<7月1日>(木)
○月が変わって今日からは下半期の始まりです。とりあえず今月の予定を挙げておきましょう。
6月の日銀短観(7/1)
中国共産党創立100周年(7/1)
OPEC総会、OPECプラス閣僚級会合(テレビ会議、7/1)
米雇用統計(7/2)
東京都議会選挙(7/4)
大相撲名古屋場所(名古屋、7/4〜18)
米独立記念日(7/4)→コロナからの独立宣言に?
6月の家計調査(7/6)
6月の景気ウォッチャー調査(7/8)
G20財務相・中央銀行総裁会議(伊ベネチア、7/9)
沖縄県の緊急事態宣言、10都道府県の「まん防」期限(7/11)→再び緊急事態宣言の発出へ
中朝友好協力相互援助条約締結から60年(7/11)
米独首脳会議(ワシントン、7/15)→メルケル独首相が3人目の賓客に
中国4-6月期GDP速報値(7/15)
日銀金融決定会合(7/15-16)
黒田総裁記者会見、展望リポート(7/16)
プロ野球オールスター戦第1戦(メットライフドーム、7/16)
プロ野球オールスター戦第2戦(楽天生命パーク宮城、7/17)
6月の全国消費者物価指数(7/20)
東京五輪のソフトボール、サッカーなどの競技始まる(7/21)
6月と上半期の貿易統計(7/21)
ECB理事会(フランクフルト、7/22)
G20環境・エネルギー相会合(ナポリ、7/22-23)
東京五輪開会式(7/23)→最終聖火ランナーは誰か?
WTO一般理事会(ジュネーブ、7/27-28)
米FOMC(ワシントン、7/27-28)
米4-6月期GDP速報値(7/29)
G20文化相会合(7/29-30、ローマ)
EU4-6月期GDP速報値(7/30)
6月の鉱工業生産、労働力調査、有効求人倍率(7/30)
経済産業省がエネルギー基本計画を改定(月内)
<8月>
G20デジタル・研究相会合(トリエステ、8/5-6)
7月米雇用統計(8/6)
男子マラソン(札幌、8/8)
東京五輪閉会式(8/8)
○大相撲名古屋場所もあるし、オールスターゲームもある。ただしそれらは7月18日までに終わらせることになっている。だって東京五輪が始まるから。開会式は23日(金)だけど、21日(水)にはもう一部競技の予選が始まってしまう。そうなったら、途端に世の中の雰囲気が変わるのではないでしょうか。
○それにしても聖火の最終ランナーは誰なんだろう。個人的には、高橋尚子に1票を投じたい。
<7月2日>(金)
○これを聞いたのはナベさんからだったかな? 既に90代に達しておられたマイク・マンスフィールド元大使に会いに行ったら、「日米同盟にはまだこんな課題がある」「これからは、こういうことををやらなきゃいけない」などと、熱っぽく語られたのだそうだ。高齢者が若者を困らせるときは、できればこんな風にあってほしいものである。
○似たような話は、咢堂・尾崎行雄のエピソードにもあった気がする。要するに元気な高齢者はいつも前向きで、思い出話や自慢話が出ない。いつも過去ではなく、将来に思いを馳せている。そういう人は老いないし、なかなか死なない。どうかすると、マンスフィールドや咢堂のように死んでも朽ちない。
○何を思ったかというと、今週、とっても久しぶりに田原総一朗さんにお会いしたら、とっても元気なのである。そこで飛び交うあんな話、こんな話は、昔聞いたことがあるネタばかりなのだが、それでも視線は常に「これから先」なのである。そういえば先週も、しっかり朝生をやってたんだなあ。
○なかなか凡人には真似のできぬことなれど、せめて思い出話と自慢話を減らすことくらいは実践したいものである。還暦を過ぎると、こんなことが意外と難しかったりする。
<7月3日>(土)
○藤井聡太棋聖が3連勝で渡辺名人を下して初防衛に成功。いやあ、凄い将棋でした。
○渡辺名人が序盤から強手6六銀で局面をリードし、終始積極的な指し方でした。角を取って2二飛車成りと勝負したのも驚きで、終盤も評価値ではリードしていたのですが、最後は藤井棋聖の正確な差し回しの前に及びませんでした。今日は勝つかと思ったけどなあ。渡辺明ブログでは今晩、何て書くんでしょうか。
○それにしても時の名人が、他のタイトル戦でストレート負け、というのもあんまり記憶にありません。その一方で、豊島竜王は藤井二冠には相性が良くて、現在王位戦で挑戦中ですが、初戦をモノにしたところ。しかして豊島竜王は、渡辺名人には勝率が悪いと来ている。棋界の頂点は三すくみというか、ジャンケンポン体制というか。永瀬王座はこの3人よりは一段下といった感じですかね。
○このジャンケンポン体制について、オバゼキ先生がこんな分析をしている。つまり将棋界には、「将棋の鬼」と「勝負の鬼」の2タイプが居るということだ。それは納得だが、渡辺名人の勝負術が豊島竜王には効くけれども、藤井二冠には全く通用しない、というのも面白い現象である。ひとつには年齢差もあるのかもしれませんな。
○こんな風に「勝負の不思議」をリアルタイムで見られるとは、つくづく結構な世の中になったものです。しかも観客は、対局中にAIの評価値とという「答え」を覗けてしまうのですから。棋士の方々にとっては、受難の時代なのかもしれませぬ。
<7月4日>(日)
○春のG1シーズンが終わったら、グリーンチャンネルが元通り有料になってしまった。今ごろJRAには抗議の電話が殺到しているかもしれぬ。それどころか、間違えてJAFやJALの電話もじゃんじゃん鳴っているかも。いや、ワシ的にはネット版は既に契約してあるので、PCやiPadではちゃんと観られるのである。ただしメインレースの部分だけは、とっても久しぶりにフジテレビをつけてみた。井崎脩五郎さんの顔を久しぶりに見たなあ。
○思えば、リアルの競馬場に行かなくなってから、既に1年以上が経過している。今ではすっかり「日曜日はお家で競馬」が板についてしまい、競馬場やWINSでの熱狂を忘れて久しい。ひょっとしたらアフター・コロナになっても、競馬場には足が向かないのだろうか。いやいや、それでも年の瀬の有馬記念には、中山競馬場でクリスマスツリーを仰いでみたいものである。
○今週から3週間の予定で、夏の福島競馬が始まった。2月に大きな地震があったものだから、福島競馬場は予想外に被害が大きく、春開催が中止になってしまった。今も復旧工事中が続いており、そのために無観客開催なのだが、それでもちゃんと開催されたことはありがたい。毎年、参戦していた七夕賞も、来週はちゃんと開かれる。
○それにしても福島競馬は難しい。いや、この時期の夏競馬はそれが当たり前なのである。今日だって午前中はわりと固い感じだったのに、メインのラジオNikkei賞は「4番人気〜11番人気〜7番人気」である。3連単馬券は31.6万円である。でも、誰も驚かない。藤井2冠が終盤に秒読みに追われつつ、7一飛車と引いて渡辺名人に馬で取らせて勝ちを決める、みたいな妙手を指すときと同じで、「ああ、またか」なのである。
○さて、来週の七夕賞の予想が悩ましい。春の福島競馬が新潟開催になったり、それ以前に京都競馬場のレースが中京になっていたり、イレギュラーなことが多過ぎるのである。まあ、夏競馬はもともと難しいのだから、いっちょ運を天に任せてギャンブルでもよろしい。とにかく参加することに意義があると言えましょう。
<7月5日>(月)
○昨日の東京都議会選挙は、やっぱり事件でありましたね。これだけ激しく予想が外れるのはめずらしいんじゃないでしょうか。かねて信頼する自民党の某ベテラン秘書氏が、先月時点で「都ファは意外と負けない」と言っていたので、「それじゃあ、15議席くらいは行くのかなあ」と思っていましたが、その倍も行って自民党と2議席差じゃないですか。これなら無所属議員を抱き込んで、都議会議長を取れてしまいますがな。まあ、そうはいっても、いろいろ裏で計算があるかもしれませんが。
○自民党にとってはマズい結果です。こういうとき、まずは7つある一人区を見なきゃいけません。そのうち島嶼部は自民党の指定席なので除外するとして、それ以外の6選挙区(千代田区、中央区、武蔵野市、小金井市、青梅市、昭島市)で勝たなきゃいけません。4年前には、全部都ファに取られた選挙区です。
○この6選挙区で負け越すようだと辛いがなあ、と思って見ておりましたが、自民党は1勝5敗。中央区以外は全敗です。千代田、青梅、昭島では都ファが議席を守りました。武蔵野と小金井は立憲民主と共産が相乗りの選挙区でした。前者は「無党派層は自民を嫌った」ということですし、後者は「立民と共産の選挙協力は効く」ことを意味します。いずれも自民党にとって、秋の総選挙における黄色信号ということになります。
○かかる番狂わせが生じたのはなぜか。やはり「小池劇場」であったと言わざるを得ません。「過度の疲労」で入院しておいて、6月30日に退院。しばらくは死んだふりをしていて、投票日前日の7月3日には16選挙区を駆け回ったそうです。というか、それ以前に都ファの候補者たちはツーショットのポスターを作っていたし、事務所には直筆のメッセージが届いていた。西部劇における騎兵隊のように、駅馬車隊がいよいよ全滅しそうなタイミングで彼女は駆け付けたのです。
○さて、この結果が国政に与える影響やいかに。菅首相の戦略は「ワクチン→五輪→総選挙」ですから、6月20日に緊急事態宣言を解除してから感染者数が増えたこと、これからというときにワクチンの供給不足が生じたことは、さぞかし痛手だったことでしょう。こうなると都ファが「東京五輪の無観客開催」を訴えていた事実は重い。もちろん都議会にそんな権限はないのであるが、「これが民意だ」と言われると返す言葉が見当たらないのである。
○まあ、待て。464万票が投じられた東京都議会選挙といえど、所詮は地方選挙のひとつに過ぎぬ。負けたからと言って、総理の責任にはならんのです。しかしですな、この後、8月22日(日)には横浜市長選挙があるわけです。総理のおひざ元で、万が一にも総理の肝煎り候補者で、大恩人の息子さんたる小此木八郎前国家公安委員長(56)が敗れるということがあったら、これはもう大事件となります。「選挙の顔」としての疑義が生じますので、自民党内から「総裁選挙の前倒し実施要求」が噴出することでしょう。
○その2日後の8月24日になるとパラリンピックが始まってしまうのですが、そんなのは放置して政争が始まってしまうのかも。まあ、1カ月もあればフルスペックの自民党総裁選ができるのだから、ここはスッキリ新しい総裁を選んだうえで臨時国会召集、冒頭解散というのも悪くはないのかもしれませぬ。
○それで横浜市長選挙の情勢はといえば、こちらは東京都議会選挙とは違って明快な争点があります。それは「横浜IRの是非」でありまして、現在の林文子市長(75)は推進派。これに対し、IR反対派からは山中竹春前横浜市立大教授(48)が立憲民主推薦で出馬している。小此木さんもIR法案には賛成ながら、地元・横浜での建設には反対という立場。それに対して自民党の横浜市連が反発し、自主投票とすることを決めている。下手をすると保守分裂選挙になりかねませんぞ。
○横浜市長選挙は、現職の林市長が再出馬に含みを持たせていますし、ほかにもいろんな候補者が立ちそうなので、まさしく一寸先は闇であります。それにしてもIRがこんな一大事になろうとは。ちなみに菅義偉さんという人は、いろんな意味でギャンブラー体質なところがあるようで、こういう出る引くの際の思い切りの良さは個人的に好感を覚えるものであります。
<7月6日>(火)
○『ゴルゴ13』が単行本で201巻となり、『こち亀』を越えてギネス記録になったたそうだ。誰にコメントを取るのかと思ったら、麻生閣下でありましたか。適任でありますな。これでどなたか国際政治学者が「私もゴルゴのファンです!」などと名乗りを上げると、それはそれで問題であるような気がいたしますので。
○ワシの場合、ゴルゴ作品を読んでいたのはおおかた1980年代までで、冷戦終了後のゴルゴがどんなことをしていたのか、あんまりわかってはおりませぬ。それでも21世紀になって、しかもコロナ下にあっても、デューク東郷氏が活動を続けておられるとは、まことにみずからが励まされる思いがいたしまする。著者のさいとうたかを氏は既に84歳とか。ますますの健筆を祈ってやみませぬ。
○その昔、ワシが日商岩井に入社したころに『穀物戦争〜蟷螂の斧』というシリーズ中の佳作がありました。その続編の『汚れた金』とともに、日本の商社マン藤堂が登場する。この藤堂がカッコいいんだ。穀物メジャーを相手に立ち回るのだが、敵はゴルゴを使って逆襲に転じる。一敗地にまみれて商社を辞めた藤堂は、アパートの一室にディーリングルームを作って復讐に出る。今度は彼がゴルゴを使って、敵方に一泡吹かせるのであった。
○当時、商社の独身寮に居たワシらの間で、この単行本は宝物であった。とにかく藤堂がカッコ良かったんだもの。藤堂は日本の農政を憂えていて、日の丸弁当を食べながら「コメの飯は美味い」などと言うのである。商社マンかくあるべし。同期で砂糖部に配属されたM君は、「俺は絶対、この物語をちゃんと理解できるようになってやる!」などと言っておったことを懐かしく思い出す。今は中国のどっかに居るM君、元気にしておるかなあ。
○そして日本の商社は、ついには丸紅さんがガビロンを買収したりするような世の中に至るのであるが、それはまあ、別のお話である。ふと思いついたのだが、シリーズが続いている間に、一度でいいからゴルゴの脚本を書いてみたいものである。もちろんノーアイデアなんですけどね。
<7月7日>(水)
○今朝はモーサテに出演。本日のネタは「都議選『与党過半数割れ』で嵐の予感?」でありました。コーナーの締めで相内さんがいみじくも言ったように、「嵐の予感ではなくて、既に嵐が起きている」可能性は十分にありますな。
○本日の放送で使ったデータを以下に挙げておきましょう。
都議選得票数 | |
自民党 | 119万 |
都民ファースト | 103万 |
公明 | 63万 |
共産 | 63万 |
立憲民主 | 57万 |
その他 | 58万 |
○いかにも深遠な数字が並んでいます。東京都における公明党と共産党の基礎票はいい勝負だ、とか、立民と共産を併せると自民党とどっこいどっこいになる、とか、面白いですなあ。都民ファーストの103万票は出来過ぎだと思いますが、「この前も入れた」というのは絶大なる安心材料になるものなので、予想外にいい線行きましたな。
○それ以上に面白いのが、8月22日の横浜市長選挙です。自民党は閣僚ポストを返上して小此木八郎前衆議院議員(56)が挑むが、現職の林文子市長(75)はやっぱり出馬の模様。横浜IRの是非をめぐって自民党は分裂選挙が必至の情勢である。
○そこへ立憲民主が推薦するのが山中竹春教授(48)で、市議の太田正孝氏(75)と動物保護団体代表理事の藤村晃子氏(48)、水産仲卸会社社長の坪倉良和氏(70)、前衆議院議員の福田峰之氏(57)なども立候補の意思を表明済み。そこへ場外から作家の田中康夫氏(65)や元検事の郷原信郎氏(66)までが参戦するとのことで、彼らにとって選挙はとっても安価なパブリシティなんでしょう。いやあ、カオスでありますな。
○横浜市が天下分け目の戦いになるなんて、こんなこと過去にあったでしょうか。公示日の8月8日はちょうど東京五輪の閉会式でもある。いやあ毎度のことながら、東京都議会選挙がある年の夏は暑くなるのである。
<7月8日>(木)
○東京都はこれで4度目の緊急事態宣言となりました。これだけ長期化すると、もはや「日常茶飯事態宣言」と呼ぶ方がいいんじゃないでしょうかね。しかも期間は8月22日までですと。それって横浜市長選挙の日じゃないの!いやもう、いろんな思惑が交錯していて、ワシの鈍い頭ではサッパリわかりません!
○本日発売の文芸春秋8月号に、またまた小林慶一郎教授の手記が載っている。官邸と霞が関と分科会の暗闘ぶりが「これでもか!」とばかりに描かれています。ご本人は「今度こそクビになるかもしれません」と言っておられましたが、どうかそうならずにお勤めいただきたいです。でないと内情が全然伝わってこないですから。
○小林論文には「ああ、やっぱりそうだったのか」と思わせるような記述が数多く記載されています。
●財務省が「10兆円を超える予備費で十分手当てした」「これ以上の財政支出はあり得ない」と強く主張していたので、飲食店などの救済のためには緊急事態宣言を解除するしかなかった。
●インド株の水際対策で、入国者の停留期間を14日間にすべきという声があったのに、厚労省はマンパワーが足りないから6日間待機への対応が限界だ、それ以上は無理だ、と官邸に訴えていた。
●専門家会議は五輪の話題になるべく触らないようにしていたが、五輪開催への菅首相の意志があまりに堅いことがわかって、政権に対する不満がたまっていた。
●観客数に議論が集中しているけれども、その影響力はさほどではなくて、むしろ五輪によるお祭り気分で全国で人出が増えるという「間接的な影響」の方が大きいはず。
○なんかこのままいくと、せっかく東京五輪を開いたけれども、あまりにも不出来なことが多過ぎて、TOKYOのイメージが悪くなるだけ、ということになりそうな気がします。もともと東京五輪の経済効果などたかが知れていて、これは”TOKYO”のブランドイメージを高めるための広報予算だったと思うのですが、かえって台無しにしてしまうかもしれません。いやな都政だなあ。
<7月9日>(金)
○いや、今日一日で何人の方から西村康稔氏の悪口を聞かされたことか。いや、ワシは彼が何を言ったか正確には聴いておらんのだが、向こうから「ケシカラン!」と言ってくるのだから仕方がない。彼のことを昔から多少は知っている者としては、少しは弁護してあげたいのだが、相手の剣幕からいってそれは無理っぽいのである。
○今になって確認しようとしたら、どうやら発言を撤回したようである。そりゃそうだろう。「酒類の提供停止の要請を守らない飲食店に対し、金融機関に働きかけを要請する」って、飲食店は石炭火力発電所じゃないんだぞ。ワシは個人的には、石炭火力に対する融資を止めろというESG投資は、「イジメ」もしくは「魔女狩り」だと思っているが、相手が全国津々浦々の飲食店じゃあ、そりゃあますますいかんぞ。
○これで自民党は、全国の飲食店と酒屋さんを敵に回したかもしれぬ。悪いけど、総選挙は近いからね。粗忽者は、しかるべき形で報いを受けてください。
<7月11日>(日)
○この週末は、家に閉じこもって競馬。ところが福島はなかなか勝たせてくれないのである。メインの七夕賞も想定外の結果であった。でも、山崎さんの予測はバッチリ当たっている。偉いなあ。来週はワシの番だが、夏競馬を当てる自信がサッパリないのである。
○さて、今週のThe Economist誌が"Tokyo
drifts"(漂流する東京)というコラムを書いている。都議会選挙に負けた菅首相は立場が危うくなったから、「ワクチン接種が進んで、メダルラッシュで雰囲気が変わること」を望んでいるとある。で、以下の結論部分がちょっと哀しいものがある。
菅氏が短命な日本国首相列伝に名を連ねるとしても、自民党がひどい目に遭う可能性は限定的だ。都民ファーストのような政党は国政レベルでは存在しないし、都議選の投票率は42%と史上2番目の低さだった。低投票率は、総選挙では連立与党を組む自民党と公明党を利するものだ。何より最大野党の人気がなさ過ぎる。「自民党以外に選択肢はない」とジャーナリストの歳川隆雄は言う。日本における不満は無関心を生むだけで、変化を招かないのである。
○特に最後の一文"In Japan, dissatisfaction
breeds apathy, not change."はちょっと胸に刺さる。確かに立憲民主が共産党と選挙協力をしたところで、党勢は伸びるかもしれないが、政権が取れるとは思えない。もちろん彼らだって政権が欲しいわけじゃないだろう。他人の揚げ足取りをしている方が、楽でいいからね。
○他方で来年の参院選挙では、自民党は相当に「お灸」を据えられそうなので、永田町内ではそっちの方が危機感は強いかもしれない。ワシ的には、自民党総裁選の前倒しは十分にあり得ると思うけどな。というか、久しぶりにフルスペックの総裁選を見てみたいぞよ。
○そうでないと、この秋以降もコロナ対策は今のままだぞ。当欄の7月8日分でご紹介したが、小林慶一郎先生が文芸春秋で書いているような実態を変えなくていいのだろうか?
<7月12日>(月)
○都内は再び緊急事態宣言なるも、本日は昼夜ともに最近では希少なリアルの講演会講師を務める。
○昼は内外情勢調査会の川崎支部である。地元の方と雑談をする。「昔の川崎球場というのは、それはそれはひどいところで・・・」とか、「川崎のワクチン接種は順調で、20代の若者でもバンバン打てるんですって?」みたいな話で盛り上がる。そういえばワシは宮前平の独身寮時代は、川崎市民だったのであった。
○ただし会合としては結構、無理をしていることがわかる。数十人の会員が、学校形式の配置(もちろんかなり距離を置いている)で、黙々と弁当を食べる景色はかなり奇妙である。コロナ下においては、「食事中に話しちゃいけない」という不自然なルールを押し付けることになるわけで、学校の給食現場などはどうしているんだろう。「最初から守れないはずのルールは、守らなくていい」と思うけどねえ。
○話をする側からすれば、リモートの会議に比べてリアル会合は天国のようである。なにしろちゃんと客の顔が見えている。自分の話は受けているのか、違和感を持たれてはいないか、眠そうな人はどれくらいいるのか、そういう状況をチェックしながら話せるのが、リアル会合のありがたみである。これがリモートの会議になると、何しろジョークが受けたかどうかさえ分からない。せめてZoomの映像はオンにしてくれよ、と言いたくなるところである。
○話が終わった後に、遠慮がちに名刺交換に来られる人が居て、「これを読んでいただけませんでしょうか」といって小冊子を頂戴したりする。これまたリモートの会議では不可能なことで、リアルで会っていると他人との会話はどんどん広がっていく。これまたリアルのありがたみであって、リモートの会合でそこまで議論が深まるということは滅多にない。
○夜は少人数の研究会である。今宵は質問を受けるときに、「ヒヤッ」とする感覚を久しぶりに思い出した。リモートの会議で受ける質問は、ZoomのQA機能などを使ったりするのだが、質問をした人がどういうキャラで、どういう問題意識を持っているかまではわからない。ところがご本人から目の前で質問を受けると、「ああ、この人は自分と同じ思考回路があるな」なんてことがわかるし、「しまった、今の質問の答えは準備してないぞ」なんてこともバレてしまう。はるかに真剣勝負になるのである。
○そんなわけで、リモートの会議があるから全て事足りる、なんてことを言っている人は、言っちゃ悪いが浅いコミュニケーションで満足しているのであろう。やっぱりヴァーチャルはリアルを代替できんわなあ、てなことを実感した一日であった。
<7月13日>(火)
○本日のThe New York Times紙に出ていた大谷翔平選手に関する記事。以下は例によってかんべえ流の意訳なので、細かいことは言いっこなしですぞ。
●Shohei Ohtani is just the star America's
pastime needs (大谷翔平こそはアメリカの娯楽界が求めていたスターである)
*シアトルのT-モバイルスタジアムの安い客席でこれを書いている。自分は今日、目撃したことを思い起こしている。ロサンゼルス・エンゼルス所属の肩幅の広いピッチャー兼パワーヒッターである大谷翔平は、メジャーリーグが何世代にもわたって待ち焦がれていたユニークな選手だが、スタジアム全体に畏敬の念を起こさせるようなホームランを打ち込んだ。
*ボールは高く舞い上がり、敵方シアトルマリナーズの選手たちも首を伸ばして打球の行く末をじっと見つめた。「なんてこったい!」とファンはつぶやく。案内係がささやいてくれた。「マリナーズのゲームに10年以上携わっていますけど、ボールがあんなところまで飛んだのは見たことがないです!」と。
*いや、驚くべきではないのであろう。大谷翔平は全シーズンを通じて、着実にできることを広げてきた。彼はバッターボックスでもマウンドでも、まるで何でもできるかのようだ。議論の余地はない。今や大谷翔平27歳は、あらゆるスポーツの中でもっとも素晴らしい光景のひとつなのである。
*今週月曜日には、デンバーのクアーズスタジアムで、大谷はホームランダービーに出場する。火曜日にはオールスターゲームに出場して打ち、そして投げる。このままいけば、彼は最高のシーズンを体験するだろう。ご存じない方のために言っておくと、今日の特大ホームランは33本目でリーグトップであり、年間73本というバリー・ボンズのシーズン記録を脅かすかもしれないのだ。
*大谷は何世代にもわたって初の正真正銘の二刀流(two-way
player)である。彼は最高のピッチャーの1人であり、先週はボストン・レッドソックスを4対1で破ったが、投球の75%のボールがストライクだった。速球と遅いカーブを取り交ぜる投球は、まるでアートであった。
*エンゼルスのジョー・マドン監督は言う。「ベーブ・ルースってこんな感じだったんだなあ、と思うよ。それがホントに起きているんだもの。今、自分たちが見ていることを、けっして軽く考えちゃあいけないよ」
*野球界は大谷を必要としている。今やかつてほどの人気はなく、パンデミックにも直面しているのだ。そしてアメリカもいま、大谷を必要としている。
*6フィート4インチ(190センチ)の背丈で日本のスターだった大谷は、2018年には新人王に輝いた。しかし負傷があり、コロナもあり、その後はなかなか目立たなかった。彼がブレイクするのに、これ以上のタイミングはなかっただろう。
*中国発のパンデミックは、アメリカに狂気をもたらした。アジア系アメリカ人は息苦しい状態で日々を過ごしている。ときにはヘイトクライムに、ときには醜い差別の急増に直面している。こんな恐るべき状態で、われわれはアジア系アスリートが、アメリカの娯楽市場の冠たる競技を完全に支配しているのを見ているのだ。
*ロサンゼルス郡人事委員会と、それ以前は日系アメリカ市民会を長らく率いてきて、76歳の今年で引退した大の野球ファンのロン・ワカバヤシは語る。「彼はベーブ・ルースと比較されてるんだよ。それってアメリカの魂だぜ。すごいことじゃないか。彼がやっていることは、われわれのコミュニティにとって素晴らしいことなんだ」
*私は先週、数多くのアジア系アメリカ人に取材した。ロサンゼルスのお寺を破壊された僧侶。アメリカ国内におけるアジア系内紛の歴史を研究している大谷ファンの大学教授。マリナーズスタジアムの家族たち。何度も聞かされたのは、偏見に基づいた恐怖と痛みだった。
*だが心温まる話も聴いた。大谷の偉大なるシーズンが、心を落ち着かせる効果をもたらしていると。
*ワカバヤシは言うのだ。彼は最近、アンチ・アジア系攻撃が起きたロサンゼルス内の3マイルを巡回している。そんなときに大谷のことを考えると、力と根性が湧き上がってくるのだと。偉大なる日本人プレイヤーはけっしてひるむことはないし、後戻りすることもない。そしてやるべきことをやってのけるのだ。こんな混乱の時代、大谷の力とファイト、そしてアジア系が少ない野球界における彼の活躍は、「人生を少しだけ良くしてくれている」と。
*英語ができない大谷は、通訳を使わないとスポーツメディアとはコミュニケートできない。だからアメリカにおける差別や怒りに対しても沈黙している(訳注1)。彼以前の多くの偉大な日本生まれのプレイヤーたちと同様に、野球以外のことに対しては慎重に処している(訳注2)。
*だが、それがどうしたというのだ。彼は話さなくても、世の中を変えることができる。ピッチングとヒッティング、そしてメジャーリーグを圧倒する優雅な二刀流が、雄弁に物語っているではないか。
●訳注1:大坂なおみ選手のように、世の中の不条理に対して発言するアスリートの方が、アメリカでは普通の存在と考えられるようです。
●訳注2:野茂英雄、イチロー、松井秀喜、そういえばみんな無口なタイプでしたなあ。まっ、その方がらしくて良いと思います。
○ということで、明日のオールスターゲームにおける大谷翔平選手の投打にわたる活躍を、心から祈るものであります。いいねえ、スポーツは。われらが東京五輪は、こういう感動を与えてくれますか、どうですか。
<7月15日>(木)
○上海とを結ぶリモート会議に参加する。先方は上海商工クラブの会員企業が花園飯店(ガーデンホテル)に集まっていて、こちらは自宅から講師を務める。先方はリアル会合だが、こちらはリモートといういわばハイブリット方式である。コメンテーターに上海経済貿易大学の陳子雷教授が来てくれていて、とってもお久しぶりのご対面となる。いやあ、お懐かしい。ありがたい。
○なかなか行き来が出来ない同士が、こんな風に意見交換ができるのであるから、やはりリモートの効用というのもすばらしい。先日も当欄で「リモートはリアルを代替できない」と書いたばかりだが、リモートは何もないところに価値を生み出してくれる。いや、すばらしいことではありませぬか。まして当方、陳先生とは長いお付き合いである。画面越しでも、言いたいことはちゃんと伝わるのである。
○ということで、これで今週5つ目のプレゼンテーションが終了。つくづく語ることは教わることであります。何かを語るときに感じる「ハラハラ感」が、いつものご褒美なのだと思います。
<7月16日>(金)
○やっと梅雨が明けたようです。パチパチパチ。明日からは猛暑の始まりだそうですが、なあに、家で冷房をガンガンかければ良し。湿っぽいよりもずっとよろしい。傘も持ち歩かなくてよくなるし。
○考えてみれば、7月の恒例イベントである「七夕賞の福島行き」と「町内会の夏まつり」は、今年も両方とも中止である。これで来年に「平常への回帰」が済んでいればよいが、その場合でも夏祭りはかなりの規模縮小になっていそうな予感。
○この夏をどんなふうに過ごすべきか。考えてみれば、夏休みをいつ取るかも考えていない。うーん、どうしよう。とりあえず夏競馬のことでも考えるか。
<7月17日>(土)
○今週の仕事。東洋経済オンラインです。
●大谷翔平選手がアメリカ社会を癒す「必然」
○大谷翔平はいいですなあ。いや、当欄で紹介した7月13日付のThe
New York Times紙記事を紹介しただけなんですが、「アメリカは明るいばっかりじゃない」ということが伝わればいいなと思います。
○逆に言うと来週の東京五輪では、「日本は暗いばっかりじゃない」ことが世界に伝わればいいなと思います。せっかくやるんだから、日本の評判を落とすようなことだけは止めましょうや。
○それはさておき、オールスターゲームって面白いですな。2年ぶりだけあって、昨日も今日も締まったいいゲームだと思います。やっぱりスポーツは楽しい。
<7月19日>(月)
○週末にアップされた大谷翔平選手に関する拙文は、アクセスランキングはそれほど伸びなかったのですが、フェイスブックのシェアがすごい数になっていて、不肖かんべえの過去の記録を大きく塗り替えました。やはり人気もをネタに取り上げると、効果は抜群ということのようです。
○今朝がたは1900台くらいになっていて、ほほーと感心していたのですが、その後、34号ホームランが飛び出した後でまた一気にシェア数が伸びました。ただしツィッターでの拙稿に対する言及は少ない。うーむ、ネット上の反響というのは面白いものであります。
○ちなみに過去の駄文の中では、「日本経済には36兆円もの埋蔵金が眠っている」がシェア数4ケタですが、普通にバイデン大統領がこんなことしてる、みたいなことを書くと2ケタ台のことが多いです。トランプ時代はまた違う楽しみがあったんですけどねえ・・・ということで、物書きの1人として、人のふんどしで相撲を取るという術をひとつ学んだような気がしておりまする。
○と、ここまで書いたところで、今日はずっと注目していた将棋の王座戦の挑戦者決定戦、ご贔屓の佐藤康光九段が木村一基九段に敗れ、タイトル挑戦はなりませんでした。将棋連盟会長がタイトル戦に出ると、これは大山十五世名人以来の快挙であったのですが、残念ですねえ。とはいうものの、木村九段も同様にオヤジ世代。AI時代にオヤジ棋士が頑張っている姿は、同世代人としてまことに励まされるものがあります。
○あるいは藤井二冠の存在が、いい意味でオヤジ世代の刺激になっているのかもしれません。やっぱり競争はいいことですな。くれぐれも競争に背中を向けちゃあいけません。
<7月20日>(火)
○しみじみコロナ下の政治家というのは大変だなあ、と感じるこの頃である。
○まず、新型コロナは一種の「有事」であるから、戦時の指導者のようでなければならない。平時には不可能な政策を、果断に実行しなければならない。アメリカにおけるワクチン開発とか、中国におけるAIを使った社会衛生管理だとか、なんらかのアチーヴメントが必要になる。日本の場合は、お上とは無縁にただ民が勝手に我慢して日々を過ごしているだけなので、そりゃあ不満がたまるのも無理はない。
○しかも変な話、日本は2020年の年間死者数が前年比9000人減となっている。皆がマスクをしたり外出を控えたりした結果、肺病の死者数が減って老衰による死者数が増えたのだとか。つくづく平和な国である。普通の国ではコロナによって万単位で人が死ぬ。それに対応しているだけでも大変なことになる。
○次に、コロナ対策は「朝令暮改」が必要になる。昨日まで言っていた話の逆をやったり、またまたゴーサインを出したり、ちぐはぐな指導を余儀なくされる。この点、「打ちてしやまん」と言っていればいい戦時指導者はずっと楽である。間違った場合でも、ちゃんと人が許してくれるようなキャラでないと後が苦しい。
○現に英国は、1日の感染者数が5万人台に達しているというのに、規制を解除している。こんな実験をしてくれるのは、他国から見てまことにありがたい。まあ、ボリス・ジョンソン首相としては、ロンドンの気候がいいうちにせいぜい国民に伸び伸びしてもらって、年末になったらまたロックダウンという事態を見越しているのかもしれんけど。それとも彼は「許されキャラ」なんだろうか。
○3番目に、不安におののく国民との対話ができなければならない。これには説明力とか共感力みたいな要素が必要になる。一時のクオモNY州知事はまるで神の如しだったが、その後はいろいろボロが出て大変なことになった。ともあれ、孤独で恐怖を感じている人たちとコミュニケートする、というのは一種の特殊才能が必要ではないかと思う。
○そのためにSNSとかビデオメッセージといった武器があるわけだが、そういうパーソナルなコミュニケーションが上手に取れるのは、メルケル独首相とか蔡英文台湾総統とかアーダーンNZ首相とか、女性指導者が多いようですな。これを日本国首相に求めるのは、「木に縁りて魚を求むる」に似たりなのであります。
○今日、聴いた話なのだけれども、安倍首相と菅首相の記者会見の違いはどこにあるか。安倍さんは午後6時スタートで、民放にキャリーしてもらおうとしていたけれども、菅さんは午後7時スタートで、NHKが流してくれればそれでいい、の違いなんだそうだ。もちろん、菅さんがテレビに出ると、途端に視聴率は急低下するわけで、そりゃあそうですわなあ。面白くないんだもん。安倍さんもそんなに面白かったわけじゃないけど、安倍嫌いの人たちが熱心に見てくれたりしたから、それはそれで良かったのでしょう。
○それにしても、上記の(1)〜(3)を全て兼ね備えるというのは、かなりの難事ではありますまいか。「ポスト菅」をめぐる争いも、きっと容易なことではないでしょうなあ。
<7月21〜22日>(水〜木)
○久々に講演会で福岡へ。考えてみれば、飛行機に乗るのは今年2回目である。
○福岡に到着してみると、既に「緊急」でも「まんぼう」でもないので、市内はわりと平常モードにみえる。講演会も「ハイブリット方式」だと聞いていたのだが、リモートよりもリアルのお客さんの方が多かったようである。せっかく来たのだから、これはこれでありがたい。
○地元経営者の方々とお話しすると、やはり製造業は好調なところが多い。21日公表の6月の貿易統計でも、輸出は7兆円越えですからね。トランプさんが中国に貿易戦争を吹っ掛けた2018年以来の水準です。貿易統計では、このところアメリカからの医薬品の輸入額に注目しているのですが、今月は684億円(前年比21%)。先月は841億円で、前年比209%増であった。ワクチンの輸入もこの中に入っているはず。意外と数百億円のオーダーなのですなあ。
○医薬品の輸入額は、2000年くらいには年間5000億円台だったのだが、2010年には1.5兆円くらいとなり、2020年度には3.2兆円まで増えている。逆に輸出は数千億円でずっと変わらない。この間、世界の医薬メーカーは急成長を遂げ、日本はそうではなかったのであろう。「なぜ日本はワクチンを作れないのか?」という声をよく聞くけれども、貿易データを見る限り、そりゃあ無理もないことだとワシは思うぞ。
○いつもの福岡出張の際には、西鉄グランドホテルに泊まることが多い。でもって、双日九州の皆さんに割烹よし田に連れていかれるのが吉例となっていて、コロナ前の昨年1月の際もそのパターンであった。今回は会場であるホテル日航福岡(博多駅の近く)に宿泊したのだが、なんと「よし田」がこの近くに引っ越しているのである。それというのも、「天神ビッグバン」でお店が移転を余儀なくされたからなのである。
○それでは天神はどんなことになっているか、と思って野次馬に出かけると、そこらじゅうが建設工事中になっている。西鉄グランドホテル隣の小学校跡地にリッツ・カールトンが建つという話は前から聞いていたのだが、文字通りそこらじゅうで取り壊しや新建築が始まっている。なんと日銀の福岡支店までが建て替え工事中である。
○それというのも航空法の高さ制限が緩和されたから。福岡空港は博多駅まで地下鉄で7分という至便な位置にある一方、福岡市内のビルは高さ制限が厳しかった。最近は飛行機の機体が良くなったので、以前ほどの制限が不要になっているらしい。これに福岡市独自の容積率緩和を組み合わせることで、老朽ビルの建て替え需要を喚起しているわけである。
○規制緩和でビッグバン、という発想や言葉遣いはやや古臭い気がするけれども、補助金などを一切使わずに街を生まれ変わらせる、というのは福岡市ならではないかと思う。というか、札幌市などは北海道新幹線の延伸と冬季五輪の誘致を梃子に再開発を狙っているのだから、それでは元が取れるかどうかまことに怪しい。人口減少社会における街おこしは、なかなかに困難なものになりそうだ。
○ということで、1年ぶりに再会した上海馬券王先生に、割烹よし田のイカ刺しと鯛茶を伝授する。このところ毎週末は、レースが「当たった」「外れた」などという他愛のない会話をLINEでしておるのだが、やはり対面でなければ出来ない話というのも積もっていることを確認するのであった。
<7月23日>(金)
○なんだかこう、世の中が殺伐としていて、SNS空間はいつも誰かが怒っている感じである。いやー、いかんですよ。こんなに暑い中を家に閉じこもっていると、そうでなくても腹が立ちますから。
○ということで、出張中に読んだ『証言 羽生世代』(大川慎太郎)講談社現代新書から。渡辺名人のインタビュー、この部分はなるほどと思いましたな。
渡辺 当時と今では将棋の質が違うという捉え方もできるんですけど、少なくとも単調にはなりましたよね。例えばいまの序盤戦は事前にソフトで調べてくるものなので、形勢を知ったうえで指しているんです。どの戦形でどの順にアミを張って、それを暗記してくるかの勝負とも言えるんですよ。で、そのアミから外れたらだいたい負ける。でも当時の序盤戦はそんなことはなくて、創造と思考の勝負でした。形勢が分からない中で、自分で一手一手を考えていたんです。
ーーでも昔だって序盤の研究はしていたでしょう。例えば序盤早々に激しい展開になる横歩取り8五飛車戦法とか、研究勝負の戦形もあったのでは?
渡辺 でも人間同士の研究だから正しいかどうかも分からないし、いま思うとけっこう穴があったりもしたんです。現在はソフトの評価値という、ハッキリとした解がありますからね。それを知ってて指しているのと、自分で考えているのではやっぱり違いますよ。
ーーいまだって中・終盤は自力で指していると思うのですが。
渡辺 そうですね。でも全体的に似たような将棋が増えています。ちょっと変わったことをするとすぐにソフトで解析されてしまうから。あと今は勝負の山場がすごく短くなっています。お互いに序盤の形勢を知っているので時間を使わずに指して、中盤くらいから本格的に将棋が始まる。予定が外れた局面で突然の大長考をして、少し駒がぶつかったぐらいで差がついて一方的になって終わってしまうことがよくあります。全体的に将棋が淡白になってしまっているんですね。
(中略)
渡辺 昔のように最初から自分で考えて時間を目いっぱい使う将棋って、いまは年に数局しかないですよ。昔は終盤で時間が残っていないから最後に二転三転して、いわゆる熱戦が生まれやすかった。それに、先方のバリエーションも豊富でした。だから将棋を指したという充足感があったし、総合的な意味でレベルが高かった。自分のタイトル戦を振り返っても、羽生世代の棋士たちと指していた時の方がハイレベルだったと思いますね。
○AIの方が人間よりも強くなってこれで5〜6年。将棋の質が変わってしまったよ、と嘆いているわけですが、この感じ、少しわかります。藤井二冠、昨日も豊島竜王に勝って王位戦七番勝負を2勝1敗としましたが、確かに山場が短い将棋なんですよね。
○ちなみに羽生世代側からはこんな言葉が紹介されている。現在の将棋連盟会長、佐藤康光九段いわく。
佐藤 当時は今と違ってAIがなかったので、何が正しいのか指針らしきものすらありませんでした。とにかく自分の頭で考えるしかなかったんです。だから序盤からとことん突き詰めて局面を読むという、人間の限界に挑戦していました。いまだってもちろん挑んでいますけど、AIがあるので環境が全然違います。当時は自分を信じるしかなかった。そういう意味で、人間の限界に挑んできたことは誇れることかな、と思っています。
○今はカーナビができてしまったのだから、道を知らない運転手が居ても仕方がない。しかしカーナビなき時代には、あらゆる裏道を熟知している運転手さんが居たものなのである。そういう矜持を思い出して、ちょっと懐かしくなりました。
<7月24日>(土)
○昨晩の開会式、思ったよりも良かったではありませぬか。ホッとしましたですよ。個人的には選手入場とともに、ドラクエのテーマが流れてきたところで一気に萌えました。クイーンの「手を取り合って」(Teo Triatte)にも痺れました。あの曲、日本以外では受けなかったはずなのですが。各国のプラカードが漫画の吹き出しになっているとか、サブカル演出総動員でしたね。背伸びしないで、「今の日本」をアピールしていたと思います。
○あれだけ多くの国・地域が入場行進するのは、それだけでいいものですね。コロナのせいで外国が遠くなって久しい昨今、海外の方からリスクを取って日本に来てくれるわけですから、ありがたいことだと思います。来なかったのは北朝鮮くらいでしたな。
○惜しむらくは各国がソーシャルディスタンスをとったために、思い切り時間が押してしまったこと。途中からNHKは焦っていた感じでしたね。それでも最後まで見ちゃいましたよ。注目の最終聖火ランナーは、大坂なおみでしたか。TOKYOだけどオオサカで。4年後は万博ですしね。1964年当時の日本人がこの大会を視たら、旗手を務めた八村類とともに「21世紀の日本選手団」の姿にビックリ仰天したことでしょう。
○東京五輪はとてつもない貧乏くじかと思われましたが、まあ、やってやれないことはなさそうに思えてきた。これは五輪の歴史の中でも、たぶん最初で、(敢えて希望を込めて言うと)最後の無観客大会ということになる。それだけで歴史に残る大会でありましょう。なんとか「結果オーライだったね」と言えるようにしたいものです。
○もっとも無観客になったことで、経済面では逸失利益が大きなものになった。スポンサー企業にとっては、対五輪投資は「座礁資産」もいいところでしょう。誰かが上手いことを言ってましたが、「トヨタは五輪をあきらめて四輪に専念する」のだそうです。
○それでも肝心なのは、TOKYOの評判であって、良い印象が残ればそれでよしと考えるべきでしょう。この点で心配なのは、海外メディアによる「日本人は五輪開催に反対している」という事前の宣伝が行き渡っていて、海外アスリートたちは戦々恐々という感じで訪日していること。いい意味でその期待を裏切っていければいいなと思います。ま、その点はあまり心配はいらないでしょうけれども。
<7月25日>(日)
○なんだかんだでこの土日、ひたすら家で五輪を見まくりましたな。スケボー男子ストリート以外のメダルは、全部リアルタイムで目撃したくらいです。
○特に柔道ですな。知らない間に「有効」も「効果」もなくなっていて、「抑え込み10秒とで技ありで合わせ技1本」とか、聞いてねえよそんなこと。ただし長時間見ていれば、少しはわかってくる。昨日の高藤&渡名喜ペア(いま、「となき」と入力したらちゃんと変換したことに感動を覚える)よりも、今日の阿部兄妹は強かったと思う。相手がビビっていたもの。兄妹そろっての金メダル、おめでとうございます。
○上野姉妹(柔道)とか伊調姉妹(女子レスリング)とか、格闘技で強い姉妹は過去にいっぱい見てきたし、宗兄弟とか荻原兄弟とか、強い双子の兄弟もたくさん見てきたけれども、「兄妹」で強いってのはめずらしい。しかも顔が似ている。ワシも妹がおりますが、あんまり似てないです。この阿部兄妹が、お互いをちょっとずつ意識しながら闘っているところが素敵なドラマでありました。
○きょうだいが居る、というのはいろんな意味で性格形成に影響を与えるものだと思う。ワシの場合も、下が弟だったら今とはかなり違う人間になっていたはずである。ましてや長男でない自分、というものはほとんど想像しがたい。同性の兄弟姉妹は張り合う相手。でも、これが兄妹や姉弟になるとまったく別問題になる。
○仮に兄弟で同種目を争っていた場合、相手は自分のライバルにもなり得るので気が抜けない。むしろ「負けてしまえ」と念を送ることだってあり得る。これが妹だとそうはいかない。自分のことを「お兄ちゃん」と呼んでくれる相手を、否定できるはずなどないのである。めでたく金メダリストになった阿部一二三選手は、さぞかし妹の試合が気になって仕方なかったことだろう。わかるよ〜、そこは。
○そういえば、今週末はめずらしく馬券を買わなかった(いちおう、フジテレビでアイビスサマーダッシュだけは観たが)。深夜に『ゴールデンカムイ』の2度目を見るのも、止まりそうである。東京五輪の2週間は、ワシの日常を変えつつある。まあ、いつものことなのですけどね。
<7月26日>(月)
○本日は柏市役所に行ってマイナンバーカードなるものをゲットする。20分ほどの手続きであったが、なんというかワクワク感が皆無のイベントでありましたな。これでデジタル化が一気に進むのか、その先に何かイイことが待っているのか、という感じがまるでない。
○職員の方が大真面目に、「将来的には保険証の代わりにもなります」と言うもんだから、「それってどんなメリットがあるんですか?」とマジレスしてしまいました。なんだかよくわからないことを言ってましたが、言ってる本人がその内容を信用していないことは火を見るよりも明らかでありました。いかんですよねえ、大人に嘘をつかせるのは罪作りな行為です。
○そもそも朝一番に3人しか並んでいない市民に対し、職員が8人くらい居て無駄話が絶えなかった時点で、これがまともな仕事でないことは自明でありましょう。9月1日にはデジタル庁なるものが発足するそうですが、あんまりワクワク感を持つべきではない、ということを学習しました。
<7月27日>(火)
○50代になったというのに、またまた転職することとなり、しかもそれがベンチャーなんだそうだ。聞くからにお疲れ様な状況です。そんなH氏から、最近の金融界の裏話をあれやこれやと拝聴する。
○言われて初めて気が付いたのだが、H氏とはかれこれ20年来のお付き合いである。しかもそれは、この溜池通信がきっかけであったと。そういえば、そうだった。それからあの人につながって、そこであの人に出会って、いろんなネットワークができて、お互いにちょっとずつ人生が変わっていったようである。
○コロナになってからの1年半は、なかなか新しい出会いが増えない日々が続いている。それでもありがたいことに、過去のストックがある。旧交を温めるというのはいいものです。松下幸之助翁いわく、好況善し、不況なお善しと。なかなか人と会えないときこそ、人と会うことのありがたみを感じるときであります。(20:38)
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○すいません、もうひとこと。ソフトボールの金メダル、おめでとうございます。7回に再登板した上野投手の投球を、祈るような思いで見ておりました。2008年北京五輪以降、ずっと五輪競技から外れてきたソフトボールですが、今回は日本開催ということで、ほとんど開催国のワガママを通すような形で再現しました。決勝戦を戦ったアメリカチームの選手たちも、「まさか、こんなうまい話があるだろうか」と思って参加したのではないかと思います。
○今日の日米による決勝戦は、「日陰のスポーツ」どうしの思いがほとばしるような戦いだったと思います。野球とソフトボールは、世界的には人気がないスポーツなんですわなあ。それでも両チームとも、締まったいい試合でしたね。アメリカもあっぱれ、守備も攻撃もいいチームだったと思います。
○会社の先輩で、何かというと「片想いの情熱が大事なんや!」と言う人が居たことを思い出しました。13年ぶりの五輪での競技ということで、この間、片想いを続けたソフトボールプレイヤーがどれだけいたことでしょう。それはきっと、上野由岐子投手だけではなかったはずです。そして片想いを続けることには才能が必要なのです。
○これは男子の野球も同じことであります。なにしろ世界で6チームしか出ないんですからね。「悪いけど、日本が勝つまでやらせてもらいますよ」(それくらい、いいでしょ?)と言いたくなるワシを誰が責められよう。
<7月28日>(水)
○IMFの新しいWEOが出ましたね。リンクを貼っておきましょう。
●Fault
Lines Widen in the Global Recovery
○「フォールト・ラインズ」とは懐かしい言葉が出てきました。これは2005年のジャクソンホール会議で、これが最後の参加というアラン・グリーンスパン議長の目の前で、「このままでは、金融セクターでたいへんなことがおきまっせ」というプレゼンをやってのけたラグラム・ラジャンが、後に著書名に使ったフレーズである。ラジャンはシカゴ大学教授であったが、このときはIMFのチーフエコノミストを務めていた。
○言うまでもなく、それから3年後にはリーマンショックが起きて、ラジャンの予言は的中した。要は世界経済に「フォールト・ラインズ」(断層線)が走っているような状況を放置しておくとヤバいっす、ということである。『フォールトラインズ』という著書は、2010年の大ベストセラーになった。ちなみに邦訳は新潮社から出たが、「まったく売れません〜」という担当者の愚痴を聞いた記憶がある。
○そしてまた今日、コロナ感染という形で今は世界に断層線が走っている。例えばモノの動きは絶好調で、世界の貿易量は今年は+9.7%、来年は+7.0%成長と見込まれている。逆に対面のサービス業はエライことになっている。あるいは富裕層と貧困層の差も拡大している。あるいは先進国はワクチンを接種できるが、新興・途上国はそれが難しい。世の中は右も左も「断層線」だらけなのである。
○さらに深読みすると、今も世界的に株価が高くて、アメリカなんぞはバフェット指数がもう200%越えてます!などという「コロナ・バブル」状態である。このタイミングで、IMFが自分たちの大先輩であるラグラム・ラジャンの言葉を使ってきたというのは、「そろそろヤバいんじゃないか・・・・」と考えているのかもしれませんな。
○ラジャンはその後、故郷インドに帰って、中央銀行であるインド準備銀行総裁として剛腕を発揮したりするのだが、2016年9月に辞任している。たぶんモディ首相との路線対立があったのではないかと思う。なにしろこの年の11月、モディさんは「最高額紙幣の全廃」というとんでもない勝負手を放っている。ま、中央銀行家として普通は止めるわな。最近はあまり噂を聞きませんが、ちょっとだけ古い記憶を刺激されました。
<7月29日>(木)
○在宅勤務を終えた夕方、缶ビールを開けてテレビをつけると、そこにはジョコビッチ対錦織圭のテニス男子シングルス準々決勝をやっている。おお、こんなものを見られてしまうとは。無観客でやっていることが、なんとももったいないくらいである。
○東京五輪も2週間目。こんな豪華な日々がまだ続く。柔道はまたまた男女とも金だし、卓球もバドミントンも体操もやっている。いくら競技が増えたからと言って、本日時点で金メダルが15個とはどういうことか。オリンピックにおける米中対立に、日本がくさびを打ち込んでいるようではないか。
○とはいうものの、今週になって感染者数もどんどん増えて、世の中の雰囲気は剣呑とし始めておる。こうなるとますます、テレビ観戦に集中するしかないではないか。こんな風になると、いくら金メダルが増えても菅内閣の支持率上昇にはつながらないのではないか。月末から来月にかけて発表される菅内閣の支持率が気になるところです。
○その一方で、国家的な大実験を行っている英国の場合、直近の感染者数が減少に転じているのですね。これはちょっと励まされるデータです。さて、日本の場合はどこでピークとなるのか。
<7月30日>(金)
○今朝の産経新聞「正論」欄に寄稿しました。
●米ワクチンに学ぶ行動する勇気
○当欄をよくご覧になっている方は、「ああ、あのネタか」と思われるかもしれません。いかにも産経新聞向けの話だと思うんですよねえ。
<7月31日>(土)
○ということで、本日が職域接種の2回目でありまして、無事にMission
Acomplishedとなりました。
○夕方になったら、1回目と同様に肩が痛いです。が、それだけですので、夕方の町内会防犯パトロールも普通に行ってまいりました。さて、明日は発熱がありますかどうか。
○まあ、その場合も家で五輪観戦していればいいのですから、気楽なものであります。とりあえずアルコールは一晩だけ遠慮いたしましょう。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki