●かんべえの不規則発言



2007年9月







<9月2日>(日)

〇東京・有楽町でザ・ペニンシュラがオープンしたそうで。夏休みの最後、カツオ君状態のかんべえは、この週末、自宅にこもって「A4で10ページ、図表が7枚、約1万1000字」に取り組んでいたもので、別に自分が行ったわけではありません。が、ちょっと感じたことなどを。

〇ここ2〜3年で、コンラッドやらマンダリンやらグランドハイヤットやら、高いホテルが随分建ちましたな。それというのも、気づいてみたら、東京は世界の主要都市でも、もっともホテルが安い都市になっていた。今なら一泊2万5000円もあれば、都内だとまぁまぁの部屋に泊まれるでしょう。大企業のカンパニー・レートなどを使えば、鬼に金棒である。が、一泊200ドルという予算で、ニューヨークなりロンドンなりでホテルを探したら、まっとうなところには泊まれないでしょう。ワシントンDCなんぞも、いきなり「300ドル以下はないよ」と言われてしまう。たいしたホテルはないくせに、値上がりしちゃったのである。

〇そもそもこの20年ほどの間、日本以外の国は普通に物価上昇が起きていた。さらにグローバル化が進んだために、ホテルに対する需要も増えた。それでもって、世界的な「格差拡大」がある。金持ちの数が増えたから、高いホテルの需要は確実にあるのに、東京はなぜか1泊500ドル以上のホテルがほとんどない、ということになった。そこで高級外資ホテルが東京に進出ラッシュ。「そんなもの、需要があるはずがない」という国内の業者の困惑をよそに、今のところ客の入りはそんなに悪くないらしい。

〇気がつけば、「東京は世界で一番物価が高い」なんて言われたのは今は昔。ちょっとお洒落なレストランなんぞ、クオリティとサービスを考慮して、ついでにチップを払わなくて良いことを勘案すれば、世界でいちばんお買い得なんじゃないかと思う。だったらもっと値段を上げてもいいわけだが、日本の消費者はまだまだデフレマインドが浸透している。株価と一緒で、日本には出遅れ感があるのです。

ぐっちーさんが以前から言っていることですが、「世界の大都市に比較すれば、東京の不動産はまだまだ買える」ということになる。だからゴールドマンサックスが、ティファニー銀座本店を敷地ごと370億円で買ったりする。ちなみにティファニーは、この物件を2003年に165億円で購入したそうなので、4年で倍以上である。が、これぞ出遅れというもの。なにしろ首都圏には3000万人もの人口がいて、交通の便がよく、情報流通速度がむちゃくちゃ早い。おそらく収益還元法でいっても、正当化できる値段なのであろう。

〇他方、地方都市のことを考えてみると、ホテルはどこでも一泊8000〜1万2000円くらいが関の山だと思う。それを越えると、マジで需要がなくなってしまう。電子メールが普及する以前は、どこでも社長さんは「支店めぐり」をしなければならず、そのたびに地方都市のホテルに宿泊し、街一番の料亭で宴会をやったものである。そういう需要は、この10年程で一気に減った。交通の便が良くなったために、日帰り出張が多くなったという事情がこれに加わる。

〇つまり地方都市では、外からやって来る人も減っているし、地元の人口もじょじょに減っていく。こういう状況で収益還元法を適用すると、地方都市の不動産はますます買えないということになる。以前であれば、「東京の地価が上がれば、その比較感で地方都市の地価も上がる」という傾向があった。ところが収益還元法が普及したために、「東京の地価が上がる一方で、地方都市の地価は下がる」という状況が現出した。さて、これは誰を責めたらいいのか。

〇小泉改革や規制緩和が悪いわけではない。全世界的な現象が、日本にも及んでいるだけである。安倍改造内閣にとって「地方活性化」は重要な課題となりますが、果たしてどんな手を打てばいいのか。おそらくは「人の移動」を増やすことが鍵だと思うのですが、それではどうやれば人の移動は増えるのか。正直なところ、かんべえの思考はここで止っています。


<9月4日>(火)

日経セミナー(前田証券後援)のパネリストで福岡市に来ております。三原淳雄さんとご一緒です。三原御大の毒気(げんき、と読む)にあてられて、今日は思わぬことまで口走ってしまったような気がします。なにしろ「金持ちイジメは国を滅ばす」でありますから。パネルディスカッションを終えた後は、勝手しったる福岡の街に出撃。気分はイケイケどんどんであります。

〇そういえば、連れて行っていただいた店では、この季節にふぐ料理を堪能いたしました。まこに旨かったです。


<9月5日>(水)

〇ホテルニューオータニ博多に投宿しております。今朝は三原御大のご友人である地元の経営者2人と朝食。諸般の情勢を伺う。

〇部屋に戻って、来週の「週刊SPA!」の原稿、電話取材。

〇地元福岡大学の教授とランチ。テーマは個人投資家と日本の株式市場の実態について。勝つコツは長くやること、というのが結論。

〇地元の大久保勉参議院議員と懇談。金融に関するオタク話で、喫茶店で2時間も盛り上がる。国政調査権の使い方やら、グレーゾーン金利の裏話やら、ディープな話が一杯。

〇北九州市へ移動。新幹線小倉駅前は、公営ギャンブルの多い街なるも、結構キレイでありますな。

緒方林太郎氏と初めて会う。ブログの印象ほど理屈っぽくなくて、実物は写真よりずっとやさ男である。外務省の話、地元の話、食糧自給の話など。「外務省を辞めたので、母が残念がっている」って、そりゃ当たり前だって。でも、頑張れ林太郎。

〇北九州では毎日新聞社の主催となり、今宵も三原先生と一緒にセミナー。

――2日間で話したネタは、「ザ・ペニンシュラ現象」「アジア向け輸出」「クリーニング屋のおばちゃんの変容」(福岡ではこの話がウケた)、「柏崎原発のファインプレー」、「総合電機はそれぞれの道を行く」、「i-podが1個売れると誰がいくら儲けるか」など。それ以外にも、「参院で民主党が手に入れた7つの武器」など、ここでまだ書いてないネタがいろいろできたなあ。

〇福岡市に戻って三原先生と一緒にラーメン。飛び込みで入った「博多だるま」は午後10時過ぎても賑わっていて、味も当たりでした。

〇明日朝の飛行機で帰る予定ですが、台風は明日夕に関東直撃とか。とりあえず帰れなくなる危険はなさそう。この人とは逆パターンですね。


<9月6日>(木)

〇博多から北九州で、ずっとお世話になったのが日経のTさんである。そのTさんから頂戴したのが『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)。モノが売れるとはどういうことか、について肩の凝らない話を満載した本。ワタクシ的にはツボでありましたな。書いた人の年代が近いせいか、使われているケースが古いものが多くて(例:ミラージュのエリマキトカゲなど)、若い人にはちょっと「???」かもしれません。

http://www.sankei.co.jp/books/honpro/070310/hpr070310002.htm 

〇一箇所だけご紹介。

昔、雄弁家のエスキネスが演説したとき、人々は「なんて話が上手いんだろう」と感心した。
続いてデモステネスが演説したとき、人々はこう叫んだ。
「フィリップ王を倒せ」

〇広告は消費者にモノを買わせるためにあるわけですから、エスキネスじゃダメなのであって、デモステネスを目指さなければならない。でも、デモステネスになっちゃうと、なまじ威力があるばかりに、自分の命が危うくなるかもしれないので、クリエイターとして細く長く生き残っていきたいのであれば、エスキネスの方が賢明かもしれない。考えさせられる話であります。

〇先日、「参謀とは何か」という某紙の取材を受けたときに、「かんべえさんと雪斎さんはどこが違うのですか?」と聞かれて、しどろもどろの答えをしたんですけど、こう言えば良かったですね。読者に、「あー、今日も面白かった」と言ってもらいたいのが溜池通信、「やはり〇〇はXXせねばならない」と思わせたいのが雪斎の随想録。要は言論人かそうでないかの違いということになります。


<9月7日>(金)

〇飲み会を素早く切り上げて、家に帰って巨人x阪神戦。阪神が見事に逆転して、「よしっ、これでJFK投入だ」と万歳したところで放送が終了してしまった。なんたることぞ。日本テレビの大馬鹿者め。いくら視聴率が下がったからといって、ここで放送を打ち切るとは何事ぞ。

〇そのとき配偶者、少しも慌てず、このサイトを教えてくれた。その上で「リアルタイム速報」をクリックする。すると見事に試合状況が再現されているではないか。おおお、これはありがたし。偉いぞ日刊スポーツ。

http://www.nikkansports.com/baseball/professional/score/pf-score.html 

〇ということで、しばしネットの画面に集中することにします。頑張れタイガース。


<9月9日>(日)

〇土曜日、年に2回の出張で、上海馬券王先生が来たもので中山競馬場。勝ったり負けたり。夜はいつもと趣向を変えて、クアトロ・スタジオーネ。鄙には稀なイタリアンのお店である。配偶者も併せて、3人でワイン3本。飲み過ぎ。でも阪神が勝ったからとりあえずオッケー。

〇馬券王先生の話によれば、サブプライム問題で市場が大荒れだったときに、ドル高人民元安が起きたのだという。これってなかなかに興味深い現象ではないだろうか。機関投資家が人民元資産を売ってドルに換える、いわゆるレパトリが行われたと考えれば、一応の辻褄は合うけれども、外国人による中国資産の売買はそんなに簡単ではないはず。むしろサブプライムを持っている中国の資産家が、こりゃいかんということで資産を海外に逃避させた、という方がありそうな気がする。真相は例によって藪の中なるも、覚えておいた方が良さそうな事象である。

〇サブプライム問題も含めて「米中融合」が起きていて、この問題でも日本は蚊帳の外、ということかもしれない。思えば、北朝鮮問題でも、台湾の国連加盟問題でも、日本の存在感はゼロに等しい。APECで安倍さんはどの程度頑張ったか知らないけれど、そういうことはマスコミ的にはほとんど関心をもたれていない。なおかつインド洋からも撤退だ、アメリカ様の言うことは聞かないぞ、という季節はずれのゴーリズムが国会で吹き荒れる。いいんですかね、そういうことで。

〇巨人阪神の第3戦は7回を終わったところで7対7。毎晩、こんなしんどい試合を良くやりますなあ。でも、きっと勝てると信じている私。原監督の自信のなさそうな顔を見ていると、茫洋とした岡監が名将に見えてしまうから不思議である。


<9月10日>(月)

〇今日、国会前を通過したら、大きな日の丸が2本翻っていた。あれ?もう敬老の日だっけ、と思ったが、それはまだ1週間先のことである。今日は臨時国会の召集日。そうだった、そうだった。

〇APECから帰って、施政方針演説を行った安倍首相。テロ特の延長、もしくは海上自衛隊によるインド洋上の給油活動に、政治生命を賭けるという発言を行っている。「首相を辞めない」ことであれだけ頑張った割りには、結構、確率の低い賭けをするものであるな、というのが率直な印象である。このタイミングでそれを言い出すと、国民の中には「なんだ、安倍さんを辞めさせるためには、テロ特をつぶせばいいのか」的な発想をする人もいるだろうから、逆効果になり兼ねない。それでも愚直に言い出すところが、安倍さん流か。

〇多少勘ぐった見方をすると、参院選直後にはとことん頑張るぞと張り切っていた安倍さんも、最近は憑き物が落ちたというか、妙に淡白に見えて仕方がない。なんとなれば、かつて「KY」(空気読め)と呼ばれた自前の政権も、組閣後の今では実質「AY」(麻生と与謝野)が仕切っている。「官邸崩壊」後の永田町では、「党政奉還」などという言葉もチラホラ。「麻生さんにお任せ」も悪くないと思うのですが、安倍カラーのない安倍政権がこのままズルズル続いていくとなると、首相としては嫌気がさすのかもしれない。

〇ところが、安倍さんが自分であれだけ頑張り通した後では、辞めたいと思っても辞める理由が見当たらない。もちろん「朝日新聞に言われたから辞める」などということがあっては沽券にかかわる。そういう意味では、現時点で「テロ特に命を賭ける」と言っておくのは、将来の行動の自由を確保する布石になり得るかもしれない。「首相は自分で辞めると言い出さない限り、辞める必要がない」というのは、まことにその通りなのですが、「いざ辞めると言い出すときには、本人が満足できるような理由が必要」なのです。

〇もちろんテロ特は延長が望ましい。ただし、何が何でも引いちゃいけないかといえば、海上自衛隊は幸いなことに船であるから、そこは一定の自由度がある。「国内政治事情に基づいて、いったんインド洋から引き上げますけど、半年後にまた出直してきますからゴメンネ」と言えばいい。(これが陸上自衛隊であると、そうはいかない)。そもそもインド洋での活動において、最初からずっと頑張り通している国はアメリカと日本程度であると聞く。ほかの国は、結構、手抜きをしているのだ。そもそもこれは同盟関係ではなく、Coalition of the Willingでやっている活動であるから、日本が「藤川の10連投」みたいに思いつめることもないのである。

〇あらためて考えてみると、テロ特延長以上に望ましいのは、恒久法を通して堂々と活動を継続することである。簡単な補助線を引いてみるならば、(1)日本は中東にエネルギーを依存しており、この地域は死活的に重要である。(2)ゆえに従来のテロ特、イラク特を包括するような範囲で域内の安定化に貢献する。(3)そこでは国会の事前承認や出口戦略の明記など、野党の言い分を取り入れる。(4)自衛隊の負担が過重にならないような配慮も入れる、という枠組みで考えてはどうか。野党が反対することは、結構、難しいと思いますぞ。

〇にもかかわらず、「国連の御墨付きがないとダメだ」と言ってくる人は、何が何でも政権をつぶそうとするテロリストみたいなものである。ああ、そうか、だからテロ特措法というのか、というギャグは、実はさる人の受け売りなのだけれど、小沢さん対策は難しいだろうなあ。


<9月11日>(火)

〇アメリカはあの日から6年、のPatriot dayがやってきました。

〇ギャンブラー・ブッシュは、例によって自らの政治的資産を「一点賭け」していました。それは増派によるイラク情勢の改善に賭けるという作戦である。実際のところ、ペトレイアス司令官を投入してから、イラク情勢はちょっとだけ好転した。この9月3日には、ブッシュ自身がアンバール州を電撃訪問して、「ほーら、こんなに安全になりましたよ」と身体を張ったパフォーマンスを展開して見せた。そして9月10日にはペトレイアス司令官による議会証言。これで政権への支持を取り戻そうと考えたわけである。

〇狙いは悪くなかった。一点突破、全面展開はいつものブッシュの手法である。そのためには、北朝鮮核疑惑などはスパッと手抜きした。(日本としては迷惑だけど)。9月を過ぎてしまうと、いよいよ次期大統領選が本格化して、ブッシュ大統領のレイムダック化が深刻化する。ゆえに勝負をかけるとしたら、これがギリギリのタイミングなのだ。

〇ところが、その直前になって、ブッシュの片腕カール・ローブがホワイトハウスを去り、ゴンザレス司法長官も辞任に至った。そして共和党内からも「イラクから撤退せよ」という声が聞こえ始めた。最後の勝負を見届けるまでもなく、観客はブッシュの周囲から消えてしまいつつある。ブッシュの元に残っているのは、これだけは去るわけにいかないチェイニー副大統領で、この人がブッシュの耳元で「どうせだからイランもやっちゃいましょう」となど囁いているらしい。くわばらくわばら。

〇ペトレイアス司令官はまことに信頼に足る人物であり、イラクでの仕事振りも高く評価されているらしいが、この人のことを"Betray us"司令官などと呼ぶ声も生じているとのこと。米国内の世論がこんな風に割れてしまっていては、何をやってもむなしいばかり。ブッシュにとって、乾坤一擲の勝負であったはずの議会報告が、あっけなくスルーされてしまいそうな雲行きに、なんだか寒々しい思いがいたしております。


<9月12日>(水)

〇いかなる偶然か今日のお昼、冨山和彦氏の『指一本の執念が勝負を決める』(ファーストプレス)を開き、P22のところで眼が止った。持っていたラインマーカーで、そこだけ線を引いた。

「・・・・・だから、本当の意味でのストレス耐性がすごく弱くなってしまった。それが、リーダーの最も重要な資質であるにも関わらずです。」

リーダーにとって、最も重要な資質はストレス耐性。はからずもその直後に、実例を示すニュースが飛び込んできた。

〇はっきり言って、こんな異常なタイミングで辞めるというからには、政策がどうだとか、スキャンダルが出るらしいとか、家庭内がどうのこうのといったことが理由なのではないのでしょう。参院選の大敗後も、安倍さんの続投への意欲は失われなかった。外遊から組閣までの間もファイティングポーズをとっていたし、意気軒昂としているように見えた。ところが遠藤農相のスキャンダルが噴出し、素早く更迭が決まったあたりから、心ここにあらずといった姿をテレビなどで見かけるようになった。あー、朝青龍みたいだなあ、という感じがした。

〇要するに心身症というか、プチうつというか、安倍さんがストレスに負けてしまったように見えた。それにしても、なぜタイミングが今日の午前だったのか。おそらく安倍さんは、今日の午後が来るのが嫌だったのではないか。それでは今日の午後に何が予定されていたかというと、「代表質問」であった。「施政方針演説」をやったのだから、代表質問は受けるのが当たり前である。が、安倍さんはそれを1日延ばしにし、今日もとうとうできなかった。そして質問をする相手は、与党幹事長である麻生太郎さんだった。

〇麻生さんは、安倍さんのよき相談相手だった。今からほぼ1年前の2006年9月17日、サンデープロジェクトで行われた自民党総裁選の3候補対決において、田原さんが歴史問題で執拗に安倍さんを追及する間に、麻生さんは何度も助け舟を出していた。この二人、考え方が似ているし、麻生さんは無条件で安倍さんが好きなみたいだし、安倍さんは麻生さんを頼りにしているように見えた。その後、安倍さんが「麻生幹事長」を模索したと聞いて、やっぱりね、という気がしたものだ。

〇その後も麻生さんの献身は続く。要所で官邸を訪れていた、という話は、今月の文芸春秋で「赤坂太郎」が書いている。(あれだけ麻生さんのことに詳しいというからには、やはり正体は歳川隆雄さんでありますな?) そして参院選当日には、「どんなに負けても、あなたは辞めなくていい」と進言した。森―青木―中川の思惑よりも、そっちの方が優先されて安倍続投の流れができた。仄聞するところによれば、「自分はベテランだからヒネている。変化球投手だ。ところが安倍さんは直球しか投げられない。それが魅力なのだ」と麻生さんは語っていたという。

〇そして改造内閣で幹事長ポストを射止めてからは、麻生さんは「ポスト安倍」を目指す布石を着々と打っていった。みずからが小派閥を率いる身であるから、総務会長は同じ小派閥の領袖、政調会長は無派閥という三役体制を組んだ。計算のできる与謝野さんを官房長官に推薦し、主要な派閥の長を閣内に閉じ込め、当面の敵となりそうな谷垣派はとことん人事で干し、さらには半分身内の鳩山邦夫を法務大臣に送り込むなど、安倍改造内閣はほとんど「プレ麻生政権」という顔ぶれとなった。トップを目指す政治家なんだから、これは責められるような話ではない。

〇ところが一昨日の不規則発言でも書いた通り、これが「AY内閣」(麻生―与謝野内閣)となり、「党政奉還」となってくると、安倍さんは内心穏やかでいられなくなったようだ。しかもプレ麻生内閣はすごい切れ味を発揮する。抜く手も見せずに遠藤農相をぶった切ったのが手始め。今までの安倍政権には、こういうダメージコントロールができなかった。閣僚に温情をかけては、仇になってきた。要は「任命責任」ではなく、「免職責任」が果たせなかった。ところがAYラインは「見切り千両」ができる。これで政権は一気に安定度が増した。

〇さらにAYラインは、政策でも鋭いところを見せる。懸案の「テロ特」について、「新法」構想を打ち出したのがそれだ。「国会の事後承認は不要」(町村外相)という点がミソでありまして、これを10月中旬に衆院で強行採決し、参院に送る。参院はこれを否決することなく、法案放置に処す。そこでテロ特は11月1日の期限切れを迎えるのですが、その直前に国会の会期を12月下旬まで延長すればいい。そうすれば憲法59条の「60日ルール」がキッチリ間に合うので、衆院で再可決が成立するのである。民主党が何を叫ぼうが、「事後承認は不要」なんだから手の打ちようがない。困るのはインド洋上のガソリンスタンド活動が中断することだが、そこは「音楽でもワンテンポ休んでまた音楽が続くということもあるので、それでも一曲だということです」(与謝野官房長官)。

〇AYラインが見せた、もうひとつ鋭い一手は平沼赳夫議員の復党である。これは別に改革の逆行でも何でもなくて、単に国民新党の足を止めるためであると見る。平沼さんが復党できるのなら、綿貫さんや亀井さんだって不思議はないよね。ということで、国民新党は民主党との統一会派を断る。実は民主党は参院の過半数を制したわけではなく、過半数の122議席にちょっと足りない115議席なのである。社民党5議席と国民新党4議席を足して、やっと過半数。で、国民新党の協力が得られないとなれば、共産党の7議席を借りなければならない。つまり左に引っ張られなければならなくなる。この差は大きい。

〇こんな風に、AYラインによるプロの技を見せ付けられ、内閣支持率がそこそこの線で動き始めたところを見て、安倍さんはすっかり落ち込んでしまったんじゃないだろうか。少なくともこれは、「私の内閣」ではない。私の意向はどこにも反映されていないではないか。「麻生に騙された」・・・・・安倍さんはそんな風に思ってしまったんじゃないだろうか。あまりにも性格が直球過ぎたために・・・・。

〇こんな風に考えていくと、今日の唐突な辞意表明の辻褄が合ってくる。まあ、当たっているかどうかは分かりません。しかしほんの1ヶ月前までは既定の路線だった「安倍続投→麻生へ禅譲」という路線は一気に危うくなった。だって麻生さんは、安倍続投をそそのかした張本人であるし、それがなければ7月30日から9月11日までの無駄な時間は省けたはずなのだ。

〇かといって、次の衆議院選挙までどんなに長くても2年未満、ひょっとすると年内にもやって来るかもしれないというこの時期に、「この人を先頭に立たせれば選挙を戦える」という人材が、党内にはほかに見当たらない。谷垣?福田?額賀?与謝野?・・・・まさか。まだしも河野太郎の方が面白いくらいである。来週の総裁選は、まったく見当がつかない戦いといえましょう。

〇それでは、この件が日本経済や外交にどういう意味を持つか・・・というのは疲れたから明日に延ばしますが、あとひとつだけ。昨年暮れのサンプロ忘年会の席上で、薬師寺「論座」編集長がこんなことを言っていたんです。

「政治記者のドタ勘で申し上げますが、2007年は永田町大荒れの1年になるでしょう」

〇畏れ入りましたああああ、と申し上げておきます。


<9月13日>(木)

〇本来ならば、今日、ここで書こうと思っていた内容を、「日経ネットPLUS+」に寄稿しました。現在、「安倍首相、辞任表明で緊急討論」をやっておりまして、そこに「使い捨て総理、日本のリーダーの危機」という小文を寄せております。

〇正直なところ、「日経ネットPLUS」は使い勝手はあまりよくないし、会員登録が面倒くさいし、まだまだ発展途上という感じですな。自分のサイトなりブログなりを持っている人が、わざわざ他流試合で新聞社のフォーラムに参加するというのも、われながら変な話です。まあ、気が向いた方は覗いてみてください。参加している顔ぶれはいいですし、ほかにも面白そうなテーマで議論が行われていますので。

〇さて、自民党内は、総裁選に向けての流れが急です。9月19日か25日かという2案があって、最後は23日で決めてきたあたりに、かすかな「知恵」を感じます。これで週末は2週連続で、自民党総裁選が報道番組をジャックできますからね。

〇目下のレース状況はこんな感じでしょうか。

麻生:阪神(目下首位。熱狂的ファンを有するが、疲れも見える)
谷垣:巨人(準備万端で先行するも、抑え投手に死角ありか)
福田:中日(地力は一番。まだ本気を出していない)
額賀:横浜(まずは参加することに意義がある)

〇現実のプロ野球以上の名勝負となれば、党再生への足がかりも見えてくるかもしれません。さて、9月23日の総裁選では、誰が笑うのでしょうか。


<9月14日>(金)

〇昨日あんなことを書いたら、さっそく今日になって久保田と藤川が打たれて中日に負けちゃったよ。やっぱり流れは福田さんなんでしょうか。でも、9回表の藤川対ウッズの勝負は見応えがありました。歩かせても良し、のシーンで勝負しちゃった藤川、もしくは岡監。これぞ野球、これぞ勝負というもの。まっすぐ勝負にしびれました。政治の世界でも、正々堂々のレースを期待したいです。

〇そんな中で、何を思ったか配偶者が替え歌を作ったようです。フルコーラスバージョンは、のちほど本人のHPで掲載される予定。


ASO(原曲:SOS/ピンクレディー)

政治は人数なのよ 気を付けなさい
領袖になったなら 慎みなさい
フフンと笑っていても 後押し受けて
福田さんが牙を剥く そういうものよ

幹事長になれば 禅譲来るなんて
うっかり信じたら
駄目駄目 駄目駄目 あー駄目駄目よ

ASO ASO ほらほら呼んでいるわ
今日は若手も批判 麻生のピンチ


●特措法ブルース(原曲:港町ブルース/森進一)

背のびして見る 海上を
今日は補給が 遠ざかる
民主が停めた 重油かえして
特措 延長できずに 期限切れ

流す議案に 割れる票
吼える小沢の 声がする
安倍の影を ひきずりながら
特措 新規内閣 新規法


〇かんべえは明日から台湾に行って来ます。第2回の日台次世代対話の詳細につきましては下記をご参照。しばし日本の政局とセ・リーグの行方を忘れたいと思います。では、行って来ます。

http://www.roc-taiwan.or.jp/news/week/07/070904d.htm 


<9月15日>(土)

〇中華航空は先日の沖縄の事故があったから、と思ったのかどうか、東京財団が用意してくれたフライトは日本アジア航空であった。もともとは日本航空が、「ウチは台湾には飛ばしてません」と中国にごまかすために、別会社化されているエアラインである。最近は「JAAで行きたいわん」というオセロのCMでお馴染みである。案の定、土曜日の朝便はそれこそオセロのような女性観光客で一杯であった。東京財団の一行は、午前10時成田発の飛行機に乗り、偏西風に逆らって3時間半の飛行で台湾に到着する。時差は1時間。

〇今回の宿泊場所は、台北市のちょっと山手にある春天酒店。到着するとほんのり硫黄の匂いがする。らくちんさんが、台湾にいた頃に泊まりに来たことがあるというから、当地ではかなり有名な温泉である(昨年に引き続き、らくちんさんもメンバーである)。今年はここで「日台次世代対話」を実施するのであるが、日台の会議というと、ほとんどが政治と安全保障をテーマにしたもので、参加者も高齢化していることが多い。そこで若手を中心に、もっといろんなテーマで議論しましょうというのがこの会の趣旨である。

〇今年のテーマは、「グローバル化する世界におけるローカルの価値」である。で、現地に到着するや否や始まったオープニングフォーラムで、いきなり炸裂したのが、国際日本文化研究センターの安田喜憲教授の基調報告であった。「花粉の化石の研究」から、東アジアでは約4200年前に大きな気候変動があったことが確認されている。またDNAの研究から、アジアにおいて漢民族とそれ以外の民族では、ミトコンドリアに含まれる「ハプログループM8a」の量がはっきりと違うのだそうだ。

〇安田教授の説によれば、今から4200年前の気候変動により、黄河文明の担い手である漢民族が大移動し、長江文明の担い手であった稲作漁労民をけちらしてしまった。追われた側は、それで日本や台湾、雲南省の少数民族として散らばった。漢民族が牧畜と麦を植え、龍を崇拝するのに対し、彼ら稲作漁労民は蛇を崇拝していた。彼らは太平洋に散らばり、ついにはイースター島やニュージーランド(マオリ族)にも至ったという。そして現在は、中国で「自然を破壊する文明」が隆盛しており、日本、台湾、中国少数民族など「自然と共存する文明」が劣勢にある。従って、ワシらは漢民族に負けてはならんという結論であった。

〇説明を聞いているうちに、「なるほど確かに4200年前に、どこかを追い出されたような不愉快な記憶があるな」、などと思えてくるから不思議である。が、果たして全面的に信用していいものかどうか。というか、「陸のアジア」と「海のアジア」の対立は、自然科学上の発見を援用しなくても、社会科学だけで充分に説明がつくと思うのだ。それでも安田教授の博識と雄弁があんまり面白くて、この議論に嵌りました。

〇他方、台湾側の基調報告は、台湾における仏教の発展軌跡であった。もともと台湾では、土着の道教と仏教が混在していたが、日本の台湾総督府は、植民地経営のために仏教を育てたのだという。女性の信者が多い、というのが台湾仏教のひとつの特色で、これは女性の地位が高いからだという説もあるけれども、本当のところは結婚に失敗した人が多く尼寺に行ったからであるらしい。

〇ともあれ、従来の日台対話では有り得ないような議論の応酬でありました。さっそくネットを更新したいところなるも、ホテルの部屋から海外ローミングがつながらず。昔ならこういうとき、何時間かけてもつなぐぞという根性があったのだが、どうせ世間は三連休だし、ということであっさりあきらめる。部屋についている風呂は、蛇口をひねれば温泉が出てくるので、なかなかに快適である。


<9月16日>(日)

〇今朝の台北タイムズを見ると、台湾では「国連加盟」をめぐる公民投票のやり方をめぐり、民進党系、国民党系で数十万人規模のデモが行われているらしい。人数は前者が圧倒的に多い。なんとなれば、民進党が求めているのは「台湾の名で国連に新規加盟する」ことの是非であり、国民党が求めているのは「中華民国などの名で国連に再加盟する」ことである。後者は何が言いたいのか分からない。というか、それじゃ今までと同じじゃん、ということになる。

〇つまりは、来年3月22日に行われる総統選挙を睨んでの政治的な思惑合戦であって、岡目八目的にいえば「またやってるわ」という感じなのである。今までと違う点は、アメリカが味方してくれないどころか、完全に中国側の片棒を担いでしまっているので、台湾人としては「もう拗ねちゃったぞモード」なのである。最近、とうとうアメリカは台湾における「好きな国第1位」の座を落っこちて、代わりに日本が第1位に浮上したという。

〇とまあ、そういう政治の動きは完全に外において、日台次世代対話は今日も「グローバルとローカル」の話を続ける。

〇午前の部、台湾側の発表は、台湾人の意識に日本のドラマが果たした影響、というテーマ。いきなり『野田妹』(のだめカンタービレ)や、『東京愛情故事』(東京ラブストーリー)などの例が飛び出すから、面白くてしょうがない。日本のマンガ、アニメ、ドラマなどが台湾で人気を博していることは、すでに先刻ご案内の通りだと思うけれども、このために台湾では若い世代が日本語を覚えるようになった。植民地時代の日本語教育世代はすでに70代に入っているが、再びこの国に日本語世代が誕生しつつある。なにせ漢字は読めるので、覚えるのが早いのだ。

〇対する日本側の発表は、台湾の原住民文化に対する人類学的研究、というこれまた他では聞けないような話であった。日本の人類学者は、明治の頃から台湾原住民に関する研究を行っており、日本の博物館には相当な資料の蓄積がある。が、これを台湾側から見れば、「なんで日本がそんなことをしているんだ」「原住民の貴重な資料を返せ」ということになる。これは世界的な現象であって、「ポスト・コロニアル」の議論というのだそうだ。そういえば大英博物館も、たしかロゼッタ・ストーンをエジプトに返還したのではなかったか。が、台湾でそれを言い始めると、「あんたらは故宮博物館をどうするの?」という議論も出てきそうである。

〇午後のパートは不肖かんべえ司会により、「地域の街づくり」がテーマである。これも議論が百出するところであって、経済成長の鈍化や格差社会、若年失業、少子高齢化などおなじみの問題は、ほとんどすべて台湾でも起きている。(のちほど書店で、三浦展『下流社会』の訳本が売られているのを目撃したくらいである)。特に地方都市の「街起こし」は、日台の共通テーマといえる。ただし双方の話を聞いていると、台湾側の事情は日本側ほど深刻ではなくて、まだ「政府の責任」を問うている段階であるようだ。日本の場合は、その後、リゾート法、三セク、テーマパークやらで失敗が相次ぎ、「もう政府は当てにならない」から、「カネのかからない努力をしている」のが現状である。

〇街起こしといえば、やはりでてくるのは「一村一品」や「地産地消」などのアイデアである。「NPOに期待する」という声もあった。もっとも、経済が第三次産業中心に変化している中では、人口の大都市集中が止るはずもなく、台湾もWTOに加盟したからには、「グローバル化の中で衰退する農村」という問題に直面せざるを得ない。この問題、とかく「貴重なXXを守れ」的な発想になるけれども、地域の周囲に砦を作るようなやり方が成功するはずがないと思う。大事なことは、「外に向かって開かれる」ことであって、人の移動ということが必要なのではないか。

〇ところが実際には、その地域で育った狭い範囲の人たちが、極めて排他的に「街起こし」に取り組んでいるのが現状でして、それじゃ成功するわけないと思うのですよね。日本の地方都市というのは、「どんな有名大学を出ていようが、地元のXX高校卒でないと発言力がない」みたいな不条理がいっぱいあるわけでありまして。他者をどうやって取り込むかというところがポイントだと思うのですよね。

〇一例を挙げますと、今回の会議では現地で「台湾一人観光局」の異名を取る青木由香さんが参加していた。世界数十カ国を訪ね歩いた結果、台湾が気にいってそのまま住み着き、台湾の文化紹介や観光案内の本を書いて当地の有名人になった、という元気のいい女性である。日本では『台湾ニイハオノート』が出版されておりますが、台湾人の性格や生活が巧みに描かれていて、「それ自体を読んでも面白い観光ガイド」となっている。お薦めです。

〇で、青木さんは若いうちに他所へ行って、他人に会ってみることによって、「自分が大好きな台湾」を発見した。世界にはまだまだ豊饒な多様性があると思うが、とにかく移動してみないことには、人間はそのことが分からないのである。だから人は移動すべきなのだ。そして「街起こし」をやりたい地域は、自分たちにとっての「青木さん」をいかに発見するかが勝負だと思う。

〇などと、延々と「グローバルとローカルの衝突」という問題を討議していたのだけれど、この問題は煎じ詰めれば「民族の文化」ということになるのでありましょう。それでは民族を規定する文化は何かといえば、@に言語、Aに歴史、そしてBに食、といったところであろう。それから考えると、日本人は「日本語、日本史、日本食」という非常に強いアイデンティティを有している。だから日本人である、ということに悩まなくていい。それだけ日本政府に期待しなくていい。その点、台湾側の事情はかなり複雑である。

〇言語に関しては、台湾はかつては日本語教育時代があり、その後の国民党時代に北京語が標準語となった。土着の台湾語が充分な市民権を得ていないという構造にある。台湾語は難しく、漢字だけでは完全な表記ができないという問題もあるらしい。ゆえに会議の席上などで台湾語で話すときは、「空気を読む」必要があるとのこと。ちなみに国民党の馬英九候補は、外省人だから台湾語が苦手なんだけれども、民進党の強い南部で「空気を読んで」台湾語で演説をしているらしい。

〇歴史については、最近になって台湾歴史教育に力を入れ始めたが、それにしたって「中国四千年の歴史」が消えるわけではない。台湾のオリジナルなものは何か、というと原住民文化ということになるが、その人口は1%程度である。そして台湾の「食」はこれぞ文化というべきものであるが、「それって中華料理の一種じゃないの?」といわれた場合に悩まなければならない。なにせ中国側は、「中国語、中国史、中華料理」というユニバーサルに通用する強力アイデンティティを有している。

〇それでもこの国において、「台湾アイデンティティ」はじょじょに高まっている。中国大陸との交流が増えることで、かえって中国人や中国文化に対する反発が強まるという傾向があるからだ。その一方で、「大陸花嫁」が毎年数万人ずつ増えており、その実数はやがて二大政党の支持バランスにも影響してくるかもしれない。いずれにせよ、この国で「中台統一」を支持する声はもはやほとんどなく、国民党さえもが「現状維持以上はやりません」と約束するような状態になっている。

〇ところで当地では、日本の安倍首相辞任に対する関心も結構高いのだが、「安倍さんを見たら、陳水扁はよく頑張るなあと思った」という声を聞いて軽いショックを受けた。実はこの8年間、陳水扁は盧武鉉なみに叩かれ続けてきたのだが、打たれ強く来年5月の任期切れを迎えそうである。そりゃあ台湾で長らく野党暮らしをしてきた人たちは、何度も命が危ない目にあっているだけに根性が座っている。陳水扁も、奥さんが白色テロで下半身不随にされている。逆に日本で、それと同じクラスの覚悟がある政治家がどれだけいるのか、という話である。

〇強い指導者を持たなくていいのは、幸せなのか不幸なのか。それにしても強い指導者を目指した人が、あんな辞め方をしてはならんでしょうね。この二日間で日本の政治がどう動いたかは知らないけれども、ひとつだけ確実なことがある。善行にご褒美がある保証はなく、悪行に報いがあるとも限らないけれども、愚行にはかならず仕返しがある。ゆえにこれからの日本政治は、「もっとも安倍さんが望んでいなかった方向」に動いていくでしょう。フフン。


<9月17日>(月)

〇台湾における最終日の今日は、国立台湾博物館を見学する。月曜定休のところを曲げて開館していただいているので、これはカツモクして見なければならない。案内役を買ってくださった楊南軍さんは、原住民史跡調査の研究者であり、25冊の本を出したノンフィクション作家であり、台湾の3000メートル級の山々をことごとく制覇したアルピニストでもある。「そもそもこの建物は、台湾総督の児玉源太郎と、民生長官であった後藤新平の功績を称える目的で作られたもので・・・」と、達者な日本語で館内を案内してくれる。

〇館内の展示は、台湾原住民に関するものが中心になっていて、ここもまた「台湾アイデンティティ」の努力を感じさせる。かんべえとしては、そんなことより昨年秋にニュージーランドで見たマオリ族との共通点の多さが面白くてしょうがない。きっと彼らは、数千年かけて太平洋の端から端まで海を越えて渡ったんじゃないのかと思う。これぞ「海のアジア」である。

〇その後、一行は台北市の古い街並みを残したレトロな「台湾故事館」(台湾ストーリーランド)に移動する。どう見ても、昭和30年代を再現した「台場一丁目商店街」のパクリではないかと思うのだが、ここはこれで国民党支配下で経済発展途上の台湾の風情を髣髴とさせる。古き良き時代の残像が再現されているのだが、「国防を忘れるな」とか、「経済発展のために郵便貯金に協力せよ」といった、説教臭い張り紙の多さに目を引かれる。つまり中国的なプロパガンダが、日本的なお節介さで描かれているのである。なるほど台湾人たちは、息苦しい時代を生き抜いてきたのだなと教えられる。

〇昼食の席上、案内をしてくれた楊南軍さんのお話が止まらなくなった。戦時中、楊さんは14歳のときに召集令状を受け取った。父親に連れられて、そのまま高雄に出頭する。その場で神風特攻隊を志願するも、16歳以上でないとダメだといわれて、海軍の工兵隊に配属された。日本に渡る船の中で、航空隊の少年たちは良い部屋を与えられ、楊さんたちは船底であった。そんな風にして、7000人の台湾人少年が日本に渡った。台湾に戻れたのはそのうち4000人。その中で大学にまで進学できたのは、楊さんとあと1人だけであったという。

〇神奈川県の工場で、食うや食わずで働く日々が続いた。それでも、飢えているのは日本人も同じだから、腹は立たなかった。海軍の二等工兵は、肩に梅の紋章がひとつだけ。それでも帝国海軍の一員である。人生の大事な時期を、そんな風に過ごしたけれども、その頃に鍛えられたお陰で今日がある、と楊さんは言う。(もちろん台湾では、日本政府に対して当時の補償を求めるべきだ、という声もある。念のため)

〇そして終戦。楊さんたちは一夜にして「戦勝国民」になったものの、誰も相手にしてくれるものはなく、しばらくは泥棒まがいのことをしながら飢えを凌いだ。16歳になって、ようやく着の身着のままで台湾に帰れる日がやって来た。旧帝国海軍の駆逐艦に乗って、少なくなった仲間とともに台湾に向かった。キールンの港が見えてきた。

〇港にはバナナ売りが立っていた。船の上から、「おーい、俺にも1本おくれよ」と声をかけると、「金は持ってるか?」。持っていた日本円を放り投げると、代わりにバナナが飛んできた。久しぶりの故郷の味を噛み締めていたところへ、楊さんは生涯、忘れられなくなる光景を見てしまう。港に立っていた中国兵がやってきて、バナナ売りを脅してバナナを奪い取ったのだ。ああ、故郷は昔のままならず・・・・。

〇楊さんは年をとってから、娘を授かった。今回の日台次世代対話で、ずっと事務方を務めてくれていたのがその女性で、来月にはやはり台湾原住民の男性と結婚し、古くからの習俗に従った式を挙げるのだそうだ。お父さんは泣いちゃうだろうね、きっと。それから夫婦揃って、ニュージーランドのオークランド大学に留学する予定だという。きっとマオリ族の研究をするのであろう。思えば太平洋も小さくなったものである。

〇そんなわけで、大混雑の成田空港をかき分けて帰ってまいりました。二泊三日の台湾旅行はこれでおしまい。明日からはまた日常に回帰いたします。


<9月18日>(火)

〇3日間にわたって、日台次世代対話についての報告を書いてきましたが、後はちょこっとした台湾情報です。

〇近頃、台北で流行るもの。なんと、とんかつ屋に「行列が出来ている」のだそうです。考えてみれば、豚肉が大好きな中国文化圏において、トンカツが受けるのは当たり前である。以前、台湾で見た東京観光案内で「ランチは和幸がお勧め」と書いてあったけど、和幸で満足してもらえるのなら、もっといいのがナンボでもありますぞ。ちなみに、今日のかんべえのお昼は赤坂の「松乃屋」でした。

〇台北の温泉街には「熱海温泉」など、日本風の名前をつけたものが多くあります。そしてこのたび、なんとあの「加賀屋」がオープンするのだそうです。台湾のお金持ちの中には、加賀屋が気に入って年に何度も通う人がいるのだそうで、あの能登地震の際にも宿泊客がいたのだとか。現地で聞いたところによれば、「そもそも加賀屋という名前がいい」(「賀」を「加える」)という事情もあるのだそうだ。ふーむ。

らくちんさんご推奨の「マンゴーかき氷」、一同で行きましたが、まことに美味でございました。ただしこのお店、露店が群れをなす雑踏の、あまりにも奥深くにあるために、地図を書いて説明するということができない。そのたびに自分で迷いながら、たどり着くのだそうです。と、いう話を聞くと、ますます行ってみたくなりませんか?

〇会議を通して、デジカメで写真をいちばんたくさん撮っていたのは、日本側顧問の吹浦忠正さんでありました。吹浦さんは後2日、滞在してから帰る予定ですが、おそらくその後のブログで、台湾の写真がいっぱい公開されるんじゃないかと思います。とくに料理の写真をアップしてもらえるとありがたいですね。


<9月19日>(水)

〇台湾で盛り上がってしまった後では、今さら燃えることができない自民党総裁選なんですけど、世間では「麻生クーデター説」なんかが盛り上がっているようですね。日経の清水記者もこんな風に書いています。

●安倍晋三の退陣「麻生クーデター説」の怪 http://www.nikkei.co.jp/neteye5/shimizu2/index.html 

〇かんべえは9月12日付けの当不規則発言で、「安倍、麻生間の行き違いが辞任の原因ではないか」という説を書きました。当日夜の時点で、すでに金融市場筋では「クーデター説」が流れておりましたな。でも、これはクーデターというよりは、心神喪失状態の安倍さんが勝手にくじけてしまったと見る方が自然だと思います。「安倍さんの様子がおかしい」「麻生に騙されたと言っているらしい」という話は、9月上旬の時点で聞き及んでおりましたし。

〇で、総裁選なんですが、阪神ファン、もとい閣下のファンとしては非常に残念なるも、とりあえずこの戦いは前回2006年の136票(議員69+地方67)を越えられるかどうかという戦いであるように思われます。もちろん逆転の眼がないとは言えませんが、いろんな意味で麻生さんには「原罪」がある。安倍政権をこんな形で終わらせてしまったのは、麻生さん自身としても不本意に思うところがあるでしょう。だとすれば、今回は「やっぱり麻生さんは人気があるなあ」と印象付けることが、今度の総裁選のテーマなんじゃないかと思うのです。

〇どの道、福田政権は1年以内に解散、もしくは総選挙に追い込まれるでしょうから、この戦いは負けて惜しいというほどでもない。仮に福田新総裁に、「麻生さん、そのまま幹事長やってくれ」(あるいは、もういっぺん外務大臣やってくれ)と言われても、笑って閣外に去るのが良策といえましょう。選挙の顔になれるほど、キャラの立った人はそんなにいませんし。

〇それにしても、ワシ的には「AY安倍政権」をもう少し見ていたかったな。安倍さんにもうちょっとストレス耐性があればよかったのに。


<9月20日>(木)

〇気がつけばあと3日で総裁選ですが、実は大きな問題がある。自民党が総裁選を行うときには、かならず「前総裁の挨拶」というセレモニーが行われる。当然ですよね。「後をよろしく頼む、ぐふっ」みたいなことを言って、さぁ、これから頑張るぞということになるのだけれど、1時間にも及ぶという投開票に安倍さんが肉体的に耐えられるか、そして前総裁のとっても痛そうな挨拶を聞かされる側が、果たして精神的に耐えられるかという問題が生じる。

〇そもそも今回の総裁選は、自民党としてはできればやりたくなかったところだし、あんまり意気の上がらない戦いである。しかも勝ちそうな人は、あんまり明るいタイプではなくて、勝って「万歳!」と言うべきところを、「フフン」と言ってしまいそうな人である。幸いなことに、負けそうな人がとっても明るいので、それで全体がかろうじて救われている。うーん、前総裁の挨拶、あんまり聞きたくないなあ・・・・。

〇やはりここは、前総裁は病室から「代理人投票」をしていただくのが、よろしいかと思います。震える手で投票用紙に直角三角形を書き、それを代理人に手渡して、ひとこと「騙された」・・・・なんて、ああ、あまりにも痛過ぎる。

〇やっぱりこの戦いは燃えるものがありません。かんべえは明日は、確実に燃えられる「神宮球場、ヤクルト―阪神戦」に参戦してきます。


<9月21日>(金)

〇と、昨日あんなことを書いて、勢い込んで神宮球場に立ち向かったのでありますが、すべては先発、安藤の誤算でぶち壊しでありました。おっかしいなあ、副会長改め「純正野球ファン」さんは、「安藤いいですよ」と言ってくれたのに・・・・。今日は抑えの福原も失点しましたし、この調子では、阪神はクライマックスシリーズの初戦は下柳だとして、2戦目には誰を出すのでしょう。まったく、なんという先発陣なのか。

〇打線の方もサッパリでありました。だいたい阪神のスターティングメンバーには、3割打者が一人もいない。ヤクルトには4人もいる。なんで阪神が首位でヤクルトが最下位なのか、理解に苦しむ。そもそも阪神は、勝つときはいつも1点差で、負けるときは今日のように8対1みたいに大差である。これがサッカーのように、得失点差がモノをいうシステムであったら、どういうことになっていただろうか。阪神は実は強くないのだ、ということを教えていただいたような試合でありました。

〇関本の一発以外、ほとんど見るべきもののない試合でありましたが、そんななかで三塁側を埋め尽くす阪神ファン(ほとんど東京甲子園球場でありますな)が、歓声を上げたのはウィリアムズと藤川の投球練習でした。ま、ほとんどファンサービスで、単なるキャッチボールに過ぎないのですが、阪神の強さはJFKに尽きますので、「ナマ藤川を見たぞ」で喜んでしまうのでありました。でも藤川よ、今日みたいな試合の日は、さっさとシャワーを浴びて、ホテルに帰っちゃっていいからね。

〇あとは7回の攻撃前の風船攻撃は、あれはキレイなものでありますな。実に色とりどりで、ほとんど夢心地でありました。阪神ファンとは、まことに愚かなものであります。頓首。


<9月23日>(日)

〇麻生さんは197票でしたか。いつものことですが、自民党総裁選は実に含蓄のある数字が出ます。麻生さん個人としては、2006年総裁選でとった136票が最低限の目標で、それ以下だと、政治生命の危機。200票に届くようなら、これは無視できない勢力となる。それに3票足らない、ということは、「太郎、よく頑張った」と言えるけれども、おお威張りできるほどでもない。福田陣営が票を回したんじゃないか、てな声が出ても不思議はない。攻防どちらにも使える数字といえましょうか。

〇今回の総裁選では、たむたむさんや、このページなどを見る限り、麻生人気は相当なものであったようです。全国各地、どこでも動員をかけることができる。でも、集まっている人たちは、あんまり自民党員ではなさそうな人たちです。阪神ファンのような、贔屓の引き倒し的な印象もちょっと・・・。しかし自民党としては、1年以内に確実に到来しそうな解散・総選挙において、この人気を使わない手はないでしょう。

〇無効票が1票あったそうですが、それはどんなものだったのでしょう。どうも不在者投票をされた前総裁の票ではないかと思うのですが、どんなことが書いてあったのでしょうか。以下のうちから正しいと思うものを選べ(5点)。


(1)後は任せた

(2)凾ノだまされた

(3)安倍晋三2.0

(4)ぐふっ。


〇同じく本日の午後3時台には、神戸新聞杯(GU)をやっておりました。来ましたね、ドリームジャーニーが。あの小さな馬体は、父ステイゴールドを髣髴とさせるものがありました。「強い」という感じはないのに、いつの間にか先頭集団についている。父と同じように、細く長く走ってほしいものです。とりあえずは菊花賞ですな。

〇とまあ、サラブレッドの親子はいいですが、総理大臣の親子というのはちょっと・・・。まあ、福田さんの組閣に注目したいところです。


<9月24日>(月)

〇台湾に行っていた先週とはうって変わって、今週はトホホな連休である。

(1)日本貿易会の報告書の直し

(2)来月の日中韓国際会議の準備

(3)次回の経済羅針盤の原稿

(4)次回のQuickのエコノミストレポート

(5)10月3日の某研究会の資料作り(構造改革論)

(6)10月9日の某研究会の資料作り(台湾総統選)

〇特に問題は(2)なのである。「ソウルに行ける」という罠に飛びついてしまったが、世の中、フリーランチはないのである。えらいことを引き受けてしまった、と思ってももう遅い。ということで、かんべえに仕事を頼んでいる人は、なるべく期待を抱かないように。

〇さくらさんから教えてもらったんだけど、自民党内では「フフン語」が流行しているのだそうだ。さっそく真似して使わせていただこう。

> クライアント「原稿の進み具合はどうですか」
> 解答例:
> 「淡々と、一生懸命やってます」
> 「まあ、今すぐ出せるならそれが一番いいですよ。
> いいですけどね、しかしあえて申し上げますと、時間がかかる原稿というものもある」

〇それにしても、「党四役」が全員60代ですか。総裁とあわせて、5人の平均年齢が67.4歳(福田総裁71歳、伊吹幹事長69歳、二階総務会長68歳、谷垣政調会長62歳、古賀選挙対策委員長67歳)って、「戦後は遠くなりにけり」って感じですなぁ。で、時計の針を戻してしまった戦後生まれの前総裁は、間もなく記者会見だそうだ。痛い・・・・。


<9月25日>(火)

「まだ優勝の可能性残ってるんでしょ。
せいぜい頑張っていただきたい、フフン」

「黙りなさい、お宅はクライマックスシリーズには
出られるんだから」


〇上記は阪神の6連敗に対する「フフン」語のコメントです。ちっ、そんな言葉じゃオイラはちっとも癒されはしないぜ、ヘヘン。

〇今日の午後、テレビ東京『クロージングベル』で、槇 徳子さんを相手に「福田新内閣」についてお話ししました。終わってから、控え室に戻ったところに、ちょうど夕方の番組に登場予定の「脱力」さんが来てた。そこで早速、「今夜の組閣はどうなりますかねえ」。F政治部長以下のテレ東スタッフも加わって、あーでもない、こーでもないと打ち合わせ。

〇この内閣をどう呼ぶか、という質問に対し、「脱力」さんの選択は「森の木”影”」内閣でした。キングメーカー森さんと、「どうせ影ですから」(フフン)発言をかけているわけ。福田さんにはお友達が少ないので、組閣には清和会の協力が欠かせないのだそうです。

〇かんべえとしては、「嫌味トリオ内閣」はいかがでしょうか。つまり、首相の嫌味は、癒し系で笑いが取れる。官房長官の嫌味は、寸鉄人を刺す。そして幹事長の嫌味は、京都風なので言われた人が気づかない・・・・。

〇伊吹幹事長というと思い出すのは、以前に産経新聞の座談会にご登場いただいたときのこの一言です。

「自己抑制なき人に使われる『見えざる手』ほど醜悪なものはない」

〇かんべえのように、『国富論』の原典を読んでいない者には、こういうセリフは逆立ちしても出てきません。良くも悪くも、日本政治は脱「劇場型」に向かっているようです。

〇では、それはイコール古い自民党に戻ることか、というとそうとは限らないと思います。「迷ったときは基本に帰る」のは、一概に悪いことではありません。行き詰まった自民党が、派閥の力を頼るのは無理のないところでしょう。とはいえ、本当に派閥の力が健在であるならば、麻生さんが197票も取れたはずがない。やはりシステムは変わってしまっているのです。ゆえに手法は少しだけ昔に戻すけれども、目指す方向まで変えるわけには行かない。

〇ちょうど最近の日本企業が、「リストラだ、成果主義だ」に疲れた挙句、ちょっとずつ人事制度が昔に戻りつつあるのと似ている。その方がホッとするからいいのだけれど、仕事の中身まで昔に戻すことはできない。それと似ていると思います。

〇ふと気づいてみれば、福田さんは官房長官時代に、「小泉=竹中ライン」による経済財政諮問会議や、「9・11」からイラク戦争に至る官邸外交の時代を熟知している人でもある。つまり「官邸主導型」を続けることでしょう。「改革が後戻りする」ことは、現時点ではそれほど心配する必要はないのではないかと思います。


<9月26日>(水)

〇「森の木”影”」内閣、でふと気づいたのですが、今回の政権交代は2000年4月の森内閣誕生の経緯と妙に重なるのですね。


(1)前任者が突然、機能不全になった。(小渕さんは脳梗塞で倒れ、安倍さんは精神的に参ってしまった)

(2)前任者に引導を渡したのは小沢一郎だった。(小渕さんに連立離脱の三行半を突きつけ、安倍さんにテロ特延長を拒否した)

(3)次の人は、あまりリスクを冒すことなく首相の座を射止めた。(森首相は密室の協議で決まり、福田首相の総裁選は楽勝だった)

(4)前政権の側近は悪者になった。(青木官房長官は「小渕首相の病状について食言した」、麻生幹事長は「安倍首相の辞意を知ってて黙っていた」、という批判が出た)

(5)組閣の余裕がなかったので「居抜き内閣」になった。(いずれも国会会期中のハプニングであり、ほとんどの閣僚が留任した)。

(6)解散・総選挙の時期が近い。(当時は2000年10月19日が任期満了。現在は2009年9月まで)

(7)間もなく国内でのG8サミット開催を控えている。(2000年7月21―23日が沖縄サミット、2008年7月7日―9日が洞爺湖サミット)


〇せっかくですから、8年前の政治日程を下に掲載しておきましょう。思い出しましたが、あの年は5月下旬に天皇陛下の訪欧があり、この間に政争はできない、という理屈で解散が先に延びたのですね。来年、当時のパターンが再現されるとすれば、来年度予算&予算関連法案を成立させた後、5月の大型連休に首相が外遊した直後に解散し、そのまま総選挙という線が濃厚であるように思われます。その場合、「骨太方針」がどうなるのか、てなことも今から気になったりして。

●2000年の政治日程

4月1日 小沢自由党党首が小渕首相に連立離脱を通告。
4月2日 小渕首相が脳梗塞で倒れて入院。
      その夜のうちに、自民党幹部5人(青木官房長官、森幹事長、野中幹事長代理、亀井政調会長、村上参議院会長)が森後継を決定。
4月5日 森内閣発足。

4月中旬  予算関連法案の成立(預金保険法改正など)
4月22日  太平洋・島サミット(宮崎)
4月28日〜 森首相ロシア訪問
5月 3日〜7日 大型連休

5月20日〜6月1日 天皇訪欧(この間は国事行為ができない)

6月 2日  解散
6月 8日  小渕前首相の葬儀
6月13日 選挙公示
6月17日 通常国会会期末
6月25日 総選挙
7月 4日 特別国会召集→首班指名選挙
7月 8日 G8サミット財務相会合(福岡)
7月12〜13日  G8サミット外相会合(宮崎)
7月21日〜23日 G8サミット首脳会合(沖縄)

〇こうして振り返ってみると、日本政治というのは進歩がないですな。しかも7年前とかなりの部分で役者が重なっている。同じ場所をぐるぐる回っているような気がします。でもまあ、現職の首相がある日突然、倒れてしまうのですから、これが普通の国なら大混乱になっても不思議はありません。それがスムーズに次期政権にバトンタッチができるというのは、やはり「自民党の知恵」なんでしょうかね。


<9月27日>(木)

〇福井日銀総裁の講演を聞いたので、気になったところのメモ。まあ、そのうちどこかに正確な記録が出るでしょうけど。

●日本経済は前向きの好循環が続いている。内需と外需のバランスが良い。設備投資のマイナスは一時的。個人消費は派手さはないが、底堅い。ただし景況感には脆弱性がある。企業から家計へというメカニズムにエンジンブレーキが利いている。

●世界経済は連続5%成長で、米国以外はいい状況が続くだろう。米国の住宅市場は、高騰から下落へ。「資産効果は、地価が下落するときの逆資産効果の方が大きい」というのが日本の経験。リセッションにはならないまでも、成長率は2%台に減速しよう。

●サブプライム・ローン、カードローン、企業の売掛金など、いろんな貸し出し債権をSPCに集めて、リ・パッケージするという証券化が行われてきた。しかし金繰りが止ると、元の銀行が流動性を供給しなければならない。銀行にとっては予定外の資金需要となり、コール市場が動揺する。この間の評価が甘かった。

●昨年5〜6月と今年2〜3月に世界同時株安があった。あれはリハーサルで、今回が本番。痛みを伴うプロセスがあるだろう。現在は厳正なリ・プライシングの過程にある。これを進めていくと、銀行のバランスシートがどれだけ痛むか、まだ分からない。

●日本の場合は、幸いCDOに深入りしているところは少ない。量的緩和を長く続けたことで、市場は死んでおらず、金利機能は生き返った。8月はテストケース。今後も日銀の方針に変わりはない。

〇総じて「日本単体はいいけれども、世界経済と金融資本市場を考慮しなければならない」というトーン。サブプライム等の事態については、思ったよりも慎重に見ているのだな、という点が印象に残りました。


<9月28日>(金)

〇今週耳にして、妙に感心してしまった話をメモ。

●今月、日比谷にオープンしたザ・ペニンシュラ東京を見物に行った人から。

「変に年が離れた、怪しげなカップルが多かった。ありゃ不倫ばかりだね」

――富裕層にお金を使わせる近道は、やはり色恋沙汰であると見つけたり。

●英国法人の東京代表を務める人から。

「今の東京じゃオフィスを探すといい場所は坪7万円もするんです。それで恐るおそる移転予定地の価格を本社に申請したら、『安いね。そんなもんでいいの?』ですって。改装費予算1億円も一発OKでした」

――このポンド高、円安は尋常なものではありませんな。「ロンドンの地下鉄初乗り料金が1000円」と聞くと、当方は眼が点になりますが、先方が東京の物価を聞くと感動的に安く感じるのでしょう。

●ソウルからハノイまで、深夜に飛行機で飛んだ人から。

「上空から見ると、上海から広州まで、明かりが煌々とついていて途切れなかった。あの国も変わりましたね」

――恐るべし。

〇もっと他にもいっぱいあったはずなのだが、あんまり思い出せないものですね。ではまた。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki