●かんべえの不規則発言



2017年9月







<9月2日>(土)

○ブライトバートニュースをチラ見するようになって久しいけれども、先週のこの記事が印象に残っている。


●Virgil: Protecting American Sovereignty Against Big Tech’s Globalist Corporate Power


○GAFA叩き、という主張が面白い。GAFAとは何かというと、経済産業省が目の敵にしているIT巨大企業4社のこと。


デジタル市場の巨大企業、Google、Apple、Facebook、Amazonは、その頭文字でまとめて「GAFA」と呼ばれることがあります。このGAFAが提供するサービスの上で、販売や広告が行われていることから、このGAFAは「基盤を提供する者」という意味の「プラットフォーマー」とも呼ばれます


○そのために昨年末、「官民データ活用推進基本法案」なんてものを作ったりした。日本政府はかつて高度成長期にIBMを恐れたように、今はGAFAを警戒している。彼らによるビッグデータ占有が心配だからである。それにしても、昔だったらマイクロソフト社も入っていたのにねえ。最近はとんとお声がかからなくなりました。

○ところがトランプ支持者たちは、それとは全く別の文脈でGAFA叩きを始めそうである。グローバリストの巨大企業の手から、アメリカの主権を守らなければならない、というのである。


From MAGA to GAFA

So now we live in a country where the big tech companies can pretty much do as they please. Let us count the ways: They don’t pay much in the way of U.S. taxes, preferring to stash their cash offshore; they often pay only serf wages, even as they trample the middle class and Main Street; they agitate against heartland industries; they disdain U.S. sovereignty; they have even been accused of shielding terrorists and child pornographers, even as they have sought to reject anti-jihad groups.


○ちなみにMAGAとはMake America Great Againのこと。トランプ政権とシリコンバレーは、もともと相性が悪かったけれども、このまま全面対決まで行っちゃうかもしれない。これはこれで、トランプ支持者が喜ぶネタじゃないかと思う。なにしろ昔、アメリカにはスタンダード・オイルと闘ったセオドア・ルーズベルト大統領という前例もありますから。


<9月3日>(日)

○NHK杯トーナメント、森内九段対藤井聡太四段。普通であったらただの2回戦だけれども、十八世名人の資格保持者との対局ということで、本日は特別の扱いの生放送+時間枠延長。NHKもさすがにこんなおいしい勝負を見逃しはしませんな。おそらくこの番組としては、史上空前の視聴率だったのではないか。

○結果は94手で藤井四段の快勝。というか、森内九段ほとんどいいところなし。30分以上残して長い長い感想戦となってしまった。見ているところだが、まったく盛り上がらず。かなり序盤から劣勢を自覚していたようで、元名人がこれではいかんだろう。周囲がやたらと気を使っていて、これは本人にとってはほとんど拷問かもしれない。

○今日は森内先手で矢倉戦。藤井四段、「今日は森内先生に矢倉を教わりたいと思っていました」と優等生の答えをしていた。が、後手・藤井四段の急戦仕掛けになすすべなし。これではもう矢倉戦は誰も指せなくなってしまうかも。後生畏るべし。森内九段、感想戦中何度目かの「どうやっても勝てない」との言葉に、見ていてこみ上げるものあり。うーむ。


<9月4日>(月)

○昨日は午前は将棋、午後は競馬に熱中していたら、夕方まで北朝鮮の核実験に気がつかなかったのである。うーん、これはいかんぞ。弾道ミサイルなんてアナタ、所詮は隕石みたいなもんであって、たいした脅威ではないんです。島根県に落ちても、東京都であっても、そんなに怯えるほどのことはない。ところが核兵器が搭載されていた日には、目も当てられない。なおかつ、まったく空気を読まない相手が一直線に向かってきている、というのがおっかない。

○かの国の指導者は、「核を持たない相手は格下」と思っていて、もはや日本も韓国も眼中にはないらしい。アメリカに喧嘩を売り、中国を怒らせ、天にも舞い上がらんばかりの心意気のようである。さて、どんな仕返し方法があるのか。石油を止める、というのはちょっと難しそうで、サイバー攻撃は効かないらしい。

○本日は大阪へ。関西経済同友会さんの勉強会講師。反グローバリズムとポピュリズムの時代がどうのこうの、という演題で、いつものトランプ政権話。時節柄、北朝鮮問題が気になるところなれど、ハリケーン・ハービーの被害がカトリーナを超えるかもしれないとのことで、今のトランプさんはそれどころではあるまい。現地では、「今こそテキサス魂を発揮するときぞ」とばかりに自助と共助の精神を発揮しているとのこと。ほとんど東日本大震災の時の東北スピリッツのようである。

○災害の時は、右も左もない。こういうのがアメリカのいいところで、「シャーロッツビル」(白人優越主義者の暴動事件)と「バークレー」(無政府主義者の暴動事件)は、「ヒューストン」に結びつけなければならない、というワシントンポスト紙のコラムに、たくさんの「いいね!」を献上したい。

○それにしても、カトリーナが2005年、サンディが2012年、ハービーが2017年と、「100年に1度のハリケーンが」がかくも立て続けに到来するということは、やはり地球温暖化は進んでいるのだろうか。カトリーナの被害総額が1100億ドル(12兆円!)で、ハービーが1900億ドルとの試算もあり。他方、このお蔭で議員さんたちが皆、債務上限の引き上げと暫定予算に反対できなくなった(被災地救済と抱き合わせになるから)、というから何が幸いするかわからない。ちなみに今日のアメリカはレイバーデイで、明日からは連邦議会が再開されます。

○結論として9月もいろいろありそうですぞ。こんなことで忙しくなるというわが身も腹立たしい。はてさて。


<9月5日>(火)

○今日はニュージーランド大使館にてラウンドテーブル。渋谷区神山町の麻生太郎氏邸宅のお隣。すばらしい日本庭園をバックにディスカッション、そしてランチ。

○考えてみたらニュージーランドとのお付き合いは最近はややご無沙汰気味なんだけど、通算ではかれこれ20年近くになる。南半球から世界を見ると、なるほどこんな風に見えるのか、という発見を与えてくれる貴重な存在である。ここ数年は「TPPをどうやって実現するか」ということばかりを語って来て、それがトランプ政権でアメリカが抜けてしまい、今は「TPP11をどう進めるか」が両国間のテーマになっている。

○その昔、日本は貿易自由化ではとっても腰の引けた情けない国であり、周囲が押し切ってくれるのを待っているだけの存在であった。それがこの5年ぐらいで目覚ましく変身し、今ではTPP11の交渉を主導するまでになっている。先般は日EUの経済連携協定も大枠合意に至った。今や日本が自由貿易の推進役である。世の中変わったものだ。

○本日の参加者である慶応大学の渡邊頼純先生に、「日EUって、日本が農産物で譲って、自動車で攻めたわけだから、金額的にはボロ勝ちなんじゃないですか?」と聞いたら、「ああ、そりゃそうですよ。でもそれを言ったら、今までの日本のFTAはみんなそうですなあ」。農産物を守って工業製品で攻める。そりゃあ後者の方が圧倒的に金額は大きい。なぜ、こんなことを今までやらなかったのか。コロンブスの卵である。

○それからキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁さんが言っていたんだけど、「日本は生乳をアジアに輸出して、チーズなど乳製品は輸入すればいいと思う」。なるほど。地産地消にこだわるよりも、その方がよっぽど効率が良くなるのではないか。アジアで北海道ほど酪農に恵まれた土地はまたとないし、逆にカマンベールチーズを日本国内で作らねばならない理由はどこにもない。

○先月、斎藤健農水大臣の執務室を訪れたときにしみじみ感じたのだが、日本の農政はすっかり変わったなと。だって当選3回で、元経産官僚の斎藤さんが農水大臣ですぜ。ほんの10分程度で失礼したけれども、斎藤さん、「次は水産業の改革が課題です」と言っていた。世の中はどんどん先に進んでいる。

○本日のランチで出たNZワインは下記の2点。今度、自分で買って来ることにしたいですな。

●白:Lawsons Dry Hills Marlborough Sauvignon (Blanc 2015)

●赤:Martinborough Vinyard Te Tera (Punot Noir 2014)


<9月7日>(木)

○午前中、某外資系証券さんのセミナー講師を務める。場所は六本木のグランドハイヤット。終わって外に出てみると、小雨に濡れた欅坂がなんだかいい感じである。そこで、のろのろと坂を下りてみる。

○この辺を歩いていると、いかにも「バブルの日々」という記憶が蘇ってくる。10年くらい前に、テレビ朝日の「サンデープロジェクト」に出ていた頃は、番組が終わってからいつも関係者一同がこの辺でランチをしていた。昼間からお酒も入って、とっても豪勢だったのである。あの頃の地上波は、おカネ使えたんだろうなあ。まことに古き良き時代であった。

○考えてみれば、今でも六本木ヒルズの一角には「すきやばし次郎」の支店があったり、Kenzo Estateの店があったりする。そういえば昔、この辺の人気店で買ったチョコを家に持ち帰ったものだが、確か6000円もしたんだよなあ。今はもう見当たらなかったけど。

○ということで、坂の下にある麻布十番交差点のシンガポール料理の店に入って、ひとりで海南チキンライスを食べて帰ってきたのであった。昼間からシンハービールを飲んでしまったのは内緒である。


<9月8日>(金)

○どうにも名前を覚えられない人がいる。年のせいもあるから仕方がないのだけれども、政治家で言えば今大騒ぎになっている山尾志桜里さんという人がそうですね。個人的には「保育園落ちたの人」と覚えてましたけど。フルネーム(特に漢字が紛らわしい)もここに書いておけば、後で検索すればちゃんと思い出せる。ということで、この場で言及しておきます。

○つくづくダメな人なんだなあ、と思います。だって前原新代表から幹事長就任の打診を受けて、そのまま引き受けちゃあダメでしょう。自分自身の危機管理ができない人が、党を守る役職に就けるわけないじゃあないですか。幹事長に正式に就任してからこのスキャンダルが出たら、いったいどうなっていたことでしょう。そんときは記者会見だって、逃げられませんよ。民進党という政党は、こういうところが鍛えられてなくてつくづくダメだなあ、と思います。

○メディアというものは、有名人の悪さは大概知っています。でも、書かないことはいっぱいある。だってニュースバリューがないから。「五体不満足」の人の女癖の悪さだって、ちゃーんと知っていた。でも、書かない。選挙に出るというから、書かなきゃいけなくなった。仮に野党から出馬していたら、書かなかったかもしれないけれども、自民党から出るなら遠慮なく書きますわな。知らぬは本人ばかりなり。

○今度の山尾さんだって、民進党の幹事長指名を受けなかったら、週刊誌ネタにはならなかったかもしれない。そういう意味では、前原さんは相変わらずセンスが悪い。何でそんなに筋の悪い人を選びましたかねえ。幹事長に他の誰を選んでいても、民進党へのダメージは今よりは少なかったはず。これはやっぱり、最後の党代表になる運命なのでしょうか。

○民進党の内部から足を引っ張る人が居た、と言って怒っている人も居る。それも論外。身内の足を引っ張らない組織なんてあるわけないでしょ。まして政党ですぜ。政治家はいつも嫉妬の大海を泳いでいるようなもの。「ほめられて伸びるタイプ」なんて、少なくとも政治家にはあり得ない。「せっかくの女性議員なのに」って、そりゃあ贔屓の引き倒しってものです。稲田さんだって、同じことを言ってた人はいましたがな。

○もちろん不肖かんべえは、他人の不倫疑惑を責めるような人格者ではございません。ハッキリ言って、プライベートなことには興味ないです。何をされようがどうぞご自由に。でも、脇の甘い政治家は嫌いです。そして幹事長を決めるのにドタバタするような政党が、天下を取って組閣ができるとも思いません。代表選挙から今日で1週間。「あ〜あ」という思いが尽きません。


<9月9日>(土)

○今宵はBS-TBS『週刊報道Biz Street』へ。読者の皆さま、これだけは知っておいていただきたいことがあります。

○本日のテレビ局は早朝から、「いつJアラートが鳴るか分からない」という状況で仕事をしておるのです。鳴ったその瞬間、番組は停止ですから。特番の用意がされているようですが、だからと言って番組関係者がその場で帰っていいわけでもない。「鳴ったらその時は、よろしくお願いしますよ」と脅かされる。そりゃあミサイルは朝飛ぶものであって、さすがに夜はないでしょー。でも、相手は北朝鮮ですからねえ。

○そこでハッと気がついたが、週明け月曜朝はワシは「モーサテ」出演で、それは9月11日だからミサイル発射の「危険日」なんですねえ。(同時多発テロ事件の記念日+国連安保理で対北朝鮮追加制裁の議論あり)。そっちも洒落にならないよねー。あっこさん、大丈夫でしょうか。先日の8月29日はトラウマだと言ってましたけど・・・。

○「北朝鮮のミサイルなんて、空から隕石が落ちてくるようなもの。おそるるに足りず」と言いふらしているのですが、この隕石、マスコミ関係者にとってはまことに憎い相手なのであります。金正恩委員長殿、あなたいい死に方しないよ。用心なさいまし。


<9月11日>(月)

○今朝はテレビ東京「モーサテ」へ。めでたいことにJアラートは鳴らず、というか、問題は今宵の国連安保理の決議案次第ということでしょうね。中ロは対北朝鮮制裁に賛成したくないけれども、1か国だけで反対するのは嫌だ。でも棄権した結果、決議が通るのも面白くない。特に中国のポジションは微妙なところで、来月に党大会を控えているということが手足を縛っている。それさえ終われば、遠慮なく苛めてやるのに、と考えているような気もする。

○2014年9月にウラジオストックに行ったときに目撃したのですが、かの地には金日成バッジをした北朝鮮労働者が普通に歩いているんですよね。ピョンヤンなんて名前のカラオケバーがあったりもする。たぶん北朝鮮労働者の受け入れを停止したら、建設現場が全部止まってしまうのではないか。その手の事情もあるわけです。

○いずれにせよ、経済制裁は事態を解決する決め手にはなりません。それは対ロ制裁3年半の経緯が雄弁に物語っていますよね。経済制裁された国が、「畏れ入りましたあ」なんて言って行いを改める、なんてことがあると考えるのは現実離れしています。むしろここまで至ったからには、武力行使まったく抜きでこの問題が解決するとも考えにくいような気がしています。別に有事を望むものではありませんが・・・。

○北朝鮮の脅威に対し、核武装ではなく、核持ち込みの議論がポツポツ出てきました。石破さんが口火を切ったのは、なるほどなと感じます。ただしNATO型の核シェアリングは、けっして容易なことではありません。なによりこの期に及んで、「泥棒を見て縄をなう」ように見えることがよろしくない。

○一方で、独自の核武装を唱える人が出てこないのが不思議なところです。問題は、ここは変な人に唱えてもらっては困るんです。ある程度は力のある政治家で、論旨明快で、外国から見て「そうだよな、そういう声も出るだろうな」と納得してもらえるようなリアリストが欲しいわけです。ネトウヨじゃ困るんです。でも、石原慎太郎さんは高齢だし、中川昭一さんは亡くなっちゃったし、頃合いの人が居ないんですよねえ。

○この問題については、韓国の方がはるかに威勢が良い。それでも韓国は再処理を許されてないし、プルトニウムも持っていない。逆に再処理ができて、国内にプルトニウムを持っている日本が妙に行儀よく国際社会の空気を読んでいる。でも、日本としての意見表明をどうするか。悩ましいところです。


<9月12日>(火)

○安保理決議が通りましたな。それにしても今回の安保理決議2375は長いです。しかも15の理事国代表によるステートメントもついている。15人の国連大使は、本国の許可を取りながら、この案文をまとめるのだから偉いものです。とにかく15か国の意見をまとめるということは、よくよくたいへんなことでありましょう。

○国連安保理のHPをよくよく見ると、今年になって成立した決議は全部で37本もある。その中には、北朝鮮に関する制裁決議2371(8月に通ったもの)や、非難決議2356(6月に通ったもの)も含まれている。が、大半はアフリカや中東に関するもので、そういうことであれば意見を集約するのも難しくはないわけですな。ちなみに8月29日に北海道沖に落ちた弾道ミサイルに対しては、特に決議は出されていなくて、あのときは議長声明でお茶を濁している。安保理動かすのって、大変なんですよ。

○アメリカは思い切り高めの球を投げて、わざと失敗させて中ロを非難する手かと思ったら、急に譲歩しましたね。日本の新聞では、「アメリカが妥協して緩い制裁になった」とご不満な評価が多いですが、そりゃあ当初の案だったら通らなかったでしょう。裏でどんな駆け引きがあったものやら。おそらく中国が「党大会が終わったら本気出すから、今は待って」と泣きを入れて、ロシアは「俺一人で反対はしたくない」とひよったのではないかなあ。

○各方面の話を総合すると、北朝鮮は春頃には核実験の準備を整えていた。それを中国が止めた。「本気で石油止めるぞ」と言ったかもしれない。それで数カ月は思いとどまったのだが、北朝鮮はよりによってアモイでBRICS首脳会談をやっている9月3日に踏み切った。習近平氏の怒りは深い。メンツつぶされた恨みは忘れない。それを楽しみにしましょうかね。

○安保理決議を初めて日本が中心になって取りまとめたのは、2006年7月の決議1695なんだそうです。もう11年前のことですが、このときも北朝鮮の弾道ミサイルが問題でした。その年の10月には初の核実験があり、今度は決議1718につながったわけであります。まあ、日本外交も進化しているわけで、このときは麻生さんが外務大臣でした。思えば遠くへ来たもんだ。

○さらに言うなら、イラク戦争の時に焦点になったのは、2002年11月の決議1441でありました。ここに書いてある"the Council has repeatedly warned Iraq that it will face serious consequences as a result of its continued violations of its obligations;"という文言が、武力行使を指しているかどうかが問題となった。懐かしいのう。決議の数はもうそれから1000本近くも増えた。ほんの15年間くらいの間に。


<9月14日>(木)

○昨日は早朝にホテルニューオータニで、午後に兵庫県姫路市でセミナー講師を務めました。クライアントは両方とも金融機関。世の中が物騒になると仕事が増える。われながら変な商売です。

○お蔭さまで年内もたくさん予定はあるのですが、困るのは「資料の準備はまだですか?」とせっつかれること。だいたいが「地政学リスクと日本経済」みたいなテーマであることが多いので、資料なんて2日前くらいに作ってちょうどいいくらいだと思うんですが、どうかすると「2週間前にください」などというクライアントが居たりする。そんなこと言ったって、明日、北朝鮮のミサイルが飛んだらどうするんですか、と愚痴を言いたくなってしまう。

○真面目な話、昨日なんて朝7時のNHKニュースの冒頭は「iPhoneXの発表会」でしたからね。1ドルは110円台になっているし、前夜のNY株価は上がっている。北朝鮮向けの安保理決議のことなんて、どうでもよくなっている。マーケットというものは本来がそんな浮気性ですから、それを「不謹慎だ」などと責めるのは間違っている。こんな状況で、1週間以上前のパワポ資料を使って講演会なんてできませんがな。

○もちろんやむを得ない事情というのもあって、アカデミズム関係のものは資料を早めに入れなければならない。他の関係者に事前に読んでおいてもらわなければならない、というケースもある。モスクワでの国際会議に使うからロシア語翻訳のための時間が必要で、早めにくださいね、みたいなものもある。これはもう逃げられません(すいません、まだやってません)。

○ということで、言い訳になるのですが、ちゃんと帳尻は合わせますから、仕事はマイペースでやらせてくださいまし。それから2カ月先のイベントで新幹線チケットがどうのこうのと言われるのも苦痛であります。まあ、そんなことを言う前に、仕事をセーブすればいいのかもしれませんが。


<9月15日>(金)

○今朝もミサイルが飛びましたねえ。Jアラートが鳴っている中を出勤するのも一興かと思いましたが、常磐線が止まるかもしれないなと思って30分ほど、家で様子を見ました。でも、電車は普通に走っていましたな。そして為替や株価もたいした影響をうけませんでした。地政学リスクだとは言うものの、慣れたら皆さん、飽きてしまうんですよね。

○もっとも今回のミサイルは飛距離が出たそうで、後は方角さえ合わせればグァムに届きますね。これは日本が騒ぐような話ではなくて、本来、アメリカが慌てなきゃいけない問題です。でも、今回の発射に対して、アメリカのメディアの反応は今一つ鈍いような・・・・。もちろん、グァム島旅行を中止するような話でもございません。所詮は隕石でございますから。


<9月16日>(土)

○土曜日はできれば仕事をしたくない不肖かんべえなるも、絶対に断われない人からの依頼により、よく知らない勉強会の講師を引き受けてしまい、午後から都内へ出かける。よく知らない会合というものは、「こやつは、いかほどぞ」と値踏みされるようなところがあるので、少々心理的な抵抗感がある。さらによく知らない会合であるから、現地で道に迷ったりして、ますます不機嫌になってしまう。

○ところが会場に来てくれた人たちは、お懐かしい人やら毎度おなじみの人やら、ああ、そういえばこの人に会いたいと思っていたのであったという人まで、たくさんいらっしゃっていて、これは儲けものである。ご質問もたくさん頂戴して、新たな発見がある。ああ、引き受けておいて良かった。こういう人たちのご縁で今日のワシがおる。

○終わってからご近所の中華で打ち上げ、というのがまたまた好ましいパターンである。二次会のない勉強会は寂しいものである。なおかつ短時間で切り上げて、家に着いたら8時前というのもありがたい。続きはまた別の場所でやることになりそうである。


<9月17日>(日)

○朝起きたら一斉に「臨時国会で冒頭解散説」が流れておる。いやあ、やっぱりやりますか。普通だったら9月25日召集のところ、なんで28日にするんだろう、何か匂うなあ〜、と思っていたところでした。ちなみに当欄の8月1日分をご覧いただきますと、他に先駆けて「冒頭解散説」に言及しております。

産経新聞の報道によれば、「11月上旬にトランプ米大統領の来日が予定されていることから、衆院選は10月17日公示ー10月29日投開票が有力だが、10月10日公示ー10月22日投開票となる可能性もある。首相は今月18ー22日に訪米するため、帰国後に政府・与党で最終調整する構え」とのこと。

○そりゃあ後者でしょ。もともと10月22日の衆院補欠選挙3つがあるから、そこでやっちまえというアイデアがあったわけでして。しかも10月29日に投票日だと、トランプ大統領訪日が11月4〜6日で調整中と言っていたから、非常に苦しい日程になってしまう。いつ特別国会を開いて、首班指名選挙をやるんだろ。まあ、それを言ったら、1993年には内閣不信任案をくらって「死に体」だった宮沢首相が、クリントン大統領の訪日を迎えたなんて例もありましたけど。

○いつもの流儀で政局カレンダーを書いてみましょう。


9月17日       日朝平常宣言から15年
9月18日〜22日   安倍首相が訪米
9月19日       公明党が緊急役員常任会を開催
9月19-20日     米FOMC(FRBがB/Sの縮小を開始?)
9月20日       安倍首相が国連総会で演説
9月21日       日米首脳会談
9月24日        ドイツ総選挙
9月28日       臨時国会召集(冒頭解散?)
9月30日       米議会が2018年度歳出法案の期限
10月10日      朝鮮労働党創建記念日
10月10日     (衆院選公示日@)
10月17日     (衆院選公示日A)
10月18日〜     中国共産党大会(北京)
10月22日      衆院補欠選挙(青森4区、新潟5区、愛媛3区)
10月22日     (衆院選投開票日@)
10月29日     (衆院選投開票日A)
11月1-2日      米FOMC
11月4-6日      トランプ大統領が訪日
11月10-11日    APEC首脳会議(ベトナム、ダナン)
11月14日頃     東アジアサミット(フィリピン、パンパンガ州)
12月13-14日    米FOMC(今年3度目の利上げ?)


○不肖かんべえが「臨時国会冒頭解散説」を思いついたのは、外交日程が「10月ガラガラ、11月キツキツ」であったからです。トランプ大統領は、APECとEASがあるから東南アジアに来る。その直前に、日本、韓国、中国の順に歴訪するだろう(北朝鮮問題があるので、なるべくこの順序が望ましい)。となると、11月4-6日訪日は動かしにくいことになります。

○普通に考えれば、「北朝鮮情勢が不穏な中で、政治空白を作ってはならない」と考えるところ。でも、アメリカの軍事オプションがあるとしたら、いや、それ以上に米中共同作戦があるとしたら、それは年末以降のことになるだろう。だったら今のうちに解散・総選挙を済ませておけば、後の政治日程が楽になる。こういう考え方があるのかもしれませんな。

○ということで、以下は解散・総選挙の歴史。ちょっとフライングかもしれませんが、ご参考まで。やっぱり「仏滅→大安」のシナリオ@の方が、「大安→赤口」のシナリオAよりも優れていると思うけどなあ。

解散日 備考 六曜 内閣 命名 総選挙公布日 六曜 総選挙期日 曜日 六曜 定数 投票率
1948/12/23 *内閣不信任 先負 第2次吉田内閣 なれあい解散 12月27日(+4) 先勝 1月23日(+31) 日曜 赤口 466 74.04
1952/8/28   友引 第3次吉田内閣 抜き打ち解散 9月5日(+8) 仏滅 10月1日(+34) 水曜 友引 466 76.43
1953/3/14 *内閣不信任 大安 第4次吉田内閣 バカヤロー解散 3月24日(+10) 大安 4月19日(+36) 日曜 友引 466 74.22
1955/1/24   先勝 第1次鳩山内閣 天の声解散 2月1日(+8) 先負 2月27日(+34) 日曜 赤口 467 75.84
1958/4/25   先負 第1次岸内閣 話し合い解散 5月1日(+6) 先負 5月22日(+27) 木曜 先勝 467 76.99
1960/10/24   先勝 第1次池田内閣 安保解散 10月30日(+6) 先勝 11月20日(+27) 日曜 大安 467 73.51
1963/10/23   先負 第2次池田内閣 ムード解散 10月31日(+8) 大安 11月21日(+29) 木曜 先負 467 71.14
1966/12/27   友引 第1次佐藤内閣 黒い霧解散 1月8日(+12) 友引 1月29日(+33) 日曜 赤口 486 73.99
1969/12/2   友引 第2次佐藤内閣 沖縄解散 12月7日(+5) 先勝 12月27日(+25) 土曜 大安 486 68.51
1972/11/13   大安 第1次田中内閣 日中解散 11月20日(+7) 赤口 12月10日(+27) 日曜 先負 491 71.76
1976/11/5 *任期満了 先負 三木内閣 ロッキード解散 11月15日(+10) 友引 12月5日(+30) 日曜 大安 511 73.45
1979/9/7   仏滅 第1次大平内閣 増税解散 9月17日(+10) 友引 10月7日(+30) 日曜 赤口 511 68.01
1980/5/19 *不信任/W選挙 先負 第2次大平内閣 ハプニング解散 6月2日(+14) 大安 6月22日(+34) 日曜 友引 511 74.57
1983/11/28   先負 第1次中曽根内閣 田中判決解散 12月3日(+5) 友引 12月18日(+20) 日曜 先勝 511 67.94
1986/6/2 *ダブル選挙 仏滅 第2次中曽根内閣 死んだふり解散 6月21日(+19) 先勝 7月6日(+34) 日曜 仏滅 512 71.40
1990/1/24   先負 第1次海部内閣 消費税解散 2月3日(+10) 友引 2月18日(+25) 日曜 大安 512 73.31
1993/6/18 *内閣不信任 友引 宮澤内閣 政治改革解散 7月4日(+16) 先勝 7月18日(+30) 日曜 先負 511 67.26
1996/9/27 *小選挙区制 仏滅 橋本内閣 政策論争解散 10月8日(+11) 先負 10月20日(+23) 日曜 大安 500 59.65
2000/6/2   大安 森内閣 神の国解散 6月13日(+11) 仏滅 6月25日(+23) 日曜 仏滅 480 62.49
2003/10/10   大安 第1次小泉内閣 マニフェスト解散 10月28日(+18) 先勝 11月9日(+30) 日曜 先勝 480 59.86
2005/8/8   仏滅 第2次小泉内閣 郵政解散 8月30日(+22) 友引 9月11日(+34) 日曜 先負 480 62.49
2009/7/21   先負 麻生内閣 政権選択解散 8月18日(+28) 先負 8月30日(+40) 日曜 大安 480 69.28
2012/11/16   赤口 野田内閣 近いうち解散 12月4日(+18) 赤口 12月16日(+30) 日曜 友引 480 59.32
2014/11/21   先勝 第2次安倍内閣 アベノミクス解散 12月2日(+11) 友引 12月14日(+23) 日曜 友引 475 52.66
2017/9/28@ *0増6減 仏滅 第3次安倍内閣 今のうち解散 10月10日(+12) 仏滅 10月22日(+24) 日曜 大安 465 ??
2017/9/28A   仏滅 同上 同上 10月17日(+19) 大安 10月29日(+31) 日曜 赤口 465  



<9月18日>(月)

○選挙の投開票日が10月22日か29日か。今朝の朝刊はこんな風に分かれております。


●日経新聞 「衆院選10月下旬投開票。 首相、早期解散の意向」

●朝日新聞 「衆院選、10月22日が有力 臨時国会冒頭解散が軸」

●読売新聞 「衆院選、10月22日が有力 臨時国会冒頭解散が軸」

●産経新聞 「安倍首相、衆院解散を決断 10・29衆院選が有力 北朝鮮情勢の緊迫化で方針転換「安保法制の意義問い直す」創価学会も緊急幹部会」

●毎日新聞 「冒頭解散強まる 問われる大義名分 公明、改憲回避の思惑」(日程には触れず)

●東京新聞 「衆院選、10月22日軸 首相、国会冒頭解散へ」


○昨日、散々書きました通り、10月22日の方が日程的には自然です。でも29日説があるのは、臨時国会の召集が事前に言われていた9月25日から28日に遅れたことと関係があるような気がします。つまり文字通りの冒頭解散ではなく、せめて代表質問くらいは受けてさしあげましょう。そうじゃないと「国民を馬鹿にしている」と言われかねないから。その準備のために3日遅れたと考えると、辻褄が合ってきます。

○確かに臨時国会が召集された初日に、いきなり紫の袱紗が出てきて「御名御璽」とやられると、これぞまさしく「抜き打ち解散」という感じになって、あまり印象がよろしくない。せめて安倍首相が衆参で代表質問に立って、「モリ/カケ」批判のひとつも浴びて――でも言ってる野党はザルだったりするのだが――、「それでは謹んで、首相の専権事項を行使させていただきます」とやった方がいいのではないか。

○ということで、臨時国会に数日かけてから解散すると、日程が後ずれして10月29日になる。3つの補欠選挙日程もこれに合流する。だから問題ない、という見方もできる。しかし選挙後に、特別会を開いて首班指名を行うタイミングが難しくなる。なにしろ11月は外交日程がキツキツですからね。

○ところで朝日、毎日、東京新聞辺りは、「大義名分のない解散だ!」と言って怒っておられるようです。でも、それを言い出したら、大義名分がちゃんとあった解散の方が数は少ないんですよねえ(昨日の表をご覧ください)。7月から8月の野党は「総選挙はいつでも受けて立つ」モードだったけれども、9月になったら「自己保身解散だ、政治空白は望ましくない」と言っておられる。自業自得という気もしますけど。

○他方、自民党内でもこの人などは、「ちゃんとした大義名分がないと、無党派層の怒りを買って大敗しかねない」と危機感をあらわにしている。確かに世の中の空気は1か月で変わる。それはここ1か月がちょうどそうであったように。さて、どちらに転びますか。


(後記)

○本日は来月からバンコクに赴任する上海馬券王先生とご一緒に、名残りの競馬を中山競馬場で。メインレースはセントライト記念。アルアインは来なかったっですねえ。今日のルメール騎手は鬼神の如き勝ちっぷりだったが、本番で来たのは横山典騎乗のミッキースワローであった。ぐふっ。

○とはいうものの、今日はめずらしく二人揃って浮いた。そのままいつものコースで「くらちゃん」で焼き肉。馬券王先生、お疲れ様でした。お引越しの準備でますますお疲れとは存じますが、引き続きよろしくお願い申し上げます。


<9月19日>(火)

○本日は昨年のソウル会議に引き続き、日韓戦略協力対話に参加。朝から晩までに4つのセッション。冷房の効き過ぎたお部屋で北朝鮮問題などを語り合うのは、文字通り背筋が寒くなる思いがいたしまする。何だか休憩のたびにトイレに通っていたような。

○思えばこんなに長いこと北の核開発を放置しておいたから、今になって日韓ともに困り果てている。たぶん米中も同様であろう。しかもこの間、中国はどんどんワガママになっちゃったし、アメリカはトランプ政権だし。せめてこういうときくらい、韓国は歴史問題はスルーしてくれるだろうか、と思ったらやっぱりそんなことはなかった。もちろんこちらも反撃しますけどね。

○それでも昨年も痛感したことですが、ちゃんとした話ができる相手が居る、というのはありがたいものだと思う。そういう人たちと会合を重ねていくことが、二国間関係を保つ道なのだろう。果てさて、困った日韓関係ですが、これからいったいどんな手があるのか。

○私見ながら、日韓でどんな協力ができるのかと言ったら、せめて「核武装するときは、お互いに抜け駆けはダメよ」といったところだろうか。実際のところ、核オプションは両国にとってあんまりリアリティのない話である。アメリカと協力して核のシェアリングをどうするか、みたいなところが現実的なラインになるのだと思う。ただしこういうことで、日韓が互いに疑心暗鬼になるのがいちばん馬鹿らしい。

○それ以外の話をすると、対話も交渉も軍事オプションも、どれもみんな嘘くさい。いや、別に自棄になっているわけではありません。スティーブ・バノンじゃないですけど、「あんなものはSideshowだ」と言って切り捨てることができれば気楽でいいんですがねえ。


<9月20日>(水)

○来週には衆院解散だということで、急に政局っぽくなってきた昨今ですが、やはりこうでなきゃいけません。当溜池通信としてはワクワクモードです。

○そうかと思うと、あっと驚くような話も出てくる。一番はこれだな。


●若狭氏、新党結成へ動き活発化=基本政策に「一院制」


○ワシが知る限り、これだけ愚かな新党立ち上げはないだろう。一院制にはいろんな議論があって、そもそもGHQが作った日本国憲法草案は一院制だった、てなエピソードもある。ただし、今の二院制を一院制に変えようと思ったら当然、憲法改正が必要なわけであって、それには参議院の協力も欠かせないわけである。参議院が協力して発議してくれますかね。そして参議院に味方をつくらないで、いったいどうやって政党を動かすつもりなのか。

○これを唱えている若狭勝衆議院議員は、元検事・弁護士さんなのだそうだ。その辺の理屈が分かっていないのだろうか。やっぱり司法出身者は碌な政治家にはなれないのだろうか。・・・などと言うと、谷垣禎一さんや高村正彦さんに申し訳ないのだが、最近、そういう変な政治家を続けて見かけた後だけに、ちょっと疑いたくなってくる。この人とか、この人とか。

○いや、世の中にはそれくらい一院制の待望論者が多いのだ、ということなのかもしれない。でも、ワシ的にはまったく理解不能な議論である。そもそも参議院で3分の2の賛成が取れるはずがない議論をすることに、どんな意味があるというのか。参議院なんてあなた、賢いのはごく数人で、あとはスポーツ選手上がりとか、どこかの団体代表とか、変な人ばっかりですよ。そういう部分も含めて今のニッポンの政治がある。現実を直視しないでどうするつもりなのか。

○あるいはこの若狭新党というのは、素朴な有権者が支持する素人政治家集団になるのだろうか。でも、そこに長島昭久さんや細野豪志さんが入ると聞くと、その姿がどうにも絵を結ばない。だって「一院制」ですよ? プロの政治家がそんなこと言ってて、恥ずかしくないんでしょうか。

○まあ、アメリカ共和党におえるティーパーティーとかフリーダム・コーカスみたいに、できるはずもないことを声高に訴えることが自分の仕事だ!政府閉鎖だってへっちゃらさ!と割り切っちゃうような素人議員さんがこれから増えるのかもしれない。あんまりそういう日本政治の姿は見たいとは思いませんけどね。

○さらに奇々怪々なのは、この若狭新党が「100人規模を擁立する」と言っていること。これも信じがたい。だって衆議院に出馬するときの供託金は小選挙区で300万円、比例区で600万円、重複立候補だと900万円ですよ。手元に何億円用意しているんですか。まだ政党を立ち上げていないということは、政党助成金だってもらってはいないはず。それとも「供託金を自前で払える人だけ候補者にしてあげます」というんでしょうか。

○そもそも若狭氏自身が当選2回の議員さんで、比例区選挙と補欠選挙の経験はあるけれども、小選挙区で勝ったことは一度もない人らしい。ということは、今度の総選挙でご本人がかならず通るかどうかはわからない。それじゃ選挙の応援だってできませんがな。つまりは小池都知事という虎の威を借りているだけの人なのではござりませぬか。

○ということで、今度の総選挙では夢と現実の区別がつかないような政党も出てくるのかもしれません。でも、ワシが個人的に知る小池さんはああ見えてシビアな人だから、いざとなったらハシゴ外すと思うよ。


<9月21日>(木)

○昨日のFOMCで資産縮小の開始が決まったら、いきなり長期金利が上がってドル高になっている。対円では112円台に突入した。さらに「年内にあと1回の利上げあり」との見方も強まっている。この先、地政学リスクで「有事の円買い」があるかもしれないけど、やっぱり「年末は120円」という予想でいいのではないかと、自信を深めつつあるところ。

○他方、「ずいぶんと素直な反応だな」という気もする。先週末に「モーサテサーベイ」の回答を送った時は、「FOMCで資産縮小が決まっても、『既に折り込み済み』という評価になるのかもしれないな〜」などと迷っておったのです。本日、某所でシティグループの高島さんと会ったら、「最近の市場は、素人っぽい反応が多くなっています」と伺いました。つまりAIやら何やらと、高度な物差しが飛び交うようになると、人間の頭の中は逆にシンプルになるらしい。

○いや、別にひねくれた思考をする人の方が賢い、というわけではないのですが、使っている道具がご立派になると自分の頭でモノを考えなくなる、てなことはいかにもありそうです。似たようなことはほかの分野でも起きているんじゃないでしょうか。


<9月22日>(金)

○本日はテレビ東京にて『未来世紀ジパング』の収録。テーマは「ありがとう!トランプ大統領」。ナビゲーターを不肖かんべえが務めております。

○放送は週明け25日月曜日の午後10時から。まあ、よろしかったらご覧になってくださいまし。なかなか見られない「アメリカ」をいっぱいご紹介しております。


<9月23日>(土)

○別段クルマや技術のことに詳しいわけではないのですが、最近の「EV礼賛論」はちょっと異常じゃないかと思う。ヨーロッパも中国もそっちを向いているようですが、最近のEVって、バブルなんじゃないでしょうか。

○以下、ワシが感じている疑問。

1.自動車という商品は、常に「買い替え需要」である。仮に内燃自動車が作られなくなっても、ガソリンエンジンがなくなるのはそれから10年以上先のことであろう。

2.夜中に充電して昼間に走ることを想定しているのであろうが、戸建ての住人はいいけれども、集合住宅の住人はどうするの?充電器って、そんなに普及しますかね。

3.世界中のクルマが全部EVに入れ替わるとして、電池の材料となるリチウムなどの金属って地球上にそんなに存在するのか?

4.ガソリンエンジンは用済みになったらつぶせば鉄塊だが、電池はどこへ捨てるつもり?ホントに再利用できる?厄介な仕事になりそうな気がするぞ。

5.EVが普及するとして、その発電を今の日本のように化石燃料ばかりに頼っていたら、CO2は全然減らないのでは?まあ、NOxが減る分だけいい、という見方はできるけど・・・。

○個人的には5年物のハイブリットカーに乗っていて、走行距離がやっと1万キロというドライバーなんですが、これをEVに替えるという理由がまったくわからない。「日本企業はEVで出遅れている!」などと騒ぐ人もいるけれども、慌てなさんな。世界で一番EVを作っているのは日産ですって。

○何より不安を覚えるのが、EVを礼賛して旗を振っているのが「地球温暖化を憂える善意の人々」であることだ。特にヨーロッパの人たちが中心だというところが危うい。あの人たちの「善意」が今までにどんな結果を生み出してきたことか。難民の受け入れから通貨ユーロやギリシャ問題まで、碌なことがないではありませんか。

○ということで、善意を語る人々に対する最良の方策は、benign neglectだと考えるものであります。


<9月25日>(月)

○ドイツではメルケル首相が四選を決め、日本では安倍首相が解散を宣言し、希望の党が立ち上げをする。でも、ワシの関心は9月23日に行われたニュージーランド総選挙なのである。なんとなれば、こんなに悩ましい結果が出てしまったのだ。


●ニュージーランド総選挙 一院制、定数120(過半数61議席)

*国民党 58議席

*労働党 45議席

*ニュージーランドファースト党(NZF) 9議席

*緑の党 7議席

*ACT 1議席


○国民党政権は過半数を割り込んだ。いつもは市場主義改革を目指すACTと連立を組むのだが、そちらは1議席だけである。従って、過半数にはわずかに足りない。しょうがないからNZFと連立交渉を始めるか、という話になっている。

○ところがですな、野党の労働党の側から見ると、緑の党と連立を組んで、さらにNZFを味方につけると、45+9+7=61議席となって、こちらが過半数になってしまう。NZFはモノの見事にキャスティングボートを握ったというわけだ。

○NZFは1993年にカリスマ的政治家、ウィンストン・ピータース議員が国民党を離党して旗揚げした政党である。ワシが知る限り、「××ファースト党」という名前を使ったのは、これをもって嚆矢とすると思う。その拠って立つ理念は保守主義、ポピュリズム、そしてナショナリズム。高齢者やマオリ族など弱者の味方を標榜し、アジア系移民の増加に警鐘を鳴らし、国有財産の売却も慎重に(特に外国人に売るのはもっての外!)といったラインである。

○2010年にニュージーランドのタウランガという町に行ったとき、「ここはピータース議員の地元選挙区だが、2008年の選挙で新人議員に負けて引退しちゃったよ」と聞いたものである。ところがどっこい、その後は2011年選挙で復活して、今でも党首を務めているらしい。NZFのHPをご覧いただくと、既に72歳になった彼の雄姿を見ることができます。さすがは元ラガーマン、いかにも迫力ありです。

○NZFは過去に、ジム・ボルジャー国民党政権と連立を組んだこともあるし、ヘレン・クラーク労働党政権に閣外協力したこともある。つまりは融通無碍。ピータース党首、とりあえずは国民党と連立交渉に入っているけれども、内心は「どっちに高く売れるか」をワクワクしながら考えているのではないかと拝察する。

○問題はですな、このNZF党の政策を見ると、貿易自由化は慎重に、というスタンスなのであります。TPP11に対しても否定的です。ニュージーランドの次期政権は、それが国民党、労働党のいずれになっても、自由貿易から一歩身を引くかもしれません。困ったことであります。

○どうでもいいことですが、NZF党の政策の中には「Racing」(競馬)の条項があって、「競馬はキウイの文化だ!16億ドル産業を育てよう!」と言っている。それは大いに賛同するのでありますけどね。ということで、南の島の「元祖ファースト党」にご注目いただきたい。トランプ大統領も小池都知事も、あんたら所詮は二番煎じだからねっ!


<9月26日>(火)

○昨日からいろんな報道が飛び交って、ちょっと腹黒い発言をしてみたくなる。

○トランプ大統領と北朝鮮のガチンコ悪口合戦は、「理性のある側が不利」。つまり北朝鮮側が不利。だって相手はトランプさんのツィートですよ。マジで反応するなんて、なんてあほらしい。でも、自分たちの神様を"Little Rocket Man"などと呼ばれたら、あの国としては反撃せざるを得ない。なおかつ、神様の言葉が実行されないなどということがあってはならない。どんどん北朝鮮側が苦しくなっているような・・・。

○昨日は首相の解散記者会見に、小池都知事が党代表就任をぶつけてきた。これで今度の選挙は、「安倍対小池」の図式に。民進党は完全にレーダーサイトから消えました。前原さんたら、自由党と合流するんですって。これはもう無理心中ですな。考えてみれば、あのまま蓮舫さんが代表に残っていた方が、今よりもずっとマシだったのではないかと・・・・。

○小池百合子さん、とうとう原発ゼロまで公約に入れてきた。小泉純一郎さんの応援も受けて、政策上の目玉にしようとのご様子。でも意外なことに、原発ゼロを訴えた政党は今まで全部負けてきたんですよねえ。「日本未来の党」の二の舞になっちゃうんじゃないかしら。それに菅直人が「入れてくれ」と言ってきたらどうするんでしょ。むしろ小池さんの場合、核武装を提案する方が「らしかった」と思うのだが。

○TPP11交渉、このままゆくとニュージーランドが落っこちてしまうかもしれない。NZで反TPPの意見が増えたのは、住宅価格の上昇が総選挙のテーマになったから。それというのも、アジア系移民が増えたから。彼らの住宅投資を減らしたいのだが、それをやるとTPPの投資ルール違反になっちゃう。要はチャイナマネーを防ぐ方法がない、ってことですな。


<9月27日>(水)

○ロシアのアネクドートにこんなのがある。


ブレジネフ書記長がコスイギン首相に向かって言った。
「ソ連からの出国を自由にしたら、みんなこの国から出て行ってしまって、われわれ2人しか残らなくなるだろうな」

すると、怪訝な顔をしてコスイギンが言った。
「われわれ2人って言ったけど、君の他の、あと1人ってのは一体誰なんだい?」


○民進党という政党も、これに近い状態であったようだ。こんなボロ船からは早く降りたい。恥ずかしいから、ポスターの政党名はなるべく小さくしたい。次の選挙はもちろん心配だ。ところが離党する勇気のある議員は数えるほどで、それこそ旧ソ連邦のように、皆がじーっと我慢をしていたのである。

○「いずれ時が来れば離党してやる」。でも、それまでは支部長のポストにしがみついている方が得策である。そうすれば毎月、党からのお手当は数十万円出るし、そもそも離党した瞬間に別の支部長を立てられてしまうからだ。離党するのは選挙の直前でいい。そうすれば「刺客」を立てられる恐れも少ない。

○かくして明日はいよいよ衆議院解散、という絶妙のタイミングで、新しい政党が立ち上がった。その名も「希望の党」で、選挙が心配で仕方がない議員さんたちにとってはこれぞ「希望」そのもの。そこに行きさえすれば小池さんの後光が差していて、全ての罪が洗い清められるのではないか。

○思えば民進党の議員さんたちは、自分の店の暖簾を疑っている鮨屋の職人みたいなものであった。お客と言えば、昔から通い詰めていて今さら他にはどこも行けないような人ばかり。つまりは「しがらみ」の極致であった。そんな人たちを大勢受け入れて、「しがらみのない政治」もないと思うけど、今宵の情勢を見る限りレミングの大移動は止まりそうもない。

○ということで、どうやら今宵で民進党という船は沈没するらしい。船長たる党の代表が、率先して党を見捨てるというから嘆かわしい。議員さんたちは、まるで蜘蛛の糸をよじ登るカンダタのようだ。でも希望の党は、保守政党であることをお忘れなく。あの中山夫妻が先に到着しているくらいですから。とりあえず「安保法制反対」と「共謀罪反対」の旗は降ろした方がよろしいと思いますよ。

○小池百合子さんは、新党立ち上げの大ベテランである。日本新党、新進党、自由党、保守党。ぜーんぶ保守政党であることをお忘れなく。日本政治の選択肢が「安倍か小池か」になった日には、日本の左派勢力はいったいどうするんでしょうか。ま、ワシの知ったことではないし、とりあえず株価的にはプラスなんじゃないかと思います。


<9月28日>(木)

○ということで、本日はめでたく衆議院解散となりました。民進党は希望の党に事実上の合流を決めたそうです。でもこの後は、小池さんがドライに「排除の論理」を発揮することになると思いますよ。党全体ではなく、個々の候補者で判断すると言ってますからね。誰それはいいけれども、誰それはダメ。いやあ、小池劇場ですねえ。ワクワク。

○あらためて選挙の行方がどうなるかと言うと、いくら全体で10議席減って465議席になるとはいえ、自民党が287議席、公明党が35議席、併せて322議席もあったわけですから、自公で過半数の233議席はさすがに割らないでしょう。なにしろ10議席を失ったとしても、全体の3分の2は確保できてしまう計算なのですから。

○仮に民進党も自由党も完全に合流し、壮大な規模で希望の党ブームが起きて、これに日本維新の会まで加わって、自公が過半数割れ、なんて可能性はいちおうゼロではありません。そりゃあ選挙ですからね。そのときは女性初の小池首相ということだってあり得ます。その一方で、小池さんが「ワタシ、どうしても都知事辞められないから、前原さん、あなたが総理ってどう?そうそう、山口さん、あなたでもいいのよ〜」という展開だってあるかもね。頭痛いけど。

○さらに政権交代が起きたとしても、参議院は今まで通りの陣容なんですよねえ。こちらは242議席中、自民党が126議席で公明党が24議席、150議席も持っているのです。小池政権が発足したとしても、懐かしの「ねじれ国会」が待っている。そして困ったことに、参議院選挙は2019年まで行われない。安倍さんの国政選挙4連勝(2012衆、2013参、2014衆、2016参)は伊達ではないのです。1回こっきりの手品では政治を変えられないと思いますよ。

○だいたい希望の党って、政党としてのガバナンスがなさ過ぎると思うんですよ。小池代表にモノを言える人が党内に居るんですか。最側近と見なされている若狭、細野でさえ、簡単にはしごを外されてしまったじゃないですか。それから幹事長はいったい誰なんですか。小沢一郎だって、ここまでやりたい放題ではなかったですよ。もちろんマニフェストもない。なんでこんな党が人気になるのか理解不能。

○おそらくこの新党は、選挙が心配な議員にとっては希望の党、小池さんにとっては野望の党、そして支持者にとっては失望の党となると思います。この先がどうなるかと言えば、「善行が報われる保証はないが、愚行には必ず相応の報いがある」。とりあえず民進党は末路哀れが確定じゃないでしょうか。


<9月29日>(金)

○今朝は「モーサテ」へ。衆院解散の翌朝だったので、急にお呼びがかかったのかと思われるかもしれません。実は前から決まっていて、その時点では、「日中国交回復45周年と日中関係」の話をする予定でございました。

○本日ご一緒したコメンテーターはソシエテ・ジェネラル銀行の杉原龍馬さん。隣に立つととても大きくて、183センチもあるそうです。実は元Jリーガーで、横浜フリューゲルスのGKだったのだそうです。どっひゃー。

○「今日の経済視点」は、『大義』(Cause)といたしました。今回の総選挙は、「大義なき解散」(安倍首相)+「大義なき国政進出」(小池都知事)+「大義なき政党解散と合流」(前原代表)であると思います。日本国民は、「大義」なんて言葉は日常はまったく使わない(例:御社の大義は何ですか?)。ところが選挙の時だけ、こういう荘厳な言葉にこだわります。それもごく最近の現象だと思います。

○おそらく別の言葉で言いかえると、「大義なき」=「見苦しい」の意味なのだと思います。安倍さんの小心ぶり、小池さんの過剰な野心、そして前原さんの小ズルい立ち回り、どれをとっても褒められたものではない。政界って、なんてこんなに見苦しい人ばっかりなんだろう!という思いが、「大義」という言葉に結晶しているのではないでしょうか。

○モーサテが終わってから、全日空ホテルでやっていたたるとこ伸二元衆議院議員の朝食勉強会に出席しました。小池都知事とは日本新党時代以来の付き合いですから、この人が希望の会に受け入れられないはずがない。とはいえ、時期が時期だけに「話せることはあんまりありません!」とのことでした。とはいえ、今日のような日は一般論でも十分に面白い。

たるとこさんいわく、「野党の仕事は文句を言うこと、ではない」→「批判勢力は、政権の受け皿足りえない」→「野党が批判勢力でいられたのは、政権交代がなかった時代の話」→「そこを勘違いしたのが民主党政権の失敗」→「政治は結果責任。考え方がどうかは関係ない」→「ゆえに民主党政権が失敗だと言われるのはやむを得ない」・・・非常にもっともな話だと思いました。

○そうそう、今朝の産経新聞「正論」欄に寄稿した文章をご紹介しておきます。題して「ポピュリスト政党にご用心」


<9月30日>(土)

○今日で2017年度の上半期が終わり。季節はもう完全に秋ですな。

○今週は週刊ダイヤモンドの書評を書き、それから産経新聞「正論」を書き、それから東洋経済オンラインにも寄稿しました。3つともテーマと筆致が違うので、自分でも器用なことをしておるなと思う。ダイヤモンドの「私のイチオシ収穫本」で取り上げたのは『難題が飛び込む男 土光敏夫』です。掲載は1か月くらい先になりそう。

○東洋経済オンラインの原稿は今朝、アップされました。いつもの「競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」なんですが、最後の競馬の予想は本日いただいた「上海馬券王先生」とそっくりでありました。これというのも10年以上、G1レースのたびに馬券王先生の思考をたどっていたもので、いつの間にか考え方がそっくりになっていたからではないかと。とはいえ、オバゼキ先生の予想とは全然違います。まあ、当たるも八卦、当たらぬも八卦。

○来月はいろんな所へ参ります。金沢、名古屋、モスクワ、足利、佐野、高松、大阪、岐阜、大阪。別に選挙の応援をしたりするわけではなくて、講演会と国際会議と大学の授業ばっかりです。まあ、選挙ウォッチングにはなるのではないかと。下半期も楽しく元気にやりたいと思います。








編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2017年10月へ進む

***2017年8月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki