●かんべえの不規則発言



2011年11月





<11月1日>(火)

○本日は「2011年11月1日」ということで、「ピン」がずらりと勢揃い。いえ、だからといって、特にどうということもないのでありますが。これが11月11日には、またまた「ピン」がずらりと並びます。

○あらためて11月のカレンダーをチェックしてみたら、国内出張が8件も入っている。別に藻谷浩介氏に張り合うつもりはないので、少しは抑え気味にしたいのでありますが、気がついたらこんなことになっていた。責任者出てこい、ってそりゃワシのことか。

○とりあえず現在は新幹線で神戸へ移動中。まずは1個目から誠実に片づけていきましょう。


<11月2日>(水)

○新神戸駅前のホテルを朝一番でチェックアウトして、某企業の研修会講師のために有馬温泉へ。しまった。せっかく来たのに、温泉に入る時間も術もない。仕事が終わったらすぐ飛び出して、12時2分発の新幹線に乗らなければならない。夕方には社内の用事があるからであった。がーん。

○不肖かんべえ、この秋は策を弄して方々の温泉に入りまくっているというのに、道後温泉、白浜温泉と並び日本三古湯と称せられる有馬温泉に来て、入る予定がまったくないというのはなんたる失態ぞ。責任者出て来い。と、二日連続で言ってはみたものの、呼べど戻らぬ北方領土である。

○さて、有馬温泉の歴史は古い。タクシーの運転手さんは、「太閤さんが来てはりましたから」などと、まるで自分が見てきたようなことを言っていたが、それを言うなら枕草子にも出ているし、舒明天皇も滞在したという。かの黒田官兵衛は、荒木村重謀反の際に伊丹城内に幽閉され、ようやく救出された後で有馬温泉で湯治をしたことになっている。昔NHK大河ドラマであった『国盗り物語』では、高橋英樹演じる織田信長が、「誰か、官兵衛を有馬へ」と叫ぶシーンがあった(なぜかこういうことだけはよく覚えている)。

○さらに百人一首には、こんな歌が残っている。

ありま山 ゐなのささ原 風ふけば いでそよ人を わすれやはする

○「有馬山」(有り)と「猪名の笹原」(否)という反対語を、二つの地名にひっかけて盛り込みつつ、自分の気持ちを疑う恋人の男に対して、「アンタ何馬鹿なこと言ってんのよ〜。アタシが忘れるわけないでしょ〜」(そんなことより、このところ随分ご無沙汰じゃないの〜)と返している恋の歌である。テクニシャンですね。こんな返歌をもらってしまったら、男は何はさておき駆けつけねばなりますまい。すごく利発な女性という印象です。

○たった今気づいたんですが、この歌を詠んだ大弐三位は紫式部の娘ですから、百人一首ではこの親子は57番と58番の並びで扱われているのですね。母親の方は、自分のところへ訪ねてきた男を思い出しつつ、「ん〜、もうちょっと居てくれればよかったに〜」と詠っている。こちらは変化球ではなくて直球です。ズシリと響きます。

めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな

○それにしても、10〜11世紀の頃にこんな高度な恋の歌をやり取りしてたんですから、この国の文化レベルはとてつもなく高いといえましょう。ほんのひと時、平安貴族の雅な世界にひたってしまいました。


<11月3日>(木)

○G20カンヌ会議が始まりましたが、いよいよギリシャは困ったちゃんですねえ。先月末、皆があれだけ苦労を重ねて作った支援策がほとんどご破算です。サルコジとメルケルの「空気読め」攻撃も不発に終わりました。お陰でG20を始める前に、EU首脳会談をもう1回やり直し、みたいなことに。サルコジ議長、お疲れ様です。

○ということでわれらが野田首相は、G20で将来の消費税上げを公約しようが、先週の市場介入の弁明をしようが、あまり関心を持つ人は少ないという状況になりました。よかったねえ。パチパチ。

○パパンドレウ首相は、「ユーロに留まるかどうか、国民に聞いてみたい」とカッコつけちゃいましたが、そもそも脱退する手続きがないのに、どうするつもりなんでしょう。だってギリシャが本当に抜けられるのなら、次に抜けるのは必ずやドイツでありましょう。アホらしゅうて、やってられませんがな。でも、ドイツが抜けたらEUは崩壊です。ついでに、欧州の金融機関はドサッとまとめて地獄に落ちることになるでしょう。

○かつてギリシャをユーロに加えることに他国が反対したとき、フランスは「プラトンの国にノーは言えない」と答えたそうです。でも、今のギリシャは偉大な文明を生み出した子孫とはとても思われません。少なくともソクラテスやプラトンは居なさそうです。ついでに言えば、お隣のローマ文明の子孫たちもいかにも難儀であります。ギリシャはともかく、イタリア国債は意外な拾い物だろう、と思って仕込んでいる人は少なくないような気がしますぞ。

○さて、こんな状況を見ていると、かつての日本のジョークがそのまま当てはまるんじゃないかと思いつきました。そう、「みずほ銀行券」みたいに、ユーロを北と南の2種類に分けちゃうのはどうでしょう。そうすれば北ユーロは高く、南ユーロは低いことになり、自然に調整が行なわれるのではないでしょうか。ついでもって、財政赤字のGDP比を競わせて、北リーグと南リーグの入れ替え戦を行なう、なんて手もあったりして。

○ホントは笑いごとではないのでありますが、金融危機になるとなぜかよくジョークが飛び出すのでありますよ。


<11月6日>(日)

○大阪のダブル選挙、門外漢の私には何が起きているのかサッパリ分かりません。でも、ムチャクチャ面白そう。11月27日に、府知事と市長に誰がなるのか、どういう組み合わせになるのか。何より周辺部だけでもこんなに面白いのである。

●肺がん告白・・・羽柴氏が立候補断念 緊急手術へ

――あの秀吉さんが大阪で勝負するというのに、体調の問題でリタイアとは。お大事になさってください。手術が成功しますように。

●「うちが魂をほうり込んだら変わる」 公明組織票の行方は?

――魂というものは、放り込むことができるとは畏れ入りました。さすがは公明党。大阪での強さには定評があります。

●共産、平松氏を全面支援へ 大阪市長選 「独裁を阻止」

――橋下さんの「ハシズム」を防ぐことを最優先する模様。天下分け目の大阪秋の陣、「狙うは家康の首ひとつ」ってか?

○なんで大阪が気になるかと言えば、これから出張するからである。恒例の日本ニュージーランド経済人会議、今年は大阪で開催されるのだ。今宵は大阪市公館で歓迎レセプション。本題とは全然関係はないのだけれども、気になりますなあ。


<11月7日>(月)

○第38回日本ニュージーランド経済人会議は、大阪ヒルトンホテルで開催されています。私にとっては年に1度の定点観測の日。「家政婦はミタ」じゃないですが、ニュージーランドから日本を見ると、いろんな新しい発見があるんです。

○島国である、温帯に属する、火山がある、などなど、もともと共通点が多い両国でありますが、こんな共通点もあるのですね。

日本   ニュージーランド
Far East

(僕たちは東のはずれ)

立ち位置 Down Under

(僕たちは南半球の果て)

東日本大震災 悲しかったこと クライストチャーチ震災
なでしこジャパンの優勝 嬉しかったこと オールブラックスW杯制覇
復興 来年の課題 復興
がんばろう日本 合言葉 Kia Kaha!
これから参加を表明する予定

ただしアメリカには不安を感じている。

TPP オリジナルメンバー(P4)

ただしアメリカにはムカついている。


○ひとつ驚いたのがクライストチャーチ震災のその後について。復興がかなり遅れているらしい。それにはいろんな理由があるのだけど、ひとつは損害保険の引き受け手がいないという問題があるのだそうだ。ニュージーランドでは首都ウェリントンでは地震の恐れがあることが周知の事実となっていて、そっちは準備ができていた。ところがクライストチャーチで地震があるとは、だれも考えていなかった。ちょうど日本で言えば、神戸大震災の時に似ている。だから損害保険の引き受け手がいない。これでは復興も進めようがない。

○さらに困ったことには、世界の再保険会社のほとんどは欧州にあるので、こちらは欧州債務危機でにっちもさっちもいかなくなっている。南半球の地震の面倒まで見ていられない、というのが正味なところであるらしい。せめて日本の保険会社が出ていければいいのだけれど、過去のクライストチャーチの地震データがないために、料率の算定が難しい。

○ともに未曾有の天災に遭ってしまった、太平洋の北と南の島国同士、協力を深めることでより良い明日につなげたいところである。会議は明日も続きます。


<11月8日>(火)

○大阪のW選挙の話は、キウイたちの中にも知っている人が居て、説明を求められたりする。「若くて、Reform-Mindedな元弁護士の知事がいて、それがグレイヘアーでジェントルマンの、元テレビキャスター市長に挑戦状を叩きつけて・・・」とか言ってると、なるほどこれは面白そうである。これに比べれば、NZの総選挙なんて与党が順当に勝ちそうなんで、少なくとも血沸き肉踊るという感じではない。

○でもあらためて、大阪W選挙で何が争点なのか、どっちが勝つのか、知事と市長はどういう組み合わせになって、大阪はこれからどうなるのか、などと考えてゆくと答えに窮してしまう。そこで以前からの筆者のネタ元で、大阪の記者さんであるTさんに話を聞いてみた。

「例の『大阪都構想』って、かなり無謀な話なんじゃないですか?」

「プロ筋はみんなそう言ってます。でも大阪って、自治体としてはほとんど終わってるんで、いっそ破綻する前に元気のいい人に暴れてもらった方がいい。橋下さんを応援している人たちは、そんな風に思てはるんじゃないですか」

○なるほど、そういうことであったか。それであれば、全力を挙げて「ハシズム」を潰しに行こうとする人たちが出てくる理由がよく分かる。先行きにあまり望みがないからこそ、現状を維持したい人が出てくる。そのままではジリ貧になるのが落ちであろうが、それが世の中というものである。

○この構図はTPPに似ているな、と思う。「3/11」以降のこの国には、政府もマスコミも信用できないし、世の中は絶対に今より良くはならない、といった確信だか諦念みたいなものが広がっている。そしてまた、TPP交渉に参加しようがしまいが、農業も医療もどの道ジリ貧であろう。だからこそ、希望よりも不安の方が強くなるし、現状を変える試みへの反対が強くなる。でもそんな風になっちゃったのは、過去の農政や厚生労働行政のせいだと思うのだが。

○ついでに言うと、TPPも大阪都構想もちょっと危うい部分をはらんでいる。やってる人たちも見ていて危なっかしい。で、TPPは明日か明後日には結論が出る。さて、どっちに転びますか。

○TPP交渉はもちろんリスクフリーではない。日本外交としては、ちょっとした冒険となるだろう。ただし世界的なFTAブームが沈静化し、韓国もEUも日本との二国間FTAに乗り気ではない現状では、TPPは残された最後の大型案件と言っていい。幸いなことに、今手を上げれば間に合う。交渉はあと2〜3年はかかる(少なくとも米大統領選で向こう1年はつぶれる)。APEC全域に広がるという楽しみもある。後から中国を巻き込むためにも、ここは先進国同士でキチンとしたルールを作っておく方がいい。

○ちなみに「TPPはアメリカの陰謀」ってのは、あたしゃ笑止千万な議論だと思っている。そんなことを言うなら、今までに成功したアメリカの陰謀を3つ以上挙げてもらいたい。真面目な話、あんなに陰謀が下手な国はないと思うぞ。笑っちゃうくらい。


<11月9日>(水)

○以下は某社中小企業の社長から拝聴した話。


オーナー企業ってのはいいもんだよ。会社は自分の王国だからね。たまに証券会社がやってきて、御社を上場すれば20億円入りますよ、なんてことを言う。あほ言えって断りましたよ。そりゃ証券会社は、幹事手数料で儲かるんでしょうね。もちろん僕にとっても20億円は大金だよ。1%で回しても年間2000万だからね。でもね、そんな金を手にしたら僕はボケちゃいますよ。そんなことより、今のペースで働いている方がいいの。IRだとかで、引っ張りまわされるのはかなわんし。

だいたいね、今は上場のコストが高過ぎる。それを維持するのも人手がかかって大変だ。なんで監査法人にあんなに金払わなきゃいかんのか。オリンパスも大王製紙も防げなかったのにね。それに会社を公開して、民主主義の経営になって、それで会社が繁栄するならいいよ。でも、本当に必要な決断は、民主主義じゃなかなかできないんだから。オーナー会社なら、「ばかもん、俺の言うとおりにしろ!」で通る。こんな結構な体制を捨てたくはないね。

いったん公開したうえで、会社を非公開に戻したケース、結構あるんだよ。××という会社、聞いたことある? ○○で世界全体の5割のシェアを持っているけど、年商はせいぜい500億円。大企業から見れば、ちっぽけなもんでしょう。でも独立しているからこそ、世界を相手にしていられる。公開してしまうと、いつ買収されちゃうかわからないでしょ。だったら非上場の方がいいよ。

会社にとって最大の問題は、跡継ぎをどうするかってことだね。全国に中小企業は500万社。どこも悩みは後継者の育成だ。息子に継がせることができればいいが、これが意外と難しい。うちの息子も支社を任せているけど、まだまだ一人前じゃないからね。これをどうするか。そこでいろんなケースを調べてみた。

普通は親が会長になって、息子を社長にする。これ、よく失敗するんだよ。なぜかというと、妻が息子の側についてしまうから。そりゃそうだよな。夫は赤の他人だけど、息子は自分が腹を痛めて生んだ子なんだからね。奥さんの動向を見ているうちに、会社の役員たちも社長の方を向くようになる。結果として悪い情報が会長には届かなくなる。気がついた時には、会社がおかしくなっている。そういう例はたくさん見たよ。

うまく行ってるケースは、親が社長をやって息子を専務にするパターンだね。ちゃんと息子を見張りつつ、親が最後まで権限を手放さない。文字通り死ぬまでやるわけだ。息子にとっては迷惑かもしれないけど、その方が親が死んだあとはやりやすいだろう。僕もそうするつもりだよ。憎まれるかもしれないけど、息子は親を否定するくらいじゃないとね。

外から見ていて感心するのは○○グループのケースだな。親がギリギリまで頑張って、いよいよ自分が引くという段になって、長年尽くしてくれた腹心の役員全員を一緒に辞めさせてしまった。今から思えば、そのために子会社をいっぱい作って、ポストを用意してあったんだな。うるさいのがいなくなるから、後を継いだ若社長はやりやすかったと思うよ。あそこの代替わりは成功だった。でも、そういう例ってなかなか少ないんだよな。


○話を聞いていて、ふと映画『砂の器』のラストシーンに出てくる親子の姿を思い出しましたな。よかった、ウチはサラリーマンの家系で。


<11月10日>(木)

○あるところに古い歴史を持つ商店街があった。大きなデパートから小さなブティックまでが入り混じった通りで、10年ほど前にアーケード街になった。そのとき、商店街の活性化のために、アーケード街共通の商品券を発行したところ、お客さんはいろんな買い物が一度に片付くので喜んだ。商品券は大いに流通し、商店街はだんだん活気づいていった。

○しかるに本当に繁栄していたのは、最大手のドイツ・スーパーマーケットだけで、ほかの店はそのコバンザメとなっていただけであった。商品券の発行などアーケード街の経費は、各商店が規模に応じて負担する建て前になっていたが、ほとんどはドイツ・スーパーとフランス信用金庫が支えていた。小さなギリシャ洋品店などは、「ウチは貧乏だから」と言って、一度も払おうとはしなかった。

○ある日、ギリシャ洋品店の粉飾決算が露見した。アーケード街の規約違反であることは明白であった。他の商店は経営の立て直しを要求したが、ギリシャ洋品店は呑気なもので、「どうせこのアーケード街には退出の規約がない。入れ替え戦がないリーグ戦みたいな気楽なもんだ。そもそもこの商店街で一番歴史が古いのはウチなんだし」などと、のらりくらり居直っていた。

(注:入れ替え戦のないプロ野球セ・リーグでは、万年最下位のベイスターズが身売りになってしまった。どうせ追い出されないから、という立場に甘えてはいけないようである)

○とうとう商店街の定例理事会の席上、ギリシャ洋品店は他店からの支援を受けることと引き換えに、経営再建計画を呑まされることとなった。今後は店の売り上げを隠すことはままならず、商品の横流しも許されず、借金の返済もキチンと行うこと。そうやって示しをつけておかないと、これまた規模が小さいポルトガル玩具店やアイルランド時計店の経営も危うくなってしまう。理事会はこれで一安心と、シャンシャンと手を打って閉会した。

○ところがギリシャ洋品店のオヤジは、家に帰ってから「今日の話を家族会議にかける」と言い始めた。商店街の顔役たちは真っ青になった。ギリシャ洋品店の奥さんは、極めつけの悪妻として知られている。あの奥さんが、経営再建計画の中身を聞いたら大荒れするだろう。フランス信用金庫は、「家族会議だなんて、そんなことするなら支援金はびた一文渡さない」と凄みを利かせた。

○結局、ギリシャ洋品店のオヤジは店主の座を降りて、新しい店主を選ぶことになった。ヤレヤレ、これでなんとかなるわい、と商店会の顔ぶれは安心した。その様子を恐々と窺っていた他所のショッピングモールなども、ようやく胸をなでおろしたところだった。

○ところがギリシャ洋品店がシャッターを下ろしている最中に、お隣のローマ・ブティックさんでも客が離れ始めた。考えてみたら、ローマ・ブティックも歴史が古く、オヤジさんも似たような性格で、放漫経営なのではないかとの噂が絶えないところであった。これまた商店街にとって一大事である。なにしろローマ・ブティックは、商店街でも3番目の規模を誇る有名店だったのである。

○最大手のドイツ・デパートでは、取締役会の論議が荒れた。「もうこんなアーケード街は止めにして、昔のようにウチだけで商売をやって行こう。商品券なんて、もともとウチは好きじゃなかったんだし」という声が優勢になった。そこへフランス信用金庫の理事長が乗り込んできた。理事長は大演説をぶった。

「こらこら、何のために商品券を始めたと思ってるんですか。お宅が昔、火事を起こしてこの商店街を台無しにして、その落とし前として店を二つに分けられた時代のことを、よもや忘れたわけじゃないでしょうね。あるとき、兄弟で和解したから、東店と西店をもう一度統合したい。そのためならなんでもする。お宅がそう言うから、このアーケード街と商品券を始めたんじゃないですか。それにお宅だって、商品券のお陰でずいぶん儲けたはずでしょうが」

○すると、ドイツ・デパートの社長はこう切り替えした。

「われわれだって昔はそのつもりでしたよ。でも商品券の流通だけじゃダメだって気づいたんです。本当なら、われわれ全員が新しいビルを作って、デパートを作ってそっちに移らなきゃいけない。それで会計も全部一緒にしてしまう。そこまでやらないと、この競争時代には生き残れない。アメリカン・ショッピングモールや、日の出の勢いのチャイナ生協には勝てっこないんです。でも、この商店街は、皆が一国一城の主で居たいと思っている。ギリシャ洋品店のようなお荷物さえ、いっぱしの口を聞く。もうこの商店街に未来はないですよ」

○どうもこの商店街は、まっしぐらにシャッター通りへと向かっているようだ。とりあえずの鍵を握っているのは、ローマ・ブティックさんである。「フォルツェ・イタリア」と言っておこう。でも、ベルルスコーニ叔父さんは、早く引退した方がよさそうだ。

○ところでそこのイタリア人。何というを馬鹿なものを作ってるんですか。そんなことだから、まったくもう・・・・。

●LUPIN III The fan-movie (Teaser in Italiano) http://vimeo.com/19464495  


<11月11日>(金)

○人間の愚かさを示すニュースには事欠かない日々でありますが、以下には人間の偉大さを示す記録があります。膨大な写真をご堪能ください。


http://blogs.sacbee.com/photos/2011/09/japan-marks-6-months-since-ear.html 


○あの日から今日で8か月。よくまあここまで来たものだ。でも、きっと先はまだまだ長いのでしょうね。自然の営みは常に偉大ですが、人間もときには偉大であることがあります。


<11月13日>(日)

○先日、地方の製造業の社長さんと話をしていたら、「ウチの中国工場は好調ですよ。特に心配もありません。なにしろ客の9割が日本企業ですから」と言うので仰け反ってしまった。なるほどそうか、今はもう、そういう時代になっていたのだ。

○よくTVなどで、中小企業の社長さんが、「円高で海外移転を検討しています」と深刻な顔で語っているのを見かけるけれども、今日の海外移転は昔ほど大変なことではなくなっている。そりゃそうだ。商社マンだって、かつては「この町で日本人は俺1人」みたいな状態で赴任して行ったわけだが、今では「日本人が1人もいない大都市」なんて世界中どこにもないだろう。今の連中は、昔の先輩方に比べれば、確実に楽をしているのである。

○製造業も同様であろう。日本企業の産業集積は、今では東アジア全域にできている。すでに出来あがっている工業団地に進出し、日本企業に慣れている地元の人を雇い、日本企業から部品を買って、安いコストで製造し、円建てで日本企業に売っているのなら、昔のような苦労はほとんどないということになる。外国語を覚え、現地の法律に振り回され、労働運動に手を焼き、資金の回収ができなくて・・・というお定まりのコースは、今は減っているのではないか。その分、駐在員が鍛えられるチャンスも減っていることになるが。

○そんな風に考えてみると、海外移転という「苦渋の決断」は、実はかなり容易なことなのかもしれない。ときどき「五重苦、六重苦」という話をしながら、ニコニコしている経営者が居るけれども、あれは「これだけ条件が重なっているんだから、しょうがないよねえ」と自分に言い聞かせているのかもしれない。ちなみにこの手の社長さんは、最後には「政治だってあんな風だしねえ」と言うことが多いけど、政治の不甲斐なさを楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか。

○実際問題として、製造業による雇用はいいとこ1000万人くらいなので、工場の海外移転が起きたとしても、それに代わる雇用が国内で生み出さればいいのである。あるいは、企業の利益がちゃんと国内に送付されていればいい。今後の経済政策は、その辺のことを考えるのがポイントではないだろうか。「ストップ空洞化」と言ってはみても、現実的には難しいと思うのである。


<11月14日>(月)

○日本シリーズは今日が移動日。2試合終わったところで、驚いたことに中日が敵地で2連勝。これは一気に行っちゃうかもしれませんね。上海馬券王先生は喜んでいるようですが、どちらにも肩入れする気が起きない局外中立・傍観者の筆者としては、ふとこんな日本シリーズを考えてみる。

●所在地:名古屋対福岡・・・・地方都市対決だが、好感度で福岡市が圧勝。博多ラーメンと味噌煮込みうどん、いかそうめんとエビフリャー、辛子明太子とういろう、中洲と栄、どれをとっても名古屋に勝ち目はない。出張も、名古屋だったら絶対日帰り。福岡だったら泊まって遊びたい(実は明日は名古屋で仕事があるんですけど・・・)。

●親会社:中日新聞対ソフトバンク・・・・オールドメディアとニューメディア、紙媒体と電波媒体、古い企業とベンチャー企業の戦い。人それぞれだろうが、筆者の場合は活字人間なので中日新聞支持。孫さんあんまり好きじゃないし。

●監督:落合対秋山・・・・無用な反感を買って落合の負け。だって落合監督って、プロなのに明徳義塾みたいな野球をするんだもん。選手時代は個人記録狙いだったのに、なぜ監督だと勝利至上主義になるんでしょう。

○所詮好き嫌いだからどうだっていいんですが、2勝1敗ということで、残りの試合はややソフトバンク乗りで見てみようかなと思います。馬券王先生、ゴメンネ。


<11月15日>(火)

○本日は、先週の日本ニュージーランド経済人会議で教わった「小話」をご紹介いたします。この手のジョークにはありがちなことに、Politically Incorrectなところはございますが、その辺は例によってお見逃しを。それでははじまりはじまり・・・。

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これは意地悪なオーストラリア人の外交官の物語である。彼はバングラデシュの大使館に勤務しているが、お世辞にも仕事熱心ではない。考えることと言ったら、地球の中心であるシドニーに帰ることばかりである。ある日、そんな彼のところへ、真面目な若きバングラデシュ人がやってきて、「オーストラリアに行きたいから、ビザを発給してください」と願い出た。

外交官は分厚い書類の束をだして、「これを全て完璧に記入するように」と若者に言い渡した。なおかつ、書類をチェックした上で、口頭試問を行なう。非常に難しい質問を3つ出すけれども、すべてに正解しなければビザは発給しない。覚悟をしておけ、と言い渡した。内心では、ふふふ、この関門をくぐりぬけることは容易ではないぞ、と外交官はほくそ笑んだ。

その1週間後、若者は再び大使館に現れた。彼はすべての書式を完璧に記入していた。外交官は何度も読み返したが、文句のつけようのない出来栄えであった。仕方がない。口頭試問を開始することにした。

"Question 1: How many days in a week which begin T? "(Tで始まる曜日は1週間にいくつあるか?)

若者はうんうん唸った上で、次のように答えた。

"Two-- Today and tomorrow !"

外交官は困ってしまった。そんなつもりではなかったのだけど、とりあえず答えは合っている。やむを得ず、次の質問を出すことにした。

"Question 2: How many seconds in a year?" (1年間は何秒あるか?)

さあ、これも難問である。若者は電卓を叩いたりしながら考え込み、ついに答えを言った。

"Twelve !"

ええっ、そりゃあないだろう。と外交官は思った。ところが若者の答えは次のようなものであった。

"January 2nd, February 2nd, March 2nd...."

悔しいことに、これまた間違いだとは言えない。仕方がない。外交官は最後の切り札、第3問を繰り出した。

"Question 3: How many Ds in Rudolph the Red-nosed Reindeer?"(「赤鼻のトナカイさん」にDはいくつあるか?)

再び若者は考慮タイムに入った。しきりに指を折りながら、歌を謡ったり身体を揺すったりした。そしてついに答えた。

"One hundred-twenty-eight!"

ええっ、そりゃあないだろう。再び外交官はあきれ返った。どう数えたって128になんてなるはずはないじゃないか・・・・。

しかし、若者は歌いながら踊りだしたのであった。

「ダダンダダンダンダンダン・・・ダダダダダンダンダン・・・・」

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○お後がよろしいようで。ところで明日の夜、午後10時からBS11の"INsideOUT"で不肖かんべえが登場いたします。テーマは「世界経済危機と米国大統領選」です。最近、こういうテーマが増えているんですよね。


<11月16日>(水)

○とうとうNY市警が動きましたねえ。ズコッティ公園から「反格差デモ」ことオキュパイ・ウォールストリート運動を強制排除してしまいました。例によって、このブログが簡潔に事態を伝えてくれています。

○気がつけば、9月17日のデモ開始からそろそろ2か月。最初のうちはニューヨーカーが揃って好意的に「オキュパイ運動」を迎えてくれましたが、だんだんと不満も募ってくる頃です。それにニューヨークは、そろそろ寒い季節を迎えます。いくら若者が多いとはいえ、この寒空にテントで寝泊りは身体に堪えることでしょう。この辺で退去を命じるのが、ブルーグバーグ市長の人情というものかもしれません。

○アメリカ社会において、もうひとつ重要なのは来週11月24日に控えた感謝祭です。11月の最終木曜日には、どこの家でも家族が集まってターキー料理を作る。どこにも行く当てのない人は、きっと誰かが家に呼んでくれる。そういう有難い日には、公園に寝泊りしてデモをしていてはいかんのではないか。感謝祭の日のズコッテイ公園がどうなるかは、ちょっとした見ものです。

○感謝祭になると、アメリカ議会も1週間の休会に入ります。財政赤字の削減に関する「スーパーコミッティー」に与えられている期限が11月23日であるのは、要するに「翌日は感謝祭だから」ということなんです。その締切日を1週間後に控えて、向こう10年間の赤字削減案がまとまるという話がワシントンから聞こえてこないのは、やっぱり決裂するのではないでしょうか。あるいは合意を先送りするか。きっと、「返事がないのはいい返事」ではないのだろうなあ、と思います。

○そもそもスーパーコミッティーは、11月23日までに赤字削減策を勧告するように義務付けられている。ところが現実的には、勧告する前に議会予算局(CBO)との擦り合わせを行なわねばなりません。そのために必要な期間を念頭に置くと、「残り1週間」というのは明らかにロスタイムに入っているわけでして、これはアメリカ政府の財政再建に黄色信号が点っていることを意味しています。

○ここで思い出していただきたいのは、今年8月にS&Pが米国債の格付けをAAAからAA+に落としたのは、「アメリカ政府に債務返済能力がないとは思わない。だが、議会は明らかに合意形成能力を失っている」ことが論拠でありました。スーパーコミッティーが11月23日の締め切りを守れないようなら、S&Pの見立ては正しかったということになる。その場合、ムーディーズやフィッチなど、他の格付け会社の動向にも影響が出る(つまり格下げに追従する)可能性があります。

○逆に言えば、スーパーコミッティーがちゃんと答えを出してくれるなら、間違っていたのはS&Pの方だったということになり、米国債の格付けをトリプルAに戻そうかということになるかもしれない。ここでも鍵を握るのは、「どんな風に感謝祭を迎えるか」であります。

○あと1週間で答えは出ます。ま、それまでボジョレ・ヌーボーでも飲んで、待ってましょうかねえ。


<11月17日>(木)

○日本シリーズ、緒戦のホーム2連敗でソフトバンクの目は消えたかと思ったら、そこから敵地で3連勝。とうとう王手をかけてしまった。ともにアウェイでしか勝てないという妙な展開になっている。お気の毒に、落合監督はナゴヤ球場での最後の試合を勝てなかった。何かの怨念ですかね。

○あたしゃサッサと諦めて、11月14日付けで名古屋の悪口を書いてみたんだけど、今から考えたら早計に過ぎました。名古屋というのはとても便利な場所で、東京から出かけて帰ってくる場合、まことに効率的なのである。少し反省して、ういろうを名古屋駅で買って帰りました。

○でも、やっぱり今週末はホークスを応援することにしよう。日本シリーズに東京が絡まないのは、ちょっと清々しいものを感じたりして。


<11月18日>(金)

○筆者の仕事は例年、11月中旬が忙しさのピークになるんですが、今年もやっぱりそうだったという気がします。それにしても今年は長い1年で、以下に記すのは2011年1月頃のニュースであります。

●世間が一番腹を立てていたのは、「グルーポン」のおせち問題であった。

――アメリカではとうとう上場してしまいましたねえ。

●「子供達にランドセルを背負わせたいのが伊達直人」「子供達に借金を背負わせたいのが菅直人」というギャグが流行った。

――その程度で済めばよかったのですが、いやはやトンでもない総理大臣でありました。

●与謝野さんが経済財政担当大臣になったので、海江田さんが経済産業大臣に押し出されて「不条理だ」と言った。

――海江田さんはその後は大化けし、国会で号泣されたり、総理の座を争うところまで出世されました。

●エジプトのタハリール広場には若者たちが集まっていた。

――いつまでたってもポスト・ムバラクが決まらないのはなぜなんだろう?

●オバマ大統領の一般教書演説のテーマは、「スプートニク・モーメント」であった。

――決めのセリフは"We do big things."でありました。

○いやあ、なんて遠い昔のことなんだろう。でも、年内にはまだまだ波乱がありそうな気がします。


<11月19日>(土)

○台湾の黄昭堂さんが2日前に亡くなられたそうです。私は2度ほどお目にかかったことがある程度で、特に語るほどの材料は持ち合わせておりませんが、あらためてこの文章に目を通して、ああ、偉い人だったなあ、と思い起こした次第。「親日家」である以上に「愛国者」であり、そして立派な学者でもあった黄昭堂さんならではの文章だと思います。


●植民地と文化摩擦――台湾における同化をめぐる葛藤  (黄昭堂/台湾独立建国聯盟主席)

 http://www.wufi.org.tw/jpn/jng01.htm 


○台湾好きの日本人の中には、ときどき「日本の朝鮮支配は失敗で、台湾支配は成功だった」という風に割り切りたがる人が居ますけど、上記を読む限り「植民地に善政なし」なのであります。ただし、少しだけ良かったこともあった。上記論文の「おわりに」の部分に、そのエッセンスが込められています。初めて読んだときと同様、最初はドキッとして、最後はホロリと来ました。

○台湾にとってはもちろんのこと、日本にとっても大切な方でした。合掌。


<11月20日>(日)

○先週、田原総一朗さんに会ったら、「僕は先日、北海道町村長会の会合で講演してきた。北海道には300人以上の町長さんや村長さんがいるんだけど、もちろん全員がTPP反対だよ。そこへ行って、『日本はTPPをやるべきだあっ!』って言ってきた」・・・・・喧嘩腰で話を始めて、質問は全部受けて、徹底的に議論したら、帰りには握手攻めになっていた、という話なんですが、あいかわらずお元気なのであります。

○それに比べると、こちらは恥ずかしいくらいなんですが、今日は富山市で、富山県JAグループと北日本新聞社主催の「TPPを考えるシンポジウム」のパネリストを務めてきました。メンバーは農業経済学の先生と、JA富山中央会会長と、富山県消費者教会会長でありますから、見るからに「飛んで火にいる夏の虫」という感じなのでありますが、この際、割り切って「TPPの伝道師」をやるのも貿易業界の務めかと思いまして。でも、おかげさまで、農業について随分勉強になりました。

○TPPの議論をするときに、農業のことでわからないことが多いのです。例えば戸別所得補償制度について、誰がどうやって決めているのか、いくらくらいなのか。今までは誰に聞けばよいのかも分からなかった。今日の基調講演をしていただいた酒井教授(富山大学)に尋ねたら、「10アールで1万5000円です」とあっけなく判明しました。仮に農地面積が2ヘクタール(日本全体の平均値より少し上)であれば、年間で30万円ということになる。あらら、そんなものなんですか。

○しかも戸別所得保障制度の財源は、構造改善事業という公共事業費を削って充当している。民主党マニフェストでは、新しい事業の財源は予算の組み換えで捻出することになっていて、それができてないじゃないか、ということで評判が悪いのですが、農政に関しては例外となっているですね。つまり公共事業費をスパッと切って、その分を農家に配ることにした。ここだけは「小沢イズム」が実現しているのです(単に野中さんに意趣返しをしたかっただけなのかも・・・・)。

○以前から不思議で仕方がなかったのは、「3/11」震災にもかかわらず、今年の公共事業費の支出額がずっと前年同期比でマイナスになっていて、8月になってようやくプラスになったことです(例えばこの資料のP12をご参照)。いくら補正予算の編成が遅れているからといって、これは犯罪的なことではないかと思って腹を立てていたのですが、全国的に農業関係の公共投資が減っているからなのだ、と考えれば辻褄は合います。お陰様で、ひとつ賢くなりました。

○今回、JAを中心とするTPP反対運動がこれだけ盛り上がりを見せたのは、「民主党政権になって、農政の新しい方向を示し始めるのかと思ったら、それもハッキリしなううちにTPPだなんて話になって、どうなってるんだ!」という怒りがあるからなんですね。反対署名が1167万人も集まるというのは、そういう背景があったのかと腑に落ちました。

○不肖かんべえの「TPP伝道師」はまだ続きまして、22日(火)の朝日ニュースター『ニュースの深層』でも登場いたします。キャスターは脱力さんこと上杉隆さんであります。


<11月21日>(月)

○今日は昼も夜も弁当付きの勉強会で、テーマはどちらも欧州債務危機。最近は頭の中が、貿易動向予測とTPP伝道師とアメリカ大統領選モードになっているので、話に追いつくのに苦労してしまう。それにしても、出口のないクラ〜イ話である。誰に聞いても、見通しは暗いという。とりあえず当欄11月10日に書いた、「商店街の話」のような牧歌的な世界では済まないようである(話の構図自体は、かなり的確であるような気もするが)。

○それにしても、世界にはこれだけ頭のいい人たちがいて、世の中の期待を背負っているようなのであるが、なぜか必要な決断が下せないようである。一説によれば、欧州統合の理想は今も健在で、エリート層である汎ヨーロッパ主義者たちは、この危機を契機にさらに財政統合へ向かう覚悟を秘めているという。まあ、それが例えば「スーパーマリオ・ブラザーズ」であると聞くと、思わず脱力してしまうのでありますが。

○一方で、「メルケルは色気も何もない太ったババア」などと口走ってしまうベルルスコーニさんも、今どきセクハラだ何だという次元を超えた余りの放言っぷりに、思わず感動を覚えてしまったりします。ときに人間の愚かさというものは、偉大さや賢明さと同様に、尊重すべきものを含んでいるのではないかと。

○そしてまた「お金」というものは、そうした人間の煩悩全ての反映でありますから、理屈通りには行かないものだという気もいたします。アメリカは11月23日の締め切りが近づいてもスーパーコミッティーはナシのつぶて(当欄11月16日参照)。そして日本では国会で消費税論議が始まりつつある。先進各国の政府債務の問題を前に、賢さと愚かさの交錯が始まろうとしている。もちろん前者は希少であり、後者がふんだんにあるわけでありますが。

○上記とは何の関係もない話でありますが、11月22日産経朝刊「正論」に拙稿が載りました。ご参考まで。

●「変革をもたらす魔法の杖なのか」

http://sankei.jp.msn.com/world/news/111122/amr11112202520000-n1.htm 


<11月22日>(火)

○あー、今日も一杯仕事をした。ということで、家に帰って飲むビールはしみじみ旨い。

○本日の『ニュースの深層』で、上杉さんが聞いてくれたので、初めて公共の電波で語ることができたのですが、「台湾がTPPに参加することは可能である」んですね。この可能性、気づいている人が少ないようなのですが、台湾はWTOに加盟しているし、APECの正式メンバーでもある。「ウチもTPPに参加する」と言い出した場合、誰も止めることはできないのであります。少なくとも理屈の上では。

○そして経済規模を考えた場合、台湾はTPP参加国の中では堂々たる「大国」です。米国、日本、豪州に次いで第4位の地位を占め、マレーシアやシンガポールをはるかに下に見る存在である。人口も2300万人でわずかに豪州を上回る。なにしろIT製品の輸出大国であるから、工業製品の関税はかなり低い。農業などSensitive品目は日本と同様にかなり多いのですけれども。

○台湾は気の毒な存在で、そもそも外交の機会がほとんどありません。国交を持っている国自体が希少価値なので。でも、TPP加盟国内で通商交渉ができるとしたら、これはやるだけでも価値がある。少なくとも手を上げた瞬間に、中国はとっても困るはずである。

○馬英九政権がそんな荒業をするとは思われないので、上記は来年1月14日の総統選&立法院選挙において、野党・民進党が勝利した際に考えられる「補助線」ということになる。台湾政府、ここはひとつ大真面目に考えてみてはどうかと、不肖かんべえが思料する次第であります。


<11月24日>(木)

○変な夢を見た。どこかのテーマパークでアトラクションを見ている。舞台の上には、ゾンビが次々と現れる。よくよく見れば、それらは変わり果てたセレブたちの姿である。例えば名の知れたゴルファーが、何事かに腹を立ててクラブをへし折ったりしている。まことにみっともない姿である。要するに偉い人たちも、人知れずこういう面もあるんですよ、という教えを示すアトラクションであるらしい。

○なんでそんな夢になったかというと、立川談誌が死んで、「落語とは人間の業の肯定である」と言っていたとかの話が頭の隅に残っていたせいらしい。佐藤優氏がどこかで書いていたけど、この世の中には「愚行権」というものがあって、人間は馬鹿をすることが許されている。馬鹿なことができなくなったら、それはどこかが間違っているからであろうと。海外カジノに狂ったD製紙前会長も、自分のお金でギャンブルする分には、どうってことはなかったのですよねえ。

○などと言いつつ、個人的には愚行を試すどころか、せっせと依頼された仕事を片付けている毎日である。今日で溜っていた仕事が少し減って、いろんなことに目処がついてきた。つくづく仕事の報酬の最たるものは、それが無事に済むということでありまして、ついでに誰かが少し誉めてくれればそれに過ぎるものはありません。「自分にご褒美」なんて、余計なことを考える必要はないんですよねえ。

○せめて今週末ぐらいは、ささやかな愚行を試みたいところ。その名をジャパンカップと言いまして、とりあえずブエナビスタとトーセンジョーダンは切りですな。トゥザグローリー当たりが狙い目かなあ。とりあえず最近絶好調の上海馬券王先生のお伺いを聞かねば。

○ついでながら、有為な若者のためにこんな論文募集もご紹介しておこう。われと思わん方の挑戦をお待ちしております。


<11月25日>(金)

○例の「オキュパイ・ウォールストリート」運動でありますが、本当のお金持ちは実は金融界にはそれほど居ないのだそうです。よく言われるのは、ウォルマートの創業者一族が大変な資産を有している。だったら「"Occupy Wall Street"ではなく、"Occupy Wal-mart"を目指すべきでは」、てなジョークを考えたのですが、すでに現実が先行しておりました。

http://occupywallst.org/article/occupy-seattle-occupies-wal-mart/ 


The Walton family (the largest shareholders of Wal-Mart stock and descendants of its founder) is the wealthiest family in the United States with an estimated net worth of $92 billion (according to Forbes' latest ranking). That's more wealth than the bottom 40% of Americans combined. They directly gave $7,000,000 in political contributions in 2010 and billions more through their family foundations in an effort to buy our legislative process. It's time to Occupy Wal-Mart, to shine the spotlight on its many abuses and to support its millions of workers in their struggle for a living wage.


○「社員と仕入先を酷使している」としてウォルマートが批判されているわけです。でも、一方で"Everyday Low Price"で助かっている消費者も居るわけですから、これはちょっと一方的な議論ではないか、などと思っていたら、早速フォーラムの中でそんなスレが立っておりました。

http://occupywallst.org/forum/black-friday-game-over/ 


Sad to say it, but you just lost your whole war in 1 day. Watching black Friday unfold on YouTube, it is painfully obvious that of those you refer to as the 99%, 90% absolutely LOVE big corporations like Walmart and Best Buy. Hold all the rallies you want, but your 99% will be running to Walmart the second they open another box of $2.99 bath towels.


○今日は年末商戦が始まるブラックフライデー。99%を自認しているはずの人々が、「ウォルマートやベストバイなどの大企業に殺到している!」ことを嘆いています。オキュパイ運動敗れたり、ってわけ。まあ、そんな堅いこと言わずに、遠慮なくお買い物した方がいいと思うんですけどね。


<11月27日>(日)

○学生時代に、試験前日の麻雀は楽しかったのである。「そろそろ止めにしなければ・・・」と思いつつ、相手も似たような心理状況にあって、お互いに牽制しあっているうちに、なかなか終わらないのであった。あれなども典型的な「愚行」というもので、愚行にはどこか麻薬的なものがある。

○土曜日は、午後3時には都内のスタジオに行って番組の収録をしなければならないというのに、正午に茨城守谷のラーメン二郎の行列についているというのは、どう考えても賢いとは言えない行為である。なおかつ、国道16号線は混んでいる上に、クルマを車検に持ち込まねばならなかったというのに。ま、結局は満腹した状態で、時間前にスタジオにたどり着いたので結果オーライでしたが。

○日曜日は、家に仕事をいっぱい抱えているというのに、ジャパンカップに行ってしまった。なおかつ大敗してしまった。これでは今宵は苦しまねばならないかも。明日の朝は、モーサテのために午前4時起きだというのに。ああ、愚行はたのしい。

○ときに人間の善行は愚行以上の被害をもたらす。大事なことは、適度に「愚行権」を行使することである。きっとそうだ。そういうことにしておこう。


<11月28日>(月)

○なぜかいろんな場所で、「独りカラオケ」が流行っている、という話を聞く。あたしゃカラオケはお付き合い程度であって、ここ2〜3年は完全にご無沙汰しちゃっているくらいなので、「1人でカラオケに行く」という行為は、「1人でスキ焼屋さんに入る」と同じくらい想像力を超えた話なんですが、世の中には「独りカラオケ専用店」まで出来ているのだそうで、これはもう時代が変わったとしかいいようがありません。

○アメリカの社会学の名著に”Bowling Alone"という名著がありまして、"Social Capital"(社会関係資本〜「地域の絆」とでも訳した方が通りはよいかもしれない)という概念を説き明かしたことで定評があります。かつては地域社会の縁が深かったアメリカも、ついには1人でボウリングに行くような寂しい社会になり、そこに宗教団体や政治運動が入り込む余地が出来ている、てな内容で、今のティーパーティーやOWS運動を語る際にも応用が利くような要素をはらんでいます。(ちなみに『孤独なボウリング』、という書名で翻訳が出ていますが、「積ん読」状態です)。

○「1人でボウリング」という行為を日本に当てはめるならば、これは当然「独りカラオケ」でしょう。ということは、日本においてもいよいよSocial Capitalが失われつつあるのかもしれません。もっとも先の東日本大震災では、被災地で「これぞ地域の絆」と感心させられるような立派な行為が相次ぎ、国際的にも「日本社会はスゴイ」という評価につながっている。他方では、「日本政治はヒドイ」こともつとに有名になので、実は民が素晴らしいSocial Capitalを有しているために、お上のCompetenceが向上しないのではないか、などと考えさせられる程になっている。

○ふと思い出したけど、昔の当社の役員でやたらとカラオケの上手な人が居た。ある日、「自分は歌が下手過ぎる」と感じて一念発起し、自宅の近くのカラオケ教室に通い続けたのだが、そこは忙しい身のこと、毎晩、お願いして深夜にマンツーマンのレッスンを受けたのだという。それで周囲が呆れるほどに上達してしまったのだが、どんな芸事でもそこまで熱中すれば、そりゃあ上手くなりますわなあ。

○そうかと思えば、不肖かんべえの古い友人は何にでも凝り性(というか、ワシの周囲はそんなのばっかりだが)で、あるときボウリングに凝りだした。マイボール、マイシューズなどは当然のことで、毎晩のように「独りボウリング」を続けた結果、ついにはコンスタントに200点以上を出せるようになった、などという話もあったりする。今も単身赴任のヨーロッパで、「孤独なボウリング」をしてるんだろうか。

○考えてみれば、本気で何かを極めようと思ったら、独りで励むしかないのである。カラオケでもボウリングでもゴルフでも、それは同じこと。と、なぜかオタク体質の筆者は、当初の予定とは違った結論にたどり着いてしまうのであった。


<11月29日>(火)

○先日、車検で自動車のディーラーさんを訪れた際に、「タイの洪水の影響、どうですか?」と聞いてみた。返ってきた答えは、小型車の一部に影響が出ているけれども、セールスに困るほどではない。ただしカーナビの部品が品薄になっているので、あわてて国内で代替品を製造しているとのことであった。むしろディーラーさんの懸念は来年3月末の「エコカー減税打ち切り」にあって、駆け込み需要が発生して納入が追いつかなくなったらどうしよう、であるようでした。

○実はタイの洪水によるサプライチェーン問題は、それほど深刻ではないかもしれません。というのは、非常に大規模な産業集積が出来ているのに、「どうしてもタイでしか生産できないもの」がそう多くないから。上記のカーナビ部品なども、「なーんだ、国内で作った方がいいじゃないか」ということになるやもしれず、かえって国内景気にはプラスに働くかもしれない。他方、タイのことを考えると、「何も慌てて工場の復旧を目指さなくても」ということになりかねず、今後の復興の遅れが心配になってくる。

○タイはそろそろ乾季に入っているはずですが、その後の情報が少ないので気がかりです。何だか妙にのどかな水害の写真が出回っていたりして、その辺はいかにもタイらしいのですけど。


<11月30日>(水)

○この季節になると、ちょっとずつ花粉アレルギーが出始めます。風邪の人も増えているみたいですけど、皆様どうぞお大事に。

○そこでコンビニに立ち寄って、ポケットティッシュを買い込むのですが、ついつい「エリエール」を指名買いしてしまいます。普段は全然、銘柄なんか気にしないんですけど、井川前会長の事件が頭の中にあるためか、ついつい同社に同情しちゃうんですね。アホなトップがいると、社員は苦労しますわなあ。実際のところ、エリエール製品はホントに鼻に優しいような気がします。

○で、最近は滅多にやらないんですけど、昔は海外のカジノで一定の研鑽を積んだ(胴元に多額の寄付をしてきた)人間としましては、今回の井川前会長の問題にはいろいろと感じるところがございます。(蛇足ながら、国内の地下カジノというものはまったく存じません。あたしゃギャンブルは好きだけど、その手のリスクを冒すのは大嫌いなもので)。

○思うにカジノのゲームというものは、いつも立ち去り時が問題なんです。ありがたいことに、カジノやパチンコ屋やJRAなどは、「お前は勝ち過ぎたから帰さない」とか、「レートを上げてあと半チャン」みたいに無粋なことを言いません。プレイヤーとしてはチップを山のように積み上げて、周囲の羨望の視線を背中に感じつつ、「さて、もう寝るか」と悠然と賭場を立ち去るのが理想とするところです。

○ところが、カジノにはハウスルールというものがあって、あらゆる事柄が胴元に有利になるようにできているのです。タダで酒が飲めたりするのもその一環で、客が判断力を失うように、あの手この手でサービスしてくれるのです。どうしたら客が長時間遊んで、アツくなって、運を悪くして、カネを落としてくれるか。まるでディズニーランドのように、その手のノウハウがギッシリ詰まっているのでありますよ。

○そんな恐ろしい場所ですから、勝って帰ること自体が一種の僥倖です。ところが井川前会長は、VIPルームで打っていたというじゃないですか。普通の卓でさえ、勝っていても負けていても、途中で席を立つのは勇気が要るものです。それが「選ばれた人たち」の中に入って、適当にくすぐられて見栄もあったりするなかで、どうやって席を立てばいいのか。そういう場所に立ち入ったことのない私が言うのもなんですが、そりゃあ負けるだろ、と思います。

○そしてギャンブラーというものは、「勝って帰ろう」と考えているうちはいいんです。「半分でいいから、負けを取り戻そう」と考え出したら、あとは坂道を転がるが如しで、負けは雪だるま式に増えていきます。頭の中では、「負けがこの金額を越えたら帰ろう」と何度も決心するのですけれども、その金額は何度も塗り代わり、しまいには途方もない金額になってしまうんですね。それでも後悔と不安に苛まれつつ、プレイを続行するのが博打の味というものであります。

○しかるに100億円以上も負けるとなると、どういう心境になるものなのか、借金してまで博打をしたことのない私には見当もつきません。ましてや、借金を隠しながら金策をして、さらに博打を続ける、なんてのは、これはもう地獄の日々でありましょう。およそ分別のある人間のやることじゃありません。かといって、そういう泥沼に陥ってしまうのも人間の業というものであって、それだけ負けるというのはお前も漢よの、などと後ろから肩でも叩いてやりたい気もします。その昔、山ほど読んだ阿佐田哲也の小説には、その手のシーンがたくさん出てきたものであります。

○ところでつい、余計なことも考えてしまいます。「日本にカジノがあれば、あの150億円は海外に流出しなくて済んだのに」。いやー、実にもったいない。かねてから、「お台場と沖縄に1個ずつ」、今なら福島も含めて合計3個のカジノを認めたらどうか、というのが筆者の持論であります。その辺の話は、昔どこかで書いたはず。と言っても、こういう事件があった後では、和製カジノ構想はますます後退ということになるでしょうけどね。

○もうひとつ、エコノミスト的な発想として、そもそもカジノで負けたお金は、国際収支統計ではどのようにカウントされるのだろう。常識的には、対マカオ向け旅行収支の赤字ということになって、サービス収支の一部になりそうである。あるいは、そもそも集計が不可能なので、単なるアングラマネーということになって誤差脱漏に含まれるのだろうか。今度、日銀国際局の人に聞いてみることにしよう。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki