●かんべえの不規則発言



2012年11月





<11月1日>(木)

○明日はこんな番組に出没します。

●ワールドWave トゥナイト「激戦 アメリカ大統領選挙のゆくえ」

NHK総合

2012年11月2日(金) 午後10:55〜午後11:40(45分)

番組内容 6日、米大統領選挙が行われる。現職のオバマ大統領が再選を果たすのか、共和党が政権を奪還するのか。投票日直前の最新情勢をルポし、専門家と接戦のゆくえを展望する。出演者ほか【出演】双日総研副所長…吉崎達彦,【キャスター】傍田賢治,鎌倉千秋,飯田香織

○ということで、どうぞよろしく。

http://cgi4.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2012-11-02&ch=21&eid=6953 


<11月2日>(金)

○「え?トゥナイトに出るの? それって山本晋也監督が出るやつ?」――それはテレ朝だって。だいたいアメリカ大統領選の特番なんだから、「ほとんどビョーキ」の人が出るわけないでしょ。でも、なぜか複数の人から同じ反応をもらってしまった。いちおうNHKの番組なんですけど。

○今日の番組は、普段はNHK BSでやっている「ワールドWAVEトゥナイト」が、NHK総合でやっている「BIZプラス」と共同で制作している特番なんだそうです。最初はその辺のことがよくわからなくて、一昨日くらいまで「2つの番組を掛け持ちするのかな」と勘違いしてました。二つの番組の出演者とスタッフが共同作業をするので、いつもと勝手が違って難しいらしいです。合併会社みたいなものですかね。

○で、今日のパターンはこんな感じでした。

8:00PM:NHK放送センターへ。すぐに今日のVTRを見せてもらう。

8:30PM:スタッフ、出演者と挨拶。段取りの説明。

9:00PM:控室でお弁当を頂戴する。

9:30PM:メイクしていたら、飯田さんが雇用統計の数字を持ってきてくれた。失業率は7.9%だって。あまりにもストライクゾーンの数字なので拍子抜け。

10:00PM:BSで「ワールドWAVEトゥナイト」が始まる。こっちは控室で見ている。別の番組の取材も少々。

10:45PM:番組終了。スタジオ入り。10分間の間に「ワールドWAVEトゥナイト」のスタジオを特番用に模様替えしている。いと面白し。

10:55PM:特番始まる。

11:40PM:番組終了。

○オバマ対ロムニーは激戦ということで、ここへ来て米大統領選挙関連の企画が急増しています。季節労働者としてはありがたいことですが、ハリケーンの到来とともに勝負が「水入り」になって、10月以来のロムニーの追い風が止まっちゃわないか?というのがやや心配。投票日まで残るところ4日。最後まで盛り上げてほしいです。


<11月4日>(日)

○アメリカ大統領選挙はさておいて、日本の国内政治はどうなっているのか。なんと気がついたら、この国にはNHKの「日曜討論」に呼ばれる政党が14個もあるのだ。

●14党に問う
  どうなる臨時国会 政局のゆくえは

放送  9:00〜11:10

*個別インタビュー
■民主党 幹事長/輿石 東さん
■国民新党 代表/自見 庄三郎さん

■自由民主党 総裁/安倍 晋三さん
■国民の生活が第一 代表/小沢 一郎さん
■公明党 代表/山口 那津男さん
■みんなの党 代表/渡辺 喜美さん
■日本共産党 委員長/志位 和夫さん
■社会民主党 党首/福島 みずほさん
■たちあがれ日本 代表/平沼 赳夫さん
■新党きづな 代表/内山 晃さん
■日本維新の会 国会議員団代表/松野 頼久さん
■新党大地・真民主 代表/鈴木 宗男さん
■減税日本 代表/河村 たかしさん
■新党改革 代表/舛添 要一さん


○「少数意見を大切にしよう」というお題目はさておいて、どう考えても14は多過ぎるよね。これでは、「皆さん集まって議論」することもできゃしない。「日曜討論」というところは、政治家の後ろで秘書がストップウォッチを持って、「うちの先生は何分何秒しゃべったか」をチェックしているようなコワい世界なんだそうだが、あんまり少数政党に配慮するのも考えものである。どうせなら、1部リーグと2部リーグに分けて入れ替え戦をやるとかして、もう少し絞ることはできんのだろうか。

○てゆーか、上記の中には、「政界再編」だけが目的で作ってみたものの、いつまでたっても合従連衡が起きないので、内心では嫌気がさしているのだけれども、いまさら引っ込みもつかなくてダラダラと続いている「新党」も入っているような気がするぞ。「近いうち」にあるはずの総選挙の後は、ちゃんと「小異」を捨てて離合集散して、もう少しスッキリした形になることを希望したい。

○で、この総選挙においては、有権者は民主党を罰してやろうと身構えているようである。3年前の夏に、「能力がなくてやる気もない」自民党を政権から引きずりおろし、若くてさわやかに見えるよく知らない人たちに任せてみたところ、これは「能力がないのにやる気のある」連中であって、当然のことながら前よりも事態を悪化させてしまった。せめて彼らがもう少し謙虚であるか、意欲が低ければ、ここまでひどくはしなかっただろう。つくづく善意の人に権力を持たせるのはコワいものである。

○ちなみに、「今度こそ中央集権と官僚支配を打破しなければならない」などといきまいている人たちは、同じ失敗を繰り返す確率が高いと思います。今の日本はかなり困った状況にあるわけで、ハコテン寸前からの役満狙いとか、バンカーからのリカバリーショットなんて普通は成功するはずがありません。そんなに能力の高い政治家も見当たらないんだから、もう少し堅実な線で考える方がいい。今の日本に必要なのは、「維新」ではなくて「敗戦処理」だと思います。

○さて、年内の解散・総選挙は可能なんでしょうか。日程的にはかなり苦しいように見えますが、これ以上、先延ばしをすると野田さんが「嘘つき」になるだけで、あんまりいいことはないと思います。今月末に解散するとして、候補日は以下の通りとなります。


●12月2日(仏滅)→ちょっと近すぎて難しそうですね。

●12月9日(大安)→お日柄は良いんですけれども・・・。公明党が「12月9日が締め切り」と言っていたのは、そういうわけだったか。

●12月16日(友引)→東京都知事選とのダブルになります。東京都の投票率が上がるので、これは民主党に不利に働くでしょう。

●12月23日(先負)→年末過ぎて国民生活に迷惑。それにこの日は、選挙よりも大事な有馬記念があります!

後記→23日は天皇誕生日なんで、振り替え休日の24日でどうかという説もあります。でも、この日はクリスマスイブだし、仏滅なんですけど!)

○ということで、やっぱり苦しいかなあ・・・・。年内解散に期待しているんですけれども。


<11月5日>(月)

○アメリカ政治に戻って、さあ、明日が投票日。といっても、日本時間では7日の昼くらいに大勢判明ってところでしょうか。

○最後の最後に来て、ハリケーンがオバマの追い風になったようです。10月に入ってからのロムニーの快進撃に、文字通り「水を差した」感じです。ほら、麻雀でもよくあるでしょ? 場所を変えたら急にツカなくなった、というのが。「神風」と言ったら大袈裟ですが、危機に際して指導者への支持が強まるという、アメリカではお馴染みの現象が起きたということだと思います。

各州ごとの支持率をみると、このタイミングでヴァージニア州(13)の支持率がひっくり返ったのはロムニーには痛いでしょう。2008年にオバマに取られた州なんで、何とか取り返したいところだったのですが。以下、機械的に予測していくと下記のようになります。うーん、これだと2008年に比べて、共和党がフロリダとノースカロライナとインディアナの3州を取り返しただけじゃん・・・・。


州   名 2000 2004 2008 2012e 選挙人
メーン D D D D 4
ニューハンプシャー R D D D 4
バーモント D D D D 3
マサチューセッツ D D D D 11
コネチカット D D D D 7
ロードアイランド D D D D 4
ニューヨーク D D D D 29
ニュージャージー D D D D 14
ペンシルバニア D D D D 20
デラウェア D D D D 3
メリーランド D D D D 10
ワシントンD.C. D D D D 3
バージニア R R D D 13
ウエストバージニア R R R R 5
ケンタッキー R R R R 8
テネシー R R R R 11
ノースカロライナ R R D R 15
サウスカロライナ R R R R 9
ジョージア R R R R 16
フロリダ R R D R 29
アラバマ R R R R 9
ミシシッピ R R R R 6
アーカンソー R R R R 6
ルイジアナ R R R R 8
オクラホマ R R R R 7
テキサス R R R R 38
オハイオ R R D D 18
インディアナ R R D R 11
イリノイ D D D D 20
ミネソタ D D D D 10
ウィスコンシン D D D D 10
ミシガン D D D D 16
アイオワ D R D D 6
ミズーリ R R R R 10
ノースダコタ R R R R 3
サウスダコタ R R R R 3
ネブラスカ R R R R 5
カンサス R R R R 6
アリゾナ R R R R 11
ニューメキシコ D R D D 5
アイダホ R R R R 4
モンタナ R R R R 3
ワイオミング R R R R 3
ネバダ R R D D 6
ユタ R R R R 6
コロラド R R D D 9
カリフォルニア D D D D 55
ワシントン D D D D 12
オレゴン D D D D 7
アラスカ R R R R 3
ハワイ D D D D 4


○もちろん、上記が当たるという保証はどこにもないわけで、どんな結果が出るのか注視したいと思います。本日時点においては、「オバマ303対ロムニー235」を最終予測としておきましょう。まあ、これは趣味みたいなものです。

○上院議員選挙では、これもヴァージニア州が面白い。2006年にギリギリで負けちゃった共和党のジョージ・アレンが、捲土重来を期している。人種差別発言「マカカ」がユーチューブで暴露された、という事件を懐かしく思い出します。対する民主党候補は、元知事のティム・ケイン。オバマ大統領の副大統領候補にもなっていた人で、これは2012年屈指の名勝負ですね。ほかにも、共和240、民主190、欠員5、と大差となっている下院の議席数がどれくらい動くかなど、注目点には事欠きません。

○さあ、明日から明後日にかけてがまことに楽しみです。


<11月6日>(火)

○今日の一日。

●午前9時過ぎ、文化放送「くにまるジャパン」で「財政の崖」問題を語る。

●午後3時から、TBSの「ニュースバード」で米大統領選について語る。

●午後10時から、テレビ朝日の「報道ステーション」で「財政の崖」問題を語る。

○明日の予定。

●午前5時45分からテレビ東京「モーニングサテライト」。トークは米大統領選について。

●午後2時から共同通信で米大統領選について座談会。

○明後日の予定。

●午前7時から、NHK「おはよう日本」で米中関係について。

●午後3時から、岡三法人セミナー「米国経済展望」(エド・ハイマンさんとともに)

○うーん、いくら米大統領選ウィークとはいえ、これ以上仕事は増やしたくないぞ。で、後は明日、起きてから考えよう。


<11月7日>(水)

○よかったよかった。今日中にちゃんと答えが出て。すっきりとオバマさんが再選されました。

○フロリダ州だけはまだ結果が出ていないようです。それ以外の州は全部11月5日に予想した通りでした。これでフロリダをロムニーが取ると、「303対235」という予測がピタリ賞になります。別に何がもらえるわけじゃないですが、自分の読みが当たるというのはうれしいものです。

○とりあえずのコメントは下記の通り。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121107/amr12110718400009-n1.htm 

○まあ、後はおいおい書いていくことにしましょう。


<11月8日>(木)

○朝が異常に早かったり、夜もいろいろあったりで、時差ボケ状態。なんなんだ、これは。さすがにそろそろ峠を越すものと希望。

○NHK「おはよう日本」に川島真東大准教授とともに出演。朝のニュースの現場は、日曜午前や深夜の討論番組とは違う緊張感がありました。

○午前中に産経新聞と北日本新聞を入稿。

○午後は岡三証券の法人セミナーが大盛況でした。今年も「全米エコノミストランキング第1位」のエド・ハイマンさんとの掛け合い。@ウォール街のオバマさんへの評価は低い。Aバーナンキ議長への評価は高い、Bアメリカ経済はますますJapanizationの色を濃くしている、というのがとりあえずの感想。

○ということで、各方面で義理を欠いておりますが、どうぞお許しを。


<11月9日>(金)

○米大統領選挙が終わったら、途端に株安が始まった。それと同時に「財政の崖ってなんだ?」という声が聞かれるようになった。これって要するに、金融界の論理と世の中の論理がまったく食い違っていることの表れなんでしょうね。

○財政の崖(という言葉は当時はなかったが)の概念は、年初から心配されていた。例えば今年最初の溜池通信にもちゃんと書いてある。マーケット関係者は、ずっとこのことを心配していた。ただし普通の人は知らないし、新聞も書いてくれない。アメリカ政治がいかにひどいことになっているか、はっきり言って日本以下だと思うのだけど、そういう認識は薄いのでありましょう。

○あらためて「財政の崖」問題に対する当面の見通しを言うならば、まずは来週にも米議会が招集される。ただしそれは、レイムダック議会と呼ばれる選挙前のメンバーによる議会である。ここで年末に向けて協議が行われるわけだけど、解決策は大きく言って2つしかない。ひとつは「グランドバーゲン」、もうひとつは「単なる先送り」である。

グランドバーゲンとは、大きな枠組みでオバマ大統領が共和党に呼びかける取引のことである。ブッシュ減税、歳出の強制削減など、いろんな材料を一緒にテーブルに乗せて、「俺はこの部分をあきらめる。だからお前たちもこの部分は妥協しろ」と迫るのである。これですんなり決まれば、問題はない。株価も上がるでしょう。が、昨日聞いたハイマンさんの話なんかでは、かな〜り難しそうである。そもそも下院で共和党は議席を減らしていないんだもの。そりゃあ強気に出ちゃいますよね。

○そこで先送りシナリオが浮かぶ。とりあえずいろんな問題を来年に延期して、与野党でゆっくりと考えましょうや、というわけだ。しかるにこのアイデアは2つの面で問題がある。ひとつはオバマ大統領の政治的資産について。オバマ大統領の力は今がピークで、これから先、時間とともに減価していく。今ここでできない妥協が、1年先にできるという保証はどこにもない。ゆえに「とりあえず今は問題を先送りした上で、後でゆっくりとグランドバーゲンを」というシナリオは甘いということになる。

○もう一つの問題は、来年の1〜2月にも米国債の新たな債務上限に到達してしまうということだ。そもそもの発端は、2011年夏の債務上限問題であったことを想起していただきたい。あそこで先送りした問題にまたぶち当たってしまうのだ。そもそも来年の年初から始まる歳出の強制削減(Sequestration)とは、財政再建に向けて与野党が合意に達することができなかったことへの「罰ゲーム」という側面がある。超党派で2.4兆ドルの財政再建を目指したけど、1.2兆ドル分しかできなかったので、残りの分は2013年1月から強制的に歳出を削減することになっている。その半分は防衛費(共和党が嫌がる)で、残りの半分は社会保障費(民主党が嫌がる)だ。

○そういう罰ゲームをさらに延期するとなると、どう見ても米議会には当事者能力がないとしか思えない。このようなことで、米国債の信頼性は果たして維持できるのか。つまり、今回も恣意的な政治的妥協を繰り返すようだと、アメリカ財政がマーケットの信認を失ってしまうかもしれないのだ。

○ということで、年末に控えている崖に向かって、オバマ大統領と共和党のチキンレースが始まっている。共和党側としては、「俺たちを納得させてみよ」という態度でしょう。つまりは相手の出方待ち。オバマ大統領は、「俺は富裕層の増税を公約して再選されたんだぞ」と思っている。さて、どうなるか。

○はっきり言って、オバマさんが思い切って妥協しない限り、グランドバーゲンは望み薄でしょう。ただし、以前は寛容であった彼も、どんどん頑なになってきている。果たして妥協できるのか。私自身としては、今回の選挙で彼が何を言ったかよりも、「アメリカを一つにする」という2008年時点の公約の方が、はるかに重要だと思うんですよね。


<11月11日>(日)

○金曜夜に8時間、土曜の昼に3時間、そして土曜の夜に9時間。いやはや、われながらよく寝ましたぞ。やっと時差ボケ解消。明日は成人病検診です。

○アメリカで大統領選挙が済み、中国は共産党大会の真っ最中。そうこうするうちに、わが国も選挙は年内らしいぞとの声が。この人は、12月16日の東京都知事選とのダブル選挙の可能性が高いと言ってますね。なるほど、16日は「友引」というくらいですから、衆院選を呼び寄せてしまうのかも。

○歳川さんの指摘では、「プーチン大統領との会談を延期した」というのは賢明な判断だと思います。レイムダックの政権と、まともな交渉をしようという国はないでしょうから、これは会っても仕方がない。日ロ関係で何か前進を得たいと思ったら、こっち側がちゃんとした政権を作ることが先決でしょう。いずれにせよ、早期解散は歓迎であります。

○ところで、「決められない政治」はいろんな国で見られる現象ですが、どこがいちばん大変でしょうか。

●日本:今に始まったことではない。まあ、慌てて変なバスに飛び乗るよりもいいのかもしれない。

●アメリカ:だんだん深刻になってきている。オバマ再選でますます決められなくなったような予感。

●中国:習近平体制は相談役が多過ぎて機能しないのでは?問題は山積しているのだけど。

○やっぱり中国が一番問題が大きそうな気がするぞ。


<11月12日>(月)

○成人病検診に行ったら、体重、体脂肪率、腹回りという3点がすべて改善していた。「すごいじゃないですか」と言われて、はて、何があったのかとしばし考える。実はなんてことはなくて、過去3年連続で12月に検診をしていて、忘年会シーズンまっさかりにはしかるべき数値が出ていたということらしい。こんな風に、数字のマジックというのはよくあるものです。気をつけようエコノミストと生データ。

○という前置きの上で聞いていただきたいのだが、今朝発表のGDP第3四半期はおおよそ想定の範囲内。年率▲3.5%というと、かなり悪いことになるけれども、たぶん足元の10〜12月期も相当に悪い。第3四半期はまだ官公需と住宅投資がプラスなのだが、これはいつまでも続かない。復興需要はそろそろ頭打ちだろう。個人消費も、「3/11からの反動」が一巡するので、この先はそれほど期待しにくい。ということは、今後は外需の反転に期待するほかはなく、それは世界経済の動向次第である。あ、ちなみに日中関係については、日中ビジネスの現場ではここへ来て楽観論が流れ始めている模様。理由はよくわかりません。

○他方、国内政局は一寸先は闇。今日時点で「11月16日解散、12月9日総選挙」などという観測まで流れている。それってなんと虫のいい。いや、お日柄のいい(12/9は大安吉日)。やっぱりアメリカ大統領選挙が終わると、「日本もやらなくっちゃ」的なムードが流れるものであろうか。とりあえず赤字国債問題は、2015年度まで問題はないということになったようです。慶賀に絶えず。

○ひょっとすると野田さんの胸中にあるのは、「嘘つきとは呼ばれたくない」というメンツの問題もさることながら、「小沢一郎に引導を渡したい」という思いがあるかもしれません。解散が越年すると、1月時点で「国民の生活が第一党」に現有議席分の政党助成金が流れる。受け取りは4月以降になるけれども、これは同党にとっては文字通りの干天の慈雨でしょう。年内解散は、そんなことは許さないぞ、という野田さんの強い意思の表れかもしれません。

○しかるにTPPを選挙の争点にするのは余計であると思います。あれは政府が決断すればできることであって、何も国論を二分するような話ではありません。FTAなどの通商交渉の開始は、外務省の局長レベルの判断でできることです。菅首相がそこを勘違いして、「私のリーダーシップでやる」などと言い出したことが尾を引いている。交渉が妥結するかどうかはやってみないとわからない話だし、反対であれば国会批准のタイミングで否決すればよい。入り口ではなく、出口でもめればいい話です。

○12月24日投開票、というクリスマスイブ決戦の可能性もあるでしょうね。確かに23日の天皇誕生日+3連休の中日+有馬記念決戦というのは筋が悪いので、振り替え休日にやりましょうというのはわからないではない。ただし年末の選挙ははた迷惑という感じもある。だったらやはり、12月9日か16日がいいのではないかなあ。「年末解散・年明け総選挙」などという奇手もあるらしいですが、かくなる上はSimple is best.だと思います。


<11月13日>(火)

○久しぶりに講演で大阪出張。短い滞在時間であったけれども、新大阪駅から御堂筋線で本町まで至る道筋に「変わってないなあ」との印象を受けました。ワシが日商岩井に入社した1984年ごろから、まったく変わってないんじゃないだろうか。いや、ひょっとすると大阪万博の1970年ごろから変わってないのかもしれない。

○もちろん大阪でも変わっている部分はある。新しいビルはたくさん立ったし、USJもできたし天保山の水族館もある。が、「あいも変わらぬ大阪」もある。この辺が「維新の会」への熱い思いにつながっているのかもしれませんな。大阪には、なんでも東京に対抗していた時期の枠組みだけが残っているけれども、地盤は沈下し、人材は流出し、存在感も着実に低下していく。なぜか府と市の公務員だけが元気にしている。そんな中から、「はしもっちゃん、何とかしてえな」という声が高まったのではないか。

○その大阪維新の会が、「日本維新の会」に名前を変えたのは実は大失敗だったんじゃないかとワシは思っている。東京の人から見れば、「なーんだ、それが目的だったの」ということになるし、大阪の人から見れば「はしもっちゃん、どこかに行っちゃうのか」ということになりかねない。維新政治塾に応募してきた約2000人の塾生候補者(ちゃんと身銭を切って参加してきた)を、条件に合わせてふるいにかけたのもどうだったか。落とされてしまった塾生は、恨みに思って維新の会の敵に回るだろう。これで選ばれた候補者の質が低かったら、どんな批判を浴びることか。

○で、本日発表された石原新党の名称は「太陽の党」なんだそうだ。岡崎太郎の太陽の塔は知っているが、名のみ高い慎太郎の芥川賞作品『太陽の季節』は読んだことないぞ。ちょっとずれてますねえ。少し前に聞いた情報では、「先覚者党」(尖閣諸島?)という名前を真剣に考えているとのことだったが。まあ、それよりはマシか。一方で俳優の菅原文太氏が、世を憂えて「いのちの党」を旗揚げしたそうですが、こっちの方がまだしも情念は深いかもしれない。

○その一方で大真面目に考えるのだが、第三極を考える前に、細かい政党をなんとかしてくれないだろうか。この際、各党の主張はさておいて、全部まとめて「小異を捨てて大同につく」。新しい党名は、「十三不党」(シーサンプートウ)ということで。高いよぉ、この役は。


<11月14日>(水)

○今日は講演で静岡市へ。以下は静岡県に関する豆知識。

○静岡県は気候温暖、日本列島のほぼ中央に位置しており、静岡県民400万人はいわば日本の縮図。そのために県内では全国販売に先駆けたサンプル調査がよく行われる。たとえばディアゴスティーニ。静岡県でだけ売り出されたけれども、いまひとつ受けが悪くて全国販売を断念するというシリーズもあるのだとか。いかにもオタク心を揺さぶる話ではありませんか。

○温暖な気候が温和な人柄を生み、アクの強い人が少ない。ゆえに当地出身の由井正雪(静岡市出身)や田沼意次(遠江相良藩主)も、全国的には「悪人」認定されがちだけれども、地元の評価は悪くない。いわれてみれば、由井正雪は時代が違えば吉田松陰になっていたかもしれず、田沼意次は江戸の高橋是清みたいな存在である。

○ところで田沼の地元、牧之原市には「ワイロ最中」というお土産があるのだそうだ。黄金色の最中が並ぶ箱は上げ底になっていて、なんとその下には・・・・という構造になっている。ワイロ最中をもらったら、ぜひこんな風に言いたいものである。「おぬしもワルよのう」「いえいえ、魚心あれば水心でござりまする」。

○静岡県は伊豆、駿河、遠江が合わさってできている。観光地の伊豆、歴史のある駿河、工業中心の遠江で、それぞれに気風が違う。この3つの気風がちょうど、北陸三県の越前、加賀、越中に似ているのだそうだ。ちなみに北陸では「越中強盗、加賀乞食、越前詐欺」という悪口があるのだけれども、富山県出身者としては言い得て妙という気がする。

○静岡県選出の現職政治家は民主党が多いけれども、いよいよ解散・総選挙となると、細野豪志氏以外はちょっと苦戦するかもしれない。まあ、それはそれとして、「年内解散」を希望していた者としては、本日の野田首相の決断を歓迎したいと思います。


<11月15日>(木)

○本日発表された中国の新しい常務委員のメンバーは、いかにも残念なチャイナセブンでありました。いやあ、これでは改革派全滅でありますな。汪洋はともかく、李源潮まで見送りとは驚きました。中国の改革はこの次の第6世代の登場を待たねばならないのかも。


1. 習近平(国家副主席)→総書記・軍事委員会主席        59歳  太子党
2. 李克強(常務副総理)→国務院総理                57歳  共青団
3. 張徳江(副総理・重慶市党委書記)                 66歳  江沢民派
4. 兪正声(上海市党委書記)                      67歳  太子党、江沢民派
5. 劉雲山(宣伝部長)                          65歳  共青団、江沢民寄り
6. 王岐山(副総理)                           64歳  太子党
7. 張高麗(天津市党委書記)                     66歳  江沢民派、石油閥


○アメリカはこれで向こう4年間動きが取れず、中国は向こう5年間が不毛の日々になってしまうかもしれません。すなわち「変わらない新体制、決められない政治」。せめてその間、日本は前進できるかどうか。年内解散は、そのための第一歩ということになるでしょう。

○さて、今回の解散を何と呼ぶべきか。なかなか決定打が出ませんな。


*逆切れ解散

*馬鹿正直解散

*自爆テロ解散

*党首討論解散

*敵を欺くにはまず味方から解散

*サプライズつき三党話し合い解散

→後記:やっぱり自然に「近いうち解散」でしょうかねえ)


○党首討論の最中に野党に責任を迫りながら、解散の時期を明言するという新手法は、今後「野田定跡」という形で長く語り継がれることでありましょう。小泉さんの郵政解散も記憶に残りましたが、これもそれに匹敵するドラマでありましたから。

○ふと思うのですが、野田さんの頭の中にあったのは、解散の時期を逃して、最後は大敗への道を開いてしまった麻生首相の失敗だったのかもしれません。民主党の中の多数派は「解散の先送り」を望んでいたようですが、それではまさしく自民党末期と同じ道を歩んでいたことでしょう。まして衆参ダブルなどになろうものなら、おそらく二大政党の跡形がなくなるくらいまで負けていたことでしょう。野田さんの勇気は、この先何らかの形で報われるだろうと思います。


<11月16日>(金)

○つい先日、東洋経済のサイトがリニューアルされたんですが、今日からこんな連載がはじまってます。

市場深読み劇場 

○第1回は山崎元さん、第2回はぐっちーさん、そして第3回は不肖かんべえということで3人で回していきます。この3人の共通点は何かって? そりゃあ、週末にご注目、ということになります。金曜夜に読んでいただくのがふさわしいコラムといえましょう。


○ついでにもう一つ宣伝。間際で恐縮ですが、明日、明治大学駿河台キャンパスでこんな催し物があります。

http://www.policy-net.jp/ 


【開催案内】第14回政策メッセ:公共政策シンポジウム

〇共通論点:

「民主党政権の政策運営の検証と今後の政策課題」(政策課題別に専門家と有識者による検証)

〇開催目的:

民主党政権が誕生してから3年余が経過した。政権交代は民主主義のルールが機能することを証明したが、首相が3人目になっていることが物語っているように、政権運営は困難な局面の連続であった。国民の期待が大きかっただけに、その落胆も大きい。
しかし、落胆しているだけでは何も変わらない。この3年間の政権運営を冷静に分析・評価し、何が問題でどう改善すべきかなのかを議論し、日本の民主主義を鍛え直さなければならない。
そこで、今回の政策メッセでは「民主党政権の評価と今後の課題」を共通テーマとし、政治・経済・財政・外交・防衛・復興・エネルギーなど分野毎にセッションを企画し、その分野の専門家や有識者を結集して検証を行う。

開催日程:2012年11月17日(土)
開催時間:11:00〜17:00
(11:00-12:30 / 13:30-15:00 / 15:30-17:00)
開催場所:明治大学・駿河台キャンパス「リバティータワー」
(受付⇒13階、セッション会場⇒13階)
http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html 
参加費等:参加費無料(機関会員・個人会員)
      :1000円(非会員)
参加定員:500名⇒先着申込順(定員になり次第、受付終了)


○そんなこと言っても、2003年の民由合流以降、一度も民主党に投票したことのないワシとしては、「落胆も大きい」という感じはないんですけどね。出番は以下の通りです。お暇な方、覗きにいらしてくださいまし。


5)≪国際問題≫ 13:30〜15:00
  「アメリカ大統領選挙の総括(11月6日選挙)」
  −オバマ政権の4年間の評価と民主共和両党の対立軸の打ち出し方−
  *パネリスト
   吉崎達彦   双日総研副所長
   西川珠子   みずほ総合研究所上席主任研究員
  *モデレーター
   中岡 望   東洋英和女学院大学教授


<11月17日>(土)

○一昨日、斎藤健さんが行った特例公債法案への賛成演説が、あまりにも素晴らしいと評判になっている。約10分ほどのものですが、ユーチューブではこちらをご参照。文字ではここに書かれています。以下はラスト3分間の山場をご紹介。




あの夏の日の演説は、一体何だったんでしょうか? 


それでも、我が党は一体改革関連法案は国家国民のために苦しくとも通すべきと判断し、加えて、野田総理自身がマニフェストで国民を裏切ったことを重く考え、法案が成立した暁には近いうちに国民に信を問うと約束したため、自公民三党合意が為され、この歴史的な法案は成立しました。


暁どころか、3ヶ月あまりが経過いたしました。総理は、明日この約束を人として実行しなければなりません。

近いうちに返すからという言葉を信じてお金を貸したのに、いつまで経っても返してくれない。そういう状況になったら、誰でも、一体いつ返してくれるのか、そう聞くのは当たり前ではないでしょうか。


そして、いつ返すのかはっきりしてくれと申し上げたら、今度は、これをやったら返してやると、新しい条件をつけてくる。これが正直者のやることでしょうか。学校の先生がどう言ったか知りませんが、(野次)ひとつだけ確かなことは、(議長「静粛に願います」)そういう方に二度とお金を貸す人はいないということです。


それでもなお、我が党は、総理が突然追加的に出された新条件に、誠実に対応することと致しましたが、信頼関係が崩壊しております。野党の協力を得なければ物事が進まないねじれ国会の下では、このことは、致命的であります。もはや野田政権には明日衆議院を解散する以外に、我が国の国政を前進させる道は無くなりました。


民主党政権のこの3年2ヶ月の間、日本の外交はどうなりましたか? 

日米関係はどうなりましたか? 

インド洋での給油・給水活動から撤退し、普天間で迷走し、アメリカ大統領に「トラスト・ミー」と悪ふざけをし、元首相がイランを訪問する。

日中関係はどうなりましたか? 

日韓関係はどうなりましたか? いずれも戦後最悪ではないですか。

日露関係はどうなりましたか? 

日本の領土はどうなってますか? 


経済はどうなりましたか? アンチビジネス対策のオンパレードで、企業が雪崩を打って海外に出て行ってしまってませんか? 

震災復興は進んでますか? 増税までして確保した復興予算はちゃんと使われてますか? 自分で作った予算を自分で仕分けするなんていう茶番を、税金を使ってまで、まさかやらないでしょうね?


不適任な大臣は一体何人出ましたか? 

あきれ果てて離党した仲間は、一体何人いますか?

それも自民党政権の負の遺産ですか?


マニフェストはどうなりましたか? 

ガソリンは下がりましたか? 

年金通帳は配られましたか? 

高速道路は無料になりましたか? 

これも自民党政権の負の遺産ですか?


今マニフェストを準備されているそうですが、そんなものを受け取る有権者はおりません。もはやこれ以上言葉のやり取りは必要ない。


あとは剣を交えるのみ。


終わります。(拍手)



<11月18日>(日)

○土曜日、雨の中を明治大学まで出かけて、政策分析ネットワークの「公共政策シンポジウム」のパネリストを務める。案の定、客数は多くはないが、元ワシントンDCのかつてしったるお歴々が並んでいる。これではワシのほうが客席でご高説を伺いたいわ、と言いたくなるのをこらえて、溜池通信最新号に書いたような話をひとくさり。

○過去3回分の出口調査を比較してみると、デモグラフィーは完全にトレンドを描いているけれども、政策課題はすっかり変わっている。2004年にはイラク戦争や対テロリズム、そしてMoral Value(道徳問題)がもっとも関心を集めていた。2012年はそれとは全く違う。「政策分析ネットワーク」という主催者の会合ではあるのだけれど、「政策なんて寿命は短いし、そんなに重要じゃないよねえ」という気になってしまう。

○くれぐれも選挙で政党を選ぶ場合は、政策で決めるよりも、実は党の理念やイメージ、党首の好き嫌いで決めるほうが間違いが少ないと思います。「この政策を実現するためにこの政党を選ぶ」などと言ってると、年金と子育てのために選んだ政党が、実は財政や安全保障問題ではズブの素人だった、てなことがありますからね。

○ワシ自身は経済でも外交・安保でも、政策論議に参加することが多い人なんですが、「政策だ、セイサクだ、政局よりも政策を」とか言ってる人を見かけると、まあまあ、もっと大事なことがありますよ、などと言いたくなってしまうところがある。あれは所詮オタクの世界の話であって、オタクがやることに重要なことなどあるはずないでしょ、と。

○自分の出番が済んだあとで、明治大学の近所を散歩。10代最後の頃に駿台予備校に通っていたので、お茶の水は懐かしい街なのだ。ただしすっかり様子は変わっていて、自分が通っていた駿台の校舎もわからなくなっていた。そりゃあまあ、古い話ですからねえ。往時の面影を探しつつ、雨の中をしばしさまよったのでありました。

○で、夜は町内会の集まり。そういえばもうすぐ、防犯活動を始めなければならないのであった。


<11月19日>(月)

○アメリカ大統領選挙終了後、結果についていろんな場所でお話しする機会があります。こういうとき、いちばんうれしいのは「よい質問」をもらうことなんですよね。「あっ、それは気がつかなかった」とか、「へえ、そういうところに関心があるのか」など、話し手としては、意表を突かれるほどありがたいものです。人前でお話をするときには、これが最大のご褒美だと思います。

○で、土曜日のシンポジウムでいただいた意外なご質問は、「ママはどこへ行ってしまったんでしょう?」でした。しびれるほど簡潔で、問いかけるところは深い。慶応大学の保井先生、まことにありがとうございました。

○アメリカ大統領選挙においては、しばしば「ママ」の行動が命運を分けます。選挙戦は女性票の動向がものをいう、というのは洋の東西を問わないのです。1996年選挙では「サッカーママ」がクリントン再選を助け、2004年選挙では「セキュリティママ」がブッシュ再選につながった。子供を思う母の心がどういうベクトルを向くかで、女性票は民主党に向かったり、共和党になびいたりする。2012年選挙ではそれがないみたいだけど、いったいどうしたんだろう、というのが質問のご主旨です。

○その場ではうまく答えられなかったのですが、今日になって突然、答えが浮かびました。そうだ、2012年選挙ではママたちは子供の親であることを止めて、女性として投票したのだ。だから人工妊娠中絶などの「女性の権利」が争点として浮上し、オバマ再選を助けた――というよりも、反共和党に動いた――のだと。

○今回の選挙戦では、共和党の上院議員候補が「legitimate rapeの犠牲者はめったに妊娠しない」などと阿呆なことを言って、なおかつ選挙戦から降りなかった。当然、彼は落選したわけですが、そういうことの影響は大統領選にも及ぶ。だとしたら、これは共和党にとって大きな反省点となるはずですが、そういう発想が出てきそうにないところが、今の共和党の問題点なんじゃないかと。だとしたら夜明けは遠い、ということになります。


<11月20日>(火)

フォーリンアフェアーズ誌に、久々に目が覚めるような論文が掲載されている。といっても、わずか6ページの巻頭エッセイなのだが、"Broken BRICs"という。「BRICsって、もう終わっちゃったよ。新興国が台頭して先進国と並び立つ時代が来る、なんてもう忘れた方がいいんじゃないの?」と言っている。この雑誌は、5年に1回くらいの割りで、「文明の衝突」とか「アジアの奇跡という神話」とか、時代を画するような論文を載せる。これもまた、いろんな意味で目からうろこの指摘だと思う。概ね、以下のようなことを言っている。


●2000年以降、先進国は低成長で、新興国が高成長だった。中国がアメリカを抜き去る(と言いつつ、GDPではアメリカの半分なのだが)なんてことが、今ではまじめに語られている。しかしここへきて、ブラジルやロシアやインドの成長率は低下している。そもそも高度成長が10年を超えることはめったにない。低金利の金があふれていた2000年代には、新興国経済が一斉に急成長して皆が勝ち組であるように見えた。が、これまでの10年が異常だった。でも世界経済は、ノーマルな状況に回帰しつつある。

●新興国と先進国が一緒になる、なんてのは神話である。IMFがウォッチしている180国のうち、先進国は35国に過ぎない。そして1950年から2000年までは、双方の格差は拡大しつつあった。西側にキャッチアップできたのは、産油国と南欧、それにアジアの虎たちだけであった。

●それが2000年以降にキャッチアップが始まった。ところが2011年になってみると、先進国と途上国の一人当たり収入は1950年代の昔に戻っている。これが現実なのだ。1950年以降でいうと、年平均5%以上の成長を10年続けられた国は1/3しかない。それを20年続けられた国は1/4だ。30年以上となると1/10に過ぎない。そして40年続けたのはマレーシアとシンガポールと韓国、台湾、タイ、香港の6か国だけだ。かつてマレーシアとタイは、先進国になろうかという勢いであったが、1997−98年の通貨危機でこけてしまった。1960年代にビルマやフィリピンやスリランカが有望だった時代もある。向こう10年は、新興国の失敗が続くことだろう。

●エマージング市場の概念は実は新しく、1980年代半ば以降である。台湾、インド、韓国などが矢継ぎ早に外資に門戸を開放し、1994年まではブームが続いた。新興国市場は世界の証券市場の1%から8%にまで急増するが、1994年のメキシコ危機でブームは終焉する。そして2002年までは途上国のGDPシェアは下落する。中国だけが例外だった。エマージング市場、なんてことはほんの1か国で起きたに過ぎない。

●第2次ブームは2003年に始まった。新興国のGDPシェアは20%から34%に駆け上がった。2008年の国際金融危機の落ち込みは、2009年に大方盛り返したものの、そこからが低成長になっている。過去10年のような手軽なマネーと底抜けの楽観主義がなければ、新興国市場は今後は低迷する公算が高い。、

●BRICsという概念ほど混乱を招いたものはない。4か国に共通するものはほとんどない。ブラジルとロシアは資源国、インドは消費国だ。中国を除けば、互いの貿易の結びつきも少ない。2000年代が例外であっただけで、1950年代のベネズエラ、1960年代のパキスタン、1970年代のイラクのような成長は、いずれも長続きはしなった。最近流行の経済予測は、中国とインドが世界のGDPの半分を占めていた17世紀を振り返って、「アジアの世紀が来る」と言っているようなものだ。

●向こう10年、日米欧は低成長だろう。が、中国経済もまた3〜4%に成長は鈍化する。農村部の過剰労働力が消える「ルイスの転換点」はもう近づいている。中国がアメリカを抜き去るという懸念は、かつての日本がそうであったように杞憂に終わるだろう。中国や他の先進国の成長が減速すれば、ブラジルなどの輸出主導型成長も止まる。今後、新興国市場が一斉に伸びるということはないだろう。

●新興国市場の成長がばらつき始めると、国際政治も変わることだろう。西側は自信を回復し、ブラジルやロシアは輝きを失う。中国の統制主義的、国有資本主義の成功も怪しくなるだろう。人口動態による配当という考え方も疑問を持たれる。かつてはアジアは日本を、バルトやバルカン諸国はEUを、そしてすべての国がアメリカを目標としたものだ。しかし2008年危機はこれらのモデルの信頼性を失わせた。今では韓国のほうが日本より有望に見える。チェコやポーランドやトルコは、いまさらEUに入るべきかと悩むだろう。そして1990年代のワシントンコンセンサスは不人気になった。

●つくづくこの10年が異常であり、こんなことはもう起きないだろう。一人当たり所得2万〜2.5万ドルの世界で、今後10年で伸びそうなのはチェコと韓国だけだ。1万〜1.5万で期待できそうなのはトルコと、ひょっとしたらポーランドくらい。5000〜1万ドルではタイがほぼ唯一の有望株で、あとはインドネシア、ナイジェリア、フィリピン、スリランカ、あとは東アフリカくらいか。先進国の水準に到達する国はほんの一握りであろう。


○言っていることは、実は常識的なことである。ただしその意味するところは重い。2003年に始まったBRICsブームは、ちょうど10年で終わったかもしれないのだ。そしてBRICsという言葉を発明したのはゴールドマンサックスであったが、この論文を書いたRuchir Sharmaは皮肉なことにモルガンスタンレーの人物である。はたして2013年は新興国ブーム終焉の年になるのか。中でも注目は中国経済であることは言を俟たない。


<11月21日>(水)

○講演の仕事で昨日は石川県金沢市へ、今日は大阪府枚方市へ。今日の今日まで気がつきませんでしたが、ひらかた、という地名の「ひら」は木編の「枚」なのですね。あたしゃてっきり「牧」なんじゃないかと思ってました。この程度の人間が、人前でお話をするのでありますから、お恥ずかしい限りであります。

○金沢はやや肌寒い気候でした。紅葉はもう盛りを過ぎたようですね。現地の方が「こんな風に天気が悪くてすいませんねえ」などと言っておられましたが、なんのなんの、北陸の気候はよく存じております。いわゆる鉛色の空というのも、それで気持ちが暗くなるというよりは、何だか変に安心してしまうところがあって、子供のころの記憶というのは不思議なものであります。

○大阪はちょうど今が紅葉の盛りでありますね。この週末の京都なんぞは、きっと大変な人出になることでありましょう。

○さて、新幹線の中で読んだ週刊誌の総選挙の当落予測をメモしておきましょう。全選挙区の掲載はありませんが、とりあえずの状況はわかるということで。


●総選挙予測

  現有議席 週刊文春 週刊朝日
民主党 230 86 70〜75〜92
自由民主党 118 244 227〜230〜253
国民の生活が第一 45 16 11〜15〜33
公明党 21 26 28〜30〜30
日本共産党 9 9 8〜9〜10
日本維新の会 9 64 46〜65〜66
みんなの党 7 21 23〜25〜30
社会民主党 5 5 3〜4〜5
減税日本 5 3 3〜4〜8
みどりの風 4 0 0〜1〜3
国民新党 3 0 0〜0〜1
新党大地・真民主 3 1 2〜2〜3
新党日本 1 1 0〜0〜1
新党改革 0 0 0〜0〜0
与党系無所属 7 0 0〜0〜0
野党系無所属 12 4 3〜7〜14
欠員 1 - -
合計 479 480 480


*週刊文春は久保田正志。週刊朝日は森田実、野上忠興、三浦博史


○それにしても政党の数が多過ぎ。もちょっと再編してすっきりさせてほしい。


<11月22日>(木)

○駄文を書いてしまいました。

●投資立国ニッポンを考えるジャパンカップ

http://toyokeizai.net/articles/-/11857 


○東洋経済オンラインの馬好き編集長F氏の企みで始まったこの連載、市場予測と競馬予想を絡めて語るというコンセプトで、山崎元さんぐっちーさんとともにリレーしていきます。

○なぜ執筆陣にオバゼキ先生が入ってないかって?それはですね、小幡先生は同じ東洋経済オンラインでちゃんとしたコラムを書いているのであります。それにしても小幡先生、「リフレ派の人々は、官僚崩れか、中途半端な机上の経済学者なので、市場をコントロールできるという誤謬に陥っている」だなんて、うぷぷぷ。あいかわらずの切れ味に惚れ惚れしてしまいます。

○ま、それとは別に、上海馬券王先生が今週末のジャパンカップをどのように評するか、気になるところであります。

後記→オバゼキ先生渾身のジャパンカップ予想はこちらをご参照。「さすが!」でありまして、この境地にはわたくしなど遠く及びませぬ)


<11月24日>(土)

○この連休はいろいろ宿題が積もっているところなるも、風邪気味なので仕事は放りだして読書。

○まずは御厨貴『知と情―宮澤喜一と竹下登の政治観』(朝日新聞出版)。御厨先生のオーラルヒストリーは、話を聞いた人がそろそろ物故されており、以前に聞いた話を再度読み込む作業が行われている。そうすると、「あのとき語られなかったこと」がなぜ語られなかったのか、ということまでが意味を持ち始める。宮澤氏は占領期のGHQとの交渉や、鈴木内閣の官房長官時代のことを語ってくれなかった。おそらく思い返すのも嫌な経験だったのであろう。かくして時代がたつにつれて、歴史は立体的に見え始めるものらしい。

○続いて御厨貴&牧原出『聞き書 野中広務回顧録』(岩波書店)。古い時代の政治家の話というものは、文句なしに面白いものだ。しかもそれが「政界の狙撃手」と呼ばれ、地方政界から永田町の出世の階段を登り続けたあの野中さんなのだから。政治家とは、経験という貯蓄を増やすことによって成長してゆくものだが、野中氏のそれは絶えず自らリスクを取って、経験値と人脈を積み重ねていった人生といえるだろうか。

○こういう昭和の政治家たちの記録を読んだ後では、同じオーラルヒストリーとはいえ、薬師寺克行『証言民主党政権』(講談社)を読むのは少々苦痛である。正直、北澤俊美と片山善博の分は読んだが、後の菅直人だの岡田克也だのの分は、自己正当化と自己憐憫と責任転嫁と無反省な繰り言ばかりで、到底読めたものではない。この3年間の日本は、この程度の人たちが動かしていたのであった。(・・・・薬師寺さん、どうもすいません。後で「これは仕事だから」と自分に言い聞かせてちゃんと読みますから)。

○別に自民党の政治家が良くて、民主党のそれが悪いというわけではないのだろう。昔の政治家はそれなりにちゃんとしてたけど、今の政治家はろくなもんじゃない、ということに尽きる。それは畢竟、経験のあるなしという点に凝縮されるものであって、終戦後の焼け跡から人生を切り開いた人たちと、松下政経塾に入ってたまたま政治家になっちゃったというのでは、雲泥の差になるのは当たり前ではないか。

○ドンペリを開けて不幸な夜もあれば、王将の餃子で幸せになれる夜もある。そういう人生の浮き沈みをちゃんと重ねて、他人の浮き沈みにもちゃんと共感して、政治家は育っていくものだと思う。そうやって多少の機微に通じておれば、次の選挙で負けそうだからと言って、あわてて離党するような無様なことにはならないはずである。風任せの選挙に勝つことだけが自己目的化しているから、風読みこそが政治だと勘違いしてしまうのだろう。この国の人材はいろんな場所で小粒化していて、とくに政界は哀しいほどに「次」が育っていない。

○今世紀に入ってから政界に新たに参入してきたのは、最初が小泉チルドレン、次が小沢ガールズ、そして今度は橋下ベイビーズということになりそうだ。政治家の質はますます低下していくのだろう。まあ、それも有権者の選択と言えばそれまでなんですけどね。


<11月25日>(日)

○埼玉県羽生市で「ゆるキャラサミット」が行われたそうです。栄えあるグランプリは、今治市の「バリィさん」が獲得しました。「ひこにゃん」「くまもん」に次ぐ快挙であります。ついに全国865ゆるキャラの頂点に立ちました。よかったねえ。

10月22日の当欄でご紹介しましたが、今治市というのは「造船」とか「タオル」とか「焼き鳥」とか「来島海峡大橋」とか「焼き豚卵飯」とか、個々に有名なものはあるのだけれど、町の名前としては今ひとつ浸透していない。だから今治といえば、普通の人が思いつくのは「甲子園に出てくる今治西高校」であったりする(春夏ともに12回ずつ甲子園に出ているとのこと)。

○県庁所在地でない地方都市が名前を売るためには、ゆるキャラというのは意外と出世の近道なのかもしれません。彦根市だってそうだものね。

○かくいう不肖かんべえは、今治に出張した際にバリィさんのメモ帳やら、バリィさんのポストイットだの、たくさん買い込んでしまった。ちなみにバリィさんの手帳は、表紙で「大事なことはノートにちゃーんと書いとーき」と言っていて、裏表紙では「あかん、書いたとこ忘れたがね」と言っている。バリィさん、とってもゆるいのです。


<11月26日>(月)

○本日は、早稲田大学日米研究機構のシンポジウム「アジア太平洋のFTA政策を考える」に参加しました。セッション1「アジア太平洋各国のFTA政策と国内調整」の方は、アジア各国の通商政策の状況を紹介するというよくあるテーマでした。セッション2は「日米構造協議を振り返って」という、とってもオタクな議論でありまして、不肖かんべえはこっちの方でディスカッサントを務めました。

○本日の会合はセミ・クローズドであった上に「チャタムハウス・ルール」でありましたので、誰それがこういうことを言っていた、というご紹介ができません。で、以下は今日自分で発言した内容をもとに、時間があれば本当はこんなことも言いたかったといった内容を加味して、改めてまとめてみたものです。


●日米構造協議(1989〜1991)は今ではまことに古い話になった。1987年当時には、日本の対米貿易黒字が600億ドルに達し、これが米国全体の赤字の約半分を占めるからけしからん、ということになった。まことに隔世の感がある。今のアメリカの貿易赤字は7000億ドルもあって、うち中国が3000億ドルを占めている。これでは中国たたきが始まっても何の不思議もないだろう。

●日米構造協議では、日本の土地問題が取り上げられた。これも今となっては理解しにくいことであるが、日本の地価が高すぎることが問題であった。あの当時、日本の銀行は地上げ屋さんにお金を渡し、地価を釣り上げては膨大な利益を上げていた。結果として、自分たちが家を買えないような状況を作っていたわけだが、こんなバカなことをしていてはいけないと十分に理解しつつ、どうにも止められなかった。日米交渉の結果、土地税制を変えるなどして地価はようやく下落に向かうのであるが、このようなことは忘れられて久しいのではないだろうか。

●日米構造協議は、明らかにそれまでの日米交渉とは性質が違っていた。それまでは、ウォルター・ラッセル・ミードのアメリカ外交4分類でいえば、「ジャクソニアン」(ストレートな解決策を好む軍人タイプの外交)であった。レーガン政権下で行われたスーパー301条にせよ、プラザ合意による円高誘導にせよ、非常に直線的なやり方で日本に譲歩を迫るものであった。それに比べると、日米構造協議は「ウィルソニアン」(普遍的理想を追求する宣教師タイプの外交)であって、日本を教化し、善導しようという思い入れがあった。

●ちなみに日米構造協議を行ったG.H.W.ブッシュ政権の後を継いだクリントン政権は、日米包括協議という「ハミルトニアン」(経済重視で抜け目なく行動する弁護士タイプの外交)を展開し、結果重視の交渉スタイルに特色があった。現在のオバマ政権は、外圧をかけることを嫌っているように見えるが、「ジェファーソニアン」(基本的に内向きで対外関与に慎重なカウボーイタイプの外交)のスタイルなのではないかと思う。

●かくして日米構造協議は、内政干渉に近いテーマを取り上げることとなった。日本側で問題とされたのは、土地問題、独禁法の強化、株式持ち合いなどの慣行、大店法など流通システムの問題などである。これらは日本国内の改革派にとっては、またとない好機となった。既に1986年に誕生した前川レポートは、日本経済の構造調整の必要性を訴えていた。「アメリカからの外圧」は、国内改革を推進する絶好のエクスキューズになったのである。

●なんとなれば、国内の反対勢力を説得するときに、「あなたは間違っているから主張を変えるべきだ」とか、「あなたは少数派だから多数派に妥協すべきだ」という言い方をすれば、相手の態度を硬化させるばかりであろう。その点、アメリカという「天の声」があって、仕方がないからこの場は丸く収めましょうといえば、降りる側もさほど傷つかなくて済む。かくして1990年代には、Made in Japanのガイアツが横行することになる。おかげで改革のコストは軽減されたし、内外価格差も縮小した。これらベネフィットは確かにあったけれども、今から思えば弊害も少なくはなかったように思える。

●それは「アメリカの陰謀論」を生みやすくしたことである。土地税制の変更でも大店法の緩和でも、国内では必ず不満を持つ人が出る。彼らから見ると、日米関係は「アメリカに言われると拒否できない日本」という図式になる。郵政民営化でもTPPでも、日本国内の反対論のほとんどは「アメリカにカモにされる日本」という一種の陰謀論、ないしは被害者意識である。現在のTPP参加論議でも、この手の反対論が大きな障害となっている。その背景には、日米構造協議に端を発する日本側のトラウマがあったのかもしれない。

●時代は変わり、今や「アメリカによるガイアツは既に歴史となった」と言われるようになった。それでもガイアツは、われわれ日本人の心の中にまだ生き延びている。便利なガイアツを抜きにして、われわれは「決められない政治」から抜け出すことができるのだろうか。近いところで言うと原子力の問題があって、まだまだ「脱・ガイアツ依存」は難しいような気がするのだが・・・・。

●実際のところ、TPPは普通のFTAとはやや違うところがある。FTAはすべての国が得をすることを目指す交渉であって、純粋に損得の問題である。ところがTPPにはウィルソニアン的なアメリカならではの理想が込められていて、「世界のビジネス環境をひとつにしよう」「それはアメリカにとってはもちろんのこと、参加するすべての国にとって良いことであるに違いない」といった思いがある。アメリカ以外の国、特に中国などにとっては、こんな理想は素直には信じがたく、自分たちをだますための方便に見えてしまうことだろう。

●ところが米中戦略対話などには、すでにその萌芽があって、たとえばゼーリック国務副長官が「中国はResponsible Stakeholderたれ」などとお説教くさいことを言ったりする。あれは間違いなく、ウィルソニアン的なお節介であって、「中国にとって良かれということが、アメリカにとっても良いことだ」というアメリカ的信念が込められている。しかるに中国側としては、「ガイアツがあるからこそ受け入れられない」という政治的土壌があったりする。

●米中戦略(及び経済)対話は、つくづく日米構造協議に似ていると思う。特に中国の政策当局者は、日米構造協議の歴史から大いに学ぶところがあるのではないだろうか。


<11月27日>(火)

○昨日の「くにまるジャパン」でお話しした内容がアップされてます。安倍さんのリフレ政策について。

http://www.youtube.com/watch?v=QQMu6JORyso&feature=youtu.be 


<11月28日>(水)

○「モーサテ」の打ち合わせに来た池谷キャスターがいわく。

「安倍さんは金融政策ではハト派ですよね。どうしてタカ派って呼ばれちゃうんだろう」

○うーん、外交でタカ派、金融でハト派っていうのが、ちょっとわかりにくいみたい。あるいは「日銀法を改正してでも」という姿勢がちょっとタカっぽいのかも。

○まじめな話、来年4月の日銀総裁人事はどうなるのか。仮に総選挙後に自公政権ができているとして、日銀総裁は国会同意人事であるから、参議院での承認をどうやって得るのだろう。ここを見ると、自民が87議席、公明が19議席で合わせて106議席。過半数の122には届かない。「みんなの党」の11議席が協力してくれても、ちょっと足りない。ここはひとつ、「国民会議」もあることだし、定数是正も約束したし、選挙後は自公民の3党合意を大事にしながらやっていくことになるのだろう。ちなみに参院の民主党は90議席もある。

○ということは、極端なリフレ派の総裁を選ぶのは難しい。さすがに竹中平蔵さん、というわけにはいかんのではないか。ちゃんと民主党が賛成できるようなタマを用意しなければならない。とはいうものの、リフレ政策を発動しようと思ったら、3月に交代になる二人の副総裁の代わりにハト派を投入すれば話は早い。既に民間出身の佐藤、木内両審議委員がハト派なので、2人増えれば9人中4人がハト派となり、一気に雰囲気が変わるだろう。

○それはさておいて、仮に自民党が総裁候補に2008年と同じ人を出してきた場合、民主党はどうやって賛成するのだろう。あのときは悪かったけど、今回はよろしい、というのをどうやって理由づけるのか。これはちょっと面白い問題だと思う。

○考えてみれば、来年4月というのが非常にビミョーな時期にあたるのだ。おそらく予算は通しましょう、赤字公債も結構です、というところまでは自公民でまとまる。が、そのあとは7月に参院選が控えている。この選挙は2007年に安倍自民党政権が大敗した回の裏なので、自民党は36議席しかない。これが50議席くらいに増えれば、自公で過半数にかろうじて手が届く。そうなれば民主党は用済みだ。しかも2014年は国政選挙のない年となる。それこそ、憲法改正(タカ)でも日銀法改正(ハト)でも何でも安倍さんのお好きな通り、という状況が出現する。

(思えば2007年の参院選も同じ状況だったんだよなあ・・・)

○民主党の側からすれば、7月の参院選が近づいたら連立を解消し、自公との対決モードに移ることを考えるだろう。その時にだれが民主党代表かにもよるけれども、「4月までは自公民路線、それからあとは戦国時代」ということになるんじゃないだろうか。第3極や第4極もあることだしね。いずれにせよ、真の決戦は来年7月ということになります。

○気の早い話をすると、2013年は東京都議会選挙がある、という点が気がかりだ。都議会選のある年はいつも荒れる。前回の2009年は政権交代、前々回の2005年は郵政選挙、その前の2001年は小泉政権誕生、その前の1997年は飛ばして、1993年は自民党下野と55年体制崩壊、1989年は消費税とリクルート選挙である。うーん、できれば政治情勢の安定を望みたい。


<11月30日>(金)

○双日総研の元所長である藤島安之さん(現・互助会保証社長)が書いた本、『無縁社会を生きる』(幻冬社)にこんな話が出てくる。


ある日、葬儀屋さんが「母が亡くなったので、お葬式の打ち合わせをしたい」と連絡をもらった。そこで道具一式を持って、お宅に伺った。ご自宅に着いてすぐ、

「お線香をあげさせてください」と言ったら、

「線香は結構です。まずは葬儀の費用について話を聞かせてください」と言われた。

そこで相手の希望を一通り聞いて、おおよその金額を答えた。すると相手は、

「わかった。いったん帰ってくれ」と言うのです。

心残りだったが、仕方がない。そこで道具を携えて帰ることにした。

すると、玄関を出たときに信じられない光景を目にした。

自分たちと同じように、線香やドライアイスの用意をした同業者がこちらに向かってきたのだ。お互いに顔を見合わせて、苦笑してしまいました・・・・。


○すごいですね。葬儀の「相見積」をやるような時代が来ているようです。なんでもインターネットで注文するような世の中になると、こういう人が現れてしまうのも無理はないのでしょう。

○ちなみに本書によれば、葬儀を行う理由には以下の4つがあるのだそうです。

(1)遺体の処理を適切に執り行う(物理的理由)

(2)宗教的儀式により、魂を鎮める(宗教的理由)

(3)その人が亡くなったことを広く知らせる(社会的理由)

(4)残されたご家族の心を癒す(精神的理由)

○喪中ハガキがぼつぼつ舞い込むようになってきたこの頃、つい余計なことを考えてしまいました。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki