●かんべえの不規則発言



2014年9月






<9月1日>(月)

○ああそうか、明日は邦丸ジャパンの火曜日だな。さて、何を話そうかな・・・と考えていたら、こんなページを見つけてしまった。

○これは便利だ。何しろ最近のワシは、先週何を話したかもスカッと忘れてしまうほどである。まして1か月前ともなると完全に忘却の彼方である。「その話、こないだも聞いたよ」と言われそうで怖いので、こういうページでチェックできると大変にありがたい。さらにこのページ、トータルの再生回数を計算して教えてくれる。反響の度合いが分かる、というのはまことに結構なことであります。

○ところでこういうサイトって、誰が作ってくれているんだろう。ラジオ局は文句言わないのかしら。それから、全部が全部記録されているわけでもない。とりあえずワシは、8月19日に何を話したかが気になっておるのだが・・・。


<9月2日>(火)

○いよいよ明日は内閣改造。いろんな情報が飛び交って、まことに香ばしい感じであります。なにしろ600日以上も一人も大臣が辞めないという、歴史的な安定内閣の改造でありますから、予測する方もウキウキしてしまいます。

○とはいえ、直前になってからの予想は潔くないので、以下は8月18日時点で作成したものを掲げておきます。もう外れてる部分もありますけどね。


●第2次安倍改造内閣 (予想と実際)

  8/18予想 9/3正解 備考  
内閣総理大臣                          安倍 晋三    安倍晋三 59歳 町村派 山口衆7回
副総理・財務・金融大臣    麻生 太郎  (留任)  麻生 太郎(留任) 73歳 麻生派 福岡衆11回
総務大臣                                       小渕 優子 高市 早苗 53歳 無派閥 奈良衆6回
法務大臣                                       逢沢 一郎  松島 みどり 58歳(初) 町村派 東京衆4回
外務大臣                            岸田 文雄   (留任) 岸田 文雄   (留任) 57歳 岸田派 広島衆7回
文部科学大臣                         橋本 聖子    参 下村 博文(留任) 60歳 町村派 東京衆6回
厚生労働大臣                              土屋 品子 塩崎 恭久 63歳 無派閥 愛媛衆6回参1回
農林水産大臣                              西川 公也  西川 公也 71歳(初) 二階派 栃木衆5回
経済産業大臣                              高市 早苗  小渕 優子 40歳 額賀派 群馬衆5回
国土交通大臣                   太田 昭宏   (留任)  太田 昭宏   (留任) 68歳 公明党 東京衆6回
環境大臣                               平沢 勝栄    望月 義夫 67歳(初) 岸田派 静岡衆6回
防衛大臣・安保法制担当                 石破  茂    江渡 聡徳 58歳(初) 大島派 青森衆5回
内閣官房長官                  菅  義偉   (留任) 菅  義偉   (留任) 65歳 無派閥 神奈川衆6回
地方創生・国家戦略特区             塩崎 恭久 石破 茂 57歳 無派閥 鳥取衆9回
復興大臣   竹下 亘 67歳(初) 額賀派 島根衆5回
国家公安委員長(拉致)         古屋 圭司   (留任) 山谷 えり子  63歳(初) 町村派 参2回比、衆1回
内閣府(沖縄・北方 科学技術)             有村 治子   参 山口 俊一 64歳(初) 麻生派 徳島衆8回
内閣府(経済財政・TPP)        甘利  明   (留任) 甘利  明   (留任) 65歳 無派閥 神奈川衆10回
内閣府(行政改革・女性活躍)         丸川 珠代    参  有村 治子   参 43歳(初) 大島派 参3回比
                                                                      
副総裁                          高村 正彦(留任)  高村 正彦(留任)  72歳 無派閥 山口衆11回
幹事長                                        河村 建夫 谷垣 禎一 69歳 無派閥 京都衆11回
総務会長                                  茂木 敏充 二階 俊博 75歳 二階派 和歌山衆10回
政調会長                                  稲田 朋美  稲田 朋美  55歳 町村派 福井衆3回
選挙対策委員長                          茂木 敏充 58歳 額賀派 栃木衆7回


○とりあえずの反省点。

(1)計算しなおしたら、閣僚はあと1人増員できた。それであれば、防衛大臣を岩屋毅氏にしましたなあ。

(2)女性を全体の3割=5〜6人にするのは大変です。そればっかり考えていると、どんどん変な方向に行ってしまいます。

(3)人事には「華」が必要。サプライズと言ってもよし。上の案ではそういう点が足りません。

○それにしても、谷垣幹事長とは意表を突かれました。まいった参った。二階総務会長、稲田政調会長がリークされて、なぜ幹事長の発表が最後になったのか、不思議だと思ってたんですよ。その手がありましたか。端倪すべからざる知恵というものですね。恐れ入りました。では、後は明日に。


<9月3日>(水)

○いやー、面白かった。本日の自民党役員人事&内閣改造についていくつかコメントしておきましょう。

(0)総評

○安倍さんにとっては、そもそも野党が怖くないわけですから、党内をいかにまとめて来年の自民党総裁選で再選されるかが今回の改造の狙いでした。その意味で、党内を上手にまとめたと思います。特に谷垣幹事長は妙手。なおかつ、うるさそうな石破前幹事長を、「地方に飛ばす」ことに成功した。これで党内はしばらく安泰でありましょう。石破さん、最初から素直に安保担当相を受けておいた方がよかったかも・・・・。

○先月号の文芸春秋で、安倍さんは「アベノミクス第二幕宣言」を寄稿している。今のところ、これを真に受けている人はとっても少ないのですが、安倍さんは「私はそろそろ安保モードを終えて、経済モードに戻りますよ〜」と宣言しているのだと思います。だって集団的自衛権の解釈変更を済ませてしまったら、しばらくは大丈夫。こういうところが、安倍さんらしいプラグマチズムで、経済モードに戻れば支持率は戻ると思っているのでしょう。

○他方、一部でささやかれていた「年内解散説」はこれでほぼ消えたと思います。えっ?10月26日日曜日は大安で、テレビ東京が池上彰さんの日程を抑えていたんですって? ダメですよ、その日は百里基地で航空自衛隊の観閲式があるんですからっ!

(1)谷垣幹事長

○これはお見事でした。安倍さんと考え方の違いそうな大物を持ってきて、挙党体制を作るとともに、今まで党内にくすぶっていた「谷垣さん、すいませんねえ〜」というそこはかとない罪悪感を消し去る妙手でありました。自民党の役員を、上から順に高村〜谷垣〜二階と親中派で固めたことも、北京に対するメッセージとして伝わっているはずです。

○安倍さんに「谷垣幹事長」のアイデアを耳打ちしたのは麻生さんだったとか。と聞くと、いかにも財務省が動いたように見えますけど、むしろ「麻垣康三」世代のご縁だと考える方が自然だと思います。消費税について、どういう「握り」をしたのかが気になるところです。私はむしろ、「最終決定に対しては、四の五の言わない」と因果を言い含めたんじゃないかと思います。

○今から考えると、幹事長ポストがなかなか決まらなかったのは、9月2日まで谷垣さんの返事を待っていたからなのでしょう。官邸はその間に、「小渕幹事長説」などを流して、陽動作戦に打って出た。(と同時に、ベテラン議員の皆さんに諦めていただく狙いもあったはず)。谷垣さんに断られた場合は、細田さんにお願いするか、茂木さんの抜擢か、あるいは甘利さんを幹事長に回して塩崎さんを経済再生担当大臣に使う、てなことになっていたのでしょう。

○そのように考えてみると、「谷垣幹事長」こそが今回のジグソーパズルにおける最大のピースでありました。それにしても、谷垣さんはよく受けられたと思います。間近に迫った福島県知事選や沖縄県知事選は、自民党は無理してでも勝ちに行くというよりも、むしろダメージコントロールを考えることになるのではないでしょうか。

(2)高市総務相&小渕経産相

○女性大臣の大量登用を考えるときに、「重要ポストをひとつは与える」ことにしないとカッコがつかない。変な話、「何とか担当大臣」ばかりだと、いかにも女性を軽んじているように見える。ところが、財務と外務は留任が決まっていたので、残る一つの重要閣僚ポストである経済産業省は、女性にすることが自然な選択肢であったと思います。

○当然、過去に通商産業政務次官をやっている高市さんだろう、と思ったのですが、小渕さんと逆になりました。これも悪くない選択だと思います。「原発再稼働を高市大臣でやるか、小渕大臣でやるか」を考えた場合に、前者だとたぶん荒探しが行われるが、後者だとそれが少なくて済むのではないか。属人的な要素は、小さくありませんので。

(3)塩崎厚生労働相

○昨日の朝にこの人事が漏れた瞬間に、「GPIF改革が進むぞ」ということで株価が上がりました。ただし以前の溜池通信でも書いた通り、「株だけ上げても仕方がない」。むしろ塩崎大臣としては、労働法制の改革や社会保障費の削減に取り組んでもらい、日本企業の生産性を上げてもらう必要がある。でないとGPIFが損をすることになってしまいます。

○塩崎さん自身は、むしろエネルギー政策に関与したかったのではないかという気もするのですが、なにしろ党内における数少ない改革派ですから、そっちで大いに腕を振るってもらいたいと思います。安倍内閣が経済モードに復帰するのだとしたら、厚生労働分野が最大の主戦場になるはずですので。


<9月5日>(金)

○自慢になるような話ではないのですが、「いつでもどこでも寝られる」という特技があります。ほんの5分間でも、うとうとした状態で過ごすのはリフレッシュ効果がありますもので、ありがたい特技だと思っています。

○とはいえ、普通、会議中に昼寝している際などには、周囲の音くらいは聞こえているものです。「ああ、○○さんがこんなこと言ってるな・・・」などと思いながら、でも心は夢の世界をさまよっているわけで、まことに申し訳ない次第です。それがですな、最近は本当に意識が飛んでしまうくらいに深い眠りについてしまうのです。これも年のせいですかねえ。会議中の熟睡状態から突然、意見を振られると、さすがに焦ります。などと言いつつ、なんだかんだとごまかしてしまうわけですが。

○夜の飲み会も危険水域です。呑み進むうちに、気が付けば舟をこいでいる。ちょっときまり悪いものがあります。今後はヘパリーゼを常用すべきなんでしょうか・・・。それにしても、今宵の飲み会は勉強になったなあ。などと言いつつ、どんどん忘れてしまうのでありますが。

○さらに電車の中で座れてしまったら最後、最近は即座に桃源郷をさまよってしまいます。ときどき、「ありゃ、違う電車に乗った」「乗り過ごしちゃった」などという夢を見て目が覚めるのですが、不思議なくらいに間違えないものですな。要するに普段、寝足りていないということなんでしょうが、これが私の生きる道でもある。さて、明日の土曜日は恒例の「寝だめ」をしなければ。


<9月6日>(土)

○最近話題のデング熱ってやつ、大騒ぎしすぎなんじゃないでしょうか。ヒト―ヒトで感染するわけじゃなし、致死率は滅法低いし、パンデミックがあるわけじゃなし。ほとんどの人はちゃんと治るんです。重症の方も、せいぜい1〜2日点滴を打つ程度ですから。ワクチンや治療法が確立されていないのは、「そんな薬、作っても売れないから」でありましょう。いわゆるNeglected Diseaseってやつです。

○ところがですなあ、フマキラーの株価が上がったくらいはご愛嬌として、代々木公園が閉鎖になったり、お隣のNHKでは職員が皆、長そでワイシャツになっちゃったり、ひょっとしたら日比谷公園は大丈夫かなどと心配をしてみたり。果ては「代々木公園の閉鎖は反原発デモつぶしの策謀」などという声が上がるに至っては、平和ボケもここに極まれりという気がいたします。

○その昔、熱帯地域に赴任した駐在員なんぞは、皆、マラリアの保菌者になったものですが、あれは発病するとつらいそうですよ。弊社のある先輩が言ってましたが、「たまたま日本に出張しているときに発病してぶっ倒れたんだよ。そしたら、皆がとっても丁寧に扱ってくれてラッキーだったなあ。これがニューギニアで発病したら、誰も構ってくれないからねえ」

○日本の気候はどんどん亜熱帯化していますんで、たぶん今後もこの手の病気は増えるんじゃないでしょうか。でも、よっぽど結核とかHIVの方が怖いですからね。それから、エボラなんぞと比較するのは、エボラに対して失礼というものです。あっちはマジで怖いですよ。なんかこう、ピントがずれているように感じています。


<9月8日>(月)

○「女性大臣一気に5人誕生」という件に関し、ある女性ジャーナリストがこんなことを言っていたのが印象に残っています。


「女性の社会進出にとって、数の力は大切です。女性大臣が2人だけである場合、その人が何かしくじった場合は『やっぱり女は・・・』と言われてしまう。そのことに対する、当人たちのプレッシャーも強い。ところが、女性大臣が5人もいると、何かあった時には、『あの人はしょうがない・・・』と個人問題になって女性問題にはならない。そういうことって、非常に重要です」


○なるほどおっしゃるとおりであって、地位が人を作るという話は男性に限った話ではない。座布団が大きくなれば人間は育つんです。だから男女共同参画社会を作るためには、「だから女は・・・」と周囲に言わさないことが大切なんだと思います。

○実際のところ、今回も改造内閣が発足してすぐに、「高市さん、やっぱり飛ばしてるねえ」とか、「松島さん、大丈夫かなあ」などという声が飛び交っているけれども、「女性だから」という論調にはなっていない。いや、そもそも女だと思われていないから・・・・というのは、きっと空耳でありましょう。

○ところで、今回の「5人女性大臣」を、10年以上前に達成していた内閣があるんです。それは2001年4月に発足した第1次小泉内閣。以下のようなラインナップでありました。


●法務大臣 森山眞弓

●外務大臣 田中真紀子

●文部科学大臣 遠山敦子(民間人)

●国土交通大臣 扇千景

●環境大臣 川口順子(民間人)


○なんと素晴らしい。森山法相はベテラン議員の安定感があり、現場の評価は非常に高かった。遠山文科相は初の文科省女性キャリアで文化庁長官まで務め、大臣としては『ゆとり教育』を是正している。扇千景国交相はのちに「保守党」の党首となり、参院議長まで務めている。川口順子環境相は国際舞台に強く、改造後の小泉内閣では2年8カ月も外務大臣も務めている。

○つまり5人中4人は「当たり」だったのです。ところがたった一人、田中真紀子外務大臣は破壊的でした。当時の外務省が受けたトラウマは、最近になってようやく解けてきた感があるくらいです。小泉首相自身も、「やっぱり女は大臣にしちゃいかん」と思ったのかどうか、その後の長い在任期間において新たに大臣に起用した女性は、小池百合子環境相、小野清子国家公安委員長、南野千恵子法務大臣、猪口邦子少子化担当大臣の4人だけでした。(ちなみに、小野さんと南野さんは参院枠で、猪口さんは小泉チルドレンの論功行賞と言われている)。

○とりあえず、小池大臣が居なかったら、われわれは「クールビズ」という便利な習慣を知らないまま今日に至っていたかもしれません。女性の知見を政治に生かすのはやはり必要なことだと思います。多少回り道をしたかもしれませんけれども、この流れを大切にしていくべきでありましょう。


<9月9日>(火)

○うーん、準決勝も決勝も見ないうちに終わってしまったな。何だかテニスには熱くなれないんだな。とりあえず「にしこり」と呼ぶことだけは覚えました。

○そういえばゴルフもあまり関心がない。自分でプレーすることもないし、テレビで試合を見るなんてこともない。そうか、ワシは個人競技に萌えないのか。とりあえず、自分は「何でもいいから国際舞台で日本人が勝てばハッピー」というノリではないんだなあ、と発見したような気がしております。

○その程度であるから、全く知らなかったのですけど、車いすテニスの国枝慎吾さんという人がいるのですね。グランドスラムでシングルス16勝、ダブルス15勝、パラリンピックではシングルスで金2個、ダブルスで金1個というまさに全世界ぶっちぎりの戦績である。しかも柏市在住なんだとか。どっかですれ違っているかもしれないけど、知らないからわからないよなあ。知らないというのは、怖いものであります。

○ひとつ学習しましたが、たぶんテニスもゴルフもこれからもやらないし、見ないだろうなあ。えろう、すんません。


<9月10日>(水)

○今月のカレンダーを見ていて気付いたのですが、今年は2008年と配列が一緒なんですね。そう、リーマンショックの年です。あの年は、こんな感じでした。


 帰宅途中、地下鉄を待っている最中に携帯電話が鳴ったのは、2008年9月12日金曜日の夜のことでした。相手はテレビ東京の『ワールドビジネスサテライト』のスタッフで、しきりに恐縮しながらこんなことを告げてきたのです。

「どうもリーマンブラザーズが危ないらしいんです」

 その週、9月7日日曜日には、米財務省がファニーメイ、フレディマックという2つの住宅金融公社を公的管理下に置く、という大英断を下したばかりでした。救済の仕組みはかなり複雑なもので、どれくらいの財政負担になるかは素人目には分かりにくくなっていました。それでも、「金融危機の拡大を防ぐために、ポールソン米財務長官が史上最大の企業救済策に打って出た」ことを好感し、翌日は世界中の株式市場が全面高となりました。

ところが事実上の「国有化」によって、両社の株は紙切れ同然になってしまいます。これはどこかで巨額の損が発生したはずだということになり、週の半ばには相場が再び疑心暗鬼に陥ってしまいます。先行きの不穏さを感じ取って、投資銀行の株を空売りする動きが始まりました。そして週の後半には、いよいよアメリカ第4位の投資銀行であるリーマンブラザーズが危ういという状況になっていたのです。

「週明けにどうなっているかは分かりませんが、月曜日の夜の番組で使うコメントをいただきたいのです。当日のご都合はいかがですか」

「そんなことを言っても、日曜日にはポールソンが何とかしてくれると思いますよ」

と、私は答えました。

「いやもう、それはみんな、そう思っていますよ。リーマンがつぶれるなんて、そんな馬鹿なことはないでしょう。でも週明けの月曜は祝日ですから、なかなかお願いできる人が見つからないんです。番組としては、なるべく今日のうちに決めておきたいものですから」

 人ごみの中で手帳を取り出して確認しました。次の月曜日である9月15日は敬老の日でしたが、たまたま私はその日の夜に都内で会合がありました。

「当日の夕方であれば大丈夫ですよ」

話はそこで成立し、私は電話を切りました。(拙著『オバマは世界を救えるか』の冒頭から)


○国際金融危機の大混乱と、2008年大統領選挙の興奮の二重奏が、そこから始まったのでありました。あれから6年。不思議なもので、経済の混乱はどうにか落ち着きを見せ始めており、QEという非常手段を使ったアメリカの金融政策もようやく「出口」に近づきつつある。他方、カッコよく当選したオバマ大統領は、内政では手詰まり、外政ではお手上げの体たらくで、どう考えても2か月後の中間選挙では痛い目に遭いそうである。何だかひと時代が過ぎたな、という感じがいたします。

○それでは問題です。ちょうど6年前の9月10日には、日本には何があったでしょう。答えは、「自民党総裁選が告示された日」なんですねえ。そう、福田康夫首相が9月1日に驚天動地の辞意表明をして、日本政治は麻生首相誕生へと動いていたのです。うー、何だか頭がクラクラしてくるぞ。


<9月11日>(木)

○ウラジオストックに来ております。シベリア航空で成田からわずかに2時間(でも、しっかり出発は1時間遅れた)。街の風情はヨーロッパであります。日本から2時間で行ける欧州、というのは、観光的には十分に売りになるのではないかと思います。

○もっとも入国にはビザが必要であったり、カバンを開けろと言われたりするので、あんまり観光客に優しいモードではありません。そもそもここは元は軍港。東方を制圧するための基地だったのであります。港湾の写真を撮ったりしようものなら、キツイお叱りを受けた場所なのです。

○とはいっても、もはや冷戦時代の記憶は遠く、ウラジオストック港などはスパイ衛星を使うまでもなく、グーグルアースでばっちり覗けてしまう世の中となりました。さて、極東ロシアをどうするべえ、というのはプーチン政権にとっては比較的優先順位の高い課題となっている様子であります。

○富山県出身者としては、ここから見る日本海の潮の流れが右から左になっているという点に胸踊るものがあります。日本海岸から見える日本海は、いつも左から右に潮が流れているのであります。日本海を北から見る、というのはそういうことなのであります。

○子どもの頃に見かけたロシア船の水兵さん(と言っても、当時はまだソ連邦である)たちは、岩瀬浜から5キロの道のりを遠しともせずに歩いてきて、うちの実家の近所のスーパーで下着などを買っていたものである。その姿、どう見てもアメリカと世界を二分するようなものではなく、昭和40年代の日本の方が生活水準は上であったものと思われます。思えば、不肖かんべえが初めて意識した外国がそれでありました。

○念願かなって日本海を越えました。ホテルから見る夜景もきれいで、ちょっと函館みたいです。ちなみにウラジオストックは、函館と秋田と新潟の姉妹都市です。


<9月12日>(金)

○今日は「第5回ウラジオストックフォーラム」の初日。極東ロシアのインテリゲンツィアたちと、アジアの安全保障や日ロの市民社会の現状などについて語り合う。

○外はとってもいい天気。お昼休みに港を見て回り、丘に上がり、写真を撮る。昔だったら、怒られていたはずである。それから土産物屋を冷やかし、やたらと多い新婚カップルを眺める。金曜日だからか、やたらと結婚式が多いのである。ただしこの国では、カップルの75%が3年以内に別れてしまうのだそうだ。ううむ、そんなことでいいのだろうか。

○ちなみにロシアの出生率の減少はすでに止まっている。この点で、少子・高齢化問題では日本より一歩先を進んでいるともいえる。ただし、数の多い1980年代生まれが既に30代となり、これからは数の少ない1990年代生まれが子供を産む年代に差し掛かるので、再び出生数は減ってしまう恐れもある。

○などなど、いろいろ書くべきことはあるんだけれど、ホテルの電圧が一定しないせいか、PCの調子がむちゃくちゃ悪いので、この辺でやめておきます。それに明日は「極東開発」のセッションがあって、ワシが報告しなきゃいけないし。さて、どうしたものかね。まだまだ夜は長いのであった。


<9月13日>(土)

○ロシア人を相手に、愛想笑いを期待してはいけない。空港でも、ホテルのフロントでも、土産物屋でも。みなさん、どこかぎこちない表情をしている。こちらから笑いかけでも、あんまり効果がない。やっぱりこの人たちは外国人が嫌いなのかなあ、と思ってしまうのである。

○が、酒宴となると人が変わる。延々と続くスピーチ(これがまた、実に気の利いた発言なのである)、そして繰り返される乾杯。もちろんウオツカである。さらに食事も膨大な量が出てくる。ただしデザートは出ない。実は結構、甘いものが好きな人たちであるらしいのだが。

○お別れの時が来ると、本当に名残惜しそうに挨拶や握手が途切れない。きっと日本人以上にシャイで情の細やかな人たちなのである。経済制裁やら人口減少やら、いろんなことを議論したけれども、かくしてウラジオストックの夜は更けていく。ダスビダーニャ、そしてスパシーバ。


<9月14日>(日)

○ウラジオストックから無事に帰ってきました。午前中にスーパーに立ち寄って、ウオッカを一本買ってきました。「乾杯!」ではなく、自分のペースでちびちび飲んでみたいと思ったものですから。さっそく自宅で試しておりますが、これは悪くないものであります。後は黒パンと塩付けニシンが欲しいところです。この3つが揃えば、後はどうでもいいのがロシア人である、と袴田先生から教わりました。

○ワシがまだ若かったころに、「ソルティドッグ」というカクテルがはやっていた。ウオッカを売るために、グレープフルーツジュースで割るということを、どこかの知恵者が考えたのであろう。当時は焼酎も、いろんなもので割って「チューハイ」と称しておった。今は焼酎を割ろうとすると、「なんて勿体ない!」と怒られる。まあ、どの道そんなに高級な酒じゃないのだから、何だっていいのだと思うんですけどね。

○それはともかく、このままいくと「軍師官兵衛」が始まる前につぶれてしまうかもしれぬ。なんとなれば、ウラジオストックは日本よりも西にあるというのに、時差は2時間もアヘッドなのである。極東ロシア全体に合わせているためにそうなっているのだが、不自然なことこの上なし。まあ、でもいい気分だから良しとしよう。不肖かんべえのロシア人化が一歩進んだかも。


<9月15日>(月)

○スコットランドが独立するかどうか、という話が騒ぎになっていますね。運命の住民投票日まであと3日。所詮は無責任な第三者的な立場なのですが、だんだん気になってきました。

○まずは素朴な疑問から。「独立すると、連合王国(The United Kingdom)はユナイテッドでなくなるんだろうか?」――正解はこの人に教えてもらったのですが、そうではないんだそうです。英国の正式名称は、"The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland"でありますから、北アイルランドが残っている限りは「連合王国」なんです。でも、スコットランドが抜けてしまうとGreat Britainがグレートでなくなってしまう、というカッコ悪いことになってしまいます。

○本当に独立してしまうと、国旗はどうなるんだ、という疑問も生じます。ユニオンジャックから青色が消えてしまうと、白と赤だけのデザイン的にさびしい国旗ができてしまいます。さらに言うと、英国が国旗を変えた場合にオーストラリアやニュージーランドはどうしたらいいんでしょう。いっそこの際、新しい国旗を作りますかねえ。

――そういえば、ニュージーランドは今週末9月20日が総選挙でしたな。国民党のキー首相、3期目なりますか、どうか。

○もう少し真面目な議論をしますと、通貨をどうするかが気になります。そのまま英ポンドを使うのか、独自通貨を作るのか、それともユーロに加入するのか。いずれにしても、今週の通貨マーケットは荒れそうですね。まあ、独自通貨だけは止めておいた方がいいと思います。北海油田はじきに枯れますからね。

○さらにスコットランドの独立が成功した場合に、欧州の他の地域の独立運動が加速することが考えられます。バスク地方とか、いっぱいありますからね。でも今回のスコットランドは、「英国政府がちゃんと認めている住民投票」であるという特殊ケースでありまして、それがない住民投票でいくら独立票が多かったとしても、ダメなものはダメなのであります。今春に行われたクリミアの住民投票も、ウクライナ政府が認めていないから本当は×です。

○わが国でも、沖縄県知事選に「独立」を目指す候補者が居るそうですけど、くれぐれも変な幻想を抱いちゃいけませんよ。その一方で、台湾が刺激を受けて公民投票で独立を問う、と言い始めることも考えられますね。香港もいろいろときな臭いので、意外と中国が気にしているのかもしれません。


<9月16日>(火)

○今週はスコットランド独立投票にFOMCなど、重要イベント目白押しの1週間なんですが、とりあえず市場関係者にとって今宵の話題はこれ一色ではないかと。


●テレ東の大江麻理子アナ、結婚 「心の支えできた」

2014年9月16日18時19分

 テレビ東京アナウンサーの大江麻理子さん(35)と、マネックス証券社長CEOの松本大(おおき)さん(50)が結婚することが分かった。同局が16日、発表した。大江さんは2001年に入社。バラエティー番組「モヤモヤさまぁ〜ず2」などの担当を経て、今年3月末から報道番組「ワールドビジネスサテライト」のメーンキャスターを務めている。

 大江さんは「いつまでも互いを慈しみ、感謝し合える夫婦でありたいと思っています。心の支えができた今、これまで以上に仕事にも邁進(まいしん)してまいります」とコメントしている。


○さて、結婚式の司会は誰に頼んだらいいでしょう。お節介ながら考えてみました。


(1)さま〜ずの二人 (せっかくのお二人の前途がもやもやになってしまいそうなので、これはいけません)

(2)佐々木あっこさん (アナウンサーとしての先輩だから順当な選択。単勝倍率2倍程度か)

(3)池谷 亨さん (NYから名乗りを上げるかも。そういえば池谷さん、ちゃんと赤いブレザーに黒いシャツ、黄色のタイで、『ルパン三世』=実写版をやってください)

(4)池上 彰さん (大穴だけど、絶対イイと思うけどなあ。総選挙もしばらくなさそうだし、テレ東さん、スケジュール押さえちゃったら?)


○少しだけ複雑な心境ですが、おめでとうございますと申し上げましょう。大江さん、仕事はちゃんと続けてくださいね。


<9月17日>(水)

○いよいよ明日がスコットランドの運命を決める住民投票である。世論調査の賛成と反対は、なおも拮抗している様子。しかるに独立が決まってしまうと、その後はいろいろ大変なことになるらしい。一昨日の当欄で書いた、国旗や国名の話などは児戯に等しい。The Economist誌のカバーストーリーによれば、以下のような懸念があるとのこと。


●核ミサイルを搭載した原潜はスコットランドの海軍基地が母港であり、独立後もすぐには動かせない。核保有国が一つ増えてしまう?

●EUに好意的なスコットランドが抜けてしまうと、英国のEU脱退の可能性が高まってしまう。

●北海油田による収入は既に減少している。独立すれば、外国企業はスコットランドからイングランドへ脱出するかもしれない?

●英国政府はスコットランド独立後の通貨同盟を拒否。だって割り勘負けしちゃうから。他方、スコットランドには政府債務の分担を拒否するという手が残されている。

●でもスコットランドが脱退すれば、イングランド側は激怒するから、両国の仲は非常に険悪になる。その後の政策運営は大変だよ。


○この手の説得を聞いたうえでなお、「これはスコットランド人の魂の問題だ(=だから独立だ)」と言うような人は、言っちゃ悪いが自暴自棄になっているのではないかと思う。というか、ワシはその手のロマン主義が根本的に欠如した人間なので、この手の状況に直面したら、最初から「独立なんてメンドーなこと、考えるの止めましょうよ」と言い出すタイプである。逆のタイプから見たら、なんというつまらぬヤツ、と思われるであろう。

○今のスコットランドは、たぶん日本の過疎地や極東ロシアなどと同じ問題を抱えているのだと思う。経済のソフト化、サービス化に従って、雇用は都市部でばかり生まれるようになる。さらにグローバル化に沿って、製造業はどんどん海外に移転していく。結果として若者は地方を離れていき、どんどんさびれていく。そこで中央への怨嗟の声が生じ、独立への支持を加速する。ただし、それは多分に自棄のやんぱちみたいな議論であって、うまくいかないであろうことは、彼ら自身が内心ではよく承知しているはずである。

○せめてもう少し景気が良ければ、あるいは未来に希望が持てていれば、人は「死の谷を越えようとする大ジャンプ」みたいな冒険をする気にはならないものである。ごく普通に、今夜のおかずや明日のささやかな約束のことを気にして日々を過ごしていく。間違っても、独立などという理想に酩酊したりはしないものである。

○先に期待がもてないからこそ、人は過激な言葉を弄し、思ってもみない運動に身を投じてしまう。最近、評判の悪い朝日新聞は、その昔「私たちは信じている、言葉のチカラを」というキャンペーンをやっていた。(どうでもいいことだが、今この「ジャーナリスト宣言」なる文章を読むとかなり笑えます)。みずからの言葉に酔うという行為は、後になってみるとかくもカッコ悪いという好例でありましょう。

○毎晩のように、ネットになにがしかの言葉を刻んでいる不肖かんべえは、実は言葉の力などというものはあまり信じてはいない。毎日読んでくれている人には申し訳ないが、言葉はすべてを伝えられないと思っている。そして哀しいくらいに誤解の方が多い。仕方がない、世の中はそういうものなのだ。だから理想よりも現実、言葉よりもモノやカネの方が大事だとワシは信じるものである。

○ということで、英国政府はあと1日、全力を尽くしてスコットランドへの説得を続けるべきである。ひとつキャメロン首相に試してみてもらいたいのは、トニー・ブレアとブラウン・ゴードンという2人のスコットランド人の元首相を、「地方創生相」に任命することである。お二人は労働党だけど、こういうことこそ超党派でやらなきゃいけませんよね。


<9月18日>(木)

○昨日のエントリーに対して、愛読者Bさんから気の利いたひとこと。


独立は夢こそよけれ スコッチの 明日の一杯が 飲めてこそあれ


○願わくば、明日も余計な心配をしないで晩酌ができますように。最近のワシのお気に入りの寝酒はこれである。

○ちなみにブックメーカーは、反対派の勝利を予測しているとのことである。そのようになってくれれば、今週の3大イベント(FOMC、スコットランド投票、大江さん結婚報道)がすべて落着することになる。良い週末となりますように。


<9月20日>(土)

○土曜日のお昼、家族が皆出払ってしまい、ひとり家に残る。つまりオヤジにとっては、ラッキーな休日ということである。

○こういう日は、一人でラーメンを食べに行くことが多い。先日は久しぶりに守谷の「ラーメン二郎」に遠征した。待っていたところ、ひとつだけ空いていたカウンターの席に、「吉崎さんどうぞ」と促されてしまった。あらら。ワシ、そんなに常連だったかしら・・・。

○今日は柏市内の名店「長八」にしようかと思ったが、あそこはどうかすると駐車場が空いていないことを思い出し、日和って「幸楽苑」へ。安い醤油ラーメンを頼んで、「そう、これこれ」と思った。化学調味料の味、というのを思い出したかったのである。

○しばらく前から放置してあったDVDを見る。『栄光への5000キロ』。石原裕次郎が『黒部の太陽』とともに、ソフト化厳禁を遺言していた作品である。昭和時代の日本人のドラマで、浅丘ルリ子が美人であることに驚くが、主役はサファリを疾走する日産ブルーバードだと言っていい。これ、今の日産の社員が見たら、いったいどんな風に感じるんだろう?

○夏服のブレザーをクリーニングに出し、ついでに切れていた電球も取り替えて夕方を迎える。ああ、今日は早くビール飲んで寝よ。


<9月21日>(日)

○本日は相撲見物。9月場所のナカ日8日目。たま〜に見に行くと、これが面白いんだな。印象に残った取り組みを下記。


●逸ノ城 と隠岐の海、上手投げで逸ノ城の勝ち。(7勝1敗)

――昨日初めて敗れた逸ノ城、髪がまだ結えない21歳の若さが人気です。

●旭天鵬と松鳳山、肩透かしで旭天鵬の勝ち。(6勝2敗)

――ゴジラ松井とおない年、大ベテランの技がさえました。館内は割れんばかりの拍手。最高齢記録をどんどん塗り替えてください。

●魁聖と大砂嵐、寄り切って魁聖の勝ち。(4勝4敗)

――ブラジル対エジプトの戦いはブラジルの勝ち。大相撲のグローバル化はここまで進んでます。

●高安と遠藤、押し出しで遠藤の勝ち。(1勝7敗)

――目にも鮮やかな永谷園の懸賞金が5本。「こいつに勝てば、今日はキャッシュで25万円」というインセンティブを相手に与えてしまうからか、今場所の遠藤は大苦戦。人気者はつらいね。やっと今日、初日が出ました。

●碧山と豪栄道、叩き込みで碧山の勝ち。(4勝4敗)

――みんな応援しているのに、初大関はなかなか勝てませんねえ。今日で黒星3個目。

●豪風と稀勢の里、押し出しで稀勢の里の勝ち。(7勝1敗)

――目つきの悪さは石破さん級。でも、勝てばいいのだ。無敗の両横綱を追え。

●白鳳と常幸龍、寄りきりで白鳳の勝ち(8勝0敗)

――さすがの貫録。存在感で他を寄せ付けず。塩をまいても、手刀を切っても、ひとつひとつの動作が絵になります。


○そういえば、某県知事と某国大使をお見かけしたような気がしました。きっとみなさん、エンジョイされていたことと思います。


<9月23日>(火)

○以前にも書いたように、今月の曜日配列は2008年とまったく同じ。あの年も23日(火)が秋分の日でお休みでした。さて、6年前の今週、どんなことがあったのか。笑っちゃうくらい、すごい1週間でした。


●9月21日(日) 民主党大会で小沢代表が3選される。

●9月22日(月) 自民党総裁選で麻生太郎が第23代総裁に選出される。(麻生太郎351、与謝野馨66、小池百合子46、石原伸晃37、石破茂25)

●9月23日(火) 公明党大会。NYでは国連総会が始まる。

●9月24日(水) 臨時国会召集、首班指名。参院は小沢一郎を指名したが、衆院優越の規定により麻生太郎が第92代内閣総理大臣に就任する。その日のうちに組閣、認証式。

●9月25日(木) 麻生首相、NYへ出発。国連総会で演説。画期的な内容であったが、この日、小泉純一郎元首相が不出馬発言したために、日本国内ではほとんど目立たず。

●9月26日(金) 米大統領選挙の第1回テレビ討論会(ジョン・マッケイン対バラク・オバマ)


○ちょうど先週月曜日の敬老の日が「リーマンショック」であったために、NYは、いや世界経済は大混乱状態。9月1日に福田首相が突然の辞意表明をして政権をバトンタッチしたのは、麻生首相の下で選挙を戦うためでありました。ところが「自民党を救うために誕生した」麻生政権は、「日本経済を救わなければならない」ことになる。そこから「未曾有(みぞうゆう)」の混乱が政治でも経済でも生じるのであった。

○それはそれとして、日本の首相が国連総会に必ず出席するようになったのは2008年の麻生首相をもって嚆矢となります。その後は鳩山→菅→野田→野田→安倍→安倍と続いて今年に至ります。それ以前はあまり出ていませんでした。実は小泉さんでさえ、国連で演説したのは1回だけなんです。それ以前は外務大臣に任せたり、ひどい年には国連大使にやらせたこともありました。でも、国連はプロトコールに忠実ですから、首脳>外相>大使の順で扱われます。欠席裁判になるくらいなら、やっぱり首相が出ておくに越したことはありません。

○さて、安倍さんは明後日、25日に演説の出番が控えているわけですが、麻生演説からちょうど6年目ということになります。まことに光陰矢のごとしであります。


<9月24日>(水)

○今日は国際大学の出張講座で新潟県南魚沼市にある六日町図書館へ。テーマは「遊民経済学の時代と観光ビジネス」。このテーマ、やはり関心が高いんじゃないかと実感しました。

○ついでに面白いところを訪ねました。それは八海山雪室。1000トンの雪で全体を気温5度に冷やしつつ、日本酒の熟成を待つという試みです。雪室自体は去年できたばかりなので、4年後の発売を目指しているとのこと。「八海山4年物」をどんな名前で、どんなコンセプトで、いかほどのプライシングで売り出すのか。さらには、どうやって設備投資のコストを回収するのか。企業戦略としてもさることながら、そもそもどんな味わいになるのか、興味深いところです。

○夕方に戻って、夜は神保町の川府という四川料理店でチャイナウォッチャーの会合。信じられないくらい、安くてうまい店でありました。ご関心のある方は、内山書店の向かい側をお探しください。


<9月25日>(木)

○今日は米国の政治経済情勢について講演会をやりました。ポイントは、@経済はよくなっていて、金融政策も出口に差し掛かっている。が、国民の景況感は明るくない。A政治はあいかわらずで、中間選挙が終わっても特に状況が改善する様子はない。B米国外交はしばらく内向きモードが続くので、日本としてはやりにくい、といったところ。

○ちょうど今週月曜日に、日刊産業新聞でかなり長文のインタビュー記事が出ましたので、リンクを張っておきましょう。何と言うか、アメリカについて語ることは昔ほど面白くはないし、重要度も薄れてきているような気がする。もちろん多くの人の関心が得られるとも思えない。

○今宵はTPPで、日米閣僚協議が物別れとの報道あり。そうでしょうなあ。ハッキリ言って、アメリカが対日交渉で何を得ようとしていたのかがわからない。このままいくと、2期目のオバマさんは何一つ達成することなく終わっていきそうな予感。むしろ、対「イスラム国」戦闘で下手を打たないように祈るべきか。なにしろ「イスラム国」をこれだけの勢力に育ててしまったのは、オバマさんの不作為の罪なんだから。

○こんな状況が、少なくともあと2年は続きそうである。次の楽しみといったら2016年大統領選挙くらいだが、それにしたって新たなスターが出てくるような感じではない。アメリカウォッチャー業界にとっては、冬の時代が到来しているのかもしれない。


<9月27日>(土)

○ある人から聞いた話。ミツバチの研究をやっている友人がいた。ミツバチについてとても詳しいのだが、困ったことにどんな話でもミツバチにこじつけてしまう。「今日は天気が悪いね」と言っていると、「天気の悪い日のミツバチはね・・・」と話し出すし、アメリカの話をしていると、「アメリカのミツバチはね・・・」と割り込んでくる。この間、周囲の空気などは一切読まない。あのミツバチ野郎、最近どうしているんだろう・・・というのである。

○なるほど、そういう人っていますわねえ。ワシの周囲なんぞ、オタク体質の人間が多いから、それこそ「××野郎」だらけである。この××の部分は、なるべくユニークであってほしいもので、それが「日本サッカーの現状」とか、「地に堕ちた朝日新聞」とか「中国経済崩壊論」みたいにどこにでも転がっているネタであると、あんまり聞いていて感心しないものであります。「ミツバチ」は競争率が低そうなんで、初対面であればきっとバカ受けするでしょう。いつもいつもそうだと、たぶん持て余してしまうでしょうけれども。

○そうかと思うと、自分の得意なネタが出るまでじっと我慢しているというタイプもいるもので、こういう人はときどき周囲が、「おい、ミツバチはどうなってるんだ?」と声をかけてあげなければいけない。ワシの見るところ、北朝鮮の専門家はほっておいても最新情勢や自分の見解を語ってくれるが、ロシアの専門家は人に聞かれないと発言しないという傾向があるような気がする。たぶん前者は一人ひとりの意見が違い過ぎるので、常に自己主張をしなければいけないのに対し、後者はある程度専門家同士が一定の認識を共有しているからではないかと思う。

○ミツバチ研究、なんてのはそれこそ孤独な世界であるから、ついつい語ってしまうのでありましょう。オタクの多い世の中には、きっとミツバチ野郎も多くなる。きっとワシも、他人の眼にはそういう風に見えているのかも?


<9月29日>(月)

○なんとなくむかっ腹が立つこと、あれこれ。

○その1。御嶽山の噴火で少なからぬ犠牲が出て、痛ましいことはこの上ないのだが、なんとなく誰かを責めたくてうずうずしているように見えるマスコミ。噴火予知に限界があるのは、地震予知と同じこと。人智など、所詮は大自然の前にはたかが知れている。責任の持っていき場所など、あるはずがないと思うのだが。

○その昔、山を登るときにはこんな歌をうたったものだ。♪娘さんよく聞けよ、山男にゃホレるなよ〜山でふかれりゃよ〜若後家さんだよ〜。♪ その覚悟のない人間が、山に登ってどうする。本気でリスクゼロの人生を望む人は、山にも海にも街にも田舎にも病院にも行かないことをお勧めしたい。

○その2。少し旧聞に属することだが、吉田調書なるものが非公開になっているからと言って、そこにすごい秘密が隠されていると思う人は、どういうアタマの構造をしているのか。吉田調書は政府事故調や国会事故調などの資料となり、既に多くの人の目に触れている。にもかかわらず、門外不出の秘密が隠れているはずがないだろう。仮にあったとしても、この国は秘密が守れない国であることはつとに有名ではないか。

○多くの事故調の報告書はすでに公開されている。吉田調書のエッセンスはそこで使われている。なおかつ、特ダネが隠れていると思い込むのは記者の勝手だが、変な読み方をして飛ばし記事を書くのは忍耐心のない証拠である。そんなことだから、朝日は「信じちゃいけない吉田氏を信じて、信じて当たり前の吉田さんを疑った」と揶揄されるのである。

○その3。で、いつまでたっても朝日新聞が懺悔をせず、社長も辞めないものだから、週刊誌の朝日バッシングが止まらない。普通だったら、内閣改造後の週刊誌は新大臣のスキャンダル探しに熱中するものである。が、朝日叩きの方が売れるから、いつまでたっても「撃ち方やめ」にならない。いまどき企業防衛として、これだけ下手なケースはめずらしい。

○結果として、ちょっと危なっかしい閣僚が枕を高くして寝ていられる。そして安倍内閣の支持率が高目になる。いいんですかね、そういうことで。朝日が望んでいるのと、どんどん逆コースに向かってますけど。

○その4。先週の日中経済協会の訪中ミッションでは、「日中雪解けムード」「李克強首相が出てくるかも」などと周囲が持ち上げるものだから、中国側としてはかえって対日譲歩がしにくくなった。だから出てきたのは汪洋副首相である。ホントは、サプライズを仕掛けたかったのかもしれないのに。そういうところ、下手だよなあ。

○思うに北方領土でも、拉致問題でも、本当に欲しいものがあるときは、あんまり欲しそうな顔をするものじゃありません。でないと高く売りつけられてしまう。まして厳しい相手なんだから。商売人なら常識のこの法則、いい加減、気づきましょうや。

○もっとも何かイベントがあるたびに、いつもいちばん楽観的な観測に流れるのはこの国の常である。オリンピックでも、W杯でも、テニスの四大大会決勝戦でも、アジア大会でも、いつもいつも事前の期待値を上げてしまうんだものなあ。おめでたいといったらありゃしない。


<9月30日>(火)

○雑誌編集者と打ち合わせ。書評欄をどうリニューアルするか、てなことで。

○昔は良いエッセイの書き手が居ましたねえ、てなことでひとしきり花が咲く。「伊丹十三の文章は良かった」ということで衆議一決。俳優で、映画監督で、CM作家で、雑誌編集者で、物書きでもあった。大学受験には失敗しているのだが、どこであの広範な教養を身につけたのか、まったく分からない。『栄光への5000キロ』に出演していたが、ちゃんと現地で英語が通じたのは伊丹だけだったと聞く。異能の人というほかはない。

○劇作家兼演出家のつかこうへいも、人生があまりに無頼なもので、身辺雑記を書いたらそのままドラマになる人だった。典型的な分裂型ヒステリー性性格で、目立ちたがりで、そうかと思うと自己罵倒する。自分の近くにいてほしくはないが、遠くで見ている分にはこんなに面白い人はいなかった。

○将棋の芹沢博文九段の文章は達意の名文であった。「新潟の酒といったら越乃寒梅じゃなくて八海山」みたいなしょーもないことを、実に魅力的に、説得力を持って読ませてしまう。弟子筋の先崎学九段がその線を目指しつつも、妙に小市民的なところがあるのでさすがに届かない。今となっては完全に忘れ去られた人であるから、芹沢本が復刻されるなんてこともないだろう。ちょっと惜しい。

○政治の世界では早坂茂三がいた。人間・田中角栄はまことに強力な磁力の持ち主であったが、会ったことのない人にはそれが伝わらない。ところがイエスにおけるパウロのように、田中には早坂秘書という伝道師がいた。多くの人は早坂の筆を通して角栄を知り、永田町の世界が玄妙であることを知り、なるほど世の中にはこういう世間知があるものかと感心することができた。今の若い人には、そういうお手本がないのだよなあ。

○要するにこの世の中からは無頼派が消えつつある。せいぜい伊集院静と西原理恵子くらいしか残っていない。ほとんどの人が組織に属していて、誰かに守られようとしている時代には仕方のないことかもしれぬ。名文家として名前を残したければ、とりあえず医療保険やら国民年金を捨てるところから始めるべきだろう。

○いかんねえ、こういうのをMid Life Crisisというのか、最近のワシはついつい愚痴が多くなる。秋深し 昭和を語れば とめどなし。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki