●かんべえの不規則発言



2017年3月





<3月1日>(水)

○いやあ、畏れ入りました。トランプさん、やるじゃないの。今日の議会合同演説は、一般教書演説の「お作法」にのっとった見事なものでした。あんな風にふるまわれると、ちゃんと大統領らしく見えるのだから不思議なものだ。てっきり今日は馬脚を現して、午後から株価は下げるんじゃないかと思っておりました。とりあえず就任半年後に弾劾されてしまうとか、1年後に政権を放り出すような感じではないらしい。それは大いに結構なことで、アメリカ大統領がそんなことでは困ってしまうし、「逆張り」で思い切りトランプさんに賭けた我らが安倍外交もホッと一安心ということになる。

○今宵、「BSフジ プライムニュース」でご一緒した中林美恵子さんは、「きっと今回は真面目にやるだろうと思っていた」と言ってました。それくらい、今の共和党内には緊張感があるのだ、ということのようです。今日は2時間の長尺をご一緒して、とっても勉強になりました。

○ところで以下は本日、共同通信の取材に対して出したコメントです。


あいまいさに安定の余地
日本に防衛費増要求も

双日総研チーフエコノミスト 吉崎達彦

 トランプ米大統領の施政方針演説を聞いて「やればできる」「ずいぶんと大人の発言になった」と驚いた。市場では輸出の課税を免除して輸入課税を強化する「法人税の国境調整」に言及するという予想がもっぱらだったが、大統領はそのような枝葉の議論には踏み込まなかった。


 これまで黒人のことなど考えていない印象だったが、出だしから公民権運動について言及したし、メラニア夫人のそばには黒人女性が座らせていた。新薬の認可を巡る規制緩和によって病気に立ち向かう若い女性も紹介するなど民主党議員も起立して拍手する場面をつくり、過去の大統領演説のように党派を超える演出がトランプ氏の微妙な変化を感じさせる。何より、これまで欠けていた米国大統領らしい「明るさ」が出てきたことを評価したい。

 演説の末尾で「米国をもう一度信じよう」と呼び掛けた部分は、歴代の一般教書演説だと言われても違和感はない。全体として選挙戦や就任演説の攻撃性や排他性を軌道修正したようだ。政権発足から1カ月余りが経過して、大統領の周辺でもバランス感覚が働いてきたのではないか。

 演説の中で、トランプ氏が具体的な数字を表明したのはインフラ整備に官民の資金1兆ドル(約113兆円)を投資する法律の制定を議会に求めた点だけで、焦点の中間層に対する減税の規模や国防費の増強で具体性に欠けるとの指摘する向きもあるかもしれない。


 しかし、私はむしろ、トランプ氏があまり詳細に語って自縄自縛に陥る展開を避けることができると考えている。大きな方向性だけを示すことにより、米政府内や議会との調整で落としどころを探る安定の余地を残したと評価したい。演説を聴いて一番安堵したのは共和党議員だったのではないか。この演説を基調とすれば、米議会もトランプ政権と距離を縮めていく芽が出てくる。


 ただ、今回の演説でも「米国第1主義」の考え方は変わっていない。「自由(フリー)貿易よりも公正(フェア)な貿易を」といった言葉も不気味に響く。トランプ氏は自らの支持者に受けることを最優先して政策を展開していくだろう。


 その関連で、トランプ氏が米軍の再建と同時に、日本などの同盟国に「直接的かつ有効な役割を果たし、公平に費用を負担するよう期待する」と改めて強調した発言は重い。これから日本に防衛費の増加や装備の購入を要求してくる公算が大きいだけに、日本はトランプ氏の一挙手一投足を注視していかなければならない。
   ×   ×   
 よしざき・たつひこ 1960年富山県生まれ。一橋大卒。日商岩井(現双日)から米ブルッキングズ研究所客員研究員などを経て2004年から現職。著書に「アメリカの論理」など。


<3月2日>(木)

○先日、外務省領事局の方から伺いました。3月は日本人の海外渡航が増える時期になります。特に@20〜30代の女性、A35〜55歳の男性、B60代前半男女がボリュームゾーンだそうです。つまりこれは最近さんざん言われているインバウンドではなく、アウトバウンドの問題というわけ。

○過去に3月は、過去に邦人が事故に巻き込まれたことが多くあります。2015年3月にはチュニジアにおける銃撃テロ事件、フランス南部における航空機墜落、そして2016年3月にはブリュッセルにおけるテロ事件がありました。ですからどうかお気を付けて。海外旅行に出かけるときは、「たびレジ」こと外務省海外安全ホームページをご覧ください、とのことでした。出来れば登録も。

○昨年7月にダッカで発生した襲撃テロ事件は、外交当局にとってつくづく痛恨の事件でありました。事前に警告は充分に発せられていて、「ISの声明が出ています」「特にラマダン明けは要注意」という渡航情報が出ていたのです。ところがダッカのレストランでテロ事件が発生し、人質のうち20人が犠牲となり、そのうち7人がJICA関係の日本人だったのです。

○ということで、特に海外旅行される学生の皆さんはお気をつけて。「帰ってくるまでが遠足です」。


<3月3日>(金)

○Foreign Affairsの最新号巻頭論文がとっても面白い。The Jacksonian Revolt(ジャクソニアンの反乱)といって、政治学者ウォルター・ラッセル・ミードの手によるものである。当溜池通信でも散々使いまわしている話であるが、アメリカ外交は4つのパターンに分類される。ハミルトニアン、ジェファーソニアン、ウィルソニアン、そしてジャクソニアンである。トランプ政権は、久々のジャクソニアン政権であると考えられる。

○第7代合衆国大統領、アンドリュー・ジャクソンは究極のポピュリストであった。19世紀前半の人物であるが、そのDNAが2世紀後の今日になって甦っている。そんな風に考えると、今のトランプ政権のことが理解しやすくなる。それではジャクソニアンとはどういう人たちなのか。ミードの論文からいくつか拾ってみる。


●アメリカはある理念に沿って作られた国家ではない。アメリカは単にアメリカ人のための国家であって、政府は国内のことだけやってればよい。アメリカ例外主義なんてくそくらえ。

●ジャクソニアンは外交政策なんて気にしない。問題は国内政治だけだ。でも戦争になったら本気を出す。自由と民主主義の大義なんてどうでもいいが、この国を攻撃するもの(例:ISIS)は絶対に許さない。

●この国のエスタブリッシュメントは信用できない。あいつらは絶対に愛国者じゃない。だってコスモポリタンみたいなことを言うんだもん。そのくせ、俺たちのことを心の中で馬鹿にしている。

●最近はやりの「アイデンティティ政治」なるものが我慢できない。何がヒスパニックだ、LGBTだ。俺たちはたまたま欧州系白人に生まれてしまったために、同じような主張ができなくなっているじゃないか。

●そういうことをうるさく言う「ポリティカル・コレクトネス」なんてものも我慢がならん。何も俺たちは「格差」ごときに対して怒っているわけじゃないんだぞ。施しなんぞ要らねえや。

●われわれジャクソニアンは、軍や警察を無条件で支持する。大きな声では言えないが、Black Lives Matter運動なんかもムカついている。そりゃあ誰だって、ときに間違いはあるわさ。

●銃を持つ権利は神聖なるものだ。合衆国憲法修正第2条こそが最も重要な規定である。それを否定するエリートたちは自分たちの敵だ。

●移民が嫌いなわけじゃない。移民が増えることで、自分たちがこの国の主役でなくなっていくことが不安なだけだ。そしてそういう傾向を助長しようとするエリートは信用できない。

●難しいことは分からんが、そういう俺たちにとってドナルド・トランプはたぶん味方である。文句あっか。


○いやー、まことに明快であります。そのジャクソン大統領は、白人男子を対象とする普通選挙法を実現し、第二合衆国銀行を廃止し、インディアンを強制的に居留地に追いやった。こういう単純明快な民主主義を、ジャクソニアン・デモクラシーと称します。以後よくお見知りおきを。


<3月4日>(土)

○今週水曜日に目撃した衝撃の議会合同演説について、いつもの東洋経済オンラインに寄稿しました。


「トランプ大統領は、実は演説に超必死だった」


○つくづくあの演説のインパクトは大きくて、3月3日に行われたイエレンFRB議長の演説は、「3月利上げに言及」とあいなった。うーん、増税前倒しですね。次のFOMCは3月14-15日です。そして翌16日になると、予算教書の概要が提出される(詳細な内容は5月にずれ込む見込み)。国防費で大盤振る舞いの予算が出るのなら、インフレ予想が強まるだろうから、その前に利上げしておく方が安全という判断なのでしょう。

○ちなみに「モーサテサーベイ」の先週分(2月27日公表)では、こんな感じになってました。


Q14:アメリカの次の利上げは

3月 9.09%

5月 21.21%

6月 66.67%

2018年以降 3.03%



○つまり3月利上げを予測していたのは1割以下でした(不肖かんべえはずっと「6月」に投票しています)。ちょっと風雲急を告げてきた感あり。3月6日朝のモーサテにご注目あれ。(→後記:3月6日のサーベイでは「3月が94%、5月が6%」となりました)


<3月6日>(月)

○なぜか北朝鮮がミサイル発射。日本のEEZ内に墜ちたと聞くと、心穏やかではないですな。

○それにしても、「北朝鮮はいつも安倍さんにとって一番いいタイミングで軍事的挑発を行う」という法則は健在でした。だって昨日は自民党大会で、総裁任期の延長が決まって、「さあ、憲法改正だ」みたいなことを言っていたんだから。そういうニュースが全部吹き飛ぶ。そして豊中市の小学校がどうのこうの、と言っている野党がみすぼらしく見えてしまう。いやもう、何とありがたい存在なのやら。

○ついでに例の正男君の事件について。まともに考えたら、自分の数少ない友邦の、それも人目につく空港で凶行に及ぶという必然性は乏しいわけで、普通に考えたら「これは真犯人はほかに居るでしょ」と考えるのが合理的思考というもの。ところがそういうことを過去に何度も繰り返してきたのが北朝鮮という国家でありまして、これはもうシャーロック・ホームズは必要なし。レストレード警部の推理で良いわけでありまして、深く考えるとこちらの負けになる。いやもう、何という不条理国家でありましょうや。

○2006年10月、安倍首相が北京訪問中に北朝鮮が核実験をやらかしたことがありました。「なぜこのタイミングで?」と各方面は騒然となったわけですが、そのとき故・岡崎久彦氏は慌てず騒がず、「単にできたからやったのでは」というまことに身も蓋もない推論をされました。不肖かんべえは、ああ、この人はやっぱり天才なんだ、と感動に打ち震えたことがありました。推理は相手を見てやらなければなりませぬ。世の中にはわれわれの常識が通用しない相手も居るのであります。

○さて、本日は仕事で富山に行っておりました。午前中は暖かくていい天気で、立山連峰も良く見えていたんですが、午後から一転にわかにかき曇り、雨が降り出しました。いやもう、典型的な北陸の天候でありましたな。明日からは雪だとか。今年はあんまり積もらなかったそうですが、3月は意外と降るんですよね。郷里の皆さま、どうぞお大事に。


<3月7日>(火)

○しょうもないサラリーマン生活のノウハウをひとつ。それは「ホワイトデーのお返しはフライングで」。

○3月14日まであと1週間。「まだ1週間ある」と思っていると、ついつい忘れます。だから「これちょっと早いけど」と言って、今週中にお返しをしておく。早くて怒られることはありません。

○この行為はいくつもの効用があるのです。

@当日になって忘れていた、というリスクを未然に防ぐことができる。

A周囲に対して、「皆さんも忘れないようにね」と注意を喚起することができる。

B当日になって渡すと、しばしば「同じ女性からもらった他の男性は忘れていた」ということがあるので、そのときの気まずさを回避することができる。

○くれぐれも「どうせ義理なんだから・・・」などと甘く考えてはいけません。渡した方は、ちゃんとチェックしていますからね。ご同輩。

○いや、それにしても花粉症がひどい。「弥生賞の頃がピーク」というのが経験則だが、まさしく今週からひどくなった感あり。ということは、もうじき桜の便りも聞こえてくるはず。こちらも早くて悪いことはありません。


<3月8日>(水)

○花粉に弱い不肖かんべえは、タバコの煙はそんなに苦手ではない。喫煙者ではないのだが、若い頃に嫌というほどマージャンをしたから、そのときに大量に浴びせられて耐性がついてしまったのかもしれない。お蔭で1人でファミレスに入るときなどに、「喫煙席ならあるのですが」と言われると、遠慮なくそちらを選ばせてもらっている。

○現在、政府は受動喫煙防止対策なるものを進めていて、「飲食店では原則建物内禁煙」という線でまとめているらしい。これに対し自民党「たばこ議員連盟」は、「店頭表示を義務化」することで禁煙、分煙、喫煙を可能にするようにと対案を出している。でも、きっと荒れるだろうな。だって喫煙者いじめって、いかにも票になりそうなんだもの。

○そもそもなんでこんな話が出てきたかというと、東京五輪開催のためなんだとか。「神聖なるオリンピックの場は、健康的でなければならない」というのは、いかにもIOCが考えそうな理屈だけれども、多少片腹痛いところもある。今や先進国で、日本くらいタバコが吸いやすいところは希少になっていると言われれば、確かにそうなんだけど。

○この議論、おそらくは喫煙者が悪者になって、最後は多数が少数を押し切る形になるんだろうな。あんまり後味がいいものではない。というか、タバコだろうがギャンブルだろうが、他人が百も承知でやっている愚行に口を出すような手合いはあたしゃ好かんな。

○「あなたや周囲の人の健康のためですよ」とお節介を焼くのも、「喫煙者が減ると医療費が減る」と正論で迫るのも、いかにもPolitically Correctnessの世界だと思うのだが、そういう先にトランプ現象などの「民意の反乱」が起きているのではないのか。いや、別段、証拠があって言っているのではないんだけどね。喫煙なんて個人の趣味の問題は、なるべく「ギスギス」ではなく、「なあなあ」で扱う方が良いと思うぞ。


<3月10日>(金)

○はい、本日発表の雇用統計は失業率4.7%、NFPは23万5000人増でした。これで来週の利上げは決定的ですね。為替は円安方向でしょう。

○しかるに来週はまたイベント満載の1週間。本誌でも書きましたが、なにしろ「3月15日に気をつけよ」ですからね。どこへ行くやら分からない。当分はこんな日々が続くことでしょう。

○本日は韓国大統領の末路哀れ列伝に新たな1ページが刻まれました。こんなことでは、成り手がいなくなると思うのですが、仕方がないですな。「法律の上に憲法があり、憲法の上に国民感情がある」というのがかの国の流儀。

○渡辺真知子の古いヒット曲で、「♪迷い道くねくね〜」で替え歌を作ってみようかと思いましたが、どうにも感情移入できなくてやめちゃいました。そんな私を誰が責められよう。


<3月11日>(土)

○今宵は町内会防犯部の打ち上げ会。例年よりも多い人数が参加。そこでご近所さんたちの関心事は何であったか。不肖かんべえにとっては、これが一種の定点観測である。





○ということで、設問は下記の通り。正しいと思うものを選べ(10点)。

@あの東日本大震災から6年目。しみじみと「あのとき」を振り返る。

A韓国パククネ大統領弾劾。これで日韓合意はどうなるのか。

B自衛隊が南スーダンから撤退。日本のPKOはどこへ行く。

C森友学園、ありゃあいったい何をやっておるのか。

D豊洲移転問題、石原慎太郎もずいぶん男を下げたなあ。

EWBC、侍ジャパンは結構やるじゃないの。

F柏レイソルは川崎フロンターレに負けてしまった。あかんのう。





○答え、@〜Fまでほとんど出なかった。強いて言えば、「今日の金鯱賞、Eヤマカツエース―Gスズカデヴィアスのワイドを買ったジャンポケ斉藤は偉かった」てな話題は少し出た。

○ほとんどは「来期の町内会活動をどうするか」という話に終始しました。サンプルとしては、あまり役に立たないのかも。ただし@〜Fがそんなに大事な問題ではないことは確認できたような気がしています。


<3月13日>(月)

○WBC、オランダ対日本の試合、昨晩は「いったい何時までやってるんだ?」と気になりながら、テレビをつけては消し、の繰り返し。じっくり見ているほど暇ではないし、あんな試合を見続けていられるほど精神的にタフでもない。途中で寝てしまい、朝になってみたらいちおう勝っていて、「延長タイブレークの大熱戦!8−6で強敵オランダを退け、2次ラウンド白星発進!」とある。

○こういう試合こそ名勝負だという人もいるだろうけれども、こんなに見ていて疲れるスポーツは罪作りだとワシは思うぞ。案の定、今日は小久保監督の投手起用についてあちこちで批判が噴出しておる。まあ、そうだろう。あれは9回裏で締めてほしいわな。それに投手交代が多過ぎるのは、あんまり褒められたことではないし、ファンのためにもならないのではないか。

○しみじみ思い出したのは昨年11月12日、WBC強化試合の侍ジャパン対オランダ代表選のこと。これも大接戦かつ逆転の連続で、ワシがゲストとしてスタンバっていたBS-TBSの"Biz Street"の放送開始が100分も遅れた、てなことがあったのです。昨晩は後番組の「プロレス総選挙」が、放送開始が3時間以上も遅れたとか。テレビ局としては苦渋の決断なんでしょうが、野球終了を待たされる身は大変つらいものであります。

○それにしても、「日本対オランダ」のカードは、大熱戦になる組み合わせのようですな。オランダは古くからアジアに進出していた国で、インドネシアや台湾を植民地化したり、日本とは出島で交易し、蘭学を伝えたりしている。今は野球が盛んな数少ない欧州の国。いえ、もちろんサッカーやスケートも非常に強いのでありますが。

○そのオランダが、間もなく天下分け目の下院選挙を迎える。投開票日は3月15日(水)ですので、またも日本時間の3月16日(木)早朝に投票が締め切られ、その日の午後ぐらいに大勢判明、結果次第で東京株式市場に打撃、みたいなことになるかもしれません。もう、これで何度目ですかね。

○選挙そのものは比例代表制なので、それほどの大差にはならない模様。極右政党の自由党が第一党になるかもしれないが、連立で過半数を確保できるほどではあるまい、というのが現時点の読み筋。本件がもたらす効果は、オランダにおけるポピュリスト政党の躍進が、来月のフランス大統領選挙に飛び火するんじゃないか、という点ですね。世界中、どこでも「エリートに対する民意の造反」が起きていて、韓国もどうやら5月9日大統領選だとか。

○とりあえずオランダの選挙は今週です。こちらは野球とは違って、「延長戦」がないだけありがたい。


<3月15日>(水)

○今月号の中央公論、特集テーマは「歴史力で乱世を生き抜く」というなんだかプレジデント誌みたいなんだけど、巻頭の「応仁の乱」をめぐる対談が無茶苦茶面白い。最近、売れているという『応仁の乱』(中公新書)の著者、呉座勇一助教と、欧州外交史の細谷雄一教授という組み合わせで、ごく一部では「ゆういち対談」と呼ばれているらしい。

○まあ、以下の部分を拾い読みするだけでも、「こっ、これは!」と叫びだしたくなること請け合いである。


呉座:不透明感が強くなった現代の雰囲気に、英雄のいない「ぐだぐだ」の応仁の乱がマッチしたのではないかと。

細谷:『応仁の乱』では、構図の似た戦争として、第一次世界大戦に言及がなされます。

呉座:(第一次世界大戦は)誰もあんな結末になるとは考えていなかった、あの状況をコントロールできる指導者が誰も居なかった。それなら応仁の乱と同じじゃないかと。

細谷:第二次世界大戦ならチャーチル、ルーズベルト、スターリンといった指導者が力を発揮し、戦争を勝利に導いて、戦後世界をつくっていった。しかし第一次世界大戦にそういった英雄はいません

呉座:もっとも大きいのは、応仁の乱を契機に、延々と続いてきた、京都を中心とした政治体制・政治秩序が崩壊したことです。

細谷:ヨーロッパであれば、帝政や貴族政に対する一般的な了解と前提があった。ところが第一次世界大戦、そしてロシア革命によってそれらが壊れていった。

呉座:そして、まさに現代がそうだというわけですね。

細谷:混乱の時代に重要なのは、勢力均衡であり、軍事力です。・・・・平和主義というものは、時代がどう動くかを前提とせずに、自分の価値観を当てはめようとする。

呉座:私は室町幕府そのものが、ウィーン体制的だと思っています。

細谷:興味深いのは、協調の体系がいつ崩れるのかということです。

呉座:応仁の乱直前には、一揆が毎年のように京都を襲う事態になっていました。・・・・もうその時点で、室町幕府の支配体制が機能不全を起こし、おそらくあと一突きで崩れてしまう状況です。応仁の乱は、その一突きでした。

細谷:巨大な構造変化が起きる時は、そこにアクターとして「鈍感な人物」が必要です。彼らに共通しているのは、狭い世界で生きているということ。その国の中で何が起きているかについて、恐ろしい程に鈍感なのです。


○いやあ、恐ろしい話じゃありませんか。われわれは第2次世界大戦に「戦争」のイメージを求めている。でも、あんな風に英雄が出てきて、キチンと勝ち負けをしっかりさせて終わる戦争は少ないのです。「戦争というものは、基本的によくわからないままに終わるものです」「休戦協定は次の戦争を準備する急速に過ぎない」「この感覚こそが今の世界情勢に近いのではないでしょうか」(細谷)。

○「応仁の乱」のひとことで、今起きているいろんなことの説明がつくような気がするじゃありませんか。「大河ドラマ」では英雄が出てくる戦国時代や幕末が好まれ、「家督争いと土地争い」の南北朝や応仁の乱は低視聴率に終わるのが普通です。でも、英雄が出てくる時代の方が珍しくて、今もまさしくそういう状況なのではないか。「応仁の乱」、暇はないけど読まなきゃいけませんな。


<3月16日>(木)

○本日開票結果が出たオランダ下院選挙、終わってみれば極右政党の自由党が伸び悩み、政権与党の自由民主党が負け渋り、「ホッと一安心」ということになりました。

○もっともこれで反グローバル主義やポピュリズムの流れが止まるかというと、そうも言い切れないのではないかと思います。WSJのまとめによると、以下のようになります。

@エスタブリッシュメントの勝利(いや、ホント久々ですな)

A無視できない極右の台頭(国全体としては反移民になっている)

B欧州では今後も極右の動きに注目(独仏伊にはなおもご注意)

C連立協議は難航か(完全な比例代表制で小党分立ですから、しょうがないですな)

D投資家は好感(とりあえずは株高、ユーロ高。来月のフランス大統領選挙まではね)

○それにしても感じるのは、自由党のウィルダース党首はなんであんな変な髪形なんだろう。思えばドナルド・トランプ米大統領やボリス・ジョンソン英外相も、独特な髪形である。似合っているとはあまり思えないんだけれどもね。どうしてこうポピュリスト政治家は、金髪で、ヘアスタイルが独特なんでしょう。

○わが国における「独自のヘアスタイル政治家」というと、やはり小泉純一郎首相になりますね。するとやっぱり小泉さんはポピュリストだったのでしょうか。「深刻な金融危機があると、数年後にユニークな髪形のポピュリスト政治家が政権につく」という法則ができたりして。











編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki