●かんべえの不規則発言



2022年11月






<11月1〜2日>(火〜水)

〇高岡商工会議所の臨時総会に伴う講演会講師で高岡市へ。もちろん何度も行ったことがある場所だが、コロナ後では初めてである。

〇高岡市はこのたび、勝興寺が国宝認定されたことが地元の慶事となっている。もともと瑞龍寺という国宝がある街なので、このクラスの地方都市で国宝が2個あるというのは珍しい。これは見ておかねばならぬということで、仕事の前に高岡駅から伏木駅まで移動してちょこっと観光してみる。

瑞龍寺は、加賀藩3代目前田利常が先代の当主利長を祭って建てたものである。宗派は曹洞宗、つまりお侍さんたちのお寺である。加賀百万石の前田家の菩提寺であるから、お金があるのは当たり前で、見るからに贅を凝らした造りとなっている。

〇ところが勝興寺は浄土真宗のお寺であるから、こちらは庶民の信仰の対象である。ところが規模がまことに巨大なのである。これだけの寺を支える経済力が、地元の高岡・伏木にはあったということになる。伏木港は江戸時代には海運の拠点でありましたしね。

〇面白いことに、当地を支配した前田家はこの勝興寺を保護した。それは佐々成政との対抗上そうする必要があったという理由もあるのだが、織田信長軍団は一向宗とは血で血を洗う抗争を繰り返していたはず。仲間を殺された恨みもあったはずなのに、支配権を得たらあっけらかんと態度を変えて、宗教勢力を手なずけてしまうのですな。こういうところがニッポン的で、まことに融通無碍なのである。

〇今日は小雨模様であいにくの天気だったのですが、瑞龍寺勝興寺もこんな日に訪れる方が、しっとりと濡れた感じがこの季節の北陸らしくていいよね。ということで久しぶりの高岡市を体験してまいりました。


<11月3日>(木)

〇11月1日に、クックポリティカルレポートが「10下院選挙区の判断を変更」した。


●House Rating Changes: 10 More Blue Districts Move in GOP's Direction


〇すべてが共和党寄りの変更である。投票日の1週間前に、共和党への追い風が強まっているようだ。それにしても下院の全435議席中10議席の変更はけっして小さいものではない。こんな風になってしまうと、最後はこのまま勢いがそのまま加速していくことも考えられる。

〇なぜこうなっているかと言えば、やはりインフレが加速しているからだろう。同じ11月1日には、バイデン大統領がユニオンステーションで「民主主義の危機」を訴えた。これは先週末、ペローシ下院議長宅が襲撃を受け、夫のポール・ペローシ氏が重傷を負ったことに対するもの。とはいえ、こんな風に「自分の生活が苦しくなっている!」というときに、「トランプの嘘が問題だ!」と言っても効果は薄いだろう。

〇今回の中間選挙で民主党が訴えたいポイントは、「人工妊娠中絶」や「気候変動問題」、そして昨年1月6日に起きた連邦議会襲撃事件のような「民主主義の危機」などの社会問題である。世が世なら確かに大問題なのだが、インフレで人々の生活に火がついているときに、「それはないだろう」というのがフツーの人たちの感覚である。ペローシ下院議長宅の襲撃も確かに問題だが、それについては既に幾多の陰謀論が飛び交っている模様である。

〇共和党に追い風が吹いている理由として、「トランプ隠し」が上手くいっているという点も指摘できる。トランプさんは目立ちたがりなのだけれども、最終盤に出てこられてはかえって迷惑なのである。なにしろ今の課題は無党派層の票を得ることで、彼らの中には「トランプが大嫌い」という人は少なくない。だからトランプさんにはなるべく大人しくしてもらいたい。これは昨年のバージニア州知事選挙で、グレン・ヤンキン候補が見出した勝利の方程式である。すなわち、夏場までは下にも置かぬ扱いをするが、秋になったら距離を置く。これがトランプさんの正しい使い方である。

〇もうひとつ要因を挙げるとしたら、現職のバイデン大統領とハリス副大統領の人気のなさである。激戦州では呼んでもらえず、代わりにオバマ元大統領が応援に呼ばれていたりする。これはよくない傾向で、中間選挙が終わって「なんでこんなことになったんだ!」という話になったときに、いかにも「やっぱりバイデンが悪い」という話になりそうである。

〇とはいえ、仮に選挙が10月上旬であれば、民主党はそこそこいい成績を収めていたはずである。今から思えば、弾を撃ち尽くすのが早過ぎた。なおかつ景気の指標もその後は悪化した。この辺は天の配剤というもので、選挙のタイミングは政党が選べるものではない。ということで最終情勢は、現バイデン政権にとってかなり苦しいですなあ。


<11月4日>(金)

〇ここ2か月くらい毎週のように地方都市を訪れていて、ふと今日になって思いついた仮説。「景況感の先行きは、首都圏よりも地方の方が明るいのではないか」

〇おそらくは昨今、平日の昼間に山手線の内側に居る人たちが心配しているのはこんなことだろう。


「来年になればアメリカ経済は後退局面を迎えるだろう」

「習近平下で中国の経済もいよいよヤバそうだ」

「となれば来年は外需が期待できない」

「2023年は酷い年になりそうだ」


〇ところが地方都市に行ってみると、どこかほんわかしたムードを感じるのである。不肖かんべえを講演会などに呼んでくれるのは、だいたい地域の経営者たちであり、場所は地元のホテルなどである。こういうところへ行ってみると、まずバンケット(宴会場)が満杯であることに驚く。「一般社団法人なんのなにがし」みたいな会合が、同時にいっぱい行われているのである。

〇彼らは、「オールド・ノーマル」への回帰を心から喜んでいる。いやあ、世の中がすっかり変わってしまって、一時はどうなることかと思ったけど、とりあえず昔に戻ればしばし安泰である。宴会も「着席でお願いします」「ルール厳守でお願いします」などと言いつつ、「いやいやいや・・・」とビールを注ぎあう日常が戻ってきた。やれやれホッとした、という現実がある。

〇「内需が命」の地方経済にとっては、コロナが明けて普通に個人消費が戻るだけでも十分にありがたい。夜の街に人々が帰ってくるだけでも大助かりだ。そして日本全国には「強制貯蓄」が30〜50兆円くらいある。これの一部だけでも消費に回ってくれれば、もともとの経済規模が大きくないだけに、期待値も高くないだけに、それだけで御の字というものである。

〇また地方経済にとっては、人の移動が回復すること自体が「干天の慈雨」である。水際規制も緩和されて、インバウンドも復活しつつあるし。これは毎日、通勤で数千万人が県境を超えている首都圏ではわからない感覚だと思う。地域経済にとって観光業は、まことにありがたい存在なのだ。なにしろ中央に中間搾取されることなく、地域に直接おカネが落ちてくれるので。

〇もうひとつ、食品価格が上がり始めたお陰で農業部門に光が差してきた。だってそうでしょ。人口減少社会で未来がないと思っていたのに、農産物価格が上がってくれているということは、都会から地方におカネが流れることを意味する。後は円安を追い風に、食料輸出をいかに伸ばせるか。そのうちスコッチウイスキーみたいに、国産ワインが世界で引っ張りだこになってくれるかもしれないし。

〇てなことで、今は地方経済の方が都会よりも明るいのではないか。そう思って景気ウォッチャー調査9月分の「景気の先行き判断DI」を確認してみると、沖縄、北陸、甲信越、東海、近畿、北海道、四国などが軒並みプラスとなっている。

〇逆に一番、先行き判断が暗いのが関東である。輸出産業が多い中国、九州もマイナスになっている。なるほど、そういうことであったか。禍福はあざなえる縄の如し。そんな風に考えれば、世の中そんなに捨てたものじゃない。


<11月5日>(土)

〇本日はBSテレ東「日経プラス9サタデー、ニュースの疑問」に出演。「今日の中づり」はこちらをご参照。ゲストはジョセフ・クラフトさん、冷泉彰彦さん(リモート出演)とご一緒である。

〇中間選挙までは(日本時間で)あと4日だが、どんどん共和党が優勢になっている模様。そうするとバイデン政権にとっては逆風ということになるが、他方で共和党は、「上下両院を得てしまうと一定の責任が生じる」ことになる。「債務上限問題を取引材料に使って、財政支出を減らしてやる」みたいなことがやりにくくなる。要は2024年を迎えた時に、「議会多数派としてこれだけはやりました」という実績を作らなければならない。だからプラス面がないわけではない。

〇他方、トランプさんが「11月14日にも大統領選への出馬宣言」という声が出てきた。これまで中間層の票を取るために露出を少なめにしてきたわけだが、中間選挙が終わってしまえばもうそんな遠慮はなくなる。ちょうどその週、バイデンさんは外遊で国内にはいない。遠慮なく話題をかっさらうことができる。ついでに司法省やNY州検察など、「トランプ訴追」を狙っている勢力への牽制にもなる。トランプさんが序盤から独走してしまうと、他の共和党候補者も名乗りを上げにくくなる・・・など、一石何鳥にもなる動きである。

〇中間選挙に負けるとしたら、民主党内部は大荒れになるだろう。2022年は上院の改選議席が民主党14対共和党21だったので、普通に考えたら有利なはずである。これが2024年には逆の構図となる。党内で「バイデン降ろし」が始まるかもしれないが、2024年に代わりがいるのか。ハリス副大統領ではいかにも心もとない。だからと言って、「ヒラリーさん、もう一度お願いします」というわけにもいかんだろう。

〇てなことで、引き続き投票日まで目が離せない。なおかつ開票後も目が離せない。どうなりますやら。


<11月6日>(日)

今週号のThe Economist誌のカバーストーリーが画期的なのである。


●Say goodbye to 1.5℃ The world is missing its lofty climate targets. Time for some realism

(1.5度目標にサヨナラを〜世界は高過ぎる気候変動目標に迷い込んでいる。現実に目覚めるべき時だ)


〇概ねこんなことを書いている。


*2015年、COP会議は「気温の上昇を1.5度程度に抑える」という目標をパリ協定に明記した。しかし署名した国々は十分な排出量を削減しておらず、排出量は増え続けている。いま、地球が1.5度以上の気温上昇を回避することは不可能であり、そのことは認めざるを得ない。

*排出量の削減に失敗すれば、世界は壊滅的な打撃を受ける。今年、パキスタンは国土の大部分が浸水し、フロリダは巨大ハリケーンに見舞われた。欧州の熱波はそれほど致命的ではなかったが、莫大な経済的損失を与えている。

*現実主義に徹する必要がある。多くの活動家が認めたがらないが、パリの過ちを長引かせてはならない。エジプトのCOP27に集まった代表者たちは、偽りの希望に騙されてはならない。厳しい現実を直視なければならない。

*第一に資金が足りない。クリーンエネルギーへの投資は今の3倍が必要で、しかも発展途上国に集中させる必要がある。太陽光や風力発電は比較的安価に建設・運営できるが、そのためには送電網の再構築が必要になる。しかし先進国や世界銀行からの支援では到底足りない。

*途上国、特に中心国は先進国と協調し、投資環境を改善し、エネルギー政策へのコントロールをある程度明け渡す必要があるだろう。援助国側はうまくいかなかったときの損失を補填するなど、民間資本を呼び込むスキームに支出を集中させる必要がある。最貧国の石炭火力閉鎖といった汚れ仕事もやらねばならない。

*第二の真実は、化石燃料は一夜にして捨てられないことだ。ロシアからの供給を失った欧州は、天然ガスの輸入設備の建設に奔走している。より貧しい国では再エネと組み合わせたガスへの投資も必要だ。

*第三の真実は、1.5度が達成できないのであれば、気候変動に適応するための更なる努力が必要だということだ。活動家はそれは単なる言い訳になる、と非難するけれども、世界はより多くの自然災害に直面している。これら災害への備えは生き死にの問題である。

*農家はより丈夫な作物を栽培し、台風警報を行うことなどだ。こうした対策は利益をもたらすこともできる。先進国は小さな支援で大きな効果を発揮することができる。しかし彼らは支援を出し惜しみしている。アフリカの貧しい農民が、なぜ気候変動で苦しまねばならぬのか。この状態を放置すれば、先進国はやがて食糧不足や難民の増加に直面するだろう。

*地球を冷やす方法も考えた方がいい。CO2を除去する技術や太陽光を遮断する方法などだ。気候変動活動家はいずれも否定的だが、このままでは世界が暑くなってしまう。エジプトに集まる人たちはそのことを受け止める必要がある。

*1.5度を越えても世界は滅びない。しかしそれによって水面下に沈んでしまう国もあるだろう。時間を無駄にしてはならない。


〇おお、やっと理解してくれたか、と思って読み始めたが、あいかわらず「上から目線」の議論である。それでもまあ、気づかないよりはいい。今日からはエジプトでCOP27が始まる。願わくば地に足がついた議論が増えますように。

〇エコノミスト誌の論考からは、いかにも英国的な厭らしさも感じられる。パリ協定を否定しているけど、昨年のグラスゴー会議は正しかったと言いたいのだろうか。途上国に対して、「お前たちは石炭火力を使うな!」と説教したこともちゃんと反省されたら良い。彼らはきっと恨んでいると思うぞ。

〇しかしまあこういうのを読むと、「環境活動家」の罪はまことに重い。まあ、欧州の方々は、せいぜい冬場のガス不足で苦労されたらよろしい。ウクライナ戦争がどうなるかはさておいて、対ロシア経済制裁は続くから、このままあと3年は続きますぞ。知らんけど。


<11月7日>(月)

〇とある音楽ビジネスをやっている人から聞いた話。


「コロナも明けたし、そろそろ外タレ呼んでいっちょ派手なコンサートやったろうかと思って、たまには東京ドームじゃなくて国立競技場はどうかと思って行ってみたんですよ。そしたらあそこって天井がないじゃない。あれは音楽イベントはダメですわ。スポーツはいいかもしれんけど。しかしさ、スポーツ商売なんて所詮は水物でしょ? イベント会場にとって、確実に儲かるのは音楽なんですよ。国立競技場も年間数回コンサートやるだけで、維持費くらいは楽勝で出るんじゃない? 何を考えてあんな構造にしたのかねえ・・・」


〇どうもすいません。貧乏人が民主主義で物事を決めると、ああいう百年の不作が出来てしまうのです。10年前に亡くなった三原敦雄さんがこの話を聞いたら、「だから金持ちイジメは国を亡ぼすと俺があれだけ言っていたのに・・・」と憤慨してくれたことでしょう。ああ、今晩、夢枕に立たれてしまいそう。三原御大、出るならあっちの方にしてくださいまし。

〇ともあれ、ちょっとずつイベント・ビジネスが復調しつつあるのは良いことだと思います。昨日なんて、キムタク見たさで岐阜市に62万人が集まったそうであります。それって岐阜市の人口の1.5倍じゃありませんか。こんな風に好きなものを観るために、人が勝手に移動できる、というのは素晴らしいことであります。

〇SMAPと嵐なき後のジャニーズ事務所はいろいろあるみたいですが、「推しは推せるうちに推せ」と申します。古来のわが国には、同じコンセプトを表現する際に「一期一会」という美しい言葉がありまして、今のこの瞬間が大事なんだよ、今は二度と戻ってこないんだよ、ということを教えてくれます。コンサートって、まさにそういう体験をおカネにするビジネスですよね。そりゃあ儲かるに決まっている。

〇そういえばワシの「推し」と言えば、このところ米中間選挙ウォッチングが忙しいもので、せっかく始まった「ゴールデンカムイ」第4期をじぇんじぇん観ていない。かろうじて第1話だけ、アマプラで見たんだけど。それとは全く関係ないのですが、明日の不肖かんべえはBS11「インサイドOUT」に出没いたします。よかったら見てくだされませ。


<11月8日>(火)

〇今日は岡三証券にて「中間選挙直前・米国政治セミナー」のウェビナー講師を務める。このタイトルが良くできている。命名したのは松本史雄さん。お上手なのである。


●有権者が選ぶカードの色は青か赤か灰色か


〇民主党(青)か共和党(赤)か、それともサッパリわかりませーん(灰色)、という結末になるのか。きっと僅差になる選挙区がいっぱい出てくる。その上で、郵便投票で期日に遅れた分はカウントすべきか、それとも除外すべきなのか。そんなの揉めるに決まっているじゃないですか。しかも、それらを判断する州知事や州務長官や州議会議員たちも選挙中なのである。

〇本日は全体で1時間半の予定を45分でプレゼン、残り45分をQ/Aに当てたところ、いやあ、質問をたくさん頂戴いたしました。やはり投資家諸氏の関心は広範で面白い。全部が全部上手くは答えられなかったけれども、まことに刺激的な体験であった。つくづく自分はこういうことがやりたくて、この仕事をやっておるのだなと自己完結いたしました。

〇夜はBS11「報道ライブ インサイドOUT」へ。ニッセイ基礎研の伊藤さゆりさんと久しぶりにご一緒する。こちらは英国政治に絡めた話でしたが、同じく刺激的でした。さて、明日はどういう結果になるのか。青ではなさそうで、赤かあるいは灰色なのかなあ。


<11月9日>(水)

〇本日は内外情勢調査会の講師で福島県いわき市へ。柏市からなので、常磐線を「ときわ」と「ひたち」を乗り継いで行くのである。

〇常磐線という路線は、本来、常磐炭田の石炭を首都圏に運ぶためにできたものらしい。途中には日立市の銅山などもあったので、後には路線沿いに日立製作所の生産拠点も形成されたわけで、大甕駅とか常陸多賀駅が典型ですな。いわば常磐線は工業路線として成立した。今では沿線はすっかり住宅地が並んでいる。

〇車窓から見える景色は適度に紅葉が進んでいて、今日は天気も良かったのでいい眺めでありました。とはいえ、わが心はそこにはあらず、ずっと米中間選挙の開票速報をチェックし続けるわけであります。

〇東西に広いアメリカのことですから、午前中は東海岸から順に開票が進んでいく。まずはフロリダ州でロン・デサンティス州知事とマルコ・ルビオ上院議員の再選の報が伝わる。まあ、これは順当。共和党に風が吹いてレッドウェーブが来るようなら、ニューハンプシャー州の典型的MAGA候補、ドン・ボルダックが善戦するはず、との観測もあったが、さすがにそこまでの勢いはない。現職のマギー・ハッサンを脅かすには及ばない。

〇お昼にいわき市に到着して、米中間選挙について一席ぶつ。当然、「共和党が優勢」という前提でお話しするわけである。ここまで来たら共和党が上下両院を独占する方が望ましく、その方が政治に対してオーナーシップ感覚が生じる。要は野党根性ではいられなくなるわけで、2024年の大統領選挙の時には、「共和党は上下両院で多数にありながら、この2年間、何をやっていたんだああああ?」という有権者の非難を覚悟しなければならなくなるのである。

〇まったく同じ状況になったのが2014年の中間選挙である。このときは共和党指導部が、「何かひとつくらい実績を残さねば・・・」と考えて、それで打ち出したのがTPPであった。これにオバマ政権が乗っかって、TPP交渉が軌道に乗ったのである。あいにくトランプさんが放り出してしまいましたけどね。

〇ところがですな、帰り道に「ひたち」と「ときわ」を乗り継いでいく途中で、「ペンシルベニア州はフィッターマン勝利」(Fetterman flips Pennsylvania Senate seat in victory over Oz)との報が入ったのである。おおおおお、究極のMAGA候補であるドクター・メフメト・オズが破れるとは。これで上院は民主党が1議席をゲイン。予想外の展開である。

〇本稿執筆時点でワシントンポスト紙の分析を見ると、上院は民主党48議席、共和党47議席である。残り5議席中、アラスカ州は共和党が当確。これで48対48のイーブン。アリゾナ州は民主党の現職が逃げ切り。ウィスコンシン州は共和党の現職が踏みとどまる。これで49対49となる。問題はネバダ州で、開票率72%で共和党候補が2.7Pリードなので、ここは現職を破りそうである。ということは共和党も1議席ゲイン。ペンシルベニア州と打ち消しあって±ゼロとなる。すなわち民主党49議席、共和党50議席となる。

〇すると最後に残るのはジョージア州である。ここは再選挙が避けられないので、おそらく12月6日まで勝敗はお預けとなりそうだ。すなわち、現職のラファエル・ワーノックが勝てば民主党が50議席となり、現状維持の50対50となって民主党が多数維持である。逆に挑戦者のハーシェル・ウォーカーが勝てば、共和党が51議席に手が届いてめでたく逆転ということになる。これは大きい。

〇おっとととと、これは3週間前に不肖かんべえが書いた空想政治小説のまんまの展開となるのではないか。こうなるとジョージア州の残り1議席をめぐって、あと1か月、上院の多数が決まらないまま全米がイライラしながら待機することとなる。これは萌えますね。

〇さて、ここで問題です。なぜ共和党は事前の予想ほど伸びなかったのか。これは最後の週末、トランプさんが「悪目立ち」したからじゃないかと思う。ここまで共和党陣営は、上手に「トランプ隠し」をやってきた。無党派層の票を得るには、それが重要だったからだ。ところが先週末、トランプさんはペンシルベニア州やフロリダ州で遊説を行っている。共和党優勢の報道に我慢ができなくなったのか。

〇しかも投票日前日の11月7日には、これも激戦州のオハイオ州で「15日にはフロリダ州の自宅で大きな発表を行う」と述べている。これはどうみても2024年大統領選への出馬表明ですよね。折りからイーロン・マスク氏がツィッターを買収したことから、「来週からトランプがツィッターに戻ってくるらしいぜ」みたいなウワサも流れていた。トランプさんが表に出てくると、やっぱり中道派は引いてしまうのである。

〇こうなると難しいのはトランプさんの次の出方である。自分が出ると無党派層が逃げる。これは昨年1月5日、ジョージア州の決選投票で起きたのと同じこと。だったら大統領選への出馬宣言は見送って、もう少し大人しくしている方が共和党にとってはプラスとなる。が、トランプさんが出馬表明を急ぐのは、司法省による訴追がいつ来るかわからないので、その前に次期大統領候補になって彼らを牽制したいという思惑があるからだ。

〇「俺様最優先主義」のトランプさんとしては、たぶん共和党の都合などは考えてくれないでしょう。こうなってくると、ますます明日以降の展開が要注目となります。それにしても、最後の瞬間に大逆転があり得るのだから、つくづく選挙は恐ろしい。いやはや、面白過ぎです。


<11月10日>(木)

〇朝から「民主党が意外な善戦!」となった中間選挙に関する論評を読むのであるが、いちいち英語で読んでいると疲れるので、最近は片っ端からDeepL翻訳ツールに投げ込んでしまうのである。これが見事で、グーグル翻訳とは段違いの出来栄えである。

〇例えばクック・ポリティカルレポートで、エイミー・ウォルターが今朝、寄稿した文章はこんな風に姿を変えてくれる。下記の文章、ワシはまったく手を入れておりませんぞ。


Just as Democrats did in 2020, Republicans came into the 2022 midterms expecting a landslide. Sky-high inflation, an unpopular President, and pessimism about the direction of the country all pointed to a 'typical' midterm romp for the party out of power.

But, as we have written extensively over the last two years, other fundamentals matter in our politics; fundamental structural realities make 'landslide' elections harder and harder to come by.

2020年の民主党と同じように、共和党も2022年の中間選挙では地滑りを起こすと予想していた。高騰するインフレ、不人気な大統領、国の方向性に対する悲観論、これら全てが政権を失った政党が「典型的な」中間選挙で大勝利を収めることを示唆していたのです。

しかし、この2年間に何度も書いてきたように、政治には他のファンダメンタルズも重要であり、基本的な構造的現実が「地滑り」選挙をますます難しくしている。


〇とまあ、こんな材料をぐつぐつ煮込んで調理しながら、今週末の東洋経済オンライン向けの記事を書くのである。手慣れたものであります。

〇午後は日経CNBCへ。昼エクスプレスの「ワールドウォッチ」で、米中間選挙についてあれこれと語る。日経CNBCと言えば、その昔は大手町の古い日経本社の6階にスタジオがあって、三原惇雄さんの番組によく出たものである。今はずいぶん様変わりしましたなあ。

〇夜はこのたび、独立してストリートインサイツ社を立ち上げたMy Big Appleさんのパーティーへ。行ってみたら千客万来で、つい先ほどまでご一緒だった日経CNBCのアンカーマン氏まで来ているではないか。ということで、いろんな方と情報交換。リモートはともかく、リアルで会うのは久しぶり、という人たちも。こういう世界が戻ってきたことはなんともありがたい。

〇アメリカが冬時間になったので、注目の米CPIの発表は21:30PMではなく22:30PMになっている。もういいや、寝てしまうことにいたします。明日は明日で頑張りましょう。


<11月11日>(金)

〇拙宅がある千葉県柏市は、利根川を越えれば茨城県取手市なのであるが、クルマで川を越えたときによく見かける選挙ポスターがあって、それが中高時代の同級生のAにそっくりなのである。「なんでこんなところにAが居るのだろう」と思ったら、それが取手市選出の自民党議員であって、最近話題になっている法務大臣なのである。

〇で、このAにそっくりの国会議員、一度だけ間近で接したことがある。自民党の「新経済指標検討PT」にアドバイザーとして参加していた当時、ひな壇席にいたこの人にマイクが回ってきた。ところがこの人、まことにKYな挨拶をしたのである。「なんでこんな地味なPTにこんなに大勢集まりますかねえ」と。ああ、この人は分かってねえなあ、と残念な思いがしたものである。

〇新経済指標検討PTは、「未来のGDP統計はどうあるべきか」を論じるグループでありました。経済統計こそは国のインフラであるから、その扱いは非常に重要であり、日本経済の未来が懸かっている。そこに若い自民党議員がいっぱい集まってきたのを見て、おお、なんて意識が高いんだろう、心強いことだなあ、とうれしく思っていたのである。

〇ところがおじさん世代の自民党議員たちは、どうやら政治家の本分は道路や橋などの「モノ」を地元に残すことだと考えているらしく、統計などという形のないものに知恵を傾けようとする若手議員たちの気持ちが、全く理解できていない様子であったのです。まあ、想像に難くはないけどね。

〇ということで、本日になって法務大臣が放言でクビになるというよくある出来事があっても、別段、惜しいということは感じないのですが、その後釜が斎藤健元農水大臣になりそうだというのは朗報であります。こちらも柏市のお隣、流山市の選出でありますが、志は高く、政策にも強く、使わないのがもったいない男であります。

〇それにしても宏池会というのは、駄目な集団ですなあ。岸田首相の足を引っ張るばっかりで。同級生のAというのも、しっかりした男なんですよ。なんであんな大臣に似てるのかねえ。惜しまれます。

〇そうそう、明日は午後4時からテレビ東京「モーサテ塾 秋の大合宿スペシャル」に登場いたします。「ウイニング競馬」の後は、どうぞこの番組をご覧ください。


<11月13日>(日)

〇アメリカ中間選挙、やっと上院の大勢が決まりました。アリゾナ州に続いて、ネバダ州も民主党が制したので、これで民50対共49となります。バイデン大統領にとっては望外の知らせでしょう。投票日前の予想は非常に暗かったですからね。

〇このことによって、ジョージア州の残り1議席の値打ちは急低下しました。もちろん「民51対共49」と「民50対共50」は大違いであって、民主党としては是非あと1議席が欲しい。例のジョー・マンチン議員の値打ちが暴落しますから。「もうお前が反対しても関係ないもんね」と言えるようになるわけです。

〇共和党としても、なるべくならこの1議席を取っておきたい。とはいえ、ジョージア州の候補者はいろいろ問題ありのハーシェル・ウォーカーですから、今ひとつ力が入らないのではないでしょうか。ホンネとしては、あんまり選挙資金は使いたくないなあ、と考えるかもしれません。

〇他方、この状況を見て、内心ホッとしているのがトランプ前大統領ではないかと思います。「ジョージア州は負けても関係ない」と考えれば、共和党内の圧力も低下しますから、11月15日には予定通り"Very Big Announcement"=「大統領選挙出馬宣言」ができてしまうのではないでしょうか。

〇ということで、明日以降もどうなることやらわかりません。他方、東南アジアでは国際会議ウィークをやっている。目まぐるしいですなあ。


<11月14日>(月)

〇米中間選挙の出口調査(Exit Polls)が出そろい始めたので、ちょっとずつ読み始めております。やはり事前の世論調査にはいろいろ限界があるのだが、それはまあどこの国でも同じこと。その点、出口調査の方が安心できます。以下は注目点。


●CNN House National Results


(1)18歳から29歳(12%)では民主党が63%対共和党が35%。「若者は民主党」と言われて久しいが、案の定、それが今回は効いた様子。そうはいっても、若者は知らない番号からの電話は取ってくれませんから、そういう声は世論調査には反映されにくいのです。今から思うと、投票日の直前に民主党が激戦州にバラク・オバマを送り込んだのは、そういう狙いがあったのでしょうね。彼らはオバマ大統領が好きですから。

(2)党派別に行くと民主党支持者(33%)、共和党支持者(36%)はいずれも9割以上がそれぞれの側に投票している。注目すべきは無党派層=Independentが31%を占めているのだが、それが民主49%対共和47%とほぼ半々に割れている。これだけ経済状況が悪化している中で、これは意外な動きと言える。無党派層は意外と民主党寄りだった

(3)国の経済状況を尋ねると、Not so goodが38%でPoorが38%。足して76%。2022年の米国経済がどういう状況であったかは推して知るべしですが、これを4年前の2018年の中間選挙と比べるとあまりにも違い過ぎるのです。なにしろもともと好調だったところへ、トランプ減税が追加されてましたから。まあ、コロナが蔓延する以前ののどかな時期の話であります。よって前回の中間選挙と比べるのは辞めておきましょう。

(4)これが本題ではないのですが、アメリカの有権者で年収5万ドル(今なら約750万円)未満は30%しかいないのね。5万ドル未満は民主党支持(52%)が多く、それよりも多いと共和党支持(53%)が多くなります。まあ、自然なことですな。ちなみに年収10万ドル(1500万円)以上も37%居ます。

(5)大卒以上は43%で、民主党54%対共和党44%となりますが、大卒未満は57%で、こちらは民主党43%対共和党55%となります。そういえばマイケル・サンデル教授が、「アメリカの大卒は人口の3分の1しかいない」と言っておられましたな。今回の選挙で非難は浴びていますが、低学歴層をしっかり掴んでいるトランプさんは強いのです。

(6)人種別にみると、白人(73%)の共和党支持(58%)は分かりますが、黒人(11%)の民主党支持86%とヒスパニック(11%)の60%は以前に比べてかなり下がってしまいましたね。アジア系(2%)も民主党支持は58%に止まる。マイノリティの民主党離れはじわじわ進みつつあるように思います。

(7)ドナルド・トランプに好意的(favorable)な39%のうち95%が共和党に投票。そうでない58%のうち77%が民主党に投票しています。58×77%=44.7%ですから、これはやっぱり大きかった。今回の中間選挙で、「民主主義の危機だ」と脅威を煽ったバイデン大統領の狙いはここにありました。

(8)バイデン大統領を強く支持する人たち(18%)とある程度支持する人たち(26%)のうち、9割以上が民主党に投票するのは当たり前。ところが「どちらかと言えば不支持」(10%)の票が約半々になっているのは面白い現象です。これって、たぶん岸田さんも同じだね。

(9)もっとも重要な政策課題を尋ねると、@インフレ(31%)→共和71%対民主28%、A中絶問題(27%)→民主76%対共和23%、B犯罪(11%)→共和57%対民主41%、B銃規制(11%)→民主60%対共和37%、D移民(10%)→共和73%対民主25%となる。やっぱり人工妊娠中絶は大テーマだったのだな、ということを実感する。

(10)「バイデン大統領は2024年に出馬すべきか」と尋ねると、イエスは30%しかなくてノーが67%になる。それでもイエスのうち83%、ノーのうち31%は民主党に投票している。つくづく今年の有権者は「バイデンよりも民主党」だったことが窺える。

(11)「バイデンの2020年選挙は正当だったか?」と尋ねると、今も35%がノーと答える。この人たちは共和党に投票した(93%も!)。それでも「あなたの州の選挙は正当か?」と尋ねると、79%が自信ありと応える。今回の選挙で共和党がしくじったのは「2020年選挙は盗まれた」ということを強調し過ぎたことにあったのではないでしょうかね。


〇今回の中間選挙で「共和党優勢」という大方の読みが外れたのは、@有権者のトランプ忌避感情が想像以上に強かった、A若年層の投票行動が読み切れていなかった、B人工妊娠中絶問題の重さが認識しきれなかった、の3点じゃないかと思います。毎度のことながら、こういう作業は面白いです。


<11月15日>(火)

〇米中間選挙から1週間。まだ下院の多数は決していないけど、だいたいの構図は見えてきた。今日はたまたま米中間選挙について某媒体の取材を受け、某紙に原稿を送ったのだが、昨日だったら不満が残ったのではないかと思う。なんというか、ギリギリ間に合った感あり。

〇それというのも、直前の共和党優勢の予想がなぜ覆ったのか、という「謎」がきわめて面白いのである。よくできたパズルのようである。本誌10月14日号(2022年米中間選挙の直前情勢)で書いた予測は以下の通り。結果論だが、そのまま変えなければどんぴしゃりだった。


1. メインシナリオ(民主党が上院、共和党が下院を制す):60%

バイデン大統領が民主党内で求心力を維持する。共和党内では「トランプ氏責任論」が噴出。2024 年に向けて他の候補者(ロン・デサンティス Florida 州知事、リズ・チェイニー前
下院議員など)の活動が活発化。

2. リスクシナリオ@(共和党が上下両院で勝利):30%

インフレ悪化、ウクライナ戦況悪化などにより民主党が大敗。トランプ氏は 2024 年に向けて出馬を宣言。バイデン大統領はレイムダック化し、内政面で身動きが取れなくなる。民
主党内では、2024 年に向けて新しい大統領候補者選びが始まる

3. リスクシナリオA(民主党が上下両院で勝利):10%

「反トランプ」の民意が思ったよりも強く、共和党は大敗するものの、敗北を認めない候補者が多く政治的な混乱が続く。23 年には民主党内では左派の勢力が強まり、新たな財政支出を求めるなど、バイデン政権を突き上げるようになる。


〇ところが10月後半には共和党に追い風が吹く。いろんな予想が変更されて、「こりゃあ共和党が上下両院で勝つぜ」というムードになった。なによりトランプさん自身が、投票日前日の11月7日に「11月15日には重大発表(A Very Big Announcement)があるぜ!」と宣言してしまったほどである。きっと後悔していると思う。

〇なぜ予想がひっくり返ったのか。これがよくできた謎解きパズルのように面白い。アメリカ政治の一大変化ではないかと思う。結論的に言うと、昨日の結論3点を繰り返すことになり、これから先は証拠固めの作業が重要になる。何より先が明るく思えてきた点がありがたい。分断の先に曙光が差した、というのは気が早いかもしれませぬが、地獄の渕を覗く日々は去ったように感じております。


<11月16日>(水)

〇予定通り、トランプ前大統領が2024年大統領選挙出馬を宣言しました。共和党の幹部たちとしては、「ジョージア州の決選投票もあるんだから、止めてくれ〜!」という感じだろうが、もちろんそんなことは知ったことじゃない。トランプさんはいつもわが道を行く。

〇しかし大丈夫か?という気もする。いささか気が早いとはいえ、共和党内からは既にこんなデータが採集されているのである。ドナルド、危うし! もう時代の針は回ってしまっているのかもしれないのだ。

Iowa Caucus Aug. 7-10 Nov. 11-13
Ron DeSantis 37% 48%
Donald Trump 52% 37%
Undecided 12% 16%


New Hampshire Primary Aug. 7-10 Nov. 11-13
Ron DeSantis 45% 52%
Donald Trump 45% 37%
Undecided 10% 11%


〇アイオワ州党員集会では11ポイント差、ニューハンプシャー州予備選挙では実に15ポイント差でデサンティス・フロリダ州知事がリードしている。つい先日までは「頭が良くて、若い小型トランプ」などと言われていたのに、今回の中間選挙結果を受けて急速に本格化しつつある。考えてみたらデサンティスは、絵にかいたように美しいレジュメの持ち主なのである。


*44歳。フロリダ州ジャクソンビル生まれ。イタリア系の地味な一家に育つ。

*イエール大学で歴史学専攻。野球部に所属してキャプテンを務める。

*ハーバード・ロースクールにて博士号取得。フロリダ州の弁護士になる。

*米海軍に入隊してグアンタナモ基地勤務。後にイラクに派遣。2010年に名誉除隊。

*帰国後は連邦検事を経て下院議員を2期務める。

*フロリダ州知事に当選。1期目は僅差だったが、2期目は大勝利。もうフロリダを「パープルステーツ」とは呼ばせない。


〇気が早いと言えば、ワシントンポスト紙にはこんな記事が出ている。「デサンティス大統領とフロリダ流外交政策に世界は備えているか?」

●Is the world ready for President DeSantis and a Floridian foreign policy? by Adam Taylor November 10, 2022 at 12:01 a.m. EST


〇逆にトランプ支持は8月当時に比べて目に見えて数字が落ちている。「2020年選挙は盗まれた!」なんてことを言い続けているからであろう。メディアの扱いも優しくはない。"Former President Trump, who continues to spread baseless lies about his 2020 defeat"だとか、 "The first president in U.S. history to be impeached twice, most recently for incitement of insurrection"などとキツイ言い方をされている。

〇で、ここで番宣であります。来週、勤労感謝の日にこんなセミナーに登場します。その昔、ブルッキングス研究所で一緒だった西田明弘さんと、来年の世界政治・経済の注目点を語る予定です。無料ですし、マネースクエアの口座がなくても登録できちゃいます。よろしければ、是非


●【WEB】FXアウトルック&トラリピ戦略セミナー特別版 (11月23日、13:00PM〜)

吉崎達彦氏が語る米中間選挙後の世界経済見通し(https://www.m2j.co.jp/seminar/3576/contents) 


<11月17日>(木)

〇本日は大阪経済大学の福本智之教授が弊社を来訪。米中関係をめぐっての意見交換。今年の夏、大経大でシンポジウムをやった後に、「中国共産党大会と米中間選挙が終わった後にまたやりましょう」と言っていたので、今日は絶好のタイミングでした。

〇いろんな話をしたのですけれども、印象に残ったのは日本企業に関するこの指摘でした。


「日本企業はこれから最先端分野で戦って生き残っていくためにも、ボリュームゾーンではしっかりと稼がなければならない。ゆえに中国企業に負けないためにも、中国企業との取引を止めてはいけない」


〇「オールジャパンの総力を結集して・・・」みたいな発想はだいたいが碌なことはないですわな。その点、アメリカ企業はまったくしたたかで、中国と大喧嘩をしているように見えても、商売はしっかり続けていたりする。ああいうところは是非、見習わなきゃいけません。

〇今年の中国ではEVの販売台数がクルマ全体の4分の1を占めるのだとか。「2012年頃のスマホみたいな状態」なんだそうです。こういう変化の速さは中国経済ならでは。その近くにいるというだけでも、日本経済にはチャンスがあるというものです。

〇しみじみ感じるのですが、最近の日本企業に顕著な「ゼロ・リスク願望」は、習近平氏の「ゼロ・コロナ政策」と同じくらい愚かなことだと思いますぞ。


<11月18日>(金)

〇本日は大阪の中央電気倶楽部午餐会へ。通算で6回目というから大変なお馴染みさんだが、コロナ後の訪問は初めてである。いろいろお伺いすると、この手の社交倶楽部にはしみじみ厳しい時代が続いていたようである。

〇講師として米中間選挙のなぞ解きをお話しするのだが、投票日から10日目になって、ようやく下院の共和党議席数が218に達し、過半数となることが確定した。なおかつ6議席が未確定であるから、呆れるほどにゆったりしたペースである。もっともこの間に、だんだんデータが揃ってきたから、今日は話す材料も豊富になっている。

〇ちなみに今朝の産経新聞「正論」欄に寄稿したこの内容は、15日に入稿したものである。


●世代交代の加速促す米中間選挙


〇「世代交代」と書いたら、今日になってあのナンシー・ペローシさんが下院民主党指導部を降板するという。民主党が野党になれば当然、彼女も下院議長ではなくなるわけだが、その場合も少数派院内総務として残ることはしない、一議員として務めるということだそうだ。民主党指導部はこれで一気に若返りが進むはずだが、そうなるとますます明後日で80歳のお誕生日を迎えるバイデンさんの立場は、微妙なものになるのではないだろうか。

〇ということで短い大阪滞在を楽しむ。旧友を温めるのもまた楽しからずや。ジョナサンこと大谷信盛さん、だんだん見かけが実年齢に近づいてきましたなあ。論考、新幹線の中で読ませてもらいましたぞ。

〇帰りに新大阪駅にて、どれ、いつも通り「551」をお土産に、と思ったらなんと行列が40分待ちである。さすがに断念する。改めて周囲を見渡すと、駅の構内はものすごい人出ではないか。なおかつ、「対面のサービス業」の雇用はまだフル回転していない。そりゃそうだわな、第8波が来るかもしれないのだから。しかしこんな風に人流が急回復すると、やっぱりもう一回くらいは「波」が来そうですなあ。


<11月19日>(土)

〇今年の初めの頃、この原稿を読んでギクッとしたことを思い出した。


●きたるべきアメリカにおける「内戦(シビル・ウォー)」 (中山俊宏) 2022.1.18


〇アメリカの政治的分断をCivil Warと呼ぶのは、かなり前からあったことで、そのこと自体に驚いたわけではない。結語の部分にギクッとしたのである。


かつて、アメリカは国を真っ二つに分ける内戦を戦った。1960年代には、公民権やベトナム戦争をめぐって、国論が引き裂かれた。ここ20年ばかりは、確かに分断が日常風景にもなっている。今回はどうか。少なくとも「アメリカの復元力に期待したい」という言葉で締めくくれば話をどうにかまとめられるほど単純な状況ではないことは確かだ。


〇まさかアレを読んだからではあるまいな、と思って焦ったのである。というのは昨年9月に、ワシは産経新聞「正論」にこんなことを寄稿している。


●信じたい米国民主主義の復元力(吉崎達彦) 2021.9.7


〇上記は編集者から、「9/11から20周年、ということで1本書いてください」と言われて書いたものだが、読み返してみると確かに甘い。後段に出てくる「ブライスの教え」とは、故・岡崎久彦氏が好んで引用したエピソードなるも、いかにも牽強付会な感じであるし、「今もそんな復元力があると信じたい」とは、われながらいかにも紋切り型の結びである。

〇ということで、「浅かったかなあ・・・」と反省したのだけれども、まあ、中山さんが拙稿から何がしかのヒントを得たのだとしたら、むしろ名誉なことと心得るべき、と結論したのであった。念のために申し添えておくと、中山さんとはその頃も何度も会っていたけど、「あれは私のことではないですよね?」などと確認するほど、ワシも厚顔無恥ではないのである。

〇中山さんが5月1日に急逝されてからもう半年になる。今回の中間選挙の結果を見たら、何と評しただろうか。ひょっとしたら、「米民主主義の復元力の始まり」と言ったかもしれない。真面目な話、今後の展開次第では「ぬか喜び」になりかねないのだが、今のところ暴力沙汰には至っていない。そして「選挙否定派」のMAGA候補者たちが、ごっそり落選したことにはホッとした。面白うて、やがて哀しき陰謀論、である。

〇民主主義の良いところは、選挙でどんどん政治家が「一丁上がり」になっていくことだ。専制主義体制ではそうはいかない。プーチンや習近平は死ぬまでやるかもしれない。そしてまたトップの座というものは、長いことやっていると最後の頃にはかならずおかしくなるものだ。お二人とも、そんな感じあるよねえ。

〇問題はアメリカの方でして、復元力は果たしてホンモノか。これから来年にかけてが勝負じゃないかと思うものであります。


<11月20日>(日)

〇本日はジョー・バイデン大統領の80回目のお誕生日なのであります。さそり座生まれですな。今月はエジプト(COP27)→カンボジア(EAS)→インドネシア(G20)と外遊が続いて、さぞかしお疲れ気味のことと存じます。

〇ところが昨日、ホワイトハウスで孫娘ナオミさんの結婚式に出席しているではないですか。ホワイトハウスで大統領の娘が挙式するのは過去にも例があるが、孫は初めてだとのこと。あんた、それが目当てでタイのAPECを欠席したのかよ。カーマラ・ハリスに外交舞台を踏ませるためかと思っていたけど、しょうがないお人だねえ。

〇このナオミさんは28歳の弁護士。次男ハンター氏の娘なのだとのこと。そういえば、来年になったら下院共和党は多数になるので、遠慮なく調査委員会などを立ち上げてハンター・バイデン氏の所業をあれこれうるさく突っ込んできますぞよ。お祝い事は、なるべく今のうちに済ませておく方がよろしいかもしれませぬ。

〇お相手のピーター・ニールさん25歳も弁護士だとのこと。二人は2018年に友達の紹介で出会って、最近はホワイトハウスの3階に住んでいた由。へぇ〜、そういうのってアリなんですね。なるほど、それでは結婚式もホワイトハウスになってしまう。

〇先週14日からは議会ではレイムダックセッションが始まっている。ところが今週はもう感謝祭休暇に入ってしまうのである。年末商戦ももうじき始まります。日本でいえば師走モードってことですな。ああ、ワシも来年の予想を考えなきゃいかん。

〇そういえば今年の新語・流行語大賞のノミネート語がもう発表されていた。もうそんな季節。忙しくなりますなあ。


<11月21日>(月)

〇寺田稔総務相が更迭されて、代わりは松本剛明元外相なのだとか。そっちの方が、ずぅーっといいじゃん。これは葉梨法務相→斎藤健元農水相と同じパターンである。なんで最初からそっちを選ばなかったのか。葉梨、寺田が宏池会の大臣適齢期議員だったから、仕方がなく選んだということらしい。ところが実際にやらせてみたら、放言があったり、「政治とカネ」で引っかかったり、あんまりいいことはなかったのである。

〇葉梨氏も寺田氏も、「入り婿」ではあるが2世議員である。日本政治における世代交代は、かなりの部分がこの「2世、3世」という形で行われている。歌舞伎役者じゃないんだから、とはいうものの、それで選挙区の収まりがいいのだから仕方がない。そしてそこは、昔から「お公家さん集団」と呼ばれる宏池会である。そして岸田さんは、とっても「宏池会LOVE」な人であるらしい。

〇しかるに宏池会出身の大臣が、せっかく自派閥から誕生した総理の足を引っ張るのでは情けない。永田町の論理からいえば、まったくあり得ない展開である。「お前らがしっかりやらないんだったら、ほかの派閥は当然支えないよ!」と言われてしまうだろう。いやあ、まさか国政選挙2連勝の総理が、1か月に3人の大臣の首を斬らされるとは。まったく想定の範囲外である。

〇岸田内閣は、いくつかの不思議な均衡の下に成立している。まず、岸田さんは近年の日本の総理としてはめずらしくイケメンである。とりあえず、見た目で嫌な感じはしない。ご本人が真面目な方であることは、誰でもわかる。少々気が利かないところがあっても、決断力が乏しくても、内閣支持率が下がっても、そこは安心してみていられる。

〇次に岸田さんにもしものことがあった場合、次を狙うと目されている幹事長が、永田町的にはもっとも嫌われるタイプである。あんな人が威張りだすくらいだったら、今のまま我慢する方がいいわなあ、と誰もが考える。ましてやデジタル担当大臣なんぞには、怖くてとても任せられない。つまり代わりがいない。

〇ついでに言えば、岸田さん自身が「どうしてもこれだけはやりたい!」という政治課題がなく、強いて言えばせっかく宏池会から首相になったのだから、先達であるところの宮沢喜一さんや鈴木善幸よりは長くやりたい、というくらいしかない。でも、宮沢さんや鈴木さんはせいぜい2年しかやっていないので、ご自身の任期が既に1年を越えた時点でかなり達成感があったりする。

〇こういう状況になると、「サミット花道論」が出てくるのも無理のないところである。つまり来年の5月まではやらせてあげるけど、その辺で後進に道を譲ったらどうですか、ということである。とはいうものの、国政選挙は当分ないのであるから、なにも急いで岸田さんの首を取る必要もないのである。幸いなことに、野党への期待はまったく高まってはいない。泉ケンタ君を総理にしたいと思っている国会議員は、何人くらいいるのだろう? おそらく2桁は居ないと思うのだが。

〇岸田さんの立場になってみれば、内閣総理大臣には伝家の宝刀、解散権がある。まずは「サミット解散」という手がある。ところが来年5月と言えば、4月に統一地方選挙が終わった直後となる。地方議員の皆さんとしては、自分の選挙が終わったら「あー、やれやれ、どっこいしょ」となるので、その後に衆議院選挙があっても働きが悪くなる。だったら統一地方選挙とのダブル選挙はどうか。思考実験としては、当然アリである。

〇なにしろ今国会で「衆院10増10減法案」が成立した後なので、周知期間が終わった年明け以降はいつ解散があっても不思議はない。いかなる偶然か、4月第4週には安倍さんが亡くなったの後の山口4区と、岸本周平さんが知事選挙(今週末である!)に転進した後の和歌山1区の補欠選挙をやらねばならない。ところが山口も和歌山も、新選挙区では減員区である。「次の選挙になれば、アナタの選挙区はなくなりますから!」という選挙に出なきゃいけない候補者はまことに気の毒である。

〇だったら来年4月のダブル選挙説は、十分に検討に値するのではないか。いや、この場合、総選挙で万が一のことがあると、岸田さんがG7サミットの議長をできなくなる、というリスクがつきまとう。まあ、普通はないよね。とはいえ、最近の永田町にはそういう厳しさが足りないのではないか。もうちょっと、しゃきっとしていただきたいものであります。


<11月22日>(火)

〇JBpressさんの取材を受けました。米中間選挙についてオタク風に語っております。ご紹介まで。


●【前編】中間選挙で混沌さ増す2024年大統領選、米政治ウォッチャーが解説

「最大のルーザーはトランプ」で、「メシウマ」共和党本流が抱えるジレンマ


●【後編】中間選挙で混沌さ増す2024年大統領選、米政治ウォッチャーが解説

予想難易度は「来年の有馬記念」並み!? トランプの対抗馬とバイデンの後釜


〇「メシウマ」とか「来年の有馬記念」とか、かんべえ語を上手に使っていただいております。まあね、これが当サイトの「芸」、もしくは「お作法」でありますので。

〇話変わって、今宵はとっても久しぶりにさる社内の会合に出たら、昭和の時代に入社したのはワシ一人であって、令和入社も3割くらいいる。こうなるとワシの存在自体が、まるで「レジェンド」である。

〇とはいうものの、社内で和気あいあいとやっている様子は、昭和の頃とそんなには変わっていない。終身雇用制や年功序列制が崩れつつあっても、日本の組織ってそんなには変わらないのかなあ、などと感じた夜でありました。


<11月23日>(水)

〇ワールドカップが始まったら、世の中の雰囲気がかなり変わったような気がする。とりあえずウクライナの戦争のことは忘れてしまうし、インフレもあまり気にならなくなる。なにしろ今朝、ワシントンポストのHPを開けたら、トップニュースがこれなんだもん。どっひゃー!


Saudi Arabia shocks Argentina with a World Cup upset for the history books 


〇同じアジア代表枠としては、サウジアラビアの快勝には拍手を送らねばなりません。豪州はやっぱりフランスに4対1で負けちゃったし、イランはイングランド相手に6対2で大敗しているし、だいたい開幕戦で地元カタールがエクアドルに負けちゃうというのはどういうことよ。このままだと「アジア枠、もっと減らしていいんじゃないか?」と言われかねない。

〇本日はミッドタウンのマネースクエアに出かけて、FXアウトルックセミナーに出てまいりました。西田明弘さんは大のサッカーファンで、「W杯は為替相場にも影響する」とのこと。なんとなれば今年のカタール大会、ものの見事に欧州時間なので、ロンドン市場などのトレーダーたちは「試合中は気になるから、ポジションを下げておこう」と考えるはず。ゆえに流動性不足になって、ボラティリティが上がる可能性がある、とのこと。いかにもありそうな話ではあります。

〇あいにく日本では、今大会は不自由な時間に試合が行われることが多いです。さて、今宵の日本はドイツ相手に金星を挙げられるかどうか。キックオフは午後10時からでありますが、気になるから不規則発言の更新も早めに済ませておくのであります。(16:37pm)

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〇ヤッホー!対ドイツ戦勝利!信じて見ていてよかった。(0:05am)


<11月24日>(木)

〇昨日の歴史的な対ドイツ戦について、海外報道を覗いてみました。


●ワシントンポスト紙 Japan upends Germany in Qatar, and another World Cup darling is born

日本がカタールでドイツを破り、(サウジアラビアに続き)W杯に新たな寵児が誕生。


●ニューヨークタイムズ紙 Japan Topples Germany, the World Cup’s Latest Fallen Favorite

日本がドイツを撃破。W杯でまたまた本命候補が失墜


〇いや、全くすごい騒ぎなのであります。だって昨日の試合、ドイツがあからさまに下手を打って負けた試合じゃないですよね。ドイツの得点はPKの1点のみ。GK権田の神がかりプレーも連発で、数々のシュートをことごとく跳ね返した。逆に日本は森保監督の采配が当たって、途中出場者による怒涛の反撃となりました。変な審判もなければ、イエローカードもなし。ドイツ側から見ると、ケチのつけようがないからかえって腹立たしい、という試合だったんじゃないでしょうか。

〇いやー、あんなの見ちゃうと、ほかのことが一気に霞んじゃいますな。とりあえず、ダッチロール状態だった岸田内閣はこれで一息つくかもしれません。逆にドイツのショルツ政権が心配になりますな。それから次のスペイン対ドイツ戦が楽しみになります。凄い戦いになりますぞ。


<11月25日>(金)

〇企業の中で長年過ごしてくると、昔は誰でもやっていたことが、時代が変わって一発アウトになってしまうことがある。セクハラとかパワハラなんてその典型で、有能な上司であることは誰しも認めている人でも、「あの人はセ・パ両リーグだからなあ・・・」の一言で退場宣告を余儀なくされることがある。まあ、仕方がないですけどね。

〇あるいは昭和の頃は、皆が職場でスパスパ煙草を吸っておりました。ワシも昔の上司に「1日5箱」という人がいて、大きな灰皿が朝から晩までに一杯になるのを隣で見ていたけれども、そのときは何とも思わなかったものです。今じゃ喫煙者はかわいそうなものですな。別に同情はしませんが。とまあ、そのくらいには世の中は変化したのです。

〇永田町の世界でも、統一教会との癒着は誰でも知っていることで、選挙が強い人は必要ないけれども、落選経験がある人なんかはどうしても頼ってしまう、というものでありました。やましい気持ちは多少はあっても、とにかく選挙に勝ち残るためには仕方がない。サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙に落ちればただの人になってしまうので。

〇これは公職選挙法が「キレイごと」の上に成り立っているせいもある。選挙の運動員が全部ボランティアで賄われるなんて、そんなことあり得ないでしょ? 世の中がもっと地縁、血縁でべったりしていた頃には、少なくとも田舎では「お世話になっている人の選挙のお手伝いは当たり前」みたいな常識もあったけれども、今の世の中でおカネを払わないでウグイス嬢が雇えるだなんて、誰が信じるでしょうか。

〇有権者の政治意識が高くなって、地元の尊敬できる候補者のために、個人献金をしたり選挙のボランティアをするようになる、というのは理想論としてはアリでしょう。でも、まあ、無理ですな。そういう人は、候補者の出陣式のお手伝いはしてくれても、その間にポスター貼りをしたり、暗い部屋で朝から晩まで電話かけをする、なんて仕事はやってくれそうにない。要は政治という仕事は限りなく「賤業」の上に成り立っているのです。

〇総理大臣の収支報告書の領収書に不備があったなんて、そんなことを言い出したらたぶん皆が同じことをやっているに決まってますがな。文春砲もそこんとこ、気を付けた方がいいですぞ。とはいえ、「今どきそんなこと、あり得ない!」と言われたら、まことに返す言葉がない。いや、ワシは別に政治家でも秘書でも関係者でもないのだが、古い政治オタクとして昨今の議論についていけない思いを感じているだけであります。


<11月26日>(土)

〇11月23日に行ったFXセミナーの映像がユーチューブに上がったので、ご紹介まで。


●FXアウトルック&トラリピ戦略セミナー特別版(11月23日開催)


〇対ドイツ戦の日の午後に収録されたものですが、西田さんが強気の発言をしていることに驚かされます。あたしゃ実際問題として、「まあ、無理だよね」と思いながら見てましたが。

〇国際情勢や為替動向の予想が当たるかどうかはそれとは別問題。とりあえずご参考までということで。


→後記:よくよく見たら、第1部の直後に西田さんがW杯について触れた部分はカットされているのね。もったいない!)


<11月27日>(日)

〇本日は商船三井さんのイベントで箱根の芦ノ湖へ。東京駅から小田原駅まで至るところ大混雑で、世の中は完全にコロナ明けしていることを実感する。そして小田原駅から芦ノ湖へ向かう道路も大渋滞。なんと芦ノ湖ではモーターボートレースをやっているのですな。大音響で湖面を疾走するボートは、さぞかし快感でありましょう。

〇渋滞の中を進むにつれて、箱根駅伝でよく見た光景が広がってくる。そうか、箱根って見るべきものが一杯あって、楽しそうじゃん。そもそも何度も来たことあるし。今から見ると、『エヴァンゲリオン』の聖地巡礼もできるのではありますまいか。

〇でまあ、仕事の方はさくさくと。商船三井で昔、日本ニュージーランド経済人会議でお世話になった友国八郎相談役が、先月、お亡くなりになっていたのをつい先日になって知りました。元海軍、豪放磊落で懐の深い方でした。合掌。

〇海運会社さんというのは、商社業界から見るとなんとなく「身内」感覚があるのですよね。ニュージーランドで会議が終わった後などに、よくご一緒させていただきました。今日はお役に立ったのかどうか、よくわからないのだけれども、とにかく呼んでいただけて光栄であります。

〇帰りの道は、凄腕ドライバーさんのお陰で裏道を次々とかいくぐり、お陰さまで予定より一本早いこだまに乗ることができました。さらに東京駅では、常磐線特急ときわを捕まえられたので、なんと家に帰ったら日本対コスタリカ戦に間に合ってしまったではないですか。

〇ところが・・・。負けちゃったのであります。優勝4回のドイツに勝ったチームが、0−7でスペインに負けたチームに敗れる。これぞW杯。残念ながら、われわれはまだ決定的に経験値が足りないのでありましょう。残るスペイン戦は12月2日金曜日でありますか。ううむ、まったく勝てる気がしない・・・・。


<11月28日>(月)

〇今宵は上海蟹を食べながら、中国に関するディープな密談。実際に北京や上海などでは、ゼロコロナに対する異例の抗議が起きているとのことで、いやはやどうなるのでしょうか。

〇日本の組織というのは、企業でも官庁でも中国の専門家を育てるのであるが、そういう人が偉くならないシステムになっているようで、それは大変にもったいないことではないかと思います。中国と本気で競争していくつもりなのであれば、ますますもって危ういことであります。

〇一方で、中国を逃れて日本に来ている中国人やチャイナマネーも着実に増えている様子で、池袋の西口あたりにはハイレベルな「ガチ中華」の店が増えているのだとか。今度、行ってみなければなりませぬな。


<11月29日>(火)

〇イズムィコ先生が第18回中曽根康弘賞を受賞されたので、物見高く見に行く。プレゼンターは中曽根平和研究所会長の麻生太郎閣下である。いやあ、おめでとうございます。

〇記念講演もあるので拝聴する。私は別に立派な目的があってこの仕事を始めたわけじゃなくて、ただの軍事オタクとしてこの道に入ったわけでして・・・といつもの出だしから。とはいえ、防衛研究所を別にすると、今や大学の中でロシア軍事研究を専門にやっているほとんど唯一の人間になってしまった。それは単に、小学校時代からの中毒症状から抜けきれなかったからでありまして・・・。

〇ロシアの防衛予算はGDP比で2.6%。日本とあまり変わらない6兆円くらい。その程度の金額で、なぜこれだけの戦争ができてしまうのか。クラウゼヴィッツ曰く、軍事とは政治目的を果たす手段なのだから、もともとの目的を知らなければならない。そこでロシア語を学び、政治を学び、ロシアの財政や経済を学んでいるうちに、だんだん洒落にならなくなってくる。それにしても、こんなにメリットのない戦争、プーチンは何で始めたんだ???それがわからないと、軍事オタクを楽しめなくなってしまうじゃないか!

〇現にウクライナでロシア軍が行っている残虐行為やら略奪やらレイプやら、どうみても暴力を制御できておらず、いやしくも近代国家がやるべきことではない。それに対して、ロシア研究者が同情的であることはいかがなものであるか。世間の99%の人たちにとって、ロシアはどうでもいい存在であるはずなのに。それにしても、国家は本当に合理的な主体なのだろうか。プーチンの判断、果たしてどうなっているのか??

〇今こそ、国際関係の理論と地域研究の知恵を結びつけなければならない。そして日本には真の意味のシンクタンクが必要だ。今のままでは予算は全部人件費で、会議ばっかりやってるじゃないですか。ちゃんとプロジェクトに資源を投入しましょうぜ。やりましょうよ、やってみせますぜ。

〇いやまあ、真面目な話はいいのでありますが、本日、お見えになっていた奥様が普通にロシア美人であったことに軽いショックを受けました。書かれたものを読んでいると、なんだかとっても怖そうだったんですが。いやもう、イズムィコ先生、あらためておめでとうございます。引き続きのご活躍を心からご祈念申し上げます。


<11月30日>(水)

〇今年も残すところあと1か月なのだが、気になっているのは「新語・流行語大賞」の行方である。

〇今年ノミネートされた言葉の中で、政治ネタとおぼしきものはNo19「丁寧な説明」(c:岸田文雄首相)くらいである。国会や記者会見で何を言われても、「丁寧に説明することが大切です」「本人から丁寧に説明させます」などと応えるからだと拝察する。この「丁寧」がクセモノで、どうも岸田さんは自らが腰を低くして、何度でも同じことを繰り返して応えることが「丁寧」だと勘違いしている節がある。

〇そうではなくて、聞き手側が望んでいるのは「腹落ちのする説明」なのである。いくら丁寧であっても、同じ説明を何度も繰り返し聞かされるのであれば、それはゼロをいくつ足してもゼロになるのと同じである。いわば「耳には聞こえていても、ハートには届かない」のであって、いわゆる官僚答弁のほとんどはこれである。

〇それではどうやったら「腹落ちのする説明」ができるかと言えば、政治家が自分の言葉で語るしかない。要は紙を読んじゃいかんのである。本当に聞き手の心に届く説明をしたいと思ったら、予期せぬ質問に対して即興で答えなければならないし、準備していない言葉でなければならない。要はリスクのない受け答えをしちゃいかんのである。

〇もっともそういうことができるのは、小泉純一郎クラスの天才のみがなし得ることであって、安倍さんだってそういうのは得意じゃなかった。安倍さんはパーティートークはお上手であったし、そういうときは満場を沸かせたものである。それでも、ケガを押して出場した貴乃花が優勝を決めた一番で、優勝杯を授与しながら「感動したっ!」などという離れ業はついぞできなかった。小泉さんはしみじみ凄かったのである。

〇ということで、リスクを承知の上で自分の言葉で語れる政治家は強いのだが、岸田さんが明日から突然、そういうことができるようになるわけではあるまい。ということで、支持率の挽回は難しいのであろう。せめてそのことに本人が気づいていれば、少しは違うのかもしれないのだが。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki