●かんべえの不規則発言



2012年1月





<1月1日>(日)


○明けましておめでとうございます。今年も富山で迎えたお正月なんですが、特筆するようなこともなく、身辺雑記風にこの年末年始に発見したことを書き連ねておきます。

●富山の回転寿司はレベルが高い。・・・・寒ブリがうまいのは当然として、「のどぐろ」なんてネタが入っているのは他所じゃあり得ないと思います。金色の皿でしたが、つい観光地気分で発注してしまいました。デリバリーにハイテク技術がつかわれていて、その分、店員の動きがゆっくりしているところなんぞも、富山らしい光景でありました。

●大晦日の大和百貨店の地下食品売り場を甘く見てはならない。・・・・午前10時に入ったのですが、あまりの混雑ぶりにめげて早めに退散しました。分厚い商品券の束を手にしたお客さんが多いところが、いかにも富山であります。

●セブンイレブンが急拡大している。・・・・かつては全国でも珍しい「セブンイレブンのない県」であった富山でありますが、ここ数年で急拡大しています。コンビニというのは配送を集中的に行いますので、同一地域に多くの店を置きたがるのですね。で、実家のすぐ近くにもセブンイレブンができていた。ところが「富山市指定ゴミ袋はありますか」と尋ねたところ、「ありません」とのお答え。仕方がないから、少し離れた場所のローソンで買いました。まだまだ課題がありますねえ。

●北陸新幹線の工事が進んでいる・・・・富山駅の東側に稲荷町陸橋という地点がありまして、この上をまたぐ形で新幹線が通るらしい。子供の頃から見慣れている者としては、文字通りあっと驚くような光景でありました。

『富山県の名字』(森岡浩)が面白い・・・・以前から漠然と感じていたのだが、日本人の名字は東日本と西日本ではかなり違う。富山県で多い名前は@山本、A林、B吉田、C中村、D山田で、典型的な西日本型。東日本に多い鈴木は85位、佐藤も57位と少ない。これが新潟県になると一変するとのこと。その辺の理屈もさることながら、富山県は珍名の宝庫であるらしく、「富山県の珍しい名字」の欄を見ていると、「ああ、居る、いる」ということで時間がつぶれます。ちなみに「吉崎」は県内順位244位。「沖縄以外に広く分布する名字で、特に青森県と富山県に多い」とのこと。ははあ、そうでしたか。


<1月3日>(火)

○不覚にも、年末年始をボーっと過ごしている間に、アイオワ州では地殻変動が起きていたようである。というか、これ毎度のことなのよね。アイオワ州党員集会はサプライズがつきものだ。2008年はオバマの劇的な勝利があったし、2004年はハワード・ディーンが大崩れして皆が目を丸くした。2012年はどうか。おそらく明日には結果が伝えられることでしょう。

RCPの世論調査でアイオワ州の現状を見てみよう。ニュート・ギングリッチの人気が急落していて、現在のトップはミット・ロムニーだ。なにしろ「ミスター・20%台」なので、圧倒的な支持を得ているわけではなく、その間に急上昇しているのがロン・ポールとリック・サントラムの2候補である。とっても渋太いリバタリアンと、今まで一度も出番がなかった社会的保守派が台頭している。この調子で行くと、明日には判明する結果は、ロムニー、ポール、サントラムが1〜3位を占めることだろう。問題はその順列組み合わせで、その辺は蓋を開けてみないとわからない。

○実はこの時点でロムニーは一気に有利になったといえる。すなわちアイオワの共和党員たちは、本格候補であるところのリック・ペリーとギングリッチを選択肢から除外しつつある。4位や5位じゃさすがにカッコがつかない。そして、言っちゃ悪いがポールとサントラムは勝ち目のない候補である。なにしろ前者は「Fedを潰せ」などと言っている人であるし(その辺の背景はこの記事をご参照)、サントラムは金欠候補である(各候補のお財布事情はこちらをご参照)。かくしていつも見ているintradeでは、ロムニー株が80セントまで上昇している。もう負けねえぜ、って感じである。

○今後の展開を考える上では、以下のデータが有益ですね。やはり緒戦の2州がとても重要です。

●1月10日のニューハンプシャー州予備選:ロムニーはお隣のマサチューセッツ州知事だったのだから、さすがにここは負けない。
●1月21日のサウスカロライナ州予備選:保守的な南部の州なので、ギングリッチがまだ首位をキープしている。
●1月31日のフロリダ州予備選:ここでもギングリッチの失速とロムニーの上昇が始まっている。

○思えば2008年の共和党予備選挙では、緒戦のアイオワ州党員集会を制したのはマイク・ハッカビーであった。なにしろアイオワ州の共和党員は、かなりの部分をボーンアゲインと呼ばれる福音派クリスチャンが占めている。社会的保守派でないと勝ちにくいのだ。ロムニーは膨大な資金と時間をアイオワ州に注ぎ込んだが、勝てなかった。しかも次のニューハンプシャー州では、大復活を遂げたジョン・マッケインに負けてしまう。この緒戦2連敗が最後まで尾を引いた、というのが2008年選挙の反省点である。

○2012年選挙を慎重に勝とうと思ったら、ロムニーはアイオワ州を捨てるべきではないか、とワシなどは思ったものである。実際に2008年選挙では、本格候補であるマッケインとジュリアーニが「アイオワに参加せず」作戦を採っている。マッケインはニューハンプシャー州に一点賭けし、ジュリアーニはフロリダ州に期待する戦略であった。ロムニーがアイオワで勝負するのは、リスクの高い戦略であった。逆に言えば、ここで勝ってしまえば次以降は一気に楽になる。さて、どんな結果が出ますか。


<1月4日>(水)

○蓋を開けてみたら、ロムニーが8票差のトップであったとのこと。これは大きな勝利です。サントラムが首位であっても、大勢に影響はないんだけれども、それは勝負であるから負けるよりは勝つほうがずっと良い。これで来週のニューハンプシャーも勝てそうだから、緒戦の2連勝となる。そして昨日も書いた通り、ギングリッチとペリーが4位と5位に終わったことの意義が大きい。

○アイオワ州党員集会はこんな戦いでありました。いろんな馬が首位に立つのだが、ずっと二番手につけていたロムニーが最後は抜け出した。Slow but steady wins the race.って感じですかね。共和党の予備選挙は、予想外にあっさりと決まるかもしれません。

○たまたま年頭に当たり、ユーラシアグループの定番、「2012年のTop Risks」が発表されています。今年はこんなラインナップです。

1 The End of the 9/11 Era (9/11時代の終焉)
2 G-Zero and the Middle East (Gゼロ時代の中東)
3 Eurozone -the muddle is the risk (ユーロ圏―苦難こそがリスク)
4 United States: right after election (アメリカ―選挙のあとが問題)
5 North Korea - implosion or explosion (北朝鮮―内部崩壊か外部爆発か)
6 Pakistan turmoil, spillover (パキスタンの混乱が飛び火)
7 China - regional tension (中国―地域的緊張)
8 Egypt - a transition in trouble (エジプト―政権移行の混乱)
9 South Africa - populism ascendant (南アフリカ―ポピュリズムの天下)
10 Venezuela - a no-win election (ベネズエラ―勝者なき選挙)

○あいかわらず「お上手」なキーワードを編み出しているようですが、ここでの第4位がクセモノ。すなわち、アメリカ大統領選挙は普通に行なわれるでしょう。2012年のリスクなどではない。共和党はどうせロムニーなんだから、穏健派と中道の対決になる。政策の激変も考えにくい。ところが11月が過ぎたところで問題が起きる。ブッシュ減税の延長などを、年内に決められるかどうかである。

Right. Until November. Then things get dicey. The contours of long-term deficit reduction are pretty clear, but there are enormous uncertainties in the short term. About $5 trillion worth of tax and savings decisions ($3.8 trillion of Bush tax cut expiration, $1.2 trillion of automatic sequesters) must be made during the eight weeks between the elections in early November and the end of 2012.

Firms and investors will face uncertainty about their taxes, government contracts, and the impact of these policies on economic growth through the course of the year. With an election that’s likely to be tight until the very end, there will be few signals along the way about how these questions will be resolved-though we can expect plenty of noise. Businesses and investors will be forced to wait on the sidelines for resolution or expose themselves to significantly disparate outcomes. That’s problematic for investor confidence and a damper on economic growth.

○なるほどね、昨年暮れのPayroll Tax延長と同じような問題が起きる。しかも大統領選挙と同日に行なわれる議会選挙は、共和党が勝つ見込みが濃厚だ。こりゃどうしたって揉めますぜ。お気をつけて、ということであります。


<1月5日>(木)

○今年も出ました!バイロン・ウィーンのビックリ大予想2012年版です。

http://finance.fortune.cnn.com/2012/01/04/byron-wiens-surprises-of-2012/ 

○せっかくですから、ごく簡単な訳を10位まで付けておきましょう。


1.シェールガス革命で転機到来。リビアとイラクの増産、世界経済の減速効果もあって石油価格は1バレル85ドルに低下。

2.米国企業は業績好調でS&P500指数が1400超え。資源価格低下とコスト削減努力が寄与。

3.米国経済の成長率は3%超え、失業率は8%割れ。石油安と株高で個人消費が復調。

4.オバマ大統領が、ロムニー候補を破って再選。反現職機運に乗って、民主党は下院で多数を奪回するも、上院では過半数割れ。

5.欧州は債務危機への包括プランを編成し、通貨ユーロは維持される。ギリシャは債務再編へ。金融システム崩壊は回避するが、不況は続く。

6.ハッカーによる銀行荒らしが勃発して、G20が緊急会合。

7.投資家は、経済運営が賢明なスカンジナビア通貨、豪ドル、シンガポールドル、韓国ウォンを選好する。

8.米議会に危機感が芽生え、与野党は大統領選挙前に支出削減で合意。ブッシュ減税は延長へ。

9.「アラブの春」がシリアにも飛び火。アサド一家の支配が終焉。

10.経済成長続くも、株式市場が低迷してきたエマージング諸国が活況。中国、インド、ブラジルの株式指数は二桁上昇。


○昨日紹介したユーラシアグループの「Top 10 Risks」が悲観論の典型ならば、こちらは楽観論の典型といった風情がありますな。両方が出揃うと、新しい年が始まったという気がします。


<1月6日>(金)

○今年は曜日の配列に問題がありまして、仕事始めの週がわずか3日で終わってしまう。だから、「新年互礼会」「新春賀詞交換会」の類が水、木、金の3日間の間に集中している。不肖かんべえは、今宵は時事通信社の新年互礼会(@帝国ホテル)と、日本貿易会の新春懇親会(@ニューオータニ)をハシゴしてしまいました。

○今宵、帝国ホテルは2階と3階と4階で別々のパーティーをやっていて、クロークを別々にするなどして対応していましたな。ニューオータニでは、例年と同じ会場が取れずに違う部屋になっていた。それくらい、ホテルの側も注文が殺到して大変だったようであります。

○ご挨拶を交わした何人かの方から、「昨日の産経新聞の記事、良かったよ」とお褒めの言葉をいただきました。時局柄、経済の先行きに対する楽観論は希少価値があるみたいです。書いてる側としては、別に奇をてらったり、逆張りをしているつもりはないのでありますが。むしろこんな年の始まりに、悲観論を唱える人の気が知れません。マヤ文明の予言を信じる人はさておいて、別にこの世の終わりが来るわけじゃないんだし。

○ユーロ圏全域が廃墟になる、みたいな報道がなされている昨今であるからこそ、「だったら焼け跡で最初に芽を吹くのは何か」に思いを馳せるのが、ビジネス界で生きている人間にふさわしい態度ではないかと思います。私見ながら、おそらく最初に欧州債務危機を乗り越えるのはアイルランドでありましょう。あそこだけは既に、国債の利回りが下がっていますから。だったら欧州はなぜダメなのか、ではなく、アイルランドはなぜうまく行き始めたのか、に注目しなければなりません。

○「日本もギリシャのようになる」みたいなことを言う人が絶えない世の中であります。確かに日本だって、長期金利の上昇はあるかもしれない。そのときは、この国がギリシャではなく、アイルランドになるように心がければいい話であります。きっと国民性から言っても、日本人はギリシャ人よりアイルランド人に近いと思いますぞ。

○さて、本番まで2週間となりましたので、告知しておきたいと思います。1月20日夜にこんなシンポジウムをやります。ご自宅のパソコンからどなたでも参加できる無料セミナーです。上記のような話を、オバゼキ先生ととことんやりますぞ。奮ってご参加ください。お申し込みはこちらから。

セミナータイトル 【WEB】新春プレミアムナイツ 2012年見通し 「小幡績」vs「吉崎達彦」 - 気鋭講師陣が激論! -
レベル 初・中・上級
日時 2012年1月20日 (金) 19:30 〜 21:00
会場 ご自宅のパソコン
参加条件 どなたでもご参加いただけます。
案内事項  
講師 慶応義塾大学ビジネススクール准教授:小幡 績 氏
株式会社双日総合研究所副所長:吉崎 達彦 氏
M2J FX アカデミア 学長:吉田 恒
参加費 無料
定員 500名様 (定員になり次第締め切りとさせていただきます。)




<1月9日>(月)

○昨年末のニューヨークタイムズ紙に出ていたこの記事が、むちゃくちゃ面白いのである(At Harvard, a Master’s in Problem Solving)。

○明日のニューハンプシャー州予備選はロムニーが勝ちそうだ。彼は今までのところ「ミスター20%台」であり、共和党員の4人に3人は彼にそっぽを向いている、という現実はあるのだけれど、アイオワとの2連勝となればフロントランナーは確定である(両方の州を勝った共和党候補者は、1976年のジェラルド・フォード以来となる)。ということで、「ロムニーってどんな人?」という記事が増えるのだが、これはその典型。

○ロムニーはハーバードでMBAとロースクールの両方を卒業している。そのMBAのコースで、彼は卒業生として勉強会の講師を務めた。テーマは今風に言えば「ワーク・ライフ・バランス」である。そこでこんなことを言ったらしい。


“You have the same question as General Electric,” said Mr. Romney, then a young father and a management consultant. “Your resources are your time and talent. How are you going to deploy them?”

He drew a chart called a growth-share matrix with little circles to represent various pursuits: work, family, church. Investing time in work delivered tangible returns like raises and profits.

“Your children don’t pay any evidence of achievement for 20 years,” Mr. Romney said. But if students failed to invest sufficient time and energy in their spouses and children, their families could become “dogs” -- consultant-speak for drags on the rest of the company -- sucking energy, time and happiness out of the students. The presentation was a hit: Mr. Romney had proved the value of family time based not on emotion but on yield.

That day, Mr. Romney was not only displaying his hallmark brand of almost comically analytical reasoning but also returning to the place where he first absorbed it. From 1971 to 1975, he simultaneously earned business and law degrees from Harvard.


○マトリクスを描いて、"Stars"、"Cash Cows"、"Wildcats"、"Dogs"の4象限で資源配分を考える、というのは今では誰でも知っている戦略論の基本です。でも、きっとこの授業が行なわれた1978年には、とっても新しい概念だったのでしょう。しかしまあ、それを「家族や信仰」の問題に応用するというのは、いくら当時のロムニーが売れっ子のコンサルタントであったとはいえ、聞いている側はさぞかし唖然としたことでしょう。

○さらに面白いのは、この話をNYT紙に語ったのが、クレイトン・クリステンセン教授であるということです。つまりロムニー氏の後輩で、ハーバードビジネススクール(HBS)の花形教授なのであります。彼がこの勉強会の幹事を務め、しかも1978年当時のノートをちゃんと残してあった。記事にはハッキリとは書いてありませんが、おそらくこの会合は「HBS内のモルモン教徒の会」だったのでしょう。そうだとすると、この日のテーマにも納得が行きます。

○さらに想像をたくましくすると、クリステンセン教授はロムニーのことをあんまり良く思っていないのかもしれませんね。ロムニーがホントに大統領になったら、閣僚級のポストが回ってきてもおかしくない立場なのに、こんな話をバラしちゃうんだもの。ちなみにクリステンセン教授は、本当に家族思いで信仰生活も真面目であるということで定評があります。

○クリステンセン教授の出世作は「イノベーターのジレンマ」でした。これは先行する優良企業が、なぜ新興企業の追い上げに敗れ去るかという分析でした。仮にロムニーが他の候補に敗れるようなことがあれば、これぞまさしく「イノベーターのジレンマ」の政治版となってしまいます。それもちょっと面白いかもね。


<1月10日>(火)

○企業エコノミスト業界の某先輩とランチ。諸般の情勢を語りながら、ふと相手の口をついて出た一言は、「やはりこの仕事は、30年やらないと本当のところは見えてこないものですなあ」。

○当方のエコノミスト歴は15年程度なので、そこまでの境地には至らないのだけれども、エクセルがない時代にロータス1-2-3でグラフを描いていた時代のことは知っている。QEが発表されるたびに、誰かが経済企画庁まで資料を取りに行っていた時代のことも覚えている。今にして思えば、「どこがQuick Estimationなんだ」と文句のひとつも言いたくなる話である。今では決まった日の決まった時間になれば、会社に居ながらにしてネットでダウンロードできてしまう。便利な時代になったものである。

○さらに篠原三代平先生あたりになると、これはもう半世紀単位の時の刻みがあるから、グラフ用紙に物差しで折れ線グラフを描いていた時代まで遡ってしまう。それだったら、今は大いに進化したのかと言えば、少なくとも景気予測の精度が上がったわけではないだろう。ちょうど金融技術は大いに進化したけれども、そのお陰で潜在成長力が上昇したわけではない、というのと似ている。つくづく技術なんてものは信用してはいけない。頼れるのはおのれの経験と直観だけである。

○政治ウォッチングの世界も似たようなもので、やはり長く見ているお陰で分かる部分がある。不肖かんべえが「アメリカ大統領選挙オタク」になったのは、1992年のニューハンプシャー州予備選挙がきっかけだった。あのときのクリントン陣営を見ていて、「この世の中にこんな面白いものがあったのか!」と感動したものである。明日には2012年のニューハンプシャー州予備選の結果が出るだろう。何だかんだで20年。明日にはまた、ニューハンプシャープライマリーの新しい物語が生み出されているはずである。

○などと考えつつ自宅に戻ったら、『レーガン』(村田晃嗣/中公新書)が届いていた。ありがたし。今月の中央公論に本書の書評が出ていて、とっても面白そうだったのである。ひとつのことに長く取り組むことができている者は幸いなるかな。


<1月11日>(水)

○ニューハンプシャー州予備選挙が終わる。

○1位はミット・ロムニーが39%で、初めて支持率が2割台の壁を越えた。でも、これってお隣の州の元知事さんが、ずっと前から周到に準備をしていた(4年前にも選挙運動したし、わざわざ別荘も買った)ことによる追い風参考記録。1月21日のサウスカロライナ州はどうなることやら。共和党の過去の記録を見ると、アイオワ州党員集会とニューハンプシャー州予備選の両方を勝ったのは、1976年のジェラルド・フォードしか居ない。だったらこれで堂々の本命候補と言いたいところだが、「7割の共和党員に嫌われている候補者」としては苦しいところ。

○2位はロン・ポールが23%であった。いつもの泡沫候補が、なぜこんなに強いのか。若者層の支持が集まっている模様なのだが、「海外からの米軍全面撤退」式の孤立主義がそれなりに賛同を得ているのかもしれない。FEDを解体せよだの、金本位制の導入だのと、政策的にはかな〜り困ったちゃんなのだが、「第三政党で出ます」(1988年にも実際にやりましたし)と言われると、2000年のラルフ・ネイダーみたいに共和党の足を引っ張るかもしれない。ゆえに粗略にできないのがツライ。

○3位はジョン・ハンツマンで17%。アイオワを捨ててニューハンプシャーに一点賭けしてきたのだが、ロムニーと同じモルモン教徒だということでキャラがかぶったか、今ひとつ伸びなかった。悪い候補ではないと思うのだが、とりあえず2012年は「私はオバマ政権で中国大使を務めてしまいましたぁ、ごめんなさい」というミソギ期間と考えればいいのかも。ここで負けておけば、2016年に共和党内からうるさいこと言われないで済むし、それにまだ51歳だし。

○4位と5位はほとんど同着でニュート・ギングリッチとリック・サントラムだった。それぞれ9%。二桁に達しない、という点がいかにも哀しい。ギングリッチは、いよいよこれで終わった感が強い。でも、彼にはサウスカロライナでロムニー批判を展開して一太刀浴びせてやる、という楽しみがある。自分は勝てないまでも、恨みはらさでおくべきか。実際にそういう行動が似合う人でもある。ロムニーにとってはいい迷惑だが、これはつくづく相手が悪い。

○5位のサントラムは、アイオワの勢いを持続できなかった。というか、アイオワで受ける人(社会的保守派)はニューハンプシャーで受ける人(経済的保守派)とタイプが違う。アイオワと同じことを言ったら、かならずニューハンプシャーでは負ける。その辺が反省材料。でも年も若いんだし、南部諸州でもう少し頑張ってくれたまへ。

○6位はリック・ペリー。なんと1%の得票に終わってしまった。アイオワが終わった瞬間に、「テキサスに帰って今後の方策を考える」と言ったのは、普通に考えれば撤退宣言の婉曲話法である。にもかかわらず、後から「サウスカロライナへ行く」と言ってしまった。間に挟まったニューハンプシャー州民としては、この馬鹿野郎めが、ということで断罪してしまう。この人の政治オンチはかなりの重症でしょう。きっと人間的にはいい人なんだろうなあ。

○結論として「二人のリック」が負け頭でした。君の瞳に乾杯!


<1月13日>(金)

○いろんな人と話をして、政局やら国際情勢やら日本経済やらいろんな情報が交錯した一日でした。でも記録しておくのは、引退が近い偉い人から聞いた、若い人への以下のアドバイス。

●知識よりも人間関係。

●仕事は嫌われない程度にしつこく。

●迷ったときはやってみる。

●信頼は歩いてやってくるが、馬の背に乗って去っていく。

○たまにはこういうのも、味があっていいんじゃないかと。


<1月14日>(土)

○イラン情勢が風雲急を告げております。あの辺のことは全然知らないのですけれども、以前に某シンクタンクが主催した「イラン核開発危機」のシミュレーションゲームに参加した経験を思い出しつつ、この辺がポイントかな〜と感じたことをメモしておきます。

1.イランの立場になってみると、北のロシア、東の印・パキ、南のイスラエルが核保有国である。「自分だけが持っていない」ことは、誇り高きペルシャ民族には耐え難いこと。そしてイランがその気になってしまうと、いくら先進国が束になって干渉しても、核開発を止めることはなかなか難しい。

2.歴史的・宗教的な経緯もあって、欧米の世論はイランを絶対的な悪と見なす傾向がある。特に大統領選挙のときの米国においては、イランは「心から安心して叩ける」ありがたい相手である。(最近の中国は、叩きにくい相手になりつつある)。

3.イランの軍事予算は増えた昨今でも100億ドル程度であり、サウジやUAEよりも小さい。ホルムズ海峡の封鎖も、口でいうほど簡単ではないはずである。(あれはマエハラ・・・もとい「言うだけ番長」なのではないかなあ)。

4.イランの国内事情はかなり複雑なので、対外強硬姿勢は国内政治の関数であるのかもしれない。が、所詮は外からは判じがたい話なので、「アラブの春が伝播して体制転換が起きる」などといった期待を持つべきではない。

5.アラブの国にとってイランは歴史的ライバルなので、国際社会がイランへの警戒感を強めることを歓迎する。ついでに石油価格が上がることも歓迎する。

6.イランが強硬姿勢を見せているときに、もっとも警戒しなければならないのはイスラエルの単独行動である。軍事行動に対して、他の国と違う価値観をもっているし、特に対米関係が悪化している現在は出方が読みにくい。

7.この問題に対して、日本政府にできることはあまりない。ただしシーレーンの問題があるので、念のために「もう1回インド洋に出る」ことを検討しておいた方いいかもしれない(でも防衛大臣は・・・とほほ)。

○さて、今宵は台湾総統選の結果に注目です。


<1月15日>(日)

○昨日の夕方から、ときどきこのページをチェックしてましたが、最後は思ったよりも大差がつきましたなあ。


註記 號次
總統 候選人姓名
副總統
性別 得票數 得票率% 登記方式
  1 蔡英文
蘇嘉全

6,093,578 45.6301% 民主進歩黨  推薦
2 馬英九
呉敦義

6,891,139 51.6024% 中國國民黨  推薦
  3 宋楚瑜
林瑞雄

369,588 2.7676% 連署



○宋楚瑜が出馬して、国民党票の一部が割れたわりには、馬英九が5割を超えたというのは大きな勝利と言っていいでしょう。2012年の選挙シリーズ第一弾は、とりあえず現職側に凱歌が上がりました。

○いつもながら感心するのは、「自分の生まれ故郷で投票する」(投票日には民族大移動が起きる)という過酷な条件がついているにもかかわらず、投票率が8割もあることです。日本の有権者は、ここまで真剣じゃないものなあ。とりあえず感想まで。


<1月16日>(月)

○NHK大河ドラマの『平清盛』は、脚本があまり練れてないなと感じるのだけれど、映像といい俳優陣といい、なかなかの出来栄えじゃないかと思う。まだ2回目だけど。少なくとも、戦国・学芸会みたいな『江』は終わってよかった。大河ドラマでは、女性を主人公にすると視聴率が上がるらしいのだが、作品的には目を覆わんばかりのことが多いので、あたしゃ好かんな。

○で、ここは衆目の一致するところであろうと思うのだが、今回の『平清盛』の中で異様な存在感を発揮しているのが白河法皇である。『坂の上の雲』の中では、秋山兄弟のよき父を演じていた伊東四郎が、まさしく妖怪のような「権力の権化」を演じている。「てんぷくトリオ」の時代を記憶している者の一人としては、あの鬼気迫る演技には本当に瞠目するほかはない。

○ということで、思わず調べてしまったのだが、白河天皇は20歳で即位している。当時はまだ摂関政治の最中であったところを、果敢に親政を目指した。そして、「8歳の息子に譲位して上皇として政治を行なう」という必殺技を繰り出す。世にいう「院政」の始まりである。爾来、77歳で崩御するまで、白河法皇は延々と最高権力者であり続けた。これって日本史上の権力保持・最長不倒距離じゃないだろうか。

○余談ながら最後の頃は文字通りやりたい放題状態で、たしか渡辺淳一先生が小説化しておられましたが、ええ、それはもう恐ろしい、格調高い当サイトとしては、口に出すことも憚られるようなご無体をなさいまして・・・(以下検閲)。

○この絶大なる白河時代への反動として、保元・平治の乱から武士の世の中へと時代は激動していく。「長期政権の後には政治が不安定化する」という法則を絵に書いたような展開である。長期政権下では世の中は安定するのだが、いろんな怨念もばら撒いてしまうものらしい。

○そこでふと思いついたのだが、ここ数年続いている「1年で首相は使い捨て」時代は、実は小泉時代が5年続いたことの反動なんじゃないだろうか。2009年に自民党が下野したことで、とりあえずは清算が済んだのかと思っていたが、民主党政権下においても短命政権が続いている。

○今の防衛大臣を見ていると、どう見ても問責決議案提出は時間の問題である。野田政権は3月を待たずして崩壊するんじゃないかなあ。日本の国防や沖縄県民の心理をさておいて、民主党内のご都合だけで重要ポストの人事を決めるからそんなことになるので、あんまり同情する気にもならんのだが、このまま何も出来ずに玉砕するのかと思うと、少しは惜しくもある。

○他方、日本銀行の総裁は長期政権になるのかもしれない。つまり「白川法皇」ということで。


<1月17日>(火)

○今日、東北新幹線に乗ったら、同じ車両の中に「ときの人」が居るんです。それも大勢の部下を引き連れて。なんと昨日、悪口を書いたばかりの田中直紀防衛大臣でありました。非常にきまり悪し。こういうとき、ツイッターをやっていると、

「防衛大臣と同じ車両に居るなう。何か質問ある?」

などと書いてしまうのであろうか。

○一瞬、フェースブックなら書いてもいいかな、と思いましたが、幸か不幸か持参のPCは電池切れでありました。ついでに周囲を見渡すと、どうも市ヶ谷あたりで見かけたことのあるようなガタイのいい乗客が多くて、しかもPCを開けていたりする。小心者としては、ついつい遠慮したのでした。

○ちなみに大臣は、電話がかかってくるとちゃんとデッキに出るなど、マナーのいい乗客でありました。その際は、すかさず大きなカバンを抱えたスタッフが後を追ったりするわけですが、見ていて飽きない光景でありました。一行は郡山駅で降りていかれましたが、さて、どんな公務があったのでありましょうや。

○当方は水沢江差駅で下車。奥州商工会議所の新春会で講師を務めました。「復興需要」に期待のかかる2012年の日本経済ですが、東北の抱える現実は複雑であるようです。などと言いつつ、明日は岐阜県に行ったりするのですが。


<1月18日>(水)

○年明けは全国的に新春講演会が多い。ゆえに本日は岐阜市にて講師を務める。昨日は奥州市、先週は福山市であった。この世の中に、新幹線のマイレージというものがあったならば、ワシはあっという間にゴールドカードがもらえてしまうかもしれない。

○岐阜はよく来ているほうなので、何事のことやあらんとタカをくくっていたら、来場者数が300人以上であると聞いて慌てる。もちろん不肖かんべえに人気があるから、ではない。ひたすら主催者さん(西濃信用金庫)の動員力によるものである。理事長さんはしきりに、いやあ景気が悪い、運用先がないとおっしゃるのだが、このご時勢、お客さんをそれだけ呼べてしまうというのは、おそるべき信用力といえよう。

○思えば昨年の9月も岐阜県に来て、「ああ、岐阜城に行かねば」などと言っていたのであった。今回は金華山を仰ぎ見る機会を得るも、登るような時間はなし。岐阜城はロープーウェーを使うか、長時間かけて歩いて登るしかないのだそうだ。なるほど山城とは不便なものである。信長はいつもどうしていたんだろう。その一方で、よくまあこんな城が落とせたものだと思う。

○ともあれ、天守閣の上からの景色を一度見てみたいものである。「天下布武」の気分の一端が味わえるかもしれないではありませんか。


<1月19日>(木)

コダックがチャプター11を申請とのこと。ふーん、そういう時代でありますかねえ。

○たまたま今週のThe Economist誌が、「なぜコダックはダメになって、富士フィルムは生き残ったか」"The last Kodak moment?"という詳しい解説記事を掲載している。かつて写真フィルムの世界を二分したガリバー企業2社は、いずれデジタル化の津波がやってくることを充分に理解していた。そこで富士フィルムは、「フィルムでキャッシュを稼ぐ、デジタル化に備える、新規事業を起こす」の3本建て戦略で臨んだ。そして化粧品事業に乗り出し、今やお正月には写真フィルムではなく、化粧品のCMを流すようになった。だから今でも時価総額が高い。しかるにコダックは後手を踏み、今日の事態に至ったわけである。

○同記事は、"Surprisingly, Kodak acted like a stereotypical change-resistant Japanese firm, while Fujifilm acted like a flexible American one."(驚くべきことに、コダックは変化を嫌う典型的日本企業のように行動し、富士フィルムは柔軟なアメリカ企業のように行動したのである)と評している。そういう見方自体が、一種の「ステレオタイプ」なんじゃないかと、あたしゃ思いますけどね。

○とはいえ、コダックと富士フィルムが直面したのは、クレイトン・クリステンセン著『イノベーターのジレンマ』を絵に描いたような挑戦である。こんなの、普通だったら失敗するのが当たり前のところを、日本企業が上手に乗り越えつつある。The Economist誌は、古森CEOのリーダーシップを高く評価しています。

○最近、日本国内が自信喪失気味なせいか、「それはアメリカだったらうまく行くだろうが、日本ではダメだ」といった言辞を耳にすることがあります。つまり「われわれは地道にモノづくりをするしかないが、アメリカ人は貪欲で頭がいいから大儲けが出来る」てな認識です。でも、これって「日本における普通の99%の人たち」を、「アメリカにおける特異な1%の人たち」と比較することから生じる、ごく初歩的な誤解ではないかと思います。

○アメリカの99%の人たちは、日本のそれと同じように善良でフツーな人たちです。昨今はティーパーティー運動を展開したり、OWSデモに身を投じて「われわれこそ99%である」と言ったりもするわけです。問題は日米で指導的な立場にあるトップ1%の人たちの比較であって、これが総じて日本の指導者は質が高くない。特に政治家はひどい。とは言っても、全部が全部能無しというわけでもない。アメリカにもアホな経営者はおるわけで、「日本はダメ」などと最初から決め付ける必要はまったくないはずなのです。

○ひとつだけハッキリ違うのは、アメリカ人は他人の成功を素直に称えるけれども、日本は成功者をあまり誉めない国だということでしょうね。そういうところが、トップ1%のパフォーマンスに影響するのかもしれません。不肖かんべえくらいは、富士フィルムは偉い、と素直に称えたいと思うものであります。


<1月20日>(金)

○今日の関東圏は、雪交じりでとっても寒い一日でした。

○朝はファッションビジネス業界の朝食会で講師。繊維業界は朝のNHK連続ドラマ『カーネーション』にある通り、歴史の古い業界である。その割りには、適度にイノベーションもあって、ユニクロのような風雲児がときどき現れる。消費税については、二重課税や軽減税率のような問題はないけれども、販売が「気分」に左右されることが多いので、増税は困るのだそうだ。とはいえ、業界挙げて反対という感じでもない。ちなみに、お洒落な人が多いのかと思ったら、それほどでもなかったような。

○夕方は木材関係業界の新春懇親会で講師。3年連続。リーマンショック以後の落ち込みからは、着実に回復しつつある。ただし昨年の震災では、多くの企業が被災している。その分、供給力が減ったことで、息を吹き返した企業もあるのかもしれない。昨年、石巻を訪れた際に、合板メーカーであるセイホクの工場を見て胸がつぶれそうになったが、あの工場も今は稼動しているのだそうだ。あのとき見学した新仙台火力発電所の1号機も、昨年末から復活したと聞いた。この辺が、日本企業のとてつもないところである。

○夜はオバゼキ先生と一緒にM2Jセミナーに登板。FXの世界らしく、会場に来ていたお客さんは年代が全体的に若く、女性の比率も高い。欧州債務危機、新興国通貨、わが国の財政問題などについて意見交換。さすがは小幡センセ、勉強になりましたぞ。

○とはいうものの、1日に3回もプレゼンをやりますと、本日はまことに消耗いたしました。そういや明日はサウスカロライナ州予備選ではありますまいか。


<1月22日>(日)

○サウスカロライナ州予備選は、ギングリッチが予想外の大差で勝利しましたね。これで生き残っている4候補”The Final Four"の戦績は以下の通りとなりました。

  IA州 NH州 SC州
ミット・ロムニー元知事(MA) 2位(25%) 1位(39%) 2位(28%)
ニュート・ギングリッチ元下院議長(GA) 4位(13%) 4位(10%) 1位(40%)
ロン・ポール下院議員(TX) 3位(21%) 2位(23%) 4位(13%)
リック・サントラム元上院議員(PA) 1位(25%) 5位(10%) 3位(17%)


○しかも数え直しをしてみたら、アイオワ州党員集会の結果はサントラムの方が上だったということが判明しました。ロムニーさん、ついていません。

○米大統領選オタクとしては、ついついこんなものを作ってしまいました。共和党予備選挙の歴史です。

Year Iowa caucuses NH primary  SC primary GOP Nominee President 
2012 Santorum  Romney  Gingrich
2008 Mike Huckabee  John McCain  John McCain John McCain  Barack Obama 
2004 (--)  (--) (--) Bush Jr. Bush Jr.
2000 Bush Jr, John McCain  Bush Jr. Bush Jr. Bush Jr.
1996 Bob Dole  Pat Buchanan  Bob Dole Bob Dole  Bill Clinton 
1992 Bush Sr. Bush Sr. Bush Sr. Bush Sr. Bill Clinton 
1988 Bob Dole  Bush Sr. Bush Sr. Bush Sr.  Bush Sr.
1984 (--) (--) (--) Ronald Reagan  Ronald Reagan 
1980 Bush Sr. Ronald Reagan  Ronald Reagan Ronald Reagan  Ronald Reagan 
1976 Gerald Ford  Gerald Ford  (--) Gerald Ford  Jimmy Carter 


○序盤戦のアイオワ、ニューハンプシャー、サウスカロライナの3つの州で、全部違う候補者が勝ったというのは今回が初めての事態ですな。なおかつ、過去の戦績を見ると、サウスカロライナ州の勝者がいつも共和党候補者の座を射止めている。ということは、ギングリッチ侮るべからずということです。

○これはやっぱり長期戦ですかねえ。次の戦いは1月30日のフロリダ州予備選挙です。


<1月24日>(火)

○午後、中央区役所で東京商工会議所の新春講演会の講師を務める。

○若い頃、ここに何度か通ったことがある。広報誌の編集をやっていた古い時代のことである。都市史研究家の鈴木理生先生がこちらで勤務されていて、原稿を依頼に行ったり、もらいに行ったりした。近所の喫茶店で、あれやこれやとお話を伺った。「歴史に残るような文書を残す人は、たいがい不満や恨みを持っているんですよ」という話を聞いたことが、印象に残っている。鬱屈した思いを秘めている人の方が、文章は面白い。だから、歴史に残る。客観的で公平な文書なんてものは、面白くないから消えていく。これはネット上の文書にも通じることかもしれない。

○てなことを思い出しつつ、築地のあたりを少しばかり散策する。当時のことをちょっとだけ思い出しました。

○夜は早稲田大学の日米研究機構の研究会へ。米国大統領選挙の現状に関する報告をする。すると、「サントラムはカトリックなのに、社会的保守派はそれでいいのか」とか、「移民問題において、ギングリッチの方がロムニーよりも寛容であるのはなぜか?」など、信じられないほどオタク度の高い質問やコメントをたくさん頂戴する。中毒患者としては、思わず時間を忘れてしまいました。それというのも、1月21日のサウスカロライナ州予備選があまりにも劇的だったからですな。

○大復活を遂げたギングリッチ候補は、映画Men in Black(1997年)の中に登場している。「人間の皮をかぶって地球で活動している宇宙人たち」の一例として、シルベスター・スタローンやダニー・デヴィートなどと一緒にチラッと出てくる。現職の下院議長さんが、映画の中で「宇宙人」にされてしまったわけ。まさかホントに大統領候補になってしまうとはねえ。

○ところで今日、学習した話。カトリック教徒の間では、「ルターの宗教改革」という言葉はないのだそうだ。あれは「宗派の分裂」に過ぎない。新教の連中も、いずれは過ちに気づいて戻ってくるかもしれない。そのときはそのときで、なあに宗教の歴史においては、500年なんてあっという間だから、という話である。上智大学の入試問題では、どういう扱いになっているのだろう?


<1月25日>(水)

○「2011年は31年ぶりの貿易赤字だった!」というのが、本日の発表であります。お陰で少し円安に触れて、ついでに株価も上がって、という展開でありました。ただし本件に関しては、たぶんに誤解が多いような気がしますので、以下、この世界の内幕を少々ご説明いたします。

○紛らわしいことに「年度」でいうと、2008年度は約7000億円の貿易赤字でした。でも2008暦年は黒字なんですね。リーマンショックの影響は2009年1-3月期が最悪でありましたので、そういうズレが生じます。だから年度ベースではほんの4年前に赤字があった。ところが暦年ベースでいうと、過去に遡って1980年まで赤字はなかったのです。

○さらにややこしいことに、7000億円の赤字というのはあくまで通関統計ベースの赤字でありまして、これをIMFベースに修正すると黒字になってしまうのです。どういうことかというと、通関ベースの統計は輸出はFOB、輸入はCIFで計算しています。輸入の価格は運送費と保険料がコミコミになっているんですね。IMFベースに修正する際は、これをFOBベースに直す必要があって、それをやると実額で7%程度減ることになります。だから今回の「2011暦年は2.4兆円の赤字だった」というニュースも、修正が行なわれると今よりも減ることになります。

○では2011年度はどうなるかというと、足下の1-3月期の輸出がどうなるかに懸かっています。ここで問題なのは欧州債務危機がじわ〜っとアジアに波及していることで、欧州系の銀行は意外とアジアで貸し込んでいるんですね。それが今は撤退気味なものだから、日本企業が輸出しようと思っても「L/Cが開けませ〜ん」みたいなことが起きてしまうのです。これはまさしくリーマンショック直後と同じ状況でして、銀行が動いてくれないと商社もお手上げなのであります。

○ですから、早いとこ邦銀がアジアに出かけていって、欧州系銀行の肩代わりをしなきゃいかんのです。とはいえ、邦銀も昨今はリスクを取ることに慎重になっていますので、その辺がちょっと不安材料かと思います。しみじみ大事なのは、欧州の金融不安をアジアに波及させちゃいけないということです。日本の輸出先はもう6割がアジア向けですので。

○原発が止まっているから代替燃料の輸入が増えている、という点も一つのポイントです。とはいえ、このことによる増加分は、たとえば2011年度はLNGが前年比4割増くらいになるわけですが、2012年度がどうなるかを考えますと、たぶん量的には2011年度と同じくらいに止まるでしょう。そして値段は少し下がる見当になりますので、あんまり心配は要らんのじゃないかと思います。ということで、輸入は前年並み。貿易赤字が続くかどうかは、ひとえに輸出が復活するかどうかに懸かっております。

○以上、貿易業界からのトリビアでございました。結論として、あたしゃそんなに心配はしておりません。


<1月27日>(金)

充電の携帯家に置き忘れ、こころゆたかに一日過ごす

○古い友人の母君が書かれた歌集が家に届いたもので、つい影響を受けてアホな句を詠んでしまった。でも松尾文夫先生、ごめんなさい。留守電入れても、返事がないのはそういうことでして。

○でも今日は一日、アポが全然ない日だったので、溜池通信の執筆に専念できました。それでまっすぐ家に帰ってビール。ああ、いい一日であった。


<1月28日>(土)

○昨日くらいからintradeでギングリッチ株が暴落している。ロムニーを追うどころか「振り向けばロン・ポール」になっている。果て、これは何があったかと思ったら、フロリダで行なわれた討論会でドジを踏んだらしい。

○それにしても、「2020年までに月に基地を作る」はないんじゃないか。やっぱりギングリッチは宇宙人だったのだろうか。まあ我ら日本人も、ほんの2代前には宇宙人の首相を選んでおるわけなのだが。

○おそらくは、地元フロリダのNASA関連票を狙った見え透いた手口だったのでしょう。でも、ロムニーに、「そんなことを提案する役員が居たら、即クビにする」、「それよりも米国内の住宅事情が先決だ」とやり返されたのでは、いささか傷口が深いぞな。

○ということで、1月31日のフロリダ州決戦を前に、またまた新たな展開が。3日後に投票を控えて、現地はこんな感じである。


<1月30日>(月)

○日曜日の夜、さる事情にて頂戴した「オーパスワン2006年」を開けてみたのである。いや、美味でござった。今まで「これ、旨いねえ」などと言いながら飲んでいた他のワインはいったい何だったのか。哀しいかな、そういう素養がないので、美味を表現する適当な語彙も持たないのだが、とにかく感動したのである。

○エコノミストとしてありがちなことに、この感動を貨幣経済の中に位置づけるべくネットで調べてみたところ、1本2万円以上する代物であった。とりあえず、値段だけのことはあった、ということにしておきたい。1本はさすがに空けられなくて、そのまま沈没してしまったのだが、酔い覚めもたいへんにさわやかなものがあった。

○ということで、ワインは奥の深いものだなと感心した。かといって、今からワイン道を極めようとしても、たぶん中途半端に終わるのが落ちであろう。さすがにオーパスワンの「大人買い」は洒落にならんし、もともとそんなに酒が強いわけでもないし。昔から、クラシック音楽とワインに造詣が深い人(例えばこの人)を見ると、即座に感心してしまうのだが、どちらも今から始めたところで完全に手遅れである。(ちなみにゴルフも奥が深そうだけど、そっちはどうでもいいんだよなあ)。

○考えてみたら、どこまでが趣味で、どこからが仕事か分からないような生活を送っているので、いつもいつも暇がないのである。オタク体質の人間には、高尚な趣味を持つことなど永遠に不可能なのかもしれない。とはいえ、ワシが仕事を見捨てなくても、いつか必ず仕事の方でワシを見捨てる日が来る。いつかある日、パタリと暇になっちゃうんだろうなあ。そしたら人生80年の時代に長い余生を何で過ごすのか。

○周囲を見渡すと、50歳前後から皆さんいろんなことを始めているようだ。マラソンを始めたとか、ボランティアをしているとか、陶芸を習い始めたとか、句会に通っているとか。ふと焦りのようなものを感じてしまう今日この頃なのであった。

○そういえばこの週末は、わずかな暇をぬって今年初めて競馬場に出かけていたのである。根岸Sではダノンカモンが来なくて地団駄を踏んだが、京都牝馬Sではドナウブルーが来てくれたので嬉しかった。うーん、つまるところその辺がワシの限界か。以上、自己完結の愚痴話でした。


<1月31日>(火)

○久しぶりにRecovery.govのページを見てみたら、オバマ政権の大型景気刺激策のうち、すでに7418億ドルが費消済みなのですな。当初予算が7870億ドルであったから、ほとんど使い果たしたといっても過言ではない。2012年の米国経済は、前年比でかなりの財政ギャップが生じることになる。それにしてもこの7000億ドルは、一体何に使われたのだろう?ほとんど1990年代の日本の財政支出と、似たような感じではないか。財政政策とは虚しいものよのう。

○他方、Fedは「2014年の遅い時期」まで事実上のゼロ金利政策を延長することを表明した。いわゆる時間軸効果というやつだが、それでどんな効果がもたらされるのだろう。こちらも限りなく、かつての日銀の後を追っているように見える。金融政策もまた、虚しいものではないか。

○TPPやFTAといった通商政策も、景気の下支え効果は乏しいものだろう。少なくとも、今すぐ効くようなことはあり得ない。交渉には時間がかかるしね。

○考えれば考えるほど、米国経済に残されたテコは少ないのである。で、そんな最中にフロリダ州予備選が行なわれる。ロムニーがやや勝って、ギングリッチが少し負ける。サントラムが「家族と過ごす時間を増やしたい」とか言って退場し、ポールが「独自の戦いを続ける」といった感じだろうか。まあ、明日の結果を楽しみにするとしましょう。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki