●かんべえの不規則発言



2024年6月







<6月2日>(日)

〇5月はずいぶんあっちこっちに出かけてお疲れ気味なので、この週末は家でゆっくり過ごす。

〇朝日新聞の「宮澤喜一日録〜戦後政治の記録」(全23回)を「通し」で読んでみる。恰好な暇つぶしである。しかるに考えてみたら、ワシは朝日の記事は「1か月に50本まで」で契約しているので、どうせなら月末に読めばよかったのに、というのはよくある後知恵といえよう。まあ、大丈夫、いつもそんなに読んではいないので。

〇宮澤喜一(1919〜2007)という政治家は、もちろん自分とは何の接点もないけれども、誕生日が同じというだけで何となく親近感がある人であった。実際に接したことがある人たちに聞くと、とにかくプライドが高くて、教養があり過ぎて、口が悪くて、酒癖も悪くて、なかなかに扱いにくい人だったようである。

〇わが国の戦後政治の歴史を語るときには、どうしても欠かせない一人であるけれども、教養人としてはさておき、政治家としては「似たタイプ」が絶無の人物である。だいたい「選挙のときに奥さんを人前に出さない」という時点でもう普通ではない。政治記者たちから見れば、極めつけの難物ということになる。

〇その宮澤さんが日記を残していた。というよりは「日録」ですな。大学ノートを使い、左ページに秘書がその日の日程を書き込み、右側の余白に自分が鉛筆で書き足すというユニークな形式である。日録は1966年12月から2006年9月まで続き、大学ノートは185冊分になる。40年にわたる欠損のない超重要資料、ということになる。

〇ただしホンネの出にくい政治家であっただけに、「誰それにはこんな風に言ってやった」とか、「俺は本当はこんな風に考えていた」などと書いてあるわけではない。何日に誰と会ったか、誰に電話したか、という記録が淡々と残っているだけである。ただし1993年の金丸逮捕のときは、後藤田法務大臣から事前に知らされていて、逮捕当日のノートには「やむなし」と書き込んであったりするとのこと。

〇宮澤さんは「補佐官型」の政治家であったために、1970年代くらいまでは恵まれた人生行路を歩むのだけれども、自分が総理を目指せるようになる1980年代以降は苦労が絶えなくなる。そもそもなんで鈴木善幸が首相で宮澤氏が官房長官だったのか。田中角栄に嫌われていたし、宏池会内部でも味方が少なかったからである。こういうところが政治の味わいともいえるのだが、そういうものとはもっとも縁遠い人でもあった。

〇いろいろあって1991年に総理総裁の座が回ってくるが、トップの座はかならずしも得意ではなかったようである。1993年6月には内閣不信任案を受けて、自民党は下野してしまう。むしろその後の方が、モノが良く見える宮澤さんらしさを取り戻したように見える。野党であった自民党の河野洋平総裁に対して、政治改革法案の妥協を急ぐようにアドバイスした、というのは興味深い。その際の言い草が、見事なくらいに宮澤流である。


「いつまでも未定のままウロウロしていると細川政権延命に役立つだけだから、我慢できる程度のものなら通してしまった方がよいと伝う」


〇ホントに面白い人だったんだなあ、というのはさておいて、この日録はデータベース化されて今後の研究に役立てられるそうである。そのうちAIにでも読み込んで、ほかの政治記録とクロスさせてみると、「〇〇年のあの報道は嘘だった」みたいなことが浮かび上がってくるのかもしれない。それはそれで楽しみなことである。


<6月3日>(月)

〇週末の間に、アマプラで『12人の怒れる男』を見返したのである。すいません、溜池通信の最新号で取り上げましたけれども、被告の少年は17歳ではなくて18歳でした。お詫びして訂正いたします。

〇で、あらためて見返してみると、物語の中盤で登場する以下のセリフが胸に刺さりました。セリフの主は11番の陪審員で、職業は時計職人。移民であるせいか訛りが強く、そのことを周りから何度も冷やかされるけれども、陪審員を務めていることに対して、ほかの誰よりも強い責任を感じているように見える人物であります。


「われわれには責任がある。
これが実は民主主義の素晴らしいところだ。
つまり何と言えばいいのか、通告だ。
郵便で通告を受けるとみんながここへ集まって、
全く知らない人間の有罪、無罪を決める。
この評決で私たちには損も得もない。
この国が強い理由はここにある」


〇陪審員制度の本質は、なるほどここにある。赤の他人が有罪か無罪か、そんな重たいことを決めなければならなくて、しかも選ばれた本人にとっては何の得にもならない。膨大な時間を裁判の傍聴に費やし、それにはたいした見返りもなく、しかも最後は審理で「12人全員の意見の一致」をみなければならない。それはたいへんにストレスフルな仕事であろう。

〇ところが、「あなたは××裁判の陪審員に選ばれました」という通告が来ると、アメリカ人は裁判所にはせ参じて、「お勤め」を果たさねばならない。それは社会の安寧を保つための市民の義務であり、なおかつ裁判官などの「専門家」にすべてを委ねてしまうことなく、正義と不正義を自分たちの常識の範囲内にとどめておくための方策なのである。

〇この映画がつくられた当時の1957年においては、アメリカ社会の中にそういう伝統は健在であった。それこそ19世紀にアレクシ・ド・トックビルが描いたままの姿で、「アメリカン・デモクラシー」が光り輝いていた。そして当時のアメリカは、自由主義社会におけるヒーローであった。「この国が強い理由」はそこにあった。

〇今はどうなのだろう。先週、わずか2日間で34件の罪状すべてについて12人の陪審員が一致を見たのは、おそらくはトランプ弁護団の失敗のなせる業なのでありましょう。トランプさんがストーミー・ダニエルズさんとエッチしてなくて、支払われた13万ドルの費用は完全に合法的な弁護士費用であったなんて、そんなの誰が信じますか。

〇さらにダニエルズさんの法廷証言によれば、事に及んだ際にトランプさんは彼女に対し、「アダルト・ビジネスって、どんな風になっているのか」と尋ねたのだそうだ。これが作り話であるなどと、いったい誰が信じられましょうか。いやもう、あまりにもトランプさんらしい話ではありませぬか。

〇その上、トランプ氏は証言を拒否し、公判中もさまざまな不規則発言を発して、裁判官や検察官、証人や陪審員を侮辱しておったわけです。これだけ心証を害してしまうと、弁護側も承知した上で選ばれた「党派色がないはず」の12人の陪審員が、「瞬殺」で有罪を宣告してしまうのであります。こりゃもう自業自得以外の何物でもありますまい。

〇ただし本質的には「微罪」であるはずの「業務記録改ざん」を、「重罪」で起訴してしまった検察側の超高等技法は、今後、批判の対象となることが避けられないでしょう。トランプ陣営が上訴する際には、そこをついてくるかもしれません。今回の裁判が、ますますアメリカ社会の「分断」を広げてしまったことも間違いのないところです。

〇つくづく民主主義という制度は、「善意による各人の持ち出し」がなかったら続かないのです。選挙の監視員とか陪審員制度はその典型で、「私がやりましょう!」というモノ好き、もしくは犠牲的精神がなかったら持続不可能なのです。もしもアメリカでそういう精神が稀薄になっているとしたら、「この国が強い理由」も失われることになる。もともとが日本のような「お上任せの民主主義」でないだけに、ちょっと心配になるところです。


<6月4日>(火)

〇本日は新潟法人会さんのお招きで新潟市へ。会場は万代橋横の新潟グランドホテルである。

〇あいかわらずアメリカ大統領選挙をめぐる漫談のような話を一席ぶつ。いちおう嘘や誇張はないはずなのだが、限りなく冗談のような話がいっぱい入ってくる。毎週のようにやっているけど、毎週のように内容が変わる。どんどん状況が変わりますんで。

〇先週訪れた仙台もそうだったけれども、今週の新潟もごく普通のパーティーで、あっちこっちでビールを注ぎあうような光景が繰り広げられていて、「コロナは遠くになりにけり」を実感する。いや、まことに結構なことであります。

〇5月から6月はこの手の定時総会のシーズンなので、不肖かんべえの漫談にもあちこちで需要が発生するようです。それとは全く無関係に、明日はWBSに出没いたします。


<6月5日>(水)

〇G7サミットに関する取材を受けたり、20年ぶりのお知り合いが訪ねてきてくれて、一緒にワシントン政治談義をしたりと、本日も充実の一日であったのだが、夜はWBS出演のためにテレビ東京へと向かうのである。

〇いやあ、まさかこんな日にニッカウヰスキーのニュースが飛び込んできて、5月の連休に訪ねた「大山崎山荘」の知識をもとに、コメントする機会がめぐって来るとは思いませんでしたな。というか、ジャパニーズ・ウイスキーが世界のあこがれの的になるなんて、こんな未来、加賀正太郎はもちろんのこと、「日本ウイスキーの父」たる竹鶴政孝だって、きっと考えていなかったと思うぞ。

〇朝の「モーサテ」と違ってWBSは夜の放送ですから、中にはウイスキーグラスを傾けながら放送を見ていた視聴者もいらしたはずです。いいじゃないですか、大人なんですから。中国経済には抜かれ、そのうちインド経済にも抜かれてしまうのかもしれませんけれども、こういう「趣味」の世界において日本経済はまことに圧倒的な境地にあるようです。真面目な話、これを抜くのは大変な難事でありますぞ。

〇ということで、家に帰ってきてから当欄を更新しながらウイスキーを傾けるのでありますが、今宵、家にあったのはサントリーのローヤルなのである。この次はちゃんとニッカを買いますから、と一応言っておこう。

〇明日、明後日は山形県庄内地方に出没いたします。


<6月6日>(木)

〇今回の目的地は妙なのである。「庄内」平野にある「庄内」空港に降りるのだが、仕事は内外情勢調査会の「荘内」支部なのである。空港に到着して看板の類が見えてくると、例えば銀行は「荘内銀行」とある。どうも他所者の感覚としては、地名としては「庄内」がメインだけれども、企業・団体名になると「荘内」が多くなるように思える。

〇一体どちらが正しいのか。ぐぐってみると、「いや、それはどちらでもいいんです」と地元紙の「荘内日報社」が書いている。ちなみにご当地の県紙は山形新聞で、荘内日報は鶴岡市に本社を置く庄内地方を対象とする日刊の夕刊紙なんだそうだ。

〇さて、庄内地方は最上川の河口にある巨大な平野である。たまたま一昨日の火曜日に新潟市に行って、信濃川の巨大なる河口を見たばかりであるが、最上川ももちろん負けてはいない。芭蕉は『奥の細道』で、「五月雨を集めて早し」と詠ったけれどもそれは中流のことであって、河口近くになると最上川はまことに滔々たる大河なのである。

〇この大河を渡ると、酒田市街地なのであります。ホテルにチェックインして、本当は「市場深読み劇場」の今週締め切り分を急いで書いて送らねばならないのだが、せっかく訪ねてきた酒田市である。明るいうちに少しは歩いてみたい。まあ、ちょっとぐらいいいだろう。なんだか学生時代、試験の前日に麻雀していたときのような感覚である。

〇ちょうど夕刻なので、「あ、これはきっと夕陽がキレイだろうな」と思う。日本海に沈む夕陽、というのは、わが富山県では見られない景色である(たぶん魚津市あたりは違う)。それが新潟市に行くと、あそこは西側に遮るものが全くない地形であるから、夕陽が見事に日本海に沈むのである。これは酒田市も同様であろう、と考えて、「酒田市」「夕日スポット」とグーグル検索してみると、「日和山公園」と出るではないか。歩けばたいした距離ではない。

〇なるほど日和山公園から見る夕日はすばらしい。眼下は酒田港であって、目の前に灯台がある。日没が午後7時ということなので、それまでベンチでのんびりしていると、地元の人が一眼レフでしきりに写真を撮っている。実はこの「灯台越しの夕陽を撮る」ことが地元の流行りとなっているのだが、角度が微妙だったり、すぐに雲が出たりするので簡単ではないとのこと。

〇どれどれ、とワシがその場でスマホで撮ってみたら、あっけなく撮れてしまった。せっかくなのでフェイスブックに上げておく。夕陽と灯台と海が一直線上になるので、なんだか技能賞みたいな写真である。ちなみに7時を過ぎて日没になると、代わりに灯台に火がともる。いやはや、いいものを見てしまったのであった。


<6月7日>(金)

〇ワシは以前からこの酒田市に来たかったのである。申し訳ないが、この庄内地方における酒田市のライバル、鶴岡市などには何の興味もない。酒田と言えば本間家。「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」のあの本間家である。

〇というわけで、せっせと空き時間に本間家旧本邸本間美術館を訪れたのである。そこでまことに愕然としてしまったのだが、当地においてはあの「相場の神様」本間宗久は、「居なかったこと」にされているのである。と、言うほどではないにしても、とにかく「本間宗久記念館」みたいなものが存在しないのである。

〇宗久と言えば、米相場で財を成した豪商である。相場道の世界では、あのローソク足の生みの親だとか、「もうはまだなり、まだはもうなり」など数々の格言を残した人物として知られている。ワシもマーケット番組との付き合いが長いので、そこは「門前の小僧」で少しは知っている。

〇しかるに当地における宗久は、本間家2代目の光寿の弟であって、3代目光丘が成人するまでのワンポイントリリーフで店を任された人物であった。この間に米相場に手を出して大儲けをなし、大いに店を拡大するのであるが、それは本間家が本来、目指すところではなかったのである。

〇かくして宗久は、3代目光丘に追い出されるようにして酒田を出て、「天下の台所」と呼ばれた大坂に向かう。そして米取引の本場、堂島で相場を張る。そこで連戦連勝となり、「出羽の天狗」と讃えられ、「酒田照る照る、堂島曇る、江戸の蔵前雨が降る」などと呼ばれるに至る。もっともこの辺は多分に伝説の世界であって、宗久の巨万の富がその後、どうなったかなどはわかっていない。

〇地元・酒田の人々にとって、偉かったのは3代目光丘の方であった。光丘は私財を投じて防砂林を造り、以後も本間家は代々、植林を続けて庄内平野の米作りを助けた。さらに光丘は庄内藩の財政再建を任されて士分に取り立てられ、晩年には米沢藩の上杉鷹山の改革を助けている。こちらはとことん地元に尽くす人生であった。

〇宗久と光丘はおじ・おいの関係になる。虚業と実業、私益と公益、まことに対照的な人生であったことになる。もっとも宗久は、単なる「切った張った」の相場師ではない。「米は天声自然の理にて高下するものなり」などと喝破する、いわば相場道の哲人でもあった。投資家としては、バフェットさんタイプと言えようか。

〇こうなるとワシの悪い癖で、「本間宗久と光丘の、対立と和解の歴史を描くNHK大河ドラマはどうだろう?」などと余計なことを考えてしまう。今どき「大河ドラマで街おこし」とは古過ぎる手法ではあるけれども、山形県が舞台となるのは朝ドラ『おしん』以来ではあるまいか。

〇それというのも、現在の酒田市は「売地」の看板ばかりが目立ち、お店も全部早い時間に閉店してしまう、とっても寂しい街なのである。かの有名な「酒田ラーメン」のお店も、午後3時にはほとんど閉店してしまう。それではワシが困るではないか。

〇仕方がないから、帰りに変な時間に空港でラーメンを食べるのである。それはさておいて、庄内平野とそれを見下ろす鳥海山は素晴らしい景色でありました。日本にはまだまだワシが行っていないところがある。幸いなるかな。


<6月9日>(日)

〇今回の酒田市訪問で、どうにも困ったのが「コインロッカーがない」ことである。ホテルをチェックアウトしてしまうと、どこに行くにも荷物を持参することになる。細かな観光を行うにはこれが足手まといになる。

〇今回、内外情勢調査会の会場は酒田産業会館という場所で、中には酒田商工会議所も入っているので、たぶん大丈夫だろうと思っていたのだが、この中にはコインロッカーがなかった。同じ建物に入っている荘内銀行の酒田支店にもない。

〇道路の向こう側の酒田市役所で、この中にコインロッカーはないかと尋ねてみたら、いかにも善良そうな総合案内の女性が、「えっ?」と言ったまま固まってしまった。たぶん今まで1回も聞かれたことがなかったのであろう。そらそうか。地方都市の皆さん、基本的に移動は自家用車なんで、ニーズがないのである。

〇調べてもらったら、コインロッカーは酒田駅に行かないとないことが判明する。これはタクシーが必要な距離なので、さすがに断念する。そこでどうしたかというと、ご近所の喫茶店に入って珈琲を注文し、その上で「ちょっと荷物見てて・・・」とお願いした。これはわれながら正解であった。

〇それというのも、酒田市はスタバやドトールといった全国チェーンの盲点となっているらしく、昔ながらの喫茶店が数多く残っているのである。店主のおばちゃんと二言三言お話ししたら、こころよく引き受けてくださった。それで本間家旧本邸に行ってきたのであるが、このおばちゃんは「宗久と光丘が・・・」みたいな話はもちろんご存じでありました。

〇仕事を終えた後はタクシーで移動し、酒田駅のコインロッカーに荷物を預けて、そこから本間美術館に行ってきました。ワシは富山駅のコインロッカーをよく使うので、こういうときは100円玉を多く用意しているのであるが、ありがたいことにSUICA対応型であったことを申し添えておきましょう。


<6月10日>(月)

〇今朝はNHK第一放送の「マイあさ!」に出没。アメリカのCPI(6/12 21:30PM)に注目せよ、てなことを申し上げる。先週時点では、「アメリカ経済もいよいよ減速か!」という指標が多かったので、これは肩透かしになるかなあ、と心配していたのだが、うまい具合に5月の雇用統計が強い数字が出てくれた。お陰で今週の「日米中央銀行ウィーク」に緊張感が走ることになった。下手すりゃまたまた円安進行ですからね。

〇しかも計ったように、本日は時間ピッタリに終わらせることができた。こんなことで幸せな気分になれるのだから、われながらお手軽である。

〇さらに今朝、某メディアに原稿を送ったところ、書いた本人はさほど自信作ではなかったのだけれども、編集担当が激賞してくれたので、もちろん悪い気はしないのである。物書きというものは、基本はけなされながら育つものであるが、褒められる方がずっとうれしい。当たり前である。今週末、頑張って書いたんだもの。

〇ましてお昼の会合で聞いた話が、2件ともとっても面白かった。こんなにネタを頂戴して、申し訳ないなあ、という感じ。今すぐ使う予定がない、という点がさらにすばらしい。そのうち、どこかで突然、使う機会が登場するものと思われます。

〇ついでにメモ。インド総選挙に対する論説を2件、リンクを貼っておきましょう。


●ファリード・ザカリア(ワシントンポスト紙) Narendra Modi and the myth of the strongman(6/7)

●ラグラム・ラジャン(FT紙) Reform may be the winner in the Indian election (6/9)


〇午後に参加した研究会も有益でありました。サプライチェーン問題、産業政策と国内回帰、「脱・中国」とグローバルサウスへの多様化、国際的な人的交流の必要性、などなど。難しい課題ばかりではありますが、必要性はまことに高い。

〇てなことで、幸せ感をいっぱい感じた一日でありました。


<6月11日>(火)

〇今日は講演会で愛知県西尾市へ。ここは以前にも来たよなあ、と思って数え上げてみたら、何と訪ねるのは4回目である(会場の皆様には3回目と言ったのだが、家に帰って数え直してみたらもう1回ありました。失礼しました)。

〇これが名古屋市であれば、年に何回出張しても不思議はないのだが、こういうことも珍しい。あらためてカウントしてみると、西尾市だけではない。ワシはずいぶんよく西三河地区で呼んでいただいているもので、なんだか「ご贔屓筋の特異点」みたいな地域である。


*岡崎市:4回

*刈谷市:3回

*豊田市:2回

*安城市:1回


〇それ以外では、愛知県内では春日井市、一宮市、知多市、豊川市に1回ずつ呼ばれております。ありがとう愛知県。

〇西尾市出身の有名人としては、作家の尾崎士郎、学者では外山滋比古、個人的に知っているところでは牧原出教授、中日ドラゴンズの名クローザー岩瀬仁紀、高須クリニックのかっちゃんなどがいるとのこと。名産物は抹茶とウナギ。ううむ、こうしてみると知らないことが多過ぎ。ちょっと申し訳ない感じ。


<6月12日>(水)

〇注目のアメリカ5月CPIは、本日21時30分に公表されました。前年比+3.3%、前月比±0.0%と、市場予測よりはちょっとだけ低めでした。これを受けて、NYダウなどの市場3指数は上昇しているようです。

〇いやあ、ホッとしますねえ。これでこのままFOMCになだれ込んで、明日の未明には結果が出る。そして明日からは日銀の金融政策決定会合(MPM)である。ああ、まことにハラハラさせられる。でもまぁ、これなら1ドル160円まで円安が進むことはないかなあ〜という感じ。

〇データドリブン、なんてことを言っている限り、われわれはこういうドタバタ騒ぎからは逃げられない。中央銀行がやるべきことは、本来はもっと本質的なことであるべきだろう!などという正論は言いっこなしである。それを言い出したら、市場メカニズムの否定になってしまう。

〇まったく予測不能な日々のデータの細かな変化があるからこそ、マーケットは活況を呈し、そこで鞘取りする人たちにチャンスが生まれ、それを解説する人たちの仕事ができる。明日のモーサテは、いつも通り鈴木敏之さんが登場するみたいですねえ。お疲れさまであります。

〇たまたま昨日、清水功哉さんの『マイナス金利解除でどう変わる』(日経プレミアシリーズ)を読み終えたところです。異次元金融緩和が終わり、日銀が17年ぶりの利上げに踏み切った後に、住宅ローンや投資はどうなるか、というのが世間一般的な関心事でありましょう。

〇住宅ローンといえば、ワシ的にはずいぶん前に固定金利で借りて、とっくに返済が済んでいるので忘れて久しい身の上なのである。それが今では、変動型金利で借りている人がほとんどになっている。そこで金利が上がったらどうなるのか?

〇意外なことに、「既に借りている人の返済負担はすぐには増えない」仕組みになっている。「変動型ローンの金利は短プラに連動する仕組みになっている」(一部ネット銀行などはこの限りにあらず←ここ大事)ので、マイナス金利解除でもすぐには金利が上昇しないのだそうです。

〇結論として、これから適用金利が上がり得るのは、新たに借りる人たちなんだそうです。へえ〜。これって今後の住宅建設ビジネスには明らかにマイナスでありましょう。世の中が大きな曲がり角を迎えると、損する人と得する人が出てくる。気をつけないといけませぬよ。ご用心なされまし。


<6月14日>(金)

〇今日は溜池通信を書きながら、外出が2回もあったもんですから、結構バタバタでありました。ですから、午後3時半からの植田日銀総裁の記者会見は見ておりません。ところがニュースを見たら、本日のMPMは「国債購入の減額」を決定し、具体的な金額についてはこれから議論するとのこと。いよいよ日本でもQT(量的引き締め政策)が始まるわけですねえ。

〇中央銀行が発行済み国債の約半分を保有している現状では、まともな国債市場は成立しません。長期金利を形成するという市場メカニズムを、中央銀行がみずからが歪めているようなものです。そういう意味では、「現在の月6兆円程度の買い入れ」を減らすのは正しい方向性だと思います。

〇ただし相手はマーケット。どこでどういう反応になるかはサッパリわからない。そこは謙虚に構えた方がいいでしょう。6月会合で皆まで決めなかったことは、賢明な判断であったと思います。まあ、日銀内の意見の集約ができなかっただけかもしれませんけれども。

〇QTを実施することでは先輩であるFRBは、その辺はかな〜り融通無碍にやっております。だって前例が全くない、わかんないことなんだから。手探りでやっていることだから、「向こう〇年、毎月×兆円に減らします」みたいなコミットメントは、なるべく避けた方が無難だと思います。

〇もっとも世の中には「透明性至上主義」みたいな人たちがいて、「日銀はちゃんと買い入れ額を明らかにせよ!」みたいなことを言うと思います。そんなのは堂々と無視すべきです。すべての手の内をいちいち明かしていたら、金融政策なんて成立しません。その意味では、FRBが始めてしまった「ドットチャート」なんて明らかにやり過ぎだったと思います。

〇日銀の行く手は今も昔も「海図なき航海」です。外野の人間としては、「航海に無事あれ」と祈るばかりです。


<6月16日>(日)

〇今日のマーメイドステークス(京都競馬場・芝2000m・G3)は、アリスヴェリテ(牝馬4歳)が勝利して、鞍上の永島まなみ騎手が重賞初制覇となりました。50キロの軽ハンデを活かした大逃げで、最後の直線でもしっかり粘った。2年前に今村聖菜騎手がテイエムスパーダでCBC賞を勝ったときとそっくりな展開でしたなあ。

〇永島騎手、昨日、テレビ東京「ウィニング競馬」のインタビューを受けていて、キャプテン渡辺から「明日は何の日?」と聞かれて、すぐに答えが出なかった。でも、「父の日」に最高のプレゼントができたことになる(お父さんの太郎氏は、兵庫県競馬所属の元騎手、現調教師)。いや、おめでとう。馬券を買ってあげられなかったことが、ちょっと悔しい。

〇永島騎手は藤井聡太八冠と同じ2002年生まれ。JRAでは4年目で、同期には古河奈穂がいる。最近は2年目の小林美駒(みく)なんかもホントによく勝っている。他のスポーツもまったく同様ですけど、この辺の世代になると本当にけた違いのアスリートが多くなる。

〇女性ジョッキーもこれだけ増えてくると、後は自然に実績がついてくる感あり。先日も新潟の韋駄天Sで、ワシは藤田奈七子ちゃんを紐に入れて万馬券を頂戴しておる(彼女は実は千直競馬の達人なのである)。「夏は牝馬」とはよく言われるところだが、「夏は女性ジョッキー」も狙い目なんじゃないだろうか。


<6月17日>(月)

〇通常国会は6月23日まで、といいつつ、実質的には今週金曜日の21日までである。それまでに、いったい何が起きるのでありましょうか。

〇そもそもマジで政治資金規正法を改正しようと思ったら、それこそ思い切り会期を延長しないことには片付かないはずである。何しろ、すべての議員の「実入り」に影響する法案なのだから。ところが実際には、与党が生煮えの法案を出してきて、細かいところはこれから決めるとか、10年後に公表するなどとぬるーいことを言っている。野党も本気で抵抗するつもりはなくて、これで与党の支持率が少しでも下がれば儲けもの、くらいに考えている。

〇それはなぜか。与野党の議員が考えていることは同じで、「会期を下手に延長すると、岸田さんが良からぬことを考えるかもしれないから、この国会は早く終わらせたい」でありましょう。立憲民主党は立場上、今週は内閣不信任案を出すでしょうけれども、内心はヒヤヒヤなはず。だってあの政党の議員の皆さんは、泉健太代表を総理にしようと本気で思っている人はきわめて少数派なのですから。

〇立憲民主党の代表選は、自民党と同じく9月末までに行われます。「なーんだ、政権交代の芽があるんじゃないか」と思った瞬間に、たくさんの手が挙がって収拾のつかないことになるでしょう。いまだってどう見ても、泉代表よりも岡田幹事長や安住国対委員長の方が偉そうにしているじゃないですか。泉さんの立場になってみれば、今週行われる党首討論で、岸田さんが「だったら解散しましょう!」と挑発に乗ってくれることが、ベストシナリオであるかもしれません。

〇それでは岸田さんはどうするのか。解散抜きで、党役員人事も抜きで、このまま総裁選を迎えるのでありましょう。幸か不幸か、自民党内はかつてのような活力がなくて、「岸田おろし」が始まらない。それどころか、自民党総裁選の選挙管理委員会は「旧派閥の代表者で構成しますから」と聞いて、あたしゃ脱力いたしましたがな。なるほどねえ、派閥のない自民党総裁選なんて考えられないもん。

〇その場合に、岸田氏再選の目はどれくらいあるのか。このままいくと、対抗馬として出てきそうなのは新鮮味のない顔ぶればかり。石破さんも名乗りを上げるかもしれませんが、正直、9月に石破総理が誕生して、11月に「もしトラ」を迎えるのはちょっと怖いです。日本外交としては最悪のチョイスになってしまいそうです。

〇願わくば自民党総裁選には、福田達夫とかさいとう健とか小林鷹之とか、今回が初挑戦で、皆が「ええっ?」と驚くような人に出ていただきたいと思います。そのくらいじゃないと、自民党総裁選が持つ本来の活性化機能が働きませんから。そういう「自民党の知恵」がまだ残っているかどうかは、正直、心もとなく感じるところですけれども。

〇今週は東京都知事選の公示も行われます。一時は「280万票対230万票の激戦」などと言われておりましたが、ここへ来て「小池やっぱり強し」の声が強まっている。なんでそうなったかというと、蓮舫さんが各党に出馬挨拶に出向いた際に、共産党にすり寄った姿勢が顰蹙を買ったから、なんだそうだ。

〇真面目な話、東京都の選挙においては共産党の方が立憲民主よりも基礎票が多いのです。2022年の参院選の結果を思い出していただきたい。東京都選挙区の当選者は、@自民・朝日健太郎>A公明・竹谷とし子>B共産・山添拓>C立民・蓮舫>D自民・生稲>Eれいわ・山本太郎の順でありました。今後、衆院選鞍替えの可能性もある蓮舫さんとしては、共産党へのヨイショか欠かせないところです。

〇ところがそれはやっぱり有権者の琴線に触れてしまうのです。いまどき「美濃部都政」のことなんて、皆さん忘却の彼方であると思いますけれども、共産党が都議会与党になるなんて悪い冗談と言えましょう。それだけではなくて、「蓮舫=共産党都政」の可能性があるとなったら、いきなり公明党支持者の「やる気スイッチ」が入ってしまいます。それだけでも大変な差になってしまうのではないでしょうか。

〇もうひとつ、国民民主党は長年にわたる都民ファーストの会との連携関係があります。東京都知事選では当然、立民と対峙することになる。できれば総選挙前に歩み寄りたいと思うかもしれませんけれども、そりゃあ合流は無理ですよ。なにしろ反原発の政党と原発再稼働の政党なんですから。

〇ああ、久しぶりにぶっちゃけな話を書いてしまった。「こんなの、ワシが知ってる永田町じゃない!」という異和感はぬぐえないところなのですが、お陰さまでたいへんスッキリいたしました。どっとはらい。


<6月18日>(火)

〇先日、音楽の仕事をしている人がぼやいていたこと。「日本のミュージックシーンは1980年代がピークで、それからまったく進化してないんじゃないのか?」

〇そりゃあまあ、日本の場合はサザンとユーミンと中島みゆきが1970年代から活動を始めて、それが2020年代の今でも生き残っているのだから、そういう評価も不思議はないところである。もっともこれを言うのは、オヤジ世代としてはかなりの勇気が必要なことであって、要は「今の音楽なんてちっとも良いとは思えない!」と言っているに等しいからである。そこでワシも勇気を奮って言うのだが、米津玄師はともかく、YOASOBIっていったいどこがいいの?

〇ところが日本の音楽が同じところをぐるぐる回っている間に、世界の音楽界ではいろんな実験が行われて、今ではテイラー・スイフトがカントリー・ミュージシャンであるとか、白人のラッパーが居るとか、もう何でもありになってきている。韓国のBTSなんぞも、どこがいいのかワシにはサッパリわからんのだが、とっても熱いファンがいるみたいである。とにかくこの半世紀、世界の音楽はどんどん変化したのであった。

〇その点、日本の音楽はどうだったのか。例えば演歌というジャンルは、まったく変化がないままに衰退の一途を辿っている。あれも森進一が『襟裳岬』(1974年)を歌って、細川たかしが『北酒場』(1982年)を歌った頃までは、まだしも新しい路線を目指そうという心意気があった。今は誰か、そういう努力はしているのだろうか。石川さゆりの次の世代の歌手って出てくるんだろうか?ちょっと変化への努力がなさ過ぎるのではないか。

〇逆に言えば、昭和歌謡の実力が高過ぎたのかもしれない。ワシが最近、ユーチューブで視聴するのは、もっぱら『アヴァンギャルディ』のダンス・パフォーマンスだったりするのだが、そうすると振付師のAkaneさんは1992年(平成4年)生まれだというのに、岩崎宏美の『シンデレラハネムーン』(1978年)だの、渡辺真知子の『かもめが翔んだ日』(1986年)といった昭和歌謡を好んで選曲する。これが今聞くと、途方もない破壊力を有しているのである。


♪好みの煙草あと一本になり 肩でもいいわ しっかり抱いてよ。


♪かもめが翔んだ かもめが翔んだ あなたは一人で生きられるのね


〇なんなんだ、この迫力は。いや、歌詞もすごいんだが、この時代の曲はとにかく歌唱力も半端ない。21世紀になったら、仮面ライダーの主題歌を子門真人以上に歌える人がついぞ見つからなかった、みたいな話であります。

〇ついでに言うと、アバンギャルディになる以前の「大阪府立登美丘高校ダンス部」時代の『バブリーダンス』の元歌である荻野目洋子の『ダンシング・ヒーロー』(1985年)もすごい。時代の勢いみたいなものを感じるし、バックダンサーたちのノリまですごい。ワシ、当時は全然聞いてなかったんですけど。

〇とまあ、こんなことを書くと、「かんべえさんは××を知らないんですか?」などというお節介なメールが一杯来そうなんだけれども、知らんがなそんなこと。むしろこれを読んでくれたオヤジ世代が、「そうそう!」と膝を叩いてくれればその方がよっぽどうれしいっす。


<6月19日>(水)

〇昨日、昭和歌謡について偉そうなことを書いたら、案の定、今日はいろんな人からご感想を頂戴している。狙い通りなのである。でも、ホンネの話、自分の底の浅さが心配なので、あれから1990年代のヒット曲について学習してみた。要は平成ひとケタ台のミュージックシーンは、レコード売上別にみるといかがなものであったのか。

〇てっきり小室サウンドが上位を独占しているだろうと思ったら、それほどでもなかった(49位trf、15位篠原涼子、10位globe、9位安室奈美恵)。SMAPもまだそんなに入っていない(46位「夜空ノムコウ」)。その代わりに、ワシがちっともいいとは思わないミスチル(50位、25位、18位、8位、4位)、B'z(32位、29位、20位、14位)、Kinki Kids(37位、26位)とGLAY(43位、41位)などが山ほど入っている。この辺がワシ的には、平成歌謡に感情移入しにくいところである(異論は許さない)。

〇その一方で、昭和世代の好みとしては、チャゲ&飛鳥が「YAH YAH YAH」で7位、「SAY YES」で3位となっているのがちょっとうれしい。サザンオールスターズは「エロチカ・セブン」(31位)で気を吐いているし、小田和正の「ラブストーリーは突然に」の5位はあれが最後の輝きだったと言うべきか。80年代にはオフコースをよく聞いたものです。

〇ちなみに私的な「90年代ベスト曲」を選ばせてもらうならば、これはもう宇多田ヒカルの「Automatic」(12位)で決まりである。この曲を作った時の彼女は、なんと15歳であった。しかも声質が独特で、一度聞いたら忘れられない声であった。宇多田は27位に「Addicted to you」も入っている。その後の彼女には、「劇場版エヴァンゲリオン」シリーズでもお世話になっております。

〇時代の気分を思い起こさせてくれる歌もまた、ここで書き留めておく価値があるだろう。モーニング娘。の「Loveマシーン」(38位)、槇原敬之の「どんなときも」(35位)、SPEEDの「White Love」(23位)、福山雅治の「Hello」(19位)、ドリカムの「Love, Love, Love」(6位)、そして米米Clubの 「君がいるだけで」(2位)。ああ、これらは1990年代の記憶スイッチを押してくれる貴重な存在である。

〇さらに言えば、以下のような「一発屋さん」たちのことも忘れがたい。

48位 大事MANブラザーズバンド 「それが大事」
28位 岡本真夜 「TOMORROW」
17位 The 虎舞竜  「ロード」
16位 KAN  「愛は勝つ」

〇そういえば1990年代、ウチの長女はよくひとりで、「かーなーらーずー、さいごに愛は勝ちゅう〜」と歌っていたものであった。今は2人の子持ちになっておりますけど。そういえばこの前は父の日プレゼントをどうもありがとう。

〇ということで、1990年代のベストヒットを振り返ってきて、栄えある第1位はどの曲であったのか。いよいよ発表いたします。ジャジャーン。それは速水けんたろう他による「だんご3兄弟」でありましたっ!・・・・どうしたんだこの静けさは。そうそう、B.B.クイーンズの「おどるポンポコリン」(40位)も懐かしいよねえ。

〇ともあれ2000年以降になりますと、「レコード売り上げ枚数」という物差しが使えなくなりますし、そもそも「流行歌」という存在自体が失われていきますので、もうほとんど秩序がないのであります。こんな風に「みんなが知っている歌」で盛り上がれるのは、20世紀までだったのかもしれません。そうだとすると、自分たちが1990年代の空気を吸っていたことを、感謝しなければなりませぬなあ、ご同輩。


<6月20日>(木)

〇帰りの電車の中で、「あっ、そうだ、今日は叡王戦第5局だ!」と思い出し、日本将棋連盟アプリを開けて対局を観戦する。2勝2敗で迎えたカド番の藤井聡太叡王、先手番で角換わりに誘導する。いわゆる「鬼に金棒」の戦形である。

〇挑戦者の伊藤匠七段は、右玉に構えてチャンスをうかがう。これは後手番の角換わりによくある戦型である。すると藤井叡王はするっと穴熊に構えて王を固める。いつもながら、こういうやり方で、少しずつ形勢に差をつけていくのが、お得意なパターンである。

〇藤井叡王は堅陣をいいことに、銀を捨て、飛車を捨てて相手陣地に殺到する。普通だったらこれで勝負がつくところ、「終盤力では互角」との定評がある伊藤匠七段。藤井八冠とは同級生の2002年生まれ。小学校の時に、藤井少年を破って泣かせてしまったこともある。そういう二人が将棋プロとなって対局している。いやもうドラマとして出来過ぎである。

〇伊藤七段は飛車を犠牲にして、5三銀、5二銀と低く構えたのが良かったらしい。そこから今度は敵陣に殺到する。6九と、とじわりとと金を寄った手が「負けてあげないよ」と告げているような一手でありました。ううむ、これは逆転か。

〇藤井八冠のAI評価値が急低下して、素人目にも苦しそうな局面となる。そこから敵玉に迫るのだが、何度も王手をかける。が、届かない。

〇いや〜、歴史的な瞬間を見届けてしまいました。あの藤井聡太が初めてタイトル戦で負けた。さすがに8冠は1年は続きませんでしたな。この先の将棋界はどうなるのか。藤井・伊藤時代が来るのか、それとも、ベテラン世代の反撃が始まるのか。いや、まことに目が離せませぬ。


<6月21日>(金)

〇本日は朝はニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy Up!」で、午後イチにラジオ日経「マーケットプレス」のダブルヘッダー。どちらも楽しい番組で、いろいろ勉強になります。

〇それではなぜこのタイミングで2つの番組からワシが呼ばれたかといえば、リスナーからも「週末が宝塚記念だからでしょう」と言われるのである。そうか、ワシはそういう役回りであったのか。

〇宝塚記念に関するワシの渾身の予想は、明日の「東洋経済オンライン」で公表予定です。もちろん日曜朝に更新される「上海馬券王先生」の予測もお忘れなく。


<6月23日>(日)

〇あと1週間で今年の上半期が終わります。前号の溜池通信で「日本経済『見込み違い』からの脱却」という話を書きましたが、ひょっとしたら岸田首相も同じことを考えていたのかもしれません。


●首相、経済対策の検討 物価高対策で年金世帯に給付金


〇5月末にいったん打ち切った電気ガス代の補助を、8〜9月に追加実施して、ガソリン補助金も年内に限り続けるそうです。この手のものは、一度始めてしまうとなかなか打ち切れないという好例でありましょう。あの時点では「もう大丈夫」と思ったけれども、その後も円安が続いたりするものだから予定が狂ってきた。

〇今月の月例経済報告は、本来は6月20日の予定だったのですが、なぜか1週間遅れて27日の予定になっている。ひょっとしたら現状判断を下方修正するのかもしれません。まあ、確かに5月の景気ウォッチャー調査はそれくらい衝撃的な内容でありましたし。

〇この調子でいくと、今年も10月には補正予算を組むのでしょう。例年であればその財源は、当初予算では「長期金利は1%」と仮置きしてあって、でも実際にはそんなに高くはないので、国債費の支払い負担が少ないから、年後半には資金が余る。その点、今年の場合は既に金利が上昇しているから、財源がなくて財務省が苦しむことになるかもしれません。まあ、岸田さんとしては、知ったことじゃないでしょうけど。

〇もう一つ言えば、これは秋以降に「第2期岸田政権」が続くことを所与の前提としている行為です。いや、岸田さんのことですから、11月に予定されているG20(ブラジル)やAPEC(ペルー)に併せた外遊日程も、今からどんどん組んでいるのではありますまいか。

〇今日も岸田内閣の支持率低下を示す世論調査が、複数公表されております。しかしなにしろ鈍感力の方ですので、あまり気にしておられる様子はありません。倒閣を目指す方々は、急いで取り組まれた方がよろしいかと存じます。いや、別にけしかけるつもりはないのでありますが。


<6月24日>(月)

〇本日も都内某所にて「アメリカ政治漫談」を務める。冒頭はこんな感じで笑いを頂戴するのである。


「え〜アメリカ大統領選挙、候補者はトランプ前大統領とバイデン現大統領。4年前と全く同じです。

『またあの二人かよ』『ほかに居ないのか』『若い連中は一体何をしているんだ』

そういう声は少なくありません。

トランプもバイデンも嫌だ!という人たちのことを『ダブルヘイター』と呼びます。

アメリカ人の4人に1人はダブルヘイターだそうで、そういう人たちをどうやって味方につけるか、あるいは敵にしないかが今後の勝負どころとなります。

まあ、ダブルヘイターというと、東京都知事選もそんな感じですけどね」


〇民主主義においては、しばしばこういう瞬間があります。選択肢はあるにはあるけれども、「どっちも嫌だ!」というときにどうするか。棄権する、白票を投じる、割り切って泡沫候補に投票する、鼻をつまんでより嫌悪感が低い方に入れる、「だったらお前が出たらいい」などと憎まれ口を叩く、などいろんな選択肢があります。

〇アメリカ人はこういう時に、「小異を捨てて大同につく」ことが割と普通なようです。「この候補者はこの点とこの点で私とは意見が違うが、いちばんだいじなこの点では一致するからこの人を支持するのだ」みたいに妥協するのですね。そうやって二つの勢力を作るのがアメリカ政治の習性のようです。

〇政党が分裂を繰り返す、という現象は日本など多くの国で見られる現象ですが、アメリカは昔から二大政党制で、ときどき第三政党が誕生しますけど、それが天下を取ることは滅多にありません。二つの勢力に収斂させて、その間でとことん議論を戦わせる、というのがかの国の流儀であり、そういうのが好きなんでしょうね。

〇つくづく「すごいよなあ」と思うのは、「LGBTQ」という政治勢力が出来てしまうことです。LとGとBとTは全然別物だと思うのですが、これが一つの政治団体になって声をあげる。もちろんその過程ではいろんなことがあったらしいですが、日本じゃこれはなかなか考えられないことじゃないかと思います。

〇それはそれとして、頭を抱えたくなるような東京都知事選。私はまだポスター掲示板を見ていないのですが、見たいかと言われても困りますわなあ。良かった、千葉県民で。それにしても、「ダブルヘイターに対する投票行動はいかにあるべきか」というのは、なかなかに今日的で面白いテーマではないかと思います。


<6月25日>(火)

〇あんまり馴染みのない分野ではあるのだが、欧州政治がたいへん面白いことになっている。向こう2週間以内に英仏の総選挙が行われて、それはいずれもこの時期の予定にはなかった、という事情がなかなかに興味深い。こんな風に、イベントが重なり合うのである。


6月27日(木) 米大統領選挙第1回テレビ討論会

6月28日(金) イラン大統領選挙(ライーシ大統領の事故死に伴うもの)

6月30日(日) フランス総選挙第1回投票(EU議会選挙における与党大敗を受けて、マクロン大統領が解散に打って出た)

7月4日(木) 英国総選挙(本来、年内に予定されていて、秋頃と予想されていたものをスナーク首相が前倒し)

7月7日(日) 東京都知事選挙

7月7日(日) フランス総選挙第2回投票(第1回投票で選ばれた1位、2位候補の決選投票)


〇英仏ともになぜこの時期に選挙を急いだかというと、おそらくは「もしトラ」のリスクを感じたからだろう。だって来年1月にトランプ政権発足になったら、これは天下の一大事。欧州各国は、アメリカの助け抜きでロシアの脅威と向き合わねばならなくなる。後へ行けば行くほど、その脅威を皆が感じることになる。だったら選挙は早い方がいいよね、と思ったのかどうかは定かではない。

〇ところが英仏は共にトンデモナイことになりそうだ。英国総選挙では保守党が大敗し、スナーク首相が選挙区で落選するかもしれない。英国の長い議会制民主主義の歴史の中でも、そんな首相は前例がありませぬ。労働党が大勝利を収めて、キア・スターマー政権が誕生するだろう。スターマーは戦略家である。外交は保守党路線から変えません、Woke(意識高い系)の政策は掲げません、そしてジェレミー・コービン前党首のような左派は追放してしまった。これならもう、皆さん安心して労働党に投票できます。

〇逆に英国保守党は散々なことになっていた。デイビッド・キャメロンはブレグジットを招いてしまった。次のテリーザ・メイは、EU離脱交渉に失敗した。それに成功したボリス・ジョンソンは、総選挙でも勝ったけれども、コロナ下でのさまざまな不祥事の結果、決定的に国民の信を失った。こりゃもうアカンということで、その次はリズ・トラスを首相にするのであるが、これはまあ日本で言えば、国と党の困難に直面して上川陽子さんを首相に担ぎ出す、みたいな人事であった。

〇ところがこのトラス氏が、わずか6週間で政権の座を降りてしまう。それというのも、人気取り減税政策を実施したところ、英国債安、ポンド安、株安というトリプルデメリットを招いてしまったからだ。彼女、実はよくわかっていない人であったのだ。保守主義を失った保守党への信頼は地に落ちる。これを「トラス・モーメント」と呼ぶらしい。こうなると、後を受け継いだスナーク首相が何をやっても虚しいところである。

〇同じ女性首相であっても、イタリアのメローニ首相は別格である。「やんちゃ」に見えて、意外としっかりしていた。日本で言えば、高市早苗さんを首相にしてしまい、「あんなことで大丈夫か」と皆が心配していたところ、案外と上手に立ち回っていているから株が上がっている。これを「メローニ・モーメント」と呼ぶ。先にイタリアで行われたG7サミットにおいては、「元気がいいのは議長だけ」などとよばれたものである。

〇要はポピュリストがまともな政治をする(メローニ)と物事はうまく進む。ところがその逆はいけません。普通の政治家がポピュリスト的なことをやろうとすると、だいたいが碌でもないことになってしまう。岸田さんも、定額減税なんてやらなきゃよかったのに・・・・。

〇フランス政治も一大事である。2022年選挙で与党が過半数割れしたので、マクロンはどこかで解散を狙っていたらしい。ただしこのままいくと、第1回総選挙で勝ち残るのは極右(国民連合)と極左政党(新人民宣言)であって、与党連合(アンサンブル)は生き残れないかもしれない。いやもう、どうなっても知らんがな。このままいくと、「フランス版ブレグジット」になってしまうかもしれません。

〇こうなると国民連合のマリーヌ・ルペンの方こそ、「メローニ・モーメント」を目指してくるだろう。「ちょっと目にはポピュリストと見せかけて、実態は古風な保守主義」というのが、現代社会における最強パターンであるのかもしれません。いや、どうなるんでありましょうや。


<6月26日>(水)

〇七夕に予定されている東京都知事選挙は、単に壮大なるお祭りで終わりそうですけれども、同日に行われる予定の9つの東京都議会選挙の補欠選挙が、結構な事件になるかもしれません。

〇以下の9つの選挙区で補欠選挙が行われ、うち南多摩を除く8選挙区で自民党が候補者を出している。これが果たして何勝何敗になるのでしょうや?


●江東区、品川区、中野区、北区、板橋区、足立区、八王子市、府中市、南多摩


〇仮に8選挙区で大きく負け越すようであると、「このままでは総選挙を戦えない」ということになって、岸田おろしが加速するんじゃないかと思います。そうは言っても7月7日の翌日は安倍さんの三回忌があって、9日からはワシントンDCでNATO首脳会議もあったりするので、岸田さん自身はあいかわらず鈍感力を発揮されることでしょう。ただし自民党の議員さんたちにとっては、「東京都で大負けすること」にはイヤ〜な予感が伴うのであります。

〇既に忘却の彼方かと存じますが、3年前の2021年7月に行われた都議会選挙では、自民党は7つある一人区で1勝6敗となったのです(〇=中央区、×=千代田区、中央区、武蔵野市、小金井市、青梅市、昭島市)。ここで議員さんたちの間に動揺が走り、翌8月の横浜市長選挙でも自民党の小此木八郎さんが敗れたものだから、そのまま菅義偉首相が引きずり降ろされたのでありました。総裁選の前に行われる都議選には気をつけないといけません。

〇思えばあれからもう3年もたつのです。そして岸田内閣は、今週末の6月29日で「政権1000日」を迎えるのであります。ああ、菅さんの無念の思いはいかほどか。いろんな場所で「岸田首相も責任とるべきだった」と言っておられますが、お気持ちはわかります(「おまゆう」という気もするが)。

〇それではなぜ都議会選挙はそんなに重いのでしょうか。東京都議会選挙がある年は、とにかく政局が荒れるんです。1993年の細川政権誕生、2009年の政権交代、2017年の「希望の党」騒動、すべて都議選で自民党が負けたことが国政における波乱のプロローグとなりました。

〇東京都の有権者は1100万人もいて、投票率はせいぜい5割程度。投票者数は500〜600万人くらいです。ところが流動性がとっても高くて、ここで起きたことは、非常に高い確率でその直後に他の選挙区でも起きる。そして総選挙は向こう1年4か月以内に行わることが決まっていて、こっちは5000〜6000万人の票数ですから、都議選は国政選挙から見て「10分の1サンプル」なんです。

〇ということで、7月7日は都知事選よりも都議補選の方が大事かもしれません。「ダブルヘイター」の皆様、そっちの方が面白そうですよ。


<6月27日>(木)

〇明日の日本時間午前10時からは、注目の「第1回大統領候補テレビ討論会」が行われるのだが、なぜこんな早い時期になったのか、「ワシントン・ウォッチ」さんが凄いネタを披露している。これはちょっと驚きだぞ。


このスタッフはホワイトハウスの大統領選挙参謀から言われたとしている。すなわち「かつてない早期の大統領候補討論会をホワイトハウスが仕掛けた本当の狙いは『バイデン大統領を試す』ことにある。(バイデン氏は)討論会で1時間半近く、立ち詰めで、発言要領を書いたメモもなく、トランプ氏と渡り合う。バイデン大統領が知力と体力の限界を試すことになるのは明らかで、そのパフォーマンスが弱く、どう見ても不安感を拭えないなら、新たな大統領候補擁立を考えざるを得なくなるだろう」。

討論会で、バイデン氏は人名を思い出せなかったり、間違ったり、言葉に詰まり、支離滅裂になる、トランプ氏の発言への応答に戸惑う等失態を重ねるかもしれない。私邸などから機密文書が見つかった問題で、バイデン氏を捜査した司法省のロバート・ハー特別検察官は2月8日、バイデン氏が「故意に機密資料を保持し開示した」と結論する報告書を発表し、起訴はしなかったが、「バイデン氏の記憶力には重大な限界がある」と警告した。同検察官は「バイデン氏は、自分が副大統領だった時期(2009〜2017年)や、息子ボーの死去(2015年)のような数年以内の時期についても思い出せなかった」と指摘したが、バイデン大統領側近は同検察官のコメントを気にしたという。

要するに、大統領側近、選挙参謀はバイデン大統領が認知力の低下等高齢による心身の衰えを示しているのは否定し難いと見て、討論会を通じて、バイデン氏が大統領をもう1期務めることができるか、大統領職をどこまで困難なくこなしていけるか冷徹に見極めようとしている。


〇バラク・オバマとチャック・シューマーとナンシー・ペローシが3人でバイデンを取り囲み、「あのなあ、お前・・・」と因果を言い含める。これってあるのだろうか。いや、明日の討論会でバイデンさんが達者なところを見せてくれればいいのだが、そうでなかったときはどうなるか。政治の世界は"Never say never." いずれにせよ、明日は心して見なければなりますまい。


<6月28日>(金)

〇うーん、本誌の方でも取り上げましたけど、今日のPresidential Debateはバイデンさんが「やらかした」感がありますね。これは候補者の差し替えまで行っちゃいますかどうか。ちなみに昨日紹介したWashington Watchさんでは、「リプレースメント」の候補として以下の名前を挙げている。


カーマラ・ハリス副大統領(黒人・アジア系女性、59歳)

ギャビン・ニューサム・カリフォルニア州知事(白人男性、56歳)

グレチェン・ウイットマー・ミシガン州知事(白人女性、52歳)

エイミー・クロブシャー連邦上院議員(白人女性、ミネソタ州、64歳)

コリー・ブッカー連邦上院議員(黒人男性、ニュージャージー州、55歳)

ロイ・クーパー・ノースカロライナ州知事(白人男性、67歳)

ウェス・ムーア・メリーランド州知事(黒人男性、45歳)


〇いずれにせよ、一夜明けてからの民主党内の世論に注目したいと思います。それにしても本当に「1968年の悪夢」になってきましたな。ちなみに亡くなられた松尾文夫さんは、よく「トランプは不思議とニクソンと重なるんだよ」と言っておられました。


<6月30日>(日)

〇アメリカ大統領選挙をめぐるいろんな動きについて。


●NYT紙が社説で「バイデンは降りろ」と宣告(6月28日):To Serve His Country, President Biden Should Leave the Race

――連載のコラムニスト(例:トマス・フリードマンによるJoe Biden Is a Good Man and a Good President. He Must Bow Out of the Race.)はともかく、論説委員が集まって決めるエディトリアルでこう書かれた事実は重い。

――NYT紙は、年初にはA Warning About Donald Trump and 2024という社説を掲げ、トランプ当選に警鐘を鳴らしていたが、「バイデンに投票しよう」とは書いていなかった。思えばその頃から「候補者差し替え論」があったのかもしれない。


●オバマ元大統領はバイデン氏を擁護:「討論会でしくじる夜はある。私だってそうだった」

――そのほかナンシー・ペローシ元下院議長もバイデン支持。チャック・シューマー上院院内総務は言葉を濁している感じ。関係者の意見を総合すると、「ジル夫人がカギを握っている」らしい。つまりご家族が「もう辞めたら?」と言わない限りバイデンは降りそうにない。けれども、夫人は全面的に夫を支援。


●WP紙が掲げる「民主党の10の選択肢」:10 options if Democrats actually try to replace Biden

――いつもと同じ顔ぶれ。これを見ていると、やっぱり不安になってしまう。カーマラ・ハリスじゃ状況を変えられない。イキのいい州知事を連れてきたら、たぶん党内がまとまらなくなる。皆が待望しているミシェル・オバマは本人がその気ナシ。結局、この堂々巡りがあるから、「候補者差し替え論」は去年からずっとくすぶり続けてきたのでありました。


〇さて、明日朝は「モーサテ」出演なんですが、マーケットの視点からこの事態をどう受け止めるべきかという点について考えてみました。


*2024年米大統領選は「読めない戦い」と思われていたけれども、「トランプ一歩リード」であると認めざるを得なくなった。この後、候補者の差し替えがあるにせよないにせよ、民主党側が勝つには相当なリスクを伴うことになる。

*議会選挙の方も気になるところである。上院は元より共和党が優勢で、下院はまったく分からない(435議席中トスアップが22選挙区もある=クック・ポリティカルレポート)。しかし弱い大統領候補と共に戦う選挙では、議員も大いに苦戦することになる。「トリプルレッド」(ホワイトハウスと上下両院をすべて共和党が取る)確率が上昇したことになる。

*2016年はトリプルレッド、2020年はトリプルブルーだった。いずれもその後の2年間は新しい法律が通りやすくなる(2年後には中間選挙があって、議会どちらかの多数を失う)。2016年選挙の後は株高となりましたが、今年も似たようなことが起きるかもしれません。


〇最後に、米民主党はどうすべきかという点について私見を少々。まあ、大きなお世話でしょうけれども、「替えて後悔するか、替えないで後悔するか」の二択なわけですから、それは替えるべきなのではないかと思います。

〇というか、バイデンさんに弁解の余地はないでしょう。今回の討論会は、@時間はいつもより短めの90分、A司会はリベラルなCNN、B観衆を入れない、など、バイデンさんに有利な条件が揃っていました。しかも事前にはキャンプデービッドにこもって準備する余裕もあった。それであの結果なのだから、「テストに不合格だった」と言われても仕方ありますまい。

〇バイデンさんは翌日のノースカロライナの演説では、いいところを見せました。「私はもう自分が若くないと知っている」というのは感動的でした。だからと言って、「いいときのことを信じて、悪いときのことは忘れる」というのでは、ちょっと怖過ぎます。

〇「討論会は9月にもう一度ある」(今度はABC)という方もいらっしゃいますが、トランプさんは当然、出てこないと思いますよ(出る理由がない)。つまり6月27日の映像が、この後も延々と繰り返されることになります。候補者を差し替えすれば、とりあえず6月27日はなかったことにできる。

〇そしてバイデンさんは、仮に11月にトランプさんに勝てたとしても、向こう4年間の大統領職を務めていただかないといけない。あんな感じで、プーチンや習近平や金正恩の相手ができるのだろうか。トランプだけが敵じゃないのであります。

〇以上、とりあえずのまとめとして。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki