●かんべえの不規則発言



2009年8月





<8月2日>(日)

○上海馬券王先生が来日。吉例に従って、中山競馬場で迎撃する。連戦連敗。いやはやこの時期のレースは訳が分からんのが多い。今宵の中山競馬場は夜に花火大会があるので、浴衣姿の若い男女が多い。競馬オヤジとしては、なんとなく居場所がないような。

○敗戦後、柏市にご案内し、本日は焼肉処くらちゃんへ。ここの肉はうまいっす。馬券王先生、絶好調。いくら上海広しといえど、こういう焼肉屋はないでしょう。これぞ日本のソフトパワーというものであります。

○馬券王先生いわく。技術のためにオタクになれるのはアメリカ人と日本人だけ。中国にはアーチストはいるが、滅私奉公型の技術屋はできにくい。アメリカの偉いところは、技術オタクを探し出してカネを与えるシステムを作ったこと。日本には技術オタクが山ほどいるが、あまり大事にしていない。果たして日本のモノづくりは大丈夫なんでしょうか。

○阪神タイガースが後半戦5勝1敗。今年はもうあきらめた、などと言いつつ、勝ってくれるとそれはうれしい。今宵はいい勝ち方でした。


<8月3日>(月)

○今日からウチの職場にマンスフィールド財団のフェローが来てくれました。1か月、当研究所で研修することになります。米国連邦政府の職員は、果たしてどんな行動パターンをとるのか、というのはちょっと気になるところでありまして、彼は朝、自分のパソコンを立ち上げてインターネットに接続して、最初にどのページにアクセスするのかなあ、と「チラ見」して、ぶったまげてしまいました。ドラジレポートですぜ。ちょっとお兄さん、そういうのってアリ?

「ああ、これですか? 朝の情報チェックはいつもこのページからですよ」

「ホント? でもドラジレポートってちょっと信憑性に問題があるんじゃない?」

「いえいえ。ペンタゴンの連中なんて、毎朝、これを見てますよ。CNNなんかは情報の信憑性を確認するから、どうしてもニュースが遅くなるでしょ。その点、ドラジレポートは怪しい状態で書いてくれますから」

○なるほど、それは一理も二理もある。外で何か大事件が起きているときに、2ちゃんねるの速報板がいちばん当てになる、みたいな話であります。私は以前からドラジレポート=「アメリカ版噂の真相」と思っていたので、ちょっと意外でした。でもまあ、あらためて覗いてみるとなかなかに勉強になります。今日のドラジレポートのトップ見出しはこれでした。

SURPRISRE! TAX HIKE FOR MIDDLE CLASS?

○先週末、ガイトナー財務長官などが、「増税の可能性は否定しない」と述べたことが大ニュースになっている。ところがCNNのLatest Newsを見ても、こんな記事は出ていない。察するにこれは日本の夕刊紙のノリで、アメリカの庶民がもっとも注目する記事を抜き出してくれているのでしょう。言うまでもなく、オバマはこれまでずっと「増税は超富裕層だけ」としてきたが、目の前の財政赤字増大はいよいよ深刻であり、医療保険改革は猛烈にカネがかかることが分かってきた。となると、中間層にも増税が来るかもしれない。

○これは単なる政治家の食言では済みません。「あ〜あ、オバマ政権がとうとうリベラルの本性を表し始めたか」という嘆きの声に直結しているわけで、支持率が先月から6割を割り込んできたところに、追い討ちをかけかねない。今週のThe Economist誌のカバーストーリーも、「オバマはこのままでは危ない」と訴えている。やっぱり医療保険改革はそれだけ難しいんですよね。

○さて、あなたが毎朝、一番にチェックするページはどこでしょうか。「経済羅針盤」なんかもよろしいと思いますよ。なんちゃって。今回寄稿したネタは「米中戦略・経済対話」についてです。


<8月4日>(火)

○昨日会ったナベさんが言っていたけど、今年の福島県では、「有権者が人よりも党で投票行動を決めようとしている」のだそうです。今までの選挙は、良くも悪くも人物本位だった。それが政党の戦いになっている。もっとハッキリ言っちゃうと、民意は民主党を勝たせたいというよりも、自民党を懲らしめたいという気分になっている。長年にわたって選挙を定点観測してきた人の観察だけに、この指摘はちょっと重いものがあります。

○今日会った脱力さん(なぜか千代田線の中でバッタリ会った)は、こんなことを言っていた。「都議会選挙の出口調査で、自分が投票した候補者名を覚えていない人がいた」。つまり、民主党なら誰でもいいから入れてやろう、と思って投票所に来て、名前を書いたけどすぐに忘れてしまった、という有権者がいたのだそうです。これもちょっと、今までの選挙では考えられなかった現象ではないかと思います。

○こんな風に二大政党の戦いになってしまうと、無所属の候補者や少数政党にとってはツライ展開といえそうです。まだまだ先は長いとはいえ、2009年選挙はやはり相当に今までと違うものになるのかもしれませんね。


<8月6日>(木)

○クリントン元大統領の訪朝について、ある自民党関係者いわく。「よくできた国対政治を見る思いがした」

○国対政治の本質というのは、簡単に言ってしまうと「八百長」でありましょう。つまりお互いに善悪を口にしてはいけない。あいてが寝てしまう(審議を拒否する)ときは、相手に向かって説教をするのではなく、相手が起きられるような理由を探してあげなければならない。これが昔だったら、キャッシュも動いたでしょうね。そうやってWin-Winの関係を作り、「これなら損はない」とお互いが納得できる線を見出し、後はめいめいが勝手に理屈をこねる。「どちらが正義か」などと考えてはいけません。

○今回のケースで言えば、北朝鮮側は「元アメリカ大統領と交渉した。朝米関係は改善した」と言い張り、金正日の元気な姿を世界にむけてアピールするという利益を得た。アメリカ側は、2人の米国人記者の解放を得た。ただしそれはビル・クリントン個人が勝手にやったことであり、米国政府のあずかり知らぬことである。米国政府の意向は、あくまで「北朝鮮は核兵器を廃棄せよ、二国間交渉はしない、六カ国協議に復帰せよ」であると言い張る。これで互いに面子は立っている。

○強いて言うならば、第三者的には北朝鮮の言い分の方がもっともであるように見える。なんとなれば、クリントン元大統領の配偶者は現職のアメリカ国務長官ではありませんか。これで「米国政府とは無関係です」と言い張っても無理があるだろう。ま、でも、そこはビルとヒラリーの関係でありますから、余人の窺い知るところではなく、これを突っ込むのは野暮というものです。

○そもそも物事を外交で解決するからには、どうしても国対政治的になることは避けられません。「私は正しい、あなたは間違っている。だからあなたは私に従うべきである」というアプローチは、現実社会で成功を収めることは滅多にありません。もちろんこれは外交に限ったことではなく、とくに夫婦喧嘩の場合には禁物といえましょう。あ、そうそう、会社の中でもこの手のタイプは少なくありませんよね。でも、そういう人はだいたいにおいて、それにふさわしい結果を得ていると思います。

○余談ながらロシアとの北方領土問題なども、日本がやっているのは典型的な「私の方が正しい外交」でありまして、そうであるからにはいつまでも今のこう着状態が続くのでありましょう。個人的には、国対政治(三島で手を打つ、面積で二分するなど)の手法もあり得ると思いますが、他方では「ロシアって、そうまでして平和条約を結ぶほどの相手か?」という議論もあるわけで、ここの判断は難しいところだと思います。

○さて、本日は原爆投下の記念日で、広島では平和祈念式典が行なわれました。核廃絶、というのも扱いの難しい外交テーマであります。なぜならそれは、単純な正義の議論になりやすいから。あちこちで書いている通り、この問題に関するオバマ大統領のアプローチは、きわめて現実主義的、実務的なものであって、「オバマ大統領よ、広島へ来たれ」というだけでは物事は動かないと思います。そこは国対政治的に、オバマが得をするような仕掛けを考える必要がある。それでこそ、外交というに相応しい仕事なのだと思います。

○本日、松尾文夫さんから新著を頂戴しました。この日にもらったのも何かのご縁でしょう。その名も『オバマ大統領がヒロシマに献花する日』(小学館101新書)。一人でも多くの人の目に留まりますように。


<8月7日>(金)

○1ヶ月先の話になりますが、講演会の宣伝をしておきましょう。よろしければ、お出かけください。

http://snow.nikkeivi.co.jp/nikkei/life_plan/ 


●開催日時: 2009年9月6日(日) 13:30〜16:20終了予定

●会場: 日経ホール(東京都千代田区大手町1-3-7 日経ビル3階)

※日本経済新聞社東京本社は2009年4月より社屋を移転しておりますので、場所にご注意ください。
※http://www.nikkei.co.jp/nikkeiinfo/company/popup_outline_tokyo.html

●開場: 13:00

●参加費: 無料

●定員: 500名

●締め切り: 2009年8月25日(火) ※抽選で500名様に受講券を送付いたします。

●スケジュール

13:30〜14:20 講演1
テーマ :「当面の内外情勢とマネーの行方」 /講 師:吉崎 達彦氏(双日総合研究所副所長・主任エコノミスト)

14:20〜14:30 休憩

14:30〜15:20 講演2
テーマ :「人生を充実させる秘訣」 /講 師 :生島 ヒロシ氏(キャスター)

15:20〜15:30 休憩

15:30〜16:20 講演3
テーマ :「シニアライフ診断に見る目的別資産運用」 /講 師 :嶋 敬介氏(ノースアイランド代表取締役社長)

●お問い合わせ: 「日経ライフプラン充実プロジェクト0906」事務局

Tel:03-5510-4055(受付時間 10:00〜18:00 土、日、祝日を除く)


○生島ヒロシさんとご一緒になりました。当日がちょっと楽しみです。ちょうど総選挙の1週間後になりますが、果たして世の中はどうなっているのでしょう。


<8月8日>(土)

○しばし夏休みで更新をお休みします。PCのない生活というのも、ちょっと魅力的だったりして。


<8月12日>(水)

○富山に帰省して、立山登山をしてまいりました。天気が心配だったんですが、昨日の午前はガスがかかってはいたものの、登山には割りと好条件で、さくさくと登れてしまいました。それにしても、午前8時に室堂を出て、ちゃんと雄山(3003m)頂上でお祓いも受けて、それで12時過ぎには戻ってきたのですから、かなりのハイペースでした。もちろん本日は筋肉痛です。階段の昇り降りがツライ!

○今年は『剱岳 点の記』が封切りされたこともあって、登山客が多かったようですね。やはり中高年ファンが多いようですが、そんな中に家族連れや、小学生や中学生の団体旅行も入っていて、大変ににぎやかでした。夏のレジャーとして、登山はけっして絶滅危機品種なわけではございません。

○それにしても山登りという趣味は、いったい何が楽しいのでしょう。しんどいし、疲れも残るし、天候次第では怖い思いもします。移動や食事も、けっして至れり尽くせりというわけにはいきません。自然が美しいとか、人情がいいとか、山頂に着いたときの達成感があるとか、人それぞれにいろいろな理由があるのでしょうけれども、いかにも物好きな世界に思えるかもしれません。

○かく言う私も、一人ででも登りたいというほどの物好きではありません。今回は、次女と一緒に登頂するという目的があったから登ったまでで、これでウチの2人の娘は両方とも立山登頂を達成したことになります。まあ、言ってみれば思い出作りのために山に登っているようなもので、これは苦労のし甲斐があります。何年たっても覚えていられることって、そうそうありませんからね。

○今回も、遊歩道をぶらぶらと歩いていたら、ふと室堂の建物が見えた瞬間に、高校1年生のクラブ合宿で雨中に移動したときの苦労を鮮明に思い出しました(上海馬券王先生も確か一緒だった)。そんな風に記憶を刻めるのは、登山の良いところだと思います。今回は48歳で6回目の立山登頂でしたが、できればこれを最後にしないようにしたいものです。


<8月13日>(木)

○今日は幕張メッセの恐竜展へ。次女と一緒に毎年のように夏休みには恐竜展を見ておりますが、今年の「恐竜2009 砂漠の奇跡」がこれまでのベストかもしれません。とにかく展示の質と量が充実していたと思います。

○近年は中国で「恐竜学者」が育っていて、彼らが本気になって中国国内の砂漠を掘り出したところ、恐竜の化石が出るわ出るわ。従来の認識がどんどん変わっているようです。今回、展示されたマメンキサウルスなどはなんと全長35メートル、文字通り世界最大級です。これまで大型の草食恐竜と言えば、スーパーサウルスかディプロドクスが定番だったのですが、これはいい勝負というもの。ちなみに私どもの世代が子供の頃に覚えた知識では、「大型の草食動物=ブロントサウルス」だったのですが、これは現在ではアパトサウルスと呼ばれており、メジャーな存在ではなくなっております。

○思えば砂漠には誰も足を踏み入れないので、昔のものがちゃんと残っている。ゴビ砂漠やジュンガル盆地なんて、文字通りほとんど手付かずであったわけで、つまりはタイムカプセルのようなものである。この調子でいくと、恐竜に関する常識は今後もどんどん変わっていきそうである。それにしてもアメリカや中国はさておいて、国内ではさほど恐竜の化石を産出しないわが日本国に、「恐竜学者」が大勢いて世界中で活躍しているというのは面白い現象だと思います。

○展示を見ていて思うのは、恐竜とはなんと種類が多かったことか。そりゃま三畳紀〜ジュラ紀〜白亜紀というのはムチャクチャ長い時間なのであって、この間にそれぞれの種が環境への適応を繰り返し、何度も進化を遂げていったことは想像に難くない。その結果として「種の多様性」が保たれ、恐竜の繁栄が長続きしたということなのでしょう。「種の多様性」の重要性は、今年が生誕200年のダーウィンが『種の起源』の中で指摘していたそうで、なんとも恐るべき直観力と申せましょう。

○一通り見終わってから、「やっぱり恐竜はティラノサウルス・レックスに止めをさす」という印象を新たにしましたな。とにかく凶暴そうなフォルムが美しい。ちょうどゼロ戦が工業製品の完成形としての美しさを有しているように、ティラノは史上最強の動物としての美しさを誇っていると思う。これだけたくさんの化石が残っているということは、それだけ多くの個体がいて、種として繁栄していたのでしょう。ところがティラノがどんな動きをしていたか、てな話になると、まだまだ分かっていないことが多いという。

○世に「恐竜博士」の子供は大勢いるでしょう(ワシもそうだった)。今日も大勢、展示を見に来ておりましたな。幸いなことに、未来の「恐竜学者」の仕事はたくさん残されているようです。

○恐竜展を見終わってから、東京ベイ幕張49階のランチバイキングへ行きました。料理はそれなりでしたが、景観とお値段を考えればお値打ちといって良いでしょう。ところでホテルの高層階に、インターネットカフェが入っているってえのは他にはないでしょうな。さすがはアパホテルであります。


<8月15日>(土)

○毎年、この日になると「閣僚は靖国参拝をすべきかどうか」で国論が分かれます。参拝派はそうでない人を人非人のように言いますし、非参拝派はそうでない人を好戦派のように言います。今年はやや低調なようでありますけどね。

○この問題に対する世論は、そのときどきで変化はあるものの、戦後ずっと「行ってよし」「行くべきでない」「どっちでもいい」がほぼ三等分しています。こんな風に意見が別れるということは、今の日本という国に「種の多様性」があるということを意味しているのでしょう。つまり対立があるということを、われわれは嘉すべきではないでしょうか。どちらか一方に流れが定まるようなときこそ、この国の行く末を心配しなければなりません。

○ところで今日は、ほとんどこの夏初めての夏日よりでした。そこで子供を連れて、柏市の船戸市民プールに行っみたところ、入場までに20分の行列待ちという盛況ぶり。大人料金が390円なんだもの、無理ないかという感じでした。

○久々のプールだったのですが、最近の子連れの若いお母さんは結構、タトゥーの入っている人がいるんですな。これもまた、日本人の「種」に多様性が生じていることの表れなのかもしれません。


<8月16日>(日)

○アメリカオタク仲間のひとりである前嶋和弘先生(文教大学)から共著をご恵送いただく。『2008年アメリカ大統領選挙 オバマの当選は何を意味するのか』(東信堂)という学術的な論文集です。読み返しつつ、1年前の熱狂を思い出すことしきり。あんなに面白い大統領選挙には、おそらく二度とめぐり合えないでしょう。

○ということで、いろいろ勉強になったのですが、ここではひとつだけ、異色の論文をご紹介しておきたいと思います。「第4章、バラク・オバマの選挙戦略」であります。このパートを担当したのは、テンプル大学ジャパンの助教授であるジョン・マーサ・ミリキタニ氏で、なんとハワイ州ホノルルでオバマの2年後輩であったのだそうです。そういう人が、若き日のオバマのことをばらしてしまっているのです。

「筆者は、ホノルルのブナホウ・スクールで『バリー・オボンバー』と呼ばれていた頃のナルシストのオバマを知っている。・・・・オバマはほとんどの後輩に対して偉そうに振舞っていた。オバマはバスケットボール選手としても横柄であった。・・・・・高校時代のオバマは、評判のよくない生徒であった」

「筆者が知っているオバマは、裕福な白人やアジア系の生徒たちと気ままに付き合い、ハワイ先住民など少数民族の公民権はおろか、生徒会にさえまったく関心を示さなかった。皮肉なことに、オバマは高校時代の政治の世界では人気がなかった」

「オバマは当時自分のことにしか関心がなく、人種/アイデンティティには無関心であったと見なされており、オバマ自身、高校時代は自分のことで頭がいっぱいであったと認めている」

○この証言は非常に重要である。オバマは2008年選挙戦において、黒人であるというみずからのアイデンティティを表に出さず、普通のインテリ・アメリカ人として振舞うことによって大多数の支持を得て、大統領という金的を射止めた。それは確かに選挙戦略であったのだけど、実は彼は若い頃からナルシスト・タイプで、そもそも自分のアイデンティティなどには興味がなかったのだという。実も蓋もないような指摘であるけれども、おそらくその通りなのでありましょう。

○私の限られた経験の範囲内でも、政治家になるような人(あるいは政治家を目指す人)たちは、ほとんどがナルシストの要素を色濃く持っていると思います。そのこと自体をとやかく言うような話ではありません。ただし、「オバマの選挙戦略」ということをあらためて考える場合において、「俺はアイツの若い頃を知っているぞ」という当論文の指摘はなかなかに痛いところを突いているように思われます。

○ミリキタニ氏はハワイ出身の日系人だそうです。ここではあくまでも政治論文という形をとっているので、歯にものが挟まったような表現になっておりますが、むしろ誰かがインタビューした方が面白い話が聞けるんじゃないでしょうか。


<8月17日>(月)

長崎新聞主催、長崎政経懇話会のために長崎に来ております。先月の福岡に続き、九州づいています。

○テーマは相変わらず「オバマは世界を救えるか」なので、当面の政局についてもお話しするのですが、場所が長崎ということもあって、やはりオバマの「核廃絶宣言」の背景などについて力が入ります。ここで書いたような話が中心なのですが、当地の原爆資料館などでは、実際に「オバマ大統領を呼ぼう」という署名を行なっていたりするので関心が高いのです。

○仕事が終わった後で、平和公園へ行ってきました。長崎駅前から市電に乗って、7つ目の停留所である松山町で下車。爆心地は長崎市の中心地からはかなり外れていることをあらためて実感しました。本来であれば、長崎の造船所が標的だったのでしょうが、1945年8月9日は上空の見通しが悪く、帰途の燃料不足に焦っていた米軍機は、一瞬の雲の切れ間から原爆を投下した、というのが実態であったようです。それがたまたま浦上天主堂の近くであった、(よりによって日本でもっともカトリックの多いところであった)というのは歴史の皮肉というものかもしれません。

○いろんな障害はあるでしょうけれども、オバマ大統領が当地へ来て、この浦上天主堂で祈る姿が世界に発信されるとしたら、日米関係にとってはもちろん、オバマ当人にとっても大きなプラスになるだろうと思います。その辺の橋渡しを、ローマ法王にも謁見した初の日本首相であり、カトリックの麻生さんにできないものだろうか。というのは、われながらほとんど妄想にものがありますが。

○昨年来たときにグラバー園は見ているので、あと1箇所、どこを見ようかと迷った挙句、亀山社中の後を探して歩いてみました。タクシーで風頭公園まで行ってもらい、まずは坂本竜馬の銅像を見る。そこから近所を歩いてみると、坂の上に多くの民家が密集していて、石畳の狭い道を登ったり降りたりが続く。でも、確かにここは竜馬やその仲間たちが闊歩した道である。蒸し暑い中を歩き続けて、亀山社中跡にたどり着いたらちょうど夕日がきれいでした。

○ちなみにNHK大河ドラマ、来年は「竜馬伝」であります。主演の福山雅治はご当地出身。人気は絶大であります。

○いろいろ歩き回りましたが、長崎の市電はとても便利です。どこで降りても100円ですものね。ふと見ると、車内のつり宣伝広告に「森永卓郎先生来る」とある。同じ講演に来るにしても、ワシとは何たる違いぞ。当方はもう一日、今度は佐世保です。


<8月18日>(火)

○うろ覚えの記憶だが、リチャード・アーミテージにとっての日本初体験は佐世保であったという。

○米海軍の艦船の修理のために佐世保に寄航した際に、若き米軍士官は「明日の朝までに、ここをこう直してくれ」という指示を出す。すると英語のあまり通じない工員たちが、黙々と遅くまで働いてくれる。しかるにこれが難しい仕事である。見ているうちに、「こいつら、本当に大丈夫なんだろうか」と不安になってくる。夜の12時過ぎになって、ようやく仕事が完了する。点検してみると、これがアッパレ完璧な仕上がりであった。

○やれやれと思っていると、工員たちが手まねで「一杯行こう」と誘ってくれるではないか。ついて行くと、そこは女将が一人でやっているような居酒屋で、たちまちどんちゃん騒ぎの始まりである。身体が大きくて愛嬌のある米軍士官は、たちまち彼らと意気投合し、それで日本という国を深く信用するようになった、というエピソードである。真偽のほどはさておいて、いかにもありそうな話ではありませんか。

○ということで、本日の長崎政経懇話会の会場・佐世保市は、元軍港都市であり、今は人口25万人を擁する造船の街である。佐世保は天然の良港で、米軍基地がその中でもいい場所を占めていて、奥には佐世保重工業の敷地が広がっていて、その間に挟まって海上自衛隊がいる。なんとも日米同盟を象徴するような光景といえましょう。こう言うと語弊があるが、「オバマは世界を救えるか」というテーマで同じ話をしていても、昨日の平和都市・長崎とは、おのずと聴衆の受け方が違うような気がしました。

○もともと佐世保は江戸時代までは寒村でした。明治になって海軍の鎮守府が置かれ、海上防衛の中心地として発展を遂げた。つまり横須賀、呉、舞鶴などとよく似た歴史的経緯をたどっている。その後、海軍工廠が設置され、造船業が佐世保の基幹産業となる。戦後になって、そのアセットを元に、民間企業「佐世保船舶工業会社」が発足した。当時の略称を使って、佐世保重工は今も「SSK」と呼ばれている。今も米海軍や海自の艦船の修復や整備を行なうのはこのSSKであるし、おそらくは若き日のアーミテージ氏の注文を受けたのも、SSKの工員たちだったのでしょう。

○ここで重要なことに、佐世保重工の現社長が旧日商岩井で隣の部の部長さんであったMさんなのである。そこでM社長のご好意に甘えて、同社の工場を見学をさせてもらいました。いやはや、重工業の現場はど迫力でありましたぞ。オレンジ色に輝く鉄の塊を薄く叩いて折り曲げる現場とか、戦前からのドックで建設されている全長300メートル、30万トンのバラ積み船の勇姿などはまさに圧巻でありました。

○いろいろ考えさせられることもありました。SSKには戦前に配備された250トンクレーンがある。かつて戦艦武蔵に使われたそうですが、今でも現役の機械である。この機械、なんと英国製なのです。当時の日本には、これだけのものは作れなかった。今のSSKには、IHI製の300トンクレーンがあるのですが、かつて日本の造船業が「欧米に追いつき追い越せ」と頑張っていた時代の名残りのようなものです。

○おそらく今の英国の技術力、産業力では、こんなクレーンは作れないでしょう。モノづくりの技術は、いったん失われたら二度と戻らない。造船・ニッポンも踏ん張らねばなりません。韓国勢はほぼ技術力で横一線となり、中国勢は膨大な投資でガンガン攻めてくる。それらに対して、古いインフラを活かしつつ、無理をせぬように、人材の育成や技術の伝承を進めていく。重厚長大企業は時代遅れと思われているかもしれませんが、日本企業が中国から船を買うようになったらおしまいだと思いますぞ。

○さて、佐世保の名物といえば、何といっても佐世保バーガーである。なんとこんなにたくさんあるのです。当地では呑んだ後の締めはラーメンではなく、「最後はバーガー」なんだそうだ。ゆえに「深夜のみ営業」のバーガー屋さんもあるという。そう聞くと試したくなるところであるが、晩飯を食べ過ぎたものでギブアップしました。無念。


<8月19日>(水)

○長崎出張からようやく戻りました。以下は個人的な備忘録として、向こうで聞いた話を書き留めておきます。

「8月15日が精霊流しでした。とっても賑やかな祭りで、中国のように爆竹を鳴らしたりします」(長崎市で)

――さだまさしの歌の雰囲気とは全然違うのだそうです。そりゃま、そうでしょう。長崎は和寇の末裔でありますぞ。

「実は米軍と三菱の間には密約ができていて、原爆はわざと市街から遠くに落とされた、という噂がある」(長崎市で)

――原爆投下でも三菱重工は無事でした。佐世保の空襲でも、港湾地区は無傷でした。要は戦後を見据えて、米軍が八百長をやってたんじゃないかという陰謀論ですが、ちょっと無理筋でしょうな。1945年時点で朝鮮戦争の勃発を見越していたというのであれば、話は別ですが。

「海軍には、合理化という発想はありませんでした。海軍工廠の設備を民間企業が使うことには、おのずと限界があります」(佐世保重工で)

――当たり前の話ですが、軍艦を作るのと商船を作るのでは、根本から発想が違います。なるほど、これは難題です。

○まだまだハウステンボスもあれば、平戸も島原もある。壱岐・対馬に五島列島に軍艦島もある。長崎のほんの一部分だけを見てまいりました。あ、そうそう、本家本元の長崎かすていらはもちろん美味でありました。


<8月20日>(木)

○今からちょうど10年前、1999年8月20日夜、 http://member.nifty.ne.jp の個人サイト上に、この「溜池通信」は誕生しました。今となっては当時の原型はどこにも残ってはいないのですが、2002年春に今のドメインを取得した直後の姿は下記のような感じでした。

http://web.archive.org/web/20020420110521/http://tameike.net/ 


○基本的な造りが今とあまり違わないので、驚かれるかもしれません。要は進歩しないまま、書いたものの量だけ増えて、10年たったということなのでしょう。何でも長く続けばいい、というものではありませんが、この間、アクセス数はずいぶん増えました。お陰さまで、技術的にはまことに進歩のないサイトだけれども、ある程度は成功したと考えてよいのではないかと思います。あらためてご愛読に感謝いたします。

○さて、以前(2008年4月19日の当欄)において、「日本には創業100年を超える長寿企業が多い」という話をご紹介しました。拙著『オバマは世界を救えるか』の中でもこの議論を展開しております。ところが、「創業100年以上の企業は日本に何社あるか」という正確なデータがわかりませんでした。それが8月13日付の東京新聞で、「100年の老舗2万社超える」という記事が載っておりました。以下、引き写しておきます。


創業百年を超える超長寿企業は全国で2万1066社に上ることが、東京商工リサーチが12日発表した調査で分かった。明治後期の起業増などを背景に、2002年の前回調査に比べ5000社近く増えた。都道府県別では東京都(2377社)、大阪府(1168社)、愛知県(1106社)の順。全企業に占める割合では、京都府と山形県がともに2.62%で最高だった。

金融危機による世界同時不況を行きぬく超長寿企業には、「本業重視」「堅実経営」とともに、時代に合わせて変化する「柔軟性」も見られるという。東商リサーチでは「先行きの不透明感が深まる中、100年企業の柔軟性としたたかさを学ぶ必要がある」(経済研究室)としている。

100年企業の数は大都市圏に多い一方、全企業に占める割合では京都と山形を筆頭に新潟、長野、滋賀の各県が続いた。

創業が最も古いのは寺社建築業の金剛組(大阪府)で、飛鳥時代の578年とされる。



○東商リサーチではこういう資料も作っている様子。長寿の秘密が覗き込めそうです。


<8月23日>(日)

○あと1週間。民主党が圧勝、という選挙予測が流れていて、今さらながら各紙の選挙情勢をしげしげと見てみると、ワシの友人、知人、関係者の多くに「磐石」とか「有利な戦い」といった評価がついている。もちろんぬか喜びしてはいかんのだろうが、この辺の顔ぶれが国会に入るということは大いに結構ではないかと思う。あと1週間、全力を尽くしてほしい。

近藤洋介 山形2区
長島昭久 東京21区
中林美恵子 神奈川1区
大谷信盛 大阪9区
樽床伸二 大阪12区
緒方林太郎 福岡9区
吉良州司 大分1区


○問題は自民党側である。といっても自民党でどうしても通ってほしいという人は、幸か不幸かそれほどはいない。贅沢は言いません。この人だけは通ってほしい。というか、一度、この男にやらせてみたい。

さいとう健 千葉7区

○心配なので、選挙事務所に電話をかけて今日の日程を聞き、午後4時からPAT流山での立会演説会を見に行く。なにしろ隣の選挙区なので近いのである。行ってみたら、とっても地味な会合であった。本人と握手してきたけど、いかにも心配である。今日は夕方に柏駅前で麻生太郎氏来る、のイベントがあるのだけれども、流山には立ち寄らないようである。

○強いて言えば、あと一人、この人の応援をしておこう。この人は「みんなの党」であります。

浅尾慶一郎 神奈川4区


(*追記:恐るべきことに、上記9人は全員が当選してしまった。さすがは溜池通信の推薦候補者たちである。心から喜びたい)



<8月24日>(月)

○自民党系の選挙コンサルをやっている人が、こんなことを言って嘆いていってました。

とにかく麻生さんに人気がない。あの顔を見ると、やっぱり自民党は許せない、この人が首相のままでは嫌だ、という有権者が少なくない。どうせなら、官邸に閉じこもってじっとしていてほしい。ところが本人は、外へ出ると人も集まるし(もちろん動員しているからだが)、キャーキャーともてはやされるし(写メを撮るだけだが)、自分は人気があると思っているから困ったものだ。でも、あれでは投票行動に結びつかない。

○1989年の参院選のときは、圧倒的に不人気な宇野首相を皆で押し込め、選挙戦は橋本龍太郎幹事長が中心になって仕切っていた。それと同じことが今、なぜできないかといえば、麻生さんが裸の王様になっていて、周りが止められなくなっているからでありましょう。どうも21世紀になってからの日本政治は、首相の指導力が強化されたのは良かったけれども、首相にとって怖い人がいなくなってしまい、簡単にワンマン化してしまう。コーポレート・ガバナンスが機能していない会社で、社長が簡単に独裁者になってしまうようなものです。

○これは安倍首相の「官邸崩壊」のときも同様でした。派閥が崩壊して以降の自民党は、いざというときに「組織最優先」の行動ができなくなっている。トップが暴走したときに、直言できる人がいない。これでは政党として弱体というほかはありません。たまたまダメな首相が3代続いた、というよりは、自民党がちゃんとした首相を演出できなくなってしまった、というのが実態に近いのではないかと思います。

○さらにいえば、政権を取った後の民主党はどうなるのか。政党としてまとまった行動が取れるのか。あるいは官邸に入った後の鳩山首相に、意見できる人はいるのだろうか。まあ、小沢さんの独裁体制になるから大丈夫、てな声もあるかもしれないが、それはそれでどこに行くのか分からないので怖い気がする。問題なのはトップという人材なのか、それとも日本の組織全体の病理なのか。鳩山政権で「官邸再崩壊」なんて未来は、できれば見たくないものであります。


<8月26日>(水)

○しばらく国内政局にかまけてアメリカ政治を見ていなかったら、昨日、テッド・ケネディ上院議員が死んだとのこと。このことは各方面に影響を及ぼしそうです。

○ケネディ家の四男テッドは、次男であるJFKの後釜として、1962年にマサチューセッツ州上院議員に当選した。それから実に勤続46年も、リベラル派の重鎮として上院の一角を占めてきた。ということは、実に1953年以来初めて、マサチューセッツ州は「ケネディ」という名のSenatorを失ったことになる。おそるべし。仮に未亡人Vickiや甥のジョセフ・P・ケネディが後を継いだりすると、"Dynasty"はさらに続くことになる。ちなみに三男のロバート・ケネディは、1965年から68年(暗殺時まで)、ニューヨーク州の上院議員を勤めている。

○テッド・ケネディは昨年から脳腫瘍による病床にあり、最近もNewsweekに長文を寄稿して「医療保険改革」の旗を振り続けた。以前にこの人指摘していたが、キャリアといい、専門知識といい、周囲の信頼度といい、彼こそがオバマ政権による医療保険改革のキーパーソンであるべきだった。そうならなかったということは、やはりこの企ては時宜を得ていないのかもしれない。今や医療保険改革は座礁寸前であり、民主党はリベラル派と中道派で分裂してしまっている。

○民主党の議席数は、これでまた60から59に戻ってしまった。つまり、再び共和党のフィリバスターが防げなくなった。医療保険改革については、中道派のリーバーマンあたりはもう「この話は景気がよくなってからで、いいんじゃないの?」と腰砕け気味なので、いよいよ強行採決も難しくなった。

○普通であれば、こういうときは知事が暫定議員を指名するのが「お約束」であり、今の知事は民主党だから問題はないはずである。ところがこのニュースによると、マサチューセッツ州の法律は、「欠員が生じた場合は145日から160日以内に補欠選挙を行なうが、暫定議員は禁止」になっている。それというのも、2004年の大統領選挙の際に、「ミット・ロムニー知事(当時)が、ジョン・ケリーが当選したときの後釜に共和党議員を選ぶかもしれない」というので、州議会がわざわざ法改正したのだそうだ。補欠選挙は年明けになるでしょう。なんともおバカなことをしたものであります。

○気がつけばオバマ政権の支持率は、5割ギリギリまで低下している。ちょっと目を離すと、すぐこれだ。「寸前暗黒」は日米共通の合言葉であります。


<8月27日>(木)

○ちょっとお知らせ。不肖かんべえは、久々にこの番組に登場します。

http://www.tv-asahi.co.jp/asanama/ 

○正直、あたしゃこのテーマは門外漢みたいなものですが、個性の強い学者が揃っているようで、相当な激論が予想されます。ま、せいぜいエンジョイしてこようと思っております。「見てください」とは言いにくい時間帯ですが、よろしければ録画などをよろしく。


<8月29日>(土)

○これでも結構、長いことテレビの仕事をやっておりますが、生放送にノーネクタイで出演したのはひょっとするとこれが初めてかもしれません。(とりあえず政治家と金融界に敬意を表するために、「サンプロ」や「モーサテ」はネクタイ必須と決めております)。その点、今回は深夜だし、なによりテーマが環境問題なんだもの。これは当然、クールビズがふわさしいですよね。

○でも、昨日の「朝生」は、「地球温暖化懐疑論」が目玉でして、「懐疑派」の丸山先生、武田先生はネクタイをされてました。確かに「地球は寒冷期に向かっている」という主張なのだから、クールビズどころじゃありませんよね。逆に「温暖派」の江守先生や明日香先生はネクタイなしでした。「懐疑派」がベテラン教授で「温暖派」が若手研究者という組み合わせで、事前に諸先生が書かれた文章をザザッと斜め読みしてきましたが、ご著書とご本人の印象がそれぞれかなり違うというのも面白い経験でした。

○明日が選挙なものだから、テレビ局としては政治ネタがやりにくい。だから朝生も「地球温暖化」がテーマとなったわけですが、これはこれで面白かったのではないかと思います。個人的にも、勉強になるところが多かったです。ちなみに明日のサンプロでは、「皇室問題をやるんだよ」と田原さんが嬉しそうにしてました。まあ、開票速報後は、「さあ、政治だ!」ということになるのでしょうね。ちなみに不肖かんべえは、31日朝のモーサテに出没します。おっと、その前に明日は投票せねば。


<8月30日>(日)

○民主党が300議席を超えるって、ホント? 先週、某紙の人に聞いてみたところ、「世論調査はどこでも同じ方式でやっています。似たような答えが出るのは当然ですよ。当たるかどうかは、やってみないと分かりません」とのことでした。プロらしい、そつのない答えだと思いました。

○機械的に電話をかけるという今のRDD方式では、固定電話をとってくれるのは3分の2が50歳以上。本来ならば、そんなので民意が分かるはずがない。とはいえ、2005年の郵政選挙でも、世論調査は正確に結果を予想していた。それでもその通りに書くのは怖かったので、「自民が300議席」と書いたのは産経新聞だけであった。今年はその経験に学んで、「300議席をうかがう」(朝日)、「300議席を超す勢い」(読売)、「320議席を超す勢い」(毎日)と書いてきた。開票速報を見ておりますと、どうやら本当にその線で結果が出そうです。

○正直なところ、こんな極端な結果が出ていいのかなあ、という気もします。とはいえ、こういう結果が出ざるを得なかった政治的、経済的な理由というものがある。要は「有権者は本気で怒っている」ということです。有権者は自公政権にお灸を据えた。政権交代という目標も達成されそうだ。その後がどうなるか、はこれからです。今の時点で言えることは、「既存の世論調査の手法はまだ有効なんだなあ」ということです。

○明日になったら、今度は市場の反応について考えなければなりません。さて、どうなりますか。


<8月31日>(月)

○今度の総選挙、民主党が躍進した理由の一つに「比例代表での強さ」を指摘することができると思います。2003年に自由党との合同を果たして以来、民主党は比例代表の得票数では、2005年の郵政選挙を除けばいつも自民党を上回っているのです。以下は2005年と2009年の選挙における、比例代表の得票数の比較です。

  2009年衆院選 2005年衆院選
自民党 18,640,223(26.7%) 25,887,798(38.2%)
民主党 29,542,580(42.4%) 21,036,425(31.0%)
公明党 7,980,767(11.4%) 8,987,620(13.3%)
共産党 4,905,368( 7.0%) 4,919,187( 7.3%)
社民党 2,981,535( 4.3%) 3,719,522( 5.5%)
みんなの党 2,977,478( 4.3%)
その他 2,683,625( 3.8%) 3,260,517( 4.8%)
総投票数 69,711,576(100%) 67,811,069(100%)


(*追記)上記2009年データは8月31日付東京新聞を元にしています。9月1日朝刊ベースの数字よりもやや少なくなっております。


○自民党は、比例代表ではいいとこ3分の1くらいまでしか手が届かない。2005年の「郵政解散」では38%もとっているが、これは「追い風参考記録」。今回は26.7%と、まことに不甲斐ない成績に終わっている。もっとも過去の例をひもとくと、1998年参院選における25.2%とか、2000年衆院選における28.3%といったこともある。有権者は、小選挙区の自民党候補者に投票することは平気でも、比例代表に「自民党」と書くことには抵抗があるらしいのだ。

○それとはまったく逆に、「民主党」と書くことの心理的抵抗は少ないらしい。今回の衆院選では、民主党は4割を超える2954万票を獲得している。もちろん、これは史上最高の得票である。前回の2005年も、民主党は比例で2100万票(31%)を獲得している。なかにはバランス感覚を働かせて、「小選挙区は自民、比例は民主」とした人も少なくなかったに違いない。

○なぜ比例区で民主は強いのか。おそらくその理由は、有権者が「よく知らないから」であろう。自民党には長い歴史があるから、功績もあるが悪業も多い。どちらかと言えば、イメージは悪い。逆に民主党は、いいこともしていない代わりに、悪いこともさほどしていない。イメージは無色透明である。だから拒否感が少ない。これは政党としての大きな財産といえよう。

○おそらく今後、日本で二大政党制が定着していけば、民主党のこの利点はじょじょに失われていくだろう。民主党政権が良いことや悪いことを積み重ねていくにつれて、党のイメージにも少しずつ手垢がついていくからだ。とはいえ、民主党はまだまだ若い政党である。その強さが、今回の選挙では生きてきた。いつも言うことながら、「過去の実績を買ってもらうよりも、未来への期待を売るほうが、選挙ではお得」なのである。

○「古い政党」ということでいえば、公明党と共産党も典型的な古い体質である。この二つの政党には、有権者の「拒否感」が強い。投票してくれるのは、いつも「お馴染みさん」ばかりである。比例代表での得票数は、公明党は700万〜800万票台(13%〜15%程度)、共産党は400万票台(7%程度)というのが「相場」である。この2つの政党は、2009年にはいずれも得票を落としている。2009年総選挙は、「古い政党が負けて、新しい政党が勝った」選挙だったということが分かる。

○その点、究極の新しい政党は「みんなの党」だった。これがなんと、誕生していきなり比例で300万票近く(4.3%)を獲得してしまった。社民党とほぼ同じ票数である。地方組織もない党としては、驚愕すべき数字ではあるまいか。察するに有権者は、「みんなの党」と書くことに対して、ほとんど抵抗感がなかったのだろう。だって、まるで本物の政党ではないみたいだし、名前にはそこはかとないユーモアがある。ひらがなだし。

○かくして手品のように「みんなの党」は議員数5人を獲得し、政党要件を満たしてしまった。これで政党助成金ももらえるし、テレビ番組の討論会にも呼んでもらえる。渡辺先生、ニコニコなんじゃないでしょうか。「民主党が300議席を超えたから、政界再編が遠のいて残念だね」などと言う人もいるようですが、民主党だってなんかの弾みに割れちゃうかもしれませんからね。











編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki