●かんべえの不規則発言



2021年6月






<6月1日>(火)

〇昨今、心に残ったひとこと。


「中国が言っていることは、10のうち8つまでは正しい。だが、残りの2つについても間違いがない、と言い張るから、8つの部分も怪しく思われてしまう」

――広報の鉄則であります。みずからの無謬性を主張することは、大きなコストを伴うことが少なくありません。


「魔女狩りが始まっているときに大事なことは、それを止めることではなく、まず自分が魔女に間違えられないことである」

――大人の知恵というものは、ときに残酷に響くことがあります。とはいえ、命あっての物種であります。


「人の上に立つ人は知性がなくてもかまわない。ただし他人の知性への敬意がないとさすがに困る」

――誰とは言いませんけれども、結構いろんな場所で「あるある」ではないかと。


「1970年代のカンボジアでは200万人が死んだ。それでもフン・センはポル・ポト派をある程度不問に付した。ところが今はミャンマーの200人の死者が許されない」

――映画『キリング・フィールド』の時代は、そんなに遠い昔のことではありませぬ。これって進歩なんでしょうか?


〇さて、あらためましてお願いでございます。朝日カルチャーセンター千葉教室のセミナー、2週間後の土曜日となりました。


●かんべえ・吉崎達彦の眼 〜“コロナバブル”の先には?


日程    :2021/6/12
曜日・時間:土曜 13:00〜14:30
受講料(税込):会員 3,190円 一般 3,740円


〇有料ではございますが、目一杯サービスする所存でござります。お申込み、歓迎いたしまする。


<6月2日>(水)

〇朝から晩まで、「ワクチンが、ワクチンが・・・」と言っているような昨今である。でも、ハッキリ言ってわが国は恵まれた状況です。昨日時点で接種した人たちは、医療従事者等779万人、高齢者等620万人、〆てもう総人口の1割を超えておりまする。動き出すまでは長いのですが、勢いがつくとこの国は早いのです。


●官邸HP 新型コロナワクチンについて


〇なんといっても、米国モデルナ社ワクチン5,000万回分、英国アストラゼネカ社ワクチン1億2,000万回分、米国ファイザー社ワクチン1億4,400万回分の合計3億1,400万回分の供給を受けることについて、既に契約締結に至っている点は強い。ワクチンの確保がままならない国から見れば、ほとんど左うちわに見えることでしょう。「打ち手が足りない」とか、「予約が取れない」とか言っているのは、自業自得なのでありまして、要はぜいたくな悩みというものです。

〇ワクチンの確保がままならない国向けに、何とか普及を進めましょうという試みがCovaxファシリティーズで、本日、オンライン方式でワクチンサミットが行われます。議長国は日本であります。これも「ワクチン外交」の一種でありまして、とりあえず中国やロシアが、途上国に自国製ワクチンを売りつけようとしているよりは、良心的な行為と言えると思います。

〇世の中には、「だったら医薬品メーカーに、ワクチンの特許を開放させればいい」みたいな無茶なことを言い出す人が居る。ワクチンというものは、生産から分配、接種まで一気通貫でやらなきゃいけないものですから、特許をもらったからと言って、途上国が明日からワクチンを作れるようになるわけじゃありません。大事なのは公平性よりも効率性です。

〇そのよい例が「職域接種」です。これは朗報というもので、なにしろ職場の接種というのは無茶苦茶に効率がイイ。「このフロアは全員、××日に接種ね」と言えば、それで予約の問題は解決する上に、二次感染などのリスクも少ない。誰それは終わったが誰それは終わってなくて・・・てな管理も簡単だ。だって社内だから。

〇「それでは大企業の人だけが恵まれることになる」てな議論は、きっと朝日新聞あたりが言い出していることだろう。うむ、ワシはいま朝日の悪口を言ってはいけない立場(近々、朝日カルチャーセンターの講師を務める)なのだが、これは言わねばならぬ。今は公平性よりも効率性を重視すべきである。公平性とは平時の論理なり。今は効率性を重視して、一気にワクチンの普及を進めるべきではないか。さすれば日本全体の感染率を下げることができ、医療機関の負担も減り、経済活動の回復も早まるのだから。

〇さて、明日はまた早起きして、「モーサテ」に登板です。


<6月3日>(木)

〇今朝は「モーサテ」に出演。今日の出し物は「本気のアメリカに学ぶ〜オペレーション・ワープ・スピードとは?」。まあ、当欄をご覧の方には「ああ、あれか」というネタであります。

〇テレ東のスタッフが面白がってくれて、『スター・トレック』の画像を貼りこんだりして、手の込んだ「出物」を作ってくれました。塩田キャスターもノリノリで掛け合ってくれたので、こういう仕事はしみじみ楽しいですな。

〇もう1人のゲストは北野一さん。いつもTVの画面では見ているけど、リアルで会うのは久しぶり。「SBI証券に移られたんですよね?」などと言いつつ、おそらくは数年ぶりの名刺交換。たるとこさん、元気にしてますか?みたいな話をひとしきり。

〇午後になって、今朝のモーサテを見たという方から、「リモート講演会であの話をしてほしい」との依頼あり。いやあ、こういうのはうれしいものですなあ。テレビの仕事のやりがいを感じる瞬間です。朝が早いから、夕方になると辛いんだけどね。


<6月4日>(金)

〇今週は一杯仕事をしたので、先ほど最新号の溜池通信をアップしたらもう脱力気味である。ああ、これだけ書いたら、もうネタが何も残ってないぞ。まあ、しばらくは締め切りがないからいいんだけどね。

官邸HPによると、昨日までのワクチン接種回数は医療従事者等8,095,477人、高齢者等7,512,048人。ざっくり1560万人。昨日一日で増えたのが83万人。だんだん勢いが出てきました。今月末にはかなりゆとりがでてくるでしょうね。とりあえず「数は足りている」「足りないのは打ち手だけ」というのは、心強い材料ではないかと思います。

〇この際、ワクチンが期限切れになってしまうくらいなら、どんどん打ってしまう方がいい。ここまでくると、厚労省がうるさく言っていた「公平性の原則」が崩れてくる。まことに結構なことだと思います。

〇さて、今宵は3日ぶりに「ゴールデンカムイ」が観られそうだ。そのまま深酒の予感。


<6月6日>(日)

〇本日は2年ぶりの町内ドブさらい。昨年はコロナでお休みした。今年はどうするかで揉めたのだが、やってみて正解であった。案の定、どぶ板を開けてみると2年分の汚泥が溜まっておる。これで台風などが来ると危ういところであった。

〇「密にならぬよう」に作業をしているつもりながらも、そこはわが町内であるから、皆さん総出状態になる。草むしりや庭木の切り出しなどが始まってしまうと、マジで終わらなくなる。なるべくなら深追いしないほうがいいのだが、今どき珍しいぞ、こういう町内。

〇ご近所の老人たちにワクチン情勢を尋ねてみると、「柏市は対応が遅い」と言って怒っている人もいるし、「かかりつけ医が穴場で、もう1回目が終わった」と言って喜んでいる人もいる。最近はリモートの会議をやっていると、「出席者の半分が既に接種済み」みたいなことがあるのだが、こうやってご近所にも接種済みの方が出てくると、ああ、ちゃんと進んでいるのだなあ、という気がしてくる。

〇ワシのところへ順番が回ってくるのは相当に先のことであろうが、こうやって周囲にワクチンを接種した人が増えれば、結果的に安全度は高まる理屈である。だからもう「公平性」は無視してバンバン打つべし。えぐりこむように打つべし。

〇問題は天候で、午前中に時々小雨が降る中でなんとかもってくれた。考えてみれば、町内ドブさらいはだいたいこういう季節にやっている。夏祭りは今年もできないだろうけど、「例年通り」に物事が行われることはありがたい。「平常への回帰」には時間がかかりますな。


<6月7日>(月)

〇ハッと気が付いたら、今週末はもうG7サミットなのね。あわわわわ。とりあえず過去を思い出すために以下を貼りつけ。


  46 45 44 43 42 41 40
日時 2021 2019 2018 2017 2016 2015 2014
  6/11―13 8/25--27 6/8--9 5/26-27 5/27-28 6/7--8 6/4--5
開催場所 コーンウォール・英 ビアリッツ・仏 カナダ・シャルルボア シチリア島・伊 伊勢志摩・日本 エルマウ・独 ブラッセル・EU
日本 菅首相 安倍首相 安倍首相 安倍首相 安倍首相(*) 安倍首相 安倍首相
アメリカ バイデン大統領 トランプ大統領 トランプ大統領 トランプ大統領 オバマ大統領 オバマ大統領 オバマ大統領
イギリス ジョンソン首相(*) ジョンソン首相 メイ首相 メイ首相 キャメロン首相 キャメロン首相 キャメロン首相
フランス マクロン大統領 マクロン大統領(*) マクロン大統領 マクロン大統領 オランド大統領 オランド大統領 オランド大統領
ドイツ メルケル首相 メルケル首相 メルケル首相 メルケル首相 メルケル首相 メルケル首相(*) メルケル首相
イタリア ドラギ首相 コンテ首相 コンテ首相 ジェンティローニ首相(*) レンツィ首相 レンツィ首相 レンツィ首相
カナダ トルードー首相 トルードー首相 トルードー首相(*) トルードー首相 トルードー首相 ハーパー首相 ハーパー首相
EU フォンデライオン/ミシェル ユンケル/トゥスク ユンケル/トゥスク ユンケル/トゥスク ユンケル/トゥスク ユンケル/トゥスク ファンロンパイ/バローゾ(*)
経済問題 ・コロナ、ワクチン外交 ・自由貿易 ・自由貿易 ・自由貿易 ・世界経済の長期低迷 ・気候変動、エネルギー ・世界経済、貿易
  ・自由で公正な貿易 ・気候変動   ・パリ協定 ・貿易自由化 ・G7価値観、貿易、 ・エネルギー、気候変動
          ・新興国インフラ投資 ・質の高いインフラ  
政治問題 ・気候変動への取り組み ・イラン核問題 ・イラン核合意 ・シリア、ISIL ・シリア、イラク、ISIL ・ウクライナ問題 ・ウクライナ問題
  ・民主主義という価値 ・ロシア復帰? ・北朝鮮の核、ミサイル ・北朝鮮の核、ミサイル ・テロ対策 ・イラン核交渉 ・東アジア、航行の自由
        ・テロ対策 ・北朝鮮 ・シリア、イラク、ISIL  
国際情勢 ・パンデミック ・米中貿易戦争 ・米朝首脳会談 ・トランプ新政権 ・石油価格の低迷 ・AIIBとTPP ・ロシアのクリミア併合
  ・対中関係 ・日韓関係悪化   ・Brexit ・難民問題 ・石油価格下落  
特記事項 ・豪、印、韓、南アを招待 ・米英会談(ボリス/ドナルド) ・トランプ大統領途中退席 ・7人中4人が初参加 ・オバマ大統領広島訪問 ・COP21 ・ソチG8をボイコット
  ・東京五輪の開催直前       ・パナマ文書   ・ハーグでもG7会合(3/24)



〇去年は本当はアメリカが議長国で、トランプさんが議長役だったのだけど、コロナのお陰でそれがないことになった、というのが今年の注目点ですね。

〇週末に行われたG7財務相会合では、いろんな議論が話されたようです。国際的な法人税対策も重要かもしれませんね。こんな風にして、週末に向けて土地勘を思い出したいものです。


<6月8日>(火)

〇G7サミットの歴史を書くときに、ひとつの転機となるのが1998年のバーミンガムサミットである。ここで初めてロシアが正式メンバーになり、エリツィン大統領が出席した。主催国イギリスは「98」を上手にレタリングして「g8」に化けさせた。ときの議長はブレア首相であった。

〇首脳会合とは別に、財務相会合と外相会合を開く、というのもこの年から始まった。日本からは橋本龍太郎首相が、アメリカからはクリントン大統領が、フランスがシラクでドイツがコール、イタリアがブロディでカナダはクレティエン、という懐かしい時代である。当時は、こいつらたいしたことねえなあ、と思ったものだが、それでも今の政治家たちよりはしっかりしていそうに思えるな。

〇それまでイギリスは、1977年、1984年、1991年と3回G7の主催国となっていたが、すべて「ロンドンサミット」であった。そして1998年からは地方開催に踏み出す。バーミンガムはイングランドだったが、次の2005年はスコットランドのグレンイーグルスで、その次の2013年は北アイルランドのロックアーンで開催している。ひとつには2001年の同時多発テロ事件以降、首脳会議は厳重な警戒体制の下で行われるようになったので、リゾート地などの開催が好まれるようになったからである。

〇スコットランド、北アイルランドときたからには、てっきり今年はウェールズでやる番かと思ったら、そうではなくてイングランド南西部の突端部分であるコーンウォールが開催地に選ばれた。どんなところなのか、今後ちょっとずつ報道があるでしょう。

〇ちなみにわが国は、イギリスと同じパターンをたどっている。すなわち1979年、1986年、1993年と3回連続で東京サミットを開催し、それ以降は地方での開催を続けている。2000年は九州・沖縄サミット、2008年は洞爺湖サミット、そして2016年は伊勢志摩サミットである。つまり九州→北海道→本州と続いているので、次は四国の番となる。

〇私なら直島の一択ですな。あそこは警備にはもってこいだし、どえらい質と量の近代美術があって、海外の首脳の度肝を抜くこと間違いなしである。宿泊施設も立派なのが作ってある。さらには瀬戸内海の景色が絶品と来ている。次に日本に議長国が回ってくるのは2023年ですが、さて、どうなりますか。


<6月9日>(水)

〇昨日発表の「景気ウォッチャー調査5月分」は、現状判断DIは前月比1.0p低下の38.1でした。先行き判断DIは前月比5.9p上昇の47.6であって、こちらはまあまあだった。まあ、常識的な判断ではないかと思う。

〇この調査は毎月月末(25日から最終日まで)に行われるので、これが1週間遅れて6月第1週であったならば、かなり上振れしていたのではないかと思う。それというのも、ワクチン接種が劇的に進みだしたのがこの辺りだから。

〇ちなみにコメント欄を見ると、以下のようにワクチンに関する記述が多かった。商売をしている人たちの感覚は、こういう感じなんでしょうね。


・ワクチン接種が進むことによって、新型コロナウイルスの感染状況が少しは収束してくることで、景気が良くなると期待している。また、旅行が多くなるシーズンであることもプラスである(北海道=観光型ホテル)。

・緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の解除を始め、新型コロナウイルスのワクチン接種拡大により人流が回復すれば、消費マインドは改善される(北関東=百貨店)。

・ワクチンの普及で第4波が落ち着き、経済回復を期待している。東京オリンピックが開催されることで、家飲みの需要増加に期待している(九州=コンビニ)。

・働き盛りの人へのワクチン接種開始が鍵になるとみている。売手市場だった雇用情勢に戻っていくことができれば、県内への企業の誘致、工場の増設の話もあり、期待が持てる(東北=職業安定所)


〇今日の菅首相の党首討論によれば、今年10月から11月までには希望する全員に打ち終えるとの話しである。まあ、1日100万人ペースを毎日続けられたとしても、1億2000万人に打つには120日かかる計算なので、ここはまあ年内に終われば御の字と言ったところではないかと思う。ちなみにワクチン接種で先行しているイスラエルやアメリカでも、全体の5割を越えたあたりから急速に速度が落ちるという現象がみられる。いろんな理由で「打ちたくない人」が一定数いるので、それは致し方ない現象と言える。

〇いろんな意味で、日本経済正常化の先頭に立つのは、ワクチンを早く接種した高齢者なのかもしれない。何しろこの1年、貯蓄は溜まっておりますし。ペントアップ需要はまずはそこからですな。


<6月10日>(木)

〇今回のG7サミットにおいてかえすがえすも残念なのは、インドのモディ首相が来られないことである。まあ、今のインドの感染状況を考えたら無理もないことで、それくらいインド型変異種、もといデルタ型ウイルスは感染力が強い。たぶん他の3種類が忘れられてしまうくらいに。モディ首相は、リモートでの参加となるらしい。

〇これで「初の対面でのクワッド(日米豪印)会議」ができなくなった。おそらく秋のG20(イタリア・ローマ)の際に実現を目指すことになるのだろうが、こういうところが「対面」の重みであり、「外交」が外交らしい瞬間ではないかと思う。「俺もあの時はリモートで参加していた」と後で言い張ったとしても、その場にいた人たちは「アイツは居なかったよな」と記憶するだろう。あいにくだが、世の中はそういうものだ。リモートで運命の人に出会った、なんて話は聞いたことがない。

〇逆に韓国のムンジェイン大統領は出席する。現時点では、日米韓首脳会談や日韓首脳会談は予定されていない。そりゃそうだ。あと1年以内で確実に退陣し、どうかするとその後は牢獄に入れられるかもしれない大統領のために時間を割くことはもったいない。とはいうものの、その場で本人に会ったら、そこは「元気か?」くらいのことは言うだろうし、そのまま立ち話が伸びて、意外にもとんとん拍子で大事なことが決まることもあり得る。人と人が会うというのは、そういうことである。

〇2018年のシャルルポア・サミット(カナダ)では、メルケル独首相とトランプ米大統領がハッシとにらみ合い、後ろで安倍首相が悩まし気に腕組みをしている写真が有名になった。2010年代後半の国際情勢を語るときに、後世の人たちは必ずあの写真を引き合いに出すだろう。なぜなら、あの写真を見た瞬間に、その場の気まずい雰囲気が誰にでも容易に察知できるからである。とにかくあの瞬間、「価値観を同じくする」はずの西側先進民主主義国は崩壊寸前であった。これが危機でなくてなんであろうか。

〇2021年のコーンウォール・サミット(イギリス)では、コロナ後の世界をいかに再生し、トランプ後の世界をいかに元に戻すかがテーマとなるはずである。この喫緊の事態においては、気候変動はちょっと脇に置いておくくらいの方がいい。とにかく真剣勝負のサミットとなるはずである。

〇特にバイデン大統領とジョンソン英首相の二人の会談は真剣勝負となろう。なにしろ新大西洋憲章を作ると言っているくらいだ。チャーチルがルーズベルトの元へ駆け込んだ1941年は、まさしく大英帝国が危機の最中にあった。だから「民族自決の原則」や「恐怖と欠乏からの自由」などの原則に乗った。乗らざるを得なかった。

〇2021年の英国は、EUと離婚した直後で、「私にはもっといい人がいるのよ」と言わなければならない。だから大西洋同盟に賭ける。それどころかTPPに入ろうとして、虎の子の空母を日本に派遣したりもする。少々「痛い」風景でもあるのだが、それでも米英が一致することの意義は小さくない。

〇1941年の大西洋憲章には、多くの国が相乗りして「連合国」を形成し、それが今日の国際連合に至っている。2021年の米英による新大西洋憲章も、出来栄え次第によってはいろんな国が相乗りしてくるだろう。問題は今の米英に、そんなソフト・パワーがあるかである。


<6月11日>(金)

〇かくしてFDRが大好きなバイデン大統領と、「チャーチル命」のジョンソン首相がノリノリになって、新大西洋憲章に署名した。80年前と今はいろんな形で重なるから面白い。

〇1941年の大西洋憲章のときは、ナチスドイツが全欧州を制圧しつつあって、さらにソ連にも侵入しつつあり、大英帝国も明日をも知れぬ状態であった。アメリカの助けを得たいが、ルーズベルトは国内の孤立主義に対してなすすべがなかった。この米英の窮地を救ったのは、わずか3か月後の真珠湾攻撃であった、という事実は覚えておくべきだろう。

〇大西洋憲章には多くの国が賛同し、それがやがて連合国を形成し、今日の国際連合に至る。その敵に回った側は、なかなか「旧敵国条項」を外してもらえない。敵味方を間違えると高くつきますよ、というのは昔も今も変わらぬ歴史の法則である。あのときは確かにファシズムが優勢に見えたのだが、錯覚いけない良く見るよろし。1941年は民主主義陣営にとって、間違いなく"Darkest Hour"であったのだ。

〇そして2021年の新大西洋憲章は、やはり民主主義陣営が不利な状況で結ばれた。コロナ対策ひとつとっても、民主主義国はなかなか上手くいきませんわね。中国やロシアのような強権体制の方が、ひょっとしたらうまくやってるんじゃないのか、民主主義に明日はあるのか、と悲観的になりがちである。

〇ただし今回、日本は明らかに新大西洋憲章の側に位置している。だって民主主義なんだし。今さら中国やロシアになびくわけにもいかないし。かくして価値観を同じくするG7サミットが開催され、われらが菅首相はその一員ということになっている。

〇もっともわが国の民主主義とは、さほど威張れたものではない。コロナ発生から1年以上もたつのに、この不条理な医療システムにはまったく手を付けられず、その間に外食産業や観光産業に「お願いベース」の自粛を強要している。つまり「対面のサービス業」を犠牲にする方が、厚生行政全体を改革するよりは政治的コストが低いと思われているわけで、そんな風に柔軟性に乏しい民主主義である。

〇このままいくと、人口1000人当たり1〜2人もの死者を出した米英が「俺たちはコロナに勝った!」と変な自信を持ち、国全体でわずか13000人くらいの死者しか出していない日本が、奇妙な敗北感を引きずるという結果に終わるかもしれない。この上はせめて東京五輪くらいはちゃんとやってほしいと思うなあ。

〇ともあれ、80年前とのアナロジーが気になる今宵なのであった。


<6月12日>(土)

朝日カルチャーセンター千葉教室の講義、やってまいりましたですよ。有料のセミナーにどれくらいの人が来てくれるのか、全然集まらなくかったらどうしようと内心焦っておりましたが、リアルとリモートを併せてなんとか事業としてカッコのつく集客数となったようで、ホッと致しました。身銭を切ってご参加いただきました皆様に、厚く御礼を申し上げます。

〇この手の事業も今は難しい時代で、何よりまずコロナのせいでリアルのお客は減っている。そこでリモートの集客をしなければならない。まずは技術的な問題をクリアして、さらにリアル/リモートにどう差をつけるか、質問の受付方をどうするかなど、いろんな問題が発生する。

〇例えば講演に使うパワポの資料は、リモートのお客には事前にPDFファイルを送付する。ところがリアルのお客は、入り口で50円払って白黒コピーを受け取ることになっている。これだったらリモートの方がいいよね。他方、リモートのお客は制限時間と同時に切れてしまうが、会場のお客はその場でしばらく話を続けられる。はてさて、どっちがいいのやら。

〇さらに悩ましいのが集客方法である。かつてであれば、紙面の片隅で告知をすれば、それだけでお客は集まった。しかるに今は、新聞は高齢者しか読んでいない。このままでは若い客層にリーチできない。そこでSNSを使ってみようとか、ユーチューブはどうなのかとか、あれこれ試行錯誤するのだが、もちろん簡単ではないようです。

〇ともあれ、何事もやってみて初めてわかることがある。朝日カルチャーセンターは、最初はちょっとアウェイ感があったのですが、貴重な経験値を得たような気がしています。


<6月13日>(日)

〇競馬はG1シリーズが終わってしまったし、『ゴールデンカムイ』も有料のシーズン3に入ってしまった。今日の日曜日、仕事もそれほど溜まっていないので、買い物のついでに中公新書を3冊購入。帰ってきて、袋の中から取り出したのが、たまたま『幣原喜重郎』(熊本史雄)だったので、それから読み始める。

〇およそ20年くらい前に、岡崎久彦氏の『幣原喜重郎とその時代』(PHP)を面白く読んだものである。陸奥宗光や小村寿太郎は「国士」であったが、幣原喜重郎は外交官試験を受けて外務省に入ってきた。学校秀才が語学を磨き、いろんな任地を経験して外交官として成長する。ついには外務次官となり、駐米国大使となり、外務大臣となる。親英米的な国際協調主義と中国への内政不干渉主義は「幣原外交」と呼ばれたが、ときには「軟弱外交」との誹りも受け、すべてがうまくいったというわけではない。

〇それにしても日本近現代史の研究は進んでいて、本書には「へえ〜!」と驚くような指摘がたくさんある。

〇幣原は電信課長を8年もやったことで、外務省内のあらゆる事情に通じるようになり、また外交電報に対する厳しい姿勢を持つようになったということ。電信が技術として確立するのは1890年代くらいで、幣原が活躍したのは1920年代なので、おそるべき速さで普及したことになる。それは外交という「仕事の仕方」を根本から変えたはずである。今のSNSもそんな感じですなあ。

〇またこの時期の外務省で花形ポストは「政務局」で、これが分裂して「亜細亜局」と「欧米局」に発展していく。セクショナリズムも強まって、「欧米派」と「亜細亜派」の対立が激しくなった。幣原は当然「欧米派」かというと、実は「政務局」勤務を一度も経験しておらず、一段格下となる「通商局」が地盤であった。

〇それから、世間的には「幣原の協調外交、田中義一の強硬外交」」と二律背反のように言われているけれども、両者は実はそれほど違っていない。幣原は満鉄の経営を心配していて(台湾銀行の二の舞を恐れた)、満蒙権益の確保を重視していた。むしろ田中が陸軍をガッチリ抑えていたのに対し、幣原の省内地盤は盤石なものではなく、次官としてはよかったが、大臣としてはかならずしもリーダーシップを発揮できていないという指摘。

〇以下の部分はなかなかに厳しいが、たぶん当たっているのであろう(P174)。


幣原が外交方針の柱とした対英米協調や対中国内政不干渉は、理念や外交官というよりはひとつの行動規範に過ぎなかった。そうした規範は、既存の条約を無視し、半ば常軌を逸した中国による革命外交に直面し、英米各国との足並みが乱れると、柔軟性を欠いたまま硬直化し機能しなくなる。その意味で幣原を原理主義者と評すことも可能だろう。


〇よく知られている通り、戦後になって幣原は総理大臣を務める。ここで新憲法に「戦争放棄」を盛り込んだ、ということになっているけれども、もちろんそんな大胆なことをする人ではなくて、「押しつけ憲法」批判を回避するために「第9条は私の発案です」という振りをしたようである。外交官としては柔軟性に欠けたが、戦後の政治家としての仕事は柔軟だった。この辺の復活劇は、「電力の鬼」松永安左エ門とちょっと似ている。

〇ということで、一冊片付いた。後の2冊は『保守主義とは何か』(宇野重規)『天正伊賀の乱』(和田裕弘)である。うーん、われながら何の脈絡もない。


<6月14日>(月)

〇外務省のHPにサミット関連の文書が一通り掲載されている。仕事が早いですねえ。


●首脳コミュニケ原文(PDF)

和訳(PDF)

骨子(PDF)

サマリー(PDF)


〇とりあえず「骨子」(日本語訳)を下記しておきます。新聞報道とかなり印象が違うでしょ? 中国のことはそんなに書かれていないし、気候変動の問題はやっぱり長い。東京五輪に関する言及も最後の部分だけです。


G7コーンウォール・サミット
首脳コミュニケ(骨子)

<前文>
*新型コロナウイルス感染症に打ち勝ち、より良い回復を図ることにコミット。
*国際協力、多国間主義及び開かれ、強靱で、ルールに基づく国際秩序に基づき行動。

<保健>
*2022年までのパンデミック終息という目標を設定。
*途上国に対するワクチンを供与する多国間枠組みであるACTアクセラレーター及びCOVAXファシリティへの支持を再確認。日本とGaviが共催した「COVAXワクチン・サミット」の成功を歓迎。
資金及び現物供与を通じて来年にかけてワクチン10億回分の供与に相当する支援にコミット。
*ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を含む「カービスベイ保健宣言」を承認。
*ワクチン等の世界的な開発の加速化の目標の歓迎。
*新型コロナ対策及び将来の健康危機への備えと対応のための国際保健システム強化。

<経済回復及び雇用>
*必要な期間、経済への支援を継続。回復が確かなものとなれば、財政の長期的な持続可能性を確保する必要。
*経済成長及び回復の中心にあるのは、グリーン及びデジタル分野での変革。
*重要鉱物及び半導体のような分野で、サプライチェーンの強靭性に係るリスクに対処するためのメカニズムを検討し、ベスト・プラクティスを共有。
*国際課税について、G7の歴史的なコミットメントを承認。7月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議での合意を期待。

<自由で公正な貿易>
*農業や衣類部門などにおける、国家により行われるものを含むあらゆる形態の強制労働について懸念。G7貿易大臣に対し、協力のあり方の2特定を指示。
*不公正な慣行から保護するためのルールの強化、交渉機能及び紛争解決制度の適切な機能を含め、WTOにおいて、より広範な加盟国と協働。

<将来的な先端領域>
*開かれた社会を支えグローバルな課題に対処する上での技術の役割を議論する「未来技術フォーラム」を開催。
*データ保護の課題に対処しながら価値あるデータ主導型技術の潜在力を活用するため、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)ロードマップを承認。
*身代金目的のサイバー攻撃(ランサムウェア)の犯罪ネットワークによる脅威の高まりに緊急に対処。
*科学、技術、工学及び数学(STEM)の分野で、女性と女児の更なる参画を推進。開かれた相互主義的な研究協力のためのG7「研究協約」を採択。

<気候変動・環境>

【総論】
*遅くとも2050年までのネット・ゼロ目標及び各国がそれに沿って引き上げた2030年目標にコミット。国内電力システムを2030年代に最大限脱炭素化。

【化石燃料・石炭火力】
*国際的な炭素密度の高い化石燃料エネルギーに対する政府による新規の直接支援を、限られた例外を除き、可能な限り早期にフェーズアウト。
*国内的に、NDC及びネット・ゼロのコミットメントと整合的な形で、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電からの移行を更に加速させる技術や政策の急速な拡大。
*排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を年内に終了することに今コミット。

【気候資金】
*途上国支援のため、2025年までの国際的な公的気候資金全体の増加及び改善に各国がコミット。

【生物多様性】
*2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させるという世界的な任務を支える「G7・2030年自然協約」を採択。
*同協約に基づき、国内の状況に応じて、2030年までにG7各国の陸地及び海洋の少なくとも30%を保全又は保護することや、海洋プラスチックごみへの取組強化などにコミット。

<ジェンダー平等>
*2026年までに、低・低中所得国において4,000万人の女子の就学、2,000万人の女子が10歳又は初等教育修了までに読解力習得。
教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)に対し、G7として、今後5年間で計27億ドルをプレッジすることを発表。

<グローバルな責任及び国際的な行動>

【中国】
*非市場志向の政策や慣行に対処するための共同のアプローチについてG7で引き続き協議。
*気候変動、生物多様性を始めとした共通の地球規模課題について協力。
*特に新疆や香港との関係で人権や基本的自由を尊重するよう中国に求めることを含め、G7の価値を推進していく。

【北朝鮮】
*朝鮮半島の完全な非核化並びに全ての関連する国連安保理決議に従った北朝鮮の違法な大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画の検証可能かつ不可逆的な放棄を求める。
*全ての国に対し、関連する全ての国連安保理決議及びこれら決議に関連する制裁の完全な履行を求める。
*北朝鮮に対し、全ての人々の人権を尊重し、拉致問題を即時に解決することを改めて求める。

【ミャンマー】
*ミャンマーにおけるクーデター及び治安部隊による暴力を最も強い言葉で非難。拘束された人々の即時解放を求める。
*ASEANの中心的役割を想起しつつ、「5つのコンセンサス」を歓迎し、迅速な履行を求める。必要な場合はG7が結束して追加的措置を検討することを強調。
*人道状況を深く懸念。

【インド太平洋】
*包摂的で、法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋の維持の重要性を改めて表明。
*台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。
*東シナ海及び南シナ海における状況を引き続き深刻に懸念し、現状を変更し、緊張を高めるあらゆる一方的な試みにも強く反対する。

【ロシア】
*ロシアとの安定した予測可能な関係への関心を改めて表明し、相互利益となる分野がある場合には引き続き関与していく。ロシアに対して、不安定化を招く行動や悪意のある活動を止め、国際的な人権に関する自らの義務を果たすよう改めて求める。

【食料安全保障】
*G20、国連食料システムサミット、COP26及び東京栄養サミットにおける食料・栄養に関する強いコミットメントを奨励。

【開発金融】
*開発途上国のインフラのニーズを満たし、より良い回復を図るため、開発途上国との連携を強化することで一致。具体的な方策を検討するため、タスクフォースを設立し、今秋に報告を求める。
*持続可能な回復・成長を支援するため、G7の開発金融機関(DFIs)及び国際機関がアフリカの民間部門に今後5年間で少なくとも800億ドルを投資することを確認。
*G20及びパリクラブの債務措置の実施につきコミットメントを改めて強調。
*公正で開かれた貸付慣行を支持するとともに、全ての債権者がこの慣行を遵守することを求める。
*6,500億ドルのSDR(IMFの特別引出権)の新規配分を支持。
*SDRを融通する様々な選択肢を探求し、世界合計で1,000億ドルという野心に達するとの目標に向け、G7財務大臣・中央銀行総裁に詳細の検討を指示。

<結語>
*新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の団結の象徴として、安全・安心な形で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催することを改めて支持。


〇なるべく現物に当たるのが良いですね。だって今はそれが可能なんですから。


<6月15日>(火)

〇G7サミットについて、過去の共同声明文にリンクを貼っておきましょう。以下は全て日本語訳(仮訳)です。

〇それぞれのページ数が物語るものがありますね。特に2019年のビアリッツサミットにおける「ペラ1枚」の声明は物悲しいものがあります。


●2016年 伊勢志摩サミット(日本) 31p 議長:安倍首相

●2017年 タオルミーナサミット(イタリア) 11p 議長:ジェンティローニ首相

●2018年 シャルルボアサミット(カナダ) 3p 議長:トルード―首相

●2019年 ビアリッツサミット(フランス) 1p 議長:マクロン大統領

●2020年 開かれず(アメリカ)  議長:トランプ大統領

●2021年 コーンウォールサミット(英国) 33p 議長:ジョンソン首相


〇要するにG7サミットは「ウィズ・トランプ」の時代を終え、「アフター・トランプ」の時代を迎えた、と言っていいでしょう。

〇バイデン大統領は、6月11日から13日のサミットを終えた後はブリュッセルに移動し、6月14日はNATO首脳会議、6月15日はEU首脳会議に出席しています。そして6月16日にはジュネーブでプーチン大統領と対決する。同盟国を固めたうえで、強敵と会うという段取りですね。とはいえ、プーチンさんは20年以上もトップを張ってきた相手。手強いですぞ。


<6月16日>(水)

〇そういえば7月4日(大安)は東京都議会選挙なのであった。

〇都議会選挙がある年は、だいたい政治が荒れる。社会党大勝利で「山が動いた」1989年とか、細川政権誕生で55年体制崩壊の1993年とか、不思議なバイオリズムなのである。今世紀に入ってからは以下のとおりである。


  都議会選挙 投票率 結果 その後の政局 備考
2001年 6月24日 50.1% 小泉旋風で自民党51議席(〇) 7月の参議院選挙でも自民党大勝利(○) *巳年選挙
2005年 7月3日 44.0% 自民党が3議席減(△) 8月に郵政解散→9月の総選挙で自民党大勝利(〇)  
2009年 7月12日 54.5% 自民党38議席で大惨敗(×) 9月の総選挙で民主党が政権交代(×)  
2013年 6月23日 43.5% 自民党が候補者全員当選(〇) 7月の参議院選挙でも自民党大勝利(〇) *巳年選挙
2017年 7月2日 51.3% 都民ファースト大躍進。自民党大敗(×) 「希望の党」旋風も「排除」発言で失速し、秋の解散・総選挙では自民党勝利(〇)  
2021年 7月4日 ?? ?? ??  



〇面白い現象として、巳年は必ず6月に東京都議会選挙、7月に参議院選挙が行われ、同じ結果が出ることになっている。上の2001年と2013年はともに(〇)→(○)ですが、1989年は消費税とリクルート事件で(×)→(×)という結果になりました。同様の現象としては「亥年選挙」(4月に統一地方選挙、7月に参院選が必ず行われる)がございます。

〇そうかと思うと、2005年や2017年のように「ひねり」が入ることもあります。「郵政解散」と「希望の党」は、どちらもビックリでしたからねえ。そういえばさる人が言ってましたが、小池百合子という政治家はまったく信用できないが、あそこで「排除します」と言ったということは、かならずしも権力の亡者ではないようだ。そこだけは褒めてやろう、などと。

〇それはさておいて、今の状況ですと緊急事態宣言の不満はあるし、東京五輪開催の評判もよろしくないから、自民党は都議選で苦戦しそうですな。問題は投票率で、普通は4割から5割が関の山なんですが、今回はコロナ特例で郵便選挙が認められるとのこと。もっとも都民ファーストがどれだけ勝てるのか、というとそっちもよくわからない。

〇ま、ちょっと気が早いですが、通常国会も終わったことですので、ここが当面の注目点ですな。


<6月17日>(木)

今朝のFOMC、モーサテに登場して説明をする鈴木敏之さんがなんだか涙目になっているように見えた。まるで箱の中のハトが、いきなりタカになってしまう手品を見せられたような感あり。これはちょっとないよなあ、とワシでも思った。

〇金融政策は、「21年はこのまま、22年にテーパリング開始、2023年に利上げ」というのが世間一般的な読み筋であった。でもパウエル議長は、「雇用が良くなるまでは緩和を続ける」「今のインフレは一過性」と言い続けてきた。それが突然、強気見通しに化けたわけである。オバゼキ先生の本日の論評は厳しい。


いつもどおりだが、パウエルFRB議長の姿勢だ。

常に弱腰。市場に対して受身。エコノミスト世論に対して受身である。

だから、彼が何を会見で言っても、意味はない。

彼に意思はないのである。

だから、世間が緩和を要求していれば、ハト派であり、インフレ懸念を強めれば、それを後追いして、少しずつハト派姿勢を弱める。それだけのことである。

したがって、バーナンキのときと違って、記者会見にはほとんど意味がなく、FOMCでの決定がすべてであり、記者会見は見る必要がない。

といいながら毎回見るのであるが。


〇ゲスの勘繰りになるけれども、パウエル議長の来年2月の再任が消えたのではないだろうか。議長が後退するときは、次の人がやりやすいように「後片付け」をやっておく。これはバーナンキ→イエレンのときもそうだったし、イエレン→パウエルのときもそうだった。今までのパウエル氏は、「正常化は2期目にゆっくりとやればよい」と思っていたが、急にその可能性が消えてしまい、先を急がなければならなくなった。今のワシントンにおいては、「トランプさんに指名されたポスト」に居ることは、ただそれだけでしんどいことになっているのかもしれない。

〇もうひとつ、感じることは「ドットチャートなんて制度、止めときゃ良かった」とFedが考えているのではないかということ。あれはコミットメントではなくてただの予想なのだから、あんなものを市場の判断材料にされては困るのである。フォワードガイダンスのためのツールとして、市場へのサービスだと思って始めたものが、金融政策を縛るようになってしまっている。今から取り下げるわけにもいかないのだろうが、せめて日銀はああいう真似はしないでおきましょうね、と言っておこう。

〇まあ、その割には株安も、為替市場の円安も、それほど強烈なものではなかった。ちょっと拍子抜けしてしまいましたな。


<6月19日>(土)

〇車検の季節がやってきた。たいして乗っているクルマではないし、これと言って調子が悪いわけでもなく、特にコロナ以降は遠出もしていない。それでも結構な金額の見積書を見て、いったんは深呼吸をするのであるが、まあ、昨今は大口の資金需要もないのだし、笑って払ってやるかと考えて出かけることにする。

〇ディーラーで自動車税の支払い証明書を差し出すと、「あ、これはもう要りません」と言われる。ちゃんと支払ったことが分かればそれでよくて、今どきそれは別の方法で確認できるらしい。すばらしい、デジタル化ではないか。というか、今までなんでバウチャーが必要だったのだろう。

〇作業が終了するまでは約1時間半。待ってればよくて、代車などは不要。その間、iPadで競馬中継を見始める。手元に競馬新聞はないのだが、ついつい勝負してしまう。テキトーに買った米子ステークスが当たったので、わざわざLINEで上海馬券王先生に自慢をしてしまう。いやあ、こんなことができてしまうなんて、すごい時代になったものである。

〇が、その後のスレイプニルSがいけない。素直に白馬のハヤヤッコから買っていれば万馬券だったが、間際になってビビッてしまう。ちゃんと来てくれたじゃないか、ハヤヤッコが。5番人気〜3番人気〜7番人気の3連複で、車検費用のかなりの部分が回収できていた計算になる。惜しい。

〇コロナで他にすることがない土日ともなると、車検でさえもがイベントになってしまう。さて、明日は何をやるべえか。


<6月20日>(日)

〇この週末に勉強したこと、あれこれ。

〇アメリカの金融政策について。次の注目は9月の雇用統計である。この時期になると雇用保険の上乗せ金が失効し、新学期も始まるので、「アメリカの真の失業率」が分かってくる。それが発表されるのは10月8日。となればテーパリングの是非を論じるFOMCは11月2日となる。そこで議論を始めると、実施するのは早くても12月か1月となる。そして2月5日にはパウエル議長の任期が切れてしまう。なるほど、スケジュール感は大事である。

〇イラン大統領選挙はライシ師が当選。ただし投票率48.8%は過去最低で、これでは権威のある大統領とはなれそうにない。ライシ師は前回の2017年選挙では負けているので、2連敗すると政治生命がそこで終わる可能性があった。でもハメネイ師が82歳なので、そろそろ最高指導者の「次」を考えなければならない。かくしてライシ師を負けさせるわけにはいかず、いろいろ出来レースにしてしまったが、果たしてそれでよかったのかどうか。

〇習近平の総書記3選はほぼ決まり。なにしろ絶大な功績がある。コロナを見事に制圧したし、香港もちゃんと取り込んだ。それはもちろん国内的な評価であって、海外から見るとかなり違うのだが、どうせ分からないのだから構わない。だから今さら「台湾統一」などというリスクを冒す必要は乏しい。ちなみに「戦狼外交」のことを、最近は「ゾンビ外交」と呼ぶのだそうだ。だってゾンビとはコミュニケーションが成立しないから。


<6月21日>(月)

〇今週号の週刊東洋経済が「全解明 経済安保」という特集を組んでいる。東洋経済らしく力の入った特集になっていて、バランスもとれている。読んでみて、「ああ、なるほど、そういうことだったのか」と思った点をいくつかメモしておこう。

〇このところ「経済安全保障」という言葉がブームになっていて、昨今の日本企業では「君、今日から経済安全保障の担当ね」「ええっ、それって何のことですか?」といった会話がそこらじゅうで繰り広げられている。「経済安全保障」という言葉は以前からあったのだが、最近使われているのは"Economic Statecraft"の訳語としてなんだ、ということにやっと気が付いた。

〇一昨年の7月、日本政府が韓国向けの半導体材料(レジスト、エッチングガス、フッ化ポリイミド)の輸出規制に踏み切ったときに、「この言葉をどう訳せばいいのかなあ」と考えていたのだが、「経済安全保障」ねえ。つまりあくまでも日本は受け身であって、自分から他国に攻めていくことなど考えていない、ということのようです。が、けっしてそんな生易しいことではないはずです。

〇もっとも東洋経済の特集では、「日本企業は米中の板挟み」と被害者であることが前提で書かれている。まあ、気持ちはわかる。でも、われわれがまったく加害者じゃない、ということもあり得ないのですよ。

○もうひとつ感じるのは、「経済安保は先端技術に関する米中の問題に絞り込むべき」であって、香港や新疆における人権問題のことまで入れちゃうと、問題が広がり過ぎてしまうのではないかということ。要はユニクロの男性用シャツが米当局で輸入差し止めになっている、みたいな話であれば、従来の法務部やコンプラ部の範疇である。そんなのは、いまさら「経済安保」などと呼ぶ必要はない。今までにも散々あった人権問題対応のバリエーションなのだ。ミャンマーで操業している日本企業へのバッシングも以下同文で、そんなのは新しい話じゃあないのである。

〇半導体部品や自動車用電池、通信業界などのサプライチェーンをどうするか、が新しい問題なのであって、これらは2018年夏に米議会が国防授権法で対中規制を導入して以降の新局面である。そしてその発端は、中国が始めた「軍民融合路線」であった。その辺の話は、2018年秋の溜池通信でも取り上げている。ともあれ日本企業としては、過去に経験のない事態であるだけに、新たな部署を作らないと対応ができない。

〇この経済安全保障については、昨年12月に自民党が発表した提言がわりとよくできている。


●提言:「経済安全保障戦略」に向けて


○ここで示されている基本的な考え方が次の通り。


●戦略的自立性の確保(守り)→いかなる状況の下でも、他国に過度に依存することなく、国民生活と正常な経済運営というわが国の安全保障の目的を実現する。

→戦略基盤産業(エネルギー、通信、食料、医療、金融、物流など)を強靭化


●戦略的不可欠性の強化・獲得(攻め)→国際社会全体の産業構造の中で、わが国の存在が国際社会にとって不可欠であるような分野を戦略的に拡大していく。


●自律性、不可欠性を備えることにより、国際秩序の形成を主導(価値観を共有する同志国とも連携)


○もっとも上記のようなことは、どの国もが目指したいことである。そんなのは所詮、無理だよね、だったら皆で変なことを考えないで行こうよ、というのが古き良きグローバル化時代であった。それがだんだん難しくなってきて、とくにコロナ後は、「ワクチンを国産できないくらいはともかく、せめてマスクぐらい自給せよ」と誰もが考えるようになる。うーむ、難儀なことである。

○とりあえず日本企業は当面、この問題で悩むことになるのだろう。自慢じゃないけど、ワシらは前例のない事態に弱いのである。かといって、逃げられる問題でもなさそうなのである。


<6月22日>(火)

日経新聞の春原剛さんが亡くなった。30年前にワシントンDCに居たときに、ちょうど重なっていた。最近は会ってないな〜と思っていたら、専務執行役員になっておられました。死因はガンだったそうですが、同じ年齢の者としては辛いものを感じています。

○米国政治や国際情勢に関して、多くの著書を残しているジャーナリストである。が、それ以上に、「富士山会合」など日経主催の日米関係の会合は、ほとんど春原さんがひとりで作っていたようなもの。リチャード・アーミテージ氏やジョセフ・ナイ教授がしょっちゅう日本に来ていたのは、そのお陰である。「カネがかかるんで、社内の風当たりが強いです」とボヤいていたこともあったけど、そのお陰でどれだけ日米の交流が深まったことか。

○シンクタンクの重要性に、早くから着目していた人であった。実際にCSISに席を置いていた時期もある。日米のシンクタンク交流なんかも、今ではごく普通に行われているけれども、春原さんのような人が居なかったらどうなっていたことか。故人曰く、カネを残すは下、仕事を残すは中、人を残すをもって上とする。

○2011年から12年にかけて、都市出版社の『外交』という雑誌の編集委員会でご一緒していた。ちょうど雑誌の立ち上げの時期で、なおかつ東日本大震災直後の慌ただしい時期だった。毎回議論をしながら。日本という国がどんどん沈没していくようなイヤ〜な気分を共有していたと思う。当時の溜池通信で書いたこの記事も、元ネタは春原さんだった。もう10年も前のことになりますか。

○たまたま今朝の日経には、秋田浩之コメンテーターの解説記事が掲載されている(防衛費、まさかの日韓逆転)。ワシはこの二人のことを、ひそかに日経の「春秋」と呼んでいた。早過ぎる「春」とのお別れは哀しいが、まだ「秋」がいる。今朝の記事も掛け値なしの力作ですよ。


<6月23日>(水)

○以下は本日流れていたニュース


●都議選、25日告示 250人超が立候補(2021年06月23日14時15分)

任期満了に伴う東京都議選(7月4日投開票)が25日に告示される。定数127(42選挙区)に対し、23日時点で250人超が立候補を予定しており、前回2017年の259人と同じ規模になる見通し。

 小池百合子知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」が都議会第1党を維持できるかや、自民、公明両党で過半数となるかが焦点だ。

 各党の公認候補は都民ファ47人、自民60人、公明23人、共産党31人、立憲民主党28人、日本維新の会13人、地域政党「東京・生活者ネットワーク」3人、国民民主党4人、古い政党から国民を守る党2人、れいわ新選組3人など。


○うーん、東京都議会選挙はどうなるんでしょう。昨日で小池都知事が疲労で入院してしまったので、都民ファーストは応援団長を失った状態。昨今の東京五輪を巡る状況に鑑みるに、自民党の苦戦は必至でしょうが、なにしろ4年前の大敗のことを思えば、あれ以上の負けということはちょっと考えにくい。つまりそこそこの議席増は期待できる。そして公明は例によって手堅く議席を獲得するだろう。

○となると、その他の共産、立民、維新などはどうなるのか。それ以上に、小池都知事の容体が気になるところです。彼女の次の一手は何か。もっとも一部には、9月にパラリンピックの閉会式が終わった瞬間に、都知事を辞職して国政選挙に打って出るのではないか、との観測がある。その場合は象徴的な場所としての東京1区か、あるいは自民党の公認候補がいない東京9区と15区ではないかとか。

○いずれにせよ、7月4日の都議会選挙が国政に与える影響は小さくないはずで、その動向がさっぱり見えない。果たして有権者の熱量はどれくらいあるんだろう?


<6月24日>(木)

○兼原信克さんの『安全保障戦略』(日本経済新聞出版社)を読み始める。すばらしい。これは天才の手による本である。

○どこが天才か。パラっと広げてみると、こんな記述が表れる(P234)


交易拠点を守り、シーレーンを守り、世界の海での航行の自由を守るのが、海洋国家戦略である。海軍は、陸軍と異なり面の支配を求めない。平時には開かれた海を求め、有事には自分の行動の自由を確保し、敵の海洋利用を否定する。しかし、軍艦の時速は50キロである。太平洋は1万キロある。地球の赤道付近の胴回りは4万キロである。

畳百畳の間をミニカーで制覇しろと言われれば、面を押さえるという発想にはならない。敵のミニカーを潰すしかない。海軍戦略も同じことである。海戦とは、互いの海洋使用能力の否定、即ち、敵海軍戦力の殲滅とその根拠地の覆滅である。

中国のように排他的に南シナ海を面で支配することを求めるのは邪道である。それはブラウンウォーターネイヴィ(沿岸海軍)の沿岸防護の発想であり、中国は、それを広大な公海に持ち出したところに誤りがある。

ブルーウォーターネイヴィにとっては、五大洋の全てが活動場所であり、艦隊決戦が正攻法である。しかし、いかなる国の海軍にとっても、五大洋の航行の自由を確保することは、一国の力を超える。自由貿易を支持する海洋国家、優秀な艦隊を有する海軍国家との協調が必須になる。


○スゴイではないですか。この畳百畳とミニカーの比喩は。海軍と陸軍の根源的な発想の違いを、これだけ端的に言い表した表現をワシは今までかつて聞いたことがない。

○なおかつ、これは100%著者のオリジナルの表現である。誰かの物真似ではあるまい。「1人のものを盗めば泥棒と呼ばれるが、100人のものを盗めば学者と呼ばれる」とは万古不易の真理である。が、この人は誰か先生について学んだのではない。長年にわたる外務省での業務の傍ら、恐ろしく独創的な学習をしたのであろう。アカデミズムからは、こんな発想は生まれない。

○別の見方をすれば、本書には少々危ういところがある。なにしろ100%オリジナルの国際情勢論であり、日本外交論であり、歴史認識なのである。アカデミズムの査読には、ところどころ耐えないところがあるかもしれぬ。が、それがどうしたというのだ。面白くもなんともない秀才の手による本を100冊読むよりは、願わくばこの1冊から天啓を受けたいものである。

○ということで、定価3300円+税はたいへん安いと思う。日経内の担当者はH氏であったそうだ。さもありなん、である。ご無沙汰しているHさんにもお礼を言っておこう。


<6月25日>(金)

○東洋経済新報社の経済倶楽部へ。本日は渡部恒雄さんの話を聞く。

○議会を知り尽くした「国対族」のアメリカ大統領としては、過去にはリンドン・ジョンソンとジェラルド・フォードがいる。いずれも「事故」による副大統領からの昇格である。バイデンも元副大統領だが、ちゃんと自分で当選して大統領になった点が違う。あるいはバイデンのメンターはマイク・マンスフィールドで、その薫陶を受けているのだからアジア外交には詳しいはずなのだ、など、いちいち納得である。

○欧州は地理的に遠い中国に対して安保上の警戒感が希薄である(逆にロシアに対しては敏感である)。他方、中国の人権問題には敏感だ。そこでアジアでは安保、欧州では人権で中国に対して圧力をかけている、という指摘も腑に落ちるものがあった。

○結果として、3月の日米「2+2」、4月の日米首脳会談で共同声明に書かれた内容が、そのままG7、NATO、EU首脳会議に盛り込まれる、というのはまるでバイデン・マジックのようである。インド・太平洋(日米)と大西洋(英米)をうまく統合してしまったのかもしれない。

○今までのところ、ベテラン政治家としてのバイデンのいい面が続いているように見える。プーチンもそろそろ内政重視の季節(9月に下院選挙)を迎えているので、ジュネーブでの米ロ首脳会談は「御の字」だったのではないかと思う。「中国を睨んで一時休戦」といったところであろう。

○まだリアルではバイデン大統領と会っていない習近平氏は、どういうタイミングで米中首脳会談を実現するのだろうか。7月1日の「中国共産党100周年」が過ぎたら、「戦狼外交」にもやや変化が出てくるかもしれませんな。


<6月26日>(土)

○本日、「ゴールデンカムイ」の第3シーズン「樺太編」を見終えて、コミックはちょうど20巻に到達。つい先日26巻が販売になったそうだが、アニメ版が出来るのはもっと先ですな。いやはや、楽しいでござるよ。ありがたきかな。


<6月27日>(日)

○あと1週間で、東京都議会選挙の投開票日となる。なんでこの選挙が重要かというと、とにかく有権者数が多いのである。東京都は日本の総人口の1割以上を占める。投票率は、前回2017年の場合は51.3%と半分すれすれであったけれども、それでも有権者数は568万人であった。今回の投票率はコロナで下がるかもしれないが、それでも500万人の民意は重い。

○そして3〜4カ月後にはかならず衆議院選挙がある。こちらの投票総数は、少なければ5300万票(2014年)、多くても7000万票(2009年)と言ったところである。となれば、7月4日に行われる約500万票のサンプル調査のメッセージは、やはり重要と言わねばならない。

○ところがですな、現在の都議会があまりにも変なことになっていて、これでは国政へのシグナルを読み取りようがないのである。

○まず最大勢力の都民ファースト(現有46議席)は、おそらく3分の1以下に減るだろう。小池都知事も入院してしまい、こまめに応援に駆け付けるという感じではない。これは仮病であるとか、愛犬の死が響いているとか、いろんな観測があるけれども、もともとは風が吹いて当選した人たちである。風が吹かなかったらどうなるかは自明であろう。

○その分を他党が取り合うことになる。全回負け過ぎた自民党は、現有では25議席しかなく、議席数倍増は決して非現実的な目標ではない。たぶん都議会第1党に戻るだろうけれども、公明党と併せて過半数(64議席)を取ることが勝敗ラインとなってくる。

○公明党はいつも通り、候補者23議席の全員当選を目指す。しかるに公明党の支持母体である中小事業者は、コロナ下で選挙どころでないんじゃないだろうか。支持者の高齢化も進んでいる。1人でも取りこぼしが出ると、「勝った」とは言えなくなってしまう。悩ましいところである。

○共産党(現有20議席)も議席を増やしそうだが、伸びしろはあんまりなさそうだ。むしろ立憲民主党(現有7議席)は伸びるだろう。それでも共産党を超えられるかどうかは微妙な線である。野党第一党であっても、都議会では5番目の勢力に過ぎないのである。

○なんでこんな変なことになったのか。訳が分からないではないか。東京都議選の歴史を思い出すにはこのページなんかが有益です。


●NHK選挙WEB 都議選の歴史(平成以降)


○あらためて思うのですが、東京都民は落ち着きがなさ過ぎ。とにかく4年ごとに第1党が変わっている。都知事にしても、変な人ばっかりだしなあ。これでは全国の先行指標としては困ったものです。千葉都民のひとりとしては、くれぐれも真っ当な投票をお願いしますとしか言いようがありません。


<6月28日>(月)

○今朝の日経新聞「経済教室」には感心したな。今週号のThe Economist誌のカバーストーリーなんかよりもよっぽど深いと思う。


●対外強硬、背後に「国内不安定」 中国共産党100年(日経・経済教室)


●Power and paranoia: The Chinese Communist Party at 100(The Economist誌)


○The Economist誌は西側の対中観がこれまでずっと誤ってきた。畏れ入りましたと懺悔しつつ、でも大衆は騙せても党内はだまし切れないので、習近平の次の代替わりには苦労するだろう、という捨て台詞を吐いて終わりである。彼らには所詮、新興国を経綸する難しさは理解できないのであろう。その辺が今の欧州インテリの限界なのだと思う。

○今朝の日経・経済教室における加茂具樹教授の議論は、それよりはずっと中国という対象に接近している。やはり日本における対中研究は欧米よりも深いのだ。この論考から伝わってくるのは、中国共産党がいかに自分たちの生き残りのために必死であって、そのために突き詰めた議論をしてきたかということである。だからこそ彼らは1世紀にわたって生き延びてきた。

○ちなみにThe Economist誌は、中国共産党が予想以上の長寿となった理由として、@天安門事件のような冷酷さ、Aケ小平に代表される思想の柔軟性、B国民に適度に見返りを与えてきた、の3点を挙げている。彼らは所詮、いわゆる西側的な価値観が傷つかないような認識しかできないのであろう。

○中国共産党が人民に経済成長という果実を与えることで、自らを正当化できる時代はとっくの昔に過ぎた。成長は必ず鈍化する。そして多くの新興国はハンチントン・パラドックスに直面する。すなわち、「国家が不安定なのは貧しいからではなく、豊かになろうとしているからだ」。世の中が進歩するにつれて、人々は「社会的挫折感」に直面することになる。それこそが今の中国にとって真の脅威となり得る。以下は本文から引用。


そうであるがゆえに、中国の自己主張の強い対外行動は続く。いま指導部は大国外交を「世界の平和に決定的な影響力を持つパワー」と理解し、大国を形作るパワーの強化が経済発展に必要な国際環境の構築に貢献すると信じている。

指導部はいわゆる構造的権力の強化を目指し、「制度性話語権」(制度に埋め込まれたディスコース・パワー=発言内容を相手に受け入れさせる力)の確立に邁進している。中国は世界貿易機関(WTO)など国際経済秩序を形作るルール形成の分野で自己主張を強める。また国際社会は「2つの奇跡」の実現やコロナ対策の成果など、「成功した一党支配」という「物語(ナラティブ)」を国内外にアピールする中国と向かい続けることになる。指導部は「物語」が支配の正当性を支えると考えるからだ。


○7月1日以降の中国は、「戦狼外交」路線の軌道修正を目指すかもしれない。みずからの間違いに気づいた時の彼らは、けっして対外的な謝罪はしないものの、こっそりと修正を図るのが常である。しかるにそれをやると、「成功した一党支配というナラティブ」を損なう恐れがある。ということは、やっぱり彼らは辛い立場なのである。それこそが成功のジレンマというものなのであろうけど。


<6月29日>(火)

○来月に予定している上海とのリモート講演会に備えて、本日はリハーサル。ZoomならぬZomoという聞いたことのないツールを使うのだが、これがどうやらZoomの中国版らしい。見かけはほぼZoomと同じであり、使い方もほとんど変わらない。これってZoomのパチモンじゃないのか、と言いたくなるところだが、ZoomのOEMを作っている会社だとも聞く。そういえばZoomの創設者エリック・ヤンは中国人であった。

○このZomoに会社のPCからアクセスしようとすると、会社のシステムから「こんなのダウンロードしちゃダメです」とお叱りを受けてしまう。しょうがないから自宅のPCを使ってZomoにアクセスする。このPCは過去に何度も中国に持ち込んでいるので、今さら手遅れみたいな代物である。まあ、ZoomでもZomoでも、ちゃんと相手とお話ができればよろしい。

○ということで、上海のN氏やH氏とお話しする。いやあ、懐かしい。最後に行ったのは2018年9月だから、もう3年も前のことになる。「新天地」の近くにある「第1回共産党大会が行われた地」で、滝田さんと一緒に記念写真を撮ったものである。今では記念館も建っていて、駅名まで変わったしまったのだそうだ。ううむ、明後日の100周年にはどんなイベントがあるのだろう。

○Zomoのリハーサルが終わった後に、Teamsを使った定例会議が始まる。するとこれがトラブル続出なのである。なかなか入室できない人、声が発せられない人、すぐに切れてしまう人などが続出。この辺がマイクロソフト社の限界か。ワシ的な好みでいえば、Zoom>Webex>Termsの順だなあ。つくづくリモート会議が増えたことを実感する。


<6月30日>(水)

○今月20日には10都道府県の緊急事態宣言が解除され、「まん延防止等重点措置」になったけれども、「マンボウ」の期限は7月11日(日)となっている。ところが足下の感染状況はかえって悪化しているようで、延長になるのか、それとも緊急事態宣言に逆戻りなのか。

○コロナ感染から1年以上たち、データが蓄積されてきたことで、経済学者たちの研究が深まっている。ステイホームの比率が高まるなどの「行動変容」は、マスコミやネットを通しての「情報効果」と、政府による「介入効果」の2つによって実現している。どちらの影響力が強いかというと、実は前者の方が圧倒的に強いのだそうだ。つまり政府の介入はあまり効果がないことが分かってきた。

○スマホデータを使った実験によれば、昨年の緊急事態宣言の効果で外出は8.6%減った。しかし実際の外出は5割程度減っている。どうやら人々は「お上の命令」よりも、日々の感染者数や死者数のデータを見ながら、自分の行動を決めているらしい。だから緊急事態宣言が長引くと、若者が深夜の街に繰り出すようになってしまう。そもそも彼らはテレビを見てないしね。逆に緊急事態宣言が解除されても、数値が上がってくるとちゃんと外出を控える。その程度には賢いのである。

○いや、それは日本がロックダウンをしてないからだろう。ちゃんと法律を変えて、行動を制限すべきなのだ、という声があるかもしれない。ところが実は、他国でもあんまり事情は変わらないらしい。シカゴ大学の研究によれば、米国におけるロックダウンは外出を7.6%減らす効果しかなかったという。まあ、かの国の人たちは、確かにお上の言うことをあんまり聞かんわな。

○ということで、最近になって「ボランタリーな行動変容がいちばん効果的」ということがだんだんわかってきた。だったら余計な規制やコメントは一切抜きにして、データを地域ごとに正確に公表するだけにしておく方が良いのかもしれない。とりあえず緊急事態宣言を再発出しても、その効果が限定的になるであろうことだけは間違いあるまい。お上は辛いのである。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki