●かんべえの不規則発言



2004年7月





<7月1日>(木)

○今年も上半期が過ぎました。今日から後半戦。米連銀は0.25%の利上げを決定し、日銀は予想以上に良い短観を発表。やっぱり景気は強い。設備投資は息切れ感が出てきたけれど、これからは個人消費でしょう。

○去年の暮れのJ-WAVEに出演して「2004年の流行は何か」というお題を頂戴したときに、たしか「ITベンチャーが大活躍」てなことを言ったような気がする。ライブドア―の近鉄バファローズ買収提案などは、その典型という感じですね。もっともこれには、「サッカーチームを買収した楽天の向こうを張った」とか、「単なる株価対策」などの見方もあるらしく、額面どおりに受け止めるのは人が良すぎるかもしれません。

○だいたい、ITベンチャーがスポーツ会社を経営するメリットはどこにあるのか。彼らがキャッシュをたくさん持っているのはわかる。が、投資はキャッシュフローを生み出す事業か、あるいは本業に役立つものに対して行うべきで、本業とはほとんど無縁で、年間3〜40億円の赤字になる球団を買うなどという道楽は、少なくとも株主は反対するでしょう。プロ野球経営、とくにチームがパ・リーグの場合は、投資対象としてROAがあまりにも低いのです。

○筆者が聞いているだけでも、某ITベンチャーがファッション関係の会社を買収するなんて話もあったりして、なんだかこの業界、また悪い癖が始まっているのかもしれません。六本木ヒルズなどを見ると、いかにもその手の会社がたくさん入っていて、ちょっと怪しげ。テナントのダイレクトリーを見ているだけでも飽きないものを感じます。こんな賃料の高いオフィスに入ること自体、「ベンチャースピリッツ」を失いつつある証拠じゃないかと、つい意地悪な感情を抱いてしまいます。


<7月2日>(金)

○今週号で書いたような話――アメリカの金利上げとか、日銀短観だとか、出口政策だとか――について語りあうエコノミストの夕べ。これはこれで勉強になったのですが、その後にアルコールが入りだすと、話題は一気にスポーツの方向へ。これが面白かった。巨人ファンで、サッカーファンでもあるK氏(かなり有名な人)とは、長嶋監督への評価やらジーコ・ジャパンの是非などをめぐった濃密な議論の応酬となりました。

○エコノミストというのは、スポーツマンタイプは少なくて、他人がするのを見ながら理屈をこねるタイプが多い。スポーツ評論にも、各人で独特の切り口があったりして、一筋縄ではない。今度はひとつ、最初からスポーツだけを語る夕べをやってみたいものです。

○普通、メディアがエコノミストにスポーツを語らせるという場合は、「阪神タイガース優勝の経済効果」(ワシも何度も経験済み)みたいなテーマになる。でも、単に「タイガースへの愛」を語らせても十分に面白い読み物ができるんじゃないだろうか。たまたま先日読んだのが『「今年も阪神優勝!」の経済学』(高林喜久生/光文社新書)で、これは従来の「阪神と経済」モノの中でも出色の出来栄えである。たとえば、カバーの折り返しについている以下の文言は「なるほど」と唸らせるものがある。

●実は、阪神優勝の経済効果の多くは、阪神グループ以外の掌中に落ちることになる。阪神電車の甲子園駅駅前でそれを端的に見ることができる。そこに威容を誇るのは阪神百貨店ではなく、ダイエー甲子園駅だ。同店はグループ最大規模の売り場面積2万4000平方メートルを誇る。ナイター前のダイエー甲子園駅店の食料品売り場(地下2階)は、「阪神タイガースの歌(六甲おろし)」が流れ、弁当や缶ビールを買う阪神ファンでごった返す。球場に持ち込まれる飲食物の多くが、阪神グループではないダイエー甲子園店で購入されているのだ。

○なるほど、日本シリーズで勝てなかった理由がよく分かりました。


<7月3〜4日>(土〜日)

○ウチの近所で、ちょっとした評判になっているようなので、行ってきました、モラージュ柏。ここのモールは、ワシントンDC近郊の「タイソンズ・コーナーを思い出すような、結構「らしい」ものになっている。本屋が入っていないのがちょっと残念かな。とにかく大変な人出でした。来週は隣接のスーパーも開業するらしい。

○全部で2250台用意したという無料駐車場が、今日はあらかた埋まっておりました。当然のことながら、周辺の道路事情がエライコトになっている。ここはその昔はただの松林だった地区で、道路が舗装されたのも割りに最近になってからである。だから当然あるべきところに信号がなかったりする。今のところは人海戦術で交通整理をしているが、なかなか大変そうである。

○とまあ、あんまり他人事のように言ってはいけない。このショッピングモール、実は当社のお仕事だったりする。ニュース・リリースはここ。最初は佐賀県でやって成功したプロジェクトで、ここは2発目。国道16号線沿線といえば、今日の消費文化においては「内角高目」みたいな場所である。ここで失敗するようなら、後は続かないだろう。

○次女Tと一緒に行って、ゲームセンターのモグラ叩きを1回だけやって(100円)、後は何も買わないで帰ってきました。そのくせ、タダで配っていた缶ジュースを1本もらう。この勝負、ワシらの勝ちだな。帰りの道路が渋滞していたのだけれど、そこは柏市在住15年である。あらゆる抜け道を使い、最後はセブンイレブンでアイスクリームを買って帰ってきた。ワシは消費性向がきわめて低い人間なのだ。


<7月5日>(月)

○来週の参院選に向けて、各社の世論調査が出揃いました。ちょっと結論が似すぎているのがコワイ。もうちょっとバラツキがあった方が自然じゃないかと思うほどだ。

 

産経

読売

朝日

共同

日経

自民

48

48

47

46

45

民主

53

53

51

53

53

公明

10

11

10

10

共産

社民

その他


○世間一般的には、衝撃の予測ということになる。「自民大敗、民主躍進」である。でも、ちょっと待ってくだされい。これを非改選議席と併せると、また景色が変わって見えるのである。上の数値のうち、いちばん極端な日経の数値を使うことにして、「自民45、民主53議席」と仮定する。

 

改選

非改選

合計

自民

45

65

110

公明

10

13

23

民主

53

33

88

共産

社民


○自民と公明を足すと133議席となり、242議席の過半数(121)を楽にクリアしてしまう。逆に民主党は、過半数には遠く及ばない。確かに、こうやって見てみると、「参議院もようやく二大政党制らしくなってきたなあ」という雰囲気は出る。が、畢竟それだけだ。

○ここで大胆に、今後、民主党が共産党と社民党を吸収合併すると考えてみよう。議席は88+9+5=102まで伸びる。ここで公明党が寝返って民主党につくと、102+23=125となって、参議院の多数を握ることができる。今度の参院選の結果は、向こう3年間は変えられないのだから、その程度のことは考えておくべきでしょう。が、ちょっと傲慢。というか、社民党はともかく、共産党を吸収合併するなどということは、健全な常識の持ち主ならば考えない方が無難でありましょう。ということで、自民党は今度の選挙が40議席台でも、まるで安泰なのである。

○正直に言うと、選挙前1週間の世論調査は当たらないことが通説となっており、上記の予測も大いに疑わしい。だいたい、各社とも似たような手法を使って似たような結論に達しているわけで、こういうときは全社が当たっているよりも、全社が間違えていることの方が多いものである。

○とはいえ、こんな風に民主党が躍進することは、わが国の政治体制にとっては良いことだと思います。次の政権選択の機会は衆議院選挙を待たなければなりませんが、その際は参議院でもある程度、優位に立てるようなお膳立てをしておかなければならない。細川政権が、なぜ短期間につぶれたか。参議院の新緑風会が、あまりに少数で無力であったことを忘れてはならない。

○こんな風になってみると、小泉フィーバーの下で戦った2001年参院選の65議席が自民党の命綱になっていることが分かる。この命綱は2007年まで有効だ。そして3年後の参院選は、自民党はツライ戦いを強いられるだろう。逆にいえば、自民党はあと3年、政権の座にしがみつくことができる。この3年間をいかに使うのか。憲法改正、税制改正、あるいは日朝国交正常化や国連の常任理事国入り。そして民主党は、3年後に政権を取るとして何をしたいのか。年金制度改革、あるいは財政再建か。二大政党には、是非そんな問題意識を持ってもらいたいと思います。


<7月6日>(火)

○7月4日はアメリカでは独立記念日で、翌5日は代休となる。そして1週間が実質的に始まる火曜日の今日、ケリー上院議員はみずからの副大統領候補を発表するらしい。CNNの報道は以下のとおり。

http://edition.cnn.com/2004/ALLPOLITICS/07/06/kerry.vp/index.html 

WASHINGTON (CNN) -- Barring a last-minute hitch, presumptive Democratic presidential nominee Sen. John Kerry will announce his choice of a vice presidential running mate Tuesday morning at a rally in downtown Pittsburgh, Democratic sources close to the campaign told CNN.

○ピッツバーグで発表、というのは味がある選択です。ペンシルバニア州は選挙人数21人、2000年にはゴアがブッシュに5%差で勝った場所なので、ケリーとしては絶対に落とせない。だいたいが製造業の州であり、民主党びいきであり、今回は特にテレジア・ハインツ・ケリー夫人の地元でもある。しかるに、この州が「激戦州」10州のひとつになっているのだから分からない。ブッシュとしては、過去にテキサス州の次に足繁く通っている州でもある。つまり絶好の狙い目というわけ。事実、州知事こそは民主党だが、2人の上院議員、19人の下院議員のうちの12人、そして州の上下両院の多数党は共和党である。

○広大なペンシルバニア州の中でも、最大の都市であるフィラデルフィア周辺は民主党が強いのだが、もう一つの大都市であるピッツバーグ周辺が弱い。だからここで目立つイベントを仕掛けて、いっちょ梃入れしようという腹でしょう。これは事実上の「プレ・党大会」である。

Most of the speculation about Kerry's running mate has centered on Sen. John Edwards of North Carolina, Rep. Dick Gephardt of Missouri and Iowa Gov. Tom Vilsack, though a handful of other potential candidates has also been approached by his campaign.

○ショートリストに残っているのは、とりあえずこの3人のようだ。意外性はないが、どれも「悪手」ではない選択肢である。3人の中では、もちろんエドワーズがいちばん良い選択だと思う。それ以外では、フロリダ州のボブ・グラハム前上院議員の目も依然として残っているらしい。もちろん、これ以外に周囲を「あっ!」といわせる発表があるかもしれない。たとえば「ヒラリー・クリントン上院議員!」という発表があれば、これは盛り上がること間違いなしである。

While the Democratic sources cautioned that Kerry might still change his plans and delay the announcement, one source said "the directions are to go forward" Tuesday morning.

This source -- a Democratic official familiar with the planning who spoke on condition of anonymity -- said the plan called for Kerry to call his choice, as well as the other finalists who were not picked, sometime before Tuesday's 9 a.m. ET rally.

○ケリーのことだから、この期に及んで考えを変えて発表を遅らせるかもしれないけど、それでも発表は火曜日の午前9時(東部時間)が濃厚である模様。だったら日本時間ではもうそろそろなので、もうちょっと待ってから書けばいいようなものだけど、待ちきれないのでここに書いてしまう。だいたい、この日までえらく待たされてしまったではないか。副大統領候補に擬せられた人は、下記を見ると34人もいる。

http://edition.cnn.com/ELECTION/2004/special/president/candidates/vp.contenders/ 

○よく言えば思慮深い、悪く言えば"Flip-flop"(言うことがコロコロ変わる)のジョン・ケリーが、考えに考え抜いて決めた結論は何か。もう、これ以上待たせるのだけは勘弁してよね。

(21:28pm)

○おお、やっぱりエドワーズですか。ケリー候補は支持者に対し、電子メールで"In just a few minutes, I will announce that Senator John Edwards will join me as my running-mate on the Democratic ticket as a candidate for vice president of the United States."と伝えた様子。

http://www.msnbc.msn.com/id/5376845/ 

○ケリーさんという人は、考えに考え抜いて、手堅い結論を出す人のようですね。副大統領効果で、しばらくは支持率上昇でしょう。2000年にブッシュが56%の得票で楽勝したノースカロライナ州も、激戦州の一つとして計算し直さなければなりません。ブッシュ陣営がどんな返し技を使ってくるか(当然、あらかじめ考えてあるはず)が見物です。

(21:58pm)

○ケリーのホームページが、もう「ケリー/エドワーズ」の表記に変わっていました。ちゃんとエドワーズの紹介ページも出来ています。

http://www.johnkerry.com/index.html 

○そういえば、今日はブッシュさんの58回目の誕生日でもあるのでした。この先の戦いが楽しみ。お、やっとNHKのニュースがこの件を報道してくれました。

(22:48pm)


<7月7日>(水)

○それにしても暑い。アヅイ。かなわん。思い切りラフな格好で出社したいのだが、今日のように経団連に出かけるなど、浮世の義理でスーツを着なければならぬ日もある。結果として、ますます暑い。

○これだけ暑いせいもあるのだろうが、選挙がそんなに盛り上がっているように思えない。たまたま今日、柏駅と新橋駅の両方で民主党の立会演説を見かけたが、すごい反響があるようではなかった。ビラを受け取る人もそんなに多くない。「投票に行ってください」と訴えかけていたけれど、投票日が今日くらい暑かったら、みんな外には出かけないんじゃなかろうか。

○世論調査の結果は、自宅にいるときに電話がかかってきて、それに答えるだけである。家には冷房が効いていることだろう。投票に出かけて意思表示をする際は、暑い中を出かけなければならない。同じ答えが出るとは思えない。あまり根拠のない予感なんだけど、何だかんだいって自民党は50議席を割らないような気がするぞ。

長島昭久氏が、一昨日の当欄の「檄」に応えてくれている。


畏友・かんべえ殿が自らのHP(http://tameike.net/)で的確に指摘しているように、勝負は3年後の衆参ダブル選挙である。この参院選は、政権交代へ向けたあくまでも通過点に過ぎない。

岡田民主党は、3年後に政権を担う準備を急がねばならない。有権者への訴えも、3年後の政権を視野に入れたものにしなければならない。


○ぜひ、そうであってほしい。民主党の候補者が、「年金とイラクで、小泉批判票いただき」などという志の低いことを考えているのなら、有権者はわざわざ出かけてまで、民主党に投票したりしないだろう。だってこんなに暑いんだもの。


<7月8日>(木)

○みずほインベスターズ証券のお馴染み一尾さんから、昨日の内容に関するコメントを頂戴しました。下記の一説に爆笑。

「学会票は答えないし、民主支持の無党派は投票にいかない」。
したがって、世論調査は外れる。4月の統一補選の反省が見られない。

○世論調査は、昔は家庭訪問で数字を作っていたそうです。今は無作為抽出した番号に電話するだけ。そんな電話に答えてくれる人、というだけでも、相当に偏ったサンプルになることは間違いない。ワシなんか、知らない人からかかってきた電話、すぐに切っちゃうからなあ。

○それはさておいて、今回の参院選、都市部は景気回復のために与党への支持が低下し、地方は景気回復が感じられないから野党への支持が集まる、という構図があるような気がします。民主党が一人区で善戦しているのは、「地方の不安」を味方につけているからでしょう。この点では、小沢一郎氏が経世会仕込みの選挙戦術を伝授している効果もあるのかもしれません。

○米大統領選挙は、「エドワーズ効果」が向こう1ヶ月は有効でしょう。その先はよく分からない。詳しくは明日の本誌で。


<7月9日>(金)

東京財団の講演会で、モントレー国際問題研究所の古川勝久氏の話を聞きました。テーマは「テロリズム、大量破壊兵器拡散問題における今後の重要政策課題」。面白かった。実は私めが今日の司会役でした。

○イラクで大量破壊兵器(WMD)が発見されなかったことで、いちばん驚いているのはクリントン政権時代の民主党系のスタッフかもしれないという。この件に関しては、米国も欧州もみんな揃って間違えた。インテリジェンス(諜報)というものが、いかに当てにならないかという代表例のようなものである。とはいえ、軍事行動が無駄だったかというと、それも一概には言えない。あのブリクス査察官でさえ、「査察でWMDの有無を検証できたか?」と尋ねられて、「できなかっただろう」と答えているという。

○世界各国のインテリジェンスは、こぞってイラクを過大評価していた。フセイン政権は、末期には相当にタガが緩んでいたことが、今になって明らかになっている。かと思えば、イランとリビアは過小評価されていた。白状してくれたお陰で分かったが、核開発の進展ぶりは大方の予想を超えるものだった。その一方で、パキスタンのカーン博士による核密売ネットワークの存在が明らかになったりもした。現在、北朝鮮について語られていることのうち、いったいどの程度が真実なのだろうか?

○WMDの問題の難しいところは、単に「ブツ」を押さえればそれでヨシ、とは限らないことだ。生物・化学兵器などは、民生用とのデュアル・ユースが可能なものが多いので、技術を有する人物がそこにいる限り、「その気になれば、いつでも作れる」という状況がありうる。つまりWMDを使おうという「意図」があり、科学者がいるならば、いつでも脅威はそこにある。WMDの在庫を見つけたからもう安心、とはいえないのである。

○イラクのフセイン体制の場合、問題はWMDがあるかないかではなく、国連に対するコンプライアンスであった。安保理の指示に従わず、核査察を妨害し、みずからの潔白を立証することもしなかった。今になって、「在庫が見つからないから、イラクはシロだった」「イラク戦争は大義なき戦いだった」という理屈はおかしい。

○その一方で、ブッシュ政権が掲げたイラク戦争の理由が、途中から二転三転したことも指摘しておかないとフェアではないだろう。当初はWMDだったが、途中からRegime Changeになり、最後は中東の民主化になった。その辺の胡散臭さが目立つものだから、最近ではWMDについてマトモに語ることが難しくなっているかもしれない。が、依然として世界にとってWMDは、"Clear and Present Danger"なのである。


<7月10日>(土)

○ちょっといい論文がありますので、ご紹介まで。民主党の副大統領候補になったジョン・エドワーズが、「法廷弁護士」出身であるということが、選挙にどんな影響を与えるかというものです。日本国際問題研究所の若手研究者、中山さんの力作です。

●ジョン・エドワーズとアメリカ法廷弁護士協会の事例を中心に (中山俊宏)
http://www.jiia.or.jp/pdf/edwards.pdf 

○法廷弁護士というものは、よく言えば「強大な力から弱者を守る」ものだけど、そのことによって巨額の報酬を得る職業でもある。結果として、「救急車の後を追いかける職業」ということにもなる。これまでのところ、エドワーズはそういう後ろ向きの部分を上手に表面化させずに来たけれど、副大統領候補となると共和党はそこをついてくるぞ、という指摘です。

●2002年9月の『ワシントンポスト』紙に掲載された記事の中で、アメリカ人はまだ法廷弁護士を大統領として迎える用意ができていないとのフランク・ランツの発言が引用されているが、エドワーズ議員が民主党内の指名争いを戦っているかぎりにおいては、他の民主党候補からは彼のバックグラウンドとその支持母体について本格的な批判の声は聞かれなかった。これは他の候補も自分が民主党の大統領候補になった場合、ATLAをはじめとする法廷弁護士の支援と政治献金に依存せざるをえないことを十分に承知していたためだと言える。

●エドワーズ候補は、最終的には3月のスーパーチューズデーでケリー候補に敗退するも、もしエドワーズ議員が、例えば副大統領候補として選挙に再び関わることになる場合、共和党側の批判は法廷弁護士としての彼の経歴とATLAとの結びつきを軸に、批判を展開していくことだろう。


○と思ったら、さっそくブッシュはこんな攻撃を仕掛けている。

He took issue with Edwards' background as a trial lawyer, blaming "frivolous lawsuits" for driving up medical insurance costs and harming small businesses.

"You can't be pro-small business and pro-trial lawyers at the same time. You have to choose. My opponent had made his choice, and put him on the ticket," Bush said.

○まあ、弁護士の悪口を言う分には、咎める人がいるはずもありませんから、とことんやるでしょう。昨日の本誌で、ペンシルバニア州が激戦という話を書きましたら、ブッシュさん、さっそくペンシルバニア州に乗り込んでいる。

●Bush rallies Republicans in Pennsylvania 
http://edition.cnn.com/2004/ALLPOLITICS/07/09/bush.ap/index.html 

○ここでも、こんなことを言ってますね。

While he did not mention Edwards, D-North Carolina, Bush spoke heatedly about "frivolous and junk lawsuits" and said lawyers were "blocking progress on medical liability reform." Edwards became a millionaire as a trial lawyer before his election to the Senate.


<7月11日>(日)

○本誌の7月9日号で書きましたとおり、今回の参議院選挙には4つのバロメーターがあったと思います。それぞれについて簡単な評価を。

@投票率の50%:これはどうやら越えたようですね。良かった、よかった。ところで今回、「期日前投票」というルールを認めたこと、これは考えようによっては、投票日を無意味化してしまうことでもあり、本当にいいのかな、という疑問も少々感じます。

A自民党の50議席:これを書いている時点で46議席(NHKベース)。残り12人分があるので、何だかんだで、近いところまで行きそうですね。自民党がラストスパートをかけたことは、たとえばこのHPなんかでよく表れていたと思います。「選挙結果次第で、小泉さんが辞任する」ことを期待した人もいたでしょうが、辞めるかどうか迷っている人が、今月末の訪韓を決めるはずがないんで、もともと自民党は「そんなに負けるはずがない」と思ってたんじゃないでしょうか。

B民主党の50議席:これを書いている時点で46議席(同上)。これも50議席は越えるでしょうね。7月5日分に書いたとおり、「次の総選挙における政権交代」の準備が整うことになります。この政党、選挙の後でゴタゴタするのが得意なので、その点だけ気をつけてくださいと申し上げておきましょう。

C竹中さんの50万票:これは分かんないので、明日の朝の楽しみに取っておきます。

おまけ:鈴木宗男氏(北海道)、青島幸男氏(東京)、辻元清美氏(大阪)の「カムバック三人衆」は全滅という結果になりました。まあ、支持者の方には申し訳ないですが、これは「有権者が良識を示した」ということで、少なくとも私は慶賀すべきではないかと思う次第です。


<7月12日>(月)

○竹中さんの得票は、意欲的な目標100万票と現実的な目標50万票の、ちょうど中間くらいでありました。竹中さんが小泉さんの足を引っ張るということにはならず、むしろ竹中さんが小泉さんを支えるという形になったようです。

○それにしても、自民党、今回はちょっと苦しい結果でしたね。詳しく調べたわけじゃないですが、たとえば今回の参院選で、自民党が比例代表で4割を越えたのは富山、石川、福井、島根、熊本、鹿児島の6県だけ。民主党は岩手、三重など9道県で4割を越えている。わずか半年前の衆議院選挙では、実に11県で4割を越えていたのであるが。

○いつものこの表を作ってみました。以下は比例代表での各党の得票数。わずか半年前の衆院選と比較していただきたい。

  2004年参院選 2003年衆院選 2001年参院選 2000年衆院選

自民党

16,797,687

20,660,185

21,114,706

16,943,425

民主党

21,137,458

22,095,636

8,990,523

15,067,990

公明党

8,621,265

8,733,444

8,187,827

7,762,032

自由党

-

-

4,227,148

6,580,490

保守党

-

-

1,275,002

247,334

共産党

4,362,574

4,586,172

4,329,211

6,719,016

社民党

2,990,665

3,027,390

3,628,635

5,603,680

その他

2,022,135

-

2,988,440

920,634

合計

55,931,787

59,102,827

54,741,492

59,844,601


○かんべえがいちばん驚いたことは、共産党と社民党への投票数が下げ止まっていることだ。共産党と社民党には、それぞれ440万と300万の「固定客」ができているらしい。これまで凋落の一途をたどってきた左派層だが、もうこれ以上は減りようがないという岩盤のような層だけが残った。おそらく今回、共産、社民に投票した人たちは、半年前にも同じ党に投票した人たちであろう。

○公明党はもとより獲得票数が変わらない党だし、民主党も半年前とほぼ同じ票数を獲得している。実は有権者の投票行動は、固定化しつつあるらしいのだ。そんな中で、自民党の約400万票減が目を引く。これでは勝てません。1600万票といえば、2000年に森内閣当時の票数です。2001年参院選、2003年衆院選では、約500万票の無党派層が「小泉・自民党」に投票したが、今回は動かなかったようだ。

○問題はどこにあったのか。第1に、小泉さん自身の変質があったことは疑いようがない。かつて「自民党をぶっ壊す」と言い、「無党派層は宝の山」と宣言していた小泉さんが、「自民党は改革勢力になった」(んなアホな!)とのたまい、組織に重点をおいた選挙を戦おうとした。「3年間の実績への信任を問う」となってしまったことで、守りに入ってしまった。これが失敗のその1。

○第2の問題点は、「向こう2年間の任期でXXをする」というアジェンダ・セッティングができず、「イラクと年金」というすでに決断済みの事項に対する後ろ向きの選挙になってしまったこと。「XX」の部分には、「郵政民営化」「教育改革」「憲法改正」でも何でもいいのだが、そういう攻めの姿勢に立つことができなかった。かんべえは、この部分の大本命は「税制改革」だと思うが、その理由はまた別の場所で。

○第3に、中途半端な景気回復が自民党にとっての逆風になったこと。都市部では景気回復が「別に自民党でなくてもいい」というムードを生んだし、地方では回復の実感が伴わないことから、三位一体改革、農政、市町村合併といった現実への怒りが自民党に向かった。要するに「都市の不満、地方の不安」のダブルパンチが自民党に向かったという構図があった。

○というのが、とりあえずの分析。自民党の獲得議席は50に1つ欠けるだけでしたが、抱えている問題はかなり根深いという印象です。


<7月13日>(火)

○昨日のが「迷える自民党」編だとしたら、今日は「意気上がる民主党」編といきましょう。

○7月5日の当欄で、「非改選議席の格差」について言及しました。今回の選挙の結果を加えると、以下のようになった。

 

今回結果

(2010年改選)

前回結果

(2007年改選)

合計

自民

49

66

115

公明

11

13

24

民主

50

32

82

共産

社民

無所属
合計 121 121 242


○全体としてみると、民主党は過半数に遠く及ばないわけだが、これが次回の2007年改選時になると、逆に自民党にプレッシャーがかかるはずである。すなわち、「今度も前回のような結果だと、いよいよ民主党が多数になるかもしれない」となるわけだ。3年後には、社民党が民主党に合流している可能性も、けっして低くはないだろう。公明党がぐらつく可能性も無視はできない。となれば、2007年7月に衆参ダブル選挙になれば、これはいよいよ政権交代というムードが高まる。

○民主党が政権を取るとしたら、この3年後がチャンスである。それより前に、急いで政権を取りに行こうとするのはお止めになった方がいい。急ぎたくなるのは、菅さんとか小沢さんとか、「オジン世代」が以前の民主党の中枢を担っていたからで、岡田代表以下の世代にとっては急がない方がいい。たとえば以下は、7月5日付産経新聞に載っていた世論調査結果である。(自民、民主以外の政党は省略した)

□どの政党をもっとも支持しているか

 ・自民党 32.7% ・民主党 18.5%

□経済政策を任せたい政党は

 ・自民党 36.7% ・民主党 23.5%

□福祉政策を任せたい政党は

 ・自民党 19.5% ・民主党 28.0%

□日朝国交正常化交渉を任せたい政党は

 ・自民党 50.4% ・民主党 11.6%

□イラクの復興支援を任せたい政党は

 ・自民党 36.2% ・民主党 17.5%

□憲法問題を任せたい政党は

 ・自民党 27.9% ・民主党 21.2%

□もっともよい政策を掲げている政党は

 ・自民党 26.6% ・民主党 23.5%

□今政権を任せたい政党は

 ・自民党 37.4% ・民主党 28.5%

○有権者の選択は、より深く信用しているのは自民党だけど、今回はお灸を据えたいから取り合えず民主党、だったのである。この点を勘違いしてもらっては困る。民主党に政権担当能力があると思っている国民は、おそらく少数派である。それでも二大政党時代になったんだから、3年かけて頑張ってちょうだいな、期待しているよ、というのが有権者の声だと受け止めるべきでしょう。そして岡田民主党は、今のところその辺をしっかり自覚しているように見える。

○聞けば今週から、鳩山、小沢、横路などの重鎮たちは欧州に外遊されるとのこと。ちょっとしたセンチメンタル・ジャーニーであろうが、はっきりいって、この人たちにはもう用はない。申し訳ないが、今度の選挙だって菅民主党とか、小沢民主党だったら50議席は取れなかっただろう。岡田民主党は、向こう3年かけて、これら「オジン世代」を一丁上がりにしてしまえばいい。そうしてしまえば、いまだに60代以上が幅を利かせている自民党がますます古臭く見えてくるはずだから。

○ひとつだけ心配なことがある。それは、「今年11月、アメリカでブッシュが落選してケリー政権が誕生したら、日本も一気に政権交代の眼が出てくる」という勘違いをする人がいるんじゃないかということ。その確率は、皆が思っているほど高くはないし、そもそもwishful thinkingというものである。小泉さんが自爆する場合にはこの限りではないが、有権者の民主党に対する信頼が、ある日、突然高まるということは考えにくいのだ。

○もうひとつ、気になることがある。岡田代表は、月末に訪米して民主党大会に臨むケリー上院議員と固い握手を交わしたいらしい。それはまあ、結構なことではあるが、その席で何を言うのか。「あなたはブッシュ政権を、私は小泉政権を倒す。共に頑張ろう」ぐらいのことを言われるのは大いに結構でしょう。が、そこで勢いあまって、「だから自衛隊はイラクから撤退させます」と言い出したりしたら、「こいつ、何も分かってねえな」とケリーは天を仰ぐだろう。

○近々、米国の民主党の政策綱領が出る。これは日本の民主党が「マニフェスト」などと称している文章に比べると、もうちょっとマシな、中身の詰まった論考集である。その中のイラク政策は、たぶん「4万人の増派」になるだろうと言われている。そりゃあまあ、米国・民主党の中でも、クニシッチさんみたいな人がいて、「イラクからの米軍即時撤退」を訴えている。が、それは圧倒的な少数派である。ブッシュと本選を戦わなければならないケリーとしては、「国際協調主義におけるテロとの戦い」を標榜する以外にない。つまり日本に対しては、「僕が大統領になっても、引き続きよろしく頼むよ」と言わざるを得ない立場なのだ。

○日本の自衛隊がイラクから撤退したら、ブッシュも困るが、ケリーだって困るのだ。岡田代表はその辺のことが分かっているだろうか。ああ、書いているうちにますます心配になってきた。民主党の心ある方々、くれぐれも代表に恥をかかさないでくださいね。あなた方の政権担当能力を疑われますから。


<7月14日>(水)

○ついでに、今回の参院選の争点であった年金問題についても書いちゃおう。5月2日付けでも書いたことだが、この問題については、いささか騒ぎすぎていると思う。というか、わざわざ自分たちを苦しめるような自虐的な議論をしていると思う。

○年金問題を「給付と負担」の問題に限定すると、当たり前の話だが誰も得しない。なおかつ世代間の不公平に腹が立ってくる。そのうち、年金を無駄に使っている役人がいるとか、未納の議員がいるという細かい話にも怒りが膨らんでくる。が、グリーンピアの整理や議員年金の廃止などをしたところで、大きな問題は解決しない。さらに少子高齢化という問題がある。第二次ベビーブーマー世代の典型である松井秀喜や藤原紀香が独身を続けている現状を考えれば、これは簡単には解決しないはずである。

○でもね。もしも、ですよ。日本経済が名目&実質で3%程度の安定成長軌道にあって、インフレもなくて、金利が3%くらいあったらどうだろうか。おそらく老後の年金を心配する人はほとんどなくなるだろう。年金問題が人々の心を暗くするのは、低成長でゼロ金利という現状があるからだ。逆に消費税増税などの手段で「給付と負担」の問題を解決したとしても、将来、ハイパーインフレが起きれば高齢者の生活は崩壊するはずである。年金問題の最大の解決策は、日本経済が健全さを取り戻すことにあるのではないか。

○その辺のことを捨象して、「給付と負担」の議論だけをするから、誰もが不機嫌になる。世代間の不公平にしたって、高齢者の金融資産はかならず相続という形で若年層に移転するのであるから、あんまり文句を言うと罰が当たるというものだ。(不幸にして親が早くに亡くなられた方々に対しては、この議論は通用しない。あくまでもマクロで見るとそうなるよ、という話である)

○喩えて言えば、「どうせこのままじゃ先が見えてるから、2リーグ制を1リーグにしましょう」という議論をしているようなものだ。2リーグ制をいかに繁栄させるかとか、アジアリーグを作りましょうとか、野球全体を発展させるような前向きの話をしないで、縮小均衡を前提にしているから、「誰が得して、誰が損する」という息苦しい議論に終始してしまう。若者が老後の年金を心配するような世の中では、ますます低成長と低金利に拍車がかかるだろう。

○政治とは本来が夢を持たせることではないのか。国民が「俺はいくらもらえるんだ」という視野狭窄に陥っているときに、政治が「負担を増やします、給付も減らします」と言い出したのが、今回の年金に関する議論である。「日本経済の長期設計の中で、年金問題を考える」という当たり前のことをしていない。「年金制度の維持のために移民を増やしましょう」とか、「現代版の生めよ、増やせよをするしかない」などという不健康な議論はもってのほかだと思う。

○年金制度を救済するためには、何より日本経済を健全化することだ。例えば不良債権問題を解決して、ベンチャービジネスを増やして、株価を上げて、ゼロ金利から脱出する、といったことである。与党が「この程度で我慢してください」と言い、野党が「そんなんじゃ駄目だ」と非難し、国民が「もうやってられない」という気分になった参院選の年金論議。どうも最初から全部間違っていたような気がしてしょうがないのだが。


<7月15日>(木)

○アメリカ大統領選挙の「激戦州」「Swing States」はたまた「パープル・ステーツ」と言ってもいいんだろうけれど、フロリダとかオハイオとか、とにかく勝敗の鍵を握りそうな州の情勢が気になります。こんな分かりやすいページがあったのね。

http://online.wsj.com/public/resources/documents/info-battleground04-frameset.html 

○目下のところ、ケリー/エドワーズ組がリード。副大統領指名の効果が顕れているようだ。

John Kerry improved his standings in the latest Zogby Interactive poll of likely voters in 16 battleground states, apparently helped by his selection of his onetime rival, John Edwards of North Carolina, as running mate. Of the 16 states, Mr. Kerry now leads in 12, up from the nine states he held three weeks ago. Mr. Bush holds three states, down from seven, and the candidates are tied in one state, Tennessee. The poll, conducted July 6-10, started the same day Mr. Kerry announced his choice for his No. 2.

The candidates' leads in 10 of the 16 states are within the polls' margins of error, which vary between +/- 2.7 and +/- 4.9 percentage points. All three of Mr. Bush's leads are well within the margin of error, while Mr. Kerry's lead is in the clear in half of the states he holds, including the key battlegrounds of Pennsylvania and Florida -- though that state was in Mr. Bush's column in the previous poll. For analysis of how this could play out in the Electoral College, go to this page: http://online.wsj.com/public/resources/documents/info-battleground04-an0712.html

The latest poll returns Mr. Kerry to the nationwide edge he lost in this poll three weeks ago. Presuming that all the states go to the current leading candidates and that the other 34 states go as they did in the 2000 election, Mr. Kerry would get 322 electoral votes and Mr. Bush would get 205. This tally excludes Tennessee's 11 electoral votes.

Mr. Kerry's biggest boost in recent weeks came from his July 6 announcement of Sen. Edwards as his running mate. The first-term senator, has been criticized by Republicans for his lack of experience, but others say his easy charisma could fill a gap in the Kerry campaign. A weak jobs report just before the holiday weekend might also have stolen some of the president's thunder. (The poll was conducted before the release of the Senate intelligence report on Friday.)


○まあ、サンプル数や調査方法は完璧には程遠いようですが、とにかく戦いは続く。こちらは別の資料から。

SOLID KERRY (172): CA, CT, DC, DE, HI, IL, MA, ME, MD, NJ, NY, RI, VT.
LEANS KERRY (78): IA, MI, MN, NM, OR, PA, WA.
TOTAL KERRY: 250.

SOLID BUSH (176): AL, AK, AZ, GA, ID, IN, KS, KY, LA, MS, MT, ND, NE, OK, SC, SD, TN, TX, UT, VA, WY.
LEANS BUSH (46): AR, CO, MO, NC, NV.
TOTAL BUSH: 222.

TOO CLOSE TO CALL (66): FL, NH, OH, WV, WI.

○ごくわずかな州が勝敗の行方を握っている。


<7月16日>(金)

○昔お世話になった方を囲み、汐留に新しくできたパークホテルで夕食。ここはスグレモノですね。唯一の弱点は、回転ドアが使えないために、ゆりかもめから直接に3階に入れなくなっていることくらいか。

○思えばお台場生活も3年4ヶ月。これが来週末になると、当社は赤坂の新国際ビル(東館)に移転することになります。勝手知ったる場所に戻るので、懐かしくもあるが、それほどの感動もない。「溜池通信が赤坂に帰ってくる」とはいろんな人にいわれているところですが。

○考えてみれば、お台場では観覧車にも乗ったことはなく、大江戸温泉にも行っていない。アクアシティで映画1本見たこともない。意外とそんなもんですが、そうなるとお台場や汐留に行く機会も激減するでしょう。とりあえず、あと1週間でお台場にお別れです。


<7月17〜18日>(土〜日)

○このところ音沙汰のない(というか、競馬がオフシーズンでG1レースがないだけなんですけど)上海馬券王先生から、めずらしくも人生相談が寄せられました。本日は競馬ではなく、中日ドラゴンズファンとしてのお悩みをお寄せいただきました。


Q:プロ野球の経済効果って?

かんべえ先生こんにちは。私は、新橋の会社に通うサラリーマンです。会社内での私の評価は「救いようのない競馬ジャンキー」というのが一般的なものですが、これは、誤ったパブリックイメージというもので、実は結構多趣味であったりします。プロ野球なんかもTV観戦歴30年以上を誇り、実は競馬同様詳しかったりします。

なに?そんなに好きなら競馬じゃなくてそっちのほうを表に出せば、会社の中でも暮らしやすかろうに。ですって?

それがそうはできない事情というものがあるのです。なぜなら私は中日ファンなのです。私の会社は巨人ファンの巣窟みたいな会社で、その中で中日ファンを名乗るのは、アメリカでアル・カイーダを、会津で長州を名乗るのと同じくらい危険な行為なのです。とりわけ私の上司は関西人の癖に、激烈な巨人ファンであり、巨人の負けた翌日は機嫌が悪いことこの上ない。あれだけの補強をしたから負けるはずないんですが、これがよく負けるんだ、ほんとに。あまつさえ、負かした相手が中日だったりしたら。。。ああ、考えるだけでも恐ろしい。

かくして、私の中日ファンとしての生活は限りなく淫靡な物となっております。負けた翌日は極力平静を取り繕い、勝った翌日は出社前に新聞をニタニタしながら熟読し、会社ではやはり極力平静を取り繕うという日常。とにかく「勝った翌日は勝利の喜びを出社前にニタニタしながら新聞を読んで発散させる」というのがミソであり、日陰者中日ファンとしての行動指針であるわけなのです。今年は、いかなる悪魔の計らいか、中日は絶好調で現在首位。首位というからには他の球団よりは勝ち星が多いわけで、私が朝ニヤニヤしながら新聞を読む回数も他のファンよりは多いわけで、屈折した日陰者のファンとしてこれにすぐる淫靡な楽しみは他にありません。というか、ないはずでした。

ところが!!

最近は中日が勝っても全然新聞記事にならないのです。勝ってないから記事にならないというのならわかりますが、現在、中日は首位だというのに、全然記事にならないのです!昔ならいざしらず、最近の日経はスポーツ欄も拡充し、プロ野球だけでほぼ一ページ丸ごと割いているのに、出てくる記事は近鉄の合併話と、巨人が負けた記事だけということはどういうことでしょうか

特に合併話は毎日プロ野球記事の半分以上を占めており、これに社会面、経済面を合わせるとまさに破格と言うべき規模の報道が行われています。この報道の扱いは、ひょっとすると東京三菱・UFJの合併報道よりも大きいのではありますまいか。近鉄の年間赤字は30億から40億。これは確かに大きな金額ですが、この不況の世の中で数百億、数千億単位の赤字企業は吐いて捨てるほどあるではないですか。ましてや、UFJの不良債権は数兆円あるのです。数兆円の案件より30億の案件を重視するかのごとき報道を日本のナンバーワンの経済紙がするのは何故なのだ!

結構気になって日本のプロ野球の経済規模を色々調べてみたのですが、上場企業というのが皆無で、皆親会社の連結財務の内数という扱いになっており、その実態はわかりませんでした。(仮に単独の決算書が開示されても、親会社から「広告宣伝費」等の名目による内部取引はあるし、キャラクターグッズ販売や球場運営を包括するか別会社でやってるかは球団によってまちまちなので、その実力を推し量るのは難しいのではないかと思われます。)

ただ、(決算の領域がどこまで包括するか不明ですが)、優勝した去年の阪神球団ですら年間売上は180億(経常利益10億)程度ですので、近鉄・オリックスの売上はあわせてもその半分も行かないことが推測され、これはやはり、スモールビジネスと言わずばならないと考えます。このような小規模産業の行く末を日本中が一喜一憂して見つめていると言うのも、ずいぶんおかしな話ではないでしょうか。

いや、ひょっとしたら、プロ野球の経済効果は実体では大きいのかもしれない。考えてみれば酒の席で、血液型と野球の話をしてればその場がもっちゃうわけだし、日本人、少なくとも日本のサラリーマンにおいてプロ野球が占める部分と言うのは決算値以上に大きいのではないか。こういった赤字は実は多くのファンが(私を含め)金も払わずに野球を楽しんでいるのが原因で、問題は選手の年俸ではなくファンのほうに存在するのではないか。

かんべえ先生。プロ野球の正味の現在価値とは一体いくら位なのでしょう。これがUFJの不良債権よりは大きいものであると言うことを、私に証明し、安心させてほしいのです。そうでないと、好きなチームが勝っても報道されない私は夜も眠れないのです。もはや「タイガースの経済効果」で盛り上がっている場合ではありませんぞ。


A:まあ、いろいろありまんがな。

かんべえは上海馬券王先生と付き合いが古いので、昔からよく存じております。馬券王先生はSF、オーディオ、ゲーム、アニメなどオタク系基礎知識全般から、果ては経済学や会計学に至るまで幅広い知識の持ち主であります。そしてまた、熱狂的な中日ドラゴンズファン(なかんずく星野ファン)なのです。その中日は、今宵はわがタイガースに哀れ敗れたとはいえ、抜かりなくダントツの首位であります。そのことに対するメディアの扱いの余りの軽さ、その一方で近鉄とオリックスの合併があまりに大きいことをお嘆きのご様子です。

この問題は3つに分けて論ずるべきでしょう。すなわち、(1)どうしてみんな、中日に対して冷たいの? (2)近鉄とオリックスの合併は、そんなに大騒ぎするようなことなの? (3)プロ野球と日本経済、いったいどちらが大事なの? ――以下、順に私見を述べてみたいと思います。

(1)中日の首位に対する扱いは、98年の横浜や2001年のヤクルトに比べても確かに小さいような気がします。そういえば99年の中日優勝も、扱いは小さかったように思えます。これは中部圏というローカル性に問題点があるように思われます。

先日、愛知博の担当の方に、「なんで愛知博はこんなにニュースにならないんですか?」と聞きましたところ、「実は中部圏では、毎日のようにニュースになっているんです。でも、首都圏では取り上げてもらえないんです」という返事が返ってきました。たとえば中日新聞には連日、博覧会関係の記事が載るのに、その首都圏版というべき東京新聞には掲載されないんだそうです。

ぶっちゃけた話、メディアは首都圏に一極集中していて、最近は関西圏でさえ支局をリストラする動きが始まっています。いわんや中部圏においてをや。スポーツに対するカバレージも、在京球団+独自の熱狂的ファンを持つ阪神はちゃんと取り上げますが、そこから外れてしまう中日と広島に対する扱いは、極端に小さくなってしまうようです。

もっとも、それが一概に悪い話とばかりはいえません。中部圏といえば、トヨタグループの快進撃もあいまって、昨今の日本経済においてはほとんど一人勝ちの様相を呈しています。名古屋市も日本でいちばん景気がいいわけですが、旧態依然のメディアは、あいもかわらず「エビフリャー」や「ミソカッツー」などの紋切り型報道に終始しています。お陰で中日の快進撃も目立たないわけですが、「調子がいいのに、外からの妬みや嫉みを受けない」のは名古屋人気質から考えれば、悪くないことだと思います。ほら、「仕事は大勢で。美味しいものは少人数で」というではありませんか。

(2)次に近鉄ですが、これが単なる身売り話であれば、どうってことのないニュースだと思います。これが1リーグ制への移行を目論んでいて、どうやら水面下でナベツネと宮内オーナーと堤オーナーが握っているらしいという点が、どうにも見逃せないのです。そして2リーグから1リーグへの移行は、かれこれ40年以上続いたシステムの変更を意味しているのです。

はっきり言って、プロ野球ファンは、40歳以降の「オジン」ばかりです。年寄りは保守的ですから、昔ながらの2リーグ制のままでいてほしいのです。スポーツ紙は、必然的にこれら「オヤジ」の意向を反映します。(近頃は若い女性の阪神ファンが増えているようですが、彼女たちがスポーツ新聞を買うとは思えません)。というわけで、スポーツ関連のメディアは(日経新聞も含めて)、1リーグへの移行を認めたくなくてしょうがない。しかも、この問題の悪役はナベツネ以下、悪党タイプのオーナー連中であるという点が、ネタ的にもおいしいわけです。

さらに言いますと、トップ(オーナー)は縮小均衡を目指し、末端(ファン)はそれを望んでいないという構図が、日本経済と重なって見えるというのも、この問題の面白いところです。会社のリストラだって、「トップはケシカラン」と「しょうがねえなあ」と「もっと出来た筈なのに」という声が複雑にからまり合うのはご高承の通りです。まあ、これを語りだすと不肖かんべえも、いささか忸怩たるところがあったりするわけでございます。

(3)馬券王先生は、UFJ銀行と近鉄バファローズを秤にかけておられます。たしかに経済的価値においては、前者が大きいわけですが、社会的な認知度を比べると、おそらく後者がはるかに大きいわけです。

だいたいが今も田舎では「UFJ」が覚えられず、「赤い看板の銀行」と呼び慣わしている高齢者が多いと聞きます。そしてまた「2ちゃん」的には「XXXふんじゃった銀行」などとも呼ばれているわけで、おそらく合併後の新社名が決まると同時に、あの銀行の名前はすみやかに忘れ去られてしまうでありましょう。経済実体の大きさとは別に、銀行の社会的実体は小さいのです。

逆に近鉄バファローズを知らない日本人はいないわけでして、「不運の西本監督」やら「懐かしの鈴木啓司」やら「野茂が昔いた球団」、「態度のデカイ中村紀」など、いろんな思い出がいっぱい詰まっているのです。こうなると経済効果なんて小さな問題でして、社会的効果の方が大きく見えるのは致し方ないことではないかと。

○とまあ、人生相談というよりも、単なる理屈のこねあいみたいになりました。これでは馬券王先生を慰めることはできません。それでも、これからもプロ野球の1勝1敗に泣き笑いできるような世の中であってほしいものでございますなあ。


<7月19日>(月)

○この三連休、かんべえが住んでいる町内会では恒例の夏祭りでした。柏市のわが町内は、小ぶりな一戸建てばかりが並ぶ古い住宅街で、開発が行われたのは70年代から80年代にかけて。近頃では第一世代の高齢化が進み、町内の子供の数は年々少なくなっている。ウチのように、90年代に引っ越してきて、なおかつ子供が2人いるという世帯は希少価値である。

○なにせ子供の数が少ないと、神輿の担ぎ手も少ないわけで、今年は山車に神輿を乗っけて引き回すことになった。芸達者な人たちも寄る年波で体調が悪かったりして、お囃子は生演奏ではなく録音になり、名物のひょっとこ踊りもなし。年に1度のイベントで少しずつ縮小均衡が進んでいるのは、ちょいと物悲しい光景である。それでもこんな手作りの夏祭りが残っているのは慶賀すべきことで、なにより夏祭りになると、町内の人がちゃんと「金一封」を持って集まってきてくれる。この美風がある限り、何とか続けていけるのではないかと思う。

○柏市は人口急増地域で、全国平均で見れば思い切り子供の数の多いところである。来週は柏祭りという、歴史は浅いけど結構派手な祭りがあり、週末になると文字通り駅前が若者で埋め尽くされる。だいたいが商店街の品揃えは若者指向だし、建設中のマンションは2つや3つでは済まず、依然として他地域からの人口流入が続いている活気のある街である。そんな柏市内にも、うちの町内のように高齢化している地域もあるというわけだ。

○もっともこの町内、最近は第一世代が年金生活に入るに従い、二世代住宅に改築する家が増えている。そうなると、いずれ子供が増えるのが道理というものであり、案外とそのうちに小規模な「ベビーブーム」が起きて、人口分布が平均化するかもしれない。逆にマンションの場合は、第一世代が高齢化してしまうと、本当に老夫婦ばかりになって後が大変である。新松戸辺りのマンション街がその典型で、クルマで運転するのが怖いくらいに高齢者が多くなっている。

○日本全体の高齢化現象を考えてみると、おそらく地方よりも都市の方が事態は深刻なことになるのだろう。地方というのは、ウチの町内みたいなもので、早めに高齢化が進むけれども、縮小均衡によって人口動態は安定化する。逆に都市はマンションみたいなもので、特定世代の高齢化が進むと一気に荒廃が進む。端的に言って、日本社会においては団塊世代の高齢化がいちばんの問題なので、団塊世代が多く住んでいる首都圏の郊外がもっとも深刻な事態を迎えるだろう。

○おそらく高齢化時代は、都市よりも地方の方が住みやすい。今はまだ、ここに気づいている人は少ないように思う。


<7月20日>(火)

○先週、次女が伊豆に行って、お土産にクワガタムシをもらってきた。虫かごに入れて、そこなら涼しかろうと、玄関の下駄箱の上に置いてある。ところがこのクワガタ、あんまり元気がないのである。餌には梨を切って与えてある。(金融記者のKさま、まことに申し訳ないことに、頂戴した梨の一部はこういうことに使われております)。が、あんまり熱心に食べている様子もない。

○昨晩になってやっと気がついた。クワガタの奴、電気を消したら急に元気になったのである。そうだよな、クワガタやカブトムシは夜行性だもの。玄関に置いておくと、昼も夜も明るいものだから、困っていたらしい。暗くなると現金なもので、虫かごの中をカサコソと駆け回っている。その音がなんだからゴキブリのように聞こえないこともない。

○そんなわけで、今宵、東京財団の安保研究会で深夜に帰宅したところ、家の玄関の電気はちゃんと消えていて、クワガタは元気な様子であった。いつまで続くやら。猛暑の夏、皆さまもくれぐれもご自愛ください。


<7月21日>(水)

○こう暑いと頭が溶けますな。どんどん忘れてしまいそうなので、ちょっと面白かった話を備忘録まで。

○昨日の日本国際フォーラム会合で。安全保障政策のベテランと若手のやり取りから。

ベテラン「日本人の自衛隊に対する意識は本当に変わった。往時を考えると隔世の感がある。楽観的といわれるかもしれないが、これは大きな進歩だと思う」

若手「おっしゃる通り、今の国民は自衛隊を評価しています。しかし軍事力と平和の関係については、いまだに古いアレルギーが残っていて、軍事力を持つことがイコール平和の妨げだと思っている。自衛隊がイラクで国際貢献をするのはいいけど、それが多国籍軍になり、“軍”の一部だと考えた途端に嫌になってしまう。軍事力は平和を守るためにある、という意識にはほど遠いのではないでしょうか」

○満場一致で決まった安保理決議があり、それに沿った多国籍軍に日本が参加する。国連中心主義からいえば、文句のつけようのない話である。が、「軍は嫌だから駄目」というのであれば、そんな理屈は通じない。先の参院選における反小泉ムードの盛り上がりというのは、意外とこういった「気分」がモノを言っているのかもしれない。

○先の参院選では、新聞・雑誌などのメディアが民主党寄りの報道をしていた。では、それが響いたのか、というと、実はそうでもないらしい。某政治アナリストいわく、「少なくとも地方の人は雑誌なんて読んでない」。むしろワイドショーで「おすぎとピーコ」あたりが、「年金問題って駄目よねえ」と言っていたのが大きな影響力を持ったという。いかにもありそうな話である。

○こういうと、日本国民はまるっきり政治に対して理性的な判断をしていないようである。おそらくそうなのだろう。小泉政権の支持率低下も、単なる気分の問題だと見た方が、実態に近いような気がする。インテリの人に限って、「北朝鮮への対応を誤ったのが支持率低下の原因」と言ったりするが、おそらくそれは当たっていない。そんなにレベルは高くない。

○小泉首相、訪韓しておりますが、会談場所が済州島というのは、ここで「冬のソナタ」のヨンさまと会うのが目的だという説がある。これぞワイドショー政治の極致のようなものですが、これがホントだとすると小泉さん(あるいは飯島秘書官)は、「国民のレベル」を非常に的確に把握しているということになる。


<7月22日>(木)

○お台場の日々も残るところ2日。といって、今さら「食べ納め」したいような店もないのである。そして夏のお台場は、観光客ばかりが目立つ。お隣のフジテレビなどはまことに盛況である。

○お台場で過ごした日々は、移動にはとっても不便でした。たとえば今週火曜日などは、お昼に全日空ホテル(赤坂)、夜に東京財団(虎ノ門)に出かけ、そのたびに「ゆりかもめ」に乗っていた。無駄といえば、たしかに無駄だった。その分、良かったことというと、とにかく長時間海を見られたのが取り柄だったような気がします。馬鹿らしく思えるかもしれませんが、海を見ている状態というのは、人間の精神にとって何がしかのプラスがあるものだと思います。

○日本は海の国。そんなわけで「海の日」などという祝日ができたわけですが、これほど存在感のない祝日はないでしょう。「海の国」を意識してもらうために作った祝日なんですけどね。われわれの国土はいつも海に囲まれている。そのことを忘れたくないものです。

●新しいオフィスはココ。来週以降、かんべえがいるのは東館の3階です。よろしく。

http://www.sojitz.com/corp/profile.html 


<7月23日>(金)

○会社が世間を騒がせております。株主の方から激励のメールを頂戴したりしますと、力不足を痛感いたします。かと思えば、「かんべえ殿も、黒田官兵衛と同じで主家が頼りないですなあ」というコメントに、脱力感と共に不思議と心和むものを感じたりもする。こんな日ではありますが、することといえば引越しの準備くらいなんだなあ。

「9/11委員会」の最終報告が出ました。サマリーを読んだだけですが、非常に誠実に書かれた「総括」であるという印象を受けました。テロを防げなかった理由の筆頭に上げられているのは「想像力の欠如」である。これはもう、ほかに言いようがないですね。委員会は共和党5人、民主党5人からなる超党派のメンバーで、「9/11」を防げなかったことへの反省を淡々と綴っている。失敗はブッシュ政権とクリントン政権の両方にまたがっており、事前に予測されたように、来週の民主党大会に有利な材料を提供するという感じではないようだ。

○最終報告の提言については、政府機構の改革に重点が置かれていて、これはあんまり良いアイデアではないような気がする。情報機関を統合するというのはもっともなアイデアに思えるが、実際には屋上屋を重ねることになるのじゃないだろうか。国土保安省が、かならずしも効率的な組織になっていない現状を考えても、いたずらに組織を肥大化させるのは良くないような気がする。といって、代案も思いつかないのですが。

○ワシントンのロビイスト、ジョン君が来日中である。昔のワシントン仲間で待ち構えていたところ、午後8時半に到着。そしてこちらは昨日まで欧州を外遊中だった大谷信盛氏は午後10時半になって到着。12時になってジョン君のホテルになだれ込み、午前2時までかけて部屋のミニバーを空にする。あー楽しかった。

○ブッシュかケリーか、という話も出たけれど、こんなのはいかがでしょうか。党派色の強まる中で、ユーモアの存在は貴重です。

http://atomfilms.shockwave.com/af/content/this_land_af 



<7月24〜25日>(土〜日)

○今週は柏祭りである。なんとまあ、人の多いこと。昔は人が集まるのも駅の東口と西口くらいだったのですが、今年はもう裏通りまでもが人でごった返しております。例年、雨に祟られることの多いこの祭りも、今年はピーカン状態。あんまり暑いから、長時間見ていると疲れます。

○さて、明日からはボストンで米民主党全国大会が開かれます。公式サイトはここ。

http://www.dems2004.org/ 

○4日間の主なスピーカーをご紹介しておきましょう。(こういうの作っておくと、後で便利なんだよな)

Prime Time Speaker Schedule
additional guest speakers to be announced soon

Monday, July 26
The Kerry-Edwards Plan for America's Future

David Alston, Vietnam Swift Boat Crewmate of John Kerry
Tammy Baldwin, U.S. Representative from Wisconsin
Jimmy Carter, Former President of the United States
Bill Clinton, Former President of the United States
Hillary Clinton, U.S. Senator from New York
Al Gore, Former Vice-President of the United States
Steny Hoyer, U.S. Representative from Maryland, Democratic Whip
Terry McAuliffe, Chairman of the Democratic Party
Kendrick Meek, U.S. Representative from Florida
Robert Menendez, U.S. Representative from New Jersey
Thomas Menino, Mayor of Boston
Barbara Mikulski, U.S. Senator from Maryland
(joined by all Women Senators)
Stephanie Tubbs Jones, U.S. Representative from Ohio
Jim Turner, U.S. Representative from Texas

Tuesday, July 27
A Lifetime of Strength & Service

Tom Daschle, U.S. Senator from South Dakota, Democratic Leader
Howard Dean, Former Governor of Vermont, 2004 Presidential Candidate
Richard Durbin, U.S. Senator from Illinois
James Forbes, Senior Minister at Riverside Church, New York City
Richard Gephardt, U.S. Representative from Missouri, 2004 Presidential Candidate
Chris Heinz, Stepson of John Kerry
Teresa Heinz Kerry, Wife of John Kerry
Mike Honda, U.S. Representative from California
Ted Kennedy, U.S. Senator from Massachusetts
Jim Langevin, U.S. Representative from Rhode Island
Carol Moseley-Braun, Former U.S. Senator from Illinois, 2004 Presidential Candidate
Janet Napolitano, Governor of Arizona
Barack Obama, State Senator from Illinois, U.S. Senate Candidate
Ron Reagan, Son of former President Ronald Reagan
Christie Vilsack, First Lady of Iowa
Ilana Wexler, 13-Year-Old Founder of Kids for Kerry

Wednesday, July 28
A Stronger More Secure America

Steve Brozak, Ret. Lt. Col., USMC, Candidate for U.S. Representative from New Jersey
Elijah Cummings, U.S. Representative from Maryland
Cate Edwards, Daughter of John Edwards
Elizabeth Edwards, Wife of John Edwards
John Edwards, Democratic Vice-Presidential Nominee
Bob Graham, U.S. Senator from Florida, 2004 Presidential Candidate
Jennifer Granholm, Governor of Michigan
Dennis Kucinich, U.S. Representative from Ohio, 2004 Presidential Candidate
Greg Meeks, U.S. Representative from New York
Martin O’Malley, Mayor of Baltimore, Maryland
Harry Reid, U.S. Senator from Nevada
Ed Rendell, Governor of Pennsylvania
Bill Richardson, Governor of New Mexico
Al Sharpton, 2004 Presidential Candidate

Thursday, July 29
Stronger at Home, Respected in the World

Madeline Albright, Former Secretary of State
Joe Biden, U.S. Senator from Delaware
Wesley Clark, Four Star General, 2004 Presidential Candidate
Max Cleland, Former U.S. Senator from Georgia
James Clyburn, U.S. Representative from South Carolina
Alexandra Kerry, Daughter of John Kerry
John Kerry, 2004 Democratic Presidential Nominee
Vanessa Kerry, Daughter of John Kerry
Joe Lieberman, U.S. Senator from Connecticut, 2004 Presidential Candidate
Ed Markey, U.S. Representative from Massachusetts
Juanita Millender-McDonald, U.S. Representative from California
Eleanor Holmes Norton, U.S. Representative from the District of Columbia
Nancy Pelosi, U.S. Representative from California, Democratic Leader
Jim Rassman, Green Beret rescued by John Kerry in Vietnam
Louise Slaughter, U.S. Representative from New York
(joined by Congressional Women)
John Sweeney, President of AFL-CIO
Mark Warner, Governor of Virginia

○ひとことで言うと、これは「オールスターキャスト」です。大統領候補の座を争った9人が全員、顔を揃えている。かならずしも挙党一致というわけではない民主党が、これ以上ないというほどに結束を示している。それぞれの日につけられているテーマに、"Strong""Strength""Secure"といった民主党らしからぬ語彙が並ぶのも今年の特色。去年の総選挙で、菅民主党が「つよい日本」をマニフェストにしたことを思い出す。

○それぞれの日の見所はこんな感じでしょうか。

7月26日(月):歴代大統領を初日に呼んでいる。カーター、クリントン夫妻、そしてちょっと居場所がなさそうなゴア。(ディーンを支持してたんだものね、お馬鹿さん)。まあ、こういうウルサ方は初日に出番を終わらせてしまうのは「お約束」でしょう。ヒラリーを呼ぶかどうかでもめたそうですが、これは呼ばない手はありませんな。

7月27日(火):ディーンにゲッパート、テレイザ夫人に盟友テッド・ケネディと、目立ちそうな顔ぶれが並んでいる。でも、ズバリこの日の目玉は2人。まずはイリノイ州で上院議員を目指す黒人弁護士のバラック・オバマ。42歳。父はケニア人。コロンビア大&ハーバード・ロースクール卒。そしてイリノイ州議会の上院議員。とまあ、バイオは完璧だ。今年の党大会におけるスター候補生の一人である。もう一人はレーガン大統領の息子であるロン・レーガン。民主党支持者で、当日は「あのブッシュを、ウチのオヤジと一緒にしてほしくない」と言ってくれる予定。

7月28日(水):この日の主役はエドワーズ上院議員。娘と奥さんも壇上に上がる。なおかつ、ミシガン州、ペンシルバニア州、ニューメキシコ州という激戦3州の州知事を呼んである。ニューメキシコ州のリチャードソンはヒスパニック票が取れるタマとして有名だが、ミシガン州のジェニファー・グランホルムもカナダ生まれでなければ副大統領の有力候補であった。

7月29日(木):いよいよご本尊ケリーが2人の娘と共に登場。この日のテーマは「国内で強く、海外で尊敬されるアメリカ」で、スピーカーもオルブライト元国務長官、ウェズリー・クラーク、リーバーマン上院議員、それにバイデン上院議員などの外交通人脈を揃えている。これだと「反戦派」の民主党支持者が不満を持つかもしれませんが、ブッシュに勝つためにはこれでないとマズイのです。

○ところで先週、紹介した次女Tのクワガタムシは、今日の夕方、増尾城址公園の林の中でリリースしてきました。元気で夏を過ごしてくれますように。


<7月26日>(月)

○赤坂のオフィスに初出社。うーん、やっぱりここは便利である。お昼には東京財団まで歩いていって、「虎ノ門道場」で金美齢さんの講演を聞いた。

○金美齢さんの話は、例によって迫力がある。日本語が美しいとか、メッセージに真情があふれているとか、そういう普通の評価とは別の次元で、あの背筋がピンと伸びた小柄な老婦人の気迫に、500人くらいの聴衆が魅せられている光景は、ほとんど圧巻といっていい。講演会の聴衆というものは、話の内容はさておいて、講師の人間性を値踏みするものだ。そういう評価は残酷なくらいに正確なものである。「いい話だったけど、寝てる人が多かった」とか、「人格的な迫力のある講師だったが、話はつまらなかった」などということは滅多にないものだ。

○などということを書くと、明日は不肖かんべえ、久しぶりの内外情勢調査会の講師で横須賀に行くんだけれど、いったい何を話すんだよとわれながら不安になってしまう。出たとこ勝負というやつは、けっして嫌いではないんですが、せいぜい中身の薄さを見透かされないようにありたいものです。

○講演会の帰りに赤坂ラーメンに寄った。以前に比べて味は落ちたような気がするが、これだけ便利であれば許してつかわそう。どうでもいいことだが、この店には色紙がたくさん飾ってあり、そのほとんどが1990年代に書かれたものである。その中に、あらめずらしや、2002年に書かれたタイガース藪投手の色紙を発見。おいおい、しっかり頼むよ。3連敗でまた借金生活なんて困りますぜ。


<7月27日>(火)

○民主党大会の初日。特設HPを見ると、本日のメインスピーカーのスクリプトが残っている。なんと便利な世の中であろうか。今日のスピーカーのうち、注目したいのがゴア、ヒラリー、それにクリントンの3人である。

○まずはゴア。あまりにも「痛い」ジョークが多く、この人って本当に終わってしまったのね、と悲しくなるほどである。まず、出だしがコレ。

Friends, fellow Democrats, fellow Americans: I'll be candid with you. I had hoped to be back here this week under different circumstances, running for re-election.

○「ホントのことを言うと、再選を目指してこの党大会に来るはずだったんだけど」って、笑えるけど、そりゃちょっと未練がましいでしょ。お次はこれ。

In our Democracy, every vote has power. And never forget:  that power is yours.  Don't let anyone take it away or talk you into throwing it away. And let's make sure that this time every vote is counted.

○「民主主義社会においては投票こそ力。力は諸君にあり。投票を忘れるなかれ。それだけじゃなくて、ちゃんと数えてもらうように」・・・・・痛い。痛すぎるぞ。フロリダの人たちは泣いているぞ。この後、ご丁寧にも最後にもういっぺん"make your vote count"と繰り返している。いい加減、その話は忘れろっつーの。てなわけで、このギャグは笑えない。次のネタも同様。

By the way, I know about the bad economy. I was the first one laid off.

○「不況の痛みをよく知っている。だってそれでクビになったんだもの」。これもやり過ぎでしょう。これだけ我が身が可愛いとなると、肝心のジョン・ケリーを持ち上げる部分はまるで精彩を欠いている。「僕は上院議員になったのがジョンと同期で、ずっと一緒に働いてきた」と言う割りには、まるで具体性がなくて誉めたことになってない。駄目じゃん。これでは明日の新聞記事には取り上げてもらえないだろう。

○お次はヒラリー。本当は「女性議員その他大勢」の役どころだったものを、「クリントン前大統領を紹介する」役回りで5分間の出番を得た。千両役者なんだから、それくらいは当然だと思うのだが、ケリーを恐れさせるほとんど唯一の存在であっただけに、扱いに苦しんだようである。さすがに短い時間で、ケリーを持ち上げつつ、自分のことをさりげなくアピールしている。心憎い部分を2箇所ご紹介。

I know a thing or two about health care. And the problems have only gotten worse in the past four years. We need to rededicate ourselves to the task of providing coverage for the 44 million Americans who are uninsured and the millions of others who face rising costs.

○「アタシはヘルスケアについては、ちょっとばかり知ってるの」――って、失敗に終わった1994年の医療改革の責任者はアンタじゃありませんか。それから10年。無保険者の数はついに4400万人にも増大し、状況は確実に悪化している。もういっぺん、改革に取り組んでみたくてしょうがない感じである。

○もうひとつ、この部分もサラリと聞き流してしまいそうだが、考えてみれば重いセリフである。

Last week, the bipartisan 9/11 commission issued its report. It was a sober call to action that we ignore at our peril. John Kerry understands what's at stake. We need to fully equip and train our firefighters, police officers and emergency medical technicians-our first responders in the event of a terrorist attack.

○「9/11」委員会の最終報告は、ブッシュとクリントンの両方の政権に問題があったと結論している。すなわち、8年間もホワイトハウスにいたヒラリーは、責任の一端を感じるべき立場なのである。未来形の政治家である彼女にとって、このことは忘れてはならない問題なのであろう。とまあ、さりげない自己主張を織り込ませつつ、最後はきっちりこんな風に締めている。

We need John Kerry. John Kerry is a serious man, for a serious job. So let's work our hearts out and send him to the White House in 2004. And I'm optimistic we will because I know a great leader when I see one. And so does America.

○もっともこの部分を、「2004年には彼をホワイトハウスに送り込みましょう」(2008年はアタシをお願いね)と意訳したくなるのは、意地の悪いかんべえだけではあるまい。

○さあ、最後はクリントン。これはもう畢生の名演説と呼んで差し支えないと思います。もともと「誉め芸」には定評のある人ですが、ジョン・ケリーに対して、のっけから繰り出したパンチラインがこれである。

Tonight I speak as a citizen, returning to the role I have played for most of my life as a foot soldier in the fight for our future, as we nominate a true New England patriot for president. The state that gave us John Adams and John Kennedy has now given us John Kerry, a good man, a great senator, a visionary leader.

○マサチューセッツ州出身の大統領は、「ジョン・アダムズ、ジョン・ケネディ、それにジョン・ケリー」と来たもんだ。参った、である。あたしゃ、これを見て、「ミュンヘン、札幌、ミルウォーキー」という古いコマーシャルを思い出してしまったぞ。

○税制、財政、本土防衛などの課題を取り上げつつ、クリントンは共和党の政策を手厳しく批判する。その都度、「もしあなたがこれでいいと思うなら、彼らをホワイトハウスと議会に送り出したらいい。もしそうでないなら、ジョン・ケリーを、ジョン・エドワーズを、民主党を選んでほしい」と繰り返す。"If not, give John Kerry and John Edwards a chance."――これはもう、拍手しかありますまい。クリントンの演説は、スタンディング・オベーションで9回中断されたそうである。

○とまあ、クリントンの名調子はドンドン加速していくのですが、中にはこんな「ドキッ」とするようなセリフが入っているので油断がならない。特に為替のディーラー諸氏は、以下の部分を心して読まれるように。

These policies have turned the projected 5.8 trillion dollar surplus we left -- enough to pay for the baby boomers retirement -- into a projected debt of nearly 5 trillion dollars, with a 400 plus billion dollar deficit this year and for years to come.  How do they pay for it? First by taking the monthly surplus in Social Security payments and endorsing the checks of working people over to me to cover my tax cut. But it’s not enough.

They are borrowing the rest from foreign governments, mostly Japan and China. Sure, they’re competing with us for good jobs but how can we enforce our trade laws against our bankers? If you think it’s good policy to pay for my tax cut with the Social Security checks of working men and women, and borrowed money from China, vote for them.  If not, John Kerry’s your man. 

○ケリー政権が誕生した場合、中国や日本政府の為替介入はきっちり咎められそうである。民主党はこれがあるからなあ・・・。

○さて、ジョン・ケリーを持ち上げる段になり、クリントンはここでも思い切った発言をする。

Here is what I know about John Kerry. During the Vietnam War, many young men -- including the current president, the vice president and me -- could have gone to Vietnam but didn’t. John Kerry came from a privileged background and could have avoided it too.  Instead he said, send me.

○「ベトナム戦争のとき、多くの若者たちが、――現在の正副大統領、それに私も含めて――ベトナムに行くことができたのに、行かなかった。ジョン・ケリーは恵まれた出身だったから、ベトナム行きを避けることができた。だのに彼は言ったのだ。俺を送れと」。ブッシュもクリントンも兵役逃れをした。でもケリーは自ら志願した。

○この"John Kerry said, send me"というセリフは、その後も何度も繰り返される。そして最後には"Let us join as one and say in a loud, clear voice: Send John Kerry"という文句で終わる。「ジョン・ケリーを送れ」。これは新聞の見出しに使える。

○クリントン演説は、まごうことなき傑作だと思います。ケリーへの「ヨイショ」は、多少、うそ臭い部分もないではないが、党大会を盛り上げる上での貢献度は大なるものがあります。実際、今週の木曜日の夜、ジョン・ケリーがこれと同じくらい感動的な受諾演説をしたら、彼の野心は実現に向けて一歩近づくでしょう。

○もっとも、クリントン演説を批判する人もいるだろう。彼は前大統領という立場を忘れたかのように、共和党とその支持者たちをきびしく咎めた。元大統領は日本の象徴天皇のようなもので、なるべく政治的発言をすべきでないという意見も少なくないはずである。実際、彼がここまでPartisanな発言をしたのはめずらしい。民主党の前途に対して、クリントンは相当な危機感を覚えているのだと感じました。


<7月28日>(水)

○今週のThe Economist誌のコラムが、ジェンキンズ氏のことを取り上げています。"Their object all sublime"(7月24日号、Leaders P13)は、以下のような驚くべき主張を伝えています。前段では「いやしくも敵前の脱走は、軍人として最大の罪である」に始まる状況説明を行った後、コラムは以下のように続けている。


・・・・上記はすべて真実である。しかしそれでも米国当局は、慎重に行動すべきである。2年前に先に出国した日本人の妻と出会うために、二人の子供らと共に北朝鮮を自発的に離れたことで、ジェンキンズ氏は多くの日本人の心をつかんだ。なかんずく小泉純一郎首相は、「特別な配慮を持って」彼を遇するように求めている。

もともとの亡命が自発的なものだったかどうかはさておき、ジェンキンズ氏は多くの日本人の眼には、70年代から80年代にかけて拉致された十人を越える被害者の一人と映っている。そして小泉氏は、世界の指導者の中でもほんの3〜4人の一人として、政治的な限界を踏み込んで米国の対テロ戦争を支持しており、見返りを求める資格は十分にある。日米は北朝鮮の提示する危機を共有しており、この老いた病人を訴追することは両国の合意を危うくするものである。

この件には、ギルバート&サリバンの曲がよく似合う。「ミカド」の中で天皇は、「罪に罰を合わしめよ」と唄う。ジェンキンズ氏が北朝鮮に脱走したことの代償は、それが本当に彼の仕業であったとしても、世界で最も貧乏で抑圧的な体制の下で、それがたとえ客人扱いの厚遇であったとしても、39年間をただ生き抜いたことであった。彼は24年間にわたり、海岸を散歩中に拉致された日本人女性と夫婦になり、苦楽を共にした。いかなる希望もない土地で、二人の子供を育て上げなければならなかったのだ。チャールズ・ジェンキンズの事件においては、彼の罪にふさわしい罰は、すでに果たされているのである。


○ジェンキンズ氏の問題についての同誌の判断は、「もういいじゃないか。あまりにも気の毒な話だ。それにあの小泉が、あそこまで言っているんだぞ」でした。長年にわたってこの雑誌を購読しておりますが、ここまで強烈な浪花節を読んだのは初めての経験です。これほどに不条理な状況に対しては、普通の原則を曲げてでも特別な配慮が必要ではないのか。正直、この主張には感動を覚えました。

○もう一人、この問題で浪花節を説いている日本人のジャーナリストがいます。このサイトの愛読者にはお馴染みの谷口智彦氏です。日経ビジネスの連載コラム「地球鳥瞰」の7月16日号「ジェンキンズ氏よ法廷に立て」で、以下のような指摘をしています。


  「脱走した」のか、「拉致された」のか、決着をつけるためにも、ジェンキンス氏は軍事法廷に立つべきだ。なぜならその後に予想される事態が耐えられないものであるとは、過去の実例などに照らしても到底思われないからである。

  準備のため30日ないし90日を営倉(stockade)で送った後、開廷された軍法会議でジェンキンス氏が聞くことになるだろう決定は「不名誉な解雇(dishonorable discharge)」と呼ばれるものである。これの一環として、支払い済みの報酬はすべてさかのぼって没収(forfeiture of any and all back pay)される。

  加えて、名誉剥奪の儀式を経たうえ原隊(恐らくノースカロライナ州Camp Lejune)から追放される。これは階級章ほかバッジの類をもぎ取られる象徴的儀式であって、事ここに及んでは、全米テレビが中継するだろう。

  ――しかし、それだけ、なのである、言い換えれば。(もちろん刑がもっと重くなる可能性を消し去ることはできない。しかし例えば1年の実刑判決が下ったとしても、以下に述べる点を含めた事柄の本質は動かない)。

  マッチョな男の子、かつてのツッパー少年は、この全過程を堂々と顎を上げ、落ち着き払って過ごせばよい。妻・曽我ひとみさんと2人の娘たちは、法廷内外からあふれんばかりの愛情を注げばよい。そしてバッジをはぎ取られ、名誉を剥奪され基地から歩み出てきたジェンキンス氏を再び抱きしめ、カメラに向かってこう言うのである。

  「夫はわたしの誇りです」

  アメリカは打たれる。日本も泣くだろう。そしてチャールズ・ロバート・ジェンキンス氏は、元のツッパー少年になって、あの小さな村リッチスクウェアへ帰っていける。老母に会える。その時初めてジェンキンス氏は、人生を取り戻すのである。


○日米が共有しているのは(あるいは英国も加えていいけれども)、安全保障や経済問題の利害だけではない。こういう「浪花節」的な感覚も、おそらくは共有している。上記のようなシチュエーションがあったとしたら、バッジを剥ぎ取られたジェンキンズ氏が浴びるのは、「恥知らず」という非難だけではないはずである。少なからぬ涙と、暖かい拍手が送られるだろう。非人道的な体制下に生きている人たちにとっては、それは思いもかけないことだろうけれども。


<7月29日>(木)

○米民主党の政策綱領(プラットフォーム)は下記からダウンロードできます。

http://www.democrats.org/platform/index.html 

○"Strong at Home, Respected in the World"というから、「内にあっては強く、世界にあっては尊敬される」米国を目指している。"Strong"がキーワードになっていて、外交においては"A Strong, Respected America"、経済においては、"A Strong, Growing Economy"、社会問題においては、"Strong, Healthy Families"、最後に"A Strong American Community"というまとめがついている。

○嫌でも思い出すのが、昨年秋に日本の民主党が出したマニフェスト「つよい日本をつくる」である。「強い」と書くと、オールド・レフト層から怒られそうなので、わざとひらがなで「つよい」にしたところが、いかにも電通的な手法である。日本でもアメリカでも社会全体の保守化が進んでいるので、リベラル派が政権を取ろうと思うと「強さ」を強調しなければならない。が、いかにも「とってつけたように」見えてしまう。明日の朝刊の政治面では、この点を掘り下げて比較したコラムを読んでみたいものだと思う。

○でもまあ、こういう点を面白がるのは、不肖かんべえくらいなのかもしれない。日本のジャーナリスト連中は、国内政治担当と国際政治担当の間に深い溝があるし、そもそもマニフェストやプラットフォームの原文に当たるという習慣を持つ人は非常に少ないから。

○さて、米民主党のプラットフォームは全部で37Pあるのですが、このうち、アジア政策について書かれた部分は下記がすべてである。

Asia. In Asia, we must better engage with China to secure Chinese adherence to international trade, non-proliferation and human rights standards. We are committed to a "One China" policy, and will continue to support a peaceful resolution of cross-Straits issues that is consistent with the wishes and best interests of the Taiwanese people. We must maintain our strong relationship with Japan, and explore new ways to cooperate further. And we will actively seek to enhance relations with our historic ally South Korea in order to advance our collaborative efforts on economic and security issues. We must also work with our friends, India and Pakistan, in their efforts to resolve longstanding differences.

○もう、涙が出ますな。日本はたった1行だし、中国の方が先に来てしまうし、これじゃ台湾が気の毒だし、東南アジアはまったく無視されているし。要は、ちゃんとしたアジア政策の専門家は執筆陣の中にはいなかったんでしょう。

○37Pを全部読んだわけではないけれども、全体の印象は「やっつけ仕事」です。当欄の2000年8月3日分で、ブッシュ政権誕生時のプラットフォームの外交編を分析しておりますが、あれにくらべると月とスッポンですな。まあ、このプラットフォームを書いた人たちの中には、アーミテージもウォルフォビッツもいないのだから、当然と言えば当然なんだけど。

○米大統領選挙は、「現職対新人」の年の場合は、新人側はとにかく現職のあら探しに必死になるので、自分の政策をきっちり練り上げることをしない傾向がある。2000年選挙は「新人対新人」だったから、両候補ともにきっちりしたプラットフォームを作った。それでも1992年のクリントンは、選挙戦のさなかに政策の本を出していたことを思い出すと、ケリー陣営は案外と仕事の効率が悪いような気がします。

○それはさておき、明日のジョン・ケリーによる受諾演説が成功するかどうかに注目しましょう。


<7月30日>(金)

○赤坂に引っ越してからの1週間目が終わりました。今週は民主党大会を片目で見ながら、講演の機会が3回あったり、ラジオの電話取材が2回あったり、慌しいこともあったのだけど、ここでは赤坂に帰ってきたことでの幸福感について少々。

○どこに行くにもとっても便利。今日なんか、仕事で財務省に行った帰り、会社まで歩いて帰ってしまった。暑かったけどね。こういう便利のよさにまだ慣れていない。たとえば新橋の店で待ち合わせをしたら、予定の時間より15分も早く到着してしまった。

○地下鉄の駅で富士ゼロックスのSさんとバッタリ出会ったり、虎の門の会社に勤めるH君が訪ねてきてくれたり、周囲に知り合いが多いことのメリットを享受できる。来週もドンドン約束を入れているところ。

○いつもの「和喜」にお昼に行ったら、マグロと卵をオマケしてくれた。「鮨兆」のおまぜを久しぶりに食べたら美味かった。それから、旧日商岩井ビル1階の珈琲舎バンに入ってみたら、アイスコーヒーの味が昔のままで、値段が20円安くなっていた。

○こうやって並べてみると、実にささやかなことばかりなんだけど、こういうことが妙に嬉しいんだなあ。











編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki