<7月2日>(土)
○最近聞いた中で印象に残った言葉。
●「7月3日の総選挙でタクシン派が勝つと、またまたクーデターが起きるんじゃないかなどと言われてますけど、現地じゃ誰も心配してませんでした」(ASEAN出張から戻った菊地政俊さん)
――さもありなん。83歳の国王の健康状態の方が、よっぽど気がかりなんだそうです。
●「1泊3000ドルの部屋につくメイドは、普通じゃないんです。あんな事件が起きるからには、裏に何かがあるんでしょう。あのホテルはもう使えませんね」(国際派の某大物経営者)
――ストラスカーン氏は釈放されたそうです。んー、やっぱりそうでしたか。
●「大阪では『客先には小まめに顔を出せ』と教えまんのや。だから今でもゴトウ日には道路が混みまっせ」(大阪で乗ったタクシーの運転手さん)
――ホンマでんなあ。何でもメールで用済まそうと思たらあきまへん。
●「『次はあっこのみーのコーナーです』なんて、恥ずかしくて自分じゃ言えませんでしたよ」(『News
Fine』の佐々木明子アナ)
――『モーサテ』の中で何度もご一緒したんですが、いつも東京とニューヨークに分かれてましたので、隣に座って出演するのは初めてでした。天衣無縫に見えるあっこさん、インタビューの段取りは意外と手堅くまとめてました。
●「お読みいただくような内容ではございませんので、表紙だけご笑覧いただければ幸いに存じます」
――『不良債権処理先送りの合理性』(東洋経済新報社)をご送付いただいた塚崎公義さんの送り状。謙虚なお言葉ですが、3800円+税もする本です。これは読まねば・・・・。
<7月4日>(月)
○このところ週末は、3週連続で町内会の会議に駆り出されている。議題はもちろん夏祭りについて。今年も7月17日に実施するのだが、例年といろんなことが違っている。
(1)5月くらいまで、震災による「自粛モード」が支配的だったために、役員会で「今年も例年通り実行!」を決断するのが遅れた。これはまあ、仕方のないところである。ちなみに今年、柏祭りは例年通り開催されるが、花火大会は中止である。
――花火は、リーマンショックの翌年も中止だったんだよな。
(2)節電による休日シフトで、「7月の土日は休めるかどうか分からない!」という役員が続出。「ウチは木金休みの土日出勤」と歯切れよく言えるのは大手だけで、対応が決まらない職場は少なくないのである。
――どうでもいいことだが、今日の昼に入った溜池山王の飯屋は、「月、火はドコモさんがお休みなんですよ〜」と嘆いておった。
(3)さらに「子供の飲料用の麦茶をどうするか」が問題になる。例年、バケツで大量に作っているのだが、時節柄子供に水道水を飲ませたくないとの声もあり、しばし紛糾の結果、普通の麦茶とペットボトルの麦茶の両方を用意することに。
――まあ、ワシも含めてオヤジたちは、普通の水道水で全然構わんのであるが。
○ところで当柏市は、二大政党の候補者が代わる代わる当選するという、典型的な都市型選挙区である(たまに比例で救済されて、両方が通ることもある)。ウチの町内会の祭りには、現在落選中のS候補が顔を出すことになっている。だが当選しているM候補は、一度も来たことがない。実はM候補は隣の町の祭りに来ていて、ちゃんと町内会ごとに「区割り」がしてあるらしい。つまりわが町内は、「S候補のナワバリ」と認定されていることが判明した。
○いやー、おそるべし。小選挙区は町内会にまで及んでいたのですね。
<7月5日>(火)
○今朝の文化放送くにまるジャパンで、「松本復興相はけしからん」という話をしていたら、午前9時のニュースで辞任報道が。あー、びっくりした。
○この機会に一つ、「正しいオフレコのあり方」をご紹介いたしましょう。初歩中の初歩の知識なんですが、意外と知らない人が多いようです。特に政治家の先生方はご注意を。企業の広報担当者は、社員が取材を受けるときに以下のような説明をすることになっています。
「メディアの取材に対してはウソは絶対につかないでください。どうしても言えないことがあるときは、『それは言えません』と答えてください」
「それでも相手が納得しないときには、『オフレコでよければ、説明します』と言ってください。かならず事前に承諾を取ること。言ってしまってから、『今のはオフレコね』と言っても通用しません」
○取材する側とされる側の間に、事前の合意がなかったら「オフレコ」にはなりません。「オフレコ」発言が認められるのは、@取材する側をミスリードする恐れがあるとき、A取材の情報源を秘匿する必要があるとき、など、ごくわずかなケースに限られます。また取材される側が公人である場合は、そもそも発言を秘匿する必然性が薄いので、メディア側としては「オフレコ」を易々と認めるべきではないでしょう。ましてや、「こっから先はオフレコね」など言いつつ、内緒の話をベラベラしゃべるのは論外です。これをやってしまうと、記者が別筋のルートで知り得た情報を、書けなくなってしまう恐れが発生することになります。
○ちょうどアメリカでは、ガイトナー財務長官の退任が噂されています。このニュースのやりとりなど、まことに含蓄が深いではありませんか。
(ガイトナー長官は)、ここ数週は、退任を考えているシグナルが強まっていた。先月ニューヨークで、いつまで財務省にとどまるつもりかと聞かれたときには、眉をひそめ、「思いやりのある、すばらしい質問だ。最近はよくそのことを考えている」と答えていた。
○政治家が自分の進退について語るときは、絶対にウソにならないように、でもあまりストレートに言ってしまって自らをレイムダックにしないように、細心の注意を払ってボキャブラリーを探すものです。そういう意味では、6月2日の菅首相「退陣声明」などは、「国民全体をミスリードするもの」と批判すべきなのか、「まことに狡猾な誘導発言」と感心すべきなのか、なんとも判断に悩むところであります。
○ところで就任早々の大臣の辞任劇としては、2008年9月のこの人の例がすぐに浮かびます。何で国交大臣が日教組批判発言をしなきゃいけなかったのか、今から考えても分かりませんが、この人も九州出身でB型なんですよね。いや、ステレオタイプを助長してはいかんのでありますが。
<7月6日>(水)
○今日は東北電力東京支社で、近況を聴く機会がありました。
○ここにある通り、6月18日時点で管内の停電はすべて復旧しました。あれだけの被害を受けたのに、よくまあ短期間でここまで来たものだと感心することしきり。ところがもっと驚いたのは、東北電力の火力発電所が津波の被害を受けて、下記のすべてが運転を停止しているとのこと。写真を見せてもらうと、福島第一原発とほとんど同じような惨状が広がっているのに、これに関する報道を見た記憶がない。言うまでもなく、復旧には相当な時間がかかる見込み。
<停止中の発電所>
●仙台火力発電所(宮城郡、LNG) 44.6万kW
●新仙台火力発電所(仙台市、石油&LNG) 35万kW+60万kW
●相馬共同火力発電新地発電所(相馬郡、石炭) 100万kW+100万kW
●原町火力発電所(南相馬市、石炭) 100万kW+100万kW
●常磐共同火力(いわき市、石油&石炭) 17.5万kW+25万kW+60万kW+60万kW
○女川原発(217.4万kW)や東通原発(110万kW)が止まっていることは、どなたもがご存知でしょう。ところが、火力発電の上記5箇所を単純計算で足すと、失われた電力量は700万kWを優に超えてしまうのである。実際には、共同火力の分は半分にカウントしなければならないのだけど、おそらくこっちの方が問題は大きいはず。
○東北電力管内では、今年8月の供給力見通しは1230万kWであり、現時点での想定需要は1300〜1380万kWとのこと。足りない分は、日本海側の火力発電を増強したり、節電で対応したり、東電からの融通を受けることになるだろうとのこと。まだまだ綱渡りが続きます。
<7月7日>(木)
○ある会社で、課長さんが大変な苦労をして、重要な商談をまとめてきた。客先は「御社を信じで任せる」と言ってくれた。ところがその直後に、課長さんのことを嫌っている部長さんが、ちゃぶ台をひっくり返してしまった。当然、客先は怒り心頭で、取引を打ち切るといっている。周囲には、「部長さんには深い考えがあるんだよ」ととりなす人もいるけれども、とにかく会社のためにならない行為であることだけは間違いない。
○こういうとき、課長はどうするべきだろうか。サラリーマンなんだから、周囲の同情を受けつつ、じっと我慢をする、というのが普通かもしれない。「理不尽な状況にじっと耐える僕」というのは、職場的にはおいしい状況だということもできる。ただし我慢も時によりけりで、いっそのこと辞表を提出すべきときもある。誰が見たって部長が無法であり、課長の方が会社のために仕事をしている。それをぶち壊されるのでは、会社は成り立たなくなってしまう。
○ではサラリーマンではなく、これが政治家であったらどうか。私は海江田万里経産大臣は、今日中に辞表を叩き付けるべきだと思った。さもなくば、政治家としての海江田氏を信じる人は減るだろうし、与党としての民主党に対する信頼も落ちる。
○今は日本政府も民主党も、異常なリーダーのもとで迷走している。せめて党利党略で動いてくれればいいのに、菅首相を突き動かしているのは個利個略である。もっと分かりやすく言うと、自己保存本能と身内に対する憎悪の念である。昨日、某自民党代議士が、「これからは太陽政策で行く。北風を当てると、菅さんが元気になるばかりだ」と言っていたが、まさにそんな感じですな。
○最後にこんなのはどうでしょう。
「菅首相とかけて、ボジョレヌーボーと説く。その心は、1年を過ぎると素(酢)にかえります」
<7月9日>(土)
○「史上最低の総理は誰か」を考えてみると、ワーストとワースト2を鳩山&菅が占めるのではないかという気がします。どっちがブービーで、どっちがブービーメーカーであるかは、議論の余地があるかもしれませんが。少なくとも筆者かんべえとしては、戦後の歴代総理でこの2人以上に国益を損なった人物を思いつきません。だったら悪いのは民主党なのか、それとも団塊の世代なのか・・・・というのは、あまり楽しい議論ではないのでここでは触れません。
(「日本には変な鳥がいる」シリーズとか、「伊達直人と菅直人」とか、「バカとズルとワル」だとか、あの3人の悪口を書くととっても受けるんですが、いい加減、筆者としても疲れてきました。というか、そろそろユーモアで味付けできる段階を過ぎてきたと思うんですよねえ)。
○気を取り直して、民主党政権下の3人目の首相について考えてみましょうか。2人続けて失敗作の首相を出してしまった後で、「大丈夫、3人目は立派な首相になりますよ」と言われても、あまり気休めにはならないでしょう。外交も安保も震災復興も滅茶苦茶にしましたが、わが党は年金問題だけは自信があります、と言われてもねえ。でも、とにかくトロイカ以外も試してみないと、民主党には諦めがつかないというのが、大方の有権者の正直なところじゃないかと思います。
○どんなに先に延ばしたとしても、2013年夏には任期満了で総選挙がある。それ以前に解散となる可能性も、少なくないだろう。とくにターニングポイントになるのは、2012年9月に相次いで行なわれる民主党と自民党の党首選挙である。現職が再選されるにせよ、新人が当選するにせよ、それ以降の「解散風」は止められなくなるでしょう。2012年11月はアメリカ大統領選挙もあるし、それから半年以内くらいが「頃合のタイミング」なんじゃないでしょうか。
○だとしたら民主党としては、「選挙の顔になりそうな、若くて見栄えのいい候補」を選びたいところでしょう。「党の分裂を避ける」「自民党時代に戻さない」という、とっても大事な目標(?)のためにも。でも、それって平時の発想であって、今はそんな贅沢は言ってられないのではないか。
○3人目の首相は、「民主党はフェーズ2に入りましたよ」ということを示さなければならない。過去を否定して、新しいイメージを打ち出さなければいけない。そうなると、かならずフェーズ1の人たちが反発することになる。次期首相は、この党内抗争でキチンと勝たなきゃいけない。それがなかったら、じきにまた「4人目は誰だ」ということになってしまうだろう。
○特に松下政経塾出身の皆さんに強調したいポイントですが、政権取るのに「上げ膳据え膳」はあり得ない。あなたたち、年寄りが「一丁上がり」になるのを待ってるのかもしれないけど、それは甘い。彼らは「若い世代に後を託す」ことなど考えてはいませんぞ。引き摺り下ろした後の菅さんだって、おとなしくお遍路さんになってくれるかどうかは分からない。鳩山さんと同様、党内に影響を及ぼし続けるかもしれない。
○以上、岡目八目の聞き苦しきはご容赦の程。
<7月10日>(日)
○廃刊になっていた田原総一朗さんの『ドキュメント東京電力企画室』が、このたび文春文庫で復活しました。田原さん自身もすっかり忘れてて、「これ、関係者の間でバイブルになってますよ」と言われたので読み返してみて驚いた、という曰くつきのルポであります。
●ドキュメント東京電力 福島原発誕生の内幕
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4167356066
○1950〜70年代において、電力業界と通産省がいかに強烈な対立関係にあったか、というのが本書のポイントです。とくに「松永イズム」を受け継いだ木川田一隆が、何を考えて福島原発の建設を決断したかという点は、私にとってもずっと疑問でした。そのほかにも、英国製コールダホール型原子炉の件、朝日新聞大熊記者の存在など、今となっては忘れられていることが沢山盛り込まれていて、勉強になります。
○それにしても、昔は電力会社も通産省も政治家も強烈だったんだな、と痛感します。それがいいか悪いかは別として、今やっている人たちと比べるとまるで大人と子供です。
<7月11日>(月)
○今日は都内で日本ニュージーランド・パートナーシップ・フォーラムが開催されました。本来は5月に予定されていたのですが、2月22日のクライストチャーチ地震、3月11日の東日本大震災のダブルパンチがあり、延期になって今日になりました。
○今日の参加者には、「Kia
Kaha!」(マオリ語で「いっしょにがんばろう」の意)と書かれたバッジが配られました。このポスター、ちょっといい感じでしょ。ともに太平洋の端っこにある島国で、火山国で地震国であるもの同士、以前に比べて結びつきが深まったような気がします。
○さて、いつものことながら、ニュージーランドとの会議に出ると、いくつも発見があります。日本を見つめなおすいい機会になるんですよね。以下は本日のディスカッションから得たヒントのご紹介。
○まず電力の話から。時節柄、ニュージーランドのエネルギー事情の議論が注目を集めました。なにしろ再生可能エネルギーが72%(水力61%、地熱7%、風力4%)の国でありますから。まことにうらやましい話なんですが、今の日本では水力発電を増やそうにも、そもそもダムは環境を破壊する悪者だったりします。そしてまた、あの名作・黒部ダムでさえ、最高発電量は33万キロワットに過ぎませんし・・・・。ところで八ツ場ダムって、どうなったんでしょうね?
○NZの地熱発電は、富士電機や東芝が機械を輸出している。日本の技術なのです。だったらなぜ、日本国内で地熱発電をやらないかというと、有望な火山はほとんど国立公園の中にあるとか、地元の温泉が反対するから・・・など、いかにも日本的な理由がついている。再生可能エネルギーに本気で取り組もうと思ったら、この辺の問題から解決していかなければなりません。
○次に食糧問題。新興国における、@人口増、A経済発展、B都市化、という今のトレンドが続く限り、農産物輸出国であるNZの未来は明るい。しかも、今後伸びるであろう品目は、穀物などよりは肉類、乳製品などである。人は金持ちになると、かならず肉を食うんですよね。これらは高付加価値商品である一方、作るのに手間がかかる。将来的には相当なイノベーションを起こさない限り、肉は品薄になってしまう、とのことでありました。
○いつも思うことですが、先進国よりも新興国の方が威勢のいい時代を迎えると、日本のような工業立国よりもNZのような農業立国の方が恵まれているんじゃないかという気がする。と同時に、もう日本は食料品の輸出先として、NZにとっていちばんのお得意さまではなくなりつつあるのだな、と寂しい思いがする。まあ、人口も減るし、高齢化するし、仕方のないことではあるのですけれども。
○3番目にTPPについて。なにしろNZは、ブルネイ、チリ、シンガポールと語らって、この自由貿易協定を始めた「言いだしっぺ」である。今日の会議でも、「TPPやりましょう!」という意見が多かった。2010年にアメリカが参加表明をしてから、TPPへの参加希望国が急に増えて、ちょっとした賑わいを見せている。日本ではTPPのことをアメリカの陰謀と勘違いしている人が少なくないけれども、NZとしては「本家はウチ」という意識が強いのである。
○今日の会議には、昨年10月のタウランガ会議にも来ていたティム・グローサー貿易大臣が来ていて、またまた熱弁をふるっていました。興味深かったのは、彼が「アメリカは信用しちゃいけない。彼らの農業問題は困難だ」と言っていたことで、さすがは通商交渉のベテランですね。そもそもオバマ政権は、コロンビアとパナマと韓国相手のFTAを批准できない体たらくですから、本当にTPPができるとは考えにくいのです。
○日本の側としては正直なところ、アメリカが入っていないTPPに入っても、ほかは小さい国ばかりなのであまり得るものがないという現実がある。逆にNZとしては、是が非でも日本がTPPに入ってほしい。彼らにとっての最悪のシナリオは、日本が「TPPはとても無理だけど、せめて日豪FTAだけやりましょうか」となった場合である。それでは彼らの方が仲間はずれになってしまう。通商交渉のゲームはかくも難しい。
○この問題、全般的に日本側は元気がなくて、コーヒーブレークの際には日本人同士で「TPPはどうなるんでしょうねえ」とぼやいている人が多かったです。「どうなるんでしょう」じゃなくて、「どうしようか」を問わなきゃいけないんですが、まあ、政治もあの通りの状況ですし・・・・。
○最後のレセプションの席で、グローサー大臣がこんなことを言ってました。政治家だけあって、こういうくだけた挨拶もお上手なのです。
「なでしこジャパンがドイツを破った!私は見ていて涙が出ましたよ。だって、ドイツはホスト国で、何が何でも優勝したかったのですよ。でも、日本が勝っちゃった。私がドイツが気になるのは、今年の秋、ニュージーランドがラグビーのワールドカップを開催するからです。9月には日本チームを迎えますけれども、負けちゃったらどうしよう・・・・」
○いくらなんでも、それはないっす。いくら元オールブラックスのジョン・カーワンが監督をやってくれてるからと言って、日本はニュージーランドには勝てないですよ。まあ、もちろん向こうも万が一にも負けるとは思ってないでしょうが・・・。
<7月13日>(水)
○昨日、久しぶりに吉田恒さんとランチして、「これだけ為替が安定していると、FXも上がったりですねえ」などと言っておりましたら、その夜に4ヶ月ぶりに1ドル79円台に行っちゃいましたね。上値はそんなにないと思いますが、やっぱり円高傾向。いかに日本経済が満身創痍といえども、今は米国経済と欧州経済の方が弱さが目立つというユニークな局面です。
○だったら米国と欧州はどうなるかというと、そんなに良くはならないだろうけれども、一気に悪化することも考えにくい。要は一進一退といったことになるのだろうと思います。大きなバブル崩壊後の景気回復過程においては、得てしてそういうことが起きるものです。この辺は日本の1990年代の経験が役に立ちますよね。つまり良くなったからといって油断しちゃいけない、良くならないからといってあきらめてもいけない。利上げや財政再建も、焦らずにやっていくのが吉というものです。
○ただしこういう生殺し局面は辛いもので、ついつい政治的には極端な方向に走ってしまいがちになる。ワシントンでは例の8月2日の債務上限到達に合わせて、与野党で妥協策を探るべく、7月20日までを目処にトップ交渉を行なうとのこと。ただし大幅な歳出削減を行なうとなると、右と左の両方から責められてしまいますので、これは簡単なことではない。
○締め切りは破るためにある。おそらく今回も、8月2日の締め切りは破られてしまって、市場が大荒れになってヒヤッとする瞬間があって、そこでようやく与野党が合意に達する、てな展開になるんじゃないかという気がする。2008年9月に下院がTARPを否決してしまったときには、本当に焦ったものでしたが、もうそのことを覚えている人は少なくなっているはず。また同じことを繰り返して、一同でヒヤッとするんじゃないだろうか。円高も含めてね。
<7月14日>(木)
○いやはや、言っても仕方のないことですが、毎日暑いですね。お疲れ様です。
○不肖かんべえも最近はすっかりクールビズ・モードでありまして、最後にネクタイ締めたのいつだっけ?という感じです。それでも義理堅く、毎朝上着を手に持って出社しております。これが最後の生命線というべきか。
○今は昔、テレビ朝日に「サンデープロジェクト」という番組がありまして、その歴代プロデューサーの引継ぎ事項にこんな一節があったそうです。
「毎日、上着を着てくるように。いつでも、すぐにお詫びに行けるように」
○およそ人の上に立つ人というものは、何かあったときに責任を取らなきゃいけない。そして謝罪に行くときは、たとえネクタイはないにせよ、上着がないことにはカッコがつかない。これってとっても重要な教えであって、どんなに暑くなっても忘れちゃいけないことなんじゃないかと思うのです。
○ちなみに引継ぎ事項は3か条あったのですが、ほかの2つの項目は忘れてしまいました。ということは、それほど重要な教えではなかったということになるのだと思います。
<7月15日>(金)
○先の統一地方選挙で落選した村田信之さんの残念会。またの名を「ハゲます会」。洒落のつもりでそう呼びかけたら、ご本人、せっかく伸びかけた髪をまたまた切って登場。そんなところで受けを狙わなくても・・・・。
○さすがに選挙から3か月もたっているので、敗因分析などはとっくに終わっていて、当人は地道に次に向けて活動中。「区議選は国政選挙とはまったく違う世界」であるということが、発見であったそうです。だったら少し人間が変わったかなと思ってみてみると、やはり人間四十を過ぎるとそんなに変わるものではありませんな。それはそれで、健全なことなのだと思います。
○二度目の選挙で落選した若き日の麻生太郎氏に対し、田中角栄氏は「お前は今のままでいい。足りなかった票数の分だけガンバレ」とのアドバイスを贈ったとのこと。確かに、変にかしこまって慣れぬことをするよりは、そっちの方が良いのでありましょう。
○落選したのが目黒区議選だったから、場所は目黒区内でやりましょう、ということで今宵は下目黒駅近くのこういう店で集合。いやはや、驚きましたな。今のご時勢にユッケは出るわ、レバ刺しは出るわ。もちろんもつ鍋も美味でした。生ものが全部禁止されてしまう前に、もう一度いっとく必要があるかもしれません。
<7月17日>(日)
○昨日も今日も大変暑かった。でもこの週末は町内会のお祭りでした。とっても脱水。その分を麦茶とビールでせっせと補給。毎年、「海の日」の3連休に行なわれる町内会の祭り、雨が降ったためしがありません。
○ありがたいことに事故もなく終了。例年通り、ということでありました。うーん、何か書きたいのにネタがない。
○疲れたので、今宵は「なでしこ」の応援もナシということで。(→まさか勝たんだろう、と思っていたら、大変失礼致しました。なでしこジャパン、あっぱれワールドカップ制覇であります。おめでとうございます。)
<7月18日>(月)
○以下はまったくの暇ネタなんですが、先日、「商社原論研究会」というところで、勤務先の歴史について発表する機会がありまして、そのときに発見したことについて少々。1968年に日商株式会社と岩井産業株式会社が合併して日商岩井株式会社が誕生したときのことなんですが、当時の合併って、とっても手続きが早いんです。これは今の日本企業では考えられないスピードじゃないでしょうかね。
4月27日
読売新聞朝刊が「日商・岩井産業合併」を報道
5月 2日
大阪の輸出繊維会館にて両者社長記者会見
5月15日
東京のクラブ関東にて合併契約書に正式調印
6月28日 新役員の候補者決まる
7月25日 合併契約承認株主総会開催
7月26日 公正取引委員会に合併届出書を提出
8月15日 新社章決定
9月17日
東京にて新会社の役員によると経営会議開催
9月19日
大阪、東京にて記者会見。新会社の組織と人事を発表
9月21日 大阪、東京の事務所移転作業を開始
10月1日 日商岩井株式会社発足
○これに先立つ4月17日に、毎日新聞が「八幡と富士製鉄の合併」をスクープしている。そのあおりで、共に関西系の「金へん商社」同士が急に合併することになったのですが、なんと発表から5ヵ月後には新会社が発足している。新日鉄の誕生は1970年なので、さすがに製造業ではもう少し合併に時間をかけているわけなのですが、商社同士の合併はまさしく電光石火だったのです。
○読売新聞に「抜かれ」て、その5日後に用意した記者会見の席上で以下の項目が発表されている。新社名や会長社長人事はともかく、合併比率の「3対2」は文字通り「エイヤア」で決めた数字でしょう。今でいう「デューデリジェンス」なんて発想はなかったのではないでしょうか。
1. 新会社名を日商岩井株式会社とする。
2. 合併期日は昭和43年10月1日を目標とする
3. 合併比率は3対2とする。すなわち岩井産業株式会社の株式3株に対し日商株式会社の株式2株とする。
4. 新会社の取締役は総数30名前後とし合併時までに両社で調整を行なう。
5.
新会社の会長に岩井英夫が、社長に西川政一が就任する。両者夫々代表権を有する。
6.
新会社の合併時の全従業員を引き継ぐもの年公正平等の原則に則り処遇する。
7.
其の他の事項は両社を以て組織する合併委員会において協議する。
○当時の社内報を調べてみると、日商株式会社はこの2年前から「合併も辞せず」と宣言しており、とにかく会社の規模を大きくしたかったのですね。新日鉄誕生は渡りに船であって、とんとん拍子で合併作業が進んだ様子が窺えます。
○ちなみにこの当時、合併報道が朝毎読の三大紙に抜かれると、その翌日に落とした他の2紙が否定的な報道をするという傾向があったために、そこから「合併報道は日経に抜かせろ」というセオリーが誕生したのだと、昔々に広報業界の先輩方から教わった覚えがあります。1971年の第一勧銀誕生は、たしか日経のスクープだったはず。それ以降の合併報道は、ほとんど日経の独壇場になっていくのですが、この時期はまだそうではなかった。
○「日本企業は意思決定が遅い」「合併や再編にも時間がかかる」といった評価が定着しつつありますが、この当時の日本企業は今とはずいぶん違っていたのであります。なにしろ1968年当時と言えば、日本は高度成長期の真っ只中で、「GNPで西ドイツを抜いて世界第2位に」「貿易収支の黒字が定着し、日米経済摩擦が発生」という頃です。当時の日本企業は、ほぼ今と同じようなシステムで動いていたにもかかわらず、今の中国企業のように仕事が速かった。しみじみ目標がはっきりと定まっているときの日本の組織は強いのです。
○当時の世相をあらわす一番の指標はこのCMでしょう。今見ると、山本直純の演技は大袈裟過ぎますなあ。森永エールチョコレート、当時の50円は子供にとっては結構、大金でした。
<7月20日>(水)
○昨日は広島へ出張。「行きが新幹線で帰りは飛行機」などと虫のいいことを考えていたら、現地から「台風6号が来るから飛行機は飛びません」との報が。そのまま宿を取ってもらうことにして、小さなショルダーバッグひとつで出発。
○予定より一つ早い「のぞみ」に飛び乗ったら、なぜか伊藤洋一師匠がいるではないか。「俺はさあ、もうウィンドウズには飽きちゃって今はマックだよ」などと例によって怪気炎を拝聴する。ワシなんぞ、スマホを買うのもおっかないので、先日、5年ぶりで買い換えたケータイがまたしてもLGの超シンプルバージョンである。「日本製買ってくださいよ、何考えてんですか」と財部誠一さんに怒られたことを思い出すも、コンシェルジェなんぞが出てくるパナソニック製品は面倒くさくて使えないのである。ああ、われながらなんてオヤジ体質。
○「のぞみ」は岐阜羽島で強風のために減速し、一瞬ひやりとするも、そこは天下のJR、遅れを取り戻して時間通りに広島駅に到着。地元鉄鋼業界の総会にちゃんと間に合って、講演会講師を務める。こういう日はやはり、「なでしこ」の話題から始めなきゃいかんかと思い、マイケル・オースリンの記事を紹介してみる。最後の部分がいいよね。
As someone who lived in Japan for several
years, and has both family and friends there, I’m often
surprised at how often Japanese and foreigners alike forget about
how much remains to admire in Japan, from its stable political
system to vibrant civil society. If a World Cup championship
can help spark a minor recovery of pride in a great nation, then
it indeed will be a victory for the ages.
○懇親会になると、マイクを握る皆さんがいずれも「なでしこ」話で盛り上がっている。鉄鋼業界なので、女性の参加者は多くないのだけれども、「鉄の男たち」はニッポン女性の奮闘に心からの賛辞を贈ってました。あんまり伝えられておりませんが、実は7月17日には女子ソフトボール・カナダ杯も、アメリカを7-0で破って優勝しているのです。あの上野由岐子投手は健在です。
○ということで、そのまま広島泊。ありがたいことに、昨今のコンビニはパンツや靴下はおろか、ワイシャツまで売っているので、着の身着のままの出張でもなんとかなってしまうのです。さらにエアコンの効いたホテルは、とっても寝心地がいいのであった。(当地は昨日、三隅発電所がボイラーの不具合で停止してしまい、中国電力としては困っている様子。でもそこは石炭火力のありがたさ、たぶん1か月もあれば何とかなるでしょう)。
○明けて21日、すでに広島の朝は晴れている。台風は近畿あたりをのろのろと東へと移動中。東京に戻る途中で、新幹線で台風を追い抜くというめずらしい体験をしましたな。晴れのち大雨、しかるのち晴れ。大井川あたりは増水して大変な感じでしたが、横浜を過ぎたらもう晴れていた。どうやら台風6号は関東直撃とはならなかったようで、とりあえずは安心でした。
○広島から東京まで乗ってみると、関西電力管内に入ったところで「節電のため、冷房の設定温度を上げます」という車内放送あり。それが名古屋あたりでまた温度が下がり、富士川を越えたところで再び「節電のため・・・・」とのアナウンス。JRは義理堅く温度を上げ下げしているようですが、何もそこまでしなくとも。ちなみに中部電力は、中東との長年のコネクションがモノをいって、かなり先まで天然ガスの手当てを終えているのだという話を聞きました。電力事情も全国でさまざまです。
<7月21日>(木)
○弊社は今月から出社時間が45分間繰り上がり、8:30am-16:45pmが就業時間という「擬似サマータイム制」になっている。これでホントに節電効果があるのかどうかは不明なるも、ちょっとは気分が変わる試みである。ちなみに午後6時になると、残業するな、早く帰れというアナウンスがかかることになっている。
○さらに弊社では、間もなく駐在する社員を、就業時間後に乾きものとビール、ワインなどで送り出す「シャワー」と称する習慣がある。本日も、間もなく北京に赴任する社員を送るシャワーがあった。この場合、午後4時45分から会議室に集まって、立食形式で一杯やりましょう、ということになる。
○とっても日の高い午後4時45分から乾杯!というのはちょっと変な感じがする。でもまあ、世の中は居酒屋が午後4時から集客を競う時代であるから、こういうのも悪くはないのかも知れぬ。
○その場にあったテキーラを飲んでしまったために、帰りの千代田線で爆睡してしまう。柏駅に着いたら、なんと午後7時前であった。もちろん空はまだ明るい。ここからテニスなんぞに出かけたりすると、ホントにサマータイム制満喫なのであるけれども、家に帰ってテレビチャンピオンを見るのであった。いやあ、久々だと面白いなあ。
<7月22日>(金)
○本日聞いて感心した話のメモ。
●原油価格=市場商品(需給)+戦略商品(地政学)+金融商品(資金の動き)
――「原油価格=ファンダメンタルズ+プレミアム」という公式がよく使われるが、こっちの方が正確ではないかとのご指摘。なるほど、仰るとおりではないかと。
●この国は全部が中小企業みたいなもの。経営力はないけど、現場力で勝負する。なでしこジャパンもその典型ではないか。
――東電本店は何をしているのか分からないけど、福島の現場の作業員は頑張ってステップ1を達成してしまう、といった例もあるようです。
○最後のこれは筆者のオリジナル。
●政治の世界における締め切りは、破られるために存在する。
――米国債の債務上限問題が典型的ですが、深夜に刻限を過ぎた頃に「時計を止める」などといったギミックを使いつつ、物事をまとめるというのが常套手段です。俵に足がかからないと、なかなか本気を出せないものであります。
<7月24日>(日)
○米国の債務上限問題。案の定、決裂して仕切り直しになっている。米国債デフォルトの確率が、これでまた少し上昇したことになる。1996年の事態と似たような感じだが、あのときは4.9兆ドルの上限を5.5兆ドルに上げればそれで済んだ。今回は14.3兆ドルの上限を上げる話なので、この10数年で米国債の発行量はとてつもなく増えたことになる。しかもその中でも、外国人の持ち分が増えている。デフォルトになったときに、迷惑をかける範囲も桁違いに大きくなっている。この辺のこと、ちゃんと分かっているのかなあ。
○中国の高速鉄道が事故。死傷者数は3桁になるとのこと。痛ましい事故であるが、あれだけのインフラ投資が安全性軽視で作られていたということになると、これは人災ということになる。しかも、これまでに投入された資源がなんとももったいない。あれだけ短期間に集中的に鉄やコンクリートを投入したお陰で、世界の資源価格は相当に上昇したはずなのだが。
○ノルウェーの連続テロ事件で90人以上が死んだ。1人の過激派がこれだけの惨事を起こせるものなのか。そうかと思えば、カイロではデモ隊と軍支持派が衝突しているという。それに比べて、日本はこれだけ首相の評判が悪いのに、辞めろというデモさえ起きていない。みんな、それほど困っていないのだろうか。
○総じて海外は物騒だが、日本国内は意外と平穏であったりする。もちろん暴力がないのは、大いに結構なことなのだけど。民主党の若手議員諸君、退任の署名を集めるのもいいが、あのズルを「グー」で殴ってみてはどうか。手のひらには、ちゃんと「忍」と書いておくのだぞ。
○ということで、平和な国ののどかな週末にアナログ放送が終了した。今週末の柏祭りは、めずらしくも雨が降らなかった。そして先月、ワシントンから東京に赴任したJ君は、柏駅前のビックカメラに行ったらテレビがなくて仰天したとのこと。立派な「地デジ」難民認定である。
<7月25日>(月)
○今日も私的なメモから。
●日本企業における「五重苦」は「六重苦」になった
=@高い法人税、AFTA政策の遅れ、B労働規制強化、C環境規制強化、D円高進行+E電力供給&コスト高
――法人減税を期待していたら、震災後は逆に増税になるらしい。この間に韓国とEUのFTAが始まって、国際競争力はますます低下。なおかつ欧州と米国の財政への信認が低下して、自動的に円が買われるという奇妙な円高が進行中。これに加えて電力不足で、ついでに料金も上がるといわれたら、少なくとも製造業はやってられませんがな。
――実際、最近は東南アジアの工業団地がよく売れているらしいのです。「お前たちは日本を捨てるのか!」と糾弾しても、「だって政治があんな風じゃねえ」と開き直られてしまう。ここでどんな風に空洞化対策を描くべきなのか。あんまり防衛的になってはなりません。知恵を絞らねばならないところです。
●米国経済の実態は、「強い企業、弱い家計、危険な政府」と見つけたり。
――米国企業は新興市場で稼ぎ、ITビジネスで先陣を切り、しかも社員をリストラして空前の利益をあげている。お陰で雇用は低迷し、家計は苦しく、住宅市場は改善しない。国民の不満が、ティーパーティー運動(一揆)を招く。そして税収は減って、政治は迷走し、米国債はデフォルトしちゃうかもしれない。なかなか大変な構図です。
――日米共に、今は政治が「アンチ・ビジネス」になっている。だからこそ、企業がヤケになって「家計離れ、国離れ」を志向しやすくなる。それを避けるためにも、政策は適度に「プロ・ビジネス」であった方がいいと思うのですけどねぇ・・・・。
<7月27日>(水)
○最近、どうもボーッとしていることが多くて、大事なことをスカッと忘れていたりして、ありゃりゃと慌てることが少なくない。と言っても、今さら暑さのせいにもできぬ。困ったものである。
○本日も自宅にケータイを忘れて出かけてしまい、終日、落ち着かない一日でした。案の定、折り返しがないことに業を煮やしたメールが2通。どちらも仕事の依頼であったために大変恐縮。どーもすいません。真面目にやりますから。
○ということで、知的活動には不向きな状態が続いております。いかんですねえ。今日も本当は、もうちょっと賢いことを書くつもりだったのですが、気力が萎えました。
<7月28日>(木)
○小松左京氏が逝去。中学生の頃によく読ませてもらいました。当時はよくあったパターンで、星新一、小松左京、筒井康隆の3人の本は、その頃に出ていた分はほとんど全部読んだと思う。眉村卓、豊田有恒なんかも読みましたねえ。日本のSF小説の黎明期でありました。
○強いてどれかと言えば、小松作品では『日本沈没』ではなくて、『果てしなき流れの果てに』でしょう。あれは日本のSF界を代表する一冊ではないかと思います。それと短編小説にいいのがたくさんあった。『地には平和を』『物体O』『くだんの母』などがすぐに思い浮かぶが、ユーモラスな作品もあって、特に『御先祖様万歳』という短編集が楽しかった。初期の『日本アパッチ族』にもそんな味わいがあった。『明日泥棒』のゴエモンみたいなキャラクターは、いったいどうやって思いついたのやら。
○その一方で、『継ぐのは誰か』は説教臭い、『見知らぬ明日』は尻切れトンボ、『エスパイ』は出来が悪い活劇、『復活の日』は外国人の描き方が紋切り型でありました。なぜか小松作品は、嫌いな作品もよく覚えている。とにかく間口の広い、変幻自在な作家であったから、幅広く読まされてしまったということなのでしょう。大作家と言っていいのではないでしょうか。少なくとも私にとって大事な作家の1人でありました。合掌。
○これだけ思い出すと読み返したくなるのですが、当時、買い貯めた大量のハヤカワ文庫その他は、理解のない母親にバッサリ捨てられてしまって、今は一冊も残っておらんのです。他には何の恨みもないのですが、あれだけは残念であります。
○ふと気がつくと、中学生になったウチの次女もわけのわからん本を山のように読んでいる。もうちょっとマシな本を読めとつい余計な口出しをしてしまうのだが、読書の楽しみというのは横から指図はできないもののようです。
<7月31日>(日)
○ひょんなことから、とんでもない会合に飛び入りしてしまった。住所だけを頼りに訪ねていった先は、スカイツリーが間近に見える墨田区吾妻橋。そこにあったのは自動車整備工場。でも、普通じゃないんです。だって置いてあるクルマは全部ポルシェなんですよ。真面目な話、どれか1台のエンジンがかかっただけで、腹の底にしびれるような音が鳴り響きます。そう、ここはポルシェ専門のチューンナップ工場なんです。
○で、ここで行なわれていたのは、都内のポルシェオーナーさんたちによる「ポルシェクラブ六本木」の会合でした。その場に集まった人たちは、全員がポルシェのオーナー。取材で来ていたポルシェ雑誌の編集者さんと、JTBの営業の方だけが例外でして、あ、もちろん私めも・・・・。
○で、彼らが何の相談をしていたかと言うと、ニュルブルクリンクで走ろうという打ち合わせなんです。門外漢の悲しさ、それがどういう意味なのか、当初はまったくわかっていなかったのでありますが、要はドイツにある全長20キロ、世界最高峰のサーキットコースなんですな。下記はウィキの説明から。
ニュルブルクリンク(独:Nurburgring
)はドイツ北西部ラインラント=プファルツ州・ケルンより南に約60km離れたアイフェル地方のニュルブルクにあるサーキットである。現在は全長20.832kmの北コース(Nordschleife、ノルドシュライフェ)と、1984年に新設された5.1kmのGPコース(GP-Strecke)がある。
○で、問題はこの北コースがいかに過酷かということです。
豊かな森の中にある古城ニュルブルク城を囲む北コース“ノルドシュライフェ”の特徴として、
・コース全体で約300mの高低差がある。
・超高速から超低速まで多種多様なコーナーがある。
・コーナーの数が172もある。
・コーナーの多くがブラインドコーナーとなっている。
・コース全体の平均スピードが高い。
・路面が波打ち、ほこりっぽく滑る。
・コース幅が狭い。
・エスケープゾーンが狭い(黄色旗での減速が十分でない車両のルーフをガードレールの外にいるマーシャルが棒で叩いて警告を行えるほど狭い)
○いちばん腑に落ちた説明は、「ニュルブルクリンクでは年間250人が死にます」ということでした。とても危険なコースなので、プロと言えども安心は出来ない、というのはもちろんなんですが、ニュルブルクリンクはイベントのない日は一般道(一方通行の有料道路)として公開されているのです。宿泊施設や観光施設もついていて、モータースポーツを愛する人たちが世界中から集まってくる聖地となっている。さすがドイツであります。
○もちろんレンタカーもありますぞ。一番安いのはスズキのSWIFTで1日299ユーロ、一番高いのはポルシェ997ターボで2499ユーロだそうです(燃料費別)。ちなみに主催者さんによれば、「悪いことは言わないから、VWシロッコ(589ユーロ)にしておきなさい。あれはいいクルマですよ」とのことでした。なお、レンタカーで事故った場合には、保険がかかっていて全損1万ユーロの頭打ちとなります。でも、ご自身の安全については、自分で旅行保険をかけなければなりません(サーキットでの事故って、保険が下りるのかなぁ・・・)。
○旅行の注意事項がとてもふるっている。「このイベントは旅行会社のツァーとは違います」「海外のサーキットを走行することは、日本のサーキットを走行するのと同様に、場合によってはそれ以上に、当然危険を伴います。トラブル、事故、負傷、死亡など、どのような結果もすべて自己責任です」。・・・・うーん、リスクを取らないのが当たり前になっている今の日本社会において、この酔狂さ、物好きさはすごい。というか、いっそすがすがしい。
○メルセデスとかフェラーリとか、高いクルマに乗る人はいろんなモチベーションがあるのだと思います。少し邪推するならば、ただ持っているだけで幸せ、という人が多いんじゃないでしょうか。ところが世の中には、自分のクルマの性能を極限まで試したい、とか、自分の運転技能を極めたい、と思っている人たちもいる。ポルシェのオーナーさんたちには、そういう傾向が強いように感じました。
○ちなみにニュルブルクリンク・ツァーへの参加は、まだギリギリ間に合うみたいですよ。我と思わん方は、是非どうぞ。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki