●かんべえの不規則発言



2015年3月








<3月1日>(日)

「吉崎さん、乾杯をやってたでしょ」

○先日来、いろんな人に言われております。2月2日に行われた北陸フォーラムで、いわゆる「乾杯のご発声」というのをやらされたのですが、その時の映像が「間もなく北陸新幹線が開通」「地元経済界の期待も高い」という文脈の映像で使われているらしいのです。ほんの一瞬のことなので、たぶんほとんどの人は気づかないと思うのですが、たまにご近所の方が気づいていたりします。困ったものです。(幸いなことに、自分では見ておりません)

○あれって北陸経済連合会の主催ですから、ホテルニューオータニに千人くらいのお客さんを招いていて、しかも錚々たる財界人が来ていて、「乾杯のご発声」は当然、偉い人がやるべきなのであります。たぶん、「誰にお願いするか」を決めるのが悩ましいので、その日のセミナー講師であったワシにお鉢が回ってきたものと思われます。いやー、往生しましたですよ。慣れてないですもん。でも、ちょっとだけ度胸がつきました。

○乾杯の発声というのは「型」がありますので、そんなに難しいものではありません。でも、「紙」を読むわけにはいきませんし、長くなり過ぎると顰蹙を買いますし、特に自分が偉くない場合は気をつけなければなりません。例えば出だしはこんな感じです。


「只今ご紹介をいただきました××でございます。本日は大役を仰せつかりましたが、ご指名により、ひとことご挨拶を申し上げます」


○ここで「ワタクシのようなものでは、まことに役不足ではございますが・・・」などと言ってしまうと、初歩的な敬語の間違いになって非常に恥ずかしいです。でも、ありがちな間違いではあります。

○続いてほんの一言、その場の即興で、場の雰囲気に沿ったことを何か述べたいものであります。できれば自分の前に話した人の内容にかこつけて、ちょっと気の利いたことが言って、その場の皆さんの共感を得ることができると良いいのですが、緊張する場では事前に言うことを決めておいた方が無難でありましょう。などと言いつつも、ワシは2月2日の場で自分が何を言ったかは、もう思い出せなくなっている。確か北陸新幹線がいよいよどうのこうの、てなことを言ったはずなのだが。

○最後はなるべく型通りで決めたいものである。


「それでは乾杯に移りたいと思います。××(主催者の名前)のますますのご発展と、△△(××よりも抽象的で大きなテーマが望ましい)が成功をおさめますこと、そしてここにお集まりの皆様のご健勝を祈念いたしまして、杯をあけたいと思います。ご唱和ください。乾杯!」


○ときどき、「ここにお集まりの皆様」の部分で、「そしてご家族と、残念ながらここに居られませんご関係の皆様」などと限りなく人数を増やしてしまう人がいますが、個人的にはあまり感心しません。逆に人数が少ない時は、「ここにお集まりの皆様 だけ のご健勝を祈念いたしまして」とアクセントをつけると、受けやすくなります。が、保証の限りではございません。

○ところで北陸新幹線で、地元出身の志の輔さんがやっている富山のCMはこちらをご参照。2本目がいいよねえ。


<3月2日>(月)

○以下はWSJ日本版の、「プーチン統治下、暴力の犠牲者たち」という記事から。


●2003年4月17日―リベラル派のロシアの政治家セルゲイ・ユシェンコフ氏は、03年の議会選挙への自党の参加登録を済ませた直後に自宅で死亡しているのが発見された。この死をめぐり4人が有罪判決を受け、現在服役中。この中には同氏が組織した政党の共同議長もいる。

●2004年7月9日―ロシア系米国人調査ジャーナリスト、ポール・クレブニコフ氏は米誌フォーブスのロシア語版編集長だった。同氏はモスクワのオフィスを出たところを撃たれた。2人の容疑者は裁判で無罪となった。

●2006年10月7日―人権活動家でチェチェンでの不正を暴露したジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏は、モスクワのアパートで射殺された。何回かの審理のあと、14年6月、5人が殺人罪で有罪となったが、検察は殺害を命じた人間は特定できなかったとしている。

●2006年11月23日―元ロシア連邦保安局(FSS)の職員でプーチン氏を批判していたアレクサンドル・リトビネンコ氏はロンドンで放射性ポロニウムで毒殺された。英国の捜査は今も続いており、当局者はモスクワが関与している証拠があるとしている。クレムリンはこれを否定した。

●2009年7月15日―チェチェンの不正を暴いた率直な物言いをする著名な人権活動家ナタリア・エスティミロバ氏はチェチェンで拉致され、のちに射殺された姿で発見された。容疑者は捕まっていない。

●2015年2月27日―有力な野党指導者でプーチン批判を展開していたボリス・ネムツォフ氏は赤の広場近くの橋の上で射殺された。容疑者は捕まっていない。


○いやもう、おっかない国でありますな。正直なところ、一人当たりGDPが1800ドル程度であった1990年代であれば、何が起きても驚きません。そりゃもう、戦後すぐの日本においても、「仁義なき戦い〜広島死闘篇」みたいな世界があったのですから。でも、1万ドルを優に超えるようになった今日でも、昔と同じようなことが起きてしまうというのが、つくづくおそロシア。

○他方、ロシア内部では「こんなことをするのは、外国勢力の挑発に違いない」という声が説得力を持ってしまうらしい。反政府デモだけじゃなくて、政府支援デモも起きているのです。

○そしてウクライナ問題のために周旋に駆け回っているのは、ドイツのメルケル首相である。でもプーチン大統領は、「核なき国家なんて、所詮は主権国家じゃないもんね」とドイツを甘く見ている。「助けてやらんぞ」というドイツの脅しは、ギリシャにはよく効くけれども、ロシアには効くのだろうか。などと考えてみると、いよいよロシア・ウクライナ情勢は悩ましいことになる。

○で、明日からワシは日露専門家会議への出席のためにロシアに行くのでありますが、こういうタイミングになるという点がいつものことながら「持ってるな」。とりあえずアエロフロート機でありますから、ロシア軍に撃墜される恐れだけは軽微です。


<3月3日>(火)

○無事にロシアに到着。だが、当てが外れたことがいろいろある。

その1。モスクワまでは10時間。こんなに長かったかなあ。エコノミークラス症候群に苦しみつつ到着。隣りの席のロシア人は、ずっと寝ていた。あそこまで行くと才能だなあ。

その2。なんと空港に雪がほとんど残っていない。今年は暖冬なのである。摂氏0度って、全然平気じゃん!「手袋買わなきゃ!」と焦っていたのが馬鹿みたい。

その3。2年前に来たときは時差5時間と覚えていたのに、今は時差6時間。いろいろ朝令暮改があったらしく、アエロフロート内の表示が間違っていたりする。ドコモの携帯ではちゃんと6時間ずれているが、よそのスマホでは5時間差になっていたりする。

○逆によい方に当てが外れたこともある。

その4。1ルーブルが2円くらいである。2年前は3〜4円だった。ホテル内のイタリアンに入って、メニューを見た瞬間に強気になってしまった。ハードカレンシーの威力を見せるは今このときぞ。

その5。しかもワインを注文したら、堂々たるボルドーを出してくれた。おいこら、外国の贅沢品は輸入禁止になったんじゃないのか。遠慮なくいただく。

○明日は日ロ専門家会議の初日である。ウクライナ問題や東アジア情勢、日ロ関係についてどんな討議が飛び出すか。こうご期待。


<3月4日>(水)

○日露専門家会議の第一日目。チャタムハウスルール(会議中に得た情報を外部で引用してもいいが、発言者を特定してはならない)でありますので、誰それがこういうことを言っていた、と伝えることはできませんが、この会議に出たワシがどんなことを感じたか、と書くのは大目に見てもらえる。

○いろいろ討議して、いちばん印象に残るのが「ウクライナ問題って、なんてややこしいんだい」ということ。ほっとくと、かる〜く向こう10年くらい続きそうですね。この問題が続く限り、欧米とロシアの対立は解けず、しかもこの間にウクライナは政治的にも経済的にも壊れていく。

○東ウクライナにロシア軍が入っているというのは、どうやら事実なのでしょう。彼らは本気である。そしてウクライナ軍は異常なくらいに弱い。それこそ、ISILの前に敵前逃亡するイラク軍のように弱い。他方、NATO軍は本気で介入するつもりはない。だからどうしても戦闘行為では親ロシア派が勝つ。そしてアメリカは(オバマは)は本気じゃなくて、せいぜい武器を供与するくらいである。その辺はもうバレている。

○そこで西側は経済制裁に打って出る。ところが、欧米企業はあんまり本気で協力するつもりはない。日本企業はまじめに自主規制してますけど。そして経済制裁には以下のような問題点がある。

@気軽に行えてしまう。しかも対北朝鮮の金融制裁が成功してしまったために、アメリカは味を占めてしまった。お付き合いをさせられる企業の側としてはたまったものではない。

A止めるタイミングが難しい。「アイツは悪い奴だ!」と決めつけてしまったために、変えられなくなることが多々ある。

Bしかも経済制裁の効果は感知することが難しい。ますます止め時がわからなくなる。そして制裁は、仕掛けている方も損をする。

○ロシア側の西側に対するフラストレーションは相当なものがある。我々がルール違反だというのなら、欧米がやってきたこともいっぱいあるではないか。NATOの東方拡大、コソボ空爆、イラク戦争、ABM条約の一方的脱退、などなど。(それにしても、古いネタが多いような気もするが)。

○アメリカの国際ルール違反の多くは、私利私欲のためというよりは、世界のためにやむにやまれずにやっているところがある。(と言いつつ、その中には勘違いや行き過ぎも少なくない)。そこは超大国の矜持みたいなものがあって、だから皆が許している。たとえば南シナ海で中国が乗り出してくると、東南アジア諸国は「アメリカさん、よろしく」というモードになる。要は海洋航行の自由などの国際公共財を守ってくれるので、だからアメリカの身勝手は許されているところがある。

○最近はそれが薄れてきた。ISILはアメリカの中東政策の失敗で生まれたようなものなんだから、対策もキチンとやってほしいところだが、そこは完全に腰が引けている。気持ちはわかるけど、どうもリスクのないことだけをやっているように見える。それだとロシアを批判することができなくなる。

○夜は大使館でレセプション。時差があるので、早い時間に眠くなり、朝は滅法早く目が覚める。難しいもんです。


<3月5日>(木)

○今年は戦後70年。そこでロシアは5月9日に「対独勝利70周年式典」を予定している。オバマ大統領は早々と欠席を表明したが、外交の世界では「いったい、だれが出るんだ?」というひそひそ話が行われているようだ。この問題が難しいのは、9月3日には今度は中国が「抗日戦線勝利70周年」を予定しており、中ロの首脳が相互訪問することになっている。つまり、歴史問題における中ロ連携である。いやらしいよね。

○普通に考えたら、G7諸国がウクライナ問題でロシアに経済制裁している最中に、出席の是非を考えること自体が不謹慎、ということになる。ただし「それはそれ、これはこれ」。純粋な思考実験として考えてみると、2005年の60周年記念式典は、小泉首相がしらっと出席したという実績がある。だから、安倍さんが出たとしても、いちおう不思議ではないのである。

○来週はメルケル独首相が訪日する。そこで安倍さんとの間に「どうする?お宅、出る?出ない?」という密談が行われるだろう。「いっそのこと、日独伊3国で雁首揃えて出ちゃいましょうか」という選択肢ももなくはない。日本としては、ここで出ておくと、9月3日への対応が非常に楽になる。プーチンに恩を売ることにもなる。

○さらには5月9日と9月3日の2つの式典には、(戦勝国でも敗戦国でもないはずなのだが)韓国も出るらしい。それにひょっとすると、金正恩氏も来ちゃうかもしれない。そんなところで欠席裁判になるよりは、安倍さんがしらっと出て行って、「そうそう、ついでだからここで日韓首脳会談、やりませんか?」とモーションをかけてみるのも面白い。韓国が受ければ安倍さんの粘り勝ち、拒絶するようだと韓国外交の大敗北になることが予想され、王手飛車取りみたいで面白いよね。

○しかし、その手の外交戦術を考える以前に、「そもそもの歴史認識として、この話っておかしいだろ?」という指摘もある。下記ご参照。

2.7北方領土の日 歴史修正しているのは誰なのか 新潟県立大学教授・袴田茂樹

○1945年5月9日の時点では、日本は日ソ中立条約を守っていた。ソ連がドイツに勝てたのは、極東の軍隊を西方に投入できたからではないのか、ということである。ところがソ連は終戦間際になって対日開戦し、8月15日にポツダム宣言を受諾している日本から北方領土をかっさらっていった。火事場泥棒じゃないのか。と、この辺の事情、ややこしいので皆さん、頭の中で整理できていないことが多いのではないかと思います。

○さあ、この戦後70年外交ゲーム、何を得点と考え、何を失点と考えるべきなのか。日露専門家会議は本日で日程を終え、夜はグルジアワインを楽しんだのでありました。


<3月7日>(土)

○モスクワ最終日の昨日は、ロシア外務省と日本大使館を表敬訪問し、ついでにロシア料理も堪能し(そういえば1回もウオッカを飲まなかった)、アエロフロート機で帰ってまいりました。座席がとっても狭いので、10時間も固まっていると、無事に日本に帰ってきてからも、足が釣ってしまいそうで怖いです。

○ロシア研究については、またおいおい述べるとして、今日の時点でこれだけは言っておきたいというのは鳩山元首相がクリミア訪問を目指しているという件。早くパスポートを取り上げた方がいいと思います。元首相という肩書はそれなりに重いものがありますので、これ以上、ご自身の自己満足のために国益を毀損されてはかないません。

○というか、鳩山由紀夫さんは何しろお爺様の鳩山一郎さんのご意向がありますので、ロシアではそれなりに名が通っているのです。日露専門家会議でも、「鳩山首相はアメリカの意向で辞めさせられたではないですか」などという事実誤認発言が、ロシア側から飛び出したりするのです。ええ、もちろん強く打ち消しましたとも。日本側から、「あの人はもうまったく信用されていない。地元からも見放されて政治家も辞めたくらいです」とコメントをしております。

○とはいうものの、ロシア側としてはこの際、味方をしてくれる人なら何でもいい、みたいな切羽詰ったところがあります。放っておいたら、孤立が深まる一方。ウクライナ問題でロシアを支援しようという国は、これ以上は出てこないでしょう。でも、鳩山さんを呼ぶのはたぶん逆効果です。早く気付いてくれることを祈ります。その藁を掴んだものは、必ず溺れます。ほら、この人も言っているではありませんか。


<3月8日>(日)


○こんな言葉、てっきりもう死語だと思っておりましたが、それが最近のロシアでは復活している。以下はモスクワ・タイムズ紙から。

How Soviet Terms Are Creeping Back Into Russian
By Michele A. Berdy (Mar. 05 2015 18:15)

Use of the phrase пятая колонна (the fifth column, i.e., a group that undermines a nation/army/structure from within) peaked during the Great Patriotic War. After decades of dormancy, usage has picked up. Now in some political circles, пятая колонна, предатель (traitor), and оппозиция (opposition) are synonyms.

○つまりソビエト時代の言葉が復活していて、その中には「第五列」だの「売国奴」「反体制」などといったボキャブラリーが入っているとのこと。つまり、「わが国内にはスパイがいる。敵の策謀に乗せられてはなるまいぞ!」という警戒感が生じているわけで、今のロシア国内の雰囲気がよく表れていると思います。

○それにしても、第五列なんて言葉、若い人は知らんだろうなあ。


第五列
だいごれつ
fifth column

狭い意味では,侵入軍に呼応する被侵攻国内の組織的活動集団をいうが,広くはスパイや対敵協力者をさす。 1936〜39年のスペイン内戦において,フランコ軍の E.モラ将軍が「マドリードは内応者からなる第五列によって占領されるであろう」と述べ,4列縦隊である自分の部隊以外に協力者がいることを示唆したのが語源であるといわれる。

(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説)


○語源はスペイン内戦でありますから、日露戦争辺りを描くドラマで、「第五列の動きに注意せよ!」なんてセリフが出てきたとしたら、時代考証上のミスということになります。江戸時代のお侍さんが、「これにて一巻の終わり」などと言うのと同じ間違いになります。(『一巻の終わり』は映画用語が語源)。以上、余計な豆知識でした。

○2月27日深夜、有力野党指導者であるボリス・ネムチョフ氏がモスクワ中心街で暗殺された件も、普通に考えたら「すわ、プーチン政権の陰謀か」となるのだが、その場合、あまりにも手口が見え見えすぎる。さらに「政府系がやるときは毒殺、反政府系がやるときは銃撃」という過去のパターンもありまして、この事件、非常に謎が深いのであります。

○犯行現場にはネムツォフ氏のガールフレンドが居て、彼女はウクライナ人のモデル(写真を見るとむちゃくちゃ美人)なのである。犯行後に取り調べを受けていたのが、どうやら現在ではキエフに戻っているとのこと。誰が何のために、と考え出すとまことにきりがない。寄るとさわるとこの話が出るのだが、誰も決定的な情報を持っていない。そして犯行現場には、大量の花束が捧げられていた。ネムツォフ氏に対しては全体に「もう過去の人」という評価もあるのだが、他方では「ほかに広い支持を得られそうな野党指導者がいない」(ニューズウィーク誌)との指摘もある。

○ということで、ロシア国内はあんまり雰囲気がよろしくない。現地の日本人記者曰く。「当地では、テレビも新聞も連日のように欧米批判、ウクライナ叩きの報道ばかり。あれじゃ毎日プーチン大統領をヨイショしているようなもの。まだしも、ネット空間の方が理性的な議論をしているくらいです」。ネット上で過激な言辞が飛び交う日本は、まだしもマシということでしょうか。


<3月9日>(月)

○熟年離婚に踏み切った妻が、「いったい何が不満だったの?」と聞かれたときに、得てして挙げるのは10年くらい前の話であったりするのだそうだ。

○それを聴いた側はびっくりして、別に元夫の側の肩を持つつもりはないのだけれども、「そんなこと、みんなとっくに忘れているよ」とか、「なぜその時に文句を言わなかったの?」などと余計なことを聞いてしまうのだが、怒り心頭となっている元妻からは、はかばかしい答えは得られない。まあ、人生ってそんなもんじゃないのか、ということで納得するしかないのである。

○なんでいきなりそんな話が飛び出すかというと、ウクライナ問題でロシア側と議論していると、「そもそも西側だって散々ルールを破っているではないか」という不満が飛び出すのであるが、それが揃って10年以上前のことなのである。

「ドイツのコール首相は、東西ドイツの統合を認めてもらうときに、NATOの東方拡大をやらないと言っていた。それが今ではバルト三国はもとより、ウクライナまでNATOに入りかねない」(1989年)

「コソボ紛争のときはどうだったのか。西側は国連安保理の議決も経ずに空爆をしたのではなったか」(1998年)

「9/11同時多発テロ事件の時に、プーチン大統領はアメリカに対して寛大な申し出を行った。ところがアメリカは、ABM条約からの一方的脱退でそれに応えた」(2001年)

「そして何よりもイラク戦争だ。大量破壊兵器があると言っていたのは何だったのか」(2003年)

○ものの見事に10年以上前の話ばかりである。聴いているとついつい言いたくなる。「そんなこと、ほかの人はもうとっくの昔に忘れているよ」「なんでその時に言わなかったのよ」「アンタ、そのときはG8のメンバーだったでしょ」「今さら言い出すのはジャンケンの後出しじゃないの」。

○これらの言葉は、大抵は傷口に塩をすり込む類の行為であって、喉元まで出かかっても、なるべくなら黙っていた方がいい。言えば言うほど相手は傷ついて、ますます取り付くしまがなくなってしまう。ワシはそういうことをついつい口にして泥沼化してしまうタイプの人間なのだが、齢50を過ぎるとさすがに少しは人生の機微たるものがわかってくる。こういうときは、別に小賢しい理屈や、客観的なアドバイスを述べたりする必要はない。ふんふんと聞いてあげるだけでよろしいのである。

○つまりねえ、その時は自分が弱い立場だったから言えなかったのだよね。きっと、内心ではとっても辛かったのよ。だから今になってそれが許せないの。今ではトラウマになっていて、それが今回は吹き出してしまった。ということで、今のロシアはヒステリックな状態になっているようですから、当分は何を言っても聞く耳は持ってもらえなさそう。

○そうはいっても、安い石油価格は向こう20年くらい続くという見方もあって、そうなったときにはもうロシア経済は完全に詰んでるよ。え?その時は再び耐えるモードに戻るんですか? やっぱり怖いのはヒステリックなロシアではなくて、粛々とシベリアに向かって退却していくロシア軍でありますね。


<3月10日>(火)

○ロシアの出張報告をいろいろと書いてきたけれども、これだけはまだ書いていなかったのは、先方の役所を訪れた際の出来事である。今回のモスクワ訪問においては、ワシらはどこへいっても「ウクライナ問題以降、ウルトラナショナリストになっているロシア」を目の当たりにしたのであるが、なかでももっとも白熱したのは外務省第3アジア局を訪れた際のことである。

○いやもう、文字通り「水一杯」出なかった。それで双方が、「なぜ日本は経済制裁に参加したのか」「力による領土変更は認められない」などと激しい応酬を延々1時間以上も続けたのである。日本側の某ベテラン政治ジャーナリストが、「これだけ両国関係が冷え込んだのは、1976年の日ソ外相会談以来ではないか!」と呻いたほどであった。

○古い話で恐縮であるが、1976年というとソ連のベレンコ中尉が乗ったミグ25が日本に亡命した年である。当時のソ連は、「戦闘機には指一本触れずにそのまま返せ」とねじ込んできた。その当時もリベラル系の学者やメディアは、「ソ連の言う通りにしろ」と宥和策を主張した。しかるに、領空侵犯した上に函館空港に強制着陸した戦闘機を、そのまま先方にお返しするという法や国際常識は存在しなかった。当時の最新鋭機であったミグ25は、日米の専門家の手で分解されて、徹底的に調査分析されることとなった。

○その直後に行われた日ソ外相会談において、グロムイコ外相はもちろん激怒した。人よんで「ミスター・ニエット」は、小坂外相との間で激しい言葉を交わした。とはいえ、こういう場合にはよくあることだが、「お互いに相手が国家のために、そこまで言ってくることに対して敬意を表する」図式が成立したために、後腐れはほとんどなかった。それが証拠に、この1976年のことは皆が忘れている。ベレンコ中尉なんて、今頃どこでどうしているのよ、である(トム・クランシーの『レッドオクトーバーを追え』に助言しているんですって。ウィキ情報ですけど)

○逆にリベラル派の助言に従っていたとしたら、日本はえらい目に遭っていたはずである。ロシア人から見たら、自分が吹っかけた言い値をそのまま支払ってくる相手は、単なる「いいカモ」である。口では褒めあげるだろうが、心の中では相手を思い切り見下すだろう。「おお、ワタシとアナタ友達」という言葉の裏側には、いかなる敬意も存在しない。

○てなことで、ロシアを相手にする時は、この手の頑なな姿勢というのが大事なわけであります。その場限りの宥和策は、あんまりいい結果をもたらさないでしょう。逆に言えば、北方領土問題にこだわり続ける日本外交には、たぶん何がしかの尊敬の念が払われているはずである。


→後記:言わずもがなのことかもしれませんが、相手が望んでいる通りのことを口にしてしまう鳩ぽっぽさんなどは、きっと口先では褒め称えながら、腹の底ではとことん馬鹿にされているものと推察いたします)


○その一方で、経済発展省と極東発展省を訪れた際の印象は上とはまるで違っていた。これらの省庁では、ロシアの経済発展をめざし、日本からの投資を切に念願している。実務的な官僚が居て、ビジネスライクに仕事をしている。これはこれでロシア的な光景と言える。極東発展省などは、日本語の分厚いパワーポイント資料を用意していた(野村総研が手伝ったらしいが)。国全体がウクライナ問題でヒステリックになっていても、こういうプラグマチストたちもしっかり仕事をしている。ということは、いずれ正気に戻るときがくる。ワシ的にはそういう風に解釈したいと思う。


<3月12日>(木)

○千葉「正論」懇話会で浦安へ。考えてみたら、ちょうど3年前に訪れていた。当時はまだ民主党政権でありましたな。いろいろ変わったようで、変わってないようで。

○昨日は「3・11」から4周年でした。千葉県は立派な被災県で、旭市は津波が来たし、浦安市は液状化だったし、湾岸コンビナートは炎上していた。そして柏市はホットスポットになった。今はそういうことを忘れて生活している。忘れちゃいけないとはいえ、ある程度は忘れてしまわないと日々の生活がやっていられない。

○東京ディズニーランドが4月から値上げするとのこと。そうでないと、混雑し過ぎてサービスが行き届かないらしい。だったらそれは結構なこと。「人気はあるけど値段は据え置き」というのは、それがラーメン屋であれば心意気としてカッコいいですが、企業経営としては間違っていると思います。ホンネの話、ワシはラーメン二郎も値上げしたらいいと思うけど。

○夕方には日経調の懇親会へ。いろんな方とお話ししたのだが、そこで聞いた驚愕情報は以下の通り。

「秋葉原では最近、2つの売り上げが逆転した。その1は日本人と外国人。その2はハードとソフト」。

○秋葉原といえば、昔は日本人が電化製品を買いに来る街だったんですが、今では外国人がソフト(フィギュアからAKB48まで)を買いに来る街になってしまったんですねえ。これもまた、昔を忘れるからこそ変化ができるのでありましょう。


<3月13日>(金)

○東洋経済新報社が主宰している「経済倶楽部」という連続講演会がある。不肖かんべえも、過去に3回ほど講師として招いてもらっているが、この会には素晴らしい点が3つある。

○ひとつは頻度が高いということである。なにしろ毎週金曜日のお昼には、かならず東洋経済新報社の9階で実施している。これだけしょっちゅうやっていると、当代の名物講師はほとんどお声がかかる。なおかつ、その場で長く生き残るのは並大抵の苦労ではない。

○次に客層が良いということである。当会の会員は、ほとんどが70歳以上という高齢の方々なのだが、毎回のように聞きに来ておられるから、とにかく耳が肥えている。しかも元銀行員であったり元ジャーナリストであったり、レベルが非常に高く、質問も高度である。かつて、ワシが電力問題について講演したところ、「私はかつて新聞記者として、松永安左衛門にインタビューしたことがある」という人に出くわして、大変感動した記憶がある。

○3番目に、この会の議事録が素晴らしいのである。理事長さん(元・東洋経済新報社の社長さん)が、わざわざ自分でテープ起こしをまとめているくらいなので、とにかく実物以上に良い講演録が出来てしまう。講師としては、これが非常にありがたい。

○で、この講演録を読んでいたら、昨年11月28日号の「早く行きたいアベノミクスの向こう側――取戻したがり病につける薬は?」という浜矩子・同志社大学教授の講演録が載っていた。これがなかなかに噴飯モノなのである。

○どういう話であったかというと、エコノミストの講演でありながらほとんど数字は出てこない。とにかくアベノミクスはけしからん、自分は大嫌いだ、という内容なのであって、見出しを上げると、以下のようになる。


*サッチャー政権の末期に似てきた

*取り戻したがり病の恐ろしさ

*強い日本を取り戻すということ

*国家と国民の関係が逆転

*うさん臭い地方創生と女性活用

*日本は壊れたホットプレート状態

*異次元緩和で日本はミイラ化する

*最大の課題は貧困問題の解決

*矩を越えてはならない経済活動

*自国の通貨の価値を下げる愚行


○とまあ、講演内容はさておくといたしまして、問題はレベルの高い質疑応答の部分なのであります。最初に質問に立った人は、「前回アホノミクスとおっしゃったので、今回はドアホノミクスぐらいに強まるのではないかなと思いましたけれども(笑い)」などと受けを拾いながら、黒田日銀総裁はディズニー映画における『魔法使いの弟子』のように、円安を止められなくなっているのではないか、と尋ねている。

○これに対する浜先生のお答えが素晴らしい。

「ありうがとうございます。まさに黒田日銀総裁は魔法使いの弟子だと思いますね。非常にできの悪い弟子という感じです。(笑) 異次元緩和を始めたのはいいが終わり方が分からない。まったくそれもおっしゃるとおりだと思いますし、今の円安は彼らのコントロールを超えたところに入っていると思います。『魔法使いの弟子』というのはゲーテの詩の中に出てくる話ですが、ディズニー映画の「ファンタジア」ではミッキーマウスがその役をして、おさぼりでほうきに水をくませようとして魔法をかけて、ほうきはがんがん水をくんで、洪水のごとく水があふれかえっているのにそれを止められないから、おっしゃるように溺れ死ぬ。もうその段階に円安は来ていると思います。こんなペースでは120円がすぐそこに見えている。120円を超えたら150円までは一気に行く。150円を超えたら200円。この辺は完全に暴落で円に値段がつかないという方向に行く。そこの寸前まで来ていると思います」

○ワシが聴衆の中にいたら、おもわず「ええっ?」と声を上げるところである。1ドル200円ですか。そうなんですか。はい。

○そうしたら、客層がいいものだから、次の次にこんな質問者が登場するのである。

会員 アホノミクスということについては120%ぐらい先生のお説に賛成ですから、あちらこちらで私も使わせていただいているのですが、かつて先生は1ドル=50円説をおとりになって、そのときに通貨というのはその国の尊厳を表すものだから、50円になるほど日本の尊厳が高いとは思えないなと思ってお話に少し違和感がありました。あの説は今はどうお考えでしょうか

○いやー、いいご質問ですね。特に冒頭部分で、「120%賛成」と言っているところが技能賞です。これは講師としては、真面目に受けて立つしかありません。衆人環視の下、われらが浜先生のお答は以下の通りでした。

浜 私の考えは全然変わっておりません。自然体でいけばその辺に落ち着いていくだろうと考えています。しかしながら、これもアホノミクスの登場によって、本来向かうべき流れと全然違う流れが形成されてしまって、これは政策が明らかに意図的にもたらした円安志向です。円安をもたらすような金融政策、通貨政策が展開されているとなれば、今のようになっていくのは当たり前です。しかし、そういう政策要因を除去した状態を改めて眺めれば、1ドル=50円ぐらいのところが収まりどころだという考えは全然変わっておりません。

(中略)

変わっていないですが、いちばん最初のご質問とのかかわりで、であるにもかかわらず、取り返しのつかない方向で円の暴落、円の価値が消え去るという方向に向かうスピードがどんどん上がってしまっている。今そういう状況になっていると思います。だから、これを100年後ぐらいの人たちが分析するときには、あれよあれよという感じを持つと思いますね。こんなはずではないのに、こういうものが出てくるとこうなるかと。歴史に名を残す大失策といいますか、一大事件になるのではないか。

○えー、昔、浜先生が「1ドルは50円になりますわよ、おーほっほっほ」と笑っておられたときは、「そうなるから日本経済は地獄を見ることになりますわよ。ザマーミロ」という文脈でおっしゃっておられたと理解しておりましたのですが、今度は「1ドルは200円になりますわよ、黒田が悪いんだ、このどアホ」ということになったのでしょうか。いやもう、浜先生、少しFX取引とかやられてみてはいかがでしょうか。そうしたら、もうちょっと為替というものの現実が身に染みて感じられると思うのでありますが。どっとはらい。


<3月15日>(日)

○今日の北日本新聞を見ると、なんと1ページ目から13ページ目までが北陸新幹線開通の特集である。なにしろワシが富山市の小学生であった頃に始まった話である。「半世紀の悲願 県民歓喜」といういい方は、けっして大げさではないだろう。

○3月14日朝の富山市内はこんな感じだったらしい。


■04:30 一番列車見逃すな

 一番列車を一目見ようと、富山駅のみどりの窓口には、ホームへの入場券を買い求める行列ができ始めた。

 一方、富山空港では午前6時10分から搭乗手続きが始まった。職員がメッセージカードなどを利用客にプレゼント。北陸新幹線開業で競争激化は避けられないが、この日の第1便はほぼ満席。東京ディズニーランドに行く高岡市福岡町大滝、会社員、水野泰宏さん(36)は「運賃が安くなり、使いやすくなった」。

 日の出前から、富山市街と立山連峰を一望できる呉羽山の撮影スポットには市民や鉄道ファンが集まった。雲の間から朝日が差し込んだ6時17分、東京行きの一番列車「かがやき500号」が姿を見せると一斉にシャッター音が鳴った。父親と来た富山市北代、鎌田のどかさん(10)は「寒かったけど、立山と新幹線が一緒に見られて良かった」。


■06:18 ホーム混雑、大わらわ

 県都に悲願の瞬間が訪れた。東京行きの「かがやき500号」が無数のフラッシュを浴びながら富山駅のホームに滑り込む。「気持ちは分かりますが、ホーム柵から身を乗り出さないでください」。警備員が声を張り上げた。“夢切符”を手にした人々を乗せた一番列車は「これからよろしく」と言わんばかりに、警笛を鳴らして発車した。


○考えてみれば、この週末は天気が良くてよかったですなあ。気になる乗車率は、初日は「かがやき、はくたかともに午前の指定席がほぼ満席(1編成の定員は934人)で、全席指定のかがやきは午後も満席に近い状態」であったそうです。ということは、今後は満席で切符が取れない、ということはさすがにないでしょう。北陸への旅行をご検討中の方はこちらをご参照ください。

○余計なことだが、今日の北日本新聞では14ページ目にワシが書いたコラムが載っている。輪番制で書いているのだが、たまたま今日の担当となった。当然、新幹線がらみの記事を書かねばならないのだが、このコラムは他の地方紙にも掲載されているので、単純に「おめでとう北陸新幹線」とも書きにくい。そこで、「鉄道が変えた日本」などと、ちょっとひねった書き方をしておるのです。


<3月16日>(月)

○毎日新聞「時論フォーラム」の最終回を収録。一橋大学の秋山先生、フリーライターの森さんと3人で久々に鼎談。テーマはまだ内緒(掲載は3月26日の予定)。

○なんだかんだでこの顔ぶれ、2年も続きました。ともに語るにせよ、ともに書き比べるにせよ、面白い顔合わせだったのだと思います。今宵は飲み会もついていたので、サッカーの話やらクロネコヤマトの話まで、いろいろ飛び交ってエンジョイいたしました。

○毎日新聞の路線からすると、「え?なんで、この人たちが論壇時評をやってるの?」という感じがあったかもしれません。まあ、その辺が毎日新聞という会社のちょっとユニークなところでありまして。引き続きお付き合いできればと思っております。


<3月17日>(火)

○慶応大学の三田校舎に行ったら、日当たりのよい場所では桜がほころんでおりました。いいですねえ。で、今日は電力研究シンポジウムに参加。公益事業学会国際環境経済研究所の合同プロジェクトである。テーマは「電力システム改革と原子力の国民的価値」

○今朝の日経の経済教室で橘川武郎先生が書いていたけれども、安倍内閣の原子力政策は腰が引けている。選挙のたびに言葉を濁し、来月の統一地方選挙もスルーするんだが、その後は6月にドイツで行われるサミットでは温暖化ガスの排出規制の目標を持っていかなければならない。ということは、4月末から6月初旬までの一発勝負で、2030年の電力構成をエイヤッと決めなければならない。なおかつ、その時期は安全保障法制の論議で公明党に譲歩しなければならないので、再生可能エネルギー比率が30%になってしまう、という見通しもあるとのこと。

○こんな風に、原子力の位置づけが決まらない状態で、電力の自由化だけが進むっていうのは、とっても怖い事ではないかと思う。この2つの組み合わせは、いわば不適当なポリシーミックスであって、ちょうど1990年代後半の金融システム不安の問題を髣髴とさせる。以下、当時の金融問題と今のエネルギー問題を比較してみましょう。怖いくらいによく似ている。

1990年代の金融システム問題 テーマ 2010年代のエネルギー問題
不良債権問題があって、銀行経営が危ないと知っていながら、金融ビッグバンをやってしまった ポリシーミックス 原発再稼働が出来なくて、電力会社の経営に不安があると知っていながら、電力自由化を進めようとしている
当時の金融界は、そんなことをしたら貸し渋り、貸し剥がしが起きて大変だと知っていた 現場の声 現在の電力会社は、そんなことをしたら電力供給に責任が持てなくなると思って危ぶんでいる
ところが当時の銀行は不祥事が続出で、全く信用されていなかった 悪役の存在 今の電力会社も、震災以降は信用を失っていて、話を聞いてもらえない
「不良債権問題の裏にはヤクザが居るらしいから怖いコワイ」という認識もあった 誤解 原発について真面目に考えることに対して、国民全体はもちろんのこと、政府も腰が引けてしまっている
ビッグバン(金融システム改革)は、「橋本政権6大改革の一環」ということで無条件支持 マスコミの社説 電力自由化になると再生可能エネルギーの普及が増えるらしいから、ということでなんとなく支持
金融不安を抱えた中での金融開国(Free, Fair, Global)はリスクが高過ぎた 実態 電力供給に不安がある中での自由化や発送電分離は、今後の投資不足などのリスクが高過ぎる
時価会計などの新制度への対応のために、リスク許容度が極点に低下 ビジネス界 やっぱりこんな国ではモノ作りはできないね、という認識が広がる恐れあり。
銀行は再編を急ぐ以外には、意思決定の自由度はほとんどなし。結果としてメガバンクが誕生 当事者たち 意思決定の自由度はほとんどなし。結果として電力やガス業界の再編は進むかも
不良債権問題が深刻化し、1998年から消費者物価は連続してマイナスに 短期的影響 下手をするとエネルギーの安定供給が損なわれてしまう (火力発電所は近年の酷使でそろそろ危ないです)
銀行への公的資金の注入が必要であったが、世論の反発が強くて時間がかかった 特効薬 原発の再稼働が急務だと思われるが、世論の反発が怖くて及び腰である
やっと金融不安が終わった2005年頃から今後は人口減少が始まり、デフレは長期化 長期的懸念 エネルギー供給への不安が長期化することで、製造業の経営判断が極度に保守的になってしまうかも
不明。財務省も銀行もマスコミもみ〜んな悪かった。でも誰も反省していない 責任の所在 不明。誰を責めたらいいのか良くわからない。かつての民主党関係者も今では他人事モードだし


○以上、「私は門外漢ですから、空気の読めない社外取締役がわけのわからないことを言っている、くらいのつもりで聞いてください」という前置きで語ったのですが、意外とみなさん、真剣に聞いておられたような気がします。それにしても、わが国は失敗から学習しない国でありますなあ。


<3月18日>(水)

○今日は大阪府経営合理化協会で講演会。ここの会長さんは、西川雅夫・セキセイ株式会社会長という真面目な人なのだが、『なんでやねん』という妙な本を出している。

○たとえばこんな具合である。(以下はセキセイ社発売の『2015「なんでやねん」手帳』から抜粋)


*中華は縦向きに、和食は横向きに、お箸を置くのは、なんでやねん

*「メーカー希望小売価格」・・・希望通りの価格になっていないのは、なんでやねん

*「50音順」・・・ひらがなを数えたら「46音」しかないのは、なんでやねん

*喫煙率が下がっている調査結果が出ているのにタバコの売り上げが増えているのは、なんでやねん

*どんな会合でも、やたら外資系ライフプランナーに出会うのは、なんでやねん

*銀行の貸し出しが短期貸し出しより長期の方がレートが低いのは、なんでやねん

*児童数が減りだしたのに、教師の数が増えていくのは、なんでやねん

*自分が出演したテレビ番組をDVDにして人に配ろうと思うと著作権使用料を支払わないといけないのは、なんでやねん

*ラーメンは汁に麺を入れるが、うどんは麺に汁をいれるのは、なんでやねん

*中華料理「活あわび」より「ほしアワビ」が高いのは、なんでやねん

*アイスクリームに賞味期限がないのは、なんでやねん


○どうです、深いでしょ〜。「良い問いは答えよりも重要」と申しますけれども、こういう問いを発していくことが、脳を活性化して、アイデアを生むのであります。

○そこでついでにこんなのを考えてみました。


*5月17日の住民投票で、「都構想」が賛成多数になっても、名前は「大阪府」のままだというのは、なんでやねん

*神奈川県と横浜市では問題になっていないのに、大阪府と大阪市では「二重行政」が大問題になるのは、なんでやねん

*大阪市が解体されて5つの特別区ができる際に、企業がたくさんある中央区や西区が西成区と一緒になるのは、なんでやねん


○先日お会いした民主党の某有力政治家が、この5月17日の住民投票の動静をいたく意識しておられましたが、果てさてどんな結果となりますのか。そして大阪はこれからどうなるのか、府(歩)が都(と)になって成金になるのか、それとも市が都になって「使途不明」になるのか。はたまた維新の会は、これからどうなっていくのでありましょうや・・・・?

○ということで駆け足の日帰り出張でありましたが、新大阪駅で蓬莱屋の豚まんを並ばずに買えるスポットを発見。慌ただしく4個入りを680円でゲット。思わず顔がほころぶのであった。


<3月19日>(木)

○お昼に如水会館まで行ったので、ついでにちょこっとだけ国立公文書館を覗いてきました。なにしろ、「JFK その生涯と遺産展」をやっておりますのでね。

○ケネディの生涯については、一通りのことは知っているつもりでありましたが、「キューバ危機の時に、司法長官だったロバート・ケネディが残した『東條の気持ちが分かる』メモ」の現物があったのには驚きましたな。それから、「オーバルルームでかくれんぼして遊ぶケネディの娘たち」の写真は、その当人が今では駐日アメリカ大使として東京で暮らしている、ということを考えると感無量なものがあります。

○大統領就任演説のビデオはもちろん流れておりますが、今見ると"Ask not what your country can do for you....."のくだりも、それほどの高揚感なしに淡々と読み上げられているのですね。なにしろ、テレプロンプターなどなかった時代ですので。2008年のオバマ演説や聴衆の熱狂的な反応を散々見たり聞いたりした後の今の感覚からすると、「あれっ、こんな感じだったの?」と思うかもしれません。

○ジョン・F・ケネディは、いろんな意味で日本を気にしてくれたアメリカ大統領でした。上杉鷹山を尊敬していた、などというのはちょっと嘘くさいですが、日本に関心を持ち続けてくれたアメリカ人であったことは間違いありません。そのことは、長女のキャロライン氏にも引き継がれているわけですが、今日の展示を見てみると、「ああ、そうか、彼は米国海軍の士官として日本と戦った経験が原点だったのか」ということに気づかされます。彼が率いた魚雷艇が日本海軍の駆逐艦と接触して沈没し、九死に一生を得て戦場の英雄になった、というのが政治家JFKの出発点でした。

○その際に、大学時代に痛めた背中の傷がさらに悪化し、薬を飲み続けた副作用により、見た目が浅黒くなった。このことが、1960年選挙の際には「日焼けしたスポーツマン」に見えて、ニクソンに対する勝因の一つとなった。さらにこの薬は性欲を昂進する作用もあったとかで、マリリン・モンローとの浮名などの数々の伝説を残すこととなった・・・・てなことまでは展示はありませんので念のため。

○ちなみに入場は無料でありますぞ。なんだか申し訳ない気がしたんで、12枚のケネディ関連絵ハガキを買って帰りました。


<3月20日>(金)

○本日は東京富山県人会の年次総会へ。文京区白山に県人会のビルがあって、都営三田線の白山駅から徒歩3分の好位置にある。その1階には北陸銀行白山支店が入っている。

○なんでここに富山県関係のものがあるんだろう、というのがワシの長年の疑問であったのだが、答えは実に簡単であった。この辺はその昔、加賀前田藩の勢力範囲であって、今の東京大学は昔の加賀藩邸である。そもそも「白山」という地名からして、「石川県の白山」に語源があるのだそうだ。つまり古来から北陸関係者の勢力圏であったわけである。しかるに、そのことはほとんどの人が知らない。つまり北陸出身者というものは、昔から敢えて自らのプレゼンスを低く保つような性向があったのかもしれない。

○それが北陸新幹線開通ということで、今は全国的に北陸のプレゼンスが急速に高まっている。たまたま今日になって気づいたのだが、都道府県別の有効求人倍率をみると、北陸が非常に高くなっている。おそらく今の日本で、最も人手不足が深刻であるのが、北陸3県でありましょう。

○ご参考までに、以下は今年1月時点の数値であります。

@東京都 1.67倍

A愛知県 1.55倍

A福井県 1.55倍

C福島県 1.54倍

D石川県 1.52倍

E富山県 1.44倍

F岡山県 1.42倍

G広島県 1.37倍

G岐阜県 1.37倍

I宮城県 1.35倍


<3月22日>(日)

○そろそろ4月の予定はどうなっているのか、と気になってこんなものを作ってみました。


4月4日    「異次元の金融緩和」開始から2年
4月初旬   2015年度予算成立
4月8-9日  天皇皇后両陛下がパラオを訪問
4月12日   統一地方選挙(道府県・政令指定都市の首長&議員)
4月21-23日 アジアアフリカ会議(ジャカルタ)=バンドン会議60周年
4月26日   統一地方選挙(その他市町村の首長&議員)
4月26日〜  安倍首相が訪米。28日日米首脳会談、29日議会演説
4月30日   日銀が金融政策決定会合&物価展望レポート
5月初旬   安全保障法制関連の審議始まる
5月7日    英国総選挙
5月9日    ロシアが対独戦勝利70周年記念式典
5月17日   大阪都構想で住民投票
5月下旬  温暖化ガス削減目標、最終提出期限(2030年電源構成)
6月7-8日  G7サミット(ドイツ・エルマウ城)→2016年は日本が議長国
6月24日   通常国会会期末→大幅延長の公算大


○てっきり4月は統一地方選挙と金融政策が焦点かと思ってましたが、統一地方選挙で知事選挙が与野党対決になるのは北海道と大分県のみ。金融政策では「2年で2%」の物価目標の先送りがありそうだけど、それはもう少し先でもよさそうに思える。ということで、むしろ4月は外交の季節なんじゃないかと思えてきました。

○ひとつはこの週末に、日中韓外相会談が成立したということ。そういう動きがあることは承知していたけれども、ホントにできるかどうかは半信半疑でした。でも、本日から日韓友好議連の額賀会長が訪韓するとか、明日から自民・公明の谷垣&井上両幹事長が訪中するといった予定が以前から組まれていたところを見ると、かなり前から水面下の努力が行われていた模様です。ということは、日中韓の首脳会談も早期に開催されるのでありましょう。

○次なる注目点はジャカルタで行われるアジア・アフリカ会議です。バンドン会議60周年ということですから、ここで安倍首相が何を語るかが注目されます。何かと注目されている「戦後70年談話」というものは、なにも8月15日に限ったことではなくて、このジャカルタを第1弾「アジア編」として、次はアメリカで第2弾をやり、最後に終戦記念日に国内向けをやる、といった風に何回かに分けるという手はどうでしょうかね。

○ちなみにこのアジアアフリカ会議には、この人によれば金正恩さんが来ちゃうかもしれないとのこと。お祖父さんである金日成主席のひそみに倣うとのことで、それを言ったら安倍さんもお祖父さんである岸信介首相の前例に沿って、4月の訪米では米議会で演説することになるらしい。さて、日朝首脳会談は成立するのでしょうか。

○安倍首相は4月26日から訪米し、どうやらシリコンバレーを訪れるらしい。それからワシントンに入って28日に日米首脳会談、翌29日に米合同議会演説を行う。岸首相、池田首相も米議会演説はやっているけれども、上下両院の合同というのは今回が初めて。ここで何を語るかが悩ましいところですが、たぶん昨年7月に豪州で行った戦後和解演説が下敷きになるのでありましょう。ワシはこの演説の中の以下のくだりが好きだ。


皆様、戦後を、それ以前の時代に対する痛切な反省とともに始めた日本人は、平和をひたぶるに、ただひたぶるに願って、今日まで歩んできました。20世紀の惨禍を、二度と繰り返させまい。日本が立てた戦後の誓いはいまに生き、今後も変わるところがなく、かつその点に、一切疑問の余地はありません。


○70年前のことをとやかく言う人たちに対しては、その後の70年をよく見てください。われわれ、何にも変なことはしてないでしょ、と自信を持って言うことができる。そしてこの不戦の70年間は、80年、90年と続けていくことができる。そこをはしっかりと見ていてくださいまし、てなことが対米メッセージになるのではないかと勝手に推察しております。

○さらに5月9日のロシアの対独戦勝利70周年記念式典は、メルケル首相が欠席(ただし5月10日に献花に訪れるとのロシア向けオファーあり)を表明したので、安倍首相が出席する確率は相当に低下したと見るべきでしょう。でも、岸田外相の代理出席という可能性は、まだ残っているんじゃないでしょうか。ほかにもいろいろありますが、4月は外交日程に注目です。


<3月23日>(月)

今日のモーサテ、月曜トークのネタは「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)でした。いやあ、それにしてもイギリスをはじめとする西側諸国が次々とチャイナマネーに転んでおります。これではアメリカ様の面目は丸つぶれ。ソフトパワー外交が小切手外交に敗れたり、という構図であります。しかもAIIBに参加を決める際に、イギリスはアメリカに対して事前通告をしていないらしい。仁義を欠いております。米英の「特別な関係」はどこへ行ったのでありましょうか。

○アメリカ外交としては悩ましいところです。マイナーなシェアでもいいから、AIIBに参加するという手がなくもないのだが、それはおそらく米国議会が認めてくれない。なにしろIMF改革などのごく初歩的な問題さえ、通してくれなかったという経緯がある。

○ではここで日本もアメリカを見捨てて、中国の元へ馳せ参じることができるかといえば、いささかタイミングを逸している感を否めません。バスに乗り遅れるなという声が出るときは、むしろバスに飛び乗って変なところに連れて行かれないように気を付けるべきでしょう。

○ちなみに今日のオマケは、NYの池谷キャスターとともに桜論議や松田聖子論、米国経済、不動産市場などを語っております。

○今日の経済視点は「上方修正(月例報告)」としました。今日は3月の月例経済報告が出たのですが、結局以下のように文言が変更になりました。

2月:景気は、個人消費などに弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている(→)。

3月:景気は、企業部門に改善がみられるなど、緩やかな回復基調が続いている(↑)。

○これで昨年7月から実に8か月ぶりの上方修正。なおかつ、この間には2期連続の下方修正という「黒歴史」もありました。この辺のことをいったんリセットして、新年度を迎えたいものであります。


<3月24日>(火)

○今日は産経新聞のエネルギーを考えるシンポジウムに出席。パネリストの中川恵一先生の話がとっても面白かったので、少しだけメモ。中川先生は東大病院放射線科のお医者さんで、以前、とある朝食会で隣に座った際に、こういう小冊子を頂戴したことがある。がんに関するさまざまな誤解が消えるというスグレモノであります。

○で、その中川先生が語る内容がすごく納得のゆくものであった。


*日本人の死因でがんが多いのは、ほかの病気にかからなくなったからである。

*戦前の死因の第1位は結核だった。それが減ったのは、ストレプトマイシンなどの抗生物質が発明されたからというより、高度経済成長で栄養状況が良くなったから。

*戦後の死因の第1位は脳卒中。これも日本人が肉を食べるようになって、血管が強くなってから減った。コレステロールも少し高いくらいの方が良いのだそうだ。

*かくして日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで死ぬ時代となった。とはいえ、早期発見すれば6割は治る。がんはけっして怖い病気ではない。

*世界の国の平均寿命を比べると、一人当たりGDPと見事な相関関係が生じる。豊かな国ほど長生きである。日本はGDP以上に長生きだが、それは国民皆保険制のおかげ。

*日本の政令指定都市の中で、一番長寿なのは広島市である。それは被爆者手帳がいきわたっていて、タダで治療を受けられる人が多かったから。


○放射線とがんの関係とか、福島の現状に関する部分は、いろいろ意見の分かれるところかもしれないので、ここでは割愛。まあ、そのうち産経新聞の紙面に出ますので、そちらでご参照ください。それはさておき、「病気は経済状況次第」という指摘はきっと正しいのだと思う。

○「怖い」と思っている事に関する情報は、普段から耳に入らなくなってしまう。だから不正確な知識が広がってしまう。でも、専門家に聞くとまったく違う「常識」が浮かび上がってくる。がんについても原子力についても、そういう傾向が強いような気がします。


<3月25日>(水)

○花粉症の薬がとうとう切れてしまったので、会社を半日休んで耳鼻咽喉科へ。たっぷり待たされたので、かねてから積読状態にあった伊藤隆敏著『日本財政「最後の選択」』(日本経済新聞出版社)を読む。

○本書が紹介するシミュレーションの結論はシンプルである。「消費税率は少なくとも15%まで引き上げなくては、2020年代半ばに財政危機が起きるケースが多い。消費税率を20%まで引き上げれば、ほとんどのケースで維持可能」

○なーんだ、それで日本政府の財政危機が避けられるのか、と考えたら、なんだか拍子抜けしましたな。とにかく消費税率20%があれば、成長率や利子率など他のパラメーターがどうなっても、回避できてしまうのだそうです。もちろん「消費税8%でもキツイのに、20%だなんてとんでもない!」と思われる方が多数派であることは、いちおう承知しておりますけれども。あ、ちなみに「軽減税率」みたいな筋ワル政策はやっちゃダメですよ。それだと20%でも足りなくなってしまいます。あとはマイナンバー制などを総動員して、所得税や法人税などもしっかりと取らなければならないでしょう。

○消費税率にもラッファーカーブのようなものがあって、税率が高過ぎるとかえって税収が減ってしまうポイントがある。それはたぶん25%くらいだろう、という指摘も面白い。日本の場合は税率がそこまで高くないから、税収拡大余地(Fiscal Space)がある。だからこそ、長期金利急騰リスクを避けられている。逆に言えば、日本政治にはそれを上げる能力がない、という認識ができた場合にはどうなるかわからない。

○著者の伊藤先生は国際機関の内幕もよくご存知なので、日本で財政危機が起きたときの推察がまた示唆に富んでいる。「IMFや日本以外のG7、投資銀行などから、さまざまな危機管理のアドバイスが寄せられるだろう」が、「それらのアドバイスがかならずしも日本国民の利益(損害最小化)に資するとは限らない」。「国有財産を売却することも勧められるが、急激な資産売却では投げ売りに近いこととなって・・・・その叩き売り価格で売りに出されたものを買うのが、先に言及した『提案者』の関連機関であったりする」。いやー、目に浮かぶようでありますな。とにかく、「財政問題で日本が慌てふためくような事態を招いちゃいけない」というのがいちばんの教えとなります。

○財政危機になって海外からの介入を受けるくらいならば、まだしも日銀による「財政ファイナンス」でインフレを招く方がマシ、という腹のくくり方にも賛同したいと思います。実際問題として、日本の場合は国際収支の危機は起きそうもないので、あるとしたら純粋な財政危機ですからね。――ところで「財政ファイナンス」という呼び方、今では完全に定着しておりますけれども、私はむしろ正確に「財政赤字ファイナンス」と呼ぶべきではないかと思います。だって「財政ファイナンス」という言葉を英語にすると、"Financial Finance"になっちゃうじゃあございませんか。

○伊藤隆敏先生の本を読んでいると、「黒田総裁はだいたいこの線で考えているんだろうなあ・・・」というのが見えてくる気がします。なにしろ黒田財務官時代の副財務官が伊藤先生ですから。本書の中には、黒田財務官が格付け機関に対して異議申し立て書簡を送る話が出てきますが、この部分は伊藤先生がドラフトを書いていたのかもしれませんね。ともあれ、「増税とデフレ脱却は両立する」と考えている点で黒田&伊藤は一致していて、この点でお二人はリフレ派とは一線を画しているように思えます。むしろインフレターゲット派と呼ぶのが適切なのでしょう。

○かくして待合室で1時間以上待たされた後で、治療はほんの1分間で終了。耳鼻咽喉科の支払いは500円で、薬代は約5000円という金額からいっても、そういうものなのでしょうなあ。ともあれ、世界に冠たる国民皆保険制を守っていくためにも、財政危機を招いてはなりませぬ。本書に学ぶことまことに大でありました。


<3月27日>(金)

○昨日、統一地方選挙の第1陣、知事選が公示されました。とはいえ、盛り上がらないこと甚だしい。与野党対決となるのは北海道と大分のみ。ほとんどの選挙区が「相乗り」である。いくら不肖かんべえが選挙オタクといえども、こんな選挙じゃあ燃え(萌え?)ません。

○そもそも今では、「統一」になっていないんですよねえ。もともと、投票率を上げるために無理して1か所に集めた仕組みなのに、いろんな理由で今では地方選挙の3割程度しか網羅していない。前回からは、地方選挙の頂点たる東京都知事選もこのサイクルから離れてしまった。

○民主党よしっかりせよ、という声もあるのだが、そりゃあお気の毒というものである。国会論戦などで小さな得点をコツコツと積み上げても、鳩山さんのクリミア漫遊一発で党のイメージは大きく地に堕ちる。せっせと現場がコスト削減努力をしている間に、いきなり為替が10円くらい円高に振れてしまうようなものである。議員さんたちが、「早いとこどこかと合流して、党名を変えた方がいいのかなあ」と弱気になったとしても、個人的にはあんまり責める気にはなりませんな。

○これでは今週末の報道番組は、選挙ネタよりも「大塚家具」でしょう。「親子の相克」って、日本人は好きですから。株主総会でお父さんの会長が娘の社長に挑戦する。で、「かぐや姫」が勝利する。いやー、いいですねえ、絵になりますねえ。そして皆の期待通りの展開だと思います。

親子の対決は、原則として子供が勝つべきです。星一徹が星飛雄馬に挑戦を挑むのはいいけれども、それでホントに勝っちゃったら拙いでしょ。親は敢えて斬られ役になって、子に乗り越えられてしまうのがいちばんの幸福というものです。この国ではいろんな職業が「世襲」で成り立っていますから、そこのところは皆のコンセンサスなんじゃないかと思います。

○願わくば、今回の騒ぎがフリーのパブリシティになって、大塚家具に客が戻ってきて業績も急回復。そこで親子の和解があったりすると、皆が喜ぶ大団円となるのでありますが、そうはいかんでしょうなあ。なにより、会長さんが素直に引っ込むとは思われない。親子の相克というものは、ひとつ間違えれば泥沼になってしまう。その怖さが分かっているからこそ、大塚家具の事例は日本国民の関心事となる。ああよかった、うちは「家業」がなくって。


<3月28日>(土)

○昨日の続き。

○今、中小企業では倒産件数が減っている。2月はわずか692件と24年ぶりの低水準であった。2014年通算でも9731件(1兆8740億円)と極めて少ない水準となっている。金融緩和の効果が浸透しているからとはいえ、日本の総企業数約385万社(2012年)に比べればかなり少ない。

○ところで日本の企業数=中小企業の数であることは良く知られている。ほぼ99.7%が中小企業である。で、ワシはこの中小企業の数を430万社と記憶していた。いつの間に50万社近くも減ったのよ。倒産件数は年間1万件ペースであるというのに。

○そこで中小企業白書をチェックしてみたら、なんと年間3万社弱が休廃業・解散しているではないか。白書によれば、廃業を決断した理由の約半分が「経営者の高齢化、健康の問題」となっている。平和な形で、かなり大がかりな規模で中小零細企業の淘汰が起きている様子である。

○事業承継については、かつては大半が「親族」であったが、今はそれが4割程度に減っていて、「内部昇格」があと一歩まで迫っている。1割程度だが、「外部招へい」という選択肢もある。

○こうしてみると、事業承継をめぐる親子のドラマは、全国のあちらこちらで同時発生していると見るのが妥当でありましょう。

→追記:その後、お昼に柏市松葉町のうどん屋さんに出かけたところ、「厨房機器が壊れたので閉店します」との看板あり。ああ、ここも自主廃業を選択されたわけです。たぶん厨房機器を新設しても、回収するだけの利益が得られないってことなんでしょうね。「今なら退職金も払えるし、誰にも迷惑をかけないで済む」と考えられたのかもしれません。仕方なしに近所の中華へ行きましたが、そっちは非常に混んでました)


<3月29日>(日)

○今日、初めて北陸新幹線に乗ってびっくりしたこと。それは上野駅の20番ホーム。要するにこんな感じなんですよ。


16:14 あさま 長野行き

16:18 やまびこ 仙台行き

16:26 はやぶさ・こまち 新青森/秋田行き

16:30 かがやき 金沢行き

16:34 はやて 新青森行き

16:38 とき 新潟行き


○これらが全部1本のホームに到着して、次々と発車するわけです。行先は東北新幹線、秋田新幹線、山形新幹線、上越新幹線、北陸新幹線(含む長野行き)、となります。ほとんど5分おきに入ってくるわけですから、こりゃあ紛らわしいですよ。大丈夫なんですかねえ。

○最悪、違ったものに乗ったときは、次の大宮駅で乗り換えるという裏技があります。まあ、ともあれ上野駅の地下ホームでは、くれぐれも気を付けましょう。幸い、車両の形はひとつずつ違うので、見分けはつきやすい。北陸新幹線はブルーにゴールドのストライプ入りです。


<3月30日>(月)

○本日の富山市は春らしい好天。ただし朝方に訪れた松川べりの桜は、まだつぼみ程度。夕方のニュースでは、「ほころび始めました」と力説していたけど、ホントかなあ。空はもやがかかっていて、今日は立山連峰はあんまり良く見えません。県外からの観光客の方々には恐縮なれど、あれは「運が良ければ見える」という程度のもので、いつも広告のようにくっきり見えるものではないのであります。

○それにしても富山駅は見違えるようになっている。確かに新幹線ホームがある駅というのは、ふつうのJRの駅に比べて格段に立派に見える。往時の富山駅を知る者としては隔世の感あり。市電がちゃんと駅の構内に入っていたのには驚きましたな。もっとも、駅の北側のライトレールと相互乗り入れするという計画は、さすがにまだ実現していない。これは難工事になりますぞ。

○駅の北側がLEDで夜景をきれいに飾っている。察するに「おもてなし」しなきゃいかんということで、ずいぶんと力が入った模様。昔は汚い運河があるだけだったが、今ではお洒落な環水公園ができている。ここのスタバは、平日の昼間だというのに行列ができておりましたな。さらには県立富山近代美術館が引っ越してくる予定。新幹線効果は、確実に街を変えつつある様子である。








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by Tatsuhiko Yoshizaki