<2月1日>(金)
○結局、緒方貞子さんは外相就任を辞退。ご本人の立場になって考えればそれも当然か。外務省は、大臣よりも鈴木宗男議員の方を向いて仕事をしているという変な組織である。そこのトップをやってくれ、と言われても普通は遠慮しますわね。とはいうものの、緒方さんはこれまた魑魅魍魎が跋扈する国際機関で成果を挙げてきた人である。まことに惜しい話。
○今の日本で緒方さんのように安定感のある人を探すと、不思議なくらい70歳以上になってしまう。文句なくスゴイと言える人は70代以上にはいくらでも見つかるのだけど、それに比べると60歳以下の人材は本当に小粒に感じられる。今夜は「一の会」に顔を出したんですが、そこでこの話をしたら、編集者のK氏が「貧乏した人は駄目なんですよ」とバッサリ言ってくれた。なるほど、戦前の日本にはまともな中産階級と、ちゃんとしたエリート教育があったということですな。
○今宵は2つの会合をハシゴ。先に経済同友会の元出向者の会へ。皆さん、月日を経てそれぞれ「おっさん」になっている。年代的には40代で企業の中堅層。それから一の会。ここはジャーナリストの会で、主力は30代か。われら戦後育ち、果たして将来どんな評価を受けるのだろう。そういえば今年初めて岡本呻也、田中裕士両氏に会いましたな。2次会はパスして失礼しましたが、また何かやりましょうね。
<2月2日>(土)
○エンロン破綻による怒りの矛先は、同社の監査法人であったアーサーアンダーセンに向かっている。エンロン株で損した人たちが、一斉に訴訟を起こすことになるらしい。エンロンを訴えてもお金は取れないだろうが、会計監査法人はお金持ちだからね。
○The Economist誌が書いていたように、監査法人が信用できないのではアメリカの資本主義が危ないということになる。海外から言わせてもらえば、「グローバルスタンダード経営が聞いて呆れるわい」というのが率直なところである。1年前のフロリダ再集計では、民主主義とハイテクの先進国、アメリカの投票システムが実に頼りないことがバレてしまったが、エンロンゲート事件は、別の意味でこの国の脆さを暴いているようだ。
○そういえばポール・クルーグマンはこの件をどう評しているのだろう、と思い、久しぶりにこのサイトを覗いてみた。案の定、冴えまくっている。2月1日付のThe
New York Times紙に寄稿した"Two,
Three, Many?"(二、サン、たくさん?)というのが面白い。
○エンロンが特殊なケースだなんて思うなよ、いい加減なことをやってた会社はナンボでもあるんじゃないか? 米国企業は、高株価経営を目指して「攻めの企業会計」(Aggressive
Accounting)と称し、ムチャクチャなことをやっていた。そういうトレンドが作られたのは、90年代後半に、@「ニューエコノミー」ブーム、A株のバブル、B司法環境の緩和、などがあったからだ。おそらく企業だけじゃなく、経営者個人もいっぱい悪さをやっているだろう・・・・・。
○思わず吹き出したのはこのくだりである。"Ask not what a high stock price can
do for your company; ask what it can do for your personal bottom
line."(株価が会社に何をしてくれるのではなく、株価が君のふところにどう響くかを問いたまえ)。言うまでもなく、ジョン・F・ケネディのもっとも有名なセリフのもじりだが、こういう皮肉がポンポン出てくるところがクルーグマン流である。オチも気がきいている。"I hope that Enron turns out to be
unique. But I'll be very surprised."(エンロンが特殊なケースであること祈りたいが、でも後でびっくりさせられるんだろうな)。
○この言い回しを聞いて、ふとこんな昔話を思い出した。ある商社マンの大先輩が、イギリスでの商談で体験した話。入札価格を思い切り下げて、バイヤーに対して「大丈夫ですよね、この案件、弊社が取れますよね」と食い下がった。するとバイヤーさんはこう言った。"I will be surprised, if you
fail."(お宅がしくじるようなら、私は驚くよ)。安心して帰ったものの、果たしてこの案件は他社の手に落ちた。後日、バイヤーさんのところへ行って、「ひどいじゃないですか」と文句を言ったところ、敵も去るもの平然と言い放った。"Oh, I was astonished."(いや、私は驚愕したよ)。
○当の先輩によれば、この話の教訓は、「イギリス人は意地が悪い」である。あるいは「商売の道はきびしい」や、「英語表現は奥が深い」という教訓を読み取るのも、それはそれで意義深いような気がする。
<2月3日>(日)
○えー、お知らせです。明日、2月4日月曜夜のJ−WAVE『ジャム・ザ・ワールド』の午後8時45分頃に、不肖この私めが登場いたします。景気と税金の問題についてコメントする予定。この時間帯は当溜池通信の政治情報のネタ元、角谷浩一さんが担当しています。この時間帯にFM放送を聞いている人というのは、そんなに多くないと思いますが、以前、月曜夜にクルマに乗っていたら、突然、角ちゃんの声が聞こえてきたときはビックリしました。今回は勉強だと思って、西麻布の放送局に乗り込んできます。
○最近気がついたんですが、自分は既存のメディアのことはボロクソに言ったり書いたりしているくせに、声がかかると喜んでホイホイと出かけてしまうんですね。学生時代に演劇部だったこともあって、「生放送で出たこと勝負」、というのが何だか楽しいのだ。番組を作っている現場の雰囲気も好きだし。ネットの上でモノを書く、というのとは違う種類の感動があることは否定できないんだな。
<2月4日>(月)
○「番組は8時45分頃に始まりますんで」「ハイ、では、今晩8時半までにスタジオに伺います」――てなことを言いながら、今夜は西麻布の某所で、金融界のディープスロートお二人から昨今の情勢を聞いていたもんだから、遅刻してしまったのである。J−WAVEのスタジオは、西麻布の富士写真フィルムビルの向かい側、西麻布三井ビルの18階にある。歩けばなにほどのことやあらん、と思ったら、高樹町入口に向かうところの坂道がかなりしんどい。息を切らしてたどり着き、エレベーターに乗ったところで気づいたら、携帯電話に20時32分着信の記録が。関係者の皆様、ゴメンナサイ。
○すでに一杯気分になっている中年男3人、忽然とJ−WAVEに現れて、そこだけ周囲の雰囲気とミスマッチをかもし出している。スタジオを覗いた瞬間、「エイティワン・ポイント・スリー、ジェ〜イ・ウエ〜ィヴ」のジングルが流れたので、ちょっと感動する。見ればDJを勤める角谷浩一氏が、「それでは道路状況をお願いします」などと真面目な顔をしてマイクに向かっているではないか。おお、これでは酔いも醒めるぞ。角ちゃんとは、かれこれ10年の付き合いになる。この間、通算して何百時間、政治の議論をしたか見当もつかない。でも、一緒に仕事をするというのは初めての経験である。
○本日のテーマは「消費税を1年間だけ0%にして、1年後に税率をアップさせると、駆け込み需要が発生して景気回復に役立つのではないか」というアイデアの検証。駆け込み需要発生後の反動があるし、事業者側の負担が大きいなど、あまり筋のいいアイデアではないですよ、てなことを申し上げる。「でもいろんな手を尽くすことが大事だし、消費税が下がったら僕なんか実際に買い物しちゃうと思うけど」と角ちゃん。たしかに円安誘導の話と同じで、今の時点で使える景気対策はキワモノ的なものにならざるを得ない。その辺は割りきりの問題という気がしないでもない。
○それにしてもJ−WAVEおそるべし。たちまち視聴者からの反応が届いている。さすがは首都圏におけるナンバーワンFM放送。ちなみに自宅で聞いていた配偶者のコメントでは、「横浜育ちの(センスのいい)角谷さんと、富山出身の(地味な)アンタとでは、金銭観や人生観の違いが大きすぎて、これは収束しない議論である」とのこと。なるほど。
○中年男3人組、そこから再び西麻布の街へ。ここにさらに輪をかけたようなジャーナリスト2人が加わり、中年男5人組はオシャレな街に似つかわしくない議論を延々と。12時に解散。
<2月5日>(火)
○今年3度目の『ルック@マーケット』に出演。最近は何かを話すためというより、ほとんど自分が勉強するために出かけているような気がする。本日は政局のシナリオをフリップにして用意していたところ、UBSウォーバーグ証券の政治経済アナリスト、岡崎維徳氏が用意していたのとほとんど同じような内容になっていたのでビックリ。お陰でこちらのフリップは使用することなく終わりましたが、以下の読みはほとんど市場関係者のコンセンサスに近いようです。
●政局混迷のシナリオ
(1)小泉政権の低空飛行続く(60%)。
――抵抗勢力と妥協し、政局運営は安定。支持率は4〜50%程度。経済政策では改革の速度が低下。
→マーケット:株価は低迷。ゆるやかな円安が続く。
(2)抵抗勢力の新政権誕生(20%)
――麻生、平沼などの政権に移行。支持率は2〜30%程度。経済政策は景気重視に転換。
→マーケット:株価はやや安定するも、長期金利上昇の懸念。
(3)解散・総選挙で自民党分裂、新党結成?(20%)
――景気重視派と改革推進派で政界再編。経済政策は一気に不透明に。
→マーケット:とりあえず「変化は買い」で株高も。
○これを見せると、ほぼ全員が「(1)だよね。(2)も(3)もない」との感想を口にする。まったくそうなのである。(2)は抵抗勢力が、わざわざ政権を取りに行く理由がない。小泉首相との手打ちがつきさえすれば、連立で衆参の多数派を占めているのだから、政局運営がずっと楽である。(3)はちょっと期待したくなるが、そもそも解散の大義名分がない。時期も難しい。予算が上がってから、ということなら4月だが、ペイオフ凍結解除の時期に選挙してていいのか、という心配がある。通常国会の幕切れに、ということなら6月だが、これはワールドカップに重なる。これまたイメージが悪いし、警備も困る。結局、(1)の現状維持ということになる。
○「小泉改革はもう終わったね」という声が、今日の出演者の間では支配的だった。これでは株価が下がるのも無理のないところか。とはいえ、まだまだあきらめるのは惜しい。考えてみれば、80%(以前の支持率)−50%(現在の支持率)=30%(小泉支持をやめた人々)は、けっして野党や抵抗勢力の支持に回るわけではない。失望を胸に、もとの無党派層に戻るだけである。それどころか今度の事件で、鈴木宗男氏のような古いタイプの政治家の評判はますます落ちた。ここで「倒閣だ」などと浮かれるのは、あんまり賢い方策ではない。
○小泉首相が求心力を回復するためには、ひとつにはブッシュ大統領の訪日をテイクチャンスする手がある。では具体的にどうするのか。それが分かれば苦労しないんだが、もうちょっと考えてみよう。
<2月6日>(水)
○かんべえの周囲では、最近はこんなのが流行っています。でもって、「ワシは殿様じゃ。皆のものすまぬのう」「わが社は長州藩」などという会話が飛び交っていたりする。
幕末占い http://www.remus.dti.ne.jp/~tshioiri/uranai2.html
ちょんまげ占い http://www.remus.dti.ne.jp/~tshioiri/uranai.html
○幕末占いによると、わが溜池通信は「庄内藩」となる。うーん、人脈が武器というのはともかく、理想主義者かなあ?
【あなたの性格】
・トップは若い理想主義者ですが、力はあまりありません。
・部下も基本的にはトップと同じ理想主義者が多く、営業交渉などは苦手です。
・この会社の武器は人脈で、資金援助を受けるあてがあったり、良質の商品を流してくれる業者と翻意にしてたりします。
○次にちょんまげ占いによると、かんべえは「悪代官」となる。これは結構当たっていると思う。勤め先のことを考えると、本当は「悪徳商人」の方がいいんだけど。
【あなたの性格】
・相手の言葉の真偽を見抜く力があり、計算高い
・場を和ませるのが得意な反面、何事もナアナアで済ませ、うやむやにしがち
・慎重な性格だが、念のためにと思った事がヤブ蛇をつつく結果になる事も
・強きを助け、弱きをくじく傾向あり
○かくして私は、「庄内藩の悪代官、かんべえ」とあいなりました。「悪徳商人」や「深川芸者」の方々、仲良くしましょう。「江戸町奉行」や「火付盗賊改方」あたりはどうということはないが、「仕事人」は困ったもんだ。近寄らないようにしよう。
<2月7日>(木)
○会社の同期入社組でやっているメーリングリストで、「吉崎、テレビに出てただろ」とのご指摘。平日午後4時〜5時の『ルック@マーケット』をどうやって見たのかと思ったら、「中国に出張していたときに衛星放送で見た」とのこと。なんとBSデジタル放送にはそんな可能性があったのねん。
○ちょんまげ占い、反響が大きくて「私はXXでした」というメールを多数頂戴しました。残念ながら、悪徳商人が身近に見当たらない。こんな遊びをしたかったんですが。
「これはほんの手土産代わりで」
「ほっほっほ、ワシはこれが好物でのう」
「つきましては、この次の新田開発は、私どもにお申しつけを」
「それにしても備前屋、お主もワルよのう」
「いえいえ、お代官様ほどでは」
「これこれ、滅多なことを申すでない」
いくらでも続くなあ。
○夜、この人とこの人、さらに名を秘すべき方がお2人加わって、本来なら高度な為替談義にでもなって不思議のないところ、「ネットではとても書けないような話」を展開することに。「サラリーマンとネット表現は両立するか」という微妙な問題が飛び出し、もちろん私は笑って誤魔化しました。あはははは。それにしても伊藤さん、最近テレビにラジオ、講演に執筆とお忙しいようですが、更新の頻度がちょっと落ちてるんじゃありませんか?
<2月8日>(金)
○またまたすごいメールを入手しましたぞ。これで今朝、10分くらい笑いましたな。「悪の枢軸」は家元騒動のようになってしまいましたとさ。
●ANGERED BY SNUBBING, LIBYA, CHINA SYRIA
FORM AXIS OF JUST AS EVIL
Cuba, Sudan, Serbia Form Axis of Somewhat Evil; Other Nations
Start Own Clubs Beijing (SatireWire.com) Bitter after being
snubbed for membership in the "Axis of Evil,"
Libya, China, and Syria today announced they had formed the "Axis
of Just as Evil," which they said would be way
eviler than that stupid Iran-Iraq-North Korea axis President Bush
warned of his State of the Union address.
Axis of Evil members, however, immediately dismissed the new axis
as having, for starters, a really dumb name. "Right. They
are Just as Evil... in their dreams!" declared North Korean
leader Kim Jong-il. "Everybody knows we're the best evils...
best at being evil... we're the best." Diplomats from Syria
denied they were jealous over being excluded, although they
conceded they did ask if they could join the Axis of Evil.
"They told us it was full," said Syrian President
Bashar al-Assad. "An Axis can't have more than three
countries," explained Iraqi President Saddam Hussein.
"This is not my rule, it's tradition. In World War II you
had Germany, Italy, and Japan in the evil Axis. So you can only
have three. And a secret handshake. Ours is wicked cool."
●THE AXIS PANDEMIC
International reaction to Bush's Axis of Evil declaration was
swift, as within minutes, France surrendered. Elsewhere,
peer-conscious nations rushed to gain triumvirate status in what
became a game of geopolitical chairs. Cuba, Sudan, and Serbia
said they had formed the Axis of Somewhat Evil,
forcing Somalia to join with Ugand and Myanmar in the
Axis of Occasionally Evil, while Bulgaria, Indonesia and
Russia established the Axis of Not So Much Evil Really As
Just Generally Disagreeable.
With the criteria suddenly expanded and all the desirable clubs
filling up, Sierra Leone, El Salvador, and Rwanda applied to be
called the Axis of Countries That Aren't the Worst But
Certainly Won't Be Asked to Host the Olympics; Canada,
Mexico, and Australia formed the Axis of Nations That Are
Actually Quite Nice But Secretly Have Nasty Thoughts About
America, while Spain, Scotland, and New Zealand
established the Axis of Countries That Be Allowed to Ask
Sheep to Wear Lipstick. "That's not a threat,
really, just something we like to do," said Scottish
Executive First Minister Jack McConnell.
While wondering if the other nations of the world weren't perhaps
making fun of him, a cautious Bush granted approval for most
axes, although he rejected the establishment of the Axis
of Countries Whose Names End in "Guay,"
accusing one of its members of filing a false application.
Officials from Paraguay, Uruguay, and Chadguay denied the
charges. Israel, meanwhile, insisted it didn't want to join any
Axis, but privately, world leaders said that's only because no
one asked them.
○つまり、まとめるとこういうことですな。
悪の枢軸:北朝鮮、イラン、イラク
本家・悪の枢軸:リビア、中国、シリア
ある程度・悪の枢軸:キューバ、スーダン、セルビア
ときどき・悪の枢軸:ソマリア、ウガンダ、ミャンマー
ホントはそんなにひどくないけど悪の枢軸:ブルガリア、インドネシア、ロシア
最悪じゃないけど、でもやっぱり五輪開催国にはなれそうもない枢軸:シエラレオネ、エルサルバドル、ルワンダ
いい感じなんだけど、密かにアメリカに対して良からぬ考えを持っている枢軸:カナダ、メキシコ、オーストラリア
羊に口紅してもいいじゃないか枢軸(?):スペイン、スコットランド、ニュージーランド
名前の最後が「グアイ」で終わる枢軸:パラグアイ、ウルグアイ、チャドグアイ(X)
○それにしても、金正日が「わしらこそ最高の悪というものよ」と嘯いたり、「枢軸」と聞いただけで、フランスが降参してしまうというのには大笑いしましたな。最後に仲間はずれにされちゃうのがイスラエルで、日本でなくて良かった。ところで政治マンガの世界でも、この「悪の枢軸」はバカ受け状態。お好きな方はここをどうぞ。
http://cagle.slate.msn.com/news/AxisofEVIL/main.asp
<2月9日>(土)
○オリンピックの開会式を見ていたら、なつかしやクリスティ・ヤマグチが出ていました。10年前を思い出しましたね。アルベールビルの冬季五輪は私はアメリカで見てたんです。アメリカ人は「アルバートビル」と呼んでましたが。
○あの年の女子フィギュアスケートは、伊藤みどりがトリプルアクセルを決めれば優勝、それができなければ、確実なプレイをするヤマグチの勝ち、という感じだった。そうしたら見事に失敗。アメリカの放送局は現金なもので、「ミドリイトー」がトリプルアクセルに失敗したら、急に実況中継が彼女の演技を誉めだしたのを覚えている。というわけで「銀でゴメンナサイ」になった。
○女子フィギュアでの金はアメリカでは久々だったとみえて、クリスティ・ヤマグチはたいへんもてはやされた。たしかNewsweekの表紙にもなった。当時、日米摩擦が非常に厳しかった頃だったので、ワシントンにいた日本人たちは、「日本車の輸出は銀メダルで、現地生産車は金メダル、ということかね」などと言っていた。今年の女子フィギュアでは、アメリカのエースは中国系アメリカ人らしい。変なところに時代を感じたりして。
○もうひとつ、アルベールビルで印象に残っているのは、団体複合で金メダルを取った荻原健司だった。努力や根性といった言葉が微塵も感じられない姿に、「日本のスポーツマンもここまで来たか」と感動した。その彼が10年後のソルトレークシティにも出場している。やっぱり努力があり、根性があったんでしょう。悔いのないラストチャンスになってほしいですね。
<2月10日>(日)
○里谷多英が銅メダル。いやあ良かった。4年前も彼女が皮切り役だったですね。長野のときは本番一発勝負でいい演技をして、後続の有望選手たちがバタバタと失敗。中継陣も最初のうちは「これで6位入賞ですね」と低姿勢だったのが、「これはメダルが確定ですね」「これで金か銀だ!」とどんどん浅ましくなっていった。今回はそこまで恵まれなかったが、4位と0.01ポイント差の3位と勝負強いところを見せた。それにしても、最後に滑ったノルウェーのカリ・トロー選手は、2位以下を大きく引き離す見事さでした。NHKのアナウンサーが「これが女王の滑りなのか!」と叫んだのには笑ったな。古館伊知郎の影響力はすごい。
○なんだかんだでオリンピックになると、ふだんはあまり見ないテレビを見てしまう。長野五輪の際は、日本選手が金メダルを取る瞬間はショートトラック以外は全部ライブで見たほどである。それ以外でも、カーリングで日本が米国と死闘を演じたのが心に残っている。私のような人間には、あの競技は見ているだけでハマル。明日からもたくさん楽しみがありそうだ。でも、「スポーツが盛りあがるときには、経済で大問題が起きる」というジンクスからいうと、あんまり日本勢が大活躍するのも考え物である。
○ふと思い出した。4年前の長野オリンピックのときに、ある政府関係者が「期間中にクリントンがイラク爆撃を始めるんじゃないかと、心配で仕方がないんですよ」と言っていた。そこで、「なあにイラク爆撃の当日に、アメリカ人選手が金メダル取ったら困るでしょ。クリントンはそういうことには敏感な男です。だからオリンピック期間中は大丈夫ですよ」と太鼓判を押したら、相手は「今日はいいことを教わった」と感謝してました。でもブッシュさんはそういう計算が働かないような気がする。どうもその辺が好きになれない理由なんだな。
<2月11日>(月)
○今朝の日経新聞を見たら、明日のテレビ欄が入っている。「ホウ、明日は休刊日か」と思ったら、一面には「明日は特別版を発行します」とあるではないか。これはいかなこと。察するに産経新聞が「ウチは休刊日にも発行する」と言い出したので、理屈をつけて無理やり発行することにしたのだろう。しかも明日の未明には、男子スピードスケートで清水宏保が登場する。いっちょメダルの記事も載せてやりたい、という助平根性もあるのでしょうな。
○新聞の休刊日には、「新聞少年たちを休ませてあげたい」という偽善がついている。それだったら、キオスクのおばさんは可哀相じゃないのだろうか。新聞社は休みたければ勝手に休めばいい。しかし、他社と足並みを揃える必要はないはずである。どうせネット版を作るために、取材は毎日しているんだろうから、変な理屈をこねるなと言いたいね。こういう企業体質で、「規制緩和は賛成だが、再販制度は維持しなければならない」などと言われても、説得力はゼロですな。
○ワシントン在住の友人、F氏が「米国の労働市場」をテーマにしたHPをオープンしました。題して"The
Gataway to the US Labor Marlket"といいます。とくにトピックスにある論考は、最近のワシントンの雰囲気をよく伝えていてブックマークする価値あり。たとえば2月7日分では、エンロンの破綻で注目が集まる企業年金の問題を取り上げていて、運用先に占める自社株の割合がどれくらいかという話が紹介してある。P&Gなどはびっくりするほど高い。などなど、中味の詰まったサイトです。
http://users.goo.ne.jp/uslabormarket/
○世界各地でこうしたHPが誕生するのは嬉しいものです。同じワシントンにはJust
for the Recordさんがいるし、台湾にはらくちんさんがいるし、ノルウェーの賢人もコラムを作っている。こういう輪が広がったら面白いと思う。
○最後に若干の親バカをお許しください。ここはウチの長女Kが学校で作ったホームページ。「色の不思議」がテーマです。ジャバスクリプトまで使っているので、最近の中学生は偉いもんです。ちなみに長女Kは配偶者と同じ「仕事人」。「悪代官」の私は家の中に身の置き所がない・・・・。
http://contest.thinkquest.gr.jp/tqj2001/40439/
<2月12日>(火)
○週末から風邪ぎみで少し熱っぽい。長めにたっぷりと寝たら、今朝になって気がついたら右肩に疼痛がある。動かそうとすると痛い。なんとこれは、世に言う「肩こり」というものではないか。かんべえ愕然。
○思えば小生、30代なかばまで肩こりのない人であった。そもそも他人が苦しんでいる肩こりという症状が理解できず、そういう人を間近に見ると「ふふん、オジンめ(あるいはオバン)」という気分が、露骨に態度に出てしまうようなイヤな人間であった。ところが人を呪わば穴ふたつ。自分が肩こりに苦しむようになったら、これはもう自分を罵倒するしかないではないか。
○会社のPCをにらんでハタと気がついた。しばらくぶりにマウスを使ってみた。すると肩が痛くない。そうだ、そうなのだ。しばらく前に右手が腱鞘炎のようになって、それからマウスを止めてトラックポイントを使うようにしていたのだ。おかげで右手はなんともなくなったが、今度は右肩に来てしまった。まあ、家でも会社でも年中ノートパソコンを使っているんだから、これも職業病みたいなものか。
○というのは真っ赤な嘘なのである。肩こりや腱鞘炎の本当の原因は、私の場合仕事などではない。PCについている麻雀ゲーム。週末に家でテレビを見ながら、つい手持ち無沙汰でこれを始めてしまう。しばらく前に飽きていたのに、ルールを割れ目と赤5筒ありにしたらちょっと刺激があるもんだから、オリンピックを見ながら何ゲームもやってしまった。これが肩こりの元になる。麻雀ゲームは厳重注意である。
○悲しいかな、かんべえも肩こりをするような年代になってしまった。認めたくないものだな、年齢ゆえの過ちなど。
<2月13日>(水)
○朝起きてテレビをつけたらちょうど清水宏保がスタートするところでした。当然、そのまま見入ってしまいました。34秒台の後半。清水の「違うな」という表情を見た瞬間、次の展開が予想できました。案の定、0.03秒差の2位。銀メダル。「今大会は金が取れていた、と思う」と悔しがる清水を見て、「ホンマモンの勝負師やなあ、お前は」とうれしくなりました。この精神力があれば、ジャンプの原田あたりは今頃3つくらい金メダルを取っているはずである。それでもとにかく、日本の選手も強くなったものだと思う。黒岩が転倒したのは何年前のことでしたっけ?
○なにしろ冬季五輪である。日本で生まれた種目は何ひとつない。そんな中で、よく頑張っているものだと思う。最近、日本を不利にするルール改正がけしからん、などという意見を聞くが、そんなもん当たり前である。政治だってビジネスだってスポーツだって、国際的なルールはほとんどが日本の関与していないところで決まっているのだ。いつも相手の土俵に乗って、ときには敗戦国というマイナスから出発して、それで世界に伍してきたのがこの国の歴史ではなかったか。
○ところで、日本が国際的なルールに翻弄されている典型が金融業界。ビッグバンといい、不良債権処理といい、外圧にしたがって行動しているようなのに、ことごとく裏目に出て今日に至っている。エンロン破綻の話を聞いてると、アメリカも立派なクローニー・キャピタリズムの世界で、「何がグローバル・スタンダードだ」と嫌みのひとつも言いたくなるようなヒドサなんですけど。
○週刊文春さんによれば、先週、大手銀行の自己資本比率の平均は11%ではなくて0.53%であるとのデータに官邸が驚愕。公的資金を入れるの、ブッシュさんが来る前にデフレ対策を出すの、いやいっそのこと国営化だ、てな話になっているらしい。今宵は金融関係の会合に顔を出したんですが、金融政策の機能不全からMMFの元本割れ、JGBの格下げと、まあなんと暗い話が多いこと。自分はお気楽な楽観論者なのではないかと思い知らされます。
○不思議なことに、溜池通信の読者は圧倒的に金融関係者に多くて、たぶん商社マンの読者はマイノリティでしょう。書いている側からは、金融の世界はどこか異次元のように思えて仕方がないのですが。
<2月14日>(木)
○今週の溜池通信を休業して、日本国際問題研究所のアメリカ研究会の仕事に取り掛かっています。ブッシュ政権の経済政策はどうやって形成されたか、をテーマにしています。400字詰め原稿用紙で35枚、という設定ですが、過去に書き溜めた3年分の溜池通信のうち、ブッシュ政権や米国の経済政策について触れた内容を寄せ集めすれば、分量的には楽勝にできてしまうんです。ただし、それで1本の論文として首尾一貫したものになる保証はどこにもないわけで、全体の構成が勝負だな、と思っています。
○過去3年分の本誌を引っくり返しながら、よくまあこんなにたくさん書いたもんだとわれながら感心します。なにしろ自分でも忘れていることがたくさんある。自分で書いたことに自分で「ふーん」などと言いながら読んでいるわけで、これはこれでいい学習機会なのかもしれません。こんなことでもないと、過去に書いた内容を検証する機会はありませんから。
○ところでちょっと面白いサイトをご紹介します。名前というのは不思議なもので、語順を少し入れ替えただけで、真面目なものが噴飯ものになる。笑いながら読みつつ、言葉の不思議みたいなものを感じずにはいられません。
http://homepage2.nifty.com/sledge_hammer_web/names.htm
<2月15日>(金)
○今宵は「米国同時多発テロの保険市場への影響」てな勉強会に参加。むちゃくちゃ面白い。
○自動車保険や火災保険なんてのは、所詮は大きな金額にはならないから、保険会社は自分で引き受けても問題にはならない。ところがビル全体を引きうけるような大きな案件になると、再保険が必要になる。再保険市場はリスクに敏感に反応するから、引き受け価格は頻繁に上下する。ダンピングして引き受けることもあれば、「あつものに懲りて膾を吹く」で金額を吹っかけることもある。そういうことの繰り返しが、定期的に「ハード化」「ソフト化」という波を損害保険という業界にもたらしている。
○たとえば日本では1991年に訪れた「台風19号」が、再保険市場を「ハード化」させた。これに比べると、95年の阪神大震災なんか全然目じゃなかったんだそうだ(地震保険をかけている人が少なかったから)。1991年の大惨事といえば、普通なら雲仙普賢岳かと思うけど、そうじゃないところに意外感がある。余談ながら、「1991の19」というのはちょっとコワイですね。「9・11」といい、損保業界においては「クッピン」は鬼門のようです。
○さて、「9・11」は予想元受損害額が300〜700億ドルという大惨事でした。そうなると再保険会社も大きな損害を受ける。結果として「ハード化」が生じて、再保険料は跳ねあがる。そりゃそうだ。ビルの保険を引きうけるときに、ビルに飛行機が衝突して全損になるなんて普通は考えないですよ。ところが実際にそういう事例が発生してしまったから、従来のリスク概念は完全に崩壊してしまった。
○こうなると損保業界は保守的にならざるを得ない。その結果がどうなるかというと、「正常化」が起きる。つまりあまりに大きな事故が起きてしまうと、再保険会社が淘汰されて価格が上昇する。損害保険会社としてはホッと一息つく。ではその先がどうなるかというと、おそらくは新規資本が「これはオイシイじゃないか」と再保険市場に参入してきて、価格は下落する(ソフト化)。
○そういう動きを止めるのは結局は大口のロスの発生なんですね。つまり「9・11」は損保業界の悪夢だったけれど、結果的にはそういう大事故がたびたび生じるから、「リスクを買う会社」の健全性が保たれる。つまり事故があると会社は損をする。でも事故があるからこの仕事は続く。このサイクルの妙に深く感動しました。
<2月16日>(土)
○昨晩の勉強会は1980年代からやっている歴史の古いものですが、ふと気がついたらメンバーのうち5人もホームページを作っている。ちょっとした確率ではないかと思う。この際、あらためて全部紹介しておこう。
●全日本株式選手権 当たり屋は誰だ! http://www.cnet-sc.ne.jp/gyouhoo/ *株式投資の啓発と情報交換サイト。
●和生の部屋 http://osaka.dejaweb.ne.jp/~kazuo/ *株式市場への考察。
●TS Magazine 斎藤孝光氏 http://www2.justnet.ne.jp/~hihi/ *ジャーナリストによるコラム集。
●The Gateway to the U.S. Labor Market http://203.174.72.114/uslabormarket/ *シンクタンク研究員による米国労働市場研究。
○でまあ、5つ目は現在ご覧になっているこの溜池通信というわけだ。ところで上の4人のうち、3人には共通点がある。それは今時めずらしい「子だくさん」ということ。なんと5人、4人、4人というラインナップ。これもまた、すごい確率といえよう。
○最近の"The Gateway"では、米国の出生率が上昇していることを紹介している。米国はベビーブーマー世代が1945年生まれから64年生まれまでと分厚くなっている。要するに第2次世界大戦に勝ってからケネディが暗殺される頃まで、米国は超大国として黄金の日々を謳歌していた。同時に、モータリゼーションの進行とあいまって「郊外型住宅」が急速に発展した。広い家に大勢の家族が住む、というアメリカン・ライフがここに実現した。先進国で出生率が上昇するためには、広い家と社会の安心感みたいなものが必要なんだと思う。
○最近の日本は、そのどちらも作ることに失敗したようだ。とくにバブル後に作られた郊外型住宅は、おそらくかなりの部分が見捨てられることになるのではないかと思う。なにしろ最近は都心のいい場所に、あんまり高くないマンションがどんどん建っているからね。家を買ったことを後悔しているような家庭で、子供をたくさん作ろうということにはならないだろう。どうも少子化の原因のかなりの部分がこの辺にあるような気がする。
○かんべえの大学の先輩である三浦展氏(消費社会研究家)は、日本の郊外文化は失敗したんじゃないか、てなことを発言している。なかなかにイタイ指摘ではないかと思う。都市政策というのか、住宅政策というのか、この面の失敗は重いといえそうだ。
<2月17日>(日)
○ブッシュさんが訪日。これに合わせるようにして、小泉さんが先週から「デフレ対策」をやると言い始めた。それで「ブッシュは構造改革よりも景気対策に力を入れろ、と外圧をかけるのではないか」という観測が浮上している。NSCの上級アジア部長、トーケル・パターソンが先月辞任したことも、対日政策の転換に関係している、と言われるとちょっとそれらしく聞こえたりする。
○違うと思いますね。2月14日に米下院で行われたジェームス・ケリー国務次官補によるスピーチを読んでみると、アーミテージ・レポート以来の対日姿勢は微動だにしていないようにみえる。あまりに長文なのでごく一部だけ紹介するけど、こんな感じである。最初にケリー氏は、ブッシュ大統領の日韓中歴訪を、「単なる雨天順延(rain
check)ではなく、この地域に対する米国の利益を示す機会」と位置付け、3カ国での日程を説明している。そして日本については以下のように述べている。
The President's first stop will be in
Japan, our linchpin
Asian ally of over 50 years, and a nation with which we share a
vibrant and multifaceted relationship based on common ideals and
interests. We enjoy a very close and important security
relationship with Japan, with about 50,000 service members
stationed there at numerous bases and onboard homeported ships.
Japan's commitment to helping support our forces stationed there
is a testament to our deep strategic interdependence and common
interests. Indeed, our presence in Japan is crucial not only to
our commitment to help defend Japan, but also to having forward
deployed forces that foster regional stability and security
throughout the Asia-Pacific region.
In broader terms, Japan - the world's second largest economy --
is an indispensable partner on a variety of international issues,
a critical bilateral trade partner, and a key investor in
virtually all Asia-Pacific nations, including the United States. Unfortunately,
Japan has been suffering economic woes for many years and there
is danger that its important leadership role may be undermined if
its economy deteriorates further. Japan's troubles
include high levels of government and private debt -- a
significant part of which is non-performing -- deflation,
recession, a falling stock market, and record levels of corporate
bankruptcy and unemployment. In spite of hopes that the economy
had finally turned the corner, a one percent decline in GDP last
year was accompanied by the lowest level of industrial production
since 1988. As the deepest of friends and allies, America is
obviously concerned over Japan's economic health.
I expect that President Bush will restate the United
States' strong support for Prime Minister Koizumi's economic
reforms. Mr. Koizumi has the enthusiasm and
determination necessary to turn Japan around. He has sound plans
and needs support, not pressure from the United States. For those
politicians in Japan who fear change, we will say that economic
reforms should be implemented quickly to encourage Japan's
re-emergence as an engine of worldwide economic growth and a
source of foreign investment.
Much of Japan's economic woes are caused by the
instability of its banking system, which is struggling under the
weight of a massive burden of non-performing loans.
These bad loans in turn reflect distressed corporate balance
sheets. Creating the conditions for economic recovery requires
simultaneously lifting the debt overhang from the corporate
sector and writing off the bad debt load from the banks' books.
The key to both will be an increased willingness and ability to
sell non-performing assets into the market in a timely,
transparent and substantial manner. Our hope and, indeed,
our expectation is that such a vigorous market driven solution to
Japan's economic problems will be achieved under Prime Minister
Koizumi's vigorous and determined leadership in the coming two
years in keeping with the Prime Minister's commitments to the
Japanese people. The U.S. is dedicated to working with
Japan in meeting its economic challenges, which are of truly
global importance.
○ケリー次官補は海軍出身で、アーミテージ国務副長官がかつての盟友を今のポジションに引っ張った。対日政策の担当者として、いきなり不良債権(NPL)問題の猛勉強をやることになったらしい。日本経済に対する上記の認識はケチのつけようがないもので、米国の対日路線の変更を示唆するような部分は見当たらない。Linchpinは、荷車などの輪止めとなるくさびのことで、要は「扇のカナメ」。小泉首相に対する高い評価も印象的です。
○ところで明日は小生、またまたJ−WAVEの「ジャム・ザ・ワールド」に出演します。午後8時45分頃に登場予定。ネタはブッシュ訪日、とは全然違う話になりますが、これはこれでお似合いのテーマではないかと思います。では、ナビゲーターの角谷浩一さん、明日こそは遅刻せずに参上しますので。
<2月18日>(月)
○そんなわけで、本日のJ−WAVE「ジャム・ザ・ワールド」の「15ミニッツ」のテーマは、お台場カジノ構想でした。まあ、お台場に通っているエコノミストで、世界のカジノ事情に詳しい人間といったら、不肖、この私めくらいでありましょうから、そこそこ適任だったのではないかと。でもさあ、角ちゃん、「さすらいのギャンブラー」はないよ。昨日だって、フェブラリー・ステークスは「見(ケン)」したんだから。(勝負してたら、AノボツゥルーとBトゥザヴィクトリーを本線にしてるので、Hアグネスデジタルは間違いなく取れなかった。家でテレビ見ていて正解でした)
○さて、同じ時間帯に西麻布付近にはブッシュ大統領が来ていたらしいんですが、はたして訪日の首尾やいかに。ここに格好の判断材料があります。今日の会談の出席者は以下の通り。公開情報は雄弁です。
> 【首脳会談】
>
(日本)小泉純一郎首相、高野紀元外務審議官
>
(米国)ブッシュ大統領、ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)
>
> 【拡大首脳会談】
>
(日本)小泉首相、川口順子外相、福田康夫官房長官、安倍晋三官房副長官、加藤良
>
三駐米大使、高野外務審議官、大島正太郎外務審議官、藤崎一郎外務省北米局長
>
(米国)ブッシュ大統領、パウエル国務長官、カード大統領首席補佐官、ライス補佐
>
官、ヒューズ大統領顧問、ベーカー駐日大使、ケリー国務次官補(東アジア・太平洋
>
担当)、グリーン国家安全保障会議(NSC)日本部長
>
> 【ワーキングランチ】
>
(日本)小泉首相、川口外相、塩川正十郎財務相、平沼赳夫経済産業相、尾身幸次沖
>
縄北方・科学技術担当相、柳沢伯夫金融担当相、福田官房長官、竹中平蔵経済財政担
>
当相、中谷元・防衛庁長官、安倍官房副長官、加藤駐米大使、高野外務審議官、大島
>
外務審議官、藤崎北米局長、岡本行夫内閣官房参与
>
(米国)ブッシュ大統領、ベーカー駐日大使、パウエル国務長官、カード首席補佐
>
官、ライス補佐官、ヒューズ顧問、フライシャー報道官、ケリー国務次官補、ロドマ
>
ン国防次官補、クラウドNSC特別補佐官、モリアティNSC特別補佐官、グリーン
> NSC日本部長、クリステンソン駐日公使
○米国側には経済スタッフが一人もいない。過去にしょっちゅう日本に来ていた、経済担当のリンゼー補佐官は今回は同行していない模様。財務省の関係者もゼロ。訪日団を仕切っているのはNSCであり、その親玉のライス補佐官。どうやらライス(NSC)vsリンゼー(NEC)のホワイトハウス内の対立は、前者の圧倒的な勝利に終わったようです。今やグローバル経済は米国にとっては安全保障マター、というライスのかねてからの持論が通ったということなのだと思います。
○加えて「パウエル/ケリー/グリーン」というアーミテージ人脈が顔を揃えている。日本側からみれば馴染み深い面々。竹中経済担当相は、今日、国会内でマスコミに対し、日米首脳会談後の昼食会について「経済の話題は全く出なかった」と述べたそうだが、この顔ぶれでは無理もないだろう。もうひとつ言えば、これと同じ顔ぶれが中国へも行く。中国にとっては煙たい、気乗りのしないメンツということになろう。
○やはりブッシュ政権は、安保重視のスタンスを微動だにさせていない。日本のNPLを気にするのも、日本経済が脆弱だとアジアが不安定化するから、ということのようだ。市場関係者などの間では、「アメリカは日本を買いたたこうとしている」的な俗論は多いけど、筆者に言わせれば今度のブッシュ訪日は、「小泉さん、去年はどうもありがとう訪日」であり、「小泉さん、経済がんばってね訪日」であり、「ひょっとしたらイラクのときはよろしくね訪日」である。
○ではNPL問題はどうすりゃいいんだろう。この点で山崎幹事長が興味深い発言をしている。すなわち「RCCは不良債権を簿価で買え」という議論。たちどころに各方面から否定されてしまったし、それはそれで無理のないところだろう。しかしながら、もし仮に「お前に全部任せるから、不良債権問題を解決してみろ」と言われたら、私ならその手を選ぶ。というより、ほかに手がないと思う。
○大雑把な話になるけれども、仮にRCCが金融機関が保有する不良債権を「強制、一括、簿価」で30兆円分買い上げるとしよう。それだけやれば、たぶん銀行の経営は相当に楽になる。後ろ向きの決断を他人がやってくれるのだから、これだけで金融システムの不安はほとんど消えてなくなるだろう。次にRCCは、簿価で買い入れた不良債権を時価で再評価する。話を単純にするために、時価は10兆円だとしよう。この瞬間、RCCには20兆円のロスが発生する。その代わり、10兆円の不良債権はその瞬間に正常債権になる。生保なり外資系金融なりが、喜んで買ってくれるはずだ。
○それではRCCに発生した20兆円のロスはどうするのか。ここに公的資金を投入する。個々の銀行に入れるの、入れないのという議論をするよりははるかに簡単である。それも10兆円は財政資金を投入し、残りは日本銀行に出資してもらう。もちろんイヤだと言うだろうが、「同じ量的緩和にしても、国債を引き受けさせられるよりはマシじゃないか」ということで無理やり呑んでもらう。となれば、わずか10兆円の財政負担によって、30兆円分の不良債権が処理できる。三方一両損どころか三方一両得になるんじゃないだろうか。
○上記は乱暴な意見なので、いくらでも文句がつけられる。「モラルハザードが生じる」「国民の負担が大き過ぎる」「なぜ金融機関だけを救うのか」などのお馴染みの議論である。しかるに事ここに至ったからには、マーケットが息をひそめて注視しているのは、「日本政府は思い切った勝負手を打てるかどうか」であろう。「あれもできない、これもできない」を言っている時期はとうの昔に過ぎてしまったのではないだろうか。
<2月19日>(火)
○今さらながらなんですが、小泉首相が田中前外相に贈ったという「重職心得箇条」を読んでみました。全部で17か条あります。本屋さんの店頭には、いろんなバージョンの解説本が並んでますし、原文ならネット上にもちゃんと載っています。下はその一例。
http://village.infoweb.ne.jp/~fwgf2942/LectureManager/MG.Jyushoku/MG.Jyushoku.html
○たとえば第1条はこんな感じで始まる。
重職と申すは、家国の大事を取計べき職にして、此重の字を取失い、軽々しきはあしく候。大事に油断ありては、其職を得ずと申すべく候。先づ挙動言語より重厚にいたし、威厳を養うべし。
○重職というくらいなんだから、軽いのは駄目、とある。真紀子さんはこの時点でもう失格ですな。ま、それはいいとして、「威厳を養え」には恐れ入った。こういう説教は、いまどき希少価値がある。というか、この17か条、かなりいいことが書いてあると思う。第2条にあるこの一節も気に入った。
もし有司の了簡より一層能き了簡有りとも、さして害無き事は、有司の議を用いるにしかず
○自分の方がいいアイデアがある場合でも、たいした違いがないと思ったら部下の進言を使ってやれ、とある。これは難しいかもしれないな。でも、そうじゃないと部下は気持ち良く働いてくれない。まして「ウチには人材がいない」などというなかれ。気に入らない部下を使ってこその上司だぞ、とおっしゃる。
又賢才と云う程のものは無くても、其藩だけの相応のものは有るべし。人々に択り嫌いなく、愛憎の私心を去て、用ゆべし。自分流儀のものを取計るは、水へ水をさす類にて、塩梅を調和するに非ず。平生嫌いな人を能く用ると云う事こそ手際なり、此工夫あるべし。
○こんな風にいちいち取り上げているとキリがないのだけど、次の第8条なんぞは耳がいたい人が多いんじゃないかな。
重職たるもの、勤向繁多と云う口上は恥べき事なり。仮令(たとえ)世話敷とも世話敷とは云わぬが能きなり。随分手のすき、心に有余あるに非れば、大事に心付かぬもの也。重職小事を自らし、諸役に任使する事能わざる故に、諸役自然ともたれる所ありて、重職多事になる勢あり。
○重役たるもの、いやしくも「忙しい」などと言うな。たとえ本当に忙しくても、そんなことを口にしちゃいかん。偉い人が細かいことにこだわっていると、碌なことはない。たしかに。
○重職心得箇条が描いているリーダーは、日本社会特有のものというわけではない。ブッシュ大統領の閣僚チームなどは、いかにも質実剛健でここに書かれているような美徳を身につけているように思える。ま、リーダーの資質に文化の違いなど、そんなにあるはずもない。「いつも忙しがっている人で、仕事ができる人はいない」というのも、きっと普遍的な法則じゃないだろうか。
<2月20日>(水)
○昨日の「重職心得箇条」に反応する読者が多い、というところが、溜池通信読者の面白いところですな。皆さん若いのにご奇特な。思えばこの手の教養というものは、ほんの少し前まではプレジデント社やPHPがしょっちゅう啓発してくれていたのだが、最近は世の中の流れに恐れをなしたのか、古典を取り上げなくなっているような気がする。どうしてなんでしょうね、岡本さん、田中さん。
○さて、このネタも別の意味で、溜池読者にはストライクゾーンじゃないだろうか。
ENRON EXPLAINED
Feudalism.
You have two cows.
Your lord takes some of the milk.
Fascism.
You have two cows.
The government takes both, hires you to take care of them and
sells you the milk.
Communism.
You have two cows.
You must take care of them, but the government takes all the
milk.
Capitalism.
You have two cows.
You sell one and buy a bull.
Your herd multiplies, and the economy grows.
You sell them and retire on the income.
Enron.
You have two cows. You borrow 80% of the forward value of the two
cows from your bank then buy another cow with 5% down and the
rest financed by the seller on a note callable if your market cap
goes below $20B at a rate two times prime. You now sell three
cows to your publicly listed company, using letters of credit
opened by your brother-in-law at a 2nd bank, then execute a
debt/equity swap with an associated general offer so that you get
four cows back, with a tax exemption for five cows. The milk
rights of six cows are transferred via an intermediary to a
Cayman Island company secretly owned by the majority shareholder
who sells the rights to seven cows back to your listed company.
The annual report says the company owns eight cows, with an
option on one more and this transaction process is upheld by your
independent auditor and no Balance Sheet provided with the press
release that announces that Enron as a major owner of cows will
begin trading cows via the internet site COW (cows on web). I am
sure you now fully understand what happened.
○2頭の雌牛を元手に、「義理の兄弟が開いたLC」とか「ケイマン法人」とか「バランスシートのないプレスリリース」を駆使し、最後はCOWというインターネットサイトで取引が始まってしまう。エンロンってすごい会社だったんですね。こういうのを見ると、封建社会(Feudalism)ののどかな世界に回帰したくなります。ところでこんなオマケはどうでしょう。
Japanese Banks
You have two cows. One is dead, but you pretend that you still
have two.
You plan to merge another company who is said to have three cows.
The news release says the new company owns five cows, but in fact
there are only two because two are already dead and one is a
mad-cow. You sell the mad cow to Yuki-jirushi. Investors are
suspicious and analysts insist that public cows are needed, but
FSA denies.
<2月21日>(木)
○またまた格好なネタが飛び込んできたので、今日も行っちゃおう。前半のリー・アイアコッカまでは、筆者も以前に聞いたことがあるという「古典」。それに新しいヒネリをいくつも加えて、何度も落としている。いいっすね。
Subject: Suzuki
It was the first day of school and a new student named Suzuki,
the son of a
Japanese businessman, entered the fourth grade.
The teacher said, "Let's begin by reviewing some American
history. Who said "Give me Liberty, or
give me Death?"
She saw a sea of blank faces, except for Suzuki, "Patrick
Henry, 1775." he said.
"Very good! Who said 'Government of the people,
by the people, for the people, shall not perish from the earth'?"
Again, no response except from Suzuki:"Abraham
Lincoln, 1863.", said Suzuki.
The teacher snapped at the class, "Class, you should be
ashamed. Suzuki, who is new to our country, knows more about its
history than you do."
She heard a loud whisper: "Screw the Japs."
"Who said that?" she demanded.
Suzuki put his hand up. "Lee Iacocca, 1982."
At that point, a student in the back said, "I'm
gonna puke."
The teacher glares and asks "All right! Now, who said
that?"
Again, Suzuki says, "George Bush to the Japanese
Prime Minister, 1991."
Now furious, another student yells, "Oh yeah?
Suck this!"
Suzuki jumps out of his chair waving his hand and shouts to the
teacher, "Bill Clinton, to Monica Lewinsky,
1997!"
Now with almost a mob hysteria someone said, "You
little shit. If you say anything else, I'll kill you."
Suzuki frantically yells at the top of his voice, "Gary
Condit to Chandra Levy 2001."
The teacher fainted.
As the class gathered around the teacher on the floor, someone
said, "Oh shit, we're in BIG trouble!"
and Suzuki said, "Arthur Andersen, 2002."
<2月22日>(金)
○昨日は日本国際フォーラムの「日アセアン対話」に行って来ました。最近のアセアン各国の情勢が窺い知れて興味深いディスカッションをやっていました。ひとことで言えば、今のアセアンは「自身喪失状態」。@対米輸出の減少で不況が続く、A中国経済の脅威に直面している、Bアルカイダのネットワークがフィリピンやインドネシアにあることへの不安、など心配事は多い。ま、日本も他人さまのことが言えた義理ではございませんが。
○ASEANはAssociation of South East Asian Countriesの略である。"Association"というところがミソで、強い団結ではない。多様な国々があうんの呼吸でホイホイと物事を決めていく。ある時期まではそれが好循環に働いていて、アセアンは国際社会の中で実力以上の政治力を発揮していた。ところが1997年からの経済危機に直面すると、各国がバラバラになって脆さを露呈した。マルチラテラルな機構は、危機のときに試されるという好例である。その結果、インドネシアの政情不安などはずっと続いている。
○アセアンの弱みにつけ込むようにして、中国が「一緒にFTAをやりましょう。ウチは日本と違って、農産物をバンバン買いますよ」と実利をエサに近寄ってきた。そこで1月に小泉さんが東南アジアを歴訪し、「いやいや、東アジア全体で経済を緊密化しましょう。豪州やニュージーランドも視野に入れましょう」と理想を説いて、全体を煙に巻いた。政治的に見て面白い駆け引きだと思う。アセアン内部の意見は割れていて、中国に秋波を送る国もあれば、日本に期待をかけている国もある。めずらしや、日本が中国を相手に五分のゲームをしているように見える。
○実はここ半年ほど、日本外交は非常にうまく行っているのである。先の日米首脳会談もたぐい稀なる成功だった。なにしろブッシュさんは、最初から「友人、小泉を助けてやろう」と思って来ている。アメリカの草の根保守派というのは義理堅いのである。おかげで小泉首相、苦手と思われた外交で意外な健闘を続けている。これというのも、田中前外相が外交の現場をムチャクチャに掻き回し、外務省を機能不全状態にしてくれたから?
○そうそう、ブッシュさんは首脳会談で、まったく資料を用意せずに通したそうです。意外と(?)頭のいい人らしいですよ。
<2月23日>(土)
○「調子はどうですか?」「昨日から急に・・・」「ああ、そりゃそうでしょうね。薬を強いのに変えましょうか」――今日の耳鼻科は混んでいました。かんべえも急速に症状が出てきました。お台場にいる間は、まわりを海に囲まれているせいか、それほどひどくないんですが、都心に出かけるとテキメンに花粉にやられます。夜になるとなんだか目も痒い。耳鼻科が混んでいるくらいは予想の範囲内でしたけど、薬局の点鼻薬が品切れになっていたのは驚きました。やれやれ。
○成田憲彦『官邸』を読み始める。病院の時間待ち用に、慎重に上巻だけを買ってきた。細川首相の首席秘書官を勤めた成田氏が、小説の形を借りて描いた1993年夏からの日本の政局である。当時のことは良く覚えているので、それはそれでいろいろ感慨があるんですけど、それを話し出すと長くなるので、今日は別の話を。
○トム・クランシーなどがホワイトハウスを描くときは、大統領と首席補佐官、安全保障担当補佐官、それにCIA長官と、いいとこ4人くらいしか出て来ない。小説というからにはその方が個々のキャラクターが書き込めるし、読んでいる方も分かりやすくて面白い。ところが日本の総理官邸を描こうとすると、あまりにも登場人物が多くなりすぎるのである。総理秘書官が5人もいるので、そこだけでもう心理的な葛藤が生じてしまう。まして与党にも野党にも膨大なキーマンが出てくるし、記者クラブの連中も食わせ者揃い。これでは印象の薄いキャラばかりになる。
○いかにして登場人物を減らすか、というのは面白い小説を書くためには欠かせない作業で、ジェフリー・アーチャーなんかはその辺が実に上手だと思うんだが、ここには欧米社会と日本社会の比較的重要な差異があるように思う。つまり、大事なことを何人で決めているか。日本企業では、担当の課長さんがいないと話が始まらない、みたいなところがあるので、ひとつの決定を下すのに膨大な人間が参画する。逆にブッシュ政権がアフガンの空爆開始を何人で決めているかというと、おそらく10人以下でしょうね。
○良きにつけ悪しきにつけ、ここは日本社会のユニークなところだと思う。とりあえず、面白い小説を書くには向いていない。
<2月24日>(日)
○天気のいい日曜日。次女Tを遊ばせるということで一緒に遊園地に出かける。ハイキングに適した広い芝生、あらゆるタイプの飲食店を揃え、子供向けの施設多数。これで入場料は大人200円、子供はタダ。交通費は定期券の途中なのでタダ。これだけ恵まれた条件だと、さすがに今日などは家族連れが多いですな。この遊園地、またの名を中山競馬場と申します。
○というわけで、本日は子供を遊ばせるのが主眼。でも本日のメインレース、中山記念(GU)と阪急杯(GV)は買ってみる。それぞれLバイオミレニアムとCアイティスワローを軸に。あはは、名前で買っている。さて、バイオとIT、どっちが来るかと思ったら、どっちも来なかった。ニューエコノミーの復活にはまだ時間がかかると見える。
○でもでも、勝負をはずすとちょっと悔しいのである。中山記念のワンツーはJトウカイポイントとMトラストファイヤー。どっちもLから馬連で流し、見事にタテ目を食らってしまった。とくにMトラストファイヤーはほとんど無印だったけど、騎乗が江田照男なのだ。去年の中山記念をアメリカンボスで制したのが江田。そして昨年末の有馬記念でこのコンビが2位に入って、例の「同時多発テロ馬券」になってしまったのだ。(これで痛い思いをした事情は、12月23日付の不規則発言を参照)。「無印の江田照男に注意」というのは、「退却するロシア軍に注意」と同じくらい重要な教えといえよう。
○今週から中山競馬が始まったので、ついつい花粉症を押して出かけてしまった。来週は報知賞弥生杯。今度は子供抜きで行っちゃおうかな。
<2月25日>(月)
○先週の"The Economist"誌のカバーストーリーが手厳しい日本批判になっているのは、先週号の溜池通信本誌でご紹介した通り("The
sadness of Japan")。この雑誌、自宅で購読し始めてからずいぶんになるのですが、ほとんど読まないこともある。とはいえ、さすがにカバーストーリーくらいはチェックしている。それが日本関連である場合は、たいてい本誌の「今週の"The
Economist"から」で取り上げている。ということで、本誌をさかのぼって見ると、以下の3回分が目に付いた。
"Why Japan's Mori must go"(2001年2月10日号):本誌2001年2月16日号に掲載。
会議中、安らかに眠る森首相が表紙。一国の首相に向かって「お前辞めろ」と書いてるんだから、これは相当な神経というもの。言われて反論できないのも辛かったが。この記事を見て、森退陣を確信しましたね。
"The drift in Japan"(2000年11月4日号):本誌2000年11月10日号に掲載。
浮世絵風の表紙。滝壷に近づいていく帆掛け舟が日本。改革できない日本に対する皮肉を全面に書きたてた。時期的に考えて、加藤紘一元幹事長が例の「乱」に踏み切ったのは、おそらくこの記事に触発を受けた部分もあったのではないだろうか。
"Can Japan find its voice?"(2000年5月6日号):本誌2000年5月12日号に掲載。
日本初のアニメが表紙。日本文化がアジアに浸透しつつある一方、過去の歴史問題などが尾を引いている。こうしたなかで、少しずつ政治的な役割を広げつつある日本を取り上げた。
○こうやって時系列で見ていくと、The Economist誌がだんだん日本に対する評価を下げて行ったことが読み取れます。実際、90年代前半には、非常に心強い評価をしてくれていたのですが。Financial
Timesなどもそうですが、最近の欧米メディアの日本に対する評価は、いささかオーバーシュートしているといわざるを得ません。とはいえ、「日経平均が上昇、資産デフレ対策に対する期待高まる」みたな記事を見ると、何を勘違いしているんだろうと気持ちが暗くなります。小泉政権の支持率も下がっているし、ソルトレーク五輪も低調な結果に終わりました。胸を張って、明日の俺たちを見てくれ、と言ってみたいものです。
<2月26日>(火)
○かんべえは不真面目極まりない大学生でしたが、20年たっても不思議と覚えている授業もある。なぜか自分の学部よりも、よその学部の授業の方が面白く、とくに商学部の授業に印象深いものが多かった。
○ひとつは「商品検査」で、みんなで白衣を着て、「コカコーラ100CCに含まれる砂糖の量は何グラムか」みたいな実験をやる授業。かんべえは小さい頃から化学の実験が大好きだったのと、担当の岩城先生がとても優しい人で、当時のテレビCMをもじって「イワキのメガネなら安心です」(落とされない)といわれていたのが選択の理由だった。ま、それはともかく、これだけは欠席しないようにしていた。
○この授業で、味覚の実験をやった。酒やアイスクリームなどの商品の味を、消費者はどの程度見極められるかという検査である。これが面白いくらいに当たらない。目隠しをしてしまうと、人間はプレミアムアイスも100円アイスもてんで区別がつかないのである。利き酒も同様。1回口に含むたびに吐き出さないといけないのだが、みんなもったいないからといって飲んでしまう。すると3杯目くらいからは、どの酒も同じになってしまう。当たり前か。ともかく、この日の実験でかんべえが学んだのは、人間の目は商品を見ぬくが、舌は騙される、ということだ。
○もうひとつの授業は、田内幸一先生の「マーケティング」。ここでも印象深いエピソードがたくさんあるのだけれど、「キリンビール」の話が印象に残っている。今とは違い、キリンのラガーが市場の7割を占めていた時代である。戦後、ほぼ三社拮抗の状態からキリンのシェアが伸びたのはなぜか。「キリンはうまい」からだというのが当時の定説だったが、それは違う、という。キリンだけがビール消費量の伸びに楽観的で、いつも商品が生産過剰ぎみだった。「キリンだけは在庫があるから、よく売れた」というのが田内先生の説明だった。
○というわけで、かんべえが大学の授業で学んだのは、「消費者は味は分からない」ということだった。これはもうその後20年の人生で、確信に近いものになっている。だから『美味しんぼ』みたいなマンガを見ると、つい「ふふん」と鼻先で笑い飛ばしてしまうのである。いや、もちろん、世の中には味覚の鋭い人がいることは知ってますよ。ワインの銘柄どころか作年まで当てちゃうようなソムリエだっている。それでも、世の中の多数派の人々は、コークとペプシを味だけでは見分けられないはずである(かんべえなんぞ、ダイエットと普通のコークの違いさえ分からない)。おそらく食品のマーケティングというものは、消費者はそういうものだということを前提に行われているはずである。
○雪印食品の事件をきっかけに、食品の表示が問題になっている。最近になって、日本中の業者がゴマカシをやっていたことが明るみに出つつある。みんなが怒るのは当然である。表示が信用できないのでは、何を信用して食品を買えばいいのか。それと同時に、こんな意地の悪いことも感じるのである。消費者がとうとう、「俺たちは味が分からない」ということに気づいてしまい、愕然としているんじゃないかと。
○同じ魚が大分県で獲れれば「関さば」で高値がつき、愛媛県で獲れるとサッパリだ、みたいなバカな話がまかり通っているのがこの世界。値段の違いが出るのは、ブランドに信仰があるから。信仰がうそ臭いものであれば、それを使って一儲けしようとする人が現れるのは当然というもの。などというシニカルな思いにふと駆られる今日この頃。
<2月27日>(水)
○昨日、あんなことを書いたら、今日は同窓生からのメールが多い。いやはやどうも、懐かしいですな。「イワキのメガネ」のCMは最近聞きませんが、どうしたんでしょうか。「パリー・ミキ」はよく聞くんですが。田内先生はたしか10年くらい前に物故されました。「情報2段階流れ説」とか、「エービスレンタカーのCM戦略」など、世の中の役に立つことを教わったなと思います。
○本日発売号の小学館『SAPIO』(3月13日号)に、かんべえの寄稿が載っています。今回で4回目。少し出世したのか、小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』の次のページに掲載されている。書いた内容は、「貿易の現場から見ると、日本の黒字はなかなか減らないので、円安は考えにくいですぜ」という例の話。このところ、所得収支に注目する論議が増えてきたのは結構なことで、「日本の黒字がなくなる!」みたいな大騒ぎは大概にした方がいい。てなわけで立ち読みなどヨロシク。
○ちとお疲れ気味なので本日は短めに。
<2月28日>(木)
○2月26日に米国の国防総省がアフガン戦線に協力した国々のリストを発表しましたが、日本はそれに載ってませんでした。湾岸戦争のクウェートによるニューヨーク・タイムズ紙の全面広告を彷彿とさせる出来事です。
【ワシントン27日】米国防総省が公表した対テロ戦争の支援実施国(2
6か国)リストに日本が含まれていなかった問題で、同省は27日、日本とアラブ首長国連邦(UAE)の2か国を追加した改定版資料を発表した。
同省広報担当のジェフ・デービス海軍少佐は読売新聞に対し、当初リストから日本が漏れた原因について、「我々の不注意だった。リスト作成は米中央軍司令部(米フロリダ州タンパ)が担当したが、日本の主たる貢献や米側との連絡調整は米太平洋軍
司令部(米ハワイ州ホノルル)経由のため、見過ごしがあった。公表前に発見すべきだった。もちろん日本は極めて重要な対テロ戦争のパートナーだ」と釈明した。
○かんべえの周辺では、この件で怒っている人が大勢います。気持ちは分かる。ソルトレーク五輪だって、アメリカの勝手な振る舞いが目だって、ちょっとカッカしてたところにこの仕打ち。でも、個人的には「ま、いいじゃん」て思ってます。あんまり怒ると、それが目当てで協力したように見えちゃうし。日本は米国に依頼されたからではなく、9・11の事件を見て「何かしなければ」でshow
the flagしたんです(もちろん日本人の犠牲者もいた!)。
【ワシントン27日】日本政府は27日、米国防総省が発表した対テロ戦争に貢献した26か国に日本が含まれなかったことに強い不快感を示した。外務省の服部則夫外務報道官は記者会見で、「先方は誤りを認めて陳謝し、訂正すると回答した」としつつも、「大変遺憾な話だ」と不快感をあらわにした。
ただ、小泉首相は同日夜、首相官邸で記者団に対し、「(来日した)ブッシュ米大統領がじかに国会演説でも(日本の)支援に感謝している。生の声を聞いているんですから一番信用できる」と述べ、冷静に対応する考えを表明した。
○小泉さんの態度は立派だと思う。アメリカに向かって「感謝がない」などと気色ばむのではなく、「感謝なんて、ウチは最後でいいよ。そういうのはふだん、敷居の高いところから順におやりなさいよ」くらいに言ってやりたい。
○ところで余談ながら、ミスの元が米海軍にありというのが興味深いですね。去年のえひめ丸もそうでしたが、日米関係を大なしにするようなボーンヘッドをまたやってくれました。ところがブッシュ政権の知日派人脈は米海軍ラインで固められている。日米の「海の友情」が現在の日米関係の根幹にある。この辺が皮肉というか、世の中は面白いもんですね。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki