●かんべえの不規則発言



2004年1月




<1月1日>(木)

○明けましておめでとうございます。

○紅白は白組が圧勝でした。出来レースではないということが図らずも立証できたというか・・・曙は早々にマットに沈んだそうですね。毎年のことですが、良くも悪くもテレビの中の世界は平和です。気がついたら2003年は終わっていました。

○吉野家が牛丼を止めるかもしれないというニュースには驚きました。早速、特盛を食べ納めしようとする動きがあるそうです。BSEは罪作りですよね。「特盛、肉抜きで」って注文する人がいたりして。

○かんべえは今年の初仕事として、5日から台湾に行って来ます。ま、そんなわけで今年もよろしくお願いします。


<1月2日>(金)

○ちょうど1年前にこんなクイズを出しました。2003年に終わってしまうものは次のうちどれか?」。それでは正解の発表です。

@小泉政権
Aサダム・フセイン政権
B金正日体制
Cアメリカの強いドル政策
D読売新聞におけるナベツネ独裁体制
E2ちゃんねる
F溜池通信

○2003年が終わってみると、終わったのはAフセイン政権だけでした。それ以外のものは意外にしぶとかった。小泉さんは相変わらずの1年でしたし、金正日体制もそれどころじゃない感じです。アメリカの強いドル体制は、対ユーロでは相当に減価しましたが、対円では100円を割り込むところまで行かなかった。ナベツネさんに至っては、原監督の首を切るなどやりたい放題。ワンマン経営者が引退したのは、違う新聞社でしたね。2ちゃんねるは、サーバーの容量オーバーの危険を乗り越えて、無事に続いています。そして当HPも。

○正解された方は3人もいらっしゃいます。お名前の発表と、それぞれのコメントを紹介させてもらいます。

●「かんべえの弟子」を名乗る原田君:「私の予測は、Aのみであります。4月15日ころ戦争終結。アメリカの占領開始」

●バッファロー氏:「今年終わってしまうものは。。。Aフセイン政権のみです。去年の結果を見ても、『予想出来る範囲でのドラスチックな転換は起こらない』と見ています」。

●自称保守派さん:ずばり、Aだけ、と予想しておきたいと思います。

○例によって何も賞品はないのですが、お三方にこころからの敬意を表したいと思います。特に「4月15日に戦争終結」という原田君の予想はいい線行ってましたね。なにせ4月9日がバグダッド陥落、5月1日が空母リンカーンの勝利宣言でしたから。

○2004年もサステナビリティが問われるものが多い年です。2003年を生き残った者たちも、2004年は無事で済みますか、どうか。その辺の予想は、おいおいやっていきたいと思います。


<1月3日>(土)

○小泉さん、年明けの記事が少ない時期になると、何かをやらかすという癖は今年も健在で、元日に靖国神社に参拝しました。(昨年はロシアに行って、金正日との再会談の可能性を模索した)。ことの是非はさておくとして、ちと気になったことを少々。

○1月2日は新聞の休刊日でしたから、昨年の阪神タイガース優勝(9月15日)、サダム・フセインの拘束(12月14日)と同じく、このニュースを一面にもって来れないという悔しさを味わったはずです。しかるに新聞各社は、ネット版はちゃんと営業しているので、それぞれがいつの時点でどんな風に報道したかをチェックすることができる。

●産経新聞はなんと1月1日の午前10時24分時点で、「小泉首相が靖国参拝へ」という記事を流している。事前にキャッチしていたんですね。お見事と言っていいでしょう。ほかは後追い報道になっている。

●日経新聞は午前11時41分に、「小泉首相が靖国神社に参拝」という短い記事を流しているが、これは共同電の配信である。まあ、これが普通というものでしょうか。

●靖国問題にうるさい朝日新聞は、午後1時12分に、「小泉首相、靖国神社参拝 4年連続、元日は初」という かなり長めの記事を報道している。ちゃんと中国の反応も網羅している。

●それから読売新聞が、午後3時22分に、「小泉首相が靖国参拝、元日は初めて」と続いている。

●面白いことに毎日新聞は、翌1月2日の午後7時34分になって、「小泉首相が靖国参拝、元日は初めて」となっている。掲載が遅れた割りには、新しい内容は少ない。宿直がちゃんと仕事をしなかったのか?

○案の定、各社各様というか、「らしい」結果になっている。各社のHPをチェックするというのは面白いかも。

○変なことが気になるんですが、新年の伊勢神宮参拝の前に靖国神社に参るのは問題はないんですかね? まあ、私ごときがうるさく言うようなことではありませんが。ところで今年の伊勢参拝は1月6日だと聞いていますけど、小泉さんのことですから、その後くらいに何かサプライズを仕掛けるかもしれませんよ。


<1月4日>(日)

○かんべえはボランティアで、NPO法人岡崎研究所の役員をやっておりますが、友人でもNPO法人を立ち上げたのがおりまして、こんな立派なHPも作っています。紹介まで。

●RFL:リフォーミスト・フェスティナ・レンテ

http://www.festinalente.org/index.html 

○とくに「応援団からのメッセージ」のコーナーが面白い。RFLの活動に賛同するかどうかはさておいて、じっくり読んでみる価値はありますぞ。

○では、明日から台湾に行って来ます。詳細はまた後日。


<1月5日>(月)

○今度の台湾旅行は「日米台三極対話」の第4回目ということになります。第1回目の顛末は、ここにあります。その際、1週間も滞在したウェスティン台北にただ今チェックインしたところ。さっそく部屋でPCを取り出し、約15分間の試行錯誤の結果、無事にインターネットとの接続にも成功。ただし海外ローミングサービスは1分あたり20円だかの料金が発生するので、1分58秒になったところで慌てて切ったりして、けちなワタシ。

○今朝、成田空港で日本代表の一行が勢ぞろいし、ラウンジに入ったところ、なんと金美齢さんと出くわす。なんたる偶然。ということで、金美齢さんの激励を受けつつ、中年男性6人がご一緒に台湾行きということにあいなりました。

○昨晩、爆睡してしまったために、あんまりしていない明日の発表の予習を飛行機の中で取り組む。昨年の12月18日にちょこっと書いていたように、「誰もが『中国は2008年まで8%成長を続ける』と言っているけど、あれってホント?」という問題提起をする予定。思うに、「2008年まで8%」というのはほとんどコンセンサスになっている感がある。しかるに皆がそれを前提にして行動するから、外資の流入が止まらなくなって、経済が過熱してしまっている。これは成功のパラドクスじゃないか、てなことを考えています。

○ところで本日の中山金杯用に、上海馬券王先生からのメールが入っておりました。

皆様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

実はこの正月は上海にいたんですが、私が帰ってきてから半年の間に、ますます発展してまして、恐るべし中国!というのが実感であります。本当にこのままどこに行くのでしょうか中国は。

確かにケ小平以前は余りにも貧しすぎたんで、ちょっとまともな政策を導入すれば潜在成長力が一挙に開花する道理ではあるんですが、現状は「根拠の無い熱狂」と呼べる領域に差し掛かっている気もします。成長の影では色々な矛盾も相当深刻化しているみたいだし、なんか裁きの日が近い気も。。。。。

(以下、予想に関する部分はカット。ワシが買えないんだから当然である)

○裁きの日が近いかどうかは知りませんが、似たようなことを感じている人は多いんじゃないでしょうか。それにしても中山金杯ねえ。ちょっと惹かれるけど、しばらく競馬とはご縁がなさそうな予感。


<1月6日>(火)

○さすがに冬とはいうものの、冬服のスーツは心持ち暑く感じるここ台北であります。

○日米台三極対話、本日は終日、Closed Doorsのセッションでありますので、あんまり余計なことはここでは書けないわけでありますが、以下のことだけはご報告しておきましょう。

●「チャイナ・コンセンサス」に関する私めの報告は、そこそこ受けました。ちゃんと冒頭と終わりには笑いも取ったし、これで気持ちよく後の会議を過ごせるというものです。

●現在、当地にはPNACのウィリアム・クリストルが来ておりまして、本日、ネオコンのご本尊と固い握手を交わすことができました。日本におけるネオコン・ウォッチャーの草分け(?)としては、これは感動の一瞬でありました。

●昨日、到着してからずっとホテルに缶詰で、朝昼晩とホテルのご飯を食べていたので、夜のレセプション終了後にご当地のらくちんさんを呼び出して落ち合いました。日中、さまざまな議論を終えた後では、現地の日本人駐在員の情報はまた違った角度があり、格好の"Reality Check"ができました。

○てなわけで、明日も台北でいろんな行事に参加します。


<1月7日>(水)

○日米台三極対話は、本日は2つのオープンセッションを開催しました。お昼は岡崎久彦氏のスピーチ、夜はビル・クリストルのスピーチという段取りになっている。この組み合わせ、なかなかに刺激的でしょ? どちらもメディア向けに公開されていましたから、この不規則発言でも堂々と紹介してしまいます。

○岡崎氏の問題提起は、「歴史的に見て、初期の民主主義は失敗することが多い」ということでした。なるほど、アメリカやスイスのように、民主政治が一発で定着するというケースは少数派である。英国でもどこでも民主化には揺り戻しがつきもので、君主制の復活や軍政の支配などの紆余曲折を経ることが少なくない。日本でも原敬の政党内閣成立の後で、薩長による藩閥政治の逆襲があり、最後は軍部の独走を招いてしまった経緯がある。そういう意味では、1996年に初の民主選挙を実施して、2000年に初の政権交代を実現した台湾は、2004年の選挙の行方が非常に大事だということになる。

○2004年の総統選挙は3月20日に行われる。現職の民進党の陳水扁総統と、国民党の連戦候補の差はほとんど紙一重。これに例の「レファレンダム」(日本では例によって「住民投票」と訳されるが、本当は「国民投票」と呼ぶべきだろう)が重なっている。この問題のややこしさについては、しばらく前のらくちんさんの解説がもっとも詳細かつ分かりやすいと思う。これに対し、ブッシュ政権がレファレンダムの自制を求めるに至り、日本政府も尻馬に乗った。日米の政府に中国の横槍が入ったのは想像に難くない。言うまでもなく台湾国内は反発している。

○おそらく今でも、台湾の民意を問えば、「独立よりも現状維持」が多数になると思う。ただし「現状維持政策」を続けているうちに、台湾の領域がどんどん狭められていることも間違いない。南アフリカや韓国など、次第に台湾を見限って大陸中国になびく国が増えて、孤立化は深まるばかり。昨年のSARS騒ぎの際には、台湾はWHOの支援さえ受けられなかった。「現状維持政策は現状を保証しない」のである。

○その昔、「現状維持は脱落なり」といった経営者がいた。あれは本当である。現状維持を目標に掲げる企業は確実に没落する。株価を見るがいい。上がるか、下がるか、どちらかしかない。「横ばい」などというものは存在しない。政治の世界だって、現状維持を目標にしていたらジリ貧になっちゃうのである。そしてこの間に中国経済の高度成長が続いている。このままでは呑み込まれてしまう。

○そこで今回、台湾が使える数少ないカードがレファレンダムである。平和で民主的な手段なんだから、アメリカが文句を言うのはおかしい、というわけだ。もっともレファレンダムには、現陳水扁政権がひねくりだした再選のためのギミックという面も否定できない。次は憲法改正や国名の変更(中華民国→台湾)で直接投票をするぞ、という意思表示で、中国を刺激しようという「瀬戸際政策」の意味がある。

○ともあれ、2004年に予定されている数多くの選挙のうちでも、これが一番といっていいくらい見通しがつかない。すなわち、一番面白い選挙が台湾総統選挙である。そしてここに懸かっている問題はあまりにも大きい。

○次に、夜の部のビル・クリストル氏のメッセージはきわめて簡単でした。「9・11で世界は新しくなった。それなのに古い時代に縛られている人たちがいる。中台海峡の問題もその典型だ」てな感じ。文章を書くと、とてもクリアカットで明晰な議論(デマゴーグの文体だという意見もある)をする人ですが、講演の方は今ひとつはっきりしない話しぶりでしたね。

○「ひとつの中国」というフィクションには、これを支える非常に複雑な決まりごとや過去の経緯があります。クリストル氏自身はあまりそういうことには詳しくないようでした。変な話ですが、この辺が面目躍如たるところだと思いました。ネオコン派には、「知らない強み」みたいなものがある。「イラクは部族社会で」とか、「そもそも中東の歴史は」みたいな議論をバッサリ切り捨てて、「世界を民主化せよ」と突っ走ってしまうところがある。この辺が危険だと言われるゆえんなのですが、他方、新しいことを始める人たちというのは、本来がそういうものだという気もする。

PNACというシンクタンクは、政策立案を志す人たちにとっては、ある意味、夢のようなサクセスストーリーかもしれない。既存の名門シンクタンクではなく、外交問題に特化した小さな新興勢力で、政権に大きな影響を与えているのだから。もっともそのために彼らが受けている批判や誤解や妬みは相当なものがあるでしょうけれども。

○本日、PNACの方に、1冊だけ持っていた拙著『アメリカの論理』を進呈しました。自分で言うのもなんですが、彼らの活動を紹介したものとしては時期的にも早かったし、比較的公平な立場で書いてあると思います。ただ、彼らとしては世界中で似たような本が出ていて、しかもそのほとんどが「陰謀論」で、相当に辟易しているようでありました。そうだろうなあ。


<1月8日>(木)

○昨日の岡崎久彦氏の講演の後で、台湾の聴衆からこんな質問が飛びました。「あなたは原敬を高く評価しているようだが、だったらなぜ原は首相として、田健治郎のような男を台湾総督を指名したのか」。これにはさすがの岡崎氏も、一本取られたといった風情で、「おそらく山縣有朋と妥協する必要があったのでしょう」といった返事をされていました。はてさて、かくも評判の悪い田健治郎とはいかなる人物であったのか。気になったので、ちょっと調べてみました。

●田 健治郎(でん・けんじろう)

1855(安政2)〜 1930(昭和5)

幼名梅之助、諱は季秋、号を護山。1864(元治1)丹波国(兵庫県)篠 山藩の儒者渡辺弗措の塾生となり、のち柏原藩の小島省斎に学ぶ。 維新後、74(M7)熊谷県庁に出仕し、これより官界に入る。多くの県 の警察部長などを歴任。その後、逓信書記官・郵務・逓信局長・逓 信次官となる。96ハンガリー万国電信会議に委員として参加。1906勅 選貴院議員。07男爵。16(T5)寺内内閣の逓相。19台湾総督就任、 これは従来の武官総督制から文官総督制への変化を意味した。23 山本内閣の農商務相と司法相を兼任し、26枢密顧問官。その他に、 1898関西鉄道会社・1907九州炭鉱などの社長、19南洋協会会頭、 25電気協会会長。参院議員の田英夫は孫

○なんと、田英夫氏のおじいちゃんでした。この経歴を見ると、田健治郎は古式ゆかしい江戸時代生まれの文化人であり、立身出世をして貴族院議員となった当時のエリートです。ここを読むと、詩文も巧みであり、なかなかの達筆でもあったようです。案の定、山縣有朋に近い議会の実力者で、首相になったばかりの原敬は下にも置かぬ扱いであったそうです。1919年、第1次世界大戦が終わった年に田健治郎は台湾総督に就任している。では、当時の台湾総督とはいかがな職責であったのか。

清国より割譲された台湾を統治する為に日本が設置した官庁。その長官は台湾総督と呼ばれ、「土皇帝」と称される程、強大な権限を有した。設置当初より陸海軍の大・中将が就任していたが、大正8(1919)年に武官総督制を廃し、総督は文官・台湾軍司令官は武官、と言う様に職掌が分化された。昭和20(1945)年、終戦と共に廃止。

○初期の台湾総督には、第2代 桂  太 郎、第3代 乃木 希典、第4代 児玉源太郎といった錚々たる顔ぶれが並ぶ。余談ながら、台湾の統治者としては後藤新平が有名ですが、彼は民生長官を勤めただけで、総督は一度もやっていないのでした。そして7代続いた武官の総督が終わり、8代目からは文官である田健治郎が起用された。これだけ聞くと、いかにも善政を敷きそうに思われます。

○例えばここには、田健治郎がしたためた初代文官総督としての抱負が述べられている。

●初代の文官総督 統治の方針

 台湾の統治方針は大体に於て領土主義に依り、同化主義を以て経営し来り爾来、四半紀を過ぎて庶政大に挙がり衛生殖産の事業其面目を改め島民の進歩亦著大なるものあり、会々余は世界大戦の局を結びたる一九一九年の十月、初次の文官総督として任に莅み親しく民情を視察してその将来立憲法治国の臣民たるべき素質の既に自ら存するあるを知り深く世運の進転と本島民衆の実情とに鑑みたる結果、内地延長主義の大精神により諸般の施設経営を断行し、本島民衆をして純然たる帝国臣民として我が朝廷に忠誠ならしめ国家に対する義務観念を涵養すべく教化善導せざるべからざる要あるを認めたり、

○上の文章を読んでも、とにかくやる気満々といった感じである。「わが朝廷に忠誠ならしめ」という当たり、ちと危ういものを感じるが、少なくとも苛斂誅求を求めたり、私腹を肥やしたりするタイプではなさそうだ。なにせ田英夫氏のおじいちゃんですから、紳士だったことは間違いないでしょう。だが、なぜに台湾の人々がその名を長く記憶にとどめるほど、評判の悪い総督になったのか。

○ほどなく、この謎を解く文章にぶち当たりました。それもなんと、かんべえが知ってる人が書いたものでした。

●植民地と文化摩擦――台湾における同化をめぐる葛藤  黄昭堂/台湾独立建国聯盟主席

http://www.wufi.org.tw/jpn/jng01.htm 

○黄昭堂さんは、筋金入りの台湾独立派の闘士である。金美齢さんの『日本よ、台湾よ』という本にも登場する。名刺にはたしかにPHDと書いてあるけれども、学者というよりは昔かたぎで親分肌のおっさん(失礼!)である。前回、台湾に来たときには格別に美味な台湾料理をご馳走になり、たしか一緒に軍艦マーチを歌ったような記憶がある。その黄さんが、日本の台湾占領政策を堂々と論じている。

○お暇な方はぜひ全文をお読みください。「植民地に善政なし」で始まるこの文章は、とにかく一級品の論文です。台湾の歴史について多くを語ってくれるだけでなく、すぐれた文化論でもあり、われらが日本文化についても多くの示唆を与えてくれます。そして、田健治郎の悪評に関する謎解きは、第3章の「中期」の以下の部分にあります。

●初期における最後の武官総督明石元二郎は一九一八年に赴任したとき、声高に同化主義を唱えたが、やつぎばやに植民地人待遇改善策がうちだされたのは、中期に入り、一九一九年に文官総督田健治郎が赴任してからである。具体的には教育の拡充、行政措置による内台婚姻の「合法化」、日本語常用者に限っての内台人の小学校共学、台湾人のみの株式会社の設立許可、台湾人の総督府評議会員および高等官への登用などがあげられる。台湾人を同化し、その地位を内地人のそれに近づけようというこの政策は、一般に「内地延長主義」と呼ばれる。もっともこれは漢族系台湾人にたいするものであり、高砂族系人の同化は後期の一九二八年ごろになってから具体化されるようになった。ともあれ、内地延長主義は必ずしも在台内地人の支持をうけたわけではない。台湾人を同化し、内地人に近い権利を与えることについて、多くの在台内地人はあたかも「台湾が赤化するものの如く」考えた。

○日本の台湾統治政策は、武官総督から文官総督に移ったこの時期、「内地延長主義」に移行した。これは同時に、「文明の衝突」の始まりでもあった。台湾総督府は、纏足や辮髪、阿片吸引といった「旧弊」を糾し、日本の文化・風習を普及させようとした。良いこともあったが、悪いこともあった。同論文にはいくつかの例が示されているだけだが、田健治郎総督の評判が悪かったことは容易に想像できる。

○黄さんは、文化と文化が衝突するときの結果について、以下のように結論づけている。

文化の移植は、それが強制によるかぎり、長い年月の錬磨を経ねば定着するものではない。台湾人とは縁もゆかりもない神棚は強制されたものであるがゆえに、台湾人はやむなくそれを仏檀のそばに並べておくが、強制力が喪失したとたんに例外なしに棄てられた。キリスト教は台湾人の在来宗教ではなかったにもかかわらず、台湾に根強くづいているのと好対照をなしている。

●文化は強制によらない交流の形でなされるばあいに「適者生存」によって残り、相手の文化の一部になる。これも一種の同化であり、相手のほうからみると新しい文化の創造につながる。畳は多湿の台湾には適さないとされたが、その多目的利用価値のゆえに、現在も残存している。当初、台湾人から不衛生だとの烙印を押された生食も衛生の向上した台湾では普遍化した。

強制されたときは反感を呼んでも、その文化の効用が評価されれば、相手に受容され、その文化の一部に組みこまれる。そのもっとも典型的な例が日本語である。名詞が日本語読みのままで台湾語の語彙になったり、名詞が、字はそのままで台湾語読みになったのもある。日本帝国の支配から離脱して三十四年経た一九八〇年の台湾で、母親と二人の幼い娘を暗殺されたある台湾人政治家は漢文で追悼文を書いたが、母の霊に呼びかけるのにわざわざ日本文字を使い、「かあちゃん」という表現を使った。そうしないと、母親への思慕の情をあらわせないと思ったからであろう。この一家は元は貧しい家で、かれが日本帝国の支配を受けたのは四歳のときまでであった。

○日本の台湾統治は、韓国の36年よりも長い51年に及んだ。良くも悪くも、残したものは大きかった。台湾の国民中学歴史教科書(雄山閣という出版社から『台湾を知る』という題で邦訳が出ている。かんべえは、台北の三越までタクシーを飛ばして買ってきました)を読むと、日本の植民地時代が残した成果として、@時間厳守の観念の養成、A遵法精神の確立、B近代的衛生観念の確立、というプラス面を挙げている。そしてまた、これらの日本文化の名残りが、大陸からやってきた国民党支配の時代に、「台湾人」たちの矜持となったこともあっただろう。

○それにしても、植民地支配というものはお世辞にもきれいなものではありません。抗日運動の死者は1万4000人に上ったそうです。「台湾では日本は感謝されている」ということを聞くと、誰しもうれしくなるのは当然ですが、それだけで思考を停止させてはなりますまい。歴史は是々非々で描かれる必要があると思います。

○てなわけで、台湾の歴史についてちょっとだけ詳しくなって帰ってきました。明日は初出社です。


<1月9日>(金)

○台北の空港で、こんな雑誌を買ってきました。『最愛東京 青春無限的流行聖地』――そう、東京の観光案内です。これを読んでいると、東京ってなんてすごい観光地だろう、と感心してしまいます。

○たとえば「必到10大遊楽地」として紹介されているのは、新宿(旅遊購物夜生活奇特魅力大放送)や銀座(高貴典雅的不夜城)、上野/浅草(看不尽的江戸風情)だけではなく、代官山(高品味代名詞)や吉祥寺/下北澤(青春洋溢歓楽無限)まで入っている。そして台場は、「話題不断 人気第一的必遊之地」と評されている。この漢字を読むのが何とも楽しい。たとえばこんな感じである。

「東京鐵塔」(東京タワー)
「東京巨蚤」(東京ドーム)
「富士電視台」(フジテレビ)
「台場摩天輪」(台場観覧車)

○単なる観光地だけではなく、「世界上最忙碌的魚市場」である築地だとか、「日本第一家族居所」である皇居、「生活雑貨應有尽有」である合羽橋道具街、「聞名世界的二手書街」である神保町古書街までもが観光スポットになってしまう。これはもう、相当に深いです。タワーレコードや伊東屋まで紹介されている。台湾のハーリー族、おそるべし。

○お台場で一日過ごすときのパターンが紹介されている。ゆりかもめで降りて、デックス東京ビーチから自由の女神像に回る。これが「偶像劇超人気名所」となっている。「アイドル」という間違った英語の使い方を、そのまんま翻訳してしまったらしい。台場小香港が省略されているのは、まあ分からんではないのだが、お昼ご飯に推奨されているのがアクアシティの「和幸」だというのは困りものである。もっとほかにあるだろうが!

○その一方で、台湾の人が確実に美味いと思える和食といったら、トンカツはかなり無難な線だといえましょう。たしか今年の春節は1月22日頃のはず。また大量の観光客がアジアからお台場にやってくる季節が近いんだなあ。


<1月10日>(土)

○うーい、日本は寒いぞい。あんまり仕事をする気にはなれない休日ですが、政策分析ネットワークのワークショップのパネリストを引き受けたので、会場がある中央大学後楽園キャンパスへ出かける。テーマは「米国大統領選挙」

〇「政策メッセ」なるものに参加するのは初めてだったので、どんな会合なのか恐る恐る出かけましたが、出席者が20人くらいの程よい規模の研究会といった風情で、悪からぬシチュエーションでした。ワタシの方はいつもながらの話をしただけですが、ちょっと面白く感じた話を少々。

〇その1。ディーン候補の勢いがいつまで続くかについて、「ネットを有効に利用しているというけれども、ネットの支持者が移り気であることは韓国のノムヒョン大統領のその後の失速が示すところ。本当に信用できるのだろうか?」てなことをワタシが問題提起したら、元加藤紘一氏の政策秘書であった植木博士氏が、加藤政局のときの内幕を明かしてくれました。

〇加藤紘一事務所がHPを立ち上げた99年末の時点では、アクセス数は月に2000件程度だったけれど、加藤政局のさなかには1日あたり何十万件にも達したとのこと。そうなるとサーバーを変えなければならず、嫌がらせのウイルス攻撃などもあり、まことに大変であったそうです。この間、加藤紘一氏自身はほとんどメールに眼を通す暇はなかったそうですが、植木さん自身は「ネットの支援者は国民の標準サンプルではない」という印象を持った由。「ネットが政治を変える」というテーゼは、政治の側が積極的に情報発信をするようになったという意味では確かにその通りなのだけれども、有権者が政治を動かすことについては、まだまだ問題大有りということのようです。

〇その2。RIETIの研究員、中林美恵子さんの指摘では、ブッシュ再選は所与の前提として、2004年選挙の真の争点は議会選挙であって、上院で共和党が60議席を越えるかどうかが注目点。60議席を越えちゃうと民主党側がフィリバスターを使えなくなるので、共和党側が法案をバシバシ通せるようになる。そうなると2005〜2006年の米国政治は相当、思い切った政策が可能になる。その反面、行き過ぎもありそうだから、これは実現しない方が良いのかもしれません。

〇その3。モデュレーターの中山俊宏さんいわく。1964年に共和党がゴールドウォーター候補で大敗したときは、「これで負けても仕方がない」という信念で送り出していた。それでも「小さな政府」「強いアメリカ」という信念は揺るがず、ヘリテージ財団を作るなどして保守の再生を目指した。同じようなピンチに立つ民主党は、昨年、歴史的な危機に際し、Center for American Progressというシンクタンクを設立した。だが、それはあくまで党が勝つためであって、守るべき信念が何なのかはよく分からない。民主党の再生は難しそうだ。

〇その4。いろいろ議論して痛感したことですが、2004年の選挙を誰が勝つにせよ、政策の自由度はきわめて小さい。ブッシュの第2期であっても財政赤字の問題からは逃げられないし、ディーン新大統領が誕生したところで即刻、イラクから退場できるはずもない。2000年選挙の時点では、米国新大統領には外交でも経済でも無限の可能性がありました。それが4年後になってみると、誰がなってもたいして政策的には変わらないほどになっている。政治とはまことに玄妙なものです。


<1月11日>(日)

〇台湾にご一緒した谷口智彦さんが、ネット上で連載しているコラム「地球鳥瞰」で、早くも台湾のことを取り上げています。日経ビジネスエクスプレスのHPのフロントページをご参照。2004.01.09 UPDATE「台湾が台風の目」というコラムが出ています。

昨日まで4日間、台北にいた。元タイ大使で外交評論家の岡崎久彦氏が主宰する岡崎研究所と、米国の保守系シンクタンク・ヘリテージ財団、それに台湾の台湾シンクタンクが共催した「米日台三極戦略対話」と題するシンポジウムへ出ていた。

〇思うに、今年はたくさんの選挙が予定されていますが、面白い選挙はそれほど多くない。たとえばロシアの大統領選挙(3月14日)はプーチンの再選がほとんど見えていてつまらないし、インドネシアやフィリピンの選挙は誰が勝っても大差がなさそうだ。その点、アメリカ大統領選挙は、とにかく影響があまりにも大きいから、ブッシュの再選が濃厚であっても十分に面白い。そして台湾の総統選挙は、誰が勝つかまるで見当がつかない上に、結果による影響もはなはだ大きい。今年、、これ以上に面白い選挙はないといっていいでしょう。

〇かんべえは昔から谷口さんのファンです。いわゆる国際派ジャーナリストとして一級であるというだけでなく、文章表現へのこだわり方がなんともいえず素敵だと思います。その谷口さんが昨年、上海に滞在した時期のエッセイを下記のサイトで公開中です。名づけて「跋渉上海」。

http://www.nicchu.com/feature/taniguchi/index.php3 

〇こんな中国紀行はめずらしいと思います。それ以上に、この文章にはハマります。ご堪能ください。


<1月12日>(月)

〇「非合法入国者に対する地位確認」は、再選を目指したブッシュ大統領のクセ球です。例によって、この人が詳しく説明してくれています。とくに1月11日分が参考になります。ご本人も嘆いておられますが、こういうことは日本の大新聞の視野からはスカッと落ちている。

〇たしか来週には大統領の一般教書演説があるはず。ここでブッシュは思い切り「中道寄り」にハンドルを切ってくるだろうと思います。理由は簡単。ブッシュは予備選挙を戦う必要がないから、党内のタカ派に配慮する必要がないのです。1年前の一般教書演説では、「水素エンジンのクルマを作ろう」などという「らしくない」ことを言っていた。今回も差し支えのない範囲で、ハト派のふりをしてくるでしょう。

〇かといって、イラク問題や減税については、さすがに後戻りをするわけにはいきません。今さら急に、「国連重視」というわけにもいかんでしょうからね。そこで格好のネタになるのが、「移民対策」「ヘルスケア」「環境問題」などの国内問題です。とくにラテン系移民に温情をもたらすことは、テキサス、フロリダ、カリフォルニア州などでの戦いを有利に進める上で効果抜群です。

〇とくに問題はカリフォルニア州。あのシュワちゃんが知事選で勝ったことで、「ひょっとすると共和党が取るかもしれない」可能性が出てきた。なにしろ選挙人538人中の55人を占める州だけに、ここを落としたら最後、民主党に勝ち目はない。本来がリベラルな同州は、今でも世論調査をすると共和党支持が42.2%、民主党支持が49.4%と、民主党に約7%のリードがある。そうなると人口の14%を占めるというラテン系有権者の動向が重要になる。今年の夏頃には、ブッシュとシュワちゃんが一緒に得意のスペイン語で、「アスタラビスタ、ベイビー!」とやらかすシーンが見られるでしょう。

〇対する民主党では、いよいよハワード・ディーンがフロントランナーとしての地位を固めつつあります。名高いディーンのブログを覗いてみました。これがそうですが、見るからに多くの人が参加していることが分かります。それと、"The doctor is in. Howard Dean in 2004"というコピーはなかなかにお見事ですね。

〇しかるに左派のイメージが強いディーンが出てきた場合、ブッシュの「穏健派のふり」「ラテン系に優しい」作戦は非常に有効になるでしょう。民主党側としても、その辺の理屈は百も承知しているでしょうが、だからといってこの勢いは止められないのがツライね。


<1月13日>(火)

〇牛肉にはBSE、鶏肉はインフルエンザ、いったい何を食べればいいのか、悩ましい今日この頃です。アメリカのBSE問題について、いろいろ社内で聞き及んだ話を少々。

〇日本国内で消費される牛肉のうち、米国産はおよそ3分の1でその量は年間25万トン。この分が現在輸入が止まっており、2月中には吉野家の牛丼が、それ以外も3〜4月には在庫がなくなるといわれている。そうなるといよいよ事態は深刻。日本の農水省は米国側に対して、「全頭検査またはそれと同等の効果を得られる措置」を求めている。

〇さて、全頭検査なんてできるのかといえば、案の定、大いに疑わしいらしい。なにせアメリカの食肉処理は、日本のように一頭ずつやるのではなく、流れ作業でバサバサと片付けて部位ごとにまとめていく。だからBSEの牛が混じっていたとしても、個別認識が難しいそうだ。「そんなんで、アメリカの消費者は納得するのか?」と心配になるが、どうやらさほど気にしていないらしい。詳しくは下記をご参照。

GALLUP POLL ANALYSES  January 9, 2004

Little Concern About Mad Cow Disease  
By 2-to-1 margin, Americans say problem is minor


http://www.gallup.com/poll/releases/pr040109.asp 

〇アメリカ国民はBSE問題について十分に知らされているが、気にしているのは3分の1程度。そして米国内では、年間1200万トンの牛肉が消費されている。あくまでも国内市場が中心なわけで、この点、わざわざ日本市場向けの牛肉を作っている豪州などとは大いに違う。そんなアメリカが、たかだか25万トン分の日本向け輸出のために、ここだけ全頭検査してくれといっても、果たして聞いてくれるだろうか。

〇ところが面白いことに、アメリカの牛肉生産者にとって、日本向けの牛肉輸出には特別な意味があるのだという。それは「自国では消費されない部分を高く買ってくれる相手」であること。これは納得である。牛丼の原料となるバラ肉、それから焼肉用のタンやレバー、カルビ、ホルモン焼きの原料となる内臓などは、アメリカ国民はあんまり食べない。ところが日本と韓国とメキシコの消費者は、こういう部位の肉を喜んで買ってくれるのだ。

〇そんなわけで、アメリカの輸出業者は何らかの措置を取ってくれるんじゃないか、という見通しもあるらしい。今の時点では何ともいえない話ですが、「食は文化なり」を地で行くような話だと思いました。そんなわけで、今日もロイヤルホストで、USビーフとおぼしきステーキ御膳を食べてしまったワタシ。ああ、タンやカルビも食べたいっ!


<1月14日>(水)

〇お正月ボケというのか、台湾出張後の虚脱症状というのか、連日8時間以上寝てしまう。今宵などは、業界団体の懇親会と、金融関係者の飲み会をハシゴして、家でまたまた一人で飲み始めていたりする。ときに堕落とは楽しいものである。

〇40の坂を登るのはしんどい。30代までは、「あれも、これも」と欲張ることが、まあ許される。40を過ぎるとそんな贅沢ができなくなる。時間もあんまりないし、浮世の義理は増える一方だし、肉体は衰えるし、家族の眼も厳しい。しょうがないから、ときどき古い書類やら何やらを、「エイヤア」と捨てなければならない。そうかと思うと、心ならずもご縁が薄くなる人がいたりする。ということで、年に1度、もう何年も会っていない人から来た年賀状を見ながら、内心で無沙汰を詫びる。形だけですが。

〇要するに、いっぱいいっぱいで生きているから、新しいものを何か入れるときには、その分、古いものを捨てなければならない。ところが、捨てなければならないものが惜しかったり、新しいものが全然欲しくなかったりもする。気がつけば、自分の意思やら選択の余地などというものは、ありそうでどこにもない。なんたることぞ。

〇つくづく「四十にして惑わず」というのは、「四十を過ぎたら、もう惑うなんて贅沢は許されませんよ」といわれているようなものだと思う。私はこの手の中年男的なボヤキを吐き散らしたり、ましてやHPに載せて他人に読ませるというのは、もとより趣味ではない。でも、まあ、たまには良いか。そういう夜だってあるんだよ、ふんっ。


<1月15日>(木)

〇昨年も紹介したバイロン・ウィーン氏の「ビックリ10大予想、2004年版」を入手しました。うーん、今年も「名作」ぞろい。


1. 長期間、隠密裏に続けられてきた、ウサマ・ビンラーデイン探索の努力が遂に実を結ぶ。パキスタンとアフガニスタンの国境地帯で、特殊山岳部隊やヘリコプターを動員しての共同待ち伏作戦が奏功し、隠れ家の洞窟を移動中のビンラーデインが捕捉される。その後の諜報活動により、アルカイダが財政窮乏と組織混乱に陥っている事が判明する。2004年に米国内で大規模な被害をもたらすテロ攻撃は起きない。

2. 力強い経済状況にも拘らず、FRBは2004年中短期金利を据え置く。国際商品価格が続伸する中、生産性の改善が続き、インフレも2003年同様低位安定する。投資家は引き続き中期債の実質利回りが魅力的と感じる。10年物米国債利回りは依然5%を割ったレベルで推移する。

3. 米国の株式市場は堅調さを持続する。S&P500は18%値上がりし1300に到達する。多くの企業はストックオプションを報酬費用として認識し、年金債務を埋めるための費用計上に踏み切るが、それでもS&P500企業の利益は64ドルを超える。世界の投資家たちは米国の類を見ない強さを再認識させられる。双子の赤字と地政学的な混乱にも拘らず、強気筋は更に意を強くし、弱気筋は「バブル再来」と叫ぶ。

4. 米・投資信託業界の慣行についての疑惑に対するメディアの関心が薄れる。ファンド側はコンプライアンス遵守を厳しくし、受託者の側もファンドのパーフォーマンスや手続きに対し監視を強化する。投資家は堅調な株式市場と管理体制の強化を好感し、投資信託運用会社の株式への買い姿勢を強める。Alliance Capital, Marsh & McLennan, Federated Investors が優れたパーフォーマンスを示す。

5. ドイツとフランスはEUに留まるが、「安定成長協定」が両国にとってあまりにも重荷である事を認識し、更なる柔軟性が必要だと主張する。EUの結束が緩み始めたとの批判も起こる。こうした背景、更には米国との金利差のため、EUR/USDは1.05に低下し、ドル弱気筋の失望を招く。欧州投資家は米国株及び国債投資で大幅な収益を収める。

6. 医薬品株をはじめ、大型優良株が市場をアウトパーフォームし始める。共和・民主両党の大統領候補は口々に、膨張する医療費を抑える手段としての新薬開発の重要性を指摘し、高コストがかかる新薬開発に努力している企業は報いられるべしと主張する。Pfizer, Wyeth, Bristol-Myeth Squibbなどがアウトパーフォームする。優良多国籍株が改めて投資家の関心を集める。GE, Microsoft, Honeywell, Coca-Cola, Altriaなどが市場の先導株となる。

7. サウジアラビアの政情が悪化し君主制が危機に瀕する。国民がイスラム過激派への支持を強める一方、原油が減産される。原油価格は40ドルを超え、大型株の中ではConoco Philips とBPがアウトパーフォームする。

8. 金融市場は好調にも拘らず、投資家は株式や債券、さらには為替市場の健全性を疑問視し始める。貴金属では銀が好ましい投資対象とされる。金がオンス当り500ドルに上昇する一方、銀は8ドルに達する。より多くの機関投資家が為替相場下落をヘッジすべく、資産クラスとしての貴金属に関心を向ける。

9. 日本の景気回復の勢いが強まる。これに自信を深めた小泉首相はより積極的に金融改革に取り組み、国境を越えたM&Aに関する規制を緩和する。デフレ圧力は弱まり、設備投資と利益が改善する。日経平均・225種が1万3,000円に達する。

10. 共和党内で7月4日の独立記念日直前に独自の動きが出てくる。チェイニー副大統領が、11月の大統領選で再選を目指すブッシュ大統領の選挙運動には加わらないと発表する。上院院内総務のビル・フリスト議員がその後に座る。ブッシュ大統領は夏場にイラク派兵の規模縮小方針を打ち出すが、これに対しラムズフェルド国防長官とウォルフォウイッツ副長官が、自分たちの仕事はほぼ終わったとして辞任する。


〇1、2、3、5、9には賛成ですね。それから10はないと思いますよ。それにしても、こういうクリエイティブな発想は見習いたいですね。


<1月16日>(金)

〇谷口さんが、本日発行の「地球鳥瞰」で、先週に引き続いて台湾でのエピソードを紹介しています。題して「李登輝氏の気分は東郷平八郎」。とても面白いんですが、惜しいことにこのコラム、日経ビジネスの有料購読者のみのサービスなので、ここで切り貼りしちゃうのはさすがにマズイ。でも、後段のビル・クリストルについて論考している部分は、えいやっと著作権を侵害してしまおう。この「不規則発言」の1月7日分と読み比べていただくのも一興かと思います。


 その前夜、ビル(ウイリアム)・クリストル氏の演説を聞いた。ネオコン・イデオローグの総帥みたいな人であることは、前回も記した通り。

 意外にも押し出しが弱い。身の丈は1.7mそこそこ。声は腹から出ず小さい。気弱で臆病そうとも、偽装的とも見える微笑を2秒おきにたたえる。人を斬る筆鋒のすごみに比べややミスマッチながら、これで実物も六尺豊か、大音声を響かせる偉丈夫だったりしたらもっとコワイ。なーんだと相手に思わせるくらいが、ネオコンマーケティング上、釣り合いが取れてちょうどいいかもしれない。

 お話の中身は、お話にならなかった。後で吉崎達彦氏(日商岩井総合研究所主任エコノミスト)が、「よく分かりました。ネオコンは、モノを知らない」と言ったのに、みなが同意したものである。吉崎氏は本邦ネオコンウオッチャーの先駆けと言っていい人だから、説得力がある(ただし氏は「でも変革期にはど素人が必要なんですよね」とつけ加えた)。


〇ということで、ここで「本邦ネオコンウオッチャー」としてひとこと補足。

〇「ネオコンはモノを知らない」というよりも、「ネオコンは事実に興味がない」といった方が正確だと思います。ビル・クリストルやポール・ウォルフォビッツは、シカゴ大学教授だったレオ・シュトラウスの弟子たちです。シュトラウスはアリストテレスやプラトンを研究していた哲学者。そりゃ、中東の独自の事情などには関心ありませんわな。日本でいえば、最近はとんと見かけなくなった「古典で政治を語る学者」みたいなもの。骨太な正論を吐くけれども、具体論には弱い。でも、そんなことは気にしない。何しろ、自分たちは王道を歩んでいるという信念があるから。

〇中台問題というのは、長い歴史的な経緯の上に、複雑に絡み合った問題です。容易には解けない。「ゴルディアスの結び目」の故事通り、アレクサンダー大王のような人物がやってきて、一刀の元に切り捨て御免、とこう来なくちゃいけない。普通の人はそれができない。「なんとかコミュニケがどうだとか、そんなこと、知ったことかぁ」と言えてしまうクリストルには、やはり常人を超えたところがあるのだと思います。ネオコンというと、マッチョであくどい人たちという印象があるようですが、外見的には「文弱」といっていいかもしれない。

〇話は変わって、本日は当社営業部の客先向け新年会がありまして、講師に今井澂(きよし)先生をお招きしました。題して「2004年日本経済はよくなる!」。これがとても面白かった。カネの取れる講演とは、こういうのをいうのですね。

〇ふと思い出したことがあります。あるとき、マーケット関係の話でちょっとした疑問点が生じて、詳しそうなエコノミストに電話をかけて聞いた。すると先方は、「ああ、その話なら、つい先日、今井先生が聞きに来たよ」。これ、ちょっとショックでしたね。同じアイデアを思いついて、先を越されるのは、どうでもいいのです。私が電話で済まそうとした話を、今井先生は足を運んで聞きに行っている。結構お年だし、昔は大企業の役員をやっていた人なのに、なんというフットワークの軽さ。これは見習わねばなりません。


<1月17日>(土)

〇本日は日経CNBCの公開セミナーでパネリストを務める。粉雪が舞うようなこんな寒い日に、イイノホールが一杯になるんだから、ありがたいというか、お好きな方が多いというか。「米大統領選、世界マネーはどう動くか」というお題でした。これは1月24日夜に放映されますので、よろしければご覧になってください。

〇ポール・オニール前財務長官が、"The Price of Loyalty"という暴露本を出した。これが「蜂の一刺し」になるかもしれないと、ワシントンが色めきだつ動きもあったようだ。しかし暴露をする人は、人格高潔な人か、非常に気の毒な人でなければならない。オニールさんは、けっして評判がよくはなかったし、惜しまれて閣僚の座を去った人でもない。もともとが大富豪だから、辞めたところでちっとも困らない。

〇要するに、アレです。わが国の前の道路公団総裁と一緒です。「オレはこんなヒドイめにあった」と言っても、誰も同情しない。この問題に対するアメリカ国民の一般的な反応を知るためには、いつも通りマンガを見ればよく分かります。オニール氏はロケットで火星に追いやられたり、フセインと同じように扱われたり、「ふん、あれは酸っぱいブドウさ!」と捨て台詞を吐いたりします。

〇それでも反ブッシュ派としては、「ブッシュ政権はこんなにヒドイ」という材料を得て喜んでいるようだ。かのポール・クルーグマン先生は、今週のニューヨークタイムズに、The Awful Truthというコラムを寄稿している。さして新しい話はないのだけれど、個人的にはこの一節に吹き出した。

The money quote may be Dick Cheney's blithe declaration that "Reagan proved deficits don't matter."

〇「赤字は問題じゃない。レーガンのときもそうだった」というんだから、油断なりません。アメリカという国は、海外に借金をしている国なわけで、その国の副大統領が「借金は問題ではない」と言われるのでは、債権国の日本としても頭を抱えたくなります。そういえばオニールは財務長官時代、「アメリカの経常赤字は資本黒字の結果である。どこにも問題はない」と繰り返し、オニール・ドクトリンという言葉が出来たほど。この点に関しては、チェイニーもオニールも似たようなもんです。

〇"Deficits don't matter."という言葉は、ブッシュ政権の経済政策を雄弁に物語っていると思います。共和党の「ハンズ・オフ」思想と、民主党の「ハンズ・オン」思想の間には、分厚い「バカの壁」がある。リベラル派経済学者のクルーグマンはもちろん、われわれ日本人や世界の投資家の大多数は民主党の側に立っている。だから、この手の発言を聞くと、「なんという無責任な態度か」と愕然とする。しかるに壁の向こう側では、「政治家が市場に口を出す必要はない。政府は小さければ小さいほどいい」という信念が幅を利かせている。

〇かつてお父さんブッシュは、1980年の共和党候補者の座を争ったときに、レーガンの減税政策を「ブードゥー経済学」と罵った。その後はレーガン政権下の副大統領を務め、88年に大統領になったら増税に踏み切った。この二人を比べると、赤字を気にしない人は再選されたけど、気にする人は落選したのである。そして息子の方のブッシュは、レーガンとそっくりの大減税政策を実施し、「デジャ・ブードゥー」と呼ばれている。どうやら再選の可能性は高そうだ。

結論:ブードゥー経済学恐るべし。


<1月18日>(日)

〇これは当社の駐在員が送ってくれた「香港版・悪魔の辞典」。なかなかに興味深い。


深せん:香港のとなり町。女にとっては、香港で買ったブランド品を「深せんで買った偽物」と夫に言い訳するための場所。男にとっては、仕事以外で行った場合、常に言い訳が必要になる場所。

中国人:中国語を共有言語とする民族。ただし香港人は除く。

広東語:中国語の一方言。方言なので読み書きの必要はないと信じられており、文盲率は60%を超える。

北京語:職や収入を得るために、やむを得ず嫌々習得する言語。田舎モノと呼ばれる恐れがある上、本土の中国人に敬意を持っていると誤解されるので、上手に話してはいけないとされている。

英語:予想外に通じず、外国人がビックリする言語。

日系企業:ちょっとやそっとではクビにならない楽な職場。

日本人:騙しても騙しても信用してくる恐ろしい人種。

芸能人:今や数少なくなった中国本土向け輸出品。

新聞:英語でしか発行されない印刷物。

お金:人生のすべてであるが、実際に持っている人は少ない。従い、ほとんどの香港人の人生は無意味である。


〇香港人の屈折した心情が窺えます。台湾版はありませんかね? と言ってみるテスト。


<1月19日>(月)

〇本日の首相施政方針演説には、「アメリカ」とか「米国」という言葉は1回も登場しない。わずかにそれらしいことを言っているのは、最後の方で、北朝鮮問題の後に続く以下の部分だけだ。


 日米関係は日本外交の要であり、国際社会の諸課題に日米両国が協力してリーダーシップを発揮していくことは我が国にとって極めて重要であります。多岐にわたる分野において緊密な連携や対話を続け、日米安保体制の信頼性の向上に努め、強固な日米関係を構築してまいります。


〇冒頭、もっとも力を込めた部分、そしておそらくもっとも頻繁に書き直されたであろう「イラク復興支援とテロとの戦い」の部分には、「アメリカ」も「米国」も出てこない。出てくるのは「国際社会の責務」である。自衛隊の派遣は、日米同盟を守るためではなく、「イラクに安定した民主的政権ができることは、国際社会にとっても中東にエネルギーの多くを依存する我が国にとっても極めて重要です」というロジックで説明されている。

〇小泉首相は昨年3月にイラク戦争支持を打ち出したとき、余計なことを言わずに「日米同盟のため」で乗り切った。昨年の3月22日付けの当欄で書いた話ですが、これは正解だったと思います。しかし今回の自衛隊イラク派遣では、この旗を降ろして、一種のきれい事で乗り切ろうとしている。これをどう評価するか。大いに悩ましいところではありますが、これはこれで現実的な判断なのだと思います。

〇実際問題、ここで「対米配慮」を言い出したら、通るものも通らなくなってしまうかもしれない。国内世論は、そのくらい微妙な均衡点にさしかかっている。ひるがえって米国の立場になってみても、日本が自衛隊を派遣するのは国際貢献のためだとしておいてくれた方が、後々、事故がおきたときに恨みを買わなくて済む。諸般の情勢を総合すると、ここは「日米同盟」をあえて言わないほうが得策だということになる。

〇ここでふと思い出すのだが、一昨日の日経CNBCのセミナーにおいては、期せずして3人のパネリストが一致した点は、「円高は進んだとしても100円前後で止まるだろう」だった。なんとなれば、そこまで行けば日本経済はマジでヤバイので、米国が協調介入に応じてくれるだろう、というのである。そして、小泉政権はブッシュ政権に対し、その程度の恩義は売っているはずだ。ほかの経済大国で、日本以上にアメリカに協力している国がどれだけあるだろうか。

〇日本は政治の世界では「イラク戦争支持」から「自衛隊派遣」に踏み切った。経済の世界では、年間に2000億ドルも介入してドルを買い支えている。つまり政治でも経済でも、アメリカに賭けたということだ。アメリカがこけた場合は道ずれになるだろう。ただし、今のところイラク情勢はなんとか許容範囲にあるし、米国経済は予想以上の勢いで回復してる。結果オーライというやつだ。

〇上記の日本の決断は、政治と経済のいずれにおいても、数ある選択肢の中から選び取ったというよりは、「ほかにしょうがないでしょ」で決めたことである。これを危険だとか、構想力に欠けるとか、いろんな言い方で批判することは容易である。その一方で、そうしないよりは百倍マシだったなあとも思う。

〇明日は内外情勢調査会の仕事で秋田に行って来ます。秋田で行くべきところって、どこでしょうかねえ?


<1月20日>(火)

〇今朝、秋田に向かう「こまち」の中で、インターネットのこのページを見て、アイオワ州コーカスで1位ケリー、2位エドワーズという開票速報(EST9:22PM、開票率67%)を見て驚きました。ディーン候補は失速しましたね。民主党の予備選挙は、一気に情勢が混沌としてまいりました。

〇民主党の候補者を説明するときに、下記のように日本の政治家に当てはめると分かりやすいようです。つまり、日本も首相公選制になったと考えて、「アメリカの民主党」=「日本の民主党」と考えて、無理やり当てはめてみました。

  アメリカ大統領選挙 日本の政治家 特色 結果
現職 ブッシュ大統領(共和党) 小泉純一郎首相 負けそうで負けない。しぶとい人気あり。  
  ジョン・ケリー上院議員 鳩山由紀夫衆議院議員 筋目正しい政策通なるも、人気が今ひとつ 38%
  ジョン・エドワーズ上院議員 樽床伸二衆議院議員 経験不足なるも、将来性を買われる 32%
  ハワード・ディーン前州知事 田中康夫県知事 戦争反対。アウトサイダーとして旋風起こす 18%
  ディック・ゲッパート下院議員 横路孝弘衆議院議員 労組の支持強いリベラル派・ベテラン議員 11%
  ジョー・リーバーマン上院議員 小沢一郎衆議院議員 民主党内で一番のタカ派  
  ウェズリー・クラーク元NATO司令官 久米宏(キャスター) 変わりだね。なぜここにいるのか、よく分からない  
黒幕 アル・ゴア元副大統領 菅直人衆議院議員 前の選挙で小泉に敗れ、現在は雌伏中  
大穴 ヒラリー・クリントン上院議員 田中真紀子衆議院議員 知名度なら随一。現職を倒せる唯一の選択肢か?  


〇日本で「打倒、小泉!」を考えた場合、どう考えたって上の顔ぶれでは力不足というものでしょう。唯一、真紀子さんならば、大番狂わせもあり得るかもしれない。良くも悪くも、これが今年のアメリカ大統領選挙のいつわらざる姿である。

〇それでは、日本の民主党4氏に、皆さんのご感想を聞いてみました。

鳩山由紀夫氏「ふー、やっと勝てたか。それにしても、なんでこんなに苦労するんだろう。菅直人が出ないのだから、すんなりお鉢が回ってきても不思議じゃないのになあ。でも、さすがに運が回ってきたかもしれないぞ。やっぱり小泉さんに勝負を挑めるのは、俺しかいないって」

樽床伸二氏「候補者同士の叩きあいに参加しないでいたら、いつの間にか追い風が吹いた。正直、今回は練習だと思っていたから、これは出来すぎだなあ。それにしても、あきらめなくてよかった。この調子だと意外や意外、自分の出番がやってくるかも・・・・」

田中康夫氏「どうなってるのよ。しんじらんない。ほかの人たちなんて、いつもモーニング娘。みたいに大勢で取材されてて、ピンでテレビに出てたのは僕だけだったのに。ねえ皆さん、本当にあんな人たちでいいの?」

横路孝弘氏「やはり俺の時代は終わったか・・・・」

〇アイオワ州コーカスの位置付けは、「弱者をふるい落とす」ことにあります。得票が30%を越えた二人は、文句なく有力候補としての位置を確保しました。他方、地元、ミズーリのお隣の州で負けたゲッパートに明日はありません。微妙なのがディーンの立場で、来週のニューハンプシャー州予備選は、地元バーモントのお隣だけに善戦が期待できる。しかるにニューハンプシャー州は、ケリーの地元、マサチューセッツ州にも近い。ここで負けると、ディーンの2004年は終わりということになるでしょう。

〇しみじみ感じるのは、「ネットで得た支援は急速に集まるが、去り始めるのも早い」ということです。ディーンのブログは、確かにすごい勢いで有権者の声を集めていたけれど、先週くらいからスピードが落ちてきた。それが見るものに分かってしまうというのが、ネットの恐ろしさです。やはり選挙活動は体を動かしてナンボの世界であって、マウスをクリックすると政治が変わる、などという幻想を追ってはいけないのだと感じます。

〇アイオワ州をパスして、次の機会を待っているリーバーマンとクラークにとっては、追撃する相手がディーンではなくてケリーになったのでは、非常にやりにくくなったといえるでしょう。ただし最終的な決着がつくのは3月2日のスーパーチューズデー。南部を制するものが大統領選挙を制する。まだまだ番狂わせがありそうです。いや、選挙は本当にわけがわからない。

〇ということで、本日は秋田に宿泊。川反と呼ばれる繁華街まで歩いて、当HP愛読者の方にお薦めいただいた「紀文の千秋麺」を食べてきました。あっさり味のスープに細めんで、差別化が難しいこの手のジャンルのものとしては完成度の高いラーメンでした。ではまた明日。


<1月21日>(水)

〇秋田県はとても広いんです。本日は県内第2の都市である大館市に行ったんですが、特急で片道1時間半。それを往復して、ふたたび「こまち」に乗って帰ってきました。

〇で、ブッシュ大統領の一般教書演説については、新幹線の中で読んできました。ホワイトハウスのHPにあった全文を、WORDに貼り付けてみたのですが、ツールの中にある「文字カウント」機能を使ってみると、全部で5284語になります。筆者の手元にあるデータによれば、2000年に行われたクリントンの最後の一般教書は約9200語ですから、やや短めといえるでしょうか。この方法で計算すると、(Applause.) も一語にカウントしますから、以下の数字は正確なものではありません。念のため。

〇全体を適当に分類してみると、以下のような構成になっているようです。


(0)冒頭あいさつ 73語(1.4%)

(1)安全保障
  @テロとの戦い 569語(10.8%) 「アメリカはテロに対して攻勢に出ている」
  Aイラク戦争 1664語(31.5%) 「フセインの支配は終わり、イラクの人々は自由になった」

(2)国内経済
  @減税 256語(4.8%) 「国民の方が政府よりもお金の使い方を良く知っている」
  A教育 407語(7.7%) 「落ちこぼれの子供を作らない」
  B経済 483語(9.1%) 「次の5年間で財政赤字を半分に」
  C医療 521語(9.9%) 「政府所管の健康保険制度は間違った処方箋だ」

(3)社会的価値
  @子供 496語(9.4%) 「青少年の麻薬対策、禁欲指導」
  A結婚 150語(2.8%) 「結婚の神聖さを守る」(同性愛同士の結婚を認めない)
  B宗教 373語(7.1%) 「宗教団体の慈善行為に対して前向き姿勢」

(4)結語 292語(5.5%) 「10歳の少女からの手紙」(いわゆる、泣かせどころ)


〇こうして見ると、突出して長いのが、全体の3割を越えるイラク関連の部分です。いわゆる「説明責任」を果たそうという意欲が見られます。特に、イラク戦争に疑念を持つ人々からの代表的な質問を4つ取り上げ、そのそれぞれに反論を行っている。「テロは戦争じゃなくて、犯罪ではないのか」「イラクの解放という考えは間違っているのじゃないか」「もっと他国と協力すべきじゃないか」「中東の民主化なんて本当にできるのか」の4点。

〇このうち、「他国との協力」という点に対して、友好国の名前を挙げている部分では、以下のような順序で列挙しています。

Some critics have said our duties in Iraq must be internationalized. This particular criticism is hard to explain to our partners in Britain, Australia, Japan, South Korea, the Philippines, Thailand, Italy, Spain, Poland, Denmark, Hungary, Bulgaria, Ukraine, Romania, the Netherlands -- (applause) -- Norway, El Salvador, and the 17 other countries that have committed troops to Iraq. (Applause.)

〇ほれほれ、日本は3番目になってますぞ。かねてからの、「英、豪、日はアメリカ幕藩体制下の親藩=御三家」という仮説が、はからずも立証されているようでもあります。日本はイラクじゃたいしたことしてないんだけどなあ・・・。ここでは独仏はもちろんのこと、ロシアと中国の名前が上がっていないことに注意しておくべきでしょう。

〇また、「中東の民主化」については、I believe that God has planted in every human heart the desire to live in freedom.などと、神様を持ち出してみたり、As long as the Middle East remains a place of tyranny and despair and anger, it will continue to produce men and movements that threaten the safety of America and our friends.と、いかにもネオコン的なことを言っています。そしてこのパートの締めくくりはこう来る。典型的な「アメリカ例外主義」の思想です。

America is a nation with a mission, and that mission comes from our most basic beliefs. We have no desire to dominate, no ambitions of empire. Our aim is a democratic peace -- a peace founded upon the dignity and rights of every man and woman. America acts in this cause with friends and allies at our side, yet we understand our special calling: This great republic will lead the cause of freedom. (Applause.)

〇「帝国の野心はない」と言っておきながら、「われらは世界に自由を導く特別な天命を持つ」とおっしゃる。「そーゆーのを帝国と言うのっ!」と突っ込みを入れてあげましょう。・・・・・全然、聞いてくれませんね。ハイ、ほっといて次行きましょう。

〇北朝鮮に対しては何と言ったでしょうか。

Different threats require different strategies. Along with nations in the region, we're insisting that North Korea eliminate its nuclear program. America and the international community are demanding that Iran meet its commitments and not develop nuclear weapons. America is committed to keeping the world's most dangerous weapons out of the hands of the most dangerous regimes. (Applause.)

〇だ、そうです。2002年の一般教書演説で「悪の枢軸」と名指しされたイラク以外の他の2国は、「イラクとは違う脅威だから、違う戦略で臨んでいる」(戦争ではなくて外交で済ませる)とのこと。うーん、ちょっと複雑だぞー。

〇その他の「国内経済」と「社会的価値」の部分については、子供たちや宗教団体についての言及の多さが、いかにもブッシュ節です。この辺は、昔から読み慣れている人にはピンと来るところですが、そもそも日本の新聞などではスカッと省略されるところでしょう。その反面、経済問題に関する部分はいかにも言葉足らずです。

〇結婚の章については、少々説明が必要でしょう。先般、マサチューセッツ州の裁判所が同性愛者同士の結婚を認めたことで、全米の草の根保守派は、「それじゃあ、同性愛者の結婚を認めないように憲法修正だあ」と怒っている。ブッシュが何と応じるかが注目されていたのだが、以下の応え方はなんとも含蓄に富んでおります。

Activist judges, however, have begun redefining marriage by court order, without regard for the will of the people and their elected representatives. On an issue of such great consequence, the people's voice must be heard. If judges insist on forcing their arbitrary will upon the people, the only alternative left to the people would be the constitutional process. Our nation must defend the sanctity of marriage.

〇結婚の神聖さ(結婚は男女間でなければならない)は守らねばならぬ。Activistの判事たちはケシカラン!と言ってるわけですが、あくまでも条件付きで、憲法修正プロセスも若かず、と言っている。ここが微妙なところで、含みを残している。おそらく夏頃になったら、この手の社会問題については寛容な態度を示すんでしょう。その上で、同性愛者の権利には寛容なシュワちゃんと一緒に、カリフォルニア州を行脚するんじゃないでしょうか。選挙に勝つためとあれば、何でもやりますって。

〇最後の締めくくりは、子供が大統領に宛てた手紙という、いかにも「泣かせ」のエピソードを使っている。かんべえはこの話は、いかにも「ヤラセ」じゃないかという気がするが、これはまぁ、一般教書演説としては「吉例」みたいなものであって、その辺はいいっこなしでしょう。賭けてもいいが、こういう部分は日本の新聞は載せない。だからあんまり知られないのだけれど、アメリカの大統領というのは、こんな味わいのあることを口にするのである。ご面倒でも、ちょっと読んでやってくださいませ。

Last month a girl in Lincoln, Rhode Island, sent me a letter. It began, "Dear George W. Bush. If there's anything you know, I, Ashley Pearson, age 10, can do to help anyone, please send me a letter and tell me what I can do to save our country." She added this P.S.: "If you can send a letter to the troops, please put, 'Ashley Pearson believes in you.'" (Applause.)

Tonight, Ashley, your message to our troops has just been conveyed. And, yes, you have some duties yourself. Study hard in school, listen to your mom or dad, help someone in need, and when you and your friends see a man or woman in uniform, say, "thank you." (Applause.) And, Ashley, while you do your part, all of us here in this great chamber will do our best to keep you and the rest of America safe and free. (Applause.)

My fellow citizens, we now move forward, with confidence and faith. Our nation is strong and steadfast. The cause we serve is right, because it is the cause of all mankind. The momentum of freedom in our world is unmistakable -- and it is not carried forward by our power alone. We can trust in that greater power who guides the unfolding of the years. And in all that is to come, we can know that His purposes are just and true.

May God continue to bless America. (Applause.)

(追記)

〇そうそう、これを忘れるところだった。一般教書演説に関して、とっても「へぇ〜」な話をひとつ。出典はCNNのサイトから。

Four members of Congress -- two Democrats and two Republicans -- did not attend the president's address, following the wishes of congressional leaders who said they had to consider the possibility of a catastrophic attack on the Capitol.

The president routinely keeps one member of his Cabinet from entering the House chamber for the speech, a practice followed by Congress since the terrorist attacks of September 11, 2001.

〇昔の阪急ブレーブスは、選手が移動するときはいつも2つの飛行機に分乗させていたそうです。飛行機が落ちると、チームそのものがなくなっちゃうからという理由で。それにしても、閣僚が1人と議員が4人だけ生き残ったアメリカという事態を考えてみると、トム・クランシーの小説の世界はすぐ近くまで来ているという感じですね。あな、おそろし。


<1月22日>(木)

〇昨日一昨日と長編大作を書いたので、今日は短く。とっても笑えるURLを2つ。

●この中に一人・・・

http://anoyoroshi.hp.infoseek.co.jp/flash/omaeda.swf

〇このギャグ自体は知ってたんですけどね。なかなかいい味です。

●京都大学の被害

http://euro2002.hp.infoseek.co.jp/orita_sense01.html

〇これはすごいと思います。いやはや。

〇上のふたつ、何の関係もありません。たまたま教えてくれた人がいただけで。いずれも秋田のホテルで笑い転げたんです。


<1月23日>(金)

〇やっとのことで、『迷走する帝国〜ローマ人の物語12』(塩野七生)を読了する。まとまった感想は後ほど考えるとして、つい線を引いてしまった個所を抜き出しておきましょう。

●(ローマ市民権の問題)人間はタダで得た権利だと大切に思わなくなる。

●現実主義者が誤りを犯すのは、相手も現実を直視すれば自分たちと同じように考えるだろうから、それゆえに愚かな行為には出ないにちがいない、と思い込んだときなのである。

●継続することがエネルギーの浪費を防ぐ方法のひとつである。

●五賢帝時代でさえもローマ帝国には、西方と東方で同時期に大規模な戦争をやる余裕はなかったのだ。

●人間世界では、なぜか、権威失墜の後に訪れるのは、残されたもの同士の団結ではなく、分裂である場合が圧倒的に多い。

●同性としては毎度の事ながら残念に思うのだが、女とは権力を手中にするやいなや、越えてはならない一線を越えてしまうのである。

●「パクス・ロマーナ」が完璧に機能していた時代のローマ人には、キリストの教えは必要なかった。

〇あの広大なローマ帝国が、わずか20万の軍隊で守られていたということは、今から考えると本当に奇跡のことのように思えます。このシリーズとは長い付き合いですが、いよいよ残りは3冊。次はディオクレティアヌス帝とコンスタンティヌス帝ですか。それもまた楽しみです。


<1月24〜25日>(土〜日)

〇かんべえは怒っている。『七人の侍』と『ゴジラ』と並ぶ、あの日本映画の名作を、こともあろうに中居正広ごときを主演にして、さらに犯人の動機(ここがいちばん肝心)を変えてまでリメイクしてしまうという、TBSの暴挙に対してである。なんという想像力の欠如であろうか。1974年の野村芳太郎監督の作品を越えることなど、絶対に不可能に決まっておる。

〇どうせなら、こんな風にしてはどうか。以下はかんべえが考えた「砂の器、現代政界編」のストーリーである。(ネタばれ注意)



●X月X日早朝、JR九州、博多駅構内に扼殺死体が発見された。被害者の年齢は五十〜六十歳だが、その身許が分らず、捜査は難航をきわめた。丹波哲郎刑事と森田健作刑事らの必死の聞き込みによって、前夜、博多駅前のバーで被害者と酒を飲んでいた若い男が重要参考人として浮かび上った。そしてバーのホステスたちの証言で、二人の間に強い英語なまりで交わされていた「カメイドは変わりませんか?」という言葉が注目された。

●カメイド……全国の亀戸さんや亀井戸さんが捜査の対象となったが、該当者はいなかった。次に地名の連想から、丹波は森田とともに総武線亀戸駅に飛ぶが、手がかりは発見できなかった。その帰途、二人は総武線の中でテニスプレーヤーの古賀英良に会う。古賀はトーナメントの帰りらしく、女性たちの人気の的になっていた。古賀はつい先日、ベテラン議員を破って国会議員に当選し、政界進出を果たしたばかりであった。

●X月X日。被害者の息子が警察に現われた。だが被害者の日系人、ジェームズ・三木の住所は、捜査陣の予測とはまるで方角違いのカリフォルニア州ロサンゼルスであった。被害者の知人にも、付近の土地にも「カメイド」は存在しない。しかしそれも丹波刑事の執念により、ロサンゼルスのリトル・トーキョーに、「亀田」(カメダ)なる日本料理店があることが分かった。英語訛りではこれが「カメーダ」に聞こえる。そしてジェームズ・三木はかつて、そこで二十年間、板前をしていたのだ……。

●丹波は勇躍、ロサンゼルスへ飛んだ。そして三木と親友だった老人から何かを聞きだそうとした。「わざわざ遠方まで起こしいただいてご苦労なことです。しかし、この日本人社会であの人に恨みを持つようなものは・・・」。三木はリトル・トーキョーではだれ知らぬ者のない人格者であったのだ。

●丹波は被害者が犯人と会う前の足跡を調査しているうちに、妙に心にひっかかる事があった。それは三木が東京への観光旅行中に国会議事堂へ二日続けて行っており、その直後に旅行の予定を変更して急に博多へ出かけているのだ。そして、議員会館を訪ねた丹波は重大なヒントを得た……。

●ロサンゼルスでの三木の経歴を詳細に綴った報告書が届いた。その中で特に目を引いたのは、三木が現地の大学をドロップアウトしかかった哀れな日本人学生を世話し、英語を教え、店で皿洗いをさせるなど、親代わりのように面倒を見ていたことだった。しかしその学生は、現地のペパーダイン大学をとうとう卒業できず、そのまま姿をくらませていたのだった。

●その学生の足跡を追う一方、古賀英良の選挙区である博多へと丹波は駆けめぐる。今や彼の頭には、ロサンゼルスの大学を追われつつも、日本に帰ってから「テニスプレーヤー」と「海外生活15年」を売り物にしつつ、若手の人気政治家、古賀英良として成り上がった男のプロフィルが、鮮やかにダブル・イメージとして焼きついていた。

●事件のネガとポジは完全に重なり合った。東京への観光旅行に来たジェームズ・三木は、国会議事堂にあった写真で思いがけず発見した元ペパーダイン大学学生=古賀英良に会うべく博多に向かった。しかし古賀にとって三木は、自分の情けない過去を知っている忌わしい人物だったのである。

●古賀英良に逮捕状が請求された。彼の全人生を賭ける立会演説会が、巨大なホールを満員にして行われるまさにその日だった。逮捕状を手にした二人の刑事はこう語る。

森田健作刑事― 丹波さん、古賀はアメリカの大学を出たかったんでしょうね。
丹波哲郎刑事― そんなことは決まっとる。彼にはもう、経歴、経歴の中でしか卒業できないんだ。



〇参考資料

●キネ旬データベース:砂の器 http://www.walkerplus.com/movie/kinejun/index.cgi?ctl=each&id=28578 

●古賀潤一郎代議士について http://www.geocities.jp/dinepepper/ 


<1月26日>(月)

〇明日の夜がニューハンプシャー州予備選。日本時間で明後日の午前中には結果が分かっていることでしょう。世論調査はいっぱい出ていて、「結果に差し支えるかもしれない」という配慮はまったくされていないようである。まあ、ここはニューハンプシャー。4年に1度、長丁場の前途を占う格好のサンプルとなって、全米の脚光を浴びることを州是としているお土地柄なのだから。(冗談抜きに、州法で「全米に先駆けてプライマリーを実施する」と定めている)

〇例によってギャラップ社の世論調査を見てみよう。

http://www.gallup.com/poll/releases/pr040126.asp 

〇1位ケリー、2位ディーン、3位はクラークとエドワーズとリーバーマンが横一線となっている。仮にこの通りになるとしても、何ポイント差になるかで結果は大きく違ってくる。特に横一線の3者の順位は微妙なところ。アイオワ州の仕事が弱者を足切りすることであるとすれば、ニューハンプシャー州の仕事は強者にモメンタムをつけることだ。この踏み切り台を上手に使うのはいったい誰か。

〇ケリーが人気を集めているのは、「当選可能性(Electability)」の高さを評価されてのこと。たしかにこのメンバーでは、もっとも安定感がある。ベトナム戦争の従軍経験もお値打ち。クラークのような将軍ではなく、あくまで兵卒として参加したという方が、退役軍人たちには受けるはずだ。今日、初めて知ったのだが、ケリーはハインツ上院議員の未亡人と結婚しているのだとか。ハインツ上院議員は1991年秋に飛行機事故で死んだが、あのケチャップの「ハインツ」一家の人である。つまりお金はタ〜ンとある。今のところ、キャンペーン用の「公的資金」を不要としている候補者は、ディーンとケリーだけだ。

〇少し気が早いが、民主党は「ケリーとエドワーズ」だといいTicketになりそうな気がする。「北東部と南部」「ベテランと若手」「外交通と内政通」「名家の出と苦学生」という対照性の妙がある。弁舌はどちらもさわやか。「ブッシュ対ケリー」はもちろん、「チェイニー対エドワーズ」も面白い対決になるだろう。もちろん、そんな風になるかどうかは先の話だが、ディーンが旋風を巻き起こしていた時期に比べると、共和党はずいぶんやりにくくなったのではないか。

〇今週のThe Economist誌などは、はっきりそう書いている。(A real Iowa surprise)

Mr Bush would surely prefer to run against the angry Mr Dean rather than against the credible Mr Kerry or the attractive Mr Edwards.

So Iowa is probably bad news for Mr Bush; but it is good news for the United States. This president has done good things, to be sure; but he has also made mistakes in everything from rebuilding Iraq to promoting a pork-laden energy bill to introducing steel tariffs.----

In Iowa, the Democrats seem to have come to their senses--and the whole world should gain from it.

〇民主党にとってはまだまだ先は遠くて、せいぜいブッシュの単勝倍率1.5倍が1.7倍くらいに下がったというくらいでしょうが、そうやって現政権にプレッシャーをかけるだけでもアメリカ全体、ひいては世界全体にとってもいいことだというのです。卓見ですね。


<1月27日>(火)

〇諸般の事情で、今宵は尾道市に宿泊しております。なんでかというと、この人の計らいだったりするわけですが、とてもいい場所を教えていただいたという気がしております。頃合いの規模の街で、人々がとてもアットホームな街です。

〇先週は雪の秋田。今週は温暖な尾道。なんとも大変なギャップです。人々の気質も、食に対する嗜好も違う。日本という国はつくづく狭いようで広いと思います。

〇こちらでは講演会をやりましたが、ひとつだけ教訓。尾道のように造船業がある街においては、為替レートの動向に関する発言が欠かせない。この点では、筆者はドル高への転換点が近いという見方をしておりますので、この点をもっと強調しておけばよかったかな、などと感じております。円高を警戒している人は多い。それから中国経済への関心も高い。心しておきましょう。


<1月28日>(水)

〇ニューハンプシャー州の結果はこの通りでした。かんべえの感想はこんな感じかな。

@ケリーが2位ディーンに10P以上の差をつけた。この差はかなり大きい。おそらく少なからぬ共和党員が、面白がってディーンに入れていると思う。ニューハンプシャーはオープン・プライマリーだから、党員以外でも参加できるというところがミソ。

Aクラークとエドワーズは限りなく僅差の3位。ということは、やっぱり後半戦のエドワーズは有望。2月3日のスーパーセブン(ビッグチューズデー)では、サウスカロライナ州が焦点。ここはエドワーズが着々と仕込みしている。逆にケリーは、南部での活動をほとんどしていない。

Bこれから南部戦略の出番ですが、ここで重要になってくるのは、レースを降りてしまったゲッパート、そろそろ引き際が大事なリーバーマンなどが、「生き残った中の誰を支持するか」。ゲッパートはもう完全に政界引退モードですが、彼を支持していた組合の組織票が誰のところに行くかは重要なポイントだと思います。

〇ところでディーンとしては、アイオワ州党員集会後の「絶叫演説」が祟りました。どんなことを言ったかは、下記のとおり。

●CNN Dean:"We have just begun to fight."http://edition.cnn.com/2004/ALLPOLITICS/01/20/elec04.prez.dean.tran/index.html

〇別に変なことを言っているわけじゃないんです。でも、読むだけでもちょっと切れかかっている感じでしょ?

And you know something? You know something?

Not only are we going to New Hampshire ... we're going to South Carolina and Oklahoma and Arizona and North Dakota and New Mexico, and we're going to California and Texas and New York. And we're going to South Dakota and Oregon and Washington and Michigan. And then we're going to Washington, D.C. To take back the White House.
Yeah!

〇あまりにもインパクトありすぎ。メディアにとってはおいしすぎるネタです。で、ワイシャツを腕まくりして、この「イェ〜イ」とやっているディーンの映像を、ニューハンプシャー州の人たちは百回、というのは大げさだが、「半分以上の人が5回以上見た」とギャラップの調査が伝えている。ほとんど古賀議員の涙の街頭演説みたいなものでしょう。かくして、こんなものが出来てしまった。

●クレイジー・ディーン http://cagle.slate.msn.com/ http://cagle.slate.msn.com/news/CrazyDean2004%20copy/main.asp 

Howard Dean Yeagh! Remix  http://homepage.mac.com/lileks/.Public/Yeagh.mp3

Howard Dean Funky Remix  http://homepage.mac.com/jonathanbarlow/.Public/howarddean.mp3

〇これじゃあ、勝てないでしょう。その反面、こんな風にマンガになって大きく取り上げられるような候補者が、ディーン以外には見当たらないというのがツライところでもある。ケリーやエドワーズはマンガにしにくい。ディーンのように「キャラの立った」候補者を、民主党側がうまく使えるといいのですが。


<1月29日>(木)

〇今週末分の日経CNBC『マネー&ワールド』の収録。テーマは台湾で、またまた谷口智彦さんとご一緒。3月20日に行われる総統選挙の意味の大きさを訴える。キャスターの中嶋健吉つぁんが終わってから、「面白かった!」と言っていたくらいなので、乞うご期待。個人的には、「中国は年間100トンずつ金を買っている」という谷口さんの指摘を興味深く感じました。これだと金相場は相当に強そうですね。

〇まるで関係のない話なんだけど、最近、このページのホスティングサービスの会社のコントロールパネルが新しくなった。その結果、ログ解析のデータも充実したので、新たなことがいくつか分かった。この溜池通信には、平日だと1日に2000人以上の人が訪れるんですが、ログ解析によると「そのうち75%の人は30秒以内に去っていく」ことが分かる。意外に短いものだな、と思う一方で、「1時間以上」という人が1.5%もいるというのは、いったい何を見ているんだろう?と不思議になる。

〇いちばん多いのは、「朝の8〜10時頃、まずフロントページにアクセスして、さくっとこの不規則発言だけを読み、すぐに去っていく」というパターンのようである。なるほど。考えてみれば、自分もycasterなどを覗くときはそうやっている。察するに、皆様、常連客ということですな。新聞やら仕事の資料やら、眼を通さなければならないものはたくさんあるはずなのに、この手のHPをパラパラと見て回る。そういう習慣を持つ人が増えているということなんでしょう。

〇それにしてもログ解析をすると、結構、いろんなことが分かるのです。たとえば、これを覗いている方のうち9割がWindows機をご使用中です。リナックスも若干ながら入っているようですね。ねこやんさんが、2日前のサイトでリンクを張ってくれたなんてことも、ちゃんとチェックしましたぞ。それにしても、皆さん、朝の30秒間で何を期待しているのでしょう?


<1月30日>(金)

〇ワシントン筋の情報によれば、ハワード・ディーン氏はキャンペーン・マネージャーを更迭。ゴア前副大統領のスタッフを代わりに登用し、体制の建て直しを図っている模様。ところが、あれだけ潤沢にあったはずの選挙資金が、手元に500万ドル程度しか残っていないことが判明。キャンペーン・スタッフを全国で500人も抱えているために、毎月2〜300万ドルの維持費がかかるらしい。給与支払いが2週間の凍結というからシャレにならない。戦線離脱は意外と早いのかも。

〇となれば、次の焦点は2月3日のスーパーセブン。南部が多いのでエドワーズ善戦かと思ったが、ケリーがダントツ状態になりそうな感じになってきた。ここを見ると、0.7ドルとほとんど独歩高である。エドワーズとしては、仮に2月3日のサウスカロライナでケリーに及ばないようなら、早めに撤退して「副大統領狙い」に転じた方がいいという計算も働く。民主党予備選、急展開かも。


<1月31日>(土)

〇時間ができたので、久しぶりに映画に行きました。ちょっと迷ってから、『ラストサムライ』を。この映画、台湾では『末代武士』という題名で公開されていた。『最終的武士』ではなくて、末代、というところがいいよね。

〇しかし、だ。この映画はヒドイ。ほーんと、ひどかった。日本の文化や明治の歴史に対する誤解がある、というのは別に構わない。あまりにも単純な勧善懲悪で、ドラマが薄っぺら過ぎるのである。主人公が異文化に飛び込む物語としては、『ダンス・ウィズ・ウルブス』があるが、あっちを100%としたら、こちらは30%以下の出来。こんなレベルで、渡辺謙にアカデミー賞をやってはいかんです。ああああ、上海馬券王先生の言う通り、『シービスケット』にしておけばよかった。

〇ところで武士道とは何ぞや。いろんな解釈はあるかと思うが、かんべえが最近読んだ文章の中で、「これぞ武士道!」と感じたものをご紹介しておこう。舞台は1947年の台湾。2・28事件が起きてすぐ後、高雄で起きた光景である。


●私が体験した二・二八事件  周英明 (談)  2002年5月1日

http://www.wufi.org.tw/jpn/yinming228.htm 

なに事か?と思ったら、それは結局どういう事かと云いますと、北部から要するに銀行の金をさらったとか、何処かで掠めた物とかをしっかり担いで、そして皆そのいわゆる外省人がですね、中国人が南にどんどん逃げて来ている。此れは鉄道の情報で伝わるのですね、だから、そう云う奴は決して見逃さないぞ…と云う事なのです。それでその辺や駅前広場で物売りをしたり、屋台をして居たりする人達が天秤棒持って待ち構えて居る、其処へ私、登校時に通り掛かったら、丁度その時、一人改札口から出て来たのです。私が見たのは、その一人ですが、他にも居たのだと思います。

最初に出て来た奴は今になって思うと、ちょっと可哀相な…と云う気もしますが、あの頃は子供心にも凄い敵愾心がありましてね「もう当たり前だ!」てな感じでした。その出て来た奴は、それが何か本当にパリッとした背広を着てですね、そして本当に札束が詰まっている様なジュラルミンの鞄と云うかケースを持って、本当にマンガか映画そのもの的な格好をして、如何にも大金を何処からかせしめて南に逃げて来た感じなのです。

今はもう、そうでも無くなったのですが、あの頃は一目見れば此れは台湾人か中国人か判る時代なのです。それで改札口を出た途端に、ウワァーッと皆が襲い掛かった。そうしたらそいつは必死になって逃げた。只そのジュラルミンの箱だけは放さないのですよ。随分重たそうなやつをですね、駅前広場を一生懸命逃げて、とうとう追い詰められて、殴られて、其処でへたばって仕舞ったのですが、へたばった其奴に群衆が「そのトランク開けてみろ!」と言うのです。私は皆と輪になって見ていたら、何と、そのジュラルミンのトランクぱっと開けたら、それこそあの映画でやっている、あれと同じですよ。銀行強盗の手の切れる様な札束、ずらっーと並んでいる。あんな光景本当に実物として初めて見たのですがね、其れを、其のトランクを全部ひっくり返して、そうしたら札束が山積みになったところで、「よし!火を点けろ!焼いちゃえ」と言って誰かがマッチを擦って燃え始めた。

私ね、私の家、貧乏でねぇ「勿体無いなぁ…」と思ったけれど、さすがに同じ様に思った人も居たのですね多分、囲んでいた人や燃やしていた人にもね、其処で其の人が何と言ったかと言うと、「ここに誰か乞食は居るか?、乞食なら取っても良いぞ…乞食は居るか?」いや実は、当時台湾は本当に疲弊していまして、街に乞食が沢山居たのです


「乞食は取ってもいいぞ…」そしたらですね、あれだけ沢山居た人の誰一人として手を出さない、誰も手を出さないのですよ。皆そこで、じーっと燃えて行くのをね、灰になるのを見ていた。私は大分大きくなってから「あれは立派なシーンだったなぁ」と思いました。本当にもう、あの中のお札の一枚か二枚でも有れば、本当にもう一週間ぐらい何か食えると云う様な、そんな人も沢山居た筈なのに、誰一人手を出さない。やはり一つのプライドですね、「自分達はそんな泥棒・強盗のたぐいじゃないのだ…と、自分達は大義の為にやっているのだ。」とそう云うプライドが、その人達には漲っていたと云う感じでした。


〇燃えていくお札を前に、誰も手を出さない。こんなシーンは、地球上でも昔の日本と台湾以外にはあり得ないかもしれません。「武士は食わねど高楊枝」。こんな言葉は最近じゃ死語ですけど、これを読んだときは、最近のわが身を省みて、いささか恥ずかしくなった最近のかんべえである。













編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki