<8月1日>(水)
○なでしこジャパンが2位通過。これは狙い通りだと思います。1位通過よりも2位の方がいい・・・という話は、当欄の7月24日分で書きました。
○「正々堂々と勝ちを目指せ!」というご意見はごもっとも。でも、昨年のドイツW杯における「なでしこ」優勝は、日程という「地の利」に恵まれた僥倖によるところも大だったのです。そして今回の五輪大会は、W杯の中三日ではなく、中二日の連戦です。しかも澤をはじめ、昨年に比べて戦力的な不安もある。2位狙いでグラスゴーへの転戦を回避したのは、悪くない作戦だったと思います。
○戦いの前になるとむやみに自分の強さを信じたがり、楽観的な見方が多くなるのは日本の報道の悪い癖でありましょう(なおかつ、負けるとすぐに慰めモードに転じる)。でも、この世の中に絶対的な強さなど存在しない。「なでしこ」だって、けっして強いわけではないと思います。4年前に定めた「ロンドンで金」という最終目標のために、佐々木監督が最善を尽くそうとするのは当然のことでしょう。
○勝者であり続けたいと思ったら、自分が弱者であった時のことを忘れてはいけません。
<8月2日>(木)
○シュラスコ料理の「バルバッコア」へ。おそるべし、肉のわんこそばモードである。「これでもか!」と言わんばかりに肉がやってくる。肉の種類が豊富で飽きないのと、ブラジル風のあっさり味付けのせいで、結構な量を食べられてしまう。もちろん、最後は「勘弁してくれ〜」というくらいに満足してしまうのだが、それでも自分が「肉食系」であることを再認識させられる夕べでありました。
○50歳を超えてしまうと、さすがに「肉はもうたくさん」という人が増えるものだが、意外と「俺って今でも肉食系」という同世代人は探せばいるものである。まあ、いつの日か食えなくなるのであれば、今のうちに食っておいた方が良いというもの。
○惜しまれるのは、サラダバーをもっと堪能したかったということ。ブラジル風の料理もあって、かなり魅力的なメニューだったのだが、たびかさなる肉攻勢の前に、野菜攻撃は二の矢が出なかった。今後の課題と言えよう。いやはや、今宵は肉の夢を見てしまいそうである。
<8月3日>(金)
○オリンピックが始まってから、まだ1週間しかたってないのですね。でも、この表を見たりすると、うーむ、何とたくさんの喜怒哀楽を楽しませてもらったことか。やはりスポーツこそは究極のコンテンツ。こんな緊張感のある真剣勝負をやっていたら、負けても負けても明日があるプロ野球や競馬なんて、ぬるくて緩くて見てられませんわなあ。あ、もちろん政治もね。
○水泳陣は若くて、明るくていいですね。きっと北島を目標に集まってきたアスリートが多いからでしょう。北島という「成功体験」があることで、一気に可能性が広がった感がありますね。
○柔道はわれわれが知っている柔道ではなくて、国際化してしまったJudoを見ているような気がする。こんなに多くの国の人たちに愛されているのは、きっと幸せなスポーツなんだと思うぞ。
○体操は内村航平がすごかったですねえ。1989年1月3日生まれということは、「昭和もあと3日」という日に生まれたんですね。昭和生まれ、と聞くとなぜかホッとするものが。
○などと言いつつ、終わったらスッと忘れてしまうのが、ワシらの哀しきサガというもの。毎度おなじみのこの繰り返し。まだ10日ほど、楽しませてもらえそうです。
<8月4日>(土)
○男子サッカーが準々決勝を突破。すごい。1968年のメキシコ大会以来のベストフォーである。強い。強いのだ。圧倒的ではないか、わが軍は。
○あのとき、ワシは小学校の2年生だった。3位決定戦でメキシコと当たって、テレビ(もちろん白黒だ)の中の「メヒコ、メヒコ」という地元の猛烈な声援をかすかに記憶している。でも、不世出のストライカー、釜本は2発のゴールを決めてくれたのであった。あれから44年。
○メキシコ大会の日本は銅メダルであった。二度とそんな日は来ないだろうと思っていたけれども、あれを超えてしまうかもしれない。すいません、ワシは「なでしこ」以上に感動しています。
<8月5日>(日)
○オリンピック三昧の週末、ちょっと気分を変えて『ダークナイト・ライジング』を見てきました。3時間近くを飽きさせないのはさすがだが、前作『ダークナイト』ほどではないっすな。クリストファー・ノーラン監督によるバットマンは、『バットマン・ビギンズ』からこれで3部作完結ということになる。それにしても、第2作目が頂点というのは、めずらしいパターンといえましょう。
○前作『ダークナイト』は2008年の封切りで、あのド迫力は何らかの形で米大統領選にも影響したんじゃないかと思う。ジョーカーという絶対的・圧倒的な悪と戦うために、バットマンはみずからの良心に恥じることをしなければならなくなる。あの逆説は重かった。すっかりPartisanになってしまったアメリカ、を感じさせるものがありました。
○今回の作品も大統領選と重なっている。で、こういうゴシップがあるんですよね。そのうちバットマンを使った選挙CMなんぞが登場するでしょう。何度も書いていることですが、オリンピックが終われば大統領選も本格化するはずですから。
○あんまり詳しく書くとネタバレになっちゃいますが、今作品には「オキュパイ・ウォールストリート」運動を髣髴とさせるような部分がありまして、その評価はやはりビミョーなものがありましたね。個人的には、アメリカ人は革命を求めちゃいけない人たちなんだと思っております。
<8月6日>(月)
○日本の競泳陣はなぜ強くなったのか。「北島の存在が大きい」ことは誰もが実感するところでしょうが、この記事はなかなかに説得力があると思います。
●日本はいかにして競泳大国になったのか。北島康介とその時代
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/special/london/swim/swimming_race/text/201207240012-spnavi_1.html
○他の競技にも通じることですが、日本人はつくづく「個」になると弱く、「チーム」になると強い。で、「北島さんを手ぶらで帰らせちゃいけない」という合言葉で、男子400mメドレーリレーで銀がとれてしまう、なんてのもいい話ではありませんか。
○昨晩のフェンシングなんかもそうですが、団体戦になると妙に強いですわな。駅伝が大好きで、「努力と友情と勝利」の物語にしびれるという国民性は、こんなところに表れるんですね。そしてその強さは、これから始まる「なでしこ」の戦いにおいてもいかんなく発揮されるはずであります。
<8月7日>(火)
○関塚ジャパン敗れる・・・。がくっ。勝ちたいという気持ちで、メキシコを上回れなかったか。あるいは「なでしこ」ほどではなかったか。
○深夜の喪失感に呆然とするものがあるのだけれども、これがサッカー、これが五輪。つかれた・・・。
<8月8日>(水)
○今朝はレスリング女子で金2発。やはりこの国は女性の力でもっているようだ。とりあえずはめでたいことだ。かくして今朝も五輪のニュースで一日が始まる。
○政局の方はわけがわかりません。でも、今日は2か所で講演の予定があるので、わかっているようなことを言わねばなりません。困ったものよのう。まあ、でも「消費税法案は8月10日ごろ成立」という予想はどうやら当たってくれそうだ。
○問題は選挙の時期ですな。10月12-14日に東京でIMF世銀総会が行われるので、その前に解散というわけにはいかんと思います。これは震災に対する世界の支援に対するお礼という意味がありますから、そのときに首相が不在というのはまずいでしょう。
○10月下旬に臨時国会召集、特例公債法案を処理して解散、11月後半に選挙ですかねえ。タイミングがあまり早いと、エネルギー環境会議の「国民的議論」がリセットされちゃうという問題もあります。そういうこと、考えていないように見えちゃうのが民主党政権の危なっかしいところなんで、ご用心をくださいまし。
<8月9日>(木)
○福岡に来ております。こんなに五輪で盛り上がっているときに、政治や経済の講演会をやっても、面白くないんじゃないのかなあ・・・と講師としては悩ましいところである。
○それにしても五輪の日本勢は女子が強い。今宵も女子レスリングで金がとれてしまいそうだし、この後は「なでしこ」の決勝戦が始まる。また強さを見せつけてくれるんじゃないだろうか。
○ちょうど「九州男児」は、女性が陰で支えているようなものか。さて、このままテレビを見てしまうと、明日が寝不足で苦しいのだが、どうしたものかのう。
<8月10日>(金)
○今日はテレビ東京「未来世紀ジパング」の取材で九州縦断旅行へ。昨年9月15-17日にたどった経路をたどって博多駅から指宿駅へ。テーマは「鉄道と地域活性化」です。
○鉄道の目的は「人や貨物を、大量に、安全に、安く、そしてなるべく早く輸送すること」。でも、JR九州さんは、その一歩先を行っているんですね。つまり「地域活性化のために交通インフラは何ができるか」。赤字ローカル線を廃止するのではなくて、そこにユニークな電車を走らせることで、外から人を呼んで来ようという試みです。
○「いぶすきの玉手箱」こと「いぶたま」号は、そうした実験の典型なんだけど、車両を工夫するだけではないんですね。1日3回いぶたま号が来るときは、地元の高校生や市役所の人たちが旗を振って歓迎してくれる。駅には温泉のおかみさんたちが出迎えに来ている。そして駅前商店街では、地元の食材を使った新作名物を用意している。電車が通ってから、いろんなことが変わったんだそうです。
○指宿駅前のタクシー運転手さんに聞いたところ、九州新幹線といぶたま号開通でお客さんは一気に増えたんだけど、今年の6月からは「東京スカイツリー効果」で客足が少し減ったんだそうです。面白いもんですねえ。
○取材はお笑い芸人パックンことパトリック・ハーランさんと一緒でした(最近の彼の役どころは、ほとんどが「外国人インテリタレント」ですけどね)。丸一日過ごしましたけど、彼の日本語能力はもちろんすごいですけど、やっぱりインテリなんですねえ。なおかつ、サービス精神の豊かさに感動しました。
<8月11日>(土)
○あらあら、ミット・ロムニー候補が間もなく副大統領候補を発表するとのこと。ショートリストとしては、ロブ・ポートマン上院議員(オハイオ州)やティム・ポーレンティ前知事(ミネソタ州)などが上がっていたのですが、どうやらポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州)が濃厚であるらしい。42歳だがベテラン下院議員で、Fiscal
Hawkの典型。オバマ予算案に対するライアン案は、高齢者向け医療保険のメディケアを変えてしまおう!と威勢が良い。
○まあ、こんなことは発表されてから騒げばいい話なんですが、アメリカ時間で土曜の朝、というタイミングにちょっと感心しました。もうオリンピックでアメリカ人選手はたいしたタマは残っていないという判断なんでしょうか。
○アメリカのウィキペディアでライアン下院議員をチェックすると、もうこんなことが書かれていました。気が早いなあ。
On August 10, 2012, it was announced that
former Governor Mitt Romney would be announcing his choice for
Vice Presidential running-mate in Norfolk, Virginia, with most
news sources reporting that Paul Ryan would be Romney's
running-mate. According to NBC News, three sources have indicated
that Romney "will pick Ryan." Former Minnesota Governor
Tim Pawlenty, Florida Senator Marco Rubio, and Ohio Senator Rob
Portman have been told that they won't be picked, according to
GOP sources.
Under Wisconsin law, Ryan is eligible to run concurrently for
both Vice President and compete for his eighth term in Congress.
○ところでロムニーさんは失言の多い人ですけど、これはいけませんよねえ。
Mitt Romney's comments Thursday criticizing Japan have U.S.-Japan
alliance watchers on two continents worrying that the
ultra-sensitive Japanese might not appreciate being the
cautionary tale in Romney's campaign stump speeches and that a
President Romney might not be a good steward of the decades-long
relationship.
"We are not Japan," the
presumptive Republican nominee told donors at a $2,500-a-plate
fundraiser Thursday. "We are not going
to be a nation that suffers in decline and distress for a decade
or a century. We're on the cusp of a very different economic
future than the one people have seen over the past three
years."
Japan experts on both sides of the Pacific told The Cable that
Romney's offhand assertion that Japan has been in decline for
"a century" isn't a fair characterization of a nation
that emerged from the ashes of World War II to build the world's
second- (now third-) largest economy on a small island with few
natural resources.
Moreover, they worry that Romney is needlessly insulting the
face-conscious Japanese and giving them the impression that if he
wins in November, his administration won't appreciate the
importance of America's top alliance in the East at a time when
the United States is attempting a diplomatic and military
"pivot" to Asia.
○日本は100年も没落が続いている、というのは事実誤認もいいところでありますぞ。
<8月12日>(日)
○ロムニーさんの立場からすれば、副大統領候補を選ぶ際に、以下のような要素を考慮したと思います。
(1)無難な選択よりはサプライズを
(2)富裕層or大金持ちでない人を
(3)年齢的にはなるべく若い人
(4)保守派の支持を集められる人
(5)できれば激戦州の出身者
(6)ワシントン政治に詳しい人
(7)主役を食わない程度にキャラが立っている
○ポール・ライアン下院議員は、この7条件を全部クリアしています。(1)抜擢人事だし、(2)普通の家の出身だし、(3)まだ42歳だし、(4)財政タカ派の星であり、(5)ウィスコンシン州が選挙区だし、(6)下院議員として7期務めて予算委員長であり、(7)は今後がビミョーなるも、十分にその資格がある。何よりメディケア(高齢者向け医療保険)制度に喧嘩を売っている人なんで、高齢者票を考えたら避けるであろう選択である。実際のところ、「ライアン副大統領候補」は、フロリダ州やアリゾナ州では大論争になってしまうんじゃないだろうか。
○逆に言うと、ロムニーさんは(1)無難な選択をしがちな人で、(2)嫌になるくらいの富豪であり、(3)もう67歳であり、(4)党内右派に嫌われていて、(5)激戦州の支持が必要で、(6)ワシントンではアウトサイダーで、(7)とにかく退屈な人なのである。良くも悪くもロムニーさんは、こういう死角を抱えた挑戦者であり、彼の最大の武器は「オバマじゃないこと」である。ここでポジティブなメッセージとして、「財政均衡」をテーマに取り上げるのは、非常に合理的な選択なんだろうと思います。
○もっとも、こんな思考もあったはずである。
*できれば女性(ロムニーは女性に人気がない)
*できれば非白人(相手はオバマである)
*外交経験のある人(ロムニーは外交経験なし)
○これで上記のような「サプライズ」「年齢」などの要素を加味すると、「コンドリーザ・ライス」という選択肢もあったんじゃないかと思う。穴馬としては非常に面白かったと思うんですが、残念なことに発表が早過ぎたんで、当サイトとしては事前予想のチャンスを逃してしまいました。
○ロンドン五輪があとわずか、というタイミングでの発表は、果たしてどうだったんでしょうかね。「予想屋さん」としては不満が残るところでありました。
<8月13日>(月)
○「山梨県、奈良県、三重県、青森県、青森県、長崎県、石川県」――さあ、この7つの県が意味するものはなんでしょう?
○これらはロンドン五輪における、7人の日本人金メダリストの出身県なのです。順に、米満(レスリング)、村田(ボクシング)、吉田(レスリング)、伊調(レスリング)、小原(レスリング)、内村(体操)、松本(柔道)です。いやー、こう言っては失礼ですが、見事に田舎の県ばっかりですな。たぶん全部が人口減少県でしょう。
○以下、サッカーやバレーボールのような団体競技はややこしくなるので除外することとして、個人競技のメダリストの出身地を挙げていくと、銀や銅でもこの傾向が続くんです。1人で2つ取っている人もいるので、ちょっと紛らわしいですが、全部書き出してみると以下の通りです。
●銀:宮城=福原(卓球)、山口=石川(卓球)、栃木=平野(卓球)、滋賀=太田(フェンシング)、宮城=千田(フェンシング)、千葉=三宅(フェンシング)、宮城=淡路(フェンシング)、長崎=内村(体操)、熊本=藤井(バドミントン)、滋賀=垣岩(バドミントン)、兵庫=杉本(柔道)、青森=古川(アーチェリー)、大阪=入江(競泳)、福岡=鈴木(競泳)、愛媛=中矢(柔道)、埼玉=三宅(ウェイトリフティング)、広島=平岡(柔道)
●銅:和歌山=湯元(レスリング)、岡山=清水(ボクシング)、群馬=松本(レスリング)、静岡=室伏(男子ハンマー投げ)、埼玉=星(競泳)、神奈川=立石(競泳)、山口=西山(柔道)、宮崎=松田(競泳)、北海道=上野(柔道)、福岡=鈴木(競泳)、大阪=寺川(競泳)、大阪=入江(競泳)、栃木=海老沼(柔道)、栃木=萩野(競泳)
○こうやってみると、「金、金、銀」の青森県はご立派の一語に尽きます。被災地の宮城県も、「卓球の福原」やフェンシングに2人を送り込んでいる。東北勢、健闘です。内村航平(金と銀)や鈴木聡美(銀と銅)がいるので、長崎や福岡など九州勢も頑張りました。冬季五輪では、メダルは北海道出身者の独壇場となるものですが、こちらは「上野三姉妹」の上野順恵だけ、というのも面白い。そして何より、東京出身者が一人もいない、というのがいっそすがすがしい。
○いや、忘れちゃいけないのは、偉大なる東京下町出身のアスリート、北島康介がいるのです。競泳男子400メートルメドレーリレーで、北島は銀メダルをとってるじゃありませんか。「北島さんを手ぶらで帰らせちゃいけない」というのは、まさにその通りだったのです。
○ということで、久々に五輪のない静かな夜を迎えています。全国各地では、「おらが郷里の英雄」を心行くまで称えていることと思います。ああ、でも不肖かんべえの出身地、富山は立派な田舎県なのに、スポーツマン不毛の地なんですよねえ。ちょっとさびしい。
<8月14日>(火)
○不肖かんべえも参加しております社団法人世界経済研究協会で、「世界経済評論IMPACT」というコラムのページが立ち上がりました。書き手はこんな人たちです。談論風発の場としたいと思っておりますので、よろしければブックマークをどうぞ。
○で、上記のサイトで私めは、「今年はアメリカ大統領選挙が面白くない」などと愚痴っております。皆が興味を持ってくれないので、「ロムニーがまたまたこんな失言をしたんだってさ」みたいな形で関心を集めようとしている。ところがロムニーの場合、あんまり失言がかわいくないんですなあ。
○などといった今年のアメリカ大統領選挙情勢につきましては、近く8月17日(金)の「ニュースの深層」にて楽しくお話しする予定です。ポイントは、ロムニー候補が「攻めの人事」で、副大統領候補にポール・ライアン下院議員を選んだことにより、2012年米大統領選挙はこれまでの「オバマ大統領の信任投票」から、「オバマ=バイデンか、ロムニー=ライアンか」「雇用か財政か」「大きな政府か小さな政府か」という選択の選挙になったということです。
○それくらいライアン候補はキャラが立った政治家なんですねえ。幸か不幸か、現時点では全米の約4割は彼のことを「よく知らない」と言っている。ただしこの先、オバマ陣営は全力を尽くして「ライアンというのは、こんなにひどい奴ですよ〜」ということを宣伝してくるでしょう。勝負はそこからです。
○ここでご紹介したいのは、「ポール・ライアンがお婆さんを崖から突き落とす」というネガティブCMのクリップです。メディケアをなくそうというライアン提案は、それくらい過激なところがある。「年寄りに死ねというのかあ!」という反発を招くこと必定なのに、そういうことを堂々と主張してしまうんですから、この辺がアメリカ政治のすごいところだと思います。「雇用か、財政か」――先進国共通のテーマについて、もっとも徹底した形で議論を尽くしてくれるのは、やはりアメリカということになるんでしょうな。
○当欄の8月8日に書いた通り、日本政治はおそらく10月下旬に解散、11月下旬に総選挙だと思います。その場合、日本の選挙は11月6日の米大統領選の後になりますから、この結果が何らかの形で影響することになるでしょう。そう思うと、少しアメリカ大統領選挙が重要に思えてこないかなあ。
<8月15日>(水)
○子どもの夏休みの自由研究から知ったこと。
○「鷲」と「鷹」はどこがどう違うか。言い換えれば、EaglesとHawksの違いは何かという事ですが、答えはものすごく簡単で、「大きなのがワシで、小さいのがタカと言い習わしている」。いずれも「タカ目タカ科」(昔は、ワシタカ科と呼んでいた)に属していて、明確な違いはなく、慣習によって呼び分けているんだそうです。いやあ、知りませんでした。
○岡崎研究所には、岡崎久彦所長の手による「鷲鳥不群」(鷲鳥は群れず=猛禽類のような強い鳥は、小さい鳥のように群れを作ったりしない)という額がかかっています。陸奥宗光が好んで使っていた言葉なんだそうで、いわゆる政治的タカ派の気持ちをよく表しているんじゃないかと思います。
○で、本日は8月15日でありますから、靖国神社への参拝が注目を集める日であります。そういう日に、韓国大統領がいろいろいちゃもんをつけてきたり、尖閣諸島に香港人活動家が上陸したりします。あんまり考えたくないことですが、おそらく「日本の民主党政権も残り少ないだろうから、今のうちにやってしまえ」的な思惑も働いているんでしょうなあ。
○領土問題に関する限り、この3年間の日本はやられっぱなしでした。少なくとも北方領土について、かつての中国は日本の立場を支持していたのであります。中ソ対立がありましたからね。ところが近年は、中・ロ・韓の日本イジメ連合ができてしまい、北方領土でも竹島でも尖閣諸島でも、ずいぶん既成事実を作られてしまった感があります。
○つまりはわが国がナメられている、ってことであります。そろそろ反撃に転じなければなりませんね。ワシもタカもハトも、その辺は一致した方がいいと思います。まあ、「ユーアイ」と鳴いているどこかのハトさんは、お仲間に入れない方がいいと思いますけど。
○ちなみに野球チームの名前に使われている楽天Golden
Eaglesはイヌワシのこと。ソフトバンクHawksはもちろんタカのこと。本日現在、両チームはパリーグの4位と5位で、いずれも借金2個でゲーム差はなし。ワシもタカも、強さはそんなに違わないようであります。
<8月19日>(日)
○夏枯れです。更新も少なくなっておりますが、どうかご容赦のほど。
○18年ぶりに買った新車で帰省。エアコンがまことに快適なるも、7時間も運転していたら身体が冷えてしまい、夏風邪みたいなことに。ううむ、難しいものよのう。次から長距離ドライブは、長袖シャツに上着を着て、ということにしよう。
○もうひとつ要注意の備忘録。ハイブリット車で長距離を運転していると、下り坂に差し掛かると「しめた、ここはエンジンブレーキを効かせて充電を・・・」などとつい考えてしまう。が、ほかのクルマはむしろびゅんびゅん加速してくることが多いので、いつの間にか距離が迫っていて危険だったりする。なんとなく充電が増えるとうれしくなってしまうんだよな。
○富山における知人・友人の間でこの夏流行の話題は、「富山中部高校の寄付金」であった。誰それはいくら出したそうだ、お前はいくら出すんだ、うかつに同窓会に出ると催促されらしい、など。ありがちな展開である。よかった、ワシは早めに出しておいて。
○実家の書棚にあった『人間失格』を読み返してみたら、なるほどこれは上手に書けた小説だわい、と思った。中学生くらいで初めて読んだ時とは、えらい違いであった。高校の時に同級生が書いた「人間失格」感想文が素晴らしい出来栄えで、「うーむ、俺はここまで読めていなかった」と悔しかったことをふと思い出した。そういえば医学部に行ったH君、あれから会ってないなあ。
<8月21日>(火)
○なぜだ。なぜこんなに暑いのだ。かなわん。勘弁してくれ。
○朝からジュースを買い、アイスコーヒーを飲み、アイスティーも買い、フラペチーノまで注文し、夜は缶ビールを開ける。でも、全部汗になって消えてしまう。一日の摂取糖分はいかばかりか。かくしてこの季節には、ゼロカロリーのコーラまでが魅力的に見えてしまう。これでは夏バテは必至と言えよう。
○かくてはならじ。せめてこの夏に読んだ本から、「大人の意見」を少々ご紹介。出典は、御厨貴『後藤田正春と矢口洪一の統率力』(朝日新聞出版)。戦後の高度成長期、警察と司法のプロと呼ばれ、組織と人事を握っていた男たちは、どういうことを考えていたかという本であります。
(矢口)「大体、判決を、見てきたように細かく書くのは、やめたほうがいい。民事、刑事の関係なく、書けば書くほど『ここも間違っている。ここも間違っている』ということになる。書かなければいいんです。私は、そう思う」
(後藤田)「警察全部がそうなんですけれど、受け身の行政ですからね。積極的に出て行ったら絶対にいかんという基本原則を立ててあるんです。後手で先を取れという教育なんです。軍隊は逆に先手必勝なんですよ。警察は絶対に違うよと。後手で必勝は情報だと」
(後藤田)「警察というのは、縦深戦力はゼロなんです。11万数千人の警察力であれば、まさに11万の警察力しかない。事案が1週間続き2週間続き、3週間、1か月と続けば続くほど、毎日、毎日警察力は低減していく」
(矢口)「裁判官というのは、判例集にも乗らないし、何にも載らないで、事件を溜めないでやっている裁判官が、一番いい裁判官です。だから全然違います。そんなところで、『飛びぬけていい』と書かれたら、飛びぬけて悪いところがあるんです」
(後藤田)「警察の場合は、金銭の間違いというよりも婦人問題と、もうひとつは酒による間違いですね。(中略)その結果を見ますと、酒の大きな失敗はみんな直る。女は直らん。婦人問題というのは一生だな、また同じことをやるな」
(後藤田)「(あさま山荘事件について)この時の感慨は、最高責任者というのはいかに孤独かということだ。(中略)たいていの仕事は、部下から『こうやりますがどうですか』と来るんですよ。ところが、ああいうときはそうではない。『どうしますか』といってくるんですね」
○できればこんなレベルで仕事をしてみたいものである。最近はキレイごとばかり言ってる組織人が多いからねえ。
<8月22日>(水)
○1週間前にCSISで発表された「アーミテージ=ナイ報告書V」のことが、少しずつ伝わってきました。正式な題名は"The
U.S.-Japan Alliance --Anchoring Stability in Asia"といいます。
○第1部は2000年秋に発表されました。詳しくはこことここを参照。
○第2部は2007年春に発表されました。それについてはここをご参照。
○思い出しながら第3部を読んでます。CSISの発表会にジョセフ・ナイは欠席しているし、"Study
Group Participant Signatures"のページには彼のサインが見当たらない。はてさて、大統領選挙を直後に控えて、どんな葛藤があったことなのやら。ただしこの第3部が言っていることは、エネルギー安保のことなどの「新ネタ」が入っているとはいえ、大筋は今まで行ってきたことの繰り返し。
○日本よ、Tier-1国家でありたいのなら、アメリカとともにがんばろう。それは世界に対する貢献になる、ということである。問題は日本がどんな風に応えるか、なのですが、あまりにも意気地のない意見が多いので、それがちょっと心配であります。
<8月23日>(木)
○お通夜のために三軒茶屋へ。とてもいい感じの街である。私的には世田谷区というのは、なんとなく性に合わないんだけど。
○場所はカトリック教会。受付で渡された「葬儀の手引き」という小冊子を読んでいたら、なぜかいきなり涙が出て止まらなくなった。お別れの儀式と、それに必要な言葉というのは、宗派によって違うところはあるけれども、本質は似たようなものなのだろう。
○式が始まったら、そこから先は普通のお通夜であった。献花をして、喪主にご挨拶をして、退場。
○しかし帰りはやっぱり遠かった。表参道から松戸まで爆睡。この夏はちょっとバテ気味です。
<8月24日>(金)
○とっても久しぶりにお目にかかった伊藤洋一さんに言われました。「長距離走者にランナーズ・ハイがあるように、モノ書く人にはライターズ・ハイがある」。これ実感ですわなあ。
○「ライターズ・ハイ」にはいろんな段階があると思います。もっともレベルの高いのは「入神の域」というやつで、書いているうちに新しいアイデアが次々に「降りてくる」という状態。気分が良くて、文字通り至福の瞬間というやつ。ただし、滅多に到達できるものではありません。
○それよりも多いのは、「締め切りに間に合いそうにない」、「こんな面倒な仕事、もう辞めてしまいたい」「なんでこんなの引き受けてしまったんだろう」などと思い悩むネガティブな瞬間というのもあって、これはこれでモノ書く仕事にはつきものの感情なんですね。明日には入稿しなきゃいけないのに、まったく書けてなくて途方に暮れる日曜の夜、なんてのもライターズ・ハイの一局面なんじゃないかと思います。
○そして極めつけは、誰かに書いたものを褒めてもらえるという瞬間です。もともとは自己満足でやっていることなのに、たま〜にそういうことがあったりするから、ますます止められないんですなあ。世の中には、そういう殺し文句をいっぱい持っている敏腕編集者というのもいて、油断のならないところではあるんですけどねえ。
○ライターズ・ハイは、なかなか抜けられない病気です。考えてみたら、自分は子供の頃からずっとそうなんです。おそらくこれからも、長く付き合っていくことになるでしょう。
<8月25日>(土)
○月例経済報告が、今月は8月24日発表の予定だったはずなのに、なぜか当日になったら8月28日に延期になっていた。来週29日の発表に使おうと思っているのに、これでは準備ができないではないか。さて、弱った。
○基調判断は5月から7月まで、3か月連続で「緩やかに回復している」で据え置きとなっていた。その前はというと、昨年11月から今年4月まで連続半年にわたって「緩やかに持ち直している」だった。ひょっとすると8月は下方修正かなあ。7月の貿易収支が今一つ思わしくなかったし、鉱工業生産もビミョーな感じになってるし。判断に迷いが生じるとしても不思議はない。
○国内は「前年同期比マジック」があることもあって、景況感は比較的底堅い。雇用も堅調である。問題は外需ですな。9月は欧州関係のイベントが多いので、またまたユーロ関連の嵐が来そうな気もする。が、この辺のことは例によってわからない。来週火曜日は8月の基調判断に注目です。
<8月26日>(日)
○今朝の日経新聞の文化面「本の小径」に、「『源流』としての北杜夫」というコラムが掲載されていた。驚くべし、われらが北さんは、「日本文学史におけるひとつの源流」だと見なされつつあるのだそうだ。あの『楡家の人々』が、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』と比較されていたりして、長年のファンとしてはボウダの涙がこぼれようというものである。そして「現代の若い文学の源流となっている可能性がある」とのこと。
○ファンの一人として申し上げれば、北杜夫はあまり大作家であっては困るのである。その作品は、けっして同時代の頂点を形成するわけではなく、風雪に耐えて後世の評価を待つというほどでもないのだが、不思議と特定のファンを作ってやまないのである。そして北ファンになってしまうと、いつまでも作品を忘れないし、どうかすると作品の欠点までも愛してしまうのである。
○人生のある時期にのめり込む作家というものは確かに存在する。が、いずれ飽きてしまうのが世の常である。私の場合で言うと、太宰治や倉橋由美子や村上春樹は、ある時期にはすごく感心したのであるが、そのうちどうでもよくなってしまったし、今となっては作品のこともあんまり覚えてはいない。ところが北杜夫作品だけは、子供の頃に読んだままの感覚がいつまでも残っている。不思議な磁力を有する作家なのである。
○で、この日経コラムの末尾には「現在、長野県軽井沢町の軽井沢高原文庫では、現行や新発見の書簡、手帳など約300点を集めた『北杜夫展 美しい夢とユーモア、ふたたび』が開かれている」とあるではないか。これを読んだ時点で、既に午前9時は回っていたのですが、軽井沢まで急行することにいたしました。ええ、ウチは夫婦そろって北ファンなものですから。
○もちろん、渋滞にはあいましたし、せっかく軽井沢に行ってほかは何も見なかったけど、それだけのことはありましたぞ。「アタオコロイノナ」が出てくる『どくとるマンボウ航海記』の冒頭の生原稿があったり、マブゼ共和国の国旗があったり、昆虫標本箱もたくさんあったり、斉藤茂吉から届いた「愛する宗吉よ」で始まる恐怖の手紙の現物まで見てしまった。ああ、なんという至福の体験でありましょうか。
○思えばこの「かんべえ」というハンドルネームも、もともとは「マンボウ」の語感に似せて作ったものなのです。ご迷惑かもしれませんけれども、当サイトにとっても北杜夫は源流なのであります。
<8月28日>(火)
○昨日はNHKの「NW9」の取材を受けて、見なきゃいけないと思っていたのに、9時に寝てしまった。このところ、朝が早くて夜も早いんです。グー。
○で、自分がどんなふうに写って何を語っていたか、まるで分らないんですが、数人の方から「顔がデカかった」とのご感想をいただきました。うーむ。とりあえず、向井麻里記者の取材はとても丁寧であったと言っておこう。
○ということで、共和党大会が行われております。4年前と同じように、人気のある副大統領候補がいて、台風に襲われて初日は中止になりました。4年前はミネソタ州で台風はグスタフ。今年はフロリダ州で台風はアイザックです。なーんか、嫌な感じがしませんか?
○2008年9月の共和党大会は、それが終わった週末に「ポールソン財務長官」が出動して、ファニーメイとフレディマックに公的資金を投入して、見事に火消しを行ってくれたのでした。ところがその次の週は、相手が悪かった。リーマン・ブラザーズ証券だったのです。あれは2008年9月15日。もうじき4周年がやってきます。
○今週いっぱいはいいんですけど、来週は地雷がいっぱいですよ。9月6日にECB理事会、9月7日に米雇用統計、9月12日にオランダ総選挙、それからスペイン国債の格下げ懸念など。オリンピックが終わったら、案の定、いろんなものが動き始めました。何か今年は「セプテンバー・サプライズ」的な事件がありそうな予感。
<8月29日>(水)
○共和党大会、このセリフは胸に沁みますね。ここにある"storybook
marriage"というのは、「おとぎ話のような結婚」、あるいは「ハーレクインロマンスに出てくるような結婚」という意味だと思われます。
I read somewhere that Mitt and I have a “storybook
marriage.” Well, in the storybooks I read, there were never
long, long, rainy winter afternoons in a house with five boys
screaming at once. And those storybooks never seemed to have
chapters called MS or breast cancer.
A storybook marriage? No, not at all. What Mitt Romney and I have
is a real marriage.
○なんで大統領候補たるご本人は、こういうセリフが言えないんですかねえ。とりあえずアン・ロムニー夫人はお見事でした。
<8月31日>(金)
○忙しくしていたら、共和党大会をあんまり見られなかった。残念。
○ということで、このページの採点表をメモしておきましょう。
●勝利者:
*ポール・ライアン(副大統領候補):やったね、いいスピーチでした。これで2016年か2020年には出番が回ってくるかも。
*ラインス・プリーバス(共和党委員長):ハリケーン・アイザックとロン・ポール支持者軍団に悩まされたけど、結果オーライでした。
*コンドリーザ・ライス(元国務長官):力強い外交演説でロムニーを後押し。やっぱり貴女は共和党のスター・クオリティだ。
*ランド・ポール(ケンタッキー州選出上院議員):お父さんとは違って、ちゃんとロムニーを支持したのは偉い。2016年か2020年に待ってるよ。
●敗者:
*クリス・クリスティー(ニュージャージー州知事):基調演説を言い渡されたのに、自己アピールが多過ぎた。誰が主役なのか、ちゃんとわきまえましょう。
*クリント・イーストウッド(俳優・映画監督):プライムタイムに引っ張り出したのは良かったが、散漫で変てこなスピーチでした。
*ロン・ポール支持者軍団:声は大きかったが、数が少なかった。党大会のお邪魔虫か。
*共和党上院議員:大失言をやらかしてしまったトッド・エイキン候補が、上院選挑戦を取り下げてくれるかと思ったら大間違い。
●どっちか分からない:
*ミット・ロムニー(大統領候補):悪くないスピーチだったけど、盛り上がりには欠けた。結局、勝ち目はあるんだけど、負け犬候補なんだよなあ。
○安井明彦さんも言ってましたけど、共和党がこの調子では、来週の民主党大会はもっと盛り上がりに欠けるんじゃないかと。ええ、私なんぞ来週は東南アジアに行っちゃいますから。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki