●かんべえの不規則発言



2005年3月






<3月1日>(火)

○日経新聞だけでは刺激が足りないというアナタに、こういうブログもご紹介しましょう。

●今日の『愛ルケ』:http://nikkeiyokyom.ameblo.jp/

○昨日、書いてから気がついたのだが、1985年の『化身』では、主人公はそこそこ有名な文芸評論家だった。後半ではカネに困って出版社に借金をしたりするが、逆に言えばそれだけの信用力もあった。1996年の『失楽園』では、主人公はリストラ寸前の出版社社員で、当面のカネはあるけど未来はない、周囲もそれが分かっている、という状況だった。それが2005年の『愛ルケ』では、沈没寸前の作家という何の保障もない立場である。かくして20年のあいだに、渡辺作品の主人公はどんどん落ちぶれているわけだが、それぞれの時代に対応しているようでもある。

○1985年の日本はどうだったか、ということを少し調べてみた。20年前の日本と今を比較すると、当たり前の話だが「若い」のである。団塊の世代は先頭が38歳。会社で言えば、やっと課長さんになった頃である。団塊ジュニアはまだティーンエイジャーだ。こんな時代であれば、50代の男性が社費で銀座で飲むのは大人の嗜みといえましょう。

○経済統計を見ると、1985年のGDP成長率は実質で4.9%、名目で6.4%の伸び。失業率は当然2%台だ。日本経済はまだ元気一杯である。日経平均だけは今とあまり変わらない。バブル以前なので、ストック経済化が進んでいないのだ。思えば1985年の東京は、やっと地価が上がり始めた頃で、アークヒルズ以後の高層ビルはまだ出来ておらず、地下鉄の冷房さえ入っていない。電電公社と専売公社はこの年にNTTとJTになったが、国鉄はまだ国鉄のままであった。

○1985年に総理府(当時)が行ったこの世論調査が面白い。

●国民生活に関する世論調査:http://www8.cao.go.jp/survey/s60/S60-05-60-01.html

Q5  〔回答票2〕 お宅の生活程度は,世間一般からみて,この中のどれに入ると思いますか。

( 0.5) (ア) 上
( 6.4) (イ) 中の上
(53.7) (ウ) 中の中
(28.4) (エ) 中の下
( 8.1) (オ) 下
( 2.8) わからない

○なんと88.5%の人が、「中流意識」を有していた。こんな国、どの時代のどの世界を探しても見つからないだろう。奇跡と言ってもいい。戦後の日本経済が目指した社会は、ここに完成していた。バブル前の日本においては、せいぜい「石油ショック前に家を買ったかどうか」が分かれ目になる程度で、不平等感が非常に希薄だったのである。

○ところが1985年時点でみずからを「中流」と答えた人たちは、せいぜいこの程度の収入に過ぎなかった。

F11  〔回答票29〕 〔世帯収入〕では,お宅の収入は,ご家族全部あわせて,去年1年間でおよそどれくらいになりましたか。この中ではどうでしょうか。・・・・・・ボーナスを含め,税込みでお答えください。

( 3.1) (ア) 100万円未満
( 7.6) (イ) 100万円〜200万円未満
(14.2) (ウ) 200万円〜300万円未満
(17.6) (エ) 300万円〜400万円未満
(14.4) (オ) 400万円〜500万円未満
( 9.7) (カ) 500万円〜600万円未満
( 5.8) (キ) 600万円〜700万円未満
( 3.4) (ク) 700万円〜800万円未満
( 7.5) (ケ) 800万円以上
(16.7) わからない


○1985年には「豊田商事事件」があった。社会的弱者を相手に「純金ファミリー契約証券」やら「ゴルフ会員権」やらを売りまくり、この手の悪徳商法の雛形ともいうべき存在だった。被害者は一人暮らしの老人などであり、卑劣な手口には怒りが集まったものだ。それに引き換え、今日の「振り込め詐欺」のなんと拍子抜けしたことか。なんだかんだいって、今の日本は金持ちになっているので、ちょっと騙されると普通の人が結構な金額を払えてしまうのだ。

○20年前の日本人は、貧乏だったけど、若くて、一億総中流で、未来は明るかった。今はリッチになったけど、高齢化して、不平等があって、閉塞感がある。『化身』と『愛ルケ』の間には、そんな違いがあるのかもしれない。


<3月2日>(水)

○1985年の経済データを読んでいくと、今とそれほど変わらないものもあれば、びっくりするほど変わっているものがある。まずは変わっていないものを上げてみよう。

(1)人口:1985年は1億2096万人、2003年は1億2761万人なので、あんまり変わっていない。しかし65歳以上人口を比較すると、85年の1241万人が03年には2431万人に倍増していることが分かる。高齢化率が倍増しているのだ。世帯人員数も、平均で3.71人もいたものが、2001年調べでは2.75人になっている。

(2)GDP:1985年度は名目で327兆4333億円。2003年度は498兆6135億円。確かに増えてはいるのだが、20年の変化にしては小さいように思える。これは物価が上昇しなかったことによるところが大といえよう。

(3)株価:1985年の日経平均は、年平均で1万3113円と今よりも高い。この指数は銘柄入れ替えがうまく行っているとは言いがたいので、あんまり参考にはならない。時価総額を反映する東証株価指数を見ると、1985年は1049.4と今日とあまり変わらない。(ちなみに今日の終値は1185.71である)

(4)経常収支:1985年度の経常収支は12兆5731億円の黒字。2002年度は13兆3872億円の黒字なので、だいたい似たような数字である。国際収支の構造はあまり変わっていないといえる。しかしGDP比で見ると、1985年は3.8%の黒字、2002年度は2.7%なので、今の方が通商摩擦は起こりにくいといえよう。なによりこの間に起きた最大の変化は、製品輸入比率が1985年の31.5%から2002年には61.1%まで向上したこと。日本経済の市場開放は確実に進行したのである。

○今度は反対に大きく変わったデータをご紹介しよう。

(1)為替:1985年のドル円レートは、年平均で200.6円。現在は104円くらいなので、円の強さはほぼ2倍になったことになる。1985年は一般にプラザ合意の年として知られているので、この点に意外性はないだろう。

(2)金利:1985年のコールレート(無担保オーバーナイト)は9.0625%であり、長期金利(10年国債応募者利回り)は6.582%であった。現在、前者は0.001%であり、後者は1.4%前後でちょこまか推移している。また、郵貯定額貯金は5.75%から0.06%へ、長期プライムレートは7.2%から1.7%へと低落している。まあ、これも常識の範囲内なので、意外性はゼロでしょう。

(3)外貨準備:1985年度末の外貨準備高は279億ドルしかない。アジア通貨危機以後、外貨準備を増やすことが当たり前になり、最近では1000億ドルを超える国が少なくないが、昔はその程度だったのである。日本の外貨準備が始めて1000億ドルを突破したのは1993年。案の定、円高が進んだ年である。以後、1995年に2000億ドル、2001年に4000億ドル、2003年9月に6000億ドルと増えていく。2005年1月末時点では8409.6億ドルにも達している。

(4)個人金融資産:1985年の日銀経済統計年報をひっくり返してみた。昭和59年の資金循環表を見ると、個人金融資産は40兆円(401,136億円)しかない。現在はいくらになったかといえば、03年9月時点で1395兆2406億円、いわゆる「1400兆円」である。この20年間で35倍になった計算になる。なんでこれだけ膨張したのか。ちょっと不思議である。

*追記:この数字、やっぱり間違ってました。昭和60年3月末の個人金融資産は495兆円(4,957,385億円)です。この20年間で約3倍になった計算です。(3月5日記)

○こんな風に並べてみると、この20年間の日本経済の歩みが見えてくるような気がする。以下はちょっと乱暴な議論になるけれども、こんなまとめ方が出来るのではないかと思う。

@日本経済は本質的に、コツコツ働いて外貨を溜めるというスタイルである。慢性的に貯蓄超過で経常黒字が出る(逆に言えば消費が不足)という体質を20年も続けている。

A国際収支の不均衡が続いたので、為替レートはこの間に2倍になった。市場開放はそれなりに進んだが、それでも黒字体質は変わっていない。外貨準備の急増ぶりを見ると、為替調整が十分に行われていない可能性がある。

Bそれでも20年も稼ぎ続けたら、家計部門の貯蓄は膨れ上がった。急速なストックの膨張は、バブルの発生と崩壊というドラマを生み、90年代には不良債権問題、金融不安などを引き起こした。貧富の差の拡大も、1985年以降に顕著な現象である。

Cかくして見かけ上の資産は膨れ上がったが、株価の時価総額が増えていないところを見ると、ストック化はうまくいかなかったようである。個人金融資産が1400兆円あるというのは、一種の「引き出し権」のようなものなので、実際のアセットはそれほど大きくない可能性がある。

Dそれでも貯蓄超過、消費不足の状態は続いている。資金の貸し手はいるが、借り手は多くないという現実が、超低金利を長期化させている。本来であれば、海外への投融資によって資金の還流を図り、ないかつ高いリターンを上げるべきなのだろうが、そういう知恵がないのがこの国の悲しいところである。このまま高齢化を迎えていいのだろうか。

○どうでしょう。この20年間、あなたはどんな風に読みますか?


<3月3日>(木)

○気がついたら、もう予算が衆院を通過したそうで。順調ですねえ、通常国会。盛り上がったのは冒頭だけだったような。昨日、「民主党の飯島」こと角谷浩一氏とお昼したら、いろいろ語ってくれましたが、特に笑っちゃったのは、これ。

「民主党が政権準備政党だったら、最大野党は日本共産党か」

○野党と呼ばれるのは嫌、というのはモッタイナイ。なぜなら、議会の主役は与党ではなくて野党です。反対するにせよ、賛成するにせよ、先に行動を決められるのは野党の特権。その野党を納得させるために、与党は全力を尽くさなければならない。やり方次第で、非常に面白い存在になり得るはず。とくに最近は、与党内の対立がつまらなくなっているので、こういうときこそ野党がアピールするチャンスだと思うのですが。日本共産党にやらせておくのは、もったいないですぞ。

○そんな中で、これからちょっと面白くなりそうなのは「緊急事態基本法」と「危機管理体制の整備」。この問題、自民、民主、公明の3党が、それぞれに案を持ち寄って討議することになっているらしい。民主党案が一足先に出来て、「内閣情報委員会を設置する」とか「危機管理庁(日本版FEMA)を作る」「安全保障会議を強化する」といったアイデアが盛り込まれている。これは「政権準備政党」らしく、まともな議論ができそうで、少し期待してみたくなる。

○要は「内閣機能の強化」ということに尽きるのだと思うのだけど、「情報機能」と「危機管理」は日本政治の明らかな弱点です。霞ヶ関の「縦割り行政」は、ある意味では責任体制が明確で効率的な仕事を可能にするのだけれど、「情報」と「危機管理」には向いてない。そこで官邸に情報官や危機管理監を置くようになっているが、全省庁を掌握するといった状況ではない。

○「日本におけるインテリジェンス・コミュニティは・・・・」などというと、「なんだ、それはスイスの海軍みたいなものか」という声が聞こえてきそうだが、スイスがレマン湖に立派な軍艦を持っているように、案外と馬鹿にしたものではないのである。外務省の地域研究はそれなりの水準だし、警察の公安関係は独自の積み上げがあるし、防衛庁の情報分析は物量ともに集積があるし、加えてジェトロやJCIFといった経済官庁系の機関も有力な情報源だ。問題はそれらを統合して運用することで、ここが難しい。外務省と警察庁、警察庁と防衛庁、それから防衛庁の中の制服と背広、といった具合に、インテリジェンス・コミュニティは皆さん仲が悪いのである。

○アメリカでさえ、「9・11」からイラク戦争に至る過程で、諜報機能の不備という問題が明らかになった。そこでCIAなどの情報組織の頂点に、情報官を置くことにした。が、この程度の組織いじりで解決するほど、簡単な問題ではないはずである。てな議論を、国会でもやってほしいですな。


<3月4日>(金)

○お昼に三原御大のお誘いで外国人記者クラブへ。昨日はホリえもんがこの場所で怪気炎をぶちあげ、ついつい余計なことまで言ってしまったとか。田中角栄もそうでしたが、この場所はときとして、天下を目指す人にとって「鬼門」になる。ご用心。

○本件について、いろんな噂が飛び交っている。ごっつい噂はほかのサイトにお任せすることにして、以下は若干の可愛らしい風説です。

「ホリえもんを村上ファンドに紹介したのは神田うのである」・・・・・根拠のない話なんですが、「ホリえもーん、あたしがムラピーに紹介してあげるー」と彼女が言ってる姿というのが、妙にリアリティがあったりする。

某テレビ朝日記者は、六本木ヒルズの入館証を使って直接ライブドアに入り込み、とっても怒られた。・・・・・まあね、フジテレビ以外の各社にとっては、こんなにおいしいネタはないものね。ワシが社員だったら、きっとやってるな。

NHK社内では、「六本木ヒルズには足を向けて寝られない」という声が充満している。・・・・・番組改編問題は完全に忘れ去られましたからね。朝日新聞も以下同文だな。

ライブドアから追加融資の要請を受けた某外資系金融機関は、「そんなことしたら、日本中の企業から出入り禁止にされてしまう」とビビっている。・・・・・気持ちは分かるぞ。政治家や金融庁ににらまれるより、そっちの方が怖いと思う。日本社会にはありがちな現象だったりして。

テレビをつけると、しょっちゅうホリえもんが生放送で出てくる。こういう状態を「どこでもライブドア」という。・・・・・・って、これ、つまんないですか、そうですか。はい。

○夜に会った某フジテレビ関係者に進言したんですが、日枝会長が連日のように、自宅の豪邸前でぶらさがり取材を受けるのは、ご近所にも迷惑であろうし、あんまり感じがいいものではない。最近は政治家でも、テレビに映るときはもっと気をつかっていると思うんだけど。メディアの中の人というのは、案外とその辺がルーズだったりして。

○まあ、それを言いだしたら、ホリえもんも質問を受けるたびに、「だからさー、そうじゃないんだよねー」と言うのを止めて、「そーなんですよ、でも僕は思うんだけどー」ぐらいにしておけば、もっと印象が良くなるのにね。近鉄バファローズの買収も、その辺で失敗したようなものだから、学習効果がないのかもしれん。ひょっとすると、ホリえもんがわざと失敗した後で、三木谷さんか孫さんが紳士的に登場するっていう連係プレーもありだったりして。おっと危ない。

○まあ、ワシの知ったこっちゃないし、来週の月曜夜にはTOBの結果が出るわけだし、そろそろこの問題、ゴールが近そうだね。今夜のところはフジテレビ、余裕綽々と見たが、果たしてどうなるか。


<3月5日>(土)

○冗談かと思っていたんだけど、ウォルフェンソン世界銀行総裁の退任に伴う後任人事は、本当にウォルフォビッツ国防副長官とフィオリーナ前ヒューレット・パッカードCEOなんですね。今週のThe Economist誌が面白おかしく書いている。

PAUL WOLFOWITZ and Carly Fiorina have little in common. One is America's craggy deputy defence secretary, best known as the top neo-con in the Bush administration. The other is a telegenic but fallen corporate titan, recently ousted as chief executive of Hewlett-Packard (HP). This week both were tipped, within hours of one another, to be on George Bush's short-list for appointment as president of the World Bank. Mr Wolfowitz quickly killed the idea. But Ms Fiorina is under consideration. Is the White House thinking creatively, or getting desperate?

ポール・ウォルフォビッツとカーリー・フィオリーナの共通点は何か。片や米国のいかつい国防副長官であり、ブッシュ政権のネオコンの総領である。片やテレビ映りはいいが、HPのCEOの座を追われたばかりの落ちた大物経営者である。今週、両者は相次いで、世銀総裁候補のショートリストに名前が挙がった。ウォルフォビッツは即座にこれを否定。しかしフィオリーナは考慮中である。ホワイトハウスは創造力に富んでいるのか、それともヤケになっているのか?

○国際機関のボスは、IMFは欧州人、世銀はアメリカ人の指定席になっている。そういうことに対し、異議を唱える議論は聞いたことがない。が、1995年にクリントンに指名された現ウォルフェンソン総裁は、ブッシュ政権下をしぶとく生き抜き、ハッピー・リタイアメントを迎えようとしている。大本命はゼーリックUSTR代表であったが、国務副長官に転じたので、こんな人事が急浮上した。

○かつて国防長官を務めたマクナマラが世銀総裁に転じたことがあるので、ウォルフォビッツをという話が出るのは不思議ではない。ほとんど用済みになりつつあるネオコンを「一丁上がり」にする効果もある。彼はインドネシア大使の経験もあるので、アジアからも受け入れやすいだろうという思惑もある。が、ご本人はその気ではないらしい。

○それではフィオリーナさんはどうか。The Economistの意地の悪さが光る。

So what might Ms Fiorina imply? She has no real experience in development and, save for a stint advising Arnold Schwarzenegger, little in politics. Her marketing talents would be useful: largely, the World Bank job is a bully pulpit. But her record at HP calls into question her ability to run a sprawling institution. HP's merger with Compaq seemed flawed from the start, and HP's share price fell during her tenure. That need not rule her out. Ms Fiorina's reputation at HP was not unlike Mr Wolfensohn's at the Bank: a leader with a big vision who could not manage. Who knows? Maybe Ms Fiorina would push through a merger with the IMF.

ではフィオリーナの場合は? 彼女には開発の経験もなければ、シュワルツネッガー知事に対するケチな顧問を務めたことを除けば、政治の経験もほとんどない。彼女のマーケティングの才能は有用であろう。世銀総裁の仕事は、ほとんどが名調子の説教師なのだから。しかしHPでの業績は、ガタの来た組織を動かす能力に疑問を感じさせる。コンパックとの合併は当初から欠陥が多く、株価は任期中に下落した。だからといって彼女を排除することもあるまい。フィオリーナの評判は、ウォルフェンソンのそれと似たり寄ったり――大きなビジョンを持つが統率力のない指導者――なのだから。神のみぞ知る。おそらくフィオリーナはIMFとの合併を推進するのであろう。

○同じギャグを考えていたので、最後の部分はちょっと悔しい。でもって、フィオリーナ総裁は、途上国向けの投融資を一気に拡大し、不良債権の山を築く。そして2年後には「あれは失敗だった」と言って退陣する。その後は2008年の大統領選挙で、ヒラリー対ライス、女の戦いに参上する。ま、そういうのもいいじゃないですか。世銀総裁の後任はヨーダ仙人こと、宮澤喜一さんでいかがでしょうか。


<3月6日>(日)

○今朝、市内をクルマで走っていたら、「元気モリモリ、千葉日本一」の選挙カーの後ろについてしまった。どうしたもんでしょうねえ、応援したものかどうか。というか、来週になると投票日なんだよね。投票に行ったものかどうか。

千葉県が日本一であるものとしては、以下のようなアイテムがある。

●平均海抜:千葉県は、平均の海抜が約43mと日本でいちばん平均海抜高度が低い。って、別に自慢にはならんわな。

●野菜の出荷額1,794億円で、全国第1位(2002年)。農業生産額でも北海道に次いで第2位。

●伊勢えびの漁獲量:「漁獲量」である点にご注意。たぶん「金額」では三重県に負けているでしょう。

●落花生:全国の生産量の7割を占めております。でも、ワシが買うのはいつも中国産の安いやつです。

●醤油の生産:野田のキッコーマンと銚子のヤマサ。これで一番でなければ嘘です。

●その他、水産加工品、落花生の収穫量、サツマイモの生産、海水浴場の数などで日本一であります。

○自動車事故の死亡者でも、毎年のように北海道と1位を争っている。と、こうしてみると、しみじみ自慢できるものがない。お、千葉にはこんな日本一があったのか。ネットを検索すると、意外な日本一を発見しますな。

○下記は2ちゃんねるで発見したギャグ。

「山田安太郎をよろしく」という電話がかかってきたので入れます!といったらすぐ電話切ってくれた

「堂本暁子をよろしく」という電話がかかってきたたので選挙違反じゃないですか!といったらすぐ電話を切ってくれた

「モリタけんさくをよろしく」という電話が掛かってきたので、 埼玉はダメで千葉ならいいんですかといったらすぐ電話を切ってくれた

○千葉を語ると、ついつい自虐的になってしまう。困ったものだ。


<3月7日>(月)

○今宵は夕刊フジさんのお招きで、書評欄「ビジネスマン・ライブラリー」の執筆者4人が集まって飲み会。4月の紙面刷新でも生き残りが決まったとのことで、2000年から続いているこの欄は、当初はまるで予想もしなかったほどの長寿企画となった。発足時から、執筆者が誰も変わっていないというのがめずらしい。飲みながらの話題は、フジサンケイグループの奢りということもあって、ついつい今宵12時で期限が来るTOBの結果に至る。

○深夜に帰宅してインターネットで「TOBはどないでんねん?」を調べてみると、これが産経新聞も含めて出ていないではないか。やっとの思いで見つけ出したのが、下記の日刊スポーツの記事である。「フジ33・4%超取得も、TOB成立は確実」とある。23時56分のニュース。

http://www.nikkansports.com/ns/entertainment/f-et-tp0-050307-0014.html

○フジテレビが議決権の3分の1超を握ったのであれば、株主総会での特別決議に対し拒否権の発動が可能となり、ライブドアによるニッポン放送の経営への介入を制限できる。さすがはホンバンに強いフジテレビ。とはいうものの、創業者一族の株式返還要求など、不確定要素はあるので、安心するにはまだ早い。

○さらにいえば、ライブドアが50%を超えるという可能性も残る。その場合は、フジサンケイグループとしては、「泣いてニッポン放送を斬る」ことになるのかもしれない。ホリえもんとしては、踏んだりけったりとなろうが、実はニッポン放送を得るだけでも、十分に大きなことなんじゃないか、と言っている神保哲生氏の意見が、かんべえとしては先日から気になっている。ここをご参照。


もしライブドアがニッポン放送を傘下に収めれば(そして、仮に過半数の株を押さえなくても、既に圧倒的な筆頭株主として実質的には傘下に収めたと考えていいと思いますが)、フジテレビが増資するなどしてニッポン放送の持ち株比率を薄めようが、、またニッポン放送の全社員が退社して箱を空っぽにするというような奇策に出ようが、ライブドアは記者クラブのアクセスを得ることになります。

私のように日々記者クラブの壁に苦労している身としては、そのことも持つ意味の方がフジテレビの帰趨がどうなるかよりもはるかに重大です。

記者クラブに入れるということは、ライブドアーニッポン放送は(ライブドア放送に社名も変えるかもしれませんが)、プロ野球のインターネット中継だってできるわけです。プロ野球参入で意味不明の理由で楽天やソフトバンクとは格が違うかのような扱いを受けたホリエモンにとっては、これ以上の意趣返しは無いわけです。

もちろん総理官邸の首相ぶら下がりや、首相記者会見なども、ライブドア放送がインターネット配信してくる可能性はあります。相撲だってクラブの壁の中にあるし、東証の兜クラブだって、日銀クラブだって、全て記者クラブの壁があるから、新規参入の脅威に晒されることなく、既存報道機関は大手を振って情報へのアクセスを独占し続けることができたわけです。

ラジオ局はラジオしかできないのではないかとお思いの方もおられるかもしれませんが、そのような論理は一旦中に入りさえすれば何でも通ってしまう記者クラブのカルチャーには存在しません。朝日新聞の朝日ニューススターは官庁の記者クラブ会見を生放送したりネットでも流してますし、そもそもNHKや民放も、記者クラブ経由でアクセスした映像や記者会見の模様を平気でネット配信しています。朝日や日経の記事をネットで読まれている方も少なくないでしょう。ライブドア傘下のニッポン放送がネットでニュース(動画にせよ音声にせよ活字にせよ)を配信できないとなると、今行われている既存報道機関のネット配信も全て御法度ということになります。


○神保さんが残念がっていることは、肝心のホリえもんが上記の事実にまるで気づいていないこと。既存のメディアに風穴を開けようというのが狙いであれば、ナンボでもやり方はあるのです。まあ、これは神保さんならではの問題意識なので、広範囲な関心を集めることはないのかもしれませんが、「メディアとネットの融合」とか「ジャーナリズムとは何か」を考え出すと、いろんな可能性が出てくるはずなのです。

○この辺のことを、ホリえもんがあまりにも軽く考えているのが、ちょっと哀しいものがあります。さて、明日の朝刊は何と書くのでしょうか。早版ではもう間に合いませんね、たぶん。


<3月8日>(火)

○中国の全人代で「反国家分裂法」の審議が始まりました。この話、思ったほど大事ではないような気がします。以下、ちょっと甘いといわれるかもしれませんが、かんべえのところに集まっている情報を総合するとこんな感じになる。

○日米の「2+2」協議で、共通戦略目標に台湾海峡問題を明記したとき、中国はもちろん怒ってみせましたが、怒りはほんの数日だけでした。つまり靖国神社や尖閣諸島に対する怒りとは、明らかに烈度が違うのです。それどころか、日本政府に対して中国から密使があり、「反国家分裂法は、そんなに大袈裟な話ではありませぬ」という説明があったらしい。中国政府にしてはヘタレというか、めずらしく腰が引けている様子なのだ。(もちろんそんなことは、素振りにも出せないわけだが)

○中国共産党としては、昨年12月の立法院選挙で、与党民進党が勝ったらいよいよ独立へ動き出すだろうから、こういう法律を作って歯止めをかけようと用意していた。というか、確かに昨年末は民進党が勝ちそうな雰囲気だったので、それだけ切羽詰まっていたのである。それが野党連合が勝ったので、中国としては大いにほっとした。これで矛を収めれば良かったものが、あいにく間に合わなかった。台湾問題になると、急に目が据わって強硬姿勢になるという、いつもの癖が祟ったのである。

○また中国共産党としては、米国の「台湾関係法」を意識しているのだという説もある。つまり米国議会は、よく「台湾関係法があるから、わが国は台湾に関与せざるを得ない」といった言い方をする。それだったら中国も「反国家分裂法」を盾に取り、「この法律があるから、武力行使もやむを得ぬのだ」と開き直っていいじゃないかという発想である。何もそんなことまで、米国に張り合う必要もないと思うのだが、これも最近の中国らしい話だと思う。

○ところが収まらないのは台湾の側である。立法院選挙で負けた陳水扁総統は、耐え難きを耐えて宋楚瑜の親民党と連立を組んだ。これはもう台湾版の自社連立みたいな禁じ手なので、双方の支持者が反発しているが、とりあえず政局運営は安定しそうである。が、見返りとして、陳水扁は、「もう独立は諦めました」といわんばかりのベタ降り宣言をしてしまった。正直なところ、臥薪嘗胆といった気分であろう。

○そこへ傷口に塩を塗るような形で、「反国家分裂法」が来てしまった。これじゃあ陳水扁はもちろん、台湾人はみな怒る。国民党でさえ「反対」を叫ぶ。「台湾化路線」が選挙で否定されたばかりだというのに、わざわざ台湾の民意を独立の方向へ押しやってしまった。馬鹿ですねえ。いつも思うことですが、「感情」が「勘定」よりも前に出ると碌なことがない。そして最近の中国は、いちいち感情過多なのである。

○ところで、陳水扁が穏健化する一方で、李登輝さんは「あくまで独立」路線で押し通している。「とうとう陳水扁と袂を別った」という観測が流れているが、これは自分が極端な立場を主張することで、陳水扁を中道に押しやって宋楚瑜との連合をやりやすくする狙いがあるらしい。李登輝と宋楚愉は犬猿の仲ですからね。いってみれば、『泣いた赤鬼』で、わざと嫌われ者の役を演じた青鬼のような立場。こういう腹芸ができちゃうところが、さすが李登輝さんというか、台湾政治というか。

○ところで、台湾といえばこの人が日本に帰ってきました。らくちんさん、近いうちに会いましょうね。


<3月9日>(水)

○電車の中を見渡して、しみじみ感じるマスクの多さよ。今週の東京は暖かいので、花粉が盛大に飛んでいる。月曜日になって耐えられなくなったかんべえは、火曜日に耳鼻科に寄った。「これはもう、アレグラでは効きませんね」と、ワンランク強い薬をもらったら、一発でくしゃみと鼻水が止まった。しかるに本日は頭がモーローとして、頭脳労働には大変な障害である。やれ、困ったものよのう。薬局では、「お酒と併用しないでください」といわれたが、今宵はロシア帰りの人が凍ったウオツカを持参されたので、しこたま飲んでしまった。ますます困ったものよのう。

○で、話は毎度お馴染みのライブドアなんですが、朝日系列の方々の話を総合すると、こんな感じなんですよね。「私たちの場合は、相手は孫=マードック連合でした。彼らはちゃんとネクタイもしていたし、お金も戦略もありました。でも、私たちは今の幸せを大切にしたいので、株を買い取らせていただくことにして、丁重にお引き取り願いました。あるいは彼らの傘下に入っていれば、今頃は世界最大のメディア企業になっていたかもしれません。でも、そのときの判断を後悔はしてはおりません」

○それに比べると、フジサンケイグループの不幸さがよく分かる。ネクタイがどうのこうの以前に、ホリえもんの頭の中はどうなっているのか、金はどの程度持っているのか、そもそもライブドアという会社は3年後に生き残っている会社なのか、というあたりから疑わねばならない。ホリえもんが天真爛漫な人格の持ち主であることは分かるけど、社員としてその傘下に入らなければならないのは、できれば避けたいところであろう。それでも株を公開しているからには、いつ、どんな人に買収を仕掛けられても不思議はないのが資本主義社会というもので、フジテレビに備えがなかったのが自業自得だといえばそれまでなんだけど。

○さて、こじれた話をどうやって修復するのか。プロキシファイトまで行け、という声があるけれども、この話はM&Aとしては筋が悪すぎる。「ネット企業がメディア企業を買う」という発想自体が、5年前に終わったビジネスモデルなのだから。その代わり、マネーゲームとしてはある程度成功している。少なくともホリえもんは、45%のニッポン放送株を手にしている。個人的には、3月7日に書いたように、ニッポン放送を使って既存のメディアに一泡吹かせてほしい気もするが、その考えはなさそうだ。結論として、後は両者がディールをする以外にないだろう。

○テレ朝のときは、時の氏神としてソニーが登場した。今回もフジテレビには豊富なコンテンツがあるということで、ソニー出動への待望論が一部にはあるようだが、あいにく今はそれどころではなさそうである。では、ライブドアとフジテレビの仲介役が出来るのは誰かということになると、今日のところは「そりゃあやっぱりトヨタでしょ」という声が、どこかから聞こえてきたりする。経団連の奥田会長が「この喧嘩、私が預かった!」と言えば、なかなかに麗しいドラマになるだろうと。問題は、トヨタ自動車がライブドアの持ち株を買い取る理由付けができるかで、これはちょっと難しいかもしれない。

○良くも悪くも、日本の財界というのは閉鎖的で排他的な世界である。IT企業であれば、ホリえもんはアウト、三木谷はイン、孫はボーダーライン、となる。既存の産業の中でも、義明はアウトで清二はインであったりする。アウトとインはどこで線引きされるかというと、所詮は人間関係の世界なので説明が難しい。てなことを言うと、「だから日本は駄目なんだ」という批判が聞こえてきそうだが、ライブドアが本気で成功を望むならば、その辺を承知の上で挑戦すべきだろう。今ごろになって「友好的に」と言ってるようじゃ、駄目っすよ。

○ところで今宵は、栃木県関係者から、「佐野生ラーメン 早ゆでコルト45秒」なる商品を頂戴する。「青竹打ちだから45秒で茹だる。故に早ゆで45秒と命名」とある。45口径にあらず、というわけ。なるほどカップ麺よりも早い。いろんな商品がありますな。


<3月10日>(木)

○少し遅れましたが、ソニーの新体制についてひとこと。

○出井さんという人は、経営者として前半は絶好調でしたが、後半になって失速した感があります。前半のソニーは、VAIO、プレステ2、AIBOとヒット商品を連発しましたが、後半のソニーは沈黙してしまいました。まだソニーが好調だった97年頃当時、自分の会社の公開を間近に控えていた折口雅博氏が、「ソニーなんて、ヒット商品が5年も出なければおかしくなる会社ですよ」と平然と言ってのけたことを鮮明に記憶しています。本当にそういうことが起きてしまうのですから、経営の世界はしみじみ分かりません。

○それでも出井ソニーが「執行役員制度」などを導入したことで、日本企業のコーポレートガバナンスはびっくりするほど早く変化しました。もうひとつの功績として、IT戦略会議の議長としてのリーダーシップを挙げたい。当時の記録として、これなんかはとても懐かしい。5年後の現在、日本がブロードバンド先進国を名乗ることが出来るのは、ここでの議論が役立っている。出井さんがソニーのためにしたことよりも、日本企業のためにしたことの方が大きい、という妙なタイプの経営者なのかもしれません。

○経営者というものは、たとえ任期中にチョンボをしたとしても、後継者の選定さえ正しければ、その罪は半分以下に減刑される、とかんべえは考えます。そういう意味では、後任の会長に外国人を選んだというのも、出井さんらしい幕引きといえるでしょう。この人事が成功か失敗かは、もちろん今後を見てみないと分かりません。

○先日、商社内の会合でソニーの新体制の話になって、「国際化は、柔道スタイルで行くか、相撲スタイルで行くか。意外と後者の方が早いのかもしれないね」という意見が出たのが印象に残りました。柔道は国際ルールをきちんと決めて、自分たちもそれに従うことで国際化した。お陰でダブルスタンダードになったところもあるけれど、これぞ国際化の王道といえる。逆に相撲は何も変わらない。そこに外国人を迎え入れたことで、今は見事に「ウィンブルドン化」(もう両国化、と呼んでもいいだろう)した。

○すでに日産のゴーンさんという前例もあるので、今後、経営者の横綱大関クラスに外国人が大勢出るようになれば、日本企業の国際化もスピードアップするのかもしれませんね。


<3月11日>(金)

○自宅に着いたら、なぜかA4で2枚のこんなペーパーがFAXで届いていた。

平成17年(ヨ)第20021号 新株予約権発行差止仮処分命令申立事件

●決定の要旨

債権者 株式会社ライブドア
債務者 株式会社ニッポン放送

上記当事者間の頭書事件につき、当裁判所は、債権者が本決定の送達を受けた日から5日以内に、債務者のために金5億円の担保を立てることを保全執行の実施の条件として、次のとおり決定する。

●主文の要旨:債務者が平成17年2月23日の取締役会決議に基づいて現に手続き中の新株予約権4720個の発行を仮に差し止める。

●理由の要旨(以下略)

○何かコメントを、ということかもしれないので、ひとこと触れておこう。

○まずは、変な判決でなくて良かったね、ということだ。「取締役が株主を選ぶ」なんていう妙な前例が出来ると、この後の企業防衛がとってもラクになる。国際的に見て、変なM&Aのルールができてしまう。新株予約権は、ちょっと無理筋。このことは、マーケット関係者のコンセンサスだと思う。

○強いて言えば、理由の要旨の中で、「債務者は、債権者が証券取引法に違反して債務者の株式を取得しており、その防衛として本件新株予約権を発行した旨を主張するが、債権者が証券取引法に違反していると認めることもできない」とはっきり宣言しているところが、ちょっと意外かな。ライブドアが時間外に35%もの株式を取得したことは、十分にグレーゾーンだと思ったのだが。

○それでも、これをもって「ライブドアの勝ち」と喜ぶほどのこともない。新株予約権は、フジサンケイグループとしてはある程度「ダメモト」の反撃策だったと思う。喧嘩なんだから、とにかく手数を増やした方がいい。攻める側は一気呵成に決めなければならないが、裁判が泥沼化すれば守る側が有利になる。フジテレビでは、こんなことまでして反撃するんだそうですよ?

http://www.f7.dion.ne.jp/~moorend/news/2005022601.html

○と、こんなんで良かったかしら、わざわざFAXを送ってくれた産経新聞さま。

○ところでホリえもん、キャッシュは足りてる? まさか5億円がないなんて、言わないでよね。


<3月12〜13日>(土〜日)

○3月15日が迫っているので、いよいよ税金の計算をしなければならない。修理に出したパソコンが、まだ戻ってきていないのが痛い。それでも慣れもあって、今年は割りに簡単に計算ができた。念入りに領収書を集めたせいか、今年は還付金があることが分かり、急に不安になる。だ、だ、大丈夫かしらん?

○土曜夜は、恒例の町内会防犯部の打ち上げ。昭和ひとけたの方が多いのだが、皆さん良く飲まれる。こちらはついていくのが精一杯である。人生の先輩方から頂戴した貴重な教訓を備忘録までに。

「人間、“惚れる”がなくなると、“惚ける”が始まる」

「体が不調になるときは、頭も不調になる」

○日曜朝は千葉県知事選挙へ。午前10時半であったが、かんべえが行った投票所では「315人目」であった。昨晩の打ち上げを欠席した町内会長さんが監視員をやっている。ご挨拶するとニコニコしていたけど、あれが午後8時まで続くとなると、なんともお気の毒である。これがせめて意義ある選挙であればともかく、究極の選択みたいな選挙である。

○NHK将棋トーナメントが準決勝。羽生―森内は今の将棋界における最高のカードであるが、羽生が強い強い。5四飛車って、一見ぬるそうに見えたけど、あれで勝ちなんだものなあ。棋譜読み上げが「羽生四冠」と呼ぶ。「森内名人」よりも、そっちが強そうに聞こえるではないか。羽生はつい昨年、一冠に追い込まれてピンチと言われてから、急に強くなってしまった。この調子だと、来たる名人戦も一気にいっちゃいそうだ。

○連日のホリえもん騒動についてひとこと。いまだに「ホリえもんの背後にはXXがついている」みたいなことを言う人がいる。そんなもん、おらんって。自分が数百〜数千億円を動かす黒幕だとして、あんなコントロール不能のあんちゃんに、自分の財産を賭けてみようと思うか? 金持ちというものは、つまらんところでリスクを冒そうとはしないもんです。彼の足を引っ張ろうとする人は、ナンボでも出てくると思いますがね。


<3月14日>(月)

○あらら、千葉県知事選挙は意外な僅差だったのね、とか、今日のお昼は吉祥寺に行きましてね、など、いろんな報告事項はあるのですが、とりあえず今日のいちばんのニュースは、修理に出していたPCが帰ってきたことです。ThinkPad T40は、軽いし、画面が明るいし、キーボードのタッチがいいし、いろいろカスタマイズしてあるし、これでやっと仕事ができる、というものです。

○思えば事故が発生したのは2月22日だったとです。(適当に、「ヒロシです」という言葉を挟みつつ、聞いてください)。それからずぅ〜っと、Win95搭載、IE4(このブラウザだと、新めのブログは読めなかったりする)の旧ThinkPadを使っていたとです。長かったとです。この2〜3週間、かんべえの生産性が低下していたのは、花粉症の薬のせいだけじゃなかとです。

○さて、事件を振り返ってみると、まったくの不注意からノートパソコンの上に、コップのお茶をこぼしたことが始まりでした。しかるにかんべえ、2000年12月に、同じ不注意で前のThinkPadを動けなくした(そのときの液体はミルクであった)ことがあり、そのときの経験から、事態を楽観していたのです。5年前は、2000年12月13日に事故発生、12月15日に引き取り、12月21日に返却と、1週間くらいで片付きました。修理費は2万4000円でした。

○5年後の今日、まずIBMのサービスセンターは電話がつながりません。2月23日にさんざんトライした後に、あきらめてIBMのサイトを探したら、ちゃんと引き取り修理を依頼するページがありました。最短では2月25日に引取りが可能と判明。ということでネットから注文したところ、その翌日には電話がかかってきて、25日にPCを引き取ってくれたのです。と、ここまでは良かった。

○説明を読むと、IBMの仕組みが昔とは変わっていて、引き取り修理のときは「見積もり作業」が行われる。ところが、この見積もりの連絡が待てども来ない。これまたIBMのサイトを探すと、修理の現状を知らせてくれるページがあって、そこを見ると「見積もり作業中」のままになっている。3月3日になっても連絡がないので、我慢の限界で電話する。あいかわらずつながらず。そこで「お問い合わせ」のページから、「見積もりはまだでしょうか」と書き込んでみた。

○するとその日のうちに電話がかかってきた。で、「明日には見積もりをお送りします」という。おう、結構じゃないか、と思ったら、3月4日に届いたFAXには「9万8000円」とあった。ぎゃあ。IBMに電話をかけるが、またもつながらない。腹は立つのだが、直してもらわないことには手も足も出ないので、目をつぶって「了解」と書いてFAXする。税金の申告が近い季節柄、ふん、こんなもの来期の経費にしてやる、と思えば払えない額ではないのである。

○それから先がまたナシのつぶてである。IBMのサイトを見ると、「修理中」となっている。3月9日、またも我慢の限界に達し、「お問い合わせ」のページに「5年前に比べて、遅すぎるんじゃないですか」とやや長めの苦情を書く。すると翌3月10日に電話がかかってきて(書き込むと、かならず24時間以内にかかってくる)、申し訳ありません、部品がないもので、と言う。「それだと税金の申告に間に合わなくて困るんですけど」と言うと、大変恐縮され、あと1日待ってくれ、と言う。3月11日、「今日、部品が届きました」という電話あり。なんだか、こちらが催促したときだけ、仕事が進むみたいである。気のせいだと思いたい。

○そしたら3月14日の朝、会社に宅急便が届いていた。ちゃんと税金の締め切りにあわせてくれたのかもしれない。こちらは当然、昨日までに計算は済ませているけれども、まあ、それなりの誠意はあったのかもしれない。さて、到着を知らせるとともに、本件の領収書9万8000円也を送ってもらおうかと思ったら、またまた電話が通じない。結局、半月ほどの間に、IBMのサービスセンターに電話が通じたことは1回もなかった(有料の回線も含めて!)。しょうがないから、また苦情欄である。これできっと、明日はまたお詫びの電話がかかってくるんだろうなあ。

○察するにパソコン事業が中国の会社に売られるというんで、社員がエクソダスモードになっているんだろうか。そう思うとあんまり責められない。ワシが同じ立場だったら、きっとそうしている。ThinkPadユーザーとしては、かえすがえすIBMの方針が残念だ。いっそのこと、アメリカ議会が反対して対中売却を取り潰してくれないかしら。

○その昔、中東で仕事をする商社マンの間に「IBM」という合言葉があったそうだ。インシャラー、ブックラー、マーレイシとかいう3つの言葉で、神のみ心のままに、また明日、気にするな、みたいな意味だったと思う。この3つの言葉が出るともう処置ナシであって、日本人側は「あせらず、あきらめず、あてにせず」と言い聞かせて我慢をするのであった。神よ、われに忍耐を与えたまえ、と。(そういや、ワシはNTTのPHSのユーザーでもあったのだった・・・・)


<3月15日>(火)

○月曜のお昼が講師、夜が研究会の代理出席。火曜のお昼が研究会出席、夜は研究会の司会。明日のお昼はまた講師。何をやっているのだ、ワシは。そろそろ普通のメシが食いたいぞ。以下は、そういう際に飛び交う会話の一部ご紹介。


○その1:ジョン・ボルトンが国連大使になった件は、面白おかしくあっちこっちで語られている。よく聞くのは、「ボルトンは嫌われ者だから、マンハッタンに送り込んだ。これでもう国務省とペンタゴンは安全だ」というパターンである。二階に上げて梯子を外す、というやつだ。かんべえとしては、以下の例くらい辛口でないと、受けないな。

「パトリック・モニハン、ジーン・カークパトリック。ネオコンの大先輩たちは、揃ってこの仕事について国連叩きに精を出した。ボルトンがその衣鉢を継ぐのは、本人にとってまことに名誉なことである」

「実は国連大使にウォルフォビッツはどうかという話が出た。それはちとまずかろう。彼が行くと、本当に国連を壊してしまうかもしれない。その点、ボルトンであれば、あれは“言うだけ番長”だから大丈夫だ」


○その2:金曜日になればライス国務長官がやって来る。いよいよBSE問題が大変だ。スポーツ紙はこんな見出しを出すのではないだろうか。

「牛丼再開へ。ライス大盛りの圧力」


○その3:以下は最近、ネット上で流行っている「怒らない日本人」というネタを、かんべえ流にアレンジしたもの。あちこちで反応を試しております。


 六カ国協議の席上で、あるとき日本代表が席を外した。

 残った5カ国の代表は、いっせいに日本の悪口を言い出した。「お人好しだよね」「甘過ぎる」「何をしても怒らない」

 韓国の代表が言った。
 「わが国などは歴史問題でことごとく難癖をつけ、ワールドカップも割り込んで共同開催にしたし、竹島も実効支配している。それでも日本は怒らないのだよ」

 中国の代表が言った。
 「歴史問題ではうちも負けないぞ。靖国神社参拝には抗議するし、尖閣諸島では資源開発をしているし、先日は潜水艦に領海侵犯までさせてやった。もちろんODAにお礼などは言いませんぞ。それでも彼らはニコニコしているのだから分からない」

 北朝鮮の代表が言った。
 「甘いね。うちは罪もない日本人を拉致した上に、麻薬を売り込み、偽札を流通させている。先日などはテポドンを撃って脅かしてやった。それでも、彼らは反撃してこないんだ」

 黙って聞いていたロシアの代表が言った。
 「それなら、核兵器を使ってみたらどうだろう」

 するとアメリカ代表が言った。
 「いや、それはもう試したことがある」


○防衛研究所の武貞先生が、今週からワシントンに行くというので、「向こうでこのネタを試してみてくださいよ」と言ったら勘弁してくれって。ちぇっ、自分では受けてたくせに。


○その4:最後は永田町関連。中西議員の辞職問題で、風雲急を告げてきた。何しろこの人、都議出身の唯一の自民党議員。それが強制わいせつということで、都議選の雲行きが怪しくなってきた。自民党が都議選で大敗すると、民主党に流れが出てくるかもしれない。おりしも小泉さんは、郵政民営化が終わると、そのまま一丁上がりになりそうなくらいにお疲れ気味の様子。

○そこで出てきたのが「9月政変説」。小泉さんを引き摺り下ろして、代わりに誰を担ぐのかというと、今、霞ヶ関でいちばん評判のいい与謝野政調会長なんだそうな。与謝野首相を担いで、狙いは大増税。政策通で、とくに財政と税制に詳しいので、適任ではあるのだが、消費税10%とかにしちゃうとさすがに短命に終わるだろう。つまりワンポイントリリーフの役回りだが、もともと選挙を戦えるようなタマではないし、ご本人にもそれで不満はなかろうと。

○なんでこういう筋書きになるかといえば、小泉後継は安倍幹事長代理ということは、自民党も分かっている。でも、小泉→安倍だと、「三代続けて森派から首相が出てしまう」。だから無派閥の与謝野さんを挟むのであって、代わりが福田さんではダメなのだそうだ。ははあ、そういうルールって、今でも生きているんですか。やっぱり永田町は深い。


<3月16日>(水)

○ん、いかんいかん。昨日分の「その3」に訂正です。都議出身の自民党衆議院議員はほかにもいます。練馬区選出の菅原一秀氏、八王子市選出の萩生田光一氏もです。読者の方からのご指摘、深謝申し上げます。これ、シャレにならないのは、菅原議員はかつて日商岩井広報室勤務でワシの元部下なのである。すーっかり忘れとった。イッシュウ君、御免。本人に読まれないといいけど。

○本日発売の日刊ゲンダイで、かんべえのコメントが掲載されています。昨晩、東京財団で安全保障問題の会合をやっている最中に、ケータイに「ホリえもんの件でちょっと・・・」と聞かれたもの。その場の勢いでパッと答えたにしては、納得のいく話ができたと思う。以下のように、この手のコメントにしては長文の引用になっている。

ネットとテレビの融合なんて、とっくの昔に言われている。AOLがCNNを傘下に収めるタイムワーナーと相思相愛でくっついたのは2001年でしたが、失敗した。融合させた上で、その先どうするのか。これが問題なのに、ビジョンが見えない。

結局、彼はフジテレビが欲しいだけじゃないかと思いますね。その先なんて考えていない。好きな彼女がいて、金でなびくかと思ったけど、向こうに嫌われ、立ち往生しているように見えます。このままではM&Aは失敗でしょうが、株を売り抜けば、『やっぱりマネーゲームじゃないか』と評判を落とす。さて、どうするのでしょうか」

○おそらく、「フジテレビが欲しい」というホリえもんの気持ちはピュアなものなんでしょう。でも、相手の気持ちを確かめるより先に、いきなりお金を出してしまったところが、女性を口説くときと同様な彼の行動パターンであるらしい。おそらく『平成教育予備校』への出演を断られた当たりで、「え?なんで?フジテレビって、俺のこと嫌いなの?」とボーゼンとしてしまったんじゃないだろうか。そんな彼に、M&Aの後の経営戦略を聞いたところで、漠然とした話しか出てこないのは当然というもの。

○フジテレビには袖にされたけれど、ニッポン放送の経営権は手中にしたホリえもん。本命の彼女に振られて、代わりに好きでもない妹を落としてしまったようなものだが、さて、これからどうする? 先日も書いたように、実はニッポン放送だけでも、十分に大きな仕事はできるはずなんですが、女子アナもトレンディドラマもないラジオ局を手に入れても、ちっともうれしくないんでしょうね。

○ところで今週号のSPA!が糸山英太郎にインタビューしていて、これがホリえもんの件について、実に卓抜な批評を展開しているので面白い。やっぱり仕手戦の場数を踏んでいる人は違うね。下記の部分なんか、もう大拍手ですよ。

ニッポン放送の社員もライブドアに買われたら、ありがとうございましたって退職金もらってさあ、みんなでラジオ日本の株でも買えばいいじゃない。100億もしないよ、3億か5億くらいで買えちゃうよ。


<3月17日>(木)

○年度末が近づいているので、人事異動で泣き笑いがある季節です。そんな中で、本日のビッグニュースは、「ウォルフォビッツ世界銀行総裁」。アメリカ人が指定席となっている世銀総裁職に、ブッシュ政権が国防副長官を推薦。ジョン・ボルトンを国連大使に任命したこととあわせて、良くも悪くもブッシュ政権らしい人事といえましょう。

○あまり聞こえのいい人事ではありません。普通であれば、「ネオコンを国際機関に輸出して、米国の思い通りに動かすもくろみ」という評価になるところでしょう。ただし、これは「ネオコンを体よく要職から外す人事」という見方もできる。実は、後者の方が正鵠を射ているとかんべえは思うのです。つまりネオコンは「狡兎死して走狗煮らる」という状態なのではないか。

○The Economist誌の3月12日号、"Back in their pomp"(ネオコンの華麗な復活?)では、ネオコンが中東における民主化の動きを喜ぶ一方で、彼ら自身は冷や飯を余儀なくされる様相を面白おかしく描写しています。

●最悪の年が過ぎて、ネオコンは復活しつつある。最近の中東情勢によって、長年の夢が証明されたと彼らは信じている。ブッシュがタリバンとフセインを取り除かなかったら、あの地域に民主主義が根付いただろうか。「ブッシュ・ドクトリンに万歳三唱を」チャールズ・クラウスハマー(Time誌)。「最後に笑うのはネオコンかも」マックス・ブート(LA Times紙)。「ウォルフォビッツをたたえよう」デイビッド・ブルックス(NY Times紙)。ネオコン外交の宿敵たちは転進を余儀なくされている。あのテッド・ケネディでさえ、ブッシュは中東で賞賛に値すると表明した。

●だからといって、ネオコンの声が将来の外交政策に届くとは思えない。彼らの影響は中東のみであり、そこは混乱のきわみである。昨年11月の選挙での叩かれぶりも想起しておこう。反戦派民主党員はもとより、共和党の現実主義派も彼らを罵った。

●第2期ブッシュ政権の顔ぶれを見るがいい。ネオコンは干されている。彼らの天敵、パウエルとアーミテージは去ったが、お仲間のダグ・フェイスとボルトンもワシントンから消えた。いかなボルトンといえど、マンハッタンから国務省やペンタゴンに手は届くまい。ライス新国務長官も要注意。「ネオコンの目標は、外交のような現実主義的手段で達成される」と強弁する向きもあるが、彼女は戦争に反対したスコウクロフトの弟子筋。同じ現実派のゼーリックを副長官に呼んで国務省を固めている。

●イランを見てもネオコンの影響力の限界は明らかだ。ブッシュは苦しげにイランとの戦争の用意はないと言う。ペンタゴンはイラクが重荷であると隠さない。ネオコンが上機嫌になるのは結構だが、ブッシュ外交がこの調子で行くと思ったら大間違いだ。

○ウォルフォビッツ人事も、こういう視点で捉えるべきだろう。世銀総裁に擬せられた候補者は、過去にパウエル、クリントン、ゼーリック、ウォルフォビッツ、フィオリーナ、そして止めはU2のボノである。これらの顔ぶれには、何の脈絡もない。世銀という組織は、ブッシュ政権のレーダーサイトの外にあって、軽く考えられていることがよく分かる。

○百歩譲って、ブッシュ政権が世銀改革の必要性を痛感しているというのなら、1995年からその地位にあったウォルフェンソン総裁を更迭すればよかったのである。クリントンに指名されたウォルフェンソン総裁は、特に有能であったとは思えないのに、10年もの任期を勤め上げた。これはひとえに、ブッシュ政権の無関心のお陰でありましょう。

○というわけで、後任の世銀総裁にウォルフォビッツを送り込むのは、すでに用済みとなった彼を「本人に傷がつかないように」送り出す、ブッシュ大統領としての「惻隠の情」と見るべきでしょう。もちろん、彼を左遷するとイラク戦争は間違いだったことを認めることになる、という事情もある。が、何よりもウォルフォビッツご本人の心境はいかばかりか。国防長官から世銀総裁に転じたマクナマラの前例があるので、表面的には「ご栄転」だが、「一丁上がり」のようでもある。ウォルフォビッツが、このオファーを断れなかったところに、現在のワシントンの雰囲気が凝縮されていると思う。

○気になるのは今後のペンタゴン内の動きである。後任の副長官は、当面空席にしておくか、あるいは無難な人物が選ばれるのでしょう。そして来年2月に発表が延期された「05QDR」の見通しがつくと同時に、ラムズフェルド長官も退任するのではないでしょうか。こちらは高齢だし、アブグレイブ事件の引責もあるので、豪華なポストを用意する必要はない。そう、空席になっている韓国大使なんかどうかしらん?

○とまあ、人事の行方が身に沁みる季節であったりして。

○最後にちょっと宣伝です。今朝の日経朝刊に谷口智彦著『通貨燃ゆ』の広告が出ておりましたが、今晩、現物が自宅に届いておりました。当欄をご愛読の方にはご案内の通り、このページで連載されていた「円・元・ドル・ユーロの同時代史」の単行本化です。谷口さんからのレターの一節に、並々ならぬ意欲を感じました。

権力があって、初めて通貨がある。権力なきところ、紙幣は一枚の紙片に過ぎない。通貨論とは、必然的に権力論にならねばならないと考えます。

○帯の文句(通貨の本質は国際政治そのものだ)は、こっちの方が良かったんじゃないのかな?


<3月18日>(金)

○朝は春らしい天気。午後ににわか雨。夜はそこそこに冷え込み。この季節ならではの一日です。雨で少しは花粉が減ってくれたでしょうか。

○今日はさる場所で、大学の先生二人のお話を聞く機会があったのですが、ご両人とも見事なまでの話ベタでした。一人目の先生は、司会者に「15分以内でお願いします」といわれて話をはじめ、レジュメの1行目に5分以上を費やす。当然のことながら、話は15分では終わらない。先生、25分になったところで急に時計を見て、おそるおそる司会者の方を見て、「あと5分ほど、いいですか?」と聞いた。そんなもん、当然、却下である。

○続くもう一人の先生は、それよりはマシなように思えたんだけど、「なにしろ私は、この場所に居ましたから」「おそらく日本人では私が最初でしょう」などと、誰も関心を持つはずのない自慢話がしょっちゅう入る。それさえなければ、話はもっと短くて済むはずなのに、これも時間が延びる。結局、何が言いたかったのか、良く分からないままに終わる。

○ご両人ともに、コンテンツなりメッセージなりは重いものを持っていたと思う。おそらく、お酒でも飲みながら時間無制限で話を聞いたら、すごく面白い人たちなのだろう。ところが「15分でお願いします」とお願いすると、急にダメになっちゃうのである。おそらく、そういう訓練をしたことがないのでしょう。

○後でお二人の経歴を見たら、ご両人はA新聞とY新聞の記者出身であった。その瞬間に、「ああ、なるほど」と思いましたな。新聞記者は、総じてお話ベタが多いと思う。上手な人を探すと、重村先生とか、岩見隆夫とか、なぜかA紙とY紙以外の人が目立つ。もともと書くのが本業なのだから、目くじらを立てるようなことではないのですけどね。今日くらい計画性のない話を聞いてしまうと、「他人に気を使うことが少ない仕事をしていると、あんな風になってしまうもんかねえ」、とつい意地悪なことを考えてしまう。

○ところで、かんべえの経験からいくと、A新聞記者は痩せ型、Y新聞記者は丸顔が多い。今日の講師は、この法則がぴったり当てはまっていたな。A紙はタカのよう、Y紙はハトのような顔であった。


<3月19〜20日>(土〜日)

○土曜日、午前10時から上智大学でコンドリーザ・ライスの講演会へどうぞというお誘いがあったのですが、午前9時に現地集合でセキュリティチェックあり、という条件に萎えてパス。案の定、土曜の朝に目が醒めたのが午前10時。花粉症の薬が良く聞いているかんべえは、近頃ホントによく寝るのである。

○大丈夫、誰かがちゃんとレポしてくれるだろうと思っていたら、Kenboy3さんが詳細な報告をアップされています。「生コンディ」とじかにお話しする機会があったということで、メロメロになっているようですが、「今回の政策演説は、ブッシュ政権で初の対アジア政策に関する包括的な演説です」というのはおっしゃる通りでして、この演説は熟読玩味する必要がありそうです。

Remarks at Sophia University Secretary Condoleezza Rice Tokyo, Japan March 19, 2005

http://www.state.gov/secretary/rm/2005/43655.htm 

○新聞ではBSE関連の部分が大きく取り上げられていますが、演説の中で触れたのはわずかに7行だけ。ほんのお印程度、といったら語弊があるかもしれませんが、せいぜいこの程度です。

Our Pacific prosperity relies on trust and a growing understanding of economic best practices. From time to time, however, trade disputes do arise among us. The latest, of course, is about Japanese imports of American beef products.

The time has come to solve this problem. I want to assure you: American beef is safe, and we care deeply about the safety of food for the people of the world, for the American people, for the Japanese people. There is a global standard on the science that is involved here, and we must not let exceptionalism put at risk our ability to invest and trade our way to even greater shared prosperity.

Let me assure you: America remains fully committed to our joint agenda for economic growth. We actively seek greater trade across the Pacific though complementary bilateral, regional and global efforts.

○そもそもBSE問題は騒ぎすぎ。たとえば下記はライス長官が東京に向かう途中で行った記者会見のやり取りである。記者たちの質問の中に、牛肉関係はひとつもない。質問の大多数は北朝鮮、それに中国(含む人権問題)に集中している点にご注目。

On-the-Record Briefing Secretary Condoleezza Rice En Route to Toyko, Japan March 17, 2005

http://www.state.gov/secretary/rm/2005/43637.htm 

○BSE問題で「アメリカが怒っている、大変だ」と騒いでいるのは、早く輸入を再開したい日本側が、外圧を利用するという、昔懐かしい手口を使っているのではないかしらん。どうでもいいことだが、小泉首相が「ビーフ(牛肉)の問題だけで来たわけじゃないと。名前がライスですからね」と言ったそうだが、記者団はそこですかさず突っ込まんかい。「ほら、やっぱり牛丼じゃないですか」

○話を戻して、ライス長官は2月8日にはパリ政治学院で欧州政策に関する包括的な演説を行っており、返す刀で3月19日には上智大学でアジア政策をまとめている。どちらも自分の手で書いているのでしょう。しかも東京に来たのはアフガニスタンからの直行便で、この後は韓国、そして中国。いったいいつ寝ているのか、不思議なくらいですが、とにかく国務長官としてやる気満々といったところです。やっぱりこの人は、ペンタゴンよりもフォギー・ボトムが似合っているようだ。

○国務長官としての気概を感じるのは、国務省の大先輩であるところのジョージ・コナンの逝去によせて東京から発したこのお悔やみである。

Death of George F. Kennan Secretary Condoleezza Rice Tokyo, Japan March 19, 2005

http://www.state.gov/secretary/rm/2005/43640.htm 


It is with profound sorrow that I learned today of the passing of George F. Kennan. I knew him, and I admired him as one of the greatest strategists in the history of American foreign policy. He had a profound influence on me.

Ambassador Kennan had the vision to discern the underlying patterns of human affairs where others saw only disconnected shards. He believed passionately in the power of ideas, and that to be effective, policymakers must understand the tectonic forces of history moving beneath the surface of political events. Secretary of State George Marshall, who appointed Mr. Kennan the founding Director of the Office of Policy Planning, said he had a gift for "seeing around corners."

From his famous "Long Telegram" to his contributions to the Marshall Plan, Ambassador Kennan helped create the intellectual context within which America’s successful Cold War diplomacy operated for over half a century. His many books and memoirs, and his devotion to Russian and Soviet studies in the United States, made a lasting contribution to scholarship.

Ambassador Kennan’s legacy has been an inspiration to generations of men and women in the Department of State. So it will remain long into the future. I join my colleagues at the Department of State in honoring Ambassador Kennan’s service to the nation. We send our deepest condolences to Mrs. Annelise Kennan and the entire Kennan family.

○これに関するコメントは、雪斎殿にお願いしたいところですな。


<3月21日>(月)

谷口智彦著『通貨燃ゆ』を読了しました。谷口さんのことは、この不規則発言ではよく登場するので、ご存知の方が多いと思います。ジャーナリズムの世界で、安全保障と金融の両方をカバーしている人はめずらしく、強いて彼以外は誰かと考えると、いきなり船橋洋一氏になってしまう。船橋氏には、やはり『通貨烈々』という著作があるけれども、とにかく為替を語ろうと思ったら、政治と経済の両方に詳しくなければならない。そういえば船橋氏は、間もなくブルッキングス研究所の研究員になられるそうで、英語が飛びぬけて上手なことも含めて、お二人には符合する点が少なくないような。

○ともあれ、為替の動きを説明するときは、政治と経済の両方に精通する必要があって、当然ながらそういう人は少ない。だから、「円安にふれたのは、投資家が北朝鮮のリスクを嫌っているから」などといった怪しげな説明が多くなる。あるいはミスター円とか呼ばれる人がカリスマになってしまい、怪しげなご託宣をすると、これがまた不思議と外れたりするのである。誰ですか、「為替の榊原、政治の森田、軍事の田岡、株価の北浜」なんて言っているのは。――君たち、「競馬の井崎」を忘れてはいけませんよ。

○話を戻して、本書は副題にある「円・元・ドル・ユーロの同時代史」として、優れた読み物になっている。たとえばブレトン・ウッズ会議において、ケインズは当初、新設されるIMFと世銀のせめてどちらかをロンドンに置くように訴え、次は「せめてワシントンでなく、ニューヨーク」に置くべしと抵抗したという経緯を知ると、今日の「ウォルフォビッツ世銀総裁」人事をめぐる欧米間の葛藤への理解が深まるというものであろう。やはり歴史について詳しくなることは、あらゆる分析の原点なのである。

○とまあ、手放しで誉めてもいいのだけれど、せっかくなのでイチャモン、というより以下、何点かないものねだりを書いておこう。

○「為替は経済だけでは語れない」のは疑いの余地がないとして、では「国際政治を語れば為替が分かるのか」というと、そこはやっぱり分からないところが残る。現に本書も、これから先のドルの行方については、「強力なブッシュ政権が基軸通貨の耐久力をぎりぎりまで試す」という言い方で終えている。つまり、「谷口政治経済学」をもってしても、為替の将来予測ということについては限界がある。となると、せっかくのポリティカル・エコノミー・アプローチも「なーんだ後講釈か」で終わってしまう恐れがある。

○どうせだから、(敢えて)「ドル安は起きない」という予言をもって本書を終えておけば、為替論に対する新たなアプローチとして注目を集めることができたのでんじゃないだろうか。というのは、かんべえはすでに「年後半はドル高」という論者であるからそう思うので、谷口さんはむしろ以前から米国の不均衡の大きさに注目していたので、本を売るために路線を変更せよというのは、無理な相談というべきだろう。それから本書の巻末にある索引と278の脚注は、アカデミックな批判に耐えようという意志の表れであろうから、妙な助平根性が入り込む隙間はなかったものと拝察する。

○もうひとつのないものねだりは文体である。かんべえは以前から「谷口節」のファンだし、日経ビジネス人文庫から出た「タテ読みヨコ読み世界時評」も、あの軽妙さが多くのファンを獲得したと思う。ところが今回は、ネット上で長期間連載したためか、「ここは節をあらためて・・・」といった合いの手が多いのが、ちょっと気になった。谷口節がいちばん冴え渡るのは、おそらく長いものを書き下ろしで書いた場合なので、是非次はそういう本をモノしていただきたいとお願いしておきます。

○というのはさておいて、ネット上で物を書くというのは難しいのである。妙な喩えだけれど、脚本を書くときは、マンガと舞台と映画では語調を変えなければならないのをご存知でしょうか。マンガは絵が動かないから、絶叫調のセリフを多くした方がいい。映画は間近に迫って絵が撮れるので、セリフはなるべく弱めにした方がいい。舞台は客が遠くから見ることになるので、セリフに強弱をつける必要がある。そんなわけで、マンガを映画化すると、得てして絶叫シーンが多くなって変なことになる。

○活字とネットというのも、そのくらい違う。ネットの読者というのは、活字の読者に比べて辛抱強くない。最初のパラグラフがつまらないと思ったら、すぐにほかのページに飛ばれてしまう。この溜池通信だって、読者の4人に3人は30秒以内でほかに行っちゃうんですよ。そういう浮気な不特定多数を相手に、5年以上もこういうページを運営していると、だんだんコツが分かってくる。しかるにその結果、かんべえは変化球の球種が増えすぎたピッチャーのようになってしまった。あらためて何か書こうとすると、「はて、俺の本来のフォームはどうだったのだろう?」と悩んでしまったりする。困ったものである。

○と、最後は愚痴になってしまったが、ともあれ、『通貨燃ゆ』が多くの人の目に止まることを祈っております。


<3月22日>(火)

○ライス長官の上智大学演説をあらためてチェックしていて、細かな間違いに気がついた。以下の部分です。

Our Asia Pacific community has accomplished a great deal -- but challenges to our collective security and the security of Asia remain. Above all, the scourge of terrorism requires a resolute commitment from every nation. Asia has seen the dark face of terrorism, from the bombings in Bali and Jakarta, the kidnappings in the Philippines, and of course, the attack by terrorists on a Tokyo subway just a few years ago.

○アジア太平洋地域におけるテロ問題を扱った部分で、「東京の地下鉄でも、ほんの2、3年前にテロ攻撃があったでしょ」と言っている。ブッブー。ここは、「2、3年前じゃありませんがな。明日でちょうど10周年でんがな〜」と突っ込まなければなりません。(と、大阪弁になってしまうのはなぜなんだろう?)。

○別に目くじらを立てるほどの間違いではありません。せいぜい、「これが1日ずれて3月20日の演説であったら、かなり恥ずかしい間違いであったろう」というくらいである。また、こういうミスが紛れ込むということ自体、演説の全文を自分で書いていることの証拠と見ることもできる。その一方で、つい先日までNSCで自分の部下であったマイケル・グリーンあたりに、事前に「これ、ちょっと読んどいて」と頼めば、すぐに気づいて直してくれたであろうミスでもある。書き上げてからさほど時間がなかったか、あるいは秘密が漏れることを警戒しているのか。まことに細かな点ではありますが、彼女の仕事の仕方というものが窺える、痕跡のようなものだと思います。

○その「地下鉄サリン事件10周年」は、当日朝に起きた玄海灘沖地震のせいで霞んでしまった感もあります。そういえば、この欄でも取り上げなかった。それでも、あらためて考えてみると、10年前のあの事件の後は、地下鉄に乗るのが本気で怖かった。今さらながら言うのも変なのですが、私はあの日、乗客を外に誘導するとともに、自分はサリンの後始末をしていて、亡くなられた営団地下鉄の職員の方々に、心からの敬意を抱くものです。

○最近、しみじみ思うのですが、駅のホームの風景というのはいいものだな、と思います。電車が時刻どおりに到着する。そのことを誰も疑っていない。かならず視界の中には駅員さんがいて、白手袋をした指で、電車の行く方向を示している。そうやって正確なダイヤを守っている。あれって、おそらく日本だけの習慣じゃないかと思う。大袈裟に思われるかもしれませんが、失われつつある日本社会の美徳を、最後にかろうじて残しているのが駅の風景なんじゃないでしょうか。

○警察の不祥事だとか、公務員の失態だとか、子供の学力低下だとか、いろんなことがある世の中ですが、駅のホームが乱れ始めたら、いよいよこの国も危ないと思いますぞ。


<3月23日>(水)

○昨日の「日本の駅員さんは偉い」という指摘に対し、日本の鉄道ダイヤの正確さを称えるメールが1通、そして2人の方から同時に「南北線をなんとかしてくれい」とのご意見。そうですよね、都営三田線もそうなんですが、最近は駅員さんのいないホームが増えているのです。運転手がカメラで確認してドアを閉めるので、下手をすると体を挟まれそうになるらしい。駄目です。そんなんじゃ、サリン攻撃に対して脆弱すぎます。

○夜は若手研究者の会合へ。ドクターになったKenboy3氏に会う。名刺をもらうと、「専任講師 政策・メディア博士」とある。さすがSFCは、先生の肩書きからしてぶっ飛んでいる。こちらはいつまでたっても、最終学歴は学士様なので、だんだん学歴コンプレックスが身に沁みる今日この頃。

○旬の話題をひとしきり。たとえば3月18日にペンタゴンが発表した以下のような文書について。

●National Defense Strategy(DOD): http://www.defenselink.mil/news/Mar2005/d20050318nds1.pdf

●National Military Strategy(JCS): http://www.defenselink.mil/news/Mar2005/d20050318nms.pdf

○まあ、読んでられませんわな。これらの文書の元には、2002年のNational Security Strategy(White House)=ブッシュドクトリンがあって、それを展開させたものが今回のNDSとNMSであり、さらに現実に落とし込むと2005年版のQDR(発表は来年1〜2月にずれ込む予定)になるというわけ。

○その他の話題は、ライス演説、六カ国協議の行方、日韓関係の悪化、中国の反国家分裂法などなどなど。どこでも共通しているのは、「民意の暴走」である。日本は島根県議会が、竹島問題という「寝た子」を起こしてしまった。韓国では反日感情の炎上に手がつけられない。中国の反国家分裂法は世紀の愚策で、とうとう欧州も対中武器禁輸の解禁ができなくなってしまった。

○ブッシュ大統領が言うような「民主主義を広げる」はまことに結構なことながら、国家の都合やら地域の安定やらを揺るがしてしまう民意の暴走をいかがせむ。皆さん、同じことでお悩みのように拝察するが。


<3月24日>(木)

○こないだから気になっているデータがある。ギャラップ社のStates of the Unionという調査では、@大統領の支持率、A現状への満足度、B経済への自信度、という3つを定期的に調査している。この中の3番目の数字が妙な動きをしている。現状への自信度はそこそこの水準を維持しているのだけど、将来への期待度が年明けから低下しているのだ。そのため、現在と将来の格差はどんどん広がっている。

●Economic Confidence Ratings (Gallup)

  Current Situation Future Expectaions Difference
Sep 13-15 17 2 -15
Oct 9-10 12 -5 -16
Oct 11-14 12 -11 -23
Nov 7-10 16 6 -10
Dec 5-8 18 5 -13
2005 Jan 3-5 24 6 -18
Feb 7-10 24 3 -21
Feb 21-24 18 -5 -23
Mar 7-10 19 -9 -28


1. How would you rate economic conditions in this country today -- as excellent, good, only fair, or poor?

Current Economic Situation Index = % Excellent/Good - % Poor

2. Right now, do you think that economic conditions in the country as a whole are getting better or getting worse?

Future Economic Expectations Index = % Better - % Worse

○昨年10月に一時的に将来期待が低下したのは、察するに米国大統領選に関する緊張感によるものだろう。それが済んでからは、「現状への自信」と「将来への期待」の差はそれほどではなかった。今年に入ってから、米国は足下の景気は良くて、金利は上昇し、インフレ懸念も出てきたというのに、将来への期待度はどんどん下がっている。さあ、この下げトレンドの理由が分からない。

○この手の調査では、「ミシガン大消費者信頼感指数」がもっともよく使われる。が、この数値も3月は低下している。理由はよく分からず、エコノミストの間でも意外感がある。1ガロン2ドルを超えたガソリン価格が悪いんじゃないか、とか、双子の赤字の将来を懸念している、といった後講釈は簡単にできるのだが、雇用など景気に関する指標が総じて好調であることを考えると、どうにも納得しにくい。

○2〜3月になって将来期待が低下している、ということから、「年金問題が話題になったから」という仮説を思いついた。日本でもそうでしたが、年金を話題にすると、誰でも不機嫌になりますからね。日本の場合、昨年の6月頃に年金問題がピークをつけ、その辺から景気が足踏み局面に入ってしまった。米国の場合は、ブッシュの一般教書演説が年金問題に火をつけ、それが医療や他の問題にも飛び火し、なかなかにややこしいことになっている。

○日米ともに、ベビーブーマー世代の引退を間近に控えている。彼らが年金の受給者になってしまうと、もう抜本的な改革は不可能になるだろうから、早いとこやるべしという政治的な思惑がある。その辺の事情は、当のベビーブーマーたちには丸見えなので、どうしたって論議はヒートアップする。ナーバスになる人が増えて、将来期待は低下するというわけだ。

○ここでひとつ思うのは、日米ともに長期金利が7〜8%あったらどうなっていただろうか、ということだ。その場合、企業部門は「えらいこっちゃ」になるし、借金している人は大変だけれども、資産のある高齢者はハッピーということになる。最近の日本だと、1億円くらいの金融資産を持つ家庭は少なくないだろうが、そういう家は「税込みで年間7〜800万円」の不労所得が出ることになる。「ウチは年金なんて当てにしてないよ」と余裕で言えちゃうわけである。

○ところが現実は低金利である。だから年金がいくらもらえるか、心配でしょうがないということになる。まあ、そもそもがお金を運用したい人はいっぱいいるけど、借りて使いたい人が少ない(正確には、貸しても大丈夫な人が少ない)のだから、金利は上がらないし、借り手が優位になるのは当然である。「高齢化」と「低金利」と「不機嫌な時代」というのは、実は三点セットなんじゃないだろうか。だとすれば、「景気は悪くないのに、将来期待は低下する」という現象を説明することができる。どうでしょ?


<3月25日>(金)

ヨミウリウィークリーに「経済現論」というコラムがあるのですが、4月から執筆陣に入る予定です。だもんで、今宵は編集の人と会食。

○新聞社系の週刊誌というのは、なかなかに難しいところがあるようだ。エッチ記事は載せられないし、訴訟を一杯抱えるようなリスクも取りにくい。「SPA!」みたいに、読者を一定層に絞り込むわけにもいかない。病院の控え室に置いて、違和感がないような作り方をしなければならない。要するにあんまり目立っちゃいけない、みたいなところがある。それで読ませる記事を作るというのはツライ。

○「いっそのこと、ナベツネさんのページを作ったらどうですか?」とけしかけてみたけど、それはやっぱり難しいらしい。何も他の媒体に出させることもないと思うのだが。あれだけ強烈なキャラクターを、使わないのはもったいない。ナベツネを対談のホストにして、ゲストにホリえもんを呼んで説教を食らわせるとか、細木数子先生と天下国家を語りあうとか、あるいはそのものズバリ、「ナベツネ大いに吼える」という連載を書かせるとか。

○今時、あだ名がつくカリスマというのはそんなに多くない。フジテレビの日枝会長など、あれだけ連日テレビに出ているのに、今でも「日枝会長」である。その点、ナベツネとエビジョンイルには遠く及ばない。とまあ、こんな無責任なことを言っておりますが、サラリーマンとしては上司を使う企画には、慎重にならざるを得ないでしょうな。とくにコントロールできないようなタイプである場合は。

○家に帰ってから日本―イラン戦。1-0から追いついて、また引き離された。残り10分。うーん、気になります。


<3月26〜27日>(土〜日)

○唐突ではありますが、以下は最近知った「へぇ〜」。

●「マツケンサンバ2」の作曲家である宮川彬良氏は、宮川泰氏の息子である。

○宮川泰氏といえば、今では紅白歌合戦の最後に「蛍の光」の指揮をとるダンディなおじさん、ということになっている。が、かんべえのような世代にとっては、たしかに歌謡曲を量産した作曲家ではあるけれども、その最高傑作、もしくはもっとも多くの人に愛された曲はといえば、本人が嫌がるかもしれないけれども、「宇宙戦艦ヤマト」以外ではあるまい。(暇な人は不規則発言の2001年9月2日分を読み返してくれたまへ)。

○その「宇宙戦艦ヤマト」の作者の二代目が、「マツケンサンバ2」を生んだというところが面白い。大衆の心をつかむ何ものかが、この親子には伝わっているのだろう。そういう才能は、いくら音楽の勉強をしたところで身につくものではあるまい。宮川彬良氏には、こんなファンクラブのページもあるようで、ますますご活躍を祈りましょう。

○ところで、これを調べている最中に発見したもうひとつの「へぇ〜」。

●JRAのG1レースのファンファーレは、東日本(東京・中山競馬場)はすぎやまこういち作曲、西日本(阪神・京都・中京競馬場)は宮川泰作曲である。

○すぎやまこういち氏の場合は、最高傑作は「ドラゴンクエストシリーズ」でしょうね。日本のソフトパワーないしはクリエイティビティというものは、案外とこういう人たちが支えているものである。


<3月28日>(月)

NHK杯将棋トーナメントは、3月20日に放映されていた決勝戦(羽生四冠王対山崎六段)が、玄界灘地震報道のために中断されてしまい、1週間後の3月27日の放映となりました。こういうこともめずらしくて、将棋ファンとしては「どっちが勝ったんだ?」とやきもきした1週間でした。なにしろちょうど、駒がぶつかり合った当たりで放送が中断されてしまったもので。

○こういうとき、将棋界の関係者は、「どっちが勝ったか」を知っていても、明かすことはできない。とはいえ、ファンは聞きたがるので、先週1週間はトボけるのが大変だったそうです。「ラーメンおたく」の配偶者に聞いた話によれば、「テレビチャンピオン」(TV東京)にも同じルールがあって、たとえ優勝者といえど、収録日から放映日までは「自分が優勝したこと」を口外してはいけないのだとか。これはなかなかにツライ立場でありましょう。

○そんなイライラがあった上で、昨日は何の邪魔もなく、決勝戦が最後まで放映されました。結果はなんと、山崎六段の大金星。私はずっと、どこかで「羽生マジック」が出るだろうと思いながら見ていて、最後の8八金あたりで「来たか!」と思ったのですが、山崎六段は最後まで揺らぎませんでした。さすがは渡辺竜王と並ぶ若手のホープです。この二人、朝日オープン選手権でも衝突するのですね。

○NHK杯で負けはしたけれど、羽生四冠の好調に変わりはありません。2004年度は実に60勝18敗の勝率7割6部9厘という絶好調でした。一時は無冠転落かと思われた時期もあったのですが、王位戦を奪取し(谷川王位)、王座戦を防衛し(森内竜王名人)、王将位を奪取し(森内名人)、棋王位を奪取し(谷川棋王)、とうとう名人への挑戦者にもなった。こうなるとファンとしては、「名人通算5期で永世名人」なんてのは当然で、「あとは竜王と棋聖か・・・」などと気が早いことを考えてしまう。

○ところで、今日は久しぶりに「週刊将棋」を買ってみたところ(いつの間に300円に値上げされたんだろう?)、5月号の「近代将棋」の広告が掲載されていて、その表紙が「来たぞ!山崎NHK杯初優勝」である。下手をすると、NHKで決勝戦が放映される前に、この雑誌が書店に並んじゃう可能性があったというわけ。書店や配送に携わる将棋ファンは、「あれれっ」と驚いたかもしれませんね。


<3月29日>(火)

○事後報告となりますが、溜池通信の3月11日号は当初に掲載したものを差し替えてあります。約3行、削除してあるのですが、その該当部分というのは、ある研究会の場で聞いた報告を、ご本人の許可なくそのまま使ってしまったものです。たまたまご本人がそれをご覧になり、「あれはひょっとして・・・?」とご指摘になり、あわててお詫びを申し上げた次第です。汗顔の至りとはまさにこのこと。

○このニューズレターはもう6年も書き続けておりますが、以前にもこういうケースがまったくなかったとはいえません。「ま、いっか」で、「えいやっと」書いてしまって、知らない間にご迷惑をかけたり、「アイツはしょうがない」と思われている可能性があります。もとより、本誌はアカデミズムともジャーナリズムとも無縁な奇妙な媒体ではありますが、それは不正直さへの言い訳にはなりません。まして最近は、少なからぬ読者がいるわけですので。

○毎週、いろんなことを書いているうちに、われながら惰性と妥協が生じていた感があります。あらためて心したいと思います。以上、反省と若干の決意表明のために。


<3月30日>(水)

○「経済産業省名鑑」という本があります。時評社という会社が毎年出しており、4500円とけっしてお安くはないのですが、かんべえの勤務先の図書室では毎年購入しています。それどころか、購入の際の伝票には私がハンコを押してたりするのですが。経済産業省の職員の方々が出ているので、使用頻度は高いほうに属します。おそらく商社のみならず、経済産業省に関連するさまざまな業界の企業が、この本を購入しているでしょう。

○このダイレクトリーの2005年版をパラパラと見ていて、あるページでふと手が止まりました。その部分だけ、白紙に近くなっているのです。書いてあるのは本人の名前と肩書き、あとは「(平成)16年6月 現職に就任」という1行のみです。それ以外のページでは、名前と肩書きのほかに、「生年月日」、「出身地」、(なぜか)「血液型」、「出身高校」、「出身大学」、「入省年度」、「略歴」、最後は「趣味」まで書かれているというのがデフォルトです。ところが、ある人だけがまったく情報開示されていない。さて、何があったのか。

○よくよく見れば、その人の肩書きは、「個人情報保護室長」でありました。個人情報保護法は、4月1日から施行されます。IT時代においては、さまざまな情報源を重ね合わせることにより、従来は考えられなかったようなプライバシー侵害の可能性があり得ます。同法は内閣官房にチームを作り、各省庁の協議で成立したことになっていますが、中心的な役割を果たしたのは経済産業省であったと聞いています。おそらく同室長は、「隗より始めよ」で自己のデータを出さなかったのでありましょう。そのことを発見して、「この本はなんて危険なんだろう」ということにあらためて気がつきました。

○たとえば「趣味:剣道」と書いている人がいるとします。その人はかなりの確率で、出身大学における剣道部の出身でしょう。だとすれば、自社の社員の中で、その大学の剣道部出身の人を探し当てれば、「なーんだ、あいつかぁ」という話になるでしょう。あるいは、「XX年にシドニー駐在」と書いてあるならば、その頃にシドニーに駐在していた社員を当たれば、これもかなりの確率で「ああ、その人なら知ってます」ということになる。どこの社会でもありがちなことですが、知り合いベースで当たっていけば、その人にコンタクトをとるための時間とコストは相当にセーブできるはずです。

○とまあ、その辺は、この本の正統的な使い方です。しかし使い手に悪意があれば、その人のプライバシーにどんな累が及ぶかは保証の限りではありません。何より、大半の人には顔写真がついているのです。およそ顔写真こそは、究極の個人情報。それが4500円で買えてしまうというのは、かなり怖いことのような気がします。

○かんべえは、個人情報保護法の中味についてはよく知りません。せいぜい、こんなブログをたまに読んでみる程度です。それでも、「経済産業省名鑑」(もちろんほかの省庁にも同種のダイレクトリーが売られている)は、4月1日を過ぎればこの世から消えてなくなるわけではないのでしょう。「国家公務員は公人なのだから、そのくらいは当然」「本人が提供しているデータなのだから構わない」といったロジックで、正当化されるのだと思います。

○それにしても、「自分は個人情報を載せたくない」という人がいれば、その権利は当然、認められるべきでありましょう。「経済産業省名鑑」はまことに便利なダイレクトリーであり、妙に人間臭くて温かみを感じるのですが、あんまり饒舌なのも考えものかもしれません。


<3月31日>(木)

○年度末であります。帳尻併せに苦労しておられる方が多いものと存じます。シンクタンク業界は、官庁からの受託業務の締め切りがこの日にかかる事が多く、あっちでもこっちでも忙しがっている今日この頃です。

○年度末の帳尻併せということでは、貿易の通関統計がちょっと気になるところです。いささか旧聞に属することになりますが、2月の輸出がえらく減っていた。すわ、景気腰折れかという話になったのだが、これは貿易業界プロパーの間では「またか」という話でありまして、いわゆる「春節」効果というやつです。昨年の旧正月は1月だったけど、今年は2月になっている。だから前年同期比で見ると、1月は伸びが誇張され、2月はへこみがはっきりと出る。現に2月の輸出が減っているのは、(旧正月にお休みする)中国とNIES向けに限られていて、アセアン向けはそれほど減ってない。また、輸入はほとんど影響を受けてない。だから、2月の輸出が減ったように見えても、あわてることはない。

○それでも数量ベースの輸出落ち込みが大きいので、「本当に2月に減った分が3月に取り戻せるのだろうか」という点は、ちょっと気になる。3月の輸出が大きく伸びて、1-3月期で見た数字が普通の線で落ち着くのであれば、なんら心配することはない。そもそも通関統計なんぞ、四半期で見た方が、ブレが小さくなるからいいのであります。と分かっていても、月々のデータに一喜一憂するのが、エコノミストの性分と申しましょうか。

○では、本当に3月の輸出は伸びているのだろうか。たとえばブツはあったとしても、船の手配ができなかったら輸出は止まる。ブツを作ろうにも、何かのボトルネックがあれば、予定通りに物事は進まなくなる。その辺で、3月の生産と船積みがちゃんとできるかどうかが心配になってくるわけです。とくに大きな輸出品目である自動車は、ちゃんと予定通りに生産して、予定通りに船積みができるのか。

○そこで注目されるのが「三六協定」なのです。かんべえは昔、労働組合をやっていたので、これは懐かしい言葉なんだけど、知らない人の方が多いかもしれません。まあ、細かな説明はこんなページでもご参照ください。要するに残業時間の制限を決めた労使間の協定のことです。関係者は、なぜかこれを「サブロクキョウテイ」と呼ぶ。「サンロク」と呼ぶと、素人めと笑われます。この辺は、なぜか競馬に似ている。「三六協定」と「枠連のB―E」は、「サブロク」と呼びましょう。

○さて、自動車産業における三六協定が注目を集めているのです。ぶっちゃけた話、「年間の残業時間枠、トヨタさんはちゃんと余しているのか?」 もし年間の残業時間の枠を使い切ってしまっていたら、「作れば売れる」と分かっていても、自動車の生産はストップしてしまう。ところが、そこはさすがにトヨタさんであって、昨年秋から残業枠を残すように配慮していて、年度末に枠を残しているらしい。だったら、心配は要らない。生産は間に合うし、船積みもできるだろう。

○ちなみに、昨日発表された3月上旬の通関統計の速報値がここに出ている。前年同期比で輸出は16.2%の伸び、輸入は7.9%の伸びである。どうやら、3月は順調に増えて、2月の落ち込みをカバーしてくれそうだ。それにしても、「三六協定」が「通関統計の輸出」を左右するというのは、「悪魔は細部に宿る」という言葉の典型ではないかと思う次第です。






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by Tatsuhiko Yoshizaki