●かんべえの不規則発言



2016年7月







<7月1日>(金)

○Brexitや参院選の陰に隠れておりますけれども、7月10日参院選が終わると、その直後の7月14日は都知事選の公示日である。そして投票日は7月31日である。このスピード感、あまり理解されていないような気がします。

○それというのも、小池百合子衆議院議員が出馬宣言をしたときに、「俺は聞いてないぞ」みたいな反応が一部にあったのですが、この後に及んでそんなことを言ってちゃダメでしょう。おそらく小池先生のことですから、ポスターの写真などは、とっくの昔に撮り終えておられるものと拝察いたします。これって大事なことなんですよ。(後記→どうやら7月3日に撮影されたようです。失礼しました)

○公示日というのは、都内の全ての掲示板に、少なくともその日の午前中にはポスターを貼り終えなければならない日のことを意味します。そうでないと、「××選対は人が足りないらしい」という噂が立って、有権者が去っていきますからね。公示日の午前中には「出陣式」がありますけど、そこに集まる人とは別に、ポスター貼りのボランティアを用意しなければならない。その人たちをいかに確保するか、というのは選挙戦の初歩中の初歩です。

○しかも東京都は意外と広い。23区だけじゃなくて、三多摩地区もあれば島嶼部もあるんです。ポスターは最低でも7月11日(つまり参院選の翌日)には出来上がっていて、都内各地に届いている必要がある。逆算していくと、6月中から準備しておかないととても間に合わない。「参院選の結果が出てからゆっくり考えよう」などという人は、既に負け組なんです。

○ということで、この週末くらいからバタバタと立候補宣言が相次ぐのではないかと思います。さらに世の中には、「参院選に迷惑をかけてはいけないから」と、今は黙って準備を進めていて、7月11日以降にやおら立候補宣言をする人もいることでしょう。「後だしジャンケン」が有利なことは、過去のパターンから立証済みですし。

○もっともポスターはいいとして、政策の準備をどうしたらいいものか。2代続けて現職都知事を引き摺り下ろして、急場で選挙をやっているものだから、どんどん変な知事、お粗末な政策になっていくのは目を覆わんばかりです。せめてこの上は、次期都知事は「2019年4月には辞任する」ことを公約にして、都知事選のサイクルを昔のように統一地方選挙のときに戻してくれたらいいのにな、と思います。そうすれば「東京五輪直前の混乱劇」は回避できますしね。

○東京都政をめぐる現在の混乱は、2012年12月の衆院選において、石原都知事が突如として国政に出てしまったことに始まります。それが猪瀬都知事を生み、それがコケてしまった。そこで急場の選挙をまたやって、舛添都知事を生んだけれども、それがまたコケたわけでありまして。抜き打ち選挙は、準備不十分の首長を作ってしまう。だからなるべくなら、首長選挙は統一地方選挙のサイクルに戻すのが良いと思います。

○とまあ、東京都知事選について語り始めると、ついつい嘆かわしくなって腹立ちモードになってしまいます。でも、いっそ開き直って、それもいいことなのかもしれません。要するに、あれは娯楽だと割り切ればいいんです。東京都は財政だって余裕があるんだし、官僚機構も優秀ですから。東京都知事選で遊ぶくらいなら、大丈夫、日本の国は亡びはしません。この際だから、芸能人やスポーツマンの都知事でもいいじゃありませんか。

○なにしろ世の中には、「EUを抜けるべきかどうか」という大問題で国民投票という火遊びをして、シャレにならない事態に陥っている国も居るわけですから。国債がいきなり2ノッチ落とされる、というのはまことに深刻な事態です。通貨は下がるし、金利は上がるし。よりによって、あの現実主義者の英国人がそんなことをしてしまうなんて・・・・。酷な言い方になりますが、英国は「貧すれば鈍する」という通りの展開だと思います。でも、日本の有権者に「東京都知事選で遊ぶ」という心のゆとりがあれば、きっと国政で変な過ちをしでかす恐れは少なくなることでしょう。

○ということで、7月はこの娯楽を心行くまで楽しみたいものだと思います。


<7月3日>(日)

○その昔、1990年代前半に長女がお世話になった共同保育所の同窓会がありました。諸事情があって、2007年春に解散したのでありますが、そのときに関係者一同が集まって以来、ほぼ10年ぶりに往時の保育士や父母たちに会ってみると、なるほどこれは幾星霜。なにより当時の園児が立派な母になっていて、幼児を連れてきていたりする。就職やら結婚やらいろんな人生模様がある。逆に父母は歳月を経ていて、適度に肉体的な劣化もこれあり、定年やら引退やらその後の人生やら、介護やら趣味やら健康法といった話が中心となる。そうか、ワシ(55歳)はまだしも若い方だったのか。30代の頃には、互いの年齢差などはまったく気にしていなかったのだが。

○昔々の共働き世帯の子育てというのは、そりゃあもう大変などというものではなくて、認可の公立保育園に入れるのはよっぽどの僥倖というものでありました。当時の柏市では、無認可の共同保育所くらいしか選択肢はなかったのであります。もちろん行政の支援などはまったく当てにはできなくて、父母が経営の主体となって、保育料から保育士の給与から園児募集までを決めていたというのが実態でありました。年に2回のバザーの時などは、「これで保育士さんたちにボーナスを支払わねばならない!」という熱意がほとばしったものであります。

○そしてまた、当時の保育というのはまことに自由闊達というか、天衣無縫というか、今の基準から考えると夢のようにおおらかなものでありました。お蔭で子どもたちは、とってもワイルドに伸びのびと育ちました。もちろん、当時はまだモンスターペアレンツなどというものは存在しませんでしたし、子育てや少子化に対する関心も低かったし、世の中的にもうるさいことは言わなかったのであります。当時、安い給料で献身的に働いてくれた保育士の皆さんには、今となっては多謝あるのみです。

○そういう立場の人間として、かねがね腹に据えかねていたことは、「保育園落ちた、日本死ね」なんて贅沢言うんじゃねえよ!ということでありました。昔はねえ、それはそれはもう大変だったんだよ。駅型保育も、NPO法人も、携帯電話もインターネットも、当時はまだ存在しなかった。電車の中に乳母車を持ち込むことさえ、考えられない時代だったんだよ。父親が抱っこ袋で子供を連れて歩くことさえ、奇異な目で見られたものなんだよ。「子連れはご遠慮ください」といろんな店で言われたりもしました。でも、仕方がないからいろんなことを我慢をしたのだよ。それにしたって、1970年代に比べればずっとマシだったんだけどねえ。

○ということで、以上は年寄りの繰り言でした。25年もたつと、世の中は全く別世界だねえ。


<7月4日>(月)

○今朝は「モーサテ」に出演。特集テーマは「米大統領選 苦しいトランプ」。もうあと2週間で共和党大会ですから、そろそろこの話題は欠かせませんね。とりあえず副大統領候補は、近々発表されることでしょう。

○そこで赤丸急上昇中なのは、党大会まで3回しかない貴重な週末の中から1日を使って、トランプ候補が一緒にゴルフをしたというマイク・ペンス知事(インディアナ州)。インディアナ州は中西部の製造業集であるし、ペンス氏は下院議員が長かったので、議会の取引にも通じている。57歳と年齢のバランスもいい(トランプは70歳)。ただしものすご〜い保守派で、今どきLGBTなんか大っ嫌い、というから敵もいっぱいいる。とりあえず、「宗教の自由法」という名前を覚えておくとよいかと思います。

○今日のおまけはこちらをご参照。米大統領選に関するよもやま話をしているところに、ちょうどメジャーリーグの中継の仕事を終えたばかりの森田アナが乱入。なんと徹夜で仕事をしていたんですね。お疲れ様であります。本日ご一緒した野沢アナとは、ともに「ウィニング競馬」で競馬中継をやっている先輩後輩でもあります。ということで、その後は朝食をとりながら、お二人と競馬談義に花が咲いたのでありました。

○本日の経済視点は「政治日程」といたしました。この夏の政治日程は面白いですよ。


7月

英保守党で下院議員による党首候補絞り込み(7/5→7→12)
参議院選挙(7/10)
仲裁裁判所による南シナ海判決(ハーグ、7/12)
東京都知事選公示(7/14)
ASEM首脳会議(ウランバートル、7/15-16)
自民党が大型補正予算案を発表(中〜下旬)?
共和党大会(クリーブランド、7/18-21) 
民主党大会(フィラデルフィア、7/25-28)
日銀、金融政策決定会合(7/28-29)→追加緩和?
東京都知事選挙(7/31)

8月

内閣改造、自民党役員人事?
臨時国会召集(8/1-4?)→参院議長を決定
リオ五輪(8/5-21)
内閣府が4‐6月期GDP速報値を公表(8/15)
イエレン議長の講演(ジャクソンホール、8/26)
TICADY(ナイロビ、8/27-28)
*その前後にイラン訪問、サウジ訪問の可能性も

9月

日ロ首脳会談(ウラジオストック、9/2-3)→年内にプーチン訪日目指す
G20首脳会議(中国・杭州、9/4-5)
ASEAN関連首脳会議(ラオス、9/6-8)
英保守党が党員投票で新党首を決定(9/9)
9/11同時多発テロ事件から15周年(9/11)
国連総会(9/20〜)→安倍首相出席
日銀、金融政策決定会合(9/20-21)
民進党代表選(9月中)
秋の臨時国会召集(9月末)→大型補正、TPP審議、消費増税延期法案など


<7月6日>(水)

○ドイツの新聞記者が取材に来訪。日本経済に関するインタビュー。

問い。「アベノミクスは失敗しているように思うけど如何に」。
答え。「失敗であれば、とっくの昔に忘れられているはず。アベノミクスが今年で4年目、ということはそれ自体が経済政策として成功している証であろう」

○経済政策というものは、ちゃんと時間をかけて続けなければならない。手ごたえがないから、みたいな理由でコロコロ変えるのはよろしくない。というか、1年以内で姿を消した政策は過去にもいっぱいあった。特に毎年のように首相が変わっていた時期には、官邸が「新しい成長戦略のアイデアを持って来〜い!」と発破をかけても、各省庁は「ほっとけ、来年になったらどうせ変わるんだから・・・」と本命ネタを温存したものである。そういう政権で、良い政策が打ち出されるはずがないのである。

○その点、長期政権が続いて同じ政策が続いている、というのは経済でも外交でも良いことであると思う。たとえ最終的にそれらが失敗に終わったとしても、原因と責任の所在が自明である。その場合は次の一手が分かりやすい。中途半端はいかんです。

○そこでふと思い出したのが、最近あったタクシーの運転手との会話。「こないだ私、小泉元首相を乗せましたよ。お供も連れずに、1人で乗ってこられました」「へえ〜、そりゃすごいですね。どんな感じでしたか」「お元気そうでした。私ねえ、小泉さんが好きだったけど、最後は投票しなかったなあ。だってあの人のお蔭で、わが業界は大変なことになってしまったもの」

○なるほど、確かにそういう時期があった。2006年くらいだったか、構造改革路線でタクシーの需給調整を規制緩和したところ、夜の銀座や赤坂が空車の群れで埋め尽くされるようになった。客としては良かったが、タクシー業界としては大変であったことと思う。「これじゃあ食べていけないからと、みんなで野党に入れたんですよ。でも、1度で懲りました」。似たような話は、あっちこっちで聞いたような気がするぞ。

○今回のBrexitでも、「黒キャブの運転手は皆離脱派だった」という話を聞いた。さて、彼らは懲りるのか。それが判明するまでには、もうちょっと時間がかかりそうだなあ。


<7月8日>(金)

○いよいよ参院選が迫ってまいりました。そこで終盤戦における「世論調査研究会」の予測をここに掲載しております。まだまだ、最後の1日でひっくり返る選挙区だってあるでしょうが、大きな流れは変わらないと思います。

○5人の「政治オタク」の間では、こんな風に意見が散っています。合計すると、与党系が72〜77、野党系が44〜49となります。

自民:58〜61(改50)

公明:14〜15(改9)

与党系無所属:0〜1

民進:25〜30(改43)

共産:7〜10(改3)

おおさか維新:6〜9(改2)

社民:1〜1(改2)

生活:0〜0(改2)

こころ:0〜0(改0)

新党改革:0〜0(改1)

野党系無所属:2〜2

○そういえば、今回の参院選ではほとんど家の近所で選挙カーを見かけなかった。まことにありがたいことである。静寂は金なり。


<7月10日>(日)

○今日は朝一番で投票を済ませて、そのまま新幹線に乗って福島へ。そうなのです。今日は七夕賞の日なので、恒例により福島競馬場に参ったのです。本日はぐっちーさんと、この連載ページの担当編集者F氏と3人で福島に乗り込みました。ちなみにやまげんさんは、あいにく本日は選挙特番の仕事があるとのことでした。お疲れ様であります。

○現地では福島民報の高橋利明記者とお目にかかることが出来ました。3年前にこんなことを書いたのがご縁でありました。考えてみれば、この季節の福島通いも今年で5年目である。とうとう仲間ができたというのがちょっとうれしい。高橋記者から、今期の傾向などについていろいろ伺う。福島から見た中央競馬の姿というのは、「ああ、そうだったのか」と気づかされることが多かった。なんだか世界が広がった感があります。

○6Rから買い始める。ご当地出身の木幡初広騎手の次男、木幡巧也騎手騎乗のグッバイサマーの複勝から。これがめでたく3着につけてくれて、幸先の良いスタートを切る。長男の木幡初也騎手よりも、次男の巧也騎手の方が成績が良い。さらに弟の三男が競馬学校にいるとのことで、間もなく3兄弟がレースで勢ぞろいするかもしれない。息子3人と一緒にレースする日が来たら、お父さんはきっと感動して泣いちゃうよね。それは是非、この福島競馬場であってほしいと思います。

○が、それから先がいけません。7R、8R、9Rと連続して当たらない。10R、高橋記者推奨のキャプテンベリーも来なくて、いよいよピンチ。函館11Rが取れて、やっと息を吹き返すも、これでは何のために福島に来たのかわからない。そこでいよいよメインの七夕賞である。ヤマニンボアラクテから買ってみたけど、これが失敗。終わってみれば、アルバートドック、ダコールのワンツーでした。やまげんさんの先週の予測がずっぽし来た形。なおかつ、3着にはマイネルラクリマを僅差でかわしてオリオンザジャパンが来たけれども、逆だったらどえらい3連単馬券が取れていたところでした。畏れ入りました。

○ということで、家に帰って来てから選挙速報を見ております。こっちはあんまり意外性がないですねえ。そっちの解説はまたいずれ書きましょう。


<7月11日>(月)

○改めまして、昨日の参院選を振り返ってみましょう。今の参議院選挙はとっても不思議なルールになっていて、以下のような「全く別物」の選挙区で戦われています。


(1)1人区:32議席(32県)

「勝負の分け目は1人区」とはよく言われるところで、そのために野党共闘をやったともいえるのですが、1人区は複数区の41議席や比例区の48議席に比べると少ない、というのも事実です。今回は自民党が21勝11敗でした。これは筆者の事前予想と比べると、「民進党がよくこれだけ勝てたものだ」と感心する域でありまして、その意味では野党協力は成功しているのでしょう。

2人区から1人区に減らされた宮城、新潟、長野はすべて自民党が負けました。合区になった鳥取・島根と徳島・高知は自民党でしたが。それから東北地方は秋田県以外は全敗でしたね。やはりTPPが影を落としているのでしょうか。それから自民党が負けた11県のうち、4つは女性候補者に負けています。

(2)複数区:41議席(13都道府県)

1人区では協力している野党も、複数区では完全な競合状態になります。その意味では、本当の意味の野党協力なんてできっこないのです。まして「最後の1議席」を民共で争ったりするのですから。全体に言えば、自民党が強さを発揮しました。東京都と福岡県以外は、すべて自民党がトップ当選を果たしています。

そんな中で、議席数が増えた北海道(自民民)、東京都(民自公共自民)、愛知県(自民公民)では民進党が2議席ずつを確保して善戦しました。もっとも関西は民進党には奇問で、大阪府(自お公お)とか兵庫(自公お)と民進党抜きの憂き目となりました。全般に民進党は西日本で弱いです。

面白いのは2人区で、茨城県、静岡県、京都府、広島県の4府県は2議席。こんなに楽な場所はありません。自民党と民進党が仲良く議席を分け合います。

公明党は候補者を立てた7選挙区で全勝でした。共産党は東京1議席のみに終わりましたが、どうやら「自衛隊は殺すための予算」のひとことで流れが変わったようです。

(3)比例区:48議席

ここでは筆者の予想以上に自民党が健闘しました。2011万票を獲得して19議席を確保。衆参を併せて、自民党の比例区得票が2000万を超えたのは「小泉郵政解散」(2005年)の2588万票以来の快挙です。おそらく18歳選挙権がそのまま「上乗せ効果」をもたらしたのではないでしょうか。なにしろ「若者は自民党」ですからね。

民進党は1175万票と、こちらも大台に乗せました。2010年の1845万票に比べると見劣りしますが、その後、2012年衆院選、13年参院選、14年衆院選と3回連続して1000万票に届かなかったことを考えると、意外と良かったという見方もできます。今回の選挙は全体に「民進党が負け渋った」という印象がありますね。岡田代表は内心、「この程度で済めば上出来だろう」と思っているのではないでしょうか。

公明党の757万票、共産党の601万票、社民党の153万票、生活の党の106万票、といった辺りは「いつも変わらぬ固定票」ですね。これらの政党は、直近3回の選挙ではだいたいそれくらいは取っている。鉄板のお客さんともいえるが、その分、伸び代は限られている。

読みにくかったのは「第三極」の動向です。2014年衆院選ではみんなの党が838万票も持っていたのですが、この人たちはどこへ行ったのか。おおさか維新の会は515万票でしたが、「おおさか」と付けなかったらもっと上乗せが期待できたように思われます。

日本のこころを大切にする党(73万票)以下は議席獲得には至りませんでした。それにしても新党改革(58万票)、国民の怒り(46万票)、幸福実現党(36万票)は、なんと「支持政党なし」(64万票)に及びませんでした。そんなに大勢騙されてしまうとは・・・。


○現在の参院選の制度は、かなり変な3つの制度の組み合わせであって、これでは統一的な戦略は立てにくいですね。こんなことでいいのかねえ、という気がいたします。


<7月12日>(火)

○東京都知事選、自民党が小池vs.増田の分裂選挙なら、野党側も鳥越vs.宇都宮と分裂のお付き合いをしてくれて、いよいよ「こんな風にだけはなってほしくない」と思っていたお祭り騒ぎになりつつあります。まあ、粗忽者の某芸能人が、大恩あるプロダクション社長から叱責を受けて、慌てて引っ込んだのは良かったなと思いますけれども。

○さて、そんな中で本日、上杉隆氏が本日、東京都庁で立候補記者会見をやらかしました。これがキャッチフレーズ。

「自民の東京でもない、民進の東京でもなければ、公明の東京でもない。共産の東京でもない。都民の東京です」

○溜池通信の古い愛読者にはピンとくると思いますが、これ、出典はバラク・オバマですよね。

○実を言いますと、上杉氏とはここ数年、ほとんど毎月のように情報交換をしておるのですが、先月になってこのプロジェクト(都知事選出馬)の全容を聞かされました。まあ、止めて聞くような人ではなし、その時点でポスターの手配まで済ませておりました。それに都政や都知事選の実務については、彼ほど詳しい人はあんまり居ないのです。なにしろ1999年の鳩山邦夫選対をやっているし、石原都知事の本も書いているし、都政への取材もずっと続けている。ということで、生ぬる〜く見守っておったわけです。

○上杉氏と初めて会ったのは、2007年参院選のテレビ東京による開票速報のスタジオでありました(そういえばあの場には小池百合子さんも居たっけなあ)。その後の数年間の間に、彼は『官邸崩壊』なんて本を出し、機密費問題を取り上げ、記者クラブの廃止を訴え、自由報道協会なんて組織を立ち上げている。震災後は福島はメルトダウンだと言い出し、要は嫌われるに決まっていることをたくさんやらかしています。毀誉褒貶がつきまとうものですから、「かんべえさんともあろうものが、あんな人に近づいちゃいけません」などと真面目に忠告してくれる人も、今までに何人かおりましたなあ。

○上杉氏、少し前からは、これからはネットメディアの時代だと言い出して、ニューズオプエドというネット番組を開設している。それから2年前の都知事選では、彼は細川選対をやっておるのです。まあ、とにかくフットワークが軽くて、いくつも仕事場を変えていくのでありますが、そのときどきの方向性の是非はさておいて、あのバイタリティはつくづく感心するほかはありません。

○なにしろ当方は、この間ずっと同じような日々を延々と過ごしているわけでして、これはもう上杉劇場の観客席の1人みたいなもんです。昨日、会った際にもそういう話になって、「それで選挙に落ちてからはどうするの?」と尋ねたら、「だって僕、まだ48歳ですから」という返されたときには、ちょっとだけ妬ましく思えましたな。他人を嫉妬しない、というのは不肖かんべえの数少ない美徳のひとつなのでありますが。

○ということで、出馬したからには祈当選。既成のマスメディアは無視しようとするでしょうけれども、まあ、そこは想定の範囲内で、大いに暴れてもらいたいと思います。なにしろ他の候補者たちは、東京都政になんてあんまり関心はなさそうに見えますので。


<7月14日>(木)

○都知事選が告示になりました。国政選挙は安定しているのだから、首都の選挙くらい遊んでてもいいじゃん、まあ、娯楽と思って皆さん大いに楽しみましょうよ、だって先日の参院選はそんなに面白くはなかったでしょ?などと言ってる私は千葉県民である。まあ、千葉都民という言い方もできるのですが、基本的に無責任な立場であります。

○東京都知事選は知名度勝負、とよく言われます。この知名度という概念はかなりの曲者です。おそらく多くの人が誤解しているのではないかと思います。かくいう私も、近年になってだんだん学習してきたような次第でして、一筋縄では行かないと思っています。端的に言えば、「テレビに出ている人=有名な人」ではないのです。

○その昔、大前研一氏が「平成維新の会」を立ち上げて都知事選に挑戦した際に、都営アパートの前で「大前研一がやってまいりました!」とやったところ、その場にいる人たちが誰も知らなくて拍子抜けした、という都市伝説があります。そりゃあ、そうでしょう。大前さんのことは「意識高い系の」サラリーマンは知っていても、普通の主婦層は知らないですよ。この辺の事情、インテリには意外と盲点であったりする。

○さらに細かく言うと、テレビに出ている人の中でもキャスターとコメンテーターは全く別物です。簡単に言いますと、カメラに向かって話をするのがキャスターで、キャスターに向かって話をするのがコメンテーターです。視聴者は前者は覚えてくれますが、後者のことはなかなか覚えてくれません。「あ、この人は見たことあるな」と思っていても、名前までは思い出せないのが普通です。かく言う私がそんな感じなんですから。

○先日も福島競馬場に行った際に、「あ、モーサテに出ている人ですね」と声をかけられましたが、(ありがたいことに)名前までは出てこないのです。だからキャスターとコメンテーターはまったく異次元の世界と考える方がいい。出演している年数によっても違います。それにしても、福島県ではテレビ東京系列は入らないはずなのに、あの人はいったい何だったんだろう?

○今回の都知事選でいえば、泡沫候補としての扱いを受けている上杉隆氏が典型です。某社の調査によれば、彼の知名度は40%だったそうです。ネット上ではかなりの著名人ですし、テレビにもコンスタントに出ている人ではありますが、意外と知られてはいないのです。むしろ文芸春秋など、過去に活字メディアに多く寄稿している人なので、意外と高齢者が「上杉隆」という字面を知っているかもしれません。

○その点、知名度の高さという点では、政治家とスポーツ選手と芸能人は別格です。この3職種は、名前と顔が売れてこその世界ですから。かくして青島幸男、石原慎太郎、舛添要一といった人たちが、過去には知名度を生かして都知事に選ばれてきたわけです。余談ながら、猪瀬直樹さんはむしろ普通のインテリというべきで、たまたま2012年の衆院とのダブル選挙が奇襲戦法だったから成功したんだと思います。

○東京都知事選と言えば、過去には磯村尚徳NHKアナ、石原信雄内閣官房副長官、明石康国連事務副総長、といったピカピカの経歴を持つ有名人たちを、憐れにも叩きのめしてきた歴史を持ちます。逆に知名度を活かして当選した人のうち、石原都知事はまだしも仕事をしたけれども、青島さんはいかがなものだったかという歴史がある。当たり前のことですが、知名度と都知事としての力量には相関関係はないのであります。

○だからくれぐれも申し上げたい。「あの人はテレビに出ているし、知名度は高そうだから、都知事にいいんじゃないか」なんて馬鹿なことは言いっこなしですよ。最低限でも地元に愛情があって、地方自治のイロハを分かっている人を選ぶべきだと思います。国政に対してひとこと言いたいことがあるから、影響度がありそうな都知事選とやらに出てみようか、という人は最悪の選択だと思います。


<7月16日>(土)

○フランス・ニースのテロ事件によって、1日発表が遅れていた共和党の副大統領候補が発表されました。ドナルド・トランプ氏のツィートはこんな感じ。

https://twitter.com/realdonaldtrump  

I am pleased to announce that I have chosen Governor Mike Pence as my Vice Presidential running mate. News conference tomorrow at 11:00 A.M


○事前の予想通りでした。マイク・ペンス氏はインディアナ州知事で、下院議員の経験が長い57歳。ワシントンインサイダーで、トランプ氏を支援できる人物で、中西部の製造業州の出身、ということで順当な選択だと思います。少なくともニュート・グングリッチ元下院議長とかよりは安心できる。7月2日に貴重な週末を使って、トランプ氏がペンス夫妻とゴルフを楽しんだ、というニュースがあったので、「こりゃもう間違いないだろう」などといわれていたものであります。

○ペンス氏は非常に保守的な人物で、今回の予備選ではテッド・クルーズ上院議員を支持していた。インディアナ州では「宗教の自由法案」が施行されて、これが「LGBTへの差別につながる」ということで、例えばアップルのティム・クックCEOが批判しています。

○週明けになると、いよいよクリーブランドで共和党大会が開かれる。スピーカーのリストも発表されています。うーん、すぐに気がつくところとしては、共和党の大物(ブッシュ兄弟、マッケイン上院議員)などの名前が見えません。マルコ・ルビオやサラ・ペイリン、ミット・ロムニーの名前も見当たりません。

○その一方で、自分の妻やら息子、娘が登場することになっている。同族企業のような党大会になりますね。まだまだいろいろありそうです。

(後記:17日付てプログラムが発表されたので、そっちを張っておきます)

CLEVELAND, Ohio ―― Jeff Larson, CEO of the 2016 Republican National Convention, today released an updated program for the “Make America Great Again” convention, July 18-21, in Cleveland.

Veterans, political outsiders, faith leaders and presumptive Republican nominee Donald Trump’s family members will lead an unconventional lineup of speakers who have real-world experience and will make a serious case against the status quo and for an agenda that will make America great again.

Daily Themes & Headliners:

Monday: Make America Safe Again
Headliners: Melania Trump, Lieutenant General (ret.) Michael Flynn, U.S. Senator Joni Ernst (R-Iowa), Jason Beardsley and U.S. Rep. Ryan Zinke (Mont.).

Tuesday: Make America Work Again
Headliners: Donald Trump, Jr., U.S. Sen. Shelley Moore Capito (WV), Ben Carson and Kimberlin Brown.

Wednesday: Make America First Again
Headliners: Lynne Patton; Eric Trump; former Speaker of the U.S. House of Representatives Newt Gingrich and his wife, Callista; and Indiana Governor Mike Pence, whom Donald Trump has chosen as his vice presidential running mate.

Thursday: Make America One Again
Headliners: Peter Thiel, Tom Barrack, Ivanka Trump and Donald Trump



○そんなことより、ワシは今週末は町内会の祭りがあるのだ。困ったものだ。


<7月18日>(月)

○町内会のお祭りに関する今年の傾向について。

○毎年、交通規制を担当している。うちの町内は国道6号線、16号線に近い場所なので、「抜け道」代わりにしているクルマがよく入ってきたものだが、今年は非常に少なかった。これは助かった。いちおう市役所や警察署には届を出しているので、「ダメです、この時間は入れません」とやってもいいわけだが、もちろんいい顔はされない。そりゃそうだわな。例年、1回か2回は「なんで通れないんだ」などと押し問答になります。今年はそれがほとんどなかった。

○たまたま今年は野球帽をかぶっていたのだが、これは便利であった。向こうからクルマがやってくると、「祭礼により車両通行止め」の看板を見た瞬間に、ドライバーが「しまった!」という顔になる。そこでこちらが帽子を取って軽く会釈すると、「ちっ、しゃーねーな」と納得して迂回してくれる。ボディランゲージだけで用が済むわけです。帽子という小技、もっと早く気付けばよかったな。

○その一方で、国道は非常に混んでいる。特に今年4月、アリオ柏というショッピングモールが出来てからというもの、16号線を南に向かうルートが慢性的な渋滞となり、迂闊にクルマが出せなくなっている。タクシーなんかが町内を通らなくなったのは、それが理由であるのかもしれない。

○昨年から町内で始めた「土曜夜のテント横丁」という新しい企画は、着実にファン層を拡大して盛況でありました。新しい人が入って来てくれるというのは、町内会の持続可能性を高めてくれるので、まことにありがたいことです。2日間にわたって天気は今一つだったんですが、何とか最後までもってくれました。梅雨はあと1週間くらいで明けてくれますかね。


<7月19日>(火)

○あらためまして、共和党大会のスピーカーズリストが公表されております。それにしても前日になって発表って、どういうことよ。まあ、副大統領の発表もギリギリでしたし、かな〜りバタバタしているのでしょう。

○これを見ると、月曜日には妻のメラニア・トランプが、火曜日には次女のティファニー・トランプと長男のドナルド・トランプ・ジュニアが、水曜日には次男のエリック・トランプが、そして最終日の木曜日に長女のイバンカ・トランプとご本人、ドナルド・トランプの受諾演説となる。まさに一家総出の戦いである。しかしこれでは同族経営の中小企業みたいなもので、公党の党大会とはとても思えない。

○気がついたらそんな中に、マルコ・ルビオやテッド・クルーズがいつの間にか水曜日のスピーカーとして復活している。こんな中に入って演説しなきゃいけない、その心境はいかばかりか。それでもテッドは、「2020年は俺の出番だぜ!」と元気に自己アピールするものと推察いたします。

○だいたいですなあ、妻が登場するのはこういうときの「お約束」ですし、それから長男と長女と二男の3人は、トランプ・オーガニゼーションの役員をやっているので、まあ、いいでしょう。でも、次女のティファニーは22歳ですぞ。モデルですぞ、大学生ですぞ。美人だけど。そういうことって、許されていいものなのか。

○こんな風に、家内制手工業のような共和党大会なのですが、そしたら初日に妻のメラニアさんの演説が盗作疑惑で炎上してしまいました。うーん、真似した相手が2008年のミシェル・オバマだというのが痛い。やっぱりトランプはオバマの影なのだろうか。しかしこれでは、明日からは「息子や娘の演説も盗作があるんじゃないか」と見られてしまうので、非常にやりにくくなってしまいますな。トランプ一家の過剰な家族愛は、選挙戦にはマイナスだと思いますぞ。

○ところがトランプ夫妻は、その日のうちにNYに帰ってしまっていて、コメントが取れないのだという。どうもトランプ氏、「なるべくその日のうちに家に帰って寝る」主義の方のようで、現地に泊まったりしないんだそうです。しかしクリーブランドで党大会をやっているのに、いちいちNYから通うとは、いかにプライベートジェットがあるとはいえ、不思議な性癖といえましょう。

○とはいえ、これでトランプ氏が正式な党の候補者になるわけですから、こちらとしては付き合うしかありませんな。明日以降もウォッチいたしましょう。


<7月20日>(水)

○本日、トランプ氏が正式に党の大統領候補としての指名を受けました。それと同時に、共和党の政策綱領が公表されました。「GOPとplatform」でグーグル検索できます。とっても簡単です。

○PDFファイルで58ページあります。突っ込みどころがいっぱいあって面白いですよ。それにしても日本の新聞記事なんてものは、記者が現物を読まずに書いていることが一発で分かりますな。

○その1。通商政策について。第1章Restoring the American Dreamの中にA Winning Trade Policyというチャプターがあって、以下のような記述があります(P2)。

International trade is crucial for all sectors of America’s economy. Massive trade deficits are not. We envision a worldwide multilateral agreement among nations committed to the principles of open markets, what has been called a “Reagan Economic Zone,” in which free trade will truly be fair trade for all concerned.

We need better negotiated trade agreements that put America first. When trade agreements have been carefully negotiated with friendly democracies, they have resulted in millions of new jobs here at home supported by our exports. When those agreements do not adequately protect U.S. interests, U.S. sovereignty, or when they are violated with impunity, they must be rejected.

(中略)

At the same time, we look to broaden our trade agreements with countries which share our values and commitment to fairness, along with transparency in our commercial and business practices. In pursuing that objective, the American people demand transparency, full disclosure, protection of our national sovereignty, and tough negotiation on the part of those who are supposed to advance the interests of U.S. workers. Significant trade agreements should not be rushed or undertaken in a Lame Duck Congress.

○別に保護主義的なことを言っているわけではありません。ちゃんと国益を守れるような交渉をしろ、と言ってるだけですね。TPPという言葉は1回も使われておりません。ただし最後の1行はドキッとするところで、日本など一部で囁かれているような、「12月のレイムダック議会で、TPP批准をするっと通してくれ!」という手はどうやら使えないようです。

○その2。メキシコ国境との壁の問題について。ここは第4章Government Reformの中のImmigration and the Rule of Law の中で触れられています(P25-26)。該当部分は下記。

(前略)

These unlawful amnesties must be immediately rescinded by a Republican president. In a time of terrorism, drug cartels, human trafficking, and criminal gangs, the presence of millions of unidentified individuals in this country poses grave risks to the safety and sovereignty of the United States. Our highest priority, therefore, must be to secure our borders and all ports of entry and to enforce our immigration laws.

That is why we support building a wall along our southern border and protecting all ports of entry. The border wall must cover the entirety of the southern border and must be sufficient to stop both vehicular and pedestrian traffic. We insist upon workplace enforcement of verification systems so that more jobs can be available to all legal workers.

○南の国境に壁を作ることを支持する、と言っているだけで、それはあくまで米国の労働者を犯罪やテロから守るためということになっています。「メキシコ」という言葉は使われていませんし、もちろん「カネを払わせる」なんてことも言ってません。さすがにその程度のことは配慮しているんですね。
 
○さらに楽しいのは、外交について触れている第6章America Resurgentの中に、メキシコをヨイショしている部分があるんです。Family of the Americas(P50)という部分です。

Our future is intimately tied to the future of the Americas. Family, language, culture, environment, and trade link us closely with both Canada and Mexico. Our relations with both of these friends will be based upon continuing cooperation and our mutually shared interests. Our attention to trade and environmental issues will contribute to strong economic growth and prosperity throughout the Americas.

We thank our neighbors in Mexico and Canada who have been our partners in the fight against terrorism and the war on drugs. The Mexican people deserve our assistance as they bravely resist the drug cartels that traffic in death on both sides of our border. Their rich cultural and religious heritage, shared by many millions of our fellow citizens, should foster greater understanding and cooperation between our countries.

○いやあ、変な大統領候補を担いでしまうと、プラットフォームの起草委員たちも苦労しますねえ。メキシコ政府は速攻でこの部分をチェックしているはずです。

○その3。日本人としては、アジア政策について触れている部分がどうしても気になります。本誌がいつもやっている作業ですけどね。第6章の中にU.S. Leadership in the Asian Pacificという項目があります(P48)

We are a Pacific nation with economic, military, and cultural ties to all the countries of the oceanic rim and treaty alliances with Japan, South Korea, Australia, the Philippines, and Thailand. With them, we look toward the establishment of human rights for the people of North Korea. We urge the government of China to recognize the inevitability of change in the Kim family’s slave state and, for everyone’s safety against nuclear disaster, to hasten positive change on the Korean peninsula. The United States will continue to demand the complete, verifiable, and irreversible dismantlement of North Korea’s nuclear weapons program with full accounting of its proliferation activities. We also pledge to counter any threats from the North Korean regime.

○同盟国の名前を、日本を先頭にして挙げるのは、共和党の政策綱領における吉例です。そこはいつも通りなんですが、北朝鮮に対する言葉遣いがかなりキツイ。ちょっとネオコンっぽい感じですね。特に”complete, verifiable, and irreversible dismantlement”というのは、ブッシュ政権の頃によく使われていた決まり文句です。ちょっと懐かしい。

○さて、この次が問題なんです。なんと台湾に関する記述が延々23行も続く。中国よりも先に台湾が来る。このバランス感覚の悪さは何だろう。民主主義と人権と市場経済と法の支配という価値観を共有する台湾の皆さん、どうもおめでとう。われわれは中台海峡の現状を変更する一方的な試みには反対しますぞ。米国は台湾関係法に基づいて、台湾の自衛を助けるぞ、てなことを書いている。この辺は、中台関係に関する一種の「マントラ」です。蔡英文政権、これを読んだら喜ぶでしょうね。

○その後に続く中国の悪口雑言の部分がすさまじい。「毛沢東のカルトが復活した」ですって。喧嘩売ってます。

China’s behavior has negated the optimistic language of our last platform concerning our future relations with China. The liberalizing policies of recent decades have been abruptly reversed, dissent brutally crushed, religious persecution heightened, the internet crippled, a barbaric population control two-child policy of forced abortions and forced sterilizations continued, and the cult of Mao revived.

Critics of the regime have been kidnapped by its agents in foreign countries. To distract the populace from its increasing economic problems and, more importantly, to expand its military might, the government asserts a preposterous claim to the entire South China Sea and continues to dredge ports and create landing fields in contested waters where none have existed before, ever nearer to U.S. territories and our allies, while building a navy far out of proportion to defensive purposes. The complacency of the Obama regime has emboldened the Chinese government and military to issue threats of intimidation throughout the South China Sea, not to mention parading their new missile, “the Guam Killer,” down the main streets of Beijing, a direct shot at Guam as America’s first line of defense. Meanwhile, cultural genocide continues in Tibet and Xinjiang, the promised autonomy of Hong Kong is eroded, the currency is manipulated, our technology is stolen, and intellectual property and copyrights are mocked in an economy based on piracy. In business terms, this is not competition; it is a hostile takeover. For any American company to abet those offenses, especially governmental censorship and tracking of dissenters, is a disgrace.

○ここで巻末にあるプラットフォーム委員会の名前を見て、Steve Yatesの名前があるのを発見してはは〜ん、と腑に落ちました。以前にチェイニー副大統領のスタッフをやっていた共和党のアジア専門家です。特に台湾政策に詳しい。彼が書いたのであれば、何の不思議もない。元気にやってますなあ。

○その4。これは金融界の方にご注目いただきましょう。共和党のプラットフォームには、The Federal Reserveという項目があるのですよ(P7)。金融政策というものは影響が大きいのだから、透明性と説明責任が大事であるぞよ、と言っている。共和党は米連銀の存在に対して懐疑的なんですよね。で、こういうことを言っている。

Determined to crush the double-digit inflation that was part of the Carter Administration’s economic legacy, President Reagan, shortly after his inauguration, established a commission to consider the feasibility of a metallic basis for U.S. currency. In 2012, facing the task of cleaning up the wreckage of the current Administration’s policies, we proposed a similar commission to investigate ways to set a fixed value for the dollar.

With Republican leadership, the House of Representatives has passed legislation to set up just such a commission. We recommend its enactment by the full Congress and the commission’s careful consideration of ways to secure the integrity of our currency.

○たぶん、これ最初は「金本位制」という言葉にしようとして、財務省辺りから「それはちょっと止めて!」という圧力がかかってかろうじて思いとどまったんじゃないでしょうか。共和党政権になったら「イエレンはクビだ!」などとは言ってませんが、これだけで十分、FRBはビビるでしょうな。

○共和党、特にリバタリアンは伝統的にシンプルな金融政策を好みます。バーナンキの量的緩和政策(QE)にも批判的でした。ましてやヘリマネなんてもってのほかですな。逆に金本位制は好きです。それを止めてしまったのは、1971年8月15日の共和党ニクソン大統領でした(ニクソンショック)。それが気にくわなくて、ロン・ポールは政治の世界に飛び込んだのですから。

○ということで、共和党の政策綱領は面白いです。たぶん時間がなくて、あまり推敲をしていないのでしょう。だから中国と台湾に関する過激な文言が、そのまま残っていたりする。全体に言えば、ポール・ライアン下院議長が率いる起草部隊が、ギリギリのところで踏みとどまったという印象があります。まあ、賭けてもいいですが、トランプさんご本人は読んでいないでしょう。てゆうか、オタク以外は誰も読まないのがPlatform(政策綱領)というものなのであります。


<7月22日>(金)

○トランプ現象と今回の共和党大会については、もう散々書いてしまっているのだけれど、もう少しだけ追加。おそらくトランプ氏自身は、今回の大会をこんな風に受け止めているんじゃないかという妄想。

(1)「悪名は無名に勝る」を普段から実践しているだけに、「メラニア夫人の演説盗作事件」や「テッド・クルーズが支持を明言せず」は、「これで共和党大会が注目されたからラッキー!」と思っている。だからスピーチライターは"You're fired!"にはならないし、テッドに対しては"No big deal!"と太っ腹なところを見せる。

(2)それよりも今回の党大会では、自分の息子や娘がいいところを見せてくれたので、家族愛の強いパパとしては大満足である。特に大統領候補受諾演説の直前に登板させた長女イバンカのパフォーマンスは、「さすがワシが後継者と見込んだだけのことはある」。

(3)副大統領候補に選んだマイク・ペンス知事については、「まあ、あんなものだろ」。自分が大統領(=CEO)になった暁には、政策や議会工作などの実務は全部副大統領(=COO)に丸投げし、自分は今まで通り好き勝手なことを吼えていればいい。でもまあ、外交ってやつを少しくらいはやってみともいいかな、と。

(4)それにしても、1時間15分はちょっとしゃべり過ぎたかな。今日は珍しくテレ・プロンプターというやつを使ったが、あれをやるとついつい演説が長くなってしまうわな。まあ、いいや、大統領就任演説のときは、もう少し短くまとめることにしよう。

トランプ氏のツィッターを見ていると、だんだん彼の気持ちが分かるような錯覚に陥りそうで怖いです。


<7月24日>(日)

○民主党の副大統領候補はティム・ケイン上院議員。ヒラリーらしい、まったく冒険のないストレートな決定でありますな。そういえば、共和党のマイク・ペンス知事も、7月4日にワシがここで予言した通りではないか。こういうことなら当たるんだよな。なぜ、競馬はこんなに当たらないのだろうか。

○土曜夜は「Bizストリート」に出演。ゲストは星野リゾートの星野佳路代表。実はこの人も1960年生まれで、播摩キャスターと3人併せて同じ年であることが判明。星野氏「実は明日からニュージーランドにスキーをやりに行くんです」。かんべえ「そういえばわれわれの世代は昔、よくスキーをしましたなあ」。播摩氏「今でも毎年1度は行ってます。でも若い連中からは、『もうバブルじゃないんですよ』と言われます・・・・」。その場に居た皆藤アナのご両親が、やっぱりスキーがご趣味とのこと。これが世代間ギャップか。

○英国のBrexit騒動から今日で1か月。英国経済は落ち着きを見せ始めた。たぶんロンドンも「海外企業が総脱出」とはならないのであろう。それというのも、英国経済が市場メカニズムに忠実であるから。逆に規制の多い大陸経済の方が、これからは苦難の道を歩むのではないか。差し当たってはイタリアの不良債権問題が危なっかしい。曲がったバナナやキュウリがどうのこうのと言っている経済は、そうでない経済よりも劣るということです。

○東京都知事選は投票日まであと1週間。このところは鳥越氏が失速気味で、「小池・増田氏競り合い」とのこと(読売新聞)。どっちが勝ってもいいから、それより脱力さんが何万票取れるかが気になりますな。とりあえず4位だったら、褒めてあげたいと思います。


<7月25日>(月)

○今週はフィラデルフィアで米民主党大会が開かれています。日程はこちらをご参照。主要なスピーカーだけを紹介しておきましょう。

●7月25日(月) バーニー・サンダース上院議員、ミシェル・オバマ大統領夫人

●7月26日(火) ビル・クリントン元大統領

●7月27日(水) ジョー・バイデン副大統領、バラク・オバマ大統領

●7月28日(木) チェルシー・クリントン(長女)、ヒラリー・クリントン大統領候補

○すごいですね、毎日、千両役者が登場します。ここには出ていませんが、たぶんティム・ケイン副大統領候補は水曜日が出番になるでしょうね。

○共和党とは違って、党内の結束をぶち上げる党大会を目指しているわけですが、ところがそんな最中に「民主党委員長のデビー・ワッサーマン=シュルツ女史が大会終了後に辞任する」との報道が流れている。なにしろ彼女はヒラリーの長年の盟友であったから、サンダース候補を妨害してヒラリーを勝たせようとしていた、という内部告発があったから。民主党内部も容易ならざる亀裂を抱えているといえましょう。

○民主党のプラットフォームはこのページからダウンロードできます。あんまり真剣に読む気がしないんですが、「ドナルド・トランプはこんなことを言っている。それに対して我々はこう考える」というくだりが一杯出てきます。数えてみたら、"Donald Trump"という単語が全体で31回も出てきます。こういうのもちょっとどうかな、と思いますね。まあ、詳しい話はおいおいやりましょう。


<7月26〜27日>(火〜水)

○昨日の相模原のような事件があると、しばらく何も書きたくなくなってしまうものですが、とりあえず1日は喪に服したからということで、気を取り直して妄言を再開いたします。

●民主党大会ではサンダース支持者の動向が不気味。「Bernie or Bust」とか言っていると、トランプ大統領が誕生してしまうのだが。つくづくリベラル政党の左派の人たちは、保守政党以上に身内の中道派を嫌うものらしい。

――我が国においても、民進党のコアな支持者は前原誠司、細野豪志あたりを嫌ってるからなあ。でも、鳩山、菅よりも野田元首相の評価が低いのは、さすがに変だと思うぞ。

●「ポケモンGoで当社は儲かりません」という正直な発表により、任天堂の株価が沈静化。あれはあくまでもアメリカのベンチャー企業の成功であって、日本企業がそんなに喜ぶような話じゃございません。

――意外と儲かるのは充電器の会社だったりして。故事にいわく、「ゴールドラッシュのときにいちばん儲けたのはジーンズを流行らせたリーバイスであった」と。

●フランスワインに関するメモ。ブドウ畑の面積が79万ha(ほぼ静岡県に匹敵)。生産人口が7万人。年間約500万klを生産し、うち3割に当たる140万klを輸出している。輸入はその半分の70万kl。

――ところがこれを金額ベースに直すと、輸出が1億円で輸入は800億円、つまりものすごい貿易黒字を稼いでいることになる。AOCという認証制度があるのも、なるほど納得であります。

●英国のARM社買収に3兆円を投じる孫社長、「今の4Gが5Gになったら今のケータイはなくなってしまう!」てな焦りを感じているのか。でも、真面目な話、IoTって全然おカネの匂いがしないんですけどねえ。

――ソフトバンクというその名の通り、ヤフーやアリババでは大儲けしたけど、スプリント社などハード関係の投資はうまく行っていないという噂も聞きますぞ。

●中国飯店の富麗華は、六本木店に比べて段違いに旨いです。まあ、確かにお値段も張りますが、優に香車一枚以上は違いますな。

――ということで、今宵はらくちんさんほかと将棋談義でした。二次会は馬尻でした。

●明日発売予定の週刊文春と週刊新潮が、ダブルで新たな鳥越ネタを掲載している模様。残り3日間の東京都知事選は、鳥越票が誰のところへ流れるかが焦点になりましたな。

――ネット上では、2014年8月15日にNHKが放送した「いまニッポンの平和を考える」という討論番組での鳥越さんの暴走ぶりが注目されているとのこと。当方も、「あれでお前の顔見たよ」などといわれております。


<7月29日>(金)

○本日は盛りだくさん。民主党大会の最終日+日銀の金融政策決定会合+経済指標の集中公表日。でも、今宵は山崎元さんぐっちーさんとともに競馬談義。オバゼキ先生は、残念ながらBSフジに呼ばれてしまいました。

○本日の金融政策決定会合について、オバゼキ先生は「日銀は死んだ!」とお怒りである。でもワシ的には、本日の決定はまことに合理的なものであって、「ない袖は振れない」けど、金融政策は続けなければならないし、あんなものでよかったんじゃないかという気がします。下手にマイナス金利を拡大すれば、銀行の経営を直撃する。国債買い入れ額を増やせば、財政節度が危うくなる。「ヘリマネ」はもとより暴論。そして中央銀行への信認ということでいえば、申し上げにくいことながら、もともとかなり揺らいでおったわけでありますし。

○民主党大会の最終日、ヒラリーさんは為すべき仕事を無事に終えたと思います。民主党大会は、初日にバーニー・サンダースとミシェル・オバマ、2日目にビル・クリントン、3日目にバラク・オバマ、ジョー・バイデンといった千両役者が登場し(同じ日に登板したティム・ケイン副大統領候補はお気の毒でした)、聴く側としてはかなり「お腹がいっぱい」状態であった。これでなおかつ、大統領受諾演説が大向こう受けを得るというのは至難の業であったのではないか。彼女はある日突然、100点以上を取る人ではない。むしろ地道に90点を目指すタイプである。「ホームランか、三振か」というオバマ治世の次においては、これは真っ当な選択肢ではないかと思います。

○本日発表の経済指標では、鉱工業生産が意外な復調を遂げている。経済産業省の7月、8月の予測値は驚くほど高い。この通りで行くと、8月には久々に100を超えることになる。(100を超えたのは昨年1月以来)。これなら8月15日予定の4-6月期GDP速報値も、たぶんプラス成長と受け止めていいのであろう。雇用情勢もますます改善し、失業率は3.1%、有効求人倍率は1.37倍。全都道府県で1倍を超えました。これは労働供給量の限界を示すものでもありますが、これで賃上げが起きなかったらやっぱり変ですよ。

○と、その辺のことは棚上げして、一口馬主の達人、H師から奥義を伺う。なにしろステファノスとマリアライトとルージュバックを保有されているというから、とてつもない成功を収めておられる。が、せっかく拝聴した貴重なノウハウを、こんなところで他人に教えるわけにはいかぬ。いや、面白かったとだけ言っておこう。


<7月31日>(日)

○さて、東京都知事選である。先週の相模原の凶悪事件と、ポケモンGo!の大ブームのお蔭で、ちょっと水を差された感がある。それでも今夜は、きっと開票速報で盛り上がるんだろう。1か月に2度も時間を変更されてしまう『真田丸』はいい迷惑ですな。

○結果が出る前に、いくつか岡目八目的な意見を述べておこう。ワシは千葉県民なんだし。

○東京都知事選は有権者1000万人という日本最大の地方選挙である。たくさんの候補者が出るが、当選するのは1人だけである。泡沫候補に面白い人が出るのも昔からである。東郷健なんて、今の若い人は知らないだろうなあ。今しらてみたら、ユーチューブにちゃんと雑民党の政見放送が残っていた。これ、放送事故じゃないですからね。マック赤坂なんて裸足で逃げ出しますよ。今から思うと、外山恒一なんかも懐かしい。今回の選挙では棄権を呼びかけているらしいが。

○かくも大勢の候補者が出るので、ほとんどの投票は「死に票」になる。ところでこの「死に票」という言い方、日本独自の発想であるらしく、英語で何というかを知らない。首長を選ぶときは当然、そうなるものである。アメリカなどではそのために二大政党制になっているようなところがある。「中央集権か地方分権か」「北部か南部か」「工業か農業か」「保守かリベラルか」などと、いつも国論を二分して競わせる。その際には、小さな違いには目をつぶるわけである。もっとも今回の場合、共和党も民主党も内部の亀裂が洒落にならなくなっているけれどもね。

○日本の有権者の場合は、この「小さな違いに目をつぶる」ことができない。だから社民党がいまでも生き残っていたりする。まあ、有権者が変に義理堅いのかもしれないし、悪くいえば政治家が終身雇用制なのである。最近になって野党協力を始めたが、その場合も「やっぱりヒラリーじゃなくてサンダースを出しておけばよかった」的な意見が出やすいので、なかなかに運営が難しい。今日も都知事選で結果が出たら、きっとそういう話が出てきて揉めるんだよな。

○ちなみに参院選が終わった直後に田原総一朗さんに会ったときに、「岡田さんは次の代表選には出ないよ。彼はそういう欲はない人だから」とキッパリ断言していた。おそらくそれは正しいのだと思う。それにしても、都知事選の前日に「次は出ません」を言ったというのは、やっぱり勝ち目がないことを知っているからそうなるんですよね。わかります。どうもお疲れ様でした。

○それよりもむしろ悩ましいのが自民党側で、そもそも東京都知事選における自民党は黒歴史の連続である。どんな立派な人を担いでも負けてしまう。気まぐれな東京都民の民意に振り回されてきたわけである。せめて野党と相乗りしたい、というのが正直なところで、でも野党が対決モードだったのでそれもかなわなかった。なおかつ、今回の場合は都知事選の直後に内閣改造と党内人事が待っている。これでは肩に力が入って仕方がない。いろいろ無茶な掛け声(親族も除名など)が入るのも無理はないところである。

○そもそも都内には国会議員、都議会議員、区議会議員も併せると膨大な数の自民党議員が居る。「組織の引き締めだけでも十分に勝てるのではないか」と錯覚しかねないくらいの数が居る。もしも今回、それが成功するようであると、それこそ舞い上がってしまうかもしれない。ただし歴史的経緯を考えると、「造反有理」、いや「造反者が有利」てなことになるんじゃないだろうか。

○いえ、別に誰かを応援しているわけじゃありません。ワシに投票権があったら、もちろん脱力さんに入れますけどね。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki