<9月1日>(日)
〇9月である。富山では今日から3日間、「越中おわら風の盆」が始まる。地元的には重要イベントであるが、台風10号、いや熱帯性低気圧が一度は太平洋上に抜けてから、今夜はまた本州に舞い戻ってくるらしい。「富山県内大雨注意、警報級」だそうである。なんとも迷惑な話である。
●おわら前夜、所作確認 富山・八尾で風の盆1日開幕(北日本新聞)2024年9月1日
05:00
〇日本列島はコメ不足でもある。が、わが千葉県内では、この週末からスーパーで新米を売っている。5キロ3500円前後とお値段は高めであるが、さすがは農業県のありがたさ。いや、もちろんウチはごく普通の5キロ2500円の千葉産コシヒカリを買ったのだが。せっかくなので、農産物直売所の「かしわで」と「あびこん」をご紹介しておきましょう。
〇この7月から8月にかけては、日米政治について「驚天動地」のことが相次いでおって、ワシのような仕事をしている者としては気が休まらないことこの上ない。実はそれだけではなくて、天変地異系のこともしきりに発生しているのですな。8月8日には日向灘地震があって、1週間にわたって「南海トラフ地震臨時情報」の呼びかけがあった。今度の台風10号も「史上最強」などと言われておる。
〇昔だったら、「そろそろ元号替えますか?」てな声が出そうな展開である。どうにも不穏ですよねえ。ワシ的には引き続き、「米大統領選挙」(11月5日)と「自民党創生選挙」(9月27日)を気にする日々が続くわけですが、これだけ天変地異系のことが続くということは、選挙も事前の予想通りに落ち着くことはなさそうに思える。
〇とりあえず進次郎君、大丈夫かね。ワシはキミに「本命」の印を打ってしまったのだけれども、この国のメディア、というか一般大衆は「いったん上げてから、落とす」ことを好む。知ってると思うけど。先行馬を持ち上げておきながら、レース途中から急に引き摺り下ろしたりしますからね。人気者はツラいのだ。くれぐれもご自愛を。
〇まあ、今日の新潟記念も滅多に来ない牝馬、しかもシンリョクカ(8番人気)なんかが来ちゃうんだから、読者はくれぐれもワシの予想など当てにしてはなりませぬぞ。それはそれとして、木幡初也騎手の重賞初制覇はよかったですな。おめでとうとお伝えしたいです。
<9月2日>(月)
〇本日のアメリカはレイバーデイの祝日。マーケットもお休みとなるわけですが、本日を過ぎると米大統領選挙はいよいよ終盤戦。ぼちぼち郵便投票が始まる州もある、ということになります。
〇それではトランプさんとハリスさん、どっちが勝つのか、というと「まったく分からん!」と言わざるを得ません。RCPのデータを見ると、現時点でハリス48.0%対トランプ46.2%となってますが、こんなのは誤差の範囲内というもの。2人ともちょっと数字が低下気味。ハリスさんは「党大会の効果」が薄れつつあるのでこれは当然ですが、トランプさんはこのところ何かと「無理筋」な行動が多くなっていて、ちょっと不安な感じがいたします。
〇クック・ポリティカル・レポートも「7つの州がトス・アップ」(ウィスコンシン・ミシガン・ペンシルベニア・ネバダ・アリゾナ・ジョージア・ノースカロライナ)と宣言してまして、これはもうほとんど丁半勝負みたいな感じですね。11月5日時点でどうなっているか。
〇そんな二人が激突するのが、来週9月10日のテレビ討論会(ABC放送、atフィラデルフィア)ということになります。生放送一本勝負、果たしてどちらが得点を挙げるのか、元人気テレビ番組ホストでアドリブが達者なトランプさんなのか、それとも元検察官で「相手が犯罪者ならお手のもの」というハリスさんなのか。
〇考えてみたら、レイバーデイ時点でこれだけ候補者が横一線、なんてことはあまり記憶にありません。いや、まったく面白いね。アメリカ政治オタクとしては、本当にハラハラどきどきさせられます。
〇日本の政局の方も自民党総裁選の公示日が9月12日に迫っておりますな。既にコバホーク、石破茂、河野太郎の3氏が出馬宣言をしていて、この後は明日3日が林芳正官房長官、4日が茂木敏充自民党幹事長、6日が小泉進次郎元環境相、9日が高市早苗経済安保相と続くそうです。
〇明日朝の不肖かんべえは、ニッポン放送にて「飯田浩司のOK!Cozy up!」に出演予定なんですが、ここにもさる候補者が出演される(!)とのこと。午前7時から7時20分の間です。いやもう、ワクワクしちゃいます。
<9月3日>(火)
「齋藤さん、みんなが気にしていることを聞きます。20人集まるんですか?」
「これはね、一切答えないことにしています。何を言ってもいろんな憶測を書かれるんで」
〇――オトナの答えを返されてしまいました。今朝のニッポン放送のやり取りでした。ポッドキャストでは以下で聞けます。23分くらいから齋藤健大臣登場です。
●9月3日「飯田浩司のOK!Cozy
Up!」
〇全体で20分ぐらいでしたが、楽しいトークが出来たと思います。この番組、先日も松井孝治さん(齋藤さんと同じ通産省83年入省)のインタビューの会にぶち当たったし、「俺ってもってる人?」と思いましたね。とってもラッキーでした。
〇30数年前に初めてワシントンであった時からずっとそうですが、一緒にいるだけで元気が出る人なんですよ。今は既に経済産業大臣という重責を負っておられますが、できればこの国のために、もっと重い仕事を負ってもらいたい人だと思います。
<9月4日>(水)
〇とっても久しぶりにマネースクエアさんのビデオクリップに登場しました。お相手は古いお仲間の西田明弘さん。2人の掛け合いで、ちょうど2か月後に迫った米大統領選について語っております。
●【プレミアムView】吉崎達彦氏と語る'24米大統領選挙のポイント
〇マーケット関係のネタも豊富に入っておりますので、見ておいて損はないと思いますぞ。ユーチューブチャンネルへの高評価やコメント欄もどうぞよろしく。
<9月5日>(木)
〇自民党総裁選、立候補者は@コバホーク、A石破茂、B河野太郎、C林芳正と続いて、昨晩はD茂木敏充。まだまだ続きますね。
〇しかるにモテちゃん、ちょっと酷いんじゃないですか。幹事長を3年もやってきたんだから、ここでやりたい政策があるんだったら、何はさておいて岸田総裁に意見具申すべきでありましょう。それを何もしないで、「増税ゼロ」を打ち出すのはマズいでしょ。だったら幹事長辞めろよと。
〇岸田さんに対して弓を引くことで、「令和の明智光秀にはなりたくない」と言っていたそうですが、明智光秀にはまだしも造反の大義があったように見えるし、たとえ三日間でも天下は取れた。それに比べるのはもったいないような気がします。この人は「令和の小早川秀秋」くらいが相当なんじゃないでしょうか。
<9月6日>(金)
〇今日の小泉進次郎氏の記者会見はライブで見ておりましたけど、見どころ満載でしたね。
〇昔から不思議なことに、神奈川県選出の議員さんはなぜか「新自由主義」なんですよね。小泉親子、河野親子、菅さん、甘利さん。そして今日の進次郎さんは、「解雇規制の緩和」という直球を投げてきました。
〇生半可な知識で言っているのではないことは、すぐにわかりました。かなり勉強してますね。ライドシェアの全面解禁と違って、これは難しいですよ。抵抗も強いだろうし、影響も半端ない。司法もからむし。しかも2025年には法案を出すと言っていた。えらいことを言うものだと感心しました。
〇もっとも投入する政治資本と、そのことによる経済的なリターンを比較すると、あんまり得策ではないような気もするな。これはワシが既に老境に入っていて、「今さら自分には関係ないわ」ということがあるからかもしれん。
〇それはそれとして、記者会見の暴走気味の質問は面白かった。進次郎氏、上手に応えましたが、ワシ的にはああいうシーンを見るたびに、「だからフリーの記者なんか出禁にしろ!」と思ってしまう。真面目に権力と切り結ぼうとしている神保哲生さんなんかには悪いんだけどね。
〇思うに自己承認欲求が強過ぎるジャーナリストほど、はた迷惑なものはない。たまたま進次郎氏が上手に答えたからよかったけど、あんなのを美談にしてはいかんですよ。田原総一朗さんだって、ああ見えて本当は義理堅い人なんだから。
<9月7日>(土)
〇今日は日本FP協会東京支部主催の研修会へ。日経ホールで500人以上は入ってましたかね。テーマは米大統領選挙と日本経済で、第1部の講師が前嶋和弘先生、第2部が不肖かんべえ。前嶋先生とはお久しぶりでした。
〇前嶋先生が冒頭にこんな風に言うのです。今の時点では、トランプとハリス、どちらが勝つかはまったく分かりません。「〇〇が勝ちます!」と断言している人は、ちょっと変だと考えた方がいい。「どうせ5割は当たる」と思っているのかもしれませんが・・・・。
〇まったく同感である。そこで第2部講師の当方も、冒頭にこんなことを申し上げる。「どちらが勝つかは私もまったく分かりません。だったらお前の話を聞くのは無駄だ、と思われるかもしれません。でも、自分で言うのもなんですが、これから話す内容はかなり面白いです。エンタメとして聞いてもそこそこ楽しめます」(ここでささやかな笑いを取る)
〇でまあ、いろいろお話しした上で、自民党総裁選に登場する12人の写真が載ったパワポを見せて、こんな風に言うのである。
「11月5日になれば、トランプさんかハリスさんか、どちらかがアメリカ大統領になります。でも、その前に日本も新しい首相が決まっているんです。いったい、日米首脳会談はどういう組み合わせになるんでしょうか?」
(しばしの沈黙)
「私が考える最悪の組み合わせは、石破首相とトランプ大統領ですね。まったく話がかみ合うように思えない」
(ここで場内は爆笑)
「それからこれも怖いのは、小泉進次郎首相とハリス大統領ですね。日米同盟は一体どこへ行ってしまうのでしょうか」
(さらに大爆笑)
「皆さん、これは笑い事じゃないんですよ。あと数か月で本当に起きることですからね」
〇皆さん、全部わかっているはずなのに、上記のやり取りで面白いように笑いが取れてしまう。自民党議員と党員の皆さん、選挙のことだけじゃなくて、ちゃんと国際情勢や日米関係のことも考えて、新しい総裁を選んでくださいね。林芳正さんか斎藤健さんであれば、どっちが来てもそんなに悩まなくていいと思うのですが、そのオッズはあんまり高くなさそうなんだよなあ。
<9月8日>(日)
〇すっかり忘れていたけど、今日は日本将棋連盟創立100周年でした。おめでとうございます。今宵は帝国ホテルで「100周年を祝う会」をやっているのですな。
〇自分は小学生の頃からプロ棋士の棋譜を見ているので、「大山=中原時代」くらいからリアルタイムで覚えている。それ以前の「大山=升田時代」の棋譜も結構並べました。その頃も今と同じ、角換わり腰掛銀の将棋が多かったんですよね。その後の時代では、ヨネさん、米長邦雄の将棋が好きでした。
〇それから羽生世代の登場。時代が変わるというのはこういうものか、というのを学習しましたな。イノベーションが生じるときの時代潮流は残酷なものがあります。当時は「パソコンの登場」が新世代棋士の躍進につながったと解説されたものですが、1980年代のPCなんて今から考えるとオモチャみたいでしたな。
〇そして2度目のイノベーションは、21世紀になってAIの隆盛と共にやってきました。まさか自分が生きているうちに、プロ棋士がコンピュータソフトに負ける時代がやってくるとは思いませんでしたな。なぜか羽生さんは、「逆転が起きるタイミングは2015年頃」と正しく予見していたそうです。
〇ただし2017年から登場したのが史上5人目の中学生プロ棋士、藤井聡太さんでした(ちなみにそれ以前の4人は加藤ひふみん、谷川浩司、羽生善治、渡辺明)。その後の藤井旋風と八冠王フィーバーは今さら繰り返すまでもありません。
〇しかしこの「藤井時代」もいつかは終わるのであります。ワシはそこまでは見通せないけれども、今はまだ22歳の藤井七冠は、150周年の時にもたぶん生きておられることでしょう。でも、それまでには3度目か4度目のイノベーションがやってきて、また違うスターが誕生していることでしょう。きっとそのときはAIどころじゃないね。
〇人間の思考を極めるという点において、将棋というゲームはまことに適しています。この世界を片目で見ていると、また何か重要なヒントが得られるんじゃないかと思っています。
<9月9日>(月)
〇不肖かんべえは毎日、自民党総裁選と米大統領選を追っかけてばかりいるわけではありませんで、過日は上海馬券王先生がお勧めしてくれた劇場アニメ『ルックバック』を見てきたのであります。
〇1時間ほどの短いドラマなのですが、まことに良かったのです。舞台は東北地方のどこかの街である。パッと見た風景が鳥海山っぽかったので、これは先日訪れた酒田市に違いないと思ったのだが、後で調べてみたらマンガの原作者は秋田県にかほ市の出身で、同市内の風景も使われている。そう言えばワシは、鳥海山を秋田側と山形側の両方から見たことがある。たぶんそんな人は、あんまり居ないんじゃないかと思いますけど。
〇で、そんな地方都市に、2人の小学生の少女がいる。まったく重なり合うはずがない2人は、たまたまマンガを描くことが好きで、偶然にも人生が交錯する。そうなのだ。子どもの頃というのは、どうでもいいことが許せなかったり、些細なことで一生懸命になったり、ふとした弾みで有頂天になったりする。そのことは、自分が持つ途方もない力を解き放つことがある。だからこそ幼年期は貴重な日々と言われるのである。
〇ところが実際問題として、子どもの頃にどんな人と出会い、どんな本に感動し、どんな分野が面白いと感じて何に熱中するかは、ほとんどが「運次第」である。人生はコントロールすること能わず。「教育は大事だ」とはよく言われるけれども、大人がいくらシャカリキになっても、子どもたちの未来を切り開くのは子どもたち自身である。勝手に目覚めて、勝手な方向に羽ばたいていく。それでいいのである。
〇2人の少女もまた、大人とは無縁な世界でマンガの創作に没頭していく。ちょっとずつ世界が広がっていく感じがいい。初めての街へ行く。初めておカネを使ってみる。知らない世界を体験することで、創造の可能性も広がる。そうやって2人は成長していく。その先に何が待っているか、というのはネタバレになるから、この辺で止めておく。
〇ワシみたいに還暦を過ぎてしまった人間でも、この感覚には覚えがある。誰だったかが言っていたけれども、どんなに長生きした人でも、20歳までが人生の半分であると。その手前の少年少女たちは、誰しも自分に自信が持てなくて、それでも虚勢を張って生きている。そんな中でふとした誰かの一言で、かすかに自信が持てるように感じたときの嬉しさは、たぶん生涯を支配してしまうような磁力がある。
〇一方でちょっと気になったこともある。このドラマに登場する農村風景の美しさとか、子どもたちの楽しそうな日常とか、世界に冠たる日本のマンガ文化とか、描かれている世界はすべからく等身大の「今のニッポン」である。日本の子どもたちって、ひょっとすると世界で一番しあわせなんじゃないかと思う(韓流ドラマに「学園もの」というジャンルがないのは、かの国の学園生活が楽しくないからだそうである)。
〇そんな日常を、われわれはいつまで維持できるんだろうか。地方都市は日々、人口減少に見舞われているし、スーパーに行ってもコメを売っていなかったりするのである。大丈夫かなあ。とりあえずこの劇場アニメ、たぶん輸出してもヒットするだろうな、とは思います。
<9月10日>(火)
〇今年3回目の札幌出張である。3月は北大さんで、7月は北海鋼機さんで、そして9月は内外情勢調査会である。いや、なぜか今年は北海道づいている。ありがたいことかな。
〇午後7時に札幌ビューホテル大通公園にチェックインする。実はそれほど腹は減っていなかったのだが、まあ、そこは何か食べようと外へ出たのである。すると道路の向こう側にある大通公園では「さっぽろオータムフェスト」というものをやっておる。これはもう巨大な縁日みたいなものである。目の前にあった「ほっかいどう市場」に参入する。
〇ここは全道各地の名産物がずらり。これは食わねばなるまい。まずは紋別市のズワイガニ甲羅焼。次に寿都町の蒸しがき。さらに余市町のうにめし。この間にサッポロビールクラシックを2杯。さらに締めは中富良野町のソフトメロンである。わはははは。
〇この一角だけでも十分に楽しめるのだが、これはたまたま大通公園の8丁目に過ぎないのである。ほかの丁目になると、ラーメンあり、カレーあり、ビアガーデンあり、ワインあり、ウイスキーあり、日本酒もある。正直、これなら何日通っても飽きることがなさそうだ。ずるいぞ北海道。
〇それ以上にありがたいのは、日が落ちた後の札幌はすっかり涼しくて過ごしやすいのである。実は来月も政経懇話会さんの仕事があって、函館に行くことになっている。ああ、北海道に呼ばれるのは幸せなり。
<9月11日>(木)
〇本日は12時から内外情勢調査会札幌支部の講演会で、「米大統領選挙の行方を読む」という演題で一席ぶたなければならない。ところが本日は日本時間の午前10時から11時半にかけて、トランプ対ハリスの浮沈を賭けたテレビ討論会が行われる。講演会の直前まで見てなきゃいけなくて、しかもその間にホテルをチェックアウトしなきゃいけない。なかなか大変なのである。
〇今日のテレビ討論会、NHKはBS放送ではなく地上波で流しておりましたな。さすがABC放送が司会だけある。しかし同時通訳で聞くよりは、PBS放送のストリーミング放送を字幕付きで見る方がよろしいな。最近はとにかくネット環境さえあれば、どこにいても見られるというのがありがたい。
〇考えてみたら、トランプさんが大統領候補討論会に参加するのはこれが7回目である。哀しいことだが、ワシは全部見ている。
*2016年 対ヒラリー・クリントン×3回 トランプ氏は70歳。政策そっちのけの悪口合戦で、過去の討論会のイメージを大きく塗り替える。
*2020年 対ジョー・バイデン×2回 トランプ氏は74歳。本当は3回のはずだったのだが、途中でトランプ大統領がコロナに感染して1回分中止に。
*2024年 対ジョー・バイデン×1回 トランプ氏は78歳。+本日分の相手はカーマラ・ハリス副大統領
〇過去の6回分に比べたら、「いつものトランプさん」でありました。まあ、さすがに今回は年のせいもあってか、我慢が効かなくなってきている感じはありました。せっかく司会者が「移民問題」を振ってくれているのに、ハリスさんが「トランプ氏の集会は飽きられている」と挑発したら、そこで逆切れして「移民はペットを食べている」と言い出した。あれは自爆でしたな。もちろん司会者にファクトチェックされてましたが。
〇それにしてもこの10年くらいのトランプさんは、「どんなことがあってもコア支持者のツボは外さない」点は、ご立派としか言いようがありません。そんなことは普通はあり得ないのです。人気はいつか衰えていくもの。それをキープし続けるのは並大抵のことではなくて、そんなことができる芸能人って居ないでしょ?もちろん政治家だって居ません。たぶん今日のテレビ討論会も、トランプ支持者は満足していると思います。
〇他方、ハリスさんは事前の予想以上によくやったと思います。出だしの経済パートでは心もとない感じがあったけど、後半の外交パートなどは堂々たるものでした。全体に「ハリスの楽観、トランプの悲観」という対比がよく出ていたと思います。かくなる上は、投票日である11月5日前後の米国内の雰囲気みたいなもので決まるのではないでしょうか。
〇ともあれ、おそらく最初で最後のテレビ討論会が終わりました。後は投票日まで、勝負を左右するような大きなイベントはありません。2024年選挙は、おそらく2000年の「ブッシュ対ゴア」並みの接戦になるのではないでしょうか。強いて言えば、その前に「オクトーバー・サプライズ」の可能性がありますが。
<9月13日>(金)
〇昨日から自民党総裁選挙が開幕しました。事実上の「日本の総理大臣を決める選挙」でありますが、おそらくはまたしても「自民党の知恵」が発揮されて、まあまあ安全な候補者が選ばれるのだろうと思います。今までだってずっとそうでしたからね。だからワシ的にはあんまり心配してません。
〇こういうときに感じるのは、「間接民主主義の優秀性」です。逆に言えば、直接民主主義は危うい。今の兵庫県知事だって、おそらく兵庫県の有権者は、「この人は感じがいいし、きっといい知事になるだろう」と思って投票したはずなんです。ところが結果はあの通り。残念なことですが、有権者には候補者を見定めるだけの眼力はありません。だからしょっちゅう騙される。
〇東京都知事選の愚かな歴史もまた、直接民主主義の不毛さを教えてくれます。タイミング次第では、長嶋茂雄やビートたけしが都知事になっていたかもしれません。とりあえず青島幸男だってなっちゃったのですから。そのことによる逸失機会はまことに巨大なものがあったはずです。
〇これをもっと壮大な規模でやらかしているのが、米大統領選におけるトランプさんであります。もっともアメリカ人は、「たとえ間違えてもいいから、自分で選びたい」と考えるゴーマンな人たちですから、そこは致し方ない。向こう4年間、キモイ(Weird)大統領の下で苦しむかもしれませんが、いわばそれは「自分で選ぶ」ことによるコストと言えましょう。
〇その点、間接民主主義であれば、リーダーを選ぶ人たち(この場合は衆参の議員さんたち)は、自分たちの生活が懸かっているし、候補者を間近に見ているから、そこの人選は大きくは間違わない。誰か自分より詳しい人に任せた方がマシな結果が出るだろう、という謙虚な姿勢が、間接民主主義の良さであります。
〇ちなみにこんな話は、当欄だからこそ書けるのでありまして、同様な内容をSNSで発信したらたぶん炎上するでしょう。あそこに居るのは、「たとえ間違えてもいいから、自分で選びたい」という自己承認欲求が高い人たちばかりですから。付き合わされる方がたまったもんじゃない。
〇とりあえず自民党総裁を選ぶ議員さんと党員党友の皆さんにお願いしたいのは、「メンタルが安定している人を選んでほしい」ということです。いわゆる「人気者」と言われる人たちは、だいたいがメンタルが安定していないことが多いので。なおかつ次期日本国首相は、「トランプかハリス」のどちらかに対応しなければなりませんので。「裏金問題への対応」なんかは、あんまり深追いしない方がいいと思いますぞ。
<9月15日>(日)
〇えー、このたび、こんなものに登場いたしました。
●たのむぞヨシマサ!
対談 エコノミスト
吉崎達彦さん(林ヨシマサ応援チャンネル)
〇自民党総裁選の公示日、少し前に収録したものですが、困ったことに50分近くあります。自分で見返してみて、まあ、この辺が「見どころ、聞きどころ」ではないかと思った部分を、以下の通り抜き出しておきます。
*不肖かんべえ、林官房長官に映画『ルックバック』を推奨する。
*マクロ政策に関しては、「大病院の院長ではなく、現場の医師に任せてほしい」
*その昔、バイデン大統領は「×××のジョー」と呼ばれていた。
*岸田首相とバイデン大統領のケミストリーが合ったのは、両方とも「××族」だったから。
〇林芳正さんの考え方や人となりを知ってもらうには、かなり良い素材なんじゃないかと思います。なるべく多くの人の目に触れてほしいです。
<9月16日>(月)
〇おかげさまで昨日の応援チャンネルは、1日で3600回以上視聴されたようなので、とりあえずはホッとしました。中身的にも、総裁選候補者&現職官房長官の口から、重要な発言をいくつか引き出させているのではないかと思います。
〇もうひとつ、この週末にアップされた拙稿のご紹介。
●米国大統領選、勝者が予想できる裏技を教えよう〜テレビ討論会後の「ハリ×トラ」最終決戦の行方
〇トランプさんの当選可能性を見るには、TMTG(トランプ・メディア&テクノロジー・グループ)社の株価を見ればいいのであります。この週末はちょっとだけ盛り返しましたね。基本的に1株20ドルを割り込んでいるようではちょっとマズいです。トランプさんは民事裁判の罰金、5億ドルをまだ払ってませんので、この会社の時価総額は大事なんです。
〇とはいうものの、今年3月にナスダックに上場したとはいえ、まだ利益を出したことがない会社です。トランプさんが大統領にならないと、SNS「ソーシャル・トゥルース」も使ってもらえない。下手に世論調査やベッティング・オッズを見るよりも、こっちの方がよっぽど確かだと思いますので、裏技としてご利用ください。
(後記→と、書いた後に、トランプ氏がゴルフ場でまたまた標的になったことが判明。やっぱりアメリカは銃規制が必要なんじゃないでしょうか?)
<9月17日>(火)
〇自民党総裁選ってまだ始まってから5日目であって、投開票の27日まではあと10日もあるんですね。うーん、これからどんなことになるんだろう?
〇世間的には「三強」ということになっている。その3人のうち、最初の投票でどの2人が生き残るのか。それによってさまざまな「決選投票」が考えられる。
(1)石破対小泉
(2)石破対高市
(3)小泉対高市
〇それぞれについて菅グループは、麻生派は、岸田さんとその周辺は、旧安倍派は、などと考えていると、あたまがクラクラしてきますな。
〇これで27日(金)の午前には、党員票の取りまとめが行われる。「誰と誰が1位と2位なのか?」は、たぶん瞬時にして党内に伝わるだろう。ところが午後になると、すぐに議員票の投票が行われる。となったら、お昼の間に素早く決選投票の手だてを決め、そのことをかならず本人に通告しなきゃいけない。でないと、論考行賞にありつけないからね。
〇そんな作業を、個々人がやるわけにはいきません。とてもじゃないけど時間が足りないし、候補者も覚えていられないからね。結局は集団で行動する方が合理的なので、そこで新たに派閥的なものが誕生することになるんじゃないか。
〇見ていると、この5日間だけでもいろんな動きがあって、誰それが早くも失速とか、誰それが意外と強いなどの声が聞こえてまいります。SNS時代の選挙においては、「先行逃げ切り」はなかなか難しいと思います。ワシ的にはもうちょっと波乱になって、「三強」が崩れるような展開を期待してしまいますなあ。
<9月18日>(水)
〇明日は世紀のFOMC。利上げが始まったのは2022年3月でしたから、実に2年半ぶりの利下げということになります。
〇久しぶりの利下げの刻みは0.25%か、それとも0.50%か。先週金曜日の夜にお会いした鈴木敏之さんが、「ニック・ティミラウス砲が出たから読めなくなった・・・」と嘆いておられましたが、鈴木さんにわからないものがワシにわかるはずもない。ただ明日の「モーサテ」で、鈴木さんの解説を聞くばかりです。
〇少し穿った見方をご披露すると、単純に「0.25%利下げ」という結論を出すと、いかにもトランプさんから噛みつかれそうである。「FRBは民主党の見方をするのかあぁぁぁ!」というわけだ。しかしここでワンクッション入れて、「0.25%か、それとも0.5%か」と迷ったふりをした上で、0.25%という結論を出せば、共和党方面からの圧力はかなり減るのではないか。いわば小技と言ったところである。
〇まあ、「もしトラ」となると、この先ずっとこういう「口先介入」と付き合わねばならない。パウエルさんもご苦労が絶えないというわけです。もちろん原則論としては、金融政策が時の政権に左右されちゃいけないのですが、相手はなにしろ任命権者である大統領である。
〇他方、日銀は明後日が出番である。植田総裁の記者会見はさぞかし「針の筵」でありましょう。なおかつ植田さんの任命権者は今月いっぱいで辞めてしまう。その次に選ばれる方は、果たしてどんなご意見をお持ちなのか。さあ、これがサッパリわからない。アメリカは2分の1ですが、こっちは9分の1ですからなあ。
(→後記:利下げは0.5%でした。お恥ずかしいですが、小生の予想は外れです。今朝の鈴木さんも、あんまり納得がいっていない様子ですが・・・)
<9月20日>(金)
〇昨晩は久しぶりに飲み過ぎてしまったのだ。だもんで今朝は、在宅勤務を始める前にコンビニによってヘパリーゼを買ってきたのであった。
〇それでも本日分の溜池通信を書き終えるくらいはできるのである。でもって、日銀金融政策決定会合の植田総裁記者会見を見ていたが、詰まらんかったのう。なんというか、日本における金融政策というのは、つまるところアメリカ経済とFRBの金融政策と為替の変数であって、日本経済自体はあんまり重要ではないのではないか。
〇日本の消費者物価と賃上げと経済成長はもちろん重要だけど、それよりも為替の動きや「アメリカ経済がソフトランディングしてくれるかどうか」の方が圧倒的に重要である。まあ、今に始まったことじゃないんですけど。
〇とりあえず年内の利上げはないでしょう。しばらくは円安で株高なんじゃないでしょうか。でも、肝心のアメリカ経済が0.5%の利下げでもシャレにならないことになってしまったら? まあ、そんときはそんときなのである。
<9月22日>(日)
〇文芸評論家で慶応義塾大学名誉教授の福田和也氏が亡くなられた。この方、私と同じ1960年生まれで、誕生日が1日違いである。来月になれば、64歳になっていたはずであった。無作為に投じられたルーレットの玉が、自分のすぐ隣に落ちたようでギクッとする瞬間である。最近、お見掛けしないと思ったら大病されていたのですね。合掌。
〇確か2回くらいお会いしたことがあったと思う。それよりも昔、『SPA!』で連載しておられた坪内祐三さんとの連載対談が面白かったな。同世代人ではあるのだが、都会育ちの「粋」みたいなものを感じさせるお二人でした。坪内さんも2020年に亡くなられていたのですね。『SPA!』は最近はご無沙汰しておりまして、気づいてなくてまことに恐縮であります。
〇昔から、福田さんの「保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである」という言葉が好きでした。昨今は、金切り声で「けしから〜ん!」と叫ぶような手合いが保守主義者を自称していて、あんまり近寄りたくはないな〜と思っています。最近のアメリカにおける「トランピズム」の高揚にも、似たような保守主義の変質を感じるところです。
〇福田氏の逝去は、「限りある人生」ということをあらためて教えてくれるようなニュースである。しかるに先週のワシは、久しぶりに秋物のスーツを買ってしまった。ついでに新しいワイシャツも買った。思わず、「俺はいつまで仕事をしているのだろう?」と自問してしまった。
〇いや、真面目な話、64歳の誕生日を過ぎると近所の年金事務所に行って、老齢年金なるものを申請することになるのである。福田さんも元気であったなら、おそらく同じことをしていただろう。とは言っても、10月から11月はワシは忙し過ぎるので、いつ行けるのかよくわからんのだが。
〇幸いにも当溜池通信は延々と続いているのであるが、さすがに2028年米大統領選挙を追いかけるのはしんどいだろうなあ、と今から感じている昨今である。
<9月23日>(月)
〇今日は甲子園で今期最後の阪神×巨人戦である。昨日で1ゲーム差に迫っていたので、今日は是が非でも勝ちたい。が、1点が遠い。特に得点圏で3回も凡退した佐藤輝明、お前はいったい何をやっておるのだ。
〇と、腹ふくるる思いでテレビを見ている間に、ネットでは立憲民主党の代表選を覗いておったのだが、野田佳彦元首相が勝利しましたな。民主党が生んだ3人の首相の中では、最も高く評価される人ではあるのだが、それは他の2人があまりに酷かったからで、実際には人事の下手さ加減とか、党内の支持の低さとか、いろいろ課題も多い人だったんですよね。
〇それでも立民の代表が野田氏ということになれば、これは4日後の自民党総裁選にも確実に影響するだろう。いわゆる「三強」の構図に変化が起きるのではないか。
(1)小泉進次郎氏を総裁に選べば、野田氏が相手では予算委員会や党首討論で確実にボロが出る。総選挙、大丈夫か?(だからその前に解散する、という手も考えられるが、騙し通せる期間は短いぞ)
(2)高市早苗氏を総裁に選べば、「高市・自民党対野田・立憲民主党」の戦いとなり、中道や無党派の票がごっそり立民に流れそう。(その前に公明党との政策協定ができるのか? という問題もある)
〇ということで、石破さんが有利になるように思える。まあ、石破総裁対野田代表のねちっこい国会論戦というのを、ちょっと聞いてみたくはある。でもまあ、1回聞けばいいわなあ。そんなことより、ワシ的にはトランプさんもしくはハリスさんとのかみ合わない日米首脳会談の方が心配になってしまいます。
〇あらためて気がつくのだが、民主党代表選挙はこの週末、「能登被災地の洪水」「大谷翔平の大活躍」などに完全にメディアの注目を奪われ、きわめて地味に行われていたのであった。まあ、それは岸田首相最後の外遊(QUAD、国連未来サミットなど)も以下同文であったのですが。
<9月24日>(火)
〇しかしまあ、自民党の党員票というのはいったいどうなっているのか。新聞によって予想が全然違うのである。たぶん調査方法が違うんだろうね。しかしトップスリーの順位が違うのでは、3日後の本番はどういうことになってしまうのか。
●産経新聞(9月14−15日)
小泉進次郎30%、石破茂24%、高市早苗16%、小林鷹之3%、上川陽子4%、林芳正4%、茂木敏充3%、河野太郎5%、加藤勝信0%、未定11%
●日本テレビ(9月20−21日)
石破茂31%、高市早苗28%、小泉進次郎14%、小林鷹之6%、上川陽子6%、林芳正5%、茂木敏充2%、河野太郎2%、加藤勝信1%、未定6%
●共同通信(9月15−16日)
小泉27.9%、高市21.4%、石破19.7%
〇そうかと思うと、前回の党員投票は投票率が7割弱だったとのこと。年会費4000円も払っているのに、棄権するなんてなんともったいない。まあ、組織票なんかは、誰かが丸ごと党費を立て替えていたりもするのでしょうけれども。
〇もっともこういう「何でもあり」のところが総裁選の味わい深いところでありまして、元より公職選挙法の範囲外なのであります。はてさて金曜日はどういうことになるのか。そして株価は上がるのか下がるのか。ドラマは間もなく幕を開けます。
<9月26日>(木)
〇いつも思うのですが、「自分で決めたい!」という気持ちはほどほどにしておいたほうがいい。配偶者選びなどはともかく、人生の細かな機微はむしろ他人に決めてもらう方が、いいということがたくさんあります。「肉か魚か」「レアかミディアムかウェルダンか」「フレンチかサザンアイランドか和風か」なんて選択も、実はプロに任せる方が良いときがあります。
〇特に「民主主義のプロセスを全て民意に委ねよ」というのは危険な罠となります。アメリカ政治はかつて、大統領候補者を政党が"Smoking
Room"(煙草のけむりが立ち込めるボスたちの部屋)で決めていた。それではいかんということになって、戦後になって予備選システムを導入した。その結果、どうなったか。政党は自分たちの手で候補者を決められなくなった。それがいいことだと思われていたのです。当初のうちはね。
〇それがどうなったか。誰もドナルド・トランプを止められなくなった。だってそれが多数意見だったから。今では共和党という政党自体が乗っ取られてしまい、事実上の「トランプ党」になってしまった。いや、それも民意の結果だからそれでいいんだ、と強弁することも可能でしょう。ただし、それでアメリカ政治が良くなったとは、どう見ても思われない。だから予備選なんて、あんまり厳密にやらない方がいいのだと思います。
〇特に今みたいなSNS時代は、簡単に「少数派の専横」を許してしまいます。兵庫県知事はどう見てもリーダーには不適切な人だと思いますが、SNS時代には「あの人は本当はいい人に違いない」みたいな勘違いする人が出てきて、そういうロングテールがある程度の力を持ってしまう。しかもそれを見た本人が、変な自信を持ってしまう。本人にとっても、県民にとっても、まことに不幸なことです。SNS時代の直接民主主義には注意が必要です。
〇まことに残念なことながら、有権者には人を見る目なんてないのです。自民党総裁選の「3強」が典型でありまして、どうみても3人とも総理には適していませんよね。いっぱい地方を回って、いっぱい握手をしてきた人が、党員票では上位になります。たくさん大臣をやって、政府内で経験値を積み上げてきた人たちは人気が出ません。それは仕方がない。
〇実際の政治の世界としては、「人気のある人」と「能力のある人」がチームを作って仕事をしてもらうしかありません。そこをどう組み合わせるかは、当人たちに決めてもらうしかありませんよね。「そこも俺たちに決めさせろ!」というのは、有権者の思い上がりというものです。
〇やっぱり政治の世界には、ある程度はブラックボックスを残しておいた方がいいと思うのです。ボス政治とか党官僚の差配とか、そういう部分があった方が、いざというときに歯止めになってくれる。「あんたねえ、今日という今日は言わせてもらうよ!」という支持者が何人かいたならば、兵庫県知事だってもっとまともな決断ができたはずなんです。
〇その点、明日の自民党総裁選は、出てくる料理が「おまかせ」一択の鮨屋みたいなものです。歴史があるから客は我慢しているけれども、候補者の選定から最終決定まで、かなりの部分がブラックボックスです。明日が投票日となると、皆さんが面妖な動きを始めてまさしく魑魅魍魎のごとし。「誰それと誰それが会った!」みたいな情報が乱れ飛び、関係者が嬉々としているように見えるところがなんだか不謹慎です。
〇ということで、今週もいろんな場所で、「〇〇さんと××さんだった場合はどうなるんだ〜?」みたいな噂が飛び交いました。こういうところが間接民主主義のいいところだと思います。お店はお客さまに台所を見せるべきじゃありません。ところが客こそがお店をすべて支配すべきだ!みたいな勘違いをやらかした結果が、今のアメリカ政治なんじゃないのかと。いつまでもグレーの部分が残る自民党総裁選がワシ的にはいいと思います。
<9月27日>(金)
〇ということで、本日の自民党総裁選挙、実に「らしい」結果が出たと思います。派閥がなくても、「自民党の知恵」は健在でありました。
〇自民党総裁選を、世界文化遺産かなんかに指定してもいいのではないでしょうか。まず、今時、記名方式で投票しているところが珍しい。それを公衆の面前で開票作業するというのも、麗しい伝統です。これならごまかしようがないし、陰謀論も出にくいでしょう。なにしろ紙の投票用紙という証拠が残りますので。
〇そして今日の総裁選では、「決選投票での1位2位逆転」という自民党のお家芸が出ました。たぶん欧米メディアは「民意に反する」と言うでしょうし、「女性を勝たせなかった変われない日本」という批判もあるでしょう。でもねえ、ここが間接民主主義の優れたところなのでありまして。ブラックボックスを残しておく方がいい。
〇これはねえ、自民党の得意パターンなんです。ロッキード事件の後は三木武夫、リクルート事件の後は海部俊樹、そして裏金事件の後は石破茂です。「男は何度でも勝負する」という点は、令和の三木武夫と言っていいかもしれません。
〇こんなことを後出しで言うのもみっともないですけど、昨日、今日の午前と、「誰が勝つか?」と聞かれるたびに、「強いて言えば石破さんでしょう」と答えてきました。理由は以下の通り。
(1)直前になっても意思表示していないのは、たぶん参議院の議員さんたち。彼らにとっては、目先の総選挙はどうでもいい。来年夏の参院選まで、新政権が無事に国会運営をしてくれれば、「やっぱり野党よりも自民党だよね」(その頃には裏金問題も忘れられている)という計算が成り立つ。そのためには石破>高市、進次郎だろう。
(2)戦いが終わった後に、麻生元総理が呵々大笑している絵がどうしても浮かばない。今回は彼の判断が外れるはず。むしろ菅前総理、岸田現総理がニッコリする結末がふさわしいのではないか。
〇その辺はさておいて、個人的には林さんの第4位が一番うれしい不肖かんべえでありました。
<9月29日>(日)
〇週末の間に組閣の話がボツボツと洩れてまいります。面白いですねえ。
〇財務大臣の加藤勝信氏、という話が出てますが、カツカレーを食い逃げされてしまった人が政府のお財布を握る、というのはいかがなものでしょうか。世間的には、「これで緊縮内閣確定だ!」と警戒される方がいらっしゃいますが、財務省OBの政治家はかなりの確率で反財務省ですので、そこはあんまりご心配いらないのではないかと存じます。
〇森山幹事長は、石破人事というよりは岸田人事という感じですね。選挙が近いですから、選挙区調整をやらなきゃいけない大事なポストです。森山さんの裁定であれば、党内からの文句は少ないでしょう。逆に選挙対策委員長は、人気者の進次郎で十分務まる。上手な役割分担ですね。
〇その幹事長に高市さんを、という話がありましたけど、それでは党内が持たないでしょう。マスメディアからは、「裏金議員を優遇するのかぁぁぁ」みたいな声も出るでしょうし。代わりに高市さんに総務会長を打診したら断わられたとのこと。それは双方にとっていい結論だと思います。
〇論功行賞としては、岩屋外務大臣や赤澤経済再生担当相が該当しそうです。逆に言えば、恩義のある人がそれほど多くない、というのが今回の石破政権の面白い点かもしれません。元来、お友達が少ない人ですので。ただし、旧・岸田派には足を向けて寝られない。その辺の力学は自民党の変わらぬところでありましょう。
〇菅義偉前首相を副総裁にして、麻生太郎元首相を最高顧問に(ついでに鈴木財務相を総務会長に横滑り)というあたりは、まことに微妙なバランス感覚というものでしょう。と言っても、いちばん強力なのは岸田現首相でありまして、この人にはポストを用意する必要はありません。今回の総裁選で誰が勝ったか、は誰の目にも明らかなわけでして。
〇とまあ、いろいろありますけど、個人的に面白いなあと感じるのは、自民党右派が石破内閣を非難し、立憲民主左派が野田代表を腐そうとしていること。だんだん日本政治もアメリカに似通ってきましたね。でもまあ、そこは日本ですので、そんなに心配は要らないと思っております。
<9月30日>(月)
〇今朝になって閣僚名簿を見たら、ところどころ絶句してしまうような人選がある。そうか、そういうものなのだ。たまたま前任の岸田さんが「人事好き」だっただけに、閣僚人事も最初から如才のないところを見せていた。そんなのは例外で、生まれて初めてやる閣僚人事で成功する人は滅多にいないのだ。石破さん、あんまりお上手ではなかった。つまり普通だった。
〇そんなことはどうでもいい。日経平均が2000円くらい下げたところで、異とするには当たらない。市場に一喜一憂することなかれ。むしろ為替が3円円高になったことの方が大きい。これで日銀は年内は利上げしなくて済む。これが高市総裁であれば、1ドル147円くらいになっていて、日銀は年内の利上げが必要になっていた。どっちがお得か、言うまでもないだろう。
〇そんなことより、ワシ的にショックだったのはこれだ。
●Shigeru
Ishiba on Japan’s New Security Era: The Future of Japan’s
Foreign Policy
〇ハドソン研究所のサイトに石破さんのコメンタリーが英文で載っている。主張のポイントは@アジア版NATOの創設、A国家安全保障基本法の制定、B米英同盟なみに日米同盟を強化する、というお馴染みのポイントである。
〇が、読んでみるとひどい。アジア版NATOの部分では、たぶんこの筆者は「集団的自衛権」と「集団安全保障」の概念の区別がついていない。なおかつ、アジア版NATOなんて、一体だれが望んでいるのか理解不能である。アメリカ政府は黙殺するだろうし、東南アジアの国々も「勘弁してくれ」というはずである。
〇続くAも、他国の法律論議など、どうだっていい話である。ときどきしょぼい会社が盛大な経費をかけて、「ウチの会社はこんな組織変更をやりました!」などと宣伝して、客先から白い目で見られるのと同じである。日本が国家安全保障基本法を作ろうが、憲法を改正しようが、他国の専門家からは「それがどうした?」と言われるのが落ちである。
〇かろうじて理解できるのはBの部分だが、こんなのは2001年のアーミテージレポートの頃の話である。安保法制(2015年)や防衛3文書(2022年)を経た今の日本の防衛政策は、もうちょっとレベルの高いものになっているはずなのだが、石破さんって、大丈夫か?長年の防衛族でも、実は国際政治とか安全保障論はあんまり理解していなかったのか?
〇新政権の発足直後に発信された英文による安全保障論文としては、2012年12月の安倍晋三氏による「ダイヤモンド構想」がある。今でもちゃんとProject-Syndicateに残っているのでリンクを貼っておこう。これは今読んでもちゃんとしている。
●Asia’s
Democratic Sercurity Diamond
〇安倍さんが提唱した日米豪印のダイヤモンド構想は、後に「クワッド」として結実した。立派な功績である。まさか石破さん、この安倍論文に対抗しようとしたのではないと思うが、そうだとしたら月とスッポン、かなり恥ずかしい勘違いをしていることになる。いや、「日本のドゴール」と呼ばれたいのなら、それはそれで結構ですけど。
〇ということで、不穏なものを感じるのであるが、明日は臨時国会の召集である。はてさて、どういうことになるのでしょうか。
編集者敬白
不規則発言のバックナンバー
***2024年10月へ進む
***2024年8月へ戻る
***最新日記へ
溜池通信トップページへ
by Tatsuhiko Yoshizaki