●かんべえの不規則発言



2003年8月



<8月1日>(金)

○なんともう8月になってしまった。今月は夏休みモードで行きます。だから本日分の溜池通信もお休み。不規則発言も手抜き気味である。

○今週ショックだったこと。某日、外交・安全保障論の若手中心の会合に出たところ、「この中では、吉崎さんがいちばんシニアなんですけど」といわれたこと。が〜ん。話が始まったら、案の定、20代の棋士がやっている研究会に、中年のオヤジ棋士がひとりで混じっているようなものであった。要するに難解で、ついていくのに苦労したのである。う〜む、若い衆には優秀なやつらがおる。10年前のワシなどは、のどかなものであったがのぅ。

○その逆だったのが、某日、伊藤洋一さんと一緒にお昼したとき。やれ、田中はいつになったらHPを再開するのか、内山さんは番組終わって何してるんだろうとか(注、ここにいることが多い)、いろいろ話していたんだけど、例によって元気な師匠に押されまくり。ふと気がつくと、伊藤さんは1950年生まれだから、なんと10歳も上なんだあ、と発見。比べる相手が悪いんだけど、10年後のワシはどうなっておるのかのぅ。

○ということで、オヤジにも若者にもかなわない、中途半端な42歳中年男性は夏枯れモードなのである。といっても、今さら焦ってどうなるものでもない。一日一日を過ごしていくしかないのである。

○とりあえず読書でも、ということで『日米関係のリアリズム』(北岡伸一/中公叢書)。共感することの多い本であった。気に入った場所を抜書きしておこう。

●「アメリカが追求する利益があって、それを理念が覆い隠しているのではなく、結局その理念が実態なのである」

――この文章はSIIについて書かれたものだが、理念追求型のアメリカ外交の本質をいい当てている。イラク戦争でも、「アメリカのホンネはXXにある」てなことを言ってた人は大勢いたなあ。

●「天皇を筆頭に、みんながひたすら忠実に憲法を守るとき、明治憲法は作動しなくなってしまったのである」

――これに近いことが、最近の日本企業でも多いような・・・・

●「外交は利他主義ではなく、自己利益を基礎として構築されなければならない。他者への愛情や同情ほど不確かなものはなく、自己愛ほど確実なものはないからである」

――「私は別にアメリカが好きなわけじゃない。だが、アメリカと同盟することが日本の国益だから、仕方なくそうしているに過ぎない」とでも言えば、世の反米派の心も少しは休まるかも。


<8月2日>(土)

○関東地方の梅雨が明けて、いよいよ日差しもまぶしくなってきた。ほとんどつける機会がなかったエアコンも、午前10時から全開に。夜は恒例の手賀沼花火大会。やっと夏らしくなりましたな。

○『同盟を考える』(船橋洋一/岩波新書)。日米同盟が語られることは多いけれども、ほかの国同士の同盟はどうなっているのか。こんな疑問から始まった取材が、「米韓同盟」「NATO」「独仏関係」「米英の特殊な関係」などを俎上に挙げていく。豪州やカナダが、アメリカを相手にした同盟関係で、大いに苦労していることが分かって面白い。ひとことで言っちゃうと、「世界唯一の超大国との同盟というものは、本来的に不平等な性格を帯びざるを得ない」(ラルフ・コッサ)なのである。

○日本語の「同盟」という言葉から、「対等」というニュアンスを読み取る向きが多いかもしれない。だから「片務的」ではいけない、「双務的」にしましょう、といったことが言われる。しかし人間関係、それもビジネス関係に絞ってしまえば特にそうなるが、「対等」などということは滅多にあるものではない。本当は力関係で差があるのだけど、表向きはそうでないかのように振る舞いつつ、われわれの日常は成り立っている。国と国との関係もそんなものなんだろう。

○日米同盟のお手本として、米英関係が引き合いに出されることがある。米英は、同じクラブに属しているような目に見えない絆があり、「首脳同士が波長が合う」ことが多い。同じようなユーモア感覚を共有しているという強みもある。ただし、米英のような「特殊な関係」は、やっぱり特殊な事例と考えた方がいいのであろう。そして「特殊な関係は、成熟した国家間ではあり得ない」(ニクソン)のである。

○本書が書かれたのは1998年である。オルブライト国務長官が、アメリカのことをReluctant Single Super Powerと評した時代だ。ボスニアやコソボには、嫌々ながら介入していたのである。「9・11」後の今となっては、なんとも懐かしい時代のことのように感じられる。


<8月3日>(日)

○柏市の市議会選挙が公示された。ということで、今日の昼見たら、選挙広報版には50枚近くものポスターが張られている。あっという間の早業である。

○ポスターが張られていないと、「XX候補は人手が足りないらしい」という噂が飛ぶ。そうなると事務所に人が近寄らなくなってしまう。だから、なるべく早い時間に張らなければならない。ところが公示日の朝は、各候補者は出陣式を行う。運動員もできれば出陣式には出たいわけだが、みんながそうしているとポスターが張れない。だから出陣式の最中に、ポスター張りをやってくれる仲間が必要になる。そんなわけで、公示日の朝は選挙戦の勝負どころとなる。

○それにしても、こんなたくさんの候補者の中から、誰を選べばいいというのか。柏在住も長くなって来たので、知ってる顔触れもあるんだけど、「この人に是非」と思うような候補者はおりませんな。

○民主党の新人候補者がいる。20代で、どういう経歴なのかはまったく分からない。この青年、先日駅前で見かけたところ、ただ「おはようございます」「いってらっしゃい」と挨拶をするだけで、政策だの抱負だのは一切、口にしない。馬鹿なのか利口なのかはまったく分からない。ただ、余計な演説をするより好感度が高いことは間違いない。この男は当選するだろうな、と思った。

○左派政党のおばさん議員がいる。春先にはイラク戦争反対を唱えていた。先日見かけたときには、「相続税の物納のせいで、街の緑が失われている」といった問題提起をしていた。今回の選挙では、ポスターの政党名を見えないくらい小さな字にしている。ベテランというものは、さすがに機を見るに敏である。このおばさんも当選するんでしょう。

○外務省OBの変な無所属議員がいる。昔、市長選に打って出たときには、「元気力エネルギー」などという無茶なスローガンを使っていた。たまたま先日、この人が外務省時代に書いた論文をネット上で発見したが、存外まともな内容で、ただのトンデモ系議員ではないことが判明した。今回は沼南町との合併促進を公約にしているようだ。

○投票日は8月10日である。いちおう棄権はしないようにしよう。


<8月4日>(月)

○先日来のたびかさなる激励の成果により、(しつこい嫌がらせに耐えかねて、という説もあるが)、田中裕士さんのHPが更新されました。ぜひ訪問してみてください。田中さん、双子のお誕生、おめでとう。

○ネオコン派の巣窟、Weekly Standard誌の電子版を見ていたら、懐かしい名前を発見。John J. Tkacik Jr。昨年、台湾で行われた日米台三極対話で会ったヘリテージ研究所の中国アナリストである。「Peking Ducks」(北京ダック=けむに巻く中国)という記事を寄稿している。例によって要旨をまとめておく。

http://www.weeklystandard.com/Content/Public/Articles/000/000/002/946anjsb.asp

●北朝鮮問題で中国はアメリカに協力的である、というのは大間違いである。「あいつらアメリカ人はイカレてるから、何するか分からないぞ」というメッセージを伝えるだけで、ちっとも役に立っていない。北朝鮮の同志を裏切るつもりはないらしい。米中朝の3カ国協議をする分にはいいのだが、日韓を入れた5カ国協議は嫌がる。だが、アメリカとしては是が非でも5カ国協議にしたい。

●米国務省を訪れていた中国の外務次官に対し、たまたま韓国の外務次官と日本の藪中局長もワシントンに来ていたので、ケリー次官補が4者で内輪の夕食会を誘ったら、「とんでもねェ!」(Hell no.)と断られたそうだ。そんなことをすると、「もしもバレたときに、中国が北朝鮮を騙したように見えるから」と言ったという。要するに中国は、ワシントンの側ではなくピョンヤンの側に立つということだ。

●中国は北朝鮮が核爆弾を持つことを憂慮していないようだ。核実験をされたりして、本当に持っていることがバレると困るが、持っているぞと騒ぎ立てる分には構わない。むしろアメリカが北朝鮮を武装解除するぞという方が嫌なのだ。過去半年の間に、中ロは安保理で北朝鮮を非難することに4回も反対している。7月18日にはエルバラダイIAEA事務局長が、「北朝鮮の現状は核不拡散体制に対するもっとも直接かつ深刻な脅威である」と宣言しているのだが。

○米中の腹の探り合いは面白い。中国としては、世界に残された「唯二の社会主義国」として、やっぱり北朝鮮は見捨てられない相手なのだろう。おそらく北朝鮮に言いたいことはたくさんあっても、間接的な方法で不快感を表明しているのであろう。たとえば供与する重油の量を減らすとか。そういうコミュニケーションが、ちゃんと金正日の体制に通じているかどうかというと、これはやっぱり分からない。

○中朝が、「とにかく日本を入れるのは嫌だ」ということで一致しているというのが興味深い。これに対してアメリカは、「日本を入れるのが当然だ」と言っている。実際に狙われているわが国としては、もちろん入れてもらわないと困る。このゲームはつくづく複雑だ。


<8月5日>(火)

○夕方の雷雨には意表を突かれました。傘なんてまったく役立たず。そんな中を虎ノ門の東京財団へ。安全保障関係の集団の初会合。ではまた、北朝鮮問題から始めましょうかということになり、「アメリカは実は何もする気がない(中東で手いっぱい)」という見方と、「核保有を許すとは思えないので、何かするだろう」という見方が出る。これはまあ、現状における2つの通説というべきで、議論を始めると尽きないところである。かといって、容易に決め打ちできる話でもない。

○皆さん、関心があるのが先日来の「パウエル辞任説」である。タカ派からの意図的なリークだったのか、それともワシントンの夏枯れメディアの餌食になったのか。たしか昨年夏に同じ噂が流れたときには、ウォール街が下げたほどだった。今度はそうはならなかったところを見ると、皆さん「その気持ちは分かる・・・・」と思っているのではないか。「あんたが辞めてもらっては困る。でも、止められないよなあ」。でも、その結果として、「ウォルフォビッツ国務長官とラムズフェルド国防長官体制」ができたりすると、やっぱり怖いと思うぞ。

○パウエルなきブッシュ政権、というのは、同時にアーミテージのいないブッシュ政権をも意味すので、日本外交にとっても非常に痛手になるはずである。また、中道派の民意としては「ブッシュ政権は右寄りだが、パウエルがいるから安心」と思っている層は少なくないだろうから、選挙前にかかる噂が流れるのは、ホワイトハウスとしても困るはず。ブッシュ自身はその辺をどう考えているのか。気になります。

○会合後にビールを飲んでいたら、面白い意見を聞いた。イラクであれだけゲリラが出るのは、アメリカがあまりにも楽に勝ってしまったために、イラク国民の間に厭戦気分ができなかったからではないか。すなわち、ラムズフェルド・ドクトリンの副作用が出たのではないか、と。かんべえは保守的な人間なので、やっぱり戦争はパウエル・ドクトリンに限ると思っている。この辺のことは、本誌の5月30日号「イラク戦争への暫定的評価」で書いているのでご参考まで。

○たしかマキャベリの君主論の中にも、「苦労して征服した国は統治しやすい。簡単に征服した国は統治しにくい」てなことが書いてあったと思う。イラクは後者の典型的なパターンですね。現在の泥沼状態は、「すばらしく短い戦争」の対価と考えるべきかもしれません。


<8月6日>(水)

○昨日、書いた通りのことがギャロップのHPに出てました。題して"Powell Departure Would Hurt Bush Administration"(パウエルの離脱はブッシュ政権に打撃)。

http://www.gallup.com/poll/releases/pr030806.asp

○パウエル国務長官への好感度(Favorable rating)は83%と、上司であるブッシュ大統領より18ポイントも高い。それも一貫して、安定的に高いところが光る。パウエル人気は、共和党支持者で94%、無党派で78%、民主党支持者で82%と、まんべんなく広がっている。ブッシュの政策に反対という人の間でも、69%がパウエルには好意的だ。こういう人物が閣外に去るのは、やっぱり打撃であろう。

○「不規則発言」の2001年1月31日分では、パウエルが新長官として、国務省で初めて行った演説を取り上げています。今読み返してみても、彼の人間的な魅力が全面的に出ていて、本当にいいですね。ウォルフォビッツの記者会見なども、機知に富んでいる点では読むものを飽きさせないところがありますが、心を打つという感じではありませんからな。


<8月7日>(木)

○アーノルド・シュワルツネッガーがカリフォルニア州知事に参戦。そうでしょうね、ターミネーターが「妻が反対するから自分は遠慮する」では、洒落になりませんものね。ところでカリフォルニア州は、以前にも俳優出身の知事を誕生させたことがあります。さて、誰でしょう?

○シュワちゃんは、ブッシュ・パパの時代から、共和党のためにいろんなお手伝いをしてました。「それでは皆さん、ご紹介いたします。アメリカ合衆国大統領、ジョージ・ブッシュと奥様のバーバラ・ブッシュさんですぅ」みたいな役割は、彼にはピッタリでしたから。ところで問題は、彼がカリフォルニア州知事になってしまうと、現ブッシュ大統領の選挙にどう響くかです。できれば民主党の知事を残しておいて、「この州がこんなになったのは民主党のせいだ!」と言った方が、ブッシュの再選戦略には好都合なんじゃないか。なにせ全米の選挙人の10分の1以上を占める大票田だけに、2004年選挙でこの州がどっちに転ぶかは大問題です。

○今宵は西麻布の「権八」で、CSISのW研究員を囲んで。7月23日の不規則発言で紹介した、"Iraq's Post-Conflict Reconstruction"について聞いてみると、やはりイラクの現状への危機感は強いらしい。だいたいが、CSISが行っている「戦後のイラク統治」に関する数々の提言を、ペンタゴンがほとんど無視しているからこんなことになる、という怒りもあるらしい。ブッシュ政権はイラク戦争の開戦に当たり、CSISの情報を上手に利用したが、それは「つまみ食い」だったのかもしれない。

○最近のCSISでは、北朝鮮の核開発問題に対するシミュレーションを行っている。名づけて"Bold Sentinel"(着想豊かなる歩哨)。結論部分を読むと、冒頭に"Preventing transfer is first priority. --North Korea is dangerous but somewhat contained."とある。やっぱりなあ、と思う。北が核を持っても、すぐに使う気遣いはないだろうから、とにかく流出を止められればそれでいい、という認識だ。結論として、アメリカが軍事行動に訴える可能性は低い。もっとも、この研究に参加しているのは、ジョセフ・ナイのような穏健派の学者であり、ペンタゴンはまたもCSISには耳を貸さないのかもしれないけれど。

○冒頭のクイズの答えはロナルド・レーガン。俳優としてのキャリアは、シュワちゃんの方がはるかに上ですけどね。悲しいかな、オーストリア生まれのシュワちゃんは、憲法上の規定で大統領選挙には出られません。


<8月8日>(金)

○機械受注は好調、景気ウォッチャー指数も上々です。こうなると気になるのは来週8月22日に出る4−6月期GDP。結構、いい数字が出るような気がします。そうなると、世の中の景色はまた一段と変わって見えるはずなんですよね。「沸騰点が近い」というのは、ちと大袈裟でしょうけれども。

○あとの心配は冷夏。明日は台風も上陸か。まあ、家でのんびりすることにいたしましょう。しばしの夏休みでござりまする。


<8月9日>(土)

○今日、台風とともに自宅に到着したのは新しいパソコンでした。IBMのダイレクト販売で、もう少し先になると思っていたのですが、意外と早かった。早速、新しい方でサイトの更新を試しているところ。

○買ったのはThinkPadのT40というタイプです。ちょっと奮発しました。この機種、IBMは「ノートブックのメルセデスを目指す」といっているそうですから。有楽町のビッグカメラで現物をチェックしたところ、40万円を超えるハイ・スペックのバージョンはすべて売切れになっているのに驚きました。いや、もちろん、あたしゃそんなに高いものは買いませんよ。それにしても、ハイエンドユーザーというのはいるものですね。

○セットアップは例によってこの人の手を借りてしまったことは、今さら隠してもしょうがないだろう。あはは。


<8月10日>(日)

○台風一過。今日は暑いっす。柏市市議会選挙の投票所も閑散としておりましたな。そういえば昨日、お昼に入った中華料理屋で、某N候補の運動員たちが優雅にお昼してました。いかんですね。かの田中角栄先生も、「選挙期間中は握り飯に限る」と言っておられましたぞ。われわれが入る前からいて、支払いはわれわれより遅かったようなので、あんまり士気は高くないようでした。大丈夫かね?

○我孫子市のスーパーに入ったら、「三田明サイン会」をやっていた。はて、三田明って、何をしてた人だっただろう。大脳皮質のかなり下の方にかすかに残っている名前なのだが。

「ゴジラに出てた俳優さんだったっけ?」
「それは宝田明」
「あ、必殺シリーズの人か」
「それは三田村邦彦」

○お父さん、何を言ってもまるで駄目なのである。長女が買ってきた新しい靴のことを、パンプスだかミュールだかも分からなかったので、著しく信用を落としている。うーん、三田明かあ、歌手っぽいけど、どんな歌があったのかなあ。沢たまきは「ベッドで煙草を吸わないで」でしたっけ。芸能ネタには弱いんだよなあ。


<8月11日>(月)

○「何をノンキなことを」というお叱りの声もあったりするのだけれど、三田明は「入や萬成証券」のイメージキャラクターをやってる人なんですね。

http://www.iriya-bansei.co.jp/onair/index.html 

○こんなCMをご記憶の方も多いかと思います。

資産づくり心得帖

1、『戌亥の借金、辰巳で返せ 陰陽は自然の道理』
2、『放れて十字は明けの明星 宵の明星』
3、『節分天井、彼岸底 もうはまだなり、まだはもうなり』
4、『鬼より怖い、一文新値 損切りドテンは福の神』
5、『ひつじ辛抱 申酉さわぐ 無欲万両値千金』

○十二単の女性が「まあ、これなら任せて安心ね」と言うCMなんですが、はっきり言ってこれらは相場をちょっとでもかじったことのある人ならば、「知らないやつはモグリ」の格言集なんで、これで安心というのはいかがなものかと・・・ところで今年は「辛抱」のひつじ年なんですけど、やはり年後半は下げるんでしょうか?

○柏市議会選挙はこんな景色とあいなりました。

http://www.city.kashiwa.chiba.jp/topics/810senkyo.htm 

○案の定、「若くてニコニコ」の20代候補者が1位、2位を占めております。共産党は4議席も取っているのに、社民党はゼロだとか、公明党の7議席は得票数がきれいに散らばっているとか、「なるほどねえ」と感心することしきり。「選挙車を使いません」という公約のI候補者も、しっかり当選しておりました。投票率が4割を割っているのは、昨日が暑すぎたからでしょうかね。

○新しいPCが届いて、周辺機器を買ったりしたこともあり、マニュアル類を見たり、コールセンターに電話したりで休日を消化しています。大方の人もそうだと思いますけど、こういう作業、あたしゃ苦手です。昔から難解な本は放り投げ、退屈な話を聞くと素早く寝てしまう人なので、どうにも我慢がならぬ。とりあえず、ThinkPadのT40は良いノートブックだと言っておこう。


<8月12日>(火)

○「これが本当にお盆の天候かねえ」と首をかしげながら、関越自動車道を北へ。毎度おなじみのお盆の帰省ですが、長い梅雨がようやく明けたあとは、台風がやってきて、今日は降ったりやんだりです。日本海側に出てみれば気温は25度前後。今年の夏はいったいどこへ行ってしまったんでしょうか?

○予定より早めに富山県に着いたので、滑川市のほたるいか水族館なるものに立ち寄ってみた。あいにく休館日だったが、開いていたらやっぱり、入るかどうかで悩んだであろう。でっかい石に俳句が刻んであって、それがこんな具合である。

網引けば 一瞬光る ほたるいか

○うちの長女K(15歳)でさえ、頭を抱えていたぞ。ひねりなさい、ヒネリなさい。これでは歌にも何にもなってないじゃないか。やはり富山県に観光業は似合わないような気がするなあ。

○私の場合、富山の海の幸といえば、ズワイガニ、白えび、ブリが御三家ですな。これにバイ貝を加えても苦しゅうない。ほたるいかはなくても全然OKである。今宵は上記4種類を全部制覇して幸福であった。ありがたきかな。


<8月13日>(水)

○例年の富山の夏は暑いものなのですが、今日はエアコンなしでも風が入ってくる穏やかな一日。今年初めて、ゆっくり高校野球を見てしまいました。愛工大名電に勝った佐賀の鳥栖商業はいいチームですね。それから富山商業は、甲子園特有の何か見えない力に背中を押されるようにして勝ってしまいました。

○昨日、発表の4−6月期GDPは予想通りいい数字が出ました。こうなることを見越してか、ここ1ヶ月の日経新聞はじょじょに悲観から楽観へと半分だけスタンスを移していたように思われます。それも、「特殊要因が」「長期金利上昇の懸念も」「米国経済にも不安が」などの留保条件をいっぱい付けての話ですが。いつも言ってることですが、多数派のエコノミストと日経新聞のアリバイ工作は信用してはいけません。政治の世界におけるこの人みたいなものですな。

○景気の強さを裏付けるようなこんなデータがあります。4−6月期の携帯電話(含む自動車電話、PHS)の販売台数は1320万台。第3世代携帯の伸びもさることながら、カメラ付き携帯がとにかく絶好調。搭載率8割というから驚きだ。

http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/cellular/2003/index.htm 

○カメラ付携帯+新三種の神器(PDP、デジカメ、DVDレコーダ)といったデジタルAV機器の好調を考えると、ビジュアルに対する日本人の感度が高まっているようです。こういうトレンドは、かならずアジア全体に波及する。なにせデジカメなんぞ、今年上半期の国内販売が378万台で、海外輸出分が1683万台なんですから。景気を支えるビジュアル熱中症、というテーマでビジネス雑誌の特集が1本組めると思いますぞ。


<8月14日>(木)

○午後7時のNHKニュースのトップが「寒い」でした。今日は10月下旬の気候だとか。上着を持ってきたから良かったようなものの、半袖だと寒さを感じる今日の天気です。天気図を見ると、日本の上空に居座っている前線は限りなく梅雨前線のように見える。明日も雨ですね。

○欧州などでは熱暑だそうですから、相当な異常気象。「えらい時代に生まれてきてしまったなあ」という長女Kのぼやきに対し、親の世代としては返す言葉がありませんな。

○この冷夏、米の作柄への影響が心配になるところです。当地では、「ゴールデンウィーク前に植えたところは大丈夫」などと言ってます。この後の気候にもよりますが、苦戦することは間違いないでしょう。条件はおそらく朝鮮半島でも同じでしょうから、これが原因で北朝鮮の苦境が深まるというリスクも考えておかないといけないでしょう。

○水道の水に触れるとしみじみ冷たい。これはまあ、暑いときでも富山の水はそうなのである。ペットボトルにこの水を詰めて、「富山の水道水」というブランドで、「南アルプスの天然水」よりも少し安い値段で販売してみたらどうだろう。結構売れるかもね。


<8月15日>(金)

○高速道路で帰ってまいりました。関越トンネルを抜けるところまでは順調でしたが、関東地方は強烈な雨。渋滞らしい渋滞は所沢から練馬までの5キロだけでしたが、雨の中の走行はやっぱり怖い。お盆だというのに、トラックは結構走っているものですね。

○練馬のインターで「ETC/一般」という行列についてみたところ、前のクルマ3台が連続して現金支払いでした。当方ももちろんETCなんぞ積んじゃいないので、ちょっと拍子抜けしましたな。ところによっては「ETC専用」レーンが、「モーゼの十戒のように」そこだけ空いていたりして、あんまり普及していないんだなあと思いました。

○高速道路無料化論については、前から何度か書いているし、すでに話題になっています。今回の里帰りでは、「練馬−滑川」間の8100円を支払ったわけですが、これにガソリン代を片道4000円で計算すると、トータルで2万4000円くらいになりますな。家族4人で割ると一人往復6000円となって、航空料金や新幹線に比べるとびっくりするほど安い。しかも荷物を持たなくていいのはありがたい。(帰りのクルマには、向こうでもらったコメまで積んでいる)。高速道路は本来、無料であるべきという議論は確かにその通りなのですが、他の交通手段との見合いで考えると、そう無茶な料金体系ではないのかなと感じました。

○昨日の「富山の水道水」ですが、実在します。1本500ミリリットル。1箱24本入りで、3150円(消費税込み)、というのは安いか、高いか。試してみたい方は下記をご参照。

http://hokuriku.yomiuri.co.jp/infos/kurasi/kou_t403.htm 


<8月16日>(土)

○いやはや、うちにも着てしまいました。ウイルスが。皆さんもお気をつけください。とりあえずウチの場合をご紹介しておきます。

○昨日くらいから、買ったばかりのThinkpadでやたらと「svchost.exeが動きません」というエラーメッセージが出るようになった。再起動すれば直るけど、また元の木阿弥になる。あれれ、初期不良かな?と思ってIBMのサポートに電話してみると、とりあえずリカバリーすることを勧められた。CD-ROMやリカバリーCDなしに、ハードディスクを出荷時の状態に戻すことができるのである。なるほど、再インストールするよりはるかに簡単であった。しかし、またまた同じメッセージが出てしまう。はて面妖な。

○「それって、ウイルスみたい」とこの人が言うのでやっと判明した。ネットにつないでいると、何度も似たような攻撃を受けるらしい。Blasterワームの仕業だったのです。しょうがないから、マイクロソフトのHPからセキュリティプログラムをダウンロードして、ノートンのアンチウイルスを更新して、それから全部のファイルにチェックをかけて、やっと人心地がついた。どうやら世間の皆さんもこの件で大騒ぎだったのね。Blaster関連情報は下記をご参照。

http://www.microsoft.com/japan/technet/security/virus/blaster.asp 

○思うにこれが休暇中でなければ、どこかで耳にはさんで気づいていた可能性が高い。さらにもって、PCが買ったばかりであるから、余計なことを考えて、無駄な回り道をしてしまった。憮然。アウトルックの仕切りなど、全部やり直しになってしまったのだから頭が痛い。結局、今日の一日はなんだったのだろう。しかも、ファイルを移し変えているうちに来週使う予定の資料を消してしまうし。どうせ外は雨なんだけど、こういうことで時間がつぶれるのはとっても悲しいぞ。


<8月17日>(日)

○ふう、明日は出社です。なんだか新しいPCのご機嫌伺いばかりしていたお休みでしたな。今日もこわごわ、なるべくネットにつながないようにして使っています。Wordで文章を書くときなど、まだ慣れない感じがする。前のThinkPad(Win95)とは結局、丸3年と1ヶ月のお付き合いでした。それ以前のLet's Noteから数えると3代目のマシンになります。さて、いつまでもつでしょうか?

○ぼーっとしている間に、NYの大停電とか、カリフォルニア州のシュワちゃん騒動とか、いろいろありました。それでも今年の夏はどちらかというと、平穏無事で済んでいる気がします。

○もっとも安心するのはまだ早く、ここ数年を振り返ってみても、9月にはビックリすることが多い。

2002年「日朝首脳会談」(9月17日)
2001年「同時多発テロ事件」(9月11日)
2000年「ユーロ安、石油価格上昇」(9月中旬)
1999年「東海村原子力事故」(9月末)
1998年「ロシア金融危機」(9月)

○というわけで完全に夏休みボケした状態ですが、明日からは少しシャンとしましょう。そうそう、明日夜はJ-WAVEのFifteen Minutesに呼ばれておりますので、例によって午後9時15分頃に登場いたします。よろしくね。


<8月18日>(月)

○久々に出社したら、会社のPCに届いていたメールが111本。ぎゃあ。しかも「メールボックスが一杯です」という警告も。ぎゃあ、ぎゃあ。しょうがないから、せっせと過去のメールを削除する。これが面倒なんだ。しくしく。

○そんな中で、微笑ましいメールが来ていた。つい先日まで筆者の同僚だったH君からだ。H君は陣内孝則からメガネをはずして、毒気を抜いて、30代前半に戻したような好男子である。会社を辞めるというから、みんなで止めようとしたが、「いえ、どうせ会社は10年勤めたら辞めて、放浪の旅に出るつもりでしたから」と言う。これでは二の句が告げないではないか。ともあれ、拍手で送り出すことに衆議は一決し、H君はアッパレ日本を離れて放浪の旅に出たのである。

○最初に便りが来たのは、なぜかインドネシアのボンタンからであった。カリマンタン島にあるLNGのエネルギー基地である。放浪の旅とはいいつつも、まだセンチメンタル・ジャーニーの気分が濃厚だったのかも知れぬ。(H君は元ジャカルタ駐在員)。それが今回は台湾からメールが来た。台風10号の難を逃れて、高雄から奥に入ったところの温泉に浸かったりして、どうやらご満悦の様子。次は中国本土に渡るつもりらしい。

○思えば、放浪の旅に出るのに遅すぎるなんてことはない。これから先の人生、今より若い瞬間はないのだから。H君のような堂々人生の夏休みは、とってもまぶしく見えるぞ。ああ、ワシも何とかしたいのう。


<8月19日>(火)

○今日も涼しい一日。季節の挨拶をどう言うか、思わず悩んでしまう朝が続いています。こういう状態でも、残暑見舞いって言うんでしょうかね?

○冷夏による影響はそこここに見られる。朝の通勤コースで舞浜駅を通ると、明らかにディズニーランドの動員は例年に比べて減っている。そうかと思うと、夕刻のお台場は人でごった返していたりする。ここを参照すると、何かのライブが中止になった様子。それはともかく、汐留に負けないように、頑張ってるね、フジテレビ。

○冷夏の陰で、意外に健闘しているのが映画業界だという。『踊る大捜査線2』は言うまでもなく、『パイレーツ・オブ・カリビアン〜呪われた海賊たち』もヒット街道驀進中だそうだ。日本では海賊ものは流行らないというジンクスを破れるかどうか。そういえば、あの愚作『ターミネーター3』も客が戻っているようだ。こちらは「シュワちゃんのカリフォルニア州知事選出馬」が逆に宣伝になっているのかも。映画で票を集め、選挙で客を呼ぶ。なんという商売上手!


<8月20日>(水)

○来月になるとこんな映画が封切りされるそうです。

『踊る大総裁選2』(★☆☆☆)製作:自由民主党

2年前に大ヒットした前作の続編である。製作側の意図は明快だ。「敵の敵は味方」とばかりに、左の民主党と右の自由党がレインボーブリッジを架けた。これを封鎖して、人気を取り戻そうというのである。

しかし前作と同じ配役、同じプロットに新鮮味はない。これが2年前なら主演・小泉純一郎の人気だけで十分に客が呼べたのだが、支持率8割だった頃に比べると、さすがに見飽きた感は否めない。前作のヒロイン、田中真紀子が抜けた穴も大きい。せめて脇役での登場を望むのは贅沢であろうか。

ストーリーのテンポも悪い。というより、話が進んでも誰が悪役なのかがはっきりしないのは困りものである(注1)。これでは主役の演技は空回りするばかりである。ちなみに中盤で挿入されているドイツ・ロケはまったく必然性がなく、オペラファン以外にとっては退屈な中だるみのシーンとなっている。

何より主人公を苦しめる悪役陣が冴えない。この顔ぶれであれば、亀井静香が斬られ役を演じない手はないのだが、中途半端な妥協が多くてファンを失望させている(注2)。初出演の藤井、熊代、笹川のトリオは、若くもなければ、気の利いたセリフもない。たぶん、3人全員の顔と名前が分かる人はほとんどいないのではないか。鈴木宗、辻元などの名脇役も今はなく、この2年間に失われたものの大きさを髣髴とさせる。

前作では「選挙は国会で行われるんじゃない。地方で決まるんだ」が決めのセリフとなった。今回の作品では、「リーダーシップがあれば、自民党も悪くはない」が心に残る。まったく同感である。そのためにやってるんじゃないか。総裁選挙は。


(注1)「今月中には決める」などと言っているのは、おそらく8月31日の埼玉県知事選挙でどんな風が吹くかを見極めたいのであろう。要は誰も本気で演技をするつもりがないということ。

(注2)選挙用の著書『ニッポン劇的大改造』を買ってみたが、あまりの中身のなさに批評する意欲も失ってしまった。たぶんご本人が本書のために費やした時間は、全部トータルしても2時間以内であろう。



<8月21日>(木)

○今日、やってしまった恥ずかしい会話。相手は産経新聞の古森義久氏。

かんべえ「イラクで国連がテロ攻撃を受けたから自衛隊を出せないなんて、変な話ですよね。国連を守るために、むしろ派遣を急ぐべきじゃありませんか」

古森氏「今朝の産経の社説はそうですよ。あ、そう読売もそうでした」

○かんべえが新聞をあんまり読まない人であることは、仲間内ではすでに周知の事実ですが、ベテランのジャーナリストを相手にこれはちょっと恥ずかしい。最低限の下準備をしておくべきだったかな。ま、でも、わしゃ言論の世界の住人じゃないから構わんか、と自分に言い聞かせてすぐに立ち直る。だいたい、普通の人は社説なんて読んでませんよねえ。

○それにしても、世の中の国連至上主義者たちは、なぜもっと悲憤慷慨しないのだろう。イラク戦争のときに、彼らが「国連が、コクレンが」と言っていたのは、日本が対外的な行動をしないで済ませるための方便だったのか。「アメリカの片棒を担ぐことになるから反対」と言っていた人たちが、今度は「危ないところには行かせられない」に理由を切り替えるというのは、なんともご都合主義だなあと思う。

○ところで自衛隊を1000人規模で派遣するとしたら、金額的にはどのくらいかかるのか。どの程度の装備をするかにもよるが、戦車などは持ち込まないとして、仮に一人あたま1000万と考えれば100億円。しかしそれではちょっと不安であろう。隊員に万が一のことがあったときのケアや見舞い金なども考える必要がある。となれば、一人あたり1億円くらいまであっても不思議ではない。

○派遣の予算が1000億円規模になったら、補正予算の編成が必要になってくるだろう。そうなると秋の国会スケジュールがややこしくなってくる。その辺が理由で、派遣を来年に先送りしたいなどという思惑もあったりして。


<8月22日>(金)

○滅多に行かない築地で、店を探してうろつくこと約15分。やっと見つけた蕎麦屋さんは、今風のとってもお洒落な店でした。お相手はグルメで名高い田中裕士さん。でもって当方は、「天下の文芸春秋も、朝日新聞叩きにはもう飽きたでしょう。そろそろ日経バッシングはどうですか。ニーズは絶対にありまっせ」などと無責任なことをけしかけておったわけです。

○はっと気がついたら、斜め前の席にいたのは、角谷浩一氏とJ−WAVEのスタッフじゃありませんか。それも許せないことに合コン中なのであります。さらに許せないことに、女性陣は明日にも韓国のユニバーシアードに飛んで、北朝鮮応援団が務まるクラスの美女じゃありませんか。何なんだこれは。こらっ、そこの政治ジャーナリスト、ニヤニヤしてないで、ワシもそっちに呼べえ。

○ということで、筆誅としてここに書いてしまうのである。それにしても我ながら、程度の低い私怨晴らしだなあ。


<8月23〜24日>(土〜日)

○封切りが迫っている『踊る大総裁選2』は、ますます盛り下がっておりますな。

○堀内総務会長が出馬を否定。「(私と)小泉純一郎首相との相違点は経済問題だが、それは優先順位の問題だ。党を二つに割って戦う話ではない」と説明しつつも、「これで小泉支持に変わったというわけでもない」んだそうだから、はたから見れば単なる優柔不断としか見えません。そもそも堀内さん、本気で出馬を検討されてたんでしょうか。あなたの下の名前を何というかさえ、知ってる国民はほとんどおりませんがな。

○高村正彦元外相が出たそうなことを言っている。16人の派閥の長だけど、推薦人の20人に足りない分はどこから借りてくるんだろう。反小泉勢力を結集する統一候補には都合のいい候補者かもしれないけれど、出た瞬間に傀儡に見えてしまうのはいかんともしがたい。

○やはりこの人、亀井静香元政調会長の動きが気になる。ところが、「平成研(橋本派)の派内事情もあるから、28日を過ぎないと舞台の幕を開けるわけにはいかない」てなことを申される。最初から他人の懐を当てにしてるようじゃ、あんたの野心もたいしたことないね。勝手連のホームページもできてますよ。こういっちゃ何だが、ご本もあんまり売れてないようです。

○いつも指標に使っている「報道2001」の世論調査を見ると、本日発表文で「小泉内閣を支持する」が61.8%と久々に6割を超えました。支持しないが34.4%となって、その差は27.4%となり、これだけ差が広がったのは久しぶり。あんまり抵抗勢力が不甲斐ないから、小泉さん人気が上がってしまったぞ。

○かくして『踊る大総裁選2』は、小泉首相だけが踊り、お客は少しも踊らない。そんなわけで、今日は次女Tに付き合って、『踊るポケモン秘密基地』を見てきました。こっちの方がナンボかましですな。


<8月25日>(月)

The Weekly Standard誌上で、ビル・クリストルとロバート・ケーガンが、久しぶりにコンビで論文を寄稿している。ご存知、PNACの共同創設者である二人だが、一緒に何かを書くという機会は実はそれほど多くはない。そういう意味でちょっと注目してみたくなる。

○最近はこの二人もすっかり著名となり、ケーガンの"Power and Paradise"とクリストルの"The war over Iraq"は、それぞれ「ネオコンの論理」、「ネオコンの真実」という妙な邦題で出版されている。「ネオコン・ウォッチャー」の草分け(?)の筆者としては慶賀の至りであるが、どうも彼らが買いかぶられているようで落ち着かない。「とにかくネオコンと書いておけば売れるだろう」という単なる商売熱心ならいいのだが、「アメリカで起きている最近の気に入らないことは、全部ネオコンのせい」にしてしまう知米派が多いんじゃないだろうか。

○そうだとしたら、それは3つの点で間違っていると思う。この機会にあらためて指摘しておこう。

(1)元々のネオコンというのは60〜70年代に誕生した「現実派に転じたリベラル」を指すが、今の連中は当時とは代替わりしており、「第2世代ネオコン」ないしは、「レーガナイト」(レーガン主義者)と呼んであげた方がいい。

(2)ネオコン=レーガナイトは結構、理屈倒れな連中なので、それほど実権があるわけではない。なにせブッシュ政権では、「大事なことはブッシュが神様と二人だけで決めてしまう」ので、余人の影響力はそもそも限られている。

(3)その反面、ネオコン=レーガナイトの主張は、アメリカの伝統に根ざした非常に分かりやすい思想なので、保守層の間では草の根的な支持を得やすい。「あれは突然変異的な異端の思想」といった見方は当たらない。

○さてさて、クリストルとケーガンによる今回の論文だが、"Do What It Takes in Iraq"(イラクでなすべきことをやれ)という。例によって要約をつけますが、さして長くもないので、関心のある方は下記で全文を読まれることをお勧めします。

http://www.weeklystandard.com/Content/Public/Articles/000/000/003/032nchou.asp 

●コンドリーザ・ライスが、長らく無視されてきた中東において政治と経済の改革をもたらすべく、アメリカは「世代を超えた契約」(Generational Commitment)をせよと説いた。その言や良し。ところがこの政策を実施するに当たり、憂慮すべき問題がある。ブッシュ大統領の理想は、向こう数ヶ月の間に、成功を収めるか死に絶えるかのいずれかである。そこに懸かっているのは、より良く安全な中東だけではなく、未来のアメリカ外交、アメリカの指導力、そしてアメリカの安全保障である。イラクで失敗すれば、向こう数十年のアメリカにとって壊滅的な打撃となるだろう。

●アメリカの戦後イラクにおける努力は、失敗どころではない。宗派同士の対立や民族間の暴動は起きていないし、食料と水もあるし、病院も開いている。われらが欧州の友人たちが自信を持って予想してくれたように、アラブ=イスラム世界が混乱と怒りに陥っているわけでもない。しかるに不幸な事に、成功の兆しもない。基本的な安全が保障されていない。度重なる電力不足がアメリカの評判を落としている。サダム支持者たちやシリアやイランから入ってきたテロリストたちが、平和を脅かしている。

●現政権がイラクに注ぎ込んでいる資源は不十分であり、スピードも不足している。今ここで修正しなければ、失敗は災厄に至るかもしれない。3つのことを求めたい。

もっと軍隊を:軍の高官いわく、「あと2個師団が必要」。悪玉を追うには善玉が少なすぎる。「兵士を増やせば犠牲が増える」という反論がありそうだが、兵士を増やした方がアメリカ、イラク双方にとって犠牲は少なくなるはずだ。ところがペンタゴンは軍隊を減らすことを計画中だ。新イラク軍や同盟国に代わりを頼むというのだが、それこそ希望的観測だ。欧州にはそんな軍隊などない。議会の連中は「軍隊を国際化し、国連に指導的地位を」などと言うが、バース党やイスラム過激派から見れば「アメリカは逃げ出すのか」と思われるのが落ちだ。今こそ、耐え難きを耐えるべきときではないか。

もっと金を:現地の電力不足などは、金さえあれば解決できる問題だ。ところがその金がない。ブッシュ政権が議会に対し、600億ドルにも達しかねない支出を求めると、民主党の大統領候補者たちが「金はイラクよりも国内で使うべきだ」などと言い出すであろうことはよく分かる。だが、ここが踏ん張りところであって、6ヵ月後にイラクが危機に陥って選挙戦がたけなわになっている頃では遅いのだ。

もっと人員を:兵士だけでなくて、民間人も足りない。現地に入っている国務省の職員は数えるほどである。志願する者が少ないのは、理解はできるものの、受け入れがたい事態である。外交官や公務員を送り込み、労働者を雇い、ヒトとモノを急いで真剣に動かす必要がある。イラクでの仕事をなし終えることこそ、最優先事項である。


○いつもながらの「クリストル=ケーガン節」である。論旨明快で名調子なんだけど、ああちょっとつらいかな、と感じました。たとえば、国務省の職員がイラクに行ってない、という話を"This is understandable. But it is unacceptable."と批判するのはいつものことだけど、ではどうすればイラク行きの志願者を増やせるかという具体論は出てこない。金の問題も同様で、もっと出せと言うだけで、その先の知恵は出てこない。総じて、"What"は語るけれども"How"はないというのが、イデオローグ集団である「ネオコン=レーガナイト」連中の特徴である。その彼らが現実の壁にぶち当たっている。

○アメリカは超大国である。軍事力もあれば経済力もある。それを大いに使って、アメリカ的価値を世界に広めよう、というのが「ネオコン=レーガナイト」の主張である。ブッシュ政権はその点で積極的であり、中東にGenerational Commitmentしようとまで言う。では、本当に好きなだけ軍隊や資金を使えるかというと、かならずしもそうではない。そこは「政治の壁」や「バカの壁」を乗り越えなければならない。そうなると、口よりも手を動かす人たちの出番である。純粋な言論人は悲しいかな、といった印象を受けました。


<8月26日>(火)

○自宅から駅までの途中に小さな公園がある。朝、傍を通ると木々にセミの抜け殻がついている。数えてみると、いくらでも見つかる。そして木々の上の方には、そこから抜け出したとおぼしきセミたちが、ここを先途とばかりに鳴いている。ふと気が付くと、足元のアスファルトの上にはセミの死骸が転がっていたりする。夏ももう終わりですね。

○その昔、そう、前回阪神が優勝した頃に総理大臣だった人は、いよいよ職を辞すときにこんな句を詠んだ。

暮れてなお 命の限り 蝉時雨

○おそらく残暑の頃に詠んだのだろう。ご本人の心境はさておいて、こういう景色はいかにも日本の夏という感じがする。たとえそれが冷夏の年であったとしても。

○問題は、この句を詠んだ方のその後である。リクルート事件で国会喚問を受け、首班指名で「村山君には投票できない」と言ってみたり、離党したり復党したり、大勲位になったりして今もお元気である。そして適度に生臭い。自民党の定年制も、ヨーダ仙人とこの人に対しては、最初から適用することをあきらめているらしい。

○政治家が自らをセミに喩えるのは、不適切な上に失礼ですよね。セミに対して。ねえ、中曽根クン。


<8月27日>(水)

○お昼に旧知のK記者がふらりと来訪。新橋駅でゆりかもめに乗って、行楽客の多さに唖然とした由。そりゃそうでしょう。この季節、背広にネクタイで混んだゆりかもめに乗るのは、とっても居心地が悪いものです。それくらい、今年のお台場は行楽地として成功している。なんといっても価格競争力がある。つまり安いってことだ。

○お台場でお昼するときは、いくつかのコースがある。「台場小香港」であれこれ食べる、「アクアシティ」で東京湾の景色を堪能する、豪華にホテル日航かメリディアンまで行く、砂浜を散歩して台場カフェまで足を伸ばす、などだ。今日のK記者は同世代人なので、「台場一丁目商店街」のモダン食堂へ行きました。昭和30年代の街並みを再現していて退屈しません。ほかもそうですが、とにかくお台場は安上がりに時間をつぶすには好適です。

○今日の雑談から。選挙になると、テレビ局は億単位の経費がかかる。今年の場合、春にイラク戦争でお金を使いすぎたこともあって、なるべくならご遠慮願いたいらしい。選挙報道はさして視聴率を取れるわけでもなく、かといって監督官庁の指導もあるから、「うちは選挙報道はやりません」というわけにもいかない。その一方で、新聞社は選挙になると選挙広告が載る。公費負担なので取りはぐれがない。こっちは選挙さまさまというわけ。

○総選挙で泣く人、笑う人。果たしてこの秋の解散・総選挙はあるんでしょうか。


<8月28日>(木)

○唐突ながら、夕方から軽井沢に来ています。明日から始まる財界人の私的なセミナーで、お手伝いをすることになっているもので。駅に降りると気温は19度。これは夜などは相当に冷えるかも。冷夏の避暑地というのはつらいものがありそうです。

○宿泊用の部屋に入って、パソコンをつけたとたんに、いや〜な予感。そう、理想のモバイル生活のために、新しいPCにはドコモの@Freedを入れてあるのです。が、PHS回線はつながらない。リダイヤルを延々と繰り返すばかり。困ったことに、普通の電話回線用のカードとコードを持ってきていない。つまり私は保険をかけていないのである。これではネットにつながらない。ああああ、軽井沢のばかっ!

○一瞬のちに、この問題は解決いたしました。それも、おそろしくローテクな手段によって。正解は、「窓の近くでアクセスする」でした。

○そんなわけで、参加しているメーリングリストの仲間が、「今日も債券市場が乱高下している」とか、「青木さんも堀内さんも、だいぶ以前から小泉支持を決めてたようだ」とか、「総裁選はともかく、小泉政権のレームダック化は意外に早いかも」などと噂しているのを確認して安心しました。それではまた。


<8月29日>(金)

○軽井沢のハイソな雰囲気に触れて、ちっとばかしスノッブになってしまったざます。でも、パソコンのほうは、あいかわらずアクセスが悪いざます。苦労してつないだら、ウイルスメールが19本もあって、いささかくじけてしまったわん。こちらはせっかく優雅に過ごしているのに、妬んだ下界から攻撃されているみたい。

○ノートンが撃退してくれるメールには、"Thank you!"とか、"Your application"とか、"wicked screensaver"とか、見るからにウイルスですといわんばかりの表題がついてます。皆さんもお気をつけ遊ばせ。


<8月30日>(土)

○軽井沢の駅に向かう途中、タクシーの運転手に聞いた話によると、当地で静養中だった天皇皇后両陛下は、現在は草津に移動していて、明日また戻られるとのこと。天皇家の夏の静養先というと「那須の御用邸」と決まっているのだけど、今年は13年ぶりに「思い出の地」である軽井沢に来ているのだと。

○『天皇家の財布』(森暢平/新潮新書)によると、皇太子時代の陛下は軽井沢の千ケ滝プリンスホテルで静養するのが恒例だった。即位されて喪があけた1990年夏も、軽井沢で過ごされた。これに対して当時、「御用邸があるのに、民間企業の避暑地を使うのはいかがなものか」てな批判が出たのだそうだ。たしかに、御用邸にはそれなりの維持管理費がかかっているのだから、使わないのはもったいない、という理屈は分からないではない。

○でも、そんなのは余計なお世話で、あんまり堅苦しく考える必要はないと思います。那須の御用邸は1926年に建てられ、昭和天皇が愛用した。同書によれば、2002年度の那須御用邸の使用日数は35日間。最近は老朽化の問題もあるという。それはやっぱり、お好きな場所を選んでもらった方がいいんじゃないでしょうか。

○運転手さんに、「交通規制が増えるから困るでしょ」と聞いたら、「そんなことありません。それは気を使っておられますから」とのこと。観光で来ている人はさておき、地元の人にとっては「13年ぶりに帰ってきてくれた両陛下」を迎える喜びの方が大きいようだ。

○今夜の軽井沢は霧が出ていて、新幹線のホームが幻想的に見えました。んー、そろそろ現実に復帰しよう。


<8月31日>(日)

○埼玉県知事選挙、ただ今開票中ですが、あっけなく上田清司候補が当確。漠然とした印象を下記しておきます。

(1)なんと元次官が負けてしまった。総務省、とくに旧自治省官僚のショックは大きいだろう。今じゃ功なり遂げた官僚というものは、存在そのものが嫌われるということだ。官僚が選挙に出るときは、40歳以前に出るしかないですな。

(2)これで首都圏の知事は、東京=石原、神奈川=松沢、千葉=堂本、埼玉=上田となってしまった。要するに自民党は駄目、ということだ。上田氏の得票がどこまで行くかによっては、自民党総裁選挙や解散の時期にも影響するでしょう。

(3)上田氏は民主党出身だが、党内では反主流派。菅執行部には批判的であった。やはり求められているものは「クリーンな保守政治」なのですな。民主党は勝ったというよりは、横浜市長、神奈川県知事に続き、またも目ぼしい人材を埼玉県知事に失った。

(4)大阪、熊本、北海道と続いた女性知事候補の快進撃が止まった。坂東真理子氏はもうちょっと行くかと思いましたが、「元内閣府男女共同参画局長」という肩書きがマイナスだったかもしれません。

(5)確定投票率が35.8%。なんという低さ。夏休み最後の日で、子供の宿題を手伝っていた人もいたかもしれないが、なんとかならんのか。

○結論として、皆、もっとショックを受けないとまずいぞ、と言っておこう。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki