った社員でも、その年齢になれば遠慮なくおさらば出来る」というルールであるからだ。変な期待を持たれちゃ困るから、年齢で平等に切ってしまう。個別に見たらお気の毒なケースであっても、悪法も法なり、というわけである

(余談ながら、日本社会ってこういうデジュリ・スタンダードが得意ですよね。景品交換所があるからパチンコ屋はギャンブルではない、みたいな例が一杯あります)。

○わが総合商社業界も、「人こそ資産」が決まり文句です。今のところ、社員の高いモチベーションは維持できているように思われます。それだって10年後にどうなっているかと言えば、まったく自信はありません。少なくとも人事制度という面では、ワシが入社した頃と基本、同じなんだもの。「今の若い人たち」にどれだけ通用するのか、サッパリ分かりません。

○もっと言いますと、「企業業績がいいのに賃金が上がらない」という最近よく聴く不満も、人事制度が旧態依然のままだからではないのでしょうか。今どき全社員にベースアップがあって、皆が等しく給料が上がるなんて、ちょっと変だと思いませんか? 少なくともホワイトカラーの処遇は、上昇志向から安定志向まで企業はいくつかの選択肢を用意すべきでしょう。今のままでは、「賃金を上げたい人でも上げられない」という悪平等になっているのではないかと。

○などと、また嫌われるようなことを書いてしまった。今に始まったことではないんですけどね。


<11月21日>(火)

○本日は「自民党ナイトタイムエコノミー議連」に出席。総選挙後では初の会合となる。この動き、先日、日経ビジネス誌が「寝るな!日本人」なる特集を組んでくれたりしたので、ちょっとずつ世間の注目を集めつつあるらしい。

○世界の大都市間では、「夜のマーケットをいかに広げるか」という国際競争が繰り広げられている。東京から見ると、ベンチマークとなるのはロンドン。2012年のロンドン五輪を機に、「地下鉄の24時間運行」などの施策を始め、夜の街に多様なコンテンツを提供しようとしている。今日伺った話では、豪州のメルボルンも「深夜都市」を目指しているのだとか。その点、東京は「晩飯食った後にすることがない」という不満が外国人観光客にあるという。

○本日伺った話の中では、株式会社バグースさんのプレゼンが面白かった。この会社、プールバーやダーツバーなどの業態で「大人の社交場」を展開している。この業界も、10年前とは様変わりであって、外国人が増えていることもさることながら、昔は午前4時までがピークタイムであったが、今では終電に間に合うように皆さん午後11時半には引き上げるのが普通になっているとのこと。それでも店舗自体は増えているんだそうだけれども。

○同社によれば、ナイトアミューズメント業界の歴史は以下のように移り変わってきたのだという。

●70年代:インベーダーゲームが登場して一世を風靡する。当時の飲食店は競ってゲーム機を導入したのだが、「1台置くにも風営法上の許可が必要だった」。

●80年代:ビリヤードブームが起きたりしたが、ここで登場したのが「10%ルール」。深夜酒類提供飲食店を念頭に、「遊興器具の設置許可面積は、客席面積の10%以下とする」というもの。ダーツもこの対象となる。

●90年代:テレビゲームの全盛期。ゲーセンがそこらじゅうにできましたわなあ。

●00年代:国産デジタルダーツが登場。シミュレーションゴルフも始まる。ところがデジタルコンテンツ設置店も、10%ルールの適用対象になってしまう。

●10年代:AR、VR、e-スポーツが登場する。ナイトマーケットにおける総合アミューズメント化が進む。ところが今でも10%ルールの範囲内である。

○要するに「早く規制緩和してくれ〜」という訴えなのだが、インベーダーゲームの時代にできた規制が、今のデジタルダーツを縛っているというのはなかなかに理不尽なことではないだろうか。こういう規制を緩和する際に、構造改革特区を持ち出したり、官邸に対する「忖度」が必要、という世の中ではないようにしたいものである。

○ということでわが「遊民経済学」としては、「夜の街の国際競争」を応援したいと思うものであります。


<11月23日>(木)

○今日は銀座で同期会。数年ぶりに声を懸けたところ、やけに大勢集まる。なにしろ入社は33年前の昭和時代だから、男子は5人物故者がいるのだが、女子は全員元気なようである。

○つい先日も人事制度について書いたばかりだが、最近は「日本企業の新卒一括採用」がよろしくない、という議論がある。なるほど、こんなことやってるのは日本だけかもしれない。それにこれをやっていると、外国人採用が難しくなる、という問題も生じる。なにしろ桜の季節に大学を卒業するのは日本人だけですから。

○一方で、この「同期のつながり」というのはまことにありがたいもので、個人的にはどれだけ世話になったかわからない。とくに商社のような商品別縦割り型組織では、これがないよ情報が横につながらない、という事情がある。通年採用が当たり前になると、こういう横のつながりも消えて行くわけであって、「何かを得れば何かを失う」ということになるのであろう。この辺は結果を恐れずに、「朝令暮改」をやってみるしかない。

○もっともそれはこれから先の日本企業のことであって、「ワシらにはもう関係がない」世界である。だってほとんど「ご卒業」に近い身分ですから。たまたま古い制度に馴染んで育ってきた者としては、ああ、結構な時代を過ごしてきたものだ、としみじみ思うばかりである。

○それとはほとんど関係がないんですけど、明日はこの番組に登場します。この時間帯は朝令暮改なんですよねえ。テレ東さんには頑張ってもらわないと。


<11月25日>(土)

○今年は日本の勤労感謝の日とアメリカの感謝祭が同じ日になった。こちらは11月23日で決め打ちだが、先方は11月の第4木曜日なので、重なることはめずらしい。ちなみにボジョレーヌーボーの解禁はその1週前の第3木曜である。ま、それはどうでもいい。

○ということで、昨日は日米共同で「ブラックフライデー」ということになった。"Black"という形容詞がつくと、何か悪いことのような気がしてしまうのだが、かならず黒字になる年末商戦の始まり、ということである。感謝祭でその年の実りに感謝し、その翌日からお買いものシーズンが始まる、ということだったのだが、最近のアメリカでは感謝祭当日からセールが始まってしまう。

○さて、日本の場合はこれを機会に「ブラックフライデー」が定着するのだろうか。11月の第4金曜日、ということになるのかもしれないが、その場合、勤労感謝の日との兼ね合いが毎年変わってしまう。そういえば昨日は忘れ去られて久しい「プレミアムフライデー」でもあった。

○で、金曜日の夜は西麻布で痛飲。今日はとっても久しぶりに二日酔い。うーん、ボケた頭で明日のジャパンカップの予習をしよう。大きく当てて、「ブラックサンデー」(黒字の日曜日)と行きたいところである。


<11月26日>(日)

○将棋ファン以外の方にこれを是非お伝えしたい。現在、竜王戦(読売新聞主催)が行われていて、先週24日に第4局を終えて羽生善治棋聖が3勝1敗と、渡辺明竜王をカド番に追い込んでいる。何しろ今はモバイル中継がiPadで見られてしまうので、ずっと気になっています。次の対局は、12月4日・5日に鹿児島県指宿市「指宿白水館」で行われる。白水館、いい宣伝になりますねえ。

○次の第5局に勝つとめでたく「竜王位奪取」となるのだが、そうすると羽生さんは既に竜王を6期取っているので、規定により「永世竜王」となる。その結果、すごいことが起きる。「永世七冠王」の誕生である。ちなみに過去の羽生さんのタイトル履歴は以下の通り。

●竜王:6期(7期で永世竜王)

●名人:9期(19世名人の有資格者)

●王位:18期(永世王位)

●王座:24期(名誉王座)

●棋王:13期(永世棋王)

●王将:12期(永世王将)

●棋聖:16期(永世棋聖)

○最近の羽生さんはお世辞にも調子がいいとは言えない。今年になってから2冠を失って、ただの「棋聖」1冠になってしまった。あの羽生さんを「羽生棋聖」と呼ぶのは、周囲もきっと慣れていないはずである。それでも竜王位を取れば、雰囲気は一変するだろう。だって「永世七冠王」ですぜ。今の六冠王だって既に前人未到なんだから。

○今年は藤井四段の29連勝といい、「ひふみん」といい、つくづく将棋に関する話題が多いです。次は「永世七冠王」。羽生さんは2008年に惜しい負け方をしているのですが、第4局の勝ち方を見る限り、ここまでくればもう間違いはないと思います。


<11月27日>(月)

○本日はSansanという会社主催の会議に登場しました。ほら、名刺が見つからなくて、「はやく言ってよ〜」というCM、見たことあるでしょ? 会社全体で名刺をクラウドで管理する、という今風の会社なのである。「サンサン」という社名は、名刺交換の際の「○○さん」からきているのだそうだ。

○この会議、「日本企業の少し未来の働き方」というテーマで、ANAインターコンチホテルで行われました。すごい来場者数でした。それというのも、基調講演が小泉純一郎氏だから。いやー、ホンモノの小泉さん、元首相ですよ。不肖かんべえが、「以前、田原さんの番組に出ておりました」と自己紹介したら、「おおー、見覚えあるよー」と言ってくださいました。

○演題は「日本の歩むべき道」。とにかく改革についてのお話しをしてください、というのが主催者側のリクエストで、それを後半のパネルディスカッションで生産性の向上とかデジタル革命の話題につなげたい狙いなのであります。パンフには、「改革に取り組む日本のリーダーに向けて、世界の中の日本、未来に向けて今後の日本の歩むべき道を熱く語ります」とありました。

○小泉さん、まずは3度にわたる自民党総裁選出馬の回顧から語り始める。それがいよいよ「郵政解散」の話に到達したところで、話は急きょ「原発ゼロ」に転じる。まあ、予想されたことであったとはいえ、小泉さんは全体1時間の半分以上を反原発に費やされました。いやあ、たてがみを光らせて走るオルフェーヴルのように天衣無縫だったのであります。

○講演の最後は、尾崎行雄「人生の本舞台は常に将来に在り」という言葉と、佐藤一斎の「少(わか)くして学べば壮にして為すあり。壮にして学べば老いて衰えず。 老いて学べば死して朽ちず」という言葉を紹介し、悠然とその場を去っていかれました。ちなみに佐藤一斎は小泉さんのお気に入りで、田中真紀子外相に「重職心得箇条」を送ったのは当時も語り草でありました。

○後に残されたパネリスト=菅野雅明さん、中島厚志さんと不肖かんべえとしては、予定通り「2018年の企業経営をめぐる経済環境」というテーマでお話しするわけです。でも、基調講演に何も触れないのも変なので、冒頭、「いやー、小泉さん、迫力ありましたねー。ちなみに私は原発推進派ですけれども」と言って、ちゃっかり笑いをいただきました。後の内容は、もう特段ご報告するほどのものはござりませぬ。

○つくづく小泉節は健在でありました。あいかわらず「変人」で「信念の人」。そして「進次郎のパパ」ですからね。当代稀に見るカリスマ性であります。1時間も間近で見ると、ちょっと得した気分であります。


<11月28日>(火)

○とっても久しぶりに、BS11の「INsideOUT」に出演しました。テーマはアメリカ経済だし、お馴染みのナベさん(渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員)がご一緒だったんで、ついつい居心地のいい番組でした。

○以前は毎日新聞社の中にスタジオがあったのですが、今はお茶の水にBS11のオフィスがあります。それも以前は、文化学院が入っていた由緒ある建物の中にあります。

○この文化学院、不肖かんべえが1979年に駿台予備校が通っていた時代からあります。歩いていると、街全体がとっても懐かしいです。何と番組キャスターの八塩圭子さんも駿台に通ったことがあるんだそうです。

○ということで、番組よりも御茶ノ水の街にばかり気を取られておりました。ガロの「学生街の喫茶店」のモデルになった店の隣に、博多ラーメンの店ができているんだものなあ。つくづくワシも老けたということであろうか。


<11月29日>(木)

○2か月半ぶりに、北朝鮮のミサイルが飛んだそうです。でも、新聞各紙の「総理の一日」欄を見ると、安倍首相は27日月曜日から公邸に連泊していて、おさおさ怠りなかった様子が窺えます。そうなんですよ、北朝鮮の動きというのは、日本政府には逐一見えておるのであります。言ってみれば、これはオープンリーチのようなもの。わが国独自の人工衛星やアメリカからの情報提供によって、北朝鮮の動きは筒抜けなのであります。

(アメリカからの情報提供は、かの悪名高き「機密情報保護法」の制定以降に可能になりました。あの法律に反対していた人は反省してね)

○問題はこれでアメリカが次にどう出るかであります。トランプ大統領のアジア歴訪後、米中間ではこの問題に関する役割分担ができたらしい。すなわち、アメリカは目いっぱい軍事的な圧力をかける。中国は国連制裁に協力しつつ、同時に対話の糸口を探る。

(その代わり、対中スーパー301条の発動はもうちょっとだけ待っていてやるぜ!と習近平に言ったかどうかはわからない。なおかつ、今週中くらいに飛び出たりして。たぶんスティーブ・バノンはそんな風にけしかけている気がする)

○先日は、習近平国家主席が「共産党大会の様子を説明する」という名目で北朝鮮に特使を派遣したが、金正恩委員長には会えなかった。するとすかさずトランプ政権が、「北朝鮮をテロ支援国家に再指定」というカードを切った。メンツをつぶされた形の中国は、中朝国境の丹東と新義州の間の橋を「修理のため」という名目で通行禁止にしている。

(テロ支援国家に再指定というカード、ちょっと切るのが早過ぎたような気がします。もうちょっと間を持たせても良かったのではないかと。まあ、トランプさんにそれを望むのは酷かもしれませんが)

○北朝鮮は今回、ロフテッド軌道で4500キロの高さに「火星15号」を打ち上げて、「さあ、どうだ、これでアメリカ本土を射程に捉えたぞ」と宣言している。一種の意趣返しのように見えないこともない。でも、核兵器を詰み込む技術まではない。それができるようになったら、いよいよアメリカは黙っていられなくなる。いいんですかねえ。

(アメリカとしては、先制攻撃を加えるための法的根拠がまだない。Pre-emptive Attackはいいけども、Preventive Warは国際法違反である。イラク戦争の時に、この議論を散々やったよなあ)

○今のところ米中朝のいずれもが、現時点では合理的に行動しており、軍事的衝突を望んではいない。ただしこういう状況が長期化すれば、どこかで偶発的な戦闘が始まってしまう恐れは否定できない。トランプさんも、その辺が詰まっているとは思えない人なので、これから先はちょっと心配である。

(とりあえず次の焦点は、米軍による韓国におけるNEO=Non-Combatant Evacuation Operation(非戦闘員退去活動)がいつ始まるか。そうなったら大変ですぞ。ご準備なさいまし)










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki