●かんべえの不規則発言



2004年5月




<5月1日>(土)

○月も改まったところで、4月28日に発表された2003年版米国務省テロ年次報告についてご紹介します。

○アメリカの国務省には、Counterterrorism Officeというセクションがあり、ここが毎年4月末にPatterns of Global Terrorismという報告書を出します。話題になったのはその最新版というわけ。アメリカが世界のテロをどう見ているか、世界各国の情勢を分析しているところがお値打ちの文書です。

○この文書の注目点のひとつが"Overview of State-Sponsored Terrorism"です。アメリカは、キューバ、イラン、イラク、リビア、北朝鮮、スーダン、シリアという7つの国を「テロ支援国家」と名指ししている。この「ご指名」は毎年ほとんど変わらないので、名指しされている国としてはまことに名誉というか迷惑というか、とにかくこんなレッテルを張られている限り、まともな直接投資は入って来るはずがない。だから、あわよくばご指名を外して欲しいというのが各国の切なる願いとなる。

○現に大量破壊兵器を放棄すると宣言したりビアは、今年の文書ではかなり好意的な記述になっている。スーダンもずいぶん量が増えましたね。アメリカとしては、「いい子」にする国に対しては「アメ」をあげなければならない立場なので、ここはそうするのが自然です。ひょっとすると、「ご指名」を解除してもらえるかもしれない。

○では、北朝鮮はどんなことを書かれているかというと、今年の分は以下の通りです。

North Korea (2003)

The Democratic People’s Republic of Korea (DPRK) is not known to have sponsored any terrorist acts since the bombing of a Korean Airlines flight in 1987.

Following the attacks of September 11, Pyongyang began laying the groundwork for a new position on terrorism by framing the issue as one of “protecting the people” and replaying language from the Joint US-DPRK Statement on International Terrorism of October 2000. It also announced to a visiting EU delegation that it planned to sign the international conventions against terrorist financing and the taking of hostages and would consider acceding to other antiterrorism agreements.

At a summit with Japanese Prime Minister Koizumi in Pyongyang in September 2002, National Defense Commission Chairman Kim Jong Il acknowledged the involvement of DPRK “special institutions” in the kidnapping of Japanese citizens and said that those responsible had already been punished. Pyongyang has allowed the return to Tokyo of five surviving abductees and is negotiating with Tokyo over the repatriation of their family members remaining in North Korea. The DPRK also has been trying to resolve the issue of harboring Japanese Red Army members involved in a jet hijacking in 1970 -- allowing the repatriation of several family members of the hijackers to Japan.

Although it is a party to six international conventions and protocols relating to terrorism, Pyongyang has not taken substantial steps to cooperate in efforts to combat international terrorism

○下線部が、「初めて拉致問題が取り上げられた」と騒がれた部分。別にたいしたことは書いてないように思えるが、これを2000年版と比べると大きな違いになっている。

North Korea(2000)

In 2000 the Democratic People's Republic of Korea (DPRK) engaged in three rounds of terrorism talks that culminated in a joint DPRK-US statement wherein the DPRK reiterated its opposition to terrorism and agreed to support international actions against such activity. The DPRK, however, continued to provide safehaven to the Japanese Communist League-Red Army Faction members who participated in the hijacking of a Japanese Airlines flight to North Korea in 1970. Some evidence also suggests the DPRK may have sold weapons directly or indirectly to terrorist groups during the year; Philippine officials publicly declared that the Moro Islamic Liberation Front had purchased weapons from North Korea with funds provided by Middle East sources.

○2000年版はあっさりしていて、「よど号ハイジャック犯を匿っている」ことが、ほとんど唯一のテロ支援行為だった。この指摘自体は、毎年繰り返されていて、2003年版にも残っている。北朝鮮の罪状がこれだけであれば、「いい子」にすれば「ご指名」を解除してもらえたかもしれない。しかし2003年版においては、「拉致は国家テロ」と認定された。つまり北朝鮮にとっては、日本人拉致問題を解決しないことには、テロ支援国家という「ご指名」は消えない理屈になる。

○こうしてみると、「テロ年次報告が、北朝鮮の拉致問題を取り上げた」ことの意義は大きい。少なくとも、北朝鮮にとっては打撃であろう。イラクがアメリカの事実上の支配下にある現在、7つのテロ支援国家の中では、おそらく北朝鮮はもっとも罪状が重い方の国である。ちょっとくらい「いい子」になっても、待遇が改善されると思ってもらっては困るのである。


<5月2日>(日)

○国会議員の年金未納問題が、日曜午前の番組を騒がせているようです。なぜこんなに間違いが生じるかというと、議員が大臣や政務官などになって政府の一員になったとき、健康保険は共済に切り替わるけど、年金は切り替わらないから。健康保険は誰でも気にせざるを得ないけど、年金の方は普通は気にしないものね。

○サラリーマンをずっと続けているかんべえから見ると、しょっちゅうステータスが変わる人たちがその辺を間違えることを、あんまり責める気にはならない。「政治家は国民に範をたれなければならない」というのは、マスコミ的にはおいしい議論ですけど、所詮は建て前論ですからね。

○今回の騒動で、かんべえが唯一腹立たしく感じているのは菅直人・民主党代表です。「未納三兄弟」などと他人を罵しるときは、「ひょっとして自分は大丈夫だろうか」と普通はチェックするもんです。それを思いつかなかったとしたら、あまりにも脇が甘すぎて政治家として情けない。人を呪わば穴二つ、というではありませんか。

○なおかつ、未納がばれても「行政上のミス」などと言い張るところがさらに見苦しい。野党の党首がこのざまで、どの面下げて2ヵ月後の参議院選挙を戦うつもりなのか。このままいくと、彼は民主党候補者の誰からも応援演説を頼まれないことになるだろう。自民党にとってみれば、「菅さん、頼むから、このままずぅ〜っと野党の代表をやっていてほしい」ということになる。せめて間髪をいれずに党代表を辞任していれば、民主党としても「未納閣僚は責任を取れ」と言えたのにね。

○それはさておいて、かんべえは年金制度について政治や行政を責める気にはなれないでいる。なんとなれば80年代後半に、高齢化問題に興味を持って、調べたことがあるからだ。長女が1987年生まれなのだけど、彼女の年代は1966年の丙午よりも少ないということに衝撃を受けたことがきっかけだった。

○その当時、年金は「世代間の扶助」ではなくて、「積み立て方式」にすべきだと思った。しかるに年金の専門家といわれる人たちの話を聞いてみると、「毎年1%程度の成長を振り向けていけば、年金制度は十分に持続できる」ということだった。1980年代の日本は、「成長率が4.5%を超えれば景気に過熱感が生じ、3.5%を下回ると不況感が生じる」という時代だった。正直なところ、だったら何とかなるかなあ、と思った。その当時、厚生省の官僚だった人たちも、当然、同じように考えたであろう。

○出生率の低下という問題に対しても、「もうじき団塊ジュニア世代が20代になって、子供を産むようになる。その分を考えれば、出生率は上昇に向かうだろう」という説明がなされていた。団塊ジュニア世代はマイホーム主義で育った世代だけに、あっけらかんと子供を産むんじゃないか、という見通しにはそれなりに説得力があった。

○当時、ドイツのように高齢化先進国の様子を調べてみると、「高齢化社会は高金利」という傾向がはっきりと出た。これは当たり前の話で、高齢者は高金利を望むし、インフレを恐れる。彼らの政治力が強くなるので、金利を下げることは難しくなる。日本も高齢化社会になれば、金利は高めに推移するだろうと思われた。

○ところが1990年代になって、上記の思惑はことごとくはずれた。日本は低成長、低金利、低出生率の社会となった。年金制度にとっては、最悪の展開である。これだけ見事に予想がはずれたら、制度がもたなくなるのも当然であろう。少なくとも、その辺の長期見通しを誤ったかんべえとしては、厚生労働省の官僚を責めることはできないと思う。

○それでは、どうすればいいのか。思惑が外れたからには、「ゴメンナサイ」と言うしかない。年金制度の破綻を避けるための解決策は2つしかなくて、「負担増」か「給付の切り下げ」、あるいはその両方である。そのどっちも嫌だ、というのは「ないものねだり」である。でもって、日本の年金が国際比較で見て異常に高いことを考えれば、おのずと答えは「給付の切り下げ」になるのだろうと思う。

○年金改革における今の与党案は、「ゴメンナサイ」を言いたくないために、いろいろ誤魔化しているように思う。その点では、消費税を上げるという野党案の方が、少なくとも政治的には誠実といえよう。国民はとにかく、誰かに「ゴメンナサイ」を言ってほしいと思っている。今のままでは持続不可能であって、そのことはもうほとんど見えているのだから。


<5月3日>(月)

○連休も今日が3日目。家族がそれぞれ出かけてくれたので、お父さんはのんびりできる一日。ということで、午前中は連休中の宿題に取り組む。講演の準備2件、雑誌のコラム1件、新聞のコラム1件、あとは申請書類の加筆(これがいちばんやる気がしない)など。なんとか半分くらいまで片付ける。

○お昼はぶらぶらと近所の蕎麦屋に出かけて、昼間からビールを飲んでしまう。一度、こういうのをやってみたかったのだ。が、意に反してあっという間に天ぷら蕎麦を食い終えてしまう。ちと残念な気がする。

○こういう日を見計らったかのように、新潮社から献本到来。『マンボウ阪神狂時代』(北杜夫)。帯には「さらば、腰痛とダメ虎の日々!」とある。読んでも賢くはならないし、何が書いてあるかもおおよその見当がつく。が、お休みの日の読書にはうってつけといえよう。阪神ファンの北杜夫氏が、2003年の優勝を祝った本という体裁を取っているが、新たな書き下ろし部分はほんのごく一部で、過去のエッセイの収録が大部分を占める。

○収録されている中では、案の定、1972年に執筆された「ヨガ式・阪神を優勝させる法」がいちばん面白い。この文章は、小学生のときに初めて読んで笑い転げた記憶がある。その当時から今日にいたるまで、阪神ファンはタイガースの不甲斐なさを何度も何度も何度も嘆いてきたわけなのだが、その中でも北杜夫の嘆きはいつも超一流なのであった。まあ、それを追体験するのだと思えば、こういう安直な出版も笑って許せるかもしれない。

○北杜夫は不思議な作家である。何が代表作かとあらためて考えるとよく分からない。一応は『楡家の人々』ということになるのだろうが、歴史に残る作家という感じではない。残した作品の数もそんなに多くない。その一方で、こんなに固定ファンを有する作家は稀有ではないだろうか。たとえば同じ時期に活躍した「遠藤周作ファン」や「星新一ファン」に比べると、「北杜夫ファン」の方がはるかにしぶといと思う。ウチでは配偶者も北杜夫ファンなので、会話の中によく「ゴンズクを出す」とか「涙がホーハイと流れる」といったマンボウ語が使われている。

○北杜夫の文章には人を中毒させるようなところがある。『マンボウ青春記』なぞ、いったい何回読んだかわからない。馬鹿馬鹿しい内容を、ほのかな含羞で包んで、嫌味なく読ませてしまう。誰にも似ていないオリジナルな文体だと思う。「軽妙なエッセイ」を書ける人はナンボでもいるが、時間をおいてから再読して感心できるような文章はそう多くはない。

○最近の北氏はまことに痛々しい状況が伝えられている。ファンとしては気がかりな一方で、「もう、あんまり馬鹿な本は出さないでください」とお願いしたい気もする。新しい本が出るとつい買ってしまうけど、ガッカリすることが多いのだ。でも北氏ときたら、本書の中でこんなことまで言っている。

「予定では20世紀じゅうに死ぬはずでしたから、生きて、タイガースの優勝をもう一度見ることが出来るなんて、想像もしませんでした。相変わらず、腰は痛いし、歯が悪くて何にも食べられないし、早く死にたいけれど、18年ぶりの優勝を見たら少しだけ嬉しくなって、この本を出す気になりました」

○しょうがない人だなあ、ホントに。でも、今年のタイガースは優勝しそうにないけど、せめてAクラスは行くんじゃありませんかね。


<5月4日>(火)

○連休中、何を思ったかわれながら長文の書き込みが続いています。そもそも毎年のGWを振り返ってみると、2000年にはこんなシリーズを書いている。昔は暇だったなあ。なんというか、この時期の不規則発言はいかにも時間をかけて書いてあるように思える。森政権の危なっかしさやゼロ金利解除の話などが懐かしい。

2001年は田舎に帰って更新を休んでいる。2002年はHPの引越しを行った。2003年はイラク戦争の終結や民主党の討論会の記事を書いている。でまあ、今年はまったくバラバラでござんす。どうも5月の連休は、自分はあんまり遠出をしていないということが判明した。その分、不規則発言に力が入ったりするのかも。

○せめてクルマで都心にでも出ようかと思ったが、首都高速のHPを見ると結構、混んでいる。すぐに断念し、利根川の河原に行って、次女Tと一緒に凧揚げをする。強風なので、ちょっと怖い。が、こんなことでパパの義務を果たしたつもりになる。まだまだ、近所の「極楽湯」に行くという手段も残されている。お手軽な連休の過ごし方はナンボでもあるのだ。

○とりあえず連休の宿題はめどがつきつつある。が、まあ、このまま出したらいかにもやっつけ仕事なので、もうちょっと見直しましょうかね。


<5月5日>(水)

○新種のウイルスが出たとのこと。ウイルスチェックを毎日更新しても、ちょっと不安な今日この頃、こんなメールをもらいました。おや、マイクロソフトが最新版のパッチを配ってくれたのかと思ったら、添付のファイルはノートンに消されてしまっていた。でも、ちょっと怪しいな、と思ってマイクロソフト社のHPを調べてみました。すると・・・・

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this is the latest version of security update, the "May 2004, Cumulative Patch" update which eliminates all known security vulnerabilities affecting MS Internet Explorer, MS Outlook and MS Outlook Express as well as three newly discovered vulnerabilities. Install now to protect your computer from these vulnerabilities, the most serious of which could allow an attacker to run executable on your computer. This update includes the functionality of all previously released patches.
 System requirements Windows 95/98/Me/2000/NT/XP
 This update applies to MS Internet Explorer, version 4.01 and later
MS Outlook, version 8.00 and later
MS Outlook Express, version 4.01 and later
 Recommendation Customers should install the patch at the earliest opportunity.
 How to install Run attached file. Choose Yes on displayed dialog box.
 How to use You don't need to do anything after installing this item.
Microsoft Product Support Services and Knowledge Base articles can be found on the Microsoft Technical Support web site. For security-related information about Microsoft products, please visit the Microsoft Security Advisor web site, or Contact Us.

Thank you for using Microsoft products.

Please do not reply to this message. It was sent from an unmonitored e-mail address and we are unable to respond to any replies.
The names of the actual companies and products mentioned herein are the trademarks of their respective owners.


○やっぱりこのメール、ウイルスでした。詳しくは下記の通り。

●偽情報にご注意。マイクロソフトを名乗るSwenウイルスが確認されています。

http://www.microsoft.com/japan/technet/treeview/default.asp?url=/japan/technet/security/virus/swen.asp 

○皆さまもくれぐれもご注意を。


<5月6日>(木)

○連休明けの会社で、メールを開けるのはちょっとドキドキ。数十本のウイルスメールは、まあ、これは驚きはしません。

○いきなり驚いたのは、イラク人「人間ピラミッド」の写真が届いていたこと。朝から気持ち悪いものを見てしまい、しばし鬱になる。しばらく親米派を休業しようかと思いましたな。これを見たブッシュ大統領が「虫唾が走る」と言ったのも、なるほど無理はない。ちょっとこのメールは他人に転送できませんでしたな。まあ、ほっといても氾濫するんでしょうけど。

それから、「すでにお耳に入っているかと思いますが、実は私は今夏に政界への挑戦をすることになりました」というメールも来ておりました。この人からです。

●硬派。れんほう。母として起つ。http://www.renho.jp 

蓮舫さんの配偶者であるジャーナリストの村田さんとは、一緒に夕刊フジの書評もやっている仲です。恥ずかしい話、ワシは奥様の名前が書けなくて、年賀状を書くときはつい端折ってしまう。でも、今度こそ覚えましたから。

○トレンドマイクロ社のウイルス情報を送ってくれた人もいました。これは助かります。

> **********************************************************************
> ◆WORM_SASSER.B(サッサー)
>   危険度:高 ★レッドアラート★
>   VAC:2  ※1
>   パターンファイル:881 (1.881.00)以降  ※2
>
http://www.trendmicro.co.jp/vinfo/virusencyclo/default5.asp?VName=WORM_SASSER.B
> **********************************************************************
>
> # 本ウイルスの感染拡大報告を受け、レッドアラートとして再度警告をいたします。
> # 日本、ヨーロッパ、米国、アジア各地など、世界規模で感染報告があります。
>
> ■■セキュリティホールへの対応を至急行ってください■■
> Windows 2000/XPのMS04-011「LSASSの脆弱性 (CAN-2003-0533)」と呼ばれるセキュリ
> ティホールを利用してワーム活動を行います。このセキュリティホールの修正を行っ
> ていないマシンの場合、ネットワーク(ダイヤルアップ)に接続しただけで感染する
> 可能性があります。
>
> 連休明けに企業などで感染が広がる可能性があります。連休明けに企業などのネット
> ワークにマシンを接続をする前に、Windows Updateを実施してMS04-011への対応を行
> うか、以下のURLからMS04-011の修正プログラムをダウンロードして、マシンにイン
> ストールをおこない、セキュリティホールを塞いでください。
>
http://www.microsoft.com/japan/technet/security/bulletin/MS04-011.asp
>
>
> ■■WORM_SASSER.B(サッサー)■■
> MS04-011のセキュリティホールを利用したワーム活動のほか、同セキュリティホール
> を利用して攻撃対象のコンピュータをリモートコントロールし、自身のコピーを転送
> 後実行します。
>
> このセキュリティホールに対して攻撃を受けたコンピュータは、「LSA Shell」
> のエラーを示すダイアログボックスが表示され、マシンが再起動してしまうこと
> があります。ダイアログの詳細は下記をご覧ください。
>
http://www.trendmicro.co.jp/vinfo/virusencyclo/default5.asp?VName=WORM_SASSER.B
>
> ○感染の危険のあるプラットフォーム
>  Windows 95、98、Me、NT、2000、XP
>
> ○感染の確認方法
> ・ワームに侵入されたコンピュータでは Windowsのシステムフォルダ内に
>  '<ランダムな数字>_up.exe'(ファイル名例:'12345_up.exe')というファイル
>  が作成されます。
> ・ワームが実行されるとシステムに常駐し、<Windowsフォルダ>に「AVSERVE2.EXE」
>  というファイル名で自身のコピーを作成します。
>
> ○ワームが侵入する方法
> ワームはセキュリティホールを利用し最終的にはFTPのファイル転送によってコン
> ピュータに侵入します。セキュリティホールが既に修正されているコンピュータに
> 対しては、ワームが自ら侵入することはできません。
> また、ワームが利用するセキュリティホールはWindows 2000/XPのみのものであ
> るため、それ以外のシステムにワームが自ら侵入することはできません。
> ※但し、CD-ROM、フロッピーディスクなどの媒体を介してワームを手作業でコピー
>  した場合は、Windows 2000/XP以外のプラットフォームでもワームは活動すること
>  ができます。

○てなことで、メールと格闘しつつ、連休中に済ませた宿題をあちこちに送っているうちに1日が過ぎてしまいました。忙しいような、忙しくないような。


<5月7日>(金)

○あっと驚いた福田官房長官の辞任。たまたま今朝、週刊文春を読んでいたのだけど、記事は無理して怒ってみせようとしている感じで、これはたいしたことにはならんだろう、と思ってました。少したってから、「あ、そうか、辞めるんだったら金曜日」という鉄則を思い出した。つまり、金曜日に辞めてしまえば、土日のテレビでは「済んだこと」になって取り上げられない。逆に辞めてない人に注目が集まるという理屈である。今ごろ、テレビ局は菅直人の映像を必死こいて集めているだろう。

○勘のいい読者は思い出されたことと思います。「鈴木宗男は金曜日に辞めた。加藤紘一は月曜日に辞めた。土日の報道番組が叩くのは誰か?」という応用問題です。そう、菅さんとしては、思い切って今日中に民主党代表を辞任すべきなのだ。でないと、明日、明後日はボロボロになるまで叩かれるだろう。選挙の2ヶ月前に、これは痛いぞ。

○とりあえず今日中に辞めておけば、再来月の選挙に向けて、民主党も体勢の建て直しができるかもしれない。(できないかもしれないが、少なくともこのまま正面突破するよりはマシであろう)。福田官房長官以外の、未納の6閣僚に対して責任を問うこともできよう。本来であれば、外遊を切り上げて帰ってきたところで、成田空港で辞任を申し出れば良かった。というか、辞めないのであれば、無理して帰ってくることもなかったのだ。

○ところがところが。今宵、かんべえは円より子参議院議員の出版記念パーティーに行っておったのです。そしたら驚いたことに、菅代表が来ちゃったのです。でもって、ちゃんとご挨拶なさる。さすがに民主党のパーティーはこういうときマッタ〜リしていて、誰も野次らない。(この優しさが仇になるのだが)。こんなことを言ってたのには、さすがに呆れた。

「まどか先生には是非、選挙に当選してもらいたい。本当ならつきっきりで応援したいのだが、私はこれから全国を飛び回らなければならないので・・・・」

○・・・・って、誰がお前を応援に呼ぶと思うのか?その後、角谷浩一氏に聞いてみたら、なんと菅さんたら、今宵は民主党の両院議員総会を抜け出して来たらしい。こんな調子では、参議院選挙はむごい結果になると思うぞ。

○会場には、「菅さんのケースは本当に行政のミスなんです。本人は悪くないんです」と言っている人もいた。でも、そこが問題じゃあないと思うのです。――という話は5月2日分で書いているので、もう繰り返しません。

○かんべえとしては、とりあえず円より子さんと蓮舫さんのご武運をお祈りしておきます。


<5月8〜9日>(土〜日)

○頑張り続ける菅直人氏には当の昔に愛想がつきておりますが、彼を引き摺り下ろせない民主党もいったいどうなっとるんじゃ、という気がしてきたこの週末である。

○さて、もう一人、海の向こうでも辞める辞めないが問題になっている人がいる。ラムズフェルド国防長官だ。今週のThe Ecnomist誌がハッキリ「辞めろ」と宣言している。以下はその抄訳。


Resign, Rumsfeld
辞任せよ、ラムズフェルド

May 6th 2004

Responsibility for errors and indiscipline needs to be taken at the top
失策と規律喪失の責任はトップがとらなければならない。


 国際テロリストとの戦いは、理念をめぐるものだ。それは法、民主主義、自由と正直さをめぐる戦いだ。フセインとの戦争は、アラブ世界に自由と人権と民主主義をもたらすためだとラムズフェルドは言った。ならば軍と政府の行動基準は高くあらねばならぬ。ところがその軍の一部が基準を下回っていることが分かった。さて、どうするか?

 ひとつの答えとして、アブグレイブ収容所でのイラク囚人に対する拷問と恥辱行為が発覚した際に、ブッシュ大統領がまさに行った方法がある。かかる行為が嫌悪すべき、許容できないものであることを明らかにし、加害者を罰することだ。英国政府もまた、捏造の疑いがあるとはいえ、虐待を示す写真報道に対して同様の対処を行っている。しかし米国の場合、それだけでは不十分だ。スキャンダルは拡大し、さらに多くの告発がありそうだ。加えて囚人の虐待はこれが唯一の失策ではないばかりか、不法行為の最たるものである。ここで生じた行為についての責任は、最高レベルで取られねばらなず、また取ったように見える必要がある。意味するところは明白だ。国防長官のドナルド・ラムズフェルドは辞任すべきである。もし本人がそうしないのなら、ブッシュが解任すべきである。

 この提言には賛否両論があるだろう。反戦論者は、最高レベルとはブッシュ本人であるべきで、大統領こそ辞任せよと言うだろう。だが、有権者は今年11月にブッシュを免職する機会があるものの、ラムズフェルドは選良ではなく、ブッシュを守るべき立場にある。あるいは、ラムズフェルドを放逐するのは行き過ぎだという声もあろう。戦争に虐待はつきものであり、重要なのはそれを罰するかどうかだと。3番目にはシニカルな反応もある。そりゃあ辞めるべきだろうよ、でも選挙の年だぜ。現実的になれよ、ということだ。

 シニカルな意見が正しいのかもしれない。だが例外的な状況もあり得る。虐待の写真、特に頭巾をかぶせられた男が電気につながれているものは、今後何年も米国を呪う象徴的なイメージになる可能性がある。ちょうどベトナム戦争のときに、ナパーム弾攻撃を逃げ惑う全裸の少女の写真がそうであったように。これだけの危険を処理するには、象徴的な行為が必要だ。すなわちペンタゴンの領袖であり、過去3年間の米国の軍事行動ともっとも一体化した人間を放逐することだ。彼はまた、これら虐待にかかわる全般的な風潮全体とも一体化しているようだ。

 このことは、グアンタナモの囚人キャンプを髣髴とさせる。アフガニスタンの戦闘員たちを、弁護士も法的救済もない場所で無期限に拘留することは、テロの脅威への短期的な反応としては理解できるものの、それは間違っていたし、米国の評判にとって壊滅的だった。米国が目指すところの理念と法の支配は台無しになり、じきに二重基準の証拠が生じた。アフガンで捕獲された米国市民は、通常の法廷で裁判を受けられたが、それ以外の外国人は危険なテロリストと見なされ、同様な権利を否定されたのだ。そして米国の評判は、こうした偽善のみならず、「決めるのは俺たちだ」という傲慢さによって地に落ちた。

 戦争捕虜の扱いを定めたジュネーブ協定は無視されている。そして米国が、国際犯罪裁判所の設置を拒否していることを正当化する議論も色褪せて見えるようになった。米国への批判者たちは言う。グアンタナモのお陰で、米国は国際犯罪裁判所のチェックを実は必要としているし、虐待は国内で裁くという主張がうそ臭くなった、と。

 現在、国内法廷の準備は進んでいるし、イラクの虐待を罰するというブッシュの約束も誠実なものであろう。たしかに虐待は避けがたい戦争の結果かもしれないし、グアンタナモとは無関係かもしれない。だが、すべての囚人は無実と証明されない限り有罪と見なされるような風潮は、軍の下のレベルに影響を与えているのではないか。こうした影響を払拭し、すべてのイラク人に対し、米国がかかる虐待を根絶することを疑う余地なく示すためには、ラムズフェルドは責任を取らなければならない。

 国防長官を責めることは、イラクでの更なる努力を危険にさらすという懸念はあるかもしれない。それは正反対だ。ラムズフェルドは1年と少し前に通常戦争を成功裏に導いた。そしてその後の多くの失敗に対して、彼と彼のチームは責任を有している。唖然とするような戦後計画、不適切な兵力、非バース化の行き過ぎなどだ。ゆえに後継者として、彼のチームからウォルフォビッツなどを選ぶのは賢明なことではない。

 暴力の泥沼、分裂して脆弱な政治集団で一杯のイラクに容易なことなどない。しかし現在の政治日程――6月30日後に国連指定の暫定政府に政権を移譲し、来年1月に選挙を行う――は正しいものである。あらゆる努力を払ってこの日程を守らねばならない。

 今週、ファルージャではイラク人兵力が警備に当たることで状況は改善し、シーア派のサドル師勢力は孤立気味である。アブグレイブでの虐待を批判し、処罰を約束するブッシュのテレビ演説は、現地の空気を和らげるだろうが、彼は率直な謝罪を提示すべきである。それはブッシュとラムズフェルドが米国の理念のひとつを自ら示すことだ。それは上に立つ者が責任を取るということだ。


○ブッシュのイラク戦争を支持してきたThe Economist誌としては、かなりキツイ物言いとなっている。そして「身代わりはウォルフォビッツじゃダメ」とも言っている。その意図するところは、「ブッシュ政権は、イラク政策の軸足を強硬派から穏健派へ(ネオコンから伝統的現実主義派に)移せ」ということであろう。実現すれば、「バルカンたち」が分裂するわけで、ほとんど宮廷革命に近いものになるだろう。

○アメリカの長官(Secretary)は、本来が大統領に対して仕えるものだから、日本のように閣僚(Minister)に向かって進退を論じるときとはおのずと違うところがある。本当ならば、ブッシュに対して「ラムズフェルドをクビにしろ」と言うのが本筋だと思う。そこを敢えて本人に向かって辞任を呼びかけたのは、温情なのか、高度な政治的判断なのかはよく分からない。

○ラムズフェルド自身は辞めないだろう。では、宮廷革命は可能だろうか。経済チームのシャッフルは簡単に出来たが、安全保障チームの入れ替えは相当なギャンブルになる。ただしその可能性はゼロではあるまい。さて?


<5月10日>(月)

○民主党の政治ベタにはほとほとあきれ返ります。

〇今宵の両院懇談会では、次の代表は決められなかった様子。鳩山さんに続いて、菅さんも引きずり降ろされる形になって、これじゃあ誰だって次の代表を受けるのは嫌ですよね。2度あることは3度ある。誰が次の代表になるにせよ、このことは民主党に対する有権者の信頼感を確実に損ねます。それを避けるためにも、菅さんはスパッと辞めて、しかるべき人への禅譲を目指すべきだったと思うのですが。

○執行部が最後までこだわった「三党合意」に、それだけの意味があったかもきわめて疑問です。「2007年まで」というのがクセモノで、ご承知の通り小泉さんの任期は2006年までです。それを過ぎたところを着地点にしているからには、最初から空文化する可能性はきわめて高い。野党は数が少ないから野党なのであって、ここは素直に押し切られてみせた方が良かったんじゃないでしょうか。年金改革の民主党案はそれなりに誠実なものだったと思いますが、自爆するほどの値打ちがあったとは思われません。国民の側から見れば、「思い上がった迷惑」ということになってしまいます。

○この展開は自民党としては満額回答でしょう。菅さんがすぐに身を引いていれば、次の焦点は「未納6閣僚」に移ったはずなのに、これだけキャンキャンやった後では誰だって飽き飽きします。未納兄弟もあまりに数が多すぎて、社民共産まで広がるのなら、もうどうでもいいやって感じ。明日11日に年金法案が衆院を通過したら、この問題は一丁上がりになってしまうでしょう。自民党側が「お咎めなし」になってしまうとしたら、あまりにも痛すぎる自爆です。「民主党の若手に、“ネクストキャビネットの年金未納問題を洗えば、菅代表のクビが取れますよ”という悪魔のささやきをしたのは、実は自民党国対だった」という説も流れる今日この頃。

〇この騒ぎに、なによりホッとしているのは官邸でしょう。最長不倒距離を達成した「影の総理」官房長官がいなくなったのだから、物事を決められる人がいなくて、先週末から大騒ぎが続いているはず。それが表面に出てこないのは、マスコミの関心が民主党に集中しているから。これからの官邸がどんなメカニズムで動くのか、その辺がまだ見えない。本当は冷や汗ものなのだけど、幸いなことに民主党内紛のお陰で時間を稼いでいる。

〇2001年の中央省庁再編以来、霞ヶ関のルールは大きく変貌を遂げた。今では「強い官邸」がなければ物事が進まなくなっている。とくに外交はそれが顕著で、日本政治は「官邸外交の時代」を迎えているといっても過言ではない。イラクも北朝鮮も、大事なことは外務省に任せられない状態が続いている。「丸投げ総理」の下で、「閣僚経験のない官房長官」が、閣僚たちへの遠慮なしにバシバシ調整役を務めるからこそ、小泉政権は今日まで動いてきた。福田さんが抜けた穴はとてつもなく大きい。

〇今日のところまでは、まさに民主党さまさまといったところでしょう。


<5月11日>(火)

〇久々の内外情勢調査会である。栃木県の足利市と佐野市。東武線の両毛線で1時間程度。こういう路線があるとは知りませんでした。東北本線や信越線、関越道などから離れているので、どこにあるのかが分かりにくい。栃木県を盾の形と考えれば、左下の部分である。ご当地の小選挙区政治家は、「茂木(未納)沖縄担当大臣」。

〇足利市は、足利学校がある古い歴史の街である。こういう街は文化人を輩出するもので、あの「あいだみつを」もご当地の出身。街中のもなかの看板を、あの「みつを」文字で書いてあったりする。いとをかし。ほかに漫画家のジョージ秋山、作詞家の売野雅勇、なぜか「光栄」の創業者など。

〇佐野市といえば、佐野ラーメン。考えてみれば、群馬栃木には麺類が多い。青竹で打った縮れ麺に澄んだスープ、具はチャーシュー、メンマ、なると、ねぎという正統派。でも食べてきたわけではないのである。例によってこの人からの受け売り。

〇どちらも大きな街ではないので、参加者は多くない。でも質問は多いのでありがたい。「当面の国際情勢と日米関係」というテーマで、いつものような話を展開する。明後日は山梨に行きます。


<5月12日>(水)

〇某金融系シンクタンクの研究員、Yさんから米大統領分析を伺う。「いい仕事をされてますねえ」と唸りたくなるような「詰まった」仕事であった。まったくのオタク同士の世界である。

〇ふと気がついたのだが、昔はこの仕事はそんなにキツクなかった。たとえば選挙人制度(Electoral College方式)を説明するだけで感心してもらえた。ところが2000年選挙の影響は絶大で、Winner-take-AllだのSwing Statesだのといったことが知れわたってしまった。「今年はフロリダはどっちが取るんでしょうなあ」なんてことをシロウトさんが言うのだから困ったものである。今では、「サーモンの漁獲量の問題でワシントン州の票が動く」というくらいのことを言わないと尊敬してもらえない。

〇候補者の政策も、昔はごく簡単なものに過ぎなかったのだが、最近では税制や財政などの細かい点まで、きちんと数字を出してシミュレーションせねばやまず、といった風潮になっている。「ブッシュとケリー、双子の赤字はいくらになるか?」だなんて、そんなもん、実際に政権が始まったらどうせご破算になるに決まっているし、そもそも予算は議会が決めるものだから、大統領候補が細かな計算をする意味なんて別にないのである。だから、かんべえはその辺は適当に済ませているが、Yさんはきっちりフォローしていた。偉い。

〇終わってから、「この仕事も、どんどん難しくなりますねえ」と言ったら、そういえば昔の政策綱領はもっと単純だった、だいたいクリントンが本を出したのが悪い、あれから政策オタクが跋扈するようになった、などという話で盛り上がった。

〇細かい話はともかく、ラムズフェルドは辞めるんだろうか。その場合の後任は誰か。国連の新決議は。6月30日に本当に政権移譲はできるのか。などなど、そういう根本的な問題が分からない。でも議論するのは楽しい。困ったオタクどもである。


<5月13日>(木)

〇内外情勢調査会の仕事で甲府へ。かんべえは学生時代に小平市に住んでいたので、山梨県の観光名所は、河口湖とか清里とかサントリーのワイナリーとか、わりによく行っている。でも甲府駅で降りるのはこれが初めてかもしれない。

〇たまたま先週末、『氷川清話』を読み返していたら、こんな一節が気になった。

日本国中で、古来民政のよく行き届いた処は、まず甲州と尾張と小田原との3箇所だろうよ。信玄や信長や早雲の遺徳は、まだこの3箇所の人民に慕われているらしい。(中略)

信玄がただの武将でなかったことは、ひとたび甲州に行けばすぐにわかる。見なさい、かの地の人は、今でも信玄を神として信仰しているのだ。これは当時、民政がよく行き届いて、人民が心服していた証拠ではないか。

〇江戸時代の甲州は天領だったから、なるほどそういうものかと思い、「今はどうですか?」と地元の人に聞いてみた。そしたら、「いえ、甲州は江戸時代も一揆の多い土地柄でしたよ」と即座に否定されてしまった。なにしろ県警の方のご発言なので、これは信憑性が高い。考えてみれば、信玄公の威徳が行き届いていたということは、後から来た領主は大いにやりにくいということである。

〇徳川家の安全保障戦略として、江戸が攻撃されていよいよ危なくなったときには、将軍は三多摩の天領地域を通って甲州に逃げて、そこで立て篭もるという発想があったという。これも地元の人に聞くと疑わしいようだ。そもそも甲州には適当な城がない。信玄公が「人は城、人は石垣」という主義だったのだから、これはまあ、仕方がない。それ以上に、江戸時代の甲州はそれほど米が取れなかったというから、なるほど籠城には向いていない。いくら金山があっても、金は食べられませんからな。

〇徳川家が甲州を特別扱いにしたのは、むしろ家康の信玄コンプレックスが原因であったと考えたほうがいいかもしれない。なにしろ、生涯にわたって負け続けでしたから。

〇現地では、信玄公(信玄と呼び捨てにしてはいけない)の威徳は、やはり今日も残っているようだ。たとえば「武田記念館」みたいな観光施設がない、ということはその表れではないかと思う。有名な恵林寺には、いちおう信玄館というものがあるらしいが、HPを見る限りたいしたことはなさそうである。思うに山梨県内では、「信玄公は偉かった」ということを学習する必要がなかったのではないか。本当に偉い人になると、むやみにモニュメントを建てたりはしないものなのである。

〇そうそう、リニアモーターカーはちゃんと山梨県内で実験を続けているらしい。「この人が乗りたがっていますよ」と言ったら、「情報発信力のある人を対象に、毎年夏に試乗してもらう企画がある」とのこと。可能性ありそうですよ、伊藤師匠。


<5月14日>(金)

〇永田町で拾った小沢さんの評判。

「新たな角福戦争が始まるね」

「小泉さんは自民党をぶっ壊さないから、小沢さんが民主党をぶっ壊すのを楽しみにしよう」

「そうは言っても選挙の神様だ。これからは油断出来ない」

「あの人は遠くで見ている分にはいいけど、近づくとホントに嫌になるんだよ、これが」

「小沢代表なら、民主党はかならず揉める。これが前原代表、小沢幹事長なら怖かった」

〇まあ、だいたい予想通りですな。


<5月15〜16日>(土〜日)

〇ログ解析をしてみると、近頃の溜池通信は平日はアクセスが3000を越えるというのに、30秒以内で去っていく人が80%を越えている。ちょっと悔しい気がする。月曜日の朝、忙しいオフィスで寸暇を惜しみ、このサイトを覗いてネタを仕込もうとしている人よ、このページにハマりたまえ。ワシはあれこれ試しながら30分もかけてしまったぞ。ふふふ。

●連結クラシック研究室 http://www.geocities.co.jp/Hollywood/8562/index.htm 

〇似ている曲が頭の中でつながってしまうこと、ありませんか? ラベルのボレロが水戸黄門になってしまうのは有名だが、バッハのトッカータとフーガが必殺仕事人のテーマになるというのはちょっと新鮮で、サラサーテのツィゴイネルワイゼンが五木の子守唄になってしまうというと、ほとんど目が点になっちゃうのではないだろうか。ご利用のパソコンにMIDIソフトがあれば、これらを全部体験できますぞ。

〇こんなこと、言うも恥ずかしいが、ワシは昔からパッヘルベルのカノンが好きだ。これが「連結クラシック」では引っ張りだこなのである。これがサザンのTSUNAMIになるのはともかく、かしまし娘のテーマになってしまうというのは何とも・・・バッハのG線上のアリアがビートルズのイエスタディとごっちゃになってしまうのは、これはこれで名曲という気になってしまう。それからブルックナーの交響曲第8番(こんなの知らんかった)が、阿波踊りと見事にシンクロするのも発見でした。

〇ところでこの掲示板が面白い。例の著作権とコンテンツ流通の問題が祭りになっていて、勉強になります。


<5月17日>(月)

〇ジョージ・ソロス『ブッシュへの宣戦布告』(ダイヤモンド社)を開いてみた。「私は今、アメリカ国民を説得して、2004年のきたる大統領選挙でブッシュ大統領を拒否してもらうことを、自分の最も重要な目的にしている」というのだから、尋常ではない。が、読んでみるとこれがヒドイのなんの。短かい本なので、せめて最後まで読み通してから、と思ったけど、我慢できずに半分まで読んだところで批評を書き始めてしまおう。

〇ジョージ・ソロスとウォーレン・バフェットは、ブッシュの天敵となりつつある金融界の二大巨頭である。だいたいが金融界でブッシュが好きと言う人はあんまり居ない。しかしケリー候補に献金するくらいならともかく、身銭を切って「反ブッシュCM」を流そうというのだから戦闘的である。では、何が理由でそこまでコミットするのか。天下の大統領に向かって宣戦布告する理由を知りたいと思ったのである。(ちなみにこの本の現題名は、"The Bubble of American Supremacy"「アメリカ優位というバブル」である。どうしてこうヒドイ邦題をつけるんでしょうね?)

〇「はじめに」の冒頭で、ソロス先生は「先制軍事行動を唱えるブッシュ・ドクトリンを私は有害だと思っている」と来る。この議論自体は真新しいものではないが、どうも誤解が多いようである。おそらくあのA4で31pの全文を読んでいないであろう。まあ、それも大多数の人がそうであろうから、いちいち責めるには当たらないと思うが、あそこに書いてあることは安全保障論の世界の住人から見ると、「これっきゃないでしょ」という話であるし、書き方も十分に抑制的であると思う。

〇そして第1章では、なんとあのPNAC設立理念がまるごと引用されている。そして「これらの人々は、アメリカをこの方向に連れて行きたいという明確な答えを持っていた」と断罪するのである。うーん、PNACの話であれば、当溜池通信では2年前から取り上げておったのですが。でもって、時間差攻撃みたいなネオコン批判を論じ、「どう考えても、イラク侵攻には表向きの理由とは別の理由があったとしか思えない」というのである。きゃー。

〇いちいち指摘する気にもならないのだが、これらはブッシュ・ドクトリンやネオコンに対するごくありふれた誤解である。それも善良な人が陥りがちな種類のものだ。たとえば「ブッシュ・ドクトリンにPre-emptive Attackという言葉は1回も出てこない」とか、「PNACのビル・クリストルたちは、2000年選挙の予備選では、ブッシュではなくてマケインを支持していた」ということを、彼は単純に知らないか、それともそんなのはカムフラージュだと頭から信じ込んでいるのだろうか。

〇おそらくジョージ・ソロスは、ブッシュ批判やネオコン批判の材料を二次情報で得ているのだろう。彼のことを「投機家であり、フィランソロピストであり、哲学者でもある」という紹介を見かけるが、最初の2つはともかく、3番目の評価はウソであろう。少なくとも高度な知性を感じさせない文章である。(かんべえが読んでいない他の著作は違うのかもしれないが、この本だけが例外だとは信じがたい)

〇ソロスはヘッジファンドの世界で名をはせた人物である。それこそ「ソロスが動いてマレーシア経済を破綻させた」的な誤解を散々受けてきたはずだ。そういう人が「ネオコンがブッシュ政権を間違った方向に導いている」というのは、何とも奇妙な感じがする。金融の世界のヘッジファンドは、外交・安全保障論の世界のネオコンと同じほどに、思い切り誤解され、実力の何倍にも評価され、毀誉褒貶を受けてきたと思うのだが。

〇ただし本書のお陰で、彼のような人間がここまで切羽詰る理由というのも、ちょっとだけ見えてきた気もしている。ソロスは最近のアメリカ社会に「イヤ〜な気分」を感じているのである。ブッシュ政権は、オーウェル流のダブル・スピークを使っており、彼はそれに対してアレルギーのようなものを有している。「それは私がハンガリーでダブルスピークの中で成長したからだ。最初はナチの支配下で、後には共産主義者の支配下で」。

〇先日から「党派色を強める社会」ということに関心を持っています。日本もだんだんそうなりつつあるけれども、最近のアメリカに比べれば百倍マシだと思う。リベラル派が知的な正直さや誠実さを失い、保守派が節度や慎みを失う社会。「ソロスほどを人が、こんな本を書いてしまう」というのは、危険な兆候なのではないでしょうか。


<5月18日>(火)

〇月に1度の東京財団安全保障研究会の例会である。講師はずっと前から長島昭久衆議院議員(またか、などと言うではないぞ)に頼んであって、でも今夕は民主党の両院議員総会もあるはずだから、本当に来てくれるのか、実は不安だったのである。ケータイにかけても留守電だし、それも今朝などは「メッセージが一杯です」になっていたから、これはマズイかと心配してしまった。

〇ところが昼になったら、いつもの明るい声で「今夜はよろしく」と連絡が入った。長島氏、実は韓国に行っていたのである。韓国や米国の政治家と意見交換し、今日の昼になって羽田に到着。それで、事務所に電話を入れて、「何か変わったこと、ある?」と聞いたところ、「実は代表が変わってしまったんです」。妙なことを言うな、と長島氏は「知ってるよ、小沢さんだろ」。「いえ、それがまた変わったんですぅ・・・・」

〇ということで岡田代表が誕生した。原理主義者だとか、面白みがないとか、散々な言われようだけれども、置かれた状況を考えれば同情せざるを得ない。「意外と海部首相みたいに、人気が出るかもしれませんねえ」と言ってはみたけれども、あんまりフォローにはなっておらんわなあ。

〇さて、小泉さんの訪朝について、いろいろご質問が来ているので、ここで私見を述べてしまいます。小泉さんが出かけていくことは、普通に考えれば論外な冒険です。国内的には拉致問題が重いので当然だとなるわけですが、国際的にはセンスを疑われるというか、テメエ、核開発はどうなるんだ、六カ国協議は抜け駆けか、ということになる。だいたいですな、フロリダの住人がキューバに連れ去られたとして、それを取り返すときにブッシュ大統領がわざわざ出かけて行きますか??

〇それでもブッシュが、「小泉訪朝に理解を示す」(支持する、とは言ってないらしい)と応じているのは、今のイラク情勢の苦境にあって日本は絶対に失えない味方であるからだ。そういう弱みに付け込んでいるあたりは、小泉さんも案外、抜け目がない。他方、中国も、「拉致問題なぞがあるから、六カ国協議が進まない。早いとこ片付けろ」と北朝鮮に圧力をかけてくれた気配がある。そして国内的には、選挙の前に得点を稼げるということと、年金問題から目をそらす効果が期待できる。

〇要するに1ヶ月前だったら、けっして成立しなかったであろう話を、絶好のタイミングで実現にこぎつけた。ギャンブルであることは間違いないのだが、またしても小泉さんが勘の良さ(あるいは運の良さ)を見せつける可能性は十分にあると思う。そしてまた、これ以外の方法だと、拉致問題の完全解決に至る道は非常に細いと思うのだ。

〇北朝鮮にはもっと強い態度に出ろ、というご意見は当然あるところです。しかし現実的に考えると、日本が経済制裁をした瞬間に、おそらく韓国では「北朝鮮がかわいそうだ。日本はケシカラン」という話になって、ガンガン北へ物資を送り始めるかもしれない。これではヤブヘビだし、日米韓の足並みも乱れるのも困る。経済制裁カードは、非常に使いにくいのだ。

〇そんなわけで、結果を待つしかないと思うのだが、とりあえず「本当は核開発の方が重要なんだ」ということぐらいは、小泉さん、言ってやってくださいな。


<5月19日>(水)

○三原淳雄先生のお誘いで、「千葉トヨペット勝又グループ」の研修会に伺う。千葉県在住の人には説明は不要だろうが、勝又グループは「泣く子も黙る」というか、とにかく強烈な存在感を有するディーラー網である。かんべえがトヨタ・カムリを買った千葉カローラ柏店も、系列は違うけれども勝又グループだ。こないだの日曜日も、新人君が当家を挨拶に来たのであるが、ついつい冷たく追い返してしまった。それでも今時の20代にはめずらしい士気の高さであり、ちょっとほかのディーラーでは見かけないタイプであった。

○グループ内の研修会を見たら、つくづく元気そうな会社ですね。まあ、トヨタ自動車自体が、最近では連戦連勝といった印象が強いけど、実際にクルマを売っている側としては、「1兆円も儲けてるんでしょ?だったら、ウチに1台くらい頂戴よ」などというお客が増えるので困っているらしい。「1兆円も稼いでいるのは、メーカーの方なんですけどね」などと言っていたが、そりゃあディーラーが売るからメーカーが潤うのであって、彼らもしっかり稼いでいることは間違いないだろう。

○ちょっと気になったのは、「4〜5月の成績が悪い」という檄が飛んでいたこと。全国的にクルマの売れ行きが良くないらしい。昨日発表になった1―3月期のGDPは、案の定、かなりいい数字であり、しかも個人消費が強かった。連休中の人の動きも相当に良かったようである。が、その後のクルマの売れ行きがいまひとつとは、ちと不思議である。クルマの販売は、わりに季節性が強いので、何か特殊事情があるのかもしれません。

○特殊事情といえば、なんといっても1997年3月の「消費税増税前の駆け込み需要」の印象が鮮烈である。あのときのクルマや住宅、高額商品の売れ方と、その後の沈滞ぶりは非常に極端だった。四半期ベースのGDPも、極端なブレが生じてしまった。経団連の奥田会長が、「消費税の増税は、できれば毎年1%ずつ」と提言しているのは、そのときの経験があるからかもしれない。実際問題として、年間1%ずつの増税となると、中小業者にとって負担が大きくなるので難しい。他方、経済活動へのゆがみを生じさせないためには、小刻みに上げた方がいいという理屈になる。

○小泉政権は、「私の任期中には消費税を上げない」と言明している。というからには、「2007年には上がるのかも」と考えるのは人情というもの。ディーラーとしては、その際の事態はすでに想定済みであり、「できれば4月からではなく、1月からの増税の方がいい」という話を聞いてなるほどと思った。年度末に切り替えると、企業の決算にもろに影響してしまうからだ。モノを売る立場からすれば、駆け込み需要は年末の方がありがたい。もっとも財務省には別の論理がありそうですが。


<5月20日>(木)

○22日放映の日経CNBC『マネー&ワールド』の収録。お題は「双子の赤字」で、お相手はみずほ証券の熊谷亮丸さん。いちおう初対面である。

○この番組、ご覧になった方はご存知の通り、放送が土曜の9時半という時間帯なので、お酒を飲みながらの経済議論という演出をやっている。毎回、カクテルを出すのだが、あくまでも小道具という位置付け。飲むとすぐに顔に出てしまう不肖かんべえなどは、いつもグラスのふちをなめる程度に抑えている。ところが熊谷氏は金融界きっての酒豪だそうで、この日の出し物である「ダブル・レインボー」なるカクテルを飲み干してしまった。「お代わり」シーンはこの番組では初めてとのこと。やるなあ。

○たしかに今日のカクテルは美味かった。かんべえもつい、なめるつもりが飲んでしまった。午前中のアルコールはしみわたる。後半になったらテキメンに効いてきた。もし、議論が押されぎみになっていたとしたら、それはお酒のせいである、と書いておこう。その後、元気な熊谷さんと一緒にランチしたら、今夜は三原淳雄さんと一緒に飲み会だという。三原さんは昨夜は当方が一緒だったわけで、またまた狭い世界である。

○さて、本日は台湾で陳水扁総統の2期目就任式。案の定、強気の就任演説となったようだ。演説の全文はここにある。ちゃんと日本語になっているのがありがたい。「2008年憲法改正」を明言したこと、「台湾のアイデンティティ」に多くが割かれていることなどが目を引く。たとえば下記の部分などは、ちょっといい感じだと思うのだ。

貴賓の皆様、親愛なる国民の皆様、世界地図を広げて見れば、台湾、澎湖、金門、馬祖は太平洋沿岸のいくつかの小さな島に過ぎません。しかし、詳しくこれら島嶼の麗しい山河、多元的なエスニックグループ、多様な生態を見ていただければ、二千三百万人がこれまで何世紀に書き綴った政治、経済、文化などの成果を数えて下さい。あたかもバラエティーに富んだ百科全書に入ったような気がするに違いありません。海洋国家の包容、世界島の広さは、この土地の人民の視野と度胸を地平線に沿わせて無限に引き伸ばしています。

台湾物語に胸を打たれるのは、先天的なものではなく、挫折や苦難に試練された後、放ち出された光からです。これはまさしく「台湾精神」であり、我々の先祖から我々の代まで伝わってきたものです。

○台湾は民主化が進んだことで、台湾のナショナリズムが育ちつつあるのだと思う。民主主義とナショナリズムは相反する概念ではない。むしろ、ナショナリズムのない土地で民主主義が定着するわけがないのである。その典型が中東で、人々がアイデンティティを国家よりも宗教に求めるような場所では、民主主義が育たない。国を大事にしようという意識は、民主化にとっての必須条件だと思う。

○そういえば、長島昭久さんが現地に行っているので、どんな風に書いてくれるか注目しましょう。

(お、150万アクセス達成だ!)


<5月21日>(金)

○昨日の日経CNBC『マネー&ワールド』収録の際に、カクテルを持って「乾杯」というシーンを撮ったら、右手がかすかに震えているのに気がついた。滅多に緊張することのないワシが、どうしたものかとそのときは思ったのである。今日になって、お昼に「陳麻婆豆腐」に入り、大きなグラス(辛いから、水がたくさんひつようなのである)を右手に持ったら、やっぱり震えている。あらららら。ワシはアル中になったかしら。そんなに飲んでいる覚えはないのだけど。

○試しにグラスを左手に持ってみたら、別にどうということはなかった。右手だけが震えるのである。そこで気がついた。パソコンに向かう時間が長すぎるために生じる腱鞘炎なのである。だいたいWORDのキー配列では、Enterキーを押さなければならない右手の負担が大きすぎる。それだけではなくて、マウスを持ったりもするから、どうしても右手だけ疲れてしまうのだ。最近は特に、ウイルスメールとSPAMの急増で、右手を酷使しているような気がする。

○原因がわかってしまえば、どうということもない。しばらくお休みすればいいだけの話。明日は温泉旅行に出かけるけど、PCは家に置いていくものね。メールも読まないよー。明後日の夜ぐらいには更新するかもしれないけど。

○そうそう、明日の朝日新聞の「私の視点」なるコラムを読むと、いいことがあるらしいぞ。じゃあね。


<5月22〜23日>(土〜日)

○ということで、PCは家におき、ご丁寧に携帯も置き忘れて、一泊で米沢の白布温泉に行ってまいりました。ぷはー。

○白布温泉は開湯700年の歴史をもつ山間の秘湯です。江戸時代には米沢藩の「隠し湯」だったそうだ。周囲は「日本の原風景」ともいうべき山林が広がっていて、「しなびた場所にある渋い温泉」を絵に描いたようである。かんべえは新入社員だった頃に一泊したことがある。いつか再訪しようと思っていたが、残念なことに、出火によって一部の旅館が焼けてしまった。(この辺の事情はその昔、不規則発言の2000年3月26日で書いたことがある)。最近になって、ちゃんと復活して営業していることを知り、家族連れで行ってみたというわけ。

○白布温泉には、東屋、中屋、西屋という3軒の老舗旅館が並んでいた。3軒ともほとんど同じつくりで、昔は客を融通しあったりするcompatibleな存在だったらしい。2000年に焼けてしまったのは東屋と中屋。今では東屋は完全に建て直されている。中屋は再建されず、別館があってそちらで営業している。ここはここで、本因坊戦や王将戦の舞台になっているらしい。西屋だけが昔のままで、江戸時代の庄屋のような面影を残したままでである。

○今回泊まったのは東屋さん。部屋は今風になっていたが、打たせ湯がある温泉はたしかに昔の記憶のとおりであった。最近の感覚から行くと、脱衣場は狭すぎるし、お湯はちと熱めである。まあ、「しなびた温泉宿」なので、木によりて魚を求めてはならない。食事はまことに結構でした。とくに米沢牛のステーキは。これで夜にはタイガースが、予定調和のようにジャイアンツを逆転してくれるのだから、結構毛だらけである。アリアス、キンケード、浜中と怪我が続いても、右の代打に八木が残っているのだから強いはずである。

○帰りに乗ったタクシーの運転手さんの話によると、これらの温泉宿は周囲の山林を所有している大地主でもあるらしい。東屋さんも再建の時には、自前の木を切り出して使ったそうだ。最近は地主さんたちも、後継ぎが東京に行ってしまうことが多く、そうなると山林は手入れをしないとすぐに駄目になるから、せっかくの財産が台無しになってしまう由。その点、東屋さんはしっかりしていて、あの家からは代々、軍の将校やら外交官やらを輩出する一方で、山もしっかり守っているから偉いのだと。

○そういう目で見ると、日本全国どこにでもありがちな「地方の悩み」はここでも尽きない。米沢市はどう見ても寂れていたし、秘湯ブームで温泉が潤ったのも1996年頃がピークだったとか。中屋さんが再建しないのも、供給過剰を避けているのかもしれぬ。そうでなくても、「かんぽの宿」やら企業の保養所ができているし。

○そういえば米沢市ではこの人の看板を見かけました。選挙期間中でなければ、一声かけてみたかったところですが。

○家に帰ってきてメールを開けたら、またもメールが150本ほど。ちゃんとした用件のものは、例によって一ケタだけである。処理しているうちに、また右手がおかしくなってきた。せっかくのんびりしてきたのになあ。ちぇっ。


<5月24日>(月)

 要するに1ヶ月前だったら、けっして成立しなかったであろう話を、絶好のタイミングで実現にこぎつけた。ギャンブルであることは間違いないのだが、またしても小泉さんが勘の良さ(あるいは運の良さ)を見せつける可能性は十分にあるでしょう。そしてまた、これ以外の方法だと、拉致問題の完全解決に至る道は非常に細いと思うのです。

○先週号の本誌、"From the Editor"で、上記のようなことを書いたわけですが、終わってみるとまたも「小泉マジック」だったと思います。まあ、「最悪のシナリオ」とか「売国的な訪朝」とか、いろんな批判はあるものの、とりあえず国内的にはオッケーだったんじゃないかと。

○土曜日のお昼、米沢市のラーメン屋さんで、地元の米沢ラーメンを食べていたら、ご近所のおばちゃんたちの会話が聞こえました。

「あの人たちはもう帰ってきたの?」
「ううん、まだ」
「気になるわねえ」
「こないだのときは突然だったからねえ」
(適度になまっていたのだが、再現不能)

○なるほど、と思いました。核問題その他の問題は、どんなに重要なことであっても、国民的な関心事ではない。きっと土曜の夜の彼女たちは、
「蓮池さんちの子供たち、お父さんにそっくりよねえ」
てな会話が弾んだことでしょう。(正直に言うと、ウチだってそうでしたが)

○ジェンキンズさんの件や、未解決の拉致疑惑、あるいは人道支援の是非など、論点はいくらでもある。でも、二つの家族の再会という映像は、それらを覆い隠してしまう。とにかく「最悪の結果」ではないでしょう。小泉訪朝はもともと6月20日に予定されていた。それを前倒しにしたのは、誰でも知っている通り、政局を有利に転換するためであった。どうもその思惑は成功したようです。

○いつも筆者が当てにしているフジテレビ「報道2001」の世論調査では、先週20日時点で早くも小泉政権への支持率は上昇しています。2002年夏もそうでしたが、訪朝を決めただけで支持率は上がるのです。歴代の政権が逃げてきた問題だけに、「この人はリスクを取る」という姿勢を見せるだけで、小泉さんの株は上がるのです。今日発表になった各紙の世論調査でも、小泉政権の支持率上昇が確認されている。

○「小泉マジック」の種は、おそらくは簡単です。山の頂上にいる人でなければ見えない景色というものがある。小泉さんには、それが見えている。山の麓から事態を見ているわれわれは、これを「運」だとか「勘」だとか呼んでいる。その辺の事情がわからない人たちが、北朝鮮問題をきっかけに打倒・小泉を目指したところで成功しないでしょう。

○気がつけば年金問題もどこかへ行ってしまった。こうなると参議院選挙まで、いったい何をテーマにすればいいんでしょう?


<5月25日>(火)

○国際大学の信田さんに電話をしたら、ちょうど今、イラク特措法について調べているところだとのこと。

「吉崎さん、"Boots on the ground"って、誰が言い出したか知らない?」
「え?アーミテージじゃないの?」
「それが違うんだって。それに"Show the flag"だって、アーミテージは本当は言ってないでしょ」

○思えば2001年は"Show the flag"で海上自衛隊がインド洋に行った。そして2003年は"Boots on the ground"で陸上自衛隊がサマワに行った。今から思うと、どちらも巧みなキャッチフレーズである。いずれも日本が大きな一歩を踏み出す契機となった。

「外務省が考えたのかな。それにしても、ちょっと上手すぎるよね」
「"Show the flag"はともかく、"Boots on the ground"なんて語彙は、制服組じゃないと思いつかないかも」
「そうそう。"Boots"と言った瞬間に、『じゃあ何足(何人)来てくれるんだ?』という話になるからね」

○話しているうちに思い出したことがある。それは1997年に岡崎研究所が実施した日米同盟プロジェクトで、当時は自由な身の上だったトーケル・パターソン氏(現在は国務省勤務)が書いた論文である。題して「自衛隊の将来のロールアンドミッション」という。この論文の冒頭は、10年後の日米同盟の姿を下記のように描いている。


アラビア湾 2007年

アメリカ空母「ジョージ・ワシントン」戦闘グループとともに日本海上自衛隊の二隻のイージス護衛艦がアラビア湾の哨戒に当たっている。リヤドにあるアメリカ軍の航空基地からは日本のAWACS1個飛行隊(4機編成)が作戦行動を行っている。航空自衛隊のC−17やチャーターされた輸送船、民間航空機が、日本の補給物資 と人員とをアメリカの兵站線を共同使用して、日本と時にはアメリカ軍に補給を続けるために、日本とアメリカが共同行動を行う地域に対する定期的な輸送を行っている。それと同時に、陸上自衛隊の平和維持部隊が、国連の承認のもとで完全武装しつつゴラン高原とヨルダン川西岸地区のパトロールに当たっている。

この地域は相対的には安定してきたが、イランとイラクは一九八〇年代の「タンカー戦争」を想起させるような新たな戦争への瀬戸際にあった。イラクはサウジアラビアの脅威であり続け、サウジは先代の国王の死去以来たいへん不安定な状況にあった。アメリカはイージス護衛艦をタンカーの護衛に用いるということと、空自のAWACSにアメリカ空軍の航空戦闘指揮要員を搭乗させてアメリカの戦闘機の作戦行動を指揮させるということを認めるように求めている。さらにアメリカは、サウジアラ ビアの支援のために検討されているアメリカとNATO軍の連合部隊に対するF−2飛行隊の参加を求めている


○これが書かれたのは、まだ日米防衛ガイドラインが交渉中だった頃だと思う。パターソンが書いたのは、「日本がここまでやってくれたら、うれしいんだけどなあ」という理想像である。聞いた当時は、「うーん、イージス艦にAWACSが中東かあ、ちょっと無理っぽいなあ」と感じたものである。それがですな、アナタ、2004年には国連のPKOでもないのに、陸上自衛隊がイラクで国際貢献活動をしているのです。世の中ビックリの展開の早さである。

○こんな風になったのは、いろんな理由が重なっているわけだけど、とりあえず今日の時点で気になるのは、"Boots on the ground"は誰が考えたのか。誰か知ってる人がいたら教えてくださいな。


<5月26日>(水)

○ブーツ・オン・ザ・グラウンドについて、多数のレスポンスをありがとうございました。(そうそう、安達さん、ご無沙汰しております。最近、更新が途絶えているのはなぜですか?)

○まずお詫びから。少々説明不足でありましたが、"Boots on the ground"という表現自体は、「戦場に足を踏み入れる」際の慣用句で、陸軍の関係者には昔から馴染みのある表現であります。読者からのご指摘で、ここに面白い説明が書かれています。

「boots on the ground」となると、「直訳」では「地に足をつけて」になるが、この場合の「boots」は軍靴であり、「軍隊の行進で地上を平らにする」ということになり、「軍事力」で世界を平定するということになる。つまり「軍事力」による脅しで服従させることになり、「直訳」からは理解できない危険性を含んでいる。

信田さんと私が感心したのは、「それを日本の自衛隊に当てはめた」という点にあります。たとえば、「日米でともに戦おう」という意味であれば、"Shoulder to shoulder"という表現もできる。これだと抽象的だから、"Show the flag"がいろんな風に解釈できるのと同様に、何をもって「肩を組んでともに戦うか」は、恣意的に決めることができる。たとえばAWACSを飛ばしたから、肩を並べたといえるでしょ?とも言えるわけです。

○ところが"Boots on the ground"というと、その瞬間に"How many boots will come from Japan?"という反応が来るでしょう。つまりブーツの数X1/2の人間が、日本から応援に来てくれるという意味になる。だから、この表現を使うことは、「生身の人間がイラクに行く」ことと直結する。"Boots on the ground"を口にすることは、日本の国際貢献を広げたいという立場からいえば「ファインプレー」となるし、日本は軍事的な役割を果たすべきでないという立場からいえば「悪辣な世論操作」となるでしょう。

○読者からの数々の情報提供によれば、この言葉の主としては、「ローレス国防副次官補」説、「ウォルフォビッツ国防副長官」説、さらに「日本の防衛庁の人がアイデアを出し、米国にご注進した」説もあるようです。どうも最後の説がいちばん濃厚だという気がする。

○今日は、お昼にRIETIブラウンバッグランチに出席。テーマは米大統領選で、非常にバランスの取れた議論。つまり、そんなに面白くはなかった。夜は勉強会PAC。こちらは企業の危機管理がテーマ。話題のPMCに関する話も聞けて有益でした。最大手の民間軍事会社、Kellogg Brown & Root(ハリバートンの子会社)が、過去にどれだけの業績を上げているか。これは1999年から2002年の実績に、2003年と04年の推計値を合計した数値です。

●ハンガリー 2億8770万ドル
●ボスニア・ヘルツェゴビナ 6億9520万ドル
●トルコ 1億ドル
●グルジア 2510万ドル
●イラク 76億1300万ドル
●クウェート 1億9690万ドル

○イラクの数字はちょっとすごい。こういうのを「香ばしい」というんでしょうかね。


<5月27日>(木)

○失礼、安達さんのHPは2冊目に入っていたのですね。ブックマークを付け替えておかなければ。

○ううう、もう眠いし、仕事もあるので今日はこれだけで失礼します。ではまた明日。


<5月28日>(金)

○今日はNPO法人岡崎研究所の年次総会でした。かんべえの役回りは「監事」。例の「適正に処理されていると確認いたしましたので、ご報告申し上げます」というアレだ。NPO法人になってから2度目の総会。立ち上げのときは大変だったけど、ちゃんと回り始めたという手ごたえがあります。「あっくん」こと、阿久津さんの司会役も、だんだん味が出てきたし。

○総会のあとは恒例のフォーラム。田中明彦先生、長島昭久さん、金美齢さん、など岡崎研究所にゆかりの方々が来賓挨拶を述べる。日朝首脳会談、台湾総統選挙、イラク情勢、米大統領選挙などなど。なかでも白眉は、間もなく引退される椎名素雄参議院議員のご挨拶でした。これだけ視野が広くて私心のない人が、こんなに長く国会議員を務められたということ自体が、永田町においては奇跡に近いことではないかと思ったりして。こういう砂漠の中のオアシスのような議員は、これから新たに出てきてくれるんでしょうか?

○岡崎久彦理事長から、当面の国際情勢判断を謹聴する。内容は、とりあえずナイショ。総会が引けてから、たまたま残った5人で二次会へ。久しぶりにお目にかかった神谷万丈先生の饒舌に、何度も笑い転げて時間がたつのを忘れる。

○とまあ、こういう楽しい会に参加できますので、年会費3万円はけっしてお安くはありませんが、NPO法人岡崎研究所への入会をお待ちしております。


<5月29〜30日>(土〜日)

○家の中を片付けたら、邪魔な布団があるので、これを捨てようということになった。柏市も分別が面倒だし、待たされるらしいので、どうせだから処理場に直接持ち込んだ方が楽らしい。布団をクルマに積んで、野田市との境あたりにある処理場に行ってみた。

○土曜日でも午前8時半から、ごみの搬入を受け付けている。入り口のところで書式一式を渡され、クルマの中で記入する。それから標識に従って移動し、「可燃ごみ」のコーナーでクルマを止める。トランクから布団を下ろし、指示された場所に積む。ここで疑問が生じる。ごみはキロ当たりいくらで引き取ってくれることになっているのだが、先方は布団の重量を量る様子がない。はて、いったいどうやって請求されるのだろう?

○再びクルマに乗って、出口に向かう。窓口に顔を出して、書式一式を提出する。そうしたら、「あ、テッパンの上から降りないでください」と言われて、はっと気がついた。クルマは、鉄板の上に乗っているのである。やっと腑に落ちた。入り口のところにも同じ鉄板があり、ここで最初にクルマの重量を量る。ごみを下ろしてからもう一度、出口で重量を量り、その差額を出してごみを計量するのである。なーるほど、知恵だのう。750円なりを支払って、ごみ処理場を出る。

○週末、田舎の母親がやって来て、孫と遊ぶ。富山の話を聞くと、案の定不景気な話が多い。デパートを見ても、欲しいものは何もないのだそうだ。でも、そもそも「富山の米と、朝取れたサカナがあればそれで十分」という人たちに、いったい何を買わせればいいのか。そんなことを言っているうちにに、閉店する店が増えていく。地方の景気低迷は深刻である。

○日曜日、床屋に出かける。いつもの親父が、「たまには整髪料を使ってみましょうか」と言うので、めずらしく使ってもらう。みるみるうちに、鏡の中の自分が、植草一秀氏のように固まった髪形になってしまう。親父、しばらくそれを見てから、「やっぱり少し崩しましょうか」と言い出す。わざとグシャグシャにしながら、「きちんとしない方が似合う人もいるんですよね」。・・・・って、親父、それでフォローしたつもりかよ。でも、内心、ほっとしたりして。

○それにしても暑い週末であった。我慢しきれずにエアコンをつける。明日から梅雨入りというのは本当だろうか。夕刻、たまらずビールを開ける。そういえば、明後日が締め切りの日経金融新聞、「視点・論点」をどうしよう。まあ、先週に引き続き、仕事のない週末もいいのではないかと。


<5月31日>(月)

○サウジアラビアのアルホバル。社内的には、ずっと前から「アルコバール」と呼んでいるので、昨日から報道されているこの呼び方にはちょっと慣れないでいる。昔から、サウジの駐在員事務所といえば、リアドは首都だけあって締め付けがきびしい。ジェッダは商業の都なので比較的自由。アルコバールはその中間程度と聞いたことがある。

○だいたい日本人駐在員が住むのは、コンパウンドと呼ばれる外国人居住区で、その中に居る分にはお酒を飲んでも大丈夫ということになっているはずである。が、そういう場所がテロ攻撃の対象になるというのだから、これはもう、どうしたらいいのやら。今回、怖い目に遭った邦人は、商社(かんべえの勤務先)の駐在員夫人だったそうで、知ってる人ではなかったけれども、とにかく他人事ではない。

○だいたいが当社では、1990年の湾岸危機では若手社員がフセインのゲストにされてしまったし、1996年のペルー大使公邸人質事件でもリマ店長さんが人質になっている。幸いなことに、その都度、無事に解放されてよかったねで済んでおり、その後は笑い話やセールストークになってしまったりするのだが、考えてみたらなんとも物騒な職場である。昔は駐在員も駐在員夫人も、それなりに役得があったから良かったけれど、今では日本国内に居た方が暮らしは楽だし、こんな危なっかしい世の中になってしまうと、なり手がなくなるかもしれない。

○なぜか本日は日本貿易会の通常総会。会長の交代パーティーなどもあったのだけど、商社マンという世界に類のない不思議な稼業は、いつまで魅力を維持できるのだろうか。もうとっくの昔に「商社マン失格」になってしまった我が身としても、そこは気になったりするのである。











編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki