●かんべえの不規則発言



2015年11月





<11月1日>(日)

馬券王先生がクイーンの話をするもんだから、ワシも"Queen 2"のサイドブラックが懐かしくなってしまいました。それというのも、高校時代に同級生だった馬券王先生から借りて聞いてたんですよねえ。お互いにまだ若かった1970年代のお話であります。

○サイドブラックの白眉は"The March of the Black Queen"でありまして、数あるクイーンの名曲の中でも過小評価されているものの一つだと思います。おそらくは「キラー・クイーン」や「ボヘミアン・ラプソディー」の原型ともいうべき作品であります。ありがたいことに、今ならすぐに検索して聞けてしまうんですよねえ。ほれここに。


Do you mean it,
do you mean it,
do you mean it?
Why don't you mean it why do I follow you
And where do you go?

You've never seen nothing like it
No never in your life
Like going up to heaven
And then coming back alive
Let me tell you all about it
And the world will so allow it
-Oooh give me a little time to choose
Water babies singing in a lily pool delight
Blue powder monkeys praying in the dead of night
Here comes the Black Queen poking in the pile
Fie-fo the Black Queen marching single file
Take this take that bring them down to size
March to the Black Queen


○ね、これって見事に「詩」になってますでしょ。「水の赤子らはゆりの池でが楽しげに歌い、青白き猿たちは死の夜に祈る」ですよ。この後も、"I reign with my left hand I rule with my right"(われは左の手で君臨し、右の手で統治する)とか、"And she never dots her I's"(そして彼女はけっしてiにドットを打たない)なんて素敵な表現が続くのであります。

○まあ、でも、こんな小難しい歌を作っていたのでは国際的なヒットメーカーにはなれないわけでありまして、クイーンは(フレディは)もっとわかりやすい歌を作ることを選択する。だからQueen2のサイドブラックはほとんど忘れられてしまっているのですよね。日本には「女王様物語」という優れたオマージュ作品があるのですが、この中でも取り上げられておりません。

○例えば手塚治虫というと、代表作は『鉄腕アトム』であり『火の鳥』であるということになっている。ちょっと踏み出して、『陽だまりの樹』とか『アドルフに告ぐ』が出てくる。でも、『MW』や『空気の底』のような毒のある作品もあるんですよね。「黒」があってこそ「白」が際立つ。創作者というものは、かならず両面を持っていなければなりません。

○が、馬券王先生がおっしゃるとおりでありまして、今どきは「黒」の乏しい作品が多くなってしまうのであります。充分な黒を持たない創作者が、「売れたい」なんて考えてはいかんのであります。


<11月2日>(月)

○本日、都内某所の人ごみの中であったこと。一定年齢のご婦人、ぶっちゃけて言ってしまえば「おばさん」が、ワシの顔をまじまじと見つめている。一瞬あって、

「先生ですよね」

「は?」

「よくテレビに出ていらっしゃる先生ですよね?」

「あ、はあ、まあ、ときどきね」(笑顔で)

「頑張ってくださいよっ!」

○と、励まされてしまいました。どうもありがとうございます。

○で、これは別に文句を言うつもりはないのですが、ワシの名前はあまり覚えてもらえないらしい。見知らぬ人から、「えっと、あの、ほら、双日の方ですよね」とか、「文化放送、いつも聞いてます」などというリアクションはあっても、ストレートに名前を呼ばれることはあんまりありません。まあ、個人的にはその方がありがたくはある。

○どうかすると、「吉沢さん」とか「山崎さん」と間違えて呼ばれることがあります。これは若い頃からずっとそうなので、いい加減慣れてしまっております。「吉田さん」であっても「塩崎さん」であっても、ハイハイとお返事することにしています。先日、「吉澤さま」当ての丁重なメールをいただき、ごくふつうにご返事をいたしましたところ、速攻で「お名前を間違えてしまって申し訳ありませんっ!」といったお詫びメールをいただきました。なに、全然気にするようなことじゃありません。原稿執筆や出演依頼で堂々と間違えて来られる方もいるくらいで、こんな粗忽な人と一緒に仕事をしていいのかと不安になってしまいますけれども、少なくとも「失礼な!」と腹を立てることだけはございません。

○かような境遇からすれば、「名前の漢字が間違っていた」などと言ってお怒りになる方は、なんて贅沢なんだろう、と思ってしまいます。ワタナベさんは渡辺と渡部の2種類があれば良いと思うんですが、ときどき「俺は渡邉であって渡邊ではない」なんて方がいらっしゃいます。試したことはありませんが、某社長兼主筆に向かってこれを試すのはちょっとリスクがありますよね。

○あるいはサイトウさんには膨大な変化がございます。当方としましては、勝手に「斎藤」と「斉藤」の2つがあればいい、と思っておりまして、「齋藤」や「齎藤」は前者に、「齊藤」は後者にしてしまうことにしております。幸いなことに、今のところ怒られたことはありません。正直なところ、この上、藤の草冠の真ん中が切れているとか、うちは竹冠なんだと言われても、ちょっと覚えきれませんよね。

○名前に使えるのは全部当用漢字に限定してしまえばいいのに、と思っているのですが、世の中の流れは完全に逆であります。昨今は信じられないようなキラキラネームが増えておりますよね。でも、名前なんて他人がおぼえやすくて、ワープロで一発変換できるのに越したことはありません。少なくとも当方の場合は「吉」の上は普通に上が長いし、「崎」の大は立であったりはいたしません。こだわる方がカッコ悪いと思うんだけどなあ。


<11月4日>(水)

○本日は横須賀の防衛大学校へ。以下は防大に関する豆知識。

○防衛大学校は、三浦半島島南端の標高85メートルの小原台に位置し、西に富士の秀峰を仰ぎ、東に房総半島の山々を望み、眼下に紺碧の東京湾を見下ろす景勝の地にあり。敷地は約65万平方メートルで東京ドーム14個分。この場所が選ばれた理由の一つに、ときの吉田茂首相から、「日本の象徴たる富士山が見える場所を」というリクエストがあったとのこと。察するにご本人が大磯に邸宅を構えていたから、そういう気分になったのでありましょうな。本日は完璧な晴天でありまして、富士山が立派に見えました。

○学生は最初の2年間を過ごした後で、陸海空の進路に分かれます。教養課程を終えた後で、専門課程に分かれていく普通の大学みたいですな。こんな風に、陸海空の幹部候補生を同じ場所で育成するのは先進国では例が少なく、ほかは豪州くらいであるとのこと。ちなみに人気があるのは「空」、思い入れ度が強いのは「海」という傾向があるとのこと。ここを卒業すると、例の一斉に帽子を投げる感動的なシーンがあって、陸上は久留米、海上は江田島、航空は奈良、というそれぞれの幹部候補生学校に進んでいくそうです。

○基礎中の基礎ですが、「防衛大学校学生は国家公務員であり、自衛隊員である」。前者は国家公務員法第2条第16項に拠り、後者は自衛隊法第2条第5項に拠ります。全員が学生舎に居住し、被服、寝具、食事などが貸与または支給されるほか、毎月学生手当が支給されます。6月と12月には期末手当が支給されます。

○平成4年に初めて女性自衛官が入学しました。今では全体の1割程度が女性自衛官となっている。既に海上自衛隊では「女性艦長」も誕生している。ただし防大名物の「棒倒し」に参加するのは今も男だけであり、女性は後方支援に回るとのこと。今日の学内には、「棒倒しまであと11日!」という掲示が懸っておりました。

○本日はご同行の仲間とともに、2300人の学生を前にパネルディスカッションをやりました。たいへん熱いひとときを過ごすことが出来ました。質問もたくさん出ました。皆さん、「×大隊×回生(××専攻)、○○○○が質問をさせていただきます!」と言ってから、いろんな角度の鋭い質問を投げかけてくれました。時間足りずで、すべてに対して回答できなかったことが悔やまれます。得難い機会を頂戴したことに感謝申し上げたいと思います。


<11月6日>(金)

○そういえば今週は、生まれて初めて東京モーターショーなるものに行ってきた。その時の感想を備忘録として。


●東京ビッグサイトはすごい人出であった。やっぱり世間にはクルマが好きな人が大勢いる。自動車産業にかかわっている人も大勢おりますし。そして日本には自動車会社がたくさんあって、今は円安のおかげで業績もいい。だから皆が本気でモーターショーをやっている。変な話だが、各社のコンパニオンも水準が高いよねえ。

――日本ならではのガラパゴス的なお祭りだと思います。そういえばビッグサイトや「ゆりかもめ」も、できてからずいぶん経ちましたなあ。

●こういうものをやらせると、やっぱり本田技研がいちばん面白い。なにしろ二輪車はもちろんのこと、飛行機やアシモ君まで登場するのだから。NSXもカッコ良かったし。逆にトヨタ自動車は、ソツがないけれども面白さに欠ける。これからはエコです、水素です、ミライですと言われても、なんか理屈っぽくてワクワク感に欠けるんだよねえ。

――なんてことを書いてしまったけど、実はトヨタさんにもらったチケットで行ったのでして、申し訳ありません。でも、そういうことはあまり気にしない人たちだと思います。

●スズキ自動車なんかも意外と健闘していた。「エッ、これってホントに軽自動車なの?」と何度も思いましたな。最近、ひそかに考えている仮説は、「80代のワンマン社長が率いている会社は”買い”」。その心は、その年になるまで現役で頑張っている独裁者は、会社を私物化していることは間違いないけれども、滅多に間違った判断をすることはない、ということ。

――要するに山縣有朋みたいなもので、最低限、当人が生きている間はボロが出ない。死んでからいろいろ問題は出るかもしれませんけどもね。ウォーレン・バフェットとかセブンイレブンとか、他にいっぱいありますわなあ。

●こんな風に、会社の規模が揃って粒ぞろいであるということが、日本経済のいいところなんだよね、きっと。日本のスケート陣や水泳陣が、「俺がダメでも、アイツが表彰台に上ってくれれば俺は満足!」という各人の頑張りに懸っているようなものでありまして。

――日本の自動車会社って、みんな仲がいいんだよねえ。「自工会」なる組織があって、そこに行くとライバル会社同士が皆、和気あいあいとやっている、なんてことはアメリカの自動車業界が見たらきっとびっくりするでしょう。まあ、日本貿易会も基本的にそうですから。


<11月9日>(月)

○本日発売の「中央公論」では、不肖かんべえが2本寄稿しています。

○ひとつは「時論2015」で、「便利な経済指標、GDPにご用心」といういつもの話をご紹介しています。この欄は去年から丸2年書き続けてきましたが、これでやっと一仕事終わります。やれホッとした。というのも、月刊誌における時論というのは、締め切りがいちばん遅いんです。そこで編集部側としては、特集などで取り上げられなかったいちばんホットな話題を書いてほしいわけです。「ギリシャ」とか、「TPP」とかね。だから毎月、編集部のNさんからギリギリのタイミングで、「今月はコレでお願いしますっ!」というネタ出しが来る。当方としては、そのネタに忠実に書いておりました。

○だから今になって読み返してみると、2年間に書いたテーマは実に多種多様である。なるほどこの間に経済ネタはまことに豊富であったなあ、と思うことしきりです。もちろん、それが時論の正しい描き方と言うわけではなくて、政治担当の宇野重規・東大教授はずっと同じ問題意識で1年を通しているし、社会担当の酒井順子さんは、これまた独自の感性で切り込んでいる。ちなみに今月の「福山雅治結婚の衝撃で無常の風に吹かれる女達」は楽しい論考です。

○それにしても、自分が中央公論の時論(経済担当)を2年間も書いていた、というのはちょっとしたステータスだったな、と顧みて思います。

○もうひとつは「特集 アメリカの鬱屈」(≒米大統領選特集)に寄稿した「合言葉は、『お前はクビだ!』」です。題名でお察しの通り、ドナルド・トランプ現象を取り上げております。今回の大統領選では、やはりこのトランプ現象がいちばんの「華」ですから、ここに登場するあらゆる論者が言及しています。森本あんりさん&中山俊宏さんのコンビが、「反知性主義」という側面からトランプ現象を論じているのはどんぴしゃりの企画ですね。それから、米大統領選のフィールドワークを続けている海野素央さんが、「トランプとサンダースはテレプロンプターを使わない」と指摘しているのは鋭いと思いました。

○オバマ政権下の7年間弱は、「大統領にまったく隙がない」時代であったと思います。だからOrganizedな政治家は胡散くさくて、Unorganizedな政治家はホンネを語るいい人、というイメージが出来てしまった。テレプロンプターこそは、「既成政治家の象徴」でしょう。何事にも「完全」を目指すヒラリー・クリントンは、典型的なOrganizedな政治家ということになるわけです。ということは、簡単には勝たせてもらえませんわねえ。

○逆に共和党側は、「ジェブ・ブッシュがどのタイミングでマルコ・ルビオをEndorseするか」がこれから注目ポイントになってくると思います。あいかわらず支持率ではドナルド・トランプとベン・カーソンが他を引き離していますけど、この状態はもって年内いっぱいでしょう。ベン・カーソンは、昔の自叙伝に「嘘」とは言えないまでも「ふかし」が入っていることが指摘され始めています。大統領選挙に出ると、いろんなことに突っ込みが入るんですよねえ。


<11月10日>(火)

○そろそろ今年を締めくくり、来年を予想するという季節に差し掛かりました。差し当たって、今年の流行語ってなんでしょうかね。いくつか考えてみました。


●反知性主義

――本家本元の意味をよくわきまえずに、「俺の話が聞いてもらえないのは、世間が反知性主義になっているからだ!」と言って怒っている人は、とっても知性がなくて恥ずかしいと思います。

●難民/移民

――難民を受け入れたメルケル首相が持ち上げられたかと思ったら、もう叩かれている。そして移民をバッシングするドナルド・トランプには追い風が吹いている。つくづくこの問題は取扱注意です。

●新国立&エンブレム

――決まったはずのことが、ネット世論のおかげでで覆る、ということが起きてしまった2015年。「ご破算にして一からやり直し」ができるようになったことは、日本社会として進化なのでしょうか。

●SEALDs

――賛否両論がありますけれども、とりあえず「若者が珍しく政治に関心を持った」「集団で行動した」ということは、2015年の際立った特徴といえましょう。

●インバウンド、爆買い

――沈滞する国内消費にとって「干天の慈雨」みたいな存在でした。2011年に600万人だった外国人訪日客数が、今年は2000万人に届こうかという勢い。来年はどうなるのか、ちょっと不安です。

●JAPAN WAY

――エディ・ジョーンズ率いる日本ラグビー「ブレイブ・ブロッサムズ」は、いい意味で期待を裏切ってくれました。流行語大賞としては、「五郎丸」「ルーティン」「リーチマイケル」など、他にいろんな可能性があると思います。

●TPP合意

――甘利大臣の髪の毛は白くなったけど、「日本外交も結構やるじゃん」と思えた交渉でした。

●ピケティ(21世紀の資本)

――年初はすごい勢いでしたけど、意外と広がりを欠きました。「格差」を大きな声で語ることは、やっぱり憚られることなのでありましょうか。

●新常態(ニューノーマル)

――2015年という年は、中国経済の減速が始まった年として記憶されることと思います。そりゃもう7%成長なんて二度とないでしょうから。考えてみれば、資源価格の下落が始まった時点で、予測してなきゃいけない話でした。

●福山雅治ロス(ましゃロス)

――芸能人の結婚がこれだけ社会に深い影響を残すというのは、ほとんど感動的なくらいの事件だと思います。1年前に亡くなった高倉健さんとは別種の存在感と言えましょう。


○テレビドラマもお笑い芸人も、いまいち流行語が不作の年だったと思います。なおかつ政治家の「ひとこと」も、気の利いたものがありませんでしたねえ。忘れているようなものがありましたら、教えてくださいまし。

(→後記:実はもう候補が発表になっていました。下記をご参照。なるほど、いろいろありましたなあ。)

爆買い インバウンド 刀剣女子 ラブライバー アゴクイ ドラゲナイ プロ彼女 ラッスンゴレライ あったかいんだからぁ はい、論破! 安心して下さい、穿いてますよ。 福山ロス(ましゃロス) まいにち、修造! 火花 結果にコミットする 五郎丸ポーズ トリプルスリー 1億総活躍社会 エンブレム 上級国民 白紙撤回 I AM KENJI I am not ABE 粛々と 切れ目のない対応 存立危機事態 駆けつけ警護 国民の理解が深まっていない レッテル貼り テロに屈しない 早く質問しろよ アベ政治を許さない 戦争法案 自民党、感じ悪いよね シールズ(SEALDs) とりま、廃案 大阪都構想 マイナンバー 下流老人 チャレンジ オワハラ スーパームーン 北陸新幹線 ドローン ミニマリスト ルーティン モラハラ フレネミー サードウェーブコーヒー おにぎらず


<11月11日>(水)

○大阪へ。御堂筋線に乗ったら、車内アナウンスで「必ず投票に行きましょう」と言っていた。そうなのだ。今はダブル選挙の真っ最中。府知事選と市長選、両方勝たないと、「おおさか維新の会」は終わってしまう。とりあえず、あんまり盛り上がっているようには見えない。

大阪倶楽部というところで講演。お題は1年後に控えている米大統領選。主催者さんとの会話。

「ドナルド・トランプさんて、どんな人なんですか」

「テレビタレントで、口が達者で、政治経験はないアウトサイダーで・・・」

「まるで、橋本市長みたいですなあ」

「いやあ、橋本さんの方が賢いと思いますよ」

○トランプ人気はしぶといです。ここを見ると、一度はベン・カーソンに逆転されたのですが、再び首位に立っています。「夏にはデートの相手、冬には結婚相手を探す」と言われる米大統領選の候補者選びですが、いい加減秋も深まってきたというのに、ここまで粘るというのはある意味立派です。もっともトップと言えども25%ですから、4年前にミット・ロムニーが「4割の壁」に苦しんだことを思い出すと、まだまだ先は長いと言わざるを得ません。

○カーソン氏は、自叙伝の中に「ふかし」があった(ウェストポイントから全額奨学金で入学の誘いがあったけど断った/キング牧師が暗殺されて黒人暴動が起きかけたときに、白人をかくまってあげた他→でもそういう事実はなかった)という指摘が出てきて、ちょっと揉めてます。まあ、「私の履歴書」が少し「盛ってある」っていうのはよくある話で、どうってことはないと思うんですが、大統領候補になるとそういうことまで暴かれてしまうのですよねえ。


<11月13日>(金)

○本日は長野県上田市へ。現地で聞いた噂話のご紹介(裏は取ってませんので念のため)。

●何と言っても来年の大河ドラマは「真田丸」。地元が賭ける期待は熱い。真田信繁(通称幸村)を演じるのは半沢直樹、じゃなくって堺雅人。やっぱり大河は戦国時代に限るよね。

――真田一家がドラマが取り上げられるのは久しぶりなので、意外と行けるんじゃないかと思います。『真田太平記』とか『真田十勇士』って久しく見てないものねえ。

――来年の大河では、真田昌幸役は草刈正雄ということになっている。彼は昔、NHKでやってた「真田太平記」では幸村を演じていた。30年もたつと、今度は父の役をやるのですなあ。

●上田城は平城で天守閣はなく、石垣も小さくて見栄えはしないけれども、実戦にはめっぽう強くて徳川の大軍を2度も破っている。

――真田氏2代が統治した後は、仙石氏が3代、松平氏が7代にわたって城主となった。江戸時代にやたらと百姓一揆が起きているのは、やはり真田氏への愛惜の情が深かったのでありましょうか。

――当地における紅葉の見ごろはもう済んだと聞きましたが、それでも上田城址の黄色や赤は色鮮やかでありましたぞ。

●「平成の大合併」によって、市町村の数は全国3300から一気に1000くらいに減ったが、今では「村」は100程度しか残っていない。そのうち3割程度が長野県内にある。

――昔居た変な知事が残した「負の遺産」である、てな声もあったりして。

●北陸新幹線が通ったお蔭で、長野新幹線の本数は減ってしまい、上田駅を使う人たちにとっては不便になったとか。

――すっ、すいませーん。でもきっと、上越新幹線の方が影響度は大きいと思います。そのうち、北陸のお客さんが長野へ大挙してお返しをするということでお許しを。

●上田市の人口は16万人程度だが、蕎麦屋が60軒もある。今は新蕎麦の季節ですからなあ。ちょっと試してみたかったでござる。

――「食べログ」で検索してみたら、上田市の蕎麦屋は74軒もありました。お値段もリーズナブルで、結構でありますなあ。


<11月15日>(日)

○「13日の金曜日」に、パリでホントに悪いことが起きてしまいました。さっそくこんな反応が出ています。"We are all Parisians." フランスには一回も行ったことがない、というのが自慢の不肖かんべえも同意いたします。

○IS(イスラミックステーツ)による犯行声明文の英訳はこちらをご参照。アラーは偉大なりと。そりゃそうかもしれんが、テロをする奴らは卑小なり。

○11月30日からパリではCOP21が行われる予定。ただし首脳会談は中止になるかもしれませんね。なにしろ2週間で事件の全容を明らかにし、共犯者をすべて逮捕する、というのはちょっと難しいでしょう。地震の後に余震が起きるように、模倣犯が出ることも警戒しなければなりません。

○明日からはG20(15−16、トルコ)、そしてAPEC(17−18、フィリピン)、さらにASEAN首脳会議(19−21、マレーシア)など、国際会議ウィークとなります。そこでどんな協議が行われるか。ちょっと他の問題がぶっ飛んでしまうかもしれません。

○以上、とりあえずの反応として。

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○さすがはThe Ecoonmist誌でありまして、昨日の時点で記事が出ております。さっそく抄訳を作っておきましたのでご参照あれ。



”Terror in France” What Paris’s night of horror means for Europe

November 14th 2015


 昨晩のパリで起きた一連のテロ行為は、西側の諜報及び公安機関が警告を発してきた悪夢のシナリオである。8年前にムンバイで166人を殺害したジハード隊による襲撃以来、同様の事例は未発であったり、偽りであったりした。だがかつてIRAが言っていた通り、「われわれは一度成功すればいいだけだが、君たちはいつも成功しなければならない」

 欧州の脆弱性を高めたものは、シリアにおける長引く内戦であり、アルカイダ(AQ)以上にジハーディスト予備軍を呼び寄せる「イスラム国」(IS)の台頭である。パキスタンの部族地帯のAQが米軍ドローンの攻撃によって弱体化する一方で、ISは力を得てきた。昨年夏にイラクで猛威を振るい、カリフ国を僭称してSNSで宣伝することにより、ISは急進化し、数千もの若き欧州の(フランスのみならず)イスラム教徒たちを動員してきた。

 ISの根拠地であるシリアのラッカヘ行くのは、トルコ行きの飛行機に乗って後は陸路で済むが、戻ってくることは容易でない。公安や警察は全力で彼らを監視し、証拠があれば検挙する。が、過去4年間でシリアに向かったジハーディストの少なくとも半分が、凶暴、残忍化して抜け目なき支援網に取り込まれている。英仏で4〜500人規模と目されている。

 さらに故国を離れたことのない未知数の急進的な個人がこれに加わる。ジハードのプロパガンダを真に受けて、「ローンウルフ」型攻撃を実行するものだ。例えば、8月にベルギーで列車乗客への殺戮を試みた若者はモロッコ国民だった。この手の攻撃は予測困難で、すべてを監視することが不可能であるために、公安機関にとって切実な問題となっている。

 昨晩の8か所の攻撃の背景はまだ不明だが、作戦の緻密さや非情さから言って、シリアのISキャンプか今もAQが強いイエメンで訓練を受けていないとしたら驚きだ(1月のシャルリー・エブド事件の犯人たちはそうだった)。彼らの支援を受けていないことも考えにくい。

 当局にとって最も悩ましいのは、かかる複雑な筋書きが感知されることなく、いかに着想されたかである。ここ数週間で懸念は増えていたのに、警戒はいつも通りだった。

 もしも西側の査察機関が、こうした大型作戦の前に出る「ささやき」(2週間前のロシア機爆破の時はそれがあった)をキャッチできていなかったとすれば、まことに深刻な問題である。昨夜の攻撃のような計画には数週間を要し、実行犯以上を巻き込んでいたはずである。(ISの「ジハーディー・ジョン」が、12日に爆殺されたことへの報復という見方は穿ち過ぎだ)

 スマートフォンの暗号機能が強化され、顧客のプライバシー保護の企業努力が、「雲隠れ」を望むテロリストたちへの贈り物となっている恐れも増大している。仏英いずれでも、公安機関は容疑者盗聴の権限を与えられているが、技術競争に後れを取っている可能性がある。

 少し気が早いが、欧州では2004年のマドリッド列車爆破事件以来の凶悪テロ事件ということになろう。欧州国境への危機意識を高めることは必定だ(欧州内の移動を認めるシェンゲン協定についても)。シリアから流入している多くの難民の中に、時至れば害を為そうとする戦士が含まれていると怖れるのも無理もない。同時に、西側の文化慣習や外交政策を反イスラム的と見なす「内なる敵」への不安も掻き立てられよう。イスラム人口が多い欧州のほとんどの国は、反急進主義の教育制度を用意しているものの効果は覚束ない。そして昨晩の結果を、喜んで利用しようとするポピュリスト政治家は全欧に事欠かない。

 より大きな問題は、かかる攻撃へのリスクを減らすために欧州は何ができるのかだ。シリア内戦を終わらせ、IS国を破壊する協調行動は難民を減らすかもしれないが、恐怖を根絶することにはなるまい。むしろISは「遠くの敵」との戦いに注力するだろう。

 大いなる懸念は、欧州における自動武器の入手可能性(英国は厳しい銃規制法があるが)、そして国境を越えることの容易さであるに違いない。多くの人が集まるスタジアム、駅、コンサート、政治集会などが大規模テロ攻撃の対象となり、イスラエル型の安全対策が欧州全体に広がるとしたら? それは政治的には論外で、経済的には破滅的で、テロリスト側の明らかな勝利宣言ということになるだろう。

 次に訪れる悲劇の規模とタイミングに多くのものが懸っている。生活は素早く平常に戻るだろう。だが、これまでは市民を守ってきた欧州の公安機関が、この手の攻撃を防ぐことができなくなれば、平静を保ちやり過ごすだけが選択肢ではなくなるのかもしれない。

―――

○今年の年初、ユーラシアグループの「2015年のトップリスク」で第1位に「欧州の政情」を挙げていました。ホントに今年の欧州は踏んだり蹴ったりですな。


<11月16日>(月)

○いやあ、大変な時代になったものだ、とこの記事を見て思いましたな。金曜日の夜にパリが攻撃を受けた後、アメリカ大統領選挙の候補者たちはその日のうちに次々とツイッターでコメントを発表しているのです。


Donald Trump: My prayers are with the victims and hostages in the horrible Paris attacks. May God be with you all.

Bernie Sanders : Horrified by the attacks in Paris tonight. My thoughts are with the victims and their loved ones.

Hillary Clinton: The reports from Paris are harrowing. Praying for the city and families of the victims.

Jeb Bush: Praying for Paris tonight. America will stand with you against terror.

Ben Carson: My thoughts and prayers are with the people in Paris tonight.

John Kasich : Our prayers go out for the people of Paris tonight. We can't wait any longer. ISIS must be wiped out.

Rick Santorum: Tonight we pray for and mourn with our French brothers and sisters. Today's horror is another reminder that we must be vigilant against evil.

Rand Paul : My thoughts and prayers are with everyone in Paris tonight. This is truly horrific.

Chris Christie : The terrorist attacks in France tonight are alarming and heartbreaking. Our thoughts and prayers go out to the victims and their families.

Jim Gilmore: The Western order of democracy and liberty is under assault, and must be defended.

Lindsey Graham : This isn't just an attack on the French people, it's an attack on human decency & all things that we hold dear. My heart breaks for the families of those killed, the hostages, & injured. There's a sickness in the world that has to be dealt with & we must come together to confront it. America should lead that unity.

Martin O'Malley: Heartbreaking news from Paris. Praying for the country and its people.

George Pataki: My heart goes out to the families of the French victims. These horrid attacks are a shock but not a surprise. A weak America is never safe. Do dem candidates for pres still think climate change is our greatest security risk? Clearly it's radical Islam and we must stop isis now.

Bobby Jindal : Our thoughts are with the people of France. Please say a prayer for Paris as they deal with this horrible attack.

Ted Cruz : Horrific reports coming out of Paris. Our thoughts and prayers are with all the people of France - our oldest ally.

Marco Rubio : Praying for victims of attacks in Paris and for those reportedly held hostage. These brutal terrorist attacks against innocent civilians are a reminder of the increasing dangers facing free peoples around the world. It is important for all Americans to stand with the people of France in this difficult time. As we learn more about the attacks and who is behind them, the United States should assist the French government in finding those who are accountable and bring them to justice. We cannot let those who seek to disrupt our way of life succeed. We must increase our efforts at home and abroad to improve our defenses, destroy terrorist networks, and deprive them of the space from which to operate.

Mike Huckabee: My prayers are with the people of Paris, France. America will always have your back in the war against terrorism. Always.

Carly Fiorina: I mourn with you. I pray with you. I stand with you. America must lead in the world. We must wage & win this fight against Islamic terrorism.

(赤丸は共和党候補、青丸は民主党候補)


○日本風に言えば「お悔やみを申し上げる」とか、「被害者のために祈りたい」といった紋切り型の文句になりそうなところ、皆さん、いろんな芸風を発揮されている。今までのところ「いいところなし」のリンゼー・グラハム候補なんぞは、この機会に民主党批判もやっちゃっている。記者からの取材を待っている時代じゃなくて、自分から発信しなければならない。なおかつ、ここで変なことを言っちゃうと、そこで選挙戦が終わってしまう。候補者本人の反射神経が問われるところである。いやはや、今日の選挙は大変でありますな。

○普通に考えると、こういう事件が起きるとベテラン候補者が有利になる。民主党で言えば、ヒラリーが有利になってサンダースは不利になる。それはそうだろう。共和党ではどうか。これでトランプ&カーソンの人気は落ちるんだろうか。今回の選挙に限っては、その辺が分からない。

○とりあえず、上のコメントを見ていると"America must (should) lead."と言っている人が目に付く。そうあるべきだと思います。問題はそれをどうやってやるのか、でありますな。


<11月17日>(火)

○今宵は平和・安全保障研究所「第7回月例研究会」の講師を務めました。

○テーマはTPPで、当方としては今さら新しいこともないのだけれど、安保関係者が対象ですからいつもとはちょっと勝手が違う。で、いつものような話をしていたら、いくつも鋭いご質問をいただいているうちに、途中で「あああああっ、そうだったのか!」と発見してしまったことがある。

○以前に本誌でも書いた話ですが、TPP成功のカギは、TPPの追加参加条件(Accession)がもともと非常に緩いもの――「既に参加している国の賛成があれば、APECのメンバーとその他の国々は協定に加わることができる」――であったことにある。この部分の原文は下記の通り。


Trans Pacific Strategic Economic Partnership Agreement(2005)

Article 20.6: Accession

1. This Agreement is open to accession on terms to be agreed among the Parties, by any APEC Economy or other State.


○この文面、ちょっと変ですよね。「その他の国々は」協定に加わることができるのであれば、ここでわざわざ「APECのメンバーと」なんて言葉を入れる必要はない。単に"by any other State."でいいはず。なぜなんでしょう?

○ところがですな、単純に「いかなる国も協定に加わることができる」と書いちゃうと、台湾と香港が除外されてしまうのであります。台湾と香港はAPECのメンバーではあるけれども、いちおう「国」ではないということになっている。だからAPECのコミュニケには、Countryという言葉は全く出てこない。すべてEconomyという言葉に置き換えられている。つまり"by any APEC Economy"という言葉は、台湾と香港に対してTPP参加の可能性を認めているわけだ。

○つくづく条約や協定の文言というものは油断がなりません。TPPの最初の条文を書いたのは、たぶんニュージーランドのグローサー貿易相だと思いますけれども、ひょっとすると2006年のP4発足時点で、「将来における台湾と香港の可能性を残しておこう」などという配慮があったのかもしれません。

○いやあ、来年年明け早々には台湾で総統選挙がありますけど、民進党の蔡英文候補が勝ったら、きっと外交政策として「台湾のTPP交渉参加」をトライしてくるんじゃないでしょうか。


<11月18日>(水)

○本日はかんぽ財団主催の「かんぽフォーラム2015」で基調講演とパネルディスカッションを務めました。主催者さんによれば、「今年は特にネットの申し込みが多かった」とのことで、「10月16日で締め切らせてもらいました」「溜池通信を見て応募された方が多かったのではないか」などと脅かされておりました。

○言われてみれば、文京シビックホールの客席には、よく知っている方が多く見えていたような気がいたしました。さすがにお一人おひとりを確認することまではできなかったのですが、とりあえずご来場くださった皆様には厚く御礼を申し上げたいと思います。

○本日、ご一緒にパネリストを務められたのは、もともと伊藤忠商事でエコノミストを務めておられた北井義久さん(現・日鉄住金総研チーフエコノミスト)と、モーサテのコメンテーター仲間であるところの中空麻奈さん(BNPパリバ証券 投資調査本部長 チーフクレジットアナリスト)でありました。思い切りのいい話がいっぱい聞けたのではないかと思います。

○コーディネーターを務めていただいたのはNHK解説副委員長関口博之さんでありました。このページを見ると、関口さんのご趣味は「公園散歩・ミニカー収集」とあります。ミニカーって、いったいどんな感じなんでしょうね。この次お会いした時に聴いてみたいと思います。

○かねがねNHKの「時論公論」という番組は、とってもスグレモノの情報源ではないかと思っております。この番組、実はネットで見た方が早い。なおかつ、「絵」がすばらしい。政治家の似顔絵なんぞも、とっても似ていると思うんですよね。ということで、本日のシンポジウムのご報告でありました。


<11月20日>(金)

○同世代の中年オヤジが集まって、こういう話が出ました。「最近になってマラソンを始めているのは、昔、ゴルフをやってた連中ではないのか?」

○その証拠に、彼らを見ていると以下のような傾向がある。

1.能書きが長い(1週間前から低糖質食にしておいて、3日前からでんぷん質を多く取るといいんだよ)

2.言い訳も多い(いや、昨日の晩は飲み過ぎちゃってねえ、今日はいいタイムは出ないんじゃないかなあ)

3.道具にこだわる(新しいシューズを買ったんだけどねえ、これ高いけどいいんですよ)

○確かに最近は、毎週のようにどこかでマラソンをやっておりますな。この週末は「つくばマラソン」があるんだそうです。えっ、ゲストランナーで増田明美さんが出るんですか。どうぞよろしくお伝えください。

○さる中年ランナー曰く。この年になってタイムが縮まるというのが堪えられないとのこと(確かにこの年になると、他のあらゆる数値は悪化してしまう)。ただしマラソンの参加料金は上昇傾向にあり、つくばは7000円だけど横浜マラソンは1万5000円だとか。なるほどこれはゴルフ並みかも。

○その一方で、最近のゴルフ場は「2000円のランチ代を惜しんで、帰りにガストに寄るようなCost consciousな客」が増えて、客単価の下落に頭が痛いんだそうです。確かに「お付き合い」じゃなかったら、ゴルフも余計なカネは使いたくないですわなあ。

○ゴルフもマラソンもやらない不肖かんべえは、今週末はきっとマイルチャンピオンシップです。今週もまた高くついてしまうのかなあ・・・・。


<11月23日>(月)

○3連休はつくばに行ったり、品川でぐっちーさんと掛け合い漫才をやったり、マイルチャンピオンシップで久々に三連複が取れたり(でも安かった)、日々バタバタしております。

○で、以下は最近読んだ本。

●沈まぬアメリカ (渡辺靖)新潮社

アメリカが没落しているなどと言うなかれ。その間にも、アメリカ発のいろんなものが世界に広まっておりますぞ。「ハーバード大学」「ウォルマート」「メガチャーチ」「セサミストリート」「ロータリークラブ」など。世界にソフトパワーを広げるとは、まさにこういうこと。しかも著者はひとつひとつのテーマについて、現場を訪れて取材したうえで書いている。文化人類学の手法は恐ろしく丁寧なのだ。着眼大局にして着手小局、学者の良心の結晶のような本。

●織田信長の外交 (谷口克広) 祥伝社新書

この著者の信長本は中を開かずに買える。というか、見たら即買わねばならぬ。究極の信長オタクによる最新研究が詰まっているからだ。中公新書だけで5冊くらい持っているぞ。で、本作では織田信長の外交に焦点を当てていて、足利義昭や天皇家との関係を注意深く書いている。これを読んでみると、天正10年の時点で信長の天下統一はほぼ指呼の間に捉えていたことになる。本能寺の変は、やはり起こるべくして起こったのだろうか。

●近代政治家評伝 (阿部眞之助) 文春学芸ライブラリー

どこかのチームのキャッチャーじゃありませんぞ。戦前派の大物政治記者が、山縣有朋や原敬など大物政治家たちを、見てきたように(というか、しばしば彼らの謦咳に接しているのだが)、遠慮なくぶった切って書いている。西郷隆盛と大久保利通は、若い頃にホモだちだったから、最後の別れ方は収拾不能になった、などというあられもない解釈もあったりする。「そこまで言わなくとも・・・」と何度も思ったが、この人物論の名調子は癖になる。

●日本人の歴史観 (岡崎久彦、北岡伸一、坂本多加雄) 文春新書

2002年に『諸君!』に載った鼎談が、最近になって復刻された。10時間に及んだという3賢人の談論風発を、まるで側で聞いているような楽しい気持ちになれる本。歴史認識に関する保守派のホンネの議論が展開されている。「サヨクの皆さん、あんたたち、この歴史認識に勝てる?」と喧嘩を売っているようなところもあるが、彼らはきっと知らんぷりするんだろうな。ふふん。

○さて、これから取り掛かるのは『分極化するアメリカとその起源』(西川賢、千倉書房)。新進気鋭の政治学者による2冊目の単著なんですが、パラパラとめくった瞬間に名著の予感がぷんぷんといたします。装丁の美しさにまた心奪われるものあり。校閲や装丁がいい加減な名著というものはあり得ませんから、ワクワクしつつページをめくることといたします。


<11月24日>(火)

○今朝のモーサテで、「モーサテサーベイ」のコーナーを見ていたら、文字通りぶっ飛んでしまった。ああ、コーヒー飲んでなくてよかった。


佐々木「さあ、そこでアメリカの利上げですけれども、市場関係者の織り込みはどこまで進んだんでしょうか」

林「モーサテサーベイでは、来月利上げとの予測が97%と過去最高まで上昇。市場の折り込みがほぼ完了したことが読み取れます」

佐々木「そ−ですねー。でもむしろ来年1月という見立てがあるというのも気になりますね」

林「たった1人、来年1月と予測したのは双日総研の吉崎達彦さん。『まだ若干のリスクが残っている。シリア情勢にも要注意』と警鐘を鳴らしています」


○こっ、これはイジメか、と思ったけど、よくよく考えてみれば、ワシまでもが12月説に1票を投じていたら、なんと「12月説が100%」という結果になっていたことになる。それでは市場の多様性が失われてしまう。いや、それはワシだって12月に利上げが行われて、それで何もなければそれに越したことはないと思うけど、市場の見方が100%ってことはあってはならないでしょう。

○ご参考までに、これまでのモーサテサーベイの「アメリカの利上げ時期」をめぐる経緯を記録しておきましょう。市場の受け止め方というのは、まさしくこんなものなのであります。(黄色はマジョリティの意見)

調査日時 9月 10月 12月 来年1月 来年3月 来年4月 それ以降 なし
8月7〜9日 74.19% 12.90% 12.90% 0.00% 0.00% 0.00%
8月14〜16日 72.00% 12.00% 16.00% 0.00% 0.00% 0.00%
8月21〜23日 56.67% 6.67% 36.67% 0.00% 0.00% 0.00%
8月28〜30日 29.63% 22.22% 37.04% 3.70% 7.41% 0.00%
9月4〜6日 22.22% 37.04% 33.33% 3.70% 3.70% 0.00% 0.00%
9月11〜13日 12.90% 51.61% 22.58% 6.45% 6.45% 0.00% 0.00%
9月25〜27日 23.53% 61.76% 5.88% 5.88% 2.94% 0.00%
10月2〜4日 3.45% 72.41% 6.90% 10.34% 0.00% 6.90%
10月9〜12日 0.00% 62.50% 12.50% 15.63% 0.00% 3.13% 6.25%
10月16〜18日 0.00% 54.84% 6.45% 32.26% 0.00% 3.23% 3.23%
10月16〜18日 0.00% 54.84% 6.45% 32.26% 0.00% 3.23% 3.23%
10月23〜25日 0.00% 53.57% 10.71% 23.00% 0.00% 0.00% 10.71%
10月30日〜11月1日 61.29% 3.23% 22.58% 0.00% 3.23% 9.68%
11月6日〜8日 85.19% 3.70% 7.41% 0.00% 0.00% 3.70%
11月13日〜15日 94.59% 2.70% 2.70% 0.00% 0.00% 0.00%
11月20日〜22日 97.06% 2.94% 0.00% 0.00% 0.00% 0.00%



○ところでこの質問、12月15-16日の直前まで繰り返されるのでしょうね。そうだとすると、あと3回も巡ってくることになる。孤独を噛みしめる瞬間もありそうだけど、せっかくなので8月最終週から続けてきた「来年1月説」を続ける所存であります。いや、けっしてムキになっているわけじゃないんですけれどもね。


<11月26日>(木)

○とうとうウチにも「マイナンバー」が来た。来たけれども家の者が留守だったので、今朝、柏郵便局に取りに行った。時間外の郵便物受取窓口には、「マイナンバー専用レーン」なるものができていた。いやー、郵便局の皆さま、お疲れ様であります。なんとか11月中に間に合いそうで良かったですね。

○いろいろ不安や疑問もあることではありますが、このマイナンバーという制度は、おそらく民主党政権の時代に行われたほとんど唯一の『功績』ではないかと思います。自民党政権がずっと続いていたら、きっとできなかったことでしょう。だから大切にしなければなりません。医療に使うというのはちょっと心配ですが、とりあえず納税には大いに役立ててほしいと思います。

○で、マイナンバー制度が間に合うのであれば、あの愚劣な軽減税率という制度は回避できるよねえ、やれやれと思っていたら、公明党=読売新聞連合軍が意外と強硬で、とうとう実施されてしまいそうです。おそらくエコノミストで軽減税率に賛成している人は居ないと思いますが、なにしろ世論が支持しておりますので、これはもうどうにもなりません。

○つい先日も、講演の機会がありましたので、「軽減税率なんて、金持ちが得する制度だから、格差が拡大してしまうんですよ。所得の再分配の逆になるんですよ」、「税率を上げる商品と上げない商品の『線引き』なんてできっこないですよ」、「商店業者などの納税手続きも面倒になるんですよ」、「唯一、軽減税率に意味があるとしたら、将来、税率が20%くらいになることが分かっているから、今のうちに税率を2通りにしておきましょう、という時だけですよ」などと力説していたら、見る見るうちに聴衆が不機嫌な顔になっていきましたな。

○まあ、「専門家と庶民感覚が食い違っていたら、専門家の言うことを聞いちゃダメ!」と考えるのが最近の世の中であります。ワシ的には半分以上諦めているのですが、こんな明らかな失政が行われようとしているのを、じっと見てなきゃいかんというのもアタマに来るので、せいぜい嫌味くらいは言ってやろうと思っております。


<11月28日>(土)


ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん。


○というと、萩原朔太郎の有名な詩(『旅上』)でありますが、やっぱり普通の日本人にとってはフランスは遠い国なんだと思います。いくらヴィトンやエルメスを持っていても、ボルドーやボジョレヌーボーを嗜んでいても、エッフェル塔やルーヴル美術館のことを知っていても、所詮はどうでもいい国なんですね。

○11月13日のテロ事件が起きてから2週間、いろんなことが起きておりまして、それは世界を揺るがしておるはずなんですが、不思議なくらいに関心は高くありません。テレビでこのニュースを取り上げると、あっという間に視聴率が下がるのだそうです。だから心ある人たちは、「なぜ日本のマスコミはこの事件を報道しないんだ!」などと言わないようにしましょう。それは木に拠りて魚を求むるようなものであります。そのためにCNNやBBCがあるんじゃないですか。

○テロ事件の後に、やっぱりISISを倒さなければならないということになりまして、各国がシリア空爆に精を出しております。日本も手伝えという声はどこからも出てきません。当然ですよね。集団的自衛権というものは、そんなに気安く発動すべきものではありません。たぶん官邸も全然考えていないと思います。

○その後、ロシアとトルコが一触即発になったりして、ますます事態は悪い方向に向かっております。考えてみたら、同じシリアでもロシアはアサドを応援したいと思っていて、トルコは反体制派をテコ入れしているのですから、仲良くできるはずがありませんよね。それこそISISの思うつぼなんですけれども。しかるにトルコもロシアも、どちらにもまったく肩入れする気にはなりませんな。

○エルドアン大統領とプーチン大統領は、COP21があるということでこれからパリに入るそうです。果たして首脳会談は成立するんでしょうか。ここですれ違いが続くようだと、いよいよ危機管理の問題になってしまいます。ここはひとつ、両巨頭と仲が良い安倍さんが間を取り持てるといいのですけどね。もっとも、君子危うきに近寄らず、いう金言もある。やはりフランスは遠くから眺めるのがいちばん、ということになるのかなあ。


<11月30日>(月)

○明日は新語・流行語大賞の発表日です。そっちはもういいや、ということで、以下は今年の漢字(12月15日発表予定)を考えてみました。


 安  安保法制、安倍首相、円安、安心してください、とにかく明るい安村

 憲  憲法、立憲主義、違憲状態

 節  戦後70年節目の年、物価上昇で節約、原節子さん逝去

 恐  ISISによる数々のテロ事件(シャルリーエブド、後藤健二さん、パリ同時多発テロ他)

 爆  爆買い、自爆テロ、天津の爆発事故、ロシア機爆破事件

 改  データ改ざん、解釈改憲、新国立とエンブレムの改訂

 結  有名人の結婚ラッシュ、羽生結弦、ラグビーの結束


○ちなみに、過去に使われている「戦」(2001年〜9/11テロとアフガン戦争)、「災」(2004年〜新潟中越地震、台風多数)、「偽」(2007年〜食品偽装、年金記録など)などは除外しました。(「金」は2000年と2012年で2回使われているんですけどね)。

○「安」か「爆」だと順当だと思うけど、あんまり当たるような気がしない。いくら時の人だからと言って、「五」(五郎丸)はないよね。昨日は自民党立党60周年記念式典のサプライズゲストと、ジャパンカップのプレゼンターというダブルヘッダーをこなしていたようですが。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki