<5月1日>(月)
〇暑い一日でござんした。こんな日にご招待を受けた先が、しゃぶしゃぶ料理であったという点は・・・・・・美味しかったので、文句を言ったらバチが当たるでごんす。いろいろ面白い話を聞きましたな。以下、備忘録。
●竹島問題。決着した翌日にあんなこと言っちゃうなんて、盧武鉉は痛過ぎる。
−−異議なし。国際的な評価はすでに定まった感あり。まあ、国内的には怒ってる人もいますけど。
●北朝鮮への金融制裁は半端じゃなしに効いている。
−−日本の民間企業も自然に右に倣えしているので、デファクトに金融制裁を発動しているようなもの。もっともアメリカは、「これは
economic sanctionではない。counter-measureである」などと言っている。制裁は黙ってするのが一番、ということですね。
●ワシントンであそこまでコケにされるなんて、胡錦濤は気の毒に。
−−プロトコールにうるさい相手に、プロトコールでわざとしくじって見せるなんて、アメリカも意外と人が悪い。それにしても、この話になると、皆の顔がニコニコしちゃうのは何故なんでしょう?
●ロシア人は田舎者だから、他民族支配が上手である。イスラエル人は都会人だから、パレスチナの占領がうまくいかない。
−−かつてロシアからイスラエルに移住したユダヤ人が、最近ではどんどんロシアに帰っているという。その理由は「ロシアの方が楽だから」。
●サウジアラビアの体制は意外と長持ちするものだ。
−−ソ連の共産主義体制や自民党の一党支配よりも長持ちするなんて、1980年代には一体誰が予想したでしょう。サウド家に代わるものがない、ってのがミソですな。
●「9/11」のハイジャック犯は、よど号の乗っ取り犯みたいなものだ。つまり出来の悪いインテリってこと。
−−世の中にいちばんの害悪を流すのは、得てしてそういう手合いである。
●後藤田正晴は、日本国のことよりも警察組織を優先するケシカラン奴であった。
−−ホントかどうかは分かりませんが、言われてみるとそんな気もする。昔の部下の信頼が非常に厚かったという点がそもそも怪しい。
●伝統的に、日本が情勢分析を誤るのは、アメリカと中国に対してである。
−−だってその2つの国がいちばん難しいんだもの。他の国だって同じだと思いますよ。
<5月2〜3日>(火〜水)
〇年初からいわれてきたことですが、「ポスト小泉レース」は5月の大型連休から始まるであろうと。この間、いくつもの「どんでん返し」がありましたが、ここだけは予想通り、有力各候補の外遊(安倍官房長官だけは官邸のお留守番)をきっかけに、「よーいドン」状態になったようです。まことにワクワクする季節の始まりであります。
〇三角大福の昔から、自民党総裁選挙は公職選挙法の埒外にある天下御免の政治闘争。謀略あり、買収あり、裏切りあり、恫喝あり、空手形あり、という権謀術数のオールスターゲームです。そんなところが、昔から永田町政治ウォッチャーからご近所の床屋政談オヤジまでを惹きつけて止まないわけです。ホラ、「〇〇さんがいい」とか、「××の芽は消えた」とか、「流れが変わってきた」などと、まるで自分に決定権があるかのごとき言辞を吐いている人が、あなたの近くにも居るでしょ?
〇しかし、ひょっとするともうそんな時代は終わったのではないか。かんべえ自身もその手の永田町政治のオールドファンの一人なのですが、「06年の自民党総裁選は、実はつまらないレースなのではないか」という予感がしております。てなことで、この連休はその辺の話をあれこれ考えてみようかと思っています。
〇自民党総裁選が面白かったのは、派閥単位の合従連衡があったからです。でも小泉政治の5年間で、派閥はかなり壊れてしまった。かつてはカネと選挙とポストの面倒を見る、というのが派閥の意義でしたが、今では副大臣以下のポストを調整するくらいしかご利益はありません。そもそも自民党の派閥って、今、どうなってるの?あらためて調べてみると、こんな風になっている。
●森派(86人):政権派閥だからどんどん人が増える。が、これ以上、増えるとカネの面倒を見切れないので、森さんとしても頭が痛い。ホンネをいえば、福田&安倍の両方を引き摺り下ろして、真のキングメーカーになりたい?
●津島派(74人):かつての覇者・経世会も、今では紀元後400年くらいのローマ帝国に近い。皇帝(領袖)のなり手が居なくて、しかもしょっちゅう変わる。維持すること自体が一仕事だ。
●丹羽・古賀派(48人):誰を応援すればいいのか悩ましい。谷垣と麻生の2人が立っているところがミソ。福田なら乗れるのでありがたい。なーんて、迷っているうちにチャンスを逃すのが旧宏池会の遺伝子なんですけど。
●山崎派(37人):苦労して作った自前の派閥だもの、領袖が総理を目指さなきゃ意味がない。でも、自分の選挙が危ない総理を作ってもねえ。
●伊吹派(33人):亀井さんはもう国民新党に逝っちゃいましたから。その一方で、党の内外で平沼待望論が高まっているという観測も。
●二階派(16人):おや、もう党内では6番目の勢力なんですね。ボスは今時はやらないタイプなるも、経済産業大臣となって赤丸急上昇。
●谷垣派(15人):ジャーン、やっと候補者の名前が出てきました。でも、これじゃ推薦人の数(20人)も足りません。
●高村派(15人):おや、まだ居たの?って、旧河本派〜三木派のDNAはまだ残っています。
●旧河野派(11人):麻生さんはここに居る。ところで河野太郎も自分は候補者だと言っているそうですが、マジっすか?
〇こうして見ると、派閥の規模が「格差社会」化していることが分かる。「勝ち組」森派には候補者が2人いて、これは贅沢な悩み。その他の派閥は軒並み「負け組」であり、自前の候補者を持っていないか、持っていても推薦人の数が足りないかのどっちかである。そもそも推薦人の数は20人以上といわれるが、候補者本人の分もあるし、こういうものは直前に脱落する人が出てきたりするものだから、ある程度の歩留まりを見込む必要がある。だから、派閥は30人はいないと十分に派閥足り得ないのである。(30人以下は「派」ではなく「グループ」と呼ぶこともある)
〇こうしてみると、派閥間の合従連衡で総裁を決めるのは、実際問題として無理でしょう。でも、古い政治家はその思考法に慣れちゃっているし、新聞の政治記者なんかもあいかわらず派閥単位で取材をしているから、あいかわらずの記事を書いている。でも、ホントのところ、ルールが変わってしまっているし、国民の側の期待も変化している。では、どう変わったのか。明日以降に続く(予定)。
<5月4日>(木)
〇政府要人が外遊する際は、夜に随行の記者団と「懇談」をします。政治家は外国に出ると口が軽くなるし、記者団としてもじっくりと時間が取れるので、海外発のコメントが永田町に激震をもたらす例は少なくありません。というか、取材される側も問題発言を仕掛けるチャンスですので、最初からそれが狙いなんですね。昨日のこれも、そんな「懇談」のひとつです。
http://www.asahi.com/politics/update/0503/004.html
●首相、森派の総裁選候補の一本化に否定的 2006年05月03日18時07分
ガーナを訪問中の小泉首相は2日夜(日本時間3日未明)、9月の自民党総裁選に向け、森前首相が森派の安倍官房長官と福田康夫元官房長官との一本化に意欲を示していることについて「(派閥単位では)まとまりにくい状況になっている。もう古い自民党は壊れている。本人が出たいというのを止める方法はない。最終的には本人が決めることだ」と語り、調整による一本化に否定的な考えを示した。アクラ市内のホテルで同行記者団に語った。
安倍、福田両氏はこれまで総裁選への対応を明言していないが、世論調査では1、2位に名前が挙がり、ポスト小泉に有力視されている。首相が一本化に否定的な考えを示したことで、安倍、福田両氏が総裁選にそろって立候補する可能性が出てきた。今後は、2人が最終的にどう判断するのか、森派分裂を避けたい森氏がどう対応するのかが焦点となる。
首相は各派閥の連携や候補一本化の動きについて、「そういう動きをしたい人たちはいつの世にもいる」と指摘。そのうえで「それが成功するかどうかは別問題。派閥同士で決めても何の効果もない状況になっている」と批判した。また、総裁選の前倒しは「ありません」と明確に否定した。
ポスト小泉の条件では、「私のまねをしようたって、まねできるものではない。その人の持ち味をいかすことが大事。改革路線を実行しないと、国民から支持を得られない」と強調した。
〇言ってる内容は常識の範囲内ですが、「派閥をどうやってまとめていこうか」という森さんの努力に、しっかり後足で砂をかけているところが麗しいですね。こんな風に「森vs小泉」の高度なコミュニケーションが成立するのは、過去5年間にわれわれが何度も目撃したところです。近いところでは、「俺もさじ投げた」発言(当不規則発言、昨年8月6〜7日に掲載済み)が懐かしく思い出されるところですが、これはある程度「出来レース」であったという証言もあり、ご両人の関係の深さは余人の窺い知れないところであります。
〇「候補者の一本化なんて、意味ねーじゃん」という見方は、大方の永田町ウォッチャーにとっても「常識」でしょう。仮に森さんの説得に応じて、安倍さんが総裁選への出馬を取りやめるとしたら、その瞬間に自民党と安倍さんの両方の人気が失墜するでしょう。また、父・安倍晋太郎の無念を思えば、目の前のチャンスを逃してはいけないという教訓も安倍さんには残っているはず。それを承知で「党内一本化」を目指す森さんの努力は、まことに涙ぐましいものがあります。でも、実際にこの人一人黙らせられないわけですから、客観的に見て無理なんでしょう。あるいは「ここまで俺は努力したんだ」というアリバイ工作なのかもしれません。
〇とはいえ、06年総裁選において、かなりの確率で森派は割れる。となれば、もともと津島派と丹羽・古賀派はボロボロですから、この時点で自民党の5大派閥の歴史はほぼ完全崩壊するわけです。(自民党5大派閥の歴史については、かなり古いですけどここに書いてあります)。これを称して「自民党をぶっ壊す」という小泉さんの悲願が成就すると考えると、なかなかに感慨深いものがあります。
〇思えば1996年に初の小選挙区選挙が行なわれてから今年で10年。中選挙区時代の制度というべき派閥システムはじょじょに崩れてきました。もうひとつ、2001年の総裁選から一般党員票の動きが大きくモノをいうようになった。2003年には少し手直しされましたが、それでも派閥液状化の流れは止まらなかった(詳しくはここをご参照)。2006年も、一般党員票と議員票の意向が大きく違った場合、総裁選の正当性が揺らぐことに変わりはないわけです。
〇自民党総裁選挙といえば、過去にはいろんな裏取引で決着することが多かった。そのプロセスが面白くて、しかも味のある答えを出すことが多かったために、「自民党の知恵」と呼ばれたりもしたわけです。しかし、その手の談合は、もうほとんどできなくなってしまった。一般党員票による選挙では、ほとんど世論調査と同じ結果が出る。ということは、自民党総裁を選ぶ権限は民意に委ねられているも同然。ベテランの議員さんたちがどんな知恵を発揮したところで、答えは変えられないのではないか。
〇と、こんな風に考えると、自民党総裁選挙はもう昔のような権謀術数の世界ではなく、アメリカの大統領選挙予備選のような世界になっていることになります。では、誰が勝つのか。明日に続きます。
<5月5日>(金)
〇自民党総裁は世論調査通りで決まる、としたら、ポスト小泉はもう安倍官房長官以外にはないわけです。福田元官房長官との差はずいぶん接近したというものの、いかんせんダブルスコアである(以下はほんの一例)。2004年の米民主党予備選、「アイオワ崩れ」でハワード・ディーンの人気が急落して大逆転した事例はありますが、そんな可能性は非常に低いですわな。
●「報道2001」4月2日放送分調査から
【問3】小泉総理は、この9月に自民党総裁の任期切れを迎えます。あなたは、次の自民党総裁には誰がなってほしいですか。次の中から一人選んでください。 | |||
麻生太郎 | 6.6% | ||
安倍晋三 | 48.8% | ||
谷垣禎一 | 5.0% | ||
福田康夫 | 23.4% | ||
(その他・わからない) | 16.2% |
〇日本の財務省や、中国共産党といった究極の現実主義者集団は、そろって「次は安倍」を想定して動いているようです。もったいぶって言うほどのことではなくて、当ったり前の話なんですな。競馬に喩えると、ディープインパクトが出走することが分かっているのに、3番手や4番手の候補の話をしているようなもので、オッズ的には大差がついてしまっているのです。
〇でも、それを認めたくない人が多過ぎるために、「麻垣康三」などと称しているのではありますまいか。都合のいいことに、永田町には「一寸先は闇」という金言がある。そして「ポスト小泉は誰か分からない」と言っておく方が、多くの人にとって得になるのです。
●派閥の領袖たち:自分の影響力なしに次期総裁が決まることだけは我慢できない。
●陣笠代議士たち:せっかくの総裁選だというのに、自分の1票が意味を持たないと考えるのは悔しすぎる。
●政治部記者たち:あいかわらず派閥単位の取材をしているので、各人がそれぞれの候補者の応援団になってしまっている。
●巷の政治オタクたち:「安倍で決まり」などと言うと、素人臭く思われてしまうし、野次馬的興味が失われてしまう。
〇でもね、それって2003年の総裁選もそうだったじゃありませんか。世間の人たちは「小泉再選で決まり」だと思っていたけども、永田町の人たちだけは何か必殺技があるかのごとき言辞を吐いていたし、新聞の政治面では「誰それと誰それが会った」などと意味のない記事を書いていた。昨年の郵政解散のときも同様で、多くの永田町インサイダーが、「法案否決でも衆院解散はできない」と読み間違えた。実は政治のプロと呼ばれる人たちよりも、単なる「小泉ファン」の方が実態がよく見えているのであります。
〇永田町のゲームのルールは変わってしまった。古いルールに慣れている人はそのことに気づかない。もしくは、変わってしまったことを認めたくない。今年の総裁選挙は、またしてもアンチクライマックスな勝負となり、特段の見せ場もなく安倍総裁を誕生させ、「なーんだ、つまらない」という印象を与えることになるのではないか。こんな予想をすること自体、かんべえのような「永田町オールドファン」としては、実に物足りない思いを禁じえないわけであるのですが。
<5月6日>(土)
〇とうとうシリーズ4日目。でも、なんというか、心弾まない話なのですね。「ポスト小泉は安倍で決まり」というのでは、誰でも分かる本命馬に印を打つようなもので、かんべえ自身もあんまり楽しくはない。いろんな経歴、意見をもつ有力候補者がずらりと並んで、「さあ、誰がなるのかな?」という楽しみがなかったら、ポスト小泉レースは面白くないのである。
〇「でも、小沢民主党が何かやってくれるのでは」−−そんな期待も少しは出てきた今日この頃。「小沢さんは政界再編を仕掛けてくる」という話です。今年の9月であれば、例えば平沼赳夫さんあたりを担ぐというシナリオが考えられます。ついて来れない民主党は切って捨て、自民党から抵抗勢力の残党を呼び寄せ、もちろん国民新党はついて来るし、新党日本も党首を放り出して合流するという筋書きが考えられます。どうですか、平沼新首相。ちょっと新鮮味があるじゃありませんか。
〇でもねー、あまりにもトリッキーですよね。小沢さんという人は、いつもいつも政権交代、ないしは政界再編を目指している人です。というより、生涯でただ1回だけ成功した夢を、何度も自己模倣しては失敗を続けている哀れな男ではありませんか。最近の有権者は真面目ですから、「よその党首を担いで」という発想を抱いた瞬間に見捨てられるでしょう。もっとも小沢さんのことですから、意外とマジで平沼新首相の線を考えているかもしれません。なにしろ彼は古いタイプ。株主を無視して経営ができた時代の経営者の生き残りみたいなものですから。
〇そもそも全国で300もある小選挙区のほとんどに自民と民主の候補者が張り付いている昨今、どうやって政界再編を果たすのですか。そりゃま、民主党と国民新党の合併くらいは可能でしょう。でも、それってあんまりメリットはないですよね。国民新党の政党支持率はゼロに近いですし、今さら綿貫さんや亀井さんを仲間にしたところで使い道もありませんし。
〇もっとも、自民党内にも紛争のネタは存分にあるわけであります。以下は2ちゃん議員板の「運スレ」で採取したもの。
【速報】小泉総理退任後の10月に衆議院解散決定
<2006年5月5日、永田町発>
今年9月の小泉総理の官邸卒業も間近になり、新総裁選挙もいよいよスタートといった気配だが、
ここにきて永田町に激震が走った。なんと衆議院を10月にも解散するというのだ。
理由は「音楽性の違い」(森喜朗前総理(ドラムス)談)。
森前総理によると、「新ヴォーカルを福田康夫にするか安倍晋三にするかでバンドがまとまらない。
総理はダブルヴォーカルでもいいと言うがそういうわけにもいかないだろう。
それにせっかく純ちゃんが衆議院をロック路線に転向したのにもう一度
浪花節、演歌でやりたがってるメンバーも結構いるみたいだし。」とのこと。
また、消息筋によると「前回郵政に対する見解の違いで解散したときはヴォーカルの小泉総理が
リーダーシップを発揮し、これまでに例を見ない大幅なメンバーチェンジを経てバンド再結成が出来たが、
小泉というカリスマなき後に解散してもバンド再結成は難しい」という。
今回の報道を受け、新ヴォーカルの最有力候補である安倍氏は沈黙を守るが、
もう一人の最有力候補の福田氏は「そもそも480人でバンドを組んでいたことに無理があった。
だから名前も覚えてもらえないメンバーも多い。」と記者の質問を鼻で笑い飛ばした。
〇ロックバンドとして生まれ変わった自民党だが、本来は浪花節や演歌を得意とするメンバーの方が多い。ではホントに割れるか、といえば、そんな度胸のある人がどれだけいるでしょう。去年、郵政民営化法案に反対する度胸のある議員でさえ、あれだけしかいませんでしたのに。彼らは「今でも地方に行けば演歌のファンがいる」と思っている。でも、演歌のファンにCDやi-podを買わせる才覚がない。だからロックバンドのバックコーラスをして我慢をしているわけですな。
〇それでは自民党のロックバンドがいつまでも続くかといえば、それはちょっと違うだろう。時代が求めているのは演歌でもロックでもない。強いて言えば、多様化した国民のニーズはロングテールです。「それじゃ政治にならない」と考えるのが旧世代の発想。そんな中から、より多くの有権者が「これだ!」と感じ取る政治課題を拾い上げることが必要なわけでして。もっとも国会議員のうちかなりの数が、「ロングテール?何だそれは?」と言い出しそうですが。(ちなみに連休中に読んだこの本はお勧めです)。
〇要するに国民の側の期待はすでに変わってしまったのに、議員の中にはあいもかわらず昔の夢を追っている人が少なくない。そこに問題の本質があると思うのです。ということで、このシリーズ、連休とともに明日で終わる予定であります。
<5月7日>(日)
〇連休中、ポスト小泉レースについて、あれこれ書き連ねて来ました。ほとんど常識の範囲内の話なので、少数意見の好きな穴狙いかんべえとしてはつくづく楽しくないのですが、要は「安倍さんで決まり」のレースを、いかに盛り上げるかで皆さん悩んでいるだけなんですね。
〇現時点では、自民党ベテラン議員で「安倍さんじゃヤダ」という人たちが、寄ってたかって福田さんを持ち上げようとしている。でも、あんたたち、ホントに福田さんが好きなの?−−違うよね、単に世代交代が嫌だとか、少しはワシらの意見を聞いてくれそうだというだけで、積極的に福田首相を実現したいってんじゃないですよね。実際、福田さんって人は、これまでの人生でギャンブルらしいことは何一つしていない人です。本当ならば、ここで一世一代の賭けをしなければならないはずなのですが、そんな風に見えますか?人間、70歳にもなって、人生初めてのギャンブルはできないもんですよ。フフン。
〇自民党の外でも、小泉嫌いのマスコミ、文化人などが「安倍さんじゃ怖い」「だから福田さんがいい」などと言っている。彼らの気持ちを忖度すると、最初は菅民主党に期待したけどダメで、それから岡田民主党に期待したけどダメで、前原民主党はさらにダメダメで、いよいよ小沢一郎に期待するくらいなら、まだしも福田さんの方がマシ、てなところでしょう。でも、うまくいったところで福田さんはワンポイントリリーフというのが悲しいところですが。
〇要は今度の自民党総裁選、「麻垣康三」ではなくて、「安倍対反安倍」の戦いなんですね。そして一般党員票の認知度で圧倒的な差がついているために、なかなか反安倍派に勝ちめがない。「風向きは変わりつつある」とか言いますけど、だいたい「一般党員票で支持が得られず、議員票を固めて勝った自民党総裁」を、国民が日本国首相として認めますかどうか。そして過去5年間、小泉さん以外の下で選挙を戦ったことのない自民党が、福田さんや谷垣さんを頭に選挙をする不安に耐えられるかどうか。いかに「一寸先は闇」とはいえ、大逆転は難しいですぞ。
〇ということで、連休の間、5回に分けて書いてきたポスト小泉レースの話はこれでおしまいです。蛇足ながら、あたしゃ自民党員ではないので総裁選挙には参加できませんが、仮に投票できるのであれば、おそらく麻生さん当たりに入れますな。だって多数派にはなりたくないんだもん。
<5月8日>(月)
〇「ポスト小泉シリーズ」を書いていたら、たいしたレジャーらしいこともなしで、連休は終わってしまいました。
〇ひとつ気になったことがあります。連休中に、長女Kの保育園時代の親たちが集まって、バーベキューの集いがあったのですが、「最近、乗馬を始めました。いい運動になります」とか、「趣味の陶芸で発表会をやってます。よかったらどうぞ」といった、実にまっとうな趣味の持ち主が増えているのです。皆さん余裕ができたというか、いい年齢になったというか。省みて、ワシはそういうのって何もないなー、と唖然としてしまった。時間つぶしはネットと競馬というのでは悲しすぎはしないかと。
〇連休の過ごし方として、ひとつ思いついたのは『史記』を読み返そうというものでした。あのホリえもんが獄中で読んだのが『史記』であったというではありませんか。かの佐藤優氏も同様であった由。不意に思うところあり、「ワシも将来、何かの理由で投獄されることがあったら、差し入れは是非、『史記』にしてくれ」と配偶者に頼んだら、この男アホかという顔で見られてしまった。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らん、である。
〇本当は、柏市立図書館にある平凡社の『史記』全3巻の訳が好ましいのであるが、あそこは祭日はお休みである。自宅にあったのは、ちくま学芸文庫版『史記』全8巻のうちの2冊だけで、いちばん読みたいと思った「列伝」の冒頭部分がない。本屋に立ち寄ってみると、ほとんどの店で、ちくまの『史記』は品切れであった。ちくまは商売下手やなあ。「この連休、ホリえもんが獄中で読んだ本で過ごそう!」となぜ思わぬか。って、そんな読者のために増刷したりはせんわな、普通。
〇しょうがないから、読まずに記憶を頼りに以下の部分を書いてみる。『史記』全130巻は、本紀12巻、世家30巻、列伝70巻、表10巻、書8巻からなる。「項羽と劉邦」のくだりなど、有名部分の多くは本紀の部分に収録されているが、それ以上に列伝がまことにすぐれた人間ドラマの宝庫である。特に敗者への目配りが良い。司馬遷が自分の不運を嘆きながら書いているようなところがあって、気の毒な人を書くときほど筆に勢いがある。
〇列伝は1巻に伯夷と叔斉を取り上げる。この二人、あまりの人徳者であったがために、世を捨てて最後は飢え死にしてしまう。ここで司馬遷は、かの有名な「天道是か非か」の嘆きをもらすのだが、これこそ『史記』全130巻を貫くトーンである。でもってこれを皮切りに、列伝は幾多の英傑、勇将、賢者、悪人、刺客、商人、遊侠人、凡人、その他大勢を取り上げ、最後の70巻には司馬遷自身が登場する。彼もまた、友人、李陵を庇ったがために宮刑に処せられてしまうので、「天道是か非か」の口なのである。
〇ホリえもんも佐藤優氏も、相当に数奇な運命に弄ばれたというほかはない。近い例でいえば、斉藤健さんも神谷万丈さんもである。そういう身の上になってみると、おそらくこの「天道是か非か」が普通とは違う次元で読めることだろう。凡夫かんべえは幸いにも呑気な人生を歩んでおり、悩みといえば5月から違う種類の花粉が飛んでいるらしいことと、視力の低下(おそらく老眼)が進んでいる程度である。いわば他人事として「天道是か非か」なんて言っていられる。ありがたいことである。これでは伯夷にも司馬遷にも近寄れない。
〇などと言ってるうちに、連休は終わってしまった。あまり外に出ずに家で仕事をしてたはずなのに、明日締め切りの原稿と、明日の研究会発表のレジュメがまだ出来ていなかったりするのはなぜだろう。不思議だ。
<5月9日>(火)
〇連休中に会社に届いていたネルソンレポートが面白過ぎなのである。溜池通信の本誌で紹介した4月20日の米中首脳会談の後日談なのですが、中国側が烈火のごとく怒っているというのです。確かに言われてみれば、もっともな話ではあります。
1.
国旗掲揚の際に、ホワイトハウスの儀典係がPRC(中華人民共和国)をROC(中華民国)と間違えた。こんなのは「あり得ない」間違いである。絶対に故意であったに違いない!
−−まあ、そうおっしゃいますな。普通のアメリカ人はその辺の違いを知らないのです。でもまあ、プロの儀典係にはあるまじきことですな。
2.
胡錦濤国家主席の演説を妨害した法輪功の女性は、5年前にマルタで江沢民の演説を妨害した前科があった。なんでそんな記者が会場に入れたのか。シークレット・サービスは何をしてたんだ!
−−記者のチェックをしたのはNSCだったそうです。この辺の情報は錯綜しており、ホワイトハウスが混乱していたことが窺えます。
3.
彼女の妨害発言が始まったとき、中国側はすぐに「止めてくれ!」と求めた。ところがシークレットサービスは、「彼女は武器を持っていない。だから危険はない。となると、これはDC警察の責任になる」と動かなかった。そのせいで妨害発言は3分間も続いた。いったい、われわれを何だと思っているのだ!
−−うぷぷぷ、ひどい話ですねえ。でも、いかにもアメリカではありそうな話です。
4.
ホワイトハウス前では、法輪功が約束の期限である夜11時過ぎになっても抗議活動を続けていた。これまたシークレットサービスに文句を言ったら、「それはDC警察の領分だ」といわれた。DC警察に行ったら、「ホワイトハウスと残業費のことで揉めたので、われわれは夜10時以降は仕事をしない」といわれた。何という職務怠慢だ!
−−これもワシントンでは、非常に、非常にありそうな話です。
5.
当日の通訳がひどい出来だった。かねてから評判の悪い通訳で、事前にはNSCが「アイツだけは使うな」と言っていたのに、国務省はよりによってその通訳を指名した。
−−日本語の通訳でもこういう話はよく聞くところです。といっても、慰めにはなりませんよね。
6. 21発の礼砲を撃つ場面で、中国の旗がなかった。先日、シン首相が来たときには、ちゃんとインドの旗がたくさん並んでいたぞ。なぜ中国の旗を用意しないのだ!馬鹿にしている!
−−ホントにそうですかぁ?なんだか、NHKによる荒川静香のウィニングラン放送の話を思い出します。
7.
この扱いは、中国に恥をかかせ、封じ込め、変革するためであろう!そうだ、そうに違いない!
−−えー、確かにそんな風に思えますけど、アメリカは何のためにそこまでするんでしょうか。イランとか人民元とか北朝鮮とか、いろいろ中国には協力して欲しいことがあるはずなのですが。
〇中国側の怒り方は徹底していて、上層部からの指示が徹底している模様。ということは、おそらく胡錦濤国家主席自身が「恥をかかされた」とお怒りなのでありましょう。だって18ヶ月前から準備して、米中間で散々やりあって、この間、中国側はプロトコールばかりうるさく言ってきたのですから。ひょっとすると、これで李ちょう星外相のクビは飛ぶかもしれませんね。
〇もっとも、アメリカ側が後から「エヘヘ、わざとだぴょーん」などと告白するはずもないのであって、このプロトコール合戦の真相は「藪の中」になるのでありましょう。かんべえも「故意」があったと思いますが、それとは別に、上の1〜7を見ると、意図せざる失礼もずいぶんあったようですね。少なくとも、アメリカ側が相手を「賓客」とは心得ていなかった節があります。
〇そもそも中国側は、アメリカ側が「こうして欲しい」という要望をほとんど果たしていない。そのくせ、形式にはうるさい。いかにも嫌われるタイプですよね。しかも胡錦濤という人は、あんまり面白みがない。演台に立たせれば、無表情で紙を読むだけ。まだしも江沢民は英語が話せたし、迫力も愛嬌もあった。その点、胡錦濤は昔の日本の総理大臣のように、いかにもアメリカ社会が粗略に扱いそうなタイプなのです。
〇こうなると来月、訪米する小泉さんへの反応が興味深いわけですが、なにしろこっちは「プレスリーが大好き」などとぶっ飛んでますから、おそらくアメリカ受けするしょうね。それにしても、ワグナーとXジャパンとプレスリーが好きって、われらが総理はどういう音楽の趣味をしてるんでしょうか。
<5月10日>(水)
〇ぐっちーさんが「ハニートラップ」ネタで受けている。そうかと思えば、先日はらくちんさんが「痴漢冤罪」ネタを書いていた。なんか似てるよね。要するに中年男よ、ご用心なされませ、ということでしょうか。
〇同世代のご両人が書かれているようなことは、いつ我が身に降り注ぐとも分からないわけであります。ま、せいぜい「人間は不得意分野では失敗をしないものだ」と自分に言い聞かせるくらいしかありません。
〇たまたま阿川尚之著『マサチューセッツ通り2520番地』(講談社)を読んでおりましたら、駐米公使としてワシントンに向かうことになった阿川さんが、赴任前に椎名素夫参議院議員からもらった心がけ、というのがよろしい。忘れないようにここに書いておきます。
(1)ただ酒を飲むな
(2)功績は人のものにしろ
(3)仕事はついでにやれ
〇これは良い教えだと思います。かんべえはこれまでに散々、ただ酒を飲んでしまっている人間ですので、(1)はもう失格です。ということで、今後はせいぜい、自分より若い人に奢ることで挽回するしかありません。でもって、サラリーマン生活も20年を越えますと、だんだん(2)や(3)の教えが分かってきたような気がするのであります。少なくとも、(1)〜(3)を着実に実践している人は、女性問題を含む妙な波乱に巻き込まれる確率は非常に低くなるでしょう。
〇以上、ハニートラップも痴漢冤罪も防げないでしょうけれども、中年男にとって重要だと思われる注意事項を(我が身のために)書き留めておきます。
<5月11日>(木)
〇昨日、あのように書いた翌日に、もうタダ酒をご馳走になってしまっている、とってもダメなかんべえさんであります。で、今宵、お話をしているうちに、当方がその昔、日商岩井の広報誌「トレードピア」の編集をやっていたと申し上げたところ、相手の人が「あ、それは読んでました」とおっしゃるではありませんか。自分が作っていた雑誌の愛読者に会えるとは、実にうれしいものです。(今ではもう、企業広報誌自体がめずらしい存在になってますけど、かんべえが担当していた1987〜1990年頃の「トレードピア」は、そこそこ有名な存在だったのです)。
〇かんべえが社会人生活の第一歩をしるした日商岩井の広報室というのは、今から考えると夢のように太っ腹な世界でありました。会社の顔になるような雑誌の編集を、入社3年目の社員に丸投げして、文字通り任せきりにしておりました。とにかく、企画を起こして原稿を依頼するようなことは全部、担当者レベルで決めて、ゲラまで出来たところで初めて上司に見せる。上司に相談を持ちかけるのは、主にトラブルが発生したときだけ。下っ端にこんな好き勝手をやらせていたのは、拙著『1985年』のまえがきに登場する故・藤原正邦さんでした。なぜ、あんな放任主義が可能であったのか、今となっては謎というほかはありません。
〇小なりといえど、あるいは商業誌でないとはいえ、月刊誌を毎月出すというのはそれなりに大変なものです。大家と呼ばれる人にインタビューしたり、新しい書き手を発掘したり、パーティーで名刺を配ったり、旬の話題を求めていろんな書きものに眼を通さなければなりません。しかも、編集業について、手取り足取り教えてくれる人は周囲には居ませんでした。そりゃそうだ、商社なんだもの。かくして商社マンになるはずで入った会社で、妙な経験をせっせと積んだのが20代後半でした。
〇素の状態では、モノグサ、出不精、人見知り、優柔不断というタイプのかんべえですが、当時の編集者経験がその後の人生でどれだけ役に立ったかは計り知れません。とりあえず、それがなかったら「溜池通信」なんてニューズレターは誕生していないでしょう。いつも最後に「編集者敬白」という言葉がついているのは、当時の名残りなんだと思います。
〇ということで、懐旧の念に浸りつつ家に帰ってきたところが、当時、執筆をお願いしていた大礒正美先生から新刊本が届いているではありませんか。題して『よむ地球きる世界−日本はどうなる編』。「はじめに」を見たら、ちゃんとトレードピアのことにも触れられていたので、またまた深く頭を下げた次第です。どうかこの本が多くの人の目に止まりますように。
<5月12日>(金)
〇今日の新聞から拾った言葉。
●「『もう少し冷静にやってくれ』とこの間イエローカード(警告)を出したが、きょうはレッドカード(退場)だ」(森前首相)
−−こういう大人気ない発言が出るところが、森さんらしいところです。
● 「派閥のエースである安倍さんが首相にふさわしいと発言することがいけないなんて聞いたことはない。(派閥を)辞める理由がない」(山本一太衆議院議員)
−−あなたが応援しない方が、安倍さんはありがたいんじゃないですかね。
●「推薦人を集めるより、政策を国民に訴えるのが先。世論調査で限りなく2位に近い支持を得られれば、仲間を呼びかけたい」(河野太郎衆議院議員)
−−そうか、総裁とは「周囲から押されてなる」ものではなくなったのですね。
●「小沢代表は古い友人であり、民主党の代表団を率いて訪問されることを歓迎します」(唐・中国国務委員)
−−こうやって小沢氏は落ちていくのね。
●「一番大切なのは愛だ」(プーチン大統領) ・・・・5月10日、ロシアでは毎年70万人ずつ人口が減っていると指摘、国家の存亡にかかわる重大な問題だとの認識を示して。
−−何か足りないと思っていましたが、日本の少子化対策にはこのひと言が欠けていたのですね。人の命の話をするときに、カネの話ばかりしているのはちょっと変です。
〇政治家には大人もいれば子供もいる、というお話でした。
<5月13〜14日>(土〜日)
〇今日は保育園のバザーで勤労奉仕。年2回の恒例行事なるも、最近は何度か休んでしまったので久しぶりである。雨上がりの公園は地面が濡れていて、午前中は客足も多くない。ということで、条件はあんまりよろしくない。いつもと同じ家具売り場を担当し、売れる商品、売れない商品にふと時代の流れを感じる。
〇まず、アウトドア関連の商品が売れない。小ぎれいなディレクターズチェアがでているのだが、誰も見向きもしない。この手の商品はかつては「売れ筋」だったんだけどね。最近はバーベキューとかって、人気がないんでしょうか。
〇子供関連商品も不振。自転車と三輪車は、例年どおり速攻で売れた。喜んで三輪車に乗っていく子供、それに安く買えてラッキーと思っている親の姿を見るのは、この仕事の楽しさの最たるものである。が、チャイルドシートが3点、美品も含めて売れない。そもそも、今日は子供の数自体が少なかったな。むしろ犬を連れている人が多かった気がする。
〇チャイルドシートについては、どうも消費者の「安全」意識が変わっているような気がする。法制化される以前は、「とにかく、つけてればいいんだろう」というところがあって、まともに買えば何万円かするものをバザーで買って得したという人が多かった。ウチもチャイルドシートは、「バザーで買って、子供が大きくなったらバザーに出す」ようにしていた。ところが最近の親は、「何かあったら心配」だと思うらしい。
〇それに限らず、全体に客が用心深くなっていると思う。電化製品なども「これ、ちゃんと使えますよね」と聞かれる。そりゃま、できる範囲でチェックはしているけど、バザーの商品なんだから、基本は出してくれる人の善意を信用している。その辺のリスクも含めて安く売っていると思うのだけど、最近の消費者には「たとえ100円で買ったものでも、欠陥品だったら許せない」という気合がある。「消費者は過度に安全を求める」というのは、昨今のマーケティングの鍵であるのかもしれない。
〇ゲーム関連商品が好調。スーパーファミコン、プレステ、セガサターンなどのハードが出ていたのだが、1500円から500円で全部片付きました。「おじいちゃんにあげる」と言ってたお客さんがいましたな。それっていいかも。この時代のゲーム機であれば、初心者でもとっつきやすいし、名作ソフトも少なくないからだ。ちなみにスーファミはソフトも売りに出ていて、「クロノトリガー」とか「桃太郎電鉄」などの懐かしい作品が並んでいる。1本100円にしたら、けっこう子供が小遣いで買ってくれました。
〇終わってからがひと騒動である。昔は売れ残りを全部まとめてゴミ処理場に持ち込めばよかったのだけど、粗大ゴミの引取りが有料化されている。家具の売れ残りはハードオフに、古本の売れ残りはブックオフに持ち込んで処理する。さらに残った分は、燃えるゴミ、燃えないゴミ、割れ物などに分別して、各自が自宅に持ち帰って小出しに出さなければならない。つくづくこの商売もやりにくくなったなあ。制度としてのリサイクルが定着しているのは結構なことなのですが。
<5月15日>(月)
〇今日は角谷浩一氏とオリガミでランチ。注文はもちろんBLTサンドイッチである。って、このネタはもう古いけど。
〇いろいろ相談にのってもらったが、民主党に強い政治ジャーナリストである角谷氏いわく、「小沢民主党にとって、いちばん困るのは谷垣新総理であろう」。なーるほど、党首討論で谷垣さんと小沢さんが向かい合っていたら、どう見たって善良な商人をいじめる悪代官の図だものなあ。他方、岩手県の小沢氏としては、山口県の安倍さん相手なら全力で戦えるが、京都の谷垣さんには今ひとつ力が出せないという見方も。
〇昨年秋にお世話になった、中国の日本研究家ご一行が訪日しているので、夜には岡崎研究所にて迎撃。ここでもポスト小泉の話が出る。「ま、現時点では安倍さんが6割でしょうなあ」てなことを日本側が言うと、中国側がキョトンとしている。どうやら「福田で大丈夫」と思い込んでいたらしい。それって、旧帝国陸海軍並みのWishful
Thinkingだと思うのですが。中国共産党よ、しっかりしてくれ。何なら、当不規則発言の5月2〜7日分を読み返してくれたまへ。
〇総裁選レース、5人目の台風の目、河野太郎氏については、かんべえはちょっと懐疑的である。政策論争も結構ですし、派閥単位の選挙は古いというのも分かりますけれども、総裁選ってのはやっぱり「周囲に押されてなる」のが基本ではないかと。「河野太郎を男にしたい」と思っている人が大勢いるようには見えないし、11人しかいない河野派で候補者が2人になるというのもマンガ的な光景である。「言うだけはタダ」で立候補宣言するのであれば、まるで「自民党の河村たかし」ではないかと。
〇ところで今日は人民元が1ドル8元割れ。もっとも午前中に7元台をつけてみせて、終値ではしっかり戻すあたり、これは完全な出来レースの感あり。察するに、「米国は、為替報告書で中国を特定国に名指ししなかったあたり、心がけ誠に殊勝である。よって特別な計らいをもって、少しだけ言うことを聞いてやる。感謝しろよ」てなメッセージが込められているのであろう。これを意訳すれば、「エヘヘ、わざとだぴょーん」となる。米中間のコミュニケーションはつくづく高度である。
<5月16日>(火)
「今日のエボ鯛はうまいねえ」
週に1度は行く「和喜」のカウンターで、少し離れた場所に座っている客が言った。ふーん、と聞き流しながら、こっちは皿の中のシャケとサバをつついていた。
「でしょ。ホントは俺の酒の肴にするつもりで買ったんだもの」
とマスターが言う。今日は天気が悪くて客の入りが少ないので、いつもにも増して無駄口が多い。
「魚ってのは簡単なんだよ。高いやつは旨いの。そのエボ鯛は、ほかより30円高かったからね」
それはちょっと意外だった。毎朝、築地に行くマスターが、自分の眼で旨い魚を見分けているのかと思っていたのだ。なーんだ、それじゃ偉いのはマスターじゃなくて、築地の人たちじゃあないか。
「するってえことは、築地の人たちは、ちゃんと商品を見分けて値つけができてるってことですな」
そんな風に言ってみたところ、えぼ鯛の客がすぐに反応した。
「築地の人たちは、目で見るだけで、魚が旨いかどうか分かるんだねえ」
「そりゃあ分かるよ」
マスターは即座に言った。
「毎日、客に出していたら、品物がいいか悪いかはすぐ分かるようになるって」
なるほど、店で毎日、客に魚を食わせているマスター自身も覚えがあるのだろう。
「最近さ、ソムリエの資格とか取る人がいるでしょ? いろいろ勉強するらしいけど、あれだって毎日、客にワイン出している人が、覚えるのはいちばん早いはずだよ」
これも納得の理屈である。引き続きシャケとサバを食べながら、こんな風に考えた。市場メカニズムって、要するにそういうことなのね。客の視線が、商品の善し悪しを見抜く。その結果として、ほかよりちょっと旨いエボ鯛には30円の価格差がつく。そういう知恵を持っている築地って、とっても偉いではないか。
「構造改革」とか「市場メカニズム」という言葉には、冷たいものを感じる人は少なくないかもしれないけれど、要は「旨い魚は30円高くする」ってことではないのか。それを見抜くのは、「旨い魚が食いたい」と思っている客の厳しい視線である。厳しい客を持っている者は幸いなるかな。
<5月17日>(水)
〇今週は昼時の話題ばかりを書いておりますが、かんべえの今日のお昼はコンサルタントの飯久保さんとご一緒でした。飯久保さんは、米国仕込みの「論理的思考」を武器に、「デシジョン・メイキングはどうあるべきか」を日本企業に対して伝道している人です。というと、いかにも理屈倒れで抽象的な話の多いタイプに思えるかもしれませんが、中身は義理と人情の直情径行型で、とにかくパワフルな大先輩です。
〇飯久保さんとの「よもやま話」の中で、面白かったのが言葉の「定義」についてです。あなたなら、これらの言葉をどう定義しますか?
●教育:UCLAのキャンパスには、"Education"の定義が次のように書かれているのだそうだ。"Education
is to learn a use of tools which the mankind has found
indispensible."(教育とは、過去に人類が必要不可欠であると発見した道具の使い方を学ぶこと)
−−ここでいう"Tools"がクセモノですね。「ツール」というと、ついつい"Toolbox"(道具箱)みたいに、カナヅチやノコギリを思い浮かべてしまいます。でも、人間が学ぶべき「道具」の中には、法則やセオリーや思想といった概念もすべてが含まれるのです。とにかく先人が見出した知恵は、すべてが人間にとっては「ツール」というわけ。日本人は、「眼で見えるもの」「手で掴めるもの」には絶大な能力を発揮しますが、こういう抽象的な話になると弱い。そんなわけで、日本企業は製造業に強く、金融には弱いのでしょうね。
●経営:てっきり英語の"Management"を、福沢諭吉あたりが明治時代に翻訳して作った言葉かと思ったら、なんと「太平記」や「平家物語」に出てくる言葉なんだそうだ。広辞苑を引くと、本当にそう書いてあった。定義としては、@力を尽くして物事を営むこと、Aあれこれと世話や準備をすること、B継続的・計画的に事業を遂行すること、とある。
−−察するに、武士が登場して土地を管理するようになったときに、「経営」の概念が誕生したらしい。日本の歴史は封建時代が長かったので、ごく自然に「経営」の感覚が醸成されたのであろう。封建時代を経験していない国では、企業経営はとかく「家族主義」になってしまい、近代的な企業の論理が通じないことが多いです。
●知力:中国に行った飯久保氏、傲慢な学者と話しているうちに、いっちょやり込めてやろうと思い、「知力という言葉を定義してください」と言ってみたのだそうだ。中国人は即座に曰く。「当該の問題について、たとえ知識がない場合であっても、その場で正しい解決策を発見することができる能力」でありますと。これはもう、即座に降参です。恐れ入りましたああああ!
−−将棋の世界でいえば、その局面における定跡を知らなくても、盤面を睨んでしっかり考えれば、ちゃんと最善手を発見できなきゃプロではない。もちろん、研究を常に積み重ねて、「この局面ではこれが最善」という知識を仕込むことも重要なのですが、「知識がなくても大丈夫」なくらいに思考力を鍛えておかなければならない。ほら、孔子様も言っておられるではありませんか。「学びて思わざればすなわち暗し、思いて学ぶばざればすなわち危うし」と。
〇"Conceptual Thinking"というのは面白いものですね。ちなみに飯久保さんには、「問題解決の思考技術」とか、「質問力」(いずれも日経ビジネス人文庫)といった著書があります。ご参考まで。
<5月18日>(木)
〇かんべえはその昔、経済同友会に出向していたので、多少はあの組織のことを知ってるつもりだが、これはさすがにヒドイと思う。
●同友会代表幹事が首相に「靖国提言、お騒がせした」
小泉純一郎首相は17日夜、日本経団連の奥田碩会長ら財界関係者と都内で会食した。出席者によると、首相の靖国神社参拝自粛を求める提言をまとめた経済同友会の北城恪太郎代表幹事が席上、「お騒がせしました」と述べ、首相は「気にしていない。誰が言おうと関係ない」と答えたという。
http://www.sankei.co.jp/news/060518/sei003.htm
〇5月9日に発表された日中関係への提言は、たしかにプアーな内容である。はっきり言うが、経団連と違って同友会の提言には「当たり外れ」がある。これは「外れ」だ。文章の切れも悪い。終わりについている「資料」だけは役に立つが、後はあんまり誉めるところがない。
〇とはいえ、幹事会で機関決定して、仮にも世間に発表した提言を、代表幹事が後から「ごめんなさい」と言ってはいかんだろう。「その程度の覚悟の提言だったのか」と思われてしまうし、それでは同友会の会員が浮かばれない。と、思って探りを入れてみたら、どうやら事実誤認があるらしい。正直なところ、そうであってほしいと思う。でなかったら、北城代表幹事はもうレイムダックであろう。
〇正直言って、いちばん腹が立つのは、事務方のセンスのなさである。同友会の提言は第3金曜日に行なわれる幹事会で機関決定されるので、発表は毎月20日前後に集中する。今度の提言も、普通であったら4月下旬に発表されてしかるべきである。その頃に出ていれば、「同友会がまた言っているな」で済んだはずである。
〇発表をゴールデンウィーク明けに遅らせたのは、単に日程がたてこんでいるからであったらしい。この大馬鹿者め。「連休あけたら自民党総裁選の事実上のスタート」であることが、なぜ分からぬか。そのせいで、政治的に微妙なタイミングで、「物欲しげ」な提言が世に出てしまった。抗議の電話やメールの数は膨大なものであったらしい。ま、無理からぬことでしょう。
〇いろんな人から古巣のことについて聞かれるのだけれど、なかなか弁護しにくいと申し上げておこう。
<5月19日>(金)
〇今日発表の1−3月期GDP速報は、ちょっと冷や冷やしながら見てました。雇用は改善しているのに消費が今ひとつ冴えないとか、企業業績はいいのに生産がやや伸び悩んでいるとか、1−3月期は「???」という指標が多かったのですね。そこへ来てドル安と株安ですから、ちょっとやな感じ。これで6月にゼロ金利を解除したところ、「やっぱり景気のピークは4−6月期でした」「いざなぎ越えはできませんでした」となった場合、あまりにもショックが深過ぎるので。(大丈夫か、日銀?)
〇実際にQEを見ると、内容はそんなに悪くはなかった。やや減速気味とはいえ、心配したほどではない。4−6月期はまた強そうだし、デフレ脱却の動きも鮮明になってきた。こんな風に、強気の予想を出しているときは、かえってマイナス材料が気にかかるものです。というより、上り坂が続くときこそ、目を皿のようにして悪材料を探さねばなりません。
〇それでも社内で聞く話などは、「景気強いなあ」という情報が目立ちます。たまたま今日、見積もりを持って来たホテルの営業マンが、「実はウチも昨晩も満室で」と言ってましたな。超高級ホテルが次々と開業するので、2007年には空き室だらけになるなどという予想がありましたが、この調子だと関係ないみたいですね。やはり内需は強い。これはそう簡単には崩れない。
〇後の不安材料はやっぱり株と為替ですね。世界的に景気が強いので、アメリカへのカネの流れが細って、金利が上がってインフレ懸念となり、株が下がり、ドルが売られる。それがまた世界に波及する。ここを見ると、インドなんぞはえらいことになっておりますな。この辺、よく見ておかないといけません。
〇個人的には、最近の天候も不安なものを感じます。こんな風に、梅雨みたいな5月というのはかないませんなあ。持ち帰りの仕事もあるので、ちょっとユーウツ。
<5月20日>(土)
〇今週のThe Economistがすごい記事をのっけてます。2ちゃん風にいえば、「エコノミスト誌、神!」てな感じ。知りませんでしたけど、今週は文化大革命の始まりから40周年なのですね。
●The cultural what?
http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=E1_GJQQSTS
〇文化大革命の馬鹿馬鹿しさは、大概の日本人はよく承知しています。面白いのは、この記事が「過去を直視できない中国共産党」を批判していて、「彼らが非難している日本よりもヒドイ」と言い切っていることです。
The Communist Party's blindness to history
has consequences beyond China, too. One of the greatest irritants
in relations between China and Japan is Chinese indignation over
Japan's use of school textbooks which (in a tiny number of cases)
minimise Japan's past atrocities in China. But the lame
propaganda that passes for history in all of China's schoolbooks
is shameful too, and helps keep this dispute simmering on. More
profoundly, China's neighbours find it hard to trust a government
that cannot be more honest about itself.
共産党が歴史に目を閉ざしていることの結果は、中国国内にとどまらない。日中間の難関のひとつに、日本が使っている学校教科書(といっても、微々たる部数である)が、日本による過去の中国での惨劇を小さく描いていることへの中国側の怒りがある。しかし中国の学校教科書のすべてにおいて、歴史を覆ういびつなプロパガンダもまた大いに恥ずべきものであり、この論争をかく乱し続けるものである。もっといえば、中国の近隣国は、自らに対して正直になれない政府を、信用することが難しいと感じている。
〇日本側としてはまことにありがたい。けれども、こんな記事が北京や上海の店頭に並ぶことはないだろうなあ、と思ったら、その辺はちゃんとThe
Economist誌の想定の範囲内であるらしい。
The Cultural Revolution was one of the 20th
century's greatest barbarisms. Yet that is little understood, for
the same reason that this editorial will probably not be read in
China. Publications containing articles on such subjects are
routinely impounded, because China's Communist Party dare not
allow examination--let alone criticism--of its mistakes.
文化大革命は20世紀最大の蛮行のひとつである。しかし、本号がたぶん中国では読まれないであろうことと同じ理由で、ほとんど理解されていない。この手の記事を含む出版物は、片端から押収される。なぜなら、中国共産党はその失敗を批判はもちろん、検討することさえ許そうとはしないからだ。
〇どうせ買われないと思ったか、今週号はほかにも中国の悪口記事が満載である。
●China:Ignoring the past
http://www.economist.com/world/asia/displaystory.cfm?story_id=6951123
アジア面:40年が過ぎた今も、中国政府は文化大革命を論じることをなおも避けている。(P29-30)
●Chinese banks:A muffled report
http://www.economist.com/finance/displaystory.cfm?story_id=E1_GJVVVTV
金融面:米公認会計事務所のアーネスト・ヤング社が、「中国の不良債権は9110億ドル」と報じたリポートを撤回させられた事件(P78)
●Chinese science:Faking it
http://www.economist.com/science/displaystory.cfm?story_id=6941786
科学技術面:中国の科学者が、画期的な半導体を発明したと言っていたのが偽装であった事件。(P84)
〇いやー、すごいですね。書いてある内容はいちいちもっともで、「よくぞ言ってくださいました」と感謝したくなるようなことばかり。The
Economist誌は年間3万円もするし、わかんない単語は一杯出てくるし、ワシも毎週、ひーひー言いながら訳してるんですが、今週号はなんだか元をとった気がします。
〇それはさておいて、上記の中国叩き記事4本は、すべて「中国はウソをつく」点が叩かれていることが興味深い。考えてみれば、日中間で歴史問題で紛糾する際も、日本側は少なくとも意図的なウソはつきませんわな。日本人は全般的に正直だし。The
Economist誌のような西側メディアを味方につけるとき、これは非常に有力な武器になるのです。逆に中国外交は、攻勢を続けることで墓穴を掘っていく。"Honesty
is the best policy."というのはホントその通りだと思います。
<5月21〜22日>(日〜月)
〇久しぶりに伊藤師匠とK夫妻と一緒にランチ。鉄板焼きはおいしかったし、お話も面白かったという幸福なお昼どきでありました。
〇5分に1回くらいのわりで面白い話が飛び出すのだが、そのたびに「これは書いちゃダメ」「それは書いてもいいの?」などという会話が互いに飛び交ってしまう。両方のサイトを読んでいる読者が多いと思われるため、事前調整が必要なのである。適度にヤバイ話もあるので、恐怖の均衡が働く。そして、「お互いブログにするのだけは止めましょうね」というところで、なぜか意見が合うのであります。
〇それにしても伊藤さんは元気でありますな。ホントにワシよりも10歳年上なんでしょうか。当方は午前中、あー喉が痛い、また風邪引いちゃったかも、あーやだやだと思いながら仕事してたんですが、午後になったら忘れちゃいました。なんだか元気を分けていただいたような感じです。
〇自分も伊藤師匠の元気を分けてほしい、と思われた方は、『上品で美しい国家』をお勧めしちゃいましょう。日下公人さんと伊藤洋一さんという、上品でも美しくもないけど、とにかく元気なオヤジ2人が、言いたい放題好き勝手を言ってる本です。読み終えると、お二人と一晩飲んだようなスッキリした気分になります。それで1500円は安い。当方としては、とりあえず「カウンター文化論」が面白かったな。
<5月23日>(火)
〇ふと思い出しました。かつてこんな話ってありましたよね。リストラされた中高年のサラリーマンがハローワークへ行くと、「あなたは何ができますか?」と聞かれて、あらためて考えてみると特技が何もない。それで、「部長なら出来ます」ってやつ。面白すぎるので、きっと作り話だと思うけど、よく出来てますわな。
〇で、今日、しみじみ話に出たのは、「昔の部長って楽だったよなあ」。
<昔> | <今> | |
組織の形態 | 社内組織 | 別会社 |
社員 | 全員が正社員 | 出向者、プロパー、契約/派遣社員など様々 |
給与体系 | 本社の人事が一括管理 | 全員がバラバラ |
経理システム | 本社の経理が一括管理 | 別会社に外注 |
部長の仕事 | 上層部とのパイプ役/冠婚葬祭 | 企画、営業、人事、経理、雑用、その他全部 |
部長の態度 | 秘書が居るので電話を取らない | 不在がちな部下の電話を代わりに取る |
部長の肩書き | 〇〇部長 | 長いカタカナ名前 |
部長の現場対策 | 課長に丸投げ。 | 中間管理職不在なので現場とクッションなし。 |
部長の武器 | 接待費、タクシーチケット | 毎朝、自腹で買うスタバのコーヒー |
部長の特技@ | 部下の文書の「てにをは」を直す | 自分より若い本社の担当者との折衝 |
部長の特技A | 乾杯のご発声 | 短時間に大量のメールを捌くこと |
〇だいたいが会社でお茶飲みながら新聞読んでいればよくて、コンプライアンスも内部統制も関係なくて、セクハラその他の禁忌もまだ存在せず、その上、定年後の仕事も紹介してもらえたりしたわけですから、書いていて段々腹が立ってきますなあ。この分だけでも、日本企業のホワイトカラーの生産性は劇的に向上したような気がするぞ。
〇実は上記のようなワーキングスタイルの変化(お気楽部長の楽園追放劇)は、日本国内のあらゆる組織で生じているんじゃないかと思う。だとしたら、なぜそんなことが同時発生的に生じたのか。あらためて考えると不思議に思えてくる。
〇それとも、行くところに行けば、昔ながらの部長さんって、まだまだいるのかしら。このネタ、のちほどぐっちーさんやらくちんさんが反応するような予感。
<5月24日>(水)
〇ただ今、郷里である富山に帰っております。地元の法人会さんに、講師として呼んでもらったのですが、この機会に早速、「富山ライトレール」に試乗してまいりました。
〇富山ライトレールこと「ポートラム」は、先月開業したばかりです。もともとJR西日本がやっていたローカル線を、第三セクター方式で地域密着型の公共交通網に変えるという試みです。バリアフリーで環境に優しい交通機関というのが売り。今日は富山駅北口から乗車して、岩瀬浜まで行って、富山湾を見て帰ってきたのですが、この間の風景が地元に育った身としては懐かしくてしょうがない。ふだんの料金は200円ですが、客が少ない平日の昼間は100円になる。
〇ひとつ感心したのは、「ポートラム」を応援するマスコットキャラクターができていること。まあ、ここをご覧あれ。「とれねこ」こと7匹のTrain
Catがあって、これが「とっとこハム太郎」みたいで、なかなかの出来だと思うのです。で、これを考案したのは、地元の富山北部高校デザイン科の生徒であったというのが、地元的には「ちょっと良い話」で、最近の高校生はさすがにセンスが良いのであります。
〇先週、中国社会科学院ご一行様が訪日したときに、関係者一同は2008年北京五輪のノベルティ商品であるボールペンを頂戴したのです。これがちょっと情けなくて、パンダがマスコットになっているのは自然な選択だと思うのですが、このパンダが全然可愛くないのです。実を言うと、中国国内でも「あれはちょっといかがなものか」的な反論があったらしい。でも、マスコットは中国共産党のお偉方が選んでいるわけなので、あまりとやかく非難するわけには行かない。それに比べると、富山北部高校デザイン科はなかなかにいいセンスしていると思うのです。
<5月25日>(木)
〇富山から帰ってきて、今宵は岡崎研究所のフォーラムでした。今年は例年にも増して政治家の来客が多かったですな。安倍官房長官、塩爺、中川(女)幹事長、山谷えり子参議院議員、世耕参議院議員などなど。さてさて、4ヵ月後にはどうなっているのでしょうか。
〇ゼーリック国務副長官が辞めるらしい、という噂が飛び交っている。もともとナンバーツーで我慢のできる人ではないので、スノウ財務長官の後釜を狙っているという観測は以前からあった。本当だとしたら、ちょっと動きが急ですな。本誌の4月28日号で"responsible
stakeholder"という流行語の賞味期限は長くないだろう、と書きましたが、どうもアメリカの対中姿勢がこの1ヶ月で大きく変わっている感じがします。今のところ、自民党総裁選挙の焦点は対中関係、てなことを言う人が多いですが、この辺の変化はちゃんと読めているでしょうか。
〇もっとも、麻垣康三の誰が次期首相になるにしても、「改革路線の堅持」と「対米関係の重視」という2点はほとんど動く恐れがない。せいぜいやり方をちょっと変えましょうという程度。さらに言えば、小沢民主党だってそんなに違いはないはず。今の日本には、「コンサバティブ・コンセンサス」みたいなものができていて、「What」(何をするべきか)についてはあまり紛れがない。その上で、「対中、対韓関係の改善」や「消費税の増税」といった「How」(いかになすべきか)が関心を呼んでいる。これだけ国論が収斂している国って、今時めずらしいかもしれない。
〇ホントはパーティーの話をもっと書くべきなんでしょうが、さくらさんや寝言さんも来てたことだし、そちらに譲るとしましょう。富山から重い氷見うどんを抱えて帰ってきたので、疲れちゃったのだ。
〇あ、そうそう、本日で400万アクセスであります。皆さまのご愛読に深謝。
<5月26日>(金)
〇昨年11月の京都における日米首脳会談の席上で、こんな会話があったんだそうです。
小泉「あなたは言うかもしれないけれども、たとえあなたが言ったとしても、私は靖国神社に行くからね」
ブッシュ「言わない、言わない、言わない」
〇すごい会話ですねえ。こんな先制パンチが決まってしまったら、世の中に怖いものなんてありませんな。察するに、国務省レベルなどでは、「靖国問題、何とか言ってやってくださいよ」てな声があったかもしれませんが、そこは体育会系のブッシュ政権、トップの指令は絶対です。靖国問題に関して、小泉首相が自信満々に見えるのは、理由のないことではなかったのであります。
〇小泉さんとブッシュさんはどんな会話をしているのか。阿川尚之さんの『マサチューセッツ通り2520番地』(講談社)によれば、小泉さんが一方的にしゃべっているらしい。(P181−182)
小泉「いや、アメリカは強い。世界中が束になっても軍事力でアメリカには勝てない」
ブッシュ「ありがとう」
小泉「アメリカは強い、強いだけにビッグハートを持たなければいけない」
ブッシュ「まったくそのとおり」
小泉「だからヨーロッパは大事にしなければいけない。国連も大事にしなければいけない」
ブッシュ「いやまったくそうだ」
〇何とも不思議な友情であります。山羊座の小泉さんと蟹座のブッシュさんは、一種独特の間合いがあるらしい。というわけで、ホワイトハウスでは小泉訪米の際に、胡錦濤には拒絶した晩餐会を開催するし、ご一緒にテネシー州メンフィスへ行く際には、エアフォースワンに乗せてしまうという出血大サービス。そういえば、以前はCIAのブリーフィングに同席させちゃったこともありましたなあ。
〇しかしこんな無礼講が許されるのも、小泉さんが首相である間だけでしょう。ポスト小泉になったら後は分からない。それにしても、両国首脳同士がこんな関係にあるということは、日米関係の歴史上、空前にして絶後と言っていいでしょう。
<5月27〜28日>(土〜日)
〇今日の『サンデープロジェクト』でしみじみ思ったのですが、森前首相は芸達者でありますな。もう言葉に含蓄があり過ぎ。安倍さんなのか、福田さんなのか、派内で一本化したいのか、両方立ってもいいのか、煙に巻かれて結局は分からない。とにかく、どっちとも解釈できてしまうところが役者です。
〇思えば小泉首相は、「気配りなし、挨拶なし、お礼なし」の「3ない政治」を驀進する。それは国民には新鮮に映るけど、自民党の旧来の体質にはまるで合わない。で、小泉官邸と自民党の摩擦解消に、苦労が絶えないのが森さんである。ところが、小泉さんはそういう努力に冷や水をかける。それでは森さんがピエロみたいだが、あの「固いチーズ」発言が実はヤラセであったように、両者は高度な掛け合い漫才をしているようでもある。
〇森−小泉関係というのは、なんだかアニマル浜口親子みたいです。戦うのは浜口京子なんだけど、その後ろではいつもお父さんが「気合だー」と騒いでいる。見ていると、実は京子ちゃんは内心、迷惑してるんじゃないかという気がするし、アニマルも親心の発露というよりは、単に自分が目立つことが目的であるようでもある。でも、そこはやっぱり親子の情愛がときおり垣間見えるので、ファンは「アニマル親子」をセットで受け止めている。それぞれが単体であったら、けっしてあれだけ目立つことはないでしょう。
〇首相時代は不遇だった森さんは、小泉さんの後見人としてキングメーカーっぽい動きをしている今が、一番、生き生きとしている。そんなところも、現役時代がどんなだったかが、まるで思い出せないアニマル浜口と似ているのかも。
〇ちなみに、森さんの座談の名手ぶりは、毎日新聞の以下のコラムをご参照ください。(ご当人は、「あれは記者が優秀なんだ」と言ってましたが)。
●ポスト小泉を焼き鳥に例えると 森喜朗さん、お好みは?
〜つくね・安倍晋三氏、レバー・麻生太郎氏、皮・福田康夫氏、ささみ・谷垣禎一氏〜
<5月29日>(月)
〇今朝の日経のこの記事が面白いと思いましたな。
●政府・与党、歳出削減案の調整急ぐ
歳出・歳入の一体改革を巡り、政府・与党は週内に実務者協議会を立ち上げ、歳出削減案とりまとめに向けた調整を急ぐ。社会保障をはじめとした主要分野の議論が遅れているうえ、基礎的財政収支を均衡させるための必要額の算出も難航していることから、作業を加速する。6月末の小泉純一郎首相の訪米前に改革案を決定したい考えだが、不確定要素はなお多い。
実務者協議会は小泉首相も加わって22日に発足した財政・経済一体改革会議の下部組織。政府側から安倍晋三官房長官や与謝野馨経済財政担当相ら関係閣僚、与党側からは自民党の中川秀直、公明党の井上義久両政調会長のほか、具体案づくりの担当者も出席する。
(07:02)
〇これは先週号の溜池通信本誌でも書いたことですが、「官邸主導」の経済政策が「与党主導」への換骨奪胎が進む一里塚なのでしょう。以下は本誌5月26日号から。
従来、小泉政権下では、竹中経済担当相を中心に、経済政策が「官邸主導」で決められることが多かった。この間、与党の意向は無視されることが多く、そのことに不満を持つ向きは少なくなかった。清水真人『官邸主導』(日本経済新聞社)によれば、ひとつには2001年の省庁再編に伴って経済財政諮問会議という受け皿が出来たこと、そして小泉首相と竹中経済財政担当相という「変人コンビ」が、強いリーダーシップを発揮したことによるところが大きかったという。
しかし昨年、経済財政担当大臣が与謝野馨・前自民党政調会長に代わってからは、じょじょに経済政策の立案は「与党主導」の色を濃くし始めている。新しい歳出改革会議も、そのひとつの道具立てのようである。与謝野氏は、「これまでは諮問会議で決めてから与党内調整をお願いする手順が多かったが、歳出削減は与党の合意を得ながら進めなければならない」と、従来の政策決定方式とは異なるとの認識を示しているという(同前)。
どうやらポスト小泉時代を控えて、「官邸主導」から「与党主導」へと政策決定モデルの変更が進みつつある。この間に竹中総務大臣の存在感が薄れ、与謝野氏と中川政調会長という「新旧政調会長」コンビの関係が強化されているようだ。「クラシック」が上手に「ネオ」を取り込みつつある、というのは考え過ぎだろうか?
〇良くも悪くも、時代はポスト小泉を目指して動きつつある。自民党内には「小泉疲れ」みたいな現象が起きていて、こんなに支持率の高い首相に対して慰留の声がほとんどない。「あと3ヶ月の辛抱だ」みたいな声もあると聞く。
〇そんな中にあって、「官邸主導」を「与党主導」に誘導しているのが与謝野経済財政担当大臣だ。おそらく党人派の代表として、「民間人がでしゃばる経済財政諮問会議はいかがなものか」という思いがあるのだと思います。そんな与謝野氏が、ポスト小泉時代を見据えて、着々と新しい政策決定システムのための布石を打っている。なおかつ、中川政調会長を味方につけて、竹中総務大臣を孤立させている。
〇新しく歳出・歳入の一体改革を検討する実務者協議は、安倍官房長官、与謝野大臣、中川政調会長という少数メンバーが動かすことになる。これで安倍政権誕生でも、与謝野さんは政権の中枢に居続けることができるのでありましょう。やはりネオ対クラシックの構図は崩れつつある。政治は生きものですね。とりあえず与謝野さんはお見事でござんす。
<5月30日>(火)
〇このサイトのアクセス状況をチェックしていたら、今月はこのページに4000件を超えるアクセスがあったことが分かりました。このサイトを作った1999年当時に、ほとんど記憶だけで適当に書いた「黒田官兵衛」の評伝ページなんですが、書いた本人も忘れているくらいなので、いったい何事があったのか。ちょっとビックリ。
〇グーグルやヤフーを経由したアクセスを見ると、「黒田官兵衛」という検索語(or文)が第1位になっています。どうやらテレビかなんかで黒田官兵衛が登場する機会があったんでしょう。ちなみに普通の月であれば、「溜池通信」や「かんべえ」といった用語が上位になります。
〇試しにグーグルで「黒田官兵衛」を検索してみたら、ウィキペディアやNHKの「そのとき歴史が動いた」のページを押しのけて、このページがトップなんですね。パチパチパチ。というか、そんなんでいいのでしょうか。アクセス数が多いサイトがとにかく上に来るというグーグルのアルゴリズムは、かならずしも質を保証しないわけでありまして。
http://www.google.com/search?hl=ja&q=%22%E9%BB%92%E7%94%B0%E5%AE%98%E5%85%B5%E8%A1%9B%22&btnG=Google+%E6%A4%9C%E7%B4%A2&lr=
〇しかし「黒田官兵衛」が7万件とは多いですな。それ以外に「黒田如水」の名前でも4万6500件あります。それくらい、いろんな人が「官兵衛」論を書いている。たしかに官兵衛さんは、戦国時代の名軍師というか知将として有名だし、人間的な魅力という点でも語り尽くせないようなところがある。人気があるのも当然でありましょう。
〇なんといっても、官兵衛さんは「欲のなさ」を誉められるという点が人間として偉い。戦国武将の中でも、あんな風にきれいな出処進退が出来た人はそう多くはないでしょう。それに比べると、「賢い」などと誉められることは、そんなに名誉なことではありません。かく言うかんべえさんも、官兵衛さんが如水になってしまった年を越えておりますので、老眼やら肩凝りやら深まる我執などとともに、今後の余生を送っていかなければなりません。どうしたらあんな風になれるのか、本当に学ぶところの多い人なんじゃないかと、今さらながらにして思う次第です。
<5月31日>(水)
〇複数の読者からご指摘がありましたが、「官兵衛」の検索が急増した理由はNHKの大河ドラマでありましたな。5月21日放送の「迷うが人」で、黒田官兵衛が登場したのでありました。
http://www3.nhk.or.jp/taiga/story/story20.html
〇しかしNHKもヒドイことしますねえ。松寿丸を隠したのは本当は竹中半兵衛のはずなのですが、山内一豊のお手柄にしちゃうとは。彼はそういうタイプと違うと思うんですけど。ドラマだからといって、勝手に変えちゃいけませんよ。
〇ちなみに1973年、NHK大河ドラマが司馬遼太郎作品『国盗り物語』を扱ったときは、米倉斉加年演じる半兵衛が、江守徹の官兵衛を助けるという筋書きになっておりました。当時は二人ともまだ若くて、いかにも知将タイプであったのです。そして米倉、江守が惚れ込む羽柴秀吉を演じたのは、のちにヘンな方面で有名になる火野正平(このときドラマ初出演)だったというのも、今から考えると笑える話であります。
〇実を言うと、司馬遼太郎は『播磨灘物語』を書く以前に、『新史太閤記』(68年刊行)で秀吉を書いているうちに、黒田官兵衛を「発見」するのですね。で、秀吉が中国方面司令官に任じられたところで、この二人の出会いに延々とページを割くわけです。「ここでは官兵衛に筆を割かなければならない」とか何とか言って、2章分くらいほとんど官兵衛が主人公になってしまう。先に『新史太閤記』を読んでいた不肖かんべえ(当時中学生)は、読売新聞紙上で『播磨灘』の連載(73年から75年)が始まったときには、「ああ、やっぱりなあ」と思ったものです。
〇『功名が辻』が書かれたのは、それよりも古い1963〜65年である。60年に『梟の城』で直木賞を受賞した司馬遼太郎は、最初は普通にフィクションの歴史小説を書いているのだが、じょじょに後年の「司馬遼スタイル」に変貌していく。『功名が辻』はその過渡期に当たる。だから序盤で架空の人物が登場し、それが途中から意味を無くしてしまったりする。ほぼ同時期に書いていた『国盗り物語』(63〜66年)でも、前編で似たような現象があって、作品の傷になっている。もっとも同時期の司馬作品には、架空の人物(しかも女性!)が登場して、それが最後まで破綻なく成功している『燃えよ剣』(62〜64年)があって、こちらは司馬作品ベストスリーに入れてもおかしくはない出来だと思う。
〇『坂の上の雲』(69〜72年)当たりになると、もはや完全に司馬遼スタイルが完成されていて、「自分が好きな人物を選んで書く」ようになる。秋山好古・真之兄弟が気に入ったように、司馬さんは黒田官兵衛にほれ込んだわけですね。そのお陰で、不肖かんべえなんぞも、そういう歴史に触れることができるようになったわけでありまして。
〇それにしても、こういうことがネットで検索すればすぐ分かる、てのも良いことなのかどうか。少ない小遣いを貯めて『新史太閤記』を買ったり、図書館で司馬作品を探した自分の中学生時代を、ちょっと懐かしく思ったりするのであります。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki