<5月1日>(金)
〇緊急事態宣言が延長になるとのこと。5月4日に正式決定だそうだが、こういうことは、くれぐれも「専門家集団」に投げないでいただきたい。最後に決断を下すのは、「政治家」でなければならない。それがジェネラリストたる政治家の務めであります。スペシャリストがしゃしゃり出て、ジェネラリストが仕事を放棄するようになると、世の中はおかしくなりまする。
●参考図書:転落の歴史に何を見るか(ちくま文庫)
〇テレビを見ていると、働く人の間に「カースト制」ができているように感じる。新型コロナウイルスは、働く者たちに対してこんな秩序を作っている。
〇1番上のカーストは医療関係者で、これはもう感謝するしかない。偉大なる自己犠牲精神の発露である。くれぐれもご自愛されたし。どうか「もっと救えたはず」などとは考えられませんように。
〇2番目はエッセンシャルワーカーズである。スーパーのレジ打ちから宅配やトラックの運転手さんまで、感染のリスクを承知で働いてくれている。われわれにとっては、それが日々のライフラインである。
〇3番目は外食、観光、イベント関係など「働きたくても働けない」人たちである。特にアスリートやアーチストはお気の毒としか言いようがない。どんなに不安な日々を送っておられることか。お気に入りのお店は、テイクアウトでゆる〜く応援しよう。
〇最下層に居るのが「在宅勤務」の人たちである。恥ずかしいかな、ワシもその一人である。今日も終日、仕事場にこもって原稿を書いていた。われながら結構なご身分である。いやあ、「講演会」の需要が蒸発してしまったのは、個人的にはかなり痛いのですけどね。
〇こういう最下層の者同士が、テレビ会議などで雑談していると、この国難の最中に、「いやあ、結構な日々ですな。通勤も不要だし、スーツ着なくていいし、お付き合い残業もない…」などと許しがたいことを言うヤツがおる。まことに怪しからん。ちょっと苦しみ方が足りないのではないか。
〇とはいえ、新型コロナウイルスがもたらす痛みは、まことに不公平に降ってくる。我慢する日々は、なるべく短いに越したことはありませぬ。
<5月2日>(土)
〇遠出ができない連休が始まっている。
〇普通の国なら暴動が起きるところだが、この国の人たちはおとなしいので、為政者が補償も抜きに「自粛」や「休業」を強いることができる。それに対する同調圧力もある。この国の政治家は、楽でいいよねえ。
〇そんな中で、世間の顰蹙をものともせずに、営業を続けるパチンコ屋さんがいて、そこに出かけていく気骨のある人たちがいる。が、いかんせん少数派である。
〇思うにギャンブラーとは、依存症になってしまった心の弱い人たちだが、その反面、他人の言いなりにならないという程度には、「個」として自立している人たちでもある。なんとなれば、ギャンブルは孤独でなければ勝てない。他人の目を気にする人は負けが込んでしまい、いつしか辞めてしまう。そして「ギャンブルは悪」という小市民的な価値観に染まる。つまらんことである。
〇で、ワシの場合は競馬である。これがあるから、少なくとも土日は退屈しない。今日も朝から競馬新聞を研究し、昼過ぎからボチボチ買い始める。これがわれながら、実にみみっちい買い方なのである。しかも連続して当たらない。
〇今日のメインはダービートライアルの青葉賞。これはさすがに当てたい。ちなみに青葉賞は「テレビ東京杯」なので、日曜じゃなくて土曜に開催される。たぶん「ウィニング競馬」にとっては、1年で最も重要な日なんじゃないかと思う。グリーンチャンネルからテレビ東京にチャンネルを変えて勝負する。
〇狙いはオルフェーヴル産駒のオーソリティ。で、これが本当に来てしまった。なんとダービー出走権をゲット。しかも単勝だけでなく、2着のヴァルコスとの馬連まで当たったので興奮する。おお、浮いた、浮いたぞ。
〇そこでコンビニに出かけて、また競馬新聞を買ってきた。明日は春天じゃないですか。いかんですねえ。ギャンブルというものは、負ければサッパリ忘れて気分転換になるのだが、勝つといつまでも引きずるから、切り替えができない。その昔、徹夜マージャンに負けてとぼとぼと帰るのは、あれは実にすがすがしいものであったのだが。
〇などと愚痴が止まらない。いちおう、仕事もしておりますのでご紹介まで。これも最後は競馬予想が出てくることで評判が悪いのですが。
●アメリカは「コロナ後」社会主義へと向かうのか〜日本人はわからない「死者6万人」の重い意味
<5月3日>(日)
〇緊急事態宣言が延長されると聞いたときに思ったことは、「ん、ダービーまでかなあ?」であったが、本当にそうなるのですな。「5月31日(日)まで延長」という報道が流れている。だったら安田記念(6月7日)は観客が競馬場に返ってくるのであろうか。どうも、そんな感じじゃないよね。
〇それまではNHKマイル(5月10日)があり、ヴィクトリアマイル(5月17日)があり、オークス(5月24日)があり、やっとめでたくダービー(5月31日)ということになる。要はG1レース4つ分の時間を我慢してください、ということになるらしい。前から何度も言っている通り、感染症対策は「縦深性」が肝要である。長い我慢を、国民に長いと感じさせずに過ごしてもらう必要がある。
〇とりあえず現時点における最大の教訓は、「ロックダウンは高くつく」であろう。4-6月期の日本経済は、相当にひどいことになりそうだ。あとで取り戻すのは大変であろう。人の移動を制限することで、コロナで死ぬ年寄りの数は幾分減るかもしれないが、若者の自殺が増えてしまうかもしれない。この辺の損得勘定はビミョーなところなので、「専門家会議」などに丸投げせずに、ちゃんと政治家の責任において中庸を得るべきである。
〇この後、コロナウイルスが無事に収まったとしよう。それはよかった、めでたしめでたしということになる。しかし感染の第2波、第3波があるかもしれない。その際には、なるべく「和製ロックダウン」をしなくて済むように、今からいろんな準備をしておくべきであろう。われわれは現在、途方もない実験をやっている最中である。おそらくは貴重な経験値を得ることになるだろう。これを無駄にしてはいかんです。
〇今の医療体制に対する不満みたいなものも、これからは増えるのであろう。いろんなことを言う人はおりますが、「医者は医者の言うことしか聞かない」というのは、きっと真実なのです。政治家があれこれ上から指示しても、彼らは聞いてくれない。そして現場の医師や看護師や事務方も含めた医療従事者がその気になってくれなかったら、PCR検査も増えないし、事態は変わらんのです。そして、彼らの代わりはこの国にはいないのです。
〇ああすべきだ、こうすべきだ、なぜこんな風にしないんだ?みたいな議論はネット上で多いけど、リスクを背負って戦っているのは医療現場の人たちなのである。リスクのない外野の人間が、あれこれと小賢しいことを言うべきではあるまい。少なくともワシ的には感心しないな。
<5月4日>(月)
〇土日は競馬ばかりしているわけではなく、少しは仕事もしているのである。こんなものを書きました。
●バイデンが選ぶ副大統領はどんな女性か (外為どっとコム 米大統領選2020)
〇上記では紙幅の関係もあって、アンドリュー・クオモNY州知事については触れていない。そこで以下はちょっとした「補講」である。
〇コロナ対策で獅子奮迅の活躍を続けているクオモ知事は、大統領選には出ないと言っている。もちろん、党の正式候補者は既にジョー・バイデンに決しているので、そのように言うのが正しい「お作法」である。ただし、今みたいに地味な選挙戦をやっているうちはいいけれども、党大会などになると「やっぱ老けたなあ〜」「言い間違いも多いしなあ〜」といった失望を招きかねない。「クオモ待望論」が盛り上がる可能性はまだ残っている。
〇それではクオモ自身の真意はどうなのか。20人以上が名乗りを上げた民主党大統領予備選挙において、クオモはまったくそのそぶりを見せなかった。ちなみに、このときNY市長のビル・デブラシオは出馬し、あっという間に撤退している。それも世論調査の支持率が1%に満たず、テレビ討論会にも出られない、というかなりカッコ悪い結末であった。
〇クオモの場合は、たぶん州知事4選を目指しているのではないかと思う。この人のお父さん、マリオ・クオモはNY州知事を務めていたのだが、4選目に共和党のジョージ・パタキに敗れている。それもひどいネガティブ・キャンペーンを打たれてのことである。息子のアンドリュー・クオモは現在が州知事3期目。2023年に次の選挙が巡ってくる。再選されれば、親父を超えることになる。
〇親父さんが敗れたのは1994年のことである。ビル・クリントン大統領が迎えた初の中間選挙で、この時の民主党は議会選でも知事選でも壊滅的な敗北を喫した。その後、クリントンは1997年から2001年までの任期いっぱい、アンドリュー・クオモを住宅都市開発長官に起用している。若手政治家の登竜門としてよく使われるポストである。たぶんこれはクリントン家のクオモ家に対する「ゴメンネ」「ヨイショ」でありますな。
〇ビルとヒラリーの2人は、1992年の大統領選挙に出馬する際に、「今年はマリオ・クオモが出るだろうから、自分たちにチャンスはあるない。まあ、今回は練習だと思って・・・」と考えたそうである。ところがマリオは出馬せず、いろんな偶然が重なってビルが大統領になった。クオモ一家に対して、なんとなく恩義や「借り」のようなものを感じていたのではないか。それにしてもこの辺の感覚、まったく日本の政界とそっくりである。
〇さて、クオモ氏としては、4選を果たしてしまえば「親の仇」は果たしたことになるので、2024年の大統領選挙に出ることはやぶさかではないだろう。その時点で彼は66歳である。もしもトランプ政権が2期目となっていれば、まさしく「真打ち登場!」ということになって、民主党大統領候補の座は向こうから転がり込んできそうだ。
〇逆に民主党が勝っていた場合はどうかというと、バイデン大統領は1期目終了時点で81歳になっている。たぶんそこで引退して、後はこれから決める女性の副大統領に・・・てなことになるのではないだろうか。もっともその場合、コロナ対策や米国経済や国際関係がどうなっているかというと、もちろん「寸前暗黒」である。「クオモを次期大統領に!」という声が湧き上がる可能性は十分にある。
〇ということで、クオモの立場になって考えてみれば、このままコロナ対策に邁進している姿を見せ続けることがベストな選択ということになる。政治家はくれぐれも「物欲しげ」な振りをしてはなりませぬ。クオモさんを意識していると思われる某東京都知事の場合は、その辺がちょっと修行が足りないぞ、という印象を受けまする。
<5月5日>(火)
〇昨日、上海馬券王先生が教えてくれたこれは面白かったな。ユーチューブで見られます。
●短編映画 『カメラを止めるな!〜リモート大作戦〜』
〇お話は、家から出られない映画監督のところへ、映画を撮ってくれという指令がやってくる。「だって家から出られないのに・・・・」と抗弁すると、プロデューサーは「スタッフ、キャスト全員、家から一歩も出ず、一度も会わず、完全リモートで作ります」と言い渡すのである。
〇そんな無茶な、と思うけれども、これが何とかなってしまうのだ。誰も家から出られない条件で、映画を作るにはいろいろ苦しい工夫を重ねるしかないのだが、やっているうちに皆が乗ってくる。やっぱりモノを作る仕事は楽しいのだ。それも制約条件がある方が。最後はついホロリとさせられる。わかる、よくわかるよ。だってワシらも家から出られない生活に飽き飽きしているんだもの。
〇日本中がこぞって、「家から出られない生活」になってしまい、暗くなったり、落ち込んだり、政府の悪口を言ったりしている。とくにエンタメ系の職業の方は、明日が見えない状況で困っておられるだろう。ところがそんな状況を逆手にとって、誰もが共感するような作品を作ってしまった人たちがいる。しかも低予算で!
〇ちなみに、ワシはまだ「カメとめ」を見ておりませぬ。今度、アマゾンプライムかなんかで探してみます。たぶん見ている人の方が、より深く、本作品を楽しめると思います。
〇土曜、日曜と競馬に明け暮れた後で、福島民報の高橋利明記者とメールのやり取りをしていたら、こんな一言がありました。
「震災の時も感じましたが、娯楽には力があります」
〇そうなんだよね、人は苦しい時にこそ、遊びを必要とする。だって人生の営みのほとんどは、「不要不急」のことばかりなんだもの。カラオケもスポーツジムもコンサートもスポーツ観戦も、別段、必要不可欠なものではない。単なる「暇つぶし」である。しかしこの手の「遊民産業」を担っている人たちは、毎日手抜きができない真剣勝負をしているのである。
〇ヨハン・ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』は、「遊びこそが人間の文化を生み出してきた」と言っている。新型コロナでも、自粛でも「遊び」は死なない。こんなの世の中になったら、今度は「家の中でできる遊び」を発案するのが人間のさがというものだ。きっと新しいジャンルの遊びが登場するだろう、と思っていたら、もうこんな作品ができてしまった。ちょっと驚いています。
<5月6日>(水)
〇最近のロシアン・アネクドートのご紹介。
●融通無碍
「もしもし、美容院ですか?」
「いえ、うちは薬局になりました」
「髪を切ってもらいたいんですけど・・・」
「ああ、どうぞ、いらしてください」
(コロナウイルスに伴う緊急令により、美容院は営業中止となったが、薬局は営業が許可された)
●お土産は・・・?
「僕が感染したのはイタリア旅行中だったからねえ」
「でも、お前のウイルスはMade in Chinaじゃないか」
●記者会見
プーチン大統領:「わが国の感染者数はXXX人で、欧米諸国よりはるかに少ない」
記者:「お伺いしますが、その数は検査によるものですか、それとも入院数ですか?」
プーチン大統領:「そのような悪意ある質問への返答は、差し控えさせていただく」
●リタラシー
プーチン大統領が国民向けにテレビ演説を行った。コロナウイルスは首尾よく抑えられているから安心せよ。ただし念のために、3週間だけ外出禁止令を行う、と。
すると国民はすぐにスーパーに駆けつけ、ある者は3か月分の食料品を買い込み、またある者は正月用品を急いで買った。メッセージは正確に届いていた。
●逆転の発想
人口減少が深刻化している中にあって、外出禁止令は朗報である。今後、出生率は急上昇するであろう。
●絶望的
朝、目が覚めた。咳はない。熱もない。どこも痛くない。呼吸も楽だ。
ビクトル:「ああ、これで俺もおしまいだ! これは典型的な発症前の症状だ」
●ノスタルジー
スターリン時代は良かった。外国からのウイルス感染問題など存在しなかった。
あの当時は、アメリカや日本、フランスや西ドイツなどから帰国した者は、すぐに隔離されたからだ。
〇いやあ、楽しいですねえ。ロシアが今どうなっているか、一発で分かりますねえ。以上、「安保研報告」(発行人:袴田茂樹先生)の最新号に載っていました。
<5月7日>(木)
〇大型連休は終わったが、あいかわらずの在宅勤務である。で、少しは身体を動かさねばならぬので、コンビニまで出かけて「東スポ」を買うのである。そう、今週末のG1レースに向けて、アンカツ先生のご託宣を聞かねばならないのだ。
●G1はアンカツに聞け!! 安藤勝己氏大好評連載
第25回NHKマイルカップ(10日=東京芝1600m)指南に臨んだ安藤勝己元ジョッキーは「新しい予想様式など必要ない」と断言する。速い馬が勝つ――。先週の天皇賞・春とは一転、アンカツが即断即決を下した「堅軸」とはあの馬だ。
〇東スポの惹句はあいかわらず秀逸である。ホントにそうだよね。お前たちに「新しい生活様式」を教えてやるだなんて、いかにも上から目線の失礼なモノ言いではありませんか。こんな風にして、「感染症」専門家への信頼は低下していくのである。
〇およそ専門家というものは、世の中の人に知られていない間は尊敬される。見慣れてくると、「なーんだ、この人、こんなことも知らないのか」ということがバレてくる。そりゃそうですよ。だから大事なことは政治家が決断しなきゃダメなんです。専門家会議に丸投げしちゃいかんのです。
〇同じ専門家でも、エコノミストや競馬評論家が世の中からどういう扱いを受けているかを考えてみればいい。景気や株価、競馬の結果は誰にでもわかる。「なんだコイツ、また外してやがんの」とわかってしまう。だから「逆神」などと呼ばれている者が大勢おりますぞ。アンカツ先生はその数少ない例外である。だからこそ、わざわざ「東スポ」を買いに出かけるのである。
〇さて、この人の予想はどうか。オバゼキ先生、今週もほとばしっておられます。本旨はいちいちごもっとも。ただし競馬の予想は意見が合いません。ここはやっぱりレステンシアからでしょ。アンカツ先生もそう言っておられますよ。
●「緊急事態宣言」の延長は本当に正しかったのか〜新型コロナウイルス政策をめぐる3つの疑問
<5月8日>(金)
〇岡本行夫さんが亡くなられました。コロナウイルスによる死亡者では、初めて個人的に存じ上げている方です。
〇亡くなられたのは4月24日、享年74歳であったとのこと。こんな情勢では、「お別れの会」も開かれないのではないかと考えるとまことに残念でなりません。見ていませんでしたけど、3月22日のTBS「サンデー・モーニング」にも出ておられた由。急転直下、病状が悪化されたのでしょう。
〇NHKの討論番組とか、読売新聞の座談会とか、いろんな場所でお目見えする機会がありました。どんなテーマで議論しても、この人と意見が合わないということは1回もありませんでした。その代わり、深く接する機会はありませんでした。つくづくもったいないことをしたものだと思います。
〇若い頃に如水会の講演会で、外務省時代の岡本さんの話を聞いたことがあります。中身はほとんど忘れてしまいましたが、こんな掴みのジョークのことだけはよく覚えています。
「先日、オーストラリアに出張したときに、空港で日本人観光客の女性たちに取り囲まれてしまった。はて、俺はそんなに有名人だったかな、と思ったら、彼らのお目当ては自分ではなくて、部下の小和田雅子だった」
〇ほかにももっと際どいジョークがあったのですが、ここでは遠慮しておきましょう。とにかく気さくで、一緒にいるだけで楽しくなる方でした。
〇自分が発言することではなく、行動することが真骨頂の外交官だったと思います。この人の業績はあれとこれと・・・という人ではなくて、存在そのものが日本外交の重しでありました。もっと長くご活躍いただければ、また教えを乞う機会もあったでしょうに。惜しまれます。合掌。
<5月9日>(土)
〇昨日発表された4月の米雇用統計は、NFPが▲2050万人(前月は▲87万人)、失業率は14.7%(前月は4.4%)ということになりました。グラフを描くと思わず途方もない「絵」になって脱力してしまいますが、この日のNY株価が上げたように、そんなに悪い数字ではなかったのかな、という気がしております。
〇何より、ここ数週間の新規失業保険申請件数があまりにも多かったので、事前の市場予想値は▲2200万人、16%であった。失業率が15%を上回るかどうかで、受ける印象はかなり違う。ちなみに過去7週間の数字をメモしておきましょう。
<新規率業保険申請件数>
3/16〜3/21: 330.7万人
3/23〜3/28: 686.7万人
3/30〜4/ 4: 661.5万人
4/ 6〜4/11: 523.7万人
4/13〜4/18: 444.2万人
4/20〜4/25: 386.7万人
4/27〜5/ 2: 317.6万人
5/4〜5/9:298.1万人
8週間の合計:3,649万人 ←(5月16日に追記)
〇もちろん1カ月で2000万人減は史上最悪の数字だし、失業率14.7%はリーマンショック後を上回る。それでもなぜこの程度で済んだかというと、ひとつは労働参加率60.2%と大きく低下している(3月は62.7%)。以前にも書いた通り、就職を諦めた人が多かったということになる。だいたい外出禁止の中で、どうやって職探しをすればいいというのか。
〇普通であれば週500ドルの失業保険に、緊急対策2兆ドルを原資とする600ドルの上乗せがある、という事情もある。これだったらさっさと失業保険を申請して、後は仕事探しをしている振りだけして家にいる、というのが賢い策となります。こういうときは、とにかく現金給付が良いのです。下手すると、暴動になりかねませんので。最近、一部の州で起きている「経済活動再開」を求めるデモを見ると、かなり剣呑な機運もあるようです。
〇2000万人の内訳をみると、Leisure and Hospitality(娯楽及び宿泊。飲食を含む)が765.3万人と3分の1以上を占めている。これはもうコロナの直撃弾を受けた形である。アメリカは州によっては経済活動再開に向けて舵を切りつつあって、飲食業などはじょじょに復活に向かうのだろう。それでも、「移動の自由」を認めるのはかなり先になりそうなので、ホテルや交通などのツーリズムが復活するには時間がかかるだろう。
〇その一方で、日経新聞の記事ではこんな指摘もある。
失業者数は3月の710万人から2300万人へと一気に増えた。ただ、失業者のうち「恒久的な解雇」は11%にすぎず、78%は「一時的な解雇」だった。08〜09年の金融危機時は、逆に「一時解雇」が10%前後にすぎず、50%前後が「恒久解雇」と圧倒的に多数だった。統計をさらに遡ってみても「一時解雇」の割合は、新型コロナの発生前は1975年6月の24%が最大だ。
〇コロナ・ショックは飲食などの需要と供給を「蒸発」させてしまったが、それがテンタティブなものであって、感染の収束とともに急速に元に戻る、という可能性もまだ残っているようだ。ただし感染の2次拡大などが起きれば、一時解雇が恒久的な解雇になり、「2桁失業率」が定着してしまうだろう。要は景気回復がV字型か、U字型か、それともW型かによって変わってくる。
〇結論として4月の雇用統計は、グッドニュースにもなるし、もちろんバッドニュースにもなり得るのだ、ということになります。
<5月10日>(日)
〇リモートワークについて、どうやらこんな使い分けが進行中のようだ。
●省庁→Skype
●企業→Teams
●大学→Zoom
●金融→電話会議
〇世間的に普及しているのはZoomであって、これを使ったTV会議が最近、増えている。たいへん使い勝手がよろしく、短編映画 『カメラを止めるな!〜リモート大作戦〜』の劇中で使われているのもZoomである。
〇そういうときに、大学教授のお友達は大変にありがたい。彼らは既にこれで授業をやっているから、いちばん慣れている。昨晩は10人以上で楽しいWeb飲み会をやったのですが、幹事役を買って出てくれたK先生に厚く御礼を申し上げなければなりませぬ。
〇なぜZoomがすべてを席巻してしまわないかというと、「安全保障上の不安があるから」と言われている。これもS教授に伺ったところでは、メンバーを招へいするときに適当なやり方をすると、本当に知らない人間が乱入してくることがあるらしい。でも、ちゃんとパスワードを配布すればいい話だし、そもそもWeb飲み会なら別に気にしなくてもいいでしょ?ということであった。
〇秘密保持が重要となる外交の世界では、アメリカはGoogle
Meet、EUはWebex Meet、日本はTeamsという使い分けがあるようだ。こんな風にTV会議が当たり前になってくると、今後は国際会議があまり行われなくなるのではないか。考えてみれば、海外出張というのはつくづくおカネと時間の無駄だったのではないか、などと思えてくる今日この頃である。
〇リモートワークはまだ発展途上。だんだん「ニューノーマル」が形成されつつある。その先がどうなるのかは、まだわかりませんけどね。
<5月11日>(月)
〇データをいじっていて、面白いことに気が付いた。
〇米雇用統計を過去にさかのぼって、2010年1月から2020年3月までのNFP(非営業部門雇用者増減数)を合計すると2035万人になる。4月のNFPは▲2050万人だから、10年かけて増えた雇用がほんの1か月で消え失せたことになる。いや、こんなことを「面白い」などと言っていたら罰が当たるのだが。
〇ただし、これで済むわけではなくて、「5月か6月には失業率は20%超える」というのがトランプ政権内の読み筋であるようだ。4月の失業率は14.7%なので、さらに数百万人は増えることになる。20%越えというと、文字通り1920年代の大恐慌以来となる。もっとも原因不明で、先行きがどうなるか見えなかった大恐慌時と比べれば、今回のコロナ不況はちゃんと理由が見えている。ご安心ください、年後半には雇用は回復しますから、ということになっている。
〇ただし、そのようにうまく行きますかどうか。アメリカも欧州も、経済活動再開に向けて少しずつ動き始めている。ただし、それで経済がV字回復になる保証はない。
〇先日、NY在住の方の話をTV会議で聴く機会があったのだが、NY市内で感染者が多いのは、@ブロンクス、Aスタッテン島、Bクイーンズ、Cブルックリン、Dマンハッタンの順なのだそうだ。ホワイトカラーが多いマンハッタンは意外とリスクが低い。ただし家賃が高いので、飲食店関係で務めていた人は、職を失うとどんどん郊外に引っ越しているとのこと。
〇仮に「経済活動再開」になったとして、彼らはちゃんと戻ってきてくれるかどうか。「労働力」というのは生身の人間なので、「需要と供給」の法則に素直に従ってくれるとは限らない。家族もいるし、病気にもなる。それが雇用というデータの難しさなのである。
<5月12日>(火)
〇毎週火曜日には、「文化放送」の仕事もあるので都心に出かけるのだが、洋服ダンスを開けた瞬間に「はて、ワシはなぜこんなにたくさんスーツを持っているのだろう?」と疑問を感じた。少したってから、「そうか、以前は月〜金で通勤していたからか!」と思い当たったのだが、ほんの2カ月足らずの間に人は変われば変わるものである。
〇都心は結構、人が多かったな。やはり少しずつ緩んできているような気がする。この辺が「和製ロックダウン」(別名:仏式)の限界というもので、「何だかんだ言って政府は甘い」とか、「感染者数、減ってるじゃないか」と思われると、国民の協力姿勢は低減する。この辺は「あうんの呼吸」というもので、誘導する側とされる側が微妙なキャッチボールをやっていくしかない。
〇どうせなら、ちゃんと「強制的ロックダウン(鬼式)」ができるように法改正すればいいのに、と思うのだが、これを世論調査で問いかけてみると、産経新聞の回答でも、「そう思う43.6%、思わない50.7%、わからない・どちらともいえない5.7%」となる。やっぱりみんな、鬼にはなりたくないのだな。だったら仏のままで何とか用が済むように、このまま続けていくしかない。政治もマスコミもあんまり信用されていない中で、果たしてできるだろうか?
〇ところで産経新聞の世論調査を見てたら、政党支持率が面白いことになっている。
自民党 33.2(36.2)
立憲民主党 5.9(3.7)
国民民主党 0.8(1.1)
公明党 5.3(3.1)
共産党 3.2(2.6)
日本維新の会 7.4(5.2)
社民党 0.8(0.4)
NHKから国民を守る党 0.2(0.9)
れいわ新選組 0.9(1.9)
その他の政党 1.0(1.0)
支持する政党はない 40.0(43.1)
他 1.3(0.8)
〇自民党への支持が減る分だけ、野党に流れるのがこういうときの常であるはずだが、日本維新の会が第2勢力となっている。立憲民主党は少し焦った方がいい。
〇世間では「検察庁法改正案」(そんなもん、実在しないのだが)への抗議ツィートが飛び交っているとのこと。でもさあ、少なくとも2年後に施行される法律は63歳の黒川東京高検検事長のステータスにはまったく影響を与えないはず。この夏の人事で検事総長になるのであれば、ますます定年延長は関係なくなる。ちゃんとわかっているのだろうか。
〇そっちに世間の関心が向かうと、政府のコロナ対策の不備への関心が低下するという構図である。手品師の右手が高く上がったときは、左手が何をしているか気を付けなければならない(襟のあたりをさわって、次の「仕込み」をしていることが多い)。今の野党は、安倍首相の右手に噛みついているようなもの。願ったりかなったりなんじゃないでしょうか。
〇2015年の平和安保法制の時と同様で、芸能人が声を上げて抗議するときというのは、だいたいが碌なことじゃありませんな。日本の左派勢力はこういうことを繰り返して衰退しているということに、いつになったら気が付くのでしょうか。
<5月13日>(水)
〇ラスベガス・サンズ社が、日本におけるIR建設事業からの撤退を決めました。まあ、時節柄無理もないかな、とは思いますが、どうやら経営判断の理由はコロナ騒動だけではなかったようです。
〇ブルームバーグ社の記事が、本件について詳しく報道しています。
Las Vegas Sands Gives Up on $10
Billion Japan Casino Project (ラスベガスサンズ社は、日本のカジノ1兆円計画を断念)
One of the biggest stumbling blocks was that the concession would
be good for only 10 years. Even in that time frame, national or
local government officials could change the terms in a way that
might crimp profit. The company’s resorts in Macau and
Singapore have licenses that extended for 20 and 30 years,
respectively.
「最大の障壁のひとつは、営業許可時間がわずか10年に限られていることだ。この期間内であっても、政府や自治体が条件を変更して企業利益を阻むかもしれない。サンズ社のリゾート施設はマカオでは20年、シンガポールでは30年のライセンスを与えられている」
“We are grateful for all of the friendships we have formed and
the strong relationships we have in Japan, but it is time for our
company to focus our energy on other opportunities,” Adelson
said in a statement.
「アデルソン会長は声明を発表した。『われわれがこれまでに構築してきた友情と、日本との強靭な関係に感謝する。だが、会社が他の機会にエネルギーを集中すべき時が来た』」
Adelson, one of the richest men in the world, said he would be
willing to spend $10 billion on a resort that would include
gambling, hotels and meeting space, similar to those he’s built
in Las Vegas, Macau and Singapore.
「世界最大の富豪の1人であるアデルソン会長は、ラスベガスやマカオやシンガポールに建設したのと同様なギャンブル、ホテル、展示場を含むリゾート施設に100億ドル(1兆円)を投資したいと言っていた」
Considering the resort could take five years to build, a 10-year
concession wasn’t enough to earn a good return on that size
investment, said the people, who asked not to be identified
discussing private deliberations.
Land prices and labor expenses in Japan are high, and banks were
unwilling to lend more than half of the construction cost, the
people said. The proposed taxes in Japan would be steep with a
30% levy on gambling revenue and a 31% corporate tax rate.
「リゾート建設には5年程度を要することを考慮すると、10年間の営業許可は投資規模を回収するリターンを得るには満たない、と関係者は匿名を条件に語る。日本における地価や労働力は高価であり、銀行は建設コストの半分を超えて貸そうとはしない。日本での課税ベースは、ギャンブル総収入からの30%取り立てに加えて、法人税も31%であるという」
The country was also planning to put limits on the number of
times Japanese citizens could visit and impose an entry fee of
about $55 a day, the people said. Winnings by foreign gamblers
may also be taxed.
「日本政府は、日本の市民がカジノを訪問する回数を制限し、入場料を1日55ドル程度にする計画である。しかも外国人顧客が勝った場合には、勝ち分に対して課税されるかもしれないという」
〇かくして日本政府は、1兆円の対日直接投資の機会を逃したことになります。それと同時に、もたらされたであろう需要と雇用も同時にね。
〇「日本人はカジノを望んでいない」という世論に対して、ワシは懐疑的である。それを言ったら、1980年代に東京ディズニーランドが建設されたときだって、当時の世論は冷ややかだった。それが完成した瞬間に豹変した。日本でカジノを含むIRが建設されて稼働した場合、できた途端に地元が手のひらを返すことは想像に難くない。「営業許可が10年しかない」なんてことは、ホントはオペレーターが心配することはなかったはずである。
〇それでもこれで、横浜市におけるカジノ計画は白紙となりました。クルーズ船の来航も当面は望み薄ですし、地元は大丈夫なんでしょうかね。大阪のIR計画は継続するでしょうが、こちらに参入表明しているMGM社だって、この先どうなるかはわかりません。大阪・関西万博自体がどうなるかわからない現状では、それもやむなしでありましょう。
〇つくづく罪が重いのは、財務省主税局である。総売り上げから30%のテラ銭を巻き上げておいて、そこから諸経費を引いた経常利益から、さらに31%の法人税を取るつもりであるらしい。いくらギャンブルの胴元が儲かるからと言って、これはやり過ぎだろう。JRAよりも高いではないか。なおかつ、「博打で勝った人の勝ち分に課税する」ことまで考えているという。ここまで条件を厳しくしたら、外国企業が逃げるとは思わなかったのか。貧すれば鈍する、とはまさにこのことである。
〇他方、サンズ社は合理的な判断をしたことになる。カジノビジネスの帝王にして、ドナルド・トランプ最大の支援者でもあるシェルドン・アデルソン会長は、自分のメンツを守るために投資と建設を強行するような人ではなかった。リアリストであり、真の意味のギャンブラーでありますな。見込みを誤って、賭けに負けて将来の税収を失ったのは財務省ということになります。まあ、最初からIR計画自体をつぶしたかったのであれば、それはそれで結構なことでありますが。
<5月15日>(金)
〇今朝、ジェトロ主催のウェブセミナーに参加してみた。本来、アメリカ国内の聞き手がメインなので、日本では朝早い時間になる。横目で「モーサテ」をちらちら見ながら、「米国石油業界の動向」に関する講義を拝聴する。
〇中身的には有益だったのだが、パワーポイントの画面と音声だけで内容を理解するのはなかなか容易ではない。リアルで人の話を聞くときは、途中で寝てしまったけれども、どこかのポイントがヒットして残るということがある。隣の人とその場で講義の印象を会話したことで、記憶に定着することもある。その点、ウェブセミナーというのは孤独な世界なので、するっと記憶から抜け落ちてしまいそうな点がちょっと怖い。
〇午後は長年やっている仲間のウェブ会合。12人も集まったので、Zoomの画面がきっちり3×4で埋まった。いかにも盛況である。リアルだとなかなかこれだけの人数は集まらないが、ウェブ上だと海外在住者も参加できるのがありがたい。
〇ただし12人で談論風発というのはちょっと難しい。リアルの会合は、それこそ出たとこ勝負の方が盛り上がるし、意外な人が意外なことを語るから面白い。ウェブ上の会合はある程度、事前にテーマを決めておく方がいいのかもしれない。
〇あちらこちらの大学では、すでにウェブ授業が行われている。某教授に聞いたら、「Zoomの授業はあきらめて、オンデマンド方式にしました」とのこと。学生全員が集まってリアルタイムで授業をするのが理想だけれども、それだとネット環境によってアクセスできない学生ができてしまう。だから、授業をまとめてネット上にアップしておいて、それを全部見て、あとから課題を提出するように、という方式をとるのだそうだ。
〇なるほど、大勢だとそうする方が無難なのだろう。ただし、学生同士がインタラクティブに授業を聴く、ということはできなくなる。同じ話を聞いても、人によって受け止め方は違う。そこが学校の大事なポイントで、たしかSchoolという言葉の語源は「人が集まる」ということであったはず。リアルで集まることができなくても、ウェブ上で集まればそれでいいじゃないか、というと、そこはやっぱり限界もありそうだ。
〇実は来週、某大学でウェブ講義をする予定があって、今日はその資料を作っていた。普通にパワーポイントで作るのだが、ノート欄に「こういう話をする」というところまで書き込んでみた。アクセスできない人がいても、それを読んでもらえれば、最低限のことは伝わるだろうということで。
〇もっとも、リアルで済むのならこんな手間はかけないはずなので、伝える側としてはウェブの方が真剣勝負になる、という点もある。ともあれ、試行錯誤は続くのである。
<5月16日>(土)
〇Foreign Policy誌に掲載された論文、"Japan's
Halfhearted Coronavirus Measures Are Working Anyway”「日本の中途半端なコロナ対策は、とにかく機能している」が評判になっています。
〇書き手は、在日経験豊富なジャーナリストWilliam
Sposato 氏です。"Despite indifferent lockdowns and poor
testing, Japan seems to be skipping the worst of the
pandemic." (おざなりのロックダウンとお粗末な検査にもかかわらず、日本は最悪のパンデミックを回避しつつあるようにみえる)などと言ってます。面白いので、抄訳を作ってみました。以下、ご参考まで。
コロナウイルスとの戦いの中で、日本がやっていることは全て間違っているように見える。検査は人口比0.185%に過ぎず、ソーシャル・ディスタンスは中途半端、国民の大多数は政府の対応に批判的である。ところが致死率は世界最低、医療体制も危機を回避し、感染者数も減少傾向。奇妙にうまく行っているのだ。
危機の初期段階から、検査は入院が必要な患者に限られていた。「感染拡大を遅らせ、死者を減らすことが目的だ」と元WHO幹部の尾身茂は2月中旬に言ったものだ。結果はお見事で、5/14時点でCovid19による死者は687人、人口百万人当たり5人に過ぎない。米国では258人、スペインは584人、成功と言われるドイツでさえ94人なのである。
日本が中国に近く、多くの観光客があり、世界で最も高齢化が進んでいることを考えれば、ほとんど奇跡のような少なさである。日本の医療専門家は、実数がより多い可能性を認めるものの、肺炎など他の死者数が予想外に増えている兆候はない。
この国は単に運が良かっただけなのか、それとも良い政策の結果なのかは容易に判じ難い。高官たちの発言も控えめだ。安倍首相は4月末に「残念ながら感染者数は増えており、状況は深刻だ」と警告した。数は少なくとも医療崩壊の懸念があると。日本緊急医学会は4月中旬に「緊急医療体制の崩壊はすぐそこまで来ている」と述べている。
過去2週間の数値は明らかに減少傾向となり、緊張は和らいでいる。新規感染者数は4/12のピーク時743人から5/14には57人となり、目標の100を下回った。もっとも世論を安心させるほどではなく、共同通信の世論調査によれば57.5%が政府の対策に批判的である。
困るのは検査数が国際標準をはるかに下回り、実態が見えないことだ。5/14時点で検査数は23.3万件、米国の2.2%に過ぎない。本来がそういう仕組みで、コロナ診断を受けるためには特殊な病院に行かねばならない。軽症者は診てもらえず、37.5度の熱が4日以上続いたときだけ検査を受けるように指示される。このルールは厳格に守られ、検査を受けられない事例は数多い。友人を助けようとした外国人女性の証言は、国際的な注目を集めたものだ。
日本医師会の横倉会長は「検査能力が不十分だ」と認め、設備の拡大を求めている。民間の検査も導入して、政府は高齢者や重篤者向けの即時検査を拡充している。それでも実態はつかめず、ある専門家は東京の人口の6%程度が感染しているのではないかと言う。
さらなる問題はデータの収集法だ。感染の報告はかならず医師が手書きで、保健所にFAXして、それが政府で集計される。医師の貴重な時間が無駄との批判に接し、IT担当大臣が問題を認めた。データの動きもでたらめで、日と月は少なく、金と土に跳ね上がる。
しかし人口比1〜2%の検査をしながら、多くの死者を出している国に比べれば、さしたる問題ではあるまい。深刻な感染を回避している国は、気温が高かったり人口が若かったりする。日本はそのどちらでもないのだが、とにかく死者は少ないのである。
日本の自主的なロックダウンも切迫感を欠いている。緊急事態宣言があっても、政府は外出禁止や企業の休業を命じることができない。米国が書いた戦後憲法のお陰である。ソーシャル・ディスタンスも個人の善意に委ねられている。東京都が最初に自粛要請を出したとき、職員が新宿で早く帰るように促した。飲食店は低調に午後8時休業を求められた。終電までの飲酒で、オフィスでのストレスを発散する日本人サラリーマンには打撃である。
人との接触を7〜8割減らす、と目標は高い。実際にそれに近い数値を達成しているし、「ゴールデンウィーク」の帰省ラッシュも止められた。JRは、新幹線の乗車率が5%程度だったと語る。窮屈なアパートからの通勤は18%減に留まるが、東京の中心部の人出は6割減っている。誰もがマスクを着けていて、そのことに関する苦情はほとんどない。
日本人は自分たちが法令順守で健康重視なのだと言いたがるが、皆が真剣に取り組んでいるようには見えない。その典型がパチンコ屋で、閉店を拒む店もある。政府は店名を公表したが、開店前から長い行列ができていた。東京でコロナ陽性を告げられたのに、高速バスで帰省した女性の例も報道されている。しかも犬が心配で、再びバスで東京に帰ったのだそうだ。
それでも一般論として、互いに気を使い、距離を取り、握手をせず、衛生観念の高い日本の文化が(計量しにくいけれども)、効果をもたらしたのだろう。不幸にして文化の悪い面、医療従事者や患者への悪意ある対応も目に付く。表向きは称賛されつつも、看護婦の子供が保育園で忌避されたりした。日本医師会の横倉会長が業界を代表して要望し、差別はやや減ったと言う。
数字の減少傾向を維持すべく、安倍首相は緊急事態宣言を5月末まで延長した。だが自粛疲れもあり、ルールを緩和した。公園などの公共スペースは開業し、東京など大都市を除く地方では制限が緩和された。限られた範囲とはいえ、ビジネスは再開されつつある。他国と同様、日本が新たな危機を招くことなく、このまま足抜けできるかどうかはわからない。もっとも、日本はなぜ最初から危機がなかったのかも、多分わからないままなのだが。
〇いやはや、耳が痛いことばかりでございます。
〇たぶん日本という国は、台湾や韓国のように他国から褒めてはもらえないでしょう。とはいえ、結果オーライ、死者が少なくて済むならそれでいいじゃないですか。上記の文章は、「あの子はフードファイターみたいによく食べて、運動も全くしていないのに、体質のせいか全然太らない。ずるいよな〜」と言われているようなものですな。
〇ちなみに日本の医学界がPCR検査に消極的になったのは、2月時点でダイヤモンド・プリンセス号を抱えてしまっていて、「これ以上のリスクは受け入れられない!」と警戒したからだという説があります。いかにもありそうなことだと思います。
<5月17日>(日)
〇少し時間がたっているのですが、三浦瑠璃さんが4月末に行った世論調査がよくできていて面白い。
●新型コロナウイルスに関する緊急意識調査 https://yamaneko.co.jp/news/release/report_novelvirus20200501/
〇以下はその結論部分。
*新型コロナウイルスの流行は9割近くの人びとに健康不安を与えており、年代別に大きな差は存在しない。毎日テレビを視聴する習慣のある人は、他の人よりも強い健康不安を抱えている。
――これは日本における世論調査の特色で、世代や職業、地域による差が小さい。
――それにしても、やっぱりTVは良くないね。「新しい生活習慣」に、テレビを見ないという項目を入れてはどうでしょう。
*3分の1以上の世帯の収入が減少しており、半数が将来の減少を見込んでいる。パート・アルバイトの3割は賃金がまともに支払われておらず、フリーランスや自営業者の4割は報酬が激減している。
――アメリカにおける"Leisure and hospitality"
(娯楽及び宿泊)、かんべえ流に言えば「遊民産業」の声は、社会全体に届きにくい。
――これらの産業では需要と供給が両方いっぺんに「蒸発」している。どうやったら元に戻せるか。結構、大変な問題です。
*非正規雇用や自営業者の2〜3割は休業しており、労働者の約半数は雇用不安を抱えている。経済活動の自粛が長引けば大量に失業することが想定される。
――テレワークしているホワイトカラーは得てしてこういうことに気づかない(だから一番下のカーストになる)。
*自粛継続可能な期間は、年齢よりも不安定な就業形態によって左右される。6割弱の人は1カ月以内に緊急事態宣言を解除すべきだとしている。専業主婦・主夫(ワーキングマザーも同様)に休校や自宅勤務のストレスがのしかかっており、6割が早期の休校措置解除を望んでいる。
――表向きは「イノチが大事」と答えるけれども、ホンネは「おカネの心配」が先に立つ。これが普通の日本人。テレビカメラを持った人が街頭で聴くと、たぶん違う答えが飛び出します。
*健康不安だけでなく、これら政治に届きにくい経済不安にしっかりと対処し、緊急事態宣言や自粛の延長は長くとも1カ月以内にとどめるべき。
――外出自粛は今月いっぱいが限界、これは皆さん、想定の範囲内でしょう。細かなルールを決めてしまうと、あとで苦しむことになるかもしれません。
<5月18日>(月)
〇本日は1-3月期GDPの速報値(QE)が公表されました。年率3.4%減、と聞いて、「それほどでもなかったな」と思われた方もいらっしゃるかと存じます。が、これは単純な数字のトリック。GDP統計はいつも「前期比」なのであります。昨年10-12月期が、巨大台風やら消費増税やらで▲7.3%減でしたので、そこからさらに下げるとなると、下げ方が小さく見えるのであります。
〇それでも足元の4-6月期は、自粛やら休業要請やらで、いわば日本経済全体が無理やりGDPを押し下げるようなことをしているので、もっと悪くなることは間違いない。「4-6月期はGDP20%減」なんて声もちらほら聞こえてきます。諸外国の情勢を見ると、それもまんざらあり得ない話ではないように思われます。
〇先日、テレビのニュースを見ていたら、どこかの野党議員が「GDPが2割減ですよ!100兆円の財政出動が必要だ!」と言っているシーンが流れていました。500兆円の2割は確かに100兆円なのだけど、これはかなり恥ずかしい勘違いと言えましょう。でも、NHKがそのシーンを流したということは、その場に居た記者も騙されていたことになる。これも公共放送としては、かなり恥ずかしい間違いであります。
〇われわれが見聞きしているGDPは四半期の数字です。日本経済が年間に生み出す付加価値の総量がGDP(国内総生産)ですが、これがざっくり500兆円+αということになります。四半期では当然、その4分の1ということになります。それを年率換算して、普段は500兆円+αと言い慣わしている。4-6月期のGDPは、その4分の1である約125兆円ということになります。それが5%減(年率20%減)になることを想定しておけばいい。
〇近年の四半期GDPは以下のような感じです。こうしてみると、意外と大した変化はないですよね。年率換算する場合は、変化率をざっくり4倍すればいいことになります。
実質GDP(実額) | 変化率(前期比) | |
2019/1-3. | 536,5兆円 | +0.6 |
4- 6. | 539,4兆円 | +0.5 |
7- 9. | 539,4兆円 | +0.0 |
10-12. | 529,4兆円 | -1.9 |
2020/1-3. | 524,9兆円 | -0.9 |
4- 6. | 498,6兆円 | -5.0 |
〇それでは4-6月期のGDPはどれくらいになるのか。本当に年率2割減なら前期比▲5%減となりまして、500兆円をちょっと割る程度となります。これはちょうど2012年第4四半期のころ、すなわちアベノミクスが始まる直前の数値と言うことになります。グラフに描いてみると、はあ、ちょっとため息が出ますね。日本経済が、ほぼ7年前の水準に戻ることになります。
〇もっともGDPは所詮は過去の数値です。問題はこれから先がどうなるかでありまして、今月いっぱいで緊急事態宣言が終了し、来月から経済活動が再開されるとしたら、7-9月期の数値はもちろん回復するでしょう。もちろんその先には新型コロナ「第2波」の可能性もあって、先行きは慎重に見ていく必要があります。ともあれ、「2割減だから100兆円だ!」ということはありません。
〇さらに、GDPが減る分をすべて財政で補え、というのも暴論であります。財政出動には当然、乗数効果がありますので、仮に10兆円の財政支出を増やすと、それで公共工事が行われて、それが誰かの収入になり、それが消費に回って・・・・というメカニズムが働きます。要は「カネは天下の回り物」ということです。
〇足元で行われている自粛とか休業要請とかは、「カネをなるべく回すな!」という不自然なことを言っているわけでありまして、あまり長く続けるべき事態ではありません。それよりも、「第2波はかならず来る」と考えて、今後はそれに対する準備をするのがよろしいかと存じます。20世紀に起きたパンデミックは、3回とも全部第2波があったそうですから。
<5月19日>(火)
〇今朝の文化放送でご紹介したのですが、WHOが2005年に行った「パンデミックに関するアセスメント」のリンクを張っておきましょう。
〇全部で64ページもあるのですが、注目は31〜33pにある"Lessons
from the three pandemics"(過去3回のパンデミックからの教訓)とある12か条です。ここでは20世紀に起きた3つのパンデミック、@スペイン風邪(1918-1919)、Aアジアインフルエンザ(1957-58)、B香港インフルエンザ(1968-69)における体験から、どういうことに気を着けなきゃいかんか、という教訓がまとめてある。以下は個人的に気になった部分の抜き書きである。
1.Pandemics behave as unpredictably as
the viruses that cause them. During the previous century, great
variations were seen in mortality, severity of illness, and
patterns of spread.
(パンデミックは、それを引き起こすウイルス次第で予測不可能である。20世紀のパンデミックは、1回ごとに死亡率や重篤さ、感染拡大パターンなどは違っていた)
4.The epidemiological potential of a
virus tends to unfold in waves. Age groups and geographical areas
not affected initially are likely to prove vulnerable during the
second wave. Subsequent waves have tended to be more severe, but
for different reasons. In 1918, the virus mutated, within just a
few months, into a far more virulent form. In 1957,
schoolchildren were the primary vectors for spread into the
general community during the first wave. The second wave reached
the elderly, a group traditionally at risk of severe disease with
fatal complications.
(波によってウイルスの感染力は違ってくる。1度目に影響を受けなかった年代や地域が、第2波には脆弱になりやすい。また、後へ行くほど深刻になりやすい。1918年のウイルスは2〜3カ月で収束したが、その後、より強力になって戻ってきた。1957年は第1波は学校の子供たちが中心であったが、第2波は高齢者に広がった)
7.Some public health interventions may
have delayed the international spread of past pandemics, but
could not stop them. Quarantine and travel restrictions have
shown little effect. As spread within countries has been
associated with close contact and crowding, the temporary banning
of public gatherings and closure of schools are potentially
effective measures. The speed with which pandemic influenza peaks
and then disappears means that such measures would probably not
need to be imposed for long.
(公衆衛生による介入はパンデミックの拡大を遅らせることができたが、止めることはできなかった。隔離と旅行制限はあまり効果がない。国内での感染は、密接と密集に関わっているので、一時的な集会禁止と学校閉鎖は潜在的に有効である。インフルエンザのパンデミックがピークに達するときと収束するときの速度を考えると、これらの処置は長期にわたって強いる必要はない)
9.The impact of vaccines on a pandemic,
though potentially great, remains to be demonstrated. In 1957 and
1968, vaccine manufacturers responded rapidly, but limited
production capacity resulted in the arrival of inadequate
quantities too late to have an impact.
(ワクチンの効果は潜在的には大きいが、検証の余地がある。1957年や1968年にはワクチンの製造能力に限界があったため、メーカーは急いだものの効果を上げるには間に合わなかった)
〇感染症の専門家たちの世界においては、パンデミックは1世紀に何回かはあるものなのだし、そういうときは第2波、第3波もあるのがフツーですよ、ということのようである。こんなことは、知らない方が悪い。そうだよね、1957年や1968年のことは覚えていないもん。とりあえず、今は新型コロナの第1波が収束に向かっているようなのだが、これは第2波が来るまでの貴重な時間であるのかもしれない。
〇今後の注目点となるワクチンも、ちゃんとできるのか、そして生産が間に合うのかはよくわからない。ちなみに第10条には、Countries with domestic manufacturing capacity
will be the first to receive vaccines.(国内に生産拠点のある国からワクチンを受けられる)とある。日本はマスクなどの医療機器を何でもかんでも輸入で間に合わせるようになっていて、果たして大丈夫でしょうか。
〇それよりも心配なのは第4条である。第1波をうまく逃れつつある日本は、第2波ではより脆弱になるかもしれない。うーん、くれぐれも油断してはなりませぬ。
<5月20日>(水)
〇先日、ウェブ飲み会をしていたら、某ジャーナリストがこんなことを言うのである。
「最近、文春砲が不倫ネタを探しているんです。自粛期間中ですから、皆さん、くれぐれも気をつけてくださいね」
〇そんなもん、ワシにはもちろん関係のない話なのだが、どうやら今日になって不倫ではなく、賭けマージャンというネタが引っ掛かったようだ。週刊誌的には、これはオイシイ。自粛警察が歓喜の声で、「けしからーん!」と叫ぶであろう。しかも、それが渦中の人物であるK氏であったとなれば、さらに一粒で何度もおいしく味わえる話である。
〇マージャンの相手が新聞記者だった、というのも本件のツボである。たぶん「司法記者会ルール」みたいなものがあって、「そろそろKさんを慰労しなきゃいかんなあ〜」みたいな配慮があったのではないかと拝察する。若い頃からネタをもらったりして、要はマスコミもグルなのである。どうだ、ますますケシカラーン!ではないか。
〇さらにここ数日の国会状況により、検察官だけではなく、国家公務員全体の定年延長が吹っ飛んでしまった。官公労は怒り心頭で、野党は「おかしいな、与党は強行採決してくれると思ってたんだが・・・」と天を仰いでいるらしい。そもそもこれだけ皆が雇用に不安を抱いている時期に、公務員だけ定年延長というのがおかしい。永田町も霞が関も感覚がズレている。
〇それにしても今どき賭けマージャンとは・・・。ワシももちろん身に覚えのある口で、昔は結構なレートでやっていたものである。特に学生時代、試験の前日にやるマージャンは罪悪感があって、まことに快感があったものである。おそらく不倫というのも、そんな感じなんだろうなあ。
〇最近は、土曜も日曜も「おうちで競馬」である。この行為は自粛期間中には、Politically
Correctであるらしい。しかも東スポと優馬とグリーンチャンネルのお陰で、4月はちょい浮き、5月はちょい沈みでワシ的には健闘している。しかも戦闘中には、山崎元さんやオバゼキ先生や上海馬券王とのメールがひっきりなしに飛び交っている。まことに忙しい。
〇そうそう、自粛期間中に開いているパチンコ屋は、設定がとてもキツくなっているそうです。そりゃそうだよね。こんなときに来る客は、いくらむしり取ってもかまいませんわな。やっぱり自粛期間中は競馬に限りますよ。今週末はオークス、そして来週はダービーであります。
<5月22日>(金)
〇昨日はK大学の授業をヒトこまだけやらせてもらいました。もちろん自宅からのWeb授業で、Cisco社のWebexというツールを使っている。400人も聞いている、というけど、こちらから顔は見えない。話しながら、どれだけ届いているのかなあ、と心もとない。
〇ところがチャット欄があって、ここには学生からの書き込みが入る。システムトラブルがあって、「見えますか?」と聞くと、「見えます」「見えません」と言ったテキストがバタバタと入る。そうか、この画面の向こう側には、ちゃんと聞いてくれている人たちがいるのだ、ということがわかる。
〇さらにQ/Aセッションになると、うわあああああ・・・というくらいのテキストが流れ込んでくる。そうか、「質問はありませんか?」と尋ねたときに、皆の前で手を挙げて発言するよりも、チャットで書き込む方が心理的な抵抗は小さいわけである。学生の立場に立つと、ウェブ授業だと講師と一対一になれるので、遠慮なく書き込めるという効果もありそうだ。
〇なおかつ、チャットのログは残るので、どんなことを聞かれたかがちゃんと手元に残る。これはありがたい。リアルの授業だとこうはいかない。それからさすがK大、質問のレベルも高かったです。
〇どんなことでも、初めて経験することはためになる。大学の授業は、こんな試行錯誤をしているのですね。いつも感じることですが、教えることは教わることよりも勉強になる。ありがたいです。
<5月23日>(土)
〇こんなことを書きました(新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場)。
●日本が「コロナ第2波」でもっとも脆弱となる懸念
〇最後のオークス予想の部分で「オバゼキ理論」を援用したところ、小幡先生から「少し違う」というご指摘を受けました。「オバゼキとなぜ濁るのかが気に入らない」とも。失礼いたしました。東洋経済オンラインに記事がアップされるのが午前6時。ブログは6:02amで更新されているので、かなり力が入っている様子です。
〇ただし結論はそんなに変わらないようで、「デアリングタクトの相手探し」ということのようです。さて、明日の上海馬券王先生の診断も熟読したうえで、最終決断を下すことといたしましょう。こんな風に、最近の土日は「競馬脳」になってしまうのでした。
<5月24日>(日)
〇このところ、コロナ騒動で新しい対局ができないものだから、NHK杯将棋トーナメントが過去の名局を再放送している。
〇先週は、平成元年2月の加藤一二三九段対羽生五段戦であった。終盤で「5二銀!」という鬼手が飛び出し、解説の米長さんが「おーっ、やったっ!」と叫んだ懐かしの対局である。この対局、ユーチューブなどにもアップされているけれども、それらは短く編集されたものなので、NHKによる「当時のまんま」が再現されるのを見ていると、ほとんど歴史を感じますな。
〇羽生五段は当時18歳。棒銀を得意とする加藤九段に対して棒銀を繰り出し、互いに気色ばんで、序盤からほとんど喧嘩のような将棋である。今の好々爺のひふみんしか知らない人たちは、駒音高く盤を叩きつける勝負師のひふみんを見たら、気合の鋭さに驚くのじゃないだろうか。
〇ヨネさんの解説は、ズバズバ当たる。が、「5二銀」は想定外だった。聞き手の永井英明さんが、「こんな手があるんですか?」などと尋ねる(たぶん分かっていて、視聴者のために敢えて聞いている)。いや、この対局、ワシもリアルで見ていたけど、そうか、こんな感じだったっけ。
〇そして今週は、昭和63年秋の大山十五世名人対羽生五段である。晩年の大山さんはド偉い迫力である。和服姿と、牛乳瓶の底のような眼鏡が板についている。今の若い人たちにはわかんないだろうけれども、昔の大正生まれの戦争を経験した世代は、黙ってそばに居るだけで、とっても怖かったんだよ〜。
〇この日の解説は森鶏二九段。若くてカッコいい。そういえばこのころはバブルの時代だが、スーツがよく似合っている。棋譜読み上げの蛸島さんも若くて美人である。この日も羽生さんは終盤で妖しい手を指し、詰みそうなところを見事に逃れている。負けたとたんに大山さんが饒舌になり、局後の検討ではサービス精神を発揮する。そうか、31年前の将棋界はそんな感じであったか。
〇当時の日本将棋連盟はフツーの昭和の日本型組織であって、パワハラもセクハラも何でもありで、オヤジ世代がのさばっている世界であった。ところがまだ10代だった羽生さんは、この年のNHK杯トーナメントにおいて、加藤、大山、谷川、中原という4人の名人及び名人経験者をなぎ倒し、優勝してしまう。そうやって時代を変えてしまったのだ。
〇来週のこの時間は、「谷川対羽生戦」をやるらしい。とことん1989年度のNHK杯を流してくれるようである。いや、それもいいんだけど、個人的には村山聖九段の将棋も見たいんだな。先崎さんあたりとの対局、残ってませんかねえ。
<5月25日>(月)
〇今日でどうやら緊急事態宣言も解除とのこと。とはいえ、これで内閣支持率が上がるとは思えません。小池都知事は緊急事態の解除を上手に使って、7月の都知事選挙を大勝利につなげるのでしょう。相手がホリエモンくらいなら、400万票は行けるのではないでしょうか。他方、内閣にとってはイバラの道が続きそうです。
〇安倍首相は、やはり内政がお好きではないご様子。「目に見えない敵」を相手にするのは、気乗りがしないのでありましょう。とはいえ、今は「外遊」もできませんから、外交・安全保障の世界は封印されたも同然。そういえば茂木外務大臣のお姿をまったく見かけなくなりましたが、そりゃそうですよね。仕事がないんだから。
〇官邸官僚たちも、すっかりボロが出てしまいました。中小零細事業者やフリーランスがどんな風に日々を過ごしているか、まったく理解していなかったのでしょう。前年比で収入の減少を申告せよなどと、彼らが月次の決算をしていると思ったのでしょうか。それから飲食店というものは、今月の売上で先月の仕入れ代金を払うんです。自分の家の中にあるおカネは、全部自分のものだという幸せな人種は、この世の中ではサラリーマンくらいです。だから彼らには、「運転資金」という概念がないのです。
〇そんな人たちが政策を作っているのですから、物事が進まないのも無理はない。これは木に縁りて魚を求むるの類かもしれません。でもねえ、昔の官僚はもっと世間全般の暮らしを理解しておりましたですよ。彼らは料亭で遊んだり、賭けマージャンをしたかもしれませんが、それでも今の人たちよりは出来が良かったと思います。
〇ちなみに拙宅の場合は、「アベノマスク」も10万円もとんと音沙汰ありません。いや、もちろんそんなものを必要としているわけではありませんが、われらが政府のパフォーマンスの悪さに哀しいものを感じております。やっぱり菅官房長官を「蚊帳の外」にしたのは、まずかったのではないでしょうか。
〇本来ならば、こういうときに首相を支えるべき自民党も、深い悩みを抱えています。世に言う自民党の知恵なるものは、議員さんたちが@金帰火来で地元の声を聴き、A部会で全議員が侃々諤々やって、B最後は総務会でビシッと決める、というところにありました。ところが今は、@は都道府県を越えちゃダメなので行き来ができず、AとBは絵に描いたような「三密」なので、これらもダメと言うことになる。これでは知恵も発揮しようがない。
〇かといって、こういうときに野党も受け皿としてはまったく機能できないのですなあ。2011年の東日本大震災では、当時の枝野官房長官が「ただちに健康に影響はない」と繰り返して、かえって不安を誘ったものです。つくづく弁護士あがりは碌なやつが居ねえなあ、と思ったものですが、それが最大野党の党首をしておるのです。そしてその周囲には、「政府の一員として仕事がしたい」と考えていたような人たちは、きれいさっぱりいなくなりました。今は文句を言うことが正義という人たちばかりです。
〇ということで、日々の政治の姿に情けないものを感じている日々でありますが、それでもCovid-19の被害が小さいのはありがたいものです。幸いなことに、われわれはクオモ知事を必要としていないし、トランプ大統領ほどハチャメチャな人もいない。この程度で済んで、本当にありがたいと考えるべきなのかもしれませぬ。
<5月26日>(火)
〇トリアージという言葉がある。患者の重症度に基づいて、治療の優先度を選別する行為である。要は緊急事態の時に、助かりそうな人は助けるけど、見込みが乏しい人は後回しにしますよ、ということである。災害医療や大事故のときに出てくる。「小の虫を殺して大の虫を生かす」という発想なので、当然のことながら評判はよろしくない。
〇トリアージを考案したのは、フランス軍の野戦病院だったのだそうだ。昔はもちろん身分社会なので、「貴族が優先で平民はほったらかし」だったが、フランス革命で「国民軍」が誕生すると、純粋に医学的見地から取捨選択が行われるようになった。フランス人らしい合理主義ですな。
〇日本ではどうだったかと言うと、森鴎外が欧州留学の際にこの概念を持ち帰った。ところが帝国陸軍は、結局、トリアージを導入することはなく、「なかったこと」にした。まあ、なんとなくわかりますよね。日本人、やっぱりそういうのが苦手なのでしょう。昔からね。
〇で、本題は何かというと、これから「企業のトリアージ」が始まる、ということであります。国会で審議中の2次補正では、「業績が悪化している企業への12兆円規模の資本支援策」が盛り込まれるらしい。ということは、ドイツ政府がルフトハンザ航空に資本注入したようなことが、これから始まるということだ。
〇で、どの会社を助けてどの会社を見捨てるの?という問題が生じる。どうやって決めるのでしょうか。これ、下手に政治家や官僚に決めさせると拙いですよね。かならず癒着の問題が出るし、そもそも正しい判断ができるとはとても思われない。メガバンクが交通整理をしてくれればいいのですが、かつてのように興銀や財界鞍馬天狗(中山素平さん)が居る時代じゃありませんし。
〇もっと拙いのは、「全日空と日本航空を合併させて資本注入」みたいなやり方。これはもう縮小均衡にしかなりませんな。なおかつ内紛の絶えない会社ができてしまう。いや、いくらでも考えられますぞ。「日産自動車と三菱自動車に資本注入してルノーを切り離す」(ああ、それができれば・・・・)とか。
〇そこでこんなことを思いついた。「M重工とM電機とK重工の軍需産業部門をくっつけて、わが国初の専業防衛メーカーを作る」。これは独創的なトリアージというべきでしょう。いや、フランケンシュタインみたいな化け物になるかもしれませんけど、これまで日本の防衛産業はそれぞれの企業の「傍流」だったのです。それが防衛省に言われた通りのものを作っていればいい、というのでは腕が磨かれませんよね。この道一筋で生きていく、という状態にしないと、メーカーは本物にはなりません。
〇さて、これからたぶん始まるであろう企業のトリアージ。どうやったら「災い転じて福となす」ことができるのだろうか。ほっとくと、ものすごくくだらない資本注入が行われることになりますぞ。
<5月27日>(水)
〇この本を読んでいます。さすが滝田さん、仕事が早い。今年1月頃の話を読んでいると、「あれっ、そうだったっけ?」ということがたくさん書かれている。忘れていた怒りを、突然思い出したりもする。
●コロナクライシス (滝田洋一) 日経プレミアシリーズ
〇ふと思い出した。某夜の新年会で、滝田さんが妙に怒っていたのである。いや、いつも通り紳士的なのだが、何事かに義憤を感じている様子だったのだ。当方はその時点では、コロナウイルスの深刻さに全然気付いていなかったので、はて、今宵はどうかしたのかな?と感じたものである。
〇今日になって調べてみたら、それは1月23日の夜であった。そうか、翌日からの春節であるにもかかわらず、中国からの入国制限がまったく行われそうにない、という点に焦燥感を感じていたのか。本書を読んで、やっとそのことが理解できた。「リーマン級になるかもしれない」という言葉もそのときに飛び出して、「はて、そこまで深刻なことになるのかな?」と不思議に感じたものである。
〇不肖かんべえは察しが悪く、2月下旬になってようやく事の重要性に気がついた。そこから当溜池通信も、「コロナ」ネタの連続となって今日に至っている。ヒントはいっぱいあったのに、初動が遅れましたなあ。いやあ、お恥ずかしい。
〇本書を読んでみて気が付くのは、情報収集の武器としてツイッターが上手に使われていることだ。なるほど、そのときどきのニュースとともに、自分が何を感じたかをメモしておく道具になるのですな。当方は、せいぜいトランプさんのツィートをチェックする程度で、自分からツィートすることはやりませんが。
〇そういえば本日、とうとう柏市からアレが来ました。「特別定額給付金の申請に関するお知らせ」です。速攻で提出しましたですよ。コンビニで免許証と銀行通帳をコピーする。そういう人がこれから増えますな。
<5月28日>(木)
〇本日は全人代の最終日。注目の「香港国家安全法」が可決されました。もしもコロナ騒動がなかりせば、全人代は例年通り3月に行われて、そこで決まっていたはずである。それはそれで問題となっていたはずだが、中国共産党は香港で民主化デモが始まった昨年から、用意周到に準備をしていたのでありましょう。というか、これ以上放置しておくと、チベットやウイグルなど国内の他地域に対して示しがつかないでしょうし。
〇とはいうものの、このタイミングでの制定は、国際的な反発を招くという意味ではよろしくない。とりあえずトランプ大統領にとっては、「カモがネギをしょってやってきた」という感じでしょう。果たして今週末に、どんな対応策を打ち出すのか。香港に対する関税やビザ発行の特別措置をとりやめて、中国本土と同じにする、みたいな対抗措置が考えられます。もっともそれをやった場合、本当に香港のためになるのか(国際金融機能がますますシンガポールなどへ移転してしまうのではないか)という点が気になります。
〇「国家安全法」という強硬アプローチは、中国共産党としてはこれ以外に考えられない策でありましょう。とはいえ、それは中国にとっても香港にとっても良い結果を生まないはずである。香港では"Anywheres"が海外に行ってしまい、残るのは"Somewheres"ばかり。彼らはますますデスペレートな気分になって、大陸にとことん逆らう道を選ぶでしょう。中国側としても、コロナで傷んだ経済を回復しなければならないタイミングで、これは明らかなマイナスとなる。ある時点までは「党と国」の利害が一致していたけれども、だんだんそうではなくなっていく。
〇アメリカ側から見れば、@米中第1次合意はもう惜しくないし、Aファーウェイ苛めなどの手口は豊富にあるし、Bそもそも武漢におけるコロナ発生に関しても疑義があるし、C加えて香港問題という道義もついてくるのだから、ここで変に「大人」になる理由はないでしょう。そして中国側は、こういうときの常で被害妄想的になってしまい、まったく手が付けられなくなってしまう。
〇先週号の溜池通信で米中関係について取り上げましたが、しみじみ「米中対立のエピソード2が本格化しつつある」と感じています。
<5月29日>(金)
〇今朝発表の経済指標はちょっとショッキングでした。わかっていたことではあるのですが、景気はまっさかさまですな。
〇鉱工業生産指数は前月比▲9.1%減の87.1でした。今年1月には99.8だったのですから、急転直下です。こんな下がり方をしたのは、リーマンショックと東日本大震災の時。ただし全2回のようなV字回復になってくれるかどうかはわからない。何せ外需が期待できませんので・・・。それにしてもこの在庫率の上昇はちょっと怖い。
〇労働力調査は4月の失業率が2.6%(前月は2.5%)。なんだ、たいしたことないじゃん、と思って雇用者数を確認してみたら、前月の6054万人から5949万人へと105万人も減っている。6000万人の大台を割ったのは、昨年5月以来のこと。失業率が下がって見えなかったのは、職探しをあきらめる人が多くなったからだ。なにしろステイホームなんだから、労働参加率は低下しているのですな。
〇4月の有効求人倍率は、1.32倍(前月は1.39倍)でありました。まだ全国的に見れば、47都道府県がすべて1倍を超えています。とはいえ、さすがに2倍を超えるような県はなくなりました。そりゃそうか。何しろ人の行き来を止めているわけですから。
〇こんな風にして、経済指標はどんどん悪化しています。経済活動の再開はちょっとずつ始まっていますが、元通りになるのはいつのことやら。来月からは、ワシもちょっとずつ出勤を増やそうと思っておりますが。
<5月30日>(土)
〇えー、番組の告知でございます。
●特別フォーラム「激論!!
コロナ第二ステージにどう立ち向かうべきか!?」主催:
創発プラットフォーム
2020/06/02(火) 16:30開始
新型コロナウイルスの緊急事態宣言は全国で解除されましたが、他方、現状では以下のような課題・懸念が残っており、アフターコロナの課題は山積みとも言えます。今回は、各界の識者に集結して頂き、アフターコロナの政策課題を熱く討議して頂きます。
各種の発表データから日本の感染率、或いは、抗体保有率はかなり低い状況であると推察されますが、逆に言えば、第二波、第三波襲来の可能性は否定できず、適切な準備が必要な状況ではないかと思われます。そうであれば、緊急事態宣言が一度解除された今こそ、法制の再検証や施策の有効性を再考して、今後に備えることの必要性を考えます。
日本の検査数の少なさは国際的にも話題となる一方、無闇矢鱈に検査数を増やさなかったことが医療を守ったという主張もあります。ワクチンや治療薬の開発には時間がかかると考えられる中で、今後、日本はどのような検査体制、検査手段を取っていくべきなのでしょうか?
今年1〜3月期のGDPが年率3.4%のマイナスとなり、4〜6月期は戦後最大の落ち込みも予想される中で、経済の浮揚策は最大の政策課題とも言えます。第二次補正予算として「事業規模」全体で100兆円にのぼる政策が決定される一方で、コロナ禍に抗していくための財政や税制の考え方はどうあるべきか、また、民間の自主的な活動である募金やボランティアといった活動を政策の中にどう位置付けていくべきか? を政策の視点から考えます。
■自由民主党 衆議院議員 石破 茂 氏
■公明党 衆議院議員 岡本三成 氏
■国際政治学者 & 当財団客員主幹研究員 三浦瑠麗 氏
■投資家 & 当財団評議員 村上世彰 氏
■双日総合研究所 チーフエコノミスト 吉崎達彦 氏
〇ニコ生だそうでございます。そういえばワシ、登録してないんじゃないだろうか。それにしても上記は不思議な組み合わせである。松井孝治さんに言われて出るんですけど、ひとことも口を挟めずに終わってしまいそうな予感もするなあ。
<5月31日>(日)
〇当家にもとうとう例のブツが来ました。そう「アベノマスク」です。いや、今ではマスクはどこでも手に入るようになっているし、ウチは「お手製マスク」を使っております。でも、5月中に間に合ったのだから立派なものです。
〇そういえば、安倍首相が本件を宣言したのはエイプリルフールの4月1日のことでありました。手元に届くまできっかり2カ月かかるって、やっぱりこの国はどこかおかしい。こんな風に言うらしいです。
*アベノミクスは3本の矢
*アベノマスクは2枚の布
*アベノリスクは1人の妻
〇特別定額給付金の案内も先週届きました。これでスッキリいたしました。でもワシ個人としては、世帯主の責任として、妻と娘に対してそれぞれ10万円を立て替えておりますので、現時点では▲20万円です。おかげさまで本日のダービーでは、大きな勝負をしなくて済みました。あはは。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki