●かんべえの不規則発言



2014年3月







<3月1日>(土)

○昨晩は、そろそろ20年目になろうかという年に1度の同窓会。いろんな企業の人が集まって、政治や経済など時事問題を論じていたのは既に過去のこととなり、次第に話題は子どもの教育やら健康のことになり、今では少なからぬメンバーがリタイア生活、もしくはその予備軍に入りつつある。となると、話題は以下のようなものに変質している。

●孫の話、子どもの状況、飼い猫のこと

●趣味としてのウォーキング、ガーデニング、俳句など

●配偶者を大事にしなければならぬこと

○もちろんそんな中にも、社長業が何年目に入りましたとか、生まれて初めて個室と秘書がつきましたとか、独立して3年目でようやく軌道に乗ってきました、といった報告もある。連絡のない人が居たりもするのだが、とりあえず一人も物故者が出ていないのはめでたいことである。

○喩えて言えば、昔からよく知っている船同士がすれ違うときに、互いに汽笛を鳴らし合うようなものであろうか。別に晴れがましいことがなくても、1年前とたいして変わったことがなくても構わない。互いの無事を確認できるだけでいいのである。

○それにしても、この店はすごかった。飲み放題、食べ放題で2980円(税別)ですよ。味のレベルも非常に高かったです。


<3月2日>(日)

○ということで、年寄りめいた気分で迎えたこの週末、とんでもない腰痛に見舞われている。ああ、これでは何もする気になれない。マウントゴックスやら、ウクライナの紛争やら、いろいろ語ってみたい気もするのであるが、集中力皆無である。朝晩風呂に入って、おとなしくしているくらいしかない。それでも土曜夜は町内会の防犯部の打ち上げ会。

○日曜日になっても腰痛は去らないのだけれども、我慢できずに中山記念に参戦。案の定、ワシの予想通りにトウケイヘイローが吹っ飛び、天皇賞馬ジャスタウェイが来てくれた。めでたい。雨の中を中山まで出かけてきた甲斐があったというものである。2位にロゴタイプが来てくれれば満額回答だったが、僅差で岩田騎手騎乗のアルキメデスがハナ差で2位。

○これが悔しくて結局、12Rまで奮闘し、中穴の馬連を仕留めて納得。久々の勝利のお蔭でしばし腰痛を忘れる。ああ、そうか、やっぱり遊んでいるときの方が幸せなんだなあ。


<3月3日>(月)

○ロシア軍がクリミアに出動、というニュース、とうとう「新冷戦」みたいになってきました。残念なことに、ウクライナを引き込もうとする引力において、EUの熱意はロシアほどではありません。特にプーチン大統領のウクライナ(あるいはせめてクリミア半島)への思いはまことに強い。たぶん暴力を行使することをためらわない。少なくとも、「今週末からパラリンピックが始まる」なんてことは、すっかりどうでもよくなっているようです。

○それではウクライナ問題はこの先どうなるのか。国連安保理で取り上げても、ロシアが拒否権を行使するからあんまり意味はありませんわねえ。その点、今年6月にソチで予定されているG8の方が使い出があるというものです。「西側でまとまってソチをボイコット」という選択肢が浮上すると思います。「ついでだから、来年からはロシアを追い出してG7に戻そう」という議論もあり得るでしょう。つまり名実ともに「価値観を同じくする西側先進国の定期会合」に戻すというアイデアです。

○ちなみに、「G8をG7に戻せるものなら戻した方がいい」というのは、筆者が以前から考えていたことであるけれども、まさか本当にそんなチャンスが巡ってくるとは思わなかった。さらに言うと、ロシアが抜けた分は豪州あたりを入れるとちょうどいいのではないか。さらに昔は、「韓国を入れてやってもいい」と思っていたのですが、今となってはそれは撤回します。とても彼らと価値観は共有できませんわなあ。

○ここで重要なのは、G8は来年の議長国がドイツで、その次が日本であるということです。微妙なことに、おそらくG7の中で現在、もっとも親ロ的な2か国でありますからね。逆に米、仏、カナダ辺りは相当に反ロ的です。日独がその気になれば、G8からのロシア追放はあっさり実現してしまうかもしれません。

○安倍首相はなにせプーチンさんと5回も会ってるので、ここでロシアと対決姿勢を取りたくはないでしょう。とはいえ、日本としては「西側先進国の一員」という立場も重いので、ここは悩ましいところです。日本にとってロシアとの関係は、確かに面白いカードではあるのだけれども、対米関係や対中関係ほど重いものではない。つまりは戦術的なパートナーということになります。ついでに言うと、北方領土問題でロシアが本気で譲歩するとも考えにくい。

○いずれにせよ、日本外交が面白いポジションにいることは間違いないと思います。


<3月4日>(火)

○今朝のNHKニュース、トップが「通り魔事件」である。「センスねえなあ。なんでウクライナがトップじゃないんだよ」と文句を言いながら見てたら、「千葉県柏市の住宅街の路上で・・・・」とのこと。ありゃりゃ。この住所、ウチからそんなに遠くないじゃありませんか。

○ということで、朝から小学校の周りにお巡りさんがいっぱい出てくるなど、何だか物々しい一日の始まりでありました。犯人はまだ捕まっておりませんので、しばらく落ち着きませんけれども、こういうものは「気にしたら負け」であります。

○さて、ウクライナ問題。オバマ大統領は何だかまた強がりのようなことを言ってますけれども、「ロシア軍がウクライナ東部に入ることはレッドラインだ」とか言ったら、プーチンは笑うでしょうなあ。軍事力の行使をちゅうちょしない国と、そうでない国では迫力が全然違います。

○その一方で、経済原理はロシア経済を直撃するはずでありますので、プーチン大統領の振る舞いにもそこはおのずとブレーキがかかるのではないかと思います。ロシアの中央銀行が緊急利上げをしなきゃいけない、という時点で、あんまり勝ち戦になりそうな気はしませんな。

○ロシア相手に一番効くのは、海外資産の凍結でありましょう。ソチ五輪開催資金500億ドルのうち、かなりの部分が着服されて海外に逃避しているという話ですが、そういうマネーをピンポイントで抑えられれば、「ソチもワルよのう」という人たちにはいいお灸になるでしょう。期待するのは米国務省よりも米財務省じゃないでしょうか。

○最後にちょっとだけ番宣です。明後日、こういう番組に登場いたします。BS日テレの「深層NEWS」って、テレ朝CSの「ニュースの深層」をひっくり返したような名前ですなあ。テーマは「米中はざまの日本外交」。


<3月5日>(水)

○ご近所の「通り魔事件」でいろんな方から声をかけられております。ご心配まことにかたじけなく。

○地元の人間には自明のことなんですが、おそらくは武士の情けで、一連の報道の中で敢えて触れられていないことがひとつありまして、それは犯人がクルマを乗り捨てたコンビニ駐車場というのが、柏警察署の至近距離にあるということであります。警察からすれば、「ふざけんな、なめんなよ」という話でありますし、普通に考えて、よほど犯人に土地勘がないか、あるいは逆上していて無計画であるということでしょう。どっちにせよ、事件の収束は近いと思います。今宵はとりあえず容疑者逮捕とのことですが。

○で、引き続きウクライナ問題であります。欧州の世論はかなりロシアに対してキツイなあ、と感じます。もともとプーチン大統領は、人権問題などで評判が悪かったるんですが、それ加えて経済面の理由もあったようです。ここ数年のEUは、域内の財政問題で他国に構う余裕がなかった。そこで東欧やコーカサスや南欧の国に対しては、単一市場は広げつつも、新たな加盟国を増やそうとはしなかった。ウクライナに対しても、「アンタはダメよ」とは言わなかったけれども、ロシアと事を構えたくないという保身の方が強かった。そういう罪悪感があるのですね。

○そこで対ロ批判がエスカレートしているわけですが、逆にロシア側は見事な手際で、あのソチ五輪の最中に、粛々と軍隊派遣の手配をしていたとしか思われません。プーチン大統領は国内では高い支持を得て、対外的にはオバマ大統領を子ども扱いしているようで、「現代のビスマルク」といった風情に見えます。

○だけど以下のような点には、たぶん気づいていないんでしょうね。この辺は、19世紀型リアリスト政治家の限界というものでしょう。プーチンの勝利はロシア経済を犠牲にしてしまう。最終的に損をするのはロシア国民です。

●プーチン氏の瀬戸際政策でロシア経済に大打撃-富豪も資産失う (ブルームバーグ)

○もうひとつ、今週末から始まるパラリンピックはどうなるのか。確実なのは、「ソチ」という地名がいったんは持ちかけたソフトパワーが、急速に失われつつあるということです。500億ドルも投資したのにね。19世紀のセンスで21世紀の政治や外交をやると、最終的には失敗することになるんじゃないかなあ。


<3月7日>(金)

○思えば3月第1週は比較的暇そうなんで、いっちょ休んでやろうかなどと思っていたのであった。それがなんのことはない、バタバタの1週間であった。ああ、何だか損した気分。

○昨日などは、どうせ暇だろうからと思って、かなり前から成人病検診の再検査の予定を入れていたのである。そしたら、これが瞬殺で無罪放免であった。そりゃそうだよな、ワシの心臓が悪いはずないもん。

○ということで、何とか今日中に溜池通信を書き終える。そのままフジテレビさんのパーティーに行ったら、なんと本誌で引用した津上俊哉さんがいるではないか。実は初対面なので、得した気分であった。

○この1週間で、ずいぶん世の中のいろんなことが変わったような気がする。きっと2月までの読み筋は、かなりの部分を捨てなければいけないのだろう。でも、この週末は税金の計算をしなきゃなあ。


<3月9日>(日)

○献本やら仕事で読まなきゃいけない本が積ん読状態になっているのに、まったく役に立たない本を読んでいてこれが面白い。

「仁義なきキリスト教史」架神恭介(筑摩書房)

○変にアマゾンなどを調べるよりも、単純にこの紹介を見ていただくのが分かりやすいかと思います。キリスト教2000年の歴史を、新興やくざの誕生からその発展とあいつぐ抗争の経緯で説明してしまうのである。なにしろイエスが十字架の上で、「おやっさん、おやっさん、なんでワシを見捨てたんじゃ〜!」と叫んでしまうのである。以下、ペテロもパウロはもちろんのこと、後世のルターに至るまでが広島弁である。

○イエス・キリストの生涯については、ワシも一通りのことは知っているつもりである。それはたぶんに、新約聖書よりも"Jesus Christ Superstar"によるところが大きかったりする。というわけで、イエスの死後の教団がどうなったか、なんてことはサッパリ知らない。本書によれば、いやあパウロって、とっても性格の悪い奴だったんですねえ。それから世界史の授業の中で、ミラノ勅令やらニケーア公会議の辺りは、ほとんど丸暗記だけで終わっていたんですが、宗教論争の中身を「イエスのキャラ設定問題」と片付けてしまうのだから、しびれてしまう。ああ、そういうことだったのね。

○信者でもないわが身にとっては、キリスト教史なんて別に知らなくてもいいことなのに、ああなんてこれが面白い。昔の世界史の授業の仇討をしているような気分である。なお本書を服用すると、副作用としてとっても久しぶりに『仁義なき戦い』を見たくなってくる。あれも名作ですからなあ。


(余談ながら、最近の『軍師官兵衛』における片岡鶴太郎演じるところの小寺藤兵衛のバカ殿ぶりが、あまりにも入神の演技というべきで、だんだん『仁義なき戦い』の金子信雄に見えてきた。あの親分殿は、本当に情けなくて、ずるくて、我々の身近に居そうに思えるんだよなあ。あのシリーズの真の主人公は、菅原文太ではなくて実は金子の親分さんではないかとワシは秘かに思うものである。そのうち、小寺の殿が言うかもしれん。「官兵衛、なんとかしちくれえ。わしゃもう口惜しゅうてくやしゅうて・・・」)


○ついでにもうひとつ。こっちも代わる代わる読んでおるのです。

●「憂鬱になったら、哲学の出番だ!」田原総一朗、西研(幻冬舎)

○あの田原さんが哲学に挑戦する。当然のことながら、ご無体な質問をする。それを哲学者の西氏が丁寧にとりなす、という変な本である。なにしろ田原さんのことなので、「ソクラテスは酒と美少年を愛するダメなおっさん」と突っ込んだり、「我思うゆえに我あり、なんて、パスカルはこんなことのために一生を費やしたのか」と言ってはいけないことを言ってしまったり、「ヘーゲルの本は難しすぎてサッパリわからない!」と怒りだしてくれたりする。すばらしい。心から拍手を送りたい。

○哲学の歴史というものは、高校時代の倫理社会の授業で出てきて、うわべだけ覚えて、身につくことなく終わった知識である。ワシの高校時代にこういう本があったら良かったのに。と同時に、高校生に世界史や倫社を教えている先生は、今すぐチェックした方がよろしいですぞ。学生たちの学習意欲を高めるか破壊するか、どっちに転ぶかは保証の限りではありませんけれども・・・・。


<3月10日>(月)

○いよいよ明日で震災から3周年となるわけで、先週末くらいからいろんなニュースが流れている。当不規則発言では、あまり他所では触れないような話を取り上げてみたい。すなわち東北復興については、「東北電力の業績予想修正」(上方修正)が重要なニュースなんじゃないかと思う。

○東北電力という会社は、東北6県+新潟県の電力供給を担っていることはもちろん、東北における最大の一部上場企業である。それが震災で被災し、一時は北海道電力や東京電力からの電力融通を必要とするような緊急事態になった。たまたま震災から半年後の8月17日に現地を見せてもらう機会があったのだけど、あのときの東北電力は、@太平洋側の火力発電所が軒並み使用不可能、A女川原発と東通原発は無事に止めたが、再稼働は出来ず、Bさらに7月に集中豪雨があって水力発電所も停止し、Cフル稼働の秋田火力が事故で停止、という四重苦に直面していた。

○それが3年後の現在になってみると、ほとんどの発電所が復旧している。さらに原町火力で安い石炭が使え、新仙台火力ではコンバインド型という最新設備が稼働して、燃料費も以前に比べて安くなった。なるほど、「時はすべてを癒す」のお手本のような話ではないかと思う。さらに今期は、被災に対する保険金も出たので、これを特別利益に計上し、1株当たり5円ではあるけれども、復配も視野に入れている。

○復配という経営判断に対しては、地元では「そんなカネがあるなら電気代を下げろ」という声が出るかもしれない。分かりやすい議論だし、おそらく地元の河北新報なんかがそういう社説を掲げるんじゃないかと思う。とはいえ、以下の法則を考えると、企業としてバランスシートの右側への配慮が必要というのも頷ける気がする。


電力料金≒電力インフラの維持費+燃料代≒資本コスト


○おそらく東北電力の株主は、ほとんどが東北地方に在住していると思われるので、「株主への還元」という形の復興支援もあるのではないか。いずれにせよ、企業は儲けが出てナンボである。赤字が何年も続く会社は、確実にダメになっていく。東北最大の企業が黒字になって、ちゃんと配当も復活するというのは、そのこと自体が勇気づけられることではないかと思う。

○その一方で、販売電力量(この資料の3ページ目)を見ると、あんまり増えていないことが分かる。ユーザーにおける節電意識の定着もあるのだろうけれども、東北地方における電力消費量が増えていないということは、あんまり復興が進んでいないことを示しているのではないかと思えてくる。おそらく産業用の需要が増えていないのだろう。仙台市の周辺だけでも、紙パルプや化学産業などの電力多消費型産業があったけれども、果たしでどこまで操業できているのだろうか。

○最後に、こんな本が出ております。

町田徹「電力と震災 東北『復興』電力物語」(日経BP社)

○表紙に使われている初代会長・白洲次郎の写真が妙にカッコいい。東北電力にはこんなDNAが流れていた、という話である。さらなる復興に向けて、当サイトからささやかなエールを送りたい。


<3月12日>(水)

この記事を読んでいて、「へへーっ」と思ったのが下記のくだりでした。前段はS&P500が5年前の底値(=悪魔の数字、666p)をつけてから、強気相場が今月で5周年を迎えることを寿ぐ記事であります。そして後段は警鐘を発するわけなんですが、現在の中国経済に対してこういう「表現」が使われているんですね。


前週号に続き、バロンズ誌は中国の情勢もキナ臭い注意喚起を忘れません。

ベア・スターンズの経営破綻危機をめぐり、FedとJPモルガンが緊急資金供給を発表したのは3月14日、2日後にJPモルガンとベアは買収合意に至りました。

あれから5年。奇しくも中国の太陽光関連メーカーの上海超日太陽能科技が7日にデフォルトに陥り、バンク・オブ・アメリカが警告する「ベア・スターンズ・モーメント」が強く懸念されています。シティグループも、同社の債務不履行は「氷山の一角」と警戒スタンス。とはいえ、「ベア・スターンズ危機」の再来にはならないとまとめていますが。


○ベアスタ危機といえば、その半年後にリーマンブラザーズ社の倒産があったわけで、これを中国風に言うと、「今回のデフォルトは陳勝・呉広に過ぎず」てな感じでしょうか。陳勝は、「王侯将相寧ぞ種有らんや」と叫んで中国全土を揺るがせ、それが鎮圧された後になって漢楚の興亡が本格的に繰り広げられたわけでありますから、こういうのを同時通訳でサッと繰り出せたら、それこそ長井鞠子さん級の凄腕ということになるでしょう。

○そろそろ全人代も終わりかと思いますが、今回は会議の直前に昆明のテロ事件があり、会議の最中にマレーシア航空機の行方不明があり(乗客の多くは中国人)、中国政府のメンツが何度も脅かされる展開でありました。ということは、やっぱり「陳勝・呉広の乱」的な状況が始まっているのかもしれません。

○なにしろ今回のマレーシア航空機の問題では、中国の海空軍はあれだけの軍備拡張を行っていても、南シナ海で何が起きているかをまったく把握できていない、ということがモロバレになってしまった。まだADIZ(防空識別圏)を設定しているわけじゃありませんが、人民解放軍にとってカッコいい話ではありません。たぶん今頃、捜索に当たっているベトナム海軍あたりは、「牛の舌には、神経が通っていないんですねえ」なんて不謹慎なジョークを飛ばしているんじゃないでしょうか。

○以上、不謹慎ながら。くわばらくわばら。


<3月13日>(木)

○本日は国際開発センターの理事会へ。この財団で、こんな仕事が行われていたことを知る。震災から3年がたった今、まことに値打ちのある仕事だと思います。


●東日本大震災に対する世界174 ヶ国・地域からの支援、被災地で有効に活用される:調査報告書を公表

一般財団法人国際開発センター(IDCJ)は、本日、東日本大震災に対し海外から受けた支援の全体像及びその活用状況を整理した
「東日本大震災への海外からの支援実績のレビュー調査」報告書をホームページ上で公表しました。報告書のうち海外からの支援実績については2013年3月に公表したものと同様ですが、その後1年間にわたり追加調査を実施し、海外から受けた支援の活用状況や支援受け取り時の課題、学び等を分析し、1冊の報告書にまとめ直しました。

昨年の調査では、震災発生から2012年3月末までの約1年間に、実績を確認できただけで世界174ヶ国・地域の政府、国際機関、民間団体、個人から総額約1,640億円の金銭的支援を受けたことが確認されました。今回の追加調査では、これらの金銭的支援の受け入れ先とその使い道に焦点をあてました。受け入れ先としては、日本赤十字社が件数ベースで約4割、金額ベースで全体の四分の三と最も多く、これ以外では、海外からの直接支援および及びNGOが多いという結果になっています。これら金銭的支援は、被災者への直接の現金配布と、被災地での支援活動の2つに充てられ、被災者の救援や被災地の復興に役立つ形で有効に活用され、被災者からも非常に感謝されていることが確認されました。本報告書では海外から受けた支援の具体的な活動内容、被災地の現在の状況、海外支援者に対する被災者の思いを囲み記事にして多数紹介しています。
報告書の英文はこちらをご参照


○震災に対して海外から日本が受け取った支援は、174か国から1640億円。ただし、調査しきれなかった部分もあるそうなので、実際はもう少し多かったかもしれません。感謝の気持ちを忘れないように、しっかり記憶にとどめたいと思います。この調査報告書、拡散希望です。


<3月14日>(金)

○都内某所で内外情勢調査会の講演会を務める。長らくお世話になっている担当のSさんに、「最近、注目されている講師にはどんな人が居ますか?」と聞いてみた。それというのも、講演の企画をやっている人たちは、誰よりも耳が肥えているからである。打てば響くように答えが返ってきた。「何と言っても、山形新幹線の茂木さんですね」とのこと。なんじゃそれ。わしゃ聞いたことないぞ。で、各方面の噂話を総合したものが以下の通りである。

○噂の人物は、山形新幹線のカリスマ・アテンダントの茂木久美子さんである。山形新幹線「つばさ」の車内販売員であった。これが奇跡的な売り上げをあげるので、いつしか「カリスマアテンダント」と呼ばれるようになった。普通の人の売り上げが1日7〜8万円のところ、彼女は50万円も売ってしまうのである。もちろん売っているのは、同じ商品である。どうしてそんな差がついてしまうのか。決め手は「ほんのちょっとの差」である。聞いてみると、これがなるほど「あっ、そんな手があったのか!」という話なのである。

○新幹線の車内販売は、普通、ワゴンを押してやってくる。目の前を通り過ぎてしまうと、「おおーい」と呼ぶことが気恥ずかしくなる。「コーヒー飲みたいなあ」と思っていても、タイミングを逃して買えなかった、てなことがしばしばある。そこで茂木さんはどうしているかというと、ワゴンを押すのではなくて、手前に引っ張るのである。つまり、客席に向かい合う形でゆっくり歩く。これであれば、常に客席と目線が合っている。客からすれば、ワゴンが目の前を通り過ぎても、「ちょっと」と目で合図ができる。なるほど、これだけのことで大きく差がつくだろう。ワゴンは押さなきゃいけない、なんて法はないんだから。

○その上で重要なのは回転数である。3時間半の旅程の中で、普通、ワゴンは3往復する。そこを彼女は7往復を目指す。それだけ頻繁に通れば、販売機会はそれだけ増えるわけである。ではどうやって頻度を上げるか。「釣銭を渡す時間をセーブする」というのがコツで、お札をもらった瞬間に釣銭が出るようにする。これによって、他人の倍以上の回転が可能になるんだそうだ。

○さらに茂木さんは、乗客一人一人を見ながら、何をやっているかを観察する。例えば、パソコンに向かって仕事をしている人が居るとする。でも、1時間後には疲れているかもしれない。ゆえに1時間後に通った時には、コーヒーなりチョコレートなりが売れるかもしれない。その上で、乗客とこまめにコミュニケーションを取る。もちろん山形弁で。そういうきめ細かな対応が、売り上げ増につながるのだという。

○言われてみれば、ひとつひとつはごく当たり前のことだけれども、なかなか気づかないことばかりである。彼女の講演の演題は「買わねぐていいんだ。」であるとのこと。うーん、これは聞いてみたい。


<3月17日>(月)

世界経済研究評論フォーラムでパネリストを務める。こんな感じ。

●[シンポジウム]
グローバルビジネス環境変動と日本企業
――そのリスクとチャンスを問う

【パネリスト】
 脇 祐三氏(日本経済新聞社コラムニスト)
 吉崎達彦氏(双日総合研究所副所長)
 坂本正弘氏(日本国際フォーラム上席研究員)
【日時】 2014年3月17日(月) 午後3時〜5時半
【会場】 商工会館6階・大会議室
【参加費】 2,000円 *会員、会員企業関係者は無料

○いただいた質問の中に、「ガバナンスとマネジメントはどう違うのか」というものがあった。なるほど、これは面白い。咄嗟に以下のような屁理屈を考えました。

○マネジメントの概念は、日本でも古くからある。以前にも当欄で書いた話だが、「経営」という言葉は平家物語にも出てくる。広辞苑の定義によれば、@力を尽くして物事を営むこと、Aあれこれと世話や準備をすること、B継続的・計画的に事業を遂行すること、とある。おそらく封建時代の始まりとともに、荘園を管理するために武士たちが開拓した概念なのであろう。このDNAがあるから、日本では膨大な数の中小・零細企業が存在し、しかも2万6000社を超える「長寿企業」がある。経営者の資質を持った人が、それだけ居るということだ。

○それではガバナンスとは何か。世の中の秩序を維持するための「統治」の術であるが、これはLeadershipとFollowershipの両面から成り立っている。前者のことが問われることが多いが、後者のない社会で秩序を作ることがいかに難しいか。それは例えば、「アラブの春」後の中東を見ればよく分かる。フォロワーの乏しい社会においては、リーダーは常に強権政治を発動せざるを得ず、そのリーダーが倒れるたびに混乱が生じる。中国の社会なんかも、たぶんにそんなところがありそうに思える。

○ところが日本においては、このフォロワー層がしっかりしているために世の中が安定している。極端な話、震災と津波ですべてが押し流されても、コンビニの前に行列ができたりする。それだけ強靭な社会なのであろう。どうかすると、リーダーが不在でもなんとかなってしまう。というか、リーダーが鍛えられる機会が乏しい。

○つくづく日本はマネージャー(経営者)は豊富だが、リーダーは滅多に出ない。前者は平時の管理責任者みたいなものであるから、有事になると途端に使い物にならなくなる。ところが時代の変わり目みたいなときになると、どうしてもリーダーが必要になる。つまり人が嫌がる決定をして、集団の方向を定めてくれる人が求められる。

○ただし世界的に見ても、ガバナンスの問題はこれからいよいよ深刻になりそうだ。そもそも「Gゼロ」時代だ、なんて評価もあるくらいである。ちゃんとリスクをとって、ウクライナの問題を処理しようとしてくれる指導者(もしくは国)がいるのだろうか。ワシの周囲では、「オバマがもっとしっかりしていれば・・・」という声が多いけれども、それでは3年後にヒラリー・クリントン政権が発足すれば、あるいは共和党でもうちょっとマシな大統領が誕生したら、アメリカ外交は昔日のようなキレをとりもどしてくれるのだろうか。

○本当の問題は、アメリカにおけるミドルクラスの没落であって、「強いアメリカ外交」を支持してくれるフォロワーシップが空洞化していることにあるのかもしれない。だとしたら、リーダーをチェンジするだけではダメだということになる。うーむ、マネジメントだったらできるけれども、ガバナンスをきちんとやるのはとっても難しいのかもしれない。


<3月18日>(火)

○筋の通らぬことが多い世の中でありまするが、下記の疑問はいったいどうしたらいいのでしょう。誰か教えてくださいっ!


●消えたマレーシア航空機はいったいどこへ行ったのか。「ハイジャック説」が出たかと思ったら、最近では「機長が怪しい」なんてことになっている。そもそもワシ的には、「誰にも分かってない」ということ自体が信じがたい。飛行機がある日突然消えちゃって、これだけ日にちがたつのに行方が分からないなんて、そんなことがあるんでしょうか?

――乗客が居なかった国にとっては、本件は高みの見物もいいところであります。とある国のタブロイド紙では、「消えたマレーシア機は月面に到着していた!」(Missing Plane Found on the Moon)てな記事を掲載しております。エルヴィスじゃないんですけど・・・・。でも、不謹慎なのは日本も似たようなものか・・・・。


●リケジョ学者も偽作曲家も、ワシ的にはあんまり関心がないので当欄で取り上げる気にならんのですが、マスコミがこうまで見事に騙されてしまってはいかんでしょう。「あの『ネイチャー』が取り上げたんだから、信じちゃうのも無理はないですよ・・・」などと仰いますけど、技術的なことはさておいて、そもそも記者は人を見るのが商売でしょうが。

――威張っている人の化けの皮をはがすことや、世に埋もれている人を発掘するのはジャーナリズム本来の仕事です。「特落ちがないように、他所と同じようなニュースを伝えなきゃ」というのが仕事だと思っているのだとしたら、それはレポーターならぬポーターみたいなものではありませんか。


●プーチン大統領は一体どうやって事態を収めるつもりなんでしょう。聞けばロシアの公務員の給与はクリミアの4倍だとか。つまり「ロシアに併合してもらえれば、給料が4倍」ということに釣られて投票した人たちがいるということです。でも、1%台の成長率に6%台のインフレ率で、この上そんな財政支出を行っていると、ロシア経済はいよいよ破綻いたしますぞ。

――聞くところによれば、プーチンはラブロフ外相や軍のトップとは相談するけれども、財務大臣などの経済閣僚はチームから外されているのだとか。それってマズイと思うけどなあ。「今日はこのくらいにしといてやるわ!」と啖呵を切って、さりげなく幕を引いた方がいいんじゃないでしょうか。


●タクシーを待っていて突然気がついたんですが、いちばん多く走っているクラウン型のタクシーは5ナンバーで、最近増えてきたプリウス型のタクシーは3ナンバーなんですね。なんでそういうことになるの?普通に考えて、クラウン>プリウスだと思ったんですけど!

――本件、トヨタ自動車さんのことですから、きわめて理詰めの回答が用意されているんじゃないかと思います。例えば、「日本で走っているクラウンはガラパゴスだけど、世界で走っているプリウスはグローバルだから」という仮説はいかがでしょう。


<3月19日>(水)

○案の定、昨日の最後の疑問に対する推論や事情説明をたくさん頂戴しております。で、どうやら真相はこんな感じであるようです。


●プリウスは「3ナンバー」サイズの横幅1745oであり、クラウンは国内「5ナンバー」サイズの1695oである。前者は世界的に、後者は日本国内でのみ、タクシーとして使われている。

――海外では結構、プリウスがタクシーとして使われていて、そっちはグローバル標準なんですね。国内でも、企業イメージのためにプリウスを使用しているタクシー会社があります。それにしても、プリウスの方がクラウンより5センチ広いとは気がつきませんでした。

●なんとなれば、日本のタクシー会社は自動車会社に対する価格要件をどんどん厳しくしていった。そこでトヨタ自動車は、少し古い型をベースに今のコンフォート・タイプのクラウンを量産するようになった。

――そういえば昔は日産のセドリックも、タクシーとしてよく見かけたんですけどねえ。あの箱型スタイルに懐かしい時代を感じます。

●その一方で、個人タクシーは3ナンバーのゆったりしたクラウン(例えばスーパーサルーン)を使っていることが多い。運転手さんとしては、その方が運転が楽だし。

――個人タクシーは個人事業主だから、自前の資産としてクルマを購入し、減価償却して経費とみなすことができるんでしょうね。

●ちなみに昨年の東京モーターショーで、トヨタが打ち出したJapan Taxiの姿はこんな感じである。車高が高くて、ちょっとロンドン風ですよね。

――ワシも今月、腰を痛めてからつくづく感じているけれども、普通のセダンに乗り込むときの姿勢は結構つらいです。腰高歓迎。


○それにしても、「3ナンバー/5ナンバー」という仕切りは、いかにも古い時代の日本の規制のように思われます。筆者が長らく乗っていたカムリは、確かに5ナンバーの横幅1695oだったんですが、なぜアメリカでは違う仕様のカムリを売っていたのか、という理由が初めてわかりました。察するに、外車に国内市場を制圧されないように、せめて小型車だけは国産車で守ろうとした名残りなのでありましょう。ところが、いつしか日本の自動車メーカーは国際標準で戦えるようになり、今では新興国の小型車優遇政策に手を焼いていたりする。因果は巡るという話です。

○もっともアメリカは、いまだに日本に対して軽自動車はけしからんと言ってきたり、いまだに自動車関税2.5%にこだわっていたりする。しょうがないですなあ。そんなことでTPP交渉ができると思っているのかあ、と言ってみたい、ああ言ってみたい。


<3月20日>(木)

○本日の溜池通信でご紹介した、西村英俊著「会社は毎日つぶれている」の誕生秘話をちょっとだけご紹介しておきます。

○2008年の春ごろであったと思う。広報部長氏がユーウツな顔をして、ワシのところへやってきた。持参したワープロ打ちされたB4原稿用紙の束は、いちばん上に『会社は毎日つぶれている』と書いてあった。

「これ、西村さんが書いているんだけどさあ、どこかで出版してほしいって言うんだよ」

「ニャンコさんも物好きですなあ。いまどき、本なんてそんなに売れませんよ」

○などと言いつつ、読ませてもらったらこれが非常に面白い。でも、こんな本を出してしまって、ウチの会社は大丈夫なのか。確かにその年の決算は良かったけど、まだまだ日商岩井の経営危機の記憶は生々しかった。さらに当時の双日は、悪名高い「ギョーザ事件」を抱えていた。とても偉そうなことを言えた義理ではなかった。さらに言えば、心ならずも会社を去って行った多くのOBたちが居た。「こんなの活字にしていいのかよ」と怒られるであろうことは、容易に推測がついた。

○その一方で、これは世に出して少しでも多くの人の目に触れてもらうべき文書ではないかという気がした。それですぐに日経の編集者に連絡を取った。なにしろ会社の元社長が書いた本である。出すとしたら、日経が最もふさわしい。ちなみにこの時点において、ワシは日経から一冊も出したことがなかった(つまり、それまで編集者に不義理を重ねていた)。

○出版社というものは、ちゃんと社内で企画会議を通さないと本が出せない仕組みになっている。いきなり完成原稿が降ってわいてきても、それで本になるとは限らないのである。むしろいろんな出版社の間で、原稿がたらい回しにされてしまうことが少なくない。ところが本書は、一発で出版OKとなった。あまりにもドンぴしゃりの内容だったからである。

○西村さんに紹介したとき、日経の編集者はこう言って確認をとった。「本の題名は当社で決めさせていただきます。が、この『会社は毎日つぶれている』をそのまま使っても良いのでしょうか」。ニャンコさんは「もちろん」と答えた。おそらくその瞬間、編集者は心の中で「ラッキー!」と叫んだのではないかと思う。だっていま読み返してみても、このタイトル以外にはあり得ないんだもの。

○ワシからは、確かこんなことを言った。「西村さん、本を出すと世界が広がります。今までまったく接点のない人とつながりができます。それから、『この本の内容について講演してくれ』という話も来るでしょう。それはけっして断ることのできない名誉な依頼です。こんなにいい話はありません。その代わりに、悪いこともあります。こんな本を出してしまったら、まともな仕事は来なくなりますよ。たとえばどこかの国の民間人大使になってくれ、なんて可能性はゼロになるでしょう。それでもいいんですね?」

○もちろん答えはイエスであった。そして2年後、西村さんは西日本高速道路の社長に就任する。見込みが外れて恥をかいたのはワシの方であった。

○経営者としてのニャンコさんは、「教え魔」であった。その本質において、教育者の資質があったのではないかと思う。ところがニャンコさんの話は難しくて、社内でも「わかりにくい」という評判が少なくなかった(驚くべきことに、NEXCO西日本でも同じことを言われていたようである)。だが、そんなのはたいした問題ではなくて、西村さんは伝えるべきメッセージを持っていて、それを伝えたいという情熱も持っていた。そのことは誰にでも自明であった。教育者にとっては、それが一番大事なことである。教育者はなにも、池上彰氏になる必要はないのである。

「会社は毎日つぶれている」には、西村さんの肉声が詰まっている。しかも分かりやすく書かれている。いつまでも古くならない、いい本を残してもらったと思う。後輩としては、何度も再読するほかはない。


<3月22日>(土)

○久々に結婚式に出ました。若い人が多くて、いいもんですなあ。最近の結婚式は堅苦しくないし、スピーチも少ないし、東京會舘のコース料理はさすがに旨いし、昼間からつい上機嫌で飲んでしまいました。

○ただし若干複雑なところがあるのは、新婦がウチの娘だということであります。まあ、婚期を逃す前にちゃんとした相手を見つけてゴールインしてくれたんだから、文句を言ったら罰が当たりますわな。娘と一緒にバージンロードを歩くというのは、なかなか得難い体験でありました。

○本日は大安吉日でお天気もよくて、ついでに消費税も上がる直前という、式にはまことに格好のお日和でありました。

(→後記:多くの人からお祝いの言葉をいただきました。深謝申し上げます)


<3月24日>(月)

○ロシアによるクリミア併合で、西側諸国が経済制裁に動いています。そこで純粋な思考実験として、どんなことが可能なのか考えてみましょう。

○現時点では、ロシア要人に対する個人査証の停止や、海外の資産凍結が行われています。ただしこのリストの中には、プーチンの腹心と呼ばれるロスネフチのセチン会長みたいな人物は入っておりません。覚悟しろよ、じわじわと行きまっせ、ということなのかもしれないが、実際問題としてロシア発のアングラマネーを取り締まるのは、かな〜り難しいだろう。早い話、英国が全面協力してロンドンのシティを浄化できるかといえば、そこは疑問でありますな。他所の国のアングラマネーも一緒に逃げ出しかねませんからね。

○貿易の制限も行われるでしょうが、これは西側企業にとってもマイナスなので、痛しかゆしという面があります。現在、『レーガンとサッチャー』(ニコラス・ワプショット/新潮選書)を読んでおりまして、これが米ソ冷戦期の話が出てきて面白い。レーガンとサッチャーはツーカーの仲なんですが、意外にもフォークランド紛争やグレナダ侵攻では意見が合わず、そのたびにサッチャーが怒り狂ったんだそうです。対ソ経済制裁についても、「英国企業の利益が損なわれる!」とサッチャーが噛みついていたりする。サッチャーでさえそうなんだから、今の欧州首脳各位に「対ロ制裁で足並みを揃えろ」と言っても、詮無い話ではありませぬか。

○目の前の話で言いますと、プーチンはクリミア半島とロシアを結ぶケルチ海峡に橋をかけよ、と言っている。3000億円くらいの商談になるそうだが、これ、きっと最後は海外企業が落札すると思う。今の感じだと、やっぱり日本勢には手が出ないでしょうなあ。最後は中国企業になるんですかねえ。ちなみにプロジェクトの責任者となったアレクサンドル・アファナシエフ氏は、2012年APECでウラジオストックとルースキー島を結ぶ橋の建設を担当して、見事に会議開催に間に合わなかった人である。ひょっとすると「ソチもワルよのう」てな手合いが多過ぎたのかもしれませんが・・・。

○いっそのことロシアを困らせるために、石油の国際価格を人為的に下げちゃう、という手もあります。今月、米エネルギー省は石油の戦略備蓄を500万バレル放出しています。「試験的な売却」という触れ込みですが、軽いジャブといった感じでしょうか。これが昔だったら、ロシアいじめをサウジが手伝ってくれたわけですが、今はイラン問題等で怒らせちゃっていますからねえ。もっともアメリカには、「シェールオイルをガンガン欧州に輸出する」という選択肢もありますね。まあ、ほっておいても資源価格は今年は下げると思いますけれども。

○ちなみにロシアの財政は昨年から赤字に転じています。今じゃエネルギー輸出が全輸出の75%を占め、それが103ドル以上でないと財政が黒字にならない。10年前には、20ドルで良かったんですが、人気取りのために公務員給与や年金を上げ過ぎた結果です。結果として、クリミアの人たちはロシアに編入されたことで、公務員給与は4倍に、年金は2倍になるらしい。そりゃ住民投票で賛成が多くなるわけですわ。こんなことしていると、ますますロシアの財政は立ち行かなくなるわけでして・・・。

○結論として、ロシアは放置プレイでいいんじゃないでしょうか。一連の強硬策のお蔭で、プーチンは国内で人気が出てしまった。ということは、途中で降りにくくなった。プーチン外交が冴えわたるほどに、ロシア経済は落ち込んでいく。西側諸国としては、拱手傍観しているのが最善ということになるのかもしれません。

○てな話になるのかどうかわかりませんが、明日の深夜にこんな番組に登場します。そういえば、TBSの地上波って初めてかもしれんなあ・・・。


<3月25日>(火)

○3月3日の当欄で書いていた通り、いよいよロシアをG8から叩きだして、「アイツが心を入れ替えない限り、来年からはわれわれ西側先進国だけでG7をやりましょう!」てな展開になっております。こんなに順調に物事が運んで、個人的には「大いに結構」だと思うものでありますが、いやあ、本当にこれでいいのかなあ。

○3月18日のプーチン演説を読む限り、クリミア併合はロシアにとってかなり切羽詰っての行動であったようだ。彼らのロジックには、それなりに筋が通っている。が、「お前もそう思うだろ?」と聞かれたら、「冗談じゃない。アンタにはついていけませ〜ん!」と返事するしかありません。ということで、ロシアとしては今さらおめおめと「やっぱりクリミアは手放しますから、皆さんソチのG8に来てください」とは口が裂けても言えないでしょう。考えてみれば、ロシアはもともとG20重視だったし、そうなるとG7との棲み分けが分かりやすくなっていいという気もする。ちなみに日本は、もともとロシアのサミット入りに反対していた立場である。

○今回のハーグ宣言では、「今年は7か国でソチをボイコットして、代わりにブリュッセルでやりましょう」と言っている。面白いですねえ。ロシアの恨みを買ってまで、議長国を引き受ける国はなかった模様です。その点、サミットにはEUが必ずオブザーバー参加していて、でもこれまで一度も議長国になったことはなかった。そこで、「あそこを安全地帯として使おう」という知恵が働いた模様です。で、つまるところ誰が議長をやるんだ?

○そもそも今のサミットというものは、1980年代には「旧ソ連に対抗して西側先進7か国が結束を示す場」であった。それが1991年にソ連が崩壊してしまい、「核兵器をいっぱい持っているアイツをほっとくわけにはいかない」とばかりに、無理やり仲間に引きずり込んだというのが1990年代の経験でありました。そして1998年のバーミンガムサミットから、ロシアは正式メンバーとなった。ここにおいて、G7はG8に変貌したのである。ロシアは2006年には初の議長国を務める。そして今年は、2度目の議長国を務める予定であった・・・・。

○ところがこのタイミングで、再び「G7vs.ロシア」という対立の構図が復活することになった。でも、これは「新冷戦」と言うほどではない。ちょっとだけ世界観が違うだけである。ついでもって言うと、国力の差も圧倒的である。悪いけどロシアに勝ち目はない。世界第9位の経済国が、G7を相手に喧嘩を吹っかけても、ロシアから資金が逃げ出していくだけである。特に経済制裁なんてしなくても、ロシア経済はもう詰んでいる。

○とりあえずこのお蔭で、日本の歴史問題は吹っ飛んでしまった。安倍首相の歴史認識がちょっとくらい戦勝国と違うからと言って、まさかロシアほど世界観が違っているわけではない。かくして日米関係も修正され、どさくさに紛れて日韓関係も改善され、なんだか上手に安倍外交が軌道修正されているように見える。後はTPPの逆転ホームランがあればいいんですけど。

○なんだかんだ言って、アベノミクスは「もってる」ねえ。そういえば先日のイエレン新議長の「失言」も、一時的なドル高・円安を招くという形で日本を後押ししている。後は軌道修正がうまく行くかどうか。こればっかりは、安倍官邸の腹積もり次第です。


<3月26日>(水)

○以下の一部は繰り返しになりますが、今回のウクライナ問題が安倍外交にもたらした信じがたいほどの幸運についてのまとめであります。


(1)国際情勢に非常事態が発生したので、70年くらい前の歴史認識がどうのこうのという議論は一気に霞んでしまった。

(2)靖国参拝以来の日米関係のゴタゴタも、とりあえず不問に付されている感じである。来月の日米首脳会談も、「ネタがない!」なんて心配はなくなった。

(3)日本外交はとりあえずG7の一員として行動している。ごく自然な形で、西側先進国の一角という与党の位置に戻ることができた。

(4)その割に、対ロ制裁として打ち出したのはビザの発給制限と投資協定の交渉延期くらいである。ロシアから見ればほとんど実害なし。

(5)ついでにどさくさに紛れて、日米韓首脳会談が行われたので、日韓関係も一歩前進した。

――なおかつハーグにおいて、韓国はG7会合を横目で見ていなければならなかった。まあね、君たちにはまだちょっと早いよ。

(6)いつも安倍さんの味方である北朝鮮は、ミサイルを発射してこの状況を祝ってくれた。

(7)経済問題の比重が下がった。日経平均は年初から1割も下げているけれども、とりあえずそんなことはどうでもいいよね

(8)逆に安全保障問題の比重が上がった。集団的自衛権の解釈変更問題にも、わずかながら追い風である。

(9)どういう風の吹き回しか、中国もおとなしくなっている。

(10)ロシアいじめの新たな方策として、アメリカが石油戦略備蓄の放出やシェールガスの輸出を促進するかもしれない。燃料価格が低下すればまたまたラッキーである。

(11)安倍首相がプーチンと5回も会ったという事実は、いちおう無傷で残っている。今後、しかるべきタイミングでカードとして使えるかもしれない。


○まあ、メシが旨いというほどじゃないですが、とりあえずここで書いたような悩ましい感じはかなり消えました。よかった、よかった。

○ところで、ロシアのクリミア併合を支持しているのは、シリアとベネズエラなんだそうだ。うーん、それって悪の枢軸2014年版であろうか・・・・。


<3月27日>(木)

○10年ぶりに東京を訪れた、というアメリカ人から「あんまり変わっているので驚いた」と言われて、逆にこっちが驚いてしまった。え?どこが変わったの?と聞いたら、「東京駅が変わったし、渋谷では迷子になっちゃった」と。ああ、そうか。そういえばSUIKAが今年で10周年というくらいだから、変わってないように見えて、いろんなことが変わっているんだよね。

○もうじき、虎の門ヒルズもオープンするんだよね。あの界隈に行くと、環状二号線(マッカーサー道路)がどんどん姿を整え始めていて、「あれっ?ここには何があったんだっけ?」と戸惑うほどです。日比谷でも大手町でも、いろんなところでビルを建設しています。ちょっとずつ景観が変わって行く。でも、毎日過ごしていると気がつかない。

○変わると言えば、今宵は「ワールドビジネスサテライト(WBS)25周年感謝の夕べ」がありました。何と来週からは大江麻理子キャスターが登場。25年のうち16年間にわたって番組MCを務めた小谷真生子キャスターは、来週からBSジャパンの「日経Plus10」に回ります。たいへん盛況なパーティーでした。

○2013年度もあとわずかで終了。来週火曜日からは消費税も上がります。タクシーの初乗り運賃は、東京では20円上がって730円になるそうです。郵便料金も上がりますよね。手元の官製はがきはどうすりゃいいのかしら。あ、そうそう、駆け込みでモノを買う予定はないんですけど、今週末は忘れないようにガソリンを満タンにしておきましょう。

○それから、4月1日以降は領収書に張る印紙税が変わります。現行の3万円未満が5万円未満に変わります。これって飲み屋さんにとっては、まことにありがたい非課税枠の拡大ですよね。某財務大臣から、「お前ら、もっと飲んでいいぞ」と言われているようなものであります。中洲で入れ知恵された結果かもしれません。

○いろいろあい変わって行く世の中ですが、新橋の烏森の辺りなんぞは全く変わっておりませんなあ。これはこれで結構な話であります。


<3月28日>(金)

○お昼に入った昼メシ屋のテレビが、「笑っていいとも」をやっていた。先週も安倍首相登場の回を見たばかりであったが、そうかあ、あと1回で終わっちゃうんですなあ。今日のゲストは黒柳徹子さんですか。さすがに歳のせいで、滑舌が悪くなったなあ。ふーん、最終回はビートたけしですかあ・・・などと見入ってしまいました。

○なにはともあれ、32年間というのは途方もない時間です。ロングセラーを作るには、肉体と精神の健康を維持するのはもちろんのこと、常に昨日の自分に対して飽きるという精神が欠かせません。年をとるにつれて、それは難しいことになっていきます。逆に少しずつ、昨日の自分を否定できなくなっていくのが老化というものですから。

○ときどき並はずれて強いハングリー精神の持ち主が、この試練に打ち勝って若さを維持します。あるいは多くのファンに支えられることによって、柔軟性を持ち続けられる人がいます。ラーメン界における「春木屋理論」(常連客に常に変わらず美味いと言ってもらうためには、常連客に気づかれることなく、微妙に味を変えていかなければならない)は、誰にでも実践できるものではありません。

○その点、タモリさんはハングリー精神とはまったく無縁なままに、なおかつファンに対してほとんど媚びることなく、ごく自然体でロングセラーを作ってきました。これはもう稀有の天才と呼ぶほかはありません。おそらく最終回も、肩に力を入れずにすらりと終わってしまうんでしょう。そういう羞恥心こそが、粋な心の秘訣なんじゃないかと思います。

○ところで一膳メシ屋のおばちゃんは、毎日正午になるとフジテレビをつけて仕事をしていたわけで、これが終わっちゃったらどうするんだろう。新年度になると、お昼に落ち着かなくなる人が全国で多発するのかもしれません。視聴習慣というものは、なかなかに根強いものでありますからね。


<3月30日>(日)

○先日、某所で聞いた「娘よ」という歌が耳にこびりついている。と言っても、芦屋雁之助柳ジョージによるものではない。コミックバンドの「藤岡藤巻」(元まりちゃんズ)によるものである。もっと言っちゃうと、大橋いずみと一緒に「崖の上のポニョ」を唄っていたあのオヤジたちである。

○その歌はこんな風に始まる。

娘よ 実は父さんは 今好きな人がいる
その人は お前より 多分 年下だと思う
六本木という街で 先週出会ったんだ
その人が 働いている お店で

○もうこの時点で、オチはほとんどバレたも同然である。名前からして、てっきり娘を嫁に出す父親の心境を歌ったものかと思ってしまうが、単なるオヤジの痛い勘違いの歌なのである。オヤジはこんなことまで言ってしまう。

父さんは 恥ずかしくなんかない
父さんは やっと目が覚めたんだ
父さんは 本当の人生を生きるんだ
あのひとは父さんを変えてくれたんだ

○当然のことながら、オヤジは冷徹なる現実に直面することになる。そして六本木で幻滅した後に、今度は新宿歌舞伎町で新たな幻影を追うわけであるけれども、当然のことながら「娘よ、実はあの女もひどい女だった」ということになってしまう。そして最後は、以下のように自己完結するのである。

娘よ 父さんは だいじょうぶだ
傷つく ことにはとっくに慣れている
娘よ 父さんは変わらない

○単なる自虐ネタのようにも思えるが、オヤジ世代としてはいろいろ考えさせられてしまう。(例)うーん、これは相手が息子だと成立しない歌なんだなあ/それにしても、実の親からこんな告白を聞かされたらかなわんだろうなあetc.

○藤岡藤巻は、「贈られる言葉」という歌も作っている。これも明後日で入社30年前を迎えるわが身には、いろいろと身に沁みるものがある。ああ痛い、痛いぞワシは。


<3月31日>(月)

○ということで、今日は大学を卒業して社会人となって、ちょうど30年目の日でありました。

○なんとなく昼も夜も赤坂に行っちゃいましたね。過去30年間を振り返ると、やっぱり赤坂こそがホームグラウンドなのであります。赤坂サカスの桜が見事でありました。

○今宵は久々に雪斎殿にお会いしました。先方はフジサンケイグループ正論新風賞の初代(2000年)でありますから、14代目となった不肖かんべえから見ると大先輩。ところで初代と14代目を比較すると、こういうことになるのではないかと。

●徳川将軍家 初代=家康、14代=家茂

●足利将軍家 初代=尊氏、14代=義栄

●北条氏執権 初代=時政、14代=高時

○うーん、碌なもんじゃないねえ。さて、明日からは新年度入りです。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki