●かんべえの不規則発言



2007年6月






<6月2日>(土)

〇読者の皆さま、しばらくのご無沙汰でした。今週の溜池通信も臨時休刊といたしました。よんどころなき事情ということで、お許しをいただきたいと思います。

〇5月29日夕刻、入院中であった母が死去いたしました。知らせを聞いてから、急いで荷物をまとめて郷里・富山へ急行したわけですが、飛行機はすでに最終便が間に合わない時刻。なおかつ喪服は荷物に入れたけど、ワイシャツは入れ忘れたと途中で気づいて、上野駅で買い込んだりする。本当のことを言うと、いつそうなってもおかしくない状態が続いていたので、そんな風に慌てるのが不心得なのですが、まあ、いざとなるとそんなもんです。電車を乗り継いで、実家にたどり着いたのが午後11時45分頃でありました。親の死に目にあえない駄目な長男でありますが、いちおうその日の内には間に合った、というところです。

〇その後の通夜、葬儀に至る何やかやは、そのうち気が向けばここで書くかもしれませんけれども、おそらくは月並みで平凡な話に終始するはずです。いろんな人が言う通り、葬儀というのは忙しくて、慌しくて、あっという間に終わるものなのですね。なおかつ、残務処理は山のようにあって、いつ終わるか見当もつきません。つくづく冠婚葬祭というものは、普段は見えないいろんなことが分かる機会であって、特に葬儀のときは人の情けが身に沁みるものであります。

〇ひとつ発見したことを申し添えますと、遺族に向けられる弔問の言葉というのは実に多種多様であるということです。「このたびは突然のことで」「ご愁傷様です」「お力落としのないように」「心からお悔やみ申し上げます」「ご冥福をお祈り申し上げます」・・・・ウチの場合は、かなり前から「やむなし」という状態でありましたので、それほど悲劇的な心境ではない。それでも「お寂しくなりますね」などと言われると、ぐっと胸に迫るものがありました。やっぱり、こればっかりはね。

〇そんなわけで、かんべえはまだ在富山でございます。昨日、滞りなく葬儀が済みましたので、とりあえずのご報告まで。


<6月4日>(月)

〇たくさんのお悔やみメールをいただいております。どうもありがとうございます。すごい名文も頂戴しておりまして、いつもの調子でここで紹介したくなってしまうのですが、それはさすがにご遠慮すべきでしょう。が、多くの人の情けを感じることが出来るのは、こういうときならではと感じております。

〇以前から母の入院は、ごく一部の親戚以外には内緒でありました。こちらはちょくちょく、暇を見つけては富山に帰って、病院を見舞っていたのですが、そのたびに思うのは「これが最後になるかもしれない」ということでした。同じことを繰り返すうちに、「ああ病人を見舞うのは、お別れを何度も言うことなのか」と思うようになり、そのうちに、「でもそれって、誰と会うときでも同じことがいえるのだな」と気付きました。人と人は、この次、いつ会えるか分からない。「一期一会」というのは、まさにそのことであるし、「さよならだけが人生さ」というのは名セリフであるのだな、なーんてことを感じたりしました。

〇「葬式の後は忙しくなる」というのも、本当にその通りです。ウチの親戚には深刻な対立もないし、遺産相続の問題もほとんど無縁、これほどドラマのない家系はめずらしいくらいじゃないかと思うのですが、それでも厄介ごとと無縁というわけにはいきません。お坊さんにいくら包むか、席次をどうするかなど、悩ましい問題の種はつきない。葬儀屋さんが手伝ってくれるとはいえ、事務手続きもまことに煩雑です。しかしよく出来たもので、雑事に振り回されているから、余計なことを考えなくて済むというのは、古来からの日本人の知恵なのでありましょう。

〇今日も富山市の地区センターと社会保険事務所と銀行と郵便局と証券会社を回りました。「ハラコセキ、を持ってきてください」なんて言われちゃって、ほとんど目は点であります。それでも回っているうちに慣れてきて、最後の頃には「ハイハイ、用意するアイテムはお宅も同じですね」などと受け流せるようになってしまいました。ずいぶん、新しい知識を得たと思います。

〇どうでもいいことですが、今日の社会保険事務所はさすがに混雑していて50分待ちでした。皆さん、年金相談に押し寄せているのですね。窓口の対応は、非常に誠実であり、かつプロ意識に満ちたものであったことを、ここにご報告しておきましょう。

〇どうやらこの1週間で、かんべえは世の中の流れから完全に浮いてしまったようです。昨日のサンプロも見てないし(富山ではテレビ朝日系列が存在しない)、安田記念でどの馬が勝ったかも知りません。ま、ぼちぼち社会復帰を図っていきたいと思っております。皆さま、引き続きよろしくお願い申し上げます。


<6月5日>(火)

〇残務処理はまだまだ山積状態。午前中もあれこれと奮闘するも、お昼の飛行機に乗るためにタイムアップ。富山を離れ、午後から出社。メール300本は、さすがに読めず。夕刻から「喜楽会」なる会合で講演。下準備抜きで、勢いだけで話したところが、なぜか反響は上々であった。こういうのを「喪中パワー」とでもいうのでありましょうか。しかるに今日話した内容は、二度と再現できないという気もする。まあ、とにかく、せっかくお集まりいただいた会合で、穴をあけなくて良かった。

〇どうも葬儀以来、ハイな状態が続いているが、そろそろ燃料切れしそうな気配である。1週間ぶりに自宅に帰ってみると、これまた郵便物の山が控えている。いかんですねえ。明日からは少し、控えめに行きたいと思います。


<6月8日>(金)

〇ちゃんと朝から出社するようになって3日目。いつものような日々が始まっております。

〇6月7日夜、岡崎研究所がNPO法人として5期目の通常総会を実施。その後、恒例のフォーラムに多士済済が駆けつける。楽しいパーティーである。長島昭久氏、挨拶に立って、「ようやく選挙らしくなってきました。しかし、わが党はブーメラン政党とも呼ばれておりまして、くれぐれも気をつけなければなりません」。――馬鹿ウケ。長島さん、今度、さくらさんを紹介しますからね。

〇ひょっとして、この日の午前に靖国参拝を済ませた李登輝さんが、ひょっこり姿をあらわすのではないかという密かな期待があったのですが、なんと会場の日本財団からすぐ近くのホテルオークラで講演会を実施中でありました。ちょっと残念。もっとも、本当に李登輝さんが岡崎研究所のパーティーに現れたら、「政治活動」以外の何ものでもなくなってしまいますが。

〇そのまま赤坂エクセルホテルに投宿。翌朝は4時に起きて、テレビ東京「モーニングサテライト」にゲスト出演。お題は「G8サミット」。本村キャスターの質問のテンポが早いので、わずか5〜6分の登場時間でずいぶんたくさん話した感あり。さらに詳しい内容は、週明けの「経済羅針盤」をご参照願いたく。

〇番組終了後にTBS前のマクドナルドで朝食。マックで寝ている人(若い女性でした)って、本当にいるんですね。驚いちゃった。

〇日本貿易会「貿易投資ビジョン」研究会へ。資源価格のプライスリーダーが、先進国からBRICsなどに移行してしまい、日本のBuying Powerが低下してますなあ、てな話をする。この話、ハッキリ言って危機感なさ杉。実は「マグロ」だけじゃなくて、いろんな食品で日本業者の「買い負け」が起きているということは、あんまり知られていないようだ。

〇双日ワシントン店の新人、ジャスティン君が出張中なので、あっちこっちに引き回す。安井明彦さん、ナベさんなどの日米関係人脈にも。「モチベーションがアップした」と言ってくれた。広いようで狭い世界ですが、この人脈の中で育ってもらいたいものです。

〇――てなことをやっていたら、あっという間に3日間過ぎてしまいました。ということで、今週も溜池通信を出すことあたわず。先週のThe Economistに、すごく面白い記事があったので、ご紹介しておきましょう。このSovereign-wealth Funds(国富ファンド)という言葉、覚えておいて損はなさそうです。

<今週の”The Economist”誌から>

"The world's most expensive club"
Finance and economics
May 26th 2007

「世界でもっとも高価なクラブ」
http://www.economist.com/finance/displaystory.cfm?story_id=9230598 

<要旨>

「世界でもっとも高価なクラブ」

外貨準備が総額1.2兆ドル、しかも毎日10億ドルずつ増加。それで米国債を買うだけだとしても、国際金融市場における中国の影は大きくなるばかりだ。5月21日、中国は30億ドルを民間投資ファンドのブラックストーン社に出資すると発表した。謎めいた国が謎めいた市場に安住するというだけではない。外貨資産を持つ政府のグループが、国際金融の世界に密かに出現しつつある。似たような投資が後に続くことになるだろう。

中国以外にも十数カ国が国富ファンドと呼ばれるものを設立している。彼らは外貨準備、天然資源の支払いなどからカネを引き出す。自国の、さらには海外の資産を買う。

上位12ファンドの規模は、200億ドルから上は数千億ドルまで。日本、ロシア、インドも設立を検討中だ。今年末には2.5兆ドル(cf.ヘッジファンドは1.6兆ドル)に達するという試算もある。評価増も含めると、2015年には12兆ドルに届くかもしれない。
その昔、政府が資産を持つのは国内通貨や銀行を守るためだった。そのために流動性が高い貴金属やドル紙幣を持つ。天然資源枯渇に備えて基金を作るという発想はなかった。

1956年に英領ギルバート島が、燐酸資源の枯渇に備えたのが端緒である。蓄えた資金は今や5.2億ドルの投資となり、小さな島のGDPの9倍に達している。同じことが産油国で当たり前となり、国富ファンドの3分の2を占める。彼らは中央銀行よろしく、債券やドルや銀行預金を保有する。1974年に誕生したシンガポールのテマセックは、元は国有投資を束ねていたが、より複雑な投資にも乗り出し、他の政府の羨望を集めている。

中央銀行の間でも、高いリターンを求める動きがある。つまり外貨準備の一部を高利回り投資に振り向けることだ。この2年で外準が激増したアジアでは特に切実な問題である。

結果として、膨大な資金が有限の試算に流入する。これだけの富が突如として金融市場に流れ込んだ前例はなく、それゆえに世界のリスク資産の価値が上昇している。全世界の株の価値が55兆ドル、債券もほぼ同額。国富ファンドはこれら資産の重要な買い手となろう。間もなく民間大企業が、非資本主義政府に所有される時代が来るのではないか。

ノルウェイだけは資産構成と収益率を公表しているが、その他の国富ファンドの透明性は低い。ゆえに、彼らの狙いを推し量ることは難しい。経済的利益なのか、政治目的なのか、あるいは戦略資源の確保なのか。

義務もなく、無期限に保有ができ、しかも成果を隠せる投資は有利である。高い利回りを上げるファンドがあっても不思議はない。他方、これは腐敗と政治介入の温床でもある。

国富ファンドの投資が、紛糾をもたらすこともある。テマセックがタクシンの通信会社を買った際には、タイで物議を醸した。中国の国有石油会社CNOOCは、ユノカルを買収しようとして安保上の理由で米国に拒否された。ブラックストーン社への投資により、中国は欧米でこの手の妨害を回避することができるだろう。

民間投資ファンドを介することで、中国は投資活動をひと目に触れさせなくすることもできる。これぞ身内資本主義の極致であり、投資家に何も言われたくない企業が、同様の国と結びつく。そもそも政府は民間ビジネスに投資すべきではない、との意見もある。

さらに中国をパートナーとすることで、ブラックストーン社は中国市場への優先的アクセス権を得る。それでは他のファンドにとって不公平となる。しかし、一部にだけ特権を与えるとすれば、中国が必要とする公正で透明な金融市場を損ねることになろう。

中国はなおも巨大な国有資産を持ち、幼児期段階の株式市場はバブっている。国富ファンドを持つ他の国のように、企業を買うばかりではなく売ることも習熟する必要があろう。


〇ね、この国富ファンド、いかにもヤバそうでしょ? おそらく今回の世界的な金融バブルにおいて、最大の被害をこうむるのは彼らなんじゃないでしょうか。まあ、産油国のマネーなんぞ、いかにも不労所得なんですから、元の木阿弥でいいじゃねえか、てな気もしますが。


<6月10日>(日)

〇本日のサンデープロジェクト、ゲストは「折口雅博グッドウィルグループ会長」、「志位和夫共産党委員長」、「星野仙一日本代表監督」の3本立てでありました。経済、政治、スポーツという3つの分野で、「リーダーはいかにあるべきか」を論じる内容といいますか。後へ行くほど、サワヤカな人が出てきたな、というのが率直な印象であります。例によって、あれこれと感想をば。

〇折口雅博氏。渦中の人が出るからには、それなりの覚悟を秘めているのかと思ったら、最初からほとんど平謝りモード。あれでは何のために出てきたのか分からない。本人の言を真に受ける限り、コムスンの現場管理はまったく出来ていなかったようで、これでは利用者も社員も株主も浮かばれません。「いつかは介護の資格をとって」と考えている人たちに対しても、まことに罪作りであったといわざるを得ません。

〇今後の高齢化の進展を考えれば、介護を福祉やボランティアだけに止めておいては、将来の需要増に対応できなくなるのは火を見るよりも明らか。とすれば、ビジネスとして成功するようにしなければならない。コムスンはこの業界のフロントランナーとして、そういう責任を負っていたし、2000年の介護制度発足以来、厚生労働省もそれなりのサポートをしていたはずです。その結果がこれでは、いくら元同僚といえども弁護不可能というもの。

〇強いて言えば、こんな解釈も出来るのかな、と思ったのは、昨年4月の介護保険制度改正以来、訪問介護のポイントが下がって、コムスンのビジネスがやりにくくなってしまった。「これではこの商売は続けられない」とは厚生労働省側でも分かっていて、そこに何らかの共犯関係があったのではないか。現にコムスンの事業を「日本シルバーサービス」に譲渡しようとしたとき、厚生労働省はいったんは認めている(らしい)。ところが世論の厳しい反発を見て、一晩で態度を変えた。

〇折口氏が敢えてメディアに出てきてボコボコに叩かれているのは、厚生労働省に対して「あんたたち、このままオレを見捨てるつもりか」と凄んでいるのではないのか。厚生労働省に対する「貸し」があって、「でも言わないから安心しな」と言っているのではないか。そういうゲームプランがあったのなら、少しは納得がゆく。もちろん、この想像が当たっている保証はどこにもないし、だからといって免罪になるわけでもありませんけれども。

〇志位和夫氏。意外と背が高い。星野さんと同じくらいかな。自衛隊情報保全隊による調査活動の内部文書をバクロし、完全に「鬼の首」モード。もっとも、この問題に世論の関心が集まり、政治的なうねりに発展するかといえば、そこはちょっと疑問符がつく。要は「俺たちを監視するなんてケシカラン」という話ですが、党員40万人の共産党と、26万人の自衛隊と、はたしてどちらがフツーの国民にとってより身近な存在でありましょうや。

〇共産党という組織は、そんなに徳の高い集団とはいえないでしょう。草野先生(今日で還暦ですって!)が畳み掛けていたように、「7年間も党の指導者を務めている人が、この間、党勢は下がりっぱなしなのに責任をとらない」のは一例に過ぎません。透明性も低いし、共産党が「なくせ」と言っている自衛隊の方が、よっぽど国民の信頼度は高いのではないか。「憲兵政治の復活」といわれても、あんまり共感は広がらないと思うのであります。

〇むしろこの人が指摘しているように、「情報公開法」から攻めた方が良かったんじゃないでしょうか。それにしても、自衛隊の情報漏れは哀しいくらいですね。「情報保全隊」の内部文書が共産党に漏れるようでは、組織内の同様は大きいでしょう。これではF-22は売ってもらえないかもしれません。

〇最後は星野仙一氏。これはもう、あんまり書くことはありません。とにかく、カッコよかったですね。母が元気であれば、番組を見てさぞかし喜んだことでしょう。うーん、それにしても今年の阪神は弱いですなあ。


<6月11日>(月)

〇会う人ごとに「昨日のサンプロは・・・」と話しかけられる一日。「コムスン・折口氏」のインパクトがとっても強かった模様。これで今日、追加取材の要請が来たら、全部断ってやろうと待ち構えていたところ、"JAM the World"の月曜ナビゲイター、角谷浩一氏から連絡あり。ううう、これはさすがに断れない。

〇角ちゃんは声帯炎になり、4月中旬から番組を休んでいた。ラジオの仕事で声が出ないとあっては一大事。正直、心配していたところ、先週から職場復帰を果たした。良かったよかった。ということで、今宵の"Cutting Edge"のコーナーに出演して「コムスン問題」を語ってしまいました。義理と人情が交錯した場合、あまり迷わずに人情を選んでしまうのがワシの流儀である。

〇そうかと思うと、ぐっちーさんがリンクを張っていて、「テマセック」について書いているではないか。SWF(Sovereign Wealth Funds:かんべえ訳では「国富ファンド」)の件は、やはりプロ筋の方々も注目されているのですね。そうかと思うと、ノルウェーの賢人からも同国の国有ファンドについてこんなご指摘をいただいています。

当地ではOljefond『オイル基金』と呼ばれ、現在いくらあるか月ベースでははっきりしませんが約35兆円くらいあります。人口460 万人ですから山分けすれば結構な額ですね。

基金の半分ほどはを世界各地の信用ある銀行に預金し、残りをロンドンに事務所をおいて資産運営しています。ときに投資先が武器製造関連であったとか、児童労働を使う企業であることを指摘され問題になりますが、着実に利益を上げているようです。原油があがるたびに、吊られて北海石油もあがる不労所得分が大きい。平均年7%の伸び、預金の利子4%は政府予算に入れますが、極力手をつけず、資源がなくなった後のために貯金しておこうという政策です。

〇これだけprudentな運営をやっていたら、ノルウェーとしてはアホらしくてユーロ圏などには入れませんな。他方、テマセックのように、国ぐるみでリスクマネーを供給しているケースもあるわけで、きっと良からぬ結末に直面するであろうぞよ、と予言しておこう。

〇ふと気がつくと、母が他界したから明日でようやく2週間である。四十九日はあと5週間も先だ。この間、本来は歌舞音曲の類を遠ざけ、仕事もなるべく控えめにし、ネットの情報発信も鈍行モードにすべきところながら、こんな日常を送っているようではバチが当たるのではあるまいか。とりあえずこんな調子では、「一応、喪中なんですぅ〜」と言っても、相手にされないだろうなあ。


<6月12日>(火)

〇先日聞いて驚いた話。元ネタは草野厚先生。「こないだ渋谷でタクシーを拾ったら、運転手さんがすごいお婆ちゃんでさあ」。今時、女性の運転手さんはめずらしくもありませんが、いろいろ聞いていくうちに、なるほど端倪すべからざるお婆ちゃんなのである。で、話を聞いているうちに、隣にいた赤江珠緒ちゃんが、「それって、わたしも乗ったことがあるかもしれない・・・・」。お二人の証言を総合すると、この運転手さんはこんな人なのです。

●御年83歳。

●運転免許証を取得したのは1947年。(草野先生が生まれた年)

●この道一筋。現在は個人タクシーの運転手。

●都内の道についてはむちゃくちゃ詳しい。そもそも生涯を通じて、東京都の発展を目撃してきた。

●運転は結構、荒っぽい。

●最近、身体を悪くして「要介護度2」の判定を受けた。でも、目はいいし、仕事を辞めるつもりはない。

●性格は気さくで、話し出すと止まらない。

●テレビの取材を受けたことがある。

〇いやー、すごい人もいるものですね。こんなタクシーに、乗ってみたいような、ちょっと怖いような。とりあえず、お達者で活躍を続けられることを願って止みません。


<6月13日>(水)

『SPA!』という雑誌、昔はよく駅で買い求めていたものです。2004年の秋頃から、かんべえは「ニュースコンビニ」というコラムの輪番筆者の一人となり、毎週、編集部から雑誌が送られてくるようになった。当初は「こりゃラッキー」と思ったものですが、自分がお金を出していないとなると、あんまり読まなくなるものなのですな、これが。

〇それでも、最近はこの雑誌のカラーがちょっとずつ変わって来たような気がしています。編集部の人とはまったく話をしていないので、以下の推測はまったくの勘違いかもしれませんが、古い読者の印象論ということでお許しを願おうと思います。

〇『SPA!』という雑誌の強みは、昔から「市井の人」を上手に見つけてきて、楽しい記事にしてしまう取材力にあると思います。取り上げられる人は、「モテナイ若者」であったり、「ビンボーなサラリーマン」であったり、「ちょっとエッチな女の子」であったりしますが、いかにも身近にいそうな人たちで、そのリアリティにいつも感心させられるわけです。連載マンガの『だめんず・うぉ〜か〜』なんてのはその典型でありますな。

〇取材の際の切り口は、かならずしも親切丁寧というわけではなく、基本的に気の毒な人たちを茶化していて、あんまり同情はしていない。単純に面白がりながら、なおかつ「おいおい、それじゃダメだろ」などとツッコミが入る。読者の側はそれを読んで、「うーん、オレもひどいけど、まだまだ下には下があるなあ」などと思って安心するという仕組みになっている。

〇で、この雑誌がターゲットにしている30代前半ぐらいの世代は、以前はバブル世代であって、いくら気の毒と言ってもまだまだ余裕があった。「オタク」などとも呼ばれる世代であって、ビンボーをしていてもちゃんと趣味にはお金を投じるみたいなところがあり、そのせいかSPA!のブックレビューや映画評論のページは妙にレベルが高い。「キャバクラ考現学」なんてのも、ほかの雑誌ではあり得ないような企画ではないか。

〇ところが最近では、30代前半というと「ニート、フリーター」「ワーキングプア―」「ネカフェ難民」などで知られるようになってきている。そうなると、彼らの記事は文字通りの弱者嘲笑となってしまう。取材される側はそれこそ「怨念」を抱えているし、記事としても義憤を感じたり、社会悪に対して異議申し立てをしなければならなくなってきた。そんなわけで、最近の『SPA!』は昔ほど気安く笑えないのである。

〇とはいえ、『SPA!』はもともと怒りをパワーとするような雑誌ではなく、そんなものは『週刊現代』とか『週刊ポスト』のようなオヤジ雑誌に任せておけばよろしい。(どうでもいいことだが、ああいう雑誌は今だに「すっぱ抜き」なんて言葉を使うんだよな。そんなの死語だって) SPA!世代たるもの、情念は薄く、趣味にはうるさく、政治には関心が乏しい、と来なくてはならない。その点、最近のSPA!は、作る側が居心地の悪さを感じているような気がする。

〇まあ、当方が年を取って、SPA!世代から離れてしまっただけで、単なる考え過ぎという気もしますけど。いずれにせよ、当世のSPA!世代はかなり難儀であるように思われます。


<6月14日>(木)

〇今度はNOVAが業務停止ですか。コムスンもそうだったし、少し前にペッパー・ステーキでひどい事件がありましたが、この手のチェーン展開というのは、実はとっても難しいことなんです。

〇"Retail is detail."という言葉がある通り、流通業は細かなノウハウの集積です。それを全国展開するのは、簡単なことではありません。なにしろ日本という国は、これで結構、多様性がゆたかなのです。さらに人材の確保が難しい。前からある店の店長の代わりを探すのは楽なものですが、新規出店の店長が務まる人材はそうそういるものじゃありません。最近では人材派遣業者の中で、「外食産業の新規出店店長の経験者」をプールしておいて、それを他の業者に貸し出すところもあると聞きます。

〇ところが昨今のような情報化社会になると、ブランド名のみが先走って全国区になってしまいます。例えば今はどうか知りませんが、少し前の富山県ではセブンイレブンがありませんでした。別にローソンやファミマがあれば、どうってことない話なのですが、ないとなると腹立たしいのが地元意識というもの。同様に、ピザハットだろうがNOVAだろうが、「CMは見たことあるけど、現物は知らない」という地方都市は少なくないのです。イオンの大型店舗が、いろいろ問題があると知られていても、進出した先で歓迎されてしまうのは、その手の「全国区ブランド」をいっぱい連れてきてくれるからであったりします。

〇コムスンやNOVAはしょっちゅうCMを打ちますから、すぐに全国ブランドになってしまいます。地方都市からは、「早く来てくれ」といわれることも多いでしょう。ところが、全国展開をするだけの人材を揃えることが出来ない。特に歴史が浅い会社では、支店長クラスを確保することが難しい。そこで利益率が落ちたり、不祥事が起きたりする。要するに補給線が伸びきってしまうのです。これはユニクロのように、成功しているチェーン店でも条件は同じだと思います。

〇そこで何が起きるかというと、「カリスマ的なオーナーを有するRetailは強い」という現象です。だってこの世界、マックの藤田田とかダイエー中内とか、石を投げればカリスマ・オーナーに当たるじゃないですか。スーパーマーケットで言えば、レジのおばちゃんたちがこの手のオーナーを支えちゃうんです。こうなると、店長がアホでも店は栄えることになる。急成長する全国チェーンには、このパターンが少なくありません。

〇コムスンの例でいえば、折口氏はそういうカリスマ・オーナーになれる資質の持ち主であったと思います。彼が頻繁に現場を回ってケアマネージャーたちを激励していたら、もうちょっと良い会社になっていたでしょうに(その分、ますます介護保険を搾取していたかもしれませんが)。ともあれ、カリスマ・オーナーが務まる人材は、支店長クラスが務まる人材よりもはるかに少ないはず。つくづく情報化社会はカリスマを求めるけれど、それは本当の意味での希少資源であるという好例であると思います。


<6月15日>(金)

〇喪中につき、歌舞音曲の類は遠ざける・・・・はずが、今宵は「日本ニュージーランド経済人会議」の10年くらい前のスタッフが集まって、飯倉フェスタに参集してカラオケ大会。当時の上司が大のカラオケ好き(現在は合唱団に入って、さらに磨きがかかっている)で、往時はよくこの店にきたものであります。

〇久々に来てみると、まあ世の中にはこんな世界があったんだなあ、などと感心することしきり。通信カラオケの機械というのも、ずいぶんと進化したものでありますな。何分にも久しぶりでありましたので、とりあえずはそんな感想です。


<6月17日>(日)

〇自民党の某参議院議員がこんなことを言ってました。「有権者の反応の冷たさは、森内閣以来・・・・」。言うまでもなく、社保庁の問題が響いているわけで、それ以前は順調であったのだと思います。それにしても「森内閣以来」とは、今となっては古い話で、自民党政治家にとっては久しぶりに実感する危機ということではないでしょうか。

〇森内閣の危機は、森さんのクビをすげ替えることで切り抜けることができました。しかし今回のケースは、これまでの自民党政権の年金政策が批判されている。さらにいえば安倍内閣の下手な危機管理にイライラがつのっているわけで、ちゃんと負けてしまわないと償えない状況であるかもしれませんな。今日の「サンプロ」では、年金問題の火消し役に大村秀章さんが起用されてましたけど、どうしたって長妻昭さんの言ってることの方が正しく聞こえますわな。このへんが「お友だち内閣」の限界かなあ、という気がいたしました。

〇さて、ここから5週間でどうやって体制を立て直すのか。政治が面白くなってきましたが、個人的にはあんまりそうも言ってられませんで、これからまた富山に行ってこなければなりません。ではでは。


<6月18日>(月)

〇富山で葬儀の残務処理をしながら学んだこと。いちおうの備忘録として。

●香典袋には、正しく住所氏名(郵便番号も忘れずに)記載すべきである。

――つい気がねをしてぼかしたくなりますが、親切だと思ってキチンと書きましょう。件数が多くなると、最後は「この人だあれ?」が起きてしまうことがあります。

●香典の額は、やっぱり高度な政治判断である。

――内緒のはずなのに、「XXさんの〇万円は多過ぎる」などという声が、どこからか聞こえてくる。「分相応」は難しいです。

●人が死ぬと、その人の銀行口座は即座に停止される。その後は相続手続きを始めなければならないが、地銀の方が都銀よりも手続きが楽である。

――いちばん面倒なことを言われたのは、「みXX銀行」さんでした。

●郵貯や簡保の手続きについては、なるべく大きな郵便局に行って相談すること。

――いつも使っているご近所の郵便局は、ほとんど当事者能力ゼロでありました。

●葬儀は、一族郎党の歴史を知るチャンスである。

――自分の戸籍を読んでみるだけで、いろんな発見があるものです。あたしゃ今まで、自分の父方の祖父母の名前を知りませんでしたがな。


<6月20日>(水)

〇あわわわわわ。国会の会期が12日間延長。安倍マジレス政権が、マジ切れ政権になってしまったか。これで参院選の投票日は7月22日から29日に変更となりました。各方面への影響は小さくないのであります。

〇かんべえは7月29〜31日にワシントンで行われる国際会議への参加を予定しておりましたが、日本から国会議員が参加することになっていて、どうやらリスケになりそうな雲行きです。昨日くらいから、前後の日程を入れようかな〜と始めていたところでしたが、この分では誰も居ない8月のワシントンを訪問することになりそうです。こんなリスケはかわいいほうで、もっと悩ましいものが一杯あるでしょうな。ポスター看板の付け替えだけではありません。

〇今日は内外情勢調査会の講師で仙台と石巻に行ってきます。日帰りでダブルヘッダーができてしまう、というところが恐ろしい。東京駅着が午後11時を過ぎる予定。

(追記)

〇仙台〜石巻で体験したこと。

〇仙台支部。梅原市長が来て下さったのですが、食事中に雑談している間に発見してしまいました。なんと当方とまったく同じ懐中時計をお持ちなのです。いやはや、ビックリいたしました。

〇懐中時計を持ち歩くのは、大学時代からの習慣なので、かなり長いです。今ではもう腕時計をつけるなんてことは、気持ち悪くてほとんど不可能になってしまいました。人前でお話しするときは、壇上にこの時計を置いておかないと不安でしょうがありません。ところが懐中時計を使う人というのは、世間では圧倒的な少数派でありますから、「おや、めずらしい」などと言われます。たま〜に、「あなたもですか」と言う人がいて、互いに見せ合ったりするのですが、まったく同じ時計を見たのは初めてでありました。

〇梅原市長には申し訳ないのですが、内情をばらしますと、この時計は高くありません。なんの変哲もない、SEIKOの懐中時計です。懐中時計を買おうと思うと、哀しいかな銀座の和光に行って探しても、それほど種類はないのであります。変に芸術的価値があったり、蓋がついているのは嫌なので、いろいろ当たった挙句、今のごく平凡なクォーツの時計に落ち着いた経緯があります。それでかれこれ十数年。初めて同じ製品の持ち主に出会いました。

〇石巻支部。日商岩井OBである倉光先輩が、縁あってこの地の石巻工業高校の校長先生をやっている。民間人出身の校長先生は、最近はちょっとずつ全国各地で増えているけれども、商社マン出身というのはかなりめずらしいらしい。学校を訪ねてみたところ、これが想像したよりも2倍くらい大きく、3倍くらいモダンで立派な高校でありました。「ものづくりニッポン」を支える工業高校をどうやって育てていくか、校長先生から熱い話をいろいろと拝聴する。

〇日商岩井OBというと、コムスンの折口氏が妙に有名になっちゃってますけど、そればっかりでもないんですよね。衆議院議員も二人誕生してますし(この人この人)、「辞めると偉くなる日商岩井」というくらい、妙にOBが他の分野で活躍する会社なんです。その中には、教育関係に進んでいる人も居る、ということであります。

〇講演の中身はといいますと、いつも通り「当面の内外情勢と日米関係」というテーマで幅広く構えていたのですが、あまりにも年金問題に関する関心が高いので、それだけで30分以上話し込んでしまいました。煎じ詰めると、「年金番号の未統合問題なんて、枝葉に過ぎないんですよ〜」ということなんですが、ちょっとした国民的ヒステリー状態にあるだけに、聴衆の熱気に当てられたような気がしました。


<6月21日>(木)

〇近頃、アメリカウォッチングはご無沙汰状態です。まあ、最近はTaste of the Unionもあることだし、大統領選挙についてはもうちょっと先になってから考えればいいや、てな感じでのんびり構えています。

〇2008年はきっと第3政党が出てくるんじゃないか、と思っていたら、案の定、ブルームバーグ氏がそんな感じのモーションをかけてますな。そうかと思えば、「なかなか出馬宣言をしてくれない」フレッド・トンプソンとアル・ゴアという二人のテネシー州出身元上院議員の動向が注目を集めていたりする。

〇でもって、テネシー州といえば、この出張報告がとっても面白い。久保文明先生であります。

大統領選挙との関係では、NDNの常務理事アリ・ワイゼ氏は、共和党候補の中で個人的にもっとも脅威と感ずるのは、ジュリアーニであると語った。

ワイゼ氏によると、民主党候補は、ヒラリー・クリントンであってもニューヨーク州を確保するためにお金を使わねばならず、ニュージャージー、ペンシルヴァニア、ミシガン、オハイオなど、場合によるとカリフォルニアですら、ジュリアーニは強さを発揮するであろう。なおかつ、南部ではほとんどの州で共和党が勝つ。


〇これって「へえ〜」でしょ。東京財団のメールマガジン、役に立ちます。

〇慰安婦問題の決議がどうやら下院に提出される模様。すでに100人の議員のサインを得ている決議案ですから、このまま葬り去られる可能性は低いでしょう。だったら、今のうちにすっと通してもらうのが吉というもの。正直なところ、8月上旬に提出されて靖国問題とリンクされたりするよりも、後腐れがなくて良いと思います。

〇幸いなことに、今のワシントンでは慰安婦問題などほとんど注目されておりません。マイク・ホンダ議員が手柄をあげた。That's all.であります。そんなことより、ああた、今はなんといってもダルフールですがな。関連の決議案と法案が実に25本、だそうです。女優のミア・ファーローさんが先頭に立っていて、北京五輪のボイコットを、なんて声まで出ています。これをどうやって処理するのか。中国側の手際が見物です。


<6月23日>(土)

〇今週も溜池通信をギブアップ。代わりに「月刊自由民主」「Quickエコノミスト情報」「SPA!」などの締め切りに追われる日々。気付いてみれば、今月はとっても外部原稿が多いのだ。さすがに知らん振りもできず。いつまでも、あると思うな親と連載。

〇最近感動した製品。まずは四枚刃の髭剃り。某日、いつもの二枚刃のカートリッジを買いにいったコンビニにて衝動買い。二枚刃と違って、ほとんどなでるように使うだけで、面白いほどに良く剃れる。こりゃスグレモノだと感動するも、本日、その替え刃を買いに行ってそのあまりの高さに驚愕。

〇知らない間に、物事は日進月歩しているのでありますな。これは少し昔のことになりますが、水虫治療薬のラミシールというのは、すごくよく効きました。なにしろ20年来の難物が完治しましたから。花粉症の薬で、こういう特効薬はできないものかしらん。さすがにこの季節ともなると、花粉症は引っ込むのでありますが、どうも近年は年の半分近く苦しんでいるような気がします。

〇今日、柏高島屋で見た半そでワイシャツも、種類が多いので感心しました。襟の形にしても、最初からネクタイなしでいいように工夫されている。とはいえ、こういうのは麻生さんみたいな人でないと似合わないので、当方はいつものCHAPSで済ませることにする。クールビズも今年で3年目。着実に新たな需要が開拓されているようであります。


<6月25日>(月)

〇今週水曜日発行の「Quickエコノミスト情報」を送付。「もうじきアジア通貨危機から10周年がやってきますね」みたいなことを書く。世の中の動きはしみじみ早い。アジアの奇跡と呼ばれた経済発展が、「槿花一朝の夢」となってしまった。あのときの驚きをなんと表現すればよいのやら。グローバル化時代の恐ろしさが身に沁みたあのときから、間もなく10年。ちょうど来週月曜日の7月2日がその日となる。

〇気になるデータ。都道府県別の有効求人倍率を見ると、4月には愛知県の倍率が2.01ととうとう2倍を超えている。なおかつ、沖縄県0.43、青森県0.46、高知県0.49など、0.5を割っている県が今だに存在する。同じ国の中に、「求職者1人に対して求人2人」という県と、「求職者2人に対して求人1人」という県が同居している。どうしたら、こんな馬鹿な現象が起きるのか。しかもこの状況、2年くらい前からほとんど変わっていない。なぜ労働移動が起きないのか。こんな中で外国人労働力導入の議論が始まるというのは、やっぱり妙なんじゃないだろうか。

〇社保庁、今度は共済年金で、181万件の未統合記録があるという。公務員の共済もが信用できないとなっては、こりゃもうお手上げである。同じ公務員なんだから、身内のことぐらいしっかりしろよ、と申し上げたい。しかしこれだけ次々と話が出てくるというからには、相当に内部告発が相次いでいるのであろう。どうせ六分割・解体が避けられないとあれば、やけくそモードであるのかもしれない。これで国税庁が嫌がっている歳入庁創設なーんて話になった日には、焼け太りもいいところであろう。

〇ビリー隊長のブートキャンプ、大変な勢いのようですが、日本滞在中のギャラが合計で10億円なんだそうで。日本という国は、しみじみオイシイ思いができるのであります。しかしまあ、あんな激しい動きができる意志の力があれば、その時点で太りませんって。普通の人は、それができないから、商売が成立するのでありましょう。


<6月26日>(火)

〇突然、思いついたのだけど、「広報」と「ファイナンス」という仕事には共通点が多いですな。以下、列挙してみます。


(1)カッコよさげに見える。プロの職務、という感じがするし、年収も高そうだ。

(2)アメリカの大学院に行けば、もちろん専門のコースがある。が、そんな資格は実務にはほとんど関係がない。

(3)ビジネスの世界においては、どちらも所詮は脇役である。低コストの資金調達は、赤字の事業を黒字にしてくれたりはしない。同様に、有能な広報といえども、馬鹿社長を救うことは出来ない。

(4)細かなノウハウがたくさんあって面白いけれども、そういうことが役に立つ機会は滅多にない。

(5)担当者はトップと外部の両方に対して、信用を維持しなければならない。信用力の源泉は、その人の人柄と言葉である。

(6)嘘つきは絶対に生き残れない。しかるに嘘をつく誘惑が常に担当者を襲い続ける。

(7)本格的に会社が傾いてしまうと、どちらもさほど役に立たない。(例:グッドウィルを見よ)

(8)上手な危機管理とダメージコントロールを実践することが、もっとも会社に貢献する道である。

(9)日本と日本以外では、かなりゲームのルールが違うようだ。

(10)担当者が暇そうにしているときが、会社にとってはいちばん具合がよろしい。


<6月27日>(水)

〇6月26日火曜日の米国下院議会において、外交委員会は午前10時からの会合において以下の成果を得ました。Thomasという米国議会の検索エンジンの中で、"Daily Digest"のページの中にあった内容です。


(Tuesday, June 26, 2007)

Committee on Foreign Affairs: Ordered reported the following measures: H.R. 176, amended, Shirley A. Chisholm United States-Caribbean Educational Exchange Act of 2007; H.R. 1400, amended, Iran Counter-Proliferation Act of 2007; H.R. 2844, Food Security and Agricultural Development Act of 2007; H. Res. 121, amended, Expressing the sense of the House of Representatives that the Government of Japan should formally acknowledge, apologize, and accept historical responsibility in a clear and unequivocal manner for its Imperial Armed Force's coercion of young women into sexual slavery, known to the world as ``comfort women,'' during its colonial and wartime occupation of Asia and the Pacific Islands from the 1930s through the duration of World War II; H.R. 2843, Library of Congress Public Diplomacy Collection Act of 2007; and H.R. 2798, amended, To reauthorize the programs of the Overseas Private Investment Corporation.


The Committee favorably considered the following measures and adopted a motion urging the Chairman to request that they be considered on the Suspension Calendar: H.R. 2293, amended, To require the Secretary of State to submit to Congress a report on efforts to bring to justice the Palestinian terrorists who killed John Branchizio, Mark Parson, and John Marin Linde; S. 377, U.S.-Poland Parliamentary Youth Exchange Act of 2007; H. Res. 208, amended, Honoring Operation Smile in the 25th anniversary year of its founding; H. Res. 287, amended, To celebrate the 500th anniversary of the first use of the name ``America''; H. Res. 294, amended, Commending the Kingdom of Lesotho, on the occasion of International Women's Day, for the enactment of a law to improve the status of married women and ensure the access of married women to property rights; H. Res. 378, amended, Honoring World Red Cross Red Crescent Day; H. Res. 380, Commending Idaho on winning the bid to host the 2009 Special Olympics World Winter Game; H. Res. 426, amended, Recognizing 2007 as the Year of the Rights of Internally Displaced Persons in Colombia, and offering support for efforts to ensure that the internally displaced people of Colombia receive the assistance and protection they need to rebuild their lives successfully; H. Res. 427, Urging the Government of Canada to end the commercial seal hunt; H. Res. 467, amended, Condemning the decision by the University and College Union of the United Kingdom to support a boycott of Israeli academia; H. Res. 482, Expressing support for the new power-sharing government in Northern Ireland; H. Res. 497, Expressing the sense of the House of Representatives that the Government of the People's Republic of China should immediately release from custody the children of Rebiya Kadeer and Canadian citizen Huseyin Celil and should refrain from further engaging in acts of cultural, linguistic, and religious suppression directed against the Uyghur people; H. Res. 500, amended, Expressing the sense of the House of Representatives in opposition to efforts by major natural gas exporting countries to establish a cartel or other mechanism to manipulate the supply of natural gas to the world market for the purpose of setting an arbitrary and nonmarket price or as an instrument of political pressure; and H. Con. Res. 136, amended, Expressing the sense of Congress regarding high level visits to the United States by democratically-elected officials of Taiwan; and H. Con. Res. 139, amended, Expressing the sense of the Congress that the United States should address the ongoing problem of untouchability in India.


〇1日の会合で、20本くらいの法案や決議案が飛び交っていることがお分かりでしょう。察するに夏の休会の前に、山積みの案件を少し片付けておく必要があったのでしょう。その結果、上の段の6本が委員会を通過し、下の段が継続審議となっているわけです。このうち、上から3行目にあるH.Res.121がいわゆる「慰安婦決議」であります。具体的な内容については、ここでは触れません。

〇要するに、下院外交委員会はこればっかりを討議してたわけじゃないってことです。それどころか、妙な決議案がいっぱい入っていることにお気づきでしょう。H.Res.208「微笑み運動の設立25周年を称える決議」とか、H.Res 287「アメリカという言葉が初めて使われた500周年を祝う決議」だとか。なにしろ提出は「月100本」ペースですから、時間がいくらあっても足りません。

〇他国に介入する決議も一杯あります。H.Res 427は「カナダ政府に対し、商業アザラシ漁を止めさせるように求める」ですし、H.Res 467は、「英国の大学連盟が、イスラエル学術界のボイコット支持を決めたことを非難する決議」であります。大きなお世話ですよね。要するに、アメリカ議会ってのは「お節介」で「夜郎自大」なのです。ただし彼らの名誉のために申し上げますと、上院ではさすがにここまでヒドイ決議は出てきません。

〇ひとつご注目いただきたいのが、継続審議となったH.Res 497であります。「中華人民共和国政府は、ただちにRebiya Kadeerの子供とカナダ市民Huseyin Celilを禁固から開放し、ウイグル人民に対する文化的、言語的、宗教的な抑圧を慎むべきであるとの下院の意思を表示する決議」です。この手の対中非難決議はそれこそ枚挙に暇がないのですが、この共同提案者が以下の通り。

Ms. ROS-LEHTINEN (for herself, Mr. LANTOS, Mr. BURTON of Indiana, Mr. ROHRABACHER, Mr. CHABOT, Mr. PENCE, Mr. TANCREDO, Mr. PITTS, and Mr. HONDA) submitted the following resolution; which was referred to the Committee on Foreign Affairs

〇マイク・ホンダ議員が入っているでしょ? 慰安婦決議を提出したことで、彼が中国からお金をもらっているという報道がありましたけど、こんな風に中国叩き法案にも加勢しているのです。また、ここに名前の出ているラントス議員は、外交委員会の委員長ですが、慰安婦決議でも長文の声明を提出して日本を批判しています。が、それは変なことでも何でもありません。

〇この手の議員たちは、反日でも反中でもなくて、「人権派」なのです。ペローシ下院議長も、中国に対してきわめて厳しい人権派議員の一人です。その彼女が、慰安婦決議を支持しているので、7月には本会議に上程されて可決されるでしょう。今回、彼女が発表した声明文は、「日本はアメリカに取って価値ある友邦だが、この問題についてはそれ以上の義務を果たす必要がある」というものでした。

〇彼らの価値基準で行くと、変な話、「PKOの隊員が買春をしても有罪」になってしまいます。歴史問題についても、いささかステロタイプな考え方をしているかもしれません。「戦前のドイツと日本は悪」という彼らの固定概念を、変えさせることははっきり言って困難だと思います。それでも、例えば日本が北朝鮮の拉致問題を追及するときに、いちばん力になってくれるのはこういう人たちです。日本という国は、アメリカの人権派議員たちを敵に回すよりは、味方にする方が得なんじゃないでしょうか。


<6月28日>(木)

〇内外情勢調査会の仕事で本日は午後から愛知県豊田市へ。

〇入社したての頃に、仕事で豊田市を訪れたことがある。日商岩井の豊田出張所で宿を取ってもらおうとしたら、「前日は名古屋市に泊まってください」と言われた。そこから1時間くらいかけて、田園風景の中を単線電車で豊田市にたどり着いた記憶がある。今は名古屋市から地下鉄が通じているし、駅前には名鉄とキャッスルという立派なホテルが2つある。松坂屋デパートまであるのに驚いた。なんと豊田市は45万都市であり、愛知県下では第2位の都市であるという。いやはや、恐れ入りました。

〇豊田市がここまで発展したのは、言うまでもなく「世界のトヨタ」のお陰であろう。では、トヨタがなぜここまで成功を収めたか、というと諸説あってよく分からない。かんべえは、ある時期までトヨタの社員をつかまえては、「カンバン方式のコンセプトを教えてくれ」と求めていたことがあった。ところが、10人に聞くと10通りの答えが返って来る。共通しているのは「大野耐一さんが作った」ということだけであった。そこで「大野耐一の改善魂」という本を読んでみたら、ますます分からなくなった。

〇そこで初めて気がついた。カンバン方式などというものは、所詮は手段であって目的ではない。会社がうまく行っていさえすれば、それに越したことはない。ゆえにトヨタの社員がカンバン方式を説明できなくても、実は何の問題もないのである。下手に「わが社はどうあらねばならないか」などと理屈をこねだすと、得てしてその辺から組織の没落が始まってしまう。

〇そういうわけで、自己流の解釈をすることとして、「カンバン方式とは、最善を求めるために常に手法を変化させる経営である」と認識することにした。これで正しいかどうかは分からないが、実践している当人たちもよく分かっていないようなので、特に問題はないであろう。この考え方は、それなりに画期的なものであって、会社が日々精進していくとある日、「最善の手法」というものにたどり着いてしまうかもしれない。が、真のカンバン方式においては、その瞬間に社員は不安に駆られ、また別の手法を探し始めることになる。なんとなれば、経営環境は不断に変化するものであるし、「これが最善」などというものがあるわけがないのである。

〇おそらく今年でGMを抜き、世界最大の自動車会社となるであろうトヨタは、しかし最近ではいろいろと問題も抱えているようだ。例えば若手社員の増長が激しく、関係会社やディーラーからの不満が高まっているという話を聞いた。90年代に奥田社長が登板したときは、大企業病退治に大なたを振るったものだが、今回はどうか。「カンバン方式」が生きているかどうか、今後も問われることになるのだと思う。

〇というわけで、トヨタ自動車は常に変化を続け、豊田市もビックリするほど変容を遂げていた。帰り道に、駅前にストリートパフォーマーが居たのに驚いてしまったぜ。


<6月30日>(土)

〇クイズです。「国会会期は7月5日まであるのに、仕事は6月30日に終わってしまいました。なぜでしょう?」

(1)与野党ともに、選挙前の貴重な週末を、大事に使いたかったから。

(2)下手に改正公務員法などをこじらせると、安倍首相が衆院解散に打って出るかもしれないから。

(3)今さら議論したところで大差はないし、国民も関心を持っていないことが分かっているから。

(4)長いこと待たされている衆議院議員たちが、「早くしろ、俺たちが居なきゃ、お前たちは選挙できないんだろうが!」と怒っているから。

(5)「札束が飛び交うことのない55年体制」が復活しているから。

〇いやー、これは難問ですね。ま、(2)ではないでしょう。抜き打ち解散なんてものは、実力幹事長か「偉大なるイエスマン」でなければできませんからね。本命(5)、対抗(4)というところでしょうか。

〇本日は町内会の親子会でボウリング大会。2試合やって110点と101点。ストライクなし、というのがいささか不本意である。「ちびっこレーン」ではなくて、ちゃんとガーターのある普通のレーンだったからでしょうか。







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by Tatsuhiko Yoshizaki