●かんべえの不規則発言



2011年8月






<8月1日>(月)

○米債務上限問題、今日の午前中に妥結したとの報道あり。でもねえ、こういうのはちゃんと可決を見ないと分かりませんからなあ。明日の朝の報道を見てから考えることにいたしましょう。

○そんなことより、米国の第2四半期GDP速報値はちょっと驚きましたですな。昨年第2四半期に遡って改定されたので、すっかり景色が変わっちゃったじゃないですか。

 

2010

     

2011

 
 

1Q

2Q

3Q

4Q

1Q

2Q

改定前

+3.7

+1.7

+2.6

+3.1

+1.8

??

改定後

+3.7

+3.8

+2.5

+2.3

+0.4

+1.3


○改定前は「一進一退」といった感じでしたが、改定後はいかにも「右肩下がり」で減速感が強くなっている。しかも、@個人消費がしぼんでしまっていること、A輸出も期待ほど伸びていないこと、B政府支出がマイナスになっていて、例の7870億ドルの景気刺激策の終息が足を引っ張っていること、などが読み取れる。これはいかんですよ。

○これで今週末の雇用統計も、あまりいい数字は出ないような感じですな。たとえ債務上限問題が落着しても、円高ドル安局面はしばらく続くかもしれませんぞ。


<8月2日>(火)

○債務上限引き上げ法案が無事に下院を通過して、とりあえずデフォルト危機は遠くに去りました。良かったよかった。でも、ヒヤリとさせられました。こういうときの票差は大切です。ちゃんと記録しておきましょう。

  賛成 反対
全体 269票 161票
共和党 174票  66票
民主党  95票  95票


○共和党議員の反対66票はティーパーティー勢力でしょう。なにしろ彼らは「デフォルトなどあり得ぬ。政府はウソをついている」という人たちですので。他方、民主党はほぼ半々に分かれたことになる。相当に不満が残ったということでしょう。おそらくこの怒りは共和党にではなく、オバマに向かうことでしょう。予算が削られると、彼らの再選確率が下がるわけですから。2012年大統領選挙では、今のところ党内から現職に挑戦しようという人はいないようですが、ひょっとすると予備選挙が必要になるかもしれません。

○今回の合意内容では、債務上限を3段階にわたって2.4兆ドル引き上げる(→追記:2.1兆ドルに減額)。これだけあれば、2013年までは再引き上げが不要なので、大統領選は安全圏ということになる。しかしそれと同額の2.4兆ドルの歳出削減が、向こう10年間で行なわれることとなった。問題はこの内訳で、9170億ドル分は今すぐ、残る1.5兆ドル分は新たに設けられる超党派委員会が11月までに答えを出すことになっている。

○この委員会がまとまらない場合には、トリガー条項が入っていて、ただちに防衛費とメディケアが削減されることになっている。前者は共和党が嫌がるし、後者は民主党が嫌がる。だから、11月までにまとめようというモチベーションが働く。ここが今回の合意のミソですね。とはいうものの、本当にまとまるかというと、「いよいよ選挙まで残り1年」になったときに、「アメリカ版の仕分け論議」がちゃんと進むかどうかは疑問が残る。

○さらに言えば、アメリカの防衛費がバサバサ切られるようになったときに、東アジアの安全保障環境がどうなるか、日本政府は今から真剣に準備しておいた方がいいと思う。何度も繰り返していることですが、アメリカの財政状況こそが、東アジアにおける最大のリスクなのですから。

○今回の債務上限問題は、アメリカの政党政治が「国家の危機」を共有できず、互いの党を最大の敵にしてしまっている未熟さを露呈してしまった。特に議会内にティーパーティーという交渉や取引をしにくい集団ができてしまったことで、合意形成が非常に難しくなってしまった。こういうと語弊がありますが、テロリスト相手に交渉はできませんからねえ。この政治状況はまだまだ続きます。

○ともあれ今回の政治騒動では、米国債というアメリカのソフトパワーの典型ともいうべきリソースを、自分たちの手で台無しにしかねないところであった。今後、「米国債の格付けは下げられた。にもかかわらず金利は低下した」みたいなことが起きるかもしれないけれども、やはり失われたものは小さくないだろう。締め切りに間に合ったから、「終わりよければすべてよし」とはならないと思う。


<8月3日>(水)

○ただ今わが柏市では、市議会選挙が行なわれている。週末は田舎の高校の同窓会なので、今日は不在者投票に行ってきました。普段はどうということのない地方都市の選挙なんですが、今年はちょっと様子が違う。

○というのは共産党の候補者が、そろって「放射能の測定と除染に全力を」とポスターに書いていて、一足早い脱・原発選挙を狙っている。柏市は先年、沼南町と合併したために議席数が増えて40になっているけれども、次は36に減る。その中で共産党は、現有4議席を5議席に増やそうと意気軒昂である。なにしろ話題のホットスポットなので、これが実を結ぶかどうかは格好のリトマス試験紙になるのではないかと思う。

○全国的な世論調査などを見る限り、「3/11」以降も共産党の支持率はほとんど変化がない。同じく「反・原発」を掲げる社民党も、あいかわらず視力検査のような数字が並んでいて、追い風にはなっていないようだ。だとしたら、「反原発」は政党支持に影響を与えていないということになるが、これを「反・電力会社」にすると効くかもしれない。

○いずれにせよ、8月7日に柏市でどんな結果が出るか。全国レベルの世論動向を見る上でも、見逃せないシグナルとなるんじゃないでしょうか。


<8月4日>(木)

○雑誌原稿の締め切りを抱えているのに、気の散るようなニュースが多い日である。一言ずつ。

●日立と三菱重工の合併報道

――こういう合併がバシバシ決まるようなら、日本経済ももちょっと見所があるのですが・・・・。ひょっとすると、世紀の大誤報になるんじゃあないですか。

●円高介入

――日銀の金融政策決定会合をやっている日にまさか、というのが狙い目か。なかなかお上手です。でも介入すると、また米国債を買うことになるんだよねえ。

●経産省事務次官らを更迭

――8月4日になると、再生エネ法の与野党修正合意ができるから、海江田さんが辞めるんじゃないかと言われてたんですが、首を切る方でした。

●高校野球の抽選組み合わせ決まる

――秋田県・能代商業の相手は、鹿児島県の神村学園。秋田県代表は13年連続で初戦敗退を続けており、昨年の相手は鹿児島実業で15-0の大敗だった。

――今年は県教委が特別予算をつけて梃入れに乗り出したとか。でも、秋田は小中学生の学力が全国トップなんだから、そんなに欲張ることないじゃん。


<8月5日>(金)

茨城新聞の政経懇話会講師の仕事でつくば市へ。以下、茨城県の最新事情について。

○茨城県は、わが柏市から見れば「川向こう」で「すぐそこ」という感じである。とりあえず守谷市の「ラーメン二郎」と「ハンスホールベック」は、当家のお気に入りですし。ところが実際に行って話を聞いてみると、やっぱり「被災した県」なのだなあ、という気がしました。

○先日、大洗―苫小牧のフェリーの広告を見かけました。あれは、「6月6日から運航を再開しましたよ」と言いたかったかららしい。つまり震災から3か月、大洗港は使用不能になっていた。それ以外の那珂湊や鹿島港も、まだまだ復旧に時間がかかるということであった。つくづく太平洋側の港湾が受けた打撃は大きかった。鹿島コンビナートは今、どんなことになっているんでしょう。

○さらに農産物の補償も問題になっているし、観光地なども人がめっきり減っているらしい。「東京の人から見たら、茨城も福島も一緒なんでしょうねえ」とのこと。それをいうなら、柏市もホットスポットなのでありますが。

○ところで昨日、茨城新聞は「日立製作所と三菱重工業が経営統合」という号外を出したとか。そりゃあ日立は地元企業ですから関心は高いわけです。これが世紀の大誤報になったら、いったいどうしてくれるんでしょう。というより、発表のタイミングを間違えたせいで、破談になっちゃったような気もするのですが。


<8月6日>(土)

○高校の同窓会に出席する。なぜかわが母校では、50歳から51歳になる代の卒業生が幹事をやることになっていて、今年はわが同期の代である。ということで、いきなり100人くらいの元同級生に遭遇する。

○30年ぶりくらいのもと同級生に会ってみると、あまり変わってないのもいれば、ずいぶん変わってしまっているのもいる。だいたい40歳から50歳にかけて、そういう分かれ目の時期が来るものである。で、これが不思議なもので、髪の毛がなくなっているヤツとか、白くなっているヤツはいるのだけれど、髪型自体は昔のままであることが多い。男女を問わず、ヘアースタイルの嗜好というものは、十代で決まってしまうものらしい。

○同窓会が終わると同期会で、ここには5人の恩師が待っておられる。みなさん、そろそろ80代に差し掛かかろうかという頃で、ああ、ひょっとするとこのために「51歳ルール」があったのか、という気にさせられる。面白いもので、教職を引退されてから既に久しい先生方の、語り口は昔のまんまである。厳しい先生、優しい先生、ちょっと焦点が外れがちな先生、みんな過去の記憶とつながっている。

○自分はこういう人たちの中で十代後半を過ごしたのであった。すっかり忘れていたけど、まことに恵まれていたのでありました。


<8月7日>(日)

○柏市市議会選挙。まだ最終結果は出ていないようなんですが、下記の投票結果を見る限りそんなに驚くような結果にはならなかったようです。

http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/230100/p009075.html 

○上記をエクセルに移して、得票順に並べ替えして、勝手に36位で足切りして結果を出してみました。

●投票率は37.62%と前回の43.24%を下回る。

●共産党はかろうじて4議席を守った模様。

●自民党候補者は5人全員が当選。ちなみに4年前は、自民党候補者は1人だけだった。

●今回は民主党候補者は1人だけ。4年前は5人が当選している。


○「ホットスポット」は大きな争点にはならなかったようです。逆に民主党と自民党の勢いが入れ替わっている点が目立ちますね。やはり当確ラインが2000票という世界ですので、国政選挙のように「政策勝負」とはなりにくいのでしょう。それにしても、投票率の低さは残念でありますね。


<8月8日>(月)

○柏市市議会選挙の結果が出たので、こんな資料を作ってみました。当選した人と、ポスターにどんなことが書いてあったかの一覧表です。

○こうして見ると、市議選とは「いかにして2000人の支持者を獲得するか」というゲームであるようです。風は吹かない、政策では差別化できない、足で稼いでナンボという世界。なるほど、これでは放射能は票にならないでしょう。

○と言ってる間に、最近出た世論調査は一段と与党に厳しい数字が出ているようです。近年の国政選挙は、非常に高い確率で暴風雨が吹きます。総選挙が近いとなれば、官邸や与党を取り巻く環境も少しは緊張感を増すのでありましょうか・・・。


<8月9日>(火)

○株安で世の中は大混乱の模様。直接の原因は米国債の格下げであるが、それをもたらしたのは米国政治の混乱であって、米国経済自体が弱いからではない。よってオバマ大統領が、「我が国はトリプルAである」などと言っても、所詮は負け犬の遠吠えである。そもそも市場が混乱しているときは、政治家の発言は華麗にスルーされるものと相場が決まっている。とりあえずFOMC待ちということでしょうか。

(ちなみに今朝のくにまるジャパン「今さら聞けない格付け機関」はこちらをどうぞ)

○などと言いつつ、ワシは今日から夏休みなのである。たしかリーマンショックの後、世界中を株安がかけめぐっていたときに、ニュージーランドで優雅に舟遊びをしていたことがあったけど、本日は札幌に来ております。新千歳空港に降り立って、真っ先にやったのは花畑牧場の売店で濃厚ソフトクリームを食べることでした。ああ、なんてド素人な観光客なこと。そしてキャラメルとバニラのハーフ&ハーフのなまら美味なこと。

○そういえば、このところ脱力さんは、北海道のTV局でレギュラーの仕事ができたとかで、毎週、札幌をを訪れてはゴルフ三昧だとか。確かに、今政治の取材をしてもあんまり意味はないので、そうやってのどかに過ごすのも、悪い話ではないのかも。市場が混乱しているときに、付き合って大騒ぎするほどあほらしいことはありません。

○本日はスープカレーを食べて、道営近代美術館で故宮博物館展を見て、北海道大学を見て、植物園を歩いて、「3大がっかり名所」=時計台を訪れ、もうちょっと暗くなったらビールを飲みに出かけましょうか、というところ。明日は旭川を攻略します。ちなみに新潮選書から出ている「ふたつの故宮博物院」(野嶋剛)は面白いですよ。丁寧な、いい仕事をされています。


<8月10日>(水)

○早朝に「スーパー宗谷1号」で札幌に別れを告げて旭川へ。この電車が稚内まで行くと聞くと、降りるのがもったいなく思えてくるのだが、今回は娘を旭山動物園に連れて行くのが主目的なので、そうも言っていられない。ということで、予定通り開園直後の時間帯に旭山動物園に突入しました。そこそこ賑わっていますが、3/11以降、外国人観光客がめっきり減ったとこのことで、それほど混雑しているというほどではありません。

○旭山動物園は小ぶりな動物園です。4〜5時間もかけると、ほぼくまなく見て回ることができます。物量で言えば、上野動物園の方がずっと上でしょう。でも、ここと同じような満足感は、ほかでは得られないと思います。なぜなら動物を見せる、ということにかけて、とことんまで知恵を絞っているから。旭山動物園には、パンダもいなければ象さえもいない。でも、泳ぐペンギンを下から見たり、至近距離のアムールトラを見たり、食われそうなアザラシの視点になってホッキョクグマを見たりすることができる。よくまあ、こういうことを考えますわなあ。

○園内の掲示のほとんどが手書き、というところも念が入っている。その中には、ときに説教くさいメッセージも入っているけれども、この園を運営している人たちの世界観が伝わってくる。動物は他の生き物を食べることで生きている。だからそこから目をそむけちゃいけない。たとえ動物園であっても、動物は生きることに対して必死でなければならない。「動物さんは檻に入れられてかわいそう」式のヒューマニズムは、ここではきっぱりと拒絶されている。そこに動物好きの職員たちの真剣さがある。

○旭山動物園の成功は、典型的な弱者の戦略によるものと見つけたり。一度は閉園になりかけたという経験、北海道内に円山動物園という強敵がいること、冬場は寒くて人が来にくい、町の人口が36万人しかない、などの不利な条件が重なったからこそ、「動物の動きを見せる動物園」というコンセプトが生まれ、他に類例のない動物園が誕生した。これをやったのが旭川市の職員たちであった、というのも画期的なことでしょう。前園長の小菅正夫さん、現園長の坂東元さんは、いずれもテレビなどで取り上げられるカリスマですけれども、彼らはもともと動物を愛する地方公務員であった、という点が面白いと思います。

○おそらくここと同じような努力を他の分野で試してみれば、地域振興のいいネタになるのではないでしょうか。必要は発明の母である、イノベーションは困ったときに誕生する、というのがポイントなのだと思います。


<8月11日>(木)

○今日は旭川市でも30度越えとの天気予報。さらに羽田に着いたらものすごい熱気。やってられませんなあ。でも、菅さんは辞めるそうで、ホッとするところもあったりする。まあ、休暇中につき、その辺のことは気にしないでおきましょう。

○旭山動物園の面白さは小劇場の良さなんですね。俳優の汗が飛んでくるような桟敷席の芝居を見てしまったら、優雅な大劇場の演技がつまらなく思えてくる。「本当の動物の姿」を見てしまうと、大動物園の展示には戻れなくなってしまうのです。

○旭川のジュンク堂で買い物。旭山動物園が面白かったので、『旭山動物園のつくり方』(原子禅/柏艪社)。小菅正夫前園長の考え方や、裏方の飼育係さんたちの苦労が分かって面白い。

○ついでに「命」について書かれたものが読みたくなって、こういうときは福岡ハカセをご指名。で、まだ読んでなかった『動的平衡』(福岡伸一/木楽社)。細胞はいつも入れ替わっているので、命には恒ならざるものなし。北辰一刀流の剣先が常に揺れ動いているように、人体もいつも変わっている。常に一定量のタンパク質を取り込まないと生きていけない。でも、「コラーゲンを取り込むとお肌がつるつるになる」みたいなことは生物学的にはあり得ないんですよ。覚えておきましょう。

○以下は私的なメモ書き。

「つまり過去とは現在のことであり、懐かしいものがあるとすれば、それは過去が懐かしいのではなく、今、懐かしいという状態にあるに過ぎない」

「現代社会に生きている私たちにとって、脳が直感的に見ているものというのは、ないところにあるものを見、ランダムなものの中に強引に関係性を見ている」

「生命体は口に入れた食物をいったん粉々に分解することによって、そこに内包されていた他者の情報を解体する。これが消化である」


<8月13日>(土)

○言っても無意味なことながら、暑いですなあ。本日は富山で墓参り。こんな日に大勢、墓参りに出向いている人がいるのがさすが富山である。

○そういえば明日中に短い原稿を2本、書かねばならぬ。政治も経済もネタは山ほどあるが、とにかく労働への意欲がわかぬ。頭も働かぬ。こうなると意を決して、エアコンはかけっぱなしである。節電などしていられまへん。北陸電力さん、よろしくお願いします。

○そこで思い出しましたが、「節電の夏、翼賛の夏」というテーマで次号の「新潮45」に寄稿しております。昨今盛んな節電ファシズムは、「空気による支配」の危険があるのではないかと。来週後半くらいに出ると思いますので、よろしければお買い上げ(or立ち読み)ください。

○それから編集委員を務めております「外交」の第8号が出ております。こんなwebサイトも作ったそうですので、ときどき覗いてやってくださいまし。お願いばかりでどうもすいません。


<8月15日>(月)

○あらためて不思議なのである。あの菅さんは、なぜ辞めると言い出したのか。不肖かんべえのお仲間であるフジテレビの平井さんは、春頃からずっと「菅さんは辞めない」「菅降ろしはうまくいかない」と言い続けて、7月頃から「お盆くらいに辞めると思います」と言い始めた。これはもう神降臨である。ただし根拠ははっきりしなくて、今から考えると何だったのだろうか。

○なにしろ菅さんである。団塊の世代で、市民運動家上がりで、バルカン政治家である。とにかくしぶとい。「ぶぶ漬けでもいかがどすか?」と言われて、遠慮して立ち去るどころか、何杯もお代わりしてしまうような猛者である。これでは京都人もビックリである。では、恐怖の「ぶぶ漬けお代わり男」がとうとう白旗を掲げるに至った理由は何か。まさか「退任のための3条件に目処がついたから」なんてストレートな話ではないはずである。


(1)引き摺り下ろされる前に降りるしかないと悟ったから。

――今月末で通常国会が終われば、すぐに臨時国会が召集される。だとしたら、冒頭で不信任案提出の恐れがある。今度はさすがに通るかもしれない。とりあえず小沢派が結束して行動すると、ちゃんと成立してしまう。それくらい、菅さんは与野党にあまねく敵を作ってしまった。

(2)内閣支持率がとうとう10%台になったから。

――脱原発解散だとか、ストレステストだとか、あらゆるギミックを試したけれども、ついてきてくれる有権者はごくわずかだと分かった。もともと「人気が命」の人だから、自分に人気がない状態には耐えられない。何とか流れを変えようとポン、チーしまくったが、手牌は裸単騎状態になってしまい、もうこれ以上粘れないと観念した。

(3)岡田幹事長が何か強力な切り札を持っていたから。

――思えばここしばらく、いつもどおりの生真面目な調子で、「お辞めになるはずです」(←切り口上)と言い続けていたけれども、実は強力な説得or取引材料を持っていたのかも。なにしろ正体はフランケンシュタインですから。


○本当のところがどうだったかというのは、後できっちり検証する必要があるのではないでしょうか。

○さて、今日は久々の出社でした。明日からは仙台に参ります。


<8月16日>(火)

○東京駅から「はやぶさ」に乗り込んで仙台へ。お盆なので、家族連れが多い。荷物も大きい。こうしてみると、同じ新幹線でも東海道と東北ではかなり車内の景色が違う。ほぼ満席。

今月の景気ウォッチャー調査を見ると、日本で一番景況感がいいのは東北地方、ということになっている。そんな馬鹿な、と思うけど、3月には16.8まで落ちた現状判断DIが、7月には59.5まで上昇している。たぶん仙台のサンプルが多く使われているからだろう。考えてみれば当たり前の話で、被災地へ行ってデータをとろうにも、そもそも収拾不能なのではないか。

○仙台は妙に景気がいい、というのはいろんな理由があるらしくて、(1)さすがに復興が始まっている、(2)復興需要関係者(ゼネコンからヤクザまで?)が乗り込んできている、(3)被災地の人口が仙台に流入している、(4)損害保険のお金が支払われた、(5)今までの心理的反動が出ている、などが重なっているらしい。だからホテルはとりにくいし、夜の街も活気がある、ということになる。

○ただし将来的に明るいかといえば、そこは多分に怪しい。いろんな方に話を聞いていて、どうやってがれきの処理を進めていくか、被災地全域に雇用を生み出していくか、有効な復興策とは何か、といったテーマになると言葉が重くなる。その辺は「やっぱりなあ」ということが多い。

○ひとつ救いなのは村井知事の評判が高いこと。考えてみれば、「3/11」でいちばん化けた政治家かもしれませんね。「9/11」ではあのブッシュも化けた。ところが永田町の政治家は今一つでありますね。枝野官房長官が一瞬だけ光って、海江田経産相が化けかけたけど、その後がいけません。

○17日はいよいよ被災地に行ってきます。


<8月17日>(水)

○今日は東北電力さんのご好意により、発電所の見学をさせていただくことに。で、話を聞けば聞くほど、運が悪いというか、気の毒な状況なのである。


(1)3月11日の震災と津波で、太平洋側の火力発電所が軒並み被災。特に主力の原町火力(南相馬市、200万kW)の状況は深刻。

(2)女川原発と東通原発は、こういうときのお手本通り「止める」「冷やす」「閉じ込める」に成功するも、再稼働は許されず。

(3)さらに7月末の新潟・福島豪雨により、両県の水力発電所が止まってしまう。

(4)しかも今朝の河北新報を見たら、「秋田火力2号機が蒸気漏れで停止」とある。1972年運転開始の発電所なので、震災後のフル稼働が祟った模様。


○かくしてこの猛暑下、利用者に節電をお願いしつつ、東京電力&北海道電力からの融通によって凌いでいる状況である。ちなみに「融通」というのはタダではなくて、後で高いお金を払わなければならない。電気はちゃんと供給しなければならないし、今後の発電所の再建にいくらかかるか分からない上に、被災地のことを考えると電力料金値上げもはばかられる・・・・という会社としては悪夢のような状況なのである。

○しかるにマスコミ報道は東電と福島第一原発のことばかりに集中し、上記のような事情はほとんど知られていないのではないかと思う。それどころか、「東電は電力を他地域に融通するなどとんでもない。節電に協力してきた首都圏の利用者に報いるべきだ」とのご意見もあるらしい。ここはぜひ、広い心でご賢察を賜りたいところである。それに、それを言い出してしまうと、「そもそもなぜ東電は福島に原発を作ったんだ」ということになりますので。

(もっとも不肖かんべえは、以下の通り同社の便宜供与を受けているので、その分は適当に割り引いて読んでいただきたい。時節柄、「かんべえは電力会社に買収された」と誹謗する人がいたとしても不思議はないと思われますので)

○さて17日午前、まずは新仙台火力発電所をご案内いただく。1号機が35万kW(石油)+2号機が60万kW(LNG)というから、そんなに大きくはない発電所である。ここも地震には耐えたが、その1時間後に来た津波に襲われて発電能力を喪失した。辛抱強く後片付け作業が行われているが、今も復旧していない。塩水に浸かってしまった機械類などは、全部取り替えねばならないのだそうだ。

○ここでまことに悩ましい事情がある。1号機と2号機が壊れたので、この際、以前から予定していたコンパウンド型の3号機を早いとこ作ってしまいたい。だが、それをやろうとすると、環境アセスメントが必要になるので1年くらいかかってしまう。それでは急場の電力不足に間には合わない。壊れた機械を直す分には手続きはいらないので、やむなく今は1号機を修理している。だが、直ったとしても供給量は少ないし、使える年限も限られている。なんという不条理であろうか。

○そこから石巻市へ。TVなどでよく見る光景が広がっている。膨大な瓦礫の山に圧倒される。と同時に、「よくぞここまで人力で片づけたものだ」と感心させられる。とはいえ、分別は進んでいないとのこと。ワシはガサツな人間なので、このままどっかの埋め立てに使えないものかと思う。少し遠いけれども、辺野古のV字滑走路の埋め立てはどうなっているのだろうか。

○さらに女川町へ。ここもひどい状況である。町の中心部はあらかた消え去っていて、ほぼ整地されて穴が空いたようである。海を見ると多くの島影がまことに美しく、風光明媚といってもいいくらいなのに、陸を見ると人が暮らしていた場所の無残な残骸ばかりが目に付く。小さな漁船は何隻か見かけたが、漁はほとんど行なわれていない様子であった。

○午後、たくさんチェックを受けて女川原発の中に入る。タービンの分解を行っている様子やら、重油タンクが倒壊した現場やらを見学させてもらう。今度の震災では施設が想定以上の揺れを体験したので、徹底的な点検が行われている。仮に運転OKとなっても、再起動までには相当な時間がかかるだろう。

「女川は高さ14.8メートルあったから、14メートルの津波でも無事だった」という話は有名であろう(ただし1メートルの地盤沈下が起きたので、両方の数字は今では13.8メートルと13メートルに修正されている)。とはいえ発電所は、断崖絶壁の上に立っているわけではない。水際に立って見ると、なるほどスロープがあるのがわかるという程度である。それでもこの高さが、運命の分かれ道となった。

○なぜ高さ14.8メートルだったかといえば、計画が持ち上がった1960年代当時、頑強に「津波の恐れがあるから、高い場所に作るべきだ」と主張した役員がいたからだという。女川は漁業補償の問題で着工が遅れ、1984年になってようやく1号機が稼働しているので、今となっては確認が出来ないくらい昔の話である。おそらくは現地の人で、親戚などから聞いた「津波への畏怖」を持ち続けていた人なのだろう。

○会社としては、たいへん良い先輩に恵まれたことになる。こういう大事な教えは、ちゃんと次の世代に引き継がなければならないだろう。


<8月18日>(木)

○3日間の滞在中にいろんな人の話を聞いた。中でも興味深かったのは、2人のベテランジャーナリストとの対話である。

○ひとりは時事通信の仙台支局長である名越健郎さんである。ロシア報道で有名な方であって、東京財団の会合などでお目にかかったことがある。なんと仙台支局長として「3/11」に遭遇し、こんな記事を書いておられた。数ある震災報道の中でも、白眉の文章だったと思う。ちょうど今月末で時事通信を退職され、来月からは拓殖大学で教えることになるとのこと。

○もう一人は元朝日新聞記者の高成田亨さんである。「ニュースステーション」のコメンテーターや、朝日新聞アメリカ総局長まで務めて、定年後に志願して石巻支局長(自称・さかな記者)として最後の記者生活を過ごされた。現在の肩書きは札幌大学教授。震災後は復興構想会議のメンバーにもなり、現地のいろんな活動にコミットしている。

○お二人とも、ジャーナリスト生活の最後に、本職ではない分野で大事件に遭遇したことになる。人生、何が起きるかわからないものである。自分もサラリーマン生活の終わりがそう遠くない身だが、そのときに何をやっているものかと考えてしまった。

○仙台では二晩とも、日本酒を頂戴しました。東北に来たからには、「ビールだけ」とはいかないでしょう。で、これが石巻のお酒です、これは滅多に手に入らない十四代ですぞ、などとやっているうちに完全に酩酊。「溜池通信」の更新が出来ないくらいにつぶれてしまった。こんなことはわれながらめずらしい。ということで、二日分まとめて更新です。


<8月19日>(金)

○久しぶりに出社したら、仕事がいっぱい降ってきていた。でも、たくさん休んだ後なので、文句を言ったらバチが当たります。それにつけても、会社で過ごす1日は長いものでありますなあ。

○仙台で聞いた話に、「大工さんが復興のボトルネックになっている」というのがあった。東北6県というのは、面積はとても広いが人口は全部足しても950万しかおらず、神奈川県よりはさすがに大きいが、東京都よりは少ないくらいの規模である。そんな場所では、年間に建てられる住宅件数もたかが知れている。大工さんもそんなに大勢は居ない。震災と津波で大量の住宅が失われたから、今後は建築需要があることは間違いないし、資材も全国から持ってくることができるのだが、それを建てる人の数が限られているというのである。

○だったら大工さんも他所から連れてくればいい、と思うかもしれない。でも、建築というのはきわめてローカルな仕事であるから、おそらく西日本の大工さんを被災地に連れて行っても、あまり役に立たないのではないか。だってこの国は、畳のサイズだって西と東じゃ違うんですから。そもそも建築現場というのは、いまだに尺貫法が使われている古い体質の世界である。かつてはプレハブやツーバイフォーで、モジュール化が志向された時期があったのだけれども、結局、元の木阿弥となって今日に至っている。

○こんな例がある。日本銀行の高松支店長宅は、「さすが日銀」という豪壮華麗な建築物であるが、窓が普通に南向きになっているという。かの地は「なぎ」の時期になると、風は海のある北側からしか入ってこないので、これは明らかな設計ミスである。おそらく東京の名のある建築家による作品なのだろうが、現地の大工さんが見たら吹き出すような設計なのである。それくらい、日本の国土というのは変化に満ちていて、「オールジャパン」のお仕着せは通用しない。やっぱり建築はローカルな仕事なのである。

○しかも復興に当たっては、「なるべく地元の業者に発注したい」という思惑が働く。結果として作業は遅れる。がれきの処理が進まないのも、がれきを処理した業者が跡地の建設に当たることが多いから、地元関係者としてはスーパーゼネコンには仕事を頼みにくい、という事情があるからだという説もある。

○ともあれ、復興が遅々として捗らない背景には、いろんな問題が隠れている様子である。


<8月21日>(日)

○完全に日常モードに戻っているのだけれど、仙台の四方山話を少々。

○考えてみたら、ワシは20代の頃によく仙台を訪れている。労働組合の執行委員をやった頃に、「東北支店担当」として「組合員の皆さま、ご不満はありませんでしょうか」とお伺いに行く仕事があった。ただし、何の問題もなかったのである。当時は社員全員が正社員で、待遇は全国一律であった。「仙台では、そもそも週休二日の会社はめずらしいですから」とも言われた。なんとも古きよき時代であった。毎回「萩の月」を買って帰ったが、牛タンはまだそれほどメジャーではなかったと思う。

○何度か訪れたことのある仙台城を訪れてみた。当時はそうは思わなかったのだが、こんなに広い城もめずらしいのではないか。青葉山と広瀬川の地形を活かすとしたら、まさにこれしかないという構想なのだが、まことに雄大かつ実戦的である。しかし伊達政宗が築城に着手したのは1601年なので、実際の戦闘に使われたことはない。平和な江戸時代には、さぞかし使い勝手が悪かったことだろう。なにしろ麓から本丸まで、今日のタクシーでも2000円近くかかってしまうのだから。

○そして1611年に慶長の津波がこの地域を襲っている。伊達家領内で溺死者5000人というから、かなりの被害であったことは間違いない。貞観の津波と並び、過去の大津波の例としてしばしば引用される。しかるに1614年の大阪冬の陣、1615年の夏の陣に伊達政宗が出陣して戦果を挙げていること、支倉常長の対外派遣が1613年であることなどを考えると、領国経営が危うくなるほどのものではなかったように思える。この辺は、今後の研究を待ちたいところである。

○「青葉城資料展示館」に入ってみると、伊達政宗の筆跡を見ることができる。達筆でとても細やかな配慮をする人だったようである。武人であったけれども、文化人としても優れていた。司馬遼太郎は、政宗を描いた短編『馬上少年過ぐ』の中で、この漢詩の平仄が正確であることを誉めている。戦国の世にどうやって、そんな教養を身につけたのものか不思議なほどである。強いてイチャモンをつけるとしたら、辞世の句がちょっと「作り過ぎ」であることくらいか。

曇りなき 心の月を 先だてて浮世の闇を 照してぞ行く

○秀吉は、政宗のことを「鄙の華人」と評したそうである。あの秀吉が素直に人を誉めるわけがないので、たぶんに揶揄する気持ちがあったのだろう。実際のところ、秀吉の辞世(つゆとおき つゆときえにしわがみかな なにわのこともゆめのまたゆめ)と上を比較すると、品はないけどユーモア感覚があって、つい秀吉の肩を持ちたくなってしまう。この辺が「天下を取った野人」の底力というものである。

       ◇       ◇        ◇

(→追記):念のため、と思って『馬上少年過ぐ』を読み返したら、死ぬ1年前の政宗が、花を見るために京に上った際に、公卿たちの前で披露した歌が紹介されている。これぞ「鄙の華人」の面目躍如であり、秀吉はもちろんのこと、信長も家康もこんな上手な和歌は作れっこないだろう。そしてまた、こういう歌を発見してしまう司馬遼太郎にも畏れ入るしかない。

咲きしより今日散る花の名残りまで 千々に心のくだけぬるかな

       ◇       ◇        ◇

○上記とはまったく関係がないけれども、仙台では市議会選挙が行なわれていた。政令指定都市につき、投票日は28日と長い。ただし投票所が変わるなど、現場の混乱はあるらしい。この選挙がどんな形で行なわれるかは、今後の政局にも影響するだろう。仮に「仙台でさえ、選挙の実務には支障がある」ということになれば、「まして被災地全体では選挙はまだ無理」ということになり、「解散・総選挙はまだまだ物理的に不可能」ということになる。

○世間では民主党代表選が行われているけれども、果たして3人目の首相はどれくらい持つのだろう。


<8月22日>(月)

○古くは「三角大福」や「安竹宮」、近いところでは「麻垣康三」など、自民党総裁選にはいろんな名前が乱れ飛んだものですが、今回の民主党代表選における「それ」はちょっと問題含みのようであります。


東スポ方式:馬鹿野郎

馬:淵澄夫
鹿:鹿野道彦
野:田佳彦
郎:小沢一

週刊文春方式:また馬鹿のかお

ま:まえはら誠司
た:たるとこ伸二
馬:馬淵澄夫
鹿:鹿野道彦
の:のだ佳彦
か:かいえだ万里
お:おざわ鋭仁


○よりによって「馬」と「鹿」がいるんだものなあ・・・・。

○それにしても窮屈な日程となってしまいました。8月31日には通常国会が終わってしまうので、その前に次の首相を決めてしまいたい。でないと9月の臨時国会召集まで、待たなきゃいけませんから。菅さんの顔は皆さんもう、見たくないですよね。できるだけ早く、お遍路さんに行ってもらいたいです。

○ところが、「菅首相辞任3条件」であるところの「特例公債法案」は8月24日(水)、「再生エネルギー法案」は8月26日(金)に成立予定である。そこで8月26日夕刻に、菅さんが退陣表明をしてくれる(分かりませんよ、「恐怖のぶぶ漬けお代わり男」ですから)ことを前提に、8月27日(土)に代表選公示、28日(日)に討論会、29日(月)に両院議員総会→新代表選出、30日(火)首班指名→新首相誕生、31日が予備日→通常国会閉会となる。

○次期首相をこんなに慌しく決めていいのか、この馬鹿野郎、と言いたくなりますよね。こんな短期間で、納得のゆく政策論争ができるんでしょうか。せめて全候補者がテレビ番組に出て、国民に顔を見せてほしいと思います。でも、議員さんの中には、「新首相なんて誰だっていいんだ。次の選挙を仕切る幹事長ポストが大事なんだ」という人も、おそらく100人くらいいるんじゃないでしょうか。

○ともあれ、大変な綱渡り日程です。ひとつ間違えば首班指名は9月に飛びます。その点、今の執行部は手際が悪いですからねえ。だんだん心配になってきました。いつものことですけど、組閣のときには天皇陛下のご日程もチェックしておくのですよ。くれぐれもご迷惑をかけるんじゃないですよ。てゆーか、この2年間で3回目なんだから、いい加減、慣れてくださいね。

○ちなみにこのポスト菅レース、ワシなら「馬」を買いたいですね。オッズが高そうだし、何だか勢いを感じるので。


<8月23日>(火)

○政治、経済、国際情勢と、今週から来週にかけて、いろんなことが重なっていて興味が尽きません。こういうときは、あっちでもこっちでも一発ギャグみたいな話をたくさん聞くものであります。

○永田町に新しいユニット、「ABK 4to8」が誕生した。その心は、"Anybody But Kan 4〜8"で、「とにかく菅さん以外なら誰でもいい」と思う候補者が、4人から8人程度立ち上がるのだそうだ。ただし「AKB48」とよく似たことに、顔と名前が一致するのは1人か2人しか居ない。で、誰が勝つかはジャンケンで決めるってか?

○とうとうリビアのカダフィ大佐の命運が窮まったらしい。そうかと思えば日本では、菅首相が「8月30日に内閣総辞職」の見通しを示した。いずれも残り数日。空気を読まない「東西を代表するぶぶ漬けお代わり男」、最後まで粘るのはいったいどっちだ?

○今週金曜日、バーナンキ議長が行なう「ジャクソンホール演説」が注目されている。ところでこの地名、"Jackson Hall"ではなくて"Jackson Hole"であるって、皆さん知ってましたか? バーナンキさんはその昔、このジャクソンホールで、穴に落ちた日銀さんを散々に愚弄したことがある。それが今では、自分も同じ穴に嵌ってしまった。こういうのを「人を呪わば穴二つ」、もしくは「同じ穴のムジナ」と称する。

○今朝の「くにまるジャパン」で、不肖かんべえがリスナーから貰ったメール。「84歳になる母が、そろそろ金歯を抜いて売ろうかと言ってますが、タイミングはどうでしょうか?」・・・・こういう人が出てくるということは、そろそろ金相場は天井かもしれませんな。それはともかく、金歯はもう身体の一部でしょうから、抜かない方がいいと思いますよ。


<8月25日>(水)

○前原さんが名乗りを上げたことで、「ABK 4 to 8」にやっと「誰でも知っているアイドル」が加入しました。その結果、見る側の関心は「誰が勝つか」ではなく、「前原さんで大丈夫かな?」に変わってきたような感じです。何しろ政治献金の問題はあるし、言葉は軽いし、側近は少ないし、運は良くないし、責任は回避するし、変なことで意固地になって切れるし、ブレーキの利かない性格だし、と心配のネタは尽きないわけでありまして。

○その前に「小沢さんの支援は得られるのか」という問題も盛んに論じられております。でも小沢さんという人は、昨年の代表選こそは捨て身の挑戦でしたが、それ以外はいつも安全策をとって、最後はキチンと勝ち馬に乗る人だと思います。きっと今回も、最後は「小沢派は自主投票」みたいな形にして、前原さんをさりげなくサポートするんじゃないでしょうか。彼にとっては、負けないことが今は大事です。

○野田さんはどうしちゃったのか、もちょっと気になります。文芸春秋に政策を発表した時点では、ブッチギリ状態にあったんですけどね。たぶん「増税派」のレッテルを貼られたから、というのは表向きの理由に過ぎないのでしょう。どうにも天運がなかったし(勝負どころで米欧債務危機に遭遇してしまう)、大連立を口に出してしまうし(企業合併と同じで、こんなことは水面下でやるしかない)、変なところで安全策をとるし(先週日曜のテレビ出演を辞退してマスコミの顰蹙を買う)、国民的な支持は広がらないし(たぶん彼の下の名前=佳彦=を言える人は少ない)、どうも自滅だったんじゃないかという気がします。

○ここから何らかの教訓を探すとしたら、先行馬は後ろを気にしてはいけないということ。リードしているときは強気でどんどん行かなきゃいけない。それこそ前原派に首を突っ込むとか、閣僚人事の空手形を切りまくるとか、オフサイド覚悟で攻め続ける必要がある。安全に勝とうとするとそこで勢いが落ちて、得てして第4コーナーで馬群に包まれてしまう。野田さんの失速は、「勝負のコワさ」をちょっとだけ教えてくれている事例ではないでしょうか。

○野党が長かった民主党では、代表選は「ぬるいレース」という時代が長かった。それでも与党で代表を選ぶとなると、首相を選ぶ選挙になるわけだから、それなりに厳しさが生まれてくるようです。それは大いに結構。でも、「激論!新総理は日本を救えるか?!」と大袈裟な問題設定をしてみると、「そんなこと、誰も期待してないって」という冷静な声が聞こえてきそうです。

○まあ、少しは盛り上げてみたいですよね。ということで、以下は番宣。

http://www.tv-asahi.co.jp/asanama/ 


<8月27日>(土)

「朝生」に出てまいりました。テレビに写らない世界のことを、ちょっとだけここでご紹介。

○8月最後の週末ということで、悩ましいポイントは「ネクタイをするかしないか」。朝からちょっと迷って、出演者の斉藤健さんに電話して「今晩、どうするの?」と聞く。先方も迷った様子。でも、午後から大雨になったので、最終的に「脱・クールビズ」を決定。

○久しぶりに小池晃さんと会ったら、開口一番「柏市議選のこと、書いておられましたね」。なんと当欄8月7〜8日分をチェックされていた模様。ひょっとすると、この資料が共産党内部で回覧されていたりして。ちなみに小池さんの、「民主党は政党の体をなしていませんよ!」は、私的にはあの番組中のベストショットでした。

○盛んに発言していた上杉隆さん、目の前に座っているのだけど、発言の合間にPCを広げて「内職」(twitter)をしている。どんな反応があるか尋ねたところ、「隣の席の岸さんが手に巻いているのは何か?」と聞かれた由。

○そこで岸博幸さんに尋ねたところ、あのブレスレットは沖縄でゲットしたパワーストーンなんだそうです。ITが専門の人にしてはちょっと意外だったりして。

○お隣に座っていた小黒一正さん、「経済の話が少なかったですねえ」とポツリ。どうも今回の企画は、もともとは円高と経済空洞化問題で人数集めをしていたところへ、民主党代表選が重なって予定変更したらしい。まあ、それくらい代表選が唐突だった、ということであります。


<8月28日>(日)

○結婚式に出る。なんとこのワシが新婦側の主賓、というから恐れ入ってしまう。ホントは式の中盤以降でご指名をいただきたいところ、諸先輩方をさておいて、酒も入らぬうちからマイクが回ってきてしまう。これではヤバめの話はできないではないか。中継ぎピッチャーが突然、先発を言い渡されるようなもので、やりにくいことこの上ない。ということで冒頭に務めを終えさせてもらい、あとはゆっくり今風の結婚式を拝見させてもらう。

○結論を言うと、結婚式というのは時代とともに意匠は変わるけど、本質的にはそんなに変わるものではないらしい。幸せなカップルがいて、楽しい仲間がいて、それらを見守る親兄弟たちがいる。昔と違うのは、せいぜい演出が凝っているくらいであろう。

○そういう意味では、歴史は同じことを繰り返している。今日のこの日に行われている民主党代表選も同様で、日本の政治は基本的にそんなに変わっていない。政策論争をと言いつつ合従連衡が大切で、アイツだけは許せない、みたいなことが核心であったりする。これは明治維新の昔より、日本政治がずっと続けてきたことである。もっとも「親小沢」と「反小沢」が争点になるというのは、いい加減卒業してもらいたいものでありますが。

○今回の民主党代表選は、最大のテーマが"Anybody But Kan"でありますから、いわば「首相も変わる内閣改造」といった趣きがある。なにしろ現職の財務大臣と経産大臣と農水大臣が名乗りを上げている。首相がダメだと思っていたのなら、ちゃんと辞表を叩き付けるのが筋というものであろう。が、そのことを気にしている人はあまりいない。誰が3人目になるのかは現時点では不明なるも、これまでに失敗した「ルーピーさん」と「ぶぶ漬けお代わり男」と大差があるとは思われない。党内のグダグダぶりは変わらないだろうし、せいぜい1年の寿命でありましょう。

○とりあえず最短距離にいるのは、前原さんと海江田さんであるとのこと。さる自民党議員に「どっちがいい?」と聞いてみたところ、「どっちもありがたい」とのこと。叩くネタはいくらでもあるし、就任早々に馬脚を表してくれそうなので、手ぐすねを引いて待っている様子である。強いて言えば、馬淵さんなんかが来ると出方が読めなくてやりにくいであろうが、それはほぼ安全パイであるらしい。野田さんが出てきて安全運転をされても、野党としてはやりにくいと思うけれども、その確率も低い。

○そこで質問を変えて、こう聞いてみた。「前原さんと海江田さん、どっちでしくじる方が、日本にとってマシでしょうか?」。当該の自民党議員曰く、「そりゃ海江田さんの方が罪は軽いでしょう」。なにしろ経済産業省に丸め込まれるくらいの人である。まして財務省に勝てるはずがない。そうしておけば、大きなしくじりはないだろう。他方、前原さんは外務大臣として、外務省をかなり困らせた人である。どっちがいいか、まことに悩ましいところではありませんか。

○もっとも今の日本は、「ルーピーさん」と「ぶぶ漬けお代わり男」がそうだったように、これ以上、後ろ向きの失敗を積み重ねる余裕はない。むしろ前向きの失敗をした方がいいわけで、民主党の未来ためにも「前」のめりに倒れる方がいいのではないか。明日は早起きして「モーサテ」に出演し、今日の民主党代表戦はどうなるか、を語らねばならないのですが、この予想、非常に難しい。難しいけど、結果に大差はない。このあたり、結婚式と違ってめでたくはないのである。


<8月29日>(月)

○最初の投票で、「海江田143、野田102、前原74、鹿野52、馬淵24」という数字を聞いてギョッとしましたね。海江田さんは150に届かず、2位の野田さんがギリギリで100に乗せてきた。海江田さんは「小沢派120+鳩山派30」を固められなかったことになるし、野田さんはこれが3票減って99だったらイメージ的にかなり違った。かつて自民党総裁選がそうだったように、こういうときの数字は味な結果が出るものです。これは「民主党の知恵」と呼んでもいいんじゃないでしょうか。

○そうなると「野田派+前原派」の連合は予定の行動なので、後は「馬と鹿」を味方につけたほうが勝ち。小沢陣営は強引に鹿野派に対する工作を仕掛けて、かえって反発を招いたとか。つまりは「馬鹿を侮る者が泣く」ということになったようです。野田さんが人事面で「馬と鹿」をどう処遇するか、ちょっと注目です。

○さらにいえば、海江田さんの「三党合意は白紙も」(ちゃぶ台返し)発言は拙かったですね。前の社長がした契約を、次の社長が破棄するみたいなことをしたら、そんな会社はもう誰も相手にしなくなりますがな。そんなことだから、「政党の体をなしていませんよ」(小池晃氏)と言われてしまう。今度の選挙は、最初のうちは"Anybody But Kan"で始まりましたが、最終局面では"Anybody But Kaieda"で決まった。最後まで「ABK」がキーワードでした。

○今回の結果を受けて、小沢さんは民主党代表選で3連敗したことになります。サポーター票があった前回はともかく、議員だけの合従連衡だけで決まる今回のルールでも勝てなかったということは、さすがにもう「次」はないでしょう。そもそも海江田さんを担いだ時点で、「えっ?」というところがあったし。輿石さんに頼んで断られ、それから西岡さんに頼んで、という時点で普通の判断力ではなかったと思います。負けに不思議の負けなし、というやつですね。

○その点、野田さんの勝利は「勝ちに不思議の勝ちあり」といえましょう。こういうのが意外と長期政権になるのかもしれません。とりあえず低姿勢で始めて、支持率が低いことは甘んじたらいい。日本人は基本的に「耐える人」が好きですからね。


<8月30日>(火)

○今朝のくにまるジャパンから。どちらも民主党代表選に対する論評です。

●「コメンテータージャパン」 http://www.youtube.com/watch?v=hssevVyiYvE 

――野田新政権下の景気対策の裏側を読む。

●「深読みジャパン」 http://www.youtube.com/watch?NR=1&v=rUMCzLKqH6s 

――選挙オタクが総括する昨日の民主党代表選。

○昨日の「モーサテ」もそうですが、公共の電波でかなりムチャなことを申しております。


<8月31日>(水)

○一度は終わったかと思われた人物が、最後は急浮上しておいしいところをさらっていく。あなたの周りに、そんな「どぜう宰相」はいませんか?――てな企画が、これから雑誌なんかで流行るような気がします。復活劇と言えば、室伏選手の金メダルもそうですな。わがタイガースも、願わくばそんな風でありたいものであります。

○そこで政界における「終わったと思われている人」の第二の人生を考えてみました。

●カンチョクト氏:ミニ政党の党首として再起を図る

――と思ったら、ホントに福島みずほたんから、「脱原発を一緒にやりましょうよ。社民党は大歓迎です。いつでも党首に」などと呼びかけられていましたね。でも、正味な話、菅さんは別に信念で言ってるわけじゃなくて、TPPでも増税でも反小沢でも、カッコいいと思って言ってるだけなんで、それで人気が出ないと分かれば急にどうでもよくなるんですよねえ。とりあえず四国巡礼は「延命寺」からですよ。忘れたとは言わせませんからね。

●よさのん氏:時事放談の司会者となる

――野田氏の処遇が注目される一人。何度かTVでご一緒したことがありますが、あれだけ守備範囲が広くて、アドリブも効いて、なおかつ失言しない人はめずらしいですよ。サービス精神にはやや欠けるかもしれませんが、藤井裕久さんと財政論議するとか、リチャード・クーを政策論議でやり込めるとか、田原総一朗さんと戦後政治をしみじみ語るとか、そういう番組をちょっと見てみたい。なお、「国際会議の英語術」とか、「自分で作ろうパソコン教室」なんて講義も、たぶん出来ちゃうから怖ろしい。

●浜田和幸氏:残りの任期をエンジョイする

――わずかな期間、政務官になることと引き換えに離党してしまいました。今さら自民党には戻れず、特に石破さんには顔向けが出来ません。かといって民主党にも居場所はなく、無所属で残りの任期を過ごさねばなりません。もっとも参議院は、何があっても残り5年間の身分を保証してくれる結構な職場です。同様な人が5人集まれば政党助成金も出ますから、とりあえずはそれが目標ですね。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki