●かんべえの不規則発言



2002年3月



<3月1日>(金)

○今宵は政治オタクの集いにて議論に花が咲く。主要なテーマは日本の国家戦略がどうあるべきかという話なんですが、時期が時期だけに、「ムネオも終わりだよねー」みたいなことでついつい盛りあがる。「北方領土はODAじゃなくて支援事業だなんて、初めて知ったよねえ」「ムネオハウスをあばいた共産党の佐々木、変に声がいい」。「竹下さんは“だわな”で、青木さんは“だわね”。島根弁でも後者の方が敬語表現」。なんでこういう話が面白いのか。

○例によって怪しげな噂だけど、面白いから書いちゃう。自民党の派閥の政治資金がペイオフ対策に困っているらしい。そりゃそうだろう。1000万円以下に細分化して預金できるような金額ではないはず。そこで「実は外貨に換えている」説あり。金融論をやっている某大学教授が、最近になって全財産をドルに換えたという話は聞いたことがあるが、政治家が円安に賭けるなんて、そんなことがあっていいんでしょうか?

「外貨預金もペイオフの対象外だぞ」
「いや、それがトラベラーズチェックにしているという話なんだ」
「TCの最高額っていくらだよ」
「今は1000ドルだそうだ」
「それならなんとかなるな。でも、まるでワリシンを隠してた金丸事務所みたいだな」
「おいおい、TCということは誰かが一枚ずつサインをするわけかな」
「駄目だよ、それじゃサインした本人しか使えなくなるじゃないか」
「ということは、サインのないTCの束が、金庫の中かどっかに積んであるかもしれないわけだ。無用心だなあ」

○それにしてもTCとはね。もちろん、個人のペイオフ対策でも使える手口です。その場合はちゃんとサインをしておきましょうね。


<3月2日>(土)

○昨日は「将棋界のいちばん長い日」でした。去年の不規則発言、3月3日分でも詳しく紹介しましたが、つまりA級順位戦の最終日。成績表は以下の通りで、名人への挑戦者は森内俊之八段でした。ここ数年、A級ではたぶん一番安定した力を示している森内だが、不思議とタイトルに縁がない。ぜひ大金星を上げていただきたい。

http://www.shogi.or.jp/kisenhyo/zyunni/2001/a.html

○どちらかというと、「挑戦者が誰か」よりも「陥落者が誰か」の方が面白い。今期、落ちたのは加藤一二三九段と先崎学八段。ああ〜、お二人ともお気の毒でした。神武以来の天才は、これでA級から5度目の陥落。ひょっとして来期は、B1リーグで中原X加藤戦があったりするんでしょうか。こうなると、ヨネさんがいないのが寂しいですな。

○去年、「負けた方が陥落」というキツイ勝負を島朗八段と戦い、なんとか勝って踏みとどまった先崎八段。今期も出だしから3連敗の苦しい展開。2勝6敗で迎えた最終日、不幸なことに最後の相手が羽生竜王だった。捲土重来を期す。今期、島八段は10勝1敗で見事にA級への復帰を決めてきた。A級での島X先崎戦が見たかったですね。

○加藤、先崎が陥落する一方で、島八段と郷田棋聖が昇級。ワーストドレッサーが落ちて、ベストドレッサーが上がったと言ったらあんまりかしら。


<3月3日>(日)

○友あり、遠方より来たる。また楽しからずや。その名を上海馬券王。日本にいたときから、唯一の趣味はJRA。中国家電工場の、経理部長を務めつつ、インターネットと短波放送を頼りに、毎週末は競馬三昧。久々に日本の土を踏みて、日曜にはやはり競馬場に行きたいと。てなわけで上海馬券王、かんべえとともに中山競馬場に遊ぶ。

○今日のメインレースは、皐月賞トライアルの弥生賞。いずれ劣らぬ三歳馬。人気はペリエ騎乗のFヤマノブリザード。はたまた京成杯で同着首位だった、AヤマニンセラフィムとJローマンエンパイア。かんべえはAヤマニンセラフィムを軸に、薄めに流す。上海馬券王はパドックの気合を買ってIモンテブライアンを軸に。

○あにはからんや、レースはスロー。中山の2000米、半分過ぎた時点でもう1分を超えている。逃げ馬にとっては絶好の展開だ。先頭はCバランスオブゲーム。この馬、かのダビスタを作ったプログラマーが馬主。その名の通り、バランスよく快調に逃げる。さて、第4コーナーを回って、Aヤマニンセラフィムが絶好の位置につける。しめたA―C来れば悪からぬ配当だ。ゴール直前、かんべえ、思わず力が入る。

○しかるにここから出てきたのはJローマンエンパイア。恐るべき差し足でまくるまくる。最後は届かずCバランスオブゲームに名をなさしめたが、見事な追い込みを印象付けた。皐月賞は人気になること請け合いというもの。かくして上海馬券王とかんべえは一敗地にまみれる。中京記念も見事にはずし、あ〜あの思いは禁じ得ず。

○これでは帰るに帰れない。残るは最終12レース。1000万下のレースとあっては知ってる馬もほとんどなし。あきらめ半分で脳裏に浮かんだ数字をボックス買い。ところが勝負は分からない。来たきたH―J、その名を同時多発テロ馬券。Jタツショウワに騎乗は江田照男。困ったときは江田照男。人気がないときゃ江田照男。これがそこそこの配当となったので、かんべえ一気に配給原点に復帰す。

○上海馬券王は、トータルするとチョイ沈み。とはいえ嘆くな馬券王。齢四拾を越えたところで、赴任先、上海の女性とゴールインをば決めていとめでたし。これに過ぎたる幸福がまたとあろうかと。友あり、今まさに華燭の典を挙げんとす。めでためでたの若松様よ。お前百までわしゃ九拾九まで。アンタの幸せ、祈ってワシはペンを置く。


<3月4日>(月)

○今日、お目にかかった老ジャーナリストがぽつりと言ったひとこと。「外務省は大臣の使い方が乱暴だからなあ。安倍晋太郎や渡辺ミッチーは殺されたようなもんだ」。

○なるほど。外相を長く続けた河野洋平さんも、最近は体調が不良だと聞く。「かつて外相を務め、その後は首相を務めて早死にした人」というジャンルを加えると、ここには大平正芳、宇野宗佑、小渕恵三などが加わる。だいたいが政治家は元気で長生きと相場が決まっているのに、外相経験者の短命ぶりはちょっと意外なほどだ。元外相で元気な人を探すと、中山太郎とか羽田孜とか柿沢こうじがいるけど、あんまり長くはやっていない。「吉田茂はどうなんだ」と言われると困るけど、そもそもあの人は自分の好き勝手にできた人だから、例外なんでしょう。

○外相が短命になる、というのは、おそらく激務だからだろう。しょっちゅう飛行機に乗って、いろんな国を訪れて、外交儀礼をたくさんこなして、サミットなどにも出て、気の重い交渉もしなければならない。ワインもたくさん飲むだろうし、こってりした料理を食べる機会も多そうだ。これで国会審議も付き合わなきゃいけないのだから、やっぱりキツイ仕事といえるだろう。

○かくして外務大臣は過酷な日程を強いられる。「大臣、これもお願いします」などと言われてホイホイと外遊を引き受けているうちに、知らず知らず寿命をすり減らしてしまう。これに比べると、大使はわりあいに元気で長生きの方が多い。なぜでしょうね。

○これは悪い冗談ですが、歴代外務大臣の事務方に対する怨念が溜まっていたのかもしれませんな。それであるとき、恐怖の大王のような外相が誕生し、日夜、外務官僚を苦しめることになったのではないかと。なにしろバタバタと大勢入院しましたものね。一難去ったとはいうものの、あの恐怖の大王は簡単には死にそうにない。外遊もあんまりしてませんから、成仏しそうにはありません。前外相がまだまだ祟りそうな昨今の情勢です。


<3月5日>(火)

○昨日のコメントが受けたと見えて、関連するメール多し。実は商社の営業マンも早死にじゃないかとか、そろそろまともな外交をやるべきだとか、はたまたウィーンから届いたハプスブルグ家に関する興味深いご指摘など、全部に反応したいんですが、このところ内向きの仕事に忙殺されておりまして、じっくりお返事できないのが残念。

○さて、今週はなぜ株価が上がっているか。先週出たデフレ対策は完全に肩透かしだったけど、その実態はあからさまな株価対策で、「空売り規制+PKO」が効果をあげているようだ。「株価に一喜一憂しない」と言っていた小泉首相だが、さすがに3月末を控えて株価の行方に神経質になっている。

○景気指標に底入れを示すものが増えてきた。在庫が減少に向かい、アジア向けの輸出が下げ止まった。しかしこれで安心するわけにはいかない。二の矢、三の矢が必要だと思う。日曜のテレビに出ていた竹中大臣、やけに自信ありげに見えたが、はたして胸中にどんなアイデアがあるというのか。明日、予算が衆院を通過すると、ひとつのきっかけができると思う。そこで抜く手を見せずに、「懸念先借り手への強制引き当て→自己資本不足になる金融機関には資本注入」みたいな荒業を出せれば、はっきり流れはできると思う。

○しかるに関係者に聞くたびに、似たような返事が返ってくる。「小泉さんが何を考えているのか分からない」。9・11に対しては、あれだけ迅速かつ勇敢に行動した人が、経済危機に対しては打つ手が見えない。経済財政諮問会議でも、みずからはほとんど発言せずに、結論の出ない議論を続けさせている。「小泉さんは国対副委員長の経験が長い。落としどころを見極める勘は天下一品」との評もある。いずれにせよ、今月が勝負ということになるだろう。

○「支持率が下がると株価が上がる。それならもっと支持率が下がっても構わない」。小泉首相が、そんな趣旨のことを言ったそうだ。まさにそれがポイントなのかもしれない。ダイエーを救済したらトリプル安、佐藤工業が倒産したらトリプル高。マーケットは野蛮な生きもので、「血」を見たくてしょうがない。多くの血が流れれば、それだけ政権の支持率は低下するだろうが、それでもいいから株価を上げたい、というのが偽らざるところではないだろうか。


<3月6日>(水)

○今日は暖かい。盛大に花粉が飛んでいると見える。昼間、お台場にいる間は症状が軽い。やはり海に囲まれていると幾分かはマシである。家に帰るとてきめんに悪化する。今年は1月から薬を飲んでいるので、それほどひどくなっているわけではない。週末に遊びに来た上海馬券王などは久々の日本で花粉にやられ、「中国は禿山だからありがたい」などと言っていた。思わず一句。

春一番 恨みたくなる 杉林(もしくは林野庁)

○来期の予算の作業で、エクセルの画面と首っ引きになっていたら、隣からの声が。「吉崎さん、言葉を合わせるの上手だけど、数字を合わせるのは苦手でしょ」。ドキッ。なんでそんなことが分かるの。恥ずかしながら、ワタシは数字が得意ではない。とくに桁数が多いと駄目。経済指標の数字や年号はわりあい頭に入るのだけど、日常の数字になるととたんに駄目になる。そういえば税金の申告もまだやってない。予算で苦しむというのも、典型的な日本の春の風景と言えましょうか。政府の予算は今晩、衆議院を通過の予定。

○気がつくと梅の花は満開ですね。4月はもうそこまで。


<3月7日>(木)

○日本国際問題研究所の研究会の最終回。今宵は為替問題について。これが滅法面白い。

○為替予測は当たらない。これはもう悲しいくらいの真実である。ある学者が、「ランダムウォーク予測は、購買力平価、金利平価、ポートフォリオバランスのいずれの構造モデルにも優る」ことを実証した。分かりやすくいうと、「理屈をこねるより、偶然の方が当たる」ということ。トレーダーがどんなに知恵を絞ったモデルを作っても、長期戦になるとダーツを投げて決める投資家には勝てないということだ。

○さらに別の学者が面白いことを発見した。マネタリーモデルで為替を説明しようとすると、経済データの速報値を用いた予測の方が、確報値を用いるよりも的中精度が向上するのである。実際の経済の動きは、速報値よりも確報値の方が表しているわけだが、なぜそんなことになるのか。よくよく考えれば当たり前のことで、相場の形成には確報値は使われない。為替のトレーダーは速報値しか見ていないんだもの。

「速報値>確報値」ということは、「認識>実態」ということであり、別の見方をすれば、「心理学>経済学」ということでもある。だからファンダメンタルズがどうのこうのという議論は無視した方がいい。現時点の相場は、将来のどの時点の相場に関しても最良予測値である。なんとなれば「相場はすべての情報を織り込んでいる」からだ。古くからの金言があるではないか。「相場のことは相場に聞け」と。

○それでもときどき「サプライズ」というのがあって、相場は急変することがある。今週の株価もそうだ。「空売り規制」はみっともない手法ではあったが、効いたことは間違いない。もっといえば、市場は悪材料に飽きてしまったようだ。象徴的なことに、今回の下げ相場を的確に予言していた悲観派の筆頭、ドイツ銀行の武者陵司氏が、今日付けで「3月危機は封印された」と含蓄のある表現を使っている。メリルリンチは日本株の推奨比重をニュートラルからオーバーウェイトへ引き上げた。とりあえず、株価は底を打ったと見る。

○あと知恵で思えば、極端な悲観論が出るときには潮目が変わるものなのかもしれない。2月末くらいには、まわり中の人間が岡本呻也のようなことを言ってたものね。もちろん日本経済の危機的状態は変わらないわけだが、これが悪いニュースであるはずがない。


<3月8日>(金)

○いよいよトリプル高の様相。為替レートも127円まで円高に向かっています。かんべえが書いたSAPIOの記事を読んで、外貨預金を解約した人がいたそうですが、まあ、結果オーライですね。もちろん藤巻理論に賭けている人も大勢いるはずですから、そういう人にとっては悩ましい展開といえる。

○今日発表された2001年第4四半期のGDP成長率は、3期連続のマイナス成長。実質で年率−4.5%、名目で−4.8%というから、「名実逆転」現象も続いている。デフレから抜け出すのは容易ではない。とはいえ、いろんな指標を見ると、今年の1―3月期あたりが景気の「谷」となりそうだ。データよりもムード。経済学より心理学。とにかくこの1週間で、日本経済の何かが劇的に変わった。

○本日の永田町の関心事は、加藤紘一氏の元秘書逮捕。および週明けには鈴木宗男議員の再喚問。まったくのどかなものですな。まっ、いいか。


<3月9日>(土)

○今宵は町内会防犯部の打ち上げ会。3ヶ月間、毎週末に「火のよう〜じん」をやったご褒美の会。町内会の幹部と防犯部員で合わせて9人。場所は近所の寿司屋。見た目はなんともシャビイな店なんだけど、味は結構いける。今宵はめずらしく、連絡不徹底のせいで2人が遅刻。それでも定刻10分過ぎには、全員揃ってしまうところが毎度ながらの町内会の恐ろしさ。

○町内会の面々が集まると、話は町内の噂話になる。「今年の夏祭りはどうするか」「来月の町内会の総会、傾向と対策」「駅前のパチンコ屋、最近は出ダマが悪い」「不況のせいで、運送屋さんがとうとう店をたたむ」などなど。

○そうした中でめずらしや、政治が話題になった。「鈴木ムネオってのはとんでもないやつだな」「11日の証人喚問は見物だぞ」。なるほど、この問題はアピールしているんですね。面白いことに、鈴木宗男議員は「巨悪ではない」ということが、一種のコンセンサスになっている。底知れない闇というより、巨大な小悪人。こういう人を叩くのは楽しくないはずがない。小泉首相も「ムネオハウス」の暴露に吹き出していたものね。


<3月10日>(日)

○先週の株価上昇の原因になったのは、空売り規制だという。この件、いろんな反応があって、「日本の証券行政はマレーシア以下」と言って怒っている人もいたし、株が上がったと素直に快哉を叫んでいる人もいた。この人は、「タイミングも絶妙ならば、内容的にも米国で採用されているアップティック・ルールを採用したということで、特に後ろ指を指されるような内容のものではない」と評している。たぶんそういうことなんでしょう。

○実をいうとかんべえは、空売り規制がなぜそんなに効果があったのか腑に落ちていない。そもそも「空売りと信用売りはどう違うのか」もよく分かっていない。業界の人には自明のことなんでしょうが、適当に調子を合わせているだけの人も少なくないような気がする。アップティック・ルールも初耳なので、調べてみたらどうやら以下にある通りらしい。でも、これを読んでも、なぜそんなに効果があったのか、ピンと来ない。

●東証:空売り規制の改正について(2002.3.1) 

http://www.tse.or.jp/news/200203/020301_e.html

○そこでちょっと視点を変えて、空売り規制について金融庁がどんな手続きを踏んできたのか調べてみた。

●金融庁:空売りへの総合的な取組みについて(2001.12.21)

http://www.fsa.go.jp/news/newsj/13/syouken/f-20011221-1.html

*ゴールドマンサックス証券東京支店を行政処分(2001.12.21)

●金融庁:有価証券の空売りに関する内閣府令の一部を改正する内閣府令案の概要に対するパブリックコメントの結果について(2002.1.18)

http://www.fsa.go.jp/news/newsj/13/syouken/f-20020118-1.html

*モルガンスタンレー証券東京支店を行政処分(2002.2.1)
*バークレイズ・キャピタル証券東京支店を行政処分(2002.2.6)

●金融庁:空売り規制の見直しについて(2002.2.8) 

http://www.fsa.go.jp/news/newsj/13/syouken/f-20020208-2.html

●金融庁:空売り規制の遵守状況に関する総点検結果等を踏まえた対応について(2002.2.26) 

http://www.fsa.go.jp/news/newsj/13/syouken/f-20020226-6.html

*クレディ・リヨネ証券東京支店、ベアー・スターンズ(ジャパン)証券東京支店、ドイツ証券東京支店、日興ソロモン・スミスバーニー証券東京支店を行政処分(2.26)

●2002.3.6〜アップティック規制の導入

○とにかく手続きを尽くしていることだけはよく分かった。少なくとも「闇夜でバッサリ」ではない。そういえば、愛読者のI氏が「久々に財務省の受験秀才エリートの底力を世界に見せ付けた快挙」と、もってまわった誉め方をしていた。この辺の事情を、誰か上手に説明してくれませんかね。

○ところで明日は「証人喚問スペシャル」の1日ですが、それとはまったく無関係なネタで、かんべえがJ−WAVE「JAM THE WORLD」に出演します。たぶんまた午後8時45分頃。よかったら聞いてたもれ。


<3月11日>(月)

○昨日のようなことを書いたら、「なあんだ、そんなことも知らないの」という声がいっぱい飛んでくるかと思ったら、意外と少ないもんですね。親切なMさんからのメールによれば、アップティックルールは米国証券外務員試験を受けるとテキストの最初に載っているルールで、「売り崩し防止策」なのだそうです。以下、勝手ながらを引用させていただきます。

ご存知のように、取引所取引では業者が一旦自らのリスクでポジションを持つ店頭取引と異なり、最終顧客の売買注文がそのまま場に出て反対注文と出会います。つまり、空売りであろうとなかろうと、大口の売り注文があれば小口の買い注文を一気に飲み込んで相場を落とすことが理論上可能になるので、大資本が小口資本の犠牲の上に自らの注文を次々に成立させることができます。そもそも空売りするのはプロですから、彼らに若干ハンデを持たせても誰も文句はいえないでしょう。こんな(米国にとって)当たり前のことが何故今まで日本では野放しになっていたのでしょうね。仲間内で固まりすぎてグローバル時代のルール整備を怠っていたと言われても仕方ありません。

○大袈裟に言わせてもらえば、こういう意見が表に出て来ないところに、ジャーナリズムの怠慢があるように思うのです。「空売り規制」=「市場を歪める」=「恣意的な行政」という連想が働くのは分かりますが、意外とかんべえと同じ程度の知識しかないような人が、空売り規制批判をしているんじゃないかと。それでは、「空気が政治を動かす」の典型になってしまう。

○本日は鈴木宗男議員の証人喚問の日。そこらじゅうがムネオ問題で持ちきり。これもいささか気分的なバッシングの感があって、いささか落ち着きませんな。そんな中で、絶妙のコメントを行っているのが、今号で廃刊になるDIAS誌上のつかこうへい氏。いわく「ムネオを笑う者はムネオに泣く」。ムネオはわれわれが葬り去りたいと思っている「貧乏な日本人」の姿であって、ムネオバッシングは一種の自己嫌悪ではないのか、という指摘。同感だなあ。

○今宵のJ−WAVEスタジオも「証人喚問スペシャル」で、全体的にテンションが高い。控え室にサンドイッチやおにぎりが置いてあるところからして意気込みが違う。そんなところへノコノコ出ていって、ワタクシめがお話したのが「旅行代金積み立て制度」。最後の方は支離滅裂になって、あんなんで話が通じたのかしらん、と心配しながら出てきたら、次に控えていたのが佐々木憲昭衆議院議員。「ムネオハウス」の存在を暴いて、一躍「ときの人」になった共産党議員である。すかさず名刺交換して、「頑張ってください」などと言っちゃう私は、かなりミーハーかもしれない。

○ところで鈴木宗男氏に向かって、辻元清美議員が「疑惑の総合商社」と呼んだのは参りましたな。「疑惑のデパート」よりも迫力があるけど、それじゃあ、まるで総合商社自体が疑惑みたい。しばらくはわが業界で流行りそうなフレーズです。


<3月12日>(火)

○引き続き、空売り規制について。海外在住の銀行員Yさんからは、「アップティック・ルール自体は、長銀がつぶれたときから導入の必要性は言われていた。官僚は仕事が遅い。誉めることはないっす」という意味のメッセージあり。なるほど、そういうこともあったんですね。おそらくは証券会社が反対していたんだと思われ。

○空売り規制を正面から批判しているのは、日経ビジネスの今週号(3月11日)、「目に余る“官製”市場操作」。書き手はかんべえが敬愛する谷口智彦編集委員。この記事によると、財務省&金融庁の規制の手口はけっして誉められたものではない。取り締まられる外資系証券の側も、けっしてお行儀がいいとは言えないので、ちょうど兵庫県警と山口組のような骨肉の関係といった感じ。

○どちらとも言えないのですが、この記事の結論部分、「小泉純一郎政権は市場破壊者として名をとどめるだろう」という批判は、おそらく当たらないのじゃないかと思う。3月に入ってからの株価の上昇は、空売り規制によるテクニカルなものというよりも、悪材料に飽いた市場の自律反転という性格だと思うのだ。2月には、日本経済に対してあまりにも極端な意見が多すぎた。(ex:「中国の方が日本よりも改革が進んでいる」、なんてあーた、国民の移動の自由を認めていない国のことを、何だと思ってんの?)

○マーケットにおける「認識>実態」の法則からいくと、認識が大きくぶれることは仕方がない。いったんは「日経平均で8000円割れもありうべし」という認識が立ったけど、現在はそれが修正されたというだけのこと。空売り規制はおそらくはきっかけに過ぎない。株価はもうちょっと上値があるように感じています。


<3月13日>(水)

○今日聞いた話。名門百貨店の売上がよみがえって来ているという。都心への人口回帰が進んでいるので、これは自然な動きだと思う。ところで、三越や高島屋の収益は、大雑把に言って4割が来店客、2割が法人客、そして残る4割が超お得意様の、いわゆる外商扱いなんだそうだ。それも「年間700万円以上お買い上げのお客様」というリストがあって、そういう顧客に対してはまったく違う種類のサービスを提供するのだとか。大口顧客を優遇するのは商売の鉄則だが、なるほどお金持ちというのはいるところにはいるもんですな。しかし年間700万円って、いったい何を買ったらそんなになるの?

○かんべえは大学時代に、デパートの家庭雑貨売り場でアルバイトをしたことがあるので、デパートの裏方は一通り覗いたことがある。しかし、「外商さん」がどんな仕事をしているかは、ついぞ見る機会がなかった。察するに、着物だの宝石だの絵画だののサンプルを持って、お得意様の家を直接訪問しているのだと思う。昔の三越には、客の家のどの部屋のどの箪笥には、どんな着物が入っているか、しっかり把握しているような外商さんがいたという。そういう人材は、とっくにリストラされちゃったかもしれませんけどね。

○景気を回復させる方法、消費を喚起する方法、1400兆円を動かす方法、みたいな議論のときに、とかく抜け落ちがちなのが「金持ちをいかに動かすか」である。「それは金持ち優遇になる」のひとことで、いかなる政策も凍り付いてしまうからだろう。でも、1万人が100万円使うよりも、100人が1億円使う方が、景気に与える効果は大きくなるというもの。この際、へんなタブーは取り払った方がいいと思う。

○贈与税は年間110万円、住宅取得目的に限って550万円までが非課税になっている。たしか昔は60万円だったのを、景気対策で枠を広げたと記憶している。でも、どうせなら枠をヒト桁上げて、向こう3年間くらいに限ったらどうだろう。戦後に財産を築いた世代が、そろそろ世代交代の時期になっているから、それで金融資産が高齢者から若年層に大移動するかもしれない。

○もうひとつ感じるのは、昔の「養子縁組制度」というのは、実にいい仕組みだったのではないだろうか。財産はあるけど後継ぎのいない家系が、前途有望だが財産のない若者を後継ぎにして、結果的にチャンスを与えるという制度である。実際に吉田茂の例などを見ると、養子で入った人間が好き勝手に家の財産を使っていて、家に対する遠慮はそれほどなかったようだ。養子を取る側としても、「こいつの代で財産はなくなっても、それで家名が上げればご先祖様に申し訳は立つ」と判断したのだろう。

○金持ちに消費をしてもらうのは大切なことだが、投資をしてもらうことも重要だ。とくに人に対する投資。有望な若者を発掘して、冒険させること。そういう物好きな金持ちが増えると、世の中はずいぶん明るくなると思う。


<3月14日>(木)

○以下は某外資系企業からやってきた「二頭の雌牛ジョーク」の第2弾。2月20日の当欄で紹介した「エンロン・ジョーク」の発展形です。では、余計な解説抜きでお楽しみを。

THE "TWO-COW EXPLANATION" OF WHAT MAKES...

A CHRISTIAN:

You have two cows. You keep one and give one to your neighbor.

A SOCIALIST:

You have two cows. The government takes one and gives it to your neighbor.

A REPUBLICAN:

You have two cows. Your neighbor has none. So what?

A DEMOCRAT:

You have two cows. Your neighbor has none. You feel guilty for being successful. You vote people into office who tax your cows, forcing you to sell one to raise money to pay the tax. The people you voted for then take the tax money and buy a cow and give it to your neighbor. You feel righteous.

A COMMUNIST:

You have two cows. The government seizes both and provides you with milk.

A FASCIST:

You have two cows. The government seizes both and sells you the milk. You join the underground and start a campaign of sabotage.

CAPITALISM, AMERICAN STYLE:

You have two cows. You sell one, buy a bull, and build a herd of cows.

BUREAUCRACY, AMERICAN STYLE:

You have two cows. The government takes them both, shoots one, milks the other, pays you for the milk, then pours the milk down the drain.

AN AMERICAN CORPORATION:

You have two cows. You sell one, and force the other to produce the milk of four cows. You are surprised when the cow drops dead.

A FRENCH CORPORATION:

You have two cows. You go on strike because you want three cows.

A JAPANESE CORPORATION:

You have two cows. You redesign them so they are one-tenth the size of an ordinary cow and produce twenty times the milk.

A GERMAN CORPORATION:

You have two cows. You reengineer them so they live for 100 years, eat once a month, and milk themselves.

AN ITALIAN CORPORATION:

You have two cows but you don't know where they are. You break for lunch.

A RUSSIAN CORPORATION:

You have two cows. You count them and learn you have five cows. You count them again and learn you have 42 cows. You count them again and learn you have 12 cows. You stop counting cows and open another bottle of vodka.

A MEXICAN CORPORATION:

You think you have two cows, but you don't know what a cow looks like. You take a nap.

A SWISS CORPORATION:

You have 5000 cows, none of which belongs to you. You charge for storing them for others.

A BRAZILIAN CORPORATION:

You have two cows. You enter into a partnership with an American corporation. Soon you have 1000 cows and the American corporation declares bankruptcy.

AN INDIAN CORPORATION:

You have two cows. You worship them.

A NATIVE AMERICAN CORPORATION

You had two cows. The government takes them and your land. Then you think that they gave the cows back to you but can't tell for sure because you are falling down drunk outside your casino.

○インド編が気に入ったな。これはエスニック・ジョークの集大成ですね。


<3月15日>(金)

○このところ日常業務に追われて、今週号の本誌はお休みだし、不規則発言も他人のパクリで日々をしのぐ毎日。でも、面白いネタなら許されるよね。ということで、今宵はすばらしい替え歌をお送りします。転載をご許可いただいたAさんに深謝。曲はもちろん、むかし沢田研二が歌った『TOKIO』です。

ゲキが飛ぶ 唾が飛ぶ
受話器を突きぬけ 大暴れ
法螺を吹き 脅かして
スーパー・ボイスで キレまくる
MUNEO MUNEOは孤独な族議員(笑)
MUNEO MUNEOはすぐに泣く〜

青筋浮かんだ 阿修羅なヤツだと
おまえは言ってたね
従わないと 殺されそうだと
次官クラスが 涙おとした
MUNEO あやしい利権で大暴れ
MUNEO MUNEOの声が飛ぶ

欲しいなら 何もかも
言ってみなさい ワタクシに
金を呼ぶ エトロフに
奇跡をうみだす スパシーボ!

MUNEO 怪しい男が燃えるとき
MUNEO MUNEOが 金を呼ぶ
霧にけむった ククリの街に
怪しい家が建つ
事情を知らない ロシア人が
すごい人だと 素直に盛り上がる
MUNEO 妖しい利権でおハシャギ
MUNEO MUNEOはご満悦

MUNEO MUNEOは孤独な族議員(笑)
MUNEO MUNEOのゲキが飛ぶ
MUNEO 妖しい利権で大暴れ
MUNEO MUNEOはご満悦

○ということで、本日涙の離党宣言を行ったムネオさん。「次の選挙では対立候補を立てない、野党の議員辞職決議を通させない」ことが、離党を呑んだ条件であったなどと、早くも永田町界隈ではささやかれているようです。なにしろムネオがやけになったら、何が飛び出すか分かりませんからな.。しかるに世論がこれで沈静化するとも思えません。加藤紘一氏も週明けに離党だそうですが、国民が振り上げた怒りのこぶしはどこに下ろせばいいのでしょう。


<3月16日>(土)

○たとえどんな大悪人だとしても、大の大人が「反省した」と頭を下げて、涙まで見せているところを、重ねて声高に批判するというのは、わが国の文化からいえば無理筋だと思う。少なくともかんべえは、「水に落ちた犬をたたく」のが性分としてイヤだ。ムネオを叩くのはほかの人に任せておいて、昨日の替え歌のような皮肉、嫌味、揶揄、比喩、諧謔などをもって当たることを旨としたいと思う。涼とされたし。

○さて、世の中はあいかわらず刺激に満ちており、論評したくなることは山ほどあるのだが、このところずっと根気と時間と意欲に欠けている。ということで、今週、「こういう話を書きたいなあ〜」と思ったことを、タイトルだけ以下に記しておく。なるべく夕刊紙の見出しになるようなセンスで書いてみよう。

●米軍のイラク攻撃、最短なら今年5月だが、それまでにブッシュがやらなければならないこと。

●西友買収でも、ウォルマート流経営が日本ではけっして通じないという、これだけの理由。

●米国鉄鋼業だけじゃない、日本企業の前途を阻む「レガシーコスト」の数々。

●昨年秋から送られている中国政府のシグナル、それに気づかない日本外交の不毛。

●加藤紘一と鈴木宗男沈没で、大角連合の末裔を次々に襲う不運と、意気上がる旧福田派の面々。

○念のため。編集者でこれをご覧になっている方、上のネタを誌面で使われるのは結構ですし、著作権料寄こせなんて言いませんけど、そのときは一応、かんべえのコメントも取ってくださいね。


<3月17日>(日)

○近所の桜もほころび始める陽気。今日もうららかな一日。特別のことは何もせずに呑気に過ごす。

○NHK杯争奪将棋トーナメント、決勝戦は佐藤康光対森内俊之の組み合わせ。佐藤の攻めが今一歩届かず、森内の勝ち。思うにこの二人、羽生善治との実力の差はほんの紙一重。これまでのところ、森内だけがタイトル戦での活躍が少ないかったが、そろそろ大ブレイクするかも。さしあたっては丸山名人への挑戦が楽しみ。

○阪神大賞典、昨年度代表馬のジャングルポケットと、昨年のこのレースでレコード勝ちを収めたナリタトップロードの一騎打ち。結果はナリタの貫禄勝ち。この距離なら負けないぞといった感じ。とはいうものの、馬連C―Fが2.0倍というから馬券としてはまるで妙味はない。自宅観戦は正解といえよう。というより、4週連続で中山に行くのはちょっと気が引けるというだけだったのだが。(でも来週はきっと行く)。

○献本到着。『コレあげよっと』(高垣千尋/新宿書房)。毎日新聞の生活家庭欄に連載されたコラムを単行本化したもの。自分で買う気はしなくても、もらったらきっと嬉しい商品を約200種類ならべたギフト・セレクト・ブック。リビング、キッチン、コスメ、文房具など、1000〜2000円台の価格帯が中心なので、かなり実践的。ホワイトデーはもう間に合わないけど、母の日に何か気の効いたものはないかしらん、というときにはきっとお役立ちの一冊。

○著者の「ちーさん」はかんべえが入社から3年間、一緒に社内報の編集者をしていた元同僚。そういえば本書のお勧めアイテム中、「土井画材の製図用ブラシ」(186p)と「強化ガラスの爪やすり」(103p)は、ワタシも頂戴したことがあります。ちーさん、出版おめでとう。お祝いを何か贈りたいのだけど、この本にあるものは駄目ですよね。どうしようかな?


<3月18日>(月)

○少し前のこと、企業向けにリスク管理のコンサルティングをやっている方から、こんな話を聞きました。「企業トップの女性問題を、穏便に解決する方法、教えてやろうか」。そりゃもちろん、聞きますわな。実際、これはとても簡単で奥の深い教えで、覚えといて絶対に損がないノウハウです。それは、「相手の女性が思っている金額の、2倍の手切れ金を最初に提示すること」

○この「2倍」というのが絶妙なところで、1.5倍以下だと「なんだあの社長、ケチなやつ」という話になる。その場は丸く収まっても、将来に遺恨を残すことになる。逆に3倍の値段をオファーすると、相手が不気味になってしまい、まとまるものもまとまらなくなる。その点、2倍だと「オッケー、ダン!」となって後腐れがないのだ、と、このコンサルタント氏は言うのです。もちろん、慰謝料に相場なんてないから、相手の女性がどの程度の金額を「妥当」だと感じているかを見ぬくのが難しい。そこがコンサルタントの腕といえる。

○何が言いたいのかというと、鈴木宗男、加藤紘一両氏の身の振り方について。「離党」というのは、たとえていえば国民が「相場だな」と感じていた慰謝料である。「議員辞職」だったら、これは2倍の慰謝料だ。さらに、「議員辞職の上に、政界から永遠に引退」だったら、これは3倍の慰謝料になるのでかえって不気味である。

○コンサルタント氏の教えを実践するなら、鈴木、加藤両氏は先週時点ですぱっと「議員辞職」、というのが最善手だった。それを「離党」で済ませようとしているのだから、容易には収まらないはずである。仮にこの場は収まったとしても、将来、かならず蒸し返されるときがくる。もっとも、議員辞職をやっちゃうと、アッサリ逮捕されちゃうかもしれないので、バッジにはこだわりたいという理由があるのかもしれない。それにしても、もっと潔さをアピールする手段はあるはずである。たとえば加藤氏が、「事務所を精査したら、報告のないお金がX千万円あった。これを全額、国庫に寄付する」などという手に出れば、同情論も少しは出てくるはずである。

○危機管理の要諦というのは、「やり過ぎるくらいにやる」ということに尽きる。平時とは違う感覚が必要なのだ。慰謝料を値切るなんてのはもってのほか。周囲があっと驚くような行動に出ないと、収まるものも収まらない。もしもワタシが政治家のコンサルタントならば、このように進言するところである。もっとも鈴木、加藤両氏が、それほど惜しい人材とは思いませんが。

○余談ながら、危機管理のお手本になるのが、「9・11」に対する米国の対応である。軍事行動も経済対策も、まことに徹底している。とくに金利の下げ方は鮮やかだった。軍事行動も、おそらくイラクまで行ってしまうのでしょう。アメリカはまだ有事の感覚でものごとを決めている。平時の感覚でものを見ていると、間違えますぞ。


<3月19日>(火)

○今朝、資源ごみを出したら、新聞紙や雑誌類に混ざって、高校の教科書や参考書などの大学受験アイテム一式が出されていた。察するに、ご近所のどこかの家で「サクラサク」があった模様。思えばもう、そういう季節なのですね。

○現物の桜も咲き始めている。「花の名所案内 桜便り http://www.e087.com/sakura/index.html などという、この季節にぴったりなサイトがある。桜の名所といえば、筆者の好みは@国立市大学通りの桜並木、A新宿御苑、それからちょっとマイナーだけど、B柏公園、あたりかな。

○今宵は流れ流れて、赤坂日枝神社にたどり着く。五分咲きの桜の木の下で車座を作っていたら、神社の警備員が「おや、今年の一番乗りですね」。夜になっても、風もなく、暖かい日和で、花見にはまことに絶好の環境。例年より2週間は早い花見シーズンですが、急いだ方がよろしいようですよ。学生さんたちには気の毒ですが、今年の入学式シーズンは葉桜になっているでしょう。

○せっかくの花見ながら、「年を取った」とか「リストラが」などと不景気な話に花が咲く。ふと「散る桜、残る桜も 散る桜」などという歌が口をついて出る。でもまあ、桜の木は来年になれば、また花を咲かせる。それはそれで結構なことなので、最後は「赤坂ラーメン」で締めて一同解散。


<3月20日>(水)

○政治の混乱で特需が発生しているのが週刊誌業界で、とくに水曜日の「文春対新潮」の応酬はこのところ見応えありです。とくにムネオ特集では新潮が一歩リードで、もともと文春派のかんべえが最近は新潮になびいています。今朝は文春が「ヤマタクの夜這い疑惑」、新潮が「辻元清美の秘書給与詐取疑惑」。迷った挙句、今日も新潮を買っちゃった。田中さん、ゴメンね。

○政策秘書という制度、もとは93〜4年ごろから始まったと記憶している。「議員の政策立案能力を高める」というお題目だが、実態はお手盛りの議員秘書増員計画に近く、当初は、「誰でもいいから医者を知らないか?」(博士号取得者は試験なしで政策秘書に登用できる)、「いや、司法書士でもいいらしい」などと、あからさまに名目だけの政策秘書を探す議員が横行していた。もちろんお給料は事務所の経費にしてしまう。そういう過去を知っているものだから、民主党の山本議員が秘書への給与詐取で逮捕されたときには、ちょっと驚いた。でもこれは当たり前のことで、公設秘書といえば身分は国家公務員。官僚並みの節度を求めるのは当然といえる。まして給料を横取りしたら税金ドロボーだ。

○最近は立派な政策秘書を見かけるようになってきた。先日、話を聞いたMさんなどは、実に立派な見識の持ち主かつ勉強家で、今回の自民党の国家戦略会議の提言取りまとめに大活躍だった由。企業エコノミストから政策秘書に転じたUさんも、ボスが迷走する中を日々奮闘していると聞く。そうそう、愛知和男元議員のところにいた櫻田淳さんのような識者もいた。政策秘書という制度は着実に軌道に乗りつつある。

○そういう中で起きたのが今度の辻元議員の疑惑。先輩議員のアルバイトを政策秘書に登録して、給与は全額渡していたといっても、そりゃ信じる人はいませんわね。過去にさかのぼって源泉徴収表を見れば、すぐにバレそうな話だし。ここ数年で政策秘書の質は劇的に向上したが、政治家の質はあまり変わっていないようだ。


<3月21日>(木)

○読者からのメールの数というものは、びっくりするほど多いというわけでもないので、同じ日に同じことを書いたメールが2通来ると、さすがに「おや?」と感じる。そのテーマというのが「中国のGDPはデタラメ」という話。今週のThe Economist誌が、"How cooked are the books?"という記事でピッツバーグ大学のロウスキー教授の論文を紹介している。題して"What's Happening to China's GDP Statistics"。全文は下記をご参照。

http://www.pitt.edu/~tgrawski/papers2001/gdp912f.pdf

○中国のGDP統計は、「まるで景気循環がないかのように見える」(山根君)という不自然さがあるだけでなく、下記のように明らかに妙な点がある、とロウスキー教授は指摘する。

・1997年から2000年にかけて、GDPが24.7%成長したのに、同時期のエネルギー消費が12.8%減少している。
・97年から98年にかけて、中国が20世紀最大級の洪水に見舞われながら、ひとつの郡を除いて農業生産が増加している。
・工業生産が10.75%増加しているが、主要製品の93項目のうち14項目だけが二桁の伸びを示し、53品目は減少している。
・設備投資が13.9%も伸びているのに、鉄鋼生産とセメント生産は5%以下の伸びしか示していない。

○エンロンもびっくりの粉飾決算という感じだが、あんまり驚くほどの話だとは思わない。発展途上国になると、「毎月25日には政府がその月のデータを発表する」みたいな話は枚挙に暇がない。ましてGDPは、いろんなデータを二次加工して作る推計値である。OECD加盟国とそうでない国では、統計の精度はまるっきり違うのだ。さらに言えば、日本の統計というのは一種、愚直なまでの職人芸で支えられていて、人々がそれを無条件に信用している。信じてないのは職業的なエコノミストくらいであろう。

○まして中国である。私なんぞ、「実は人口が15億人でした」と言われても、ちっとも驚かない。だってあの広い国土で、人数を数えるだけでも大変なはずだもの。実際にこの論文の登場によって、中国経済の信用がガタ落ちになる、という話にはならないと思う。日本企業が中国に進出するのは、安い人件費で優秀な人材が雇えて、質のいい製品が廉価で作れるからである。GDPの伸びが本当は何%であろうが、あんまり関係はない。このニュースにいちばん困っているのは、中国の指導者たちじゃないだろうか。


<3月22日>(金)

○ふと思ったのですが、鈴木宗男議員への辞職勧告決議を与党が否決したのは、賢明な判断だったのではないでしょうか。仮に賛成多数で可決されていたら、このあと辻元清美議員に対しても辞職勧告決議を、ということになる。これは100%通る。考えてみたら、与党が数の力を発揮すれば、気に入らない野党議員を、いつでも好きなときに血祭りにあげることができるのだ。与野党でこんな攻撃を応酬するようになったら、議会政治は確実におかしくなってしまう。

○現在の自公保、その前の自自公という連立ができたそもそものきっかけは、98年秋に額賀防衛庁長官が、参議院で問責決議案をくらって辞任してからである。といっても、こんな話、ほとんどの人は覚えていないだろう。筆者も、額賀氏がどういう理由で問責されたのかを思い出せないくらいである。とにかく自民党が参議院で少数派でいると、閣僚が次々と同じ手で野党のイジメに遭う、これでは何もできないじゃないか、と当時の小渕政権は気がついた。そこで野中氏が、「小沢さんにひれ伏してでも」と、必死になって連立工作を始めたわけだ。

○内閣不信任案はさておくとして、辞職勧告だの問責決議だのといった個人攻撃は、よっぽどのことがない限り国会ではやるべきではないと思う。てなことを書くと、「ムネオがやったことは、よっぽどのことではないというのか」という声が聞こえてきそうで、それはそれで議論のあるところだと思うけど、今のところのムネオ疑惑は刑事事件になるほどではない。ムネオハウスに口利き疑惑、あとは官僚をなぐったとかいう話で、「巨悪」というよりは「大型の小悪人」といった感じである。本当はこういう政治家は、選挙で淘汰されるべきなのだ。

○それでも過去の日本政治においては、疑惑まみれの政治家が、選挙で禊を済ませて復活してくることがめずらしくはなかった。「地元にとっては大事な先生だ」と、有権者が「おらが先生」を盛りたてるもんだから、ご本人もなかなか自分が悪いとは思えないらしい。鈴木宗男、加藤紘一、辻元清美といった話題の主に対し、地元がどんな反応をするかが興味深いと思う。

○アメリカでは、深い仲にあった秘書が失踪するというスキャンダルにあったコンディット議員が、秋の選挙を待たずして予備選で落とされてしまったそうだ。やっぱり、そうでなくちゃ。


<3月23日>(土)

○一昨日の強風に続き、昨日からの雨。一斉に咲き始めた関東地方の桜にとっては試練の天候が続く。それでも午後から傘を持って外出。今年2度目の中山初日、日経賞(G2)でマンハッタンカフェが走るんだもん。昨年、菊花賞と有馬記念で2つのG1を取らせてくれた馬の、実物を見に行かなければ。

○今日の中山は小雨で芝良、やや重馬場。雨に煙る中山のパドック、今日のマンハッタンカフェは510キロ。漆黒の馬体はほれぼれするほどに雄渾。なぜか昨年のJRA賞はノンタイトルだったが、最有力馬の1頭であることに疑いはない。今日の日経賞、距離が2500メートルと長いこともあってわずかに8頭立て。マンハッタンカフェは当然の一番人気で、鉄板中の鉄板レース。単賞倍率は実に1.1倍。さすがにこれは買えない。では枠連はと考えると、買える組み合わせは7通りしかない。そこで投資効率に目をつぶって、4通りまで買ってみる。今日はとにかく、当てることに意義がある。

○片手に傘、片手にコーヒーを持って、中山のスタンドに立つ。3時40分にスタート。8頭の馬はほぼ一団のまま、中山の芝コースを1周半。第4コーナーに入る直前、マンハッタンカフェが外側をするすると上がってきた。ここからいつもの末足を爆発させて、格下の相手をぶっちぎってゴールする、はずであった。しかしコーナーを回ったところで大きく外にふくらみ、そのあとがまったく伸びない。あれよあれよという間に、アクティブバイオ、コイントス、タップダンスシチーが固まってゴールイン。マンハッタンカフェは8頭中6位という信じられない結果となった。

○とんだ大番狂わせにスタンドは唖然。ところにより歓声。かんべえも呆然。月並みながら、これだから競馬は分からない。ほかのレースも全部はずして、今年初めてのノー和了。明日の高松宮記念(G1)の前日販売分に手を出す気力もなく、とぼとぼと戦場を離脱。

○武蔵野線で帰る途中、八柱霊園の当たりで雨が止み、あたりの桜を夕日が美しく照らし始めた。そこでああっと気がついた。レースの発走直前、中山競馬場では大きな雷鳴があった。空全体が光るような大きなヤツだった。マンハッタンカフェはあれで動揺しちゃったんだ。それであんなに集中力を欠いたレースになったのだろう。

○問題は春の天皇賞。先の阪神大賞典を勝ったナリタトップロード、2着のジャングルポケットなどが出てきそう。マンハッタンカフェは今日つまづいたので人気薄になるかも。でも、たぶん今日のレースは天候という「理由あり」。ということは・・・またあらためて悩むことにしよう。


<3月24日>(日)

○「スペイン宗教裁判」「バカな歩き方」「アッチラ・ザ・フン」「マネー・プログラム」「ミスター・ムーア」・・・・。これでピンと来てしまったアナタは、たいへんよいご趣味をおもちのようで。私は同好の士。さあ、仲良くしましょう。

○実は拙宅では、配偶者が「Monty Python's Frying Circus」のDVD版7巻揃いセットを買ってきたしまったので、この番組が長時間にわたって家のテレビを占拠しています。ビートルズ、007、ジェフリー・アーチャー、そして最近ではハリー・ポッターまで、戦後の大英帝国は偉大なクリエイティビティを発揮し続けていますが、BBC放送制作によるこの不滅のお笑い番組シリーズも、その中に加えてよいでしょう。

○モンティ・パイソンを見ていると、この中に登場するギャグの半分近くは、弱者嘲笑、人種的偏見の助長、少数派の差別、社会的不公正の是認など、現在ではとても放映できないような問題ぶくみのものばかりです。このシリーズが作られたのは1969年から1974年まで。社会がまだメディアの表現に対して寛容で、テレビの制作現場も誕生して間もない時期の猥雑なパワーを持ち得ていた時代だったのだろう。

○余談ながら、「手塚治虫マンガには差別的表現が多い」と言われる。それで復刻版の全集に注意書きがついたりする。しかし、それは手塚の意識に問題があったからというよりは、当時の社会全体が是認していたからだと思う。米国の公民権運動が盛り上がったのは1960年代から。セクシャルハラスメントの問題でさえ80年代以降、そしてPolitically Correctnessという言葉が定着したのが90年代。作品を見る側の意識が大きく変わってしまったのである。

○最近ではいろんな団体から抗議が来てしまうし、スポンサーが自主規制をするから、モンティ・パイソンのような番組を作ることはもう不可能になってしまった。タモリだって、「いいとも」を始める以前は、この手の毒のある笑いを作っていた。つまらなくなる以前のウッディ・アレンや夢の遊眠社時代の野田秀樹も同様。これらの笑いはとても懐かしい。ひとことでいうと、「計算された笑い」なのである。

○かんべえは「偶然性の笑い」というのがあんまり好きではない。もとが芝居の脚本を書いてたような人なので、どちらかというと漫才よりも落語の方が好きだ。ところが最近のお笑い番組は、タレント同士が台本のない即興のやり取りを繰り返すばかりで、あんまり楽しいとは思わない。お笑い番組がこうなってしまったのは、ひとつには笑いに関する制約が多くなりすぎてしまったからだろう。

○幸いなことに、インターネット空間にこの手の制約は無縁である。というわけで、かんべえはPolitically Incorrectなジョークを堂々と紹介することができる。以下は、エンロンがらみでご紹介した「二頭の雌牛」シリーズの追加分。一部は重なってますけど、その辺はご容赦を。(2月20日、および3月14日分をご参照)。よくしたもので、ウエールズとアイルランドが出てくるあたり、どうもイギリス人が作ったとみえる。

TRADITIONAL CAPITALISM:
You have two cows.
You sell one and buy a bull.
Your herd multiplies, and the economy grows.
You sell them and retire on the income.

ENRON VENTURE CAPITALISM:
You have two cows.
You sell three of them to your publicly listed company, using letters of credit opened by your brother-in-law at the bank, then execute a debt/equity swap with an associated general offer so that you get all four cows back, with a tax exemption for five cows.
The milk rights of the six cows are transferred via an intermediary to a Cayman Island company secretly owned by the majority shareholder who sells the rights to all seven cows back to your listed company.
The annual report says the company owns eight cows, with an option on one more. Sell one cow to buy a new president of the United States, leaving you with nine cows.
No balance sheet provided with the release.
The public buys your bull.

AN AMERICAN CORPORATION
You have two cows.
You sell one, and force the other to produce the milk of four cows.
You are surprised when the cow dropsdead.

A FRENCH CORPORATION
You have two cows. You go on strike because you want three cows.

A JAPANESE CORPORATION
You have two cows. You redesign them so they are one-tenth the size of an ordinary cow and produce twenty times the milk.
You then create clever cow cartoon images called "Cowkimon" and market them World-Wide.

A GERMAN CORPORATION
You have two cows.
You reengineer them so they live for 100 years, eat once a month, and milk themselves.

A BRITISH CORPORATION

You have two cows. Both are mad.

A PORTUGUESE CORPORATION
You have two cows, but you don't know where they are.
You break for lunch.

A RUSSIAN CORPORATION
You have two cows. You count them and learn you have five cows.
You count them again and learn you have 42 cows.
You count them again and learn you have 12 cows.
You stop counting cows and open another bottle of vodka.

A SWISS CORPORATION
You have 5000 cows, none of which belong to you.
You charge others for storing them.

A HINDU CORPORATION
You have two cows. You worship them.

A CHINESE CORPORATION
You have two cows.
You have 300 people milking them.
You claim full employment, high bovine productivity, and arrest the newsman who reported the numbers.

A WELSH CORPORATION
You have two cows.
That one on the left is kinda cute.

IRISH CORPORATION
You have two cows. They argue over:
(i) who was in field first;
(ii) which farm they belong to; and
(iii) who's to blame for Foot and Mouth epidemic of 1963 that wiped out 50 per cent of the cows in Ireland.
They are shot by the IRA for supplying milk to the British army.
You go back to eating potatoes.

OR

You have two cows.
You get pissed one day on the way to the fair and trade them for a bag of magic beans.
You sober up and realise your mistake.
You blame the British.

○最後に宣伝を。明日夜8時45分頃、J−WAVEにまたまた登場します。今年4回目。ゲスト出演者として、ナビゲーターの角谷浩一さんと「偶然性の笑い」を追求する予定。


<3月25日>(月)

○てなことで、今宵の「JAM THE WORLD」のフィフティーン・ミニッツでは、「日本の通貨円を新しい通貨JAMに変えれば、景気は良くなるか?」がテーマでした。通貨の切り替えなりデノミなりを実施すれば、アングラマネーやタンス預金が動き出すだろう、という発想です。『日本の地下経済白書』(門倉貴史/祥伝社)によれば、日本のアングラマネーの規模は23.2兆円。対GDP比で見ればたいしたことはないが、それでもかなりの金額といえる。下手なことをすると、キャピタルフライトを招きかねないけど、日本経済の活性化策としては、十分検討に値するアイデアではないかと思いました。

○終わってから、角谷氏がぶつぶつ言うんです。
「円をJAMに変えちゃう、ってところの面白さをもっと強調して欲しかったなあ。いきなりデノミに話が行っちゃうんだもの」
「あ、そうか、新しいお札は1000ジャム札がキティちゃんで、1万ジャム札はピカチュウとか」
「そうそう、そういうこと考えると楽しくて、いかにも景気が良くなりそうじゃない。――なんでそれを本番で言ってくれないの」
あはは。でもさあ、角ちゃん、それはちょっと無理筋ってものよ。通貨の信用が吹き飛んでしまいまっせ。ま、それはさておいて、アングラ経済の研究は興味の尽きないテーマです。そのうち、本誌で取り上げるかもしれません。

○さて、今日のニュースは辻元清美議員の問題で一色という感じ。歯切れのいい新しいタイプの政治家だけに、とくに女性ファンのショックは深いようです。それにしても田中真紀子外相更迭以後の政局はまことに風雲急を告げています。加藤紘一氏、鈴木宗男氏、辻元清美氏。ふと気がつくと、これらの人物には共通点があります。さて、なんでしょう?

○田中真紀子さんは親譲りの親中派。加藤紘一氏は元外務省チャイナスクールで、かつては「日米中は正三角形」と発言したことがある。鈴木宗男氏はいわばロシア通だが、この人に目をかけていたのは、中国がもっとも重視する政治家であるところの野中広務氏。そして辻元さんには、北朝鮮シンパという背景がある。皆さん揃って、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言に反発しそうな顔ぶれなんですね。これらが軒並み足を引っ張られている。

○もうひとつ付け加えておくと、今年しょっぱなに福岡地裁で公判中の建設会社社長が、「橋本龍太郎元首相の秘書に現金を贈った」という疑惑が出ていた。たまたま橋本元首相が入院中なので、この件は深追いされていないけれども、橋本さんも親中派で知られた人だけに、この偶然の一致はちょっと出来過ぎな感じがする。かんべえは陰謀論を受けつけない人ですが、「CIAの陰謀」と言い出す人がいても不思議ではないでしょうね。

○中国政府は、去年の秋くらいから盛んに日本に対して秋波を送っている。今年は「日中国交回復30周年」ということもあり、要人の訪日も大勢準備されている。ひとつには「9・11」で本気になった米国に対し、心底からの恐怖を感じているのだと思う。ところが今年の日本は、「親中派の日本政治家が軒並み総討ち死に」である。北朝鮮から見ても、この成り行きには不気味なものを感じるだろう。あの強気な国が、「日本人行方不明者を探してみる」と言い出したのも、その辺に理由があるのかもしれませんね。


<3月26日>(火)

○久しぶりにBSジャパン、『ルック@マーケット』からお声がかかって出演。今日の焦点は政治のゆくえ。番組が始まった時点で辻元さんは緊急入院しており、現場では「実は手首を切った」という噂が飛ぶほどの混乱ぶり。番組のメインゲストは歳川隆雄さん。田中真紀子、加藤紘一、鈴木宗男、辻元清美と続く一連のドミノ現象について語っていただく。自分が出演していることを忘れて、しばし聞きほれてしまう。こういうプロと一緒に自分がコメンテーターを務めているのは、われながらいかがなものでありましょうか。

○しみじみ感じたのは、「政治が劇場型になった」ということ。ちょうど1週間前の3月20日、週刊文春が「山崎幹事長の夜這い疑惑」、週刊新潮が「辻元議員の秘書給与詐取疑惑」だった。前者は自民党のナンバーツー、後者は元気のいい野党議員である。鼎の軽重は、といえば、常識的には前者が重いはず。ところが現実は違った。旧来型の政治家よりも、メディアの寵児である女性議員の方が追いまわされた。ヤマタク氏はラッキーした。辻元さんをバッシングする方が、はるかに視聴率が取れたのだろう。

○小泉政権誕生以来、テレポリティクス化は一気に進んだ。劇場型の政治においては、「ソーリ、ソーリ」で一躍有名を馳せる人が出る一方、ひとつ歯車が狂うと落ちるのも早い。辻元さんの有為転変は、メディアの残酷さを示す格好のケースといえるだろう。テレビは容赦なく人間を暴いてゆく。鈴木宗男氏のヒステリックな答弁や、加藤紘一氏の自信なさそうな表情は、見ている者に「ああやっぱり」の印象を与える。かくして、テレビに露出しているだけで人気が落ちていく。そうした中で、メディアを使うことにかけては、小泉首相と真紀子さんの上手さが一頭地を抜いているように見える。

○番組終了後、出演者とスタッフ一同で恒例の反省会。キャスターの内山さんがダメ出しをするのだが、「どうやってモノを見せるか」という基本的な発想が窺い知れて面白い。テレビを作っている人は、こんなことを考えているのか、といつも感心する。

○反省会のあとは、伊藤洋一さんの会合へ。お勧めの鍋の店で、大勢の友人知人が参集。田中裕士さん、岡本呻也さんも来ていて、久々に四酔人カルテットが揃う。田中さんは、来月から文芸春秋の本誌編集部に異動とあって、「一緒に企画を考えてください!」と真剣。文芸春秋といえば、オールドメディアの中でも総本山というか、保守本流というか、責任は重大ですな。岡本さんは3冊目の出版が佳境に入っているとのことで、自宅に閉じこもって作業の日々。人格的にも体格的にも、ますますスケールを増されたご様子。皆さんご活躍だなあ、ということで11時に散会。


<3月27日>(水)

○辻元さんが思いのほか早く辞職したので、再び国民の視線は鈴木宗男、加藤紘一の両氏へ。「疑惑の秘書派遣業者」が議員辞職して、「疑惑の総合商社」が離党で済むというのは、ちょっと虫がいいのではないか、と普通は思いますよね。

○このお二人、離党したことで国会内の座席が移動した。すると無所属のコーナーに待っていたのが中村喜四郎氏。なんだか3人で顔を見合わせるとニコニコしちゃって、いかにも気が合いそう。派閥の領袖〜首相の座も望めるというポジションに居たものの、スキャンダルで足をすくわれて謹慎中の身の上。この3人に名前をつけてあげたいと思って、いろいろ考えてみました。

●MKK(ムネオ、コーイチ、キシロー)
●自民党かえり隊
●ゼネコン口利き三羽烏
●塀の上ブラザーズ
●悪の枢軸

○ところが噂によれば、明日発売予定の週刊新潮と週刊文春がまたまた乗りまくっているらしい。辻元疑惑、ヤマタク疑惑には続きがあるらしいですよ。テレポリティクスの時代とはいうものの、政治のムーブメントを作っているのが活字情報、それも伝統的な週刊誌だというところが面白い。大新聞は何をしてるんでしょうね。


<3月28日>(木)

○本日でアクセス数が25万件を突破。引き続き「1ヶ月2万件」ペースが続いていて、気がついたら岡崎研究所のアクセス数を抜いていた。ご愛読に深謝。

○『転落の歴史に何を見るか――奉天会戦からノモンハン事件へ』(齋藤健/ちくま新書)を読んでいます。齋藤さんは筆者の同世代人で、かれこれ10年のお付き合い。齋藤さんはある時期から、中央公論などで論文を発表するようになった。テーマは「なぜ戦前の日本はあのような道を突き進んだのか」。不幸な歴史を繰り返さないために、是非とも研究が必要なテーマなはずなのだが、あの司馬遼太郎でさえ、材料は集めたものの、ついに書かなかった。こんな重いテーマを、現役官僚が仕事の合間に追いつづけた。

○齋藤さんは、通産省の官房秘書課で人事を担当していた時期がある。おそらくそのときに「日本の組織とは何か」という問題に直面し続けたのだと思う。筆者だって一応は組織人のはしくれゆえ、似たようなことはしょっちゅう感じている。しかし正直なところ、「勘弁してよ」という逃げの気持ちの方が強い。組織を愛する気持ちは年を追うごとに衰えていくし、こんな辛いテーマに正面から向き合うようなガッツはない。このHPをご覧いただければお分かりのように、そのときどきでいろんなテーマを楽しくつまみ食いするのが性にあっている。

○だから、こういう「本気」で書かれた本には心から敬服する。本書の序には、「自らをごまかさない組織人の方々の、わずかな一助にでもなれば幸いである」とある。言葉は謙虚だが、「自らをごまかさない組織人」となることの難しさを思うと、一瞬ドキリとさせられる。その一方で、この本が発するメッセージをしっかりと受け止め、問題意識を発展させる読者はかならずや存在するだろう。その数がどんなに少なくとも、書き手の思いは確実に伝わるはずだ。ただ世に出て、忘れ去られていく本が多い中で、幸福な本のひとつだと思う。

○すでに多数の反響が寄せられているそうだ。齋藤さんが言うには、「民間企業の人から、『ウチもまったく同じですよ』と言われるのがツライ。どうせなら、『あんなのは役所だけのことでしょ』といってもらいたい」。筆者も読者の一人として言っちゃおう。「困ったことに、ウチもまったく同じなんですよ」。


<3月29日>(金)

○ううむ、今週は疲れた。帰りの電車の中で立ったまま熟睡。たまたま目が醒めたところが柏駅。あわてて荷物を引っつかんで降りる。幸いなことに、傘も忘れていなかった。私の人生、こういうことばかり。

○自宅への雨に濡れたアスファルトの道は、散った桜の花が盛大に敷き詰められている。この雨で桜はほぼ終わりですね。今日は年度末。来週はもうちょっと楽になりますように。


<3月30日>(土)

○野球のテレビ中継を冒頭から見る、なんてずいぶん久しぶり。東京ドーム、開幕の巨人X阪神戦。びっくりしました。阪神強いです。開幕戦を勝ったのは11年ぶりだとか。たしかに阪神タイガースは、開幕戦をホームでできない(甲子園はセンバツをやっている)という特殊な球団ですが、そんなに負け続けていたとは驚きました。

○ボール1個分、高目までストライクに取る、という新ルールが鍵を握っていたように感じましたね。高めのタマは打ちやすいのかと思っていましたが、打者にとっては追い込まれたカウントになると、高めに手を出すかどうかが非常に悩ましくなるらしい。その点、今日の井川投手は高めを上手に使ったピッチングでした。だいたいがチェンジアップを得意としているくらいなので、見かけ以上にクレバーな投手なのでしょう。

○それにしても、得点差が少なく、時間も頃合で、最後の収束に至るまで(9回裏、一端はピンチを招くが、鮮やかな守備でダブルプレー)、これ以上ないというくらいのいい試合でした。いやもちろん、これは阪神ファンにとってですが。これでは明日も見てしまいそう。春先くらいは楽しませてもらいましょう。いやいや、星野・阪神、せめて夏くらいまではたのんまっせ。


<3月31日>(日)

○山手線占いや幕末占いなどの同工異曲ですが、こういうのもあるんですね。題して「居酒屋占い」。

http://kodansha.cplaza.ne.jp/uranai/izakaya/murasaki/start.html

○これによるとかんべえの性格はこんな風になります。

のんびり屋。人にどう思われても気にしませんが、一匹狼タイプではありません。盛り上がっている人々の輪のはじっこで、楽しんでいます。

自分のペースで飲みたいタイプ。外で飲むより家で飲むほうが好きで、人を家に招いてオリジナルカクテルを作ったりします。外で飲む場合も座敷の個室を望み、騒がしい場所は好きではありません。

○結構、当たっているような。皆さんはいかがですか?











編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2002年4月へ進む

***2002年2月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki