●かんべえの不規則発言



2003年5月




<5月1日>(木)

○タイガース、今宵もまた勝ってしまった。井川に続いて薮も復活。悪いけどこの調子では、巨人が対阪神戦初勝利をあげられるのはいつの日か、といった感じですな。松井を呼び戻しますか。

○さて、明日でブッシュ大統領が対イラク戦の勝利宣言だそうです。どういう宣言になるか、ちょっと気になっていることを下記しておきます。

(1)イラク戦争の目的は、当初は「大量破壊兵器の除去」だったが、後になって「イラク国民の解放+中東の民主化」になった。もしも前者の戦争理由にこだわるのであれば、大量破壊兵器はまだ発見されていないし、勝利宣言は控えめなものにならざるを得ない。しかし「イラク国民の解放」であれば、フセイン体制が打倒されたことで満額回答なので、おそらくこの点を強調して「めでたし、めでたし」とするのだと思う。その一方で、「が、対テロ戦争は終わっていない」というメッセージも必要になる。この辺の首尾一貫性をどう表現するのか。

(2)中東和平へのロードマップについてどう言及するのか。拙著『アメリカの論理』の第2章で紹介したことですが、ブッシュ政権は当初「エルサレム経由バグダッド行き」(中東和平を達成してからイラク問題を処理)という道筋を描いていた。それがちょうど今から1年前くらいに逆転し、「バグダッド経由エルサレム行き」になった。そして今やバグダッドは制圧され、いよいよエルサレムに前進しなければならない時期である。中東の人々はまさにこの点に注目している。ここでイスラエル寄りのことを言えば、「ああ、やっぱり」になる。さて、何と言うのか。

(3)2004年の大統領選挙の事実上の「ヨーイドン」が近づいている。そろそろブッシュ大統領は、安全保障問題から経済問題への切り替えを模索しなければならない。米国経済はすっきりしてないし、頼りとする減税案は議会でこじれている。そろそろ、「大統領は遠い国のことよりも、国民の生活のことを心配している」というイメージ作りが必要になるはず。ここをどう表現するか。

○と、考えてみるとこの勝利宣言は政治的に難しいところである。日本時間では明日午前10時ごろになるそうです。かんべえはブルームバーグTVのスタジオで、この演説を聞く予定。


<5月2日>(金)

○というわけで、今日の「戦争終結宣言」(終戦宣言にあらず)は、いくつも面白い点がありました。お暇な方、全文にトライしてみられる価値は十分にありますぞ。

http://www.whitehouse.gov/news/releases/2003/05/iraq/20030501-15.html

○まず、勝利の宣言の仕方ですが、アメリカは「自由と平和のために戦った」わけで、その成果として「わが国はより安全になり、暴君は倒され、イラクは自由になった」。つまり戦争の2つの目的(@テロとの戦い、Aイラクの解放)を並列にして、さらりと言ってのけている。

In this battle, we have fought for the cause of liberty, and for the peace of the world. Our nation and our coalition are proud of this accomplishment -- yet, it is you, the members of the United States military, who achieved it. Your courage, your willingness to face danger for your country and for each other, made this day possible. Because of you, our nation is more secure. Because of you, the tyrant has fallen, and Iraq is free. (Applause.)

○"Coalition"(同盟国)への配慮も込められていて、実際に戦闘に参加した英国、豪州、ポーランドに対しては、名前を挙げて謝意を述べている。国連などという言葉は、もちろん出る幕はない。日本についての言及もない。と思ったら、「ノルマンジーと硫黄島」という言葉が飛び出してドキッとさせられる。これは「激しい戦いをした敵(=ドイツと日本)が、今では同盟国になっている」例として使われている。

○テロとの戦い、という点についてはさほど新味はない。「9月11日に始まり、今なお続いているテロとの戦いにおいて、イラクとの戦闘はひとつの勝利である」。「パキスタンからフィリピン、アフリカの角(=ソマリア)まで、われわれはアルカイダの殺人者たちを追いつめて来た」。そして、「アメリカ国民に対するテロ攻撃を実施し計画する者は、この国の敵でありアメリカの正義の標的となる」と凄んでみせる。

○面白いのはイラクに自由をもたらす、というもう一つの目的を正当化している部分で、まるで民主党の大統領のような言い方をしている。

Our commitment to liberty is America's tradition -- declared at our founding; affirmed in Franklin Roosevelt's Four Freedoms; asserted in the Truman Doctrine and in Ronald Reagan's challenge to an evil empire. We are committed to freedom in Afghanistan, in Iraq, and in a peaceful Palestine. The advance of freedom is the surest strategy to undermine the appeal of terror in the world. Where freedom takes hold, hatred gives way to hope. When freedom takes hold, men and women turn to the peaceful pursuit of a better life. American values and American interests lead in the same direction: We stand for human liberty. (Applause.)

○自由にコミットすることはアメリカの伝統であり、その例として挙げられている3人の大統領のうち2人までが民主党だ。そして「自由を広めることがテロを打ち砕くもっとも確実な戦略である」と、ネオコン的な確信を語っている。そして自由はアフガニスタン、イラク、そしてパレスチナへと広がっていく、とある。この発言は、セオドア・ルーズベルトよりはウッドロー・ウィルソンに近い。

○かといって、「ブッシュはネオコンに取り込まれた」と考えるのもどうかと思う。たぶん「われらは自由のために立つ」みたいなことを言う分には、どこからも文句は出ないというのがアメリカの世論であり、上記もそろそろ2004年の選挙を意識し始めたブッシュが、民主党支持層にもウイングを広げようと意図的に口にしているような気がする。

○余談ながら、最近は「テキナシネオコン」という呪文を3回唱えると、どんなテロ国家も魔法のように打ち破られる、てなことを言う人が増えている。しかし、戦争屋さんたちとあんまり仲良くすると、選挙に差し支えるという事情も無視できないわけで、現職大統領たるものはちょっと甘いことも言わなければならないのである。そこで、「テロとの戦いは終わったわけではないが、終わりがないわけではない」と言いつつ、兵隊さんたちを前にして、こんな泣かせることを言っている。

Other nations in history have fought in foreign lands and remained to occupy and exploit. Americans, following a battle, want nothing more than to return home. And that is your direction tonight. (Applause.) After service in the Afghan -- and Iraqi theaters of war -- after 100,000 miles, on the longest carrier deployment in recent history, you are homeward bound. (Applause.) Some of you will see new family members for the first time -- 150 babies were born while their fathers were on the Lincoln. Your families are proud of you, and your nation will welcome you. (Applause.)

○戦争が終われば、「兵士を母の下へ」という声が生じるのがアメリカの習い。帰りなん、いざ。父の帰りを待つ赤ちゃんが150人もいるのだから。そして最後は戦いで亡くなった兵士を称え、いつものMay God bless you allで締める。いい演説です。

○というわけで、この「戦争終結宣言」は、壮大な選挙演説だったなあ、という印象です。空母リンカーンという壮大な舞台を背景に、目の前に降り立った大統領に興奮気味の若い兵士たちを脇役に、ブッシュは千両役者ぶりを見せつけた。案の定、今日のネクタイは3月20日と同じ赤色だった。つまり勝負してるんです。今日のブッシュは。


<5月3日〜4日>(土〜日)

○毎日新聞のホームページにアクセスして、例の記者の名前を入れて検索すると、たとえばこんな記事を書いていたようです。

【8】イラク戦争:戦場に帰る子供たち ヨルダンからバスで 

2003.04.02

 米英軍とイラクとの戦争が始まって2週間。長期化、泥沼化が懸念される中、隣のヨルダンからイラクへ戻るイラク人が増えている。多くは出稼ぎのため、祖国を離れていた人たち。「家族や国を守るため」、戦火のイラク国内に帰国するという。
 1日午後、この日も2台のバスが約100人のイラク人たちを乗せ、アンマン市内のバスステーションを出発した。弟がイラク人の妻の実家へ行くというヨルダン人のファレス・レス・カラハさん(42)は「米英は人間を人間と思わない攻撃を繰り返している。ヒトラーと同じ過ちを繰り返している」と涙をにじませながら怒りをあらわにした。

 幼い兄妹も両親とバグダッドに帰るという。戦乱の状況を理解しているのか、兄妹の表情には、子供らしい明るさはない。 【五味宏基】

[毎日新聞4月2日] ( 2003-04-02-12:22 )

○こんな記事書いておいて、記念に戦場の爆発物を拾って帰ろうとしたんですな。爆発したのが飛行機の中や、成田空港だったらどうなっていたんでしょうか。ったく、大馬鹿者もいいところです。ところでこの五味記者、田中さんの労作、新聞記者署名記事リスト2003 毎日新聞 暫定版の中には名前が見えなかった。なんでだろ〜?


<5月5日>(月)

○何とも気が早い。米民主党が第1回目の大統領候補の討論会を行いました。大統領選挙は2004年11月2日であり、民主党の候補者が選出されるのは2004年夏になる。それまで1年以上あるというのに、9人の候補者がサウス・カロライナ州に集まって、もう激論を交わし始めている。支持率7割のブッシュ大統領に挑戦するのは誰か。かんべえのような「米大統領選オタク」にとっては、楽しい季節の始まりである。

●Democratic Hopefuls Debate War, Tax Cuts (Sun May 4,11:00 AM ET)

http://story.news.yahoo.com/news?tmpl=story&u=/ap/20030504/ap_on_el_pr/democrats_debate_19

○NHKの衛星放送のお陰で、後半部分を見ることができました。司会者がジョージ・ステファノポリスである、という点が懐かしい。彼は初期クリントン政権の補佐官で、当時はまだ30代前半だった。ガムをかみながら記者会見に出てきたりして、いかにも当時のクリントン政権を象徴する「小僧」だった。さすがに風当たりが強く、たしか2年くらいでホワイトハウスを去った。若くして大舞台を踏んだのだから、その後は党の重鎮になるのかと思ったら、今ではABCニュースの看板番組を仕切る政治評論家になっている。

○ま、それはいいんだが、9人の候補者はこれからふるいにかけられる。イラク戦争への評価やブッシュ減税案、そしてゲッパートが捨て身で提案して来た国民健康保険の問題など、さまざまな問題でのディベートに勝ち残らなければならない。「誰それはXXに賛成だが、○○には反対」みたいな話は、これはこれで楽しいところなのだが、まだまだ先は長いので、そういう楽しみは先にとっておこう。

○米大統領選挙ウオッチングのいちばん簡単な方法をここで伝授しておこう。議論の中身なんて、実はあんまり関係ないのである。大事なのは、「選挙資金をいくら集めたか」なのだ。というわけで、以下は1月から3月までに集めた資金量順に9人の候補者を並べたもの。カッコ内の数字は手元に残っている金額を指します。下の方に並んでいる人は、文字どおり「泡沫候補」なので無視していい。

●民主党大統領候補者一覧

ジョン・エドワーズ
ノース・カロライナ州上院議員
740万ドル(手元570万ドル)

ジョン・ケリー
マサチューセッツ州上院議員
700万ドル(手元800万ドル)

ディック・ゲッパート
ミズーリ州下院議員
350万ドル(手元490万ドル)

ジョー・リーバーマン
コネチカット州上院議員
300万ドル(手元180万ドル)

ハワード・ディーン
前ヴァーモント州知事
260万ドル(手元200万ドル)

ボブ・グラハム
フロリダ州上院議員
110万ドル(手元110万ドル)

デニス・クーニック
オハイオ州下院議員
17.3万ドル(手元▲7000ドル)

アル・シャープトン
牧師
11.4万ドル(手元:不詳)

キャロル・モーズリー・ブラウン
前イリノイ州上院議員
7.2万ドル(手元4.5万ドル)

出典:http://story.news.yahoo.com/news?tmpl=story2&u=/ap/20030504/ap_on_el_pr/democrats_2004_glance&e=1&ncid=

○かなり気が早いけど、今の時点で印を打つとしたら本命はエドワーズ上院議員。若くてカッコイイ。南部出身というのも買い。戦後の民主党大統領5人のうち、ケネディ以外は全員が南部出身である。それにしても740万ドルということは、すでに10億円近く集めていることになる。このくらいでないと、金権候補のブッシュは倒せない。先の中間選挙を勝ったことで、全国の共和党組織は引き締まっていると考えられるので、相当な金集めをしないことには勝利は覚束ない。馬鹿らしいといえば大いに馬鹿らしいが、ま、そういう戦いなのである。


<5月6日>(火)

○日本貿易会の国際収支研究会。「SARSで貿易に出そうな影響は?」という話が出たが、みなさんの反応は「さぁ・・・」。(厳重な注:洒落てるわけではない)。「中国華南地区の工場が止まる」とか、「日本企業のサプライ・チェーン・マネジメントに支障が出る」とか、懸念する新聞記事などは多いのだけど、具体的な事例は聞かないよね、という声多数。人の動きはモロに影響を受けているが、モノの動きへの影響はまだそれほどではないらしい。ただしSARSで中国や香港の消費が落ち込んでいることは間違いなく、少し間を置いてから輸出が減ることになりそうだ。

○最近の不透明要因といえば「イラクとSARS」が両巨頭。前者はマクロ経済の話になるが、後者はずばりミクロの話ということになる。前者は得体の知れない恐怖、後者は今そこにある危機。誰が考えたって、後者の方が怖い。それを経済の話にこじつけようとするところに、そもそも無理があるのかもしれない。

○ところでイラクとSARSというと、競馬界には対照的な2つのエピソードがある。3月29日に行われたドバイ・ワールドカップでは、ゴールドアリュールが直前で出走を回避した。イラク戦争が始まってしまい、シンガポールから先の飛行機が飛ばなかったとかで、世界最高賞金を目の前に、日本のダートの星が無念の涙を飲んだ。

○他方、4月27日に香港で行われたクイーンエリザベス2世カップでは、エイシンプレストンが参戦して栄冠を射止めた。こういう時期に行われただけに、この日の香港ジョッキークラブは、入場者が前年比4割減、売り上げも約2割減、外国からの取材陣も閑散としていたそうだ。そういう中へ、わざわざ出かけていった福永祐一は偉い。現地の評価も高かったことと思う。いいことあるよ、きっと。

○ちなみに同じ4月27日、京都競馬場で行われたアンタレスステークス(G3)では、ゴールドアリュールがドバイに行けなかった鬱憤を晴らすかのように、後続に8馬身差をつけてぶっちぎりの強さを見せつけた。なにしろ穴党の上海馬券王先生が、「いくら私でもゴールドアリュールには逆らえません」と脱帽したくらいである。総収得賞金が4億円を越えたそうで、こちらは「惜福」といった感じかな。

○「君子危うきに近寄らず」か、それとも「虎穴に入らずんば虎児を得ず」か。似たようなことで悩んでいる人は世界中にいるだろうね。


<5月7日>(水)

○大手町でちょっと時間が空いたので、ワシントンから帰って来たばかりのこの人のオフィスを「アポなし訪問」してみました。忙しそうだったけど、バッチリつかまりました。我ながらいい勘してたね。「どうもお帰りなさい」と言ったら、「HP読んでると、久しぶりという気がしないね」と言われた。そりゃま、お互い様ですがな。当方も"The Gateway to the US Labor Market"をよく利用させてもらってますから。アメリカ政治オタクにとっては、今や貴重な情報源のひとつであります。

○HPだけを見ていると、筆者がもう日本にいることに気づかないかもしれませんね。が、ここに帰国の挨拶が書いてある。帰国時の設営がいろいろ大変だと言ってましたが、落ち着いたらまたじっくりワシントンの話を聞きたいところです。


<5月8日>(木)

○恒例の貿易動向調査で、虎ノ門にある日本船舶輸出組合さんに取材に行ったところ、同じビルにNPO法人岡崎研究所の新しいオフィスが入っていたことを思い出しました。そうそう、何階にあるんじゃろ、と案内図を見ていたら、目の前に立っていたのが阿久津主任研究員であった。これはいいところで、と早速、オフィスを案内してもらう。

○阿久津さん、最近、『朝生』に出たために有名人となり、「2ちゃん」で「あっくん」などと呼ばれている。あっくん、来週が第1回のフォーラムなので、忙しいところだったのかもしれないけど、ついでにお昼も誘ってしまって近所の鉄五郎へ。ここの「うなぎダブル」を食べるのは久しぶりである。いやいや、堪能しましたぞ。でもって、北朝鮮問題などのよもやま話。

○パウエル国務長官いわく、「アメリカは国際協調主義である。その証拠にちゃんとイギリスなどの同盟国とは協議している」。この理屈は面白い。好きな国、言うことを聞いてくれる国とはちゃんと仲良くしている。単独行動主義じゃない。どこが悪いんだと。朝日新聞的な論理からいけば、好き嫌いなくどの国とも仲良くするのが国際協調主義ということになるのだろうけど、それをブッシュ政権に当てはめるのは無理でしょうね。

○明日は内外情勢調査会で岡崎市へ。今週号の溜池通信はちょっと遅れそうです。


<5月9日>(金)

○岡崎市をひとことで表現すると、「昔家康、今トヨタ」。質実剛健で、堅実で、保守的で、無借金経営の土地。この当たりの地方自治体は、交付税交付金をもらっていないと聞いて驚いた。なにせ連結経常利益1兆4400億円という会社がございますから。それでも岡崎市役所の建物は地味目で、風景によく溶け込んでいる。借金の多い土地に限って、ド派手な庁舎を建てたがるのは困ったものであります。

○新幹線の三河安城駅から岡崎市に向かう途中で矢作川を越える。蜂須賀小六と日吉丸が橋の上で出会った、という故事にちなんだ像が建っている。『太閤記』のこのシーンはあまりにも有名だが、当時の矢作川には橋が架かっていなかったという研究もあるので、おそらくはフィクションなのでしょう。それでも野党の親分と食い詰め少年が、橋の上で出会うシーンはとっても絵になるではないか。両者が後年、方や天下人、方や阿波20万石の主になるという歴史はなんと痛快なことだろう。

○溜池通信今週号は明日仕上げます。今日はもう寝ます。


<5月10日〜11日>(土〜日)

○最近の「台湾つれづれ」を読んでいると、台北でのSARSの広がりがいよいよ深刻になってきた様子。昨年夏に台北に行ったとき、らくちんさんに案内してもらった龍山寺周辺が隔離閉鎖されている、というのは驚きです。こういうときの駐在員は、家族をどうするかなど、悩みは尽きないと思います。

○その一方、香港・中国には10万人程も日本人がいるのに、一人もSARSにかからないのはなんでだろう〜、というのは確かに不思議。聞けば成田空港のチェック体制は大甘だそうですから、国内に入ってこないのがそもそも不思議なくらいなのに、海外にいる日本人もかからないというのは、これだけ続くと、ただのラッキーではないような気がします。生活習慣か何かに理由があるのでしょうか。

○さて、日本人駐在員といえば、上海馬券王さんはもうじき帰国の途につくのですが、こんな感想を送ってくれています。

上海での生活も後わずか。。。思えば、この3年半はこの地の、この国の急激な成長を見せ付けられまくった3年半でありました。

今後この成長基調はこれからも続くのか。SARS騒ぎで急に暗雲が垂れ込めた感のある中国経済、今後も長期的に今までのような驚異的成長を継続できるかは疑問符もつくところですが、国のトップが率先してこの解決に汗水たらして驀進する姿は感動的ですらあり、恐らくはこのような災難も短期的には乗り切ることができるのではないかと思います。

こちらで暮らしてみてつくづく思うのは、兵隊の質は日本のほうが遥かに優秀なのですが、将軍(トップ)の質はこちらが遥かに優秀ということで、この国の指導者およびこれを支えるテクノクラートは本当に尊敬できる人が多いです。SARSの実態を隠し立てしたと言うことでこの国のトップに対する国際的な非難は大きいのですが、私にすれば、この国のトップがこんなに速やかに自らの非を認め、自己批判したというのは驚異的なことでして、この国の指導層が実務的現実的にクールな判断ができる人たちに切り替わっていることを如実に感じます。責任転嫁と問題の先送りが出世の条件となっている感のある日本のエリート諸氏も少しは見習って欲しいんですが。。。

○SARSのお陰で中国政府の信用が落ちているのは間違いない。しかしそれが中国経済の危機を招くかというと、おそらくは逆ではないかという気がします。経済が長期的に発展するときは、危機を乗り越えることによって脆弱性を解消するということがめずらしくありません。SARSのことを、「日本の産業空洞化を止める好機」などという穿った見方もあるそうですが、妙な「神風」を期待するのは愚の骨頂だと思いますぞ。


<5月12日>(月)

○昨年来、通算すると24回も出演しているJ-WAVEの"Jam the World"ですが、今日はビックリしました。本日のテーマは、「高速道路を無料化して景気の起爆剤にする」。これに対する反響がすごかった。番組終了時までにスタジオに届いたメールが、全部プリントアウトされた状態で厚さ2センチはあった。(最近はさすがにFAXによるレスポンスは多くない)。とにかく、これだけ反響があったことは記憶にない。

○あらためて「高速道路無料化論」をご紹介しましょう。本日のネタは、元ゴールドマンサックス投信社長の山崎養世さんが提唱している「日本列島快走論」。山崎氏の持論は、『プレジデント』誌の5月19日号、あるいは先週の週刊新潮、「櫻井よしこの日本ルネサンス」などでも取り上げられているし、近々出版されるとも聞いている。ポイントを下記しておこう。

●諸外国では高速道路はタダ、あるいは安い。日本は高い。現在、高速道路の出入り口は約400個所。出入り口間の距離は平均14.6キロ。日本も高速道路をタダにして、出入り口を3キロごとに1500個所新設すると、今ある高速道路が簡単、便利な「生活道路」に変身する。

●高速道路がタダになれば、経済効果は大きい。自動車産業、観光、不動産、そして何より物流コストが下がる。地方活性化にもつながる。端的に言えば、「日本の地形が変わる」ということ。アクアラインの片道3000円がタダになれば、横浜から10分の木更津の地価は跳ね上がるはず。

●問題は財源。道路公団の借金は43兆円もある。これをまともに返済すると相当な時間がかかる。そこで「世直し国債」で国が借り替えることにし、高速道路を無料化する。国の信用で30年債を金利2%の条件で出すとして、トータルの返済額は60兆円くらいになる。現在ある6200万台の乗用車と、2000万台の営業車両に目的税を課し、年間2兆円を確保して30年で返済する。もちろん返済後は廃止する。

○高速道路の料金を下げるべきだ、という発想は、以前からこの人も唱えていた。そもそも道路は日本経済のインフラなのだから、電話回線と同様、利用率を上げないことには維持している甲斐がない。だったら稼働率の低い道路は、値下げしてでも利用率を上げるべきというのは正論だと思う。現状では、道路公団の借金ばかりに注目が集まっているが、すでに作ってしまった道路に罪はない。高いから使えない、などという現状を放置すべきではないと思う。

○もっとも、無料化というアイデアはさすがにインパクトがある。極端な話、料金所を全廃してしまえば、料金所を先頭にする渋滞もなくなる代わりに、今やっているETCなども無用の長物になってしまうわけで、現状の道路行政を是とする抵抗勢力は困ってしまうだろう。そもそも「道路情報」を売り物にしているラジオ局が、こんな話を堂々と放送したこと自体が奇跡のようなものかもしれない。

○番組に寄せられたレスポンスのうち、半分程度は無料化の賛成。4分の1くらいは、「免許を持たない人は関係ない」「高速道路に近い家の人は反対」「地球温暖化の原因になる」などの反対意見があった。面白かったのは、「インターチェンジにできるのはラブホテルばかりだが、料金がタダになれば、いろんな施設が作れるようになる」とか、「高速の出入り口が増えれば、サービスエリアの高くてまずい食事がパスできる」といった意見があったこと。それからETCに対する否定的な意見が多かった。

○身近な問題だけに、高速道路の問題に対する関心は高いようです。無料化論は価値ある提案だと思いますが、さて、皆様はいかがお考えでしょうか。


<5月13日>(火)

○またまた内外情勢調査会の講師役で、本日は大阪府守口市へ。これまではもっぱら国際情勢の話をしてきたのだが、今回からテーマを国内政治に変えるので、いささか準備不足気味である。お昼の講演の準備を、朝の新幹線の中でやるのは我ながらいい度胸だが、まあ、私の仕事の仕方はいつもこんな調子である。新幹線の窓側の座席に陣取り、せっせと作業を開始しておりました。

○すると新横浜の駅から乗り込んできて、隣りの席に座った老人がいた。この人も何かの講師役を務めると見えて、熱心に講演の準備をされている。別に競争するわけではないのだが、隣りの人の集中力につられるようにして、こちらも名古屋駅当たりまで真剣に構想を練っておりました。でもって、そろそろ飽きが来て、ふとトイレに立ったわけです。それまでは、まったく気づかなかったのであります。

○トイレから戻って、自分の席に着く際に、お隣りの老人を正面から見すえて唖然といたしました。「日野原重明さん」ではないか。聖路加病院院長で、『生き方上手』の著者で、90歳を越えた現在も現役でご活躍中の医師である。あわわわわ。偉い人の隣りに座っちゃったのである。

○あらためてご挨拶申し上げようかとも思ったけど、これぞ有名人を相手にする迷惑行為の代表のようにも思われたので、そのまま大阪駅で降りるまで沈黙を通し、作業のお邪魔をしないことにしました。それにしても日野原先生、「のぞみ」が大阪に到着する2時間半、缶入り烏龍茶を1本飲まれただけで、ずっと仕事をされていました。当方の講演準備は、もう京都駅の頃にはすっかり飽きちゃってましたが。

○かんべえ42歳が、これまでの人生をもう1回分生きたとしても、隣りの日野原先生にはまだ及ばない。90歳になるのは2050年だ。その頃にまだ生きているとして、自分はどんな老人になっているのか。ちょっと考えさせられました。結局、ひとことも口をききませんでしたけど、ちょっと幸福な気持ちになったので、おすそ分けまでにここで書いちゃいました。


<5月14日>(水)

○一昨日の「高速道路無料化論」は、案の定、反響が大きいですね。多数のメールを頂戴しています。昔からこれに近いことを書いていた「台湾つれづれ」さんや、この人もHPで取り上げています。ネット上の情報伝達速度は非常に早いので、こんな形で政策論議に火をつけることができると面白いですね。

○今宵は構造改革特区についての話を聞きました。「アリの一穴」を作って規制改革を進めようという試みで、鴻池大臣の大奮戦もあって注目を集めつつあります。この政策にしても、アイデア自体は2001年の暮れに思いついた人がいて、それがいろんな努力の末に実現までこぎつけたわけで、工夫次第で物事は変えられるということを痛感しました。

○もっとも、高速道路の無料化論や構造改革特区というのは、日本経済の問題の根元に迫っているわけではありません。本丸はあくまでも金融問題にあり。そしてここに手をつけない限り、本当の意味での再生はあり得ない。ここはもう、アイデアではなくて勇気と危機感の問題なのだと思います。

○と、ここで急に話は変わって、上海から届いたメールをご紹介します。もちろん、あの人からです。


と、いうわけで、これが上海での最後の馬券予想となります。本当は、けれん味たっぷりに、フィナーレを盛り上げたいところですが、引越しや残務整理等で細かい論評もできるゆとりがなく、今回は馬名指名のみです。

下記事項注意

 @現状登録ベースなので、出走しないときはその馬をはずして、出走する低優先順の馬の順位を繰り上げてください。

 Aはやければ、金曜中に通信環境が整う可能性もあり、そのときは日本からの予想表明第一弾と言う形で再度予想を送信します。

◎京王杯スプリングカップ

 ボールドブライアン タイキトレジャー (ローマンエンパイア マイネアイル)

◎新潟大賞典

 テンジンオーカン タニノエタニティ (アサカデフィート ロサード)

では皆さん、日本で会いましょう。


上海馬券王


○そう、これは上海馬券王にとっては最後の戦い。もちろん帰国後も競馬はするに決まっているんだけど、上海在住の日本人駐在員H氏が、異国の地でインターネットと短波放送を頼りに予想する最後の聖戦なのです。

○せっかくの機会なので、上の予想にかんべえが挑戦することを思いつきました。勝負は京王杯スプリングカップ。日曜日のレースで、それぞれが指名した馬のうち、どちらが連にからむかで勝敗を決します。競馬ファンとしては、馬券王先生の足元にも及ばないかんべえですが、昨年のこのレースでは万場券を取っている(不規則発言の2002年5月12日参照)ので、ちと強気に行かせていただきますぞ。いざ。

◎京王杯スプリングカップ

 サニングデール グラスワールド (ミッドタウン)

○さあ、上海馬券王対かんべえの差し馬勝負の行方やいかに。それにしても、二人とも穴馬好きなので、ビリーヴやテレグノシスの名前が挙がらないところがちょっと笑えます。


<5月15日>(木)

○がが〜ん。昨日、あんなに大見得を切ったのに、グラスワールドが古傷をいためて出場を断念。右前足の球節炎だそうです。これでは戦わずして負けたようなもの。やはり無謀であったか。

○気を取り直して、小泉訪米について感じることを少しだけ。

○戦争が終わった後、勝者のもとに人々が馳せ参じるのは世の常というもの。すでにブッシュ大統領の元へは、ハワード首相(豪)、アスナール首相(西)、ラスムセン首相(デンマーク)、ハマド首長(カタール)が来訪し、盧武鉉(韓)、ボンデビッグ首相(ノルウェー)、アロヨ大統領(比)が続く。22〜23日に予定されている小泉さんの訪米のタイミングは、やっぱり遅かった感がある。せめて盧武鉉大統領より前であれば、北朝鮮問題でのイニシアティブを握ることができたのに。

○ブッシュ政権は「敵味方」を峻別する。味方を大事にすることが、「国際協調」だと思っている。小泉首相はもっとも信用できる「味方」であり、イラク戦争における論功も大きい。首脳会談が平日であるにもかかわらず、場所がクロフォードになったのはその表れ。江沢民やアブドゥラ皇太子は、クロフォードでブッシュ大統領と会談したことはあるが、宿泊したことはない。小泉総理に対する処遇は、ブレアやプーチンと同格を意味している。

○でも、外交上のアピールだけでなく、日本としてこの会談で、何がしかの国益上の「実利」を得たいところ。それがハッキリすると、小泉首相の「対米支持」への評価が定着する。有権者のムードは、「対米支持は、気乗りはしないが、北朝鮮問題を考えればやむなし」といったところだった。まだちょっと落ち着かない気持ちが残っているので、ここで何か駄目押しがほしい。他方、ブッシュ政権としても、小泉総理に「花を持たせる」ことにやぶさかではないだろう。

○では日本として要求すべきものは何か。「拉致問題解決へのコミットメント」は、先方の関心の薄さを考えれば無理筋というものだし、「為替レート安定への言及」も、そもそもブッシュ政権にはそういう発想がなさそうだ。「イラク復興における日本企業の参加」あたりがいいのだけど、癒着がどうのこうのといわれる恐れがある。とにかく、今回の日米首脳会談において、「米側は日本に一定の配慮を示した」と翌日の新聞が書けるような材料を手にすることが、日米関係の安定のためにも欠かせないのではないかと思う次第。



<5月16日>(金)

○今宵はNPO法人となった岡崎研究所の、平成15年度通常総会と第1回フォーラムを実施しました。NPO法人というのも、運営の理屈は社団法人と基本は同じで、事業活動と予算を承認し、定款を変更したり、理事などの役職を決めたりする。かんべえは監事にされちゃいました。「適正に処理されているものと認めます」というあの仕事だ。社内では「経理に弱い」と言われているのに、果たして大丈夫であろうか。

○フォーラムでは、安倍官房副長官、金美齢さんなど、お馴染みの顔触れが駆けつけて盛況でした。司会は「あっくん」こと阿久津主任研究員。なかなか達者になりましたね。

○会場で、久々に潮匡人さんと会う。「本、売れてるでしょ」と言われて、「いえいえ、そろそろベタ誉めの書評がほしい」などと腹黒なことを言ったら、「今月号の『諸君』ではもう取り上げましたよ」・・・・・・読んでないのがばれてしまった。ゴメンナサイ。

○防衛研究所の武貞秀士先生に北朝鮮情勢を聞く。在韓米軍の撤退準備が進んでいるとのこと。本当に朝鮮半島から手を引くというよりは、いわば上着を脱いで腕まくりをしているようなものか。米中朝の三カ国協議は、ほとんどその内容が外に出ていない。中国が鍵を握っているが、あんまり協力的ではなさそうだ。やっぱり「軍事行動はナイ!」と決めつけるのは考えものか。

○会場で何人かの方に、「いつもサイトを見てます」「本を買いました」と声をかけられました。いやはや、どうも恐縮でございます。100人くらいの会合でしたが、本当に有益で気持ちのいいパーティーでした。フォーラムはまた秋にも実施します。ご興味のある方はご参加をご検討ください。詳しくはホームページをご参照のほど。


<5月17〜18日>(土〜日)

○「ベタ誉めの書評がほしい」などと物欲しげなことを言っていたら、今朝(5月18日日曜)の日経朝刊に出ておりました。「米国人の思考で政治潮流読む」という見出しで、22面の右上隅に出ております。「いま読んでおくといい本だ」――ありがたや、ありがたや。

○ところで先週、今時めずらしい「若くて元気のある官僚」と話をしていて、こういうことになった。構造改革特別区でも、高速道路の無料化でも何でも、やればいいのは分かっている。でも、それらは結局は、日本経済の問題の核心部分ではない。やっぱり「金融」を何とかしなきゃいけない。小泉さんは、相変わらず「財政」が大事だと思っている。そうすると問題の先送りがまだまだ続く。

○金融担当相がキーマンである。柳澤さんは、当初は期待されていたけど、いつしか取り込まれてしまい、最後の頃はじっと危機が起こるのを待っているような感じだった。何かといえば「公的資金は必要ない」と繰り返していた。昨年9月に竹中さんが後を継ぎ、ハードランディング路線を始めそうになった。「竹中・キムゴーショック」で金融界で激震が走った。でも何時の間にか取り込まれてしまい、銀行との対決姿勢も腰砕けになってしまった。

○柳澤、竹中両氏が妥協してしまった理由は何か。おそらくは同じ理由なのではないだろうか。「銀行に国債を人質に取られているから」とか、「弱みを握られているから」など、いろんな理由が考えられる。きっと、そんな単純な話ではないのでしょう。金融相退任後の柳澤氏が「完黙」しているので、本当のところ何が問題なのかはよく分からない。柳澤氏は現在、たぶん暇にしているでしょうに、なぜくらいついででも話を聞きにいかないのか。金融ジャーナリズムの怠慢ではないかと思いますぞ。

○それが今週末、これまで多くの人が望んでも果たせなかった「銀行への公的資金注入」が、りそなグループで実現することになりました。ある意味でこれは「待ちに待った事態」だったのでしょうが、そういうことのありそうな金曜の夜に、小泉さんは沖縄で踊っていて、財務相はG7に出席中だった。金融庁は準備していたのか。日銀は知っていたのか。なかなか本当のところは見えてこない。

○以下の部分は、柳澤氏の退任が決まった昨年の9月30日に当不規則発言で書いたことです。

○柳澤氏は1999年3月に行われた最初の公的資金投入の責任者ですから、そのときの自分の判断を守るために「銀行には問題がない」と言い続けているのだと指摘されています。実はそうではなくて、銀行の駄目さ加減をいちばんよく知っている人だからこそ、公的資金の再投入に反対していたのかもしれません。長年、金融行政を担当して、「こいつらに税金をやっちゃいけない!」と思ったのではないかと。

○風の噂で、上記コメントが金融庁内でバカ受けしていたと聞きました。今となっては、「図星」でないことを祈るばかりです。


<5月19日>(月)

○世の中、多事多難であります。

「りそな銀行への公的資金投入」
「台湾のSARS感染医師の関西旅行」
「エルサレムであらたな自爆テロ」
「インドネシア・アチェで軍事行動」
「北朝鮮への経済制裁論議」
「エビアン・サミット財務相会合で『日本はデフレと戦え』」
「生保の予定利率引き下げ」

○それでも「白装束」がニュースになったり、「埼玉県のタマちゃん」が気になったり、「タイガースの快進撃」に我を忘れたりする今日この頃。野球がないと、テレビを見る気もしませんな。お、将棋の名人戦が第4局になっている。羽生竜王の名人奪取なるか、注目です。

○来週は日米首脳会談、そして来月冒頭にはエビアン・サミット。本日、某所で外交談義していた際に、「米欧の対立はどうなるか」という話になった。さる人いわく、アメリカの本音は「ロシアは許す。プーチンは仕方がなかった。ドイツも許す。だがシュレーダーは許さない。フランスは許さない。もちろんシラクとドビルパンは絶対に許さない」だとか。米独の関係は修復できるが、米仏はしこりが残る、というところがポイント。なるほどねえ。


<5月20日>(火)

○今宵は民主党の大谷信盛氏と。サシで、というのはとっても久しぶり。いろいろ話した内容のうち、政局論および政策論についてはここで書いちゃまずいと思うので、どうでもいい話を少々。

○国会の地下には大和銀行の支店がある。それも衆議院と参議院の両方にある。そして国会内には、ほかに銀行はない。これは永田町の住人であれば誰でも知っている話。とにかく、国会議員は非常に高い確率で大和銀行に口座を作っている。

○大谷氏も初当選の際に、まだ国会の西も東も分からない状態のところを、大和銀行の支店長に案内されて、「このたびはご当選、おめでとうございますぅ〜」とやられ、気がついたら口座を作っていた由。そうしないと歳費がもらえないんじゃないか、と思ったそうだが、もちろんそんなことはなくて、どこの銀行を選んでもいいし、わざわざキャッシュで貰い受ける議員も昔はいたんだそうだ。それでも、院内に支店があるんだから、大和銀行が便利なことは間違いない。議員の歳費だけでも一人年間2000万円以上あるから、総額では結構な金額が動くはずである。

○そういう銀行に公的資金を入れるって、ちょっと変だよねえ・・・・って、それだけの話なんですけど、どうしてそういうことになったのか、誰か知ってる人がいたら教えてください。そうそう、角谷さん、来週の"Jam the World"でこの話をネタにするってのはいかがでしょう。


<5月21日>(水)

○最近、生保の利率引下げに関する議論が盛んです。先日、『ルック@マーケット』に出た際に、証券アナリストの木村喜由さんが、「利率は引き下げるべき」と主張していて、「ふ〜ん、なるほど」と感心しました。番組のHPの「会議いどばた」の中にも出ていますが、要するにこういう論旨です。

(1)生保は基本的に契約者相互が危険を分担し合う組織であり、契約者間の公平さが第一。生命保険は長期にわたるもので、年金に近い性格である。

(2)予定利率に差があり、高利率の契約を維持するため、不利な低利率の契約で上がった利益から高利率契約に補填するのは不公平極まりない。間違いなく財産権の侵害である。これを放置するのは絶対におかしい。

(3)引き下げ反対論者は、高利率契約者の財産権の侵害などといっているが、脳みそが腐っているとしか思えない。引き下げせずに生保が破綻して最も損をするのは、引き下げておれば破綻もせず、当初契約どおりの条件で契約が維持された低利率契約者である。いままで過剰なメリットを受けてきた高利率の契約者に多少泣いてもらうのはしかたない。

(4)生保と銀行のダブルギアリング(資本の持ち合い)は問題だが、上記の筋論が通れば最悪の事態は回避される。予定利率引き下げをせずに全員が損するのはあまりに愚かな選択である。

(5)かつて第一次オイルショック後、日本の製糖業界が豪州から高値契約の粗糖価格の受け入れが不能として豪政府に泣きついて、引き下げてもらったことがある。業界全体が破綻するような危機では契約が遡及改定されることは不自然ではない。

○かんべえ自身の都合を言わせてもらうと、1988年に加入した生命保険(それもまぁ、安全圏と思われる会社)が、おそらくは非常にいい利率になっている。利率引下げが認められると、正直なところ、ちょっと惜しい。とはいえ、それが原因で生保業界全体が不安定化するのだったら、これは仕方がないと思う。もちろん上記の意見は、「保険会社側の論理である」という批判もあり得るでしょう。要は踏み倒しを認めましょうと言ってるようなものですから。

○それでも、「生保は契約者間の公平さが第一」というポイントは強調する価値があると思います。この話はどこで聞いたか忘れちゃったのですが、いわく生命保険とは同窓会の幹事のような仕事であると。同窓会の幹事は普通はボランティアですが、少々儲けたところで文句を言う人はいないはずである。では、どこで儲けるかというと以下の3通りが考えられる。

●徴収した会費よりも、経費を内輪に収める
●余った会費を翌年まで預かり、運用する
●会費は振り込んで来たものの、当日、来れない人が出る

○それぞれが、生命保険における「費差益」「利差益」「死差益」に該当するというわけ。分かりやすいでしょ?

○ある時期の生保は「利差益」を分厚く見込み、会費をおまけしたり、同窓会の料理を豪華にしてくれた。ところがデフレ経済により、利差益がどんどん悪化。今から同窓会に出ようとすると、昔入った人に比べると条件が悪くなる。これはやっぱりマズイ。やはり同窓会は割り勘であるべきでしょう。ということで、かんべえは木村説に同調します。


<5月22日>(木)

○ここ数日、いろいろ反響がありましたので、以下、簡単なフォローまで。

@大和銀行の謎:わざわざ『大和銀行70周年史』をチェックしてくださった読者がおられまして、それによると国会内に同行の支店ができたのは、「たまたま優秀な外交が飛び込み同然で営業したところ、トントン拍子で話が進んだから」だそうです。衆議院出張所は1960年、参議院出張所は1962年に開設。1969年に両方とも支店に格上げされました。

また、永田町の生き字引、角谷浩一氏によると、現実問題として議員が大和りそな以外に口座を作ろうとすると、四方八方から「なぜですか」と聞かれ、よほどしつこい人以外は断念してしまうそうです。かくして(議員+3人の公設秘書)X(衆参議員の数)の口座ができるという、オイシイ支店ができてしまうとのこと。これはこれで、国会らしい話かもしれません。

A生保の予定利率:これも関心が高い話題と見えて、それも反対意見が多いようです。論拠としては「ごまめの歯ぎしり」が典型的ですが、「生保の経営責任を問うべし」で、そう言いたくなる気持ちは分かる。「生保はリストラしていない」「金融不安を避けるための後づけの議論じゃないか」などの論拠もある。

でも、この手の議論が、90年代には金融機関への公的資金投入を遅らせたわけで、同じことを生保で繰り返すことは得策ではないような気がします。「モラルハザードが生じる」というのは正論ですが、あんまり正義感を振りかざさない方が、傷が小さくて済むんじゃないでしょうか。同窓会の幹事さんは、確かにすばらしく有能ではないみたいですけどね。

○さて今週は、ワシントンのJust for the Recordさんが日本に出張中と聞いて、どっかで会いたいなと思っておりましたら、今日の夕方にご存知ycaster師匠と密談すると聞きつけました。そこへ乱入して、「デフレ」「ドル安」「りそな」など、天下の諸情勢を論じておったわけです。

○場所がホテルオークラ内だったせいか、周囲は有名人とおぼしき顔が多かった。右隣のテーブルの女性など、たしかにテレビで見たような気がするんだけど、思い出せない。もっともそれを言ったら、伊藤師匠も地上波番組のレギュラーなんだから、似たようなものなんだけど。

○と突然、奥の方の席で携帯電話に向かって大声で話し始めた客がいた。いまどき不謹慎な、と白い目をむけようとしたら、名前を言えば誰でも知っている某元プロレスラーであった。慌てて視線をそらしたが、この電話がとっても長い。でも、誰も文句を言えない。

○3人で外に出た瞬間、伊藤師匠いわく。「ジャイアント馬場はうるさかったなあ」。――ちょ、ちょっと伊藤さん、間違えるのは分かるけど、馬場さんはもう亡くなってます。そんなこと言ったら、だぁーって気合い入れられちゃいますよ。「元気ですかー」って。


<5月23日>(金)

○5月21日に書いた「生保は同窓会の幹事」という話ですが、元ネタはここにありました。ここで読んだ方が分かりやすいと思います。書いておられるTAKE4さんはもと業界人でもあります。ご紹介まで。

http://home.catv.ne.jp/pp/t-mori/jan.html#d20030114

○さて、本誌で紹介した「SARSより怖い病気」ですが、ここでも載せておきましょう。ペーストしてばら撒こうという人もいるでしょうからね。

NEW DISEASE BREAKOUT - B.A.R.S.

The World Health Organisation (WHO) has just issued an urgent warning about BARS (Beer & Alcohol Requirement Syndrome). A newly identified problem has spread rapidly throughout the world. The disease, identified as BARS (Beer & Alcohol Requirement Syndrome) affects people of many different ages.

Believed to have started in Ireland in 1500 BC, the disease seems to affect people who congregate in Pubs and Taverns or who just congregate. It is not known how the disease is transmitted but approximately three billion people world-wide are affected, with thousands of new cases appearing every day.

Early symptoms of the disease include an uncontrollable urge at 5:00pm to consume a beer or alcoholic beverage. This urge is most keenly felt on Fridays. More advanced symptoms of the disease include talking loudly, singing off-key, aggression, heightened sexual attraction/confidence (even towards fuglies), uncalled for laughter, uncontrollable dancing and unprovoked arguing.

In the final stages of the disease, victims are often cross-eyed, and speak incoherently. Vomiting, loss of memory, loss of balance, loss of clothing and loss of virginity can also occur. Sometimes death ensues, usually accompanied by the victim shouting, "Hey Fred, bet you can't do this!" or "Wanna see how fast it goes??"

If you develop any of these symptoms, it is important that you quarantine yourself in a pub with fellow victims until last call or all the symptoms have passed. Sadly, it is reported that the disease can reappear at very short notice or at the latest, on the following Friday. Side effects for survivors include bruising, broken limbs, lost property, killer headaches and divorce.
On the up side, there is not, and probably never will be, a permanent cure.


<5月24日>(土)

○日米首脳会談で、「小泉さんはブッシュさんに何かおねだりしたらいい」てなことを5月15日に書いたんですが、「横田基地の軍民共用」という話が出たんですね。これは妙手かもしれません。@実現すればこんなにいい話はない。A普通ならほとんど無理筋の話だけれど、ペンタゴンは全世界的に米軍の配置の見直しを始めることになっているので、タイミングがいい。B国内政治的には、石原都知事に対する「貸し」を作ることができる。

○あ、でも最近の米軍基地はテロに対する警備が厳重だから、民生用に使うのはちと苦しいかな。それでも成田、羽田に次ぐ首都圏第3空港が整備できるのなら、こんなにいい話はないと思います。要注目ですね。

○為替の問題を取り上げて、ブッシュ大統領に「強いドルを継続」と言わせたことも、ポイントのひとつなのかもしれません。しかし為替を経済政策のテコに使うという発想は、今の政権には希薄ではないかと思います。マーケットでは、スノー財務長官が巧みなトークダウンによってドル安を演出しているという解釈がされているようですが、考え過ぎじゃないでしょうかねえ。

○今のブッシュ政権は、「戦争をするんだったら歴代で最高」といわれる充実度ですが、経済スタッフはまことにお粗末。しかも最近のジャイアンツの投手陣のように、「換えるたびに悪くなる」。財務長官、経済担当補佐官、OMB長官、変わっていないのはゼーリックUSTR代表くらいですな。おそらく今の財務省は、オルブライト長官時代の国務省のように士気が低下していることでしょう。ということで、為替で得点を挙げるというのは、非常に難しいと思いますぞ。

○北朝鮮やイラク復興に関する部分は特筆事項ナシですね。日米双方が十分積み上げた結果という気がします。とりあえずそんなところかな。


<5月25日>(日)

○競馬はこのところ絶不調のかんべえ、どのくらいひどいかというと、今日、配偶者に頼まれたスティルインラブの複勝を換金したのが、今月初めての換金だったりして、どこまで続くぬかるみぞ、って感じ。とまあ、それはさておいて、最近読んだ本のご紹介。

○『最強の競馬論』(森秀行/講談社現代新書)は、調教師として活躍中の著者による競馬論。業界の内幕が見えて面白い。馬がレースで稼ぐ賞金のうち、80%が馬主、10%が調教師、5%が騎手、5%が厩務員という比率で分配されるのだそうだ。調教師としては、経費がかかることを考えると、年間賞金2億円が最低ラインになるという。とくに海外遠征などしようものなら、経費倒れは避けられない。

○海外のレースの賞金は、日本に比べると高くないので、赤字になることが多い。それでも森氏は、エアシャカールやアグネスワールドで海外に挑戦している。なぜかというと、種付けの値段が上がるから。海外で成果を上げることが馬の価値を高め、馬主に報いる道であるというのが森氏のビジネスモデルであるようだ。顧客重視はあらゆるビジネスの基本ですからな。

「賞金が入るとすぐ自分の家を建てたり、新車を買ったりしているようでは見込みはない。(中略)馬が稼いでくれた金を馬に投資しなかったら、必ずしっぺ返しをくらうことになる。新しい馬具を購入する、厩舎の設備を改善する。儲かったぶんは、全部馬のために投資しなければいけない」

○森氏のこの心意気、どの世界にも共通するように思うのだ。ケチはいけません。感謝の気持ちと明日への投資を忘れないようにしたいものです。


<5月26日>(月)

○かんべえはあんまりテレビを見ない人なので、話題の金鳥のCMをまだ見ていない。岸部シローが「金鳥は環境問題のために・・・」てな能書きをたれていると、大滝秀治のおじいさんが、「お前の話はつまらん!」と怒り散らすというあれだ。噂ばっかりなんだけど、とっても見たい、見たいよう〜。

○大滝秀治は、最近はめっきり少なくなった日本映画の名バイプレイヤー(川谷拓三や室田日出男が懐かしい)の1人だと思う。たしか『駅〜Station』だったと思うが、冒頭シーンで射撃でオリンピックを目指している高倉健に向かい、大滝秀治が「お前は馬鹿だ」と叱るシーンがある。これがとってもいいシーンなのだ。諭すような、嘆くような口調で、深い哀感が込められた「馬鹿」なのである。このシーンを見るだけで、叱っている大滝秀治の人柄と、叱られている高倉健の人柄が読み取れてしまうような、優れた導入部になっている。こういう演技ができる人が、果たしてどれだけいるか。

○そんな名優に、実もふたもなく「お前の話はつまらん!」と怒鳴らせてしまう演出、これもまたすばらしい。このキャスティングの妙を思いついた時点で脱帽である。まだ一度も見てないのに、私の心は打ち震えている。その証拠に床が揺れている。お、地震だ。というのは後からつけたウソです。今、私は酔っている。んなこと威張るなっつうの。

○どうでもいい話を書いたついでに、もうひとつどうでもいい話を書こう。昨日、中島みゆきのCD『2000 Singles』を買って来た。これを聞きながら日曜夜に「2ちゃんねる」などを読んでいると、本当にはまってしまい、ついつい深酒をする。お陰で今日は睡眠不足だが、今夜もついついこのCDを聞いてしまい、またも深酒をしている。

○思えば中島みゆきは1970年代から、ずっと似たような曲を作って来た。いつも「ニューミュージックに分類されるど、その本質は演歌」だった。かんべえも高校生時代から「時代」や「アザミ嬢のララバイ」や「タクシードライバー」などをよく聞いてた口で、それでも中島みゆきが好きだなどというと、「暗い」と言われるから、ちょっと憚られる雰囲気があった。(山崎ハコよかマシじゃないか、という説もあった)。それでも何だかんだ言いながら、この年まで彼女の歌はずっと気になっていたような気がする。

○ということで、『2000 Singles』である。このアルバムを聞くと、この10年くらいの彼女が、いかに多くのドラマのテーマ曲やCMソングを作っていたかということに驚く。住友生命の「ファイト」は1994年、「聖者の行進」の主題歌は1998年。それもそのはず、おそらくはかんべえ(42歳)の前後10年くらいの世代が、彼女の歌に中毒していたからであろう。中島みゆきは、実は多くの人にとって不治の病だったのである。

○この病いは、NHKが『プロジェクトX』の主題歌に彼女を起用した時点で全国的になる。そう「地上の星」は、ここにおいて「一見、ニューミュージックだけど実は演歌」という枠を乗り越え、世代を超えて愛される「歌謡曲」になったのである。紅白歌合戦が「若者の部」「中高年の部」「なつメロの部」に分れてしまい、「お茶の間」という言葉が死語になってしまった今日、これほど日本人の心理のど真ん中を突いた曲は見当たらない。ひょっとすると、これが最後の「歌謡曲」なのかもしれない。

○かくして中島みゆきは全国区になったというわけだ。それがどうした、と言われるとすでに酔っ払っている筆者にはあとに続く言葉がないのであるが、ともあれ今夜もしびれてしまっているわけだ。こんな私を誰が責められよう。


<5月27日>(火)

○昨晩のようなことを書いたら、さっそく「金鳥のCMはここで見られます」というご指摘を3人の方から頂戴しました。画面はちょっと小さいですが、お陰で念願が果たせました。深謝申し上げます。

http://www.kincho.co.jp/cm/html/2003/kin_tum/index.html

○なお、共演者は岸部シローではなく、岸部一徳さんの方でしたね。これは今朝、配偶者からも指摘されちゃいました。一徳さんは、富士通のパソコンのCMのシリーズでもいい味を出してますね。最新作の「拓哉、うまくなったな」も激藁でした。

○本日は日本経団連の定時総会に行ってきました。来賓挨拶で塩爺や竹中氏が話している間は良かったのですが、議事が始まるといっぺんに退屈になってしまい、「ご承認ください」「ご異議ないものと認めます」でシャンシャンと物事が進む。思わず、一昨日からの睡眠不足を取り返してしまいました。それにしても社団法人の定時総会というやつ、もうちょっと何とかならんのか。昔の経済同友会の総会では、代表幹事と会員の間で激論を交わしたことがあったそうなんだが。

○それでも天下の奥田会長に向かって、「お前の話はつまらん!」などと啖呵を切る会員がいるはずもなく、粛々と議事は進行。予定の時間をやや余して終了でした。

○明日は広島に出張するので、更新を1日お休みします。それではまた。


<5月28〜29日>(水〜木)

○広島に行って、日経懇話会の講師を勤めてまいりました。広島に行くのは5年ぶりくらいですね。

○ちょっと空いた時間に、ひろしま美術館を覗いてきました。ここの常設展は以前からファンなのです。まず、「印象派からエコール・ド・パリまで」という収集対象がよろしい。単なる趣味の問題だけど。次に、それらが適度な空間にほどよく配置されていて、分類も適切である。ビッグネームの作品も少なくない。察するに、全国の自治体が美術館を建て始めるようになる前に手がけたため、比較的安く収集できたのだろう。とにかく、地方都市が持つ美術館は、かくあらまほしきかな、といった存在だと思う。

○ついでに護国神社に立ち寄っておみくじを引く。小吉。どうも最近、引きが弱くなってしまったようだ。以前は大吉以外は引いたことがなかったのであるが。今週末のダービーもろくなことはないぞよ、という天の声だろうか。

○護国神社の後ろは広島城である。原爆で失われた天守閣が戦後に再建されている。ここはその値打ちがある城といえよう。毛利輝元が建てて、福島正則が入り、その後は浅野家の居城となった。日清戦争のときにはここに大本営が置かれた、とある。細長い中国地方の地形を考えたら、広島はどうしたって要衝になる。そんなわけで原爆を落とされたりもしたわけだが、戦後も中核都市として発展している。

○リーガロイヤルホテルに泊まったのですが、目の前は広島市民病院。ふと、ああ、村山聖九段はここで死んだのだな、と思い出した。また『聖の青春』(大崎善生/講談社)を読み返したくなりました。


<5月30日>(金)

○今宵は中央大学での研究会で、昨日と同じような話をさせていただく。「アメリカの論理を読む」というお題で、イラク戦争がどうのこうの、ネオコン派がどうしたこうした、これからは大統領選挙の季節ですよ、てな内容。来週も似たような機会があるので、しばらくはこのパターンが続きそう。

○本を出して初めて気づいたことですが、「お前の本についてここで説明しろ」と言われた場合に、けっして逃げられない。それをごまかすようだと、お前は何のために本を書いたんじゃ、ということになる。同様に、「お前の本のここがおかしい」と言われた場合も、とぼけてしまうわけにいかない。・・・・・って、当たり前ですよね。でも、人はときとして、そういう状況に身を置いてみないと、当たり前のことに気づかないのであります。今頃になって気づいたんです。ゴメンナサイ。

○イラク戦争に勝って、G8サミットでもワガママのし放題、まさに「パックス・アメリカーナ第2部」の幕開けかといった国際情勢です。でも、ふと思うのですが、「パックス・ロマーナ」を築いたアウグストゥスは、「私は権力を欲しません」というポーズを取り続けて、最後は元老院を骨抜きにしてしまい、皇帝の覇権を確立した。その間の手練手管は呆れ返るほど見事である。その点、今のブッシュ政権のやり方はいささか子供じみている。これ見よがしにポーランドに行ってアウシュビッツを訪問する(ドイツに対する嫌がらせ)。G8サミットをわざわざ中座して、中東を訪問する(フランスに対する嫌がらせ)。これでは反感を買うばかりではありませんか。

○その反対に、日本に対してはほとんど大盤振る舞い。横田基地もさることながら、ブッシュ大統領が拉致問題の解決に言及するとは驚きです。論功行賞もここまで露骨だと、いっそサバサバした感じですね。それでも、これだけ敵味方をはっきりさせちゃうと、敵にされた側はぐれてしまうんじゃないかと心配です。来年のG8はアメリカが主催国で、その際は大統領選挙に活用したいところでしょうが、変なところで仕返しされないとも限らない。

○「パックス・アメリカーナ第2部」に死角があるとしたらその辺でしょう。真に強い人が謙虚な振りをすると、「あの人はさすがだ」ということになる。逆に「俺が、俺が」をやると、感情的な反発を貯えてしまう。ブッシュ政権の直情径行さは、分かりやすいという魅力もあるけれども、無用な敵を作りやすいという弱点を抱えている。徳が足りない、と言ってしまうと精神論になっちゃいますかね。








編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2003年6月へ進む

***2003年4月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki