●かんべえの不規則発言



2014年4月





<4月1日>(火)

@柏駅で産経新聞を買ってみたところ、100円ではなくて110円である。

A次に浜松町の駅で降りて、SUICAの残額を見たら一けた台が初めてゼロでなくなっていた。

Bさらに「くにまるジャパン」のスタジオ入りする直前、文化放送の前のデニーズで時間調整をするのであるが、メニューが一新されていた。なるほど、これなら値上げに気づかない。めずらしいので、つい余計なものを注文してしまう。まんまと乗せられてしまい、料金704円也。

○てな感じで、朝から消費増税をあちらこちらで体感しております。で、かねてから決めていた通り、今日は銀座のアップルストアに行ってiPad miniを買いました。わざわざ4月になるまで待っていたのは、単なる天邪鬼に加えて、きっと4月に入れば店が閑散としていて、丁寧に説明を受けられるかと思ったんですが、なんてことはない、非常に盛況でありましたな。でも、店員さんは非常に親切でありましたぞ。

○ということで、iPad miniが面白くて仕方がない。まあ、半年もすれば飽きるんでしょうが。とりあえず、週末はこれを持参して中山競馬場に参戦する予定。


<4月2日>(水)

○ええっと、少しご紹介です。当社双日のご先祖様というべき鈴木商店に関して、ネット記念館ができました。URLは下記の通りです。


●鈴木商店記念館

http://www.suzukishoten-museum.com/ 


○鈴木商店は、神戸で誕生した関西系商社の源流でした。米騒動の時に焼打ちにあったことや、昭和の金融恐慌で倒産したことが有名ですが、不況のさなかでもさまざまな投資を行い、幾多の企業群を残しています。今も日本の各地には、往時を伝えるいろんな資料が残っているものなのですね。

○鈴木商店というと、今まではもっぱら大番頭の金子直吉が有名であります。それに対し、店のオーナーであった鈴木よねに焦点をあてて書かれた小説が、玉岡かおる原作の『お家さん』でありました。ちなみに新潮文庫版では、解説を不肖かんべえめが書いております。

○その『お家さん』がこのたびドラマ化されます。5月9日に読売テレビで放映されます。


●読売テレビ開局55周年記念ドラマ 『お家さん』

http://www.ytv.co.jp/oiesan/ 


○主人公の鈴木よね役を天海祐希というのはちょっと美人過ぎるくらいかと思いますが、金子直吉役を小栗旬というのは、激しくイケメン過ぎです。高畑誠一役ならわかるんですけどねえ。金子直吉というと、なんといっても小磯良平画伯によるこの絵が決定的です。わが国におけるアントレプレナー、というよりアニマルスピリッツの典型みたいな人なんですが、こういう日本人が居たことを少しでも知ってもらえればと思います。拡散希望。


<4月3日>(木)

○ICJで日本の調査捕鯨が敗訴した問題について。私はいいチャンスだから、ゴタゴタ言わずにやめるべし、と思っております。別段、捕鯨に反対しているんじゃないですよ。南氷洋で行っている調査捕鯨が、事実上、水産庁の既得権みたいなものになっているから、日豪関係も考慮して止めたほうがいいんじゃないか、と以前から考えていた次第です。

○以下は7年位前にとあるところに寄稿した文章です。すっかり忘れておりましたが、ここで乗っけておきましょう。基本的な構図は変わっておりませんので。



 卒爾ながらご同輩、最近、クジラを食べたことがありますか。小学校の学校給食以来、絶えて久しくないというのが、筆者も含めて大方の実態ではあるまいか。

 試しに
「鯨ポータルサイト」なるものを見ると、何らかの形で鯨料理を出す店は、チェーン店も含めて全国で64店に過ぎない。ほとんど好事家の世界といっていいだろう。

 これらの店では、原材料を主に遠洋捕鯨に頼っている。といっても、日本は商業捕鯨を中止してすでに久しく、水産庁傘下の財団法人・日本鯨類研究所が行う「調査捕鯨」が頼りである。その販売高は2006年度でわずかに68億円。捕鯨が産業であった時代は、確かに遠くなった。
 
 それどころか近年は、クジラの捕獲量が増えたために、卸価格の値下げを余儀なくされている。水産庁と鯨研は、販売促進の会社まで作ってクジラのセールスに励んでいる。毎月9日は「クジラの日」だなんて、知ってましたか?

 売れないクジラを食べてもらいたい理由は、IWC(国際捕鯨委員会)が決める調査捕鯨の割り当て量が、前年度の実績に左右されるから。何のことはない、捕鯨関係者が守ろうとしているのは、食文化や伝統ではなくて、実は彼らのメンツと予算と組織なのではないか。

 言うまでもなく、わが国の捕鯨に対する国際的な風当たりは強い。ことにラッド新政権が発足したばかりの豪州では強い反発を招いている。IWCにおいても、捕鯨国は少数派であり、商業捕鯨再開の見通しは暗い。そしてグリーンピースやシーシェパードなど、一部団体による過激な抗議活動が繰り返されている。

 捕鯨に対する感情的な反発はさておいて、わざわざクジラを愛する諸国民の庭先たる南氷洋で、調査捕鯨を行っているのはわが国だけである。もともと親日的なこれらの国を、敵にまわす必要があるのだろうか。すでに現地では、「日豪関係は戦後最悪」といわれるほどだ。資源供給でも安保協力でも、重要な相手国であるにもかかわらず。

 せめて南氷洋における捕鯨は凍結すべきではないか。日本人がこぞってクジラに執着しているのならいざ知らず、「対日感情の悪化」という形で国益が失われている現状はバランスを逸している。

 釧路沖や石巻沖では、細々と近海小型捕鯨が行われている。現在は不採算事業であるが、調査捕鯨による供給が途絶えれば、おそらく産業として成り立つようになるだろう。食文化と伝統を守るためなら、それで十分ではないのか。そしてノルウェーなどのように、自国の近海で捕鯨を行う国に対しては、NGOも抗議活動は行っていない。

 守られるべきは国益であって、一部関係者の意地や既得権ではないはずである。



○これを書いたときは、労働党の親中・ラッド政権ができたばっかりだったんですが、現在は保守党の反中・アボット政権になったばかりです。来週くらいには日豪首脳会談もあり、日豪EPAも大詰めを迎えている。日豪による防衛装備品の共同開発の協議も始まる。こういうタイミングでICJの判決が出てしまったので、オーストラリア政府はかなり焦っているらしい。間が悪い、ってやつですわね。なにしろ豪州牛の関税をどれだけ下げるか、って交渉をやってる最中なんですから。

○そういえば今日は、オーストラリア大使館のレセプションの日であった。すいませんね、せっかくご招待をいただいていたのに、休暇中につき失礼いたしました。行ってたら、たぶん上記のような話をしていたことと思います。


<4月4日>(金)

○今週は会社を休んで気ままな日々を過ごしております。

○とりあえずご近所の桜はいっぱい見ているなあ。柏ふるさと公園、常総ふれあい道路、あけぼの山などなど。満開の桜、雨の中の桜、散り始めた桜。どれも結構なものです。

○考えてみたら遠出もしていない。ご近所の映画館で「フィールド・オブ・ドリームズ」を見ましたぞ。あ、それから六本木ウルフギャングのステーキは超豪華でありました。たまにはいいね。

○休んでいる間に、大きな事件が起きないのもありがたい。今宵の米雇用統計は失業率が6.7%でNFPが19.2万人増。先月分も19.7万人増に上方修正されていて、万事予定通りという感じかな。

○4月下旬のオバマ大統領の訪日日程も、当初の予定の1泊から2泊に伸びました。なにしろ国賓ですからね。つまりわが国の外交当局がそれだけ押し戻したということになります。よく頑張りました。

○お休みと言っても、この程度の仕事はしますがな。ということで、以下の駄文を東洋経済オンラインに寄稿。読んでちょ。

日本経済の4番打者、輸出は復活できるか? (アイフォーン、ユニクロ、メルセデス・・・輸入はいいけど)


<4月5日>(土)

○お休み中のお仕事をもう一点ご紹介。今度は書評です。

●『レーガンとサッチャー』(ニコラス・ワプショット/新潮選書) https://www.fsight.jp/25660 

○本のご紹介は上記URLをご参照いただくとして、私的な感想をもうちょっとだけ追加しておきましょう。

○アメリカ政治における党派色の強まり、というテーマは、溜池通信でも10年くらいずっと取り上げ続けておりますが、ちっとも改善しないどころか、日に日に悪化しているように思われます。2008年にバラク・オバマが大統領に当選した時は、「やれやれ、やっとこれで『ひとつのアメリカ』に戻れる」と思ったもんですが、あにはからんや、まったくダメでしたね。今ではどう考えても、「アメリカ政治が正常に機能するようになるには、早くても2016年を待たなければならない」というのがその筋の常識となってしまっています。

○保守とリベラルの対立は、もちろん今に始まったことではない。先日見たばかりの『フィールド・オブ・ドリームズ』にも、アイオワ州におけるPTA会合のシーンがあって、「子供に読ませるべき本」を巡って、リベラルと保守の親同士が意見を戦わせる。要するに1960年代の価値観を認めるか、認めないかみたいな対立なんだけど、それでも「自由は大切だ」とか、「合衆国憲法を守れ」みたいな最小限のコンセンサスがあって、その辺が落としどころになる。いかにもアメリカらしい草の根民主主義の情景でありまして、たぶんアイオワ州党員集会ってのはああいうノリなんでしょうね。

○本書『レーガンとサッチャー』を読んでみると、1970年代に米英が経済的に行き詰るまでは、その手の社会的なコンセンサスがまだまだ濃厚に残っていたように思われます。つまり国民全体に戦争という強烈な共通体験があったし、共産主義という外敵もあったから、国内が決定的に分裂することがなかった。そしてまた、「俺たちはあれだけ戦争で苦労したんだから、国はある程度のことをやってくれなきゃ」という暗黙の了解もあったのだろう。だから「大きな政府」になりがちであったし、当時の共和党はなんだかんだいって穏健派の政党であった。

○そういう「古き良き時代」が行き詰ってしまったために、1980年代に「レーガンとサッチャー」の政治が必要になった。彼らは減税もやったし、組合つぶしもやったけど、今の感覚からすると、そんなに極端なことをしたわけではない。そしてレーガンとサッチャーは、「社会的保守派」ではなかった。それでも当時としては思い切ったことをやったわけで、党派的対立というのはこの辺から深まっていたのであろう。まして冷戦が終わってしまうと、歯止めもかからなくなる。かくして1990年代の「クリントン政権vsギングリッチ下院議長」の対立以降は、止めどもなくなってしまったのではないか。

○つくづく1970年代から80年代のことは、今となってはわかりにくくなっているのですね。「レーガンとサッチャー」の時代のことは、もっと勉強する必要があるように思われます。


<4月6日>(日)

○とっても久しぶりに神宮球場。今年は少しタイガースの応援をしようかと思って、開幕前にチケットを買っておいたのだ。が、しかし。今年の阪神は開幕の巨人3連戦でいきなり27失点。能見が打たれるし、藤浪も打たれる。榎田やメッセンジャーだって、もちろん打たれる。マートンとゴメスが打ってくれるし、西岡の代役の上本が活躍してくれるけれども、何とも大味な試合ばかりなのである。昨日、おとといの対ヤクルト戦も連敗だったし、昨日なんぞは12対11の乱打戦で敗れている。行く前からとっても嫌な予感。

○それでも3塁側内野席に陣取って、さあプレイボール。いきなり2回までに両軍が四球を4個ずつ提供し、それだけで1時間を超えるというまだるっこしい試合展開。しかも3回には二死からマートンのエラーに四球でランナーをため、代打岩村のスリーランホームランを浴びてしまう。ああひどい。雨は降りだすし、身体は冷えるし、心も寒い。ああ、ワシはなんでこんなに虚しいものを見ているのであろうか。

○もちろん球場で体験する野球には、独特の臨場感がある。ファールが飛ぶと、自分のところに飛んでこないかと思って一瞬、焦る。テレビには映らないような個々の選手の動きに注目することもできる。そして何より、レフトスタンドの阪神応援団が相変わらず素晴らしい。この一体感こそが阪神ファンというものである。

○が、しかし。いかんせんゲームとして面白くない。そもそも両軍ともに野球が下手過ぎるのである。どう見ても両軍とも、「今年はCSに出られたらもうけもの」的な水準である。春先にこの体たらくで、どこかでチームの「やる気スイッチ」が押されて優勝戦線に絡む、てなことはあり得るのだろうか。だんだん苦痛になってきて、5回表の攻撃を見届けたところで早々に撤退を決める。

○ところがところが。家に帰り着いて、テレビをつけたら阪神が逆転しているではないか。なんと7回以降、13得点である。最後まで見ていたら、15−8で阪神が逆転勝利してしまった。画面の中で喜んでいる阪神ファンの同志諸君には申し訳ないが、両軍ともに投手を7人ずつ投入するという試合を、4時間半も見ていて楽しいだろうか。心なしか選手の表情も、歓喜というよりは疲労の色が濃かったような気がするぞ。

○もっとも今日で、「ワシが神宮に見に行くと負ける」ジンクスが途切れた。だったら今年はもう少しタイガースを応援してもいい気がするが、それにしても野球というスポーツ、球場のトイレは混むし、ゴミ箱は少ないし、もちょっと何とかならんのだろうか。なにより終わり時間が読めない、というのがツライ。もちょっとキビキビした試合を見たいぞよ。でも、こういう自虐気分こそが阪神ファンの本質であるという気もするなあ・・・・。


<4月7日>(月)

○「会社生活30年」を機に、勝手にとった有給休暇も今日までである。別に旅行に出るでもなく、この1週間というもの、手軽に行ける場所ばかりで過ごしている。まあ、この方がリラックスできるもんだから。

○今更ながら、仕事と趣味の区別がつかないような暮らしをしているものだから、あらためて休みを取ってみると何をしようか迷ってしまいます。年を取ってからの暇つぶしは、なるべき子供のころに熱中したものがいいらしいと聞いたので、昨日は阪神タイガース、今日は落語を試してみました。ちなみに一昨日は競馬でありました。これは子供はいけませんよ。

○落語というと、普段は浅草演芸ホールに行くのだけれど、今日はご贔屓の三遊亭歌之助が出るからということで、上野の鈴本演芸場へ。月曜日の早い時間ということもあって、ホール内は閑散としている。客席の笑い声も遠慮がちである。いわば会場内が、「空気が温まっていない」状態である。ワシも一応、「人前で話す」のが商売だったりするので、こういうときの演じる側の辛さが少しはわかる。

○そういう中で、芸人さんはどうやって客を自分のペースに巻き込むか、という工夫が見ていて面白い。あからさまに拍手を強要するとか、「控えめな反応、ありがとうございます」などと自虐に逃げるとか、大きな声ではしゃいで無理やり盛り上げるとか、あるいはごくごくいつも通りに演じるか。この辺は芸人さんの個性というものでありますね。どんな分野でもプロというものは、「不調時の凌ぎ方」や「アウェイの戦術」を持っているものであります。

○で、今日の歌之助が何を演るのかと思ったら、上方古典落語の「手水廻し」であった。ふふーん、こんな風になるのかあ、などと感心しながら聴く。ワシは現代モノの『爆笑龍馬伝』や『B型人間』が好きで、とうとうCDまで買ってしまったけど、今日の空気ではああいうネタはかけにくいでしょうな。ところで落語って、i Tunesでは売ってるんだろうか。

○ということで、明日からは仕事に戻ります。幸か不幸か、ワシにはまだ仕事があるらしいです。でも、いつの日か本格的に暇になってしまったら、そんときは「将棋」や「スキー」も試してみましょうかね。なんとなく老後が気になってしまう昨今でありました。


<4月8日>(火)

○言論という仕事は、基本的に虚しい仕事であります。論敵との議論に時間を費やすにせよ、身内同志の見苦しい褒めあいに終わるにせよ、爽快なことってあんまりありません。でもね、今朝の不肖かんべえはちょっといい気分なのであります。以下は3月13日に産経新聞正論欄に寄稿した論考です。


●豪州と経済連携しTPP打開を


○この文章の前段はTPP交渉への悲観論で、アメリカの政治状況を見ると非常に妥協しにくくなっているという状況を説明している。そして最後の部分では、以下のような提言をしておるのです。


 そこで日豪経済連携協定(EPA)交渉の推進を提案したい。オーストラリアはTPP交渉参加国であり、貿易自由化に積極的だ。安全保障面でも協力の余地が大きい。折もよく4月にはアボット首相が初来日し、7月には安倍首相がキャンベラを訪れる予定だ。

 何よりこれが決まると、日本では米国牛よりも豪州牛の関税の方が安くなる。いうまでもなくビーフは、日米交渉の最大の懸案のひとつである。豪州との貿易自由化交渉は、米国をTPP交渉の場に引き戻すひとつのカードになり得るのではないか。

 いつまでも「しつこく言われてからしぶしぶカードを切る」という交渉スタイルではいられない。仲間を増やし、交渉の主導権を握り、時には米国の袖を引っぱることも必要だ。

 通商交渉を積極的に展開することが国内の改革を進める原動力ともなる。アベノミクスに燃料を追加するためにも、安倍内閣のしたたかな交渉に期待したい。


○昨日の日豪首脳会談では、ほぼ上記の通りとなりました。もちろん上記の拙稿が政府を動かした、なんてことはないわけですけれども、少なくとも自分が言っていた通りになる、ってのは気分がいいものです。それにしても、7年越しの日豪EPA交渉がTPPより早く決まる、ってのは意外でありました。

○ここの部分がまだ正確に伝わっていないんじゃないかと思うのは、「関税撤廃」に関する部分です。アメリカのフロマン通商代表は、日本に対して農産品の関税撤廃を求めている。日本側としては、そもそも昨年2月の日米首脳会談では、双方が「両国ともセンシティブ分野があるので、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」ことを確認してTPPに参加しているのだから、そんなに言われても困るよということになる。そもそも2012年12月の総選挙では、自民党は「聖域なき関税自由化の交渉には参加しない」ことを公約しているのだから、「完全撤廃」と言われると困るのです。

○そこで豪州を相手に、日本は「現在は38%の牛肉関税を、18年かけて19%に下げます」という条件で妥結してしまった。豪州から見れば、別に関税ゼロにこだわる必要はないわけで、日豪EPAで米国産牛肉に対して豪州牛が日本市場で有利になるならオッケーである。これをアメリカがどう見るかであるが、おそらくアメリカ・ビーフのロビーは、「ばっかもん!早いところ、豪州と同じ条件をゲットして来い!」ということになるだろう。そうやって揺さぶりをかけるという戦法なのである。

○なにしろ日本市場では、豪州牛と米国牛が激しい競争を演じている。端的に言えば、マクドナルドは米国牛で、モスバーガーは豪州牛(タスマニア産)である。吉野家は米国牛で、すき屋は豪州牛である。2002年にBSE問題で米国牛が入ってこなくなり、豪州牛は日本でわが世の春をエンジョイした。ところが最近は検査の緩和もあって、米国牛が急速に盛り返してきた。これを逆転するために、豪州はEPAカードを切ってきたわけである。

○これでアメリカ側が前のめりになってくれれば言うことなし。一定の関税を残してTPP交渉が妥結に向かうことができる。逆にうまくいかないケースも考えられて、それはオバマ政権が国内の自動車産業に気兼ねしている場合ですな。アメリカは自国の自動車産業を、2.5%の関税をかけて守っている。アメリカともあろうものが、これはかなり恥ずかしい話である。でも、オバマ政権は2012年選挙の際には、「自動車産業を守ってあげたでしょ!」が大きな売りとなった。そういえばこんなスローガンを使っていましたわなあ。"Bin Laden is dead, GM is Alive."

○長年にわたってリコール隠しをしていたGMが、本当に生かすべき相手だったのかどうかは疑問が残るが、この手の「経済愛国主義路線」のおかげでオバマが再選されたことは間違いがない。はたして自動車業界に対して喧嘩を売れるかどうか。・・・・この辺はちょっと邪推が入ってますけどね。おそらくTPP交渉の妥結は、確率的にフィフティ・フィフティくらいまで戻したんじゃないかと思います。日本外交も、なかなかやるではありませんか。


<4月10日>(木)

○さてさて、これからワシントンでは春のIMF世銀総会が行われ、併せてG20とG7が行われる。で、G20ではウクライナ支援が、G7では対ロシア追加制裁が討議されるという。やれやれ、わが国の立場はビミョーである。

○日本の立場は、G7の中ではドイツに次いでロシア寄りといったところであろう。逆にアメリカ、カナダ、イギリスは強硬姿勢である。ただし日本としては、「武力を背景に国境が変わる」という事態を容認すれば、同じことを中国が南西諸島でやろうとしたときに困ることになる。「北方領土交渉があるから、プーチンを追い詰めたくない」というのも変な話で、日本にとって北方領土は「藪の中の2羽」であって、尖閣諸島は「手中の1羽」である。後者を優先するのが当然であろう。さらに言えば、万が一、プーチンが北方領土を返してくれたとして、その後で現地で住民投票が行われて、「やっぱり住民はロシアを望んでいる!」と言われた日には、目も当てられないではないですか。

○かといって、G7で日本政府が目立つ必要もない。せいぜい「シベリアから安いガスが買えたらもうけもの」くらいの下心を持ちつつ、「まあまあ、皆さん、落ち着きましょう」などと言ってりゃいいんじゃないかと思う。ちなみにわが国は、1990年代にG7にロシアを入れてG8にすることに反対した立場である。だから言ったでしょ、と言いたくなるところである。

○そもそも対ロシア制裁なんて、何もしなくても既に投資資金の引き上げは起きているし、ルーブルは売られているし、金利も上がっている。今週、IMFがワールド・エコノミック・アウトルックを改訂しましたけど、2014年のロシア経済成長見通しは+1.9%から+1.3%に引き下げられている。これで原油価格が下がろうものなら、マイナス成長もやむなしでありましょう。でもきっと、彼らは経済よりも政治的なメンツを優先するんだろうな。

○次に、G20におけるウクライナ支援の議論がまたまたビミョーである。ウクライナがデフォルトすると、債権をいっぱい持っている欧州の銀行とロシアの両方が困る。だからIMFが140〜180億ドルの融資枠を設定することになっている。日本政府は、先のハーグにおけるG7において、「最大15億ドル」の支援を表明して高い評価を得た。ただしウクライナは派手に中国に武器輸出をしている国でもあるから、あんまり助けると気持ちが悪いという面がある。なにしろ旧ソ連時代には、軍需産業の3分の1がウクライナに集中していたそうなので。もっとも、「困っている国には中国がやってくる」の法則から行くと、ウクライナがあんまり困らないようにしておく方が無難だという見方もできる。

○ところで日本が支援する15億ドル(1500億円)の中身であるが、外務省のHPをチェックしてみたら、案の定、こんな程度であった。すなわち、1200億円が円借款、300億円が貿易保険、無償供与はわずかに3.5億円である。つまり、ウクライナにあげちゃうお金はスズメの涙ということになる。まして今では、円借款は「新たに出るお金よりも戻ってくるお金の方が多い」という状態(つまり、中国がせっせと返してくれている!)なので、日本政府として新たに税金を投入するような話ではない。

○さらに少しググってみますと、円借款で1100億円の予算をつけるボルトニッチ下水道処理場改修事業とは、かなり前からのJICAの事業なんですが、受注先は清水建設みたいです。それから最大300億円となっている貿易保険は、ほとんどの場合、日本企業が受け取り手になりますので、これまた国内に還流することになります。でも、日本とウクライナ間の貿易額は輸出入合わせても年間12億ドル程度でありますから、300億円はなかなか使えないでしょうなあ・・・・ということで、この15億ドルの支援は結構えげつない中身です。安心しましたか?

○この手の経済援助の話は、「外国にお金をあげるくらいなら、国内で使え!」と言って怒り出す人が少なくない。でも、実態はこんな感じなのであります。日本政府も、そんなにナイーブではないのでありますよ。


<4月12日>(土)

○本日はニュージーランド大使館様ご一行に紛れ込んで、中山競馬場の貴賓室へ。なんとなれば、本日の中山メインレースはニュージーランドトロフィー(G2)なのである。

○競馬というのはもともとが英国発祥の競技でありますから、ニュージーランドでももちろん盛んです。例えば日光東照宮の神馬は、ニュージーランドから寄贈されています。詳しくはこちらをご参照。

○外国人VIPに対するJRAの英語対応はなかなかしっかりしていました。ワシも今まで、競馬用語を英語で何と言うかなんて考えたこともなかったんですが、以下はいつの日か海外で競馬に挑戦する日のためにメモしておきましょう。とりあえずマークシートの投票カード(Betting Card)は、こんな風に分類されます。

単勝 Win
複勝 Place
単+複(応援馬券) Each Way
枠連 Bracket Quin.
馬連 Quinella
馬単 Exacta
ワイド Quin. Place
3連複 Trio
3連単 Trifecta


○本日の不肖かんべえのお役目は、シンクレア大使に馬券をアドバイスすること(?)でありました。ただしレースの方は固く決まったので、ほとんどお役には立たなかった模様です。


<4月14日>(月)

○消費税が上がってからちょうど2週間たちました。不肖かんべえは、エコノミストたる者、消費の現場をちゃんと体験しなきゃいけないと思い、わざわざ4月1日以降にiPad Miniやらスーツやらを買っております。「なんでわざわざ3%上がってから買うのよ!」という声が耳元でしたような気もするのだが、いやいやこの仕事をしているからには、人と同じことをしていてはいけないのであります。ときには自分の懐に痛みを感じつつ、タウンウォッチングを続けなければなりません。

○が、正直なところ、ちょっと不思議なくらい、消費税が話題になっておりませんな。たとえばヤフーニュースを見ると、増税への怒りみたいなものがほとんどランキングに入っていない。それから、共同通信社の4月分世論調査を見ると、「消費税率が8%に引き上げられた後、消費を『控えていない』と答えた人は63・7%で、『控えている』の34・8%を上回った」とか、「安倍内閣の支持率は59・8%と、3月の前回調査より2・9ポイント上昇した」とある。増税後に内閣支持率が上がるというのはかなり意外な展開で、これから公表される朝日や読売や時事通信のデータに注目したいところです。

○ただし、増税に伴う日常の細かな不満や違和感はたくさんあるはずなんですよね。例えば今日は、ちょっとしたお礼状を出す機会があって、50円の官製はがきに1円切手を2枚貼って出しましたが、みんなこんな面倒なことをどうしているんだろう、とマジで思いますよね。あるいは、財布の中に1円玉や5円玉が入っている事が増えましたな。それからもちろん、全体として財布の中身の減り方が早くなったような気がします。だからといって、「消費を控えている」ということもないのでありますが。

○本日、お目にかかったレストラン経営者によると、「1週目はほとんど影響がなかったが、2週目の週末はさすがに客足が減った」とのこと。それからタクシーの運転手さんによれば、「上野や新橋など、人が大勢居るはずの場所(下町)でお客さんが減っている」との声あり。これらはいかにも、「景気ウォッチャー調査」に出てきそうなコメントですな。もっとも4月調査が出るのは5月12日ですから、それまではいろんなルートで情報をかき集めなければなりません。

○明日からは増税3週目に入りますので、ますます気を付けてみていく必要があるかと思います。


<4月16日>(水)

○会社の前で、総務省のTさんとバッタリ遭遇。お互いつい反射的に、「阪神タイガース、強いですねえ」。「甲子園で巨人を3タテですからねえ」。でも、よくよく考えてみたら、

「毎年、春先にはよくあること」

○そういえば10日前に神宮球場で見たタイガースは、本当にひでえものでした。と思ったら、今日は広島に負けましたね。

   *   *   *

○うちの近所の商店街に、大阪串カツの店が開店準備中である。すでに看板もできている。前を通りかかると、この看板が素晴らしい。

「ソースと人生、一度きり!」

○大阪における串カツの鉄則は、「ソースは二度づけ禁止」である。人生は一度きり。初心の人、二つの矢を持つことなかれ。三度目の正直は、最後のお願いと知りたまえ。

   *   *   *

○高度な政治情報が飛び交う業界人のウラ会合。「オバマ訪日とTPP交渉の行方」は一顧だにされず、私が全く関心を持ってないテーマに話題が集中。今一番視聴率が取れるのは、やっぱりアレですか。すなわち、

「オバマよりもオボカタ」

○総じて小保方さん擁護論強し。この議論が面白いと思ったな。

「STAP細胞はあるかもしれないんだし、完全否定するのは難しいので、とりあえず”ある”ということにしておいたらどうだ。日本国内でガタガタ言ってるうちに、どこかの国で”できましたあ!”とか言われた日には目も当てられない」

○この週末から、都内では「オバマ大統領来日」で警戒が厳しくなるので、みんな嫌でも「オバマ」を意識するようになると思うけど、2009年の来日時のような熱気はもうどこにもありませんなあ。


<4月18日>(金)

○ホントかどうか、裏は取ってないんですけど、いかにもありそうな話。

「阪神が甲子園での開幕3連戦で巨人を3タテしたことが過去に2回だけある。1985年と2003年である」

○そうだとすると、今年のタイガースの優勝確率は100%だということになる。ちなみに1985年の3連戦は、第2戦が4月17日の「バックスクリーン3連発」でありました。詳しくはこちらをご参照。

   *    *    *

○これも噂なんですけれども、いかにもありそうな話。

「某原発の地層を調べに来た規制委員会の学者さんが、地質調査のボーリング現場を見て感嘆して言った。『なんて美しい断層なんだ!』」

○学術調査とは違って、電力会社はお金に糸目をつけずに調べてくれますからねえ。ひょっとして、それが見たくて検査を命じているのではないですよね。

   *    *    *

○これも最近になって判明した話。

「シンガポール在住の馬主で、最近はJRAでも活動中の大谷正嗣氏は、日商岩井のOBであるらしい」

○たぶんワシの1年上の大谷さんで、ここに書かれている通りです。よく麻雀をやりましたが、勝負勘が強くて、オーラスまで全員の持ち点を百点単位まで記憶している雀士でした。「辞めるとえらくなる日商岩井列伝」に新たな1ページが加わりました。


<4月20日>(日)

○こんな風に予想しておきましょう。TPP交渉はかなり煮詰まっていて、今週の日米首脳会談でのるかそるかという感じです。交渉が成功するとしたら、それは日本側がビーフで妥協したから。失敗するとしたら、アメリカ側が自動車で妥協できないから。

○安倍首相もオバマ大統領も、当然、交渉を成立させたいはず。安倍さんはエイヤアの勝負ができる。日豪EPAの成立以来、日本側にはモメンタムがありますから。問題はオバマさんが同じことをできるかどうか。確率はなおも半々だと思いますけど、ここは成功に賭けるしかありません。

○もっとも日米合意ができたとして、次に12か国の妥協が成立したとして、そのあとにはアメリカ議会が批准できるかという問題が残っている。どっちにしろ長期戦になるのかなあ。それはそれとして、瀬戸際の交渉の詰めを見守りたいと思います。


<4月21日>(月)

○銀座のすし屋ねえ。その手がありましたか。

○オバマ大統領の訪日日程は、国賓待遇で2泊3日とはいうものの、4月23日の夜に到着して、25日の午前には韓国に行ってしまう。つまり実質1日ということになる。せめて23日は安倍官邸が晩御飯を開けて待っているというのに、何時に到着するかがなかなかわからない。で、安倍さんとしては、首脳同士でくだけた感じのところを全国に報じてもらいたい。24日の夜は宮中晩さん会なので、フォーマルになりますからね。

○そこで繰り出されたのが「銀座の有名すし店で懇談」というカード。久兵衛なのか、すきやばし次郎なのか知りませんけど、アメリカ側がこれに乗ってきた。いやもう。日本の究極のソフトパワーですな。その昔、宮沢総理がクリントン大統領と首脳会談終了後にホテルのすし屋で粘って、とうとう日米包括協議の開始を決めたことがありました。あれは1993年7月のことでありました。日米関係が危うくなると、「すし屋カード」が繰り出されるみたいです。

○ということで、水曜の夜のニュースを見ると、寿司を食ってる両首脳の姿が報道されていることでしょう。老婆心ながら申し上げますが、デザートにはぜひ抹茶アイスを用意されると良いと思います。オバマさんが子供の時に、鎌倉で食べた思い出の品でありますから。

○ついでもっていえば、これって全世界に対する「SUSHI」の宣伝にもなるでしょうね。そのうち、オバマさんが食べたとおりのコースで、「オバマセット」なんてのができるかもしれません。


<4月22日>(火)

○今週発表された2013年度の貿易統計の中で、この数字が面白いのでメモしておきます。


●商品別輸入 自動車 

全世界 375,812台(+5.1%) 1兆1652億円(+24.5%)

アメリカ  22,568台(−4.3%) 850億円(+14.3%)

EU    260,817台(+23.3%) 9160億円(+30.0%)

アジア  55,236台(−37.2%) 678億円(−20.2%)


○昨年は日本で外車がよく売れて、史上初めて1兆円の大台を超えたわけですが、それはベンツとかアウディとか欧州車であったというわけです。アメ車は前年比マイナスです。まあ、円安のおかげで売り上げは増えましたが。ちなみにアジア生産車の逆輸入分は、円安で激減しているようです。

○TPP交渉でアメリカは相変わらず自動車関税(2.5%)を守ろうとしていて、一方で「日本でこんなに売れないのはおかしい」と言ってくるわけですが、全体では伸びているんだから、どう見たって日本に非関税障壁があるとは思えませんわな。日本の消費者は、欧州車は好きだけど、アメ車に魅力を感じない。それだけのことであります。それでもオバマ政権にとって、自動車業界はSensitivity(ビミョー)なんであります。


<4月23日>(水)


「わざわざ来てもらったのはほかではありません」

執務室の安倍晋三首相はおごそかに切り出した。

「ホワイトハウスからの返事がないのです。4月23日、いったい何時になったらオバマ大統領は日本に到着されるのか。政府専用機ですから、時間はいつでも自由に都合できるはずです。羽田空港は万全の準備をしているし、官邸では晩飯を空けてお待ちしています。大使閣下、ぜひともお返事をいただきたい」

キャロライン・ケネディ駐日全権特命大使は、笑顔を浮かべつつ応じた。

「総理、まことに残念な事態だと存じます。オバマ大統領には、ときどきそういうことがあります。とても孤独な人なのです。家族がいないときの大統領は、ホワイトハウスでも一人でDVDを見ながらドギーバッグの中華料理を食べていたりします。今頃はきっと、『ああ、どうしようかなあ・・・』と迷っているのではないでしょうか」

「それでは困ります」

安倍首相の声がキリリと厳しくなった。

「これは国と国との出来事です。わが国は二泊三日の国賓待遇で大統領をお招きしている。それにパーソナルな時間もいただかないと、日米間の機微にわたる話はできないではありませんか」

「おそれながら申し上げます・・・」

同席していた世耕内閣官房副長官が横から口を出した。

「写真を撮ることも非常に重要です。首脳同士がにこやかに懇談している写真が全世界に流れること、これも首脳会談には欠かせないアイテムです。ぜひとも4月23日夜は、オバマ大統領と安倍首相の私的な懇談が必要なんです」

「それならば、こういうアイデアはどうでしょう」

ケネディ大使が言った。

「先日、オバマ大統領はDVDで"Jiro Dreams of SUSHI"というドキュメンタリー映画を見て、大変感銘を受けたそうです。その寿司屋で大統領をお招きするとしてはいかがでしょう。きっと二つ返事で乗ってくると思いますわ」

「おお、それは銀座の『すきやばし次郎』のことだな。面白い。すぐに予約を入れよう。いや、私が自分で電話をする。ほかのお客には申し訳ないが、当日は貸切りとさせてもらわねばな」

安倍首相はいそいそと携帯電話を取り出した。隣に立っている世耕副長官も興奮気味であった。

「すばらしい!大賛成です。銀座の寿司屋でアメリカ大統領と日本国首相が会談。これはすばらしい『絵』になりますよ。カウンターで両首脳が並んで座り、その間に伝説の"SUSHI Master"が立つ。こんな写真が撮れたら、全世界のプレスがキャリーすること間違いなしだ。日本の寿司文化のPRにもなるし。いや、すごいアイデアがあったものだ!」

       *         *         *

言うまでもなく、オバマ大統領は飛びついた。そして4月23日夜、いそいそと銀座にやってきた。「すきやばし次郎」のディナーは大成功を収めた。翌日の新聞には、「安倍首相はオバマ大統領をビーフではなく、寿司でもてなす」と書かれたものである。

それどころか、味をしめたオバマ大統領は方々で「次郎」の寿司のうまさを吹聴するものだから、西側各国首脳の間でも「われわれも食べてみたいものだ」との声が上がるようになった。

「世耕さん、すぐに手配をしましょう。6月のG7サミットでは、小野次郎さんに一緒にブラッセルに行ってもらいます。欧州やカナダの首脳にも、絶品の寿司を食べてもらうのです」

「ええっ、総理、小野さんは87歳ですよ。大丈夫ですかねえ」

「これは国益がかかった問題です。大丈夫、きっと来てもらえますよ。だって日本の寿司文化の未来も懸っているのですから」。

もちろん、究極の寿司マスターの返事はイエスであった。ブラッセルのG7サミットで供せられた「すきやばし次郎」の味に、各国首脳は言葉を失うほどであった。

       *         *         *

ただし、この成り行きを喜んでいない者が一人だけ居た。モスクワのプーチン大統領である。

「しまった!ソチG8を袖にされて、ロシアが仲間外れにされたことが悔しいわけではないが、俺だけが究極の寿司に食いっぱぐれたとあっては面白くない。俺だって黒帯のはしくれだ。うまい寿司を知らないとあっては沽券にかかわる。おいっ、KGB長官を呼べ。今からすぐに日本に飛ぶぞ。お忍びでそのジローという店に行く。大使館の連中に準備をさせろ。いいか、今すぐにだぞ!」

慌てたのは狸穴のロシア大使館である。ドタバタ準備をしている間に、早くもプーチン大統領がやってきた。元KGBだけあって神出鬼没であるし、変装もバッチリ決まっている。

「おいっ、今すぐ行くぞ。ジローへ」

大統領を乗せたクルマは、なぜか銀座ではなく三田へ向かった。

「大統領閣下。ジローは行列ができる人気店ですが、すでにわれわれの手の者が順番をついて待っています。今頃はちょうどいいタイミングでしょう」

黄色い看板が見えてきた。ほのかに漂うのは、どう考えても酢飯の匂いではなく、もっと濃厚な香りである。が、プーチン大統領は気もそぞろでカウンター席に腰を下ろした。カウンター内のオヤジさんは、プーチンに向かって無愛想にこう尋ねた。

「ニンニク、入れますか?」

       *         *         *

もはやお分かりであろう。ロシア大使館は、こともあろうに「すきやばし次郎」と「ラーメン二郎」を間違えてしまったのである。

ところが世の中はわからない。プーチン大統領は、濃厚なブタのエキスが入ったラーメンに魅せられてしまったのである。

「うむっ、寿司もいいけれども、あんなものは全然食った気がしない。われわれ新興国経済は、もっとガッツリとしたものを食わなきゃいかん。身体も温まるし、同じジローでもこっちの方がずっとロシアにはふさわしい」

プーチン大統領は、やおら二郎のオヤジさんに向かってこう言った。

「折り入って頼みがある。オヤジさん、7月の予定はあいているか。よかったら一緒に、ブラジルまで行ってほしい」

「ええっ?ブラジルですかあ。遠いなあ。まっ、ワールドカップの決勝戦を、特等席で見せてくれるというんなら、考えないでもないですがねっ」

オヤジさんは冗談のつもりだったかもしれないが、ロシア大統領の言葉に二言があろうはずがない。

「決勝戦だけではなく、トーナメント全試合とザックジャパンの全予選を予約してやろう。決まったな。いざ、ブラジルへ!」

       *         *         *

ワールドカップが終了した直後、ブラジルのフォルタレザでは「第6回BRICSサミット」が行われ、中国、インド、ロシア、南ア、ブラジルの首脳が顔を揃えた。ここで料理の腕を振るったのは、もちろんラーメン二郎のオヤジさんである。

「すばらしい。身体の奥から力が湧いてくるようだ」

「先進国のお上品な奴らには、このこってりした味の良さはわかるまい」

「オヤジさん、二杯目はやさいマシマシ、カラメ、ニンニク入りで!」

一同が二郎のラーメンに中毒したところで、誰ともなく言い始めた。

「こうなったら寿司とラーメンで先進国と勝負をしてみたいものだ」

「面白い。先進国の次郎と新興国の二郎、どっちが美味いか」

「わかりました」

習近平国家主席が宣言した。

「私が責任を持って、11月のAPEC首脳会議でジロー決戦を主催します。北京で美味いもの大会をやりましょう!」

「そうだ。ついでにウクライナの連中も呼んでやれ」

「そうそう。イランとシリアとイスラエルも呼びましょう」

かくして秋には、世界中の難問を抱えた首脳が北京に集まることになったのであった。日本のソフトパワーは、世界に美味と平和をもたらしたのである。

       *         *         *

以上、題して「次郎物語」の一席でありました。お後がよろしいようで・・・。


<4月25日>(金)

○南日本新聞の政経懇話会で鹿児島県へ。昨日は霧島市と薩摩川内市、今日は鹿児島市と3か所で講演。テーマは「オバマ大統領のアジア歴訪と日米関係」なので、日米首脳会談と同時進行である。事態が変わるたびに、話を変えなければならず、ややこしかったけれども、面白い経験でした。

○城山ホテルに宿泊。なんと民主党の野田前首相や蓮舫さんがご宿泊であった。どうも鹿児島2区の補欠選挙の応援に入っていた模様。日曜が投票日で、一説によればこれがあるから日本政府は豚肉で妥協できなかった、などと言われている。が、現地の記者に聞くと、「まったくどっちらけ選挙で、消費税もTPPも集団的自衛権もまったく争点になっていない」、「自民と民主の両候補の人柄比べの様相。その他はまったく独自の戦いで投票率は低そう」、「でも、徳洲会の動向が読めないから、票読みが効かない」とのことであった。4月27日は、この衆院補欠選挙と沖縄市長選挙が注目でありますね。

○TPP推進派の不肖かんべえであるが、昨日は下手に妥協しなくて正解であったと思う。フロマン通商代表は、いったい何を取るつもりで日本に来てたんだろう。まさか「日本は脅せば妥協する」とでも思っていたのだろうか。日米交渉が不首尾に終わると、TPP交渉全体が停滞してしまう。その責任は、かなりの部分が「落としどころ」を見誤ったフロマンにあると思うのだが。どのみち、米国議会からTPAが取れていない現状では、日本側が大きく妥協するわけにはいかないのだし。結局、TPP交渉は「越年シナリオ」が現実味を増した。つくづく、自分が有能だと勘違いしている者は始末が悪い。何十時間も相手をさせられた甘利さんはお疲れ様であります。

○少しだけ余った時間に、鹿児島市内を駆け回り、西郷さんの最後の場所、西南戦争で隠れた洞窟、お墓、銅像などを見て回る。中でも圧巻は南洲墓地である。桐野利秋や村田新八などの墓に挟まれているのだが、さらに西南戦争に倒れた無数の部下たちの墓に囲まれている。こんな風に祭り上げられてしまっては、今更逃げるわけにもいかず、最期は「もうここいらでよか・・・」と言って倒れるまでは一本道であった。享年なんと49歳であった。

○極貧のうちに育ち、斉彬公の目に留まって栄達した後も、自殺未遂あり、島流しありの波乱の人生であった。しみじみ神は、自分が愛する者のみを試すようである。神に試される者は幸いなるかな。もちろん試されない者の方がラッキーなわけでありまして、ワシなんぞはけっして試されたくはない。が、幾多の試練を潜り抜けた西郷どんは、薩摩藩の実質的指導者となり、官軍の総参謀となり、岩倉洋行団の留守中の首班となり、多くの仕事と人材を残した。『未完の明治維新』の著者である坂野潤治先生は、「明治維新はほとんど薩摩がやったこと」と結論している。

○容易に想像がつくと思うけど、不肖かんべえは西郷よりも大久保に感情移入するタイプである。ところがついつい、本日は西郷どんに魅せられてしまいもした。というのは、鹿児島市は意外にコンパクトシティで、いろんな場所に歴史の跡が残っている。それらの史跡が声を揃えて、「西郷どんが死んでまだ150年くらいしかたっていない」と言っていたような気がしたもので。


<4月27日>(日)

○海外のメディアは「オバマ大統領と究極の寿司」をどのように取り上げたのか。ネット上でいろいろ拾ってみました。


Obama Dines on Sushi at Tokyo ‘Jiro Dreams’ Shop

まずはABCニュースから。2011年のドキュメンタリー映画"Jiro dreams of SUSHI"による宣伝が行き届いていて、「世界最高の寿司」と断じております。このページにある2分間の映画の宣伝、ぜひ一度ご覧あれ。小野次郎氏の職人としての矜持は、日本人の眼にはけっして珍しいものではありませんが、アメリカ人映画監督がどのように讃嘆したかがよくわかります。


Obama’s First Order of Business in Tokyo: Sushi From the Master

本命中の本命、ニューヨークタイムズです。事実関係を淡々と述べた後に、「安倍首相がNHKに述べたところによれば、オバマ首相は‘I was born in Hawaii and ate a lot of sushi, but this was the best sushi I’ve ever had in my life.’ と言ったと伝えています。そして最後のラインが、ちょっと日本人の心をくすぐるものがあります。

The experience may be hard to match as Mr. Obama travels on to South Korea, Malaysia and the Philippines. No restaurants in those countries have earned a Michelin Guide rating.

そりゃそうだよね。普段は韓国の肩を持つことの多いNYT紙ですが、今日のところは大目に見てあげましょう。ちなみにミシュランの3つ星店は東京には8つもあって、パリよりも多いんですよねえ。なあに、パリなんて日本でいえば名古屋程度の街ですけどね。


CNN"Obama begins Asia trip with 'the best sushi I've ever had'"

なんとCNNの記者が実際に「すきやばし次郎」に行って、「おまかせ」(Chef's Recommended Special Course)を食べたことをリポートしている。ちなみに「おまかせ」の英訳ですが、アメリカにある某鮨屋では単に"Trust me."と書いてあると聞いたことがあります。

この記者は3か月前に予約を入れて、6時58分に店に到着。きっかり7時にコースがスタート。この日の流れは、「かれい」「すみいか」「いなだ」「赤身・中トロ・大トロ」「こはだ」「赤貝」「タコ」「あじ」「くるまえび」「さより」「はまぐり」「さば」「うに、小柱、いくら」「あなご」「たまご」でありました。きっかり1時間半。ネタの写真や、ネタが出てきた時間、それぞれに対する反応が全部記載されているので、行ったことのない者には非常に参考になります。そして7時37分、記者は以下のように無条件降伏を宣言します。

While the whole experience is priceless, it's time to put a figure on this sushi dream.

One of Jiro's shokunin, or "craftsmen," then presents me with a bill for 30,000 yen ($292), plus tax, and kindly reminds that it's cash only.

Significantly lighter in the wallet, I surrender.

Jiro has lived up to its reputation as the world's greatest sushi restaurant, and although the price was hefty, the food was certainly worthy.

そんなこと言ったって、アンタ、ちゃんと領収書もらって会社の経費にしたんでしょ?とここは突っ込みたくなるところです。


Obama Gets A Taste Of Jiro's 'Dream' Sushi In Name Of Diplomacy

アメリカの公共ラジオ局、NPRの記事です。アメリカのラジオニュースが聞けるんですね。オバマ大統領の「うまかった」の声がちゃんと拾ってありますし、映画監督のデイビッド・ゲルブ氏とのインタビューが収録されています。ゲルブ氏は小野次郎氏を絶賛。

さらに面白いのが、この記事についているコメント欄である。「うらやましい」とか「俺も日本に居たとき、そこそこの鮨屋でオマカセ食ったら美味かった」とか、「オバマは贅沢してけしからん」「いや、どうせ日本政府が払ってくれるから」といったやっかみなど、いかにもな反応が続く。そして、こんな驚くべき証言が飛び出す。

If you're lucky enough to be in Seattle, you can get almost the next best thing - omakase at Shiro's. Shiro is a former apprentice of Jiro Ono and a sushi pioneer in the Pacific Northwest. Just check online or call to see if Shiro is working the night you want to visit. Be prepared to wait in line. ;)

なんと、シアトルには昔、すきやばし次郎で修業した弟子が開いた「シロー」という鮨屋があるのだとか。これ、ちょっと行ってみたいですね。さらに、志賀直哉の『小僧の神様』を論じる人が現れるに至っては、さすがに筆者もついていけなくなるのでありました。

→追記:古い愛読者からの情報によりますと、ワシントン州シアトルの隣のオレゴン州ポートランドには、「サブロー」という店があるらしいです。これが無関係とはとても思えない!)


さて、今度はアメリカ以外の反応を見てみましょう。


The sushi summit: Obama in Japan

イギリスのFTから。上手いコラムです。溜池通信で抄訳を載せたくなります。2002年にブッシュ大統領が訪日した時の居酒屋「権八」を引き合いに出しながら、今回のオバマのアジア歴訪がいかに困難かを指摘し、「すきやばし次郎」については、以下のように鋭く本質に迫っています。

His back story is very much the American success story: 88-year-old Jiro was told aged nine by his bankrupt parents that he would have to fend for himself and so he started working in sushi street stalls.

Though the pursuit of perfection does replace that of wealth - with a team almost as large as the restaurant’s covers and sourcing only the very best ingredients - Jiro’s mission is one of love and craft, not profit and margins.

9歳の時に両親が破産した子供が、寿司の道で身を立てて世界的な名声を得るに至ったのは、確かに「アメリカン・サクセスストーリー」的なんですが、小野次郎氏が目指しているのは大富豪になることではなくて、最高の品質を生み出すことであった。そのためには利益を度外視している、というのは、日本人の琴線に響くところであります。

この記事を書いているギデオン・ラックマンという記者は、たびたび「一服盛られているんじゃないか」などと言われるくらい中国寄りの記事を書く人でもあるんですが、日本のこともよくわかっているんですね。締めのセリフもカッコいい。


オバマ大統領、高級すし半分しか食べず?

続いて美食の国フランスのAFPから。オバマは半分しか食べなかった、との報道。まあ、もともと食の細い人ですからねえ。それにしても、「すきやばし次郎と同じ雑居ビルの地下にある焼き鳥店の店主が、次郎の店員から聞いた話としてTBSに語ったところによると、オバマ大統領はコースを半分ほど終えたところで箸を置いた」との報道はとってもリアルです。アメリカ国内の「オバマやっかみ論」に新たな燃料を投下しそうです。


Obama dreams of sushi in Tokyo: 5 things to know about Sukiyabashi Jiro -

シンガポールのStraits Timesから。「すきやばし次郎」について知っておくべき5つのこと。@ミシュラン三つ星店である、A六本木には次男経営の支店がある、B予約は至難、Cメニューは一つだけ、D香水はダメよ。これは日本人も押さえておくべき知識でありますな。


Barack Obama dines with Shinzo Abe at elite sushi restaurant in Tokyo

中国のサウスチャイナ・モーニングポストから。日米関係や尖閣の話はどこかへ吹っ飛んで、ミシュランガイドのコメントを以下の通り紹介しています。「この店で示される精神は、茶道に通じるものがある」とのこと。なるほど。

"The cool and refreshing quality of the restaurant as a whole, the concern for the customer, the perfectionism in selecting the furnishings - the spirit shown here has much in common with the world of the tea ceremony," the Michelin guide's launch edition said.


米日首脳会談:オバマ、スシ半分残しTPPで譲歩迫る

朝鮮日報からです。すきやばし次郎については触れずに、当日の様子をこんな風に描写しています。

オバマ大統領は23日、安倍首相と寿司を食べた夕食会でもTPPをめぐる譲歩をしつこく要求した。オバマ大統領は「安倍内閣の支持率は60%、私は45%だ。政治的な基盤が強い方が譲歩すべきだ」と語った。これに対し、安倍首相は「日本ではケネディ駐日大使の方が人気がある」とはぐらかした。

オバマさんがとっても無粋な反応を示していたことは、どうやら事実だったようです。


○以上、ほんのひとしずくだけ反響をご紹介いたしました。わが国広報外交の歴史の上で、特筆大書すべき成功といえましょう。


<4月29日>(火)

○祭日である。今日は会社もなし、くにまるジャパンもなし。資源ごみもなし。原稿の締め切りはあるけれども、3日後の仕事を今からやる気にはなれぬ。5月に積みあがっている仕事も、とりあえず今は考えたくはない。ということで、突然に暇になる。

○ところが困ったことに、今日は競馬はないし、映画もろくなのをやってない。本でも読もうかと思ったら、集中力もない。とりあえず以前から積読状態にあった「自滅する中国」(エドワード・ルトワック)を読了するが、あらためて感想をここに記すような面倒なことはしない。とりあえず面白かったとだけ言っておこう。

○そういえば土曜日に浅草演芸ホールに出かけた。やはり鈴本よりもこっちの方がしっくりくる。今回の収穫は古今亭寿輔であった。とにかく客いじりが絶妙に面白い。全体で約15分間の持ち時間があるとして、半分くらいは「まくら」である。あんまり気に入ったので、CDを買ってしまった。「新潮落語倶楽部H」というやつ。この脱力感が素晴らしい。やはり噺家は、こんな風でありたいものである。

○先週、鹿児島に行った際に、ご当地出身の三遊亭歌之助が好きだという話をしたら、「あいつ、最近は脱原発派になってしまって困ったもんです」との声があった。噺家が原発推進派になったら、そっちの方がよほど問題ではないかという気もするのだが、およそ世の中で「反××派」という人たちは、冗談や洒落が通じない傾向があるので、あたしゃあんまりお近づきになりたくない。歌之助はぜひ「爆笑竜馬伝」の人であってもらいたい。

○噺家によくある「三遊亭」が意味する3つの遊びとは、「呑む、打つ、買う」のことなんだそうだ。元々がそういう世界なんで、たしか立川談志師匠は、「落語とは人間の業の肯定」と言っていたと思う。ネット上でいろんな屁理屈に付き合っていると、そういうアナログな世界がとっても好ましく思える。

○ということで脱力の1日をめでながら、今宵3本目のビールを開けるとしよう。


<4月30日>(水)

○昨日ご紹介した立川談志師匠の言行録の中に、こんなセリフが入っているのですね。


国境問題と宗教問題のない国の政治家なんて、屁みたいなものです。


○これは深い。今の日本における最高の政治課題は、「尖閣」(国境)と「靖国」(宗教)でありましょう。いずれも難しい。こんな問題がなかった昔に帰りたい、という気にもなるけれども、逆に普通の国は、こういうややこしい問題を一つや二つは抱えているものであって、実は今までなかったことが奇跡だったのかもしれない。

○21世紀になる前は、「国境」といえば北方領土問題で、たしかに漁船の拿捕みたいなことはあったけれども、総じて硬直状態であって、身に危険が及ぶというほど切実な感じではなかったと思う。「宗教」といえば、せいぜいオウム事件で、国論を二分する、なんてややこしい話ではなかった。いやあ、思えばのどかな時代でありました。

○この2つの問題は、論じること自体にとっても不快感のあるものだけに、「こんなことになったのは、そもそも××が悪い」式の極論が幅を利かせるわけですが、もちろん難問に簡単な答えがあるわけはござんせん。別に朝日新聞やネトウヨを非難したところで、問題は解決しないのであります。政治家たるものは、安直な答えに逃げることなく、問題を抱えていくほかはないのでありましょう。

○おそらく1970年代に談志師匠が参議院議員であった時代には、日本は主に経済だけを考えていればよかったわけで、永田町方面にはまさしく「屁のような政治家」が大勢居たものと思われます。でも、今から考えると当時の「三角大福」なんてのは、相当な巨人であったように見えるわけでして、政治家が進化していないのに、問題の方だけ国際標準級に難しくなってしまった。そりゃあ、簡単には済みませんわなあ。

○などと、ちょっと愚痴をこぼしたくなったところで、もうひとつ談志師匠の言葉をご紹介しておきましょう。


よく覚えとけ。
現実は正解なんだ。
時代が悪いの、世の中がおかしいといったところで仕方ない。
現実は事実だ。


○噺家はときに哲学者になれる。が、哲学者に落語はできない。この国に噺家という職業があるってことは、とっても良かったんじゃないかと、ふと思った雨の夜である。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki