○今月の必需品です。ワールドカップを楽しむリンク集
●2002年FIFAワールドカップ公式サイト | http://fifaworldcup.yahoo.com/jp/ |
●ヤフー・スポーツトピックス | http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/sports/fifa_world_cup_2002 |
●日経ネット・サッカー | http://sports.nikkei.co.jp/soccer/wc/biz/ |
●イサイズ・スポーツ Total Football | http://www.isize.com/sports/football/wc/index.html |
●ヨミウリ・オンライン・サッカー | http://www.yomiuri.co.jp/wcup2002/ |
●アサヒコム・サッカー | http://www2.asahi.com/2002wcup/ |
<6月1日>(土)
○新潟のスワン・ドームは「緑一色」。アイルランドが緑の国なら、カメルーンも緑。どっちも肩入れする義理はないけど、日本で初めてのワールドカップ、となりゃあ、これは見ますわね。セ・リーグの首位攻防戦も、どうでもよくなります。見たら、まあ、これが本当に面白い。カメルーンが猛獣のようにゴールに殺到すれば、アイルランドは不思議なしぶとさで食い下がる。見応え十分の応酬。終ってから、2つの「緑軍団」が引き分けという結果に満足しているように見えたのが印象深かった。あれだけの好勝負であれば、サポーターも勝てなくて不満、とは思わないでしょう。
○はっきり言って、かんべえは「にわかファン」です。サッカーに対してどのくらい無知だったかという話を、ひとつだけ白状しておきましょう。「XX選手がイエローカードをもらった」とかいうから、審判はポケットの中にカードをたくさん持っていて、危険行為を発見すると選手に1枚ずつ渡していくのかと思っていた。「乱戦になって、カードが足りなくなったら、どうやって補充するのだろう」などと思っていたのだから、かなり恥ずかしい。言うまでもなく、実際には審判はカードを提示して、選手の名前を書き込むだけなのであります。乱戦になると、書き込む場所がなくなるという恐れはありますが。
○まあ、日本人の多数派が似たようなもんだと思う。それでも、ワールドカップともなれば、ボランチがどうの、フラットスリーがどうのということを覚えてしまうのだから不思議なものである。1ヶ月後には、思い切り目の肥えたファンができてしまうだろう。その後にJリーグを見ると、レベルが低くてがっくりしちゃうのかもしれないけど。
○JRAは明日の安田記念から、「3連複」を導入する。確かに、そのくらいやらないと、お客はどんどん減ってしまうぞ。さあ、今夜はドイツ対サウジアラビアだ!
<6月2日>(日)
○失礼しました。今日、中山競馬場に行ってみたら、ちょうど新馬券「馬単」と「三連複」の説明を始めているところで、全国発売は7月13日(土)からでした。投票カードも新しく刷らなければならないし、システムも用意するから、結構な大プロジェクトなんですね。詳しくはこのページをどうぞ。
○現在の馬番連勝は1位と2位の組み合わせだけを当てるのだけど、「馬単」は1位と2位の順序を、「三連複」は1、2、3位の3頭の馬の組み合わせを当てることになる。10頭建てのレースだと、馬連の組み合わせは45通りだが、馬単は「ウラ」を含めて10X9=90通り、三連複は10X9X8/3X2X1=120通りもできてしまう。これが18頭フルゲートだと、馬単18X17=306通り、三連複は18X17X16/3X2X1=816通りとなる。先日の大井競馬では、「1‐2‐3馬」(これは三連単ですな)で400万馬券が出て大騒ぎになったけど、馬単と三連複が導入されると、JRAも大当たり馬券がしょっちゅう出るようになりますな。
○で、今日の安田記念ですが、アドマイヤコジーンの復活という結論でした。というよりも、後藤騎手のG1初勝利という印象の方が強かったかな。派手なガッツポーズ。そして大泣き。若いもんはええのう。かんべえが買ったグラスワールドは、首差4着で終りました。ううむ、こんなことなら、自宅でアルゼンチン対ナイジェリア戦を観戦が正解だったか。6月23日の宝塚記念はちょい楽しみだが、やはりワールドカップの前にはかすんでしまうかも。
○昨晩のドイツ対サウジアラビア。5点目が入ったところで遠慮するかと思ったら、ドイツは最後まで手を休めず、最後はロスタイムに8点目を蹴り込んだのには恐れ入りました。ハットトリックを決めた新星、クローゼ選手は、その後に放ったシュートが抑えられたときに心底悔しそうな顔をして見せた。ゲルマン魂というんでしょうか、勝ちがはっきりしても、「もう、いいか」がない。というより、勝負の場においては、残酷さこそが最大の礼儀、ということでしょうか。
○どうでもいいことですが、クローゼの3点は全部ヘディング。8点中5点が「頭で」入れた得点。ドイツの選手、身長は1人を除いて全員180センチ以上ですって。これじゃ、空中戦では歯が立ちませんがな。ま、それはさておいて、0−8では、サウジアラビアの受けたショックは大きいでしょう。ウサマ・ビンラディンからこの方、あの国には碌なことがない。
○インドとパキスタンの対立が危険な状態になっています。両国がサッカーファンであれば、ワールドカップはいい冷却剤になるのでしょうが、あいにくクリケット以外は関心が薄いらしい。アフリカの内戦などは、サッカーの試合中はお休みになることが多いらしいですが。
○それではこれからイングランド対スウェーデンを見ることにしよう。これじゃ、丸一日、落ち着きませんなあ。
<6月3日>(月)
○サッカーに目を奪われていたら、重大発言が飛び出したではないか。慌てて、「溜池通信」本来の世界に戻ることにする。
○重大発言とは、政府首脳(オフレコで官房長官から話を聞いてしまったとき、記者はこう書いてごまかす)による「日本は核兵器を持てる」発言のことではない。そんなもん当たり前の話で、日本は国の能力として、核兵器を持てる。持てるけど、敢えて持たないというのが「非核三原則」であって、何も「日本は持てません」などという必要はない。ここのところ、勘違いしている人が多いので呆れてしまう。民主党も、単なる揚げ足取りではなく、本気でこの発言が問題だと思うなら、「核武装禁止法」を作って国会に提出すればいい。
○ただし、現在の国際情勢を所与の条件と考えるならば、日本は核を持たないのが賢明である。このことは神谷万丈・防衛大学助教授が「日本、核兵器、日米同盟」という1996年の論文で見事に整理している。日本が核を持つことは国益に反する。それは以下の理由による。
(1)日本が核を持つと、日本を取り巻く国際環境を悪化させる。戦後一貫して行われてきた「平和国家」のための努力が水泡に帰す。
(2)日本が核を持つと、東アジア地域での軍拡競争を引き起こし、結果としてすべての国の安全が低下する。
(3)日本が核を持つと、日本にとってもっとも重要な日米関係を悪化させる。
(4)日本が核を持つと、国際社会における批判を浴びるので、日本の政治力は確実に低下する。
○「日本は核を持ちません。なぜなら、それは日本にとって損だからです」。こう言った方が、外国から見ればはるかに説得力がある。「日本は唯一の被爆国であり・・・」というお馴染みのロジックは、外国人にとっては共感を得にくいロジックである。だいたい、国際政治の上で「勘定」よりも「感情」を優先するような国が、信頼されるわけがないではないか。「では、上のような状況が変わったら、日本は核を持つかもしれないのか?」と重ねて聞かれたら、「先のことは分からない」と慎重に答えればいい。「いや、何がなんでも持ちません」などと言っても、どうせ信用してはもらえない。大人はそんな無責任なことは言わないものだからだ。
○気を取りなおして本題に入る。注目すべきは、6月1日にブッシュ大統領がウェストポイントの陸軍士官学校卒業式で行った演説である。ホワイトハウスのHPの中に全文がある。URLは以下の通り。
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2002/06/20020601-3.html
○今日の読売新聞は「テロ阻止へ先制攻撃 米大統領、必要性を指摘」、朝日新聞は「米大統領 対テロ先制の考え、イラク念頭に『戦闘挑む』」と報じている。この該当部分を抜き出しておきましょう。
Homeland defense and missile defense are
part of stronger security, and they're essential priorities for
America. Yet the war on terror will not be won on the
defensive. We must take the battle to the enemy,
disrupt his plans, and confront the worst threats before they
emerge. (Applause.) In the world we have entered, the
only path to safety is the path of action. And this nation will
act. (Applause.)
Our security will require the best intelligence, to reveal
threats hidden in caves and growing in laboratories. Our security
will require modernizing domestic agencies such as the FBI, so
they're prepared to act, and act quickly, against danger. Our
security will require transforming the military you will lead --
a military that must be ready to strike at a moment's notice in
any dark corner of the world. And our security will
require all Americans to be forward-looking and resolute, to be
ready for preemptive action when necessary to defend our liberty
and to defend our lives. (Applause.)
○テロとの戦いにおいては、守勢に立っていては勝てない。これからの時代、安全を得るための唯一の道は行動あるのみ。そのためには諸君の軍隊が必要だ。世界の暗黒部を撃たねばならない、という理屈である。この発言がいかに重大かは、これが米国の伝統的な軍事思想を踏み外しているからだ。そのことはブッシュ自身も自覚していて、上の発言の前の部分でそのことを説明している。
For much of the last century,
America's defense relied on the Cold War doctrines of deterrence
and containment. In some cases, those strategies
still apply. But new threats also require new
thinking. Deterrence -- the promise of massive
retaliation against nations -- means nothing against shadowy
terrorist networks with no nation or citizens to defend.
Containment is not possible when unbalanced dictators with
weapons of mass destruction can deliver those weapons on missiles
or secretly provide them to terrorist allies.
We cannot defend America and our friends by hoping for the best.
We cannot put our faith in the word of tyrants, who solemnly sign
non-proliferation treaties, and then systemically break them. If
we wait for threats to fully materialize, we will have waited too
long. (Applause.)
○ソ連という敵に対し、米国が取った戦略は封じ込め(Containment)だった。この戦略を提唱したジョージ・ケナンは、非常に正確にソ連の本質を見抜いていた。ソ連が民主主義国に対して敵意を持つのは、ソ連に内在する脆弱な社会構造から来るものであった。(「共産党が破壊されたならば、ソビエト・ロシアはもっとも強力な国民社会から、一夜にしてもっとも弱い、哀れむべき国民社会へと変わることになろう」という『X論文』の予言は、ソ連崩壊後に見事に的中した)。つまり、西側が融和的な姿勢を見せても、ソ連は受けつける余地がない。ゆえに米国は不屈の抵抗力を持って、ソ連を封じ込めるしかない、というのがケナンの結論であった。
○封じ込めとは、いわばモグラ叩きである。モグラ叩きは、時間もかかるしコストもかかる。なにしろアメリカはソ連が、次にどこで動くかが分らない。中東で動けば中東へ、中南米ならば中南米へ、極東ならば極東へ、と柔軟に動く必要がある。そんなことをするくらいなら、直接モスクワを叩く方がはるかに楽である。でも、米国はそれをしなかった。なぜか。それでは道義的優位性を保てないからである。「自分たちは正しい」と思っている限り、アメリカ人は大概のことは我慢して乗り越えてしまう。逆にいえば、そこの部分が怪しいと思ったら、ベトナム戦争のようになってしまう。こと冷戦に関しては、ソ連という敵に対して横綱相撲に徹したことが、最終的なアメリカの勝利をもたらしたといえる。
○今回のブッシュ演説は、テロに対する先制攻撃の容認、つまり「抑止と封じ込め」戦略の放棄宣言である。なぜそれが許されるか。それはテロが絶対的な悪であり、正義はわが方にあることが自明だからである。ブッシュは力強く宣言する。
Some worry that it is somehow undiplomatic
or impolite to speak the language of right and wrong. I disagree.
(Applause.) Different circumstances require different methods,
but not different moralities. (Applause.) Moral truth
is the same in every culture, in every time, and in every place.
Targeting innocent civilians for murder is always and everywhere
wrong. (Applause.) Brutality against women is always and
everywhere wrong. (Applause.) There can be no neutrality between
justice and cruelty, between the innocent and the guilty. We
are in a conflict between good and evil, and America will call
evil by its name. (Applause.) By confronting evil
and lawless regimes, we do not create a problem, we reveal a
problem. And we will lead the world in opposing it. (Applause.)
○この部分、日本人にとしては「ついて行けない!」と悲鳴を上げたくなるほどのトーンの強さである。ここで使われている"Evil"という言葉は、文字通り「悪の枢軸」を念頭に置いているのだろう。
○ここで興味深いのは、なぜ、今、この場所で、この発言が飛び出したか、である。"When"ということでは、ブッシュが仏、独、ロの歴訪から帰って、「テロに対する国際的な連携に自信が持てた」ことを意味するのだろう。ぶっちゃけた話、「イラクを攻撃しても欧州、ロシアはついてくる」という瀬踏みが終った、ということではないかと思う。
○"Where"ということでは、ウェストポイントは今年創立200周年を迎える、という意味があるのだろう。創立記念日は3月11日で、ブッシュはこの日に特別宣言も出していた。なにしろ南北戦争のリー将軍とグラント将軍が出た学校である。ちなみにブッシュはこの演説の前段部分で、「リー将軍は落第点なしで4年間を過ごした。グラント将軍は劣等生で、卒業できた日がいちばんうれしかった。といえば、お分かりだろうけど、私もグラント型だったよ」などと、お得意の自分をネタにしたジョークで笑いを拾っている。
○それにしても、軍事費を「聖域」化して大盤振る舞いをし、大統領みずからがここまで激励してくれるのでは、軍の士気も上がろうというもの。大統領就任早々、ゲイを軍に入れるかどうかでもめ、その後も予算をばっさり削ったクリントン大統領との差は大きい。とはいうものの、ここまでサービスするのは、この後で大型の軍事行動を予定しているから、と見ておくべきだろう。
○ところで、この演説には「日本」が登場する個所がある。ここだ。
Today the great powers are also
increasingly united by common values, instead of divided by
conflicting ideologies. The United States, Japan and
our Pacific friends, and now all of Europe, share a deep
commitment to human freedom, embodied in strong
alliances such as NATO. And the tide of liberty is rising in many
other nations.
Generations of West Point officers planned and practiced for
battles with Soviet Russia. I've just returned from a
new Russia, now a country reaching toward democracy, and our
partner in the war against terror. (Applause.) Even
in China, leaders are discovering that economic freedom is the
only lasting source of national wealth. In time, they will find
that social and political freedom is the only true source of
national greatness. (Applause.)
○この順番は、ちょっと驚きましたな。まず日本、それから太平洋の友人たち(この場合、常識的には韓国、豪州、フィリピンなどを指す。台湾が入るかどうかはぼかしておくのが礼儀)、そして欧州のすべて、と来たもんだ。それからやっとロシアが来て、最後に「中国でさえ」と来る。日本の方がNATOより先である。官邸や外務省の人たちは、ちゃんとここまで読んでいるのかな、と急に不安になる。
Today, from the Middle East to
South Asia, we are gathering broad international
coalitions to increase the pressure for peace.
○行動を起こす場所は中東から南アジア、とはっきり書いてある。やっぱりこれはすごい演説ですぞ。
<6月4日>(火)
○南アジアの印パキ対立が深刻さを増しています。状況をうまく説明する資料がないものかと探していたら、CSISのHPがぴったりのものを用意していてくれました。題して、Special
Report"India and Pakistan Eyeball to Eyeball:Some
Basic FAQ's"。URLは以下の通りです。
http://www.csis.org/saprog/sam47.htm
○太字の部分だけ紹介しておきます。詳しくは全文をどうぞ。
Q:インドの反応はブラフか?
A:ノー。昨年12月の国会攻撃で堪忍袋の尾が切れた。
Q:ムシャラフは破壊活動を止められるか。
A:イエス、ただし完璧には無理。
Q:破壊活動を止めれば、戦争のリスクを止められるか?
A:ノー。カシミールでもう一発テロがあればもたない。
Q:政治的圧力が、インド政府に戦争に追い込んでいるのか?
A:ノー。だが現状を逆転させることは難しくしている。
Q:核戦争になるか?
A:可能性はある。だが不可避ではない。双方が「売り言葉に買い言葉」、になればその危険がある。
Q:核が使われるとしたら?
A:パキスタンの不安感が鍵。南アジアにおいて、何が核使用の引き金になるかは誰にも分からない。
Q:戦争は避けられるか?
A:イエス。ただしいくつもの「イフ」が必要。
Q:緊張緩和のためにインドはどうすればいいか?
A:西側国境の軍備削減とパキスタンとの正常な交通回復。
Q:米国の役割は?
A:ある。両方といい関係にあるから。
Q:カシミールの立場は?
A:そこが鍵。印パ国境紛争の象徴となっている。カシミールのイスラム教徒の多くは独立を望んでいる。
Q:両方ともカシミールを望んでいるのか?
A:違う。インドはすべてのカシミールがインドに属すると主張している。カシミールの領主(マハラジャ)がインドについたから。パキスタンは、カシミールの地位は住民投票で決めるべきだと主張している。
Q:平和プロセスはどんな形になるか?
A:同時並行で、かつ分離した2つの対話が必要。ひとつはインドとパキスタン間。もうひとつはカシミール人とインド政府間。カシミール人の自治がないと地域の安定は保てない。インド、パキスタン、カシミールという3者で現実的な解決策を見出すには、ハードルは多い。
○今日のワールドカップ、中国はコスタリカに負け、日本はベルギーと引き分け、韓国はポーランドに勝ち。アジアにもいろいろある。やっぱサッカーで熱くなる方がいいっす。
<6月5日>(水)
○先週号の「ワールドカップの経済学」は時節柄、各方面で関心を持っていただいているようですが、どうやら思いのほか、経済効果は大きなものになるのかもしれません。いろんな兆候が出ています。
●昨夜の日本−ベルギー戦は58.8%、その後の韓国−ポーランド戦は22.2%。
――紅白歌合戦の視聴率が5割そこそこという時代に、6割近い視聴率はいささか感動的。次の対ロシア戦は日曜日ということもあり、これ以上の数字が出そうな予感。フジテレビに期待。
●W杯熱気、企業も沸く。民放・家電株にぎわう。(本日付けの日経新聞)
――これはまあ、ワシの読み通りだな。
●きのうの埼玉スタジアム、ファミリーマートの臨時店舗、浦和みその駅前店は1200万円の売上げ。通常のファミリーマートは平均50万円。国立競技場横の北青山二丁目店は三百数十万円。公式スポンサーだとユニフォームを売れるので、これがデカかった。あとはベルギーワッフルが売れた(!)。
――サッカーピープルは非常につつましい行動が目立ち、山谷のドヤ街やキャンプ地が賑わっているとか。それでも外国人が大勢来れば、日本人も非日常的な感覚になり、消費行動が活発化するようだ。
●少なくとも70代以降、開催国は全て決勝トーナメントに進出している。同「経験則」は当然、今大会の日本にも妥当する。また、全ての開催国で、開催期間中のGDP長率は直前までの四半期を上回っている。(ゴールドマンサックス/山川哲史氏)
――アウェイよりホーム。つまり自国開催は圧倒的に有利、ということだ。
○長野五輪のときもそうでした。開会式のときは「ふ〜ん」てな感じでしたが、里谷のモーグル金メダルで流れが変わった。あとは清水のロケットスタート、ジャンプの大逆転劇と続いて全国が興奮した。昨日の対ベルギー戦も似たような効果があって、今日は国民的にどこかタガがはずれているような気がする。次はロシア。昔から、日本人はロシアを相手にすると燃える。韓国との競争意識もあるし、サッカー熱は相当に高まるのじゃないだろうか。
○そうそう、今宵ご一緒したこの人は、めずらしくテンションが低いと思ったら、昨晩は喜びのあまり午前2時まで飲みつづけていたのだと。対照的に、いつも冷静なこの人と3人で、韓国料理の店から蕎麦屋へ。比較的、早い時間に散会。
<6月6日>(木)
○いやあ、すごい傑作を教えてもらいました。久々の動画ギャグ。ネタは「みずほ」。
http://www.monakura.com/mizuho.html
○その昔、「みずほはフロリダを救う」という傑作がありましたが、これは「みずほは地球を救う」編ですな。いや、恐れ入りましたぞ。
<6月7日>(金)
○「個人投資家のためのプロフェッショナルなリサーチレポート」を提供するサイト、「マルテックス・インベスター」というHPに、先週の溜池通信「ワールドカップの経済学」が紹介されました。題して、【投資戦略】ワールドカップが産み出す新たな「売れ筋IT製品」とは!? 下記をご参照ください。
http://www.multexinvestor.co.jp/home/
○例の「ヒット商品番付に見るIT製品」の表が引用されています。今年はIT製品の当たり年になるんじゃないか、という仮説です。思えば4月26日号の本誌で、「日本経済の底入れ」を宣言してから、だんだんそういうムードになってきた。ちょっといい気分ですな。
○今日発表されたQEで、2002年1‐3月期は4期ぶりのプラス成長となった。牽引役となったのは輸出と個人消費。輸出の伸びは分っていたけど、個人消費の強さは意外なほど。統計上のぶれがあるのだろう、などと言われていますが、IT製品の需要を見過ごしている可能性もあると思う。最近の日本人は、お金がないから消費しないんじゃなくて、欲しいものがなかなか見つからないだけ。必要なのは、独創的な商品と優れたサービス、そして売るための努力。なんでも不景気のせいにしちゃいかんです。
○経済学は、「人間の欲望は無限である」「人はお金があればかならず使う」と教えている。でも、現実はそうではない。カネがあっても使えない人、カネがなくても使う人が集まって、社会を構成している。消費をつかさどるのは、経済学よりも心理学。そして消費者の心理は、ちょっとずつ上向き始めていると思う。
○消費者の心理を刺激する上で、ワールドカップは意外な効果を発揮するかもしれない。今だったら、「6月9日夜の日本―ロシア戦(横浜)のチケットが、心の底から欲しい!」という人は大勢いるだろう。金券ショップに出まわれば、相当な値段がつくでしょうね。でも、ロシア側関係者が、まだまだ大量に持っているかもしれない。ワシも欲しいなあ。
<6月8日>(土)
○昨晩の試合、イングランドがアルゼンチンを破った試合は見応え十分でした。最近、この人のHPで前日のW杯試合の寸評が行われていて、なかなかに気の効いたコメントが多い。イングランド勝利は、以下のように評されています。
●
アルゼンチンーイングランド戦 1−0 札幌
因縁の一戦は決勝戦といってもいい内容だった。他試合の1.3倍位のスピードで全選手が動き、ミスがない。さらに4年前と比べると楽しみ倍増。ベロンは冴え、オルテガはズルが減り、オーウエンは大人になった。何よりもベッカム。真正面を突き刺すPKでかつての"非国民"は真の"英雄"になれた。そして4年前にファウルを受けた報復に蹴りを入れてしまったシメオネに、前半終了時「ごめんね」の手を差し伸べた。年をとるのもいいものである。
○「死のグループF」、下手をするとアルゼンチンが敗退してしまう。グループAでフランスが落っこちてもいいけど、アルゼンチンが決勝に出ないのは困るような気がする。なんで、といわれると困るけど。予選も2順目に入ると、誰が強くて誰が落ちそうか、見えてくるところがコワイ。
○今日はイタリア対クロアチア戦が面白かった。イタリアは前半でリードすると、あとはガッチリ守ってカウンター狙いに徹する。世知辛いサッカーをするなあ、と思っていたら、クロアチアが2点続けて入れて、鮮やかな逆転劇。それから本稿執筆時点で、ブラジルが中国をあざ笑うかのごとく4−0でリードしている。サウジもひどかったが、やはりアジアはまだまだレベルが低いことを痛感。日本と韓国がどこまで頑張れるか。
○ところで、うちはほとんどの試合をスカイパーフェクTVで見ています。NHKの中継があればそっちを見るけど、民放だと変なタレントや女子アナとかが出てきて、うるさくてしょうがない。その点、CS放送は地味だから試合に集中できる。スポンサーが少ないので、朝日新聞とアース製薬の同じCMが何度も流れるのがちょとうざい。ま、それを我慢すれば、さほど文句はない。
○たしか社内販売でパーフェクTVに加入したのが1997年。ふだんはめったに見ないのだけど、ここへきて連日お世話になっている。配偶者いわく、「W杯が終ったら解約するか」。こういうお客は少なくないような気がする。
<6月9日>(日)
○読者の方から、力のこもったサッカーのサイトを2点、ご紹介いただきました。
●2002杯TV観戦記 http://www.classicajapan.com/wc2002/index.html
●1998杯TV観戦記もあり http://www.classicajapan.com/france98.html
○これらは本来、クラシック音楽の定番サイトなるも、W杯観戦記がついております。すごいファンというのはいるものですね。それからもうひとつ。
●J.P.モアンのフランス・サッカー幻想交響曲 http://www.jpmoins.com/archives/index.html
○こちらはフランスサッカー中心のサイト。これも相当にマニアックですぞ。念のため、モアン氏は日本人です。
○それから今日、いちばん笑ったのがこのニュース。
【モスクワ7日時事】「もし日本チームがロシアを4−0で破ったら、(北方領土の)4島すべてを引き渡す。だが私たちが1−0で勝ったら、日本は北海道か沖縄を引き渡す」−。サッカーのワールドカップ(W杯)で9日の日本−ロシア戦を前に、過激な発言で知られるロシア極右政党のジリノフスキー党首は領土問題でこう“新提案”した。
7日付のロシア紙コムソモリスカヤ・プラウダは、北方領土問題の解決方法とW杯と結び付けたジリノフスキー氏の発言を紹介した上で、「もし引き分けなら、戦争状態が続くのか?」と皮肉っている。(了)
○おいおい、北海道は歯舞諸島と同じ値打ちかよ。4−0なら樺太くらいまでもらわないと釣り合いが取れないぞ。麻雀劇画などで、「ええい、こうなったら俺と勝負しろ!」という安直な展開があって、最近では『ゴールデンボール』という変なドラマがこのパターンを得意としていますが(見てないけど、黒木瞳が出ているので、ちょっとだけ気になっている)、まっとうな政治家が口にする話じゃありませんな。インドとパキスタンもこれができれば苦労しないんですが。
○モスクワでは日本大使館より、在留邦人に外出注意喚起が出されているようです。ロシア人も本気になっているということでしょう。悪いけど、こっちも負けられない。日露決戦開始まであと4時間を切りました。ああ、気になるなあ。(16:42)
〜日本、1−0でロシアを破る〜
○皇国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ。本日天気晴朗されども波高し。
○今日は富山出身の柳沢がとっても気になりました。柳沢、フォワードのくせに、今ひとつワガママになりきれない。今日もフリーの状態で惜しいチャンスを逃している。反則すれすれで倒されたシーンもあった。でも、試合を決めた稲本のゴールをアシストしたのは柳沢でした。なんというか、富山県人らしいなあ。でも地元の小杉町は、きっとお前のゴールを待ってるぞ。
○柏レイソルの明神も気になった。同僚たちが韓国代表で大活躍しているんだから、いいところを見せたかったと思う。今日は地味だけど、いい仕事をしてくれた。危ないところを何度も救っていたと思う。次のチュニジア戦も使ってもらえるといいね。できれば、柳沢との右のラインで1点とって欲しい。
○最後にトルシエ監督。勝てば官軍だ。もう、あなたをとやかく言う人はいないはず。あなたは気が小さいし、変なことにこだわるし、選手の変えどきもうまくない。でも、今時めずらしい熱血教師だし、誹謗中傷に負けない頑固さも持っている。勝負の神様は、そういう人を見捨てはしない。ありがとう、ありがとう。
<6月10日>(月)
○今日、山手線の中で聞いた、隣のおっさん二人の会話。
「俺さあ、サッカーって初めて見るんだけど、面白いなあ」
「あれだけ怒っているってことは、ロシアの連中は本気なんだよな。ということは、日本は強いんだよなあ」
――とっても幸せそうな会話。昨晩はあんまりうれしくて、今日は寝不足という人が多かった。かんべえも昨夜は、完全に酔っ払うまで寝られなかった。
○某氏いわく。横浜のクロアチアかどこかの試合のチケットが手に入るらしいんだが、1枚6万5000円だという。2枚で13万円。
「さすがに高いね」
「いや、買うのはやぶさかではないんだが、6万5000円かけてもいいと思える女性が身近にいない」
――いろんな思惑が飛び交うもんですな。
○空席問題について。欧州から日本や韓国へ出かけるコストを考えれば、チケットが売れ残るのは少しも不思議なことではない。実際、外国選手団は割り当てられたチケットを余しているらしい。金曜日の日本―チュニジア戦も、おそらくチュニジア側はチケットを持っているだろう。などと良からぬことを考えた。
「だれかチュニジア大使館に顔の効く人はいませんかねえ」
「お前、金曜日に大阪まで行く気か?」
――かんべえ、沈黙。
<6月11日>(火)
○信じられないことに、3試合で1点も取れないままに、4年前の覇者フランスの予選敗退が決まった。ボールキープ率56%、枠内シュート8本、コーナーキック6本。それでもデンマークに2−0。パーフェクTVの総集編を見ながら、なんだか物悲しい思いがしています。せめて1点、と思ったでしょうが、今日の試合はどう見ても勝てないようにできている。セネガル、ウルグアイ、デンマークと、ワールドカップに出てくるくらいだから、弱いチームなどひとつもない。名前では勝てないのだ。それにしてもジタン以下のフランス戦士は、日本には上陸することなく帰国することになる。なんというか、残念。
○ドイツは死闘の上、カメルーンを2−0で下す。イエローカード飛びまくり、それこそ「選手の名前を書き込む欄がなくなる」ほどの乱戦。それでも不屈のライオン相手に、しっかり勝ちぬいたところがさすがにドイツ。かんべえはクローゼの得点シーンを通算5回、全部リアルタイムで見ている。あきれたことに、全部ヘディングである。今日も高くジャンプして、頭で地面に叩きつけた。これはキーパーも取れない。こんなのと当たったら、日本はどうすればいいんですかね。
○アイルランドも勝ったそうだ。あのチーム、不思議なしぶとさがあって、私は好きだな。それからカメルーンは残念でした。中津江村の奮戦記もさることながら、プーマのCMはよくできていた。颯爽とした印象が残った。アフリカの国の名前を5つ挙げろといわれたら、今ならきっとこの国の名前が真っ先に上がるだろう。W杯は、アフリカをちょっとだけ身近にしてくれる。
○ところで今年のカナナスキス・サミット、ちょうどW杯の準決勝の日(6月26‐27日)に行われるが、テーマは「世界経済」「テロとの戦い」それに「アフリカ開発」である。アフリカがG8のテーマになるのは、おそらく93年の東京サミット以来。この間、アフリカの貧困、内戦、エイズなどの問題は放置されてきた。なぜ今頃になってアフリカがテーマになるかというと、議長国カナダのクレティエン首相にとって、これがもっとも無難で受けがいいからだという。逆に環境問題などを取り上げると、国内が分裂して収拾がつかなくなる。政治って、イヤらしいでしょ?
○スポーツにはそんな思惑が通用しない。勝者と敗者ができて、強いものが勝つとは限らない。今週はベスト16が続々と決まりつつある。明日はアルゼンチンが瀬戸際の勝負。木曜日はイタリア。どちらも気になる。そして決戦の金曜日。日本はチュニジア相手にちゃんと勝って、決勝進出を決めて欲しい。韓国は強豪、ポルトガルとの勝負を残している。韓国頑張れ、一緒にベスト16に残ろうぜ。
<6月12日>(水)
○『ルック@マーケット』。芝公園スタジオに着いた時間が早かったので、控え室のハイビジョンテレビで「イングランド対ナイジェリア」を見る。さすが、家のテレビとは違って迫力十分。そこへキャスターの内山さんが到着。出し抜けに、「吉崎さん、最近はサッカーの話ばかり書いてるけど、もうちょっと役に立つこと書いてくださいよ」。ひえ〜。本番になってからも、追い討ちをかけるように、「吉崎さん、サッカー見ててもいいですよ。出番になったら呼ぶから」。あらら、私ったら、そんなに裏番組に熱中してましたかしら。
○しかるに「かんべえの不規則発言」は、今日もサッカー狂いが止まりません。皆さんゴメンナサイ。今日だって、たまたま乗ったタクシーの運転手さんが、こっちは何も言わないのに、「サッカーって、面白いですねえ」と話しかけてくるんだもの。世の中は「にわかファン」であふれている、ってことですね。
○仏系企業に勤めるSさんによると、昨日の敗戦によるフランス人同僚たちのショックは甚大であるとのこと。こりゃもう、向こう4年間は言われ続けるでしょう。それどころか、「2002年のフランス」といえば、「前回のディフェンディング・チャンピオンチームでも、油断はできない」という意味になって歴史に残るかもしれません。
○アルゼンチンも今日で予選敗退。こちらは「死のF組」で、3試合とも好勝負を演じた上の敗退。とくに対イングランド戦は、今大会屈指の名勝負でした。でも、バティストゥーダとクレスポの活躍をもっと見たかった。残念。
○ところで、Sさんのアシスタントはイタリアチームの熱烈なファンで、イタリア戦のある日は全部休暇を取ってしまう。当然、明日もお休み。そこで「金曜は頼むよ」と言ったところ、「負けたら分からない」と言われてしまったという。気持ちは分かるけど、困るだろうなあ。
○「らくちん」さんが台湾から、「次の日本戦の日には、青い服を着よう」という提案を送ってくれました。アイリッシュの人が、「聖パトリックデー」に緑色のネクタイをするような感じですね。昔、企業のCIをやっているパオスという会社の社長さんから、「日本人は青が好き」という話を聞いたことがあります。実際、NTTをはじめとして、青をコーポレートカラーにしている会社は多い。海に囲まれた島国ですから、サッカーチームが「ジャパン・ブルー」になるのは自然なことなのだと思います。
○かんべえも、金曜は青のワイシャツと青のネクタイで出かけることにします。皆さんもいかが?
<6月13日>(木)
○困っている。溜池通信の筆が進まない。いつも午後9時から11時が書き入れどき、いや執筆時間なのだが、ついついサッカーを見てしまう。終るとスポーツニュースを見て、深夜にダイジェストも見てしまう。気がつくと、もう眠くなっている。毎日、その繰り返し。
○予選もいよいよ終わりが近い。どこが残って、どこが落ちるか。ここがいちばん面白いところ。それも1日4試合もあるのでしびれてしまう。ベスト16になってしまえば、残りは15試合、3位決定戦をあわせても16試合なので、こんなに毎晩、ハラハラすることはないでしょう。ということで、今週号は難所です。
○今宵の注目はイタリアが残るかどうか。前半でメキシコが先制し、イヤな雰囲気が深まる。イタリアチーム、運にも、ゴールポストにも、審判にも嫌われ、焦りが焦りを呼ぶ。見てる側も不安。「パリは燃えているか」「アルゼンチンよ泣かないで」に続き、「ローマ帝国衰亡史」のドラマになっちゃうのか。終り間際、デルピエロの一発が決まって追いつく。この間、エクアドルが意地を見せてクロアチアを破ったので、引き分けでも決勝進出となった。最後数分は、メキシコがあからさまにボールをまわし、イタリアも談合のようにこれを追わない。こういうのってアリ?
○予選の3試合目は戦い方が難しい。できれば楽に勝ちたい、怪我をしたくない、イエローカードも増やしたくない、とまあ、気持ちは分かる。でも、そういうのは強いベテランチームが考えること。明日の日本は、ちゃんと点を取りに行ってほしい。引き分け狙いはかえって事故のもと、じゃないでしょうか。
<6月14日>(金)
○完勝、とまではいいませんけど、快勝でした。日本代表、2−0でチュニジアを下す。怪我もなく、イエローカードもなく、きれいな体で決勝トーナメントに向かいます。3試合を戦って、2勝0敗1引き分け。取られたのは初戦の2点だけ。正直言って、こんなに健闘するとは思いませんでした。甲子園でわれらが郷里の初出場校が、いきなりベストエイトに入ったような感じ。
○トルシエ監督が冴えてました。後半、柳沢と稲本を引っ込めて森島と市川を出したら、いきなり森島が先取点。次に市川のアシストを中田が頭で押し込んで2点目。トルシエの悪口を言っていた人たちは、全員丸坊主になって反省しましょう。とくに日本人監督にこだわって、解任を画策した某参議院議員は土下座ですね。
○この大会が始まるまで、W杯でゴールを決めた日本人は中山一人でした。それが今日時点で、鈴木1、稲本2、森島1、中田1と合計5点。とくに中田が決めたのは値千金だったと思う。「初勝利はいつか来るもの」と澄ましていたけれど、W杯での初ゴールは本人が気にしていたはず。でも、これだけゴールがあれば、あとはもうめずらしくも何ともない。「あれ?小野はまだ決めてなかったっけ?」「柳沢もそろそろ決めなきゃね」という感じでしょう。夢のようなベスト16だけど、もう意外感はない。
○そして夜は韓国も強豪ポルトガルを下した。これで日韓揃って決勝トーナメント入り。こんな展開を誰が予測しただろうか。共同開催が決まった頃のことをちょっとだけ思い出しました。ここに昔の議論のあとが残っています。
<6月15日>(土)
○かんべえの職場には、アメリカの某大学院から、毎年恒例のサマーインターンの学生が来ている。今年の学生はエクアドル人。これはけっしてめずらしいことではなくて、過去にもウクライナ出身だとか、香港生まれで米国に帰化したとか、いろんなパターンがあった。何にせよ、日本語を覚えて、日本のことを学ぼうとしてくれるのだからありがたい話で、こういう人たちは大事にする必要があると思う。
○彼女は18歳のときにアメリカに渡ったそうなので、そこで一度、カルチャーショックを受けている。こういう経験があると、初めて日本に来てもあんまりショックを受けない。アメリカでは何に驚いたかというと、「人々が冷たい」ことだった由。日本人の場合は、初めてアメリカに行くと得てして「なんてフレンドリーな人たちなんだろう」と思うわけで、その辺の反応の違いも面白い。
○彼女が真のカルチャーショックを受けたのは、昨日のワールドカップ日本対チュニジア戦の瞬間だった。職場のほとんど全員がテレビの前に集まり、勝利の瞬間には全員で歓声を叫んだにもかかわらず、その後は皆がすーっと仕事に戻ってしまったからである。「みんな、どうしてお祝いしないの?信じられな〜い。これがエクアドルだったら、もう仕事なんてしないよ」。ワシもまったく同感だったが、「溜池通信」が終わっていなかったので、やむなく仕事に戻った。
○彼女の母国、エクアドルはW杯初出場で、1勝2敗と予選突破はできなかった。「残念だったね」と言うと、「いいの、あとはブラジルの応援するから」と意外とサッパリしている。聞けば、W杯ではこれまでもずっとブラジルを応援していたという。そりゃあ、南米代表だし、応援のしがいのあるチームですからね。「アメリカは?」と聞くと、「ああいいの、アメリカはどうだって」と、はっきりしている。
○大多数の日本人は、純真に日本代表チームを応援している。その一方、昨晩は韓国の応援をした人もいたはず。「ドイツのファン」とか「フランスこそ命」というサッカーファンもいたりする。日本チームの応援団が、アイーダの凱旋行進曲(だったっけ?)を歌うというのも考えてみたらスゴイ話で、イタリア人が聞いたら感動するような話だと思う。まあ、大晦日に第九を歌うなんて妙な国、日本くらいでしょうな。
○この時代、ワシらは複数の文化にまたがって生きている。それでも熱い気持ちで応援できるチームがあるというのは、とってもうれしいじゃないか。
<6月16日>(日)
○昨日はドイツがパラグアイに、イングランドがデンマークに順当勝ちを決めたけれど、今日は一転して大混戦。セネガル対スウェーデンは、個人戦対組織戦の対照的なチームが激突。延長戦の末、決勝Vゴールでセネガルが勝ち。さすがは今大会最大のワイルドカード。アルゼンチンを退けて死のF組を首位で抜けたスウェーデンの堅い守りを突破した。勝負の引き締まり方は、さすが決勝トーナメントとしかいいようがない見事さ。
○夜にはそれよりもスゴイ熱戦が待っていた。スペイン対アイルランド。予選を見ていて、かんべえがいちばん気に入ったのがアイルランドである。強いドイツとカメルーンに引き分け、弱いサウジにきっちり勝った。派手さはないけど、とにかくしぶとい。リードされてもあきらめず、辛抱強く敵の失策を待つ。将棋で言えば大山康晴十五世名人。「人間はかならず間違える」と確信している「泥沼流」のサッカーなのだ。
○今日も開始後8分、スペインがゴールを決めて先行。その瞬間に、「あ〜これは得意パターンだな」と思った。案の定、スペインは追加点が取れない。オフサイドの繰り返し。他方、アイルランドはボールの支配率では上回りながらも、チャンスをモノにできない。後半には貴重なPKの機会を逃す。1−0での勝利を確信したか、スペインは消耗したラウルを引っ込めた。
○しかし文字通り時間切れ間際の90分。スペイン側に反則が出て再びPK。今度はロビー・キーンが決めて同点。昼に続いて延長戦に突入。スペイン側の疲れに対し、アイルランド側はまだ体力を余している。しかしゴールを割れないまま、30分が過ぎる。とうとう大会初のPK合戦に突入。結果はスペインの勝利。キーパーの力量の差だったのだろうか。とはいえ、PK合戦はしょせん、ジャンケンのような一発勝負。できればわが日本代表も、敗れ去るときはこんなふうでありたいと思ったぞ。
○アイルランドの戦いぶりの美しさは、120分も戦ってイエローカードなし、オフサイドわずかに1回という記録によく表れていると思う。あっぱれ、アイルランド。こんなスゴイ連中がベスト16で去っていく。そりゃそうだ、ワールドカップなんだもん。ベストエイトは、今のところ欧州3カ国とアフリカ1カ国。さて、アジア代表は残れるかどうか?
<6月17日>(月)
○こういうのも因縁の対決というんでしょうか。アメリカ対メキシコ。
決戦前日に米墨大統領がエール交換=対決ムード高揚、大使館は業務停止−W杯
【サンパウロ16日時事】サッカーのワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦の米国対メキシコ戦を控えた16日、ブッシュ米、フォックス・メキシコ両大統領が電話でエールを交換した。メキシコ大統領府によれば、ブッシュ氏は電話で「最高のチームが勝てるよう祈ろう」などと話したという。
19世紀には戦火を交えた両国だが、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)発効で経済面の結び付きが強まり、フォックス大統領も親米派として知られる。
プロ野球などのスポーツ面でも交流の深い両国だが、メキシコは過去2回のW杯で開催国となるなど、サッカーでは「先輩格」との意識が強い。16日付のメキシコ有力紙レフォルマは「これは戦争だ」との見出しを掲げ、対決ムードを盛り上げている。
16強進出が確定した13日のイタリア戦後に多数の市民が繰り出し、大騒ぎとなった首都メキシコ市の独立記念塔周辺は、16日夜から道路が封鎖され厳重な警戒態勢が敷かれた。また、記念塔近くにある米大使館も、「交通の混乱が予想される」として、17日は業務を停止する予定だ。 (時事通信)
○ブッシュ大統領はテキサス州育ち。テキサスといえば、その昔、アメリカがメキシコから奪い取った土地である。「メキシコはなぜ不幸か。それは神からあまりにも遠く、アメリカにあまりにも近いからだ」などと言う。ご近所同士はとかく恨みつらみが残るもの。得てして強い方は忘れてしまうが、弱い方は忘れない。
○今日の試合、かんべえは見ていないんですが、なんでアメリカが勝ったかよく分からない。当然、メキシコだと思ってました。これは殊勲賞といっていい。アメリカのスポーツ・メディアは、これでもW杯に対して冷淡な報道を続けるんでしょうか。タイガー・ウッズの優勝の方が大きなニュースになるというのは、やっぱりどこか変だと思うぞ。他方、それでも頑張るアメリカ代表チームの精神力を称えるべきか。
○せっかくなので、たった今終ったブラジル対ベルギー戦についても。グラウンドのどこを見ても、赤いユニフォームのベルギーの大柄な選手がいる。ボールを持って攻め込んでも、ゴール前は赤い悪魔の巣窟になっている。こんなチームを相手に、よくまあ日本は2点も取れたものだと感心する。それでもブラジルの個人技はそれを超えていた。リバウドとロナウドがそれぞれ一発ずつ。蝶のように舞い、蜂のように刺す。うらやましいほどの強さと個性。
○他方、守備のぎこちなさはいただけない。現時点の優勝候補はドイツとイングランド、と見た。それはそれとして、明日は頑張れ、ニッポン!
<6月18日>(火)
○不思議な感じでした。前半15分くらいで力が抜けて、「ああ、負けるときはこんなものか」と思いました。惜しいチャンスはたしかにあったけど、勝てるような気がしなかった。トルシエ監督の選手起用に対する批判はきっとあるだろうけど、起用が良ければ勝てたか、と考えてもよく分からない。トルコの地力が勝っていたか、あるいは今日の日本代表が集中力を欠いていたか。今日の宮城会場は雨で条件は良くなかったけど、審判はこれ以上ないくらいに公平だった。日本にとって初の決勝トーナメントは、悔いの残る試合となった。
○それでも終ってみれば、「ベスト16」という成果は残る。あのフランスやアルゼンチンよりも上。あのアイルランドやメキシコと同等。それがわれらがニッポン代表。すごいじゃないか。4試合戦って2勝0敗1引き分け。対ベルギー戦のシーソーゲームには手に汗を握った。対ロシア戦は、今大会でも屈指の好勝負だった。そして対チュニジア戦は会心の勝利だった。今日の負けは「惜福」と考えよう。W杯のベスト8は日本にはまだ早い。ドイツやイングランドやブラジルと対等というのは、ちとゴーマンであろう。
○気を取り直して、溜池通信らしいネタをご紹介しよう。
Subject: Who will win the world
cup??
Brazil last won the world cup in 1994.
Before that they won it in 1970.
Add 1970 and 1994, it equals 3964.
Argentina last won the world cup in 1986.
Before that they won it in 1978.
Add 1978 and 1986, it equals 3964.
Germany last won in 1990.
Before that they won in 1974.
Add 1990 and 1974, it equals 3964.
So going by this logic, the winner of the 2002 world cup
is the same as the 3964 - 2002 = 1962 world cup.
The 1962 world cup was won by Brazil.
Chinese fans have reason to rejoice :
China has never won the world cup so you'll probably
win it in the year 3964.
○まだまだW杯は続く。ということで、韓国イタリア戦を見てたんですが、こーれーは、本当に、スゴイ試合でした。憎らしいほどに上手くて、強くて、抜け目のないイタリアを相手に、序盤の1点差をとうとう追いついて、延長の末ゴールデンゴール。このところ、連日連夜サッカーの試合ばかり見てますが、このゲームの熱さ、痛さ、面白さはひとしおでした。韓国の強さは本物ですね。われらが日本チーム以上だと認めざるを得ません。アジアからのベスト8進出を果たしたわれらが隣国に、心からの拍手を送りましょう。
○韓国のサポーターが手にしていた「Let's go to
YOKOHAMA」のプラカード。戦いの始まる前は冗談めいて見えたけど、いえいえどういたしまして。あの熱狂的な応援の前で韓国を破るのは、スペインやドイツでも苦労するかもしれませんぞ。
<6月19日>(水)
○サッカーのない夜を迎えています。まだいちばんおいしいところが8試合残っているものの、われらが日本代表はもういない。実はかんべえ、昨日はあんなことを書きながら、更新を終えてから一人で深夜のテレビを見ながら泣いてしまった。なんともいえない喪失感でした。それでも今朝、古くからのサッカーファンであるこの人のコメントを読んで、なんだかホッとした。
これで、トルシェと23人の若者達の戦いを見ることが出来なくなるかと思うと、堪らなく寂しい思いはしますが、サッカー・ファンというのはそういうものです。4年に1回のW杯(およびその予選)に向けて、自分の国の代表のプレーに時に熱狂し、時に落胆し、そしていつか別れの時が訪れる。世界中のサッカー・ファンは、4年ごとに心の中にぽっかりと穴が開いてしまったような感覚を抱きながら、現実の世界に戻っていく。でも、サッカーを愛することだけは決して止めない。
○そうなのだ。最初に集まった32チームのうち、もう8チームしか残っていない。1試合済むことに、1チームと別れなければならない。ここまで来ると、愛着のあるチームが去るのは痛い。ファンだって、これは勝負なんだから、いずれ別れのときがくることを知っている。だから、ちょっとでも先に伸ばしたいと思うのだ。運良く応援しているチームが優勝したとしても、ワールドカップはそこでおしまい。翌日からはファンは現実に戻らなければならない。これは、そういうお祭りなんですね。
○ところで今日は、日本がロシアに勝って、歴史的な初勝利を収めた6月9日から10日目。あの感動から、まだ10日しかたってない。ところが、一昨日のスポーツ紙には、「トルシエ・ジャパン、優勝まで残り4勝」という見出しが踊っていたとか。いかにわれわれは短期間に幸運に慣れ、強欲に転じるかという、見本のようなエピソードですね。
○本当は、今日は現実に戻って、鈴木宗男がどうのこうのという話を書くつもりだったんですが、やっぱり駄目でした。ま、そんな下世話な話はどうでもいいですな。うちの下の娘は、今夜は久々に好きなビデオ番組を見ることができました。サッカーがないことによる受益者も、たしかにおります。
<6月20日>(木)
拝啓 フィリップ・トルシエ様
何はともあれ、過去4年間のあなたのご苦労に対し、心からお礼を申し上げます。今は大きな仕事を終えて、ほっとしておられることと存じます。お疲れさまでした。
お手紙を差し上げるのは、私があなたのことを心配しているからです。よくご存知の通り、この国は大概の外国人にとって、けっして住みよい国とはいえません。小泉八雲から小錦関まで、この国を愛した人は往々にして使い捨てになったり、悲しい思いをしています。本来、日本が深く感謝すべき相手であっても、ときとしてこの不運は避けられません。
あなたに対しても、予選突破の瞬間には「国民栄誉賞」という声がかかったかとおもうと、「トルコ戦は勝てたはずだ」などというヤカラがすぐに出てきます。これからも、心ない仕打ちや発言があるかもしれません。どうか寛大なお気持ちで、許してやってください。この国の人間は、外国人に対するアンビバレンツな感情を、上手に制御できないでいるのです。
その代わり、この国の人間は、今年のワールドカップのことをけっして忘れないでしょう。賭けてもいいですけど、もし2006年のドイツW杯にカメルーンが再び予選を勝ち抜いてきたならば、大分県中津江村の人たちは大挙してキャンプ地に押しかけるでしょう。エムボマがまだ現役であれば、差し入れの中には彼の好物の「なにわのうどん」が入っているはずです。カメルーン選手団は、村の人たちが4年前のことをびっくりするほどよく覚えていることに愕然とするでしょう。
「純情」とか「義理堅い」とか「恩を忘れない」といった概念は、英語やフランス語には訳しにくいと思いますが、これらの東洋的な美徳はこの国の大多数の人たち(とくに田舎では)の心の中にいまだ健在です。今度の大会では、外国選手に対して無条件な好意を示す日本人が大勢いることが証明されました。これこそ、ワールドカップの最大の収穫であったと私は思うのです。
この国の人間に愛されるコツをひとつだけお教えしましょう。切りのいいところで日本を離れることです。今ならダグラス・マッカーサー将軍のように、盛大に惜しまれながら去ることができるでしょう。そうすればフィリップ・トルシエは、日ならずして伝説になります。クラーク博士やシャウプ博士やメッケルのように、日本の歴史に残る恩人になります。これらは、日本の教育、税制、陸軍を語るときに欠かせない人物ですが、在日期間はいずれも短期でした。
実はこの国は、外国人を神聖化するのも大好きなのです。仮に今、私の目の前にランディ・バースが現れて、「すまないけど、1万円ほど貸してもらえないか」と言い出したら、(そんなこと、絶対にあるわけありませんけど)、きっと舞い上がってしまって財布ごと渡し、「あんたには世話になった。1985年のことはけっして忘れない」などとあらぬことを口走るでしょう。が、こんな愚かな人間が、たぶん私以外にも数百万人は確実に存在する、というのが日本という国の底知れない部分であります。
実際、この国は外国人にとって、とっても「おいしい場所」にもなりうるのです。およそリチャード・アーミテージからダニエル・カールまで、「こいつはいいヤツだ」となったら、損得抜きでとことんまで面倒を見てしまうのが、この国の昔からの流儀です。アメリカでは誰も相手にしなくなったベンチャーズというグループでさえ、この国のファンはいつまでも忘れず、毎年夏にやってきては「テケテケテケテケテケ」という、懐かしのエレキギターでドサ回り巡業ができました。ラモスや三都主も、おそらくサッカーファンは最後まで見捨てないでしょう。(そういえば呂比須はどこへ行ったんでしょうね。だれか教えてください)
私はふと、こんな愉快な想像をしてしまいます。3年後、伝説になったあなたは日本に立ち寄ります。そのときに誰が日本代表チームを率いているかは分かりませんが、きっと轟々たる非難にさらされているでしょう。スポーツ新聞の論調が目に浮かぶようです。「アジア予選、厚すぎる韓国の壁」「2006年独大会出場は絶望か」「XX監督の采配に重大な疑問」。
久しぶりに日本のピッチを訪れたあなたのもとに、テレビのリポーターたちが殺到します。そのときあなたは、こんなふうに言うのです。
「中村俊輔の成長には驚いた」
「今の中田には迷いがあるようだ。一度、彼と話をしてみたい」
「川口か楢崎か。私も随分迷ったが、今なら川口がいいのではないか」
きっと日本全土に「トルシエ待望論」が沸き上がるはずです。笑えるでしょう? 私もつくづく変な国だと思いますけど、まあ、現実ですから仕方ありません。私はただ、あなたが4年間も苦労を重ねてこられて、少しでもいいからこの国で「いい思い」をしてもらいたいのです。やせても枯れても世界第2位の経済大国ですから、少しくらい食い物にしたって全然オッケーです。あなたの国のヴィトンなんぞは、いいお手本になると思いますよ。
最後に、ワールドカップは残り8試合。気楽な立場で楽しんでください。私などは明日の午後は、ブラジルXイングランド戦見たさに半休を取ってしまいました。 敬具
かんべえ拝
<6月21日>(金)
○昼の会合を終えたあと、一目散に帰宅。午後は休暇。だって高校野球でもいうではないか。準々決勝がいちばん面白いと。というより残り8試合、ひとつも見逃したくはない。
○イングランド対ブラジル。「事実上の優勝決定戦」などと言いたくなるのは分らんではない。両国とも好感度の高い国なので、どちらを応援するか迷った人も多いのではないか。前半はいい試合。ブラジルは個人技で攻め、イングランドは守備で魅せる。イングランドのサッカーは、守りがしっかりしていて、ラフプレーが少なく、攻めるときは激しい。日本サッカーにとっていいお手本かもしれない。1−1で折り返したところでは文句なくエキサイティングなゲームだった。
○ところが後半は動きが悪くなる。やっぱり暑過ぎるのか。ロナウジーニョの芸術的なFKでブラジルが2点目。ところがレッドカードでいきなり退場。どうも味が悪い。終ってみれば、多彩な攻め方を持つブラジルがイングランドの堅守に打ち勝った。こう言ってはなんだが、会社休んで見るほどの試合ではなかったな。たしか将棋の世界では、大一番に名局なし、という。それでも、これでイングランド・サポーターにとってのW杯が終った。できればこのゲームは夜に、やらせてあげたかった。
○ドイツ対アメリカ。いつものことながら、ドイツのGK、カーンの表情がいい。若きストライカー、優男のクローゼが「使用前」なら、こちらは「使用後」だ。サッカーの世界で顔を洗っていると、ポルトガルのフィーゴやアルゼンチンのバティストゥータのように、ほかの世界ではとっくに絶滅したようなオトコくさい男ができる。カーンが睨むと、ボールの勢いがひるんだり、コースがそれるような気がする。そのくらいの迫力で、何度も危機をしのぐ。
○他方、ドイツの攻め口はワンパターン。セットプレーからボールを上げて、高さを利用して頭で叩き込む。こればっか。でも平均身長184センチが、そろって1メートルくらいジャンプするんだからかなわない。それが1発決まったからドイツの勝ち。でもアメリカもたくさん見せ場を作った。本国はあまりにも盛りあがっておらず、「アメリカにだけは優勝させたくない」という人もいるけれど、もうちょっと本気になってもらった方がいい。だってFIFAの運営がムチャクチャなのは、欧州ばっかりでやっているからだと思う。チケットの売れ残り問題なども、アメリカ人だったら絶対に許さないはず。FIFAの改革には、きっとアメリカの腕力が必要になる。
○ところで呂比須・ワグナー選手の近況について、詳しい読者から教えていただきました。
現在は昨年J2落ちしたアビスパ福岡に所属しております。ただ、先年負傷した半月板の手術を行うためブラジルに帰国しておりまして、以来帰国・復帰したという話を聞いておりませんので、ひょっとすると今回のW杯もテレビの向こうや海の向こうから観戦しているかもしれません。
○昨日も書いたことですが、かんべえは日本を好きになってくれた外国人が不幸になって欲しくない。呂比須や三都主を末路哀れにしちゃいけないと思うのだ。トルシエさんも、できれば本国で大いに出世してもらいたい。アメリカにはボビー・バレンタイン監督という先例もある。そのうちに彼が、「日本で苦労したお陰で今日の私がある」てな発言をするようになれば、もって瞑すべし。
<6月22日>(土)
○韓国が準々決勝を突破。アジア勢としては初の快挙。これで韓国は、ポルトガル、イタリア、スペインと、並み居る強豪を3タテした形である。
○将棋の世界でいえば、行方尚史六段あたりが、羽生竜王、佐藤王将、森内名人を連破したような感じだと思う。そうすると、ブラジルが谷川浩司九段、ドイツは中原誠永世棋聖、トルコは屋敷伸之八段といったところか。ベスト4がこの顔ぶれだとかなりの番狂わせといえるが、将棋界というのはこういう事態がしょっちゅうある世界なので、きっとみんなそれほど驚かない。おそらく、「行方は強い」という見方と、「羽生世代は弱くなった」という2つの見方がでてくるだろう。
○これをサッカーに置きかえると、「韓国は強い」のは間違いない。地元の有利を割り引くにしても、120分戦って韓国は負けていなかったし、むしろ長引けば長引くほど元気が湧いてくるように見えた。スペインは惜しいチャンスはたくさんあったのに、決めきれなかった。両者の実力が接近していたことだけは、認めざるを得ないだろう。
○むしろスペイン、イタリア、ポルトガルが弱くなったのかもしれない。予選で敗退したフランスも併せて、これらラテン系4ヶ国の不振が目立つ。主力の怪我、選手の高齢化、戦術の陳腐化、疲労の蓄積、W杯に対するインセンティブの低下、などの理由が考えられる。「にわかファン」のかんべえにはよく分らないが、きっとこれから侃侃諤諤の議論が始まるだろう。
○ラテン勢ファンの怒りは、とりあえずは審判に向かうのかもしれない。今日の試合もちょっと変なところはあった。とはいえ、終ってしまえば負け犬の遠吠え。冬季五輪、ショートトラックにおける韓国の怒りと同じである。サッカーが大好きなこれらの国のファンたちは、明日からどこを応援すればいいのか。同じ欧州のよしみでドイツ、ってことはないような気がする。
○他方、負けて納得しているらしいのがイングランドである。前評判が低かったことと、アルゼンチンに勝ったこと、負けた相手がブラジルだったこと、などを考えると、「今年は悪くなかった」となるのかもしれない。
22日付の英国各紙は、サッカーW杯準々決勝でブラジルに逆転負けしたイングランドに対し、「次回まで待とう」「われわれはつかの間ながら世界を制した」と、健闘をたたえる記事が多かった。またタイムズは、最近の20年間で初めて、イングランド・ファンが海外へ乗り込みながら蛮行に及ばなかったと指摘した。(共同)(毎日新聞)
[6月22日10時12分更新]
○イングランドがかつて欧州予選で敗退したときに、主催国は「しめた、これでフーリガンが来ない」と喜んだという。世界中どこへ行っても、あんまり歓迎されないイングランドのサポーターだけど、日本はベッカムのファンは多いし、居心地は悪くなかったようだ。この大会の成果のひとつですね、これは。
<6月23日>(日)
○連日、サッカー狂いを続けている「不規則発言」ですが、思わぬ余得として熱烈なサッカーファンからメールをもらう機会が増えています。非常に勉強になります。韓国の快進撃の陰でささやかれる審判への疑惑は、想像以上に拡大する恐れアリとの指摘あり。うーん、にわかファンとしてはなんとも言いにくいところですが、不自然さを感じるのも確か。W杯が終ってから、一気に噴出するのかも。いずれにせよ、常連さん以外の方からのメールが増えるのはありがたし。
○その一方で、溜池通信の本来の世界についてちょっと。5月31日号「ワールドカップの経済学」で紹介したジンクスが、恐ろしいことに現実のものとなりつつあるのではないか。
○正反対の動きをする経済とスポーツ?
スポーツの出来事 |
経済の出来事 |
|
1993年9月 |
ドーハの悲劇。イラク戦、ロスタイムに同点にされ、オフト・ジャパンはW杯アメリカ大会進出を逃す。(X) |
バブル後の景気落ち込みが底打ちし、緩やかな景気回復が始まる。(○) |
1996年8月 |
アトランタ五輪。大選手団を派遣するも、金メダルわずかに3個。(X) |
この年、90年代で最高の成長率を達成。(○) |
1997年11月 |
ジョホールバルでのイラン戦、岡田ジャパンは延長Vゴールで勝利。フランス大会進出を決める(○) |
その翌日に北海道拓殖銀行が破綻。この月、山一證券も自主廃業に。金融不安は頂点に達する(X) |
1998年2月 |
長野冬季五輪で、日本勢大健闘。金メダル5個。スキージャンプの逆転劇に日本中が感動。(○) |
景気の急速の悪化に対して橋本政権が迷走。米国の外圧と株安に背中を押され、公的資金の投入を決める。(X) |
1998年6月 |
W杯フランス大会に初出場も、0勝3敗、得点1、失点4で終る。ジャマイカ戦で中山が唯一のゴールを果たす。(X) |
長銀の経営不安説が急浮上。この後、参院選で自民大敗、小渕政権誕生、金融国会へと世の中の動きは急展開。(△) |
2000年9月 |
シドニー五輪。高橋尚子など、日本勢大活躍。(○) |
米国経済の減速、ITバブルの崩壊などで日本経済は下降局面へ。(X) |
2002年2月 |
ソルトレークシティ冬季五輪。日本勢は不振でメダルは銀1、銅1に終る。(X) |
米国景気の回復、円安などの効果で景気は底打ち。(○) |
2002年6月 |
日韓共催W杯。トルシエ・ジャパンは予選突破してベスト16を達成。(○) |
ようやく始まった景気回復。だが、株価急落と円高急進で腰折れか。(X) |
○問題はアメリカ経済の行方ですね。くれぐれも、恐怖の予言とはなりませんように。
○と、ここまで書いて、午後から頭を冷やそうと競馬に出かけたのであります。今日は春のグランプリレース、宝塚記念。しかるにマンハッタンカフェもジャングルポケットも、タニノギムレットもいない。有力馬が続々出走を回避した今年のレースは、なんとも寂しい顔ぶれ。衆目の一致するところ、BダンツフレームとCエアシャカールが2強だが、どっちも磐石ではない。宝塚記念は例年、平穏なレースが多いものの、素直にワンツーで決まるほどでもない。さて、どっちを軸に選ぶか。
○3枠の赤と4枠の青の間で迷っているうちに、「韓国より日本」と思いたち、Cエアシャカールを本線に決める。二番手は日本代表のユニフォームにちなみ、1枠(白)の@ローエングリンとした。今日の勝負馬券は枠連1−4である。この調子で行くと、2枠(黒)と5枠(黄色)はドイツ、6枠(緑)と7枠(橙)はブラジル、8枠(桃)はトルコだなあ、などと考える。7枠のHツルマルボーイと、8枠のJアクティブバイオも気になるので、枠連4−7、4−8も買って、さあ、どうだ。
○レースは@ローエングリンが先行し、第4コーナー手前でCエアシャカールが捉えようと動く。ここまでは狙い通り。しかしゴール前、外側から飛び込んできたのはBダンツフレームとHツルマルボーイだった。ううむ、やっぱり韓国とブラジルだったか。結局、サッカーの発想から逃れられずに宝塚記念が終る。
○1970年代の映画で『ジャガーノート』というパニック映画の佳作がある。爆弾を仕掛けられた客船に、リチャード・ハリス以下のベテラン処理班が乗り込む。犯人が仕掛けた悪魔のような罠を回避しつつ、必死の努力が続く。爆弾には、最後に赤と青の2本のコードが残る。どちらかが起爆装置につながっている。間違った方を切れば、もちろんドカンといく。この間、必死の捜索の結果、犯人は捕まっている。犯人はハリスの元仲間の爆弾処理班の男だった。爆発の時間が刻一刻と迫るなか、ハリスは犯人と電話で会話する。
「ここに赤と青の線がある。俺は青い方を切る。とても怖い。どうだ?」
「・・・・青を切れ」
○リチャード・ハリスは苦悶の表情を浮かべる。聞いてしまったばかりに、かえって悩みが生じてしまったのだ。犯人の言葉に嘘はないか。これ、実に映画らしい、引き締まったシーンである。見てない人のためにオチは書かないでおくけど、赤と青で悩んだためにこんなシーンを思い出してしまった。まあ、馬券ははずしたが、今日のかんべえは青を選んで悔いなし、とだけ言っておこう。
<6月24日>(月)
○あらためて今月の不規則発言を読み返してみると、いかに自分が深くサッカーにはまってしまったかがよく分かる。上旬はわざとサッカーの話題を避けようとして、6月4日にも日本の対ベルギー戦引き分けについても言及していない。対ロシア戦を経て、中旬になってからは連日のようにサッカー漫談が止まらなくなった。かくして今月も残り1週間を余すのみ。W杯も4試合を残すのみとなった。
○思い返すと最初の頃は、ドイツ対サウジアラビア(8−0)とか、ブラジル対中国(4−0)なんて試合が面白かった。将棋でも初心者のうちは、一方的に攻めて勝つ対局を面白く感じるもので、これは仕方のないところだと思う。自分より明らかに格下の相手に対し、ドイツは最後まで徹底的に容赦なく、ブラジルは適当に手抜きしながら華麗に勝ちを決めた。ともに理想の戦いができたわけで、この両者がベスト4に残っているのは偶然ではないだろう。
○1点差の試合もたくさん印象に残っている。究極の遺恨試合、イングランド対アルゼンチン(1−0)は、ベッカムのPK一発だけだったけど、とにかくスリリングだった。イタリア対クロアチア(1−2)は後半の逆転劇で、勝負の流れの怖さを思い知らせるような展開だった。また、6月16日に詳しく書いたけれども、スペイン対アイルランド(1−1、PK)は今大会の屈指の好ゲームだったと思う。ブラジル対イングランド(2−1)も、後半はだれちゃったけれど、伝統の一戦らしいファインプレーがあった。などと語り出すとキリがないけど、見た人の数だけ「2002年W杯」の物語があるはずである。
○かんべえは正直なところ、日本戦以外のゲームをこれだけ楽しめるとは思っていなかった。ところがW杯を彩る男たちは、あやしいほどに魅力的なのである。予選敗退で男泣きするバティストゥータ、対韓国戦で「なぜだ?」という表情を浮かべるフィーゴ、厳しい視線でボールを睨みつけるカーン、などなど、ほかの世界には絶対に見ることのできないような連中である。彼らに比べれば、マイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズやイチローは余裕がありすぎるように見えてしまう。
○アテネ五輪の野球チームの日本総監督を長嶋さんがやるという。そりゃもう、最初から勝負を投げているようなものだけど、ちっとも腹が立たない。別の人を出して金メダルを取るのと、長嶋さんで惨敗することの間には、たいした差はないような気がする。というか、野球で日本が負けてもどうってことないと思うのだ。サッカーではこうはいかない。なんでそんなことになるのか、よく分からないけど。
<6月25日>(火)
○W杯開始からほぼ1ヶ月。勝ち残っている4チームは、すでに5試合を終えている。選手の疲労はさぞ蓄積しているだろう。ホームの韓国は少しは有利とはいえ、2試合連続の延長戦を勝ちぬいたあと。それでも今日のドイツ対韓国戦は熱戦でした。結果は1―0でドイツ。いい内容、いい勝負、いい試合でした。「横浜へ行こう」の夢が破れた今、韓国の熱烈なサポーターたちの、心の中の空白の重さは容易に想像がつきます。ベスト16で敗退した日本が感じた数倍の重さかもしれません。
○韓国はここまでポルトガル、イタリア、スペインを撃破している。欧州のファンにとっては「なぜ?」であろう。この試合、従来のルールを曲げて欧州人の審判が起用された。これを欧州の独善、あるいはダブルスタンダードと受けとめる人もいると思う。でも、3試合全部を見て、ジャッジに違和感を感じていたこともあって、それを聞いたときはむしろホッとした。今日の試合も安心して見ていられた。試合は堂々の内容で、韓国が真に強いことを示していたと思う。
○ポルトガルは、「引き分けでいいんでしょ、なぜ君たち本気になるの?」と思っているうちに、ゴールを決められてしまった。イタリアは韓国を軽く見ていたら、対クロアチア戦と同じ間違いをしてしまい、最後はトッティーが退場を食らって負けてしまった。対スペイン戦は、線審がおかしなジャッジを何度か繰り返し、イライラしているうちに、終ってみたらPK戦で負けてしまった。いずれも「憤兵は敗る」のパターンである。「こんなはずではない」という思いがあったと思う。
○その点、今日の試合ではドイツは慎重な戦いに終始した。おそらく彼らは、自分たちが強いとは思っていない。実際、けっして上手いチームではない。攻めはワンパターンで、守りは体ごとぶつかっていく。大歓声の中でも冷静さを失わず、自分たちの長所と短所をよく自覚していたと思う。そして彼らには守護神カーンがいる。いったいどんな修羅場をくぐったらあんな顔になるのか見当もつかないが、あれに近い迫力のある政治家を探すとしたら、世界中でも朱鎔基くらいしか見当たらない。
○決勝戦の相手はブラジルかトルコか。どちらでもいい勝負が見られるでしょう。明日の準決勝も楽しみです。
○今日の夕方、『ルック@マーケット』の反省会席上で、「そうそう、伊藤さんが韓国に行っているんだっけ」と携帯にかけてみた。AUに代えたそうで、ちゃんとつながった。伊藤さんの第一声は、「俺もう着いちゃってるから」。なんとまあ、試合開始の3時間近く前に会場に入っていた。どんな印象を受けたのか、明日のHPを見るのが楽しみですね。
<6月26日>(水)
○昨日の1−0が努力と我慢と節制の勝利だったとすれば、今日の1−0はそれとは対照的に、まるでサンバのリズムが聞こえてくるような、才能とスピードと独創の試合でした。トルコはよく戦った。しかしブラジルの個人技がそれを上回った。ボールを支配する時間は短くても、機をつかむとすばやく上がって相手ゴールを脅かす。「光速流」の谷川将棋が、「あと一手の準備」を待たずに戦端を切り、どう見ても一枚足りないはずの攻めを強引に成立させてしまう様子を連想した。
○これで決勝戦は、ブラジル対ドイツという顔合わせとなった。優勝4回と優勝3回の国が、いままで一度も戦ったことがないというのもすごい確率だが、それが2002年W杯決勝戦で成立する。両国のサッカーに対する姿勢は、攻め対守り、個人技対組織、エピキュリアン対ストア派、ときわだった個性の対比をなす。この2カ国の衝突が面白くないはずがない。
○3位決定戦も楽しみなカードである。韓国対トルコということは、アジアの東と西の衝突だ。(トルコは一応は欧州枠での参加だが、気持ちとしてはアジアと考えていいよね?)。赤い悪魔が棲むスタジアムに、赤い軍団が殴り込みをかける。トルコはすでにアウェイでホームの日本を破っている。臆することはないだろう。いい勝負になりそうだ。
○現在、カナダのカナナスキスではG8サミットが開催中。世界経済のG8といえば、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、それに日本。ワールドカップの世界においては、優勝経験があるのはブラジル、ドイツ、イタリア、アルゼンチン、フランス、イングランド、それにウルグアイ。これに無冠の帝王、スペインを足したところがG8といったところか。欧州と中南米だけで占められている。これがまあ、伝統の重みというものだった。
○今年のW杯は、この体制に動揺が走った。フランス、アルゼンチンが予選で敗退し、ベスト4に韓国とトルコという新勢力が入り、G8にあと一歩と迫った。これを見て、アジア勢やアフリカ勢の間では、「ひょっとすれば俺たちも・・・」という欲が深まっていると思う。だってそこのアナタ、2006年には日本は最低でもベスト8、とか思っているでしょう。いや、ホント、そうなったらいいですよね。1930年に始まったこの大会も、もう21世紀に入ったのだから、きっと変化があると思いますよ。
<6月27日>(木)
○連日のサッカー談義に対し、貴重なコメントをいただいております。昨日分に対し、なんとお二人の読者から同じご指摘が。
●ちょっと待った。安直に今大会だけを見て、スペインなんぞを足してはいけません。ここは当然「オランダ」なんです。お近くのサッカーファンに聞いて下さい。90%の人が、「それはオランダであるべきだ」と言うでしょう。(中略)オランダは華麗で、斬新で、かつ、いいところで必ず大国(特に隣国ドイツ)に負けてきた。無冠ながらワールドカップを過去これほど盛り上げてきたチームはない。(U氏)
●ウルグアイはご存知の通り確かに優勝経験国ですが、近年では然したるタイトルも取っておりませんし、(中略)、むしろ今回は予選で(ポルトガル・アイルランドと同組という不幸により)落ちたため出れませんでしたが、W杯では常に「無冠の帝王」ぶりを発揮している(強いが何故かW杯だけは勝てない)「オランダ」の方が適当かと思います。(M氏)
○ひえ〜、お許しください。そういえばオランダは98年もベスト4でしたよね。ユーゴを倒して、アルゼンチンを破って、ブラジルとPK合戦して、惜しくも敗れたのですよね。ところで、ヒディンクはなんでオランダ監督をクビになったんでしょう。ま、おかげでわれわれは、韓国の快進撃を見られたわけですが。
○それからドイツ在住の杉岡さんから、現地の様子を伝える貴重な映像を送付いただいております。いいですね、この雰囲気。後ろからこんな罵声を浴びたら、選手全員が背筋を伸ばして走り出しそうです。
<6月28日>(金)
○定例の勉強会、PAC。いつもは政治オタクの集まりなんですが、皆さん「にわかサッカーファン」になってしまい、今日の講師は水戸ホーリーホックの代表取締役社長、小林寛氏。このチーム、地元のサッカークラブ「FC水戸」を母体とし、「プリマハムフットボールクラブ土浦」を合併して誕生した。99年にJ2昇格を果たしたものの、特定のスポンサー企業がない純粋な市民スポーツクラブゆえ、経営は楽ではない。だが見方を変えれば、「Jリーグ百年構想」にあるような、「欧州型の地域に根ざしたスポーツクラブ」を目指している純粋なチームである。
○小林氏はかんべえよりひとつ年上。中央大学の選手を皮切りに、古河電工のプレーヤー、次いでノンプロである北陸電力チームの監督、さらに川崎フロンターレの監督を経て、昨年末現職に就任した。プレーヤーとしては、FWとMFとDFをやったというから、おそろしく間口の広い人です。というわけで、本日はにわかファンの群れが、プロを囲んで質問攻めにしたわけです。以下、印象に残っているところを書きとめておきます。
Q:日本は強くなったのか。
A:ベスト16という結果は立派なもの。それより上を目指そうと思ったら、やはり壁がある。W杯は1ヶ月勝負。どの時点でチームの力をピークに持っていくか、その辺は慣れないと難しい。ブラジルなどは、決勝トーナメントに入ってから本気を出している。
前回のフランス大会に比べれば、日本は明らかに強くなった。これはJリーグを10年近くやったこと、そしてサッカー協会の強化指針が全国的に浸透したこと、指導者の育成も進んだからだと思う。しかし、マニュアル通りの強化方針では、突出した個性は生まれない。たとえばロナウドは、チームが攻め込まれているときに守備に参加しない。でも、ここぞというときにゴールを決めてくれる。FWは1勝9敗でいいのである。こういう選手をどうやって育てるか。DFはマニュアルでも育てられるが、FWはそうはいかない。
Q:韓国の強さの秘密は。
A:フィジカルの強さは昔から定評あり。技術の日本、体力の韓国という構図。やはり若い時期に徴兵制を経験していることは大きいと思う。日本よりはW杯慣れしていたし、観客席が近いという競技場の特性がホームの有利さを引き出したという面もある。日本の競技場は、陸上と兼用のところが多いので、観客の声が届きにくい。
Q:審判の誤審についてどう見るか。
A:対ベルギー戦、稲本の幻の3点目は、われわれから見れば明らかなファール。逆にその後、日本側のPKになりそうなプレーを見逃してくれたので、本当は負けていたかもしれない。やはり観客の声援の存在は大きい。審判も人間ゆえ、笛を吹いて拍手があれば安心するし、ブーイングを受ければ穏やかではない。ホーム有利になるのは仕方がない。欧州ではホームとアウェイで戦法も変えてしまう。
Q:監督は試合中、どんなことをしているのか。
A:試合中はほとんどすることがない。選手に大声で指示を出しているけど、選手の耳にはほとんど届かないのが実態。ハーフタイムも、選手に伝えられることは2つか3つくらい。選手交代の枠は3人あるが、最後の1人は使いにくい(怪我人が出ると困る)。つまるところ、事前にどこまで相手を分析できるか。そしてどうやって有利な流れを作るかに尽きる。
監督は試合中、ボール以外の動きを見ていることが多い。ひどいときには、得点が入ったことに気づかないことさえある。試合中、1人の選手がボールを支配できる時間はせいぜい2〜3分。あとのほとんどの時間は、次にどう動くかを考えている状態。だから、ボールを持っていないときの動きの方が重要。テレビでサッカーを見ていると、その辺のことが分らない。
Q:PK合戦のときは、選手はどんなことを考えるのか。
A:練習のときであれば、PKはほとんど入る。しかし試合でとなれば75%くらい。W杯の舞台で有名選手がはずしたりする。キーパーは、4回のうち1回止めればいい。つまるところ技術などはさほど違いはなく、精神力が問題。自分の選手時代は、どこに蹴るかは最初から決めていた。もっとも、キーパーの動きを見て方向を決めるという器用な選手もいたが。イングランド対アルゼンチンでベッカムが決めたPKは、左に蹴り込むと完全に見せかけて、キーパーの足元にすごいスピードで蹴り込んだ。あれは取れない。芸術的なPKだ。
PK合戦のときの5人の選手は監督が決める。最初と最後の2人は、やはり信用している選手を選ぶ。延長戦が終ってから、選手に声をかけながら5人を選ぶのだが、視線を合わせたときに下を向いてしまう選手がいる。こういう選手は、悲しいかなゴールをはずす。2人も下を向かれると、「ああ、これは勝てない」と思ってしまう。そういうときは、「目をつぶって真中に蹴れ」と伝える。キーパーは左右どちらかに飛ぶことが多いので、真中は意外と決まることが多いのだ。
Q:ドイツ対ブラジル、決勝戦はどちらが勝つか。
A:分らない。五分五分だろう。
○などと、楽しい夜でした。ところで「ホーリーホック」とは葵のこと。さすがは水戸で、「この紋所が目に入らぬか!」というわけ。ファンクラブには、「水戸黄門コース」や「うっかり八兵衛コース」があったりします。現在、後援会員募集中。よろしくご支援を。
<6月29日>(土)
○不覚でした。最初の部分を見逃してしまったのだ。ゲーム開始1分、今大会、一発もゴールを決めていない不調のハカンシュキュルがゴール。ボールを抜かれたのは、アジア最高のリベロ、フォンミョンボではないか。どうした韓国。攻めても、アンジョンファンのシュートは惜しかったり、大きくはずしたり。やはり連戦の疲れが響いているのか。終了直前に韓国1点を返すも、3−2で届かず。やはりトルコは強かった。
○試合終了とともに、ハカンシュキュルが呼びかけて、両軍の選手が肩を組んだ。いい光景だ。思えばこの3位決定戦、アジア同士の戦いだった。決勝トーナメントの常連ではない、ましては「G8」ではない国同士の戦い。うれしいじゃないか。そして韓国。負けたとはいえ、ホームでサポーターの惜しみない拍手を受けている。うらやましいではないか。
○こんないい試合をしているときに、ケチをつけるお馬鹿さんがいる。隣の北朝鮮が限界線を越えてきたから銃撃戦になった。4人死亡とか。自分たちの「1966年のベスト8」という記録を破られたから、面白くなかったのかも。困った隣人だ。悔しかったら、正々堂々とサッカーで勝負しろ。
○明日は決勝戦。ブラジル有利の予想が多いけれども、ワタシの希望を申し上げれば、序盤早々にクローゼがラッキーなゴールを決める。そこからセレソンの必死の追い上げが始まる。ドイツ・ディフェンスは堅守で伝統の固さを発揮するが、3Rの破壊力+2列目の圧倒的な個人技の高さを防ぎきれない。雨の中の死闘は、最後はPK戦にもつれ込む。そしてカーンが吼える。・・・てなゲームを見たい。たまらんのぅ。
<6月30日>(日)
○ブラジル優勝。ドイツ乗りで見ていたので、チョット残念。裏日本出身のワタシには、ドイツのサッカーが好ましく見えるのだ。でも、ブラジルの力が上回っていましたね。ロナウドはとうとう7試合で8点。優勝チームから得点王が出ることはめずらしいそうで、4年前の捲土重来を見事に果したということでしょう。お見事。
○「歴史的」なんてことはめったにあるものではないけれども、今月はたくさん「歴史的」な瞬間に接することができました。いつも耳元ではヴァンゲリスのFIFAテーマ曲が鳴り響いていて、月の半ばからは夜の予定を極力いれないようにする日々でした。スポーツ新聞も何度も買ったなあ。でも、明日からはもうワールドカップがない。これもまた深刻な「喪失感」です。これだけ寂しい思いをするということは、今月の自分がいかに大きな楽しみを毎日抱えていたかをあらためて感じます。
○次は2006年のドイツ大会。たくさんの楽しみがありますね。ブラジルのロナウドは通算何点まで入れるのか。ドイツはどんなチームを作って待ち構えているか(クローゼは、ちゃんと足でゴールを決められるようになってくれい)。フランスとアルゼンチンとポルトガルが、どんな形で雪辱を果たすか。われらが日本代表はどこまで行くか。そして「生涯サシ馬」の相手である韓国に、今度は勝てるかどうか。
○当「不規則発言」も、これだけ同じ話題を続けたことは記憶にありません。われながらサッカーぼけは深刻な状態です。さて、明日からは何の話を書けばいいのか。外は雨が降っています。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki