●かんべえの不規則発言



2017年5月








<5月1日>(月)

○本日、こんな本が出版されました。



トランプは市場に何をもたらすか!?

如何に動くか世界経済! 日本経済の浮上はどうなる!

著者 竹中平蔵
著者 宮家邦彦
著者 吉崎達彦

定価 1,512円(本体1,400円+税)
発売日:2017年04月28日

電子版あり



目まぐるしい変化を続ける世界情勢。トランプに勝利をもたらしたムーブメントは、EUをはじめとする世界情勢に影響を及ぼす。激動の中で市場は、通貨は、どのように動くか。第一線の専門家3人による圧倒的な分析が、その答えを導き出す! 外為どっとコム主催の大人気セミナーに、新規取材を加え書籍化。


○「トランプ本には碌なものがない」と普段から口走っていたにもかかわらず、自分でも出すのかよ、しかも今頃になって・・・・。ああ、そんな言葉が胸に突き刺さる。きっと気のせいではないはずだ。

○正直に申し上げますが、この本の中で不肖かんべえが語っていることは、いつも当溜池通信をご覧いただいている方には「また言ってらあ」といったことばかりでございます。この辺は書籍の限界というものがございます。とはいえ、平蔵親分やミヤケ兄いが言ってることには、いろいろ新鮮味もあろうかと存じます。また、3人の掛け合い(というより、平蔵親分が2人に無茶振りをしている)も、なかなかに楽しめるのではないかと思います。

○てなことで、たいへん低姿勢ではありまするが、出版の告知でございました。出版社はこれが初めてのKADOKAWAさん。重版出来、と行きたいですね。


<5月2日>(火)

○今宵はAbemaTVの名人戦第3局を見ておりましたが、いやあ、面白かった。夕方からちょくちょく見始めて、20:50PMに佐藤天彦名人が投了。これで挑戦者、稲葉八段が2勝、佐藤名人が1勝。熱戦でありました。

○将棋はつくづくネットとの親和性が高いゲームだと思います。思ったよりも「絵」になる。少なくとも囲碁よりは。駒の動き、対局者の息遣い、棋譜読み上げ、感想戦までがとってもリアルなのである。タイトル戦は和服で登場、というのも良い。終盤戦になって持ち時間が短くなると、差し手も早いし、いつ逆転があるかわからないので、ついついマラソン中継のように目を離せなくなってしまう。これで大盤解説が上手だったら、鉄板のコンテンツというものです。

○これが地上波だと、今までは長時間の中継が難しかったのだけれども、ネットTVは流しっぱなしにしておけばいいのです。今頃、2ちゃんねる将棋・チェス板あたりではあーでもない、こーでもないという岡目八目が散々飛び交ったことでしょう。「ながら視聴」ができるというのも、将棋の良い点かもしれません。

○逆に将棋界が明るくない点は、新聞棋戦に収入を依存していることでしょう。なにしろ新聞は構造不況業種である。AIの進化によって最も早く打撃を受けた将棋業界は、いろんな意味で課題先進ゲームでありますな。一方で「中学生プロ棋士」の藤井聡太4段が登場したことも、話題作りということでめでたい現象だと思います。1990年代の羽生現象の再来となりますかどうか。

○「三浦事件」で傷ついた将棋界ですが、佐藤康光新会長(紫綬褒章!)の下でいい風が吹いてくれればなと思います。


(追記:日本将棋連盟推薦の「将棋デショコラ」なる商品を頂戴しました。チョコで実物大の将棋の駒を作ったものですが、なかなかに美味でした。これに入っている「将棋」の解説文がスグレモノだったので、下記にメモしておきます。なるほど、そういうわけだったのですな)


●将棋は日本の伝統的な頭脳競技です。常に私たち日本人の身近なところに存在し、世代を超えて親しまれてきました。現在でも、プロ棋士による公式タイトル戦はすべて和室で行われ、正座・着物・駒の並べ方といった対局所作など、日本古来の「和の心」を随所に感じることができます。日本将棋連盟では、この素晴らしい日本文化を後世に伝えていくべく、将棋のユネスコ無形文化遺産登録を目指しています。

●将棋の特徴 将棋の原型は1000年以上前に日本へ伝来したと考えられています。その後、さまざまな工夫や改良が加えられ、約500年前に現在の形となりました。日本の将棋は、世界中に存在する将棋に類するゲームと比較しても極めて特徴的なものとなっています。たとえば、駒は平たい形状をした五角形で、敵味方の色分けもされていません。駒の名前も宝物に由来します。また、持ち駒再使用のルールは、世界的にも類を見ないルールです。これが、盤上にある相手の駒を排除して王を捕らえるのではなく、盤上にある駒を交換しながら最後に玉(最高の宝石)を得た方が勝ちというゲーム性を生み、ゲームをより複雑なものにしています。


<5月4日>(木)

○千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館へ。収蔵品も素晴らしいのだが、この時期に訪れると庭園のつつじがとてもきれいである。2年前にも来ているが、5月の連休に訪れるには好適な場所だと思う。

○これも連休中に訪れた国立新美術館の「草間弥生、わが永遠の魂」展もそうだったが、カメラを持って訪れている人が多い。最近は美術館でも、「ここまでは撮影オッケー」な場所が増えているようで、実際問題としてこれだけスマホが普及したら、撮るなと言ってもどうにも止められないのかもしれない。3月に訪れたNYのMOMAでは、シャガールでもポラックでも「撮り放題」のようであった。

○とはいえ、ホントに記録が欲しいのであれば図録を買って帰ればいいわけで、美術館で写真を撮るのはいかがなものか、とワシは思う。だいたいホントに美しいと感じるものは、美術品でも自然の景色でも、写真に撮って残せるものではない。少なくとも自分の腕前では。

○もっとも世の中には、一眼レフのカメラを買ってしまったがために、いろんな場所に出かけていく人もいるのであろう。あれって重いから、仕事以外では持ちたくないものなんですけれどもね。ワシ的には、美しいものを見た後はとっとと忘れる。これはこれでゼイタクというものではないかと思うわけでして。


<5月6日>(土)

○連休中に書いた原稿のご紹介。

●東洋経済オンライン「市場深読み劇場」 http://toyokeizai.net/articles/-/170628 

○今週の内外情勢であれば、来週のフランス&韓国大統領選挙や、北朝鮮情勢を取り上げるのが本筋なんだろうけれども、三遊亭圓歌師匠が亡くなられたもので、こういうネタになってしまいました。

○浅草演芸ホールに入ってみたところ、昨年同様に林家木久扇、木久蔵の親子に、林家正蔵と三平の兄弟が出るという豪華メンバーでした。昼の部主任の木久扇がトリを務める頃には、お立見で一杯になっておりましたな。「笑点」に出てくる木久扇師匠は「お馬鹿キャラ」ですが、噺を聞いてみるとお馬鹿ではありません。ちゃんと固有名詞や年号も正しく出てきます。でも、幕が下りた後で「木久扇ラーメン」を売ろうとするあたり、TV通りでありました。

○それから今頃なんですが、映画『この世界の片隅で』を見てまいりました。つい先日、原作を読んで大感激してしまったので、あいにく映画の印象はいま一つでした。白木りんのエピソードをごそっと落としてしまったのはまことに残念。まあ、文科省御用達の映画にしようとなると、あそこは使えないんでしょうけどねえ。それで一気に物語が薄くなってしまった感が否めない。こういうのもゼイタクな感想なんでしょうか。

○今日、明日であと1本書かなきゃいけないんだけど、さて、何を取り上げよう。まだ余裕をかましているところです。


<5月7日>(日)

○最近、たびたび競馬場で見かけるのがまったくの素人のお客である。マークシートの塗り方がわからなかったり、「どれが当たりなの?」とマジで聞いていたりする。今年のJRAは、若手俳優を大勢使った"Hot Holidays"というCMを流しているので、その効果があるのかもしれぬ。ちなみに今年のCMに出ているのは、松坂桃李、高畑充希、土屋太鳳、柳楽優弥の4人。ワシは黒田長政をやっていた桃李君しか知らんのう。

○CMの中の若者たちは競馬のことがまるっきりわかっておらず、それこそパドックを見て「ゴールはどこですか?」とマジで聞いたりする。でも楽しそうに競馬場で休日を過ごしている。近年、JRAは4年連続で売り上げを伸ばしているけれども、競馬場への来客数は落ち込んでいるので、CMの狙いはなるべく「競馬を知らない若い人たちを呼び込む」ことにあるのだろう。今はネットで馬券を買う人が増えたからねえ。

○真面目な話、競馬場というのは明るいばかりの場所ではないし、競馬新聞を読んで予想する、というのは基本的に暗い行為である。だから「テレビCMであんまり誤解を振りまいてもなあ」という懸念はある。それでも昨年までやっていたCMシリーズに比べるとはるかにマシで、昨年は有村架純、瑛太、笑福亭鶴瓶の3人であった。どう考えても、ギャンブルをやりそうにない顔ぶれである。ゆえに去年、一昨年と、「いきものがかり」の明るいCM曲が流れると同時に、ワシ的には渋い顔を繰り返しておったわけである。

○毎週のようにJRAに貢いでいる立場からすると、「俺たちのカネで作ってるんだから、もっとギャンブラーの側に立て」などと小言を言いたくなるところである。新しいファンをつくろうという試みはJRAとしては当然だが、古いファンの気持ちも大事でありますぞ。

○歴代のCMで言うと、「CLUB KEIBA」というシリーズが良かったな。2008年からやっていたシリーズで、佐藤浩市、大泉洋、蒼井優、小池徹平といったところが出ていた。社内の競馬好きが集まって競馬場に通う、という設定で、競馬になるとついつい社内秩序が崩壊し、上司にタメ口をきいたりする。競馬というのは他の趣味と同様、身近に師匠が居てこそ面白くなるものである。最近は何でもネットが師匠という世の中になってしまい、その辺がなんとも味気ない。ひょっとすると、上海馬券王先生やオバゼキ先生が誰かさんのネット師匠になっていたりして。

○歴代のJRAのCMの中で、いちばん印象に残っているのはキムタクが出てくるやつ。98年から99年に流れたもので、なにしろJRAの史上最高売り上げが1997年なので、いちばんカネがかかっているのであろう。派手で、無茶苦茶で意味なしでバブルっぽくて、いやはやCMとはこんな風であってほしいという好例であった。今だと受けないのかもね。

○逆に言えば、競馬の売り上げが落ち込んだボトムの2011年頃にやっていたCM(20th Century Boys)は、カネもちっともかかっていないが、古い競馬ファンを奮い立たせるものがあった。新しいファンを引き付けるのも大事だが、ときどきこういうのもやってほしいわな。

○ところでこの連休中、阪神タイガースが強い。とうとう首位になってしまった。今日なんて能見さんが投げるから負ける番だろう、と思ってみていたら広島相手にとっても強い。昨日なんて9点差をひっくり返している。内野守備などはお世辞にも立派じゃなくて、粗雑な野球をしながら勝っている、というのがいかにもタイガースである。


<5月8日>(月)

○ロシアの大統領において、「ツルツルとフサフサ」が交互に来るという法則は比較的よく知られている。今のプーチンさんは最先端技術の粋を凝らして、なんとか髪の毛を維持しているようだが、歴代のパターンから行くと「ツルツル」の側に属する。仮に次がメドベージェフの再登板であれば、やはり次は「フサフサ」であったということになるだろう。

○これに比べると、「フランスの大統領はキツネとタヌキが交互に来る」の法則はあまり知られていない。って、ワシがいま作ったものなので、それは当たり前のことである。タヌキ顔のシラク、キツネ顔のサルコジ、タヌキ顔のオランドと続いたので、次はやっぱりキツネ顔のマクロンでありました。ルペンはタヌキ顔ですからなあ。それにしてもご両人、思ったよりも大差がついたものです。

○ちなみにそれ以前の歴代大統領は、フランソワ・ミッテラン(88-95)、ジスカール・デスタン(74-81)、ジョルジュ・ポンピドゥー(69-74)、シャルル・ド・ゴール(59-69)と、「これぞフランス大統領顔」みたいな偉丈夫タイプが続いておりました。彼らのことをキツネとかタヌキなどと呼んだら怒られることでしょう。

○それはさておいて、新しいキツネ顔大統領、エマニュエル・マクロンの賞味期限はどれくらいあるのでしょう。昨今の先進国は、どこでも有権者が「ないものねだり」モードになっているので、このあと1か月でマクロン人気が急速に萎んでしまい、来月の議会選挙では大敗して少数与党で政権発足・・・・なんて筋書きは勘弁してほしいと思います。政治の世界で素人が受ける、ってのは考えてみたら怖いことですぞ。

○大統領制のいい点は、ちゃんと任期が決まっていること。悪い点も、任期が決まっていることでありましょう。マクロン大統領がダメだったら、次はやっぱりタヌキ顔大統領の番ということで、5年後には「今度こそ・・・」のルペンが待ち構えている、かもしれない。ともあれ、この選挙を機にフランスが雄々しく再生する、なんてことだけはないでしょうね。なにしろキツネとタヌキの馬鹿仕合いですから。

○おおい、誰かワシに座布団を1枚持ってきてくれんか?


<5月9日>(火)

○フランス大統領選挙は順当にエマニュエル・マクロン候補となりまして、中1日開けて行われた韓国大統領選挙はどうやらムンジェイン候補のようです。とりあえずこんな風に事前の世論調査が当たり、2位にある程度の差をつけての当選が決まることは、政治の安定から言って望ましいことなのでしょう。

○こういうときの日本国民は、「まあ、民主的な手続きで選ばれたものだから」ということで、他国の選挙結果に対してあまり非難がましいことを言いません。「北に対する宥和政策の持ち主が評価されるのはケシカラン」みたな怒り方をしませんよね。これはある種の美風だと思います。「トランプ大統領だって、「まあ、しょうがないっしょ」というのが大勢なのであります。むしろ「反日的な候補が来ちゃって、困りますねえ」という受け止め方になる。

○これは「ウチとソト」を分けて考える日本式思考法なんでしょう。それは日本国内の政治が、きちんと他国に説明できないことが多い、という事情にもよる。同じことは韓国政治にも言える。「いやもう、ウチは特別ですから」みたいな説明を、韓国の人から今までに何度聞いたことか。

○これが欧米間だと、「トランプみたいな大統領を選ぶアメリカ人は間違っている」とか、「ちゃんと反グローバル候補を退けたフランス人は偉い」みたいな反応が起きがちである。民主主義は万国共通、西側は共通の理念を持つ、と考えればそうなるのでしょう。そうすると、「2016年は反グローバルの流れだったが、2017年はそれに歯止めをかけた」といった言辞も可能になる。

○でもまあ、変に法則性を見出そうとするとかえって誤るんじゃないかと思います。政治は基本的にローカルなもの。韓国では「10年ごとに保守と革新が交代する」というかの国の法則が生きている。そういうものだ、と受け止めるのがよろしいかと。


<5月10日>(水)

○帰りが遅くなったのでごく簡単に。この本、面白い。なおかつ、読んでいて元気が出てきます。

●寺尾玄 「行こう、どこにもなかった方法で」(新潮社)

http://www.shinchosha.co.jp/book/350941/ 

○おしゃれなデザインのポットも、夢の扇風機も全然知りませんでしてが、「バルミューダ」ブランドの家電を作り出した創業者の半世紀。いかにも今風の経営者なのかもしれませんが、他方では「高度成長期にはこういう人物が雲霞のごとくいたんだろうな」という気もする。

○こちらはサクセスストーリーではないのですが、『社長失格』(板倉雄一郎)を思い出しました。著者のぶっ飛び方が尋常ではない、という点でどこか相通じるものがあります。でも、あれはもう20年前の本なんですね。


<5月12日>(金)

○林芳正参議院議員の「平成デモクラシーセミナー」へ。「日本外交の中期展望」をテーマにパネリストを務め、神保謙慶応大学教授と3人で掛け合い。本日分の溜池通信が、ああいうテーマになったのは実はそういうわけだったのでありまして。

○北朝鮮問題に関する神保先生の見解が深い。当方が「オバマは戦略的忍耐、トランプは戦略的不忍耐」と述べたら、「今回の米軍は、北朝鮮のゾーンディフェンスの前に打つ手がなくなった。トランプは非戦略的不忍耐なのではないか」と。

○日本人はこの問題に対して、「不都合な真実」を直視しなければならない。ひとつ。北朝鮮の金王朝は内発的な崩壊はしない。そして日米韓は、これと全面対決するだけの覚悟がない。ゆえに封じ込めを続けるしかない。ふたつ。北朝鮮は自分たちが核保有国になった、それなりの敬意をもってくれれば、対話にはオープンだという。そんなこと言ったって、核戦力は圧倒的な大差があるのだけれどもねえ。

○例年は懇親会で引き上げるのだが、今年は諸般の事情で恒例の「GIINSライブ」終了までお付き合いする。林芳正氏が自前のバンドをバックに80年代ロックを何曲も演奏していると、途中から小此木八郎氏が割り込んできて絶妙なノドを震わせ、松山政司氏は自作の曲を歌い、でもタレント性がいちばんあるのは浜田靖一氏だったりする。

○政治家のパーティーというものは、普通は資金集めのためにやるものだけれども、ここだけはちょっと違った空間になっている。いわば遊民経済学バージョンといったところか。ああ、面白かった。


<5月13日>(土)

○本日は「上杉隆のザ・リテラシー」に出演。17時から配信開始。「みんなで作る報道番組」というのが売り。

○本日のテーマは「現在のアメリカ」。それってちょっと緩すぎるだろ、もうちょっと絞らんかい、とも思うのだが、ほんの数日で状況が激変するのが「現在のアメリカ」なので、しょうがないのでしょうな。

○番組前半はユーチューブで誰でも見られるのだが、後半はクラウドファンディングに応じてくれた人限定の放映となる。第2期の募集に対しては、478人のパトロンから344万8000円が集まっている。高額出資者に対しては、スタジオ見学などの特典もございます。

○後半は上杉さんといつ会ったか、という昔話から、テレビ業界の内幕についてなど、予定にない話をずいぶん語ってしまいました。上杉さんとはこれで10年くらいのお付き合いになりますが、いつも「よーやるわ」と感心しながら今日に至っております。

○今回はクラウドファンディングに感心しましたな。ネット放送にはこの手がありましたか。この世界はつくづく日進月歩でありますな。『この世界の片隅で』に感動したものとしては、その思いは格別のものがあります。

○番組終了後、お車代として1万円を受領する。かたじけなし。『七人の侍』に出てくる勘兵衛ではないが、「この飯、おろそかには食わぬぞ」の心意気でござりまする。


<5月14日>(日)

○中国が、というより習近平総書記が今年一番の重要イベントと位置付けている「一帯一路フォーラム」。今日と明日、北京で開催されまして、プーチン大統領やドゥテルテ大統領、アウンサン・スーチーさんなど29か国の首脳が訪れている。アジアにおけるインフラ投資に1000億元(1.6兆円)を追加投資する、という宣言もありました。まことに太っ腹。

○このタイミングで北朝鮮がミサイルを発射。2月11日、フロリダで日米首脳がゴルフしている最中に撃ったことを思い出しますな。どうしてこう、変なタイミングで動くんでしょう。これではムンジェイン韓国大統領の「対話路線」は形無しでありますな。思い切り軍事的圧力をかけて、「今日はこの辺にしといてやるわ」というモードになっていたトランプ政権も困ってしまいます。

○この辺の「構ってクン」ぶり、もしくはロジックの壊れたようなところが、トランプ大統領に似ているように思えるのは気のせいでしょうか。あの人も世の中が落ち着きだすと妙なことを始めるわけで、月初に予算が通って「これで夏までは安泰」と皆が思った瞬間に、先週はコーミーFBI長官を更迭したりしてますからね。

○さて、顔に泥を塗られた習近平総書記はこの暴挙に対してどう出るのか。今週も気が抜けませんな。

○とまあ、頭の痛いニュースはあるのですが、阪神は今日も勝って貯金を10にし、レイソルは5連勝で、藤井4段はNHK杯トーナメントで千田6段を相手に初勝利を収めました。稀勢の里が初日黒星だったのは、まあ、あんなものでしょう。ヴィクトリアマイルは・・・ええ、もちろんあんなものですとも。けっして痛くはないのであります。きっと・・・。


<5月15日>(月)

冠婚葬祭総合研究所の会合に出かける。こういうシンクタンクができた、ってのはつくづく面白い世の中になったものだと思う。客員研究員のリストはこちら

○面白かったポイントをメモしておきます。

*先日教わった「ジェロントロジー」と、冠婚葬祭業の発想を組み合わせると、新しいビジネスが生まれそうである。

*団塊世代、特に男性より女性の間で「葬儀は要らない」という考えが強くなっている。これは宗教心が薄れているからか、それとも親戚づきあいが疎遠になったからか。

*宗教と信仰、そして宗教団体の3つは互いにそれほど深い関係はない。特にわが国においては。

*新興宗教は近年急速に衰えているらしい。そういえばPL学園も野球部を廃止したし。

*日本人の場合、遠く離れると親戚づきあいをしなくなるのが古来のパターンであった。ほれ、「遠くの親戚より近くの他人」というではありませんか。

○冠婚葬祭業は経済と文化、伝統、歴史が深く入り混じったジャンルであります。もちろん「遊民経済学」の一ジャンルでもある。掘り下げると豊穣な世界が広がるような気がしております。


<5月16日>(火)

○今朝ほど、「モーサテ」に出演している最中に飛び込んできたのが、「トランプ大統領がISISに関する機密情報をロシアに提供」というニュース。慌てて手元のiPad miniで調べたら、ワシントンポストがヘッドラインで流していて、それも42分前、という湯気が出るようなニュースであった。佐々木キャスターが急きょ時間を作って、割り込みでニュースを流す。当方も一言だけコメントを添える。番組中、ずっと通信社の配信をチェックしているスタッフが居るから、こういうプレーができる。これだから生放送って面白い。

○それにしても、これはさすがにまずいっしょ。大統領がこんな調子では、アメリカと諜報協力はできないと見られても仕方がないだろう。トランプさんには、あなたが日々ブリーフを受けている内容は、世界各地でスパイが命懸けで拾ってきている情報、という意識がなさ過ぎる。おカネの世界で生きてきた人は、得てして「情報の対価は情報で」というインテリジェンスの世界が理解できないのであろうか。

○ワシントンポストに情報を提供したソースは、「政府高官」と書かれている。プロフェッショナルとして、もうこれ以上、大統領の不規則行動に我慢できない、ということなのだろう。今のホワイトハウスは情報だだ漏れモード。こんな学級崩壊状態で、政権はどんな成果を挙げられるのだろうか。

○このところ、いつも当てにしているラスムッセンレポートのデータを見ると、"Strongly Approve"が本日発表分で26%と史上最低を更新している。この数値が2割を割れてくるようなら、いよいよ警戒警報といったところかな。FBI長官の更迭だけならともかく、これはちょっとキツイかもしれません。


<5月17日>(水)

○今日聞いた話で面白かったもの。「なぜアメリカ人は医療保険に反対するのか」

「そりゃね、アンタ、アメリカには3人に1人はやけに太った人が居るでしょ? 一方ではホールフーズで健康食品を買って、毎日身体を鍛えているような健康オタクの人も居る。それが同じ保険料だったら、そりゃあ納得しないでしょ」

○要は「割り勘負けは嫌だ」という議論なんですが、アメリカの場合はあまりにもそれが鮮明なものだから、文句が絶えないというわけ。それに比べれば、日本人は体型だってそんなに違わないし、相互扶助の精神もそこそこあるし、なんだかんだ言ってお上のことを信用している。だから健康自慢、医者いらずの人だって、「あなただっていつ事故に遭うかわからないんだし」と言われれば、ちゃんと保険料は払うようになっている。保険制度が成立するためには、ある程度母は集団が均質であった方がいいという理屈である。

○もっとも皆が保険を無条件で信用しているものだから、赤字がどんどん拡大するという問題もある。わが国の国民皆保険は優れた制度だと思いますが、「なぜほかの国が真似ないのかわからない」などと言ったら、それはちょっと傲慢というものでしょう。

○それはさておいて、オバマケア廃止の議論はどうなったんでしょう。当分はそれどころじゃないみたいですけどね。トランプさんは今週末から中東歴訪の旅へ。サウジ、イスラエル、パレスチナ、バチカンと、嵐を呼ぶ男となるんじゃないかなあ。モサドから得た情報をロシアに流すだなんて、そりゃあヤバいっすよ。


<5月18日>(木)

○唐突ではござりまするが、上海に来ております。今回は2年ぶり。あいかわらずエキサイティングな都市でございます。いろいろ発見があります。


●虹橋空港は新しくなったみたいですが、着陸からほんの15分程度で外に出られます。

●街中に共用自転車が置かれていて、スマホで開錠して皆が使っている。シェアリングエコノミーですな。

●交通渋滞は相変わらずで、夕方は特に混雑します。大気汚染は今日はそれほどひどくないようです。

●毎度のことでGoogleにはつながりませんが、もうじき米中和解の一環として使えるようになる、との噂あり。とりあえずgmailからのメールはちゃんと届きます。


○魯迅記念館に行ってきました。魯迅は浙江省紹興市の出身ですが、晩年を長く上海で過ごしている。大学時代を過ごした南京など、全国に6か所の記念館があるらしい。「愛国教育」の拠点ということもあってか、入場料はタダである。

○魯迅と言えば日本では『藤野先生』で、ワシもそれくらいしか知らない。が、ここで見た感じでは、何よりも変革期を生きたインテリであったのだな、という印象である。たまたま文芸家ということになったが、思想家であり、愛国者であり、反体制派であった。晩年は革命家という位置づけになって、共産党に利用された感もある。

○当時の出版文化は、今のネットのようなものだったのだろう。メディア環境はもちろん、中国語そのものさえ変わりつつあった。多くの人に影響を与えて世の中を変えようと思ったら、文芸がもっとも近道であったのだろう。医者を志していたのに途中で辞めて作家になった、と聞くと「いい加減な奴」に思えるかもしれないが、魯迅を突き動かしたのは一種のベンチャー精神であったのかもしれない。

○上海での魯迅の生活には、内山書店が欠かせなかったようである。当時の情報環境がどんな風であったのか、興味深いところである。ちなみに神田の内山書店は、今も中国関係者が集まる場所である。そのせいか、神保町は中華料理の安くていい店が多いと思う。

○ここの記念公園などはとても広い。引退後の高齢者大勢が集まってきて、のどかに散歩したり、おしゃべりしたりしている。集まってくるのがほとんど男性、という点が日本との違いでありますな。どんな話をしているのでしょうねえ。


<5月19日>(金)

○上海市公共関係研究院で午前中いっぱい対話。お題は一帯一路、自由貿易圏、対米関係、AIIB、TPP、北朝鮮、台湾、そして日中関係。こうしてみると、あまり驚くような話は出てこない。当たり前か。ただしトランプ政権と北朝鮮については、真面目な話になりにくい。そりゃそうだわな。

○終わったら昼食。限りなく宴会に近くなる。「では、軽くちょっとだけ」などと言って、アルコールも入る。確実に太る。しかしまあ、年をとっても飲食する量が変わらない、というのが自分の数少ない取り柄なのかもしれぬ。それにしたって少しは減っていると思うのだが。

○午後は上海ユダヤ難民記念館を訪れる。自由都市・上海には、戦前から戦中にかけてナチスに迫害を受けて逃れてきたユダヤ人2〜3万人が移り住んでいた。「杉原千畝のビザ」を得た人たちも、最後は当地にたどり着いたらしい。彼らを助けた上海の人たちは偉かった。と言われればその通りだが、ちょっと中国共産党的な宣伝臭もある。当時の上海は汪兆銘政権のはずなのだが、誰かしっかり調べてくれないかしらん。

○夜は再び宴会。明日の会議のために集まった主要メンバーの顔合わせ。ブランド物がいっぱい入った贅沢なビルの中にある上海料理の店。お久しぶりの方々と話が弾んで、ビールもいっぱい飲んで、またも食べ過ぎに。まあ、昔のような「乾杯攻撃」がないだけマシというべきか。

○それにしても、最近の上海はタクシーがなかなかつかまらない。スマホで呼び出すこともできるので、電子マネーの普及も含めて、そういう点はよっぽど日本よりも進んでいる。ただし、そうすると空車であっても「既に予約済み」ランプをつけて走るタクシーが増えるので、手を挙げて止めるのがますます難しくなる。高齢者なんかはどうしているんだろう。二日目の上海、まだまだ面白い。


<5月20日>(土)

○今日が本番。上海対外経貿大学での日中シンポジウム。これで4回目になる。今年のテーマは「協力・開放・包容・Win-win」である。第1回は2008年7月(リーマンショック直前)、第2回は2013年9月(上海自由貿易試験区の直前)、第3回は2015年6月(上海株価暴落の直後)と、いずれも記憶に残るタイミングで実施されている。今回は「一帯一路フォーラムが北京で開催された直後」、というタグ付けがなされそうである。

○今日の反グローバル運動をどう乗り越えるのか。ひとつの解は「一帯一路」で、これは北京流。もうひとつの解は「さらなる自由化」で、これは上海流。アメリカがTPPから離脱してしまうような状況は、上海流に旗色が悪いように見える。ちなみに中国では、「TPPは死んだ!はっはっは」といった感じの報道がされているらしく、小生などが「日本はこれからTPP11をやります」てな話をすると、「あれ?そうなの?なんで?」といった反応がある。頼むから今週末のTPP閣僚会議、ちゃんとやってくださいよね。ああ、心配だ。

○中国側からの発表の中に、1977年の「福田ドクトリン」を取り上げたものがあったのに驚いた。その昔、バンコクやジャカルタで反日デモを受けていた日本が、今では東南アジアで高い好感度を誇っている理由は何か。謎解きのカギは福田ドクトリンにあるのだろう、という日本専門家による研究である。ありがたいというか、こそばゆいというか、興味深い発表であった。日本のソフトパワーが注目されている、ということは、裏を返すと中国の対外援助がうまく行っていないからかもしれない。

○そもそも援助とは、簡単には行かないものである。誰かに1万円あげることを考えてみればすぐにわかる話である。納得して収めてもらうだけで、冷や汗をかくはずである。お年玉とかチップとか、お金をあげれば確実に喜んでもらえるという状況は、そうそうあるものではない。まして国家が単位になるときは。

○海外援助を行った結果、その国の発展に役立って、自国の企業も儲かって、資金はちゃんと回収できて、さらに相手国から感謝される、なんてのは欲が深いというものである。援助をやったけれども、そのお金は権力者の懐に入ってしまい、スイスの銀行かどこかに眠ることになり、借款の返済はもちろん焦げ付き、独裁政権を延命させたとして、その国の庶民からはますます嫌われる、なんてのが定番コースである。「一帯一路」計画も、下手をするとその手の失敗談オンパレードとなるかもしれない。

○その点でわが国の対中援助などは、考えてみればどえらい成功と言えるのではないか。対中円借款3兆円は、ちゃんと中国の発展の土台となり、改革・開放路線を後押しし、その後に日本企業の対中進出が盛大に進んだし、返済は滞りなく行われている。この間に円高が進んだので、借りた側からすると返済は余計にかかったはずなのであるが。

○世上、対中ODAの評判が悪い理由は、「感謝されていない」の一点に尽きるだろう。しかし対外援助なんてものは、相手国の感謝を求めてやるものではあるまい。「ほんの少しだけでも、わかっている人が居ればいい」くらいに構えていれば、いいのではないか。もちろん、「日本は中国を援助する必要などなかった。お蔭で日本経済が追い上げられた」というスティーブ・バノン的な議論もあるかもしれない。ただしその発想はいささか「貧すれば鈍する」の類ではないかと思うのである。

○話を戻して、今の中国での日本研究について。昨今は「国別の研究」が流行らないらしく、しかも日本の地位も相対的に落ちているので、世代交代が進むにつれて、「日本経済の専門家」はどんどん減っているらしい。そしてもちろん日中関係の悪化がそれに拍車をかけている。もっとも日本は成功例も失敗例も豊富な国であるし、今後の少子・高齢化や低成長化など、中国の先行事例として有益な材料を数多く有している。だからやっぱり日本研究はやった方がいいよ、とこちらからは語りかけたくなるところである。

○テーマを経済に限っていることもあってか、上海対外経貿大学でのシンポジウムは、日中間にしては信じられないほど互いに率直で、建設的な議論が丸一日続く。肝入り役の陳子雷教授のご努力に負うところまことに大である。願わくば、同大学の日本経済研究センターがますますの発展を遂げられますことを。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki