●かんべえの不規則発言



2019年9月







<9月1日>(日)

○今回、熱海の大観荘という宿に泊まったのですが、以下はそこで知ったお話。

○大観荘は「横山大観ゆかりの宿」として知られ、実際に大観画伯の絵がいっぱい架かっている。では、どうしてそういうご縁が出来たのか。もともとここは中山製鋼所の創業者、中山悦治の別荘であった。戦後になって、旅館を営むことになり、そこでこういうことになったのだそうだ。


その当時、横山大観画伯は熱海伊豆山に別荘を持ち、熱海をこよなく愛されたそうです。

大観画伯と中山翁とは懇意の間柄にあり、大観画伯は大観荘を大変気に入られ、しばしば大観荘を訪れては宿泊され、時にはそこで絵筆を執られたとも聞いております。

大観画伯が宿泊された部屋は現在の「大観の間」として残っており、現在でも客室として使われております。

また中山翁は旅館開業にあたり、大観画伯の名前を頂戴したいとお願いしたところ、大観画伯も「ここの眺めは雄大であり、大観の名にふさわしい」と快く承諾していただき「大観荘」の名前がついたと云われております。


○経営者と芸術家の関係として、上記はなかなかに理想的なパターンではないかと思う。お互いに相手に甘えているように見えて、しっかり利用している。それで大観画伯の名前が残り、旅館も繁盛する。まあ、いつもこういう具合にいくわけではない、というのがパトロネージというものですが。


<9月2日>(月)

○今朝はモーサテへ。今週は佐々木あっこさんが夏休みなので、大浜キャスターがメインでお届けしております。

○昨日、米中の追加関税が相互に発動されたばかりなので、本日のプロの眼マンデーは「泥沼化する米中貿易戦争」を取り上げました。

○それでは米中貿易戦争の行方はどうなるか。制裁関税を派手に上積みして譲歩を迫るのは、トランプ大統領が好む劇場型の手法であるが、中国とは「北風を吹かせればかえって妥協出来なくなり、かといって太陽政策だと図に乗ってしまう」困った国である。今から思うと、オバマ政権の対中太陽政策が手順前後であった。まあ、任期の後半には気づいていたみたいだけど。

○強いて言えば、米中両国とも今月いっぱいは妥協が難しく、チャンスがあるとしたら11月16-17日にチリで行われるAPEC首脳会談ということになる。両国の首脳がかならず出席する会合と言うと、G20とAPECしかない。G20は大阪で行われたばかりで会って、来年のG20首脳会議は2020年11月21-22日にリアドでとなる。つまり大統領選挙の後になる。当分、米中首脳会談を開催する機会は見当たらない。

○アメリカ経済は4-6月期も2%成長と堅調だが、輸出や生産や株価には確実に貿易戦争の影響が出ている。ただし個人消費はあいかわらず強い。ひとつにはいくら関税を上げても、アメリカの場合は年間350億ドル程度の関税収入が倍増して700億ドルになっても、20兆ドルの経済に与える影響が限定的だからであろう。つまりミクロでは問題だが、マクロだと見えなくなってしまう。

○もっとも今年12月15日からの第4次対中制裁関税によって、ノートパソコンや携帯電話、ゲーム機といった大本命の中国製品に15%の関税がかかるようになると、さすがに市民生活への影響が大きくなるのではないかと思う。米中共に、これは発動させないのが良いと思うのだが。

○明日はこの問題についてBSフジ「プライムニュース」に登場します。反町さんは久しぶりだなあ。


<9月3日>(火)

○今朝の7時のNHK「おはよう日本」の冒頭ニュースが、「軽減税率で牛丼は・・・?」であったことに新鮮な驚きがありました。そりゃあ、消費増税まで残り1か月を切っていて、身近な食品の税率が「これは10%か8%か?」がだんだん気になり始めたところですものね。

○今日のところは、牛丼チェーン最大手の「すき家」が、「店内飲食、持ち帰りの税込み価格を統一へ」と決定したところであります。すき家は、「消費税率が上がることになる店内飲食の牛丼の並盛りについて、本体価格を値下げし、税込みの価格では持ち帰った場合と同じにする方針を固めました」とのこと。これはまことに太っ腹な決定ですが、逆に言えば客の低価格志向は本物だと見切っているからでありましょう。

○これに対し、牛丼の老舗である吉野家さんは、「本体価格を2つにしてしまえば、同じ商品なのに価格が異なる一物二価ということになってしまう」と、「店内では10%、持ち帰りでは8%」の路線を貫く模様である。「税込同一料金の方がお客さんにとって納得でしょ?」というのがすき家の論理で、これに対して「牛丼の値打ちは同じはず」という商品原理主義を打ち出しているところが、いかにも吉野家さんである。

○すき家の親会社であるゼンショーは、もともと吉野家から別れた社員たちが作った会社なんだそうです。以来、2社が競争することで、わが国における牛丼業界、さらには外食産業が拡大してきた。BSE問題の際にも、両社の対応が正反対であった、ということを懐かしく思い出すものです。今回もやっぱり対応が割れましたねえ。

○ちなみに業界第3位の松屋さんも、税込同一料金を選択したようです。よくよく考えてみれば、「お持ち帰り用の容器代を料金の2%と見なす」としてしまえば、店内でも持ち帰りでも同一価格にできるのですな。プラスチック容器って、それなりにコストですから。もっとも松屋さんの場合、自動券売機を使っているから料金設定に柔軟性がなかった、という話であるのかもしれない。

○ファストフードの世界においては、ケンタッキーことKFCさんが「税込同一価格」を打ち出して、全体の流れはそっちに向かいそうです。とはいえ、これはケンタッキーは「外食7割」という特殊なチェーンだからできることで、まだ対応を決めていないマクドナルドなんて、相当に悩ましいことになりますぞ。例えばドライブチェーンはその場で食べないから、明らかに8%にすべきでしょう。だったら吉野家スタイルにするのかなあ。

○消費増税まで残り1か月を切りまして、似たような話がますます増えそうです。やっぱり軽減税率って、よくない制度ですよねえ。


<9月4日>(水)

○香港情勢が急展開です。

○まずはロイターがスクープ。「できることなら、謝罪して、辞めてしまいたい」と香港行政長官が告白。

●Exclusive: 'If I have a choice, the first thing is to quit' ‐Hong Kong leader Carrie Lam

○このトランスクリプトを読む限り、キャリー・ラム長官の本音だとしか思えません。それくらい切迫した内容になっている。とはいえ、ところどころ名前が消去されているところなど、この発言を録音してメディアに流してしまった人は呪われるべきでしょうな。

○そして彼女は、本日「逃亡犯引渡し条例を正式に撤回」表明しました。これで香港デモが収まるのかどうかは未知数。とはいえ、香港市場で株価が急上昇したそうなので、最初のリアクションは「歓迎」なのでしょう。そうですか、ハンセン指数の終値は3.9%高でしたか。

○もっとも北京では、8月末に香港に対する対応策が変更されたとの観測もある。それまでは「いかなる手段をとっても10月1日までにかならず収束させろ、分かってんだろうなっ!」という感じだったのが、「もう気にしない。好きにやらせておけ。もう香港は昔ほど重要な存在ではない。そのうちフランスのイエローベスト運動みたいになるから」という「放置プレイ」に切り替えたのだとか。

○そうだとすると、これは昔の中国外交らしい大人の知恵と言うものでしょう。外交と言うものは、ときには欲しいものを欲しくないふりをして、本当は頭に来ているのに興味がない振りをして、といったポーカーフェイスが必要になります。いつもいつも「痛烈な不満を表明する」などとやっていると、周囲から小物に見られるようになってしまいます。

○そういう意味では、この人がいちばんみっともないのですが、まだまだ意気軒昂とされているご様子。まあ、しょうがないですわなあ。


<9月6日>(金)

○ハセケイこと長谷川慶太郎さんが心不全で亡くなられました。91歳でした。

○今の若い人は知らないでしょうけれども、面白い人だったですよ。もうホント立て板に水。名調子。「敢えて過去形で申し上げます。中国のバブルは崩壊いたしましたっ」。えっ、でも中国はなかなかしぶといじゃないですか、と心の中で思っていると、そこで突然、「私は三菱自動車の株を××円のときに仕込んでおります」などとおっしゃる。いやもう、緩急というか、自由自在というか。

○ハセケイ節は、まず明るい。日本の前途に対して非常に前向きである。そしてシンプルなロジックがあって、リアルな考察がある。話は経済から軍事に飛び、科学技術やら株価やら縦横無尽である。さらに歯切れが良くて、固有名詞や数字が調子よく飛び出してよどみがない。人前で話をする時は、つくづくあんな風でありたいものです。

日本個人投資家協会さんの会合に行くと、このハセケイ理事長がいらっしゃるのです。さすがにお年を召されて、昔ほどお元気ではありませんでしたけれども、本も出すし、株も買う。ワシも70代、80代になったら、あんな老人になりたいものであります。

○で、気がついてみたら、この団体の9月セミナーはとっても久しぶりにワシの出番ではなかったか。有料ではありますが、会員でなくても参加できますので、お暇な方はどうぞ覗いてみてくださいまし。


<9月7日>(土)

○今日はこれから大阪に行ってまいります。こんなセミナーの講師を務めます。

○ということで、以下は消費税クイズ。最近、あっちこっちでやっているので、答えを知ってる人は多いと思いますが、これ、頭痛くなりませんか?


Q:以下の商品の税率は、どちらが10%でどちらが8%か?

(1)水道水とミネラルウォーター

(2)宅配のスポーツ新聞と日経電子版

(3)牛丼テイクアウトの際の吉野家とすき家

(4)みりんとみりん風調味料

(5)オロナミンCとリポビタンD

(6)いちご狩りの入園料と映画館のポプコーン


○来月になったら、マジで付き合わなければならない問題です。ということで、答えは省略ね。

(というのもアレなので、いちおう正解を。@水道水が10%でミネラルウォーターが8%、A宅配のスポーツ新聞が8%で日経電子版が10%、B牛丼テイクアウトは吉野家が8%ですき家が10%、Cみりんは10%でみりん風調味料は8%、DオロナミンCは8%でリポビタンDが10%、Eいちご狩りの入園料は10%で映画館のポプコーンは8%)


<9月8日>(日)

○土曜日は大阪で一泊。

○G20で首脳が泊まったホテルは、アメリカが帝国ホテル、ロシアがリーガロイヤル、中国がウェスティンだった。変な組み合わせだな〜と思っていたのだが、タクシーの運転手さんに聞いて納得。この3つのホテルに共通するのは、「地下がつながっていない」ことなんだそうです。なるほど、地下鉄からホテルに入って爆弾仕掛けられるのが、いちばん危ないし、防ぎにくいからね。セキュリティの視点から見ると、そういう優先順位になるのか。

○今回はリーガロイヤルに泊まりました。エクスペディアで調べると、かなりリーズナブルなお値段を提示してくれるので。格式は高いのに、ちょっと場所が悪いからなのでしょうか。このホテルは、とても感じのいいバーがついていて、そこで旧友、大谷信盛氏と合流。カジノ談義など。しかし彼はホントに韓 国瑜に似ているなあ。

○横浜市がカジノ誘致に名乗りを上げた。これで大阪の強力なライバルになるかと言うと、たぶんそうはならないのではないか。横浜が「県議会と市議会の支持を得ること」というカジノ誘致要件を満たすのは、簡単ではないと思いますよ。首長さんは賛成するだろうが、そりゃあ議会は揉めますよ。その点、大阪は市議会も府議会も維新の会が盤石ですからな。

○古来、横浜を舞台にした歌謡曲は、「よこはまたそがれ」「ブルー・ライト・ヨコハマ」「恋人も濡れる街角」「伊勢佐木町ブルース」など無数にあるわけですが、基本、全部ナルシスト系です。「ヨコハマは素敵な場所」なんです。そういうところにカジノ作っていいのか、という声はすぐに出てくると思います。

○その点、大阪を舞台にした歌謡曲は、基本、マゾヒスト系なんですよね。「大阪で生まれた女」「悲しい色やね」「浪速恋しぐれ」「大阪ラプソディー」など、これまた膨大に出てくるわけですが、「大阪って、しょうもないところなんやけど、やっぱ好きやねん」という屈折した心情になる。だから「カジノ、ええんちゃう?」という声が多くなる。

○そういえば、今年は阪神タイガースよりもDeNAの方が上なんだよなあ。矢野監督に言いたいことはいろいろあるけれども、とにかく巨人と中日にあんなに負けてちゃいかんです。


<9月9日>(月)

○いやあ、すごい台風でありました。首都圏を直撃したものとしては過去最大級だったとか。昔はこんなことはなかったのですけどねえ。

○台風15号は昨晩、千葉市に上陸し、そのまま常磐線沿いに北上して水戸市に抜けたために、今朝は常磐線がほとんど機能せず。千代田線は動いているらしいので、北千住まで出られればその先は何とかなるのだが、その術がない。TXことつくばエクスプレスも動いていない。そして駅前のタクシー乗り場は、もちろん長蛇の列ができている。

○今日はお昼に長島昭久さんの会合で講師を務めるので、這ってでも午前中に都内へ出なければならない。さて、どうするか。これはもう仕方がないと覚悟を決めて、風雨を突いて自家用車で出かけました。が、案ずるより産むがやすし。常磐道に乗ったらいきなり晴れて、富士山が見えましたがな。交通渋滞はもちろんありましたが、それでも午前10時半には会場のルポール麹町に到着しておりました。

○しかし本日の都内はほとんど麻痺状態。肝心の長島さんも、ご自宅がある立川市から会場に駆けつけようとして、中央線は人が溢れていて駅にも入れず、京王線もダメで、最後の手段、西武線でやっと新宿へ出ることができた、とのこと。いやはや、大変な一日でありました。それにしても、西武鉄道は偉いですなあ。

○さて、常磐線は明日は普通に動いてくれるのでしょうか。明日は明日で「くにまるジャパン極」があるのですよねえ。祈る完全復旧。


<9月10日>(火)

○今朝の「くにまるジャパン極」は、くにまるさんがお休みで代打はパックンことパトリック・ハーランさんでした。実はテレ東や朝生などで、何度もご一緒している間柄なのですが、前から彼とこういう話をしてみたかった、というのを本日の「深読みジャパン」では試させてもらいました。すなわち、「アメリカ民主党、大統領候補の品定め」であります。

○ジョー・バイデンはちょっと心配、バーニー・サンダースは30年前から同じことを言っているお爺さん、エリザベス・ウォーレンはいちばん勢いがある、カーマラ・ハリスは検察出身でディベートに強い、ピート・ブティジェッジはそのうち消えるだろう、という見立てのようでした。いちいち納得です。

○話しているうちに、「あーやだ、またトランプの話になっちゃうよ・・・」と言っていたのが、ワシ的にはツボでした。トランプさんは嫌なんですよねえ。でもねえ、外務省筋で聞いた話ですが、トランプさんには意外な弱点があって、あの人、「ハーバード卒」には強烈なコンプレックスがあるんですって。だから相手がハーバードだと分かると、途端に参ってしまうらしい。

○ということで、ハーバード大卒のパックンは、トランプ大統領に対しては強気に出ていいです。「俺様はウォートン卒だ!」と威張ってますけど、実はそんな感じらしいので。


<9月11日>(水)

○本日の内閣改造、見所がいっぱいあったと思います。以下、感想を思いつくままに。

(1)改造当日の朝にすべての閣僚ポストが埋まっていた、というのは久々の快挙です。普通はもっと、五月雨式に情報が飛び交う。だからときには新聞辞令が外れてしまう。これは新聞各社にとっては結構な拷問で、特に官邸から冷たくされている朝日、毎日新聞にとっては「特オチになったらどうしよう!」という恐怖も付きまとう。その点、今回は全紙が胸をなでおろす展開でありました。

(2)それだけ指名が順調に行ったということで、手際の良い改造でありました。やはり回数を重ねるたびに、人事は上手になっていくものであって、それは安倍首相においても該当した。第4次安倍再改造内閣は準備万端うまくいった、という評価でよろしいかと思います。

(3)今回の組閣の中で、顕著なのは初入閣を決めた顔ぶれです。特に安倍さんがこれまで引き立ててきた若手である西村康稔経済再生相、萩生田光一文科相、江藤拓農水相といった顔ぶれは、文字通り安倍チルドレンと呼んでいいのでしょう。さらに菅チルドレンともいうべき菅原一秀経済産業相、河井克行法相なども入っていて、これらは「安倍学校」と見なして良いのではないか。彼ら50代政治家の伸び代がこれから試されます。

(4)彼らの前途を考えると、「今年11月解散、12月総選挙」というシナリオはありますまい。むしろなるべく彼らに長く閣僚を務めてもらい、実力をつけてもらいたい。そういう親心がありそうです。安倍さん自身は、首相退任後の自分の生活を考え始めていて、清和会領袖として悠々自適の日々を送りたい。そのためには「国政選挙で6勝0敗」という伝説を維持するのが得策です。あと1回を欲張って、「6勝1敗」にしてしまうと「過去の人」にされてしまいますから。

(5)実際のところ、これだけ一気に「偉くしてやりたいやつ」を大勢登用したということは、安倍さんは「自分が人事をやるのはこれが最後」と思っているからではないでしょうか。つまり安倍さんは四選など全然考えてはおらず、むしろ3期目の2021年9月を待たず、来年の東京五輪後に誰かに「禅譲」してもいいや、解散・総選挙は次の人がやってくれればいい、くらいに考えていると想像します。

(6)そういう目でこの内閣を見ると、ポスト安倍候補がヨーイドンで揃っている。岸田文雄政調会長、加藤勝信厚生労働大臣、河野太郎防衛大臣、茂木敏充外務大臣という「3K+M」がその代表格でしょう。彼らが競い合ってくれればそれで良し。ただしその判定役を担う後見人は、菅義偉官房長官ということになる。ポスト安倍にいちばん近いのは、実は菅さんなのかもしれません。

(7)なぜそう思うかというと、この内閣には神奈川県選出の議員が4人もいる。菅官房長官(横浜)、河野防衛相(平塚)、小泉環境相(横須賀)、田中復興担当相(川崎)で、加えて甘利税調会長(大和)も居る。長州が天下を取った次は神奈川県、という気がします。だからポスト安倍は一見「3K+M」のようだけど、菅さんがショートリリーフをやった後で「河野と小泉の2K」となる筋書きも無視できないものがあります。

(8)あらためて衆目の一致するところ、今回の組閣の目玉は小泉進次郎環境相でしょう。ただしそこには罠も仕掛けてあって、「環境大臣+原子力防災担当」には、東京五輪終了後に福島のトリチウム水を海洋放出する、という汚れ仕事がある。当代きっての人気者なんだから、それくらいのリスクはとってくれよな、それができたらお前を総裁候補として認めてやるよ、という試練を与えられている。これはいかにも自民党らしい若手の鍛え方です。

(9)さらに言えば、これは小泉純一郎パパに対して、「余計なことは言わないでくださいね」とくぎを刺す効果もある。その小泉さんは自分が首相であったとき、石原慎太郎都知事(当時)が煙たかったものだから、長男の石原伸晃を重用したという前例がある。まあ、伸晃さんは、道路族につぶされてしまった感がありますけど。

(10)それでは安倍内閣のレガシーは何になるのでしょうか。憲法改正はハッキリ言って無理でしょう。本当にやりたいのなら、次の首相をもっとソフトな岸田さんあたりにお願いして、やってもらうのがいちばん無難です。そして日ロ平和条約は無理っぽい、拉致問題も所詮は相手のあることで、残りの任期でなんとか果たしたいと思うでしょうが、それは保証の限りではない。

(11)そうなると、これだけは確実なことが2つあって、安倍政権の功績は「歴代最長の安定政権を維持した」ことと、「任期中に消費税を2度も上げた」ということであります。ご本人は不本意かもしれませんが、これは否定できない事実です。しかもこの2つは、今の日本にとってかなり値打ちのあることだと思うのです。

(12)ただしそこで生じるもうひとつのチャレンジは、「2度目の消費税を上げた後に、景気の失速を招かなかった」としなければなりません。それは簡単じゃないですよ。何しろ世界経済が不穏な感じなので。ともあれ、第4次安倍再改造内閣の最大のテーマはやはり経済。そこを怠ると、「九仞の功を一簣に虧く」ことになりかねない。くれぐれも変なよそ見をなさいませぬように。


<9月12日>(木)

○昨日書いたようなことが、ロイター電にも流れていたのでご紹介。


<双日総合研究所 チーフ・エコノミスト 吉崎達彦氏>

まず、今回の改造人事は手際のよさが目立った。11日付朝刊に全閣僚の名前がそろって報道されたが、これまでにあまりなかったことだ。

また、安倍晋三首相が引き立てたいと思ってきた人を何人も閣僚にした。ある意味で「最後の改造人事」と思って、安倍首相が人事を行ったようにもみえる。

言い換えれば、自民党総裁の4選は考えず、来年の東京五輪を花道にして、後進に道を譲ることも念頭にあったのではないか。

全体で見れば、なかなかよい内閣だと思う。自民党役員を含めれば、岸田文雄政調会長、加藤勝信厚労相、茂木敏充外相、河野太郎防衛相という3KプラスMをポスト安倍候補として競わせる布陣にした。ようやく次の世代を育てる気になってきたのかと感じた。

その下の世代の西村康稔経済財政相、萩生田光一文部科学相、江藤拓農水相、菅原一秀経産相にどのくらいの伸びしろがあるのか、それを見ていく「楽しみ」もある内閣と言える。

一方、菅義偉官房長官の影響力が増した。菅氏の地元・神奈川県出身の閣僚が小泉進次郎環境相を含め、4人に上っている。ポスト安倍を見極めるうえで、菅氏の動向は今まで以上に注目されるだろう。

小泉氏は、環境相の所管外とは言え、福島第1原発の汚染水処理などで、その手腕が問われる局面が訪れるかもしれない。

他方、「女性活躍」という看板に比して、女性閣僚が2人にとどまったのは、物足りない印象だ。

今年11月には桂太郎内閣を抜き、史上最長の内閣になるが、目立ったレガシーが見当たらないのも事実。2度の消費税引き上げを断行し、景気失速を招かなかったことが、心ならずもレガシーになるということになりそうだ。

永田町には今年11月の衆院解散を指摘する声があるが、これだけ「愛着」のある閣僚を集め、2カ月余りで「クビ」するのは忍びないという心情があるような気がする。

したがって来年の五輪を花道に引退しつつ、国政選挙6連勝の実績を看板に、清和会(細田派)の領袖として、政界に影響力を持ち続ける道を選ぶのではないかと予想している。


<9月13日>(金)

○このところ、いろんな人から心配されているのが、「千葉県大丈夫ですか?停電してません?水道も大丈夫ですか?」といったことである。台風15号の影響で、もう5日目になるのに房総半島では今でも約17万戸が停電しているとのこと。考えてみれば、生活インフラは老朽化しているし、人手不足で非常事態に割ける人員も少なくなっている。復旧が遅れているのは何ともお気の毒である。

○幸いなことに、常磐線沿線は当日の電車が止まっただけで、それほどひどいことにはなっておりません。千葉県と言っても、房総半島の方とは全然違うもので。この辺に、千葉県の統一感のなさがある。たぶん「翔んで埼玉」みたいな形で千葉県Disり漫画や映画が出来たとしても、松戸都民や柏都民はまったく自分のことだと感じないのではあるまいか。ええ、どうもすいません。

○「千葉県」というと、ワシがもっとも感じる個性はドライバーのマナーの悪さである。赤信号になっても堂々と右折する。もちろんワシもつられて右折する。するとさらに1〜2台、後をついてきたりするから目が点になる。最初に引っ越してきたときは、「千葉のドライバーはなんて厚かましいんだ」と呆れたものだが、今ではすっかりなじんでしまった。たまに富山でレンタカーを運転すると、「ああ、なんてここの人たちは優しいんだろう」と感心する。

○そんなワシが、先日、富山県内を走っていた時に、速度制限オーバーで青切符を切られてしまった。ちぇっ、せっかく免許証がゴールドになっていたのに!と、地元の友人にぼやいていたら、「馬鹿だなあ、今、交通安全運動の期間中なんだから」。

○そんなことわしゃ知らんがな。自分がすっかり千葉県民になっていることを自覚した瞬間であった。


<9月14日>(土)

○東洋経済オンライン、本日アップされたのは2020年米大統領選挙のご案内である。投票日はまだ1年と2カ月先なのだが、何しろこの問題、「今からでは早過ぎる」ということだけはけっしてない。何しろトランプさんは、来年の再選のことだけ考えて、日々の決断をしているわけなので。

○先日、文化放送でパックンから聞いた民主党候補者の寸評も、そのまんまご紹介させていただきました。9月10日の「深読みジャパン」では、ほとんど打ち合わせなしで掛け合いをやっているのですが、非常に的確な評価だったと思います。やっぱり現状ではエリザベス・ウォーレンですかねえ。

○そして第3回の民主党討論会が昨晩、テキサス州ヒューストンで行われました。ここの評価によると「ウォーレンこそがLone Star」とのこと。「孤独な星」とは、テキサス州の州旗が白い星ひとつであることから来ている。まあ、この辺の文章はあとでゆっくり拝読することに致しましょう。


<9月15日>(日)

○以前にご紹介した『チャイナエコノミー』(アーサー・クローバー/白桃書房)の電子版が刊行されました。それについて、津上俊哉さんが書評を寄稿している。これがとっても深い。すばらしい。

○最後の部分を転載しておこう。いや、ホントまったくその通りだと思うのです。


 著者は「今後20年間のどこかの時点で、中国が米国を追い越して世界最大の経済となる可能性が、決して確実ではないが存在する」とする(323頁、第13章)一方、「中国の今後の人口構成や経済の展望が不透明で、米国を追い抜ける可能性は絶対のものではない」し、「米国経済には未開拓の大きな可能性がある」、そして「米国主導の世界秩序は頑丈で豊か」なので、「中国が米国の技術的・文化的・政治的リーダーの座を奪う可能性はない」と言う(361頁、第13章)。

 米国政治エリートの大多数が、今も自信を持ってこの見方を肯定できるなら、米中対立は今ほど深刻になっていないだろう。2016年春に刊行された原書は、大半が2015年に書かれたと推測するが、その後の4年間に起きた変化はトランプ大統領の登場といい、米中の深刻な対立といい、実に大きかった。著者は上記の見立てを今も変えていないだろうか、特に「米国主導の世界秩序は頑丈で豊か」という点について。

 その意味で、著者には本書の続編を期待したいところだが、未来を正確に外挿するためには、中国の今を正確に認識する必要がある。その点で、中国の強みと弱みをフェアに描き出す本書は刊行後4年が経つ今も陳腐化していないと思われる。



○中国がどこまで伸びるかよりも、アメリカがおかしくなっていて、そっちの方がよっぽど心配だ。そしてまた、そっちの方が先が読めない。

○白桃書房さんによれば、クローバー氏からは新著も増補版も何とも言ってこないそうだ。たぶん、まだ悩んでいるところなのだろう。つくづく米中関係は、世界が共有する現下の最大テーマということになる。


<9月17日>(火)

○9月14日に起きたサウジの油田爆撃事件は、つくづくよくわからない事件です。いやもう、わけがわかりませぬ。


●犯行声明を出したイエメンのフーシ派は、もともとミサイル攻撃などをやってはいましたが、テロリストとしてはせいぜいアマチュア5級程度の腕前でした。それが今回は、堂々のプロ5段程度の腕前を見せている。ホントはあんたたちじゃないんでしょ、と突っ込みを入れたくなる。

●いやもう、そうに決まってます。イランが後ろで糸を引いているに決まってます、と言いたげな人もいるようですが、そうだとすると今のイランは革命防衛隊が「関東軍」になっているということ。つまり最高指導者ハメネイさんの言うことを聞かなくなっている。いや、むしろハメネイさんは戦前の昭和天皇のように、国内政治の際どいバランスの上に乗っかっているだけなのかもしれません。

●これまでサウジが高いおカネを払ってアメリカから購入していた対空防衛ミサイル網などは、今回は全く役に立たなかったことになる。ドローンが低空で入ってきたら止められないんだ、と言われるかもしれませんが、とりあえずサウド王家の面目は丸つぶれである。どうするんですかねえ。

●ということは、さすがに「石油価格を釣り上げるためのサウジによる自作自演説」はあり得ないでしょう。まあ、こういうときについ思いつく陰謀論ではあるのですが。同工異曲として、「総選挙を控えたイスラエルによる攻撃」という陰謀論もありそうですが、さすがに次の政権が誰になるのかサッパリ分からない状態で、イスラエル国軍が下手なことをするとは思われませぬ。

●ところで今回のサウジ攻撃は、アメリカのボルトン国家安全保障担当補佐官が更迭された(本人は辞任だと言い張っている)ことと、どういう関係があるのでしょうか。「トランプはどうせ、俺たちと戦争するようなガッツはない」とイラン側に見透かされている、というのはあるかもしれません。まあ、でも石油禁輸と金融制裁は、解除してもらえないでしょうなあ。

●ともあれ、これで世界の原油生産量の5%以上が麻痺してしまった。これでホルムズ海峡を挟み、サウジとイランがドンパチ始めるようになれば、これはもうハルマゲドンのようなシナリオとなってしまいます。さあ、どうなるんだ。誰かがどうにかしてまとめ上げられるのか。

●希望があるとしたら、来週にニューヨークで行われるであろう国連総会における首脳会合。トランプさんは、とにかく大型の首脳会談の機会に飢えているようですが。サウジの側には、そういう必然性は乏しいように思われます。どこの国でも、強硬派同志というのは息が合うらしく、つくづく「あんな国と絶対に合意したくない!」という思いが、今回のような事態をもたらしてしまうのではないでしょうか。

●折からの9月FOMCの議論もどうなることやら。石油価格の急激な上昇は、米国経済にインフレ圧力をもたらすはずである。それでもトランプさんは、「利下げだ利下げだ」と音頭をとり続けることでしょうが。


<9月18日>(水)

○二晩続けて深酒。昨日は会社の同期連中と。今宵は日本個人投資家協会さんと。古い付き合いの仲間がいる者は幸いなるかな。

○昨晩驚いたのは、かつてワシらがしょっちゅう麻雀をしていた赤坂の雀荘「ココ」が、今では「Holic」という店になっていること。どうやら名前からして、ホリエモンの所有なのではあるまいかと。ううむ、そういうことで良いのであろうか。夏草や 兵どもが 夢の後。

○今宵はお久しぶりの木村喜由さんと昔話。日本橋人形町にて、BS放送のルック@マーケットのこと、ハセケイこと故き長谷川慶太郎氏のこと、最近の株式市場のこと、そして競馬のことなど。ちなみに木村さんの競馬歴はびっくりするほど古い。学生の身分で競馬場に通うなんて、良い子の皆さんは真似しちゃダメですよ。

○個人投資家協会さんとの付き合いはもう20年近くになる。最近の若い人は、株ではなくてFXとか仮想通貨に行ってしまうらしく、全体的に昔懐かしい人が多く残っている。いや、この世界で長く生き残っているということは、それだけで充分に価値があります。

○長く生き残ることにかけては、当溜池通信も人後に落ちるものではござりませぬ。マンネリなんぞなんのその。しぶといですぞ。


<9月20日>(金)

○今年の春ぐらいから、講演会などで同じことを言い続けてきました。いいですか、9月20日夜に、飲み会の約束なんか入れちゃダメですよ。ラグビーW杯の開幕試合ですからね。

○開幕試合の相手はロシアです。会場は東京スタジアム。これはもう日露戦争です。この国は昔から、バレーボールでもサッカーでも、ロシアに勝てば心がひとつになるんです。これは見逃しちゃいけません。

○しかも今回、ロシアは必ずしも強い相手ではない。いろいろあって、今大会に出てきた相手なんです。この緒戦に勝てば、次はアイルランド(これはさすがに無理だろう)。その次はサモア(できれば勝たせていただきたい)。その上で迎えるプールAの最終戦の相手はスコットランドで、これは油断のならない相手である。たぶん勝った側がトーナメント進出となる。

○まあ、今大会しきりと言われている「ベストエイト」という目標は高過ぎるかもしれませんが、ホームのアドバンテージもあるでしょうから、期待してしまいましょう。これから先、ラグビーのワールドカップで楽しませてもらおうと思います。え?ルールなんてあたしゃ分かってませんよ。そんなの大体でいいんです。

○とりあえず、今日のところは30対10で堂々の勝利です。立ち上がりはちょっとハラハラしましたけどね。まあ、よかった良かった。

○ちなみに今大会のことについては、ラグビーファンのこの人に教えていただく所存であります。よろしくお願いします。


<9月21日>(土)

○ついついオーストラリア対フィジー戦を見て、見ているうちにだんだん力が入ってきて、フィジーを応援してしまう。なんなんだ、これは。やっぱりラグビーって面白い。

○夕方から出かけて羽田空港へ。マイレージで買った飛行機で大阪へ飛ぶ。このところANAのマイレージはまったく使えない。というか、上手に使う人が大勢いるので、ワシのように直前に日程が決まる人はアップグレードなど夢のまた夢になのである。そこで、東京ー大阪間の移動に使って新幹線代金を1回分浮かす、という裏技を発見する。これも使える時間帯はかなり限られているのだが。

○そのまま伊丹空港の東横インへ。一泊9000円台はかなりお得だと思ったのだが、実はそんな甘い話ではなくて、会員になるなどすればもっと料金は下げられるらしい。以前、小倉のAPAホテルに泊まった時も感じたのだが、この手のチェーンはシステムが実によく出来ている。働いている人たちもモチベーションが高いようにお見受けした。

○部屋のテレビで、ニュージーランドが南アフリカを破るのを見る。しかるに南アフリカも意表を突いてドロップゴールを決めたりして、さすが世界の最高峰の試合である。そういえば「インビクタス」に出てきた両チームも、ドロップゴールの応酬であった。え?台風17号が来ているのになんで大阪なのかって? それはいろいろあるのでありますよ。


<9月22日>(日)

○蛍池から宝塚駅へ向かう。日曜朝の阪急沿線はのどかなのである。この辺の地理はまったく不案内なので、池田とか川西という地名を聞いて、ああ、そういう位置関係だったのか、などと感心する。

○宝塚駅で下車。瀟洒な街である。花の道、という市道があって、これを歩いていくと宝塚大劇場が右手に見えてくる。既にファンが行列を作っている。やはり女性が多いのだが、なんとなく無意味に美男美女が多く歩いている感あり。というか、ぼさっとした格好でいるのが憚られる街と言えよう。これぞ山の手というもの。小林一三翁の構想、おそるべし。

○大劇場の前を突っ切って、市道が終わるところに手塚治虫記念館がある。ここを訪ねるのは長年の宿題であった(そういえば東大阪市の司馬遼太郎記念館もまだなのであるが)。宝塚市立である、という点がポイントで、手塚は5歳から24歳までの20年間をこの街で過ごした。途中から東京に行っちゃったけど、この街が手塚作品を育てたんだぞ、ということらしい。治虫少年が過ごした頃は、昆虫がいっぱいいる大自然が残っていたという。

○と言っても、ここで展示物を見たところで、知らないことなどほとんどないのである。まあ、手塚ワールドにしばし浸るというのが主眼でありまして。若くして漫画界の大功労者であったにもかかわらず、本人はいつまでたっても第一線に立っていなければ気が済まず、自分を慕う弟子たちにまで嫉妬し、自己変革を止めなかった。絵もどんどん変わっている。昭和ひとケタ世代というのは、そういうところが貪欲であります。

○歴史的な役割ということでは、1960年代までの活躍で十分だったと言ってもいいくらいである。ご本人的にはそれではまったくご不満であって、『ブラックジャック』を描き始めてやっと人心地がつき、そこから『陽だまりの樹』や『アドルフに告ぐ』などにつながっていく。そういえば『火の鳥』を本格的に書き始めたのも1980年代になってからであった。平成元年に逝去するが、享年60歳という若さであった。

○さて、再び阪急線に乗って、今度は西宮に向かう。仁川駅で下車。そうなのだ。本日は編集F氏が阪神競馬場に席を取ってくれているのである。本日のメインレースは神戸新聞杯。中山開催ではオールカマー。秋競馬の開催を告げる重要週であって、どうかすると来週のスプリンターズステークス(G1)以上に大事なレースである。

○阪神競馬場には初めてやってきた。ここはゴール前に坂があることなど中山とコースが似ていて、「中山で強い馬は阪神でも来る」みたいな法則がある。しかるに競馬場的には大差がついている。そもそも阪急線の中で、競馬新聞を読んでいる人がほとんどいない。いつもの武蔵野線とは大違いである。それくらい山の手の上品な場所なのである。

○仁川駅の改札を抜けたところから、競馬場へのアクセスがとっても広く作ってある。船橋法典駅の暗い通路を思えば、まったくなんたる違いぞ。両側を彩る「阪神競馬場の名勝負」の歴史も、ファンの心をくすぐるように作ってある。「とにかく集めてみました」みたいな中山の通路とはえらい違いである。そうか、関西の宝塚市はハイソな場所だが、関東の船橋市は全然威張れない場所だしなあ。

○近年、中山でやっていた朝日杯が阪神に移ってしまい、しかも大阪杯がG1に格上げされるし、なんだか阪神競馬場が優遇されているなあ、という印象があった。そこで中山は年末にホープフルステークスなんてG1を強引に作ったりしたのだが、これはもう競馬場の格において負けている。全体にストレスを感じさせない作りになっている。強いていちゃもんをつけるならば、「阪神」という名前で損をしているかもしれない。

○勝負の方は、といえば「旅打ちでは勝てない。でも行くと必ず新しい発見がある」という法則通りでありました。とりあえずダービーで負けたサートゥルナーリアが2400mでも勝てることが判明しました。次はジャパンカップでしょうか。ディープなき後の競馬界においては、大物の種牡馬が必要とされていて、良血のサートゥルはその有望株なのだが、府中で勝たないことにはお値段が上がらない。(でも、中山の有馬記念が向いていそうである)。

○帰りは山崎元氏の提唱により、競馬ファン4人で「居酒屋新幹線」。これは楽しい。が、さすがに飲み過ぎた。新大阪で買った「551」の袋をどこかに置き忘れたのはまことに不覚である。


<9月24日>(火)

○今週は国連外交ウィーク。昨日は気候行動サミットが行われて、我らが小泉進次郎環境相がミソをつけてしまいました。まあ、いいじゃないですか。普通に事務方が用意した紙を読んで目立たないくらいなら、叩かれる方がまだしも新進政治家らしいというもの。カナダのトルードー首相なんぞも、最初の頃はひどいものでしたからね。まあ、彼の場合は、来月の総選挙でどうなるかあたしゃ知りませんが。

○ただし今回の振る舞いでは、進次郎君は英語はちゃんとできるけど、環境保護派の空気はまるで読めていないことがバレてしまいました。「セクシー」という用語の使い方は間違ってないと思いますが、いちいち彼らの神経を逆撫でするようなことをやっちゃいましたし。

○石炭火力をめぐる日本の議論は、捕鯨と同じくらい欧米には通じません。これはもう仕方がない。向こうの方が多数派なんだし。でも、あの人たちは気候変動問題については、いわばギルティ・トラップにかかっていて、捕鯨問題と似たようなヒステリックさになっている。だから16歳の少女の演説が絶大な威力を持ってしまうのです。どうでもいいことですが、歴史上のジャンヌ・ダルクってあんな感じだったんでしょうね。ワシのように「原罪意識」と無縁の人間には、ちっとも心に響かないのでありますが。

○わが国としては新興国(石炭はあるけど電力は足りない国)の「声なき声」に期待をしつつ、地道に石炭火力を守り抜き、CO2を限りなく回収してしまう技術を磨くくらいしかありません。それでもって、できればその技術を海外に売りたいところなんですが、そうするとまた「カネ儲けか!」などと言われてしまう。なに、アンタたちにできないことを代わりにやっているだけなんだけどねっ。まあ、地球上のCO2を減らすためには、そっちの迂回式アプローチの方が優れていると思います。「石炭=悪玉論」の直接的アプローチは間違いなく不毛です。

○とはいうものの、今年の夏は非常に暑かったし、悪魔のようなトランプ政権は邪魔をするし(でも、なぜか本人はのこのこと出てきた。今週のトランプさんはNYで勝負かけるみたいです)、環境保護派はカリカリきている。そんな人たちをまともに相手にする手はないです。進次郎さんはいい勉強をしましたね。

○で、国連外交ウィークはこれから「イラン編」に移ります。これはこれで真剣勝負なんでありますよ。サウジ油田空爆事件の後でもあるし。期待値を低くして、生ぬるく見守りましょう。あ、それから25日には日米首脳会談も控えておりますので。


<9月25日>(水)

○かんべえの古い友人であるぐっちーさんが昨夕、亡くなられたそうです。山口正洋さん、享年59歳、死因は食道がんでした。葬儀は本人の強い希望で、ご家族のみで執り行われるとのことです。

○同じねずみ年生まれ、共著も出したし、東洋経済オンラインの連載も長く続けたし、一緒にワインも飲んだし、競馬場にも行きました。最後に会ったのは7月の福島競馬、七夕賞のときでした。本人はメルマガの締め切りがあるからと言って、せっかく温泉に来たのに風呂にも入らずパソコンに向かっていましたが、その時点でかなり悪かったようです。とはいえ、こんなに早いとは思ってもみませんでした。

○月並みな感想になりますが、「あのときもっとこうしていれば・・・」みたいなことが次々に思い出されます。最初に会ったのがたぶん2005年。あの年の「郵政選挙」の翌日に、当時のネット仲間で飲んだ記録が残っている。本当に楽しい時間でございました。もうこの世で彼と会うことはできません。

○それにひきかえ、自分はこうしてまだノホホンと生きており、注がれた酒は全部飲み、出されたメシは全部食べ、仕事も一応納期には間に合わせ、どうかするとラグビーW杯に感動したりして、毎夜のようにネットによしなしごとを書き連ねております。なんという罰当たりな。自分が貴重な時間をもらって生かされていることに、あらためて感謝するほかはありませぬ。

○ぐっちーさんには、いろんなことを学ばせてもらいました。今までどうもありがとう。名残りは尽きませんが、さようなら。合掌。


<9月26日>(木)

○ウクライナの問題が米国政治を揺さぶっている。これまで「大統領弾劾」に消極的だったナンシー・ペローシ下院議長も、とうとう重い腰を上げて弾劾へ向けての調査を命じた。これをもって、「いよいよ来たか!」と高揚する民主党支持者もいるだろうが、トランプ大統領は「ふっふっふ、とうとうワナにかかったな、ペローシめ!」とほくそ笑んでいるのではないかと想像する。

○これまでトランプ氏は、いろんなやり方で民主党左派を挑発してきた。「スクワッド」と呼ばれる民主党のマイノリティ出身の新人女性議員4人(AOCことアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏など)に対し、「国へ帰れ」」といった差別的な言辞を吐いたのもその一環である。これを言えばトランプ支持者に受けるという読みもあったのだろうが、とにかく彼は民主党を怒らせたい、嫌われたいのである。

○民主党の左派が怒り狂うと、中道派はそれを抑えなければならない。そうやって両者がいがみ合うようになればしめたもの。そして大統領弾劾プロセスが始まれば、万に一つも成功することはない。おそらく「民主党はそこまでするのか」ということになって、共和党が有利になる。ペローシ議長は、それが分かっているから「弾劾はしない」と言ってきた。彼女の脳裏には、1998年のクリントン大統領弾劾劇が思い浮かんでいることだろう。

○まあ、言ってみればわが国における二階幹事長みたいなものでありますよ。「韓国許すまじ!」と言って怒っている党内の議員を上手に抑え込む。こういうのがベテラン政治家の持ち味というもので、以前から何度も言っている通り、「ペローシさんはアメリカの二階さん」に見えて仕方がない。もっともこういう味わいは、若者層にはたぶんさっぱり理解されないのだと思うけど。

○そのペローシさんも、「アメリカ大統領がウクライナの大統領に圧力をかけて、バイデン元副大統領の息子の疑惑を追及させようとした」という新ネタには逆らえなくなった。というより、これ以上党内を説得できない、と思ったのかもしれない。いずれにせよ、トランプさんの狙い通りの展開である。

○「えっ?今回のことで、トランプ人気は落ちるんじゃないの?」と思った方は少々甘い。彼の場合、もう、どんなスキャンダルが出ても支持は変わりそうもない。その逆に、バイデン元副大統領のイメージは傷つく。「息子さんが以前、ウクライナでよからぬことをやっていたらしい・・・」てな話は、少し政治に詳しい人なら覚えていることだ。しかし普通の人は知らない。それが今度のことで知れわたってしまう。バイデンの支持率はてきめんに下がることになる。

RCPの民主党大統領候補の支持率調査をご覧あれ。本日とうとう、1番手のバイデンと2番手のウォーレンが逆転したデータが登場した。以前は2倍以上の差をつけていたのだが。こうなると、やっぱり中道穏健派のジョー・バイデン元副大統領ではなく、進歩派のエリザベス・ウォーレン上院議員が民主党の大統領候補の座を射止めるのではないか。

○彼女のキャッチフレーズは、”Warren has a plan for that."である。少し意訳すると、「ウォーレンなら、その問題へのプランがあります」となる。つまり彼女は問題解決型。いろんな問題に対し、きっちりプランを作っている。バーニー・サンダース候補が唱えている「国民皆保険制」(Medicare for all)も、彼女が説明する方が上手なんだもの。そこはさすが元ハーバード大教授であります。

○それに比べると、バイデンなんかは「僕が大統領になれば、みんなが大好きだったオバマ時代に戻れるよ」と言ってるようなもので、いわば「癒し系・回顧型お爺さん」。目覚ましい提案は少ないし、失言が多いのが心配だ。上院議員をとっても長い間やっていたので、過去には矛盾に満ちた投票行動もある。

○そういえば先日、アメリカから帰って来たばかりの中山俊宏先生が、「ウォーレンはオクラホマ出身だから、発音に南部なまりがあって、ゆっくり話すところが受けている」と言っていた。ブルーカラー世帯に生まれて、確かウェイトレスをしながらヒューストン大学を出たとか。それが企業法制を専門とするハーバード大教授となり、リーマンショック後は消費者金融庁の設立に貢献した。上院議員になったのはごく最近のことだ。

○それでもトランプさんの立場になってみれば、たぶんバイデンと闘う方が嫌なんじゃないかと思う。中道派よりも進歩派の方が対立がエスカレートするし。それにウォーレンが相手なら、少なくとも経済界は味方に付いてくれそうだ。ウォーレンの政策はアンチ大企業ですからね。当面の株式市場では、「ウォーレンが大統領になったらどうしましょ」みたいなことがテーマになると思いますぞ。


<9月27日>(金)

○昨日の続きを少しだけ。

○当溜池通信の名物でありますが、海外のオッズはどうなっているか。いつも参考にしているこのページを見てみましょう。


●US Presidential Election 2020

Donald Trump  6/5     2.2倍

Elizabeth Warren 23/10   3.3倍

Joe Biden 15/2        3.5倍

Bernie Sanders 14/1    15.0倍

Pete Buttigieg 19/1     20.0倍

Andrew Yang 19/1      20.0倍


○やっぱり、ここでもウォーレンがバイデンを交わして先頭に立っている。この背景には、「いずれProgressive派のサンダースが、ウォーレン支持に回るだろう」という読みもあるのでしょう。そして他の候補者は、かなり引き離されてしまっている。2020年選挙は、3月3日のスーパーチューズデーで予備選があらかた決まりそうなスプリントレース。だから先行逃げ切りでなければならず、この辺で先頭に立っておきたいところです。

○次は来年2月に緒戦が行われるアイオワ州(党員集会)、ニューハンプシャー州(予備選挙)での支持率が重要になります。ウォーレン女史はここでも好位置につけておりまして、しかも尻上がりに勢いがついている様子が見て取れます。むしろバイデン氏が失速しているようにも見えますなあ。


<9月29日>(日)

「始まるまではいろいろ言われたけど、始まってしまえば皆、勝ち負けのことしか言わなくなるものだ」

○業界関係者がボソッと言ってましたが、ホントそうですね、現金なものです。いや、もちろんラグビーW杯のことでありまして、昨日は信じられないことにアイルランドに勝っちゃいましたから、これでもうW杯開催にいちゃもんをつける(森さんの我田引水がどうのこうのetc.)人は居なくなるでしょう。たぶん来年の東京五輪も以下同文ですな。いや、是非そうであってほしいものです。

○とはいうものの、開幕戦の日本対ロシアの視聴率が18.3%といいますから、へえっ、そんなもんかあ、と感じます。サッカーのW杯だと60%とか行っちゃうわけですから、まだまだラグビーの人気は伸び代があるということでしょう。ルールが難しいしね。これは民放が日テレに集中しているせいもあって、他局があんまり取り上げてくれないんだそうです。とはいえ、「アイルランドに勝った」快挙を無視するわけにはいかんでしょうから、尻上がりに人気が出てくると思います。

○少し気の早い話をしますと、プールAは日本が2勝ゼロ敗ですので、トーナメント進出(ベストエイト)はほぼ決定的になりました。この場合、プールAの2位通過だと、初戦の相手はプールBの1位、すなわち高い確率でオールブラックス(NZ)ということで、これはさすがに即死でありましょう(10月19日、東京スタジアム)。

○しかるに、プールAでこの後対戦するのはサモア(10月5日、豊田スタジアム)とスコットランド(10月13日、横浜国際総合競技場)です。サモアは勝てそうな相手だし、スコットランドはアイルランドに完封された相手である。ということは、まことに畏れ多いことながら、日本がプールAを1位通過という目が出てまいりました。

○その場合、トーナメント初戦の相手はプールB2位となります(10月20日、東京スタジアム)。普通に考えればスプリングボクス(南ア)ということになる(まあ、イタリアの目も少しはある)。2大会連続のジャイアントキリングなりますか、という話題ができる。

○さらに欲の皮を突っ張らせて、この南ア戦に勝ってしまって日本がベストフォーとなった場合、準々決勝は10月27日(日)、横浜国際総合競技場ということにあいなります。何が言いたいかというと、「この日は渋谷や六本木に近づいちゃいけませんよ」ということであります。だってハロウインのウィークだから。もちろん10月26日(土)も大警戒です。世界中からお祭り騒ぎしたい人たちが集まってきますぞよ。

○ラグビーで来日中のお客さんは、欧州系を中心にざっくり40万人だそうです。「このところ、都内の外国人濃度が5%は上がっている」とか、「どこそこのコンビニではビールが売り切れになっていた」(そりゃきっと、アイルランド人がいっぱい来たに違いない)などという声をよく聴きます。しかしサッカーのときのようなフーリガン騒動とはまったく無縁です。

○ラグビーファンというのは、本当に品のいい人たちなんですな。この人が書いていたように、ゲームが終わったらアイルランド人観客が、周囲の日本人に「おめでとう」と声をかけていたそうです。ゲームが終わったらノーサイド。審判に文句をつけたり、ブーイングをしたりもしない。違う国のファン同士が、並んで座ってビールを飲んでいる。

○本当に毎回、いいものを見させてもらっております。今日もオーストラリア対ウェールズなんて好カードがありますからね。この至福の時間は、11月2日の決勝戦(横浜国際総合競技場)まで続く。ちなみにスプリンターズステークスの予測はこちらをどうぞ。


<9月30日>(月)

○いよいよ明日は消費増税。月末にかけて、いろんな駆け込みがあったようですが、中にはこんなお話もあったようで。

●先週金曜日のBS11「インサイドOUT」。番組の終了間際、二木啓孝さんがいわく。「うちのスタッフには調味料を一杯買い込んだのがいるそうで」・・・・って、それって軽減税率じゃん!

――番組終了直後に一同気づいて、スタジオ中に「ああっ、しまった!」という声が鳴り響いたのは内緒である。

●某鮨屋にて。客が「2%上がる前に食いに来たよ」。すると店主曰く。「いえ、鮨の値段は変わらないんです。税金が2%上がるだけなんで」

――お値段ちょっと高めの、でも十分にその値打ちがある店でありました。こういう店の名前をばらすほど、当方お人好しではありませぬ。

●ちなみに拙宅では、駆け込みで買うべきものを思いつかず、酒屋でバランタインを買ってきました。2%を節約するために、つい要らぬ贅沢をしてしまったような。

――似たような人は少なくないと思います。駆け込みで買ったものが後で役に立ったということは、滅多にないものでありまして。

○ところで朝日新聞が「値上げしません」と宣伝しているそうな。軽減税率を受けておいて、何と厚かましい。しかもワシが払っている電子版の月540円は、たぶん550円になるはずである。新聞業界の不誠実、ここに極まれり。












編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki