●かんべえの不規則発言



2017年5月








<5月1日>(月)

○本日、こんな本が出版されました。



トランプは市場に何をもたらすか!?

如何に動くか世界経済! 日本経済の浮上はどうなる!

著者 竹中平蔵
著者 宮家邦彦
著者 吉崎達彦

定価 1,512円(本体1,400円+税)
発売日:2017年04月28日

電子版あり



目まぐるしい変化を続ける世界情勢。トランプに勝利をもたらしたムーブメントは、EUをはじめとする世界情勢に影響を及ぼす。激動の中で市場は、通貨は、どのように動くか。第一線の専門家3人による圧倒的な分析が、その答えを導き出す! 外為どっとコム主催の大人気セミナーに、新規取材を加え書籍化。


○「トランプ本には碌なものがない」と普段から口走っていたにもかかわらず、自分でも出すのかよ、しかも今頃になって・・・・。ああ、そんな言葉が胸に突き刺さる。きっと気のせいではないはずだ。

○正直に申し上げますが、この本の中で不肖かんべえが語っていることは、いつも当溜池通信をご覧いただいている方には「また言ってらあ」といったことばかりでございます。この辺は書籍の限界というものがございます。とはいえ、平蔵親分やミヤケ兄いが言ってることには、いろいろ新鮮味もあろうかと存じます。また、3人の掛け合い(というより、平蔵親分が2人に無茶振りをしている)も、なかなかに楽しめるのではないかと思います。

○てなことで、たいへん低姿勢ではありまするが、出版の告知でございました。出版社はこれが初めてのKADOKAWAさん。重版出来、と行きたいですね。


<5月2日>(火)

○今宵はAbemaTVの名人戦第3局を見ておりましたが、いやあ、面白かった。夕方からちょくちょく見始めて、20:50PMに佐藤天彦名人が投了。これで挑戦者、稲葉八段が2勝、佐藤名人が1勝。熱戦でありました。

○将棋はつくづくネットとの親和性が高いゲームだと思います。思ったよりも「絵」になる。少なくとも囲碁よりは。駒の動き、対局者の息遣い、棋譜読み上げ、感想戦までがとってもリアルなのである。タイトル戦は和服で登場、というのも良い。終盤戦になって持ち時間が短くなると、差し手も早いし、いつ逆転があるかわからないので、ついついマラソン中継のように目を離せなくなってしまう。これで大盤解説が上手だったら、鉄板のコンテンツというものです。

○これが地上波だと、今までは長時間の中継が難しかったのだけれども、ネットTVは流しっぱなしにしておけばいいのです。今頃、2ちゃんねる将棋・チェス板あたりではあーでもない、こーでもないという岡目八目が散々飛び交ったことでしょう。「ながら視聴」ができるというのも、将棋の良い点かもしれません。

○逆に将棋界が明るくない点は、新聞棋戦に収入を依存していることでしょう。なにしろ新聞は構造不況業種である。AIの進化によって最も早く打撃を受けた将棋業界は、いろんな意味で課題先進ゲームでありますな。一方で「中学生プロ棋士」の藤井聡太4段が登場したことも、話題作りということでめでたい現象だと思います。1990年代の羽生現象の再来となりますかどうか。

○「三浦事件」で傷ついた将棋界ですが、佐藤康光新会長(紫綬褒章!)の下でいい風が吹いてくれればなと思います。


(追記:日本将棋連盟推薦の「将棋デショコラ」なる商品を頂戴しました。チョコで実物大の将棋の駒を作ったものですが、なかなかに美味でした。これに入っている「将棋」の解説文がスグレモノだったので、下記にメモしておきます。なるほど、そういうわけだったのですな)


●将棋は日本の伝統的な頭脳競技です。常に私たち日本人の身近なところに存在し、世代を超えて親しまれてきました。現在でも、プロ棋士による公式タイトル戦はすべて和室で行われ、正座・着物・駒の並べ方といった対局所作など、日本古来の「和の心」を随所に感じることができます。日本将棋連盟では、この素晴らしい日本文化を後世に伝えていくべく、将棋のユネスコ無形文化遺産登録を目指しています。

●将棋の特徴 将棋の原型は1000年以上前に日本へ伝来したと考えられています。その後、さまざまな工夫や改良が加えられ、約500年前に現在の形となりました。日本の将棋は、世界中に存在する将棋に類するゲームと比較しても極めて特徴的なものとなっています。たとえば、駒は平たい形状をした五角形で、敵味方の色分けもされていません。駒の名前も宝物に由来します。また、持ち駒再使用のルールは、世界的にも類を見ないルールです。これが、盤上にある相手の駒を排除して王を捕らえるのではなく、盤上にある駒を交換しながら最後に玉(最高の宝石)を得た方が勝ちというゲーム性を生み、ゲームをより複雑なものにしています。


<5月4日>(木)

○千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館へ。収蔵品も素晴らしいのだが、この時期に訪れると庭園のつつじがとてもきれいである。2年前にも来ているが、5月の連休に訪れるには好適な場所だと思う。

○これも連休中に訪れた国立新美術館の「草間弥生、わが永遠の魂」展もそうだったが、カメラを持って訪れている人が多い。最近は美術館でも、「ここまでは撮影オッケー」な場所が増えているようで、実際問題としてこれだけスマホが普及したら、撮るなと言ってもどうにも止められないのかもしれない。3月に訪れたNYのMOMAでは、シャガールでもポラックでも「撮り放題」のようであった。

○とはいえ、ホントに記録が欲しいのであれば図録を買って帰ればいいわけで、美術館で写真を撮るのはいかがなものか、とワシは思う。だいたいホントに美しいと感じるものは、美術品でも自然の景色でも、写真に撮って残せるものではない。少なくとも自分の腕前では。

○もっとも世の中には、一眼レフのカメラを買ってしまったがために、いろんな場所に出かけていく人もいるのであろう。あれって重いから、仕事以外では持ちたくないものなんですけれどもね。ワシ的には、美しいものを見た後はとっとと忘れる。これはこれでゼイタクというものではないかと思うわけでして。


<5月6日>(土)

○連休中に書いた原稿のご紹介。

●東洋経済オンライン「市場深読み劇場」 http://toyokeizai.net/articles/-/170628 

○今週の内外情勢であれば、来週のフランス&韓国大統領選挙や、北朝鮮情勢を取り上げるのが本筋なんだろうけれども、三遊亭圓歌師匠が亡くなられたもので、こういうネタになってしまいました。

○浅草演芸ホールに入ってみたところ、昨年同様に林家木久扇、木久蔵の親子に、林家正蔵と三平の兄弟が出るという豪華メンバーでした。昼の部主任の木久扇がトリを務める頃には、お立見で一杯になっておりましたな。「笑点」に出てくる木久扇師匠は「お馬鹿キャラ」ですが、噺を聞いてみるとお馬鹿ではありません。ちゃんと固有名詞や年号も正しく出てきます。でも、幕が下りた後で「木久扇ラーメン」を売ろうとするあたり、TV通りでありました。

○それから今頃なんですが、映画『この世界の片隅で』を見てまいりました。つい先日、原作を読んで大感激してしまったので、あいにく映画の印象はいま一つでした。白木りんのエピソードをごそっと落としてしまったのはまことに残念。まあ、文科省御用達の映画にしようとなると、あそこは使えないんでしょうけどねえ。それで一気に物語が薄くなってしまった感が否めない。こういうのもゼイタクな感想なんでしょうか。

○今日、明日であと1本書かなきゃいけないんだけど、さて、何を取り上げよう。まだ余裕をかましているところです。


<5月7日>(日)

○最近、たびたび競馬場で見かけるのがまったくの素人のお客である。マークシートの塗り方がわからなかったり、「どれが当たりなの?」とマジで聞いていたりする。今年のJRAは、若手俳優を大勢使った"Hot Holidays"というCMを流しているので、その効果があるのかもしれぬ。ちなみに今年のCMに出ているのは、松坂桃李、高畑充希、土屋太鳳、柳楽優弥の4人。ワシは黒田長政をやっていた桃李君しか知らんのう。

○CMの中の若者たちは競馬のことがまるっきりわかっておらず、それこそパドックを見て「ゴールはどこですか?」とマジで聞いたりする。でも楽しそうに競馬場で休日を過ごしている。近年、JRAは4年連続で売り上げを伸ばしているけれども、競馬場への来客数は落ち込んでいるので、CMの狙いはなるべく「競馬を知らない若い人たちを呼び込む」ことにあるのだろう。今はネットで馬券を買う人が増えたからねえ。

○真面目な話、競馬場というのは明るいばかりの場所ではないし、競馬新聞を読んで予想する、というのは基本的に暗い行為である。だから「テレビCMであんまり誤解を振りまいてもなあ」という懸念はある。それでも昨年までやっていたCMシリーズに比べるとはるかにマシで、昨年は有村架純、瑛太、笑福亭鶴瓶の3人であった。どう考えても、ギャンブルをやりそうにない顔ぶれである。ゆえに去年、一昨年と、「いきものがかり」の明るいCM曲が流れると同時に、ワシ的には渋い顔を繰り返しておったわけである。

○毎週のようにJRAに貢いでいる立場からすると、「俺たちのカネで作ってるんだから、もっとギャンブラーの側に立て」などと小言を言いたくなるところである。新しいファンをつくろうという試みはJRAとしては当然だが、古いファンの気持ちも大事でありますぞ。

○歴代のCMで言うと、「CLUB KEIBA」というシリーズが良かったな。2008年からやっていたシリーズで、佐藤浩市、大泉洋、蒼井優、小池徹平といったところが出ていた。社内の競馬好きが集まって競馬場に通う、という設定で、競馬になるとついつい社内秩序が崩壊し、上司にタメ口をきいたりする。競馬というのは他の趣味と同様、身近に師匠が居てこそ面白くなるものである。最近は何でもネットが師匠という世の中になってしまい、その辺がなんとも味気ない。ひょっとすると、上海馬券王先生やオバゼキ先生が誰かさんのネット師匠になっていたりして。

○歴代のJRAのCMの中で、いちばん印象に残っているのはキムタクが出てくるやつ。98年から99年に流れたもので、なにしろJRAの史上最高売り上げが1997年なので、いちばんカネがかかっているのであろう。派手で、無茶苦茶で意味なしでバブルっぽくて、いやはやCMとはこんな風であってほしいという好例であった。今だと受けないのかもね。

○逆に言えば、競馬の売り上げが落ち込んだボトムの2011年頃にやっていたCM(20th Century Boys)は、カネもちっともかかっていないが、古い競馬ファンを奮い立たせるものがあった。新しいファンを引き付けるのも大事だが、ときどきこういうのもやってほしいわな。

○ところでこの連休中、阪神タイガースが強い。とうとう首位になってしまった。今日なんて能見さんが投げるから負ける番だろう、と思ってみていたら広島相手にとっても強い。昨日なんて9点差をひっくり返している。内野守備などはお世辞にも立派じゃなくて、粗雑な野球をしながら勝っている、というのがいかにもタイガースである。


<5月8日>(月)

○ロシアの大統領において、「ツルツルとフサフサ」が交互に来るという法則は比較的よく知られている。今のプーチンさんは最先端技術の粋を凝らして、なんとか髪の毛を維持しているようだが、歴代のパターンから行くと「ツルツル」の側に属する。仮に次がメドベージェフの再登板であれば、やはり次は「フサフサ」であったということになるだろう。

○これに比べると、「フランスの大統領はキツネとタヌキが交互に来る」の法則はあまり知られていない。って、ワシがいま作ったものなので、それは当たり前のことである。タヌキ顔のシラク、キツネ顔のサルコジ、タヌキ顔のオランドと続いたので、次はやっぱりキツネ顔のマクロンでありました。ルペンはタヌキ顔ですからなあ。それにしてもご両人、思ったよりも大差がついたものです。

○ちなみにそれ以前の歴代大統領は、フランソワ・ミッテラン(81-95)、ジスカール・デスタン(74-81)、ジョルジュ・ポンピドゥー(69-74)、シャルル・ド・ゴール(59-69)と、「これぞフランス大統領顔」みたいな偉丈夫タイプが続いておりました。彼らのことをキツネとかタヌキなどと呼んだら怒られることでしょう。

○それはさておいて、新しいキツネ顔大統領、エマニュエル・マクロンの賞味期限はどれくらいあるのでしょう。昨今の先進国は、どこでも有権者が「ないものねだり」モードになっているので、このあと1か月でマクロン人気が急速に萎んでしまい、来月の議会選挙では大敗して少数与党で政権発足・・・・なんて筋書きは勘弁してほしいと思います。政治の世界で素人が受ける、ってのは考えてみたら怖いことですぞ。

○大統領制のいい点は、ちゃんと任期が決まっていること。悪い点も、任期が決まっていることでありましょう。マクロン大統領がダメだったら、次はやっぱりタヌキ顔大統領の番ということで、5年後には「今度こそ・・・」のルペンが待ち構えている、かもしれない。ともあれ、この選挙を機にフランスが雄々しく再生する、なんてことだけはないでしょうね。なにしろキツネとタヌキの馬鹿仕合いですから。

○おおい、誰かワシに座布団を1枚持ってきてくれんか?


<5月9日>(火)

○フランス大統領選挙は順当にエマニュエル・マクロン候補となりまして、中1日開けて行われた韓国大統領選挙はどうやらムンジェイン候補のようです。とりあえずこんな風に事前の世論調査が当たり、2位にある程度の差をつけての当選が決まることは、政治の安定から言って望ましいことなのでしょう。

○こういうときの日本国民は、「まあ、民主的な手続きで選ばれたものだから」ということで、他国の選挙結果に対してあまり非難がましいことを言いません。「北に対する宥和政策の持ち主が評価されるのはケシカラン」みたな怒り方をしませんよね。これはある種の美風だと思います。「トランプ大統領だって、「まあ、しょうがないっしょ」というのが大勢なのであります。むしろ「反日的な候補が来ちゃって、困りますねえ」という受け止め方になる。

○これは「ウチとソト」を分けて考える日本式思考法なんでしょう。それは日本国内の政治が、きちんと他国に説明できないことが多い、という事情にもよる。同じことは韓国政治にも言える。「いやもう、ウチは特別ですから」みたいな説明を、韓国の人から今までに何度聞いたことか。

○これが欧米間だと、「トランプみたいな大統領を選ぶアメリカ人は間違っている」とか、「ちゃんと反グローバル候補を退けたフランス人は偉い」みたいな反応が起きがちである。民主主義は万国共通、西側は共通の理念を持つ、と考えればそうなるのでしょう。そうすると、「2016年は反グローバルの流れだったが、2017年はそれに歯止めをかけた」といった言辞も可能になる。

○でもまあ、変に法則性を見出そうとするとかえって誤るんじゃないかと思います。政治は基本的にローカルなもの。韓国では「10年ごとに保守と革新が交代する」というかの国の法則が生きている。そういうものだ、と受け止めるのがよろしいかと。


<5月10日>(水)

○帰りが遅くなったのでごく簡単に。この本、面白い。なおかつ、読んでいて元気が出てきます。

●寺尾玄 「行こう、どこにもなかった方法で」(新潮社)

http://www.shinchosha.co.jp/book/350941/ 

○おしゃれなデザインのポットも、夢の扇風機も全然知りませんでしてが、「バルミューダ」ブランドの家電を作り出した創業者の半世紀。いかにも今風の経営者なのかもしれませんが、他方では「高度成長期にはこういう人物が雲霞のごとくいたんだろうな」という気もする。

○こちらはサクセスストーリーではないのですが、『社長失格』(板倉雄一郎)を思い出しました。著者のぶっ飛び方が尋常ではない、という点でどこか相通じるものがあります。でも、あれはもう20年前の本なんですね。


<5月12日>(金)

○林芳正参議院議員の「平成デモクラシーセミナー」へ。「日本外交の中期展望」をテーマにパネリストを務め、神保謙慶応大学教授と3人で掛け合い。本日分の溜池通信が、ああいうテーマになったのは実はそういうわけだったのでありまして。

○北朝鮮問題に関する神保先生の見解が深い。当方が「オバマは戦略的忍耐、トランプは戦略的不忍耐」と述べたら、「今回の米軍は、北朝鮮のゾーンディフェンスの前に打つ手がなくなった。トランプは非戦略的不忍耐なのではないか」と。

○日本人はこの問題に対して、「不都合な真実」を直視しなければならない。ひとつ。北朝鮮の金王朝は内発的な崩壊はしない。そして日米韓は、これと全面対決するだけの覚悟がない。ゆえに封じ込めを続けるしかない。ふたつ。北朝鮮は自分たちが核保有国になった、それなりの敬意をもってくれれば、対話にはオープンだという。そんなこと言ったって、核戦力は圧倒的な大差があるのだけれどもねえ。

○例年は懇親会で引き上げるのだが、今年は諸般の事情で恒例の「GIINSライブ」終了までお付き合いする。林芳正氏が自前のバンドをバックに80年代ロックを何曲も演奏していると、途中から小此木八郎氏が割り込んできて絶妙なノドを震わせ、松山政司氏は自作の曲を歌い、でもタレント性がいちばんあるのは浜田靖一氏だったりする。

○政治家のパーティーというものは、普通は資金集めのためにやるものだけれども、ここだけはちょっと違った空間になっている。いわば遊民経済学バージョンといったところか。ああ、面白かった。


<5月13日>(土)

○本日は「上杉隆のザ・リテラシー」に出演。17時から配信開始。「みんなで作る報道番組」というのが売り。

○本日のテーマは「現在のアメリカ」。それってちょっと緩すぎるだろ、もうちょっと絞らんかい、とも思うのだが、ほんの数日で状況が激変するのが「現在のアメリカ」なので、しょうがないのでしょうな。

○番組前半はユーチューブで誰でも見られるのだが、後半はクラウドファンディングに応じてくれた人限定の放映となる。第2期の募集に対しては、478人のパトロンから344万8000円が集まっている。高額出資者に対しては、スタジオ見学などの特典もございます。

○後半は上杉さんといつ会ったか、という昔話から、テレビ業界の内幕についてなど、予定にない話をずいぶん語ってしまいました。上杉さんとはこれで10年くらいのお付き合いになりますが、いつも「よーやるわ」と感心しながら今日に至っております。

○今回はクラウドファンディングに感心しましたな。ネット放送にはこの手がありましたか。この世界はつくづく日進月歩でありますな。『この世界の片隅で』に感動したものとしては、その思いは格別のものがあります。

○番組終了後、お車代として1万円を受領する。かたじけなし。『七人の侍』に出てくる勘兵衛ではないが、「この飯、おろそかには食わぬぞ」の心意気でござりまする。


<5月14日>(日)

○中国が、というより習近平総書記が今年一番の重要イベントと位置付けている「一帯一路フォーラム」。今日と明日、北京で開催されまして、プーチン大統領やドゥテルテ大統領、アウンサン・スーチーさんなど29か国の首脳が訪れている。アジアにおけるインフラ投資に1000億元(1.6兆円)を追加投資する、という宣言もありました。まことに太っ腹。

○このタイミングで北朝鮮がミサイルを発射。2月11日、フロリダで日米首脳がゴルフしている最中に撃ったことを思い出しますな。どうしてこう、変なタイミングで動くんでしょう。これではムンジェイン韓国大統領の「対話路線」は形無しでありますな。思い切り軍事的圧力をかけて、「今日はこの辺にしといてやるわ」というモードになっていたトランプ政権も困ってしまいます。

○この辺の「構ってクン」ぶり、もしくはロジックの壊れたようなところが、トランプ大統領に似ているように思えるのは気のせいでしょうか。あの人も世の中が落ち着きだすと妙なことを始めるわけで、月初に予算が通って「これで夏までは安泰」と皆が思った瞬間に、先週はコーミーFBI長官を更迭したりしてますからね。

○さて、顔に泥を塗られた習近平総書記はこの暴挙に対してどう出るのか。今週も気が抜けませんな。

○とまあ、頭の痛いニュースはあるのですが、阪神は今日も勝って貯金を10にし、レイソルは5連勝で、藤井4段はNHK杯トーナメントで千田6段を相手に初勝利を収めました。稀勢の里が初日黒星だったのは、まあ、あんなものでしょう。ヴィクトリアマイルは・・・ええ、もちろんあんなものですとも。けっして痛くはないのであります。きっと・・・。


<5月15日>(月)

冠婚葬祭総合研究所の会合に出かける。こういうシンクタンクができた、ってのはつくづく面白い世の中になったものだと思う。客員研究員のリストはこちら

○面白かったポイントをメモしておきます。

*先日教わった「ジェロントロジー」と、冠婚葬祭業の発想を組み合わせると、新しいビジネスが生まれそうである。

*団塊世代、特に男性より女性の間で「葬儀は要らない」という考えが強くなっている。これは宗教心が薄れているからか、それとも親戚づきあいが疎遠になったからか。

*宗教と信仰、そして宗教団体の3つは互いにそれほど深い関係はない。特にわが国においては。

*新興宗教は近年急速に衰えているらしい。そういえばPL学園も野球部を廃止したし。

*日本人の場合、遠く離れると親戚づきあいをしなくなるのが古来のパターンであった。ほれ、「遠くの親戚より近くの他人」というではありませんか。

○冠婚葬祭業は経済と文化、伝統、歴史が深く入り混じったジャンルであります。もちろん「遊民経済学」の一ジャンルでもある。掘り下げると豊穣な世界が広がるような気がしております。


<5月16日>(火)

○今朝ほど、「モーサテ」に出演している最中に飛び込んできたのが、「トランプ大統領がISISに関する機密情報をロシアに提供」というニュース。慌てて手元のiPad miniで調べたら、ワシントンポストがヘッドラインで流していて、それも42分前、という湯気が出るようなニュースであった。佐々木キャスターが急きょ時間を作って、割り込みでニュースを流す。当方も一言だけコメントを添える。番組中、ずっと通信社の配信をチェックしているスタッフが居るから、こういうプレーができる。これだから生放送って面白い。

○それにしても、これはさすがにまずいっしょ。大統領がこんな調子では、アメリカと諜報協力はできないと見られても仕方がないだろう。トランプさんには、あなたが日々ブリーフを受けている内容は、世界各地でスパイが命懸けで拾ってきている情報、という意識がなさ過ぎる。おカネの世界で生きてきた人は、得てして「情報の対価は情報で」というインテリジェンスの世界が理解できないのであろうか。

○ワシントンポストに情報を提供したソースは、「政府高官」と書かれている。プロフェッショナルとして、もうこれ以上、大統領の不規則行動に我慢できない、ということなのだろう。今のホワイトハウスは情報だだ漏れモード。こんな学級崩壊状態で、政権はどんな成果を挙げられるのだろうか。

○このところ、いつも当てにしているラスムッセンレポートのデータを見ると、"Strongly Approve"が本日発表分で26%と史上最低を更新している。この数値が2割を割れてくるようなら、いよいよ警戒警報といったところかな。FBI長官の更迭だけならともかく、これはちょっとキツイかもしれません。


<5月17日>(水)

○今日聞いた話で面白かったもの。「なぜアメリカ人は医療保険に反対するのか」

「そりゃね、アンタ、アメリカには3人に1人はやけに太った人が居るでしょ? 一方ではホールフーズで健康食品を買って、毎日身体を鍛えているような健康オタクの人も居る。それが同じ保険料だったら、そりゃあ納得しないでしょ」

○要は「割り勘負けは嫌だ」という議論なんですが、アメリカの場合はあまりにもそれが鮮明なものだから、文句が絶えないというわけ。それに比べれば、日本人は体型だってそんなに違わないし、相互扶助の精神もそこそこあるし、なんだかんだ言ってお上のことを信用している。だから健康自慢、医者いらずの人だって、「あなただっていつ事故に遭うかわからないんだし」と言われれば、ちゃんと保険料は払うようになっている。保険制度が成立するためには、ある程度母は集団が均質であった方がいいという理屈である。

○もっとも皆が保険を無条件で信用しているものだから、赤字がどんどん拡大するという問題もある。わが国の国民皆保険は優れた制度だと思いますが、「なぜほかの国が真似ないのかわからない」などと言ったら、それはちょっと傲慢というものでしょう。

○それはさておいて、オバマケア廃止の議論はどうなったんでしょう。当分はそれどころじゃないみたいですけどね。トランプさんは今週末から中東歴訪の旅へ。サウジ、イスラエル、パレスチナ、バチカンと、嵐を呼ぶ男となるんじゃないかなあ。モサドから得た情報をロシアに流すだなんて、そりゃあヤバいっすよ。


<5月18日>(木)

○唐突ではござりまするが、上海に来ております。今回は2年ぶり。あいかわらずエキサイティングな都市でございます。いろいろ発見があります。


●虹橋空港は新しくなったみたいですが、着陸からほんの15分程度で外に出られます。

●街中に共用自転車が置かれていて、スマホで開錠して皆が使っている。シェアリングエコノミーですな。

●交通渋滞は相変わらずで、夕方は特に混雑します。大気汚染は今日はそれほどひどくないようです。

●毎度のことでGoogleにはつながりませんが、もうじき米中和解の一環として使えるようになる、との噂あり。とりあえずgmailからのメールはちゃんと届きます。


○魯迅記念館に行ってきました。魯迅は浙江省紹興市の出身ですが、晩年を長く上海で過ごしている。大学時代を過ごした南京など、全国に6か所の記念館があるらしい。「愛国教育」の拠点ということもあってか、入場料はタダである。

○魯迅と言えば日本では『藤野先生』で、ワシもそれくらいしか知らない。が、ここで見た感じでは、何よりも変革期を生きたインテリであったのだな、という印象である。たまたま文芸家ということになったが、思想家であり、愛国者であり、反体制派であった。晩年は革命家という位置づけになって、共産党に利用された感もある。

○当時の出版文化は、今のネットのようなものだったのだろう。メディア環境はもちろん、中国語そのものさえ変わりつつあった。多くの人に影響を与えて世の中を変えようと思ったら、文芸がもっとも近道であったのだろう。医者を志していたのに途中で辞めて作家になった、と聞くと「いい加減な奴」に思えるかもしれないが、魯迅を突き動かしたのは一種のベンチャー精神であったのかもしれない。

○上海での魯迅の生活には、内山書店が欠かせなかったようである。当時の情報環境がどんな風であったのか、興味深いところである。ちなみに神田の内山書店は、今も中国関係者が集まる場所である。そのせいか、神保町は中華料理の安くていい店が多いと思う。

○ここの記念公園などはとても広い。引退後の高齢者大勢が集まってきて、のどかに散歩したり、おしゃべりしたりしている。集まってくるのがほとんど男性、という点が日本との違いでありますな。どんな話をしているのでしょうねえ。


<5月19日>(金)

○上海市公共関係研究院で午前中いっぱい対話。お題は一帯一路、自由貿易圏、対米関係、AIIB、TPP、北朝鮮、台湾、そして日中関係。こうしてみると、あまり驚くような話は出てこない。当たり前か。ただしトランプ政権と北朝鮮については、真面目な話になりにくい。そりゃそうだわな。

○終わったら昼食。限りなく宴会に近くなる。「では、軽くちょっとだけ」などと言って、アルコールも入る。確実に太る。しかしまあ、年をとっても飲食する量が変わらない、というのが自分の数少ない取り柄なのかもしれぬ。それにしたって少しは減っていると思うのだが。

○午後は上海ユダヤ難民記念館を訪れる。自由都市・上海には、戦前から戦中にかけてナチスに迫害を受けて逃れてきたユダヤ人2〜3万人が移り住んでいた。「杉原千畝のビザ」を得た人たちも、最後は当地にたどり着いたらしい。彼らを助けた上海の人たちは偉かった。と言われればその通りだが、ちょっと中国共産党的な宣伝臭もある。当時の上海は汪兆銘政権のはずなのだが、誰かしっかり調べてくれないかしらん。

○夜は再び宴会。明日の会議のために集まった主要メンバーの顔合わせ。ブランド物がいっぱい入った贅沢なビルの中にある上海料理の店。お久しぶりの方々と話が弾んで、ビールもいっぱい飲んで、またも食べ過ぎに。まあ、昔のような「乾杯攻撃」がないだけマシというべきか。

○それにしても、最近の上海はタクシーがなかなかつかまらない。スマホで呼び出すこともできるので、電子マネーの普及も含めて、そういう点はよっぽど日本よりも進んでいる。ただし、そうすると空車であっても「既に予約済み」ランプをつけて走るタクシーが増えるので、手を挙げて止めるのがますます難しくなる。高齢者なんかはどうしているんだろう。二日目の上海、まだまだ面白い。


<5月20日>(土)

○今日が本番。上海対外経貿大学での日中シンポジウム。これで4回目になる。今年のテーマは「協力・開放・包容・Win-win」である。第1回は2008年7月(リーマンショック直前)、第2回は2013年9月(上海自由貿易試験区の直前)、第3回は2015年6月(上海株価暴落の直後)と、いずれも記憶に残るタイミングで実施されている。今回は「一帯一路フォーラムが北京で開催された直後」、というタグ付けがなされそうである。

○今日の反グローバル運動をどう乗り越えるのか。ひとつの解は「一帯一路」で、これは北京流。もうひとつの解は「さらなる自由化」で、これは上海流。アメリカがTPPから離脱してしまうような状況は、上海流に旗色が悪いように見える。ちなみに中国では、「TPPは死んだ!はっはっは」といった感じの報道がされているらしく、小生などが「日本はこれからTPP11をやります」てな話をすると、「あれ?そうなの?なんで?」といった反応がある。頼むから今週末のTPP閣僚会議、ちゃんとやってくださいよね。ああ、心配だ。

○中国側からの発表の中に、1977年の「福田ドクトリン」を取り上げたものがあったのに驚いた。その昔、バンコクやジャカルタで反日デモを受けていた日本が、今では東南アジアで高い好感度を誇っている理由は何か。謎解きのカギは福田ドクトリンにあるのだろう、という日本専門家による研究である。ありがたいというか、こそばゆいというか、興味深い発表であった。日本のソフトパワーが注目されている、ということは、裏を返すと中国の対外援助がうまく行っていないからかもしれない。

○そもそも援助とは、簡単には行かないものである。誰かに1万円あげることを考えてみればすぐにわかる話である。納得して収めてもらうだけで、冷や汗をかくはずである。お年玉とかチップとか、お金をあげれば確実に喜んでもらえるという状況は、そうそうあるものではない。まして国家が単位になるときは。

○海外援助を行った結果、その国の発展に役立って、自国の企業も儲かって、資金はちゃんと回収できて、さらに相手国から感謝される、なんてのは欲が深いというものである。援助をやったけれども、そのお金は権力者の懐に入ってしまい、スイスの銀行かどこかに眠ることになり、借款の返済はもちろん焦げ付き、独裁政権を延命させたとして、その国の庶民からはますます嫌われる、なんてのが定番コースである。「一帯一路」計画も、下手をするとその手の失敗談オンパレードとなるかもしれない。

○その点でわが国の対中援助などは、考えてみればどえらい成功と言えるのではないか。対中円借款3兆円は、ちゃんと中国の発展の土台となり、改革・開放路線を後押しし、その後に日本企業の対中進出が盛大に進んだし、返済は滞りなく行われている。この間に円高が進んだので、借りた側からすると返済は余計にかかったはずなのであるが。

○世上、対中ODAの評判が悪い理由は、「感謝されていない」の一点に尽きるだろう。しかし対外援助なんてものは、相手国の感謝を求めてやるものではあるまい。「ほんの少しだけでも、わかっている人が居ればいい」くらいに構えていれば、いいのではないか。もちろん、「日本は中国を援助する必要などなかった。お蔭で日本経済が追い上げられた」というスティーブ・バノン的な議論もあるかもしれない。ただしその発想はいささか「貧すれば鈍する」の類ではないかと思うのである。

○話を戻して、今の中国での日本研究について。昨今は「国別の研究」が流行らないらしく、しかも日本の地位も相対的に落ちているので、世代交代が進むにつれて、「日本経済の専門家」はどんどん減っているらしい。そしてもちろん日中関係の悪化がそれに拍車をかけている。もっとも日本は成功例も失敗例も豊富な国であるし、今後の少子・高齢化や低成長化など、中国の先行事例として有益な材料を数多く有している。だからやっぱり日本研究はやった方がいいよ、とこちらからは語りかけたくなるところである。

○テーマを経済に限っていることもあってか、上海対外経貿大学でのシンポジウムは、日中間にしては信じられないほど互いに率直で、建設的な議論が丸一日続く。肝入り役の陳子雷教授のご努力に負うところまことに大である。願わくば、同大学の日本経済研究センターがますますの発展を遂げられますことを。


<5月21日>(日)

○上海から帰って来て見たら、阪神タイガースが3連敗しておる。今宵はヤクルト相手に接戦。ワシが居ない間に、なんということじゃ。

○そうかと思うと柏レイソルは、6連勝して2位浮上である。どちらもむらっ気が多いのでファンとしては疲れるものがある。

○トランプ大統領は中東歴訪の外遊に出かけている。ワシントンを留守にしている間に、いろんな画策が生じそうである。この辺の話も慌ててフォローしなければならぬ。

○ともあれ、上海に3泊4日行っていたところ、「帰ってみれば、こは如何に」がいっぱい揃っている。さて、明日から平常モードに移行できるかどうか。


<5月22日>(月)

○昨日行われたTPP閣僚会合、特段の情報源があるわけじゃないですが、新聞報道などを見る限り、上首尾とは言えなかったようですね。「TPP11」が実現するためには、もっと前向きのメッセージがほしいところです。まあ、担当者が石原伸晃さんじゃ、いかにも迫力が足りんわなあ。

○上海での会議で、中国側からこんな質問をいただきました。「日本はもともとアメリカに強制されてTPP交渉に入ったはずなのに、なぜTPP11にこだわっているの?」。以下の3点を挙げて答えました。

(1)交渉過程で国民の理解が進んで、これはそう悪いものではないという認識に落ち着いた。

(2)あれだけ苦労したものを、なかったことにするのはもったいない、残念過ぎる、悔しい(たぶんこれはほかの10ヶ国も同じ)。

(3)普通に国益を考えたら、アメリカはTPPに戻ってくるのが合理的である。

○NAFTAの再交渉において、カナダとメキシコに対して出ている案が、ほとんどTPPの内容と変わらないのだそうです。そりゃあ、そうでしょう。アメリカの産業界から最新情勢を聴取して、TPPの要望リストを作ったわけですから。だったら何もNAFTAの再交渉にこだわる必要はなくて、TPPにサインすればいいだけの話。ホントにトランプ政権は、頭がクラクラするほど変なことをやっている。

○他にも似たような話はいっぱいあるはず。何とかトランプさんのメンツを立てて、軌道修正はできませんかねえ。時間はかかるかもしれませんが。


<5月24日>(水)

○間もなくG7サミットである。「今年のサミットはどうなるのか?」と聞かれてつくったメモが下記の通り。

G7サミット
イタリアシチリア島タオルミーナ
2017/5/26‐27

<総論>

*1975年(仏ランブイエ)以来毎回開催。ただし国際法上の位置づけは何もなし

*サミット七夕論(とにかく会うことが大事)、駅伝論(つなぐことが大事)

*G20が2008年に発足したことで、世界経済の面倒を見る場という位置づけは薄れる

*ロシアが抜けた2014以降は、「西側先進国の結束を確認する場」に戻る

*「共通の価値観」と言うものの、近年はAIIBやBrexitをめぐって分裂も

<今年の特色>

*トランプ大統領が初登場。中東歴訪、NATO首脳会談出席後にG7に臨む

*「普遍的価値」や「自由貿易」で結束できるのか、が焦点

*とはいうものの、Peer Pressure(同調圧力)がかかる場。

*7人中4人が初参加。メルケル12回、安倍6回の2人だけが突出。こういうこともめずらしい。

*直前に英マンチェスターで自爆テロ。サイバー攻撃も

<ワンポイント>

*安倍首相(日):TPP11についてどうコメントするか

*トランプ大統領(米):意外とバイに強くマルチに弱いトランプ?

*メイ首相(英):6/8に総選挙控え、Brexitの正当性を訴えたい

*メルケル首相(独):7月にG20議長を控え、対米衝突は避けたい

*マクロン大統領(仏):6月に議会選挙控え、スタンドプレーの誘惑も

*ジェンティローニ首相(伊):静かな調停役。トランプに勝てるか?

*トルドー首相(加):世界一のイケメン指導者

○で、終わってみたらどうなるかはサッパリわからず。「あのトランプ大統領がまたしても」になるか、「あのトランプ大統領も意外におとなしく」になるか。四分六で後者の確率が高いと見ますが、果たしてどうなりますか。サミット終了は日曜日となりますので、ワシ的には日本ダービーの方がよっぽど気にかかります。


<5月26日>(金)

○この3日間に行った3つの講演会に関するメモ。

○5月24日、日商岩井社友会。会社のOBの方々を前にお話しする。目の前に座っている方々は、かつてご指導をいただいたり、ご一緒に仕事をしたり、遊んでいただいたり、ときにはお叱りいただいた諸先輩である。ああ、恥ずかしい。穴があったら入りたい。「トランプ政権の話をしろ」などと言われていたのだが、むしろ事前に予想した通り、「ジェロントロジー」の話の方が受ける。

○会社員を辞めた後に、自分の個人会社をつくるかどうか、迷った人は少なくないものと拝察する。とはいえ、会社をつくるのは結構、面倒でコストがかかるものらしい。そこで老後に、「自営業者とワンマンオフィスの中間みたいな形態を作って、年間200万円までの収入は非課税にする」という制度ができたら、喜ぶ人は多いのではないかなあ、成長戦略にもなるし、などという話をしたら、そこはさすがに元商社マンたちである。「会社を畳むのはそんなに難しくはないんだよ」などといろいろアドバイスをいただく。ホントに面白い人たちなのである。

○5月25日、和歌山県JA。ここもトランプ政権と日本経済の話をしてくれと言われて参上する。JAはもちろん今でもTPPには反対だが、トランプ政権のお蔭で何とも格好のつかない状態になっている。他方、農協改革は待ったなしであり、でもTPPという締め切りはなくなっている。何とも中途半端な状態なのではないだろうか。

○和歌山への往路は新幹線で、復路は関空からANA便を選択した。ただし夕方の便まで、空港で2時間も待つことになってしまった。はて、便利のような不便のような。それでもKIXこと関空は相変わらず外国人観光役でにぎわっている。ホントに二期工事をやっといてよかったですねえ。

○5月26日、大阪の中央電気倶楽部。ここに呼ばれるのは3回目。勝手知ったる場所ともいえるが、こうやってリピートオーダーをいただけるのはありがたし。行きと帰りの新幹線車中で、せっせと溜池通信を書くも完成せず。今宵の飲み会を断念し、2次会から乱入することと相成る。

○大阪では、タクシーの運転手さんに「今年の阪神タイガース、強いですねえ」という話題を振ってみるも、2回とも不発。最初の運転手さんは野球に興味がなく、「大阪はいまいち元気ないです」とつれない返事。次の運転手さんは実は巨人ファン、長嶋茂雄ファンであった。まあ、そういうのもいいんですけどねえ。「俺は長嶋が嫌いだ」なんて人には会ったことがありません。

○ちなみに中央電気倶楽部の某阪神ファン氏によれば、「6月になって交流戦が始まると、タイガースはどうせまた負けが込むので、巨人軍は『本当の敵は広島だ』と言っているらしい」とのこと。いやあ、納得ですなあ、ご同輩。二遊間があんなに脆弱なチームが、優勝するはずがないじゃないかとワシでも思います。でも、前回の優勝から既に12年。そろそろ来ても不思議はないのではありませぬか。


<5月27日>(土)

○今宵はBS-TBSの『Biz Street』に出演。カバーストーリーは「G7サミット」と「ビットコイン」の2本立てで、これに東芝半導体の行方なども加わるのですが、スタジオ内で一番盛り上がっていたのは「カール・ショック」でした。明治が8月生産分を最後に、東日本での販売終了。関西以西の限定販売になり、カレー味は全面生産中止に、というニュースである。

○今日の午前中、柏市内のスーパーで確認しましたが、「それにつけてもおやつはカール」は確かに売り切れていました。本日の番組では、リハーサル中にスタッフが赤坂中のお店を(それこそ吉池からドンキまで)駆け回って現物を探し求めたけれども、見つからなかったそうです。余計な話ながら、TBS放送センター12階にあるセブンイレブンは、港区でいちばん売り上げが高い店舗なのだそうです。確かに弁当だけでもすごいでしょうな。

○古谷アナが言うには、「カレー味のカール、食べたことない!北海道じゃ売っていなかった」とのこと。なんとか8月までに現物が見つかるといいですけど。大阪出身の播摩キャスターによれば、「関西ではうす味が基本」とのこと。富山出身のワシはチーズ味がデフォルトだと思っていた。日本列島、意外と地方差は大きいです。

○当家内の意見では、「カールは『うまい棒』の前に敗退したのではないか」とのこと。「うまい棒」は素材的にはカールと似たお菓子だが、@1本10円と極めて安く、Aしかも種類は豊富であり、B子どもが参加する夏祭りや運動会で配られる定番のお菓子であり、C袋に入っているから食べるときに手が汚れず、Dしかも量が適正規模である、といった利点がある。

○お菓子の大手企業、明治の定番商品「カール」は、墨田区の駄菓子メーカー「やおきん」の前に敗れ去った、と考えるとこれはこれで新しい夢のあるストーリーが描けるのではないか。会社概要を見ると、年商158億円、従業員69人とある。取引銀行に三菱東京UFJとみずほ銀行と並んで、「北陸銀行浅草支店」が入っているのはどういう理屈なのか。

○真面目な話、「うまい棒」は赤城乳業の「ガリガリ君」と並んで、子どもたちに非常に愛されている商品ではないかと思う。キャラクターデザインは、いかにも手抜きなんだけどねえ。


<5月28日>(日)

○G7タオルミーナ・サミットについて、リンクを貼っておきましょう。まず外務省から。首脳宣言の骨子を見ると、以下の2点がキモだという気がします。

<貿易> 自由で,公正で,互恵的な貿易・投資は,相互的な利益を創出しがら、成長と雇用創出の主要な原動力であると認識。不公正な貿易慣行に断固たる立場を取りつつ,開かれた市場を維持するともに保護主義と闘うという我々のコミットメントを再確認。

<気候変動・エネルギー> 米国は気候変動及びパリ協定に関する政策の見直しプロセスのため,コンセンサスに参加する立場ない。米のプロセスを理解し,他の首脳は,伊勢志摩サミットにおいて表明されたとおり,パリ協定を迅速に協定を迅速に実施するとの強固な コミットメントを再確認。

○前者においては、アメリカの要望を入れて「不公正な貿易慣行に断固たる立場をとりつつ」という文言を入れて、その代わりに「保護主義と闘う」という言葉が入った。この辺の文言の調整では、シェルパたちが相当に苦労したことでしょう。まあ、その辺は想定の範囲内というものであります。

○後者については、トランプさんが「うんにゃ、ウチはまだパリ協定から抜けるかどうか決めてない」と言い張って、非協力的なところを見せた。ちなみにツイッターでは、"I will make my final decision on the Paris Accord next week !"と言っている。今週中に決めるんですね。この件に関して、愛するイヴァンカは「パパ、そんなことしちゃダメ!」と言っているらしいし、バノン首席戦略官は「選挙公約を守るべきだ」と言うだろう。下手をするとバノンがホワイトハウスを去ることになるかもしれない。なかなか大変ですよ。

○そうかと思うと、こういうくだりもある。

<外交政策> ウクライナ危機の持続可能な解決は全て危機の当事者によるミンスク合意の下のコミットメントの完全な実施 によってのみ達成可能。ノルマンディーグループの努力を支持。紛争についてのロシアの責任と平和・安定の回復のための役割を強調。クリミア半島の違法な併合に対する非難を改めて表明。ロシアとの相違にかわらず,地域的な危機及び共通課題対処するため,我々の利益にな場合はロシアと関与していく用意。

○さすがのトランプ大統領も、「ロシアの言い分にも一理ある」とは言えなかった様子。ロシアゲート事件でクシュナーが浮上する状況とあってはやむを得ないでしょう。おそらく先日のNATO首脳会議や今回のG7サミットでは、トランプさんの発言はことごとく国内向け、それもトランプさんのコアな支持者向けのメッセージだと考えるべきなのではないか。

○こんな風に1対6になってしまうと、だんだん言いたいことも言えなくなってしまう。これがサミットのもたらす「同調圧力」(Peer Pressure)というもので、これがあるからサミットには意義があるともいえる。溜池通信風に言うと、「サミット駅伝論」というやつです。

○「西側先進国の価値観を訴える場」としてのG7サミットは、いろいろガタがきていることは間違いありません。2015年のAIIBだってそうでしたし、今はBrexitで欧州が割れている。でも、長い伝統があるから何とか様になる。G7にはいかなる国際法上の根拠もない。単なる町内会の旦那衆みたいなものです。それがどうにかこうにか力を持ち続けてきたのは、長い伝統の威力と言ってもいいんじゃないでしょうか。


<5月29日>(月)

○今朝の「モーサテ」。秋元アナがこんなニュースを読んでおったのです。


北朝鮮の朝鮮中央テレビはきのう金正恩・朝鮮労働党委員長の立ち会いのもと、新型の対空迎撃ミサイルの発射実験に成功したとする映像を伝えました。発射の具体的な日時は不明です。


○でまあ、番組中にひそひそ声で、「これってCG画像じゃないのかなあ」なんてことを言っておったのです。

○そしたらですな、ちょうど午前6時ごろになって、「ミサイル撃ちました!」という声が飛び交うではないですか。番組中のテロップも流れてしまう。そうしたら、キャスターがニュースを読まなければならなくなる。コメンテーターもとっさに何か気の効いたことを言わなければならなくなる。いやもう、生放送というのはたいへんなのです。

○キムジョンウン氏としても、G7サミットで言われ放題であったから、ここはひとつ反撃を示さなければ、という想いがあったのかもしれませぬ。とはいえ、迷惑な話であります。今日のミサイルはEEZ内に落ちたそうですが、200カイリというのは370キロだそうですから、そんなに近いわけじゃないのであります。しかも今回のミサイルは竹島近辺に落ちたのだとか。ひょっとすると日本が「わが国のEEZだ!」と騒げば、韓国がそれに反発して日韓関係が険悪になる、なんてことを狙ったのかもしれません。

○そんな風に突然のニュースが割り込んでくると、番組後半は時間が足りなくなります。「どうしましょ。これ、止めちゃいましょうか」「え、どれ読めばいいんですか?」「NYのしめ、カットしまーす」みたいな混乱が生じます。NYの森田さん、お気の毒にニュースの予定が1個飛びました。その辺の事情は「今日のおまけ」をご参照。

○本日の「プロの眼マンデー」では、「トランプ内政優先でG7結束に溝」というありがちなお題だったのですが、「アメリカがパリ協定から脱退するとしたらどういう手法があるか」という点まで踏み込んでお話ししました。この流れだったら、きっと抜けると思いますぞ。

○今日の経済視点は「外交から内政へ」としました。外交ウィークが終わったら、安倍さんは共謀罪に加計学園、トランプさんはロシアゲートにコミー長官議会証言と、どちらも内政上の課題が待ち構えております。しかしまたまた北朝鮮がタイミングよく撃ってくれたものだから、またまた安倍さんは助かっちゃいますねえ。よっぽど北朝鮮に好かれているとしか思えません。


<5月30日>(火)

○火曜日、日本記者クラブ賞の受賞記念講演会へ。いつもご指導いただいている松尾文夫さんの受賞講演を聞きに行ったのだが、考えてみたら松尾さんの話は普段からよく聴いているので、「歴史の和解」という話を聞いている途中で爆睡してしまった。われながら恩知らずもいいところである。いえね、前日が朝早くて、夜も遅かったし、当日昼も食べ過ぎたものですから。

○ところがよくしたもので、ほかの2人の特別賞がやけに面白かった。ひとつは富山チューリップテレビによる「政務活動費取材チーム」による講演。昨年、有名になった富山市議会議員による政務活動費のごまかしが、いかに暴かれたかという調査報道の記録である。ここに登場する富山市議会議員はまことに情けない存在で、少額の公費を誤魔化すために初歩的な手口を使い、バレるとすぐに平謝りになる。その小心、まさに笑うべし。

○まあ、それだけ巨悪ではないわけなのですが。地方議会の悪を暴いているローカル局の側も、「いや、思い切ってやってみたのですが、まさかこんなことになるとは・・・」などと、正義の味方を任じていないところが好感度大である。叩く側も叩かれる側も、見事に富山県的であった。随所に出てくる富山弁も、ワシ的にはもちろん馬鹿受けである。

○このところ政治家を叩くはずが、マスメディアの方が叩かれてしまうという事例が珍しくはない。それは当たり前の話であって、ネット社会の普及とともにマスメディアの地位は大暴落している。ところが当人たちはそのことに気づいていなかったり、いまだに昔の気分が抜け切れない「何様モード」であったりする。真実に肉薄するときは、是非、チューリップテレビの謙虚さに学んでいただきたい。

○もう一人が森重昭氏であった。と言っても分からなければ、昨年のオバマ大統領の広島訪問の際に、記念式典でハグされた歴史研究家である。何の義理もなかったのに、サラリーマン生活の傍ら、広島原爆投下で被爆した連合軍兵士が12人であることを突き止めた。日本にはときどきこういう人が出る。

○コツコツとした作業のモチベーションは、「原爆投下の瞬間に、学校の仲間は皆は死んだけれども、たまたま自分はそこに居合わせずに生き延びた」という罪悪感からであったらしい。人はしばしば20歳までの経験に生涯を支配される。若いときに痛切な体験をしたものは幸いなるかな。


<5月31日>(水)

一橋大学Kodaira祭のパンフレットが届く。今年は6月10日と11日なのだそうだ。と言っても、わざわざ遠い国立市まで出かける予定はない。それにワシは、11日は町内会のドブさらいに参加せねばならぬ。たまたまOBとして1万円の寄付をしているので、自動的に送られてくるだけである。

○パラパラと見ていたら、講演会で呼ぶ講師が百田尚樹(作家)と渡部陽一(戦場カメラマン)だそうである。うーん、なんじゃこりゃ。アタマ悪そうな大学じゃのう。でもまあ、学園祭なんてものは、所詮は学生が好き勝手な冒険をして、代わりに何がしかの経験を得る場なのであるから、コンテンツに対してOBがとやかく言うべきではあるまい。ワシらの頃は誰を呼んだのだっけ、はてさて全く記憶にはない。

○かつて一橋大学の教養課程があった小平分校は、とっくの昔になくなっている。ワシはそこで2年間、小平祭の実行委員を務めていた。あの当時も、OBのところに寄付金をもらいに行ったものである。ワシの担当はトーメン(現:豊田通商)のOBで、電車賃をかけて訪ねて行ったら、財布の中から5000円を出して黙って渡してくれた。ありがたいことであった。今にして思えば、あのオフィスは新しくなる前の飯野ビルであった。現在は双日が入っている。

○最近の議論では、「カネを出すからには口も出すべし」というのが正しいガバナンスのあり方だとされている。でも、ワシ的には「カネは出すけど、口は出さない」タニマチモードの方が気が楽である。それに学生時代には、「カネは出さないけど、口は出す」先輩が多くて、閉口した記憶もあるもので。

→後記:百田氏の講演会はその後、中止になったそうです。はて、それで良かったのか、悪かったのか)






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by Tatsuhiko Yoshizaki