●かんべえの不規則発言



2021年10月





<10月1日>(金)

○「岸田次期首相は、麻生副総理・財務相の首を取れるのか?」は、一部で注目を集めておりましたが、ちゃんと閣下のご納得をいただいたようです。

○ただしそのためには、@後任は俺に決めさせろ、鈴木俊一で頼むわ、Aそういやあ、幹事長は甘利さんだったわな、すまんな、Bで、俺のことは副総裁にしてくれるわけ?という大盤振る舞いでした。でも、この人が河野太郎さんを推していたら、結果がどうなっていたかわからんわけですから、ここまで礼を尽くすのもやむを得ないところでしょうかね。

○その一方で、次の財務相はたいへんです。再来週の15日からは、ワシントンでG20財務相・中央銀行会議とか、世銀IMF総会などがありますので、今ごろは慌てて準備を始めていることでしょう。

○自民党総裁選のその日には、「さいとう・たかをさんがすい臓がんで死亡、84歳」という報がありました。閣下がこよなく愛された『ゴルゴ13』の著者は、なんと9月24日に亡くなられていたのですね。連載は続けられるそうですが、そのうち「反原発派の総裁候補を消してくれ、と原子力業界から依頼されるゴルゴ」みたいなネタがあるかもしれません。

○おそらくは閣下としても、総裁選の日に報道に接して、何か感じるところがあったのかもしれません。次の選挙はまだ出るけれども、次の次は息子さんの番でしょうな。そういえば2Fさんはどうなんでしょ。今は「死んだふり」なのかもしれませんぞ。

○そういえば、わざわざこの日に併せたと言えば、「嵐」メンバーのダブル結婚もそうでしょうな。翌日のワイドショーのネタが固まっている日の前日を狙って発表するとは、マスコミ対応の上級者というべきでしょう。


<10月2日>(土)

○書店に立ち寄ったら、新刊コーナーに『空母いぶき Great Game』の5巻が出ていた。せっかくだから買おうと思ったが、うちにあるのは3巻までである。書店の店員に「4巻はどこにあるの?」と聞いたら、「ありません」と言われる。「お取り寄せになりますけど、いかがされますか?」

○一瞬、店員の目の前でアマゾンで発注してやろうかと思ったが、そういう嫌味が通じそうにない純朴そうな若い人だったので、やめておきました。しかし、こんなことしていると書店はどんどんつぶれるぞ。そんなことでいいのか、君たちは。

○どうでもいいことだが、ワシはこのシリーズに登場する柳沢律子首相のファンである。日本初の女性首相は、是非、こんな人だったらいいなあ、と思う。高市早苗さんや野田聖子さんでは、ちょっと困るかなあ。

○この柳沢首相、見かけが政策研究大学院大学の岩間陽子先生に妙に似ている。そういえば、ドイツの総選挙の結果分析などもじっくりお聞きしたいところである。「メルケルはねえ、あの人はもうダメっ!」みたいな声が聞こえてくるような。


<10月3日>(日)

○岸田内閣の組閣が進行中のようです。いろんな人の浮き沈みを見ているうちに、30年前のことを思い浮かべました。あのとき、ワシはワシントンDCにおったんだよな。でもって、こんな人たちと遊んでおったわけだ。今から考えると恐ろしい話である。


●林芳正さん:当時はウィリアム・ロス上院議員(デラウェア州選出・共和党)事務所に勤めていた。今も日米関係に資する活動を続けるマンスフィールド財団は、この時の林さんの立法作業によるものである。その後、ハーバード大ケネディスクールを卒業し、1995年に参議院議員に当選。以後、5回の当選と4つの大臣職を経て、とうとう総理を目指して今夏、衆院鞍替え出馬を決意。その覚悟は同じ宏池会の岸田文雄氏の背中を押して、今回の総裁選出馬に至る。

→30年ぶりに宏池会出身の総理が誕生したが、林さんは既に参議院議員を辞職した立場。まずは来たる総選挙、山口3区で勝つことが至上命題であります。


●斎藤健さん:通産省からSAIS大学院に留学中。帰国後は、2009年に衆議院議員に当選。農水相として農業改革に携わる。小泉進次郎氏が農業改革をやったとされているのは、斎藤さんが農林部会長をやった後の話ですので、話半分に聞いておいた方がいいです。

→今回は同期当選の進次郎氏とともに河野太郎氏を支持。あいにく時に利あらず。でも、実力は誰もが知るところ。今回の組閣でも名前が上がったとか?


●福田達夫さん:三菱商事からSAIS大学院に留学中。帰国後は商社の調査畑内でのおつきあいに。三菱商事を退社後は福田康夫内閣の総理秘書官を経て、2012年に衆議院議員に初当選。当選3回。

→今回は若手議員を集めて「党風一新の会」を立ち上げたことで注目度は赤丸急上昇。なんと岸田内閣の下で自民党総務会長に就任。今回の目玉人事ですな。


●西村康稔さん:通産省からメリーランド大学院に留学中。帰国後は石川県商工課長などを経て、2003年に衆議院議員初当選。2009年には自民党総裁選に出馬。2017年からは経済財政担当大臣。20年からはコロナ対策担当も兼務。最近は無茶苦茶忙しかったことと拝察します。

→今回は高市早苗氏の推薦人代表に。大臣はこれで一休みのようですが、コロナ担当は世間の注目を集める一方で、多くの人の恨みも買う仕事。あんまり長く勤めないほうが良かったのではないかと思いますぞ。


○ちなみに、いちばんよく遊んでいたのは大谷信盛氏(のちに民主党衆議院議員)と小林温氏(のちに自民党参議院議員)でありました。あの頃のワシントンの日本人サークルはつくづくすごかったんだなあ。往時を知る誰かと昔話をしながら、しみじみ飲み明かしたい気分であります。


<10月4日>(月)

○いやー、驚きました。10月14日解散(大安)は読み通りでしたが、10月31日が総選挙ですと。

○法律上は「解散から40日以内に総選挙を実施する」ことになっていて、本当に40日後だった例もある(2009年)。ところが今年の場合、解散から総選挙までが17日となる。これまでの歴史上で最短です。選挙の準備って、いろいろありますから、間に合うんですかねえ?

○いや、「人の話を聞く」岸田首相は、日程の決定では結構な蛮勇を振るう人だ、ということに感心したところです。閣僚人事では派閥の意見を聴き過ぎた感がありますけど、とにかく前例のない決定ができるというのは良いことです。

○解散が大安で公示と総選挙はいずれも仏滅、となると、これは2000年森内閣の「神の国解散」と同じパターンになりますね。あのときは、森内閣があまりにも不評だったので、自民党が議席を減らしたけれども、なんとか安定多数をキープした。今回もそんな感じですかねえ。



解散日 備考 六曜 内閣 命名 総選挙公布日 六曜 総選挙期日 六曜
1948年12月23日 *内閣不信任 先負 第2次吉田内閣 なれあい解散 12月27日(+4) 先勝 1月23日(+31) 赤口
1952年8月28日   友引 第3次吉田内閣 抜き打ち解散 9月5日(+8) 仏滅 10月1日(+34) 友引
1953年3月14日 *内閣不信任 大安 第4次吉田内閣 バカヤロー解散 3月24日(+10) 大安 4月19日(+36) 友引
1955年1月24日   先勝 第1次鳩山内閣 天の声解散 2月1日(+8) 先負 2月27日(+34) 赤口
1958年4月25日   先負 第1次岸内閣 話し合い解散 5月1日(+6) 先負 5月22日(+27) 先勝
1960年10月24日   先勝 第1次池田内閣 安保解散 10月30日(+6) 先勝 11月20日(+27) 大安
1963年10月23日   先負 第2次池田内閣 ムード解散 10月31日(+8) 大安 11月21日(+29) 先負
1966年12月27日   友引 第1次佐藤内閣 黒い霧解散 1月8日(+12) 友引 1月29日(+33) 赤口
1969年12月2日   友引 第2次佐藤内閣 沖縄解散 12月7日(+5) 先勝 12月27日(+25) 大安
1972年11月13日   大安 第1次田中内閣 日中解散 11月20日(+7) 赤口 12月10日(+27) 先負
1976年11月5日 *任期満了 先負 三木内閣 ロッキード解散 11月15日(+10) 友引 12月5日(+30) 大安
1979年9月7日   仏滅 第1次大平内閣 増税解散 9月17日(+10) 友引 10月7日(+30) 赤口
1980年5月19日 *不信任W選挙 先負 第2次大平内閣 ハプニング解散 6月2日(+14) 大安 6月22日(+34) 友引
1983年11月28日   先負 第1次中曽根内閣 田中判決解散 12月3日(+5) 友引 12月18日(+20) 先勝
1986年6月2日 *ダブル選挙 仏滅 第2次中曽根内閣 死んだふり解散 6月21日(+19) 先勝 7月6日(+34) 仏滅
1990年1月24日   先負 第1次海部内閣 消費税解散 2月3日(+10) 友引 2月18日(+25) 大安
1993年6月18日 *内閣不信任 友引 宮澤内閣 政治改革解散 7月4日(+16) 先勝 7月18日(+30) 先負
1996年9月27日 *小選挙区制 仏滅 橋本内閣 政策論争解散 10月8日(+11) 先負 10月20日(+23) 大安
2000年6月2日   大安 森内閣 神の国解散 6月13日(+11) 仏滅 6月25日(+23 仏滅
2003年10月10日   大安 第1次小泉内閣 マニフェスト解散 10月28日(+18) 先勝 11月9日(+30) 先勝
2005年8月8日   仏滅 第2次小泉内閣 郵政解散 8月30日(+22) 友引 9月11日(+34) 先負
2009年7月21日   先負 麻生内閣 政権選択解散 8月18日(+28) 先負 8月30日(+40) 大安
2012年11月16日   赤口 野田内閣 近いうち解散 12月4日(+18) 赤口 12月16日(+30) 友引
2014年11月21日   先勝 第2次安倍内閣 アベノミクス解散 12月2日(+11) 友引 12月14日(+23) 友引
2017年9月28日 *0増6減 仏滅 第3次安内閣 国難突破解散 10月10日(+18日) 仏滅 10月22日(+30日) 大安
2021年10月14日   大安 第1次岸田内閣 ?? 10月19日(+5) 仏滅 10月31日(+17) 仏滅



<10月5日>(火)

○『3月のライオン』の最新刊が出ていたので思わず買ってしまった。これが16巻目である。

○連載が中止していた期間があり、しかも物語がなかなか前に進まないこともあって、ここに描かれている将棋界はあまりにも古色蒼然としているように思える。将棋連盟会長は今も元気な昭和のオヤジで、これはどう見ても米長邦雄永世棋聖がモデルである。強過ぎる宗谷名人は、もちろん羽生さんがモデルである。しかるにヨネさんは既に亡く、羽生さんも今や衰えを見せている。そして何より、5年前くらいから「AIの方がプロ棋士よりも強い」という哀しい事実が知れ渡るようになってしまった。

○そういえばこの漫画が始まったのは10年以上前のことであった。その頃の将棋界を元に描かれているので、棋士は孤独な存在であって、正解のない世界で最善手を求める勝負師として描かれている。しかるに今では「AIの評価値」という尺度ができていて、「棋士が最善手をソフトに教えてもらう」とんでもない時代になっている。今や将棋研究とは、暗記力の勝負になっているのだそうだ。いや、これは恥ずかしくて漫画には描けませんわなあ。

○そして何より、今の将棋界は藤井聡太三冠の独壇場となっている。本来であれば、『3月のライオン』の主人公、桐山零くんがその地位を占めるべきなのであろうが、何しろ藤井三冠の強さが常軌を逸しているので、それをフィクションとして上書きしようとすると、読者からは「こんな想定はあり得ない」と変な反発を受けてしまうだろう。いやはや、現実がフィクションをはるかに超えてしまっているのである。

○ひとつだけ良かったのは、「うつ病九段」になっていた先崎学さんが復活していて、コラムを寄稿していることである。うーむ、やっぱり、これがあってこその『3月のライオン』だよね。というか、世の中でうつ病に苦しんでいる少なからぬ人たちにとって、先崎九段のケースは福音といっていいでしょう。

○と、ここで話はガラリと変わるのだが、ジェームズ・ボンド「007シリーズ」の最新作"No Time to Die"の上映が始まっているようだ。少し前に、アマプラで同シリーズの最初の3部作を見てみたのだが、なにしろワシが生まれた頃の作品だけあって、今見るとかなりひどいのである。


第1作:『ドクター・ノー』→登場する黒人はすべからく使用人、もしくはギャングである。登場人物はひっきりなしにタバコを吸う。いや、1960年代のアメリカは実際にそうだったのだけど、今見るとやっぱりギョッとする。

第2作:『ロシアより愛をこめて』→昔、見たときには「なんという名作!」と感動したのだが、今見ると前半にロマ族(ジプシー)の差別ネタが入っている。テレビ放映するとしたら、この部分はバッサリ落とした方がいいだろうね。

第3作:『ゴールドフィンガー』→日系人ハロルド・坂田演じる悪役の怪人オッドジョブは、東洋系に対するステロタイプの典型というべきで、これも今なら一発アウトであろう。いや〜1960年代は野蛮な時代だったのである。


○ということで、半世紀もたつと「あの時期はこんなことをやっていたのか!」がわからなくなってしまうのである。将棋界はほんの10年でガラリと変わってしまったが、世の中全体も半世紀前のことになると、現代人の想像を絶するようなところがある。まあ、それはそれとして、第4作の『サンダーボール作戦』も見てみようかなあ。


<10月6日>(水)

○成人病検診を受ける。最近、ちょっと腹筋運動をさぼりがちだったら、昨年よりも腹囲が2センチ増えていた。かくてはならじ。体重と体脂肪率は増えてないんですけどねえ。

○視力検査はなぜか前年比で改善。いや、遠くは見えているんですけど、近くが見えんのです。最近はとにかく細かい字が辛いです。どうしても読書量が減りますねえ。

○血圧も改善著しいものがあります。これは薬の効果でありますので、手放しで喜べるようなことではありませぬ。とりあえず薬が効く、というのはめでたいことです。

○この2年くらいは風邪ひとつひいておりませぬ。酒量はやや増え気がします。家の中で飲んでいると、ついつい歯止めがきかなくなりますので。

○それにしても昨年の成人病検診から、あっという間に1年が過ぎてしまったという感が否めない。これは年のせいだろうか、それともコロナのせいもあるのだろうか?


<10月7〜8日>(木〜金)

○内外情勢調査会の講師の仕事で函館市へ。いやあ、久しぶりの出張です。

○7日の夕方に全日空便にて函館入り。羽田空港でマイレージを記録しようと思ったら、なんと持ってきたのはJALカードであった。いくら久しぶりだからと言って、われながらなんというお間抜けな。ややあって、番号を入力すればマイレージが記録できることが判明。やれやれであります。

○現地入りすると雨である。マジで寒いのである。それでもホテルにチェックインして、時事通信の支局長さんから現地の情勢を伺う。いやはや、こういうのが楽しいのでありますよ。函館市の感染者数はこのところずっとゼロ人なんだそうだが、皆さん、義理堅くマスクをしておられる。こういうところがいかにもニッポンである。

○と、このまま夜の街に繰り出せるかというと、締め切りが控えているのでそうもいかない。結局、深夜12時までかかってしまう。東洋経済に原稿を送ってホッとしたところで、え?関東地方じゃ地震があったのですか?知らんがな、ワシは。

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○函館市に来るのはこれが3回目である。ゆえに函館山からの夜景だとか、五稜郭タワーだとか、函館朝市の海鮮丼だとか、一通りの観光は済んでいる。さて、何を見ようかと考えたら、「土方・啄木記念館」があるようだ。土方歳三は函館で死んだし、石川啄木は夫人とともにこの町の外れにある立待岬に葬られている。そして二人とも『ゴールデンカムイ』の登場人物である。これは行かねばなりますまい。

○途中までは市電で行って、途中からは歩いてみた。かなり距離はあったけれども、青函海峡を望む海沿いの道は感動的であった。今日は天気が良いので、それこそ向こう岸、下北半島の大間が見えてしまう。それこそ夜には、建設中の大間原発の明かりが見えることもあるのだとか。

○ということで、記念館にて800円也を支払い、土方歳三、石川啄木の記念品に囲まれて短い時間を過ごす。この記念館、元は啄木記念館だったのだが、NHK大河が『新選組!』を取り上げたときに、土方歳三も加わったらしい。そういえば、もうじき映画版の『燃えよ剣』が封切りになるはずである。

○ゴールデンカムイは27巻まで出ているのだが、これまでのところ小樽→札幌→夕張→旭川→大雪山→釧路→根室→網走監獄→樺太編、と舞台が変わっている。ワシはまだ読んでいないのだが、連載中の部分でとうとう函館が登場するらしい。すばらしい。やはり五稜郭は欠かせないですよ。

○ということで、コロナが終息して、再び多くの観光客が函館に戻ってきて「聖地巡礼」してくれることを心から望むものである。まあ、インバウンドの復帰はもちょっと時間がかかるでしょうな。講演会の仕事の方は可もなく不可もなく。

○戻りの飛行機が東京都上空を通るコースだったので、滅多にない景色に興奮する。いやあ、新宿の高層ビル街を上から見るのは感動でした。今日は窓際の席で大正解でありました。

○そうそう、本日で61歳になりました。多くの人からのお誕生日メッセージに御礼申し上げます。


<10月10日>(日)

○函館の余韻があるものだから、司馬遼太郎『燃えよ剣』を読み始めてしまった。探せばちゃんと家の中にあるはずなのだが、せっかくなので新潮文庫で新しいヤツを買ってしまう。なにしろ来週には、映画版が封切りされるということで、書店の入り口に並んでいたからである。

○土曜の午後から日曜の昼まで読書に熱中したもんだから、竜王戦の第1局をやっていることをすっかり忘れていた。藤井三冠が逆転勝ちしたそうだが、それは大谷翔平のホームランと同じで、見れば確実に感動するのだろうけれども、今さら珍しいことではなくなっている。それに引き換え、1960年代に書かれた小説を1980年代に読んで感動し、2020年代に読み返して熱くなれるというのは、そっちの方がすごいことではあるまいか。

○ともあれ、若い頃に感動した小説を年をとってから読み返すと、昔とは違うところに感心するものである。

○まず、鳥羽伏見の戦いの記述が長い。土方歳三は薩長軍の軍事的イノベーションに驚いて、そこからフランス式の兵法を身に着けて大胆に変身を遂げていく。北海道に渡った時点では、見かけも戦法もまるで別人になっている。それでも最期は「新選組副長 土方歳三」と名乗って討たれ、倒れる。そもそも彼が死んだのは、池田屋事件からわずか5年後のことなので、この間、まことにすさまじい時勢の変化であったと言えよう。

○それから沖田総司が登場するシーンが多い。彼のことを「天才剣士」として日本史有数のスターにしてしまったのは、司馬さんの筆力によるところが大であるから、これはまぁ当たり前の話である。沖田総司は常に土方の視線を通して描かれていて、「この男はどんな斬り方をするのか、返り血もあびていない」というくだりなど、あまりにも描写が上手過ぎる。

○もうひとつ、本作のヒロイン「お雪」が、前巻の終わりごろになってやっと登場することに意表を突かれる。あれえ、そうだったっけ。「お雪」はもちろん創作上の人物だろうけれども、女性があまり出てこない司馬作品においては、めずらしいくらい鮮烈な印象を残している。司馬さん、きっと物語の序盤で歳三をいろんな女性と関係させながら、「死ぬ間際にはどんな女性と会わせたらよいか」と想を練っていたのであろう。

○それにしても「サンケイ新聞」に『竜馬がゆく』を連載しながら、「週刊文春」では『燃えよ剣』を連載していたというのだから、司馬さんの仕事量はつくづく凄い。先般、亡くなられたすぎやまこういち氏が、ドラクエシリーズだけでなく、JRAのファンファーレやG1レースの入場曲(グレート・エクウス・マーチ)も作っていたようなものである(本日は東西のG2レースでしたが、ちゃんと使われておりましたぞ)。

○てなわけで、昭和の人たちの仕事にはつくづく脱帽しなければならない。単に歴史上の真実を求めるのなら、時代が立てばたつほど新しいことがわかってくる。過去の誤りはどんどん訂正されていく。『燃えよ剣』にはきっと多くの間違いがあり、司馬さんが勝手に史実を曲げちゃった部分があるはずだ。まあ、いいんですよ。小説なんだから。

○その一方で、司馬さんがこの物語の下調べをした頃には、武州多摩地区に行くと「府中明神の祭りに行くときは、若い衆が青竹をササラにしたものをもって、マムシを追いながら行く」ような野蛮さの名残がまだあったそうである。今の日野市には、そんなものはないでしょうなあ。司馬作品が掘り起こしてくれなかったら、「新選組に関する物語」は永遠に埋もれていたかもしれない。これはもう感謝しなければなりませぬ。

○そして時代はどんどん変わっていくから、幕末に徳川慶喜がなぜ敵前逃亡したのか、「逆賊」になることをなぜあんなに恐れたか、が分かりにくくなっていく。今じゃ足利尊氏はそんなに悪人とは思えないし、楠木正成なんて誰それ?だろう。ところが、単純に喧嘩師として筋を通した土方歳三の生涯は誰が見ても分かる。そしてカッコいい。だから映画化もされるのであろう。

○ところが、これで今週末あたり映画を見に行くと、ものすごーくガッカリするんだろうなあ。願わくば新選組の面々は、『仁義なき戦い』に出てくるような昭和の肉食系俳優さんたちに演じてもらいたいものである。


<10月11日>(月)

○最近の虎ノ門周辺では、ランチの際の人気店の行列が復活している。それもまあ、むべなることかな。都内の新規感染者数が2ケタになっているのだから。佳きかな、めでたいかな、せいぜい今のうちに楽しんでおきましょう。2カ月後に都内がどうなっているかはわからないのですから。

○弊社が入っている飯野ビルのお隣にできた日比谷フォートタワーには、なんと低層階にJRAが入っていることが判明。まあ、もともとWINS新橋があった土地ではあるのだが。引っ越してくる際に、ワシに一言くらい挨拶があっても良いのではないか。毎週、貢いでいるのだから。

○そういえば日比谷線に新しくできた「虎ノ門ヒルズ駅」は、固有名詞がそのまま駅名に化けためずらしい例であろう。そもそもカタカナを使った駅名自体がめずらしい。これは「高輪ゲートウェイ」という先例ができたから可能になったのではないのか。

○ともあれ、平常への回帰は日本中で進んでいて、それが出勤先にも及んでいることを嘉したいものである。


<10月12日>(火)

○先週末、いつものようにクリーニング屋に行ってワイシャツを出したら、なんと5枚もあった。つまり毎日、都内へ出かけていたことになる。こんなことはいつ以来だろうか? というか、コロナ感染が弱まると、途端に忙しくなるようである。

○たとえマスクをしながらではあっても、人と会うのは楽しいし、勉強になるものである。まだまだ、おっかなびっくりではあるのですが、今日もリアルによる貴重な情報と意見交換の機会に感謝。

○で、本日頂戴した本のご紹介。


●大下流国家 「オワコン日本」の現在地 三浦展 光文社新書


――久しぶりに接する三浦節である。昔々、パルコにインタビューに出かけて行って初めて会った際に、当方が羽生善治さんの話をした(今の藤井三冠状態だった)、ということを三浦さんがちゃんと覚えていた。お互いにまだ若かったですなあ。


●自生地 福田若之 東京四季出版


――俳句の出版社に転職されたAさんから頂戴しました。パッと開いた瞬間にすごい才能です。 「梅雨の自室が老人の死ぬ部屋みたいだ


○こういう何気ないことからヒントをもらう。犬も歩けば棒に当たる、というのが世の中でありまして、コロナで人々が逼塞しているとそれが難しい。


<10月13日>(水)

○10月版のWEO(世界経済見通し)が出ました。今回のテーマは"Recovery during a pandemic"(パンデミックの中の回復)でありました。世界経済の見通しは心持ち下方修正されただけですが、かなり危機感は強まったように思えます。最近のタイトルの変遷は下記のとおりです。


2020年
1月 Tentative Stabilization Sluggish Recovery?     +3.3%(20)→2.4%(21)
4月 The Great Lockdown                  ▲3.0%(20)→5.8%(21)
6月 A Crisis Like No Other, An Uncertain Recovery  ▲4.9%(20)→5.4%(21)
10月 A Long and Difficult Ascent             ▲4.4%(20)→5.2%(21)

2021年
1月 Policy Support and Vaccines Expected to Lift Activity ▲3.5%(20)→5.5%(21)→4.2%(22)
4月 Managing Divergent Recovery                ▲3.3%(20)→6.0%(21)→4.4%(22)
7月 Fault Lines Widen in the Global Economy         ▲3.2%(20)→6.0%(21)→4.9%(22)
10月 Recovery during a pamdemic               ▲3.1%(20)→5.9%(21)→4.9%(22)


○前回の7月WEOでは、先進国はワクチン接種が進むので脱コロナが進む、途上国はそうはいかないので「分断線」(フォールトラインズ)ができる、という見方でありました。格差の拡大が心配だけど、先進国はアップサイドリスクもあり、という感じでしたね。ところがその後、欧米でもかなりデルタ株の感染が流行ったし、アメリカなどではワクチン忌避もあるので、どうもそんなに簡単じゃないぞ、という大局観のようです。

○とくにこの夏以降のインフレは要注意ですね。日本でもとうとうガソリン価格がリッター当たり160円台になっているとか。加えて中国経済の動向が心配です。恒大集団とか電力不足とか。これ、習近平よ、しっかり仕事をしないといかんぜよ。ということで、世界経済全体としてはダウンサイドリスクの方が高そうです。

○個別に見ると、東南アジア経済の下方修正がきついです。これは日本経済にとっても大問題であります。円安の進行も併せて、いや〜な感じが漂い始めているようですね。


<10月14日>(木)

○衆議院が解散となりました。夕方からちょっと外出して、帰ってきてみたらちゃんと小学校の前に「衆議院選挙」と「柏市長選挙」の看板が立っていました。これで来週19日には公示なんですから、いやもう早いです。

○柏市長選挙は本来は11月に予定されていたもの。10月の首長選挙を後にずらすのは簡単だけど、11月の首長選挙を前倒しするのはきっとたいへんだったはず。日本の国は、こういうところがしっかりしてますねえ。

○不思議なことに、今回の解散は「任期間際解散」ですし、本来は「追い込まれ解散」であるはず。ところが首相が岸田さんに代わり、その岸田さんが「10月31日総選挙!」と無理目の日程を決めたら、いかにも「総理が解散権を行使した」感じになった。これが菅首相のままだったら、今ごろはボロカスに言われていたはずなのですが。

○面白いもので、岸田内閣の支持率は確かに高くない。しかるに不支持率も高くない。本人のキャラが地味なので、「安倍麻生の影響下にある」「甘利幹事長がケシカラン」といった批判はあるけれども、ご本人を咎める声があまり聞こえてこない。ステルス総理なので、大きく勝ちもしないが、大きな負けもなさそう。ということは、これで野党は7連敗ということになるのではないか。

○ところでワシは「将棋連盟LIVE中継アプリ」を使って日々の対局を見ているのだが、これの設定を変えると対局中のAI評価値が出るようになるということを教わった。いや、これはスゴイ機能である。しかも20〜30手先の読み筋まで教えてくれる(→後記:対局者の名前の上に指を乗せると、AIの読み筋が表示されます。オバゼキ先生がわざわざ尋ねてきたので、ここに追記しておきます)。NHK将棋トーナメントも、評価値が出るようになってからまるで見方が変わってしまったが、これは嵌まりそうな予感。


<10月15日>(金)

○最近の読書からのメモ。萩原淳『平沼騏一郎〜検事総長、首相からA級戦犯へ』(中公新書)から。


平沼はイギリスの養老院を尋ねた際、社会的地位の高い人でも親を養老院に入れることに疑問を持った。養老院の院長に、日本の家族制度では社会的地位や収入がある人は親を養う責任があると説明したところ、「個人主義が行き過ぎた」と答えたと回想する(『回想録』)。平沼はこうした経験から個人主義に批判的な印象を持ったと言えよう。

また、平沼はイギリス滞在中、小村寿太郎駐英大使(のちに外相)と会い、次のような話を聞いたという。西欧諸国が条約改正の際、日本の法律を西洋流にすることを要求し、「屈辱の状態を脱するため、欧州各般のものを取り入れた。これはよくないが止むを得なかった。今度君は帰ったら、条約改正をしたのだからかまうことはない。ドシドシ日本流に直してよい」、と。平沼は小村について、「とにかく見識があった人」と高く評価する(『回想録』)。


○なるほどなあ。明治の政治家にとって、「条約改正」は非常に優先順位が高い課題であった。そのためにはずいぶんと無茶もした。「鹿鳴館」のダンスパーティーなんぞはその典型だ。しかるに目標が達成されると、今度は反動が出る。過度な西欧化のバックラッシュが始まる。平沼騏一郎も今は「反動の人」ということになっている(「欧州情勢は複雑怪奇」の方が有名だろうが)。

○やっぱりねえ、無茶はいかんのですよ。「脱・炭素」なんかもそうだと思いますよ。なぜならバックラッシュのときに、これもまた行き過ぎてしまうのです。今月末のG20とCOP26には、岸田首相だけでなく習近平国家主席も欠席の意向だとか。そうそう、これだけ石油価格が上昇しているんだから、この問題を仕切り直しして、もう少し穏健化するチャンスだと思うものです。


<10月16日>(土)

○本日は「007 No Time to Die」へ。

○ううむ、ビミョーな映画である。なんで164分(2時間44分)もかけたんだろう。過去の作品との整合性を取ることに疲れ果ててしまったのだろうか。とりあえず5本の作品でジェームズ・ボンドを演じたダニエル・クレイグさんに、お疲れさまと言っておこう。やっぱり「スカイフォール」が頂点だったかねえ。

○個人的には、英国海軍が日本近海までやってくる、という設定に「らしいなあ」と感じました。なにしろEUとはもう離婚したのだから、狭い欧州には住み飽きた、英国は太平洋に出てくるしかないのであります。だから空母を派遣するし、CPTPPへも加盟を申請するし、英米豪3か国でAUKUSを組んだりするわけです。

○それ自体は悪いことではなくて、どうせEUの中に留まっていてもいいことなんてないんだから、海賊の子孫たる英国人は、やはり七つの海を越えて活動すべきなのである。いやもう、是非、そんな風であってほしい。日本からもエールを送りたいところである。


<10月17日>(日)

○仕事を抱えているので、今日は秋華賞も片手間状態である。ひとつはあっけなく終了、もうひとつがなかなか終わらない。

○午前中に「将棋の時間」を片目で見ていると、先週に引き続いて終盤に大逆転劇である。いやあ、AIの評価値さえなければ、見ている側はわからないんですけどねえ。棋士が「一手バッタリ」の悪手をやらかした瞬間に、それが視聴者に分かってしまうとは、つくづく罪な仕掛けである。とはいえ、これで画面から目が離しにくくなった。いつ数値が動くか分からないからである。

○で、将棋界においては、こんなクラウドファンディングが進行中なのですね。


●将棋を次の100年へ 新将棋会館建設プロジェクト(第1期)


○東京と大阪の将棋会館を、同時に建て直す計画が進行中なのだそうです。「6年かけて6億円」という目標は、大胆なのかつつましいのかちょっと見当がつきにくいが、これからも将棋文化を維持・発展させるためには、ファンがそれくらい出してあげないと悪いでしょ、という気がする。

○寄附に応じてくれた人への「ご褒美」が、いろいろ工夫されていて面白い。「羽生善治九段特別指導対局権」金3,000,000円也(1人)は、既に完売となっている。ううむ、どんな人が落札したんだろう。「木村一基九段による特別解説会」金100,000円也(10人限定)も完売である。

○まあ、ワシ的には税控除対象コースで、小さく応援してみようかなあと思案しているところであります。


<10月18日>(月)

○ワシは1年の中でこの10月がいちばん好きだ。自分の誕生日があるから、というのはさておいて、やはり季節は秋がもっとも落ち着く。旨いものも多い。天ぷらもいいが、寿司も良い。コロナが明けたお陰で、ぽつぽつ外食ができるというのが、今月のいちばんのご馳走である。

○とはいうものの、昨日、ホットカーペットを出しながら思ったのだが、やっぱり10月はこれがあるからなあ。寒くなるから、いろいろ準備をしなければならないのだ。つまりは季節の変わり目ということである。

○夏物のスーツやジャケットも、クリーニング屋に出さなければならない。代わりに冬物のジャージを取り出したら、変な虫がついていたらしくて足を刺されてしまった。もしくは服に、防虫剤の匂いがついていることもある。まあ、しょうがないよね。この季節においては、「あるある」の現象である。

○ところが近年のこの国は、気候変動のせいもあるのか、夏が終わるとすぐに冬が来て、冬が終わるとすぐに夏が来るみたいである。ところが今年はちゃんと秋が来ている。結構なことである。石油価格が上がったくらい、気にすることはない。あんなもの、ESGさえ止めればすぐに落ち着くはずである。

○ちなみに明日は香川県高松市に出没する予定です。四国も久しぶりだなあ。とりあえず讃岐うどんを2回は食べたいと思うところである。


<10月19日>(火)

○本日は衆議院の公示日である。全ての選挙区の候補者たちは、「出陣式」というものをやる。これは面白いですぞ、冷やかしでいいから、是非、地元の候補者を見に行ってくださいまし、てなことを「くにまるジャパン」で申し上げる。若い人たちに向かって、「とにかく選挙に行け」という大人は多いけれども、ただ投票だけしても面白くはならないのですよね。それが候補者の実物やボランティアの人たちをひとめ見ると、一気に政治や選挙が身近になって面白くなる。以上、一介の政治オタの繰り言であります。

○番組が終わってから羽田空港へ。ANA便で高松市へ。なんという偶然か。ちょうど4年前の10月19日もワシは高松に来ていたのである。そして4年前も選挙期間中で、なんと投票日の3日前であったのだ。なぜか衆議院選挙があると、ワシは高松市に呼ばれるようである。

○ちなみに4年前は「政経懇話会」という共同通信系の講演会であった。今回は「内外情勢調査会」という時事通信系の講演会である。政経懇話会は、地元紙の四国新聞社社内で行われる。この会社は、香川1区選出の平井卓也前デジタル担当相が社主である。応接室には、大平正芳氏の巨大な「書」が飾ってあって、見るからに「ザ・宏池会」といった会社なのである。いやー、そういう場所で政治の話はちょっとやりにくいですよね。今回の香川1区は全国屈指の激戦区なのだそうであります。

○他方、内外調整調査会はJRホテルクレメント高松で行われる。夕食が出るのだが、テーブルはいつもの円卓形式ではなくて、なるべく会話が交わされないように学校形式の配置である。香川県の感染者数は、先週くらいからほぼゼロが続いているのだが、本部にお伺いを立てたら、まだダメだと言われたそうである。まあ、いかにもありそうな話ではある。

○考えてみれば、「講演会の講師」というワシの仕事も、全国の飲食店やツーリズムと似たような立場なのである。コロナ感染が減ったおかげで、仕事が復活しつつある。いや、とにかく地方に移動できるというのは、それだけで楽しくてありがたい。現地に行って初めてわかること、って世の中にはいっぱいありますから。


<10月20日>(水)

○四国は4つの県が似たような規模で、外から見ると仲良くやっているように見える。しかるに現地で聴くと、「四国はひとつ」ではなくて「四国はひとつずつ」なんだそうだ。いわく、「香川は支店経済だから東京を向いている。徳島は完全に大阪文化圏の一部である。愛媛はほとんど広島と地続きになっている。そして高知は一人雄々しく太平洋の方を向いている」。

○こんな風にバラバラであると、互いに喧嘩する理由もないので、たとえば4つある県紙どうしは互いに仲良しなんだそうだ。紙面づくりで、「おーい、今日の殺人事件の犯人の写真、オタク持ってなーい?」「おー、あるある。いいよ、あげるよ〜」みたいなやり取りが、ごく普通に行われているとのこと。いい関係を保つためには、適度な距離が必要ということらしい。

○さて、一泊して帰るのであるが、その前にうどんを食わねばならぬ。そこでホテルの朝食をスキップして、高松駅前の「めりけんや」へ。ここはJR四国の経営なんだそうだ。ぶっかけの「小」に「かれい天ぷら」。むはははは。朝7時の開店時に食べるてんぷらは、あげたてでまことに旨いのである。

○これは夙に有名な話だが、全国に848店舗を出店して、ほとんど全国を制覇しつつある「丸亀製麺」は実は兵庫県の会社である。ゆえに当地では、「あれは讃岐うどんではない」と認定されている。丸亀製麺が香川県内に進出するのは、文字通り敵地に忍び込むようなものである。現在は県内にわずか2店舗。うち1店はイオンモールの中にある、という点に妙なリアリティを感じる。

○てなことで、ワシが「うどん県」に来るたびに、うどんの記憶が積み重なっていくのである。ちなみに「うどん県」というアイデアを出した広告代理店は、「こんな案、きっと没になるに違いない」とあきらめムードであったところ、あっけなく知事がゴーサインを出して実現したのだそうだ。これは英断というものでありましょう。いいぞ、うどん県。


<10月21日>(木)

○本日は東北エネルギー懇談会さんのお招きで青森へ。深く考えずに家を出たのだが、今朝はえらく寒いのである。周囲を見わたすと、「今年初めてコートを出しました」といった感じの人が大勢いる。これはいかんぞ、今日の青森市は天気が悪いらしい。どんだけ寒いかわからんぞ、と気が付く。

○そこで上野駅のユニクロへ。ここはありがたいことに、朝早くから店が開いている。時間をかけずにえいやッと、ダウンのコートを購入する。これが大変な優れもので、あったかい上にお値段は税込み1万2900円也であった。デフレ万歳。いやはや、世の中は便利になっておる。

○もうひとつ、「はやぶさ」で新青森駅に向かう途中で、新幹線の座席からZoom会議に参加してみたところ、これがちゃんとつながった。福島県から宮城県に入る辺りから参加して、八戸駅に到着するくらいまで約1時間半。トンネルの中でブチッと切れたのが2回ほどあったけど、JR東日本のWi-Fiは優秀でありました。

○てなことで、片道3時間ちょっとで新青森駅に着いてしまう。案の定、えらい寒さで雨も降っていて、ユニクロのコートは大正解であった。今年の冬はこれで過ごすこととして、クリーニング屋から戻ってきているはずの年代物のバーバリーなど、即刻用済みにすべきであろう。

○講演会の内容は環境エネルギー問題を中心に。G20とCOP26の直前に、急激な資源高を受けて、欧州各国の雰囲気が変わってきている、てなことをご説明する。アメリカも今のインフラ投資法案が今月中に成立しなかったら、バイデンさんはグラスゴーに手ぶらで行かなければならなくなる。「カーボン・ニュートラル」をめぐる欧米の状況は急変しつつあるようにみえる。

○少なくとも、今週のThe Economist誌の"The Energy Shock"というカバーストーリーを見る限り、昨年来、「脱・炭素ヒステリー」に陥っていたあの雑誌が、冷静さを取り戻しつつある。それは大いに結構なことで、日本も「岸田=甘利」政権が誕生して、菅内閣の環境エネルギー路線を修正することになりそうだ。やっぱり行き過ぎは是正されるんだよな。


<10月22日>(金)

○今朝はラジオ日経「マーケットプレス」で電話取材を受ける。インフレにテーパリングに恒大集団に、一部の国では感染再拡大など、これだけ悪材料が多いのに、NY株価が史上最高値にチャレンジだなんて気持ちが悪過ぎる、10月31日のハロウィン前後が怖いんじゃないか、てなことを申し上げる。それにしても、社債の金利を払ったことがニュースになるなんて、どこか変だぞ、今の中国。

○ハロウィンに重なるイベントは、@日本の総選挙、AローマのG20首脳会議、Bアメリカの予算成立など。G20は果たして何か国の首脳が集まるのだろう。岸田さんは総選挙でリモート出席だが、プーチンさんと習近平さんとオブラドール大統領(メキシコ)も来ないとのこと。議長のドラギ首相は気が気じゃないところだろう。

○ラジオ日経の電話取材は、コロナ下の去年から始まって定期的に登場しているのだが、次回は12月24日のクリスマスイブに登場の予定である。まあ、当方にとってはこれが「本業」というものである。

○午後はラジオ日経のスタジオに参上し、「交流戦」で小林雅巳アナとともに菊花賞の展望を語る。いや、今週末の菊花賞はホントに難しい。今日のお昼までうんうん唸って迷って、最終的には「レッドジェネシス本命」という結論にしたのだけれども、あんまり自信はありません。上海馬券王先生の予想が気になるところです。

○それにしても「ラジオ日経のダブルヘッダー」はめずらしいんじゃないだろうか。何しろ「マーケットがない週末は競馬でお楽しみください」というラジオ局である。まあ、競馬ファンのワシとしては、あの「ロ〜ドカナロア、ロ〜ドカナロア、世界のロ〜〜〜ドカナロア!」の小林アナとご一緒に、「今年の菊花賞は本当に難しいですねえ」などと言ってられるのが至福の体験というものである。


<10月23日>(土)

○「成長から分配へ」とか、「成長と分配の好循環」とか、今度の選挙ではそういう言葉をよく聞く。日本経済は成長を優先して分配を後回しにしてきた、だから皆の賃金が上がらなかったのだ、ということが共通認識になっているようだ。でも、本当にそうなんだろうか。

○アベノミクスが始まった2013年1-3月期の実質GDPは522.6兆円である。それが直近の2021年4-6月期では538.7兆円である。まあ、コロナのせいもあるのだけれども、8年かけてわずか3%しか伸びていない。年率に換算すると0.36%という低成長率である。これでいったい、どこが「成長重視」だったのだろう?

○かねてからのワシの時論であるが、アベノミクスの真の成果は雇用者数を増やしたことである。2013年1月には5518万人。それが今年8月には5967万人になっている。コロナにもかかわらず、449万人も増えている。そして増えた分はほとんどが高齢者と女性である。

○特に定年を延長した分が効いている。年金支払いを遅らせた結果、ワシ前後の世代が会社にしがみついているのである。仮に企業が遠慮なく高齢者を会社から放り出していれば、それだけ雇用者数は減っているはずだが、その分の人件費は若い社員の賃上げの原資になった公算が大である。実は「分配」はしっかりやっていたのではないか。

○つまりアベノミクスとは、「成長したかったけれども成長できず、分配をするつもりはなかったのに、ついつい分配してしまった」という経済政策だったのである。意外に思われるかもしれないが、日本経済は分配では失敗していない。失敗したのは成長の方である。どうだ、参ったか。

○これとまったく違う道を歩んでいるのがアメリカ経済である。アメリカでは、コロナと同時に失業率が4.4%から14.8%に上昇した(2020年4月)。つまり企業が遠慮なく社員のクビを切った。そこから成長を続けて、既にコロナ前の水準を回復した。今年9月には失業率は4.8%まで下がったものの、そこに到来したのが"The Great Resignation"(大退職時代)である。つまり社員がどんどん辞めてしまう。いわゆる選択的失業というやつだ。

○彼らは学習したのである。コロナ下で命のはかなさを知った、家族と一緒にいる時間をもっと長くしたい、できれば通勤なんてしたくない、そもそも人生って何なんだろう、などと考えるところが大であったのだ。社員が勤務を求めないのであれば、結果として企業は賃金を上げざるを得ない。つまり、分配とは政府が与えてくれるものではなく、労働者が実力で奪い取るものであったのだ。

○そもそも日本において賃上げが起きていない現状は、国民が「成長より分配」を求めてきた結果ではないのか。仕事があるだけで幸せです、どうか会社から追い出さないでください、という個々の社員の卑屈な心掛けが、賃上げしなくてもよい社会を可能にしてきたのではないか。このうえ、政治に分配を求めるとはなんという心得違いであろうか。

○とりあえず今回の総選挙においては、与党側は、「今の失業率は2.8%です。コロナ下でこんなに低く保っている国はありません。この国の経済はそんなに失敗しているわけではないのです」などと言って、理解を求めるくらいしかないだろう。これも一種の「不都合な真実」というものであろうか。


<10月25日>(月)

○総選挙もさることながら、今週末にはイタリア・ローマでG20サミットが行われ、それが終わると英グラスゴーでCOP26が始まる。日本政府はそれに合わせて、慌てて第6次エネルギー基本計画を持ち回りで閣議決定しているのであるが、今後の環境・エネルギー問題に関する私的な論点整理を以下、行っておきましょう。


(1)環境・エネルギー政策については、脱・炭素(カーボン・ニュートラル)という国際目標と、国別のナショナルセキュリティという2つの次元が並立することになる。2つが矛盾した場合に、各国が優先するのは後者であるはずだ。前者のために国益を犠牲にする、などということはあり得ない。この点、わが国の政策論議は、「あちらも大事だが、こちらも大事だ」となりやすい。ここでお手本とすべきは、中国の毅然とした態度でありましょう。

(2)当溜池通信がベンチマークとしているThe Economist誌は、ここへきて急に軌道修正している。先週号のカバーストーリ、"The energy shock"では、目の前の資源インフレに慌てふためいている。化石燃料の価格が95%も上昇し、英国は石炭発電を再開し、米国のガソリン価格が1ガロン3ドルを超え、中国とインドでは停電が起きている。かかる事態を招いた理由は様々あれど、脱炭素を目指す直線的アプローチが一因となっていることは彼らも認めている。

(3)過ちを正するに憚ることなかれ。COP26の直前であっても、そこに気づいてくれるのは悪いことではない。The Economist誌は、「脱炭素のための投資が足りない」などと文句を言いながら、ロシアに「ガス止めるぞ」と脅されることには我慢がならない。そして「エネルギー市場の再設計が必要ではないか」と言い出している。もっと供給不足のためにバッファーが必要だとか、再生可能エネルギーはやっぱ不安定だとか、原子力やCCSもバイタルであるとか、ああ、よくぞ気づいてくださいました、私が言ってもどうせ聞いてはくれなかったでしょうけど、とにかく分かってもらえて嬉しいよ、と言いたくなるところである。

(4)これというのも、脱炭素を直接的アプローチで目指しているからである。脱炭素は大事な目標であるからこそ、迂回アプローチでやらなければならない。なぜ、欧州各国が脱炭素を急いでいるかというと、米国でトランプ政権が誕生して、パリ協定を抜けてしまった4年間が無駄になったことを焦っているからだ。しかるにここで直接的アプローチを目指せば、2024年にふたたび共和党政権が誕生してパリ協定再離脱、ということもあり得る。いや、もっと言えば、欧州各国で「イエローベストの反乱」みたいなことが起きて、全てが台無しになるかもしれぬ。急いては事を仕損じる、という当たり前のことを学習すべきである。

(5)まして最悪なのは、いきなり石炭火力を止めろ、などと他国に迫っていることだ。新興国がどんな気持ちでそれを聞いているか、たぶん彼らはわかってはいない。G20には中国とロシアとメキシコが欠席する。日本まで岸田さんが欠席する。下手をすれば、ブラジルとインドとインドネシアがこれに続く。サウジアラビアも危ないな。何が楽しくてローマまで行って説教されなければならないのか。悪いけどG20は学級崩壊になるのではないか。議長のドラギさんが哀れに思えてくる。

(6)さらに愚の骨頂は、脱炭素を金融主体で迫っていることだ。ESGという美辞麗句を、産業界がどんな思いでそれを見ているか、まるで分かっておられない。本気で脱炭素を目指すのであれば、CO2を出す産業をイジメてはいけないのだ。むしろ鉄鋼業や化学産業を大切にすべきであろう。日本製鉄や宇部興産が海外に逃げ出すようでは一大事。彼らが本気にならない限り、地球上における真の脱炭素はできっこないはずなのだ。

(7)ところが今は、いわゆる「庭先掃除」をもって脱炭素と称している。そんなものは、「私はこんなにいいことをやっているでしょう」競争に過ぎない。恥ずかしながら、わが商社業界などもその片棒を担いでいる。しかるに金融や商社には脱炭素を実現する力はない。産業界を動かさなければならない。

(8)さらに余計な話となるが、「カーボンニュートラル」のことを「脱・炭素」という訳はいかがなものなのか。地球上に存在する炭素の量は一定であるはずで、減らすことなどできないはずである。それが水素と結びつくと化石燃料で、燃やすとCO2になってよろしくない。それはわかるのだが、炭素を否定してしまうとあらゆる生き物が命を失うことになる。いいのか、そんなことで。


○以上、今宵は久々に外で飲んで、2次会まで行って酔っ払った状態で書いておる。こんな深夜に不規則発言を更新するのも久しぶりだ。が、これだけ書くと、ああ、なんだかすっきりした。まるでコロナ前の生活習慣が戻ってきたような気がしている。


<10月26日>(火)

○なんだかすごい勢いで、講演会の依頼やら面談の申し入れが来ております。こっちもここを先途と、久々のリアル会合の予定を申し入れたりしているので、まあ、そのお気持ちはよくわかる。動くなら、今のうちですもんね。

○来年になったら、もうわからない。感染の再拡大は、あと1回くらいはありそうじゃないですか。だから来年1月以降の予定は、ドタキャンになっても恨みっこなしである。そういうのはもう慣れてるし。だったら今のうちにいろいろやっておきたい。

○たぶん感染再拡大の際には、目に見えて新規感染者数が増えるだろうけれども、それには若干のタイムラグがあるはずだし、クリティカルな局面に達するまでには時間がかかるはず。やっぱり今のうちですよねえ。人と会ったり、メシを食ったり、そういうの楽しいものねえ。

○ということで、しばらくは週に5回出勤でもやむなし。映画も見たいねえ。『砂の惑星』か『燃えよ剣』か。でも、日曜日の競馬はちゃんとリモートであります。


<10月28日>(木)

○試しにヤフーニュースのアクセスランキングを見ると、なんとトップテンのうち4つまでがこの件である。


1位
小室圭さん眞子さん結婚後初の外出 黒のワンボックスカー後部座席に並び眞子さんはうつむき加減
スポニチアネックス
10/28(木) 15:18

2位
小室眞子さん外出 髪おろしラフな髪型 雰囲気変わる 圭さんと免許センターへ
デイリースポーツ
10/28(木) 17:21

6位
【独自解説】小室夫妻の記者会見分析  元・宮内庁職員「今回の問題は皇族の“公”と“私” 皇室と国民の距離感を結婚に限らず考えていくべき」
読売テレビ
10/28(木) 14:14

9位
小室眞子さん&圭さん 夫妻で初外出 2時間で帰宅 SP同乗で免許センターへ
デイリースポーツ
10/28(木) 16:49


○そうかあ、眞子さまは眞子さんになったのかあ、佳子さまは佳子さまのままなんだなあ、などと今さらながらに感心するのだが、この問題に関してまったく関心のわかないワシはどうしたらいいのか。そもそも上の4件、どこにニュースバリューがあるのだろう? わからん、わからんですよ。 いや、別に教えてほしいわけじゃないんです。

○ちなみに総選挙に関するネタはひとつもない。かろうじて11位になって、自民「大阪全敗」確実視!維新旋風吹き荒れる…激戦10区は宗男氏・山崎氏・麻生氏“入り乱れ”応援(日刊ゲンダイDIGITAL)10/28(木) 14:15というニュースが入ってくる。読んでみると、なかなかにほほえましいニュースである。

○しかしこれだけ選挙に関する関心が低いということは、たぶん投票率は低いでしょうなあ。世論調査をこまめにチェックしていると、序盤戦よりも中盤戦になって与党が優勢になりつつあるように見える。こういうこともめずらしい。やっぱりコロナが沈静化している効果なのでしょうか?

(→後記:10月29日の日経朝刊を見ると、やっぱり終盤戦になって変化が生じている様子。とはいえ、「小選挙区 接戦なお4割」だそうですので、今日明日の動きも重要ですね。もうちょっと盛り上がってほしいです)


<10月29日>(金)

○総体として熱量を感じないのに、個々の選挙区を見ると激戦になっている。今朝の日経&読売(元データはともに日経リサーチ社)によれば、小選挙区の4割が接戦だそうです。特に都市部はそうですね。だから予測が難しい。要するにそういうことのようです。

○今回の総選挙には、テーマと言えるようなものが見当たらない。「郵政解散」(2005年=62.5%)とか「政権交代」(2009年=69.3%)とか「アベノミクス」(2012年=59.3%)などと名前を付けられる年はいいのだが、名前のつけようがない2014年選挙(52.7%)や2017年選挙(53.7%)になると、そもそも投票率が上がらなくなる。

○そうは言っても、コロナ後であるし、令和初の総選挙でもあるし、特に若者の投票率は上がってほしいところである。とはいうものの、メディアが取り上げる選挙の話題と言えば、「アベノマスク批判」とか「麻生さんの失言」とか「株式課税がどうのこうの」といった小粒な話ばかり。

○2021年といえば、横浜市長選挙と自民党総裁選挙は記憶に残っているけど、総選挙はいったい何があったんだっけ、てなことになってしまうのかもしれません。いやいや、せめて最後の一日に、何か大きな変化が起きてほしいものです。


<10月31日>(日)

○今朝は馬券王先生の原稿をアップ。本日は今季一番の大勝負となる秋の天皇賞。下半期になってから、馬券王先生は2勝1敗の好調さ。ファンの方は是非、参考になさってくださいまし。

○それから投票所に行ってまいりました。衆院小選挙区、衆院比例区、最高裁審査、そして市長選挙。いやあ、たいへんですなあ。ホントに誰に入れたらいいんだよ、柏市長選。「この人だけは嫌」という人が居るんだけど、どうにもその人が勝ちそうな予感がしている。とはいえ、それが民意だとしたら仕方あるまい。

○昨日アップされた東洋経済オンラインの拙稿、「矢野財務次官の『バラマキ批判』に欠けている視点」は、あっという間に読まれなくなっております。まあ、仕方ないよねえ。3週連続の矢野論文モノになるんだから。当方としましては、どうしても小幡先生と山崎元さんと違う話を書きたかったものだから。

○この拙文の冒頭にあるマーク・トゥエインの言葉の通りなのです。


It were not best that we should all think alike; it is difference of opinion that makes horse races.

「私たちの意見がすべて一致してしまうのは決していいことじゃない。競馬が成り立つのは、意見の相違があってこそだからね」


○選挙もまた、ひとりひとりの意見が違うから重要になる。違いをエンジョイいたしましょう。今宵の開票速報が楽しみでありますが、まずはその前に天皇賞、それから竜王戦の第三局ですな。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki