●かんべえの不規則発言



2000年3月







<3月1日>(水)

○アジアの旅の終わりはやはりベトナム。はだしで歩道を歩いている少年、アオザイ姿で自転車をこぐ女子高生、小さな子供をあいだに挟んで3人でバイクに乗っている若夫婦、君たちみんなが、おじさんの眼にはまぶしいぞ。日差しは強く、エアコンの効きは悪く、のどはしきりに渇くけど、これぞアジアだ。ナイキ向けの縫製工場で、忙しくミシンを働かせている女性たちの手の速さ。カメラを向けると下を向いてしまうバイク部品工場の職員たち。昨日あげた1ドル札のことを、しっかり覚えているホテルのスタッフ。政府が何をしようが、通貨危機が起きようが、日本の総合商社が何をしていようが、そんなこと関係ないわい。

○すべての取材を終了し、ただいま午後3時。今夜の深夜便で日本に帰ります。



<3月2日>(木)

○今乗っている飛行機は実に7本目。久々の国内便です。深夜便で関空で到着して入国、羽田に向かっているところ。この12日間、訪問先の5カ国で交換した名刺は60枚。この「東南アジア見聞録」もかなりのボリュームとなりました。財布のなかには、170,000ルピア、56シンガポールドル、2,100バーツ、117リンギット、36,000ドンが残っています。それそれ米ドルに換算すると、24ドル、31ドル、55ドル、31ドル、2.5ドルとなります。あとは125ドルの現金と300ドルのTCも。うーん、ずいぶん外貨を余してしまいましたね。この次、出張に行くのはいつのことでしょう。

○ベトナムについての記述が少なくなってしまいました。昨年11月の日記でもいろいろ書きましたが、この国について文字情報で伝えることは難しいとつくづく思います。あのバイクの群れの喧燥と熱気を文章で表現することは、少なくとも筆者の能力を超えています。これは映像でも難しい。ホーチミンの街頭に立って、間断ないクラクションの音を聞きながら、汗を流しつつ体験してもらう以外にない。きっと、「これぞアジア」というエネルギーを感じられるはずです。「おじさん」のアドバイスとしては、ベトナムに行くならなるべく若いうちに。スーツ着ていくべき国じゃありません。

○さて、関空に降り立って、冷たい空気にさらされてみると、「はて、ここはアジアの一部かしら」という疑問をあらためて感じます。コメを食べる、茶を飲む、箸を使う、黄色人種である、女性が働き者、などの特色は、今回の旅先では共通の現象でした。それでも「アジアはひとつ」というよりは、「アジアは多様で奥が深い」というのが実感です。(ここまで機中で執筆)

○会社に立ち寄り、荷物を一部降ろし、溜まったメールをチェックしてから帰宅したところです。「やっぱり日本は先進国だなあ」と感じたいのは、羽田空港で見た藤原紀香のポスターでした。こんなふうに気のきいたポスターは、アセアンにはありません。タイがいいとか、ベトナムがいいとかいう人はおりますが、そりゃなんといっても日本の女性がいちばんきれいですよ。別におもねっていうわけじゃありませんけどね。低成長でも、財政が借金漬けでも、変な犯罪がちょっとくらい増えても、やっぱり日本はいい国です。

○ジャカルタのジャパン・クラブで見た、一枚の張り紙のことをまた思い出しました。それは本を読んでいる、ピカチュウの後ろ姿を描いた手書きポスター。「クラブにある図書室では、会員に対して本の貸し出しを行ってますよ」、と書いてあった。図書室はずいぶん立派でしたが、それでも読みたい本がすぐに手に入るという環境ではないはず。駐在員とその家族というのは、いろんな我慢をしているわけですが、特に小さい子供にとって本に飢えるということはどんなにつらいことでしょう。本に関してはきわめて贅沢に育った自分自身と、現在、贅沢に育ちつつある娘のことを思うと、日本にいるだけでたくさんの自由を得ているのだとあらためて感じました。

○今回の出張では、そういう駐在員の方々大勢にお世話になりました。心に残る言葉もたくさんいただきました。本当に勉強になったなぁ、というのが実感です。それにしても商社マンは面白い稼業です。いつの日か、筆者もどこかの都市で、お世話する側に回るかもしれません。

○ということで、東南アジア見聞録はこれにて一巻の終り。ご愛読ありがとうございました。



●かんべえさんのスケジュール

2月20日(日)成田→ジャカルタ・・・・・・・・・・(ジャカルタ泊)済み!
2月21日(月)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ジャカルタ泊)済み!
2月22日(火)ジャカルタ→シンガポール・・・・・・(シンガポール泊)済み!
2月23日(水)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(シンガポール泊)済み!
2月24日(木)シンガポール→バンコク ・・・・・・(バンコク泊)済み!
2月25日(金)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(バンコク泊)済み!
2月26日(土)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(バンコク泊)済み!
2月27日(日)バンコク→クアラルンプール・・・・(クアラルンプル泊)済み!
2月28日(月)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(クアラルンプル泊)済み!
2月29日(火)クアラルンプル→ホーチミン ・・・・(ホーチミン泊)済み!
3月 1日(水)ホーチミン→関空 ・・・・・・・・・・(機中泊)済み!
3月 2日(木)関空→羽田  到着!




<3月4日>(土)

○アセアン諸国というのは、NHKのニュースや日本の新聞が手に入るところが多いので、大概の日本のニュースは入ってきます。それどころか、日本のトレンディドラマが見られたりするので、マニラで厚底靴が流行ったり、キムタクがバンコクに来て大騒ぎになったりするのだとか。ホーチミンでさえ、そこらじゅうにKARAOKEのネオンがあり、日本文化は着実にかの地に影響を与えています。

○ということで、出張していても、「越智金融再生委員長が辞任」という近年めずらしい欣快事はちゃんと伝わってきます。でもAそれほど熱心に見てたわけじゃないので、帰ってみると日本ではいろいろなニュースがあるので感心します。特に新潟県警の失態ぶりには笑ってしまいました。図書券を賭けて麻雀するなんてとってもお茶目。当分新潟県下では麻雀荘の手入れはできませんね。

○今日はプレステ2の発売日。平成12年3月4日とは変な日を選んだものですが、うちもインターネットで注文した現物が今朝到着しました。ネット取引とはいうものの、届けてくれるのは佐川急便。普通の通販とはあんまり変わりません。まだ梱包を開けてもいないので、プレイした感想はいずれまた。

○米国大統領予備選も面白くなっています。ブッシュVSマケインはこの時期にしては壮絶な戦いとなってしまいました。そもそもこの勝負は、テキサスとフロリダの大票田が開く3月14日には、ブッシュの優勢が明らかになる。それは最初から分かっていたことで、将棋にたとえるならこの勝負は11手先に詰んでいる。将棋のプロは、普通は11手詰みを見逃すなどということはあり得ない。しかしそこは人間だから、勝ちが見えたときに手が震えるのはよくあること。マケイン側からすれば、相手が嫌がるような手を指し続けていれば、勝機が出てくる。3月7日のスーパーチューズデー第1陣まで、まだまだ何があるか分からない。

○そうそう、将棋の世界では中原誠がB1クラスに落ちました。「十六世名人」の陥落は、古い将棋ファンにとっては衝撃的な事件です。Aクラス最後の勝負で、負けた相手は加藤一二三だったというのも感慨ひとしお。これで米長邦雄が辞めずに残っていてくれたらよかったのですが。

○などといろんなことに目移りする今日このごろ。来週金曜には、「溜池通信アセアン特集」をお送りします。2週間も休むとほんとにお久しぶりという感じですが、しばしのお待ちを。



<3月5日>(日)

○プレステ2で『リッジレーサー5』をやってみました。なるほど絵がすごい。クルマの窓に外の景色が映ってどんどん流れていく。シューティング系のゲームは、きれいな絵になれてしまうと後戻りできないから、これは流行るでしょう。ただしRPG系はこの限りにあらず。筆者は今でも、「ドラクエは3」「FFは5」が最高傑作であったと思っています。

○さてリッジレーサーでは、イントロ部分で意味もなく女性が登場します。レースに美女はつきものということなのでしょうが、テレビCMでも登場しているのでご覧になった方は多いでしょう。細身でショートカットのこの女性は、取扱説明書によれば名前は深水藍(ふかみ・あい)、1979年12月12日生まれのへびつかい座B型なんだそうです。で、彼女を見ながら、オジサンはううむと思ってしまったわけであります。なんとなればこのアイちゃんは、「リアルな日本人の美女」だからです。

○マンガやアニメで「美男美女」をどう描くかは、手塚治虫以来の大テーマでした。眼を大きくしたり、眼の中に星を描いたり、いろいろ工夫をした。なぜかというと、要するに「日本人はカッコ良くない」から。池田理代子のように、そっかー最初から外国人を描けばいいんだ、なんちゅう手法を考えた人もいる。そのうちに大友克洋が現れて、まんま日本人の絵をリアル描いたら、これが結構いいじゃないかということになった。要するにカッコイイ日本人を描くことはとても難しかった。その間、日本人は欧米人にコンプレックスを持ち続けることになった。

○たとえばリカちゃん人形は金髪です。リカちゃんは日本人のお母さんとフランス人のお父さんの間に生まれたことになっている。今でもマネキン人形は、ほとんどが欧米人の格好をしている。画家になろうとする人は、ギリシャ人風の胸像を模写することから修行をはじめた。これらは日本人がカッコ良くなかった、あるいはカッコ良く表現できなかった時代の産物です。これは日本人に限ったことではなく、おそらくアジア全体に共通した現象であったと思います。

○プレステ2というプラットフォームが、「世界に通用するカッコイイ日本人」を描き始めたとすれば、これは歴史的な偉業ではないでしょうか。日本において、リカちゃんのような「外人モデル」が不要になるだけでなく、他のアジアの国にとっても「欧米系でない美男美女」が可能になるわけですから。『リッジレーサー5』の深水藍ちゃんが、海外でどんなふうに見られるのか、ちょっと気になります。



<3月6日>(月)

○アセアンから帰ったらてきめんに花粉症再発です。くしゅん。

○明日の米国時間、いよいよスーパーチューズデーの第1陣が始まります。NY、カリフォルニア州などの大票田が開くので、ここで大勢が決する可能性もある。民主党はおそらくゴアで決まり。2月29日のワシントン州予備選では68%対31%と大差をつけた。すでにマスコミの注目は「ブッシュ対マケイン」に注がれており、ブラッドレーの存在感は薄い。ウォール街からたくさん献金をもらっているブラッドレーは、立場上、NY州が開くまでは戦いをあきらめられない。ここで駄目なら撤退する踏ん切りがつく。おそらくはそうなるでしょう。撤退するときの声明も注目点。

○問題は共和党。マケイン現象をどう読み解くかです。有権者はゴア対ブッシュという対決を、「なーんかプロ同士の戦いみたいでつまらない」と感じていた。しかも予備選挙が始まると、ゴアが左旋回、ブッシュが右旋回して、それぞれ党内のコア部分にこびるような発言を繰り返し始めた。そうなると無党派層は面白くない。そこへマケインが、政治からしからぬ率直な物言いで、ワシントン政治を変えようと言い出した。支持政党がない、あるいは毎回投票行動を変えるような層がこれにとびついた。だからオープン・プライマリーの州ではマケインが大躍進し、クローズド・プライマリーの州ではブッシュが勝つ。92年、96年の選挙ではペローに投票したような人たちが、いまやマケイン支持の中核になっている。

○3月7日の予備選では、多くの州がクローズド・プライマリーなので、ブッシュに有利な戦いとなる。その一方、どちらの候補者がゴアを相手に有利な戦いができるかといえば、おそらくマケインの方ではないか。本選になったとき、マケイン支持者(無党派)がブッシュに投票するかどうかは不明だが、ブッシュ支持者(右派)はマケインに投票するだろう。ゴアにとっても、戦う相手としてはマケインの方が嫌でしょう。

○とはいうものの、予備選の鍵を握るのはつまるところ党員。共和党の主要な組織は、1年前からブッシュ支持でほぼ固まっています。マケインは7日、ないしは14日の予備選で撤退ということになるかもしれません。つまり予定通り「詰まされる」。しかし価値ある戦いをしたことは間違いない。撤退後も影響力は残るでしょう。かつて党内の異端児と見られていたレーガンが、のちに一時代を築いた大統領となった例もある。なにより彼の登場により、共和党支持者が大幅に左に広がった可能性がある。

○アメリカの無党派層は「受け皿」を見出したようです。では日本では? 石原新党という声もあるようですが、果たして・・・・



<3月7日>(火)

○プレステ2は絶賛の嵐のようですが、うちに到着した機械は「初期不良品」と認定され、ソニーへ送り返し(もちろん着払い)の刑となりました。やけに対応が素早かったところを見ると、どうやらほかにもいっぱい同じようなケースがあるような気がします。「評判のプレステ2、実は欠陥商品」などというニュースはまだ出てませんが、そのうち出始めたりして。今からソニー株を空売りして勝負してみたい人はいませんか?その場合はもちろん自己責任でお願いしますよ。

○で、いよいよスーパーチューズデーです。今回の選挙は、「4人の有力候補がいて、この人だけは大統領になってもらっちゃ困るという人がいない、たいへん恵まれた選挙戦」です。その4人からそろそろ脱落者が出る頃合いです。ちなみにこのコメントは、米国通の小林陽太郎氏のもの。筆者ごときがどうこう言う立場じゃありませんが、さすが、という感じです。

○さて、これは「若き共和党員のためのウェブサイト」にあったという調査結果です。

@もしも4人の候補者から選べるなら、自分の父親にしたいのは誰か。
マケイン35.9%、ブッシュ24.2%、ゴア18.9%、ブラッドレー13.7%

A学園祭でデートする相手として、問題がありそうな候補者は誰か。
ゴア33.5%、ブラッドレー23.2%、ブッシュ20.3%、マケイン17.2%

Bゴルフをやるとき、スコアをごまかしそうな候補者は誰か。
ブッシュ36.4%、ゴア30.1%、マケイン9.8%、ブラッドレー8.8%

Cもっとも宇宙人みたいな候補者は誰か。
ゴア38.9%、ブッシュ20.8%、ブラッドレー17.3%、マケイン14%

Dこんなやつと1週間一緒にいるくらいなら死んだほうがマシだという候補者は誰か。
ゴア39.6%、ブッシュ27.6%、ブラッドレー9.6%、マケイン9.1%

○共和党系の調査なので、ゴアの人気がないのは多少割り引いて読みましょう。「ブッシュはゴルフのスコアをごまかしそう」というのは、なんとなくそんな気がする。うん、納得。こうしてみても、ブッシュさんはそれほど人気があるとは思えない。

○こういうアンケートを日本でもやってみたいですね。今年の年末に誰が首相かと考えてみるに、小渕さん、森さん、河野さん、加藤さん、鳩山さんあたりが候補者でしょう。父親にするならお金持ちの鳩山さんがいいなとか、小渕さんはデートの相手が決まらなくて困るだろうなとか、森さんはゴルフのマナーが悪そうだとか、いろいろ考えると楽しい。投票率を上げるにはこんな工夫もいかがでしょう。



<3月8日>(水)

○結果が出ました。民主党はゴアが完勝。ブラッドレーの撤退宣言は間近でしょう。共和党ではマケインがマサチューセッツなど4つの州を獲得しましたが、肝心のカリフォルニア、ニューヨークを取れなかったので事実上の敗北。こうなれば来週14日に開くテキサス、フロリダがモノをいってくるので、これまた撤退宣言は近いと見ます。

○これで民主党は順当にゴアで一本化するでしょう。今後の注目点は副大統領候補を誰にするかで、思い切り知恵を絞らなければなりません。無党派層を吸収できるような、斬新で意外性のある人選が必要でしょう。女性を指名する可能性も高いと思います。

○共和党はまだまだ波乱があると思います。ブッシュ対マケインの戦いは過激になりましたので、相当なしこりが残ったはず。ブッシュはサウスカロライナ州予備選で、右に振れすぎた修正をしなければなりません。でないと本選でゴアには勝てません。

○これから先のテーマは、マケイン支持層を誰が吸収するのか。ゴア対ブッシュ、どちらにとっても、無党派層を味方につけない限り勝ちはない。そうなるとマケインは大きな影響力を残したといえます。実際、彼にはいろんな選択肢がある。たとえば@「ブッシュを支持する」と宣言して恩を売り、見返りを期待する、A党を割って第三政党からの出馬を目指す、B取りあえず沈黙を守って、後日の再起を期す、など。そう考えると、マケインがどういう物言いで撤退を宣言するかが、この先の最大の注目点であるといえるでしょう。

○なーんてオタクな議論を連日続けておりますが、こういう話を面白がってくれる人はそんなに多いはずがありません。当不規則発言を訪問してくださる皆さんにおかれましては、まことにありがたいというか、何とも物好きなというか・・・・。こんな話をしていても1日50件ペースのアクセスがあるということは、だんだん自分でも恐くなってきているところ。年賀状だって最大300枚しか書いたことがないのに・・・・。間もなくアクセス数が8000件に近づいております。



<3月9日>(木)

○予想通りブラッドレーはリタイアを宣言。今後はゴアを応援すると宣言しました。予備選では見せ場を作れずに終わってしまいましたから、これは当然でしょう。ということで民主党はゴアで無難に一本化です。

○マケインは明日、声明を発表するとのことですが、選挙戦をwithdraw(撤退)するのではなく、suspend(一時停止)すると示唆しているところがクセモノ。しばらくは鳴りを潜めて様子見したいということなのでしょう。ただしブッシュが代議員の過半数を獲得すれば、その時点で意思表示を迫られることになります。昨日書いた3つの選択肢のうち、Bを選んだということと解釈します。

○マケインは、レーガン政権下で議員になったことを誇りとし、個人的なヒーローはセオドア・ルーズベルトという人ですから、共和党を抜けて無所属で勝負するなんてことは考えにくい。ブッシュに対しては、「ふん、俺の方が本流さ」くらいに思っている公算が大です。保守本流である宏池会の跡目を継いだ加藤紘一が、いくら誘われても自民党を割って出る気がないのと、ちょっと似た感じかもしれません。

○これからのゴアとブッシュにとっては、マケイン支持者をどっちが吸収するかが関心事になります。そうなると、マケインが主張していた選挙資金制度改革のようなテーマを、自分の政策に取り込もうとするでしょう。いずれにせよ、これで2人だけのレースになったなどというのは早計で、マケインの言動が選挙戦を左右する局面が見られると思います。

○ここで話は突然変わるんですが、山形浩生さんがちょっとずつメジャーへの道を歩んでおられます。『新教養主義宣言』という本が評判になっているようです。山形さんとは会ったことはありませんが、彼のHPは非常に有益なのでよく見ています。文字情報ばかりの地味な作りですが、クルーグマン論文の翻訳から各種書評の類まで、ためになる情報が満載です。リンク集(かんべえの知恵袋)にも入っていますのでご参照ください。とにかく才気煥発な人で、『クルーグマン教授の経済入門』の訳などは絶品といえましょう。赤丸急上昇中の若手論客であることは間違いありません。

○いつ頃だったか忘れましたが、山形氏に「HP、すごいですね」という趣旨のメールを送ったら、30分後に返事が来て恐縮していました。その返事の中に、「自分が便利だと思うものは他人もそうだろうから、なるべく作ったものは公開しているんです」という意味のことが書いてあった。インターネットとは、個々人のそういうボランティア精神で成り立っているわけで、個人の日記でも、株価の予測でも、アダルトビデオの批評でも、とにかく外に向けて情報発信することで使い道が出てくる。こうやってアメリカ大統領選挙についての不規則発言を繰り返しているのは、自分の考えをまとめるためにやってるわけですが、おそらく誰かが読んで役立ててくれていることと思っています。(←希望的観測)



<3月10日>(金)

○今朝、会社でHPを開いたらカウンターが「7996」。ほどなくして成田さんから「ちょうど8000でしたよ」とのお知らせメールをもらいました。毎朝職場でご覧いただいているそうで、ありがとうございます。でも今夜の会合は諸般の事情で失礼させていただきました。皆様によろしくお伝えください。

○プレステ2にリコール発生、ということでソニーの株価が下げているようです。週明けは3万円前後だったけど、今日は2万7000円台。1割近く下げています。3月7日の不規則発言を読んで、行動に移した勇気ある方はいませんか。(←だったらなぜ自分でやらないの?)

○ところで3週間ぶりに「溜池通信」を書いたらどっと疲れました。こういうものは、間があくと駄目なもんですね。調子を取り戻すのに時間がかかりそう。来週は何を書こうかな。



<3月11〜12日>(土〜日)

○ふと思い出したんですが、アセアンの街並みはアルファベットの表記が多い。インドネシア語とマレー語はアルファベットで表記する言語だし、英語が語源になっている単語が多いから、見ていてなんとなく分かる部分がある。ベトナムはフランス植民時代にもともとあった文字を根絶させられ、アルファベットを使うようになった。こっちは意味不明だけど、それでも全然知らない文字を見るよりは安心感がある。

○そんな中で、断固、伝統の文字を使い続けているのはタイ。植民地経験のない国だけあって、これは当然。アジアにおいては日本、韓国、中国などと同様に、アルファベット使用に背中を向けている。われわれあんまり意識したことがありませんが、世界の大勢となっているアルファベット使用に背を向けて生きているということは、考えてみればすごいことなんじゃないでしょうか。

○これらの国では英語の習得にハンディとなる。インターネットの世界だって英語がデフォルトになっているから、ITの発展にとっては不利な条件である。でもまあ、独自の文字を使っているということは、それだけ文化的には見所があるってことなので、独自のソフトを生み出す力があるという見方もできる。日本のコンテンツ産業(ゲーム、アニメ、カラオケ)の優秀性はその証左かもしれない。

○最近は「日本人は英語が下手」ということが問題になっております。筆者はそんな大騒ぎするほどのことはないと思っています。こういうと語弊がありますが、日本は英語学習熱だけは盛んなので、普通の国だったら絶対に受けないような人がトーフルの試験を受けている。平均点が低くなるのは当たり前です。日本国内で普通に生きていくなら、別に英語ができなくても苦労はしないんで、わざわざ英語を第二公用語にする必要なんてないと思います。

○日本という国は、世界中のあらゆる著作が自国語に翻訳されているありがたい国なんです。極端な話、インドネシアやベトナムを母国語として生まれてしまうと、外国語を勉強しなかったら本が読めない。もっといえば、英語で『三国志』は読めないけど、日本語なら司馬遷もシェークスピアも読める。こんな有利な条件を捨てることはありません。「英語文化圏がWindowsなら日本語はMacなんだ」と開き直ればいいんじゃないでしょうか。世界の脇役として生きていくというのは、日本人には似合った生き方のように思えます。

○それでも、政治家や財界人が英語ができないというのはシャレになりません。アセアンではエリート層は英語ができて当たり前。今回の出張だって、政府関係者への取材は全部英語で用が足りました。たとえばタイ人同士でも、ビジネスの込み入った話になったら英語で話しているかもしれない。筆者が日々の糧を頂戴している商社でさえ、「社内公用語を英語にしよう」は話だけで実現しません。わが身を省みて内心じくじたる思いがあるんですけど。あははー。



<3月13日>(月)

○今日は誉められた話とけなされた話がひとつずつありました。当然、悪いほうから紹介します。

○もっとも手恐い読者のひとり、Oさんからもらったメール。

>  今回は珍しく内容が散漫でしたね。やっつけ仕事ですか!

――ショックを受けたというよりは、「ちぇー、ばれたか」と思ってしまいました。正直いって、今週号は自分で納得がいってない。時間があるのに、時間に追われて書いてしまった。特にアセアン各国の政治分析が書けていないのは、悔いが残っています。素直に反省しましょう。それにしても、こういうレスポンスをいただけるのは、期待値が高い証拠。Oさんのご指摘に深謝。

○次、誉められたほう。「不規則発言」ではよく紹介している「全日本株式投資選手権」の伊藤さんが、ご自分が発行しているメールマガジンで当HPを紹介してくれました。その紹介文がこれ。

> >「溜池通信」のカンベエ氏は、私の知るなかで最も座談がうまく文章力があるエコノミストのひとりです。難解な経済問題を普通の方にもわかるように平易に語りかけてくれるでしょう。

――「座談がうまく」というところがちょっとうれしかった。伊藤さんが主催している勉強会では、もう10年以上のおつきあいですから、それこそ一緒に「座談」した回数は数え切れません。そういう人が言うのだから、真に受けていいのかな、と。ちなみに「座談」のときは、伊藤さんはいつも素朴で鋭い質問をしてくる人なので油断がなりません。

○でもねー、伊藤さん。かんべえを河野龍太郎さんと一緒に紹介しちゃ駄目ですよ。河野さんのHPは私もしょっちゅうチェックしてますけど、あっちはちゃんとしたエコノミスト。こっちは「もどき」ですから。まともに比べちゃ先方に失礼です。こちらは経済の底が浅い分を、政治ネタや外交・安全保障も取り上げるという、間口の広さと粗雑さで勝負してるんです。

○で、今夜は、蒲島郁夫東大教授による「日本政治」の話を聞いてきました。Q&Aの部分で、「政党が力を取り戻すにはどうしたらいいんでしょうか?」と聞いてみた。その答えが面白かった。いわく、「選挙で戦うことが政党のエネルギーです。相乗り選挙で手抜きをするようになると、政党は衰退します」。なーるほど、いつも全選挙区に候補者を立てているのは、自民党と共産党だけ。この両党はエネルギーを維持しています。民主党は、候補者を立てられるようになったけど、知事選では手抜きをしている点が要注意。

○候補者を擁立し、現職に異議を申し立て、お金を使って人を動員して勝負する、というのはリスクも大きいし、面倒くさい作業です。でも、それを辞めちゃったら政治は停滞する。企業がいつも金儲けを目指しているように、政党は選挙で勝とうとしなきゃ駄目。つまり競争のない世界では、組織は堕落するということですね。

○そうそう、米国の民主/共和の2大政党がしぶとく生き残っているのは、いつも予備選挙で戦っているからなのでしょう。いま、クリントンの選挙コンサルタントを務めたディック・モリスの『オーバル・オフィス』(フジテレビ出版)という回顧録を読んでいます。この中で、アーカンソー州知事だったクリントンが、あわや民主党の予備選挙で落とされそうになる逸話が出てきます。こういう緊張感が必要なんですね。納得。

○今夜はどっかのお馬鹿さんが線路に入ってしまったそうで、帰りの常磐線が止まって待たされてたいへんでした。コートを着ないで出歩くには、まだちょっと寒い3月中旬です。



<3月14日>(火)

"The Economist"誌3月11日号は、化石のようなブッシュとゴアが戦っている姿を表紙にしています。題して"New America, same old politics"(新しいアメリカとあいもかわらぬ政治)。アメリカは変わりつつある。ゴアとブッシュが、二大政党の基盤にしがみついているようじゃ駄目。この戦いの鍵を握るのは、マケインに投票した人たちだ。古い政党と新しい現実のギャップを埋められる人が勝つ・・・・。

○よくぞ言ってくださいました、という感じですね。まったく同感。共和党には宗教的右派、民主党には組合というお荷物がある。大統領候補はついこれらのグループに接近し、極論におもねってしまう。だから政治が普通の有権者の意識から遠ざかってしまう。95〜96年のクリントンは、ディック・モリスの提案を受けて中道路線を選び、ドールに大差で勝ちます。モリスの回顧録によると、これをやったときは議会共和党以上に、ホワイトハウス内のリベラル派が障害になったのだそうです。

○The Economistと意見が合うのは危険な徴候です。なにしろ格調が高いです。現実はこの雑誌ほど賢くないので、The Economistの予想はよくはずれます。「アメリカ株はバブルだ」とは96年ぐらいから言い続けてますし、「クリントン辞めろ」と訴えたがそうはならなかったし、「コソボに地上軍を」も結果的に不要だった。でも論旨はいつも明快。文章は難解。Newsweekなんかには絶対に出てこないような単語がわんさかでてきます。この雑誌とは長い付き合いですが、「The Economistはどう言ってるんだ?」がいつも気になります。



<3月15日>(水)

○ふと気がつくと、深夜の柏駅で名物となっているストリートパフォーマーより、ホームレスの方が多くなっている今日このごろ。皆様いかがお過ごしでしょうか。

○こないだ、「平日にコイン洗車に行ったら、行列ができていたのでびっくりした」てな話を聞きました。「クルマを持っているけど、平日に暇な人が大勢いる」からと解釈するのが、いちばん無難であろうかと思います。突然に暇を持て余すようになった人が、することがないから洗車をするというのはごく自然な心理であり、実際の数以上に失業率は高くなっているのではないでしょうか。

○4月1日を過ぎると、「仕事を求めたけど見つからなかった」人が一気に増えるので、おそらくまたまた失業率は高まるでしょうね。大学生の内定率はますます悲劇的な数値を示しているそうですから。GDPは2四半期連続のマイナス成長で、ますます景況感は悪化するでしょうけど、エコノミスト的に見た場合は「緩やかな景気回復」となってしまう。このギャップが当分は続くのでしょう。

○「実感なき景気回復」というのは、心理面からいうと単なる不況よりもたちが悪い。なぜなら私たちの身の回りでは、株で大もうけしただの、外資系に務めて年収が何千万だの、ストックオプションで億万長者だのという話がゴロゴロしている。貧しきを憂えず等しからざるを憂う。こういう時代には八つ当たりが多くなる。政治が非常にやりにくい時期であるといえましょう。

○解散風が突然に止んで、「任期満了選挙」説が有力になっています。当然でしょうね。人々がこれだけ不機嫌なときに、わざわざギャンブルをする必要はない。景気回復が実感できるようになるまでは、まだまだ時間がかかるでしょう。それまで、どうやって国民に納得してもらうか。こう考えると、つくづく経済学は無力な学問であります。



<3月16〜17日>(木〜金)

○今週は2度、如水会館に出かける用事がありましたが、英国大使館から竹橋にかけての桜並木が心なしか鮮やかに見えました。まだつぼみも膨らんではいませんが、あと2週間も立てば満開でしょう。花粉症はますますひどく、ポケットティッシュは1日に3つも使ってますが、それはそれとして春はいいものです。

○春に旅立つ人、動く人。特に商社業界は異動ラッシュです。目まぐるしくてたいへん。社外の友人たちからも、いろんな噂が聞こえてきます。オリックスのY氏が出向先から本社へ、光文社のM氏は週刊宝石から女性自身へ。自治官僚T氏は某政令指定都市へ。 カブト町境界人のOさんは会社を辞めました。まだまだお知らせが届きそうです。

○筆者は今のところ動く予定なし。勤め先の看板だけつけ変わることになっていて、「日商岩井株式会社国際業務部調査チーム」が、4月1日から「日商岩井ビジネス戦略研究所」になる。通信手段も机の場所も変化なし。仕事の内容はちょっとだけ変わる。『溜池通信』も続けられるでしょう。

○今週は伊藤さんがメルマガで宣伝してくれたせいか、アクセス数が多いですね。お初にお目にかかる皆さん、今後ともごひいきに。



<3月18日>(土)

○CNNで、台湾総統選での陳水扁の勝利のニュースを見ながらこれを書いています。人々の熱狂ぶりがすごい。歴史的瞬間なんだから無理ないか。それにしても来ましたねー。総統就任式はしばらく先ですが、国民党の支配が終わるということは画期的です。また政権交代があったということは、台湾における民主主義の定着を国際的に示したことにもなります。

○昨日家に届いた『フォーサイト』3月号に、「台湾海峡危機は再燃せず」という記事が出ています。これが『溜池通信』今週号と同じく、「言葉の戦争」という表現を使っています。台湾白書は国内対策の「ガス抜き」という評価も同じ。また、田中明彦教授が「中国の台湾白書がもたらした衝撃」という記事の中で、米国政治における台湾問題の潮流について解説しています。台湾に対する強硬姿勢の背景には、中国国内の権力闘争があるかもしれないとの示唆があります。

○ただし『フォーサイト』巻頭のコラムには、「中国は武力行使の可能性を否定すべきである。日本は中国に苦言を呈すべきだ」などと、まことに能天気なことが書いてあったのであきれました。小渕さんが江沢民に電話してそんなふうにいったら、向こうはアタマ抱えちゃうでしょうね。中国に何がしかの幻想を持っている人が書いたんでしょうか。編集部の見識を疑っちゃうな。

○陳水扁は49歳。おそらく来週の選挙で誕生するプーチン大統領も同じくらい。ゴアが51歳でブッシュは54歳。今年選ばれるリーダーはみな若い。日本はどうでしょう。



<3月19日>(日)

○よくよく見たら、台湾総統選挙で宋楚楡候補はかなり惜しい線まで行ってたのですね。ということは、3候補の中では、連戦候補への支持がいかに低かったかということになる。これじゃ国民党内部は荒れますね。依然として立法府では多数を握っているとはいえ、しばらくは混乱が続くでしょう。あるいは李登輝派と反李登輝派に分裂する、なんてこともあるかもしれません。その場合、国民党の巨額の資産はどうなるのかが気になってくる。いずれにせよ、今後の注目点は陳水扁より李登輝、民進党より国民党です。

○予想通り、中国は静観の構え。軍事行動ができないのだからこれは当然。しかし「言葉の戦争」も戦争には違いなく、負けたからには責任問題に発展するでしょう。江沢民=朱鎔基コンビにとっては、つらい局面なのではないでしょうか。

○もしも台湾が普通の国であれば、新総統がさっそく外遊して国際社会にデビューするのでしょうが、正式な国交関係があるのは中南米などのごくわずかな国に過ぎません。「ひとつの中国」というフィクションは、つくづく罪深い話だと思います。

○今日はすることがないので、ずーっと家で来週分の『溜池通信』を書いておりました。特集部分だけはほぼ完成。テーマはまだ内緒。テレビをつけっぱなしにしてましたが、何とも地味な一日であります。NHK杯将棋トーナメントは準決勝。横歩取り8五飛車というよく分からん戦形で、郷田が森下を下す。阪神大賞典はテイエムオペラオーが制す。ナリタトップロードはこの距離(3000m)では苦しかったか。去年はスペシャルウィークが勝って飛躍への足がかりにした。するってえと今年はテイエムオペラオーかいな。



<3月20日>(月)

○NHKの教育テレビには、ときどき端倪すべからざる番組がありますけど、子供向けの時間帯に最近の筆者のお気に入りがあります。おじゃる丸や忍たま乱太郎のあとに、かつ目すべきエンタテイメントが控えているんです。子供より大人(筆者の世代=1960年前後生まれ)に受けると思う。昔のタモリ倶楽部のようなエスプリが感じられます。

○名前は『ハッチポッチ・ステーション』といいます。午前と夕方の2回放映。この番組を仕切っているグッチ裕三という人は、これ以外では見たことないですけど、たいした役者です。今日はマイケル・ジャクソンの"Beat it"をバックに、「しろやぎさんとくろやぎさん」を歌ってました。かと思うと突然プレスリーに扮し、"I love NHK better than Minpo."とのたまったりする。"KISS"の"Detroit Rock"が「おなかが減るうた」になるのはともかく、"Queen"の"Bohemian Rhapsody"を「犬のおまわりさん」になったのは感動もの。どうやったらそんなことができるのかって? そりゃ、見てもらわないことには説明不能です。

○NHKにも筆者の世代がいて、こういう番組を作っているのでしょう。はたして彼らは『モンティ・パイソン』を作ったBBCに迫れるでしょうか?

○クイーンが好きという人は、世代を超えて多いような気がします。話していて、「どの曲をいつ頃聞いたか」で互いの年が分かる。だいたい十代で好きになった歌は、絶対に忘れるはずがないわけなんで、筆者の場合はそれがクイーンの初期の作品(特に2枚目の『Queen2』のB面)だった。若い人の中には、バルセロナ五輪でクイーンを知ったとか、フレディの死後にファンになった人たちもいる。ビートルズほどじゃないんでしょうけど、ファンが不思議と長持ちするんですね。



<3月21日>(火)

○もう春なんだから、と言い聞かせてコートなしで出かける。帰りが遅くなったのでちょっと寒いけど、それはまあ、我慢。あと10日もすれば桜も咲くだろうし。今夜の柏駅西口は、ストリート・パフォーマーが皆無。もうブームは終わっちゃったんでしょうか。さびしいですね。

○以前、この不規則発言で紹介したT先輩ですが、パチプロは3月と持たなかったようで、早くも廃業して会社を作ったそうです。資本金1億円集めたそうですから、立派なベンチャー企業。「パチンコは空気が悪いし、音がやかましいし、ガラも悪いし、負けるからもうやめ」などと言っています。普通だったら拍手するところなんでしょうが、筆者はただ一人のパチプロの知り合いを失い、山ほどいる起業家の知り合いがまた1人増えたことになるので、ちょっと残念な心境だったりして。

○今夜の会合では、またまたいろんなネタを仕込んでしまいました。とても恐くて、こんな場所では書けないような話も含めて・・・・新潟の事件の真相はねー、なんて、思わせぶりだけで止めておきましょう。そうそう、警察が図書券を使って麻雀するのは本当なんだそうです。ただし図書券はあとで額面の何倍かの値段で換金するそうですけど(当然か)。

○今夜の会合には、例の 日本の会社、いかがなものか主催者の岡本さんが来ていました。彼のHPは、現在、小峰さんというヘッドハンターのインタビューが毎日連載されていて、とても面白い。アクセス件数もガンガン増えて、今日当たり7000件に達するとのこと。向こうの方が対象としている層が広いので、じきに抜かれると思っていたけど、当溜池通信もなかなかにしぶとくてまだリードしている。「うちはお馴染みさんだけが相手だから」といいつつ、カウンターの数字はやっぱり気になるからなあ。

○それにしても岡本さんも私も、毎日よくこんな仕事を続けているものです。お互い、お金にもならないのにね。「何でHPやってるの」と聞かれて、明快な答えを返せないところも似ている。あらためて聞かれると、途中で辞められなくなって意地で続けているとしか答えようがないんだな、これが。



<3月22日>(水)

○ニュースで石原慎太郎都知事が、「もしも招待されれば、自分は台湾に行って陳総統に会う」といっていました。彼は先日、台湾に行って李登輝に会ってきたばかりですから、この発言は当然、李登輝と打ち合わせした上で出てきたものでしょう。そうでなかったら、相当に失礼な話になってしまう。おそらくは李登輝が、「陳水扁に会ってやってくれ」と頼んだのでしょう。

○「李登輝の真の後継者は陳水扁だ」ということは、いろんな人が言っている。国民党の党主席としては、野党の党首を推すわけにはいかないだろうけど。もしも李登輝が石原都知事を介してシグナルを送ったとすれば、高度な連係プレーだといえましょう。

○陳水扁にコネがある日本人は皆無だそうです。だとすると石原さんに期待するしかありませんな。ほかに腹の据わった政治家が少ないから、ついついお声がかかる。本当は、スタンドプレイの好きな亀井さんあたりが動き出すと面白いんだけどね。



<3月23日>(木)

○気がつけばあと1週間で年度末。そうだな、来週号は日本経済をあらためて検証してみようか、と思って、いろんな総研のHPをチェックしてみる。3月13日の99年第4四半期GDP統計を見て、各社とも判で押したように3月17日に改定値を出している。ご苦労様ですな。

○ご高尚の通り、99年10〜12月期の実質GDP成長率は、▲1.4%(年率▲5.5%)の大幅減となった。なおかつ政府は、景気が良くなりつつあると言っている。たしかに2000年1〜3月期は、うるう年効果があるからそんなに悪くない数字が出るはず。だから99年度成長率は、政府見通しの0.6%にぎりぎり届くかな、という感じ。

○2000年度については、総研各社でちょっとずつ見解が分かれるが、総じて似たような線でまとまっている。悲観派から順に数字を並べてみると、三和総研0.5%、野村総研0.8%、三菱総研1.0%、富士総研1.2%、大和総研1.8%、第一生命経済研究所2.1%。

○最近、統計の数字が実態を表していない、という話が多い。今に始まったことじゃないけどね。GDP統計自体がしょっちゅう改訂されるので、信憑性がないことおびただしい。結局、数字じゃなくて、向こう1年の日本経済に対し、どんなイメージを持ったらいいのか、ということが問われるように思う。『溜池通信』は昨年の夏頃から、わりあい強気の見方をしているのですが、やはりJobless Recoveryというのは気分的に明るいもんじゃない。

○ところで一日に何度もくしゃみをしていると、体力の消耗がはげしいような気がする。鼻はすっきりしないし、目もかゆい。花粉症にはこれが効く、という話はいろいろ聞くが、実行する気にならない。自慢じゃないですが、あたしゃ病院嫌い、クスリ嫌い、健康法嫌い。総じて「体調が悪いからこういう努力をする」というのがイヤなので、愚直にあらゆる症状を全身で受け止めております。

○世の中に たえて花粉のなかりせば 春の心は のどけからまし



<3月24〜25日>(金〜土)

○明日はロシア大統領選挙です。といっても結果は見えているガチガチの銀行レース。本命のプーチンホマレがぶっちぎりで勝つ予定です。勝負の焦点は、投票率がどれだけ行くか、2位の候補がどれだけ頑張るか、あわよくば決選投票に持ち込めるか、というあたり。4年前にいい勝負をしたジュガノフタイクン、最後のお願いレースに臨むフサイチヤブリンスキーなどは、本命馬を脅かすには至らないだろう。そういえば、毎度お騒がせのジリノフスキーホープは今回も出走する。泡沫候補の戦いやいかに。

○こういう結果はずっと前から分かっていたので、みんなが「プーチンホマレってどんな馬なんだ?」と気にしてきた。いやしくも政界にいる47歳の人間にしては、彼に関する情報はあまりにも少ない。「KGB出身者だから」という説もあるが、同じKGB出身のマヤノプリマコフはもうちょっと理解しやすかった。彼は一度、日本に来たことがある。外務省では必死になってその時の記録を捜したそうだが、メモ一枚残っていないという。それくらい目立たない人だったそうだ。

○ひとつだけコンセンサスになっていることがある。それは「エリツィンテイオーよりはましだ」ということ。ブレア首相やオルブライト国務長官は実際に会ってみて、「思ったほど悪くない」という感触を得たようです。これはロシア国民自身が実感していることかもしれません。プーチン新時代は民主化には逆行するかもしれないが、「とにかく秩序は回復する」ことが期待されている。

○さて、昨日から久々の里帰りで富山に来ています。天気は悪くないが、やっぱり寒い。ここへ来ても花粉症はあまり改善しません。ということでまた一句。

○ひさかたの ひかりのどけき 春の日に しずこころなく 鼻の止まらん



<3月26日>(日)

○今朝の富山は雪模様。3月も間もなく終わりというのに、窓の外ではしんしんと雪が積もっています。お隣の新潟県では、「雪見酒がしたい」と言い出したために、退職金を棒に振っちゃった方がいらっしゃいましたが、それほどまでして見るほどのものではございません。もっとも新潟県のケースでは、出迎えた県警本部長が大の麻雀好きで、「どっちが接待なのか分からない」ケースだったと聞いていますが。

○昨日のニュースでは、米沢の白布温泉が火事で焼けたとのこと。あそこは15年ほど前に泊まったことがあります。歴史の古いひなびた温泉宿で、実に味わいの深いところでした。元は米沢藩の隠し湯であったそうで、米沢駅から1時間に1本しかないバスに1時間乗ると、江戸時代から続く中屋、東屋、西屋という3軒が並んでいた。昨日は中屋が焼けて東屋にも飛び火したそうです。筆者が泊まったのは東屋だったと思います。歴史的資産ともいうべき宿で、まことに残念。

○当時、新入社員だった筆者は、部長さんと一緒に東北の支店全部を1週間で回るという、今から考えるとかなり過酷な出張をやっておりました。途中で部長が、「毎度、ビジネスホテルに泊まるんじゃつまらん、温泉に行きたい」とワガママを言い出し、仙台の支店長さんが推薦した白布温泉に予約を入れました。なるほどいい宿でしたが、翌朝は山形支店を訪問しなければならず、朝5時にチェックアウトしてバスで米沢駅まで降り、そこから特急で山形市へ行くという無駄なことをしておりました。のどかな時代でしたなあ。

○昨日の白布温泉でも、雪見酒をしていた方がいらしたことでしょう。でもねー、仕事のついでは止めましょう。ちゃんと休暇を取って、自分のお金で遊ぶ習慣をつけましょう。白布温泉はちゃんと復興してくださいね。いつの日か遊びに行きますから。



<3月27日>(月)

○先週、石油価格について書いたばかりですが、この問題、あっけなく落着するような気がしてきました。つまりこの先、石油は値崩れするのではないか。今日の日経夕刊によれば、OPECの減産破りが急増しているとのこと。3月の順守率は23%ですって。昨年9月には9割近い順守率になったので、その意外性から石油価格が上昇した。もしも産油国が減産の順守ができないのであれば、今週のOPEC総会で何を決めようがあんまり意味がない。大騒ぎするほどのことはなかったかな?

○今年のアカデミー賞は、史上初めて日曜日に実施された。いままでは「映画のお客を奪ってはいけない」という配慮から、いつも月曜日に行われていた。だからどうってほどのこともないのですが、ひとつだけ感慨深いことがある。

○ニューヨーク在住のウッディ・アレンは、アカデミー賞授賞式を今まで全部欠席してきた。いわく、「僕は毎週月曜の夜は、"Michael's Pub"でクラリネットを吹くことにしている。なのにアカデミー賞授賞式は月曜日に行われる。だから欠席する」という理屈で。筆者はその昔、月曜日にマンハッタンの"Michael's Pub"に行って、本当に彼がクラリネットを吹くところをみたことがあります。もちろんサインももらいましたとも。えへへ。

○ウッディ・アレンの『アニー・ホール』では、ウッディ自身がロスに出かけたとたんに体調を崩すというシーンが出てきます。「月曜の夜のクラリネット」は単なるいいわけで、「西海岸なんぞに行ってたまるかい」と思っているんでしょう。あるいは「アカデミー賞なんて目じゃないよ」というのか。その『アニー・ホール』が1977年のアカデミー作品賞・監督賞を取ったというのも皮肉な話です。

○1991年の裁判沙汰とミア・ファーローとの離別以来、これはという作品が出ないのはさびしいことですが、いつの日かウッディが大復活を遂げてアカデミー賞候補作を生み出してくれないでしょうか。それでもって、今度は別のいいわけをひねくり出して欠席してくれれば、それはそれでファンは喜ぶのですけど。



<3月28日>(火)

○今日はさる人から「花粉症なんでしょ?“かんべえ”読んでるから知ってるよ」といわれて、鼻血が出そうになるほど驚いてしまいました。最近はときどきこういうことがあります。先日も初対面の方に、いきなり「毎日読んでます」といわれて、二の句が継げなくなりました。いえ、愛読者に文句を言ってるわけではないんですよ。自分で自分のことを公表してるんですから、自業自得というものです。ただ、こっちが先方のことを知らないのに、向こうはこっちのことを知っているという状況に愕然としているわけで。

○自分のためにあらためて確認しておきますが、当不規則発言で書いてはいけないこと、あるいは書く予定でないことは以下の通りです。
@悪口全般。とくに自分の会社や友人に対する批判、不満など。
A周囲(とくに配偶者)に内緒にしていること全般。
Bネタ元から口止めされていること。あるいは書くとネタ元に迷惑がかかること
C極端に品位に欠けること。

○こうして書き出してみると、これらの制約を破れば読者が増えること間違いないですな。たとえば口止めされてるんですけど、元巨人軍XX選手は六本木にマンションを持っていて、そこには・・・・という話は最後まで書いちゃいけない。いかにも『噂の真相』が喜びそうなネタなんだけど、XXテレビさんにご迷惑がかかるから。(←ここまで書いて止めるのがわれながら悪趣味)。

○実生活では口が悪くて、軽くて、ガードの甘いかんべえさんですので、せめて書きものにするときくらいは品位を保ちたいと思っております。

○で、花粉症が良くならないのでまた一句。

○身はたとえ 富山の野辺で雪見でも とどめおかまじ 花粉だましい



<3月29日>(水)

○今日も株価が好調です。またしても高値を更新したようで。「じゃんけん後出し」に聞こえるかもしれませんが、筆者は株価に対してはずっと強気です。昨年末から、職場で景気アンケートの類が回ってくると、「年末の株価」の欄には「2万2000円」と書いています。本当は「2万4000円」にしたいんだけど、あんまり極端な数字を書くといろいろいわれるので、2000円ほど遠慮しています。(←謙虚だ)

○強気な理由は、1月14日号の本誌「マネー大移動の予感」で書いているのでここでは繰り返しません。あそこで書いたことは、プロ筋の方には素人臭い議論に思えるかもしれませんけど。これはかなりの暴論になりますが、株に関する理屈というのは、セックスに関する知識と似たところがあって、どんなに無茶苦茶なことであっても、信じている本人がハッピーならそれでオッケーなんですよね。アビー・コーエンさんだろうが、 カブト町境界人さんだろうが、この点で本質的な違いはなかろうと思います。

○てなことを言いつつ、筆者の株取引はお休みが続いています。株の初体験は1987年1月、NTT株の第一次放出のときでした。友人と折半して買った1株120万円が、連日のストップ高で興奮したのが始まり。幸いにも3月に280万円になった時点で売却し、当然のごとくやみつきになりました。当時は、高利回りの養老保険を解約して原資を作り、そこそこの利益を出していた。その後はご存知のとおりバブルが崩壊。海外にいたのが幸いして深手は負わなかったものの、90年代前半はつらい損切りを繰り返しました。95年暮れからはナスダックにも手を出すようになり、ネットスケープ株を3度買って3度売る、なーんて派手な取引をしたのも懐かしい思い出です。

○さまざまな喜怒哀楽を体験し、株を始めてちょうど丸10年を迎えた1997年11月、山一證券が自主廃業しました。口座を作っていた赤坂支店も閉鎖され、取引を清算するときが来ました。手元には売りそびれた3社の株券が戻ってきました。現物の株券を見たのはそれが初めてのことでした。そのときの株券は名義書換もしないまま、銀行の貸し金庫で眠っています。いつまでも山一證券の喪に服している必要もないのですが、再開の踏ん切りがつかないまま今日に至っています。

○無責任な話を続けると、今だったら「全体的に不振な業界で最大手の銘柄」がねらい目だと思いますな。現在の二極化相場はどこかで調整が行われるはずで、そのときは高値が下がるか低値が上がるかどっちかになるはず。相場全体に強気であるからには、後者の可能性が高いと見る。これも素人臭い理屈ですが、だからといって全然恥じるつもりはございません。信じる、信じないはご随意に。

○ところで愛読者の方に教えていただきましたが、3月20日に書いたグッチ裕三さんは、NHK教育放送だけじゃなくて、民放のモノマネ歌番組などで結構有名な方なんですね。じぇんじぇん知りませんでした。あははー、どうもありがとう、でした。



<3月30日>(木)

○溜池交差点の三和銀行の上に、自由党の本部があります。昨夜は出口をテレビカメラの放列が取り囲み、出入りする議員を追いかけていました。今日になってみると、自由党の連立離脱はどうやら避けられない様子。野田前自治相を中心とするグループは連立にとどまるので、党の分裂は決定的です。

○秋の総選挙を考えれば、自由党がこのあたりで連立を離脱し、「真の保守政党」で勝負するというのは十分に納得できる戦略です。96年の総選挙の際も、社会党とさきがけは春頃から独自路線をアピールしていました(フランスの核実験への抗議など)。自由党も安全保障政策などで旗幟を鮮明にすれば、なんだかんだいって世の中に小沢ファンは結構多いので、比例代表ではそこそこ議席が取れる可能性がある。「小沢チルドレン」と呼ばれる若手たちにとっては、その方がむしろいいかもしれない。

○反対に野田前自治相、二階運輸相などにとっては、これで自民党に戻れれば御の字、というのが正直なところでしょう。ちゃんとした後援会組織を持っているベテランにとっては、与党にいなければ政治をやっている意味がない。あとは政党助成金の問題がどうなるかが見物です。

○ところで次の選挙からは、「小選挙区で法定得票数に満たない候補者は、比例名簿に載っていても当選を認めない」というルールが加わる公算が高い。重複立候補というルールによる弊害の最たるものですから、これは当然といえます。しかし社民党や共産党にはこの手の候補者が多い。少数政党としては、知名度の高い候補者にはなるべく小選挙区に出て得票を伸ばしてもらいたいが、それで本人が落選されたのでは困る。自由党も同じジレンマに陥る可能性が高い。連立に残っても、去っても難しいところです。



<3月31日>(金)

○本誌の執筆で疲れたので、今日は簡単に済ませます。ネット上でこんなざれ歌を発見。いずれも光通信を歌ったもの。

ガングロを おとせば ただの携帯屋

手を出すな 光は急に 戻らない

○さらにこんなのもある。

孫さんも 演歌の孫には かなわない

○ネットバブルは本当に崩壊したんでしょうか。もうちょっと頑張ってほしいな。



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by Tatsuhiko Yoshizaki